愚かなるものはひとりぼっちで高みにあって死ぬまで愚かなことをするのです(香取慎吾)
人は夢想する。
人はそれぞれの世界を夢見る。
愚か者とは他人の夢を認めないもの。
自分の夢の正しさを信じるもの。
愚か者はそれを理想という。
愚か者はいつしか、他人の悪夢に触れて、飲みこまれる宿命。
人は愚か者を悼む。
そして、あるものは愚か者となり、そうでないものは用心深くなる。
いつだって丘の上には愚か者が佇んでいる。
で、『幽かな彼女・第8回』(フジテレビ20130528PM10~)脚本・古家和尚、演出・星野和成を見た。学校教育研究家・後藤田法子(ふせえり)が久しぶりの登場である。研究家である以上、言葉を定義しなければならい。今回は【ハブる】を解説する。グループの構成員を多数派の合意によって登録抹消することである。【ハブく】は省くに通じる。無駄を殺ぐことである。日本には古来から村八分という制度があり、仲間はずれを成すことはある意味、合法である。後藤田定義としてはこれは【いじめ】ではないらしい。【ハブること】は対象を固定化せず【持ち回り】であるから・・・というのがその理由である。もちろん、【組織】によって受けられる恩恵から排除されることは好ましい状態ではないので、【持ち回り】という安全装置が解除されやすいことは言うまでもない。
人は集団行動によって弱肉強食の世界を生き抜いてきた生物であるために、孤立化は死を意味する。同時に集団を維持するためには平和共存が必要となり、集団を維持するために阻害となる要素を排除する必要に迫られる。
基本的に人間関係は常に緊張を伴うものである。
緊張するのが嫌な人は・・・大変ですな。
幽霊であるアカネ(杏)は後藤田から学ぼうとするが・・・もう一つ理解できない。なぜなら・・・基本的に死んでいるからである。しかし、アカネの霊現象はかなり電気的なものらしく電子機器のオンオフが可能なほどに上達している。
アカネの無責任な「教育的情熱」に感化されて、かっての過ちによって生じた用心深さを失った神山先生(香取慎吾)は再び、生徒たちのいじめ行動に介入する勇気を得た。
おりしも・・・神山先生の「正しい生徒指導」によって世田谷区立小原南中学校3年2組には軋轢が生じていた。
クラスを自主的に組織化していた京塚りさ(山本舞香)は組織に綻びが生じていることを感じ、その修復に乗り出したのである。
京塚りさの目標は神山先生の排除であるが直接的な攻撃は避け、神山先生の影響下にあると思われる森野小夜(森迫永依)を標的とする。
しかし、神山先生と小夜の関係が霊感教師と霊感生徒という超常現象的なものであったことは京塚りさのあずかり知らぬことであった。
霊的存在との交流を好む小夜にとって人間関係そのものが苦痛であり、京塚りさは徒党を組んで小夜を囲い込むことが「嫌がらせ」以上の効果をあげないことに苛立ちを感じる。
ここで・・・京塚りさの得意な家庭環境が示される。
父親が政治家、母親がPTA会長という両親で、冷酷な性格の兄と姉がいる。
国立大学の有名付属小学校に在籍していたが、そこで標的とされ、凌辱された過去がある。
「脱衣」を強要されたりさがどのように応じたかは未詳であるが、何らかの事件があり、公立学校に転校したらしい。
そのことを家族は恥辱と考えており、りさは家庭内で緩やかな蔑みの対象となっている。
りさの学級組織化は防衛行動の一種であり、すでに闇に落ちた心理の一部は常に死の恐怖を感じているのだった。
神山先生はそのハチの巣に無造作に手を突っ込んでいるのである。
同様の心の闇を抱え、強靭な精神を持つ3年2組副担任の河合先生は事態の悪化を避けるために「生徒たちの人間関係に介入せずに見て見ぬフリをすること」を進言する。
しかし、「馬鹿」であることを選択した神山先生にはその誠意は届かない。
一方でついに正体を明らかにし始めた3学年副主任の窪内先生(林泰文)は悪意とも善意ともつかぬ感想を漏らす。
「あなたの意見は正しいが・・・生徒たちの動向を楽しむ趣味に欠けている」
河合先生の防衛意識は窪内先生に「邪悪な意志」を感じる。
常に周囲の敵意に配慮することは支配者にとって欠かせぬ行動原理である。窪内先生の不在中に理科準備室に侵入した河合先生は・・・おそらく生徒たちのネット上のパスワードなどをコレクションした窪内先生のプライバシー侵害データを発見するのだった。
新たに神山傘下に下った根津亮介(森本慎太郎)はかって小夜の霊能力に助けられた恩義から・・・小夜の窮状を神山先生に訴えるのだった。
アカネと相談した神山先生は・・・「幽かな彼女」に唆されて・・・かっての「失敗の路」を再び歩き出すのだった。
「このクラスには・・・いじめがあるようです。私にはそれを解決する力があるのかどうかわかりません。しかし、人がいやがることをするのは間違っていると思います。そしてそれを見て見ぬふりをするのもいじめだと思います。私は皆さんがそう考えてくれることを信じて・・・皆さんを見守りたいと思います」
先生が去った後で・・・携帯霊場によって出動中のアカネが見守る中、りさの反撃が始る。
「ちょっと一緒に来てくれない」
しかし、ここで神山傘下の相田(神宮寺勇太)が待ったをかけるのだった。
「いやがっているんだからやめなよ」
「なに・・・あんたケンカ売ってんの」
「いやがっているのがわかっているならやめるべきだし、わからないなら馬鹿だろう」と根津。
手嶋(岩橋玄樹)、香織(荒川ちか)、明日香(広瀬すず)、風(柴田杏花)、香奈(未来穂香)なども無言の圧力をりさに加える。
「香奈・・・あんたもそっち側なの」とりさはかっての子分を睨む。
少数派に転じたりさは配下を連れて教室を脱出するのだった。
ここは一度目のエンディングと言っていいだろう。しかし、リアルなストーリーはここからである。
盲目的に生徒を信じるアカネはリサの跡を追う。
しかし・・・悲しい幽霊の性で・・・強烈な霊的記憶を刺激され・・・アカネは彷徨を開始するのだった。
その頃、云うべきことを云って自己満足した神山先生は最も危険な状態を放置したまま、かねてからの懸案だった・・・アカネの過去問題について副校長の霧澤和泉(真矢みき)と対峙するのだった。
「不思議ね・・・いつか、あなたにそう問われる日が来るような気がしていました」
霧沢の記憶は27年前の昭和六十一年(1986年)に遡る。
霧沢は中学三年生であり、クラスの不良生徒から迫害されていた。
その生徒は大物政治家の息子で神山先生の下宿に一人暮らしをしていた「ワタナベジュンヤ」だった。
そして滝沢茜は・・・担任の教師だったのである。東京都中野区て教師も葬式ごっこに加わった中野富士見中学自殺事件が発生し、岡田有希子が墜落死し、チェルノブイリで原子力発電所が爆発した年である。
引き籠っていたワタナベジュンヤと話をしようとした茜は・・・ナイフで脅された霧沢に学校に呼び出され刺殺されてしまう。
自宅に逃げ戻ったジュンヤを幽霊となって追いかけた茜は罪の意識に慄くジュンヤを慰めるうちに自縛霊アカネと化してしまったらしい。
霧沢の回想は学校と下宿を結ぶ霊的回廊になんらかの影響を与えたらしく・・・携帯霊場から・・・アカネは解き放たれてしまう。
アカネを見失った神山は茫然とするのだった。
一方、りさは下川千夏(関紫優)、東川奈々子(浅川梨奈)、田嶋萌(田辺桃子)、矢沢舞(飯豊まりえ)などの手下を集め、下校時の小夜が一人になったところを狙い、公衆便所に拉致する。
そこで小夜の全裸動画を撮影しようとしたりさは拒絶されるとナイフを抜き出すのだった。
その行動に怯えた矢沢舞が「それはやりすぎだよ・・・そこまでやったら私たちついていけないよ」と日和見的発言をすると、りさはついに狂気を露呈する。
「ならば・・・お前も敵だ」
斬りつけられ悲鳴を上げる舞。飛散する鮮血。
「お前たちも敵か?」
親分の気迫に戦慄を感じる子分一同だった。
3年2組アンダーグラウンド世界に地獄の風が吹き始めるのだった。
もはや、りさは「黙れ!俗物」(ハマーン・カーン)と言い出すレベルだな。
だからガンダムは禁止だと何度云ったら・・・。
関連するキッドのブログ→第7話のレビュー
シナリオに沿ったレビューをお望みの方はコチラへ→くう様の幽かな彼女
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コメント
毎回 心に響く言葉があって地味だけどこのドラマが好きでした
生徒の抱える問題にキレイ事でなく真摯にたちむかい 発せられる言葉は 魔法の言葉でない分 誠実さが生徒に伝わって
そんな様子を見てきたので暁の話の前に生徒たちが自主的に問題解決を模索する姿にリアリティがあって生徒たちが森野さんを守るために立ち上がる展開が自然な分、感動的でした
その後の三本たての危機の演出を見て 脚本力に圧倒され
ギュッと内容のつまった一時間
ドラマを見る楽しみを堪能しました
出番が少ない佐藤さんにも居酒屋シーンが用意されていて 嬉しかったです(^^)
投稿: chiru | 2013年5月29日 (水) 08時10分
シンザンモノ↘シッソウニン↗・・・chiru様、いらっしゃ いませ・・・大ファン
人の心には底がないので
深みにはまればどこまでも深くなっていく。
だから・・・人の心に触れる教師は
覚悟が求められるのですな。
しかし・・・人の力には限界がある。
神山先生は悩みながら
それでも救いの路を切り開こうともがく。
ここが素晴らしいのですねえ。
ドラマですから・・・ある程度手順を
踏んでいます。
しかし、踏んだからこそ発生する今回の事案。
そういう意味でも好ましい展開なのですな。
弱いものを助けようとする勇気。
見過ごさない決断。
そうした行為が必ずしも報われるものではなかったとしても
自分に恥じない生き方である。
そういうメッセージがそこはかとなく感じられます。
しかし、手の届かない過去で
見ることのできない遠くで
いつでも暗黒面へ傾く人の心の脆さもまた描かれる。
アカネと神山の愛の行方。
りさと小夜の青春の行方。
河合先生と窪内先生の対峙の行方。
スリリングでございますよねえ。
吉岡さんのように
死後五十年越えの気のいい浮遊霊と話す時には
コップ酒をもらい
「今日は~の命日なのでおかせてもらっていいですか」
と赤ちょうちんの親父に断るとよろしいでしょう。
些少の霊との会話も大目に見てくれるし
目をうるませた親父は
ハンペンくらいはおまけしてくれるかもしれません。
投稿: キッド | 2013年5月29日 (水) 16時59分