エレメント(二機編隊)になった彼(綾野剛)と私(新垣結衣)
航空機の戦闘単位は単機の次がエレメント(二機編隊)である。
一機がエレメントのリーダー(指揮機)となり、基本的には先行、一機がウイングマン(僚機)として後方支援の位置につく。
二個エレメントでフライト(小隊)を構成する。つまり、一個小隊は四機編成となる。
フライトが三~四個小隊が集まってスコードロン(飛行中隊)となり、12~16機編成。
スコードロンが二個中隊で航空群となる。
この場合、戦闘機なら戦闘機、爆撃なら爆撃で種類別に編成される。
戦闘機中隊や爆撃機中隊、偵察飛行隊、警戒飛行隊、対潜飛行隊など複数の飛行隊が集まって基地ごとに航空団が編成される。
エレメントリーダーは基本的に敵との遭遇にさらされるが、敵が後方に出現すればウイングマンの危機は高まる。戦術的に単機よりも編隊の方が有利であり、生存率は高まる。エレメントのパイロットはお互いの命を預け合っていることになる。
で、『日曜劇場 空飛ぶ広報室・第4回』(TBSテレビ20130505PM9~)原作・有川浩、脚本・野木亜紀子、演出・山室大輔を見た。女性/男性の特質の定義は難しい。生殖に関して言えば生殖に要する時間が女性の方が圧倒的に長いことは明白なのだが、それ以外の性差は統計論的な記述の域を出ない。たとえば、今回、鷺坂正司 1等空佐(柴田恭兵)は柚木典子3等空佐(水野美紀)の資料整理の仕事ぶりについて「女性らしく細やかだ」と表現する。また柚木3佐は「男性らしく振る舞うためにがさつな言動をする」わけだが、女性が細やかで男性ががさつなんていうことは絶対に認められないと考える。
基本的にキッドは女性はがさつで男性はこまやかだと思うからである。・・・そっちかよっ。
もちろん、ドラマとしてそういう「表現」をすることは問題ないが、脚本家の課題として表面上はそう言いながら、逆のこと語るという手法も研究してもらいたい。
演出上でもたとえば、柚木3佐を演じる水野美紀はアクション女優指向があるから、一般の女性よりもトレーニングに対する意識はある。しかし、ブランクがありながら、男子学生相手に圧倒するほどの剣道の達人である以上、屋上の腕立て伏せは柚木がもっと超人的な体力を持っている如く見えるように明示しなければならない。アングルや編集によってスピード感や筋力の強さはいくらでも演出できる。
脚本の深みや演出のリアリズムはより面白くしようと全力を尽くしているか・・・という姿勢が常に問われるのである。
「自衛官の恋愛事情」に焦点をあてた帝都テレビの情報番組「帝都イブニング」のディレクター・稲葉リカ(新垣結衣)の企画は好評を得た。そこでリカは女性自衛官に焦点をあてた企画を立案し、柚木3佐に協力を求める。しかし、柚木は「私に女性らしさを求めても無駄だ」と素っ気ない。
そこへ「帝都イブニング」のAD・佐藤珠輝(大川藍)から着信があり、成り行きで「帝都テレビ」女性陣と防衛省航空幕僚監部総務部広報室の男性陣による合コンがセッティングされる運びとなる。
その席で珠輝はスカイこと空井大祐2等空尉(綾野剛)に激しくアタックする。リカはその様子を「私の子犬は人気があるなあ」という気持ちで眺めるのだった。
失恋続きの片山1等空尉(要潤)はまるでこの時代の人間ではないような空虚さで女性陣にドン引きされるのだった。浮いてる男を演じてさらに浮いた感じがするってどんだけ場になじまないんだよ。
スカイは「タレントに戦闘機の飛行体験をさせる企画」をバラエティー番組に売り込むが、お笑い芸人が「罰ゲーム」として乗り込むという設定が鷺坂正司 1等空佐の意に添わなかったらしい。自衛隊のお固い方針もそうだが、ドラマ班側のバラエティー・ショーのエンターティメントを見下した感がありありで爆笑である。「罰ゲーム」でも航空自衛隊の崇高な使命と力量を親近感をもって表現することは充分に可能であり、企画不成立の理由としてはまったく成立していない。
一方で報道部でノロ・ウイルス患者が多数発生、なんだ、みんなで生カキでも食ったのか。
チーフディレクターの阿久津(生瀬勝久)から古巣へのヘルプを命じられるリカ。
古巣の報道局には外部からヘッド・ハンティングされた変な上司が配属されていて、妙な男尊女卑指向を展開している。
「女に厳しく、男に優しい」というその姿勢は・・・同性愛者か、よほど女に痛い目にあった人間特有のもので・・・そんな人間に報道部の記者は務まらないと思うが・・・そこはドラマである。
まあ、オウム真理教事件で殺人に加担したTBSテレビの考える報道部なので少し、自虐的なのかもしれない。
かってのライバル香塚ともみ(三倉茉奈)がトイレで泣くくらいなので、女性に対する嗜虐性のある変態野郎という可能性もある新上司。
男子社員の後輩よりも原稿をはげしく「添削」されたリカは、カッとなって、次回、男子社員との原稿のすり替えを実行し、変態上司をはめて恥をかかせることに成功し、情報局に突っ返されたのだった。
キッドは構成作家時代、ディレクターに一言一句でも訂正されたら言論封殺として「じゃ、自分で書け」と帰ることにしていました。ただし、誤字脱字を指摘された時は土下座します。
というわけで・・・挫折したリカとスカイである。
スカイはちょっとリカの顔が見たくなるが、二人の障害物として設定されているらしい珠輝が、やはり同様のポジションである局アナの藤枝敏生(桐山漣)と食事中のリカを示して「二人は出来ているみたいですよ」とあることないこと喋るのである。
通俗的だが・・・まあ、いいか。
広報室にやってきて変態上司撃退の武勇談を語るリカだったが、過去に男女差別によるトラウマがあるらしい柚木は珍しく感情を爆発させる。
「お譲さんがいい気になって・・・そんなことで敵を作って相手をやりこめたら他人に迷惑がかかることもあるし・・・そういう言動がまったく通じない世界もある」
説教されて唖然としたリカに鷺坂は柚木の過去についてレクチャーするのだった。
「軍隊組織・・・いや、自衛隊ほど男所帯はそうありませんから・・・しかも、彼女は初期の女性幹部としてかなり苦労しちゃったんですよ」
「しかし、男女雇用機会均等法は・・・労働力不足解消のための国策でしょう・・・兵力不足を補うために女性の採用は欠かせないのではないですか」
「勉強しましたね・・・しかし、現場には現場の問題があります。下士官には教養のない愚鈍なものもありますしね・・・まあ、お偉い士官に対する下士官のエリートお坊ちゃま扱いはいつの時代にもあるのですが、それが女性ともなると「特別扱い」はエスカレートする。それに折り合う必要がある女性士官が融通のきかないタイプだったりすると軋轢が深まってこじれるんですよ」
「柚木さんも私と同じ、面倒くさい女だったんですか」
「自覚してるのかよっ」
そんな二人のやりとりに柚木と同じ報道班の槙博巳3等空佐(高橋努)が加わるのだった。
美女と野獣のコントのくりかえし。
「けつがかゆいんだよっ」
「けつって言わないでください」
「はいはい、風紀委員殿」
階級は同じだが、槙は防衛大学で柚木の後輩だった。
「昔は・・・すごく素敵な人だったんです」
ポメラニアン風の民間人と交際しているフリをしているが・・・槙はずっと柚木に片思いをしているのだった。しかし、とてもじゃないが告白はできないという女々しい性格なのである。
70倍とも言われる難関を突破して防衛大学を卒業後、士官として配属された部隊で柚木は部下と衝突し、悩んだ末に円形脱毛症となったところを鷺坂が引き取ったらしい。
なにしろ・・・戦闘終結後のイラクに派遣されたり、海上給油活動をしたり、中国やロシアの偵察機に対する警戒出動をしたりと後方支援などの活動があるとはいえ、交戦したことのない軍隊・・・自衛隊である。
同じ釜の飯は食っても同じ敵弾の下ではすごさないのでまだ絆は薄いのである。
敵の捕虜を虐待して尋問するレベルになると連帯感も強すぎになってしまうわけだが・・・基本的にはセクシャル・ハラスメントの域と言える。
もちろん、部下の男性側に悪意があるとは限らず、要するに感情的なもつれなのである。
結局、柚木は「女を捨てること」によって精神の安定を保つことに成功したのだった。
リカのストレートな言動は袖木の心を揺さぶり、頭皮を抑圧するのだった。
まあ、そういう軋轢は男女を問わず、どこの世界にだってある。キッドの先輩の一人は「何も面白いこと思いつかん」と言って円形脱毛症になったし、キッドも一日に三人のディレクターに説教されて胃に穴が開いたことがあります。蕁麻疹になったり、心臓が止まったりいろいろと症状は違うようですな。
とにかく・・・ガッツある二人の女性の化学作用による変化を期待した鷺坂はスカイと槙に一計を授けるのだった。
嘘の二日酔いでダウンした二人に代わって「リカの防衛大学校見学」のガイドを命じられた柚木。
リカと柚木の珍道中が始るのだった。スカイと槙は二人を背後からそっと見守るのである。
最寄駅からバスに乗らずに防衛大学まで徒歩を強要する柚木。
「これはいじめ体験ですか」
「いじめじゃないよ。しごきだよ」
「違いがわかりません」
到着した防衛大学校でレクチャーをする柚木。
「学費も寮費も無料の上に給料も支給される・・・すべて税金なんだ。その分、朝から晩まで分刻みで実技・座学でしごかれる。運動部所属も必修なのだ」
「ひい・・・」と想像するだけでバテるリカだった。
そこへ・・・剣道場でのしごきに耐えかねてベソを書く女子大学校生に遭遇する二人。
防衛大学校1年生の岩崎千鶴(石橋菜津美)である。
声をかけようとするリカを制止する柚木。
「税金の無駄使いにならないようにやめたい奴は早めにやめた方がいい」
「そんな・・・みんなやめちゃったらどうするんですか」
「私はやめません」と割って入る泣き虫女子だった。
「じゃ、なんでメソメソしてんだよ」
「男子に体力でかなわなくてくやしいから泣いてるんじゃありません。そんなことで泣いちゃう自分がくやしいんです」
「そうか」
立ち去ろうとする柚木をリカが引きとめる。
「聞くだけ聞いて・・・それきりですか・・・なんか、言葉をかけてくださいよ・・・女の先輩として」
「言葉なんかないよ。男も女もない世界だから」
「私、女も武器にしたくないし、女を捨てたくもない。人間として普通に働きたいだけなんです」
「それは・・・人、それぞれだから・・・」
そこで・・・槙が柚木に竹刀を渡して言うのだった。
「先輩はいつも・・・訓練は昨日の自分を越えるためにある・・・って言ってましたよね。彼女に明日の自分の姿を見せてやったらどうですか」
挑発に応じる柚木だった。
剣道場で男子学生たちを次々に打ち負かす柚木・・・達人だったのである。
凄い女性の先輩の存在に勇気をもらう泣き虫女子だった。
「ご指導、ありがとうございました」と礼である。
もう、涙がとまりません。
そういう女性の職場の問題とは別に・・・もやもやしていたスカイとリカは海を眺めて気分転換をするのだった。
「これ・・・おみやげとしてどうですか・・・F-15ボールペン」
「うわっ・・・黄色いの欲しかったんだ」
「自分は・・・稲葉さんを同志だと思っています。挫折した者同士・・・エレメントを組みませんか・・・」
「エレメント?」
「ああ、航空自衛隊では二機で編隊を組むことをエレメントって言うんですよ」
「・・・」
まさか・・・プロポーズじゃないだろうなと自制するリカだった。・・・正解。
一件落着でちょっとイチャイチャする二人なのである。
しかし・・・柚木の心の傷はそんなに簡単に癒せはしないのだった。
原作はともかく・・・こういう話は脚本家の実力が問われるんだよなあ。
特に男女の差異の話は脚本家自身の観点がセリフに色濃く反映する。もう少し熟考してもらいたい気がする。
次回は千歳基地時代の部下で柚木と確執があった古賀義正空曹長(的場浩司)との再会である。航空自衛隊習志野分屯基地第1高射群第1高射隊で現在は准空尉に昇進しているらしい。
エリートの柚木と違って、下士官の古賀は尉官待遇でも三尉より下なのである。
ちなみに・・・空自なのに地上車両と思う人がいるかもしれないが、一部対空兵器(高射砲など)は空自の管轄に属する。
はたして、槙が痛々しいと考える柚木の「男性風素行装い症候群」は克服できるのか・・・どんな心の病なんだよ。
期待しつつ待機したい。
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まこ「本日は防衛大学校に行ったのでありましゅ~。しょして、食堂へのまこかま丼の大量納入契約をしたのでしゅ。おみやげにまこちゃん特製特大ボールペンをゲットしたのだじょ~」
くう「新米士官をたたきあげのベテラン下士官がお守する・・・その構図に柚木3佐はのれなかったんだよねえ。こういう問題は学歴社会にはつきものなんだよな、きっと。でも、勉強ができるのは優秀さの証拠。人間関係も要領だからねえ。普遍的な問題だけどここまでこじれるのは特殊なケースのような気がするよ~」
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