帰り来ん時ぞ母の待ちし頃儚き便り聞くへかりけりでごぜえやす(綾瀬はるか)
もうすぐ帰ってくるであろうと母が待っているだろうに・・・届くのが訃報であるのも運命というものだろう。
切腹のために辞世の残る神保修理長輝である。
外交と戦争は対外交渉の両輪である。
しかし、未熟な組織ほどその不透明な境界に摩擦を生じやすい。
戦争状態に突入するということはすなわち交渉決裂であるという考え方は愚直と言わざるを得ない。
勝利するにせよ、敗北するにせよ、常に戦後を念頭に置かなければ戦略とは言わないのである。
外交力を持つものを戦時下において断罪するということは抜刀して鞘を捨てるに等しい。
もちろん、殲滅か玉砕かという二者択一ならば論を待たない。
しかし、歴史上そのようなことは稀なのである。
敗北の後に必ずや敗残者があるのが歴史というものだ。
しかし、武士道が死す事である以上、死を命じられれば死ぬしか道はないのも確かなことである。
士であるがゆえに死を選ぶが人として母に詫びる。
神保修理の辞世はそれなりに理にかなっている。
しかし、残された妻・雪子がその後、戦争の混乱の中で新政府軍の兵士に凌辱されて晒しものにされ、一人淋しく自決する運命にあることはまったく念頭になかったと推測できる。
で、『八重の桜・第21回』(NHK総合20130526PM8~)作・山本むつみ、演出・一木正恵を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は哀しみだらけの会津の女たちの筆頭とも言える家老・神保修理の妻・雪子、修理の父親で天王山で真木和泉を自死に追い込んだ神保内蔵助、そして後の文学博士にして小泉八雲の同僚・秋月悌次郎の三大イラスト描き下ろしでお得でございます。鳥羽伏見の戦争を前・後篇で分けてくるとは意外でしたなあ。そして・・・夫の死に併せて妻の描き下ろし乙でございました。ああ、ああ、修理と雪。修羅と雪。修羅雪姫でございますねえ。
慶応四年(1868年)一月三日に鳥羽街道と伏見で戦端が開かれた旧幕府軍と新政府軍の戦闘は新政府軍の一方的な勝利に終わった。一月四日、大阪湾に停泊中の幕府海軍所属の開陽丸(軍艦頭・榎本武揚)は薩摩藩所属の軍艦・春日丸と輸送船・翔鳳丸を発見し追撃戦を展開。春日丸は快速を利して逃亡したが機関の故障した翔鳳丸は座礁して自焼に追い込まれた。朝廷は仁和寺宮嘉彰親王を征討大将軍に任命し錦旗を与え新政府軍に官軍の呼称を認めた。これによって京にあった各藩の軍兵は続々と官軍側に参戦する。鳥羽海道において賊軍となった旧幕府軍は富ノ森へ撤退。伏見方面には官軍として土佐軍が出陣し賊軍は撤退を余儀なくされる。五日、敗退を重ねる賊軍は淀城付近に集結するが、旧幕府老中・稲葉正邦の淀藩は新政府軍に恭順の姿勢を示し、賊軍の入城を拒否。追撃を受けた賊軍はまたもや壊滅的打撃を受ける。六日、橋本に撤退した賊軍主力に対して対岸の山崎高浜に布陣した藤堂高潔の津藩が官軍に寝返り、賊軍を砲撃。ついに旧幕府軍は崩壊する。慶喜は開丸で江戸に逃亡し、残された賊軍将兵は戦線を離脱。七日、朝廷が旧幕府軍に対して朝敵を宣言。九日、空城となった大坂城に官軍が入場。尾張より西は官軍の統治下となる。これによって旧幕府は名実ともに日本を代表する政府として認知されなくなった。十五日、徳川慶喜は主戦論者の小栗上野介を解任。二十五日、新政府と諸外国代表が交渉し諸外国は局外中立を宣言する。二月となり官軍は賊軍討伐のために東征を開始。十二日、慶喜は江戸城を退去。二十二日、江戸会津藩上屋敷において敗戦の責により神保修理は切腹する。三月一日、関東防衛のために近藤勇の甲陽鎮撫隊が出陣する。
闇の中をドラキュラ・ナポレオンの血族・レオン・ロシュ・フランス公使を乗せた馬車が進む。闇の血を受けたものはそれぞれの資質において活動期と休眠期を繰り返す。今、ロシュは休眠期を迎えていた。血の支配が弱まり、幕府に根を張ったヴァンパイアの組織は一時的に停滞している。その機に乗じて、篤姫配下の科学忍者隊・薩摩忍び・土御門しのびの連合忍者部隊はくのいち頭幾島の指揮の元、吸血鬼狩りを開始していた。ロシュの一族はその手に追われて海路での脱出を図っている。
ロシュ本体は取り逃がしたが、淀城では土御門藤子が率いる京のくのいち部隊が浄化に成功し、山崎ではお琴とくぐり衆が津藩の砲台を守る吸血鬼を殲滅した。
これにより幕府軍の吸血鬼部隊は敗走を重ねている。
ロシェは最後の一手として見廻組の佐々木只三郎らに浄化された慶喜の奪還を命じていた。
佐々木只三郎は有翼となった三人の隊士とともに淀川沿いの戦線を離脱し、大坂城を目指していた。しかし、慶喜は幾島に伴われ大坂城から開陽丸船上に移転している。
無人の天守閣で翼をおさめた佐々木只三郎は死地に落ちたことを悟った。
「佐々木殿・・・待ちかねたぞ」
「これはしたり・・・慶喜様はどこへ参られた」
「くのいち仲野と科学忍者隊・・・龍馬様の仇討ちつかまつる」
「くのいち風情が小癪なことを申す」
闇の見廻組に科学忍者隊が斬りかかった。無造作に受け止めた見廻組隊士が叫んでのけぞる。
「ふふふ・・・科学忍者隊の忍者刀はすべて銀製の聖なる剣よ。食らえ」
仲野は龍馬の遺したリボルバーを抜き放つ。
「大奥秘伝・十字架連射」
早打ちで銀の弾丸六発が十字架の形で撃ちこまれる。
佐々木は胸に十字架の形を弾痕で刻まれた。
「お・・・の・・・れ」
佐々木は黒い蝙蝠の翼を広げ両の吸血牙をむき出しにする。
次の瞬間、塵となって消え果てた。
息を吐いて仲野は周囲を伺う。
天守閣に残っているのは味方だけであった。闇の見廻組は全滅した。
京都山中で眠りにつく龍馬の顔に微笑みが浮かぶ。闇の父の呪縛が解かれフリーな吸血鬼となったためである。
京都市内の薩摩屋敷には山本覚馬が幽閉されていた。
牢内は闇に包まれていたがすでに視力を失った覚馬には不自由はない。
束縛はなく、牢内とはいえ軟禁状態である。
くのいちの小田時榮が身の回りの世話を焼く。
そして、時々、盲目のくのいちのお市が現れて盲目忍びの技の伝授を受けるのが日課だった。
「山本様はうまれついてのめくら(盲者)ではございませんが・・・」と市は教える。
「しのびの心得あれば・・・それなりの応じ方がございます」
「・・・」
「短筒の狙いはいかがでございましょう・・・敵を見て放ちましょうか」
「気じゃな・・・」
「いかにもさようでございます。妾の刀術も同じこと。気で斬るのです」
「・・・」
「さあ・・・耳をすましなされ。両の耳で・・・音を見るのでございます」
「汝の息が聞こえる・・・そこか・・・」
覚馬は指鉄砲を向けた。闇の中で市が微笑む。
「命中・・・でございます」
江戸では遅咲きの梅が咲いている。
「梅が香っているな・・・」
用意された座敷で神保修理は独り言をつぶやいた。
部屋は無人である。
「桃の花も咲いているだろう・・・」
修理の独白は続く。
「桜は去年が見おさめじゃったな・・・」
脳裏に分かれて久しい新妻の雪の顔が浮かぶ。
修理は口元に笑みを浮かべた。
「未練じゃのう・・・」
作法に則り腹を十字に切り裂いた修理は死力を振り絞って刃を返す。激痛が心気を乱す中、歯ぎしりの音が響く。
「む」
頸動脈を探りあてた修理は最後の力をこめて己の生命を解放した。
闇に消える意識。
関連するキッドのブログ→第20話のレビュー
篤姫→慶応四年二月
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コメント
こんばんはです
最近疲れ目か、ちと焦点があいづらい事もあって
ちょっと養生しながらみたいな感じの今日この頃です
もう老眼かもしれません; ̄∇ ̄ゞ
さてはて、イラストの方は
山本権八夫妻に
梶原夫妻に
頼母の妻に
八重の薙刀の師匠に
大蔵のおじいちゃんに
大分ストックは溜まってる状態で
後は日向さんに萱野さんくらいかなってとこです
ただ、会津戦争、そして明治ということで
生き残った者も描き直しですからねぇ
ま、さっき大河ドラマストーリー本・後編が届いたので
やる気になってるんですけどね; ̄∇ ̄ゞ
描いてて楽しいドラマは実にいいものですな ̄∇ ̄♪
物語は反比例するように切ないですけどね; ̄∇ ̄ゞ
投稿: ikasama4 | 2013年5月30日 (木) 22時29分
✥✥✥ピーポ✥✥✥ikasama4様、いらっしゃいませ✥✥✥ピーポ✥✥✥
三大イラスト描き下ろし、お疲れさまでした。
お身体と相談しつつ、マイペースでお願いします。
こちらもそろそろ苦手な夏が近づいており
だましだましやっておりまする。
物語もいよいよ、本当の山場ですねえ。
八重が生き残ることが救いですので
悲惨な運命をたどる人々からは
なるべく意識をそらすようにしています。
もってかれちゃいそうですから。
それでも・・・この人はこれから・・・と
考えると妄想が暴走するので
危険なのでございます。
山本夫妻、梶原夫妻、頼母妻に
師匠に祖父・・・。
貴重な描き下ろしの数々を
待望しておりますぞ~。
死に場所を求めて流離うもの。
おめおめと生きるもの。
作法に従い死に殉じるもの。
死にきれないもの。
その中で
淡々と戦から逃れ続ける慶喜。
ある意味、天晴ですな。
妄想世界ではすでに罪のない赤子化しているのが
救いでございます。
ふふふ・・・新資料到着は
わくわくしますな。
そして・・・散切り頭化する
明治の人々のお姿・・・。
待ち遠しいですな。
とにかく・・・屍の山河を乗り越えていく・・・
過酷な夏を心して待つ所存でございまする。
投稿: キッド | 2013年5月31日 (金) 00時37分