父兄の教え給いし鉄砲に会津心の魂やこめなむでごぜえやす(綾瀬はるか)
ま、ご愛敬だな。
中野竹子の辞世とされる「もののふのたけき心にくらぶれば数にも入らぬ我が身ながらも」に対応して、川崎八重が「父兄の教え給いし筒弓に会津心の弾やこめなん」と詠んだという趣向である。
八重の和歌は「明日よりはいづこの誰か眺むらんなれし大城に残す月影」が有名だが・・・虚実の境界線を漂うわけである。
そもそも、世界はフィクションで満ちている。
諏訪信仰は全国に二万五千の社を持つと言われる人気の「神」である。
で、その神は建御名方神(たけみなかたのかみ)である。
しかし、この神は建御雷神との戦争に敗れた神である。敗走を重ねて諏訪湖に追い詰められ、全面降伏して命乞いをした。そして、諏訪の地より出ないことを条件に命を永らえたという神なのである。
おい・・・と思う。そういう神に戦勝祈願して大丈夫か・・・という話である。
しかし、そういう神だからこそ拝む価値があるのだ。
ものすごい人気なのである。
なにしろ・・・戦に負けても命が助かった方がいい・・・そういう考え方があるからである。
もう、その潔くない姿勢は天晴という他はない。
だから、日本人の本質は国破れて山河あり、一億玉砕はスローガンなのである。
戦後の繁栄を見よ・・・ということなのだな。
とにかく・・・会津藩の妻たちは・・・そういう神に神頼みをした・・・という話だ。
会津の諏方神社は「諏訪大社」の「訪」を「方」に変えている。これは本家に憚ったためであるとされる。どこまでも・・・長いものに巻かれる神なのである。
で、『八重の桜・第20回』(NHK総合20130519PM8~)作・山本むつみ、演出・加藤拓を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回はついに来た本当は江戸藩邸と大阪藩邸住まいで・・・会津に戻ったのは鳥羽伏見の敗戦後である・・・中野竹子描き下ろしイラスト大公開である。まあ・・・江戸への帰路、船上で落命したはずの林権助が伏見の陣中で散ったりして定説をいろいろと覆す気満々のこのドラマである。ヒロインの隠された歴史を発掘しすぎて・・・いろいろと妄想が膨らみ過ぎている気配がございますな。主戦場の鳥羽街道を描かず、伏見の攻防のみでしたが・・・幕末ものとしては戦がそこそこ描かれるのがこのドラマの醍醐味ですねえ。まあ、会津戦争についてはプレマップしすぎですけれど~。往年の角川映画みたいだったらどうしよう・・・。
慶応三年十二月十三日、徳川慶喜は二条城を出て大坂城に退去した。新政府では越前藩・松平春嶽と薩摩藩・大久保利通の間で徳川家に対する処遇の駆け引きが行われていた。大藩として徳川家を新政府に参与させるか・・・領地返上させ政治生命を断つかである。二十四日、結局、「領地返上」は「領地取り調べ」という曖昧な形で決着する。二十五日、江戸薩摩藩邸を庄内藩士が焼き打ちする事件が発生する。二十八日に急報が両勢力に届く。この日、岩倉具視は参与から議定に昇進する。江戸で旧幕府と新政府の衝突が発生したことにより、恭順の姿勢に綻びが入った慶喜は懊悩の末に開戦を決断する。慶応四年一月(1868年)に大坂の幕府軍は戦闘準備を開始した。二日に京都を目指して徳川軍は淀城から北上。この知らせを受けて三日、新政府は会議で越前藩や尾張藩の反対を退け「徳川征討」を決定する。夕刻に伏見に幕府軍が進出。別働隊は鳥羽街道を進行する。下鳥羽で街道を封鎖した薩摩軍と徳川軍先鋒が衝突し、鳥羽伏見の戦いと呼ばれる戊辰戦争の最初の戦闘が発生する。徳川軍は一万五千の兵力を集中することができず、五千に満たない薩摩軍の火力に総崩れとなって惨敗する。日和見を決め込んでいた各藩は急速に新政府に従うことになった。五日、淀城に退却しようとした徳川軍を淀藩が拒絶、敗走は決定的なものとなる。六日、徹底抗戦を叫ぶ将兵を残し、慶喜は大坂城を脱出する。
「なじょして・・・鉄砲がつかぬ・・・」と山本覚馬はつぶやいた。
京の学問所には鳥羽・伏見の砲声が轟いていた。
「海路は・・・薩摩長州が押さえている模様でございます」と答えたのはくのいちの小田時榮だった。丹波の忍びの一族小田家のものだが・・・もはや、岩倉具視の息のかかった忍びと言えるだろう。
すでに・・・無明の闇の中にいる覚馬にはそこから逃れる術はなかった。
「それでは・・・会津はどうなる・・・」
覚馬は歯ぎしりをした。
「岩倉様は申しました・・・もはや・・・幕府もなく、会津藩もない・・・これから始る新しき国の礎に覚馬様もお力添えをくださるように・・・とのことです」
「俺に・・・裏切れというのか・・・幕府を・・・殿を・・・会津の家を・・・」
「しかし・・・天子様を裏切ってはおりませぬ・・・」
「う・・・」
「たとえ・・・ご若年とはいえ・・・帝は帝でございますぞ・・・先の帝には覚馬様のお殿様も忠勤を尽くしたではございませんか・・・」
「しかし・・・」
「勝てば官軍でございます・・・そして・・・今の幕府は負けるべくして負けるのでございます」
「そなた・・・おそろしいことを言うな」
「スメラミコトのくのいちでございますれば・・・」
覚馬は自決について考える。しかし・・・闇の中から・・・声がするのであった。
「やまと・・・だましい・・・は永遠に不滅です」・・・吉田松陰が・・・。
「この国を・・・西洋列強の食い物にしてはならん」・・・佐久間象山が・・・。
「世界を相手にせねばならんのです・・・」・・・坂本龍馬が・・・。
科学忍者隊の死者の声が覚馬をこの世にとどめた。
もっとも・・・坂本龍馬は闇の血を受け、京都北方の山中に埋められたまま・・・生と死の間を未だ彷徨っている。
薩摩軍の猛火を浴び、徳川軍は敗走を始めている。
会津諏方神社は八坂刀売神という妃神も祭っている。
八坂刀売神は渡りの神であり、社はその氏子である会津のくのいちたちの集会場でもある。家老の家柄である諏訪頼信からの早飛脚が集会中のくのいちにもたらされたのは一月も半ばのことであった。
会津くの一の長である照姫は悲報を読み上げた・・・。
「鳥羽伏見の戦で・・・幕府方は・・・負けたそうでございます」
一同の息が乱れる。
照姫は死者の名を読みあげる。
百名を越える死者の中に・・・縁者の名を聞いたものは呻き、喘ぐ。
八重はただ・・・唇をかみしめた。
「来るなら来い・・・」
その思いがあふれ出る。
くのいちたちはしのびのいくさの評議を始めた・・・。
すでに・・・会津は雪景色となっている。
関連するキッドのブログ→第19話のレビュー
篤姫伝→鳥羽伏見の戦い
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コメント
今回は林権助の死。
本来ならば三郎→林の順番なんでしょうけど
八重が主人公って事で悲劇性は後に来るほどよいって
感じでこういうまとめ方になったのでしょうかな
ともあれ、ここからは悲劇のオンパレード
八重の大事な家族や
せっかく出来た友達や
薙刀の師匠や
大切な人がどんどんなくなっていく
そういう見せ場をつくるため
物語は着々と作られるようですな
こちらもイラストは急ピッチで
今から
大蔵さんのお母さん
大蔵さんの奥さん
頼母さんの奥さん
描き上げるもんがたくさんで大変です; ̄∇ ̄ゞ
投稿: ikasama4 | 2013年5月21日 (火) 22時15分
早すぎた林権助の死・・・。
遺言とかいろいろ言う暇もなく戦死でございましたな。
船上シーンが難しかったのかもしれません。
弁慶の立ち往生・・・がやりたかっただけかもしれませんが。
妄想の斜め上をいかれてちょっと
あたふたしましたぞ~。
そして・・・三郎・・・死なんのかとも思いました。
一方でついに会津の女たち全員集合。
NHK総合がまるで画伯にプレッシャーをかけてきたみたいで
ドキドキしましたぞ。
しかし、あくまでマイペースでお願い申しあげまする。
八重の苦手なお針やお歌による・・・
責め・・・しかし、それなりに苦手分野も克服していた八重なのですな。
さらに・・・七連発なので的も七つ・・・。
ここがちょっとうけました。
新撰組オタや龍馬オタの呪詛や悲鳴を
黙殺しつつ・・・戊辰戦争開幕ですな~。
天晴だと存じます。
投稿: キッド | 2013年5月22日 (水) 00時11分