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2013年6月30日 (日)

あまちゃん、十三番線上の土曜日(薬師丸ひろ子)

さて、いよいよ前半戦の終了である。

北三陸篇の余韻を残しつつ、東京編がよどみなく発車していくのだった。

ちなみに上野駅13番線から寝台特急「カシオペア」などが発車する時のメロディーは「あゝ上野駅」である。

王道の朝ドラマとは言いながら・・・東京生まれのヒロインが母親の故郷で覚醒して、東京に戻ってくるという展開はかなり斬新だと考える。

「面白さ」とは「なじみ深くよくわかるもの」と「みたことのない珍しいもの」の合体である。

この・・・そんなものあるのかよ・・・という素朴な疑問の答えの一つがこのドラマだと言えるだろう。

なにしろ・・・ヒロインは偽物の田舎者なのである。この時点ですでに少し面白い。

舞台が新しくなれば・・・背景となる風景も変わり、周辺の登場人物も変化する。

「変わらないもの」を愛する人々には抵抗感が生じるところである。

しかし、巧妙な伏線の展開によってそれを和らげる工夫がされている。

たとえば、母の居る田舎の喫茶店やスナック、祖母のいる海女カフェなどは・・・東京の娘が必ず電話をする場所なのである。

ここでお茶の間は懐かしい登場人物たちと出会うことができる。

何よりもヒロインのパートナーである親友が家庭の事情で田舎に残留しているのである。

一部愛好家は田舎からも目を離せないのである。

また・・・ヒロインの母親の過去は重要な要素であるが・・・田舎での事情は大体判明したが・・・上京後はまた序の口なのである。ここにも都会と田舎をつなぐ要素が潜んでいる。

さらに・・・前半の途中で田舎から姿を消した登場人物たちが・・・先発して上京しており、その再会もある程度、お約束なのである。

ヒロインの父親、ヒロインの大恩人、ヒロインの失恋相手、ヒロインの仕事仲間・・・計画的に消えて行った人々が懐かしさを伴ってヒロインをキャッチするわけである。

そして、お茶の間の皆さんは安心して・・・ヒロインの新しい人々との出会いと冒険の日々を楽しむことができるのである。

前半のラストが・・・見事に最初からの伏線を回収したように・・・後半も一場面一場面が見逃せないという気構えが必要なほどに・・・なのですな。

ヒロインの大親友が・・・「アイドルになりたい」と叫んだ・・・あのホームで「先に行って待っててね・・・うえええええん」と涙にくれるなんて・・・その劇的なこと甚だしいのでございます。

で、『連続テレビ小説・あまちゃん・第13週』(NHK総合20130624AM8~)脚本・宮藤官九郎、演出・井上剛を見た。2008年の夏、母の故郷・岩手県北三陸市(フィクション)にやってきたアキ(能年玲奈)は心の不安定な母親・春子(小泉今日子)と海女である祖母の夏(宮本信子)の葛藤に翻弄されながら、一年が過ぎてそこそこたくましく成長したのだった。親友のユイ(橋本愛)とともにアイドルとしてスカウトされたアキは・・・アイドルになれなかった母親の夢と・・・映画「潮騒のメモリー」の主演女優への憧れを胸に上京の日を迎える。しかし・・・ユイは父親の発病によって上京できなくなってしまうのだった。

月曜日 君に言っても仕方ないけどと言われる女が来たよ(吉田里琴)

涙にくれるユイをホームに残し旅立ったアキは・・・。

北三陸鉄道で宮古駅。山田線で釜石駅。南三陸リアス線で盛駅。大船渡線で気仙沼駅。気仙沼線で石巻駅。石巻線で仙台駅。新幹線で上野駅までわざわざやってきたのです・・・(語り)のナレーションは宮本信子から能年玲奈にバトンタッチである。ものすごいプレッシャーを受けて立ってるのだな。

25年前・・・若き日の春子(有村架純)も降り立った上野駅である。

駅舎を出て、ガード下の横断歩道を渡れば今も昔もアメ横ことアメ横商店街連合会である。

その入り口付近にアキがタレント契約した芸能プロダクション「オフィス・ハートフル」の経営する「東京EDOシアター」が存在する。

お上りさん写真を撮るために通りすがりの外人さんに「押してケロプリーズ」の名言を残すアキ。

そんなアキを発見し、シアターのバルコニーから声をかける蛇口さんこと担当マネージャー水口(松田龍平)は機嫌よく出迎えるのだが・・・ユイの不在の理由を知ると茫然自失となり・・・預かったアキの手荷物を取り落とすのだった。

「ええ・・・ユイちゃん・・・来れないの・・・どうしよう・・・今日、GMT47のセンター候補が来るって・・・上に報告しちゃったのに・・・」

「センター候補って・・・」

「ユイちゃんに決まってるでしょう・・・まあ、君に言っても仕方ないけど・・・」

申し訳ない気持ちになるアキだった。

ユイが「行けない」と言った時・・・「おらも行かない」と言ったアキだが。

アイドル(女優)になりたいと思う気持ちは本心なのである。

親友のユイが行けないのに自分だけ行くことはできないとも思った。

しかし・・・ユイが「先に行って待ってて」と言うから一人で来たのだった。

ユイとの約束、アイドルになりたい気持ち・・・複雑に揺れるアキだが・・・さすがにここまで露骨に「ユイのおまけ」扱いをされると・・・凹むのだった。

そこへ・・・「アメ女」ことアメ横女学園芸能コースのメンバーである高幡アリサ(吉田里琴)と成田りな(水瀬いのり)が通りかかるのだった。

「先輩に挨拶して・・・」と即す蛇口さん。

「お・・・おばんです・・・」とアキ。すると・・・。

アメ横女学園 出席番号36番!

片思い星からの転校生 

両思いになると死んじゃうの!

み~んなのアリサ こと高幡アリサ 13歳で~す!

よろしくぴょん!

・・・とアキにアイドルの自己紹介の洗礼を浴びせる年下の先輩なのだった。

さらに・・・。

アメ女の「あ」は?

愛してるの「あ」!

アメ女の「め」は?

メロンの「め」!

アメ女の「じょ」は?

情緒不安定の「じょ」!

よくできました!

あっ。ところで私は誰だっけ?

成田りな!

上から読んでもぉ…。成田りな!

下から読んでもぉ…。成田りな!

成田りな 出席番号37番 15歳!

・・・とたたみかける先輩たち・・・アキはたじたじとなるのだった。

こういう時には・・・きっとユイちゃんが頼りなる存在だったはず・・・。

しかし・・・ここにはアイドルの世界に詳しい親友はいないのだった。

社長の太巻こと荒巻太一(古田新太)は不在だった。

そこにはただ「太いものには巻かれろ」という意味不明な標語があるばかりだった。

「オフィス・ハートフル」の本社は渋谷にあり、出先機関である東京EDOシアターには滅多に顔を出さないらしい。

アキは両手両肩に荷物を持ったまま、「アメ女」チーフマネージャー・河島耕作(マギー)に挨拶し・・・。

「あれ・・・二人じゃないの・・・どっち?」

「なまってる方です」と蛇口さん。

「あ・・・そう」

・・・と言われるのだった。

警備員にまで・・・。

「かわいい方?」

「なまってる方」

・・・なのである。アキの心の空気はパンクした自転車のタイヤが凹むように抜けていくのである。

華やかなステージで輝く、「アメ女」センターである愛称マメりんこと有馬めぐ(足立梨花)らのリハーサルに一瞬心ときめき・・・画像をユイに送ったアキだったが・・・蛇口さんはステージ下の奈落にあるレッスン場へと階段を下りていくのだった。

「あそこで踊るにはみんな一年以上レッスン受けてるんだ・・・」

「じぇ・・・」

そこにようやく・・・アイドル・グループ・ピラミッドの地下部分である・・・欄外にアキとともに位置するGMT47のメンバーがいたのだった。

「天野アキでがす・・・」丁寧になりはじめたアキだった。

「海は無いけど夢はある・・・NOオーシャンのリーダーやってました入間しおりです・・・今日も東武東上線に乗ってやってきました~」

「アメ女」の正規メンバーからはかなり出力不足の埼玉県代表の入間しおり(松岡茉優)・・・どうやら・・・GMT47のリーダーらしい。

「親不孝ドールズの柚子胡椒担当・遠藤真奈ばい」

福岡県代表の遠藤真奈(大野いと)は後に佐賀県代表であることが判明する。出身地詐称が発覚するまでは・・・出身地について言及すると必ずわざとらしい咳が出るのだった。

「仙台牛タンガールズの小野寺薫子でがす」

「あ・・・ずんだずんだの人・・・」

宮城県出身の小野寺薫子(優希美青)は14歳。アキは東北の訛りにホッとするのだった。

さらには沖縄出身の喜屋武エレン(蔵下穂波)にもなんとなくホッとするものを感じるアキなのである。

「・・・これだけ・・・」GMT47はまったく47人いないのである。

「後、もう一人いるけど・・・今日はバイト・・・」

「いろいろあってさあ・・・親に連れ戻された子もいたし・・・」

重い荷物を背負ったまま・・・最初のダンス・レッスンを受けたアキは・・・完全にブルーになっていた。

ある程度・・・覚悟はしていたが・・・想像以上の過酷な仕打ちが待っていたのである。

(おら・・・東京なんか嫌いだ)

アキは・・・心のオアシスを求めて・・・実はサンタクロースであるパパ・黒川正宗(尾美としのり)のいる実家に避難する。

しかし・・・パパはバスローブ姿の変な女(大久保佳代子)を自宅マンションに連れ込んでいたのだった。

オアシスとオアシズは一字違うと大違いなのだ。

火曜日 昔のいじめっこに遭遇した女の子が来たよ(山下リオ)

部屋に入れたがらない実の父と暗闘するアキに春子から電話が入る。

「連絡ぐらいしなさいよ・・・なんか食べたの?・・・今、どこにいるの?」

「世田谷の実家・・・」

「パパは元気なの?」

「ものすごい元気だ・・・」

「ユイちゃんからなんか連絡あった?」

「・・・なんもねえ」

その頃・・・ユイは母親の足立よしえ(八木亜希子)、兄のヒロシ(小池徹平)とともに父親の担当医から説明を受けていたのだった。

アキから送られてきた華やかなステージの画像。

「身体の麻痺など後遺症が残る可能性があります」

上野行きのチケットを握りしめるユイだった。

その頃、北三陸市の「スナック梨明日」のママ春子はアキが何か隠し事をしていることを直感していた。

一方、世田谷区ではそのままになっている自分の部屋でグルグル転げまわるアキ。

(慰めてもらおうと思ったおらがバカだった・・・パパの知りたくもない秘密を知って・・・荷物が増えただけだった・・・)

そろりそろりとポエムに移行しつつあるアキの心の声。

「あのな・・・近所の酒屋の娘で・・・今はコンビニになってるけけど・・・中学で図書委員一緒にやってて・・・クリスマスイブに春子さんと離婚して、一月四日の同窓会で再会して・・・ありがちなことだけど・・・断じて不倫じゃないんだ・・・」

懸命に言いわけをする正宗だたが・・・性欲に負けて娘を裏切り、新しい女に明らかに心を奪われているのである。男の悲しい性だった。

そんな父親に愛想をつかすアキだった。

果てしなく La La La 貪欲 貪欲

クリスマスを過ごす相手は

あてもなく La La La 暗躍 暗躍

お正月までは一緒にいたくない

世田谷の夜の街に流れる流行歌。

落ち込むアキの前に東京時代のクラスメートのいじめっこの主犯(星名利華)と従犯(宮城美寿々)が現れる。

「クロカワアキじゃね・・・あんた・・・なんか・・・地元アイドルとかで・・・ネットで有名になってるでしょ・・・」

「・・・」

「調子こいてんじゃねえぞ・・・こら」

東京の暗黒面が次々とアキに襲いかかる。

逃げ出したアキは・・・蛇口さんを頼るのだった。

冷たい蛇口さんは・・・タクシーで迎えに来てくれた。

アキにとって最後の希望だったので・・・タクシーの中でアキはホッとして泣きじゃくるのだった。

着いたのは谷中だった。

「ここは・・・どこですかあああ」

怪しい塀に囲まれた建物に不審を抱くアキだった。

上野の山を挟んで南がアメ横、北が谷中である。

そこに「オフィス・ハートフル」のまごころ第二女子寮があるのだった。

そこで徳島代表の宮下アユミ(山下リオ)が待っていた。

やっとさあ~やっとやっと

はい、宮下アユミ、19歳

徳島県で「うずしお7」のリーダーやってました~

やっとさあ~

実は年齢些少をしていて20歳のアユミはバイト帰りの気だるさを漂わせていた。

堕ちるところまで堕ちたアキは・・・ついに逆襲に転じるのだった。

岩手県北三陸市からやってきました

海女のアキちゃんこと

天野秋です!

海女の潜水のポーズも入れたフリ付自己紹介である。

アキの中に二人で一緒に過ごしたパートナーのユイが眠っていたのだ。

「お・・・ちょっと・・・それらしくなったな」

微笑む蛇口さんだった。

蛇口にはマネージャーとしての野望が眠っているらしい。

そして・・・何故か、男子禁制の女子寮に自室を持ってる蛇口さんである。

「天野・・・とりあえず・・・今夜は俺の部屋で眠れ」

「じぇ・・・」

「アキちゃん」から「天野」へ呼び方が変わった蛇口さん。

(まさか・・・商品には手をださねえと思うが・・・蛇口さんも男性だ・・・野獣となって襲ってくるかもしれねえ)

・・・という心の声をそのまま口にしているアキだった。

「うるさいよ・・・もう寝ろ」

「・・・ウニが・・・一匹、ウニが二匹・・・三匹、四、五、六、七・・・うひゃひゃ・・・数えきれない」

「怒るよ」

「・・・勉さんが一人、勉さんが二人・・・」

「いい加減にしろ・・・」

しかし、勉さんで寝入ったアキだった。

翌朝・・・東京の暗雲が・・・新しい仲間たちによって吹き払われる・・・。

埼玉出身の入間のネギで作る味噌汁。

宮城出身の小野寺の実家の農家から送られてきた米。

遠藤真奈の辛子明太子。

喜屋武のゴーヤその他。

おいしそうな匂いにアホの子はたちまち元気を取り戻すのだった。

部屋割は入間と小野寺と三人部屋。

入間は本当は自宅通勤可能だが交通費を着服しているらしい。

「じぇ」

「ぜって何・・・」

「ぜでなくてじぇだ・・・海女の方言でびっくりした時に言うだ・・・もっとびっくりした時はじぇじぇだ」

「ふえるのかよっ」

聞き取りにくい訛りの話をフキダシ付で説明する演出だった。

字幕の延長線上だな。

とにかく・・・アキは訛っているルームメイトと美味しい故郷の味を手にいれたのである。

そんなアキに蛇口が音楽資料を渡し、個人的に練習するように命じるのだった。

おそらく・・・大吉が配送した自転車に乗ってレッスン場へ向かうアキ。場所にもよるが谷中~アメ横は自転車で15分の距離である。

すると・・・そこには・・・太巻こと荒巻太一社長が先着していた。

アキにも雲の上の存在と理解できる太巻は・・・。

「ねえ、ガール」とアキに声をかける。

水曜日 君でもスターだよ!最後のチャンピオンだよ!(有村架純)

この後の展開を考えると・・・太巻の天野秋に対する態度はいろいろと意味深なのだが・・・。

結局、芸能界は運と実力の世界なので・・・そういう人間関係はおそらく二の次であろうと妄想しておく。

太巻は奈落のレッスン場でミリオンセラーとなった「アメ女」のサードシングル「暦の上ではディセンバー」の振付変更を考案中だったらしい。

アキに二つの振りを見せて軽いノリで意見を求めるのだった。

「♪果てしなく~と♪果てしなく~・・・どっちがいいと思う?」

(これは・・・おらのアイドルとしてのポ・・・ポ・・・ポテンシャルを試されているのか・・・)

「どっちが好き?・・・どっちでもいいか」

あまり期待していないのか・・・仮面なのか・・・優しく微笑む太巻。

思わずアキはオリジナルの振り付けを披露するのだった。

ゾンビな感じで両手をブラブラである。

呆気にとられたように見つめる太巻。

「♪果てしなく・・・がいいと思います」

長めの沈黙に・・・アキは・・・。

(やべ・・・怒られる)と恐怖する。

そこへ・・・やはり雲の上の存在である「アメ女」のマメりんが登場する。

マメりんの存在をそれほど知らないアキはそのアイドル・オーラに圧倒されるのであった。

自分のことをそれほど知らないアキにそれとなくカチンと来ているマメりんだった。

太巻は何事もなかったように・・・マメりんに振付変更を伝えるのだった。

それは・・・アキの考案したヴァージョンだった。

上へと戻って行くマメりん。

その耳に届くようにアキに声をかける太巻。

「君は・・・」

「訛りすぎる海女の・・・」

「ああ・・・潮騒のメモリーを歌っていた・・・もう一人はどうしたの・・・」

「ユイちゃんは・・・家庭の事情で少し遅れてます」

「そうなの・・・誰のシャドウ?」

「おら・・・はまだ」

「じゃ・・・マメりんにしなさい・・・いいわよね・・・マメりん」

怪しく微笑むマメりん。

ここでのシャドウとは代役要員である。

アキは突如として・・・「アメ女」のセンターの代役候補に抜擢されたのだった。

「じぇ・・・」

GMTメンバーによれば・・・。

太巻は元ダンサーでトシちゃんのバックで踊っていたらしい。

「アメ女」の楽曲は・・・作詩先行の「詞先」でも・・・作曲先行の「曲先」でもなく・・・振付先行の「振り先」なのだった。まあ・・・なくはないがまずない話だった。

そこへ・・・太巻御用達の「無頼鮨」の寿司が届く。

太巻がシアターに来た日は寿司を注文するのだが・・・ご相伴に与れるのは「アメ女」の正規メンバーだけだった。

その頃、北三里の春子と世田谷の正宗は電話で話していた。

「なんで・・・アイドルなんて・・・」

「その話は・・・先週、散々したから・・・それよりなんでアキを追い返したの?」

「追い返してない・・・それより・・・騙されてたらどうすんだ・・・」

「大丈夫よ・・・相手は太巻だから」

「太巻きって・・・」

「あら・・・知ってるの?」

「そりゃ・・・まずいだろ」

なんとなく・・・謎めく元夫婦の会話だった。

一方、谷中のアキは北三陸の夏ばっぱと電話をしていた。

アキは二段ベッドの下で壁には「友情を大切に」と先輩アイドルたちの落書きがある。

上は小野寺ちゃんである。

「本当なんだってば・・・おらの振り付けが採用されたんだってば・・・」

「そら・・・えがったな」

「そんでセンターのシャドウになったんだ」

「センターとはすげえな・・・真ん中だべ」

「シャドウだから・・・センターがケガしないと出番がねえ・・・ばっぱ本当に判ってる?」

「影武者だべ・・・」

「影武者って・・・そっちは変わりねっが」

「弥生の差し歯がとれたことぐらいだ」

黒く塗った歯でコントの落ちを担当する弥生(渡辺えり)だった。

スルメの焼ける匂いがする。

ふと・・・母からもらった手紙の存在を思いだすアキ。

「手紙よんだ?」と問われて読んでないと怒られると恐怖するアキだった。

あわてて・・・部屋をでて食堂へ続く階段の灯りで手紙を開くアキ。

お待ちかねの・・・家出後の若き春子の物語である。

「ママは・・・結局、家出したの・・・それは『君でもスターだよ』で10週勝ちぬいて・・・歌手デビューするためだった。ママはね・・・9週連続チャンピオンの強敵(渡辺万美)と戦ったよ・・・曲は『風立ちぬ/松田聖子・・・その日、ママは絶好調だったんだよ」

風たちぬ

今はアキ

今日から私は心の旅人

すみれ・・・ひまわり・・・フリージア

歌(小泉今日子)・・・キョンキョンの歌う聖子ちゃんに一部お茶の間沸騰である。

「司会の人(小籔千豊)もノリノリだったし・・・バックダンサーを従えて・・・ママもノリノリだった。故郷を捨てて明るい場所に立ったんだ・・・負けて帰るわけにはいかなかったんだよ・・・そして・・・ママは圧倒的大差で・・・新チャンピオンになったんだ」

若き日の春子の晴れ晴れとした顔。

しかし・・・ありえないこともない悲劇が春子を襲うのだった。

春子が優勝した回は・・・番組の最終回だった。

番組は打ち切られ「君でもものまねスターだよ」に改編されるのである。

「なんのために・・・家出して・・・優勝したのか・・・ママはね・・・困り果てたよ」

そして・・・若き春子は・・・かなり老けた顔のバックダンサーとテレビ局の狭い廊下ですれ違うのだった・・・。

木曜日 セーラー服を早く脱ぎ過ぎた女の娘だよ(能年玲奈)

天野秋の2009年に比べたら・・・想像を絶する天野春子の1985年である。

家出して・・・金なし宿なしで・・・17歳から18歳を東京で過ごした春子。

しかも所属事務所もなく・・・個人でオーディションを受けていたのである。

バブル寸前の浮かれ始めた時代とはいえ・・・竹の子族が踊り、一世風靡が一世風靡し、持ってけセーラー服がそれはまだだぞ・・・おにゃん子がおにゃん子して・・・元気が出るテレビがスタートして・・・堀越学園には本田美奈子や岡田有希子や南野陽子や高部知子や長山洋子や石野陽子や桑田靖子や倉沢淳美などが在籍していた・・・凄いなあと思うのは・・・若き春子を演じる有村架純が・・・小泉今日子はもちろんのこと・・・上記のメンバーや中森明菜、早見優、松本伊代、石川ひとみ、石野真子、堀ちえみ、三田寛子、石川秀美・・・当然のように松田聖子まで・・・ありとあらゆるアイドルを想起させる・・・なんともいえないアイドル万華鏡として存在していることである。

あの日・・・あの時・・・天野春子というアイドルの卵は本当に存在していたのではないかと思えてくるのだな。なんなんだ・・・これは。

とにかく・・・想像を絶する色々があって・・・1984年に上京してせっかくチャンピオンになったのに番組が終了して途方に暮れた春子は一年後の1985年の夏。原宿の純喫茶「アイドル」のウエイトレスとして生計を立てていた。時給550円である。アイドル好きなマスターの甲斐さん(松尾スズキ)は春子を応援しているらしいがどう考えても怪しいのだった。

一日八時間働いて4400円。週六日で26400円。月収10万円ほどである。

ギリギリだな。ギリギリ生きていけた。

春子はデビューを目指して地道なオーディション活動を繰り広げる。

「スケバン刑事」は斉藤由貴・主演版がすでにオンエアされており・・・春子の受けたオーディションは「少女鉄仮面伝説」(主演・南野陽子)だったのだろう。おニャン子クラブのデビュー作「セーラー服を脱がさないで」は7月5日のリリースである。会員番号4番新田恵利らがボーカルを担当している。

時代が求めているのは「となりの同級生」的アイドルだった。

そして下手な鉄砲も数打ちゃ当たる、蓼食う虫も好き好きの精神でアイドルの大量生産、大量消費が行われたのだった。

まあ・・・今もそうですな。

プロフェッショナルなアイドル冬の時代だった。そういうジャンルを目指した春子にとってはまさに逆境だった。セーラー服を着ていればアイドルになれちゃったかもしれないのだった。

それでも・・・春子は正統派アイドルを目指して「こんにちは、スタジオ!」の番組アシスタント・オーディションを受けたりして・・・バラエティー・ショー志向の強いチンピラ・ディレクター(津田寛治)たちの阿漕な審査を受け・・・酷薄な期待に応えられず落選を繰り返していたのだった。

そんなある日・・・純喫茶「アイドル」に「君でもスターだよ」の春子のバックダンサーだった太巻(当時26歳)がスカウトした少女(神定まお)を連れて来店する。

しかし・・・脱がされるのでは・・・と怯えた少女はレモンスカッシュも飲まずに退場するのだった。

太巻は芸能事務所のスカウトマンになっていた。

春子は思わず忘れ物の名刺を取り上げるのだった。

「じぇ・・・」とアキは絶句した。

春子の手紙が「以上」だったからである。

春子と太巻はどんな関係になったのか・・・お茶の間は知りたくてたまらないわけだが・・・アホの子は・・・月並みな激励の言葉がない事が不満だったらしい。

ふと気がつくと、蛇口さんがいた。

「ユイちゃんのところに行ってきた」

蛇口さんはブティック今野の新作のモンペ状のものをお土産にくれたのだった。

「ユイちゃんは・・・当分、来れないみたいだ・・・どうする・・・帰ってもいいよ・・・今なら海女の季節も終わってないし・・・」

それは「用無し」の宣告にも似ていた。

しかし、アキの中では燃えるハートがときめいていたのだった。

「おら・・・マメりんのシャドウになりました」

「太巻さんに会ったのか・・・」

「ダンスも採用してもらいました・・・」

「そりゃ・・・気まぐれかもな・・・最近、マメりんの態度が高飛車だったので・・・天野をかませ犬にしたのかもしれない。マメりんはきっと休まない・・・だから・・・天野には出番はまわってこないかも・・・それでもやるかい」

「おら・・・ユイちゃんと約束したから・・・ユイちゃんを呼べるようにがんばる」

「そうか・・・じゃ・・・俺も手抜きしないでがんばるよ」

蛇口さんの・・・情熱と冷酷は混然一体となって微笑みに結晶するのだった。

実に判別しがたいキャラクターなのだ。

新学期がやってきて・・・アキは私立朝日奈学園芸能コースに転入する。

遠藤真奈、喜屋武はクラスメートである。

売れっ子になったクラスメートは遅刻、早退、欠席するクラスなのである。

少しずつ、GMTのキャラクターが明らかになっていく。

熱血リーダーの入間、一人成人の宮下、高三トリオ、中学生小野寺と言う感じである。

アキたちは「アメ女」のステージ・スタッフでもある。

メンバーの着替えをサポートし、時にはせりを持ちあげる。

そして・・・夜は奈落で歌とダンスのお稽古なのだった。

暦の上ではディセンバー 

でもハートはサバイバー

今宵の私はリメンバー 

漂う気分はロンリー

そして・・・上京して二週間が過ぎた頃・・・上野駅前に「安部そばうどんまめぶ」の屋台を発見するアキだった。

「じぇ」

「じぇじぇ・・・」

「じぇっじぇじぇじぇじぇじぇ」

「じぇじぇじぇじぇーっ」

二人はじぇじぇじぇ星人と化すのだった。

金曜日 まめぶと先輩と落ち武者と影武者と黒川タクシーと束の間の栄光とミス北鉄ばい(大野いと)

元夫・大吉(杉本哲太)の策謀で宇都宮にまめぶ伝播の行脚に出た安部小百合(片桐はいり)である。

宇都宮でのまめぶ浸透に失敗した安部は立ち食いそば屋のフリをして南下し、上野駅前にたどり着いたのであった。

アキにとって安部ちゃんは海女のお母さんのようなものだった。

今では本気を出せばウニを大量確保できるアキだが・・・最初の一個を取るまでは安部ちゃんが落ち武者として影から支えてくれたのである。

「落ち武者でなくて・・・影武者な」とアキの心の声にツッコミを入れる安部ちゃん。

思わず、(語り)とアキの間の亜空間を彷徨し・・・ボーッとするアキだった。

ここはかなりの「判る人だけ判ればいい」モードである。

今週、花巻さんの出番なしだったな。

「考えてみれば岩手であまり流行らないまめぶが・・・栃木で流行ったら・・・それはもう栃木の名物だもんな・・・おら、トラックを安く譲ってもらって上野にやってきた。ここには三陸地方の人も来るし、1/20の確率で「まめぶ」に興味を持つ人もいる。間違えて注文したらこっちのもんだべ。そのうち、リピーターもでてきたし、そばやうどんの客にはこっそりまめぶをまぜてみたりな」

「さすがは・・・安部ちゃん・・・地道だんべ」

久しぶりに安部ちゃんのまめぶを味わうアキ。

「うめえか」

「おいしぐねえ・・・だがそこがいい・・・おいしぐねえものなのに・・・なんだか食べたくなる・・・東京にゃ美味いものはたくさんあるが・・・こんなにピンと来ない味なのにたまらなくなつかしくなる・・・安部ちゃんのまめぶは最高だべ」

超難解なアキのお追従だった。

そこへ「そばとまめぶのハーフ&ハーフ」を注文する客が・・・。

アキは気がつかなかったが・・・誰あろう種市先輩(福士蒼汰)だった。

先輩はアキに気がつくが何故か素知らぬフリをするのだった。

種市先輩とアキの出会いと失恋騒動は安部ちゃんが北三陸を去った後の出来事なので・・・安部ちゃんは二人の関係を知らないのである。

とにかく・・・アキは安部ちゃんとの再会によってほっこりした気分を味わった。

ところが・・・寮に戻るとそこには父親の正宗が訪問していた。

「なんでアイドルなんだ・・・」と何故か、娘の芸能活動に反対する正宗。

「大体・・・アキは芸能活動とは逆方向のネクラで・・・引き籠りで・・・」

「やめてけろ」とネガティブ・モードの正宗を遮断するアキ。

そこへ・・・メンバーたちが大騒ぎでやってくる。

「えらいことじゃき・・・真奈がピンチヒッターすることになったとよ」

「じぇじぇ」

「上から読んでも下から読んでも成田りなが体調不良で握手会を欠席したでがんす」

「じぇじぇじぇ」

「じゃから・・・真奈が代役になったきに」

「お腹いたかあ」

「本部から呼び出しかかっとるき」

「どうする・・・タクシー呼ぶかい」

「タクシー・・・」

「あ・・・」

黒川タクシーはとりあえず娘の仲間の役に立った。

そして・・・遠藤真奈は表舞台に立ったのである。

奈落でGMTも一生懸命踊るのだった。

しかし、「暦の上ではディセンバー」のミリタリ衣装と、「空回りオクトーバー」のパンダ衣装の衣装チェンジに失敗したり・・・、歌も踊りも間違えて・・・散々な遠藤真奈の表舞台デビューだった。

マメりんなどは冷たい視線で遠藤真奈を見下すのだった。

GMTにはお下がりの寿司が心ある「アメ女」メンバーによって差し入れされていた。

思わず・・・ウニを食べてしまうアキ。

「うめえ・・・」

「アキちゃん・・・真奈が落ち込んでる時に・・・」

「ごめん・・・無意識だった・・・真奈ちゃんも食べるといいべ」

「食欲ないばい・・・」

「んだば・・・これ」

アキは500円を取り出し、真奈に渡そうとする。

「お金の問題じゃないばい」

「ごめん・・・おら・・・ウニはゼニだとばっぱから教わったから・・・」

仲間たちは・・・アキの空気を読まない態度に戸惑うのだった。

「真奈ちゃん・・・一つ教えてけろ・・・上は楽しかったか・・・」

「そりゃ・・・お客さんもいるし・・・下とは全然ちがうばい」

「だったら・・・明日はもっと楽しんでけろ・・・おらたちも一生懸命サポートするだ」

「そうだ・・・落ち込んでる場合じゃないき」と最年長宮下ちゃん。

「なんくるないさ」とGMTの弥生さんと化す喜屋武ちゃんだった。

「明日はもっとがんばるばい」と気をとりなおす真奈ちゃん。

「おらも上でおどりたいでがんす」と小野寺ちゃんはせりを目指す。

「ダメそこはリーダーの特権」と入間。

「本当にできるかなあ・・・」

「できないんだったらやめるしかないな」と割って入る蛇口さんだった。

「いつの間に・・・」

「女子特有の鬱陶しい感じがおさまるのをまってたんだよ」

「・・・」

「ひとつ云っとくけど・・・GMTはこの劇場で終らないからな・・・ちゃんと47人そろって全国ツアーもやるし・・・ファイナルは武道館だ・・・そしてたとえ最後の一人になっても俺は見捨てない」

蛇口さんの激励に意気上がるGMTだった。

「そうだ・・・真奈ちゃんが代役をやりとげたら・・・お寿司でお祝いしねえか」と突然、提案するアキ。

「でも・・・お寿司は無理だろ・・・お金が」

「それは・・・蛇口さんが・・・」

しかし・・・いつの間にか姿を消している蛇口。やはり・・・少し信用できない男なのだった。

その頃・・・スナック梨明日では2009年度ミス北鉄の話が少し盛り上がりに欠けているだった。

「ですよね」と吉田(荒川良々)・・・。

保(吹越満)は栗原ちゃん(安藤玉恵)のエントリーを・・・大吉は春子のエントリーを口説くのだった。

「節操ないなあ・・・去年のミス北鉄が17才で・・・今年が45才なんて・・・」

「43ですう」と春子。

勉(塩見三省)はひたすら琥珀を磨く・・・蛇口も磨いていたので二人の関係は修復されたのかもしれない。

太巻・・・蛇口・・・勉あたりはなんだかホモホモしい匂いがします。

そこへ・・・先触れとして・・・ヒロシが現れ・・・人々の前に二週間ぶりにユイが姿を見せるのだった。

春子は笑顔でユイを迎える。

土曜日 あちらのお客様からの伝説を目撃したかったあああああ(橋本愛)

ユイは精一杯、平静を装っていた。

おそらく・・・ヒロシがユイに挨拶を強要したのだろう。

一瞬で春子はユイの気持ちを推察するのだった。

「ユイちゃん・・・なんか食べる?」

「お兄ちゃん・・・帰ろう」

「あ・・・無理しなくてもいいのよ」

「いや・・・せっかく来たんだから・・・すわってジュースでも」と吉田。

「そうそう・・・アキちゃんから連絡あった?」と保。

「今、今年のミス北鉄はユイちゃんの二連覇でいいかなと話してたとこだ」と大吉。

「いや・・・」と大吉を突き飛ばして逃走するユイだった。

「なんか・・・すいません」とユイの後を追うヒロシ。

泣き伏す・・・勉だった。

勉は琥珀の洞窟で・・・ユイの痛々しいほどの孤独な夢を追いかける姿勢を知っているのである。

「ちょっと・・・なんであんたたち、ギクシャクしてんのよ」

「いや・・・俺たちはいつも通りに・・・」

「いや・・・すごく変な空気でしたよ」と栗原ちゃん。

「反省会だね・・・吉田、なんでひきとめた」

「いや・・・春子さんが・・・」

「アタシは断れる感じで云ったよね」

「あ・・・」

「保・・・なんでアキのことなんか・・・聞くのよ、今、一番の禁句でしょ・・・大吉さん・・・ミス北鉄二連覇なんて・・・今のあの子が喜ぶと思う・・・勉さん、いつまで泣いてんのっ・・・この大馬鹿ものどもが」

「なんかすみません」

「腫れものにさわるようにさわりなさいよ・・・間違いないのよ、元腫れものが言ってるんだからね」

うなだれる一同だった。

Am013 一方、そんな大惨事は露知らず・・・アキは夏に電話していた。

「変わったことあった・・・?」

「かつ枝が妊娠したことくらいかな」

口に含んだ牛乳を噴き出すアキだった。マジ歌選手権かっ。

電話をかわる眼鏡会計婆(木野花)・・・。

「正確にいうと・・・アキがいなくなってさびしそうな夏ばっぱにおらがやった猫が妊娠したんだ・・・」

アキは真奈のお疲れ会を寿司屋で開催するための相談を夏に持ちかける。

「まわる寿司はいくらだ?」

「まあ・・・一人千円だな・・・」

「まわらねえ寿司は?」

「二千円もあれば充分だ」

「メニューがない時はどうするだ」

「適当に・・・って言えばいい」

「それで・・・もしお金が足りなかったら・・・」

「そん時は・・・謝って皿洗いでもなんでもして身体で返すしかねえな・・・」

お茶の間騒然の夏ばっぱのアドバイスだった。

夏ばっぱの指示に従ってアキたちがやってきたのは・・・太巻御用達のやや高級店「無頼鮨」である。入店したアキたちを見ていきなり顔を曇らせる大将の梅頭(ピエール瀧)だった。

最年少小野寺ちゃんが一番用心深いのだった。

「大丈夫でがしょうか・・・おらさ・・・きっちり二千円しかもってないだども」

「なんくるないべさ~」と早くも沖縄方言を取り入れてシェイクするアキだった。

「今日は・・・見事、三日間五ステージを無事に勤めた真奈ちゃんをねぎらう会です」

「最初は失敗したとばい・・・ばってん・・・アキちゃんにがばいよかこと言ってもらって・・・アキちゃん・・・」

「かんぱーい」ととりあえず寿司を食べたいアキだった。

いつしか喜屋武も踊りだし、アユミも応じるのだった。

遅れてやってきた蛇口が見かねて注意するのである。おそらく・・・蛇口は・・・キャッシュを調達してきたのだと思われる。

「おい・・・宮下・・・未成年なのに酒はダメだろう」

「ごめんなさい・・・ウチはサバよんでたきに・・・本当は二十歳、今年二十一やき」

「じぇーっ」

「私もウソついてたばい」

「じぇじぇーっ」

じぇはメンバーに完全に浸透しているのだった。

「本当は佐賀じゃけど・・・博多華丸さんに福岡の方が通りがいいって言われて・・・ウソがつけん性分じゃから・・・苦しかったばい」

しかし・・・福岡と佐賀の違いがピンとこない一同だった。

「なんくるないさーーー」

「佐賀と福岡は違うばい」

大騒ぎのGMTの隣の席ではついたて一枚を挟んで静かに飲食する女性客がいた。

「ねえ・・・絶対、二千円じゃ足りないべさ」と小野寺ちゃん」

「・・・」

「水口さんに借りる・・・」

「いや・・・蛇口さんは寿司を一貫も食べてないし・・・水割りを水で割っている・・・最終的には逃げるつもりだ・・・おらはもうこの店で働く覚悟でがす」

隣の女性客は笑みをこぼすのだった。

いや・・・アキは忘れているが・・・パンツの中にお金があるはずだ・・・。

話題は好きな女優の話になっていた。

「アキちゃんは・・・」

「おらは・・・鈴鹿ひろ美」

「なんでえ」

「おかしいか・・・」

「確かに演技は上手いけど・・・若手とかいじめそうだし・・・お城に住んでそう」

隣の女性客は席を立つ。

さすがに心配になった蛇口は勘定を訪ねる・・・。

「お勘定はもういただいております・・・隣のお客さんが・・・」

アキの五感は研ぎ澄まされていた。

声に聞き覚えがある・・・横顔が見たことある。

ふるまいがあの人だ・・・鈴鹿ひろ美その人だ。

「じぇじぇじぇ・・・」

(ユイちゃん事件です・・・)

思わず追いかけるアキ。忍びよる「潮騒のメモリー」のインストゥルンタル。

水口も追いかけて来た。

「鈴鹿ひろ美さん」と呼びとめるが絶句するアキ。

「はあい」と振り返る待ってましたな感じの鈴鹿ひろ美(薬師丸ひろ子)だった。

「今日はごちそうさまでした」と御礼を述べる蛇口さん。

「ああ・・・あなたは・・・太巻のところの・・・えーと」

「水口です」

「そうそう・・・」

GMTはおろか店の客一同が御礼をするのだった。

一瞬、蒼白になり、領収書の金額を確かめ、眩暈を感じる大女優だった。

アイドルたちの自己紹介をさえぎり「それでは私はこれで・・・」と去っていく鈴鹿。

しかし・・・ただ一人アキはタクシーまで追いかけるのだった。

「握手・・・握手・・・」

蛇口さんの制止をふりきり・・・鈴鹿の手を握るアキ。

「おら・・・あんだに憧れて・・・東京に来た・・・潮騒のメモリー最高でがんす・・・」

微笑んで手を添える鈴鹿だった。

「いつか・・・一緒にお芝居しましょうね・・・」

「あう・・・あう・・・あう・・・」言葉を失うアキだった。

東京の夜の街に・・・何故かこみあげてくる涙。

アキ、かわいいよアキなのだった。

置いていくのね

さよならも言わずに

再び会うための約束もしないで

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2013年6月29日 (土)

やめりー!(夏帆)みんな!エスパーなんだよ!(染谷将太)見たいか?(真野恵里菜)

悪魔ヨハネの黙示録 第16章

ドラゴンの口、サタンの口、アンチ・キリストの口から海のものでもなく陸のものでもない邪悪な霊が吐き出される。

大いなる災いの標しを示し、邪悪な霊たちは世界の支配者たちに最終戦争を示唆する。

すべては明らかにされる。

心の秘密は盗まれる。

鎧を身にまとうことは無意味となる。

邪悪な霊たちはハルマゲドン(メギドの丘)に支配者たちを集合させる。

第七の使者が黄金の器を空に投げた。

聖なる場所から「成就せり」と厳かな声が轟いた。

未曽有の地震が雷光と雷鳴とともに発生し、阿鼻叫喚が生じた。

・・・そして、世界は三つの破片となり、山も海も消えうせた。すべては終焉の時を迎えたのである。

神を呪う人は一人もなく、そしてまた神もなかった。

で、『みんな!エスパーだよ!・第11回』(テレビ東京201306290012~)原作・若杉公徳、脚本・園子温、演出・そのしおんを見た。繰り返される最終戦争は今度こそ、最後にするからと言いながら止めることのできない人類の病巣である。神と悪魔はそれを冷徹に見守り続けて来た。最終戦争とはすべての終焉を迎えるまでのさざ波のようなものだからである。

愛知県立東三河の地で覚醒した愛知県立東三河高校の女子生徒・美由紀(夏帆)は恋するテレパシスト仲間の鴨川嘉郎(染谷将太)のために邪悪な恋仇・紗英(真野恵里菜)に最終決戦を挑むのだった。

喫茶「シーホース」で嘉郎の親友のヤス(柄本時生)と雑談をしていた紗英の前に仁王立ちする美由紀だった。

「今日はあんたに言いたいことがあるだに・・・」

「なによ・・・」

「お前、いつまでこの街にいる気だ・・・とっとと東京に帰り・・・」

「私だってこんなところにいたくないわよ・・・」

「へえ・・・今日は素直だな・・・いつものように可愛い子ぶらないのか」

「あなたに・・・私の何がわかるのよ・・・」

「わかるだら・・・アタシはこれでもエスパーだに」

「バカみたい・・・」

「テツヤ・・・テツヤ・・・いつもその男のことを考えとるだら」

「なんですって・・・ふざけないで・・・」

「東京に残してきた彼氏か・・・」

「やめてよ」

その時、無人の椅子が音を立てて激しく動いた。

「・・・お前も・・・エスパーなのかや」

「何言ってんの・・・」

美由紀を押しのけて店を飛び出す紗英。

茫然とソファに腰を下ろす美由紀。

ヤスは呆気にとられてつぶやく。

「何だ・・・何の話してるだら」

その頃・・・自暴自棄状態となった紗英の父親・浅見教授は高校生の嘉郎を連れて一部お茶の間のお世話をする女優たち満載のキャバレーで飲んだくれるのだった。

何故かキャバ嬢にモテモテの教授であった。

「ねえ、教授~、また超能力見せて~」

「嘉郎くんは他人の心が読める超能力者だ・・・」

「すご~い」

「読んで・・・私の心を読んで~」

「嘉郎くん・・・読んであげたまえ」

「い、いいんですか・・・」

【教授って素敵~】

「教授が素敵だと思ってますね」

【教授に抱かれたい~】

「教授に抱かれたいと思ってますね」

「すご~い」

「なんでわかるの~」

「すごいんだよ・・・超能力はすごいんだ」

酒に溺れ、自堕落に振る舞う教授に危機感を覚える嘉郎だった。

「秋山さん・・・助けてください」

教授の助手・秋山(神楽坂恵)は教授を立ち直らせるために最後の手段を準備していた。

なぜなら、予知能力者である秋山には自分がそうすることが分かっていたからである。

「シーホース」のマスター輝光(マキタスポーツ)は自室に戻ると自慰補助具であるTENGAの山の中に下着姿の紗英を発見し、驚愕する。

「紗英ちゃん・・・こんなところで・・・何してるんだに」

「この水筒の山に囲まれているとなんだか・・・安心するの」

「す、水筒って・・・」

マスターの念力によって常に念動力愛撫を受けているうちに紗英の精神の一部はTENGAに同化してしまったのかもしれなかった。

「マスター、こっちにおいで・・・私をギュギュッと抱きしめり・・・」

「何を言うとるんだに」

「だって・・・水筒もかわいいし、このクッションもいい感じなんだもん」

紗英はマスターの自慰用人形を抱きしめるのだった。

「紗英ちゃん・・・およし・・・」

「マスター・・・私を抱きしめりん・・・」

紗英の股間にTENGAを挟みこむ悩殺ポーズにマスターは恐怖を感じたのだった。

「うわああああああ」

童貞のマスターにとっては刺激が強すぎて対処が不可能だったのである。

「ふふふ・・・馬鹿みたい」

ほくそ笑む紗英だった。

そこへ突然、兵児帯を締めた大男(竹内力)が現れた。

「あなたは・・・誰?」

「おいどんは西郷隆盛でごわす」

「えっ」

「おはんはエスパーをバカにしとる」

「・・・」

「おいどんがおはんにエスパーの力を教えちゃるのでごわす」

「やめて」

西郷の手が星屑状の発光体が飛散し、紗英は身動きできなくなってしまう。

「やめて・・・」

西郷は紗英の鼻にかぶりついた。

シーホースで雑談中の嘉郎の同級生たちの処へ・・・マスターが駆け込む。

「紗英ちゃんが・・・部屋におるだに・・・」

しかし・・・紗英はすでに消え失せていた。

(みんな・・・どうしてしまったんだ・・・)

嘉郎は苦悶する。

仲間たちはみんなバラバラになってしまった。

榎本洋介(深水元基)はテレポーテーションを否定し、ランニングハイにとりつかれている。

矢部直也(柾木玲弥)はひたすら女生徒の内臓を透視し続ける。

サイコメトラー・石崎英雄(鈴之助) は真面目に引越し屋さんのアルバイト勤務をするのだった・・・いや、悪いことではないがな。

そして・・・何故か、美由紀は不貞腐れているのだった・・・それは嘉郎のせいだがな。

そんな・・・嘉郎たちを・・・謎の催眠術師・ミツル(栗原類)は西郷隆盛とともに監視する。

その傘下に・・・紗英も加わってしまったようだ。

「すべての終りはワンから始る・・・」

謎めいた言葉を呟くミツルだった。

路上の脳科学者・茂木健一郎は「脳ある鷹は脳を隠す」と応じるのだった。

新聞のTopに載んなくなったってあの場所じゃ

尊い笑顔も涙も生きている今もずっと

50基の核発電所 年に5000回揺れる列島

ここで生きてゆく僕らのBlowin' in the wind

秋山助手の最終手段はテレビ局での超能力者の存在の暴露だった。

教授は部屋に引き籠り、ベッドに横たわる愛娘に再起を誓うのだった。

テレビ東京系で放送されたささやかな番組はテレビ三河では一週間遅れのオンエアだった。

「東三河の地が世界を守る超能力者と世界を滅ぼす超能力者の最終決戦の場所・・・すなわちハルマゲドンに選ばれたのだ」

超能力を公開した嘉郎は不安に慄くのだった。

三人の悪の使者は脳を使って吠える。

「ワン、ワン、ワン」

「シーホース」では美由紀が窓から外を眺め、UFO(未確認飛行物体)を目撃する。

「見たか・・・」

「何を・・・」

「あれだに・・・」

「石巻山には宇宙人の基地があるという云い伝えがあるだに」とあくまで雑談をするヤス。

「ここは日本のへそだから」

「へその下にはジャングルがあるだに」とマスター。

「その下には洞窟があるだら」とヤス。

「もうすぐなんだ・・・」とエロ話に熱中する生温い空気の中、秘密を抱えきれなくなる嘉郎。

「何が・・・」

「もう、すべてを話すよ・・・」

「やめり」と美由紀。

「やめりん」とマスター。

「みんな、エスパーなんだよ・・・」

「嘉郎・・・どうしただら」

「ああ・・・黙っていてごめん・・・とにかくテレビ三河をみて・・・」

オンエアされた番組は東三河で強烈な反響を巻き起こした。

嘉郎の両親は息子がテレビに出演したことに驚愕した。

「どんな能力があるんですか」

「テレパシーです」

「私の心も読めるんですか・・・」

「いいんですか」

「はい」

「教授がいい男だと・・・」

「わあ・・・すごい・・・エスパーだわ・・・エスパーです」

エスパー仲間たちは教授と嘉郎を詰問するのだった・・・。

「なんで・・・嘉郎だけ」

みんな、テレビに出演したかったらしい。

「安心したまえ・・・あの番組はかなりの反響があり・・・多くの番組から出演依頼が舞い込んでいる」

目を輝かせるエスパーたちだった。

ヤスは嘉郎を詰る。

「どうして・・・何にも言ってくれなかったら」

・・・親友の言葉は信じなくともテレビの言うことは信じる田舎の人の話である。

突然、エスパー・ブームが到来した。

教授は一等地のビルの一室に超能力開発センターを開発する。

人々はセンターに押し寄せるのだった。

美由紀までもがちょっと有頂天になってESPカードを掲げるのだった。

そして・・・ミツルは囁いた。

「ついに・・・時はきた」

センターを取材するローカル局のアナウンサー。

集合したエスパーたち。

そこへ・・・紗英が現れる。

「今まで黙っていましたが・・・豊橋駅前のUSAというパチンコ屋には宇宙人のUFOが置かれているのです」

「あのスペースシャトルが・・・」

「あれはダミーです・・・あのスペースシャトルこそがハルマゲドンのキーとなるのです・・・ところで・・・パンチラ見たいか?」

「ええっ・・・」

どよめく聴衆と・・・図星をつかれた一部お茶の間の人々・・・。

「パンチラ・・・見たいか?」

ごめん僕はこの夜空を飛べることなんかできない

今すぐ君を抱きしめたいけど終電は過ぎた

コンビニで生温いコーヒーと適当な雑誌二冊

眠れない天井を彷徨っている

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2013年6月28日 (金)

あなたも怪物になりますか?(栗山千明)私は怪物になりました!(多部未華子)

擬似谷間に突入である。

しかし、週末にはまだ「みんエス」が残っているし、「あまちゃん」「八重の桜」と長編が居座っているのである。

なんとなく・・・春ドラマが終わった感じがしないのであった。

そういうわけで・・・二枠が埋まっているために残り5枠を賭けた「・・・を待ちながら」記事のシーズンなのであるが・・・多部未華子と栗山千明の豪華共演をスルーするわけにもいかないのである。

ここの処の日本テレビの長編ドラマは・・・「アホか・・・」という出来具合で、今回もかなりヨレヨレである。

しかし・・・最後は・・・佐藤浩市、向井理、多部未華子の怪物トリオVS純情可憐刑事・栗山千明という構図になってそこそこ爽やかに幕切れた。

実は・・・大藪春彦なら・・・ここからが面白いところなのである。

罪悪感を克服した悪と・・・未熟な正義の戦い・・・胸躍るピカレスク・ロマンの開幕なのだな。

まあ・・・そういうドラマを作らないところが・・・世の中、平和なんだな・・・と思う他ないのが悪魔の胸に一抹の寂寥感を生じさせるのだった。

で、『読売テレビ開局55周年記念ドラマ・怪物』(日本テレビ20130627PM9~)原作・福田和代、脚本・森下直、演出・落合正幸を見た。ドイツの哲学者フリードリヒ・ニーチェ(1844-1900)は著書「善悪の彼岸」(1886年)の中で、「怪物と戦うものは自らが怪物化することに注意しなければならない。汝が永きに渡り深淵を覗く時、深淵もまた汝を同じように見つめ返している」と記している。最愛の女・ルー・ザロメに手ひどく失恋して、まったく売れなかった「ツァラトゥストラはかく語りき」を猛然と描き上げた余熱で記されたこの言葉はそれなりに人々の心の琴線に触れるものらしい。もちろん・・・それは凶悪な妹エリザーベトに翻弄されて狂気へと導かれる過程の産物なのである。

例によって結構、重要な設定が原作とドラマとでは異なるが・・・妄想はドラマ版に準拠します。

15年前に発生したくるみちゃん誘拐殺害事件。

小学2年生の女児・遠藤くるみが行方不明になり、殺害されたことが判明する。

捜査線上に浮かんだ容疑者の中で白い車の男・堂島昭(要潤)が犯人だと知っていた刑事がいた。

香西武雄刑事(佐藤浩市)は堂島の部屋で「不審死の匂い」を嗅ぎつけたのである。

香西刑事は「非業の死を遂げた死者の遺した痕跡」を嗅覚で感じることができる特殊な能力の保持者だったのである。しかし、超能力で犯人を断定することのできる法がない以上、物証が必要となる。

結局、事件は未解決のまま・・・時はすぎ・・・警察官僚で政治家だった父の地盤を継ぎ、堂島昭は国会議員選挙に立候補するまで全くの無傷であった。

苦渋にまみれた香西刑事は堂島の主宰するパーティーにもぐりこみ、悔し紛れの恫喝を試みる。

「殺人事件の時効はなくなったんだ・・・俺はお前を追い続ける」

「・・・」

堂島昭は侮蔑の表情を浮かべるのみだった。

そんな二人のやりとりを聞いて蒼白となる一人の女性があった。

くるみちゃんが行方不明になる二日前に白い車に乗った男に車に連れ込まれ、性的凌辱を受けた・・・もう一人の小学生がいた。

母親に沈黙を強いられ・・・事件について無言を通してきた藤井寺里紗(多部未華子)であった。

堂島昭の立候補を知り、告発するためにやってきたのだが・・・心の闇に自縛され、ただ立ちすくんでいたのだ。

里紗は・・・香西に希望を見出した。

一方、言動に異常が見られるために捜査の一線から外されている香西は・・・監視役を命じられている石川えみ刑事(栗山千明)とともに上司から失踪人捜索を命じられる。

失踪人・橋爪行雄は最新鋭のゴミ処理施設「日本循環環境ラボラトリ」で足取りが途絶えていた。

香西刑事と石川刑事は・・・そこで超未来技術である亜臨界水によるゴミ処理機械を操作するエンジニア・真崎亮(向井理)と出会うのだった。

「これは・・・超圧力鍋みたいなものですか・・・」と質問する石川刑事。

「まあ・・・料理で肉を軟らかくするのてはなく、ゴミをDNAレベルまで粉砕し、無機質化してしまう装置ですよ・・・つまり・・・有機物を消滅させてしまうのです」

「人間も消えますか・・・」と香西。

「ええ・・・人間も有機体の一種ですから・・・」

香西は真崎から「不審死の匂い」を嗅ぎつけていた。

やがて・・・行方不明の橋爪と真崎の接点が浮かび上がる。橋爪は過去に金融詐偽事件に関与しており、真崎の両親は被害者で・・・真崎が十歳の時に自殺していた。

「おそらく・・・真崎は・・・あの超機械で・・・橋爪を消してしまったんだ」と香西。

「まさか・・・」と石川。

「しかし・・・物証がなければお手上げさ・・・」

香西刑事は苦悩の果てに闇に落ちかかっていた。

そんな折、香西刑事を里紗が訪ねてくる。

「堂島を告発したいのです」

里紗は凌辱によって男性恐怖症になり、暗い闇の中で生きて来たのだった。

「無理だ・・・君の事件とくるみちゃんの事件は別件だし・・・圧力がかかる」

「でも・・・私は沈黙に耐えられないのです・・・このままでは壊れてしまいそう・・・」

香西は里紗の熱意に打たれ・・・存在しない物証を餌に・・・堂島の言質を引き出すための罠を仕掛けることに協力する。

堂島は監視カメラと盗聴器の仕掛けられたホテルの一室にまんまと誘き出される。

「金か・・・金が欲しいのか」

「私は謝罪してもらいたいの・・・あなたの犯した罪を・・・」

「そんなことができるか・・・」

「それならば・・・あなたの体液のついた私の服をしかるべき所に提出します」

「ふざけるな・・・」

逆襲行為に転じた堂島は里紗をベッドに押し倒す。

別室で監視していた香西刑事はあわてて部屋に駆けつけるのだった。

しかし、香西刑事が見たのは死体となった堂島だったのだ。

里紗の抵抗にあい、転倒した堂島は・・・後頭部を強く打って絶命してしまったのである。

「私・・・自首します・・・」

「君は何も悪くない・・・君はここにいなかった・・・全部、俺にまかせてくれ・・・」

香西刑事は里紗を説得し、現場から去らせた後で・・・真崎に連絡をとるのだった。

「本当に・・・人間を消してしまえるのか・・・」

「正直に言えばいいじゃないですか・・・消してしまいたい人間がいると・・・」

香西刑事と真崎は・・・超機械に堂島の身体を挿入した。

堂島は消滅する。

「こうやって・・・何人・・・消したんだ」

「さあ・・・消えてしまったものを数えても意味がないでしょう」

正義を行うのにあまりに無力な法と警察組織に絶望していた香西刑事は・・・しかし、心に残る罪悪感に懊悩する。

「俺たちは・・・善を為したのか・・・悪を為したのか・・・」

「そんなことで悩むのは・・・無意味ですよ・・・偽善的と言っても良い・・・」

「俺には・・・お前のような・・・完全な虚無の存在が信じられないのだ」

「人殺しの匂いがするからといって私を告発しても・・・どうにもなりませんよ」

香西刑事はしかし・・・死体を消滅させる・・・真崎の行動にささやかな抵抗を始める。

殺人者が遺体の始末を依頼した・・・その証拠がつかめればいい。

やがて・・・失踪者の妻と息子が捜査線上に浮かぶ。

夫の捜索願いを出している山本雪子(いしのようこ)と一人息子の優(藤原薫)の部屋で死の匂いを嗅ぎつける香西。

そして・・・雪子は真崎と接触していたのだった。

しかし・・・雪子は・・・夫の殺害も・・・真崎への遺体の始末依頼も否定するのだった。

怪物的能力と人間的情緒の間で苦悶する香西は真崎と対峙する。

「お前は・・・確かに犯罪の犠牲者で・・・不幸が生みだした怪物だ・・・」

「だから・・・どうだと言うんです・・・」

「警察官として私は・・・」

「あなたは・・・藤井寺里紗に・・・悪を唆したではないですか・・・」

「私が・・・」

「そうよ・・・私は堂島を殺したの」と姿を見せる里紗。

「君が・・・」

「彼女は罪を償うつもりだった・・・それを制したのはあなたでしょう・・・香西さん・・・なぜなら・・・彼女を守りたかったから・・・」

「お、俺は・・・」

罪の意識に翻弄され、拳銃自殺を試みる香西。

「こっちにくればいいじゃないですか・・・」

真崎と・・・里紗は微笑むのだった。

犯罪者に両親を殺された少年。

犯罪者に凌辱された少女。

二人を救うことのできなかった無力な刑事は悪の領域に身を投げるのだった。

裁かれぬ犯罪者を闇の中で消滅させる・・・怪物トリオの誕生だった。

その頃、石川は・・・自首してきた山本優の言葉に驚愕していた。

山本優は父親を殺害した凶器を持参し、死体の始末を真崎に依頼したことを告白する。

石川は・・・香西刑事が・・・死体隠滅に深く関与していることを悟る。

「香西刑事・・・あなたは・・・間違っている」

汚れを知らない石川刑事は香西刑事を逮捕するために走り出すのだった。

闇と光の戦いの幕が今、きっておとされたのだった。

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大奥

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2013年6月27日 (木)

彼(綾野剛)も私もそれを我慢できない(新垣結衣)

東日本大震災(2011年3月11日発生)から三度目の夏がやってくる。

テレビからは震災のもたらした悲惨な光景はほとんど流れなくなっている。

今年の大河ドラマ「八重の桜」は福島県の会津地方が舞台となっている。

東北復興を支援する内容のドラマとして・・・幕末の会津藩が・・・ふさわしいのかどうかは別として、少なくとも原発事故に関して言えば・・・日本国の進んだ道が福島県民に災害をもたらしたことは間違いないだろう。

朝ドラマの「あまちゃん」は震災前の岩手県の沿岸部を舞台のスタート地点に選んでいる。

ドラマの終盤では東日本大震災が描かれる予定だという。

「空飛ぶ広報室」もまた震災前の「時間」からスタートしたドラマだった。

ブルーインパルスのパイロットになれなかった主人公の物語が・・・ブルーインパルスの根拠地である宮城県の松島基地へとつながって行くのはある意味、自然の帰結である。

惨事をエンターティメントとして描くことは難しい。

フィクションについての理解度は人それぞれだからである。

しかし、「描いてはいけないことを本質的に認めない」ことこそ、表現者のあるべき姿だとキッドは信じている。

そういう意味で「空飛ぶ広報室」のチャレンジは素晴らしいものだったと考える。

青森県や茨城県、千葉県などの物語もどんどん生まれてきますように。

次の大惨事はすぐそこまで迫っているのかもしれないのだから。

で、『日曜劇場 空飛ぶ広報室・最終回(全11話)』(TBSテレビ20130623PM9~)原作・有川浩、脚本・野木亜紀子、演出・土井裕泰を見た。東日本大震災は東北地方太平洋沖地震とそれにともなって発生した津波や余震によって未曽有の災厄をもたらした大規模災害である。2013年6月の時点で死者・行方不明者はおよそ18000人、総避難者数は40万人以上、今もおよそ30万人が避難生活を余儀なくされている。被害総額の試算は最大25兆円となっている。この気が遠くなる金額はもちろん世界史上最高額なのだった。そんなことで世界一になって・・・どうするというのだ。

そういう嘆きを予想もしない・・・あの日だった。

2011年3月10日

防衛省航空幕僚監部総務部広報室のスカイこと空井大祐2等空尉(綾野剛)は宮城県・松島基地に出張していた。

「明日、東京に戻るので広報室で会いましょう」

帝都テレビ情報局ディレクターの稲ピョンこと稲葉リカ(新垣結衣)は紆余曲折あった恋人との再会に心を弾ませた。

2011年3月11日

午後2時46分、日本の太平洋三陸沖で発生した地震は岩手県沖から茨城県沖に震源域を拡大させ、まもなく東京にも波及する。地震の規模を示すマグニチュードは9と判定され、宮城県北部で震度7、東北から関東の広い範囲で震度6強~6弱を観測する。帝都テレビの社屋でリカは経験したことのない揺れに驚愕する。

帝都テレビはただちに災害時・緊急速報体制にシフトチェンジした。

各地からの想定外の被害情報がゆっくりと伝わり始める。

気象庁は津波警報を発令した。

しかし、その予想は控えめだった。

まもなく、太平洋上を飛行する自衛隊機が巨大な津波の発生を観測する。

報道関係者は「それ」のもたらす災害の恐怖に震えた。まもなく最大遡上高40メートル、広い範囲で20メートルを越える巨大な津波が次々と太平洋沿岸部に到達していった。

現場にいないものも身をすくませる自然の脅威は人々を街ごと飲みこんでいく。

特別番組編成で報道局のヘルプをしながらリカは祈る。

(スカイ・・・あなたはどうか無事でいて)

スカイはメールを送信した。

「僕は無事です」

情報は錯綜した・・・。あらゆる地域から様々な情報が発信される。

しかし、本当の被災地は停電し、断線し、ブラックアウトした。

取材のための部隊が編成され、出動し、あらゆる伝達手段を使った取材行動が開始される。しかし、被害の範囲は刻々と拡大し、重要な情報は手に余るほどに増大する。

本隊に帰還寸前だったスカイのいる松島基地。

気象庁は午後2時50分、宮城県に高さ6メートルの津波が午後3時頃に到達すると発表していた。

松島基地は地震による滑走路の被害点検、機体の整備、余震による被害への対応などに追われていた。しかし・・・予断があったことは否めないだろう。いずれにせよ自衛隊機はてんでこには逃げられない。午後3時54分、高さ2メートルの津波が松山基地に到達し、航空機28機が水没し、基地機能は完全に失われた。およそ900名の隊員は建物屋上に逃れ無事だった。また、ブルーインパルスは九州新幹線の祝賀行事に参加するために芦屋基地に展開中で奇跡的に難を逃れていた。

スカイは避難した屋上から基地を冠水させた津波の猛威を見つめながらリカに無事メールを送ったのである。

リカは祈りをこめて返信した。

「どうかそのまま無事でいてください」

松島基地は1機の救難ヘリも発進させることもできないまま、沈黙した。

眠れぬ一夜を過ごしたスカイは水のひいた夜明けから手作業による滑走路の復旧作業に参加する。午後になって被害を免れた他の基地から重機が到着。本格的な復旧作業が開始される中、松島基地の隊員たちは被害を免れたトラックに分譲し、周辺地域の救助活動に向かう。滑走路は3月15日に離着陸可能な状態に復旧する。

そして・・・陸海空を問わず自衛隊員たちは「勝利なき戦いである災害派遣」に没頭していく。

瓦礫の山。捜索活動。救援。土砂。除去。呼びかけ。救助。捜索活動。破壊された街。移動。仮眠。瓦礫の山。腐臭。捜索活動。遺体の発見。遺体の搬出。移動。瓦礫の山。腐臭。雪。捜索活動。仮眠。土砂。粉塵。救難。輸送。搬入。消毒。遺体。捜索活動。瓦礫の山。腐臭。慟哭。嗚咽。沈黙・・・。

リカは震災報道一色となったテレビ局で仕事に追われていた。

「こちらは三日間、報道局で情報収集にあたっています」

「状況を知れば知るほど・・・茫然とするばかりです」

「現地で災害派遣の任務にあたっている皆さんを思うとがんばらなければと思います」

「私には・・・報道することしかできない・・・」

スカイに差し伸べる手がないことに歯噛みするリカだった。

「五日ぶりに帰宅できました。空井さんはその後、大丈夫ですか」

「広報室の皆さんもほとんど東北へ派遣されて様子を聞くことができません」

スカイから返信はなかった。

「テレビの映像を見るのがつらいという視聴者からの電話がたくさん入ってます。情報を伝えることは本当に難しい。しかし、私にはそれしかできません」

リカはスカイにメールを送り続けた。

返信がないことに不満はなかった。

現地では想像を超える出来事が起こっていると想像できたからである。

ただ・・・返信がないことは不安だった。

「ずっとメールできなくてごめんなさい。水が引いてからの松島基地はフル稼働しています。終りはまるで見えませんが弱音を吐く隊員はいません」

被災地の悲惨な日常と全国の平穏な日常は少しずつ乖離して行った。

2011年6月

「街角グルメの取材を再開しました。今、こんなことをしていていいのか。もっと他に伝えるべきことがあるんじゃないのか。そればかりを考えてしまいます」

震災から三ヶ月が経過しようとしていた。

「僕は松島基地に人事異動することになりました。自分から志願しました。今までありがとうございました。もう連絡しません。稲葉さん、どうか、幸せになってください」

リカは空を見上げた。

不安は的中したのだった。

震災はスカイをリカから奪っていったのだった。

リカは例によって仕事に没頭するしかなかった。

スカイの心の扉を叩く勇気はリカにはなかった。

考えれば考えるほど破局は避けられない必然である。

リカはそのように考えるタイプだったのだから。

深夜のドキュメンタリー番組では想像を絶する悲惨が時折流される。

しかし、リカは日常を取り戻したお茶の間のために「東京スカイツリーのおみやげランキング」を伝えなければならない。

放射能は街を漂う。

目に見えないスカイへの恋心を押し隠し、リカは取材対象に笑顔を向ける。

2012年4月

連絡業務のためにリカは広報室を訪れ、幹部でないために人事異動をしない比嘉哲広(ムロツヨシ)1等空曹とあった。

「お元気でしたか」

「はい」

「比嘉さんも・・・現地に行かれたんですか」

「被災地の子供たちの人気者になりましたよ」

「・・・」

「昼間は明るく遊んでいる子供でも・・・夜になると時々恐ろしさが蘇って泣きだしたりするんです」

「・・・」

「そういう子供たちに少しでも楽しんでもらおうと芸のレパートリーも増やしました・・・子供たちの笑顔をみていると・・・」

不意に何かを思い出して絶句する比嘉。

その理由を問わないリカだった。

リカは震災直後のニュースで見た松島基地の搭乗員のインタビューでのコメントを思いだす。

「救難ヘリをすべて失って・・・何もできなくなって・・・」

そこで絶句した隊員。

こらえるしかない現場の人々の嗚咽を思うとリカはいたたまれなくなるのだった。

そして・・・リカもまた心を抑え込むのである。

リカもスカイも己を殺すことにかけてはすでに変態の領域に達しているのだった。

お茶の間は絶叫するのだった。誰かなんとかしてやってください。

彼らは彼ら自身を救済することはできないみたいなのだから。

2013年4月

しかし、恐ろしいことに歳月は流れ去っていくのだった。

藤枝敏生アナウンサー(桐山漣)と香塚ともみ報道局記者(三倉茉奈)がなんとなく良い感じになり、技術局カメラマンアシスタントの大津(前野朋哉)と情報局「帝都イブニング」のディレクター佐藤(大川藍)が同棲を始め、報道班の槙3等空佐(高橋努)と柚木3等空佐(水野美紀)ができちゃった結婚をして、片山1等空尉(要潤)でさえ彼女(真中乃亜)と交際中だというのに凍結されたままのスカイとリカ。

そんな折、ブルーインパルスが松山基地に帰還するのだった。

もはや、歌い出すしかない上司二人だった。

帝都テレビ情報局・阿久津チーフディレクター(生瀬勝久)と元・防衛省航空幕僚監部総務部広報室長・鷺坂正司1等空佐(柴田恭兵)である。

「The Girl Can't Help It(女の子にはできない相談さ)」

「The Girl Can't Help It(女の子には無理だもんね)」

ロックン・ロールを歌いながら暗躍する二人だった。

「ブルーインパルスの松島基地復帰は地元の人々には復興の一つの象徴だ・・・これを機会に空自をからめた震災の一つの区切りみたいな特集があってもいいんじゃないかな」

「それを・・・取材する資格が私にあるでしょうか」

「今のお前にできなかったら・・・できる奴なんていやしない」

阿久津は頑なに心を閉ざすリカを無理矢理任務に追い立てるのだった。

背中を押されたリカはそれでも消極的である。

「私が松島に行かなくても・・・」

全員集合してリカを励ます昔の広報室のメンバーだった。

「あなたしかいない、あなたしかいない、あなたに松島に行ってほしいの」

仕方なく・・・松島に取材に向かうリカ。

そして・・・スカイとリカは二年ぶりに再開を果たすのだった。

仕事として・・・震災から今までの雑感をインタビューするリカ。

「あまりに・・・被害が大きすぎて・・・活動範囲の線引きさえも問題になりました。自衛官は救助活動以外で私有地に入ることを禁じられているんです。被害に遭ったお宅のがれきの撤去や泥かきも本来してはならない。石ころ一つ拾えない。そういうルールなのです。しかし、地元の了解を得てから基地司令からの命令がされました。基地から流された流出物を捜索せよという名目で出動したのです。もちろん、ルール違反の指摘は覚悟の上です。しかし、現地に入った報道機関の皆さんは好意的な報道をしてくれました。おかげで災害救助活動を続けることができたのです。隊員達はよく頑張ってくれました。つらい光景もたくさん見たと思います。隊員の中には自分の家族が行方不明のままの者もいました。それでもみんな少し休むとすぐにまた出て行こうとするんです。現場では何も考えないようスイッチを切って動けるんですけど・・・基地に帰って・・・ふとした瞬間に」

突然、絶句するスカイだった。

「空井さんの泣き顔ならたくさん見てますから・・・今さら大丈夫ですよ」

「ひどいなあ・・・」

涙が止まらないのはリカだった。

「私は・・・何もできなくて・・・ごめんなさい」

「稲葉さんがあやまることはないんです」

出会った頃とは逆にリカの頭を撫でるスカイ。

「慰められたら余計泣けるんでやめてください」

「でも・・・僕が稲葉さんにできることは・・・もうないんです」

どこまでもすれ違う二人だった。

明日の技術クルーとの合流に備えて宿舎に戻るリカを鷺坂が待ち構えていた。

「どうでしたか・・・二年ぶりの彼は・・・」

「空井さんはたくさんのものを抱えて・・・抱えきれなくなって・・・そしてその荷物を私には抱えさせたくないんですよね」

「それでいいんですか」

「自分がどんなにつらくても・・・あの人には選んだ道を歩いてもらいたいと思うんです」

「・・・」

「だから・・・これで良いんです。別々の道で・・・私も自分の道を歩いていこうと思います」

鷺坂はリカを避難民の人々の元へと案内した。

悲惨な生活の中で明るくふるまう人々がいた。

「ブルーインパルスせっかく帰って来たのにイベントが中止になって・・・残念だわ」

何気なく聞いた地元の声に感じるところのあるリカ。

「明日の飛行訓練を公開するのは無理ですかね」

「飛行訓練だからな・・・」

言葉を濁す鷺坂。

「でも、第三者が勝手に呼びかけて・・・ゲートの外に見物人を集めても問題ないですよね」

「それは・・・問題外だからねえ」

翌日、リカは勝手に広報活動を開始するのだった。

「帝都テレビです・・・明日取材します・・・ブルーインパルス飛びますよ」

地元のブルーインパルスファンたちは続々とゲート周辺に集まるのだった。

基地の中でスカイは時計を気にしていた。

「もう・・・訓練開始なのに・・・稲葉さん、どうしたんだろう」

「稲ぴょんはここには来ないよ・・・撮るもの撮ったら帰るつもりだろう」

「鷺坂さん・・・」

「有事において・・・果たすべき任務を果たすのは当然のことだ。想像を絶する困難があることも確かだろう。失われた貴重な生命は戻らない・・・瓦礫の処理は進まない・・・放射能汚染は深刻だ・・・しかし、そんなことで・・・若者が愛をあきらめるなんて・・・そんなのは最悪なんじゃないのか・・・」

「・・・」

「空井・・・かわいい稲ぴょんを泣かせて・・・それで誰かを幸せにできると本当に思っているのかい・・・お前さんは・・・」

スカイは走り出した。

空にはブルーインパルスが思い出の恋のハートを描きだす。

歓声をあげるブルーインパルスを心から愛する松島の人々。

(このままお別れなんて・・・できるわけがないじゃない)

リカも走り出した。

疾走する二人の軌跡は熱く交錯した。

二人が抱き合った画像を送信する鷺坂。

受信する阿久津。

「おい・・・みんな・・・ちょっと来てみろ」

そこには勝手にメッセージが付随していた。

【私たち、結婚します】

青い空の下・・・遠距離結婚の二人は固い絆で結ばれている。

ストイックな二人にとって会えない時間なんてさほどのことはないのだった。

あの日に生まれた子供たちも二歳になった。

そして、人の喜びと悲しみを飲みこみながら時は未来に向かって今も続いていく。

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Sk010_2 ごっこガーデン。夏の祈りの夕べ。まこ結婚おめでとうごじゃいましゅ~。自衛官とテレビ局員の結婚式は地味なんだか派手なんだか予想もつかないのでしゅ~。ランデブーは輸送機に乗って北海道とか、沖縄だとかですればいいのだじょ~。まこなら好きなところでパラシュート降下もありだと思いましゅ~。と・に・か・く~。ハッピーエンドでよかった~。三度目の夏・・・被災された皆さまの一日も早い復旧をお祈りしますデスmari詐欺師鷺坂も幸せになりますようにくういい最終回だったねえ・・・重いけどいい最終回だったよお・・・苦しみを抱え過ぎて身動きできなくなった男・・・それを知って静かに身を引こうとする女・・・二人とも・・・思い込みが激しすぎるとも言えるよね~。もう、どんだけ禁欲的な性格なんだよっ。やはり・・・過去・・・幕末の記憶がそうさせるのですかっ・・・とにかく・・・現世で幸せになれて・・・よかったよねえっ・・・すると・・・リカの前世は・・・私に苦しみを分けてください姫だったのか・・・

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2013年6月26日 (水)

ガリレオXX~蛍光灯の蒼き光は勇気の証ですからやるわよ(柴咲コウ)

原作小説とテレビドラマが融合し、分離し、新たな作品世界を生み出す。

虚構が生命を持っていることが感じられる瞬間である。

原作「ガリレオ」には不在だった内海薫がドラマ「ガリレオ」から逆流し、原作「ガリレオ」の内海薫がドラマ「ガリレオ」では岸谷美砂となって浮上する。

プレイボーイ・ガリレオはドラマ版ではよりフレッシュな肉体を求める傾向が見えるのだった。

しかし、お茶の間の一部は遊び人であるガリレオが生真面目な女性刑事に飼育される構図がお気に入りだったりする。

それが転じてキャリアで小生意気で若さほとばしる岸谷美砂よりも、たたき上げで一生懸命で少しくたびれた内海薫の復活を待望したりするのである。

もちろん、それだけではビジネスは成立しないわけだが、それもビジネスとして成立させるのがあこぎな業界の性なのである。

そして・・・そういうスピン・オフがそれなりに面白かったりするのだな。

このようにして主役としての内海薫が誕生したのだった。

それはテレビドラマ「ガリレオ」と「ガリレオ2」の間に「ガリレオ1.5」として存在する。

で、『土曜プレミアム・ガリレオXX 内海薫最後の事件 愚弄ぶ』(フジテレビ20130622PM9~)脚本・池上純哉、演出・西谷弘を見た。ドラマシリーズの時間軸は第1シリーズの六年後、第2シリーズの開始直前に遡上する。ガリレオこと帝都大学物理学科准教授・湯川学(福山雅治)の協力によって数々の難事件を解決してきた警視庁貝塚北警察署刑事課強行犯係の内海薫刑事も三十路を越えて警察官としての曲がり角に差し掛かっていた。体力勝負の現場の刑事として・・・男社会の女警察官として。アメリカでの研修としてオクラハマ行きを打診される内海刑事は・・・留学後に戻る場所があるのかを不安に思い即答を避けていたのである。

ミステリアスなガリレオの導入のテーマにのって事件現場に駆けつける内海刑事。

しかし、現場に先着している後輩の太田川稔刑事や、上司の間宮昌明刑事課課長(モロ師岡)の態度は内海を無視するかのように素っ気ない。

違和感を感じながら遺体のカバーをめくりあげた内海刑事は・・・そこに自分の変わり果てた姿を発見し、驚愕する。

驚愕夢から覚醒した内海は独身のまま三十三歳になってしまった女性が感じやすいわびしさを胸に宿すのだった。

格闘術の修練を積んでいても体力の衰えを感じることがある。

女性としての体力差をカバーするための気力が日に日に失われていくような予感。

見学にやってきたピチピチでキャリアの幹部候補生の女性警察官・岸谷美砂警部補の姿を眩しく感じる。

来年には彼女の部下としてお守役をしているかもしれない自分を想像すると憂鬱な気分にさえなってくる。

新聞では病死した死刑囚「猿渡雄吉冤罪事件」の記事がにぎわっている。

底辺にいても鬱屈するが・・・上は上で大変だ。

内海刑事は「冤罪事件の騒動」を他人事のように感じながら、目の前の事件を追う日常に戻って行く。

(私はやるべきことをやるだけだ・・・警視庁の刑事として首都を守るプライドをもって)

自分を奮い立たせて捜査に出た内海刑事は路上で不審な人物を目撃する。

老婆を乗せた車椅子を押す幽鬼のような男。

そして・・・老婆は死亡していた。

職務質問をかけた内海刑事は男に任意同行を求める。

取調室で男は長野県の介護派遣センター・タイヨウ所属の介護士で上念研一(ユースケ・サンタマリア)と名乗る。

衰弱死したと思われる老婆・・・岩見芙美(池田道枝)は認知症を発症しており、上念は自宅介護を担当していたのである。

「なぜ・・・東京に・・・」

「人を殺したから・・・」

上念は介護方法について芙美の娘で歯科助手の岩見千加子(大路恵美)と口論になり、室内にあった金属バットで撲殺したと淡々と供述するのだった。

照会により上念は長野県警によって指名手配されていたことが判明する。

冤罪事件疑惑の対応に追われる警視庁捜査一課管理官の多々良(永島敏行)は警視庁職員の手柄をマス・メディアにアピールするのだった。

一躍脚光を浴びた内海は警視庁から長野県警への身柄の送致を担当することになる。

警視庁刑事部捜査第一課刑事の草薙(北村一輝)も内海の殊勲を讃えにやってくるのだった。

内海はちょっといい気分になったのだった。

しかし、護送中にトイレ休憩を要求した上念は突然、トイレを借りた店で無罪を主張して暴れはじめるのだった。

「俺は・・・無罪だ・・・取り調べ中に自白を強要された」

その姿は通りすがりの人々によって撮影され、素晴らしいインターネットの世界にアップされるのだった。

移送先の長野県警察御坂警察署で、内海は署長の髙﨑依子(余貴美子)に柔らかく注意されるのだった。

「こういうのは・・・あまり・・・感心しないわねえ」

「・・・」

その上、上念は供述を翻し、犯行を否定するのである。

しかも・・・供述内容と現状は大きく食い違っていた。

凶器は金属バットではなくミキサー。被害者と上念の関係は良好で自供した動機そのものが疑わしいものとなっていた。

あたかも・・・内海が嘘の供述を強要したと思われかねない事態となったのだ。

上司の間宮警部は帰還を命ずるが内海は拒否する。

「このままでは・・・帰れません」

長野県警に一人残留した内海だったが、おりしもダム建設工事のために市内の宿泊施設は満室で・・・ラブホテルに逗留することになる内海だった。受付の女(濱田マリ)は何かを隠すようにリストバンドを巻いていわくありげな不気味さを醸し出している。

凶器には上念の指紋が残されており、状況的には送検可能だった。

しかし、内海の聴取した供述書とは大きな食い違いがあり、それが問題なのだった。

「老人の具合を案じて自宅を訪問した時には・・・彼女は死んでいたのです。通報した瞬間、衝撃を感じて・・・気がつくとミキサーを握らされていたのです」

供述を翻した上念はまるで別人のようだった。

(なんなの・・・あの自信に満ちた態度・・・まるであらかじめ無罪が立証されているような・・・)

一人、悩む内海に警視庁の弓削志郎刑事(品川祐)から連絡が入る。

「先輩・・・」

「そっちはどうだ・・・こっちはただでさえ・・・冤罪事件疑惑がもちあがっているのに・・・お前の件が不祥事になりそうなので大変だぞ・・・」

「・・・」

「何か・・・手伝えることがあるか・・・」

「上京した上念の足取りを追ってもらえますか・・・」

「なるほど・・・」

「お願いします」

上念には前科があり、さらに被害者の血痕がついた上念の上着が発見されたことにより、長野県警は容疑者否認のまま送検に踏み切るのだった。

一方で、長野県警察御坂警察署刑事課強行犯係のトンマこと当摩健斗巡査部長(柳楽優弥)を従えて独自の捜査を開始した内海。

そんな内海にかってキャリアの女刑事として警視庁に在籍したという女署長は教育的指導をする。

「警察組織では女はしたたかに水のように沁み込まなきゃね・・・」

「はあ・・・」

「男がウイスキーなら、女は水・・・で、水割りになって手柄は頂くってわけ」

「意味わかりません・・・」

ラブホテルの内海の元へ「しなの新報」社会部記者の甲本章雄(滝藤賢一)が訪れる。

甲本は「警察官Y・Tは記者を無実の罪で自殺に追い込んだ」という怪文書の存在を告げる。自殺した記者とは衰弱死した老婆の夫で殺害された被害者の父親・岩見隆治(神崎孝一郎)だった。

岩見は「猿渡雄吉冤罪事件」を取材していたのだった。

そして・・・女署長・髙﨑依子のイニシャルは「Y・T」であり・・・女署長は「猿渡雄吉事件」の担当刑事だったのである。

なんらかの核心に迫ったと感じた内海だったが・・・強制帰還を命じられる。

岩見千加子殺人事件の捜査は終結したのである。

不完全燃焼のまま・・・東京に戻った内海を弓削が出迎える。

「結局・・・犯人は上念で決まりか・・・」

「どうも・・・何かがひっかかるんですけど・・・」

「上念の前科は・・・恐喝だ・・・ゲームの批評家を脅したらしい・・・知ってるか、上念は以前は人気のゲーム作家だったらしい・・・しかし、盗作を疑われ、逆ギレして犯行に及んだってことだ・・・前科がついて・・・ゲーム作家としてはやっていけなくなり・・・介護士になったらしい・・・取り調べにあたった検事が言ってたよ・・・参考までにゲームをプレイしてみて・・・その難解さに辟易したことを正直にいったら・・・やっこさん、取調室で逆上したそうだ」

「やっこさん・・・」

「結局、今回はお手柄が台無しになった感じだが・・・気にするな、俺なんかこの年になるまで手柄なんて一つも立ててないけど・・・なんとかやってるんだからさ・・・」

「フォローにならないフォローありがとうございます」

内海はやるせない気持ちを抱え、ガリレオの研究室を訪れた。

「捜査協力ならお断り・・・」といつもの文句を繰り返す助手の栗林(渡辺いっけい)を軽くいなして内海はガリレオに問う。

「私、このまま刑事を続けていいんですかね」

遠回しに結婚関係のことを匂わせていると邪推したガリレオは蛍光灯を使った実験に没頭するフリをするのだった。

「蛍光灯には悪魔の力が流れていると思われがちだが、実は外部からの刺激によって、内部がゴタゴタして、発光しているのだ」

「はあ・・・」

実験に使用した蛍光灯は明滅する。

「寿命じゃないんですか」

「ちょっとした不具合によって機能性の喪失を疑うのは早計だ・・・」

ガリレオは息を吹きかけ埃を払い接触不良を解消するのだった。

点灯する蛍光灯。

その光は内海の心を照らすのだった。

帰路で内海は一生懸命に仲間を追いかける少女(信太真妃)を目撃する。

ドラマ「それでも、生きていく」で撲殺された少女に似ている・・・と内海は感じた。

死んだ者さえ復活するのだ・・・生きている私が何もせずにいていいものか・・・内海は気をとりなおしたのだった。

「猿渡事件が絡んでいます」と多々良管理官に直訴する内海は・・・再び長野への出張を許可されるのだった。

「最後にお願い、もう一回だけ」と当摩刑事を口説く内海。

当摩の母親(石野真子)はゲームおタクだった息子に女性が訪問してきたことに感激する。

「囮捜査ですか・・・で、誰が囮になるんです・・・」

「・・・」

「えーっ・・・僕ですか」

当摩が発信した「事件告発」の匿名メールは女署長を突っつくのだった。

そして・・・動き出したのは長野県警のベテラン刑事・・・関岡(伊武雅刀)だった。

関岡は警視庁時代かにの女署長の部下だったのだ。もちろん、男と女の関係でもあったと思われる。

彼は・・・「猿渡事件」を追及する岩見隆治を自殺に見せかけて殺害していた。

そして・・・取材資料を捜索するために岩見家に侵入し、千加子と遭遇し、これを殺害。

訪問した上念を犯人に仕立てのである。

歯止めの利かなくなった関岡は当摩と内海を拉致し、心中に見せかけて殺害しようとする。

しかし、拳銃を携帯していた内海は間一髪、関岡の襲撃を封じ、身柄を拘束するのだった。

「あなたを信じて・・・職務を遂行してきたのに・・・」と激昂する当摩・・・。

「すまん・・・一度殺せば・・・何人でも殺せるんだ・・・それが俺という人間なんだ」

深く謝罪する・・・関岡だった。

女署長も共犯者として逮捕された。

「これが・・・水のようにしたたかに生きるってことですか」

「私は・・・きっと最初から腐った水だったのよ」

開き直る女署長だった。

冤罪の被害者として・・・一躍、ヒーローとなった上念。

しかし・・・上念の足取りを追跡した弓削は時間を指定して宅配するサービス「未来宅配便」で重要な証拠を押収していた。

介護のための監視カメラには関岡が岩見夫人を殺害する模様が映っていたのだった。

「あなたは・・・最初から自分が無実になることが分かっていて・・・あえて・・・犯行を自供したんでしょう・・・冤罪被害者として・・・ヒーローを演じるゲームがしたかったのね」

あえて単独で上念に迫る内海。

「云いがかりですよ・・・未来の自分に自分の姿を送ると言って介護利用者が僕に記録を託したんです。そこにたまたま・・・そういう映像があったと言うことでしょう」

「あなたって・・・人の痛みが判らない・・・本当につまらない人間ね。あなたのゲームが面白くない理由がわかったわ・・・あなたにはリアリティーが欠如しているのよ。だって・・・あなたには人間の心というものが判っていないんだもの」

「なんだと・・・ふざけるな」

自分の作品が揶揄されることだけは許容できない上念は本性を剥きだしにして内海に暴行を加えるのだった。

しかし・・・その模様は監視カメラで記録されていた。

暴行の現行犯で逮捕される上念。

血まみれの内海は嗚咽を漏らす。

その涙の理由は誰にもわからない。

許しがたい犯罪者への憎しみの涙・・・。

しかし、それを野放しにした哀しみの涙・・・。

それとも・・・人類そのものへの絶望の涙なのか。

だが、現象に理由があろうがなかろうが内海は生きていくのだった。

内海は新天地を求めて、渡米を決意するのだった。

「本当に行くのか・・・」といなくなるとなると惜しい気持ちが生じる間宮刑事課長だった。

その時、事件発生の一報が入る。

「行きます・・・それが私の仕事ですから・・・」

晴れ晴れとした女刑事の挨拶だった。

この美しさに魅かれるお茶の間の皆さまの気持ちもなんとなくわかるのだった。

まあ、内海刑事の干した下着で充分の・・・変態の皆さんもそれなりに満足したと思われる。

もちろん・・・下着を盗んだのはあの受付嬢なのだろう。

もちろん・・・ガリレオ不足なので・・・視聴率は少し下がるのです。

ガリレオプラス内海とガリレオプラス岸谷の視聴率がそれほど変わらないことを考えるとガリレオシリーズの人気の秘密が垣間見えることは言うまでもない。

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2013年6月25日 (火)

沢口いずみことファントム・シャドウって逆じゃないのかとガリレオは呟いた(福山雅治)

・・・呟かないだろう。

第一、『確証〜警視庁捜査3課』(TBSテレビ)とまぜんなよっ。

いやあ・・・第10話で、元ももいろクローバーの早見あかりが女子高校生スリで登場した時から、「確証」の方が「T5」より評価高くなっちゃってさ・・・触れないわけにはいかない気持ちがね。

その上で最終回、怪盗・ファントム・シャドウ(高橋ひとみ)だからな。

なんて言っても「沢口いずみ(実名)ことファントム・シャドウ(通称)、逮捕しますっ」ていう武田秋穂巡査部長(榮倉奈々)がひっかかってさあ~。

・・・気がすんだか・・・。

で、『ガリレオ(第2シーズン)・最終回(全11話)』(フジテレビ20130617PM9~)原作・東野圭吾、脚本・福田靖、演出・澤田鎌作を見た。2000年にノースカロライナ州立大学の古生物学者デール・ラッセルらの研究グループがコンピューター断層撮影(CT)スキャンによって6600万年前の恐竜テスケロサウルスの化石を検査し、二心房二心室の心臓の三次元画像化に成功したと言う。この心臓の形態は爬虫類よりも哺乳類や鳥類に近く、恐竜が温血動物のように素早く行動できたという説を裏付ける証拠の一つになる。堆積物だと思われて削り取られていた化石内の柔組織が実は「単なる泥ではなかった」という発見は・・・古生物学の研究手法を根底から覆したのである。

恐竜大好きなガリレオこと帝都大学物理学科准教授・湯川学(福山雅治)はこのエピソードを胸に深く刻みつけ・・・「聖女の救済」(後篇)に挑むのだった。

この日、「あまちゃん」にはマンションの女役で大久保佳代子が登場したわけだが、この夜の「ガリレオ」には紫の傘の女役で光浦靖子が登場する。今季を代表する二大高視聴率ドラマにオアシズがからんでくるとは・・・特にどうということもないのである。・・・じゃ、書きとめるなよ。

事件の重要な鍵を握ると思われていた紫の傘の女は・・・単なる怪しい宗教の勧誘者だった。

消去方によって可能性をつぶしていくのはガリレオの基本的な思考方法である。

地道な捜査によって可能性の一つを消したオカルト小娘刑事ちゃん・岸谷美砂警部補(吉高由里子)の靴底をじっくりと検証したガリレオはそれなりに小娘刑事を評価するのだった。

一杯目のコーヒーは無毒。

二杯目のコーヒーは有毒。

一杯目のコーヒーはペット・ボトルのミネラルウォーター。

二杯目のコーヒーは浄水器の水。

疑わしいのは浄水器だが・・・浄水器からは毒物は発見されなかった。

そして・・・浄水器に堆く積った埃。

どこで・・・「0」と「1」が入れ替わったのか・・・ガリレオはビット反転をもたらした犯人について推測する。

浄水器になんらかの細工ができる人間。

それは・・・被害者であるエムシステムズの社長・真柴義之(堀部圭亮)の妻、真柴綾音(天海祐希)である可能性が最も高い。

ガリレオの中学校時代の同級生である綾音。

彼女はなぜ薔薇が嫌いなのか。

それは棘があるから。

棘が彼女を傷つけるからだ。

小娘刑事の脚を高く掲げる情事の後で、ガリレオは寝物語に耳を傾ける。

「紫の女の線が消えたのでもう一度、流産に至った事故について・・・調べました。すると産婦人科医から夫の言動について気になる証言を得られたのです。夫は胎児の生存に異常なほどに固執して・・・再妊娠が不可能ならば・・・離婚を口にしていたそうです。社員からも出産が結婚の条件であること・・・一年以内に懐妊の兆候がなければ離婚するとまで言っていたそうです・・・これって女を道具として見ているってことですよね」

「すでに・・・1年経過しているな・・・」

「まさか・・・夫人を疑っているの?」

「少なくとも・・・彼女には時間があった」

「・・・」

「調べてもらいたいことがある」

「喜んで」

ガリレオは薔薇を育てる真柴夫人について考える。

彼女は自分を傷つけるものの存在を否定する。

そんな彼女がなぜ薔薇を育てるようになったのか。

それは彼女の夫が薔薇を愛した男だったからだ。

そこまで愛した男が裏切ったら彼女はどうするだろう。

自分を傷つけた男の存在を否定するだろうか。

中学生時代、彼女はガリレオを好きだと告白しなかった。

なぜなら・・・ガリレオが自分に興味がないことを悟ったからだ。

そして・・・救済には時間が必要なのだと云った。

彼女はガリレオに相手にされず傷ついたはずだ。

タペストリーを一年かけて完成した彼女。

彼女はガリレオを救済したのか。

それとも傷つけられた自分を。

タペストリーを作りながら彼女の目に映っている景色は・・・。

浄水器だ。

「頼まれたことを調べました・・・靴底は見ないでっ・・・ペットボトルの購入経路から・・・納品は事件の二日前に半ダースされていることがわかりました・・・消費量が多すぎます。彼女は不妊治療をしていませんでした・・・。彼女は避妊薬の処方を受けていたのです。そして、彼女は極力、自宅に他人を招かないようにしていたそうです」

「なるほど・・・」

「なにか・・・わかりましたか・・・」

「一日だけ時間をくれ・・・」

翌日、研究室を訪ねた小娘刑事はガリレオの講義の代行で懲りもせず張り切る助手・栗林宏美(福山雅治)と遭遇する。

学生の遠野みさき(逢沢りな)は頑張って出番を確保する。

「先生は出張ですけど・・・あなたへの手紙が置いてありますよ」

「彼からのラブレター・・・」

赤面するおそらくラブレター処女の小娘刑事だった。

ガリレオは真柴未亡人を北海道旅行に誘った。

もちろん、もう一度くらい中学生時代の同級生との逢瀬を楽しみたかったのである。

母校は廃校になることが決まっていた。

教室の窓から昔と変わらぬ景色が見えた。

「北海道では時間が停まっているようね」

「・・・」

「できるなら・・・あの日に戻ってみたい」

「君は・・・一年前にご主人から期限付の離婚を切り出され・・・浄水器に毒を仕込んだのだろう・・・」

「なぜ・・・彼を愛しているのに・・・そんなことを」

「愛しているからこそ・・・ご主人が君を愛していないことに傷ついたからだ」

「・・・」

「君はご主人に執行猶予を与えた。彼が妊娠していた君ではなくただの君を愛しさえすれば・・・いつでも救済を与えるつもりだった」

「・・・」

「そのために・・・それ以来、君は一度も浄水器を使用しなかったし、ご主人にも使用させなかった。君は自分自身の救済を信じて・・・浄水器を見守ったのだ・・・そこに埃が堆く積るまで・・・」

「・・・」

「そして・・・ついに最後の審判を下した・・・妊娠しない君を愛さない男・・・君は自分を傷つけたものの存在を否定したのだ・・・棘のある薔薇を否定したように・・・埃を堆く積らせて・・・君はプライドのモンスターだったのだな」

「湯川くん・・・やはりあなたはすごいのね・・・でも、証拠は・・・証拠は何もないわよ」

「・・・」

その頃、湯川の推理を置き手紙で知った小娘刑事は証拠を求めて真柴家を捜索していた。

そこへ・・・真柴未亡人に魅了されている太田川刑事(澤部佑)がやってくる。

彼は鉢植えの薔薇を下げていた。

「今、犯罪者がまんまと罪を逃れようとしているのに・・・なんでお前は花なんか買ってんだ」

「こ・・・これは・・・彼女の薔薇が・・・」

「彼女の・・・」

ガリレオは小娘刑事からの電話に応じた。

「あの日・・・あの女は・・・浄水器の水で・・・薔薇に水をやったんです・・・その薔薇が枯れてます・・・おそらく毒物が発見されるでしょう・・・あの女・・・私たちの眼の前で証拠隠滅していたんですよ」

「・・・毒物反応が出る前に・・・自首するべきだと思う・・・それが貴女にとっての救済だと思うから・・・罪を償って悔い改めた方がいい」

「ふふふ・・・やはり・・・薔薇なんか愛してはだめなのよね・・・美しいものには棘がつきものなんですもの」

「・・・」

「傷つくのを恐れていては誰かを愛することはできないのだと僕は考える」

・・・犯罪を心から憎む小娘刑事はガリレオの取扱説明書を完全に読みこなしている。

都内で落雷による暴力団組員の死亡事故が相次いだ。

「これは連続殺人事件の疑いがあると思うんですが・・・」

「誘雷による殺人か・・・」

「そんなことが可能でしょうか」

「さっぱりわからない」

「ということは・・・つまり」

「実に面白い」

明日はおそらく・・・「ガリレオ XX(ダブルエックス) 内海薫最後の事件 愚弄ぶ」で二夜連続のガリレオ・レビューとなるのだな。

コンテンツとして強力なんだもんなあ。

関連するキッドのブログ→第10話のレビュー

天使による数式的アプローチはコチラへ→テンメイ様のガリレオ2

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2013年6月24日 (月)

会津の寺から釣鐘を集め巨砲を急造し背炙峠より狙い撃つべしでこぜえやす(綾瀬はるか)

砲術師範、川崎尚之助は会津防衛の策として次のような献策をしたと言われる。

「会津藩内のすべての寺の釣鐘を集めると砲身三間半(およそ6.3メートル)の巨砲二門と大砲弾24発が鋳造できる。射程はおよそ十里(およそ40キロメートル)あるためにこれを背炙峠に設置すれば白河口から二本松まですべての敵の侵入に対応、これを撃破可能である」

ある意味、超兵器的発想である。

しかし、川崎は机上の空論でなく、材料の調査と、綿密な設計に基づいてこの提案をした可能性がある。

自らが「勝算がある」と断言しているのだ。

だが、戦を開始して敗北を味わってから近代化を開始した会津藩首脳部は当然、この提案を却下する。

巨砲によって勝負が決するのであれば武士は無用の長物となるからである。

その結果、会津藩は新政府軍の進軍に対応するために少数の兵力を周囲の拠点にばらまいた。

すでに軍隊の様相を見せ始めた新政府軍は戦力を集中し、防御の弱い拠点を一直線に突破。また必ず、砲兵を二か所に進出させ、拠点突破の際は十字砲火でこれを粉砕するという戦術を行う。

会津軍は二本松から四里の母成峠を一日で突破されると、亀ヶ城(猪苗代城)、十六橋と防御拠点を二日で失う。新政府軍が一直線に鶴ヶ城(会津若松城)に迫って行くのに対し、散開させてしまった兵力を集中することができないために予備兵力を投入することになる。

驚くべきことにその予備兵力まで分散させるのである。

会津藩はまさに・・・近代戦争というものを知らないままにそれに突入したおバカな藩だったと言う他はないのだった。

ああ、超兵器・川崎砲が完成していたら面白かったのになあ。

で、『八重の桜・第25回』(NHK総合20130616PM8~)作・山本むつみ、演出・佐々木善春を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は日光口で奮戦中の山川大蔵の祖父で会津藩元家老の山川兵衛、大蔵の母・山川艶、八重の母親・山本佐久、西郷頼母の妻・千恵、会津出身の新撰組隊士・斉藤一の戊辰戦争版、そして亡き弟の装束を身にまとい男装の鬼神射手と化したヒロイン川崎八重の六大イラスト一挙描き下ろしでお得でございます。これは怒涛の大公開・・・拍手喝采一同興奮ですがあくまでマイ・ペースでお願いします。

Yaeden025 慶応四年(1968年)八月、会津東方の二本松城、会津西方の越後に新政府軍が侵入したために会津は両面作戦を強いられることになる。越後方面に進出していた会津藩兵は政府軍の追撃を受けながら撤退。越後口担当の萱野権兵衛と佐川官兵衛は鶴ヶ城に帰陣する。越後口からの撤退の続く二十日、東方の守備の要、母成峠には旧幕府軍、新撰組残党、二本松の敗兵など千人弱が配置されていた。新政府軍は二本松で戦力の集合を終えるとおよそ三千人の戦力でこれを急襲。圧倒的な銃撃により、会津の砲台を占拠。散在する会津軍を銃火で制圧する。新撰組は相変わらず抜刀攻撃を試みるがほぼ殲滅される。二十一日には母成峠は制圧され、そのまま、猪苗代湖の北の要・亀ヶ城に進出する。戦意を喪失した城代・高橋権太夫は城に放火して撤退。新政府軍は追撃の手を緩めず二十二日には日橋川にかかる十六橋を破壊工作中の会津軍を急襲、これを奪取することに成功する。敵軍を目前にした松平容保は出陣を決意し、二十三日に鶴ヶ城の東北にある滝沢に本陣を構える。南の背炙山から北の飯盛山の間に三つの部隊を展開し、十六橋との中間点となる戸の口原を迎撃ポイントとする布陣を展開するが圧倒的な兵力差によりたちまち壊滅的打撃を受け敗走するのだった。もはや・・・児戯に等しい戦いぶりであった。

「なぜだ・・・なぜなんだ・・・」

松平容保は滝沢本陣で唇をかみしめた。苦戦は予想していたがこれほど脆くも戦線が崩壊することは予想外であった。

蒼白となった藩主の顔を忍び装束のまま片膝ついた川崎八重は盗み見た。

行方不明となった兄、戦死した弟に代わり、八重は忍び頭となっていた。

「母成峠を突破され、たった一日で亀ヶ城、十六橋まで抜かれ、日橋川を渡河されるとは・・・想定外すぎる・・・どういうことなのだ」

「お味方は足並みが乱れ、敵を目にすると浮足立ち、守るすべもなく潰走いたしてごぜえやす・・・とくに猪苗代の民草はすでに敵軍に寝返っておる模様。敵軍のしのびがかなりの数、侵入している気配がごぜえやす。斥候(うかみ)に出したものが半分、戻って参りませぬ・・・」

「さようか・・・」

京の都での費えを捻出するために重税をかけたことで人心は離反していたのである。

何よりも・・・忍びのほとんどを京の都を失ってしまったことが打撃だった。

くのいちは鶴ヶ城にも残っているが・・・前線で八重が指揮する忍びたちは若年の白虎しのびであった。科学忍者隊を主力とする新政府軍にはまったく太刀打ちできないというのが実情である。

「敵の主力はどのようなものか」

「報告に穴があるので・・・総合的判断はできませぬが、日光口から参った土佐の板垣退助、谷干城らの鉄砲しのびを含む迅衝隊がおよそ五百、薩摩の伊地知正治、川村純義、野津鎮雄なるものからなる銃砲兵隊がおよそ、千。そして、諸藩の合同軍が千五百ほど・・・合わせて三千の兵力と思われます。両翼に砲兵を置き、必ず二手より砲撃するのでこぜえやす。前衛には銃部隊が配置され、抜刀突撃すれば格好の餌食にされるのでごぜえやす」

「勇猛果敢なものから命を落とす・・・か」

「今は渡河を終え、進撃準備に入っておりやすので・・・機先を制する機会でごぜえやすが・・・お味方も展開に手間取っておりやす。また戦闘に突入しても、射程にも発射速度にも差がある上に多勢に無勢でござりますれば・・・万が一にも勝ち目は御座いませぬ」

「ふふふ・・・山本の妹と申したな・・・女子のくせに云うわ・・・」

「・・・」

「余が不明であった・・・と云っても仕方あるまい・・・この上は籠城じゃな・・・城を枕に討ち死にとは・・・まるで戦国武将じゃのう・・・」

「・・・」

「陣を払う・・・白虎忍びは戦線の斥候を続けよ・・・」

「は・・・」

「そなたの夫の川崎とやらが・・・新式砲を開発したそうじゃな・・・」

「は、試作品はすでにお城に搬入されている頃と存じまする」

「その威力・・・楽しみじゃ」

「・・・」

藩主は采配を振るった。

くのいちの八重の姿は消えている。

関連するキッドのブログ→第24話のレビュー

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2013年6月23日 (日)

あまちゃん、十二色目の土曜日(橋本愛)

高校の進学率が限りなく100パーセントに近くなり、中卒が金の卵となった頃、18才までは生まれ育った土地で暮らすのが普通になった。

もちろん、いつだって例外はある。保護者の転勤だの、離婚だの、原発事故だのによって若くして故郷を離れる子供もいるわけである。

上京ということで考えれば大学や専門学校に進学したり、就職したりで、18才で東京で一人暮らしを始めるのはある意味、普通のことである。

しかし、アイドルとなって東京の特殊な高校生になるのはあまり、普通ではないのである。

甲子園で野球が得意な子供たちが選抜されるように、アイドル性の高い子は東京以外にも当然、存在するわけで・・・業界の人々は常に逸材を求めている。

そして、様々な形で選抜を行うのだな。スカウトとか、コンテストとか、オーディションとか、キャラバンとか・・・。

ハイティーンで、思春期で、性的魅力にあふれた子供たちが東京で親元を離れて暮らす・・・。

想像するだけで目が眩むような危険な香りがするわけである。

昔、デビューする新人たちの資料を得ると、キッドは大日本地図を広げ、出身地を確かめたものだった。

週にのべ二十時間くらいラジオ番組を構成していたからだ。

そういう番組はそういう子供たちがデビューする場所なのである。

最果ての聞いたこともない街や村から・・・輝くためにやってきた子供たち。

どんなにか・・・心細い旅をしてやってきたことか。

そうやって想像することで素材に対する愛を高めるわけだ。もちろん・・・トークのフリを作る作業でもある。

今なら、グーグル・マップがあって便利なんだろうな。

だから・・・行ったこともない街なのに凄く知っている街は多いのである。

いよいよ、三回目の起承転結が終了し、来週は折り返しに突入する「あまちゃん」・・・。

結局、前半は・・・東京に行くこともできずに挫折した東北の少女・ユイちゃんの物語だったのだなあ。

かわいそうだったなあ。

三回目の起承転結のサブタイトルは次の通り。

第9週「おらの大失恋

第10週「おら、スカウトされる!?

第11週「おら、アイドルになりてぇ!

第12週「おら、東京さ行くだ!」

たった一人の親友で恋仇でもあるユイちゃんの夢にヒロインのアキが同化していく過程が懇切丁寧に描かれた四週間だった。

で、『連続テレビ小説・あまちゃん・第12週』(NHK総合20130617AM8~)脚本・宮藤官九郎、演出・井上剛を見た。母の故郷・岩手県北三陸市(フィクション)にやってきたアキ(能年玲奈)は心の不安定な母親・春子(小泉今日子)と海女である祖母の夏(宮本信子)の葛藤に翻弄されながら、一年が過ぎてそこそこたくましく成長したのだった。2009年の夏休み。親友のユイ(橋本愛)が家出に失敗、失意の引き籠りになってしまった窮状を救おうと海女カフェで潮騒のメモリーズを復活させたアキは芸能事務所・ハートフルの社長・荒巻太一(古田新太)から勧誘を受ける。そして・・・ユイとともに「アイドルになるための東京行き」を決意する。家族には内緒で家を出たアキはユイと北三陸駅で待ち合わせをするのだった。

月曜日 北三陸からバスに乗って袖が浜に着いた~♪(能年玲奈)

北三陸の終電が午後七時半。東京(上野行き)のバスが午後九時。

「この一時間半・・・誰にも見つからなければ・・・私たちの勝ち」と足立結衣に告げられた天野秋は・・・秘密めいた冒険の始りにドキドキしつつ北三陸駅に降り立った。

あなたがいれば

こわくはないさ

東京砂漠

東京を忌み嫌うアキの神経を逆なでする吉田副駅長(荒川良々)が営業終了業務を行う駅構内。

スパイのように忍び出たアキは観光協会の窓辺でバス・ターミナルを双眼鏡監視する足立洋(小池徹平)を発見するのだった。アキを監視するのはストーブの本性のようなものである。そのおかげで一命をとりとめたこともあるアキなのである。

監視する場合は室内灯を消すのが鉄則だが、観光協会には観光協会長の菅原保(吹越満)とストーブの恋人の栗原しおり(安藤玉恵)も残業中である。

アキとユイの脱出を阻止することは北三陸観光協会の最重要業務なのである。

「しかし・・・今夜は大丈夫なんじゃないのか」

「裏をかかれるおそれがあります」

「まあ・・・兄として妹が心配なのはわかるが・・・」

「ユイはどうでもいいんです・・・でもアキちゃんが北三陸からいなくなるなんて・・・あってはならないことですから」

ストープの心に燃えるアキへの片思いにハンカチを噛みしめる栗原ちゃんだった。

「あらあら・・・栗原ちゃん・・・嫉妬でハンカチ食っちまう勢いだよ・・・」協会内恋愛の修羅場を恐れる保だった。

そんな・・・観光協会内の葛藤も知らず、あわてて駅構内に退却するアキ。

ユイはミス北鉄の自習スペースに潜んでいた。

「ここにずっと隠れているのか」

「だって・・・外に出たらストーブに見つかっちゃうもの」

考えてみれば・・・北三陸市には・・・女子高校生がお茶する喫茶店は「リアス」しかないのだった・・・本当なのかよっ。・・・フィクションですから。

すでにスナック梨明日の営業時間である。

最近では春子ママはママのポジションとなっているらしい。客は琥珀の掘削職人の小田勉(塩見三省)、騒音婆こと海女の今野弥生(渡辺えり)、その夫でブティック経営者のあつし(菅原大吉)・・・。そして、駅長の大向大吉(杉本哲太)である。

潜伏するアキとユイに気がつかないまま、鼻歌まじりで業務終了を駅長に告げる吉田。

「機嫌いいね」

「今日は手巻き寿司なんですよ」

吉田のハイテンションには同意しない一同だった。

「吉田くんは家族と同居なの?」

と春子ママは水をむける。

「母と妹と三人暮らしです・・・ちなみに妹はユイって言います。ブスですけどね」

リアクションにとまどう一同だった。まだまだ知られざる北三陸市(フィクション)の秘密は眠っているのだなあ。

消灯された駅構内ではアキとユイのひそひそ話が続く。

「おら・・・」

「行かないなんて・・・言わないでね」

「いぐ・・・いぐけんど」

「知ってた・・・ウチの高校、修学旅行、東京だったんだ」

「じぇ・・・じゃ、ユイちゃん東京行ったことあるのか」

「ううん・・・行けなかった・・・お風呂で転んで骨折しちゃって・・・」

首をかしげる蠟人形の館の美少女ユイだった。

呪われているんだな・・・ユイ。東京行きを許さない悪霊に憑依されているんだな。

「でも・・・それでよかった・・・はじめての東京が・・・修学旅行で・・・駒場と駒沢の区別もつかない田舎者と一緒じゃ・・・東京に失礼でしょ・・・」

「何を言ってるんだユイ!」とリアスから飛び出す吉田。

自分の妹のユイと携帯電話で会話中なのである。

「今さら・・・ちらし寿司なんて言われても気持ちがおさえきれないべ」

身をすくめるアキとユイ・・・。この時、柱の陰ではトイレに向かう勉さんが吉田とすれちがっていた。

静けさを取り戻した駅構内。

「あのな・・・ユイちゃん、おら、言っておきてえことさある。おら、東京さ行ったら別人になるからな」

口数減るからな・・・

「じぇじぇ!」とか言わねえからな!

基本、敬語になるからな!

一日1食になるからな!

歩く速度が1.5倍になって、便秘になるからな・・・

ネガティブなポエム書くからな・・・

毎日木や草花に話しかけるからな・・・

「アキちゃん・・・すでにポエム・・・」

ユイはアキがどうしてそこまで東京に怯えるのかが理解不能だった。

しかし、そこでトイレから出てくる勉に発見される二人。

ユイは必死にジェスチャーで勉に口止めをするのだった。

頷く勉・・・しかし、露呈は時間の問題と察知するユイだった。

「アキちゃん・・・行くわよ・・・その前にストーブに電話して・・・」

「じぇ?」

「窓際からストーブを追い払わないと身動きできないから」

窓際のヒロシの携帯にアキからの着信がある。

「アキちゃん!・・・今どこ?」

((家さいる・・・あのな、お願いがあるんだけど・・・ちょっこし、テレビさ、つけてけろ・・・見てもらいたい番組がある))

「テレビ・・・」

テレビは保がオンにする。

「なんていう番組?」

((テレビはもういい・・・そうだ・・・冷蔵庫からマヨネーズ・・・マヨネーズを出して))

「スルメイカ食ってるからマヨネーズここにあるよ・・・七味唐辛子も」

((・・・ああ・・・もう・・・おら・・・東京なんていぎたぐねえ・・・おら・・・東京なんて大嫌えだ!・・・・))

「アキちゃん、どうしたの・・・今、すぐ行くから待ってて」

あわてて・・・窓際を離れるストーブ。間隙を突いてターミナルに走り出すアキとユイ。

ユイは目指す「上野行き急行バス」に乗り込んだ。追いかけるアキ。

その頃、天野家では目覚めた夏ばっぱがアキの不在に驚いていた。

スナック梨明日では挙動不審の勉さんが一同に問い詰められて自白に追い込まれる。

春子の元へ夏から電話がかかる。

「え・・・アキがいない・・・海女カフェは・・・海女カフェも捜して」

大吉は封鎖が突破されたことを直感する。

「しまった・・・逃げられた・・・」

バスは定刻に走り出した。

後部座席で追手の有無を確認して歓喜に震えるユイ。

「やったね・・・まさか・・・お芝居とは思わないから・・・びっくりした~、アキちゃん、女優になれるよ」

しかし、アキは車内の様子に戸惑いを感じるのだった。

「これ・・・本当に長距離バスだべか・・・」

アキが感じる違和感を・・・箱入り娘のユイは全く感じることができない。

ユイは長距離バスなんて知らないのである。

バス前面上部の行き先表示はスクロールを始めていた。

うっかり表示変更を間違えることはありがちなのだった。

上野行き(急行)→回送→北三陸行き→袖が浜行き

「これ・・・東京に行きますか」と運転手に尋ねるアキ。

「行きませんよ・・・市内循環バスですから・・・」と淡々と答える運転手。

停留所で停車すると老婆が一人、下車して行く。

「次は・・・終点・袖が浜・旧漁協前」

夜の北三陸市をバスは走り出す。口の開いた二人の娘を乗せて。

終点の旧漁協=海女カフェでは孫の身を案じる夏ばっぱが途方に暮れている。

どこかで悪霊の忍び笑いが聞こえる。

ユイはけして・・・北三陸の魔物から逃れることはできないらしい。

ユイは囚われの姫、そしてアキこそは姫を助けにきた流離の英雄なのである。

はたして・・・アキは姫を救い出すことができるのだろうか。・・・そういう英雄譚だったのかよっ。

火曜日 いつ、アイドルになるために上京するか・・・今でしょ的アキノミクス(橋本愛)

北三陸の大人たちに拘束されてしまったアキとユイである。

二人の処遇は二つの分科会で話し合われることになった。

海女カッフェではアキと海女クラブが・・・。

北三陸観光協会ではユイとその他のメンバーが話し合う。

公開家庭内暴力を抑止するために春子はアキとは隔離されていた。

「なんで・・・アキがいないのよ・・・っていうよりどうしてアタシはこっちなの・・・」

「一緒にするとまた、アキちゃんさたたくべ・・・」と釘を刺す北三陸市におけるアキの父親代わりを自負する大吉だった。

その他には吉田、観光協会の三人、商工会長のあつし、漁協長の長内六郎(でんでん)、そして勉さん。さらにはユイの父親の岩手県議会議員・足立功(平泉成)もいる。

春子はラスボスよろしく奥の席に鎮座し冷たい氷の女王様の吐息を吐き続ける。

あたかも・・・ユイにとりついた悪霊そのもののようである。

修学旅行でも東京に行けなかったユイ。

蛇口さんこと水口(松田龍平)と車での脱出に失敗したユイ。

二度あることは三度あるというが、三度目の正直の長距離バスは循環バスだった。

「毎度、お騒がせしてすまない」と謝罪する功だった。

「どうして・・・そんなに東京に行きたいの」と春子。

「幼い頃からの夢でしはたから・・・」とユイ。

春子にはユイの心は痛いほどわかるのである。

「しかし・・・今、ユイちゃんとアキちゃんに去られては・・・北三陸市の財政は破綻する。二人のおかげで観光収入は大幅にアップしているんだ」と大吉。

「もしも・・・二人がいなくなったら・・・損失は・・・」と保。

損失額を計算する栗原ちゃんは苦悩のためにしわだらけになるのだった。

「ここはウニの単価を600円に値上げして漁協の取り分を増やしてもらわねば・・・」と漁協長は便乗値上げを口走る。

「琥珀については・・・」と意見を述べようとした勉を口汚く罵る漁協長。

「琥珀は関係ねえべ・・・お前さ黙ってろ」

「・・・」

不当な圧力を受けた勉は漁協長のお茶に七味唐辛子を大量投入するのだった。

「観光PR業務については・・・私なりに考えています。私たちがいなくなれば・・・一時的に売り上げはダウンするかもしれませんが・・・」と意見を開陳するユイだった。

「上京して・・・アイドルとしてデビューしたあかつきには・・・北三陸出身のアイドルとして地元のアピールに努めます。積極的に訛っていこうとアキちゃんとも話し合っています。ウニ丼など特産品についても、いいとものタモリさん、おまかせのアッコさんなどに会った場合には必ずお薦めして・・・いつでも食べられるように肩には生ウニ装備も考慮中です。JJガルズとしてじぇじぇを連発して流行語大賞を狙って行きます。そのような広告宣伝効果は地元アイドルの活動を大きく上回る波及効果があるはずです」

「・・・正論だ」と静まりかえる一同。

「我が子ながら手強いねえ」と目を細める親バカ発動中の功だった。

一方、海女クラブでは会長の夏ばっぱを始めとして、眼鏡会計婆の長内かつ枝(木野花)、事務員のフレディ花巻珠子(伊勢志摩)、海女の弥生や、駆け落ちフェロモン海女の熊谷美寿々(美保純)たちがアキを囲んでいた。遠巻きに桜庭(山谷花純)や坪井(久野みずき)ら海女見習いたちも心配そうに様子を伺う。

「まず、海女クラブの会長として言わしてもらう」と夏ばっぱ。

「おらたちは命がけで海さもぐってる・・・海女同士の信頼関係はとても大事なもんだ。おめえはその信頼を裏切ったんだぞ・・・」

「・・・」とアキは無言で謝罪するのだった。

「東京に行ってどうするつもりだ・・・」

「アイドルになる」

「ふっ」と噴き出すフレディだった。

「海女になるのはいやか」

「そんなことはねえ・・・」

「母ちゃんに叩かれたからか」

「あれはおらが悪かっただ・・・言うことがコロコロ変わるから・・・東京さ帰りたくねえって言ったり、帰りてえって言ったり」

「海女になったり、南部潜りはじめたりな・・・」

「おら・・・海女は好きだ・・・いつまでも潜りてえ・・・でも」

「でも・・・なんだ・・・怒らないから言ってみろ」

「海女はいつでもできる・・・ユイちゃんと東京さ行ってアイドルになるのは今しかできねえべ」

「なれなかったら・・・どうする」

「そんときはいさぎよくここさ帰ってきて就職して夏は海女をやる・・・」

何度も駆け落ちしてはここに戻ってきた美寿々が微笑む。

「でも・・・おらは誰かのために潜るんでねえ・・・自分が潜りたいから潜るんだ・・・じっちゃが言ってた・・・ここが素晴らしい事を確かめるために外さ出て行くと・・・じっちゃんにとっちゃ・・・北三陸も東京も日本にすぎねえとも言ってただ・・・おらは外国に行くわけでねえだども・・・東京より北三陸の方がずっとすげえってもう、知ってる・・・だから東京さ行ってもいつかきっとここさ帰ってくるべ」

「よし、わかった」と叫んだのは眼鏡会計婆だった。

「アキは東京さ・・・行け・・・そうだもんな・・・海女は潜りたいから潜るんだもんな」

「んだんだ・・・朝か早えとか、水が冷っこいとか、家族のためとか口では色々言うけんど・・・潜るのが好きだから潜る・・・それが根本だべ」と弥生。

「そうだ・・・若い時はそりゃもう・・・面白いから潜るんだ・・・面白いことやればいいんだ」と美寿々・・・」

「でも・・・海女カフェのローンは・・・」とフレディー。

「銭のことはなんとでもなる・・・アキ一人いなくたって歴史ある海女クラブはビクともしねえぞ・・・」と眼鏡会計婆。

「後継者だっているしな」

頷く海女見習いたち。

「私、アキちゃんみたく海に潜ってウニをとる」と夜尿症の花巻の長女・鈴(小島一華)・・・。

「私はミス北鉄になる」と花粉症の次女・琴(吉村美輝)・・・。

「よし・・・みんなの気持ちはわかった」と夏ばっぱ。

かって・・・娘の春子の上京問題では孤立無援だったが・・・今は海女クラブが全員味方なのである。そこが・・・歳月のなせる業なのか・・・春子とアキの資質の違いなのか・・・そこはあえて問うまい。

要するにアキにはそれだけの魅力があるのだった。

「アキ・・・東京さ・・・行け・・・大人たちはおらが説得するべ」

「夏ばっぱ・・・」

かって・・・春子にも同じセリフを言った夏ばっぱだった。

あの時は・・・反対する大人たちに「後はおらが娘を説得する」としか、言えなかった。

春子は誤解しているが・・・その後で「春子に何も言わないこと」が母として上京を許した娘に対する防波堤だったのである。

今度はもっと言うべきことを言う。

固く決意する夏だった。

観光協会では意見は出尽くしていた。

春子は結論を述べるように言う。

「ユイちゃんの気持ちはわかった。いいじゃない・・・行かせてあげれば・・・ただし、これだけは言っとくけどうちのアキを巻きこまないで・・・行くなら一人で行ってちょうだい・・・うちの子はバカでブスでアイドル適性ゼロなんだから・・・」

無言を貫くユイ。

そこへ・・・アキがやってくる。

続いて登場する海女クラブ一同。

「じぇじぇじぇーっ」とあわてる大吉。

「なぜ・・・みんなでここに・・・」

「アキの応援にきました・・・」と夏。

「応援・・・?」たちまち眉間にしわがよる春子だった。

ただならぬ気配にそうとは知らず唐辛子入りのお茶を一気飲みする漁協長・・・。

「ずぇずぇずぇーーーーーーっ」

素知らぬ顔で沈黙する勉アフレック(「アルマゲドン」などで知られるハリウッド俳優で脚本家ベン・アフレック)だった。

水曜日 あの夏の夜から私の時計は止まったまま・・・チッチッチッと同じ一秒を刻むのだ(有村架純)

唐辛子茶で喘ぐ漁協組合長。

「そんなに泣かれたら・・・おら」

と誤解するアキだった。

「そうそう・・・みんなショックで涙目になっている」と適当なことを言う吉田。

「まず・・・みんなに迷惑さかけたことを謝罪しろ・・・な、アキ」と夏ばっぱ。

謝罪の言葉を口ごもるアキ。

気配を察してユイが立ち上がる。

「お騒がせして申し訳ありませんでした」

「さあ・・・アキも・・・」

「・・・すみませんでした」

「そしたら・・・春子もアキさたたいたことあやまれ・・・」

「なんで・・・ここでえ」と唇を尖らせる春子だった。

「こういうことはしこりになる・・・みんなの前でたたいたんだから・・・みんなの前であやまれ」

「・・・ごめん」

「声さ・・・小せえ」

「すいませんでしたあ」

すでに暗黒面の仮面をかぶったダースベイター春子の声はスーハーしているのだった。

「そんじゃ、大吉の言い分から聞こうか」

「それは・・・もう大体・・・春ちゃんと足立先生には・・・」

「そうなのか」

「ええ・・・みんな・・・目先の金欲しさに目がくらんで・・・アキやユイちゃんのことはどうでもいいみたいでえす」と春子。

「そんな・・・まるで俺たちが金儲けの道具として二人を使ってるみたいに・・・」と言いわけをしようとした大吉は冷たい視線に気がついて開き直るのだった。

「ああ・・・そうですよ・・・金が欲しいのはその通りだ。赤字だった北鉄がユイちゃんのおかげで黒字になった・・・じぇってなるべ。閑古鳥が鳴いてた袖が浜がアキちゃんのおかげで満員盛況だ・・・じぇじぇってなるべ・・・そうなったらじぇじぇじぇ・・・さらにじぇじぇじぇじぇを目指すのが人間だべ」

「つまり・・・人間の欲望には限りがないってことか」と足立先生。

「だから、云ったのよ・・・お座敷列車までって・・・」と春子。

「だから・・・アキをたたいたんだな」と夏。

すでに春子の投げつける敵意の暗黒理力を察知する夏は牽制を絶やさない。

「・・・」

「みんなの云いぶんはこうか。大吉さんたちは金が欲しい。春子は娘の将来のことを考えていると・・・先生はどうお考えですか?」

「家はね・・・高校だけは卒業してほしいと家内とも話し合ってるんです・・・その後は本人が悔いのないようにやればいいと・・・」

「俺の時とはちがうな・・・」と臨場するストーブ。

「お前はだまってなさい」と功。

「つまり・・・本人しだいということですね」と夏。

「ちょっと待って全然ちがうわよ・・・芸能活動は絶対許さない」

「だから高校卒業までは」

「せめて九月の本気獲り」

「ローカルテレビで充分じゃないか」

「北鉄としてはミス北鉄は手放せない」

「あー、うっせえ・・・どいつもこいつも自分のことばかりっ。この辺で・・・若い二人に恩返ししようってのがスジじゃねえのかっ」と夏ばっは。

鎮まり返る一同。沈黙を破ったのは春子の乾いた拍手だった。

「ああ、そうですか。さすがだわ・・・夏さんは良いこと言うわあ」

「なんだ・・・」

「私も云ってほしかったなあ・・・」と隠されていた本性・・・十七歳の春子(有村架純)が頭をもたげるのだった。それはアイドルになれず挫折した春子の青春の怨念だった。

「来たよね・・・欲の皮のつっぱった大人たちが・・・あの夜も・・・夏さん・・・私にはなんにも云ってくれなかったよね・・・行けとも行くなとも・・・」

春子は黒い瘴気を撒き散らしながら夏に因縁をつけまくるのだった。

「私は言ってほしかったよ・・・行けでも行くなでも・・・そうしたらこんなことにはならなかったよね」

「春子・・・」と夏は春子に対峙する。

「そりゃ・・・今だ云えることだっぺ。過去を振り返ってるから言えることだろう・・・あの時はお前は未来しか見てなかった。そんなお前に何を言ったって聞かないべ」

「そう・・・そうかもね・・・だけど私はアキを追うよ」

アキの思う通りになんか絶対にさせるもんかと十七歳の春子は叫ぶ。

「あんたみたいに・・・心が広くないからさ・・・娘が傷付くとわかっていて芸能界になんかやれないね」

「そうか・・・だども・・・アキとおめえも違うど」

夏はここが正念場と春子を一刀両断するのだった。

絶句する春子。

「まあ・・・いいべ・・・云いたいことは言った・・・もう寝るべ・・・」

引き下がる夏だった。

「夏ばっぱ・・・」と沈黙を破るアキ。

「あん?」振り返る夏。

「かつ枝さん・・・弥生さん・・・美寿々さん・・・花巻さん・・・ここにはいないけんど・・・安部ちゃん・・・みんなにありがとうさ云う・・・おらみんなにはげまされておこられてウニとって・・・強くなれた気がする・・・ユイちゃんと一緒に東京さいっても・・・きっと大丈夫だと思うんだ」

「そっか・・・それならよしっ」と頷く夏と海女一同だった。

春子は仮死状態となるのだった。

「なんなんだよ・・・なんなんだよ・・・なんなんだよ」

喫茶リアスでは大吉がウーロンハイ(実はウーロン茶)に飲まれていた。

「思わず・・・泣いちゃったぜ・・・アキちゃんの言葉によ・・・」

「うるっときたよな」と足立先生。

「私もさ・・・くやしいけど認めなくちゃと思ったんだ・・・」と春子。

しかし、それは娘の成長ではなくて・・・大吉の春子とアキへの援助についてだった。

「ありがとうね・・・大吉さん」

春子は娘の芸能界入りは絶対に認められない。そのためには一人でも味方をつけなくてはと考え始めているのである。

25年前と同じで・・・春子は孤立無援なのである。

それがなぜなのか・・・春子には判らない。

「コーヒーください」

「はい・・・」

「ああ・・・まだスナックタイムじゃなかったか・・・」

誰も気がつかない中で勉さんだけがいつのまにか忍んできた水口に気がついていた。

「じぇ・・・」

「なんだ・・・勉さん・・・じぇって・・・じぇ」

「じぇ」

次々に気がつくメンバーの中で帰宅してアキを説得することに心を奪われている春子だけは水口に気がつかない。

交代要員の美寿々に引き継ぎをすると店を出る春子。

「じぇ」と驚く美寿々。

漸く春子も気がついて引き返す。

「今・・・水口いなかった?」

「水口~」とウーロン茶に飲まれた大吉は例によって殴りかかるのだった。

抵抗せずに殴られる水口。殴って正気に帰る大吉だった。

「ああ・・・殴っちゃった・・・」

天野家にいるアキとユイに電話するストーブ。

「とにかく・・・水口さんが来てる・・・何しに来たかはわからない・・・また、電話する」

「もう、大丈夫です・・・」

「何しに来たのよ・・・」とダースベーダー春子。

「今回は・・・オーディションではなく・・・正式にハートフルとアキさん、ユイさんの契約についてお願いにあがりました・・・社長命令で」

「なんで・・・社長が来ないのよ」とラスボス春子。

「社長はこの前の海女フェスの中継を見て・・・感銘を受けていました・・・GMT47のコンセプトにぴったりだと」

「じーえむてー?」とヤンキー春子。

「地元を愛する地元発のアイドルです」

「ああ・・・だじゃれかあ・・・」とやさぐれた春子。

「すでに16組の代表が正式に登録されています・・・少し・・・説明しても良いですか」

「うん」と興味を持った吉田。

「静岡代表の夫婦茶碗と急須の三人組・茶柱ピンピン娘・・・福島代表の二人組・赤べこ&青べこ・・・福岡代表、とんこつラーメン、めんたいこ、柚こしょう、にわかせんべいの四人組・親不孝ドールズ・・・」

「もういい・・・アイドルつうよりユルキャラ・・・?」と興味を失う吉田だった。

「そのうち選抜されたメンバーがGMT47の代表として上京してすでにレッスンを受けています」

「じえむてえ」とおちょくる春子。

「だじゃれです」と切り返す水口。

カチンとくる春子だった。

「なんだ、てめえ・・・口では調子のいいこと言って売られたら買うその態度・・・まったく信用できねえんだよ」

「よく言われます・・・」

「そこが良いのよね」と美寿々。

「ちっ・・・ちっ・・・ちっ・・・ちっ・・・」と舌打ちしながらガンを飛ばす完全なるレディース的な春子だった。

「しかし・・・引き下がれません・・・私も本気ですから」と微笑む水口。

「ああ・・・そう。これから・・・家で話し合うのよね・・・アキは行きたがってるけど・・・私は絶対に行かせないつもり・・・どっちが勝つかなあ?」

ドスをきかせて凄むあきらかに極道関係者の春子だった。

しかし・・・動じない水口。

天野家では・・・アキが武者震いを繰り返すのだった。

いよいよ・・・天野家女三代・・・最後の戦いが始るのだった。

木曜日 あなたなあら、どおするう?(小泉今日子)

大吉に送られて春子は天野家に帰って来た。

雨の降らない故郷の街でいつもどしゃぶりの雨の中を歩く春子。

アキとユイが出迎える。

「水口さんは・・・」

「スナックに待たせてあるよ・・・夏さんは」

「いねえ・・・海女カフェでねえか」

「そう・・・あ、お父さん帰ったわよ・・・なんだか疲れちゃったんだって」

「そうですか・・・しょうがないなあ」

「じゃ、アキ・・・行くよ、二階に・・・」

秘密の部屋に籠る春子とアキ。

二人の会話を盗み聞くユイだった。

「ここで・・・話したよね・・・アイドルのこと・・・デモテープも聞いたよね」

「あんとき・・・ママ面白かった・・・」

「あれが・・・よくなかったかな・・・」

春子の中でハルコと春子が交錯する。

アイドルになれない不幸によってずっと幸せを感じないハルコと・・・それでもなんとか生きてきてアキの母親にもなった春子。二人の春子は嘆き怒り哀しみ続ける。

「思っちゃったのかな・・・ママもアイドルになりたいって思ったんだから・・・私もアイドルになろうとか・・・」

「そんなことはねえ」

「あれはね・・・アイドルなんかに憧れたらろくなことにはなんないぞっていう。痛くてバカな子ができれば人生やりなおしたいってそういう意味の話なんだよ」

「そしたら・・・おら生まれてねえ」

「そういうこじゃないんだよ」と急所を突かれて暴力衝動に駆られる春子だった。

夏に釘を刺されているので頬をつねるのにとどめる春子。

「私はあんたが東京に行くことに反対はしない。韓流スターのおっかけでも、なでしこジャパンに入りたいとか、なんならガールズバーで働きたいとかでも全然OKだよ・・・でも・・・アイドルだけは絶対ダメ・・・」

「なんで・・・」

「無理だから・・・」

「やってみなくちゃわかんないべ」

「わかるんだよ・・・純粋な心を弄ばれて、利用されて消費されて・・・心が折れることになるんだよ。その時、水口だろうが・・・太巻だろうが・・・あんなやつら、何にも助けになってくれないんだ」

じっと春子の言葉を聞くユイ。

その時・・・夏が帰宅する。

「お邪魔しています」

「アキは?」

「二階で春子さんと・・・」

「そうか・・・」

「お世話になりました・・・」

深々と頭を下げるユイ。応ずる夏だった。おそらく、大吉が車で待っていたのだろう。

ユイの心に去来する思いは謎のままである。

このままかもしれないが・・・伏線と言えないこともない。とにかく・・・回収するからなあ・・・クドカンは。

春子とアキの対決は続く。

「おらがアイドルになりたいと思ったのは・・・はじめてママの歌を聞いた時だ・・・」

「え・・・」

「料理を作るママや、洗濯ものを干すママも好きだけど・・・歌っているママはかっけえと思った。大分たってから・・・本物さ聞いたけど・・・」

映画「潮騒のメモリー」を想起する春子。そこに広がる複雑な思い。

それもまた・・・今は明らかにされない。

「でも・・・おらにとってはママの歌が本物だ・・・先に聞いたせいかもしれないけど」

「そう・・・ありがとう」

「だから・・・お座敷列車でお客さんが喜んでくれた時、うれしかった・・・ママの足元にも及ばないかもしれないが・・・もっとお客さんを笑顔にしてえと思っただ」

春子の心は25年前のハルコに回帰する。

テレビ番組「君でもスターだよ」で純粋に歌うハルコ。

あの日のハルコは・・・アキの言葉に共感するのだった。

私のどこがいけないの

何ができるというの

女がひとりで

あなたならどうする

泣くの歩くの死んじゃうの

「ダメか・・・おらがアイドルになろうと思ったらダメか」

「わかんね・・・お母さんに聞いてくるわ」

我が子の眩しい光に打ちのめされてふらふらと立ちあがる幽鬼の如き春子/ハルコだった。

春子はハルコのように・・・寝ている夏に問いかける。

「お母さん・・・私、あの子になんて言えばいいの・・・わからないのよ・・・」

「・・・」

「なんとか云ってよ・・・ふ・・・あの日と同じか」

「・・・待て」

夏は起きあがり、娘である春子と向き合うのだった。

「行かせてやればいいでねえか」

「なんで・・・娘には云えなかったことが・・・孫には言えるの」

「ずっと・・・ひっかかってたからかもしれんねえな」

「・・・」虚をつかれる春子だった。

「あん時・・・お前は真剣だった・・・おらも真剣に応えるべきだった・・・欲の皮のつっぱった大人たちにおらの娘を好きにはさせねえと啖呵を切るべきだった・・・おめえの母親として・・・海女クラブの会長として・・・なんにも言えなかったおらをおらは責めた・・・そんで二十五年だ・・・おめえの顔をまともに見ることもできねかった・・・すまねえ・・・許してけろ」

「・・・よしてよ・・・やめてよ・・・顔をあげてよ・・・ああ・・・そうか・・・私はただあやまってもらいたかったのか・・・お母さん・・・よくわかったね」

「まあな・・・ああ・・・すっとしたあ」

「私も・・・すっとしたよ」

「腹がへったな、うどんでも食うべ・・・」

「うん・・・」

春子の心に降る雨は・・・今、涙となって流れていく。

少なくとも・・・春子の積年の恨みの半分は消え去っていた。

しかし・・・その心が完全に晴れることはないのだろう。

結局、ハルコはアイドルになれなかったのだから。

しかし、春子の暗い怒りは鎮まったのである。

25年の歳月を越えて母親に宥められた娘。

そんなことも知らずアホの子のアキはすでにスヤスヤと寝息を立てていたのだった。

金曜日 都会の絵の具に染まらないで帰ってけろ(杉本哲太)

うどんを食べながら夏は春子に云う。

「今なら・・・娘の気持ちも母親の気持ちもわかるべ・・・アキのためにどうすれば一番いいか・・・よく考えて決めろ」

「うん、わかった・・・」

母親の言葉に素直に頷く春子だった。

秘密の部屋で眠っていたアキは春子の気配を感じて目を覚ます。

春子は書きかけた手紙を隠すのだった。

「ごめん・・・おら、眠っちまった・・・」

「いいよ・・・まだ寝てな・・・」

「でも・・・水口さん・・・」

「大丈夫・・・観光協会も・・・北鉄も・・・漁協もママが説得するから・・・ユイちゃんと東京に行っといで・・・」

「じぇ・・・じゃアイドルになってもいいの・・・」

「その変わり・・・ゼロか十かだよ・・・がんばりな」

「おら・・・100がんばる」

「うん」

「ありがとうママ・・・大好きだあ」

ママなんか嫌いと言われるより百倍嬉しいと感じる春子だった。

抱きついたアキは春子よりずっとたくましいのだった。

天野・足立両家の保護者、駅長や漁協長・・・そして北三陸高校潜水土木科の磯野心平(皆川猿時)も立ち会い、ハートフルとアキとユイの契約が交わされる。

涙にくれる大吉と心平だった。

北三陸鉄道・北三陸駅から貸切の臨時列車で畑野を経由して宮古駅へ。

宮古駅から山田線で盛岡駅へ。

盛岡駅からJR新幹線やまびこで仙台駅へ。

仙台駅からJR東北新幹線はやぶさで上野駅へ。

およそ八時間で東京に到着するのだった。

やはり、遠いぞ・・・北三陸市。

アキは最後に思う存分、潜ってウニを獲るのだった。

大量だった。

アキはそっと春子に甘える。

「ママも東京にくればいいのに」

「そうか・・・でも・・・アキは一人でも大丈夫だけど・・・夏さんが心配だからさ・・・ママは残るよ」

「そっか・・・」

「アキ・・・あんたは強くなったよ・・・夏さんの云う通りママとあんたは違う。あんたならアイドルになれる・・・かもしれない」

「ママ・・・」

天野家の女三代の軋轢は解けた・・・今、アキの新たなる物語が始ろうとしている。

足立家でも別れのディナーが例によって饗された。

「淋しくなるわね」と足立よしえ(八木亜希子)が呟く。

「つらくなったら・・・いつでも帰ってこいよ・・・」と功。

功は頭痛がすると云って立ち上がる・・・命に代えても娘を手放さない気満々なのである。

「お父さん・・・お母さん・・・お兄ちゃん・・・永い間お世話になりました」

ユイは全国のファンの妄想の花嫁になる覚悟なのだった。

そして・・・旅立ちの日がやってきた。

アキは夏から北の海女の鉢巻きを手渡される。

「つらいことがあったら・・・朝の冷たい海さ・・・思い出せ・・・そしたら我慢できる・・・そしてこれで涙をぬぐえ・・・」

「ばっぱ・・・うええん」

「バカ、今、泣くな・・・じっちゃんに線香さ、あげてけ」

その後の天野忠兵衛(蟹江敬三)の消息は不明である。

そして・・・夏はわかめを採りに浜へ出る。

「ばっぱ・・・今、いたのに」

「湿っぽいの嫌いだからね」

「ママは見送りに来てくれるんだろ」

「行くよ。早く、ごはん食べちゃいな」

車で大吉が迎えに来るのだった。

アキと春子は北三陸駅に到着する。

後ろ髪をひかれるアキ。

海女たちが見送りのために到着していた。

「北の海女の精神を忘れんな」

弥生に抱きしめられたアキは・・・「苦しい、息がつまる」とタップするのだった。

「よし、ミサンガ巻くぞ」

「痛い・・・血が止まる」

「手加減なんかできねえ」

うるさい海女たちともしばしの別れなのだ。

その頃・・・夏は磯辺であおさを採っていた。

土曜日 春子、万歳、アキ、万歳、辛くなったら帰ってこいよ~(宮本信子)

旅立ちの日。見送りの人々は北三陸駅構内で万歳を三唱し・・・旗を振る。

貸切の車内は・・・大吉の心尽くしのデコレーションがされている。

がんばれ・・・ユイ&アキのばけましのメッセージが揺れる。

「ありがとう・・・大吉さん」

「出発まで間があるから・・・後は母子水入らずで・・・」

「何よ・・・それ・・・」

二人きりになったアキはたちまち里心がつくのであった。

「忘れ物ないでしょうね。向こうに云ったら水口さんの云うことよく聞くのよ。お金は半分、パンツの中にしまっておきなさい」

「おら・・・おら・・・東京さ、いきたくねえ」

「え・・・なに云ってんのよ」

「ずっと・・・ここさ、いてえ」

「ほら・・・吉田くん、来ちゃったよ」

「うん・・・おら・・・いぐ」

「・・・行くんだ・・・」

海女の鉢巻きで涙をぬぐうアキ。

春子はホームに下りる。

「ママ・・・おら・・・強くなったよな」

「アキ・・・あんたはなんにも変ってないよ・・・アキは地味で暗くて向上心も協調性も存在感も華もない子のままだよ・・・でも・・・みんなに好かれたよね・・・こっちへきて・・・みんなを変えたよ・・・それはきっとすごいことなんだよ・・・あんたはやれるよ・・・これ・・・後で読んで・・・」

「ママ・・・」

「アキ・・・がんばっといで・・・」

アキは歯をくいしばる。春子から手渡された手紙を見る。

ナレーションは夏からアキへバトンタッチされて・・・手紙にアキの知らない春子の半生が綴られていることを語るのだった。

その手紙の内容をお茶の間は知りたくて知りたくてたまらないのだった。

なるべく早めでお願いします。

Am012 喫茶リアスに集った見送りの人々・・・。

ここで北三陸篇・・・最大のフリオチが完成されるのだ。

「でも・・・あの子は幸せもんだよね・・・みんなに見送られてさ・・・私なんて誰も来てくれなかった・・・」

「春子さん・・・」と重い口を開く勉さん。

「何よ・・・?」

「夏さんは見送ってました・・・浜辺で・・・大漁旗を振って・・・万歳って叫んでました」

「え・・・そんな・・・」

「あ・・・あの時・・・おらが話しかけて・・・春ちゃん、海側の席を・・・」と大吉。

「夏さんは・・・がんばってこいって叫んでました。夏さんは・・・辛くなったら帰ってこいと・・・」

「なんで黙ってたの・・・」と弥生。

「わかめもらって・・・口止めされたから・・・」

「なんなのよ・・・ずっとうらんでいたのに・・・」

「ああ、俺がバカだった・・・」

「ううん・・・いいのよ・・・なんだ・・・そうだったのか」

春子の顔は穏やかで・・・美しく輝く。

車内では歴史が繰り返されようとしていた。

「ねえ・・・アキちゃん・・・本当に東京に行くのか」と車掌の吉田が話しかける。

その時、いつの間にか乗ったのか老婆が話しかけるのだった。

「次の駅まで何分だべか・・・」

「ええ、おばあちゃんいつ乗ったの・・・これ貸切だよ」

アキはふと海を見た。

そして・・・大漁旗を振る夏を見つけるのだった。

「ばっぱ・・・」

「アキ~・・・行ってけらっせ~・・・気いつけていくんだど・・・アキ~万歳・・・アキ~万歳・・・アキ~辛かったら帰ってこい・・・」

「ばっぱ・・・行ってきます・・・元気でな・・・おら・・・がんばる」

お茶の間の涙を絞りつくした後で・・・通過する予定だった袖が浜駅に停車する車両。

ホームには畑野駅から乗車するはずだったユイとストーブが立っていた。

「ユイちゃん・・・なんで」

「ごめんね・・・アキちゃん、お父さんが倒れて・・・私行けなくなった」

「病院に運んでまだ意識は戻らないんだ・・・大きな病院に転院するかもしれない」

おそらく北三陸の病院から袖が浜駅に駆けつけたのであろう足立兄妹だった。

「それじゃ・・・おらも残るべ」

「ダメ・・・アキちゃんは行って・・・私も後からすぐ行くから・・・」

「でも・・・」

「お願い・・・」

ユイにとってアキは最後の希望なのである。

アキの手をとって願うユイ。

「・・・わかった・・・じゃ・・・新幹線の切符」

アキは新幹線の切符をユイに渡す。

発車の時刻となっていた。

「アキちゃん・・・かならず・・・すぐにいくから」

「ユイちゃん・・・」

電車にすがりつくユイをストーブと吉田が制止する。

「あぶねえから・・・」

「アキちゃん・・・」

「ユイちゃん・・・」

「アギぢゃあん、ずぐにおいがげるがら、ごめんね・・・待っででねああ・・・あああああ」

ユイは絶望の中で泣きじゃくる。

アキは小さくなっていくユイを見つめて・・・ただただ立ちすくむのだった。

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2013年6月22日 (土)

みんな!ハード・デイズ・ナイトだよ!のんほい!のんほい!のんほい!(真野恵里菜)

春ドラマも終盤戦である。

「ラストシンデレラ」の篠原涼子が三浦春馬と藤木直人のどっちを選ぶのかはまったく気にならないが・・・嘉郎が夏帆と真野恵里菜の間で揺れるのはせつないぞ。

それに・・・浅見紗英の運命もどうなるのか・・・なにしろ、エスパーと旧人類の恋なんだからな。

「七瀬ふたたび」ならエスパー全員死亡なのだが・・・巻き添え食らってヘニーデ姫が死ぬってことはあるからな。

なんてったって、今回は自分でフラグを振ってるのである。

浅見さん・・・人生から卒業してしまうのか。

無惨な最終コーナーを曲がって行くのか・・・。

テレビ東京系で全国区でないのがたまらなく残念である。

憂鬱さは虚構の隠し味だが・・・このまま、のんほい(なあおい)とほのぼのと超日常で終っていってもいいんじゃないかとも思う・・・。

で、『みんな!エスパーだよ!・第10回』(テレビ東京201306220012~)原作・若杉公徳、脚本・園子温、演出・そのしおんを見た。脚本も監督もそれぞれの持ち味を出しているが・・・主題歌、エンディングテーマがそれぞれに強烈なのでなんとなく、統一感が醸しだされる。歌の力の強さである。田舎の高校生の幻想的な恋模様・・・それはまさしく日本の青春そのものなのである。そのダメ人間ぶり・・・ダメ青春ぶりが面白くてやがて悲しいのである。

愛知県立東三河の地で覚醒した愛知県立東三河高校の男子生徒・榎本洋介(深水元基)は突然、肉体運動に目覚める。喫茶「シーホース」に重い荷物を背負って現れた彼は歩いて全国一周の旅に出ると宣言し、マスターの永野輝光(マキタスポーツ)を唖然とさせるのだった。

「先輩がマラソンを走るっていうもんで、トレーニングにつきあったら・・・走る喜びに気がついたんだに・・・だもんで・・・エスパーをやめたいと思うんだら」

「やめるって・・・」

そもそもエスパーはやめるとかやめないの問題ではない。

「思えば・・・童貞だからこそ・・・テレポーテーションという超能力を授かっただら・・・その童貞力があればなんでもできる気がするだに・・・」

「・・・」

「マスターもいい加減、童貞だってカミングアウトしい」

「いや・・・俺は・・・」

この期に及んで見栄を張るマスターだった。

しかし、店を出た洋介は早くも足を挫き、避難したコインランドリーで美女レストランの雑誌を発見すると思わず全裸テレポートしてしまうのだった。

コインランドリーで洋介の脱衣を発見したマスターは微笑んでため息をつくのである。

小銭稼ぎのコメンテーターであるゲストの客(水道橋博士)がひっそりと座る喫茶店に・・・鴨川嘉郎(染谷将太)は父(イジリー岡田)と母(筒井真理子)と共に朝食を食べにやってくる。

そして、尾張・三河両地方独特の文化である喫茶店のモーニングセット350円談義に花を咲かせるのだった。

嘉郎の母・律子をオナペットにしているマスターは喜んで腰を振るのだった。

「コーヒーに卵とサラダとトースト・・・さらには味噌汁とかご飯とかハンバーグとかナポリタンとか・・・とめどないメニュー」

「モーニングは青春」

「青春の舌ペロ」

「舌使いの魔術師」

「エロ・・・トン・ジョン」

「トミー」

「セックスピストルズは愛を歌わなかった」

嘉郎は精神感応者として父と母のリアルな夫婦愛に翻弄されている。美しい母でオナニーしようとするマスターも日常茶飯事だ。そういう日々の鬱屈が堆積しているようだった。現実の声と心の声の境界線も曖昧になっていく。

空中浮揚するTENGA(自慰行為補助具)を抑えてクレームをつける嘉郎。

「僕の母ちゃんでオナニーせんでくれ」

「じゃ・・・美由紀ちゃんで・・・」

「せんで」

「じや・・・紗英ちゃん」

「いかんて」

嘉郎は・・・紗英(真野恵里菜)は好きなのだが・・・どうやら美由紀(夏帆)も気になるらしい。

そういう青春の蹉跌の話なのである。

父親の超能力の研究のために・・・東京から転校し、彼氏テツヤ(岩崎拓馬)と遠距離恋愛になったあげくにどうやら音信不通になってしまった紗英はベッドの上でセパレーツのランジェリー姿でおヘソをサービスしながらアンニュイにモーニングセットのようなお得感のあるグループのデビュー曲を口ずさむのだった。

ねえ はずかしいわ

あなたの言葉

モーニングコーヒー飲もうよ

二人で

一方、何故か、嘉郎のことが好きで好きでたまらなくなった美由紀はシーホースの見えるコインランドリーで悶々としている。

そこへマスターがやってくる。

「どうしたに・・・店に嘉郎がおるだで」

「知ってるに」

「じゃ・・・コーヒーでも飲んでおいき・・・ただにするに」

「ああ・・・もう・・・いく」

たまりかねてついに立ちあがる美由紀だった。

美由紀は発情中なのである。

好き。好き。嘉郎が好き。

気持ちが抑えきれない美由紀なのだった。

嘉郎はテレパシーの能力を制御して・・・なるべく使わないようにしている。

他人の心が悲しいまでに欲望でたぎっていることに慄くからである。

そんな嘉郎に美由紀はストレートにアタックするのだった。

「デートに行こう・・・」

「え・・・」

「デートに行こう・・・」

「でも・・・心読み合って気まずくなるだに・・・」

「いいだら・・・それも面白いだら」

「何たくらんどるの・・・」

「アタシとデートしたくないに?」

「そんなことはないら・・・」

「じゃ・・・どこへいく?」

「のんほいパーク・・・」

「・・・」

「ダメ?」

「そんなことはないに・・・のんほいパークへ行こまい」

しかし・・・美由紀の心は・・・。

好き、好き、嘉郎が好き、抱かれたい、抱かれたい、嘉郎に抱かれたい、嘉郎と行きたい、嘉郎と行きたい、嘉郎とラブホテルに行きたいってなことになっているらしい。

テレパシストなのに・・・美由紀の本心をまったく読まない嘉郎だった。

その頃・・・紗英の父親の教授(安田顕)もなんとなく物憂い気分になっていた。

「今日は・・・研究のことは忘れて・・・ホの国東三河をぶらぶらしたい・・・」

「教授・・・」

教授は助手の秋山多香子(神楽坂恵)とのんほいパークに向かうのだった。

「のんほいってどんな意味なんですか」とパークの従業員に問う教授。

「ヤアっ感じですら」

「じゃあ、ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!は東三河ではビートルズがやって来るのんほいのんほいのんほいって感じですか」

「・・・」

ハードなんだよ

毎日がハードでヘトヘトなんだよ

もう死んだマグロみたいに眠らないとだよ

それもみんな娘のためなのに

わたしのためにハードでヘトヘトなのねって

娘はどうして言ってくれないのだ・・・

「教授どうしたんですか・・・」

「疲れたんだ・・・」

「教授・・・」

「超能力の研究なんて・・・ただ嘲笑されるだけ・・・」

「・・・」

「学界でも誰も相手にしてくれない」

「・・・」

「今日は・・・何もかも忘れたいんだ」

嘉郎と美由紀はテラスに座っている。

周囲はカップルだらけである。

美由紀は嘉郎とデートしていることで嬉しさがこみ上げる。

嘉郎も悪い気はしないのである。

紗英が来るまで・・・幼馴染の美由紀こそが嘉郎のたった一人の女友達だったのだ。

もちろん・・・オナペットなのである。

しかし、ヤリマン少女風に育った美由紀がちょっと怖くなってしまっただけなのだ。

【やりたい】

そんな嘉郎の心に誰かの声が届く。それは目の前のカップルだった。

「君と一緒にいられてうれしいよ・・・」

【やりたいやりたいセックスがしたい】

男は爽やかな笑顔とは裏腹に欲望をたぎらせていた。

「私もずっとこのままで・・・」

【ああ・・・もう・・・こんなデートじゃものたりないわ・・・どうしてラブホテルに誘ってくれないの・・・昼間なら割引だし】

女(松永渚)もまた内心では性行為を望んでいたのだった。

二人の心を読んだ美由紀はなんとなく微笑む。

(なんだら・・・二人ともセックスしたいと思っているだに)

(うん)

美由紀と嘉郎はお互いの心を読み合うのだった。

(ちょっとからかってみぃ)

(うん)

「ああ・・・セックスでもする?」と嘉郎。

「いいね、しようしよう」と美由紀。

美由紀と嘉郎の会話に驚く件のカップル。

【大胆ね】

【すげえ・・・すげえよ・・・あんたたち】

(お・・・のってきた)

(もうひと押し)

「ラブホテルでも行こうか」

「ええよ・・・行こう、行こう・・・昼なら割引だら」

【大胆だわ】

【このぐらい積極的でいいのか】

【私から誘うくらいで】

「あの・・・」

「僕らもラブホ行こうか」

「え・・・ああ・・・うん」

嘉郎と美由紀に煽られてそそくさとたちあがりセックスしに行く二人だった。

顔を見合わせる嘉郎と美由紀。

「面白かったね」

「うん・・・私たちも行く?」

「え・・・」

【ラブホテルに・・・】

「今・・・なんて・・・」

「なんのこと・・・」

「いや・・・聞き間違いだった・・・」

(嘉郎、心の中でなんか叫んでみい)

((ああ、童貞捨てたい・・・!))

(ふふふ)

(美由紀ちゃんも叫びい)

((処女を捨てたい~!))

(セックス・・・セックス・・・セックス)((セックス))(((セックス)))

「セックスーーーっ」

園内のすべての生物が耳を疑うのだった。

(しまった・・・声にだしちゃった・・・美由紀ちゃんかわいいな)

(((ありがとう嘉郎・・・好きだに)))

((ええっ))

「今、なんて・・・」

「何も言わんでね」

「み、美由紀ちゃん」

「ああ、もう」

恥ずかしさとじれったさとせつなさと愛おしさで思わず走り出す美由紀だった。

(もれちゃったに)(心の声が)(もう限界だに)(素直になりたいら)(ああうざいだら)

逃げていく美由紀の心に飛び込んでくる教授の声。

【抱きたい・・・抱きたい・・・秋山くんを抱きたい・・・好きだ・・・好きだ・・・秋山くんが好きだ】

(ええっ・・・)

いかにもデートしている教授たちに驚く美由紀。

【嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い】

そこへ割り込む・・・紗英の思念。

紗英は父親を尾行していたのだった。

そこへ追いついた嘉郎。

「美由紀ちゃん・・・さっき・・・なんて」

「しっ」

嘉郎が紗英に気がつくと紗英も嘉郎に気がつくのだった。

(浅見さん・・・かわいい)

「なんだら」

美由紀は嘉郎の本心に愕然として激しく嫉妬するのだった。

「鴨川くん・・・」

「浅見さん」

「見てよ・・・あの二人、いちゃいちゃしてんのよ・・・あんなんで超能力の研究とかいって・・・バカバカしい」

「お父さんのことをそんなに悪くいったらダメだに・・・」

【なにいってんのよ・・・クソメガネ・・・さかりのついたエロメガネ】

思わず飛び出す美由紀だった。

「誰がエロメガネじゃ」

「美由紀ちゃん・・・」

「嘉郎しっかりしぃ・・・あんたもエスパーならこの女の腹黒さわかるだら」

【なんだこのヤリマンヤンキー】

「誰がヤリマンだら」

【なんだ・・・ヤリマンとバカメガネでデートかよ】

「あなたって・・・オナニーしていて超能力者になったオナニーエスパーなんでしょ」

「オナニーして何が悪いだに・・・」

「ふっ・・・何が地球を救うよ・・・みんなバカみたい・・・エスパーなんて死ねばいい」

「教授・・・」

教授は娘の悪態に打ちのめされた。そして去って行った。後を追う秋山。

紗英も去って行った。

そして・・・美由紀も去った。

誰も追いかけることができず・・・シャキッとできない・・・どいやな嘉郎は一人残された。

愛する人に愛されない。ただそれだけで世界は奈落へと落ちていく。

教授は何もかもが嫌になっていた。

そして・・・シーホースで酒に溺れるのだった。

集まったエスパーたちはそんな教授に愛想を尽かした。

中に入ることのできない嘉郎に秋山がそっと告げる。

「教授を支えてあげて・・・」

「そんな・・・僕には・・・」

口ごもる嘉郎。

そんな嘉郎を美由紀はコインランドリーから見つめるのだった。

一人、夜の街を彷徨う紗英。

東京の女友達から・・・テツヤが卒業して渡米する話を聞かされる。

やるせなく歌い出す・・・紗英だった。

仰げば尊し彼氏の恩

教えの床にもはやいく度

思えば愛しきその腰つき

今こそ 別れ目 いざさらば・・・

ああ・・・

洗濯物はたまっていくだけ

世界は滅亡へのカウントダウン

「私」の旗を振る紗英は夜の街を走る。そして、物語の終焉が始ったらしい・・・。

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2013年6月21日 (金)

過去から解き放たれた時、私たちは飛行機雲を見るだろう(新垣結衣)

平和に見える空に飛行機雲が見える。

ブルーインパルス(青い衝撃)のアクロバット(曲芸)飛行に付随するのはスモーク(煙)であって、人工的な飛行機雲とも言うべきものだ。

ギミック(仕掛け)によって特殊な潤滑油をエンジン排気口に噴射し、エンジン排気の高熱で気化させ、それを大気で冷却し凝固させるというシステムである。

場合によっては潤滑油を染色し、カラースモークも生み出せる。

自然の飛行機雲はエンジン排気中の水蒸気が主因となって発生する場合が多い。

すぐに消える場合もあり、永く残る場合もあり、それは温度、湿度、気圧などで変化する。

上空の湿度が高いと、飛行機雲は消えにくいので天候悪化の兆候とされる。

長く永い飛行機雲は美しい。しかし、それは嵐の前兆であるかもしれないのだ。

しかし、飛行機雲は人間が空を飛んでいることを示す軌跡である。羽もないのに空を飛ぶ人間の不思議さに誰もが胸を打たれて当然なのである。

そして、祈らずにはいられないだろう。

永遠に平和が続きますようにと。

もちろん、その祈りはかなえられたためしがないのだが。

で、『日曜劇場 空飛ぶ広報室・第10回』(TBSテレビ20130616PM9~)原作・有川浩、脚本・野木亜紀子、演出・山室大輔を見た。情報化社会では情報を制御することが極めて本質的なことになる。しかし、情報ほど制御が困難なものはないという考え方もある。情報は変化し増殖し拡散する。狂った情報は時には大いなる破滅さえもたらすのである。教育制度は情報の暴走を抑制するためのシステムであるとも言える。恐ろしい情報を安全で便利なものに変えるのが目的である。情報をどのように与えるか。情報をどのように得るか。情報をどのように使うか。情報の重要性と情報の危険性をどう伝達するか。情報伝達者に恵まれるかどうかはある意味、運命を左右する。学校教育を終えて社会人となっても情報教育は続く。有能な組織員を得るために・・・情報指導者は常に配慮しなければならない。もちろん・・・配慮が足りないことは大いにあり得るのだった。

そういう意味で・・・防衛省航空幕僚監部総務部広報室長・鷺坂正司1等空佐(柴田恭兵)と帝都テレビ情報局・阿久津チーフディレクター(生瀬勝久)は官民の差はあれども優秀な情報指導者と言えるだろう。その基本原理は愛であり、それぞれの部下が有能な組織員として成長することに対する努力を惜しまない。

鷺坂にいたっては・・・部外者の帝都テレビ情報局ディレクターの稲ピョンこと稲葉リカ(新垣結衣)にまで教育的配慮を欠かさないのだった。

しかし、稲葉リカは取材対象であるスカイこと空井大祐2等空尉(綾野剛)を恋愛対象とすることで報道の客観性を見失ってしまう。

もちろん・・・恋愛の自由は何人も冒すべからずなのだが・・・情報機関であり、営利目的の企業であるテレビ局には複雑な事情がある。

まず、日本にとっての仮想敵国である中華共産党帝国は同時に大いなる市場でもある。

将来の情報市場を見据えて大陸進出を考える民間のテレビ局にとっては中国当局の意向は根本的に無視できない。また一党独裁によって情報を制御する技術に長じた国家は常に他国の情報局への浸食を目指している。

ある意味でリカは帝都テレビの目指す「日本の軍事力の弱体化工作」に加担する情報提供という「経営方針」に抵触してしまったのである。

当然のこととして工作員の監視下におかれることになる。

だから・・・リカは・・・スカイへの接触を自主規制せざるを得ないのである。

なんで・・・仕事は仕事、恋愛は恋愛と区別しないのか・・・疑問を感じる方に事情を説明してみました。

どんだけ・・・中国工作員に浸透を許してるんだよ・・・我が国は。

ま、闇の世界の話はさておき・・・ストイックな性格であるリカは・・・ほとぼりが冷めるまで恋愛禁止の処分を自分に下したのである。

一方でスカイもリカの苦境を察し、恋情を抑制しつつ、仕事に邁進するのだった。

お互いを高めあい・・・再会に備えるのだ。

そして・・・半年がたった。

なんて・・・ストイックな二人なんだ。

それは2011年二月。

三月五日に満56才になる鷺坂の定年退官まで残り一ヶ月に迫っていたのである。

リカはアシスタント・ディレクターの佐藤珠輝(大川藍)の演出デビューを指導するなどディレクターとしての階段を確実に昇っている。

しかし、企画会議では生真面目な性格がまだまだ仇になるのである。

「なんで・・・視聴率向上が望めるって言わないんだ」

「しかし・・・確実にそうだとは言えないですし」

「いいか・・・視聴率に確実なんてことは最初からないんだよ」

「・・・」

「だから適当でいいんだ」

「・・・」

優秀な指導者である阿久津はリカに暗黒面の理力について伝授するのである。

まだまだ青いリカだった。

一方、鷺坂の定年までに大仕事をして、成長の成果を見せたいスカイは熱心に営業活動を展開するのだった。

そんなスカイは帝都テレビのドラマ日曜劇場『報道記者、走る!』の続編が決定した人気のイケメン俳優・キリーこと桐谷隆史(桐谷健太)に偶然、再会する。

「いつぞやは・・・お世話になりました・・・」

「あなたに・・・逢いたかったのです・・・ブルー・インパルスに乗せてくれませんか」

キリーは人気の特別番組「スターの夢を叶えるんだよ!」で自分が航空自衛隊のジェット曲芸機・ドルフィンに乗ることを提案するのだった。

少しおっちょこちょいな片山和宣1等空尉(要潤)がかって企画した「芸能人の搭乗体験」が罰ゲームだったために折り合いがつかなかったのに対して今回は「夢」なのである。

広報室一同は一丸となって企画の実現に取り組むのだった。

そして・・・ついにゴー・サインが出るのだった。

スカイは鷺坂の退官に花を添えることができたのである。

柚木典子3等空佐(水野美紀)と槙博巳3等空佐(高橋努)の階級を越えた報道班内恋愛が周知される頃、コードネーム「因幡の白兎」からAV記録媒体が届く。

「稲ぴょん・・・」

そこには・・・お蔵入りになっている「広報室密着取材」のダイジェスト版(撮影・新垣結衣)が収録されていた。

愛と青春の記録は鷺坂への感謝を込めたメモリーだった。

鷺坂はスカイを見つめる。

「そろそろ・・・禁欲生活は終りにしたらどうかな」

「・・・」

やがて・・・リカの元に・・・「ブルーインパルスにキリーが乗るんだよ」のロケ見学の招待状が届くのだった。

ブルーインパルスの根拠地である松島基地に到着したリカをスカイが出迎える。

「私は新しい夢を叶えました・・・日本全国のお茶の間に・・・心の翼を広げるのです・・・それをあなたに見せたかった・・・」

「私も・・・あなたと見たかったのです」

二人の見守る中・・・ブルーインパルスは美しいスモークで二人を祝福する。

「あれは・・・Contrailじゃないんですよね」

「そうです・・・スモークですよ」

「でも・・・飛行機雲みたい・・・」

「もう・・・飛行機雲でいいじゃないですか」

微笑む二人。ブルーインパルスは二人を祝福する恋するハートを蒼穹に描くのだった。

特番は高視聴率を集め、風向きは変わった。

何よりも・・・あまりにも反米的な政権が瓦解の兆しを見せ始めていたのだった。

局内の親中国勢力は失速し・・・リカの監視体制も解除されるのだった。

三月五日・・・鷺坂は航空自衛隊を退官した。

彼に育てられた隊員たちは心からの敬礼で彼を送る。

リカもまた・・・基地の方向へ深々と礼をするのだった。

人として育ててもらった感謝をこめて。

そして・・・三月十日。

阿久津は「お蔵入りしていた広報室密着取材の解禁」をリカに告げる。

「風向きが変わったんですね」

「そうさ・・・いつまでも続く嵐なんてないからな」

リカは早速、スカイに報告の電話を入れるのだった。

「やりましたよ・・・これから・・・そちらに・・・」

「だめです・・・こないでください」

「え・・・」

「今、松島基地にいるんです・・・明日帰るので・・・絶対明日来てください」

かわいいよ、スカイかわいいよなのだった・・・そっちかよっ。

しかし・・・その翌日・・・。

2011年3月11日の昼下がり・・・日本は未曽有の危機に襲われるのだった。

松島基地は津波の被害を受け・・・所属基地以外に展開中の機体を残して壊滅してしまうのである。

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Sk009 ごっこガーデン。恋するハートで記念撮影セット。まこ鷺坂さんに敬礼ーーーっなのでしゅ。立派な上司に恵まれた部下は幸せものなのだじょ~。まこも見習ってまこかま工場従業員一同にキャンディーを一個ずつプレゼントしました~。夏のボーナスでしゅっ。不平不満のある人は地下100階の矯正施設に監禁するのでしゅ~。それにしても・・・ブルーインパルスの皆さん・・・かっけええええええええええっ、アキに見せたら危険なレベルでしゅね

くうまさか・・・震災前から始っているドラマがここにもあろうとは・・・あれからそれでも生きていくとか・・・最高の離婚とか・・・当時をからめたドラマがなかったわけじゃないけどさ・・・これは現在進行形だもんね・・・一体、どんな終り方をするのか・・・全く読めないよ・・・どうか・・・リカとスカイが幸せになれますようにと祈るばかりなのです

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2013年6月20日 (木)

家族ゲーム~みんな、いいねえという作戦(櫻井翔)

すべてを肯定するというのは人生の基本である。

つまり、あるがままにあるということだ。

それは限りなく無思慮に近く、無作為で、無感動ですらある。

しかし、人間はいたって弱い生き物であり、考えるなと言っても考えるし、やるなと言ってもやる、感動するなと言っても感動するのである。

たとえば、サッカー日本代表というものがある。日本人に生まれたし、サッカーが好きだし、小学生だし、日本代表入りを目指すということを肯定する作戦である。

そんなの無理だろうとはけして否定しないのだ。

ただ、「いいねえ」と言えばいい。

その日本代表が開催国ブラジル相手に「0-4」「0-3」と連敗中だとしても「ワールドカップで優勝する」と宣言する代表選手がいる。

それも「いいねえ」と言えばいい。

五輪でメダルを獲得した競泳選手が「私は女優になります」と宣言しても「いいねえ」と言うのである。

「トップアイドルになります」でも「いいねえ」で、「ナタリー・ポートマンになります」でも「いいねえ」なのである。

この作戦は・・・基本、とりあえずスタートできるという利点がある。

もちろん、「当たって砕けろ」から「失敗は成功の母」まで、結果についての名言が数々あることから必ずしも作戦が成功しないことは誰もが判っている。

それでも・・・「だめだろ」「むりだろ」「やめておけ」よりも・・・恐ろしいことに成功の可能性は高いのである。

その可能性が0.00000000001だとしても・・・ゼロではないからだ。

だから、いいねえ。

で、『家族ゲーム・最終回(全10話)』(フジテレビ20130619PM10~)原作・本間洋平、脚本・武藤将吾、演出・佐藤祐市を見た。もちろん、全肯定ゲームだけでは世界は成立しない。どちらかといえば否定に負うところは大きいわけである。たとえば原作付のドラマというものは原作の全肯定では成立しない。なにしろ、文学とテレビドラマほど表現方法が違うわけである。しかし、原作を否定するところからは始めないのが普通である。原作を肯定しつつどうドラマ化するかなのである。さらにリメイク作品の場合には前作を肯定するのか否定するのかはさらに複雑になってくる。そもそも前作が成功していなければリメイクは成立しにくいのであるが、その成功を否定して成功できるかという問題も生じてくるのである。映画「家族ゲーム」の主演者と、今回のドラマ「家族ゲーム」を比較して、前者を肯定して後者を否定することがすでに作戦として間違っているということがご理解いただけただろうか。まあ、一度でももの作りをした人間ならわかるだろう。お手本を否定したら失敗するのは目に見えているのである。

それと・・・前作を否定してチャレンジするというのは全く別の問題なのである。

やり直すというのは・・・今までの自分を否定してそれでも生きて行くということなのだ。

悪魔の家庭教師・吉本荒野/田子雄大(櫻井翔)の陰謀によって崩壊した沼田家。

その甘い結末が語られる救済篇である。

もちろん、「やり直そうとした沼田家」が引っ越した先が「黒ゆり団地」だったらどうするのか・・・という問題は常にあるわけだが・・・常にかよっ・・・そこは悪魔と悪霊の微妙なジャンルの違いで乗り越えて行くしかないのである。

「ねえ、遊ぼうよ」

「ごめん・・・出番ないみたいなんだ」

「ウソツキ・・・じゃ・・・泥沼よりもっと怖いところに連れていくよ」

「いやあ・・・沼田家のみんなが卍になるところもみたかったんだけどさ」

「ち・・・ち・・・ち・・・ち・・・」

ミノルくんは春子かよっ。

ええい、「クロユリ団地」も「あまちゃん」も禁止だ。

都合の悪いものは食べてしまうという次男の茂之(浦上晟周)は両親の離婚届けを消化しようとするのだが、用意周到な沼田佳代子(鈴木保奈美)は二枚目、三枚目を用意していたのだった。

妻の決意を知って夫の沼田一茂(板尾創路)は離婚に同意する。

長男の慎一(神木隆之介)にとってはどうでもいい問題である。

そこへやってきた悪魔の家庭教師だった。

「仕掛けてあった盗聴器と監視カメラの回収に来ました」

「警察に通報するぞ・・・」

「そういうことは100万円を返済してからにしてください」

「・・・」

ここから、再生篇が始り、崩壊した家族が立ち直って行くわけだが・・・そんなの結果論じゃないのか・・・という考え方がある。しかし、悪魔の家庭教師のやることはすべて予測の範囲内なのだという肯定論で押し切っていくのである。

「家族に犠牲者が出そうになったら死んでお詫びをする」という悪魔の家庭教師の釈明もかなりウソくさいのだが・・・そういうウソ臭さで騙される家族なのだと悪魔の家庭教師が推定していると肯定するのである。

人間には向き不向きがある。

片付けられないタイプだったら・・・ここまでしたらもう取り返しがつかないと思うのだが、この家族はやればできる子なのだ。

また、たった一回の失敗で鬱病を発症し、そのまま廃人と化す場合もあるのだが、この家族は心身はそこそこ健全で対応できると悪魔の家庭教師は神のように読み切っているという肯定なのである。

とにかく・・・家族はしばらく茫然としていたのだった。

家族の中で一番、この世に未練があるのは慎一である。

なぜなら・・・水上沙良/浅海舞香/立花真希(忽那汐里)への恋情がおさまりつかないのである。

再び、沙良を呼び出す慎一だった。

「一つ・・・訊き忘れたことがある」

「なに・・・?」

「田子雄大はどうして・・・吉本荒野を名乗ったのだろう・・・」

沙良は慎一をなぜか廃校になっている自分の母校に連れて行くのだった。

「田子先生は・・・真田くんを吉本荒野から守れなかった。その理由は吉本荒野が強く田子雄大が弱かったから。結果として一番弱い真田くんは自殺した。これは私の推測だけど・・・田子先生は真田くんを殺したのは自分だと思ったのではないかしら・・・。そして、強くなろうとしたのよ。その方法が悪意の体現者である・・・吉本荒野を見習うこと・・・手本とすること・・・吉本荒野になりきることだったのではないかしら。そして・・・悪の力で善をなそうとしたのではないかしら・・・」

「善なる悪か・・・ひどく矛盾してるな・・・」

「ここに・・・その記録があるわ・・・沼田家の家庭教師記録が・・・」

「・・・」

「あなたに渡すように言われていたの・・・これを読んで・・・どうするかはあなた次第なのよ」

慎一は家族を集めた。

「ここに悪魔の家庭教師が・・・沼田家を崩壊に導いた記録がある・・・父さんの悪口も書かれているし・・・母さんの悪口も書かれている・・・茂之がいじめっ子を今はいじめていることも書かれている。僕に至っては地球を滅ぼす悪魔のような扱いだ・・・でもね・・・僕は思う・・・確かに悪魔の家庭教師は狂っている・・・でも、そんな狂ってるやつにまんまと崩壊させられた我が家ってなんなのかなって・・・僕は今、思うんだ・・・お母さん、お父さん、そして茂之・・・このままじゃ、悔しくて悔しくてたまらないって・・・」

「・・・」

「・・・」

「・・・」

佳代子はたちあがった。もう限界だったのだ。佳代子はきれい好きなのである。

このゴミ箱の中の暮らしには耐えられなくなっていたのである。

佳代子は掃除を始めた。片付けられる女だったからである。

慎一はそれを手伝った。

慎一は要領のいい子なのである。

一茂は真剣に就職運動を開始した。実は働き者なのだ。

そして・・・茂之は山尾(西本銀二郎)への暴力行為を停止させた。

「もうやめよう・・・なぐりたいなら・・・僕をなぐっていいよ」

親友の園田(松島海斗)も応じた。

「茂之と一緒に殴られてやるよ」

ストレス解消法として暴力を選択していた悪鬼たちは小物だったらしい。

振り上げた拳を下ろすのだった。

「なんなんだよ」と猜疑心に満ちて山尾が問う。

「痛みを知ったら優しくなれるって家庭教師の先生に言われたんだ」

「・・・」

「僕は優しくなれた・・・君はどう?」

「さあな・・・俺は・・・人が苦しむのを見るのが好きで好きでたまらないのかもしれない」

「・・・」

「とにかく・・・僕は人を殴ってもストレス解消できない」

「じゃ・・・どうすんだよ」

「サッカーでもしようよ・・・」

「スポーツかよ・・・しょうがないなあ」

「ふん・・・つまらないやつらだな」といたぶられる喜びに目覚めた山尾は唇を尖らせるのだった。

佳代子は慎一と一緒に盗品を持って書店に謝罪に出向いた。

「ごめんで済んだら警察は要らないんですが・・・それじゃ、こっちも儲けがない。慰謝料として十万円お願いします」

「あの・・・ローンでもいいですか」

「いいですよ」

世の中はそこそこ吝嗇なのである。

エリートでなくなった一茂はそこそこの人生を目指し始め、気楽になった。

ファーストフード店の店長だって働ければそれでいい。

贅沢しなければ生きていけるのだ。

その程度の人間だったのである。

家も車もなんとか売却が成立し、借金は清算できたらしい。

そして、運よく転居先は黒百合団地ではなかったのだった。

狭いながらも楽しい我が家。

慎一は茂之の勉強をみてやった。

そして、編入試験を受けて高校に戻ったのだった。

経済規模を縮小することで・・・心にゆとりが生じる家族だったらしい。

佳代子もパートで働くのが苦にならないタイプだったらしい。

そして・・・慎一は・・・「愛」を学んだのだった。

慎一はセックスフレンドの最上飛鳥(北原里英)に再び交際を申し込む。

「どういう風の吹きまわし・・・」

「愛のあるセックスがしてみたくなったんだ」

「・・・」

要するに沼田家は小さくまとまったのだった。

やればできる子だった茂之は成邦館高校に合格した。

慎一は沙良から・・・悪魔の家庭教師への面会手段を伝えられる。

「真田くんの命日に・・・件の小屋で彼を慰霊するらしい」

慎一は悪魔の家庭教師を訪ねた。

「おかげで・・・家族記念日を祝うまでに・・・生温かい家族になっちゃいました」

「・・・」

「でも・・・あんたは間違っていると思う」

「・・・」

「人はそれぞれの幸せの尺度を持っている」

「・・・」

「あんたのは画一化された幸福の拡大再生産じゃないのか」

「・・・」

「まあ・・・幸せになっちゃったんで文句はないけどね」

「・・・」

「思うんだけど・・・真田の話も吉本の話も・・・全部、嘘なんだろう」

「・・・いいねえ」

悪魔の家庭教師は満足して・・・新たな獲物を求めて歩き出すのだった。

その歩みには狂人ならではの不気味さが滲み出る。

肯定化作戦に対するアンチテーゼは次の一句に集約される。

触らぬ神にたたりなし・・・なのである。

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2013年6月19日 (水)

御仏の掌(たなごころ)にて教え育むだけなのです・・・ウッキッキー(香取慎吾)

まあ、孫悟空はお釈迦様の掌(てのひら)から飛びだせないものだからな。

教育と宗教は宿命で結ばれている。

この世の理を諭すのが教育の基本だからである。

また生殖と教育は運命の糸で結ばれている。

生きる術を伝えるのが教育の役割だからである。

教育には家庭教育と学校教育があることを忘れてはいけない。

教育と国家は因縁で結ばれている。

教養の共有こそが団結の拠り所だからである。

国家が国民に最低限の教育を施すのは国家を維持・発展するために必要だからである。

国民が国家に最低限の教育を求めるのは国民が生存・繁栄するために必要だからである。

そういう意味でたいしたことのない国家はたいしたことのない国民にたいしたことのない教育しか与えられない。

日本が世界の富をかなりの部分、占有しているのはそれなりの教育の成果と言えるだろう。

家庭教育に限界があるのは個人が団体には勝てないという鉄則があるからである。

それでも、経済的優位による家庭的エリート教育というものは可能である。

しかし、それは自由に傾きすぎ、平等を犯すので袋叩きになる覚悟を求められる選択だと言える。

死後の世界を人類が掌握(しょうあく)していない以上、不可知領域は存在し、完全なる正しさが存在しないことを前提に教育を施さないと間違った教育が横行する場合があることに注意が必要である。

で、『幽かな彼女・最終回(全11話)』(フジテレビ20130618PM10~)脚本・古家和尚、演出・白木啓一郎を見た。1968年3月、二年後に期限の切れる日米安全保障条約(日米軍事同盟)の自動延長を阻止したいソ連の意向を受けて、暗躍する日本国内工作員は教育関係者を先導し、全国に反戦運動と革命闘争の火種を撒き散らした。大学紛争は激化し、一部過激派により東京大学安田講堂は占拠され、卒業式は中止となった。いろいろあって1969年1月、警視庁警備部は二日間に渡る封鎖解除作戦を実行。実力行使によって数百名の学生を検挙した。学生もそれなりに抵抗し多数の警察官が重軽傷を負ったが死者は発生しなかったという。この年の入学試験は中止となり、次年度の入学者はゼロとなった。廃墟と化した安田講堂は改修工事が終わる1989年まで20年間、放置されたのである。

ローテクによる操り糸的なタイトルほのぼのとあって・・・。

「昔の大学生って・・・」

「中学生みたいだね~」

「だね~」

「それから40年以上経つから当時の大学生って今、六十代から七十代だよねえ」

「恥ずかしながら爺婆になっているんだねえ」

「でも、教室占拠したりしたら犯罪になるのかな」

「不法占拠とかバリケード作ったら公共物破損とか」

「授業妨害とか」

「威力業務妨害とか、脅迫とか」

「まあ、でも平気だよね~」

「中学生だもんねえ」

「でも内申書に響くかもね~」

「まあ、成績上位者には無関係だよねえ」

「おやつはどうするの~」

「河合先生はエクレア欲しいって・・・」

「人質なのに贅沢よね~」

学級委員・野本香織(荒川ちか)の指導の元、作戦立案・葉山風(柴田杏花)、スポンサー・京塚りさ(山本舞香)、買出し部隊長・岡本香奈(未来穂香)の鉄壁な布陣で3年2組生徒全員参加による教室占拠・バリケート封鎖による担任教師・神山暁の不当人事・転任撤回要求闘争は秘密裏に計画準備され、メール一斉送信で関係者各位に通達されたのだった。

不祥事発生に世田谷区教育委員会管理局教育指導係の轟木庸一郎(加藤虎ノ介)は恐怖した。

そもそも教育委員会とは・・・国家による天皇一神教教育の弊害を緩和するために地方の教育権を重視しつつ教育権の自主性を確保するためのシステムである。

しかし、そこには・・・教育権をめぐる国家と地方自治体と教育現場の権力闘争があり、最初に教育委員の選出方法が選挙制度から任命制度に変更された時点で、国家と地方自治体との権力闘争に移行した。地方自治体が国家の指示に準じればシステムそのものの形骸化は必然である。

結局、現在の教育委員会は教育委員会事務局という教育現場を管理するお役所になり下がっているというのが実情なのである。

当然のことながら、安全第一の事なかれ主義がまかり通るのだった。

いじめがあってもないことになり、臭いものにはふたをしまくるのが勤めなのである。

また、国家もしくは地方自治体の権力者と簡単に癒着し、時には教育の私物化もたやすく進行するのだ。この場合は教育現場腐敗します。場合によっては入試制度や教員採用制度も崩壊します。

今回の神山先生の転任人事は父親より教師を信任する娘に激怒した京塚りさの父親(飯田基祐)の政治家としての権力を濫用した人事への不当介入に端を発しているために教育委員会事務局は表沙汰になることだけは絶対に阻止しなければならないのだった。

霊感生徒・森野小夜(森迫永依)は悪霊による事態の悪化を考慮し、バリケードに霊域結界を施すのである。

浮遊霊歴半世紀で大学紛争の目撃者である吉岡さん(佐藤二朗)は介入に失敗し、唇をかみしめるのだった。

「まったく・・・後先考えない中学生みたいなことしやがって」

「中学生ですから」とツッコミを忘れない浮遊霊・メグミ(上間美緒)だった。

一方、死後27年を経過した浮遊霊・アカネに恋をした神山先生は転任の人事を唯々諾々と受け入れ、転任の準備を進めつつ、アカネに告白し、交際を申し込むのだった。

「でも・・・私・・・死んでますよ」

「大丈夫、いつか、僕も死にますから・・・」

「じゃ・・・ウエディングドレス買ってくれますか」

「それは・・・本当に必要ですか」

二人が超現実的なラブ・コメディーを展開していると生徒の立てこもりが存在感の薄い3年1組副担任の林先生(北山宏光)から報告されるのだった。

「ちっ・・・」

「ちっ・・・」

舌うちをする生きている彼氏と幽かな彼女だった。

騒動を聞きつけて学校に押し寄せる保護者の皆さん。当然だが・・・多忙の人や子供に興味のない人は来ないわけだが・・・その点は演出上、黙殺されている。

「どうしてくれるんです」

「夕ご飯が冷めちゃうんです」

「塾の時間なんですよ」

「お静かに」

うるさい親たちを一喝する学年主任の岩名先生(高嶋政宏)である。

「私は今・・・それほどまでに生徒に愛された神山先生をうらやましいと感じています」

「なんじゃ・・・そりゃ・・・」と絶句する親たち。

「皆さん・・・自分の子供たちを信じてください」と騒動の発端が自分にあることをこの期に及んでも感知しない大原先生(濱田マリ)が勝手に高所から物申すのだった。

「皆さんが家庭で生徒を見守る程度には・・・学校では教師も生徒を見守ってますから」と秘蔵の個人データを開示して親をやんわりと脅迫する窪内先生(林泰文)・・・。

「まったく・・・問題ばかり・・・引き起こして・・・」と地団駄を踏む轟木。

そこへ神山先生とアカネが到着する。

「僕に生徒たちを説得させてください」

「何を言ってるんだ・・・あんたは当事者だぞ。生徒たちを先導している張本人かもしれないのに」

「責任は私がとります」と副校長の霧澤和泉(真矢みき)が宣言する。二夜連続宝塚祭りが達成されたのだった。

パリケードの一部が解かれて、神山先生は生徒たちに迎えられた。

「お前たち・・・なにしてくれちゃってるんだよ」

『そんな・・・いきなり怒らなくても・・・』

「私たちは先生のために・・・」

「正しいことのためなら・・・何をやってもいいのですか・・・」

「・・・」

「勝つためなら原爆落としてもいいと・・・本当に思いますか」

「・・・」

「儲けるためなら恋愛禁止が当然だと・・・本当に思いますか」

「・・・」

「言いたいことを言って、やりたいことをやって・・・誰かを傷つけても平気ですか」

「・・・」

「皆さんは・・・もう、私がいなくても大丈夫・・・そう私が信じたのは間違いでしたか」

「でも・・・私の親が先生を・・・」

「親が悪いとか子供が悪いとか・・・そんなことはどうでもいいんです。ニワトリが先かタマゴが先かなんていう・・・難しい問題は親子丼にして食べちゃえばいいんです」

「ニワトリにもタマゴにも食用になるしか選択肢はないんですね」

「そうです・・・とにかく皆さんは私から卒業したんだと言ったでしょう・・・」

「じゃあ・・・先生、私に見本を見せてください」

「河合先生・・・」

「卒業する生徒のために思い出作りをしたっていいでしょう」

河合先生(前田敦子)は指揮棒を渡した。

曲目は京塚りさが選んだ文化祭のための合唱曲である。

「あらそうことだけが・・・」

「きもちをあらわせる・・・」

「そんなじだいに・・・」

「だれもが・・・きっとうんざり・・・」

「かなしみも」

「にくしみも」

「このうみにながせばいい・・・」

「なにもかもゆるしあえたら・・・」

「ゆっくりとてをにぎって・・・」

「そのさきに」

「なにかが・・・」

「ぼくらをまっていて」

「ながいながいよるの」

「おわりがちかづく・・・」

教師たちと保護者たちに・・・生徒たちの明るい歌声が響く。

京塚の父親からの指令。

「強行突破せよ」

実行する轟木部隊。

その余波が京塚の娘に凶器となって襲いかかる。

生徒を庇って負傷する神山先生。

轟木の報告。

「教員に負傷者発生」

京塚の父親の最終指令。

「すべての命令を撤回する。この件は最初からなかったことにする。私はノー・タッチ」

轟木の嗚咽。

(クソ野郎、クソ政治家、クソ権力者・・・次は落選してしまえ)

気がつくと・・・神山先生は自宅にいた。

「おや・・・」

「神山先生・・・」

「アカネ・・・」

二人の手が触れ合う。

「実体化したのか・・・」

「いいえ・・・先生・・・アキラが幽体化したんですよお」

「ええーっ」

「・・・」

「じゃあ・・・俺・・・死んだの?」

「いいえ・・・人事不省で・・・幽体離脱中です・・・身体に戻れば・・・蘇生しますから」

「じゃ・・・いいや・・・」

「ダメですよ・・・」

「だって・・・どうせ人間はいつか死ぬんだし・・・こうして幽霊同士になったんだから・・・ずっと一緒にいられるでしょう」

「ダメです・・・私は生きているアキラ・・・神山先生が好きなんです」

「・・・」

「私が成仏できないのは・・・」

アカネは白い霊糸を視覚化する。輝く白い糸は神山先生につながっていた。

「神山先生が・・・好きだから」

しかし、アカネはその糸を自ら切断するのだった。

「私は今・・・旅立ちます・・・神山先生・・・私の分まで生きて・・・私、あっちで待ってますから」

「そんな・・・生涯独身を貫けと・・・アカネ」

思わずアカネは神山先生の胸に飛び込んだ。

そして・・・神山先生の腕の中で光の粒子となって消散するのだった。

「アカネ・・・」

覚醒する神山先生。

神山先生を慕う生徒たちが・・・集っていた。

その顔が喜びに輝く。

「ごめんよ・・・アカネ・・・僕には帰る場所があったみたいだ・・・こんなにうれしいことはない・・・」

神山先生の転任は取り消された。

すべては元通り・・・しかし、神山先生と生徒たちの絆は深くなっている。

河合先生と林先生の下半身は接触寸前らしい。

神山先生は新居で心機一転を図っている。

姫路城を破壊した悪霊は音信不通である。

「ひょっとしたら・・・」と神山先生は思う。「すべてはアカネを成仏させるためのホトケの霊界的陰謀だったのかも・・・」

漠然とした淋しさを感じながら、霊の世界に想いを馳せる神山先生だった。

「また・・・あの部屋に女の幽霊が出たみたいですよ」

まだ、あの下宿に住んでいる林先生が呟いた。

神山先生はあわてて下宿に走る。

しかし・・・いたのは吉岡さんだった。

「・・・」

落胆した神山先生の前にアカネが現れる。

「なんだよ・・・」

「成仏しようと西方浄土に旅立ったんですけど、今生の思い出に物見遊山しているうちに・・・姫路城あたりで・・・解脱の道を見失っちゃって・・・」

「バカかっ・・・」

「・・・」

「お帰り・・・」

「そんなこと言われたら・・・ときめいちゃうじゃないですか・・・心臓止まってますけど・・・」

思わず手を伸ばした神山先生はアカネを通り抜ける。

「くっそーっ」

駄々をこねる神山先生をアカネは優しく撫でるのだった。

「ぼくらは・・・」

「だれかに・・・」

「そっとせなかを・・・」

「たたいてほしいのに・・・」

「なあ」

そして・・・世界はもうしばらく続いていく。

釈迦もキリストも八百万の神々の一人に過ぎないこの国で・・・。

関連するキッドのブログ→第10話のレビュー

シナリオに沿ったレビューをお望みの方はコチラへ→くう様の幽かな彼女

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2013年6月18日 (火)

地動説の伝道師ガリレオ~やはり地球は動いてました(天海祐希)

業務連絡である。

ココログからのお知らせによると・・・2013年7月1日(月)以降、ココログフリー(無料版)の広告領域を追加させていただきます・・・ということなのである。

ブログの上部、下部に広告を表示・・・なんだそうである。

別に構わないと思うのだが・・・変な広告だとやだなあ・・・と一部人格のモチベーションが下がることは予想される。

また、当然、システムの変更を伴うと思われるので・・・また管理ページなどが不安定になることも予想されるのである。

まあ・・・他者の領域で言論活動を展開している以上、やむを得ないことなのだが・・・できるだけ穏便にしていただきたいと願うのである。

読者の皆さまにおかれましては何か不都合が生じた場合にそなえてあらかじめお詫び申し上げておきます。

で、『ガリレオ(第2シーズン)・第10回』(フジテレビ20130617PM9~)原作・東野圭吾、脚本・福田靖、演出・西坂瑞城を見た。原作は長編「聖女の救済」である。そのために前・後篇となっており、今回は前篇である。春ドラマも終盤で・・・季節はすでに夏の様相である。暑い暑い夏が来るのだな。年々、冬より夏が苦手になっている。なにはともあれ夏が好きだった若い頃には想像もつかないことだな。今回のガリレオは中学生時代の思い出がからんでいる。大学生時代のガリレオ(三浦春馬)のようなサービスはないのだった。中学生時代の天海祐希を見たかったな。荒川ちかでいいではないかっ。女信長かっ。

1980年代の北海道。

中学生の三田綾音は小学五年生の時に東京から転校してきた湯川学に恋をしていた。

「私は薔薇の花は嫌いなの」

「なぜ」

「どんなにきれいな花でも棘のある花は好きになれない」

「・・・」

「ねえ、今度、教会の日曜礼拝に一緒に行かない?」

「ガリレオの地動説を否定するような宗教に興味はない」

「・・・」

湯川学は中学卒業と同時に北海道を去り、東京の高校に進学した。

三田綾音の初恋は実らなかったのだ。

それから三十年ほどの月日が流れた。

その間、ローマ教皇庁は1992年に天動説を放棄し、地動説を承認。ローマの異端審問所が下したガリレオの異端決議を解いた。

三田綾音はエムシステムズの社長・真柴義之(堀部圭亮)の妻、真柴綾音(天海祐希)となっていた。

北海道の実家の父親を見舞うために里帰りをした綾音。

しかし、旧友と語り合う綾音の表情には謎の微笑みが浮かんでいた。

妻の不在中、終日、自宅で過ごす予定だった真柴義之は朝10時の社員とのテレビ会議までは元気だったが、夕方4時の会議の際に連絡が取れなくなる。

社員から連絡を受けた綾音はホームセキュリティー会社に指示を下し、自宅のダイニングで倒れている義之が発見される。

死因は亜ヒ酸ナトリウムによる中毒死だった。

被害者は午前中と午後の二度、コーヒーを飲んでいたことが判明。

お湯を沸かしたポット。ペーパードリップのフィルタ。割れたコーヒー茶碗からは毒物が発見されるが、飲料水のペットボトルからは発見されず、午前中に使用したと思われるフィルタからも発見されなかった。

午前と午後の間に・・・何者かがポットに毒物を混入した疑いが強まる。

そして・・・自宅の監視カメラには・・・午後に真柴家を訪問した紫色の傘の女の映像が残されていた。

北海道にいる綾音にはポットに毒物を混入することは難しく容疑者リストからは外れる。

太田川稔刑事(澤部佑)はそう判断した。

しかし、女の敵であるオカルト小娘刑事ちゃん・岸谷美砂警部補(吉高由里子)は例によって直感的に綾音を犯人と断定するのだった。

ガリレオこと帝都大学物理学科准教授・湯川学(福山雅治)について愛人である小娘刑事が履歴の調査を行っていることは言うまでもない。

容疑者・綾音の経歴を洗ううちに小娘刑事はガリレオと綾音が同級生であったことを発見するのだった。

「物理学とは全く関係のない事件だ」と捜査協力を拒否するガリレオに・・・小娘刑事は必殺の一撃を加える。

「被害者の妻は・・・湯川先生の関係者です」

「・・・」

美人と言えないことはない被害者の妻の写真を見せられてガリレオはその気になるのだった。

やがて・・・綾音の前に姿を見せるガリレオ。

「湯川くん・・・噂で聞いていたわよ・・・物理学者になって警察の捜査に協力しているとか」

「けして本意ではないのだが・・・」

「でも・・・今回の事は・・・物理学に何か関係があるの・・・?」

「いや・・・知り合いの家族に不幸があったと聞いてしまっては何もしないわけにはいかない」

「・・・私のために・・・」

「・・・」

綾音と小娘刑事とともに真柴家を訪れる。

「薔薇の花が・・・」

「どうしたの・・・」

「君は薔薇の花が嫌いではなかったのか・・・」

「主人が好きだったから・・・私も好きになったの・・・」

ガリレオは水道回りを調査する。

「ここはあまり掃除してないな」

「姑さんですかっ」

「あの・・・美しいタペストリーは・・・」

「私が作ったの・・・家庭に入ってからは暇だったから・・・」

「根気と集中力を要する作業だ・・・君は科学者に向いているかもしれないな」

「やめてよお」

覚悟していたことだが小娘刑事は容疑者と探偵科学者の間に情動の気配を感じるのだった。

ちょっとモヤモヤした小娘刑事は通りすがりのストローで間接キスを楽しむバカップルに嫌がらせをした後で・・・綾音が主催する幼児教室の職員・若山宏美(山口紗弥加)にアプローチするのだった。

「綾音さんはできちゃった結婚だったんですが・・・入籍後に流産しているんです・・・事故は女の運転する自転車に後ろから追突されて起こりました。けれど、犯人は特定されていないのです」

やがて・・・捜査線上に被害者が結婚前に交際していたイラストレーター・津久井潤子が浮上する。しかし、潤子の実家のある静岡県を訪れた太田川稔刑事は彼女が一年前に自殺していることを知るのだった。

ガリレオは毒物の混入方法についての考察を行っていた。

そこへ・・・綾音が現れて・・・幼児教室での出張実験を要請する。

子供が苦手なので一度は断ったガリレオだが・・・すっかり綾音に魅了された助手・栗林宏美(福山雅治)の懇願により、引受けるのだった。

「たとえば・・・薔薇の花を凍らせて氷のように砕くといったものでも構わないか」

「引受けて下されば・・・なんでもいいのよ・・・」

ガリレオは綾音の言動に幽かな違和感を感じるのだった。

お茶の間は・・・綾音が妊娠の兆候を示さないことで被害者から離婚を切り出されていたことを知る。

ガリレオは幼児教室で・・・実験を行った。

電熱ポットでお湯を沸かし・・・耐熱ガラスのカップに注ぐ。

同じ、ポットで注ぎながら、一杯目は透明なお湯。

二杯目は赤色のお湯。

三杯目は紫色のお湯になる。

実験は子供たちにはあまり受けなかったが綾音の興味は引いたのだった。

「どういうことなの」

「大きさの違うジェルの中に赤の絵の具と青の絵の具を封じたのだ」

「つまり・・・最初のコーヒーには毒物が溶け出さず、二杯目のコーヒーは毒入りになるわけね」

「しかし、そうなれば当然、ジェルの成分が発見されてしまう」

「湯川くん・・・私を疑っているの・・・」

「犯人にも動機にも興味はない・・・ただ・・・殺害方法を解明したいだけだ」

第二シリーズのフィナーレを飾るにふさわしいゲストを迎え・・・それなりに盛り上がる最終章・前篇だった。

美しい花もいつか枯れ果てるのだ。

ちなみに・・・夏ドラマの月9は山Pと長澤まさみ、香里奈、戸田恵梨香らしい。

ヒロイン過剰すぎないか・・・。

ちなみに黄金比とは5/8・・・。名刺はその美しさを隠しているわけです。

この長方形に収まるバストは美しいのですな。

ま・・・巨乳になりますが。そしてやや斜めの視点でバストトップは正面と真横に・・・。・・・永井豪か・・・永井豪なんだな。

内海薫刑事不足(柴咲コウ)をお嘆きの方は2013年6月22日の「土曜プレミアム・ガリレオ XX内海薫最後の事件 愚弄ぶ」をお見逃しなきよう・・・。

関連するキッドのブログ→第9話のレビュー

天使による数式的アプローチはコチラへ→テンメイ様のガリレオ2

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2013年6月17日 (月)

同盟に叛いて信義を失い降伏して生命永らえても後世の嘲笑いかんとするやでごぜえやす(綾瀬はるか)

「死を賭してこそ義は守られるべき」・・・と言いつつも二本松藩の藩主・丹羽長国は米沢に避難する。

城を守るのは家老・丹羽一学と老人と子供たちの守備隊である。

「風に散る霞の我が身はいとわねど心にかかる君が行く末」・・・と辞世を残し一学は自害する。

とにかくお家大事の時代なのだ。

そういう時代ゆえに憐れな末路をたどり射殺される少年兵・成田才次郎を演じる吉井一肇は14才の中学生。

今週は「家族ゲーム」でも自殺する中学生・真田宗多を演じており、一週間で二度死にました。

両方とも、ドラマの中核となる「死」であり、ある意味、少年俳優・吉井一肇の一週間だったのである。

死ぬ者は死に、生きるものは生きる・・・それが歴史を作って行くのだが・・・最後は誰もが死ぬのである。

それだけは今の処、間違いないのである。

で、『八重の桜・第24回』(NHK総合20130616PM8~)作・山本むつみ、演出・一木正恵を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は会津武士の中で一人・高級将校となった感じの日光口担当武官・山川大蔵重栄のお色直しヴァージョン・・・そしてついに登場、一刀流溝口派の奥義伝授者にして千五百石取りの会津藩家老・萱野権兵衛長修の二大描き下ろしイラスト公開でお得でございます。いよいよ・・・会津藩の主な家老グループも梶原平馬を残すのみですな。すごく楽しみでございまする。しかし、あくまでマイ・ペースでお願いいたします。

Yaeden024 慶応四年(1868年)の七月の戊辰戦争の動向は流動的である。何よりも参戦している新政府軍も奥羽越列藩同盟軍も烏合の衆であり、それぞれが記録を残しているために誰がどこで何をしたのか・・・辻褄が合わないことが多いのである。降伏した藩が戦場でも裏切ったとか、裏切らなかったとか、降伏した藩が最初から戦意がなかったとか、あったとか、敗走したのか、いやいや戦術的撤退なのか・・・死人に口なしなので都合の悪い事は死者に押しつけられたり、勝った方は勝った方でそれぞれに手柄を言いたてるのだった。七月四日、久保田(秋田)藩(藩主・佐竹義堯)は仙台より撤退した奥羽鎮撫総督九条道孝の引き渡しを求める仙台藩の使者を殺害し、新政府軍としての旗色を明らかにする。これに続いて新庄藩・本荘藩・矢島藩・亀田藩などが続々と新政府軍に恭順を示す。白河城の攻防戦において六月の棚倉城落城に続いて、七月十六日、三春藩(藩主・秋田映季)が降伏して開城。七月二十九日には守備隊を殲滅した板垣退助の迅衝隊が二本松城を占拠する。奇しくも同日、越後側では長岡城が新政府軍によって落城する。すでに孤立した日光口守備隊も戦術的撤退を終えており、会津藩は三方からの包囲を受けていた。八月上旬、新政府軍は会津攻めの準備をほぼ完了する。

宇都宮城が落城し、撤退してきた敗残兵と日光東照宮周辺付近で合流した会津藩山川歩兵隊は東照宮からの使者の訪問を受けていた。

「なに・・・山(日光)を下りよと申されるか・・・」

「権現様のご霊廟をお焼きするわけにはいきませぬ」

使いの僧侶は冷たく静かに言葉を続ける。

「それは不遜と申せましょう」

「しかし・・・我々は徳川家の御為に・・・戦っておるのだぞ」

「それはそれ・・・これはこれでございます・・・帝の使者は下山のための停戦を申し入れておりまする」

「手出しはせぬから・・・尻尾を巻いて逃げろ・・・ということか」

「所詮は・・・多勢に無勢・・・会津にて勢力を結集するのも戦の常道でしょう・・・食料・弾薬共に尽きているのではございませぬか」

山川大蔵は唇をかみしめた。

傷病兵を抱えた会津軍は山を下り、北を目指す。

日光に少数の守備兵を残した新政府軍は白河方面に移動し、一部は奥州街道に展開する。

神出鬼没の板垣退助は白河城落城後、東北方面に進出し、会津東側に包囲の腕を広げていた。

織田信長配下の戦国武将、丹羽長秀の血脈を伝える丹羽氏支配の二本松藩にはキリシタン弾圧の後に隠れキリシタンしのびとなった一族がいる。

板垣退助はこれを味方につけ、二本松藩軍を追い詰めて行った。

拠点を通報するキリシタンしのびの誘導により・・・配下の鉄砲忍びを二手に分けて常に十字砲撃を加えていくのである。

次第に数を減らす二本松軍はついに七月二十八日、藩主を城から脱出させた。

「いよいよ・・・明日は城攻めじゃきに・・・先手をキリシタンしのびにまかせるぜよ」

「ありがたき幸せ」

キリシタンしのびの長・三太夫は板垣退助に平伏する。

「まるや・・・さんがむりやありかんじょ・・・じゅすきり・・・ぱらいそ」

「おらしょ」

「おらしょ」

二百年の沈黙を破り、乱入したきりしたん忍びは二本松城内に残る老人・子供を虐殺した。

その光景を板垣退助は微笑んで見守る。

関連するキッドのブログ→第23話のレビュー

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2013年6月16日 (日)

あまちゃん、十一列目の土曜日(小泉今日子)

これほどまでに心理戦としての深みのある朝ドラマがかってあっただろうか。いやない。

「ちりとてちん」・・・葛藤は確かにあったけれど・・・謎が少ない感じ。

こちらは・・・中盤まで来ているのに・・・なぜ、アキがあれほどアホな子に育ったのかがまだ秘められている。

そんなアキを育てた春子も家出前までは分かったが、家出後は謎。

そんな春子を育てた夏ばっぱが一番わかりやすいのだが・・・それでも娘と孫に亀裂が入った時の応じ方はまだ謎を含んでいる。

足立一家もかなり見えてきたが・・・ユイとユイの両親の関係はまだ謎が多い。

一方、町おこし組はかなりわかりやすいのだが・・・大吉と春子の進展具合は謎である。

アキとユイが育てた北三陸の活気は求心力を失ってしまうのかどうかも謎だ。

東京に出発するのが・・・潮騒のメモリーズなのか・・・アキとユイなのかも謎なのである。

そういう謎を残しながら・・・ついに激突する・・・アイドルになるらしいヒロインとアイドルになれなかったヒロインの母親なのだった。

まあ、古典芸能以外の芸の世界は・・・常にとんびがタカを生むことで成立しているんだな・・・これがっ。

圭子がヒカルを生んじゃうこともあるけどな。

で、『連続テレビ小説・あまちゃん・第11週』(NHK総合20130610AM8~)脚本・宮藤官九郎、演出・吉田照幸を見た。2009年の夏休み。母の故郷・岩手県北三陸市(フィクション)にやってきたアキ(能年玲奈)は心の不安定な母親・春子(小泉今日子)と海女である祖母の夏(宮本信子)の葛藤に翻弄されながら、海女になり、南部ダイバーになり、北三陸のアイドルにまで上り詰める。アキは高校生とは思えない抜群の企画力を発揮し始め、袖が浜漁協を海女カフェに改装。新人海女も募集され・・・観光海女に新しい道を示すのだった。何一つ取り柄のなかったアキが海女として成功し、地元アイドルとしてもそれなりに成功し、北三陸になくてはならない存在となっていくことを・・・母親として喜びつつ・・・なんだかイライラが止まらない春子だった。それは・・・アキの親友ユイ(橋本愛)の指摘通り、「女としての嫉妬」なのか・・・それとも「アイドルになれなかった自分への後悔」なのか・・・それとも単に娘可愛さの心配性なのか・・・それはまだ謎なのである。

月曜日 なのにあなたは東京都へ行くの(橋本愛)

かって・・・春子もまた家出をして東京へ行った。

次に春子の消息が知れるのは東京で黒川正宗(尾美としのり)のタクシーから降りて帰郷しようとするがしなかったこと。

家出から八年後にアキを出産。

それから十六年後にもやしが床に落ちる音が聞こえるような家庭を築いたということである。

そして・・・家出から二年後にヒットした映画「潮騒のメモリー」とその主題歌には特別な気持ちがあるらしいということ。

家出したのは・・・「東京のテレビ番組のオーディション」を受けるためだったのだが・・・その結果さえ・・・不明なのだ。

十週どころか一週も勝ち抜けなかったのか・・・。

ともかく・・・アイドルになりたくてなりたくて仕方なかったのはユイと同じ。

町おこしのアイドルとして地元に縛られていたのも同じ。

そして・・・オーディションを受けようとしていたのも同じなのである。

春子はユイに共感してもおかしくないのだが・・・反応は拒絶なのである。

もちろん・・・ユイを直接、否定するわけではないが・・・芸能界は完全否定なのだった。

そもそも・・・春子だって・・・東京行きを決意したのは・・・「オーディションの通知」が来たからなのだ。「呼ばれたから行く」のである。

ユイもまた・・・夢のために出来るだけのことをして・・・オーディションを受けようとしただけなのだ。

その夢を完全に否定したのは今の処、母親の足立よしえ(八木亜希子)のように見えるが実際は父親の足立功(平泉成)だろう。自分の目の届かない場所へけして娘を行かせたくないのである。春子への入れ込み方を考えてもイサオはかなり精神的に病んでいる可能性はあります・・・それはないな。

しかし・・・金のなる木であるユイを絶対に手放さない北三陸の黒い大人たちの代表として春子は叫んだのではないはずだ。

家出した東京で・・・自称大手芸能事務所「ハートフル」のスカウトマン水口琢磨(松田龍平)・・・のような誰かに「田舎者だからと馬鹿にされ・・・最初から騙すつもりで」近づかれたらしい・・・春子なのだった。

すべて・・・判った上で夏ばっぱは「田舎者をかばってくれてありがとう」と実の娘に皮肉を言うのである。・・・いや誉めたんだろう表面上は・・・。表面上はな。春子の夏ばっぱへの思いが複雑怪奇なように・・・夏ばっぱの春子への思いもそれなりにミステリーなのだよねえ。

しかし・・・ユイにとってはすべては不条理な話なのである。

「ずっとアイドルになろうと頑張ってきた。そのチャンスが来た。それを家族、周囲の人間が一丸となってつぶそうとする・・・なんなのよ、これは」なのである。

しかし・・・ただ一人アキだけは違っていた。

アキにとって・・・たった一人の友達のユイ。

そのユイのたったひとつの願いがかなえられないなんて・・・。

そんなことは駄目だと心の底から思ったのだった。

ユイちゃんの願いを叶えたい。

アキが思い立ったら・・・成否はともかく・・・行くところまで行くのである。

大人たちの残酷な仕打ちに打ちのめされて引き籠りベッドちゃんになったユイをアキは蛇口さんこと水口を連れて訪問する。

そして、東京に戻る蛇口さんに念を押すのだった。

「くれぐれもユイちゃんのこと頼んだぞ」

もはや・・・アキはただの高校生ではなかった。

フェロモン婆の美寿々(美保純)のようにあっさりと恋を終わらせる恋多き海女でもない。

琥珀掘りの勉さん(塩見三省)のように騙されたことさえいい思い出に変えようとする好々爺でもない。

自分の思い立ったことは全力で叶えるパワーを持った朝ドラマのヒロインみたいな女の子になったのである。

もちろん、そういう言及は古美門弁護士にまかせておけばいいわけだが、古美門弁護士はあれだけ言う以上、朝ドラマは見ているわけである。っていうか、脚本家がガッキーの時は俺にやらせろと営業しているのだな。・・・いい加減にしておけよ。

火曜日 ユイちゃんのためならエンヤコーラ(能年玲奈)

春子は基本的に他人のことはどうでもいい女である。

自分中心に世の中が回っているような気がすればそれでいいのだ。

夏ばっぱの経営する喫茶リアス&スナック梨明日の雇われママにおさまっているとなんとなく居心地がいいのである。

地方テレビの1コーナーに娘が出てきてコメントしたりしていてもその程度は許容範囲らしい。

「ユイちゃんが復帰したらまた応援してけろ」と友達思いの娘が言うのは微笑ましいのだ。

そして、ユイは春子にとってはあくまで赤の他人なのである。

「東京ぐらいいかせてあげればいいのに」と気ままに言う。

「それはないべ」と春子との鶴光的お注射はまだ済んでないらしい大吉(杉本哲太)は田舎に縛られ続けた正義で断固たる態度である。

「結局、北鉄のことしか考えてないんですね」と吉田(荒川良々)・・・。

「いや・・・春ちゃんのことも考えてる・・・」「やめてよお」と居酒屋トークを交わす大吉春子である。夫婦漫才かっ。

「今回は職場恋愛ですから自然消滅は難しいと思う」と栗原しおり(安藤玉恵)が登場。

「・・・」沈黙で応えるヒロシ(小池徹平)だった。夫婦漫才かっ。

一方・・・ユイちゃんを誘い続けるアキ。

「ご飯食べていかない」とユイの母親に誘われる。

どうやら・・・都会育ちらしい・・・よしえ。

ある意味・・・都落ちしてきた女だが・・・なにしろ・・・功と結婚した女なのである・・・裏があることは確実だが・・・ひょっとしたら最後まで明かされないかもしれない。

「誤解してるのよね・・・東京は夢の国じゃないのに・・・一度言って見ればわかると思う・・・私は帰って来た子供たちを美味しい食事を作って待っているだけで幸せなのよ」

なんていいお母さんなんだろう。このお母さんは娘のことをバカとかブスとかけしていわないだろう。世の中の母親には春子じゃない人もいる。この事実を知ることはアキにとって極めて重要なことであった。

二人の会話に釣りだされてついにユイが部屋を出る。

アキはユイの部屋に連れ込まれる。

「あれ・・・みんな嘘だからね・・・近所付き合いもしないし、テレビ見て手芸して・・・そんなんで幸せなわけがない」

基本的に・・・引き籠り主婦なんじゃないか・・・よしえは。

確かにアキしか食べさせる相手がいなかったり、ステージ衣装にかける情熱は半端なかったし・・・友達少ない春子と意気投合なのである。

ユイの直感はけして間違っていないのだった。

だが・・・普通の人というものはそういうものなのだ。

ユイはそれ以外の何かを求めて・・・求めすぎて・・・ちょっと病んでいるのだった。

壁に貼りまくられた・・・ライバルとなるアイドル候補たち・・・。

ずんだずんだあ

ある意味、ストーカー気質なんだな。

「邪魔されなきゃ・・・岩手代表は私たちだったのに・・・」

「私たち・・・」

ずんだずんだずんだああ

アキは躊躇する。ユイの願いはかなえたい。しかし・・・そこに自分が参加することにはためらいがある。

けれど・・・ユイのために何かしなければならない。

アキの思いは堂々巡りをする・・・何故かと言えば・・・アキとユイの間には春子が立ちふさがっているからである。

春子の主張はただ一つ・・・「ママとともだちとどっちが大切なの」なのである。

それだけは譲れないのである。

その底には・・・「憧れの東京生まれなのにこの子はなんなのよ」があるのだな・・・きっと。

しかし・・・鬱屈したユイはこのままではダメになってしまうと直感するアキだった。

そして・・・観光協会で悪い大人たちに相談してみるのである。

ママ抜きでこの大人たちと渡り合う・・・アキはもはやただものではない。

岩手こっちゃこいテレビの池田ディレクター(野間口徹)もすでにユイ頼みの一人となっている。

「早く、ユイちゃんに復帰してもらいたい・・・アキちゃんでもいい」

「でも」と反応するアキ。春子の血が騒ぎ出しているのだ。

「いや・・・潮騒のメモリーズが復活してもらうのがみんなの願いなんだよ」

「でも・・・ママが・・・」

アキを支配する春子。アキにとって春子は上位自我そのものである。アキはある意味、春子の憂鬱に完全に洗脳されているのだ。しかし・・・その洗脳は解け始めていた。

アキは考える。昔はおらが海女になるのもママは反対してた。

海女になるのは認めてくれた。

海女カフェもなんとか認めてくれた。

海女カフェ系なら・・・ガードが甘いんだな・・・。

ユイちゃんと言えば秋祭りのミス北鉄だべ。

海女と・・・祭り・・・。

海女フェスティバル・・・うん、これはいけるんでねえか。

「にぎやかなことはいいことだ」と夏ばっぱ。

「ユイちゃん来たらさらに儲かるな」と眼鏡会計婆(木野花)。

「んだんだ」と弥生(渡辺えり)・・・。

「海女ーソニックな・・・」とどうやら洋楽マニアらしい花巻珠子(伊勢志摩)・・・。

すでに正しい道を神のように選択するアキは花巻の意見を採択するのだった。

「うん・・・そりや・・・受けるな・・・海女フェスで海女ーソニック・・・いけるべ」

今・・・アキは偉大なる母親・神なる春子を乗り越えようとしていた。

水曜日 金曜ロードショー「潮騒のメモリー」(薬師丸ひろ子)

アキはついに春子のものまねをして母親を笑いの対象にするところまで自己革新を進行させていた。

常に白眼視されてきたアキなので春子は白目を剥くことで表現される。

「芸能界なんてチャラチャラしたの、ママは絶対許さないからね」

海女たちは一同爆笑である。特に美寿々はバカ受けなのだった。

やはり・・・最も年齢が近いライバルだったんだな。

そこへ・・・噂をすれば影という古典にのっとって春子が登場。

アキは困惑するが・・・夏ばっぱは孫と娘の間を取り持つのだった。

「アキを借りるぞ・・・」

「うん・・・いいよ」

筋は通したという夏だったが・・・春子には通じないと直感するアキだった。

しかし・・・こうなれば・・・目的達成のために・・・陰謀を行うしかないと決断するアキだった。

それよりも・・・ついに春子が映画「潮騒のメモリー」を見て・・・しかも飾りじゃない涙を流しているのを目撃したアキは・・・女優・鈴鹿ひろ美(薬師丸ひろ子)の虜となってしまったのである。

ファイナル勉さんや・・・たどたどしい吉田の解説をふまえて・・・本物と出会ったアキは・・・ずっと昔のことが昨日のようで・・・つい昨日のことがずっと昔のように感じる時の流れを飛び越えたのである。

「はい、またお会いしましたね。今夜、お届けする映画は1986年に大ヒットした潮騒のメモリー・・・あの鈴鹿ひろ美さんのデビュー作なんですね。シベリア超特急なみにとんでも映画でありながら・・・見た者は必ず感動のあまり泣いてしまう・・・不思議な映画なんですね・・・いやあ、映画って本当にいいもんですね」

潮騒のメモリーは三島由紀夫の「潮騒」を彷彿とさせる物語である。しかし、奇想天外な展開と斬新な演出である意味、三島を越えたらしい。

舞台は・・・宮城県・松島。

美しい海女のひろみ(声・能年玲奈)は本土にもその美少女ぶりが聞こえるほどだった。

海女婆である母親(声・小泉今日子)はひろみを名家・豪田様に嫁がせようとと目論んでいた。

しかし・・・ひろみの心は三浦友和とか真田広之を思わせるハンサムだが貧乏な漁師・シンスケに奪われていたのである。

「そんな・・・チャラチャラした色恋沙汰、婆は許さんぞ」

「おら・・・シンスケさんが好きだ・・・シンスケさんのお嫁さんになるだ」

ひろみの恋の炎は燃えあがるのだった。

そんなある日・・・シンスケは原因不明の熱病に冒されてしまう。

「おら・・・もうだめだ・・・」

「シンスケさん・・・おらが助けるだ」

ひろみはシンスケを背負うと島を横断し、浜から小船で本土の病院目指して漕ぎ出す。

しかし、巨大なタイフーンが二人を襲う。

船は沈没し、暴風と荒波の中、波間を漂う二人。

だが、ひろみはシンスケを掴んだまま泳ぎに泳ぐのだった。

二人が打ち上げられたのは見知らぬ無人島だった。

おそらく・・・木更津キャッツアイもこの島に来ることになるのだろう。

ひろみとシンスケの蒼いサンゴ礁ライフが始ったのである。

やがて・・・二人の欲望が激しく燃えあがる夜がやってきた。

しかし・・・そこには泥棒蛇科の大蛇が立ちふさがったのだ。

「シンスケ・・・その蛇を飛び越えてこい」

シンスケがその蛇を飛び越えたのか・・・どうか・・・お約束の朝がやってくる。

すると・・・二人の情欲の炎が燃え過ぎたのか島は紅蓮の炎に包まれていた。

「来てよ・・・その火を飛び越えて・・・」

「無理だ・・・」と震えるシンスケ。

振り向けば・・・朝日・・・そして波しぶき・・・。

ひろみは・・・決意を秘めて・・・仁王立ちするのだった・・・。

「いやあ・・・どこが泣けるのか・・・まったくわかりませんが・・・理屈では分からない何かがある・・・そして・・・それを表現する女優さんがいる・・・それが優れた青春映画というものなのかもしれません。この映画でデビューし、大スターとなる鈴鹿ひろ美はそれを見事に証明したと言えるのではないでしょうか。いやあ、映画って本当にいいものですね、それではみなさん、またお会いしましょう・・・」

なぜ・・・泣くのか・・・不明だが・・・とにかく・・・アキもまた滂沱の涙を流すのだった。

そして・・・伝家の宝刀「かっけえ」が飛び出すのである。

海女~ソニックの陰謀は着々と進み・・・ついに・・・北鉄の看板を海女カフェに移設する段階となった。

そして・・・ユイが海女カフェにやってくる。

「ここで歌ってけろ・・・」

「でも・・・それはデビューしてからの約束じゃ・・・」

デビューしてから地方の舞台に立つのと・・・地方の舞台でデビューするのとは違うと感じるユイだった。それではお座敷列車と同じではないか・・・。

「あの時は・・・みんなのために歌った・・・今度は自分のために歌えばいい」と夏ばっぱ。

「ユイちゃんはアイドルだべ・・・みんなを喜ばせるのが仕事だべ・・・でも今のユイちゃんは職場放棄だべ」とアキ。

「・・・」

「やれよ・・・やらないなら・・・看板を一人で駅に戻せ」とヒロシ。

そのなんだか男らしい一言に・・・「かっけえ」を抜くアキだった。

三人の情熱が消えかかったユイの情熱に点火したのだった。

「わかった・・・やる」

お座敷列車限定ユニット・潮騒のメモリーズ再結成の瞬間だった。

それはユイのためにできることを・・・ママに逆らってもやると・・・アキが革命の狼煙をあげた瞬間でもあった。

木曜日 アイドルイドムをシンゲツで迎撃せよ!(原史奈)

誰が「鉄甲機ミカヅキ」(2000年)でザメに憑依された二宮ユキの話をしろと言った。

あの頃、ストーカーに狙われた可憐な少女を演じていた原史奈も32才である。

「5時だべ!わんこチャンネル」に福田萌(福田萌)、足立ユイ(橋本愛)、に続く三代目レポーターの原史奈(原史奈)登場である。「サラリーマンNEO」の流れだな。

2009年8月・・・海女のサマーフェスティバル・海女~ソニックの開催準備は順調に進んでいた。

春子にだけ極秘(シークレット)のライブ・ステージは監修・ヒロシ、演出・振付・ユイの足立兄妹がナイス・コンビネーションを披露して猛獣・弥生も飼育するのだった。

「はい、ワンツー、あわせて」

「弥生さん、さがって」

アキは春子のことは忘れてワクワクしてくるのだった。

しおりのレディー・ガガも、美寿々のレディー・蛾も、花巻の「Radio Ga Ga」のフレディー・マーキュリー(クイーン)も新人海女軍団のモー娘メドレーも、弥生のデザートのみ採用の美空ひばりもアキをウキウキさせるのだった。

ちなみにレディー・ガガは1986年生まれである。

「ついに今夜、岩手県民が待ち望んだ潮騒のメモリーズが復活です」

テレビから流れる原史奈のレポートに耳を疑った春子だった。

春子だけが知らされていない衝撃の事実。

アキがウキウキすれば・・・春子はモヤモヤする。

アキがワクワクすれば・・・春子はワナワナと震えるのだった。

「なんだ・・・そりゃあ・・・あたしは聞いてないぞ」

春子は自分だけが疎外されていたことに気がつくのである。

直接は描かれないが、理解を示すフリをしながら・・・娘を縛りつけておきたい足立功も「キャンプのカレーでいいじゃないか・・・全国区は大変だぞ」と唇をかみしめる。根っからの田舎者だからである。

そんな・・・都会でものすごく失敗した母親や、田舎でそこそこ成功した父親のいびつな思惑をぶっとばし・・・アキとユイの友情パワーは炸裂するのだった。

「なんだか・・・楽しくなってきたユイちゃんのおかげだべ」

「私も・・・アキちゃんのおかげで復活できたよ」

二人はお互いを必要とする存在だと心から思う。

すべてを見抜いているようにフレディーは楽屋に顔を出す。

「あっためておいたぜ・・・」

「ありがとう・・・フレディー」

今、ヒビキ(村杉蝉之介)ら熱狂的なファンが待ち望んだ・・・潮騒のメモリーズがステージの輝きの中に降臨する。

そして・・・はじけるアキとユイ。

来てよ その火を 飛び越えて

砂に書いた アイ ミス ユー

乱舞する海女ダンサーズ。

不思議の国の北リアス ユイのかわいさ じぇじぇじぇじぇじぇ!

春子は血相を変えて海女カフェに向かった。

ふざけんな・・・ふざけんな・・・ふざけんな・・・。

なんで・・・アタシじゃなくて・・・アキなのよ・・・。

なんで・・・アキばかり・・・チヤホヤされるのよ。

そんなの絶対に許せねえ。

春子の中には17才の春子がいる。

春子は永遠の17才を今も彷徨っている。

大盛況にホクホク顔の夏ばっぱは・・・。

始末に負えない娘の到着に慄くのだった。

友達少ない マーメイド

マーメード 好きよ 嫌いよ

絶頂のアキは春子を発見して蠟人形となってステージ上で凍りつく。

まめぶやませ アキもそこそこ じぇじぇじぇじぇじぇ!

今、アキと春子は宿命のライバルとして激突の時を迎えていたのである。

金曜日 私は泣いたことがない、でもそれは違うと感じてた(宮本信子)

春子の怒りは冷たい怒りである。

地方局の中継が終わるまでは待つ冷静さがある。

しかし・・・羽ばたこうとする我が子は絶対に許さない。

そして・・・我が子を狙う害虫どもは絶対に絶対に許さないのである。

そんな母をアキはずっと・・・なんか変だと感じてた。

しかし、イスが画鋲で針の山になっていてもイジメだとは思わないアキなのだ。

どれだけの言葉の暴力と体罰を母から与えられてもそれを虐待とは思わない。

しかし、アキは泣いてばかりいたのだ。

その日も・・・幸せを感じていたアキに・・・幸せを感じられない春子の鉄槌が下されるのだった。

静まり返る場内。

アキの芸能活動に反対する母親の存在はファンならば全員知っていることだが・・・。

幼い子供を持つ母親たちは子供をキチガイ女から遠ざけるのだった。

全員から非難というよりは避難の視線を浴びて・・・春子は自分だけが正常なのだと主張する。

「ママとの約束やぶったわね」

「・・・」

「ひっこめ・・・ばばあ」

「ばばあ・・・ってだれのことよ、私は17才よ」

我を忘れる春子だった。

「私も娘も故郷で暮らしていく決心がようやくついたんです」

「そりゃ・・・あんただけだろう・・・」

「アキちゃんはこっちに来てすぐ決心ついてたよな」

「そっとしておいてもらいたいんです」

「そう思ったら一人でパチンコしてろよ」

「進路のことだって、いろいろ相談したいんです」

会場にはユイちゃん派の磯野先生(皆川猿時)も来場してエールを送っていた。

「いや・・・天野は資格もとったし・・・就職先も決まっているし・・・問題ありません」

「とにかく・・・チャラチャラした娘になってほしくないんです」

「そりゃ・・・ママの考えだべ・・・おらにはおらの考えがある」

「なんだって・・・」

「何もいきなり殴ることねえべ・・・」

「アキの言うことが正しい・・・ここはアキの職場だべ・・・そこにいきなり乗り込んできて・・・くらわすのはよくないべ」と夏ばっぱ。

母親に正論を言われて絶句する春子だった。

春子の世界は半分崩壊した。

17才の春子は泣くのだった。

あの日、私にはなんにも言わなかったのに。

アキには言うのかよ。

私に向かって言うのかよ。

春子はアキを連れて・・・完全な敵地から逃亡するのだった。

天野家に集まる関係者一同。

春子はなんとか・・・自分の正しさを示そうとする。

しかし・・・一同は春子の理不尽な怒りをなだめるために集まっているのだ。

「聞かせてもらおうじゃないの・・・あんたの考えってやつを」

「・・・」

「おばさん・・・アキちゃんは・・・私のために・・・」とユイ。

「だあれがあ、おばさんだってええええ・・・あんたは黙ってよ・・・これは天野家の問題なんだから」

「おらは・・・おらはアイドルになりてえんだ」

「はあ・・・」

再び鉄拳制裁する春子だった。

だまれ。だまれ。だまれ。

お前なんかアイドルになれるもんか。

アタシがなれなかったアイドルに。

あんたがなれるワケないだろう。

「何、言ってんの・・・バーカ・・・みんなバカでしょう・・・この子」

しかし・・・誰も春子には同意しないのだった。

「歌って踊って潜ってウニとって客に食わせるアイドルだ」

「南部ダイバー色も欲しいな」と磯野先生。

ついに観光海女の極意の境地に達した孫娘に我が意を得たりの夏ばっぱ。

春子だけが・・・何一つ理解できないのだった。

17才の春子の時間は止まっているのだ。

「バカ・・・」

「バカって言う方がバカだ・・・バ~カ」

春子は衝撃を受けた。

娘にバカって言われた。娘にバカって言われた。ほとんど誰にも言われなかったのに。

娘にバカって言われた。

私の・・・私の・・・可愛いアキに・・・。

アキをユイが追いかける・・・。

「アキちゃん・・・」

「ユイちゃん・・・」

「なりましょう・・・一緒にアイドルに・・・」

しかし・・・アキにはまだ・・・アイドル=東京という発想はないのだった。

そこへ・・・すでにネットを通じて情報を得た蛇口さんからアキに電話が入る。

「今、太巻に替わるよ」

芸能プロデューサー・荒巻太一(古田新太)は語りかける。

「夏休みでしょう・・・東京に来なよ」

「じぇじぇじぇ・・・」

絶句するアキだった。

なにしろ・・・アキはアイドルになりたいと言った瞬間にスカウトされたのだから。

もはや・・・疑いようもなくアキは由緒正しい朝ドラマのヒロインなのだった。

土曜日 気絶するほど悩ましい育児(小泉今日子)

春子の中で・・・アキのママというキャラクターは失神中である。

なにしろ・・・最愛の・・・しかも完全に支配していたはずの娘にバ~カって言われてしまったのである。気絶するしかないのであった。

そのために三人の女の朝食に登場するのは17才の春子なのだ。

あ・・・言い遅れましたが春子はこの妄想の中では二重人格という設定です。

今、言うのかよっ。

「何よ・・・ふてくされて・・・ぶったことはあやまったでしょ」

「また・・・ぶったべ・・・」

「そりゃ・・・あんたがアイドルになりたいなんて・・・変なこと言うからでしょ。

猫背のブスのメスの猿のくせに・・・」

「ムキキキー」

「春子、朝からギスギスするな・・・アキも朝から泣くな」

夏ばっぱ・・・困り果てても動じない見事なキャラクターだなあ。

Am011 アキの頭の中は・・・春子に逆らった自分の言動のことで一杯だった。

そんなアキに業務連絡をするユイ。

「・・・なのよ・・・わかった」

「え・・・」

「どこから聞いてなかったの・・・?」

「最初から・・・」

ユイはアキと一緒に上京する計画を立案していたのだった。

他人の深層心理を見抜くエスパーであるユイにはアキの心の中はお見通しだった。

表面上はアキのママとの葛藤で悩んでいるフリをしているが・・・アイドルになるために・・・ユイと一緒に上京することはアキにとっても決定事項だったのだ。

後は・・・本音が浮かび上がるのを待つだけと読んだユイは一旦、アキを解き放つ。

ベッドちゃんことユイが去ると・・・アキの元にユイの兄で観光協会のスパイであるストーブさんことヒロシが現れる。

「アキちゃん・・・本当にアイドルになるの・・・」

「あれは・・・売り言葉に買い言葉みたいだったけど・・・でも・・・鈴鹿ひろ美みたいな女優になりてえと思ったことはホントだ」

「それで・・・東京に行くつもり・・・」

「ユイちゃんはその気みたいだけど・・・おらは東京は嫌いだ・・・でも、ユイちゃんを一人でほっとけねえし・・・どうしたもんか・・・東京にもいつかリベンジしないとなんねえことはなんねえし・・・あれ・・・おら、東京行きの方向で考えてるのか」

「・・・アキちゃんは・・・本当にすごいよ・・・」

「ストーブさんも・・・東京から逃げ帰ったオスの負け犬だもんな」

「オスの・・・」

早速、ドス黒い大人たちに報告するヒロシだった。

飼われたイヌになったらしい。

「すると・・・封鎖は解除できねえな」

「すぐ決行しそうか・・・」

「アキちゃんはまだ迷ってるみたいでした」

「じゃあ・・・とりあえず今日は大丈夫か・・・」

一年を経てついに完成しそうなジオラマを観光協会の会長・菅原保(吹越満)は感慨深く見つめる。

色あせた北三陸は・・・アキによって総天然色となって蘇ったのである。

そんなアキを絶対に手放せない大人たちだった。

しかし、脱出も二度目なら少しは上手に・・・と考えるユイはとりあえず現金持って即実行体制を整えていたのだった。

「今夜のバスで行くわよ・・・北三陸発・・・終電の後の90分が勝負・・・」

海女カフェでアキにチケットを渡すユイだった。

「このままか・・・」

「このままよ・・・」

「最後に・・・夏ばっぱの顔が見たい」

「じゃ・・・駅で待ってる」

アキは天野家に戻る。

気配に気がついて起きあがる夏。

「ごはんにすっぺ」

「おら・・・売れ残りのうに丼でいい」

「もう・・・飽きたべ」

「ううん・・・うに丼がいいの」

「お前は本当に手のかからない子だな・・・明日も団体さんが入って大忙しだ・・・みんなアキのおかげだ・・・ありがとうな」

アキは夏に背を向けてウニ丼を夢中で食べる。

「ばっぱ・・・うに丼もう一つ食べていいか」

夏は目を開いて熟睡していた・・・。

アキは・・・家を出た。

袖が浜駅から北鉄にのって・・・二個目のうに丼を泣きながら食べるのだった。

今、アキは凶暴な母も優しい祖母も捨ててアイドルへの道を歩き出していた。

子供たちは知らない母親が子供だったことを。

母親は忘れる・・・自分が娘だったことを。

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2013年6月15日 (土)

みんな!ビューティフル・ドリーム・ループだよ!(本郷奏多)

夢は仮想現実のルーツである。

私たちはテレビの前にすわり、そこにはない何かを見る。

テレビを見ている人は眠りの中で夢を見ているのと同じようなものだ。

ほとんどの時間をテレビの前で過ごす人はずっと夢を見ている。

それが放送の産物であろうと、コンシューマ・ゲームやパッケージ・プログラムであろうと同じである。

夢を作る人々は人間の大切な時間を消費させる。

時にはよりよい現実を願って。

時には苦い現実を薄めるために。

あるいは単なるビジネスとして。

本物の夢は眠りの中にある。

しかし、それは本人でさえも振り返ることが難しい隠された現象である。

人々は永遠の夢に憧れる。

しかし、それは永遠の人生と同じく虚構の世界に属している。

それでもある種の人々はビューティフル・ドリーマーを求めて世界を彷徨い続けるのだ。

で、『みんな!エスパーだよ!・第9回』(テレビ東京201306150012~)原作・若杉公徳、脚本・田中眞一、演出・月川翔を見た。数々の傑作を生み出してきたこの辺りの枠にまた新たな傑作が加わったと言えるだろう。「キューティーハニーTL」「怨み屋本舗」「湯けむりスナイパー」「まほろ」「モテキ」・・・21世紀の傑作ドラマの半分はこの辺の枠から生じているのだ。・・・それは断言しすぎだろう。それはともかくとして・・・この辺境の虚空から生み出された物語が・・・夏帆をはじめとする役者たちの存在感を我が心の内で不動のものとしたことは間違いないと思う。ありがとうフレディ! ・・・。それは明日だろうっ。

愛知県立東三河の地で覚醒した愛知県立東三河高校の男子生徒・鴨川嘉郎(染谷将太)は東京からの転校生・浅見紗英(真野恵里菜)と束の間の休日を楽しんでいた。

先行する回転木馬に浅見さんがいて嘉郎の乗る木馬は永遠に追いつけないメリーゴーランド。

「楽しいわ・・・嘉郎くん」

「まるで夢みたいだ」

「私を捕まえてよ・・・嘉郎くん」

「無理だで・・・手が届かんだに」

「しょうがないなあ・・・」

紗英は木馬を下りると嘉郎の所まで来てキスを求めるように目を閉じる。

そこで・・・覚醒する嘉郎だった。

他人の心の声を聞くテレパシーの能力に目覚め、ヒーローになった嘉郎だが・・・父親(安田顕)の研究に不信感を抱き、エスパーを嫌悪する紗英との距離はますます開いてしまった・・・と思い悩む嘉郎だった。

その苦悩を冴えない若者らしく、匿名でラジオに投書したりしてみる。

すると・・・。

「えーと、次は好きな人にまったく相手にされないことで悩んでいる高校生のかもがわよしろうくん・・・おっと匿名希望のうっかりよっちゃんです」

翌日、親友のヤス(柄本時生)に終日、その件でからかわれる嘉郎。

鬱屈した気持ちで喫茶「シーホース」にやってくると店内では・・・本当は嘉郎のことが好きらしいヤリマンに見えるが処女のテレパシスト・美由紀(夏帆)がタロット・カードで占われている最中である。

怪しい占い師・土岐野悠介(本郷奏多)は嘉郎を占う。

「あなたは・・・恋に悩んでいる・・・恋の相手はあなたを誤解している・・・その誤解はますま深まるばかりだ・・・」

「当たっている」

占い師は次のカードを開く。

それは・・・破滅のカードだった。

「このままでは・・・あなたは破滅します」

不可解な思いを感じながら家路に着く嘉郎。

(僕は・・・いつシーホースを出たのかな)

見慣れた商店街だがどことなく異様な光景が広がっている。

すれ違う女性は嘉郎の愛するタンクトップとホットパンツを着用。

タイトスカートを履いた女性が身を屈めて落し物を拾う。

メイドカフェのメイドがティッシュを配る。

ナースとキャビン・アテンダンドが通り過ぎる。

修道尼が愛ほ叫ぶ。

(なんか・・・おかしいぞ・・・)

街角では不良にカツアゲされるヤスがゴミ箱から救いを求める。

(ごめん・・・ヤス)

逃げるように地下道に下りた嘉郎を占い師が待っていた。

「破滅ってどういうことなんですか」

「あなたの恋が成就しなければ・・・世界は終ってしまうっていうことです」

「そんな・・・どうすれば・・・」

「愛を告白して・・・運命の扉を開くしかありません」

「無理です」

「そうしないと・・・破滅です」

豊橋総合動植物公園のような場所の巨大恐竜展示物のようなものの前に浅見さんを呼び出す嘉郎だった。

訝しげに嘉郎を見つめる浅見さんに勇気をだしてはじめての告白をする嘉郎。

「最初から好きでした・・・僕と付き合ってください」

「ごめん・・・それは無理」

予想していたものの淡い期待を裏切られて苦悶しながら走り出す嘉郎。

車道に飛び出すと車に轢かれてしまうのだった。

気がつけばシーホースの客席である。

マスターの輝光(マキタスポーツ)が声をかける。

「どうしたに・・・急に眠ってもうて」

美由紀が向いの席でジュースを飲みながら言う。

「どうせ・・・浅見紗英のことで悩んで寝不足なんだら」

そこへ・・・全裸テレポートしてくる瞬間移動エスパーの洋介(深水元基)だった。

「やったぜ・・・人類股間計画は順調だ・・・もうすぐ女子生徒全員が俺のチンコを視認することになる」

驚いてジュースをこぼした美由紀は洋介を蹴り殺すのだった。

助けを求める洋介を残し、家路に着いた嘉郎。

見慣れた商店街を通り抜け、ヤスを見捨てて、地下道の占い師に逢う。

「おかしい・・・デジャブを感じる」

「失敗しましたね」

「あんなこと・・・二度とごめんだに」

「あなたは運命を誤解している・・・あなたの恋が成就しなければ世界は破滅するのです」

「でも・・・」

「どんな風に告白したんですか・・・」

「普通に・・・」

「彼女は・・・もてるから・・・普通の告白には飽きているのかも・・・冷たい言葉を投げてみたらどうでしょう」

再び、浅見さんを呼び出した嘉郎。

「いつも・・・君の言いなりになると思ったら大間違いだに・・・君はすぐに他人のせいにするけど・・・君が東京の男にふられたのは君に魅力がなかっただけだがや」

「何言ってるの・・・キモい」

「そんな・・・」

立ち去ろうとする浅見さんを思わず抱きすくめる嘉郎。

そこに警官隊が到着する。

「その女性を離しなさい」

「誤解だに」

しかし、問答無用で射殺される嘉郎だった。

再び、目覚めるとシーホースである。

嘉郎は無限のループにはまり込んだようだった。

(これは夢・・・それともタイプ・ワープ?)

嘉郎は地下道へと急ぐ。

「どうなっているんだに」

「とにかく・・・恋を成就するのです」

嘉郎はあらゆる可能性を試してみることにした。

浅見さんの心をつかむために・・・アタックを繰り返すのである。

ついには首輪をはめたパンツ犬になる嘉郎。

しかし・・・浅見さんは嘉郎を飼い犬にさえしないのだった。

「もうだめだら・・・僕には無理だに」

「あきらめないで・・・君には夢を現実に変える力がある」

嘉郎に強力な暗示を与える占い師だった。

眩暈を感じる嘉郎。

シャンプーの香りが鼻をくすぐる。

目の前に黒髪があった。

嘉郎の身体に預けられた浅見さんの背中の重さと温もり。

二人は一頭の回転木馬に二人乗りしているのだった。

「浅見さん・・・」

「楽しいね・・・嘉郎くん・・・」

「浅見さん・・・」

「ずっと一緒にいようね・・・嘉郎くん」

「ちょっと待ちいな」

割り込んでくるのは隣の木馬に乗った美由紀ちゃんだった。

「美由紀ちゃん」

「嘉郎・・・本当はアタシのことが好きなんだろう」

「そんな・・・」

「嘉郎くんが好きなのは私でしょう」

「嘉郎・・・」

「そんな・・・浅見さんと・・・美由紀ちゃんのどちらか・・・なんて・・・」

背後の木馬には占い師が乗っていた。

「これが・・・君の・・・パラダイスなんだね」

シーホースでは嘉郎が昏睡を続けていた。

心配げに見つめるエスパーたち。

そこに教授が到着する。

「これは・・・ドリーム・ループだ・・・エスパーの能力によって夢の回廊に精神が閉塞されているんだ・・・このままでは嘉郎君の精神は崩壊してしまうだろう」

「なんとか・・・せんと」

「あの占い師が怪しいだに」

サイコメトラー英雄(鈴之助)によって謎の採掘場にたどり着くエスパー・チームだった。

「本当にこんなところに・・・まるでショッカーの怪人みたいだに」

「あ・・・あそこにいた」と透視能力者・直也(柾木玲弥)が叫ぶ。

「みんな、あいつを捕まえるだに」と美由紀がいきり立つがエスパーたちはそれほど気勢があがらないのだった。

「君は誤解しているよ・・・僕は嘉郎くんの夢をかなえてあげただけさ・・・皆さんもいかがですか」

「美女に囲まれたい・・・」

「世界中の女にチンコを見せたい・・・」

「純粋無垢な女と交際したい・・・」

「明るくなりたい・・・」

それぞれの願望を口にするエスパーたち。しかし、美由紀の夢は嘉郎を取り戻すことだった。

「そうですか・・・しかし・・・僕を倒したって嘉郎くんは目覚めません・・・目覚めの鍵が必要なのです・・・嘉郎くんの悩みの根源がね・・・」

徒歩で立ち去る占い師だった。

美由紀は唇をかみしめるが・・・ある意味、手段を選ばない女だった。

「どうせ・・・嘉郎の悩みは浅見紗英のことだで」

エスパーたちは紗英を拉致するのだった。

「何するのよ」

「嘉郎にキスせい・・・そうすれば・・・きっと嘉郎は目が覚める・・・」

「嫌よ・・・」

「え・・・」と困惑する教授。

浅見が嘉郎と無理矢理キスさせられそうになった瞬間・・・。

マスターの心に微妙な感情が芽生える。

(いやだ・・・嘉郎がキスするなんて・・・なんだか・・・いやだ)

マスターは嘉郎の唇を奪う。すると覚醒する嘉郎。

「誰でも良かったのかよ・・・」と絶句する美由紀だった。

こうして・・・嘉郎は危地を脱した。

「なんだ・・・まだ・・・喧嘩してるの・・・じゃ・・・こうしよう・・・月火水は浅見さんで・・・木金土は美由紀ちゃん・・・日曜日はどうしょうかな」

「寝ぼけとんのか・・・」

呆れながら・・・深く安堵する美由紀だった。

そして、いよいよ・・・物語は佳境に入って行く。

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2013年6月14日 (金)

ロミオの上司とジュリエットの上司は甘い夢を見てるんだ(新垣結衣)

マーキューシオ(宝塚歌劇団版)かっ。

上司たちが優しいのでかえって結ばれないロミジュリって新しいよな。

誰かを愛することの心の震えを知らない上司の方が本人同士は盛り上がれるよね。

なんていうか、今回は愛で包んでくれるお母さんのような上司だよな。

二夜連続・生瀬にも笑うけどな。

まあ、「相棒」の亀山(警察官)と美和子(新聞記者)のパターンと言えないこともない。

二人とも退職しちゃうけどな。

右翼の夫と左翼の妻とか意外といるけどな。

お互いに組織からは日和見って言われちゃうんだろうなあ。

それか、夫婦喧嘩が絶えないかだよな。

まあ、世界を敵に回しても君を守るがロマンチックなんだよね。

で、『日曜劇場 空飛ぶ広報室・第9回』(TBSテレビ20130609PM9~)原作・有川浩、脚本・野木亜紀子、演出・福田亮介を見た。両論併記とは一つの事柄に対する解釈の対立がある場合に主に賛成論と反対論の双方を記述することである。これによって意見の食い違いが生じるのは当然の結果である。しかし、我が国においては「戦争反対論」と「戦争賛成論」を両論併記することはあまりないと思われる。これは一種の言論統制の結果として国民が「戦争反対」に賛成しているという暗黙の了解があるからである。戦争好きにとっては・・・戦争って可哀相と言わざるをえない無情がそこにはある。戦争は犬かよっ。犬にはかなりの人が賛成するんじゃないか。戦争に対する賛成と反対なんて犬が好きか嫌いかの感情論じゃないのかよ。そのために戦争に付属した軍隊も反対を前提とした両論併記が前提になる場合がある。軍隊は最悪論と軍隊はあまり良くない論である。そういう問題じゃないことを国民に叩き込むべきじゃないのか。・・・いい加減にしておけよ。世の中には殺人と死刑と戦争による殺傷の区別のつかない人は多いんだから。

父の影響で空自の整備士となった入間基地第2輸送航空隊整備群検査隊2分隊整備員・アッキーエこと芳川秋恵空士長(南明奈)を主軸として防衛省航空幕僚監部総務部広報室が制作した「自衛官募集」のプロモーション・ビデオは内外に好評を博した。

スカイこと空井大祐2等空尉(綾野剛)の上司・広報室長・鷺坂正司1等空佐(柴田恭兵)も我が子を誉めるように喜ぶのだった。

一方で帝都テレビ情報局ディレクターの稲ピョンこと稲葉リカ(新垣結衣)のアッキーエを取材した新番組「あしたキラリ」のためのドキュメント・ビデオも仕上がった。

リカの上司・阿久津チーフディレクター(生瀬勝久)もまた目を細める。

そして、スカイは勇気を出してはじめてのキスに挑み、リカは手をつないで走り出す。

何もかもがだんだん良くなっていく世界。

しかし、そういう世界を絶対に許せない人々は常にいるのだ。

一部外国勢力の走狗であり、怪しい NPO法人はたらく市民の会代表の小日向耕三(中村ゆうじ)は日本の防衛力を削減する指令に基づき、妨害工作を開始するのだった。

彼は「今回の自衛官募集の広報ビデオは日本の右傾化を目指す一部反動勢力が捏造されたヒューマニズムによって戦争賛美を推進し、就職難にあえぐ若者を美辞麗句で誘導し大日本帝国的な徴兵制度復活を目指す国家的陰謀である」という論調のコラムを新聞に発表する。そこまでは言ってないだろう。しかし、今時、こんな論調は黙殺されるけどな。しかし、そこはドラマである。

たちまち・・・「航空自衛隊のPVは嘘八百」が一部暇を持て余した工作員によって拡大再生産され、世論を誘導するほどに物議を醸したのだった。

そして、あろうことか帝都テレビ報道局の番組「NEWSピープル」に出演した小日向耕三の発言を番組が好意的に紹介するという事態となったのである。

現代の日本ではこんな発言した方が猛攻撃をされそうだが・・・そこは殺人事件に関与の前科のあるこの局のドラマなので・・・ある意味、ありえない抗議が航空自衛隊に殺到するのであった。

一般論として、三権分立の考え方があり、シビリアンコントロールされた自衛隊は行政府に属する。行政もまた権力の一つである。ジャーナリズムはその監視を存在意義として、マス・メディアであるテレビ局もまた建前的にはそれを使命とする。当然、そこにもまた一種の権力は発生する。権力と権力は影響しあうために・・・時には敵対することが健全な場合がある。

だから、基本的に航空自衛隊とテレビ局は敵同士なのである。

テレビ局によって一方的に事実無根の情報攻撃に晒された航空自衛隊広報室は当然のこととして講義し、番組での謝罪と訂正を求める。

普通は「番組の中で誤解を招く発言があったことをお詫びします」で済む話である。

一体、何に謝っているのか判らないコメントを耳にしたことがある方は多いと思われる。

しかし、番組は「一出演者の一主張」を封じることは「言論統制」につながるとしてこれを拒絶する。テレビ局の全体会議は合意に達し・・・航空自衛隊と帝都テレビは敵対関係に突入したのである。

帝都テレビの決断は編集権を放棄した悪い判断だが、組織防衛のための苦渋の決断でもある。

リカ=帝都テレビという若者らしい愚かな考えで・・・訂正記事が入ることを期待したスカイだったが・・・リカにはそんな力も発言権もないのである。

もちろん、リカは「あれは捏造されたエピソードではありません」と上司に言ってみるのだが「もう決定したことだ」と阿久津は取り合わないのだった。

「こちらから抗議することになりました」と報告するスカイにリカは唇をかみしめるのだった。

リカの中で正義感と恋と情熱が一体となって燃えあがる。

そして、組織の構成を無視した直訴という非常手段に訴えるのだった。

相手が古巣の報道局だったことも災いしたのである。

リカとしてはせめて「エピソードが捏造ではないことだけでも訂正すべきだ」と主張したかったのである。

直訴相手の帝都テレビ報道局長・室崎統治(新井康弘)である。

室崎は穏便に応ずるが、出過ぎた真似をしたリカの非を阿久津の上司である情報局長に問うのである。

情報局長からリカの処分を求められた阿久津は苦渋の決断をするのであった。

「お前の意見で・・・全体会議の結論が変わるなんてことは最初からありえない・・・お前には航空自衛隊担当をやめてもらう・・・ちゃんと挨拶しておけ」

「何か・・・圧力が」

「いいや・・・これは俺の判断だ・・・お前は肩入れしすぎだ」

失意のリカだった。もはや・・・報道の正義のためなのか・・・愛するスカイのためなのか自分でもわからない感じのリカなのである。

一方、空自広報室は苦情の電話が殺到しても・・・比嘉哲広1等空曹(ムロツヨシ)たちは淡々と業務をこなす。柚木典子3等空佐(水野美紀)と槙博巳3等空佐(高橋努)の階級を越えた報道班内恋愛を知っても専守防衛に徹するのだった。

スカイはリカと連絡がつかなくなり・・・ちょっと不安になるのだった。

出口のない鬱屈を抱えたリカの耳に報道局ディレクター(水橋研二)と報道記者の香塚ともみ(三倉茉奈)の会話が飛び込んでくる。

「あのバカまた問題おこしたんだってな・・・大体、自衛隊なんかの肩持つってどういうことなんだよ」

「それは言いすぎですよ・・・」

ともみ・・・ドロドロ路線から脱したんだな。

しかし、リカは聞き捨てにはできないのだった。

「なんか・・・ってなんなんですか、自衛隊なんかって」

「およよ」

「彼らは普通の人間ですよ・・・普通に働いて・・・時には一生懸命努力して、時には挫折して悩んで・・・笑ったり泣いたりする普通の人たちなんですよ」

「だから・・・どうした」

「そういう人たちを一方的に誹謗中傷してそれっきりってあんまりじゃないですか」

「ひとつの意見を紹介したにすぎない・・・第一、それを一方的だというお前の意見だって一方的だろうが」

「私は・・・」

そこへ仲裁に入る藤枝敏生アナウンサー(桐山漣)だった。

「ちょっと・・・来てくれ」

「なによ・・・」

その一部始終を技術局カメラマンの坂手はじめ(渋川清彦)は見ていた。

別室に移ったリカと藤枝アナ。

「いい加減にしろよ」

「私はただ・・・」

「ただなんだよ・・・これ以上、問題起こしたら・・・番組制作から外されるぞ・・・」

「・・・」

「もう・・・外されかけたのよ」とともみが参加する。

「え」

「あんたが報道局長にねじこんだから・・・情報局長まで行っちゃったのよ。阿久津さんはあんたを庇ってくれたのよ・・・ここで問題を起こしたら阿久津さんの責任問題になるのよ・・・そこが判ってるの・・・」

「わ、私は・・・」

「あんた・・・自衛隊員にいれあげて・・・自分を見失ってるって言われてんのよ」

「・・・」

「そうじゃないとしても・・・もしもそうだとしたらなおさら・・・自重しなさいよ・・・」

同期二人の友情あふれる説得に反論できないリカ。そこへ・・・スカイがリカを訪ねて来社するのだった。

「なんか・・・まずい感じですよねえ」とアシスタント・ディレクターの佐藤珠輝(大川藍)も空気を読むのだった。

リカはスカイと外出した。

「ずっと・・・連絡がとれなくなって・・・心配してたんです。あのことも話し合いたかったし・・・あれはちょっとひどかったですよね」

「私・・・もう関係ないんです・・・広報室担当じゃなくなったんです・・・ご挨拶に伺うつもりだったんですが・・・空井さんから・・・皆さんにお伝えください」

「稲ぴょん・・・」

「私、間違いました・・・間違ってました・・・間違いだったんです」

恋愛も若気の至りも一つに溶け合って意味不明になったリカだった。

広報室でスカイの報告を受けた鷺坂は事情を察するのだった。

そして・・・偽名・大詐欺師ヘンリー・ゴンドーフ(映画「スティング」の登場人物)を使って帝都テレビに潜入し、阿久津と対峙するのだった。

「自衛隊情報保全隊の方かと思いましたよ」

「諜報活動にきたわけではありません」

「・・・」

「稲ぴょんは大丈夫ですか・・・」

「稲ぴょん・・・」

「いや・・・稲葉さんが我々と親しくなりすぎて苦しい立場に置かれているなら・・・それは我々にも責任があることですから・・・」

「それは・・・彼女自身の問題です・・・それより・・・上司として感謝申し上げたい・・・稲葉は面白い番組を作れるようになってきた・・・」

「それは・・・ウチの空井との恋のせいですかな」

「そうですねえ・・・恋は大切ですよね」

暗黙の了解をする二人だった。二人は一応、情報のプロフェッショナルなのである。

しかし・・・二人の恋は暗礁に乗り上げていた。

リカに求め過ぎてリカを苦しめたと知ったスカイは会いたい気持ちをセーブする。

スカイの求めに応じられなかったリカは責任を感じて苦悶する。

月に吠えるスカイ。残業中に慟哭するリカ。

ああ、青春なのだった。

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Sk008 ごっこガーデン。マッハで駆け落ちセット。まこカメラマン坂手さんグッジョブ!・・・さすがは広島県出身、仁義をわきまえとるけんのお。比嘉さんはおとぼけなのかフェイントなのか煙に巻き方も深みがあるのでしゅーっ。せっかく、チューもしたのに変な人のせいで変なムードに~。しかし・・・二人の上司は本当に部下思いなのだジョー。まこもかまぼこ工場の従業員に夏のボーナス100円上乗せを決めました。じいや~ランチはお好み焼き五重焼きでフレディーロイドのショータイム付にしちくり~

くうリカは公私混同と社会正義と恋愛とすべてのあれやこれやでもういっぱいいっぱいなんだよね。何一つ悪くないのにねえ。そして・・・スカイは思いが熱すぎてリカを火傷させちゃったんじゃないかって坂手さんのプレゼントでわかったんだよねえ。うれしくてくやしくてもうしわけなくて立ちすくんじゃう・・・ああ、せつない。とにかく、人の恋路を邪魔する奴は犬に食われちゃえばいいのにね~。まあ、自分の発言で恋が壊れるとか想定外だろうけどさ~。とにかくジェットでかけおちは楽しいよねえ。宇宙まで飛ぶ思いだから~

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2013年6月13日 (木)

家族ゲーム~濡れ衣を着せて貶め毀す作戦~(忽那汐里)

冤罪を示す言葉として誰もが知る「濡れ衣」は語源が定かならない言葉である。

民間伝承として、九州地方には「後妻が先妻の娘を汚すために潮吹いた漁師の装束を娘の寝床に隠しておいた」という話が流布しており、これが語源だとする説がある。

「伊勢物語」や「源氏物語」にも用語として濡れ衣は登場する。

10世紀頃の北宋には次のようなエピソードがある。

城外で野宿していたある僧侶が盗賊が女を攫って逃げて行くのを目撃した。

自分に嫌疑のかかるのを恐れた僧侶はその場を逃げ出し、夜の闇の中で井戸に落ちてしまう。

そこには件の女が殺されて遺棄されており、僧侶は追手に捕縛されてしまう。

向敏中という後に宰相となる男が真犯人をとらえて僧侶の罪が晴れるというよくある筋立てなのだが・・・この時、僧侶はまさに濡れ衣を着ていたわけなのだな。

人が裁きというものをはじめてから・・・つねに濡れ衣を着るものは存在するという話である。

で、『家族ゲーム・第9回』(フジテレビ20130612PM10~)原作・本間洋平、脚本・武藤将吾、演出・岩田和行を見た。陰謀と密告は親子のような関係である。陰謀の基本は独裁者の暗殺にある。暗殺に成功すれば時には「大化の改新」のような歴史的事実になる場合もある。しかし、多くは失敗して実行犯は逃亡に失敗すれば死刑になるのだ。なぜ、失敗するかと言えば暗殺仲間が裏切るからである。場合によっては暗殺計画もないのに密告されてしまう場合もある。それもまた陰謀と言えよう。このように世界は疑心暗鬼に満ちており、まったく油断ができないのだなあ。

悪魔の家庭教師・吉本荒野/田子雄大(櫻井翔)の陰謀によって崩壊した沼田家。

その惨憺たる荒廃ぶりが淡々と描写される。

もはや・・・家族には空虚な会話さえなく・・・冒頭は数分に渡る無言劇である。

自暴自棄となった家族たちは全員で自ら破壊した家庭の残骸で時を過ごす。

夫の沼田一茂(板尾創路)は束の間の毎日が日曜日を満喫する。

妻で二児の母親でもある沼田佳代子(鈴木保奈美)は惰眠をむさぼる。

長男の慎一(神木隆之介)は受験勉強から解放され自慰三昧である。

そして・・・次男の茂之(浦上晟周)はコンシューマ・ゲームとカップ麺で過ごす以前の生活に戻るのだった。

世はすべてこともなしで・・・これはこれで素晴らしい日々の訪れと言えるだろう。

このまま、生命尽きるまで生きていくのもいいじゃないかと思う。

しかし、人は完全に怠惰にはなりきれず・・・せっかくの気楽な現状を打破しようとあがいたりするものなのである。

息子と同じコンビニエンス・ストアで買い出しをし、息子と同じアルバイト募集告知を眺めた一茂は就職運動を開始する。日本テレビのハローワーク(公共職業安定所)にはキューティハニーがいたりするのだが・・・ここには存在せずに・・・現状を認知しない一茂はただ窘められるばかりだった。

佳代子は気晴らしに旅に出ることにして二夜連続スティックタイプのチョコレート・ビスケットを登場させるのだった。

なんだ・・・杏も保奈美もポッキーのコマーシャルに出たいのか。

茂之には親友となったハンドルネームそのちゃんこと園田満(松島海斗)からメールが届く。

「どうしたの?」

一人、慎一だけが・・・何をしていいのか、わからなくなっていた。

「小さい頃から優等生を演じてきた僕は本当に自分がしたいことが何ひとつなくなっていたのです」

そこへ捨てたセックスフレンドの最上飛鳥(北原里英)が訪ねてくる。

「どうして・・・学校をやめてしまったの」

「なぜ、万引きの証拠写真を学校に提出しなかったんだ」

「だって・・・あなたを愛しているから・・・あの、吉本って人はきっとそれを試すために」

吉本への好意を察知した慎一は逆上する。

「そんなに抱かれたきゃ抱いてやるよ」

「やめてよ」

最上飛鳥は落ちぶれた慎一に安売りはしないのだった。

慎一は自分が値段を下げたことを自覚した。

すべての原因は吉本荒野である。

慎一は決着を求めてナイフをもって吉本の棲家に向かう。

ドアを破壊して部屋に侵入した慎一はすでに空き室となった室内でわざとらしい手掛かりを発見する。

劇団のちらしには慎一の恋する女の写真が掲載されていた。

劇団員だった水上沙良/浅海舞香/立花真希(恒松祐里忽那汐里)を訊ねた慎一は食事を奢ることを条件に沙良と吉本荒野との関係を訊き出すのだった。

「私はね・・・昔、田子雄大先生がいた中学の生徒だったのよ。そして自殺した真田宗多(吉井一肇)は幼馴染の同級生だった。田子先生と私と真田くんは平凡だけどそれなりに幸せな中学生活を送っていたの。あの、悪魔のような怪物教師・吉本荒野(忍成修吾)が赴任してくるまではね。東大出身で二枚目の吉本先生に熱中する女子生徒は多かったわ。私もラブレターを書いたりしてね。とてもきれいな先生だったの。でもきれいな薔薇には棘があるって言うでしょう。吉本先生は物凄い凌辱者だったのよ。人を苛むことが生きがいという人。それが先天的なものか、後天的なものかは別として、そういう人は存在する。そして吉本先生はそういう喜びを得るためには手段を選ばないタイプでそのうえ狡猾だったのよ。彼は最初から中学生を虐待するために教職についたわけ。手始めに同好の趣味の教師二人を配下にして中学生いじめを始めたわけ。不運なことに真田くんはその現場を目撃してしまった。吉本は真田くんをターゲットにして虐待を始めたの。父一人子一人だった真田くんの父親が家庭内暴力をふるった罪を捏造して、真田くんの口を封じたのよ・・・こうして真田くんは吉本荒野の虐待用玩具となったの。田子先生はいい先生だったから真田くんの様子がおかしいのに気がついて彼を問いただしたわけ。吉本荒野の非道を知った田子先生は直接、吉本荒野を詰問したの。荒野はあっさりと白状して改心を誓ったけれどもちろん嘘だったのよ。田子先生はいい人だったけどただそれだけの男だった。真田くんを守ると言ったけれど守り切ることはできなかった。田子先生は吉本荒野という毒蛇の恐ろしさを知らなかったのね。まもなく田子先生が女子生徒と性的接触をしているという怪文書が出回った。もちろん吉本荒野の陰謀だけど田子先生が事実無根を訴えても噂はやまなかった。やがて田子先生の構内における立場は虚弱なものになっていった。そして荒野は真田くんへの虐待を再開したの。真田くんは田子先生に助けを求めたけれど田子先生は自分を守るのが精一杯だったのよ。そして今度は私が荒野に呼び出された。何も知らない私はウキウキして応じたわ。ところがそこには真田くんが監禁されていて暴力を振るわれていた。私が服を脱がないと真田くんがもっと苦しむことになると脅迫されたの。私は裸になって写真を撮られたわ。荒野はその写真を田子先生のカバンに入れて決定的な証拠にするつもりだった。そして私も荒野の性的玩具にされてしまったのよ。真田くんは泣きながら謝ってくれたけど・・・真田くんは何一つ悪くないじゃない。私は子供だったのでどうするか皆目見当がつかなかったのよ。そして・・・事件が起こったの。写真を取り戻そうとした真田くんは弾みで荒野を階段から突き落として昏睡状態にさせ、それから森の中へ逃亡した。連絡を受けた田子先生は・・・必死に説得したけれど・・・真田くんは自殺したの。恐ろしい怪物だった荒野とそれに挫かれた弱い自分を呪いながらね・・・こうして田子先生は呪われた悪魔になったのよ・・・悪魔狩りをする悪魔にね」

「すごい迷惑な話だ・・・で、たまたま怪物になるかもしれない俺と・・・弱い弟が矯正の対象になったわけだ・・・」

「残念なことにあなたは怪物になる素質充分だったのよね」

「・・・」

「私は・・・結果として真田くんに助けられたわけだから、真田くんの志に呪われた田子先生に喜んで協力したわけ・・・なにしろ、演技者として楽しい仕事だったしね」

「・・・また会ってくれますか」

「奢ってくれるなら喜んで」

慎一は父親譲りの未練たっぷりな気持ちを抱えて家路についた。

茂之はかって自分を苛めたゴリラバカこと山尾泰司(西本銀二郎)が苛めの対象になっていることに戸惑っていた。

佳代子はもっと気晴らしをするために離婚を決意する。

一茂は廃墟と化した家を売り払うことを決意した。

四人家族が一同に会した夜。

離婚届にサインしようとする父親を現状維持を望む茂之が止めている最中。

気まぐれな悪魔は再び、沼田家に姿を見せたのだった。

はたして・・・彼は沼田家に救いの手を差し伸べるのか。それともさらなる破滅をもたらすのか。

まあ、どちらにしろ悪魔のすることなので恐ろしいことにはなると考える。

明日になったら

お帰りなさいっ言えるよね

明日になったら

おはようって言うんだ

明日になったら

ただいまって言う

明日になったら

おやすみなさい、お母さんって

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2013年6月12日 (水)

好きになっちゃったものはしょうがないのです(香取慎吾)

幽霊を好きになっちゃうのはある意味、究極のプラトニック・ラブだよな。

基本的に入籍できないから・・・婚姻関係は成立しないしなあ。

なんていうか・・・生殖もできない。

まあ、霊感生徒みたいなタイプを養子にして家族は作れる可能性があります。

性的満足感は・・・あるっていえばあるよな。

すくなくとも着替えができるので脱ぐことができるわけだし。

ポルターガイスト的な物理化現象が可能な以上、それなりのヴァイブレーションが可能なのだ。

幽霊側の満足感はどうなるんだ。

いや・・・それなりに味わうことができるみたいな。

すると局部が透明化するのか。

憑依つかえば・・・あらゆる女体で・・・そ、それは犯罪ですからーーーっ。

で、『幽かな彼女・第10回』(フジテレビ20130611PM10~)脚本・古家和尚、演出・白木啓一郎を見た。世田谷区立小原南中学校に憑依した熱血女教師・アカネ(杏)の霊によって・・・突然、見て見ぬふりができなくなってしまった教師と生徒たち。本来なら内在化して生徒たちが自己処理して暗黒化したり消化したり進化したりする問題がすべて噴出し、トラブルだらけの3年2組のレッテルが貼られるのであった。主人公の神山先生(香取慎吾)が教師として覚醒し真摯になればなるほど問題教師になっていく矛盾。素晴らしい展開だと言わざるを得ない。

アカネ効果はついに虐待されて国立大学の有名付属小学校から脱落した京塚りさ(山本舞香)に波及し傷害事件に発展。りさに過去の自分を見出した転職希望の3年2組副担任の河合先生(前田敦子)までが熱血化してしまうのだった。

諸悪の根源である京塚の父親(飯田基祐)は自身が政治的圧力にまけて娘のいじめ問題を隠蔽したのを棚にあげて「いじめられるよりもいじめる子になれ」と言い放ち、熱血化した神山先生を鉄拳制裁寸前まで追い込む。

振り上げた拳を煽った張本人のアカネが制止するが・・・神山先生の正論に虫酸が走った京塚の父親は教育委員会に圧力をかけて神山先生の転任を命ずる。

だが、世田谷区教育委員会管理局教育指導係の轟木庸一郎(加藤虎ノ介)の発言を録音した霧澤和泉副校長(真矢みき)はマスメディアのリークを匂わせ神山先生を守るのだった。

しかし、アカネの死亡事件を精神的外傷として抱える霧澤は京塚りさの復学は拒むのだった。

りさを復学させる条件として京塚の父親は神山先生の転任を求め、神山先生は苦渋の選択に追い込まれていく。

浮遊霊の吉岡さんは「クズで恥知らずな政治家は憑依して国会議事堂で全裸でツイスト・アンド・シャウトさせるべき・・・」と提案するが・・・それでは根本的な解決にはならないと釘を刺す神山先生だった。

お菓子の魂を抜きながら・・・アカネは文化祭で合唱することが決まった3年2組で神山先生が指揮することに心を奪われるのである。

「そこかよっ」とツッコミを入れる神山先生。

「大丈夫ですよ・・・生徒たちを信じればいいんです」と楽観的なアカネだった。

「そうかな・・・」アカネに言われると納得してしまう神山先生。これはすでに惚れた弱みの発露なのだ。

「それよりも・・・神山先生には・・・もう一人、生徒を救ってもらいたいんです・・・」

「え」

「私の生徒だった・・・和泉ちゃんを」

「霧澤副校長を・・・」

神山先生は悩む。もしも・・・副校長の心が癒されたら・・・アカネが成仏してしまうのではないかと危惧するのだった。

浮遊霊化したアカネは神出鬼没である。

本来は霊能力のない岡本香奈(未来穂香)の構えるカメラのファインダー越しに出現してみせたりするのだ。居酒屋少女はお調子者なので変なものが見えても動じないのだった。

美少女だらけの3年2組ともお別れの時期が迫っているのである。

それにしても凄いメンバーで美少女なのにほとんど出番のない子もいた程の充実ぶりである。

モデルを目指す柚木明日香(広瀬すず)、かけおち少女野本香織(荒川ちか)、優等生の葉山風(柴田杏花)、内気なダンス少女藤田ともみ(上白石萌歌)、霊感少女森野小夜(森迫永依)などエピソードありのメンバーの他にもおっとりした老谷美香(中村ゆりか)なども美少女でしたなあ。

さて・・・誰もいない教室に副校長を呼び出した神山先生。

「今まで・・・特に話さなかったのですが・・・実は霊感が強いのです」

「え・・・」

「副校長は・・・かってのクラスメート渡辺くんの事件をなぜ・・・僕が知っていたか・・・不思議に思われていたでしょう・・・実はそれはアカネ先生の幽霊から直接聞いたのです。信じてもらえないかもしれませんが・・・彼女は今もそこにいます・・・」

「アカネ先生が・・・」

中学生時代の副校長のエピソードを話す神山先生に・・・半信半疑の副校長の顔色が変わって行く。

「アカネ先生は誤解を解きたいと言っています・・・渡辺くんはあなたを使ってアカネ先生を呼び出しましたが・・・それは彼女を殺すためではなかった・・・彼は・・・京塚りさと同様に自殺しようとしていたのです・・・」

「え」

「それを止めようとしたアカネ先生は不運にも致命傷を負ってしまいました・・・あれは悲しい事故だったのです」

「そんな・・・」

「彼女はあなたに・・・過去に囚われず前を見て進めと言っています」

涙にくれる副校長の頬は薔薇色に染まる。

「彼女は一つだけ訊きたいことがあるそうです・・・」

「・・・」

「渡辺くんは・・・その後、どうなったのでしょうか」

「彼は・・・成人して・・・就職しましたが・・・職場で事故にあって・・・亡くなったそうです」

アカネはそれを訊いて肩を落とした。

そして・・・そっと副校長を抱きしめるのだった。

熱血に目覚めた河合先生は・・・生徒指導ゲームの達人・窪内先生(林泰文)に教えを乞う。

「そんなに簡単な方法があれば苦労しませんよ・・・いいんじゃないですか・・・熱血に目覚めてハイになった感じで・・・なりふり構わずアタックすれば・・・」

「・・・」

勢いにのって京塚家の家庭訪問を敢行する河合先生だった。

似た者同士の二人は心底意気投合するのである。

「私も文化祭の合唱の曲目、リクエストしてもいいのかな」

「いいに決まってるでしょう」

しかし・・・二人はりさの復学と神山先生の転任が天秤にかけられたことを知る。

「なんで・・・そんなことを」とりさの父親にくってかかる河合先生。

「きれいごとを言うあの教師に虫酸が走ったからさ・・・親なんてものは子供がいじめられっ子になるよりいじめっ子であってもらいたいとみんな願っているさ・・・競争社会なんだから」

「あなたが政治家だと思うと吐き気がするわ」

無言で同意を示すりさ。

父親は嘲笑しながら去っていくのだった。

「神山って・・・本当にバカなの」

「すごい・・・バカなのよ」

りさの心が動いた瞬間である。

その頃、窪内先生はもう一人の事件の当事者である被害者の矢沢舞(飯豊まりえ)に声をかける。生身の生徒と話すのは一年ぶりの快挙だった。

「なんですか・・・」

「いいんじゃないか・・・言いたいことを言えば」

「変なやつ・・・」

その光景を目撃した岩名先生(高嶋政宏)はレア・カードを引いた小学生のような気分になるのだった。

神山先生は決断した。

「今日、一日だけ・・・娘さんの担任でいさせてください」

「一日だけか・・・」

京塚の父親は譲歩することに慣れた政治家だった。

「さあ・・・登校しよう」

「でも・・・それじゃ・・・先生が」

「あなたには学校でやりなおしたいことがあるはずです・・・今日だけは私の指示に従ってください」

京塚りさは登校した。

不穏な空気に包まれる3年2組・・・。

「先生大丈夫でしょうか・・・」と河合先生が問う。

「私たちにできるのは生徒を信じること・・・そして生徒を見守ることだけです」と神山先生が答える。

「話したいことがある」と京塚りさ。

「私にはないわ・・・」と矢沢舞。

「ケガをさせて・・・ごめん」

「それだけ・・・」

「・・・」

「私はあなたがこわかった」

「わかっていたわ・・・そうと知ってつきあっていたから」

「・・・」

「でも・・・それだけじゃない・・・カラオケに行ったり買い物をしたり・・・楽しかったこともあった」

「あんた・・・わたしのことなんだと思っているの」

「ただのクラスメート」

「・・・」

「でも・・・今は・・・ともだちになりたいと思っている」

矢沢舞は・・・京塚りさの暴走を止めようとした女なのである。

それなりのモラルを持っていたのだ。

矢沢舞は京塚りさを平手打ちして・・・すべてを水に流すのだった。

「皆さん・・・私の話を聞いてください」と神山先生は言った。

「私が・・・最初に皆さんと逢った時、私は皆さんにまったく興味がありませんでした。皆さんの間にある微妙な関係に触れるのがこわくもありました。しかし、ある人にそんなことでは教師になった意味がないと叱られたのです。私はおそるおそる皆さんの世界に近づきました。そして・・・皆さんが必死で生きていることを知ったのです。私がみなさんの役に立ったのかどうかはわかりません。ただ・・・私は思っています。教師になって本当によかったと・・・」

神山先生は職員室に戻り、荷物をまとめたのだった。

そして・・・河合先生に指揮棒を託す。

教室では疑問の声があがっていた。

「神山先生・・・様子が変だったな」

京塚りさが言う。

「それは・・・私のせいだと思う」

生徒たちは事情を知った。

アカネは神山先生が合唱の指揮をしないことが不満だった。

「次の学校でやるからいいでしょう」

「次って・・・」

「一緒に来るでしょう・・・」

「一緒に・・・」

「だって好きになったらずっと一緒にいたいでしょう」

「そんな・・・私・・・いつ成仏するかわからない・・・幽霊ですよ」

「僕だって・・・いつ死ぬかわからない人間です」

「・・・」

「・・・」

そこへ・・・鳴り響く電話の呼び出し音。ラブコメ的なお約束中のお約束である。

「え・・・生徒がバリケード築いて教室に立て籠もった・・・って」

次週、最終回なのだった。二人の愛の行方は予断を許さない。

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2013年6月11日 (火)

孤高の釣り師ガリレオ~助手(渡辺いっけい)で鬼畜(生瀬勝久)を釣る

初めて行く場所をマップで検索する時代である。

知らない街を迷いながら歩くのは楽しい事だが、時間的な制約があるとそうもいかない場合がある。

あらかじめ・・・住所から目的地を検索し、最寄りの駅からの道をネット上で視察するわけである。

もちろん、リアルタイムではないので消失してしまう物件もあるのだが・・・ほぼその通りの光景が現地でもくりひろげられる。

そのデジャヴ感覚がある意味、楽しいのである。

思わず、見たままの光景に見とれて立ち止まり、あぶなく遅刻しそうになったりするのだった。

まあ、ガリレオには限らないのだが・・・ドラマもある程度、数をこなせば・・・そういう感覚の連続と言えないこともない。

で、『ガリレオ(第2シーズン)・第9回』(フジテレビ20130603PM9~)原作・東野圭吾、脚本・福田靖、演出・金井紘を見た。「相棒」シリーズを見ていれば、狂気の犯罪者・浅倉禄郎をすでに知っているわけである。「トリック」のおかしな刑事・矢部謙三とあわせて生瀬の産んだ偉大なるキャラクターであることは言うまでもない。今回のうらぶれた物理学者・高藤英治(生瀬勝久)は両方の味を楽しめるキャラクターと言えるだろう。そういう意味でお得です。

一方でガリレオこと帝都大学物理学科准教授・湯川学(福山雅治)の助手を務める栗林宏美を演じる渡辺いっけいは救命病棟24時の小田切薫医局長でおなじみである。というか、ものすごくどこにでもいる。上野なつひが黒井ミサだった「エコエコアザラク ~眼~」で探偵やっていたりするのである。

小劇団の匂いの漂う最強の脇役陣である。ちなみに生瀬が二歳年上なのである。

この二人が・・・うらぶれた住居で邂逅するシーンは・・・モロボシ・ダンことウルトラセブンとメトロン星人がお茶の間で語り合うようなインパクトがあった。

ある意味、このシーンだけで満足できる回だったなあ。

時々、お互いの欲望を処理する程度の愛人関係にあるガリレオとオカルト小娘刑事ちゃん・岸谷美砂警部補(吉高由里子)とに似たような内容の手紙が届く。

「悪魔の手」と名乗る自称・天才物理学者が「ガリレオ」と「ガリレオに捜査協力している警視庁」に「予告殺人」という残虐な犯罪手段で挑戦状を送って来たのだった。

第二の手紙によれば・・・すでに犠牲者は出ていた。

それは転落死として処理されていた上田重之(岡本正仁)という清掃員だった。

犠牲者は衆人環視の中、ビルの窓を清掃中に転落死したのである。

「悪魔の手」は犯行前日にインターネットの特定のサイトに犯行予告を書きこんでいたのである。

しかし、ガリレオは手紙とインターネットの書き込みという二種類の通信方法に疑問を感じるのだった。

「なぜ・・・殺人予告はインターネットへの書き込みで・・・結果報告は手紙なのか・・・」

ガリレオと小娘刑事が困惑している間に・・・第二の事件が発生する。

男性会社員が踏切を横断中、下り電車からは逃れて助かったと思わせておいて上り電車に轢殺されるというホラーな演出で死亡したのである。

例によって犯行予告はネットへの書き込み、犯行報告は手紙だった。

その頃、万年助手の栗林は旧友に呼び出されていた。

かっては大学の講師だったが今はカルチャーセンターなどで講義をする落ちぶれた風情の高藤英治(生瀬勝久)である。

アパートで不遇を嘆きあう二人。

しかし・・・高藤は妻帯者であり、栗林はその点はうらやましいのだった。

だが・・・高藤の妻は不在だった。

「悪魔の手」は「ガリレオと警察」に記者会見を開くように要求するが、黙殺されたために犯行をマス・メディアにリークする。

窮地に追い込まれた警察は小娘刑事に圧力を加えるのである。

小娘刑事は仕方なく部下の太田川稔刑事(澤部佑)に圧力を加えるのだった。

「事故で処理された事件をすべて洗いなおして・・・」

「日本で何件、そういうケースがあると思っているのですか」

「やるしかないのよ」

しかし・・・ガリレオはもう少し、事例を絞ることに成功するのだった。

詐欺師が被害者に錯誤を仕掛ける古典的な手口の一つに着想したのだった。

たとえば・・・予言である。

「競馬のあるレースで本命が来る」という予言と「本命が来ない」という予言を別々の不特定多数の人間に提示する。

本命が来た場合には今度は本命が来ると予想した相手の半数に「本命が来ない」という予言を残りの半数に「本命が来ない」という予言を提示する。

本命が来なかった場合には本命が来ないと世宋した相手に同様の提示を行う。

手順を繰り返すことによって「予言」が成就していると錯誤する特定の人間を生みだす手口である。

同様に・・・今回は犯行予告に・・・失敗した予告があるとガリレオは推理したのである。

学生たちを動員したキーワード検索によって「失敗した犯行予告」を突き止めるガリレオ。

それは「高速道路における殺人予告」だった。

「この予告日時周辺で被害者が死亡しなかった事例を捜査してくれ」

ガリレオのオーダーで捜査した小娘刑事は一件の事例をヒットするのだった。

さっそく、被害者になりそこなった女性(MEGUMI)に事情を聴取するガリレオと小娘刑事。

「運転中に突然、耳鳴りがして眩暈を感じたんです・・・停車できたのは運がよかったとしか言えません・・・しかし、病院で検査しても原因が特定できなかったのです」

たちまち、科学者としての直感が冴えわたるガリレオだった。

危険を察知した小娘刑事だっだ時はすでにおそかったのである。

「ああ・・・できれば・・・ここに」と手帳を広げる小娘刑事しかし、ガリレオは口紅を取り出して鏡に書くのだった。

「ルージュの伝言ですか・・・ユーミンですか・・・フィニッシュした後に女に後処理させるタイプですか~・・・おしぼり大好きなんですか~」

かわいいぞ、オカルトちゃんかわいいぞである。

やがて・・・ガリレオは小倉智昭(小倉智昭)の「ワイドショー」に出演して犯人を「グズでノロマなろくでなし、おまえの母ちゃんデベソ」と煽るのだった。

そして・・・辺鄙な場所での講演会を告知するのだった。

すべての準備を終えて・・・助手の運転で会場に向かうガリレオ。

小娘刑事は助手も疑っていたがガリレオは助手は悪い人間ではないと信じているのだ。

ただし、囮作戦には巻き込むのだった。

憤激してまんまと餌に飛び付く犯人。

指向性の強いスピーカーを利用した車載型の音響兵器でターゲットの平衡感覚を狂わせていたのは・・・高藤英治だった。

しかし、ガリレオは音響の効果を電流による刺激でリセットする防護策を講じていたのだった。

ガリレオの周囲には小娘刑事の指揮する覆面パトカーが多数配置されていてたちまち・・・高藤は逮捕されるのである。

「彼は・・・かって学会で・・・先生に論破されたことがきっかけで転落したと・・・逆恨みしていたそうです」

「まったく・・・記憶にないな」

「彼は・・・内縁の妻を殺害して奥多摩に埋めていましたが・・・それも先生のせいだと」

「他人のせいにするにも程があるだろう・・・」と助手。

「万年助手からは有益な情報は何も引き出せなかったが・・・いつか、先生を蹴落としたいという意欲は感じられたと・・・」

「そんな馬鹿な・・・大好きな先生を僕が蹴落としたいなんて思うわけないじゃないか」

「・・・」

「・・・」

「・・・ごめんなさい」

すべての責任を他者に転嫁するものは当然の結果として己を見失うのである。

謝罪はその最後の一線を越えないための手段なのだ。

犯人が女性でなかったためにガリレオは被害者と刑事の二者選択に悩むのだった。

グラマーかスレンダーか。

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2013年6月10日 (月)

うらやましつのをかくしつまたのへつこころのままにみをもかくしでごぜえやす(綾瀬はるか)

蝸牛がうらやましいよ・・・怨みを隠してへつらって生きてその上で思うがままに身を隠せたらいいよなあ・・・。

会津藩家老・西郷頼母ほど切腹時を見失った男もざらにはいないだろう。

そもそも・・・財政難に喘いでいた会津藩が京都守護職を引受けたことを諌めて謹慎させられた時点で腹を切るべきだったのだ。

結局、紆余曲折あって家老に返り咲き・・・白河城攻防戦の主将となる。

三ヶ月に渡る攻防戦で・・・敵の五倍の戦力で戦い、作戦ミスで城を奪われた後は・・・戦死者の数を重ねるだけの最悪の采配を振るった・・・この敗北の時に切腹するべきだったのだ。

しかし・・・生き残り、籠城戦に参加。屋敷に残した老母、妻、娘たちは全員自刃して果てた。

その上で無条件降伏。会津藩解体である。それでも切腹しないなんて・・・全くなんて生命惜しみの強い男なのか。

自殺しようとする人にはかなりの反面教師なのだな。「西郷頼母だって天寿を全うしたんだからもう少し生きればあ」なのである。

そんな西郷頼母の明治維新後の歌が・・・白河の古戦場には晒されています。

で、『八重の桜・第23回』(NHK総合20130609PM8~)作・山本むつみ、演出・加藤拓を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回はいよいよどう考えても明治維新後までは生き残れなさそうなのにしっかり生き残ってでもやっぱり西南戦争で戦死する会津藩きっての武闘派・鬼の佐川官兵衛描き下ろしイラスト大公開でお得でございます。それにつけても世良修蔵は無惨な最後・・・。最近深夜に再放送されていた「東京少女セピア編・入れ替わり少女」(2007年)では小沢仁志は女子中学生の草刈麻有と心が入れ替わってすごくかわいかったのに・・・。大体、世良は奇兵隊あがりとはいえ・・・儒学者で文官だから交渉役になった人物なのに・・・。面白すぎるキャラにされちゃいました~ですね。ま、爆笑しましたけどね~。

Yaeden023 慶応四年(1868年)三月、孝明天皇の義弟にあたる奥羽鎮撫総督九条道孝は仙台で会津藩、庄内藩に対して仙台藩、米沢藩を通じて降伏交渉に入っていた。参謀の長州藩士・世良修蔵は「会津城の開城、前藩主の松平容保の身柄引き渡し」という高圧的態度で臨む。これに対し、「長州征討」の前例に倣い「仙台藩」は「家老三人の切腹」を折衷案として提案、会津はこれを拒絶し交渉は暗礁に乗り上げた。その間、会津藩・庄内藩は奥羽各藩の説得に成功。新政府に対して白河城ラインで対峙する戦略を打ち立てる。閏四月二十日、参謀・世良修蔵を宿泊中の旅館にて急襲したした奥羽列藩同盟軍はこれを血祭りとして退路を断ち、同日、中立的立場にあった白河城を急襲し、これを占拠。会津藩を主力とした布陣で北上する新政府軍を迎え撃った。しかし、同盟軍は烏合の衆であり、統率力を欠くうえに、装備が旧式で、戦術的に拙劣という・・・総合力で完全に劣っており、五月、2500人で守備していた白河城をたった700人の新政府軍に奪取されてしまう。この後、同盟軍は何度も再奪還を試みてことごとく失敗・・・一方、新政府軍は関東における賊軍の鎮圧を終え、東北方面へ戦力を進出させる。旗色を伺っていた同盟軍は次々に撤退し、六月、同盟軍の支城であった棚倉城が落城。七月、会津軍も白河方面から敗走を余儀なくされる。新政府軍は北上し、七月末に二本松城方面に進出する。

偵察を終えた薩摩くぐり衆の野津鎮雄は白坂口の新政府軍本陣に戻ってきた。

薩摩藩の参謀・伊地知正治は無言で迎える。

前線司令部にいるのは他に特殊部隊を率いる薩摩藩士・川村純義(後の帝国海軍大将)と宇都宮から土佐藩兵を連れて応援に来た板垣退助のみである。

「どないでごわす」

「敵の兵力はこちらのおよそ四倍と見えもした。しかし・・・ほとんどが・・・白河城の周辺に勝手に陣を構えており・・・隙だらけでごわす」

「会津藩は・・・一応、戦をしてきたが・・・他のものらは初陣じゃきに・・・いざ、開戦となればうろたえるじゃろうな・・・」

板垣退助が口を挟む。

北関東の制圧戦で薩摩軍の友軍として度々、戦果をあげた板垣に対して、三人の薩摩藩士は好意的である。

一つ年上の川村は長崎の海軍伝習所で勝海舟と同期であり、科学忍者隊の流れを組んでいる。

坂本龍馬の薫陶を受けている板垣には親しみを感じていた。

板垣退助は土佐における幕府隠密の草の一族である。

しのびとしての修練もあり、同時に戦略・戦術ともに優れた才能を見せている。

「なにか・・・作戦がごわすか」

「ここは・・・囮をもって敵を死地に誘いこむのはどうじゃろうか」

「なるほど・・・」と頷いたのは敵情を見て来た野津鎮雄だった。「弟の道貫もさように申しておった・・・」

野津は幕外に控えていた道貫(後の陸軍元帥で日露戦争の英雄)を呼びこんだ。

道貫は忍びの地図を広げる。

斥候(うかみ)の術に優れたくぐり衆なのである。

「囮の部隊はまず小丸山に直進し、これを占拠。おくれて左右から二軍を前進させます。

白河城の南に会津軍の前衛が占拠する稲荷山があるのでこれをアームストロング砲でたたきます。おそらく・・・敵はここに兵力を集中させてくるでしょう。

そこで左右の軍が稲荷山の両翼にある立石山と雷神山に進出します。

これで敵主力は包囲殲滅できるでしょう。

後は機を見て白河城に突入する手でごわす」

地図を見ていた四人は歴戦の志士である。

たちまち・・・戦の模様が思い描けた。

「面白い・・・」

四人から離れて七輪でもちを焼いていた司令官の伊地知が声をあげた。

年の若い将校たちの話に耳を傾けていたのである。

「その囮はおいどんが引受けもうそう。板垣殿は奇襲部隊を率いて白河城攻めを受け持ってもらいたいが・・・いかがかな」

「願ってもないことじゃきに・・・」

「それ・・・もちもやけたし・・・腹ごしらえそして腹ごなしをするといたそうか」

餅好きの野津兄弟は目を光らせた。

五月一日、作戦通りに戦闘を開始した新政府軍はその日のうちに白河城から同盟軍を駆逐してしまった。

新政府軍の死傷者二十名。同盟軍は死者一千を数える。

「赤子の手をひねるようなものじゃったのう・・・」

伊地知は白河城で呟いた。

城内に突入し、返り血を浴びた板垣退助はただ苦笑するばかりだった。

「長州の世良くんもあの世で酔いどれ男のバラッドを歌い溜飲を下げちょるでしょう」

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2013年6月 9日 (日)

あまちゃん、十周目の土曜日(能年玲奈)

ここまで、様々な構成論的記述をしてきたわけだが、今回は毎週一回の1時間連続ドラマをベースに考えて行く。

民放のドラマはCM・予告篇を抜くとおよそ45分間になっている。

つまり、連続テレビ小説は一回15分なので三回で45分になるわけである。

ただし、タイトルや冒頭にダイジェストがつくので実際はやや短めである。

しかし、一週6本で民放ドラマ1時間分が二本と言うことで話を進めて行く。

これを半年続けるということは・・・一時間の民放ドラマを一年・・・つまり4クール続けるのと同じボリュームがあることになる。

現在の民放ドラマは1クール13話どころか・・・10話に満たない場合もあり・・・朝のテレビ小説の長編性を物語る。朝のテレビ小説は実質、大河ドラマと同じくらいのボリュームがあるのだ。

逆に言えば、NHK総合は一年で三本の長編ドラマを作っているということになる。

脚本家的に言えば、朝のテレビ小説と大河ドラマには執筆量的な互換性があるということになるのだった。

話を戻して・・・起承転結を4クール分で分割すると・・・6週と1/2週分(月~水)という分岐点が浮上する。

で、「起」の分岐点はすでに通過し・・・現在は「承」の途中で13週目を目指しているのである。

民放連続ドラマの感覚で言えばすでに「あまちゃん」を見終って、「続・あまちゃん」の中盤を折り返したところなのである。

今週の・・・この後、どうなっちゃうの的な感じはそこから生じている。

すっかりおなじみとなった北三陸市と登場人物たちなのだ・・・そういう慣れ親しんだ舞台や仲間を捨てて、さらなる飛躍を目指すヒロインにお茶の間は期待と戸惑いを同時に味わうだろう。

今週は「続・あまちゃん」の第6話と第7話なのだから。

当然、話は途中であり、まだまだ、終った感じはしないのである。

しかし、話の筋はかなり見えてきて固唾を飲んで見守る感じはある。来週はきっと手に汗握っちゃうのだな。

夢物語と現実は常に隣り合わせなのである。

「続・あまちゃん」のフィナーレは近い。そして、「転」となる14週目に向けてクライマックスは続いていくだろう。

そこから始る「あまちゃんの逆襲」も待ち遠しいわけだが・・・今はただ・・・ついにベールを脱ぐ、困った母親と抑圧された娘の激突の序章を・・・あますところなく味わいたいのだった。

で、『連続テレビ小説・あまちゃん・第10週』(NHK総合20130603AM8~)脚本・宮藤官九郎、演出・梶原登城を見た。2008年夏、母の故郷・岩手県北三陸市(フィクション)にやってきたアキ(能年玲奈)は心の不安定な母親・春子(小泉今日子)と海女である祖母の夏(宮本信子)の葛藤に翻弄されながら、海女になり、南部ダイバーになり、北三陸のアイドルにまで上り詰める。2009年の早春、失恋の痛手を乗り越えて17歳となったアキは親友の足立ユイ(橋本愛)と潮騒のメモリーズを結成するのだった。その最中、ミズタクこと蛇口さん・・・水口琢磨(松田龍平)が芸能プロダクションのスカウトマンではないかという疑惑が芽生える・・・。

月曜日 海女クラブの逆襲(宮本信子)

春子の帰還により、アホの子・アキを得た北三陸市は永い平穏の眠りから目覚め、新たな時代を迎えようとしていた・・・スター・ウォーズかっ。エピソード7の2015年公開楽しみだ。

アキの発案により、暴利を貪る北三陸鉄道と観光協会は「海女カフェ建設計画」の実行を迫られたのである。

その頃、ミス北鉄のユイは一日駅長の仕事に倦怠感を感じつつ、喫茶「リアス」で休憩をとっていた。店内にはもはや店主と化した春子と・・・蛇口さんがいた。

「なんなんですか・・・話しかけてきたり・・・こっそり写真をとったり・・・」

キレモード(強)のユイの剣幕に驚く春子と戸惑う蛇口さん。

「どうしたの・・・ユイちゃん・・・」

「なんでもないです」

蛇口さんが正体を明かさない理由の一つが「アキのガードの固い母親のためだ」と推測しているユイは・・・張本人の春子を前にしてうかつに蛇口さんを問いつめられないのだった。

ユイの超高速回転する「絶対アイドルになりたい脳」は様々な可能性を即時計算して危険信号を灯すのだった。

ユイの焦りがよくわからない人に説明しよう。

ユイは現在17歳。おそらく1991~1992年生まれである。前年の2008年の紅白歌合戦には大橋のぞみが出場最年少記録(9歳)で出場している。この年、デビューしたももいろクローバーZは13~14歳のメンバーで構成されている。同年代のAKB48の高橋みなみは小嶋陽菜、峯岸みなみとユニット「ノースリーブス」を結成しユニット・デビューを果たしている。「みんな!エスパーだよ!」のパンチラ・コンビの夏帆はすでに主演映画があり、真野恵里菜は「乙女の祈り」でメジャー・デビュー。「ガリレオ」の学生・逢沢りなは炎神戦隊ゴーオンジャーのゴーオンイエローだし、北乃きいは14歳でミスマガジン2005グランプリである。

すでに同世代はそれなりのポジションを掴んでいるのである。

松田聖子は高校一年でスカウトされ、小泉今日子は「私の16才」でデビュー、薬師丸ひろ子は16才で「快感」なのだった。安室奈美恵だって15才でデビューしているのである。

ミス北鉄なんてやってる場合じゃない・・・と感じるユイの焦燥感は半端ないのだった。

もはや・・・とりのこされているのである。

なにしろ実際の橋本愛(17歳)は2009年に13歳でミス・セブンティーンに選出されているのである。

そんなユイの前にスカウトマンが現れて・・・なんのオファーもないのだ・・・蛇の生殺しとはこのことなのだった。

観光協会での団体交渉を終えた海女クラブの面々が喫茶「リアス」に現れると・・・ユイはアキと会話も交わさず店を出る。

怪訝な顔を見合わせるアキと春子。

しかし・・・蛇口さんはユイをそっと追いかける。

「あの・・・誤解させたら・・・ごめんね・・・親戚にユイちゃんの大ファンがいて・・・写真はその子のために撮りました・・・」

蛇口さんの弁明を全く信じない顔でユイは自分のアドレスが書かれた名刺を蛇口さんに渡すのだった。

(いつでも・・・連絡してください)というサインである。

そういうユイの人生崖っぷち感も知らず、北三陸の人々は日常を生きるのだった。

観光協会や北鉄に日頃の不満をぶちまけた海女クラブの面々は気勢を上げる。

一方・・・北鉄の大吉(杉本哲太)や吉田(荒川良々)、観光協会の保(吹越満)や栗原(安藤玉恵)は海女クラブを婆軍団とこき下ろす。

リーダー夏ばっぱ、金にうるさい会計眼鏡婆かつ枝(木野花)、スーパマリオブラザーズの1-2面のBGMのようにんだんだうるさいダンプ婆弥生(渡辺えり)、あることないこといいふらすフェロモン婆美寿々(美保純)、何が云いたいのかよくわからない白婆花巻(伊勢志摩)・・・。

長女・花巻鈴は夜尿症で、次女・花巻琴は花粉症らしい。

云いたい放題で溜飲を下げた四人は・・・悪口大会に参加しなかったストーブさん(小池徹平)に注目する。

「じぇじぇ・・・」

こうして・・・海女カフェ計画の悪い大人たち窓口となるストーブさんだった。

一方・・・ユイが蛇口さんをスカウトマンかもしれないと思っていることを面々に報告するアキ。

「まさか・・・」と全くとりあわない一同だった。

漁協の建物を改装することで・・・現実性を帯びてきた海女カフェ計画。

「夢物語じゃなくて・・・現実的なのか・・・」

ユイとアキのおかげで街おこしが順調に進む中で・・・その気になる銭ゲバ軍団である。

一方・・・そういう邪な大人たちとは一線を引き、自分の夢に邁進するユイ。

もしかしたら・・・自分だけでは・・・駄目なのかもしれないと懊悩するのだった。

ピアノ・ヴァージョンの「潮騒のメモリー」が薄いB.G.M.として流れる潜水土木課の準備室。

カップと呼ばれる潜水用ヘルメットを磨くアキにユイが話しかける。

「お母さん・・・なんか云ってた?」

「・・・本当に蛇口さん、スカウトマンなんだべか」

「信じてないの・・・?」

「・・・」

「もし・・・私とアキちゃん二人一緒にデビューって話だったらどうする?」

「じぇ・・・そんな」

「それしか考えられないのよ・・・私、連絡先を渡したのになんの連絡もないし・・・きっとアキちゃんと一緒にってことだと思う」

「でも・・・おらは・・・そんなの無理だ」

「あの日・・・楽しくなかった?」

「あれは・・・いい思い出だったけんど・・・おらはユイちゃんとは違う。潜りたいから潜るし、歌いたいから歌う・・・それしかできないべ・・・それを仕事にはできない」

「海女をするのとどこが違うの・・・」

「全然違うべ・・・」

沈黙する二人。二人の脳裏には一日だけの潮騒のメモリーズが去来する。

潮騒のメモリー

17才は 寄せては 返す波のように 激しく

来てよ その火を 飛び越えて

砂に書いた アイ ミス ユー

その夜・・・アキは夢うつつのまま、夕食の席につく。

春子は「ハンバーグ食べないの・・・食べないならママにちょうだい」と様子を伺う。

「だめだ・・・おらんだ」と我に帰るアキ。

その唇をとがらせたまま半開きの口と小動物のような警戒心を露わにした瞳。

かわいいよ、アキかわいいよである。

そこへ・・・漁協長(でんでん)が吉報を持って飛び込んでくる。

「海女カフェに二千万円の融資が決まったど」

一方、ユイは琥珀掘りの洞窟へ・・・一人、蛇口さんを訪ねるのだった。

火曜日 六月のガラスの部屋のマリリン(小池徹平)

2009年六月・・・もうなんだかわからなくなっているストーブさんこと足立ヒロシだった。

「なんだか・・・月曜日には四月だったのに気がつくと火曜日には六月だったんです・・・僕の五月はどこに行ったんでしょうね・・・ヒロシです。ヒロシです。ヒロシです・・・」

ストーブさんは知らないが妹のユイは四月のある日・・・琥珀の洞窟で蛇口さんを問いつめたのだった。

「電話しちゃったの・・・聞いちゃったんですよね・・・スカウトマンなんですよね」

「さあ・・・なんのことだかわからない」

「デビューしたいんです」

「・・・もしも・・・スカウトマンがいたとしたら・・・きっと、ただのアイドルになりたいって言う痛い子とどこが違うのか・・・本人のやる気を見たがっていると思うよ」

あくまでシラを切りながら・・・蛇口さんはユイにアドバイスするのだった。

ユイは自分ができることをやらなければならないと考えた。

結局、それは地元アイドルとして自分を磨くことだった。

岩手こっちゃこいテレビのディレクターの池田一平(野間口徹)に売り込みをかけたユイは・・・ミニ・コーナー「ユイのお腹いっぱい」を得て、ミス北鉄としてリポーターの腕を磨くのだった。

岩手のローカルテレビに毎日、登場するユイに春子は危惧を感じる。

「なんだか・・・やつれてない?」

春子にはもう一つの危惧があった。

融資の決まった海女カフェだが・・・その決定は担当の銀行員(政岡泰志)の鶴の一声だったのだ。

「この企画・・・海女のアキちゃんが考えたんですか?」

お座敷列車にも乗ったというアキのファンの銀行員が・・・アキちゃんのいる海女カフェならば成功するだろうからと融資を決めたのである。

(おいおい・・・そんなのありなのかよ)

美味しい話には裏があることを・・・おそらく知り尽くした女・春子は・・・顔を曇らせるのだった。

第一・・・アキがそんなに重要人物になることは・・・なんとなく面白くない春子なのである。

春子の裏の顔がいらいらの種を巻き始めるのだった。

そんなある日、吉田が映画「潮騒のメモリー」のビデオを持ってくる。

水野晴夫が最初と最後に解説する本当にいいものらしい。

1986年の正月映画。

清純派の大女優でアイドルだった鈴鹿ひろ美(薬師丸ひろ子)のデビュー作。

主題歌「潮騒のメモリー/鈴鹿ひろ美」は60万枚の大ヒットを記録したと言う。

しかし・・・その頃、家出したまま消息不明だった春子は・・・何故か、ビデオを見ることを渋るのであった。

「春子の青春の謎(後篇)」の重要アイテムであることは間違いないのである。

在りし日の本田美奈子が「19086年のマリリン」をヘソ出しルックでヒットさせたこの年・・・春子に何があったのか・・・それはまだ語る時ではないらしい。

ユイが完全なる「作られた笑顔」で岩手のステーキ・ハウスを紹介し、安いステーキを食べまくっている頃・・・海女カフェの「大改造!劇的ビフォーアフター」はいろいろと問題を含みながら進行していた。

五人の婆の五種類の愚痴を毎日聞かされたストーブさんは身長が縮むほど疲れ果てていたのである。

「あの・・・おばちゃんたち・・・文句ばっか云って働かないんです・・・しかも・・・もはや海女として潜る気も失っちゃってるんです。誰も潜らない海女カフェなんて・・・海女カフェと言わんとです・・・それは単なる婆カフェじゃなかと・・・ヒロシです・・・ヒロシです・・・ヒロシです」

漸く危機感を覚えた大吉&保だった。

海女カフェが婆カフェになることを回避するために大吉&保は「海女募集告知」を伝家の宝刀「アキの動画」でアップするのだった。

たちまち・・・集まる海女候補たち。

ついに袖が浜の海女クラブは去年のアキに続いて六人の新人海女を獲得したのだった。

その中にはアキの高校の後輩の桜庭(山谷花純)や坪井(久野みずき)も含まれている。

なんとなくモヤモヤする春子。どんどんやつれて行く足立兄妹。

それでも時は流れて行くのだった。

完成間近の海女カフェに取材の下調べでやってきたユイ。

アキは喜んで・・・店内を案内する。

「見てけろ・・・」

「これは・・・何?」

店内にはミニ・ステージが用意されていた。

「みんなに頼んで作ってもらったんだ・・・イスを並べれば100人は座れるべ。ユイちゃんがデビューしたらここで歌ってけろ」

「アキちゃん・・・」

海女カフェに情熱を傾けつつ・・・ユイのことも考えていたアキ。

無表情なユイの顔に六月の太陽が光と影を交錯させるのだった。

求め過ぎてしまうユイはだからいつも悲しいのである。

果たして二人はゆっくりと一つになれるのだろうか。

それでも六月のそよ風はやさしく吹くのだった。

だれがLINDBERGの歌を歌えと言った・・・。

水曜日 あれから一年たちました(小泉今日子)

そして・・・海開きの日がやってきた。

アキが北三陸市にやってきてから・・・一年の月日が過ぎたのである。

16歳の夏と17歳の夏は驚くべき変化に満ちていた。

一年前、年中不機嫌な春子に連れられてやってきた海辺の街。

電車の中で居眠りしていたアキ。

アキは初めて祖母の夏ばっぱに会ってウニを食べた。

海女に憧れて海女になった。

そして、今では岩手県で一番有名な海女になっているのだ。

朝、五時半。アキは夏と挨拶する。

「おはよう・・・ママは」

「まだ、寝てるべ」

「だめだ・・・今日は早起きするって約束したんだから・・・」

アキは春子を叩き起こして袖が浜へと向かう。

そして、ついに完成した海女カフェを春子にお披露目するのだった。

春子は喜んだ。春子が嫌いだったくすんだ漁協は白く輝く夢の建物に変身している。

婆ではない海女見習いたちが春子を迎える。

明るい店内には珍しい魚や珍しくない魚が舞う水槽が置かれている。

そして巨大なモニターにはウニを獲る美寿々のライブ映像が映し出される。

「本当はアキちゃんが巨大水槽でウニを実演採取する予定だったんですが・・・そうなると総工費が2億4000万円になってしまうので・・・でもなんとかそのアイディアを残したくて・・・水中カメラで実況中継することにしたんです」

ストーブさんが解説するのだった。

「すごいよ・・・アキ・・・すごい」

「えへへ」

「私は・・・この街は嫌いだけど・・・ここは好き。ママの嫌いな場所を好きな場所に変えちゃうなんて・・・あんた・・・すごい」

「おら・・・なんだかむずがゆくなってきた」

「誉められなれてないもんね・・・すごい、すごい、アキはすごい~」

「うっひゃあああ」

娘を可愛がる瞬間を見逃さない春子だった。

アキは逃走した。

次々と訪れる来客たち。

ストーブさんの父(平泉成)と母(八木亜希子)も不出来だった息子の作った北三陸の新名所にご満悦なのだった。

モニター画面にはアキが登場していた。

一年前には一個しかウニが獲れなかったアキだったが・・・水中土木課での修練が実り、潜水技術が飛躍的に向上していた。

いつも種市先輩(福士蒼汰)の夢を見ているだけではなかったのだ。

アキはたくさんのウニを抱えて浮上する。

春子は感無量だった。

一瞬、いらいらが吹き飛んだほどである。

こうして・・・アキの北三陸市での二度目の夏は順調にスタートを切った。

ユイは学校を午前中だけで終えて、午後は突撃リポーターとなっていた。

学校を終えたアキは喫茶「リアス」に急ぐ・・・。

ユイが「海女婆のまめぶ汁」を生中継で紹介する番組を見るためである。

ここで地理をおさらいしておこう。

北三陸高校があるのは北三陸駅である。アキは自転車で駅から学校に通う。

北三陸駅には喫茶リアス/スナック梨明日があり、観光協会がある。

ホームへと続く階段を下りてアキが乗る北鉄は袖が浜駅へ向かう。

袖が浜までは自転車で帰ることも可能なのである。

袖が浜には天野家があり、そして海女カフェがあるのだ。

袖が浜の次の駅が畑野駅。山奥にユイの家がある。

朝、海女の仕事を終えてから袖が浜駅でアキは畑野駅から乗ってきたユイと合流し、北三陸駅で下車して学校へ。

ユイは午後は芸能活動のために早退し、テレビのスタッフと合流、レポーターの仕事をこなす。

授業を終えたアキは喫茶に顔を出してから袖が浜の海女カフェに出勤するのである。

物凄いスケジュールなのだった。

そんなアキを琥珀掘りの勉さん(塩見三省)が呼びとめる。

「最近・・・ユイちゃんに変わったところはないかい」

「いつも通りだけど・・・」

「これ・・・」

それは見覚えあるユイのストラップだった。

「坑道で見つけた・・・どうもユイちゃんが出入りしているみたいなんだ」

「じぇじぇっ・・・」

アキの脳裏には蛇口さんの顔が思い浮かぶ。

(世の中には君の知らない世界があるんだよ)

それはどんな世界なのか・・・胸騒ぎがとまらないアキだった。

シーズンに入り、夏ばっぱは疲労困憊していた。

「もう・・・まめぶ汁を温める気力も体力もねえ・・・」

一年前よりも老いた気配のある夏を気遣い、まめぶ汁をレンジでチンするアキ。

しかし・・・胸騒ぎは止まらない。

スカイドン襲来にあわてふためきスプーンを持って飛びだしたウルトラマンのハヤタ隊員のように・・・目を開いたまま爆睡した夏を飛び越えて・・・琥珀の坑道に向かうアキ。

琥珀の坑道もまた袖が浜近辺にあるらしい。

暗闇を照らすライトが点灯したままの夜の洞窟。

スプーンを握りしめたアキは・・・転んでスプーンを落とす。

チーン。

そこにはアキの知らない世界を覗いているのかもしれない・・・ユイが立っていた。

ここまでの(月)~(水)までが一つの話である。四月から七月へと北国の春を一瞬で通り過ぎながら琥珀の坑道で始り、琥珀の坑道で終っていることが分かる。

最初はユイと蛇口さんが二人だったが・・・最後はこれにアキが加わり三人となった。

話はそういう方向に流れているのだ。

木曜日 アキばっぱへの道(松田龍平)

当然ながら、(月)~(水)と(木)~(土)はそれぞれに序破急を構成している。

登場してからずっと正体を隠してきた蛇口さんが・・・ついに本性をむき出しにするのだった。

知らないことが一杯あるアキは素朴な疑問をぶつけるのだった。

「こんなところで・・・何してるんですか?」

「穴を掘ってます・・・」

「じぇっ?」

「この穴は海岸沿いに宮古まで通じているので・・・僕とユイは宮古から汽車に乗って東京へ行きます」

「じぇじぇっ?」

「冗談よ」

「冗談?・・・ふへへ」

愛想笑いを覚えたアキだった。

「うちの社長の荒巻が上野に劇場を作りまして・・・そこで新しいアイドルグループに歌ったりお芝居をさせたりしようとしています」

「本題に入っているから」

「本題?」

ここでついに蛇口さんをこの地に派遣したアイドルグループのプロデューサー・太巻こと荒巻太一(古田新太)が紹介される。

アイドルグループ・アメ横女学園のメンバー(吉田里琴)を背中に背負って構想を説明する太巻P。

「上野は東京の東の玄関、そして品川は東京の西の玄関です・・・ここに劇場を立て・・・全国各地の地元アイドルを集め、東西決戦をする。いわばアイドル甲子園ですね。いや、決戦しなくてもいいんですけどね。日本に人が一億二千万いますね。首都圏に二千万人います。残りは一億人。これがですね。日本の本質です。一億人の潜在力それが地元アイドルですね。これを上京物語させて、アイドル誕生物語る・・・違います。そうですGMT47ですね。47都道府県ですから・・・東京もですね。入ります。東京がですね、地元の人もいるわけです。そうです。ちがいます。ちがいません。GMT47はですね、アメ横女学園の妹的存在です」

「つまり、僕はさのためにここに来たスカウトマンなんです」

「勉さんの弟子ではないんですか?」

「バレなきゃそうでした・・・まあ、バレないと困るんですけどね・・・ずっと琥珀掘っていないとならないんで・・・」

「なんで・・・ウソをつくんですか・・・」

「君のお母さんの歌を聞いたから・・・あの歌は本物の匂いがした・・・アイドル歌手を目指していたんだってね」

「・・・」

母の歌を誉められた気がしてうれしくなるアキ。

「そういう人って厄介なんだよね。なまじちょっと芸能界のことを知っているから用心深くなるっていうか・・・」

母のことをけなされたような気がしてムッとするアキだった。

「だから・・・ここで琥珀掘りの弟子になって様子を見ることにしたんだ」

そこで・・・アキは心配していたことを思い出す。

「なにしてたんだ・・・こんな暗いところにユイちゃんを連れ込んで・・・」

アキの頭の中に知らない世界のあれやこれやが乱れ飛ぶのだった。

「相談に乗ってもらってたのよ・・・デビューするためには何が必要かって」

アキの中のあれやこれやが出口を求めて彷徨うのだった。

「お座敷列車の君たち潮騒のメモリーズの動画を送って・・・OKが出たんで、いよいよ交渉を開始しようとしてたんだ・・・」

「・・・」

「でも・・・君は忙しそうだし・・・やる気もないみたいだから・・・ユイだけを連れて行くことにしたよ」

「・・・」

何かを思って・・・アキを見つめるユイ。

アキの心では新しい何かが芽生えつつあった。

(ユイちゃんと一緒に東京でアイドルになる)

家に戻ると夏はまだ爆睡中だった。

アキは夏に上掛けをかけ、団扇で風を送りながら考える。

(知らない世界がある)

(何も考えないで飛びこめ)

(もったいないと思わないか)

(なんとかなるもんだ)

(可能性がある)

(死にたくないからな)

しかし・・・海女として海に潜るとアキは迷いを忘れる。

大好きな海に潜り、ウニをたくさん獲って、お客さんを喜ばせる。

楽しいことだらけで・・・とてもじゃないが・・・たとえユイと一緒にアイドルになるためでも・・・嫌な東京には行きたくないのである。

アキは難しいことが考えられないアホの子なのだから。

その頃、春子はスナック梨明日で大吉と二人きりになっていた。

大吉は春子を24年間待ち、さらに一年間待った男である。

今日も看板まで粘ったのだった。

「私、変わったと思うの・・・一年前とくらべたらね。前はただイライラしていたけど・・・今はイライラをぶつける相手に不自由しないし・・・それなりにスッキリした気持ちになることもある。どうなることかと思っていたアキはあんなに明るくなったし」

「アキちゃんはすごいもんな」

「そうね」・・・しかし、アキは娘には厳しいのだった。

「でも、あの子を変えてくれたのは夏さんかも・・・」

「夏ばっぱか」

「そう・・・なんだかんだ・・・あの人は凄いのよ」

娘が凄いより、母が凄いことにしたい春子だった。

春子の心は複雑に愛と憎しみが絡み合っているのである。

「とにかく・・・昔より・・・毎日が楽しいの・・・」

その夜、何があったかは不明だが・・・帰宅した春子は目を開けたまま爆睡するアキを発見するのだった。

「遺伝かよ・・・」

春子はアキばっぱのいる袖が浜の未来を予感するのだった。

起こされたアキは浴室に消えた春子の遺した「潮騒のメモリー」(保存版)を発見する。

小動物的好奇心をむき出しにしてさっそく鑑賞しようとするアキ。

しかし・・・そこでユイから電話が入る。

深夜の海女カフェへとアキを呼び出すユイだった。

金曜日 大好きな男を殴る夜(塩見三省)

序破急はリズムである。緩やかに始れば小刻みに小刻みに始れば緩やかに変わり最後は突然に終る。物語は確実にしっかりと転調して行く。

「大事な話があるの」とアキを海女カフェに呼び出したユイ。

「お母さんと喧嘩してしまった・・・」と事情を話す。

ここで・・・アキの母の春子がユイにどこか似ているように・・・元女子アナとは思えないアホの子の匂いを醸し出すユイの母のよしえだった。

「女学園・・・?」

「だからアメ横女学園の三期生募集のオーディションがあるの・・・」

「受かったらどうなるの・・・ここから通うの?」

「東京まで片道七時間だよ・・・引っ越すに決まってるでしょ」

「一家で・・・?」

「私だけよ」

「そこって・・・公立なの私立なの?」

「アメ女は学校じゃなくて・・・アイドルグループなの」

よしえ・・・。

「まったく疎いんだから・・・」とアキにぼやくユイ。

「大体・・・GMT47だってもう活動を始めてるのに・・・」

「とにかく・・・ユイちゃんはアメ女に入りたいんだな」

「アメ女でもGMTでもデビューできればどっちでもいいのよ・・・いい・・・私たちと同じ年の子がもうバリバリやってんのよ」

「・・・」

「だからと言って・・・親の了承を受けないりでは・・・事務所も受け入れるわけにはいかないんだよ」

いつの間にか蛇口さんが現れた。

「とにかく・・・ご両親が心配するから・・・アキちゃん、電話してあげてくれないか」

「うん」

「あせっちゃだめだよ・・・ユイ。高校を卒業してからだってまったく遅くないんだから」

思いつめたユキを見るとなんとかしてやりたい気持ちで一杯になるアキだった。

夏ばっぱのナレーションが宣言するアキにとってもユイにとっても「人生」最後の夏休みがやってくる。つまり・・・二人とも大学には行かないらしい。

「夏休みの心得・・・早寝早起きを心がけること・・・夜更かし夜遊びは厳禁・・・飲酒喫煙は絶対ダメ!・・・人生最後の夏休み有意義に!・・・アルバイトは事前に申告すること・・・企業見学については相談に応じる・・・進路相談も随時受け付けます・・・先生は毎日学校に・・・」

ありがたい訓示をする磯野心平先生(皆川猿時)の言葉を遮るアキ。

「今日は午後から秋田からの団体さん入ってるんだ。夏休みはいつもの倍忙しんだから・・・つまらない話をダラダラしないで手短にすましてけろ」

アキと海女見習い軍団に恫喝されて「以上です」と話を終えるいっそんだった。

客でにぎわう海女カフェ。アキも販売の合間を縫って潜ろうとする。

そんなアキを呼びとめるストーブだった。

「チッ・・・おら潜ろうと思ったのに」

「チッて・・・一応客なんですけど」

「お客さん何にしますか」

「この・・・海女スペシャルってのは・・・」

「まめぶとプリンだ」

「・・・コーヒーください」

「ちっ・・・コーヒーです」

「ちっ」と本家の花巻が締めるのだった。

「この間はありがとう・・・結局、あの後も家で揉めて・・・」

修羅場と化した足立家。

「もう一度云ってみなさい」

「お母さんみたいになりたくないって言ってんの・・・女子アナ二年目でこれからって時にお父さんと結婚してこんなだっさいポロシャツ着て残念なエプロンつけてシチュー出して・・・みたいな」

「ユイ・・・云っていいことと悪いことがあるぞ」

「顔はやめてよ・・・私アイドルなんだから」

「ヒロシ・・・お前が言っても説得力がない・・・ユイ、アイドルなろうがどうしようがお前の勝手でいい・・・でも母さんを泣かせるようなことを言うな」

シクシクと泣くよしえだった。

「けっ・・・タイガー&ドラゴンかよっ」と自室に籠るユイだった。

「・・・修羅場でねえか」

あのユイちゃんが・・・そんなことを家族に云うなんて・・・まして、母親を罵るなんて・・・想像もつかないアキだった。

「しかし・・・どうしたんだろう・・・ユイの奴・・・この頃急に焦りだして・・・」

それは・・・蛇口さんがいるからとは言えないアキだった。

蛇口さんの正体を知っているのはユイとアキだけだったのである。

ユイの気持ちを考えると・・・大好きな海に潜っていても気が晴れないアキだった。

しかし・・・どうやら・・・それだけではないことをお茶の間は薄々気がついています。

そんなある日・・・洗濯物を干していたアキは春子に叱られる。

「アキ、何度云ったらポケットになんか入れたまま洗濯に出さないでってことが分かるのよ」

「ごめん・・・なさい」

しかし・・・春子がアキのポケットから取り出したのはボロボロになった蛇口さんの名刺だった。

「なに・・・これ・・・」

「な、なんでもねえ」

あわてて名刺の残骸を取り戻しゴミ箱に捨てるアキ。

しかし、そんなことで海千山千の春子をごまかせるわけがないのである。

たちまち・・・蛇口さんの正体を見極める春子。

何が腹が立つって蛇口の正体を見抜けなかった自分に御立腹の春子だった。

スナック梨明日の緊急会議。

問い詰められた勉は絶句する。

「全く知らなかった・・・琥珀が心底好きな奴だと思ってた」

「本当にスカウトマンなのか」

「ハートフルって事務所の通称太巻って奴の手下よ」

何故か・・・一瞬、妙な間をとる春子。・・・実は知らない仲じゃないのか。

「じゃ・・・あたしもだまされたってわけ・・・かけおちして同棲して結婚しようとしてたのに・・・結婚式場の仮押さえもしたし・・・車もあげたのに・・・シャコタンだけど」

「アキちゃんが持ってるってことはユイも・・・」

「そんなあ・・・ミス北鉄をどうするつもりだ」

「ちくしょう」

「ちくしょう」

「琥珀も美寿々さんも磨かれそこなったな・・・」

「吉田っ」

ふと・・・春子は勉さんの不在に気がつく。

その頃・・・アキはユイと夜の海女カフェのステージに腰掛けていた。

「ユイちゃん・・・何泊するの」

「明日のオーディションに出るだけだから・・・一泊よ」

「それにしては・・・荷物多いな・・・」

「彼が・・・車で送ってくれるから」

「そういうことじゃなくて・・・」

「家には言ってきたから・・・家出じゃないでしょ・・・」

「ユイちゃん・・・もう帰って来ないつもりじゃないのか」

「・・・遅いな・・・」

その頃、蛇口さんは勉さんの鉄拳制裁を浴びていたのだった。

「破門だ・・・」

ひょっとしたらかなり間が悪い・・・蛇口さんなのかもしれない。

不安な夏の夜が更けて行く。

土曜日 十七でアイドルと呼ばれます(橋本愛)

大嫌いな岩手県を大好きだとトークするユイ。

そんなユイがアキのかけがえのない親友なのである。

ユイのために用意したステージでアキは本能的に別離の予感を感じるのだった。

「ユイちゃん・・・サインしてけろ・・・有名になったらなかなか書いてもらえないべ」

「サイン・・・」

「海女カフェさんへって書いてけろ・・・まめぶおいしかったも書いてけろ」

「まめぶ・・・食べてないけど」

「やらせ・・・だべ」

商才はあるアキだった。夏ばっぱの血である。

「こんな・・・自分勝手でやかましい女と友達になってくれて・・・ありがとう」

「それは・・・こっちだって・・・ネット上ではライバルだし・・・男とったし・・・アキちゃんじゃなかったら半殺しにされてたかも」

「あ・・・男とられた」

種市先輩ははがき一枚しかアキにくれなかったがユイとは毎日メールを交換していることを思い出したアキだった。

「でも・・・付き合うかどうか・・・微妙だけどね・・・一応恋愛禁止だし」

ユイの言葉を解説するふんどし部の幽霊・・・じゃなかった太巻。

「そりゃ・・・そうでしょ・・・特定の男に抱かれているアイドルのグッズを金出して買う極めつきの変態は限られてます。夢の恋人として不特定多数のファンと擬似恋愛してこそのアイドルでしょう。・・・ま、バレなきゃいいんですけどね」

全国の妄想恋愛主義者を一刀両断するドラマだった。

まあ、ずっと妄想していれば問題ないんですけどね。

「・・・っていうこと」

アキにはよくわからない話だった。アキにはハンパを許さないヤンキー母の血も流れていたからである。

「まあ・・・私もアイドルになれるかどうか・・・わからないけどね」

「そんなことはねえべ」

「私・・・昔から保母さんになりたいとかいう子を軽蔑してた。親にへつらってどうするってね」

「ユイちゃんは何になりたかったの」

「最初はね・・・女スパイ・・・それからゾンビ・ハンター、そしてトレジャー・ハンター、次には死ぬまで不死身のテロリスト・・・そして最後はアイドル・・・そうしたらようやくお母さんは笑ったわ」

「ユイちゃんはなれるよ・・・ユイちゃんは特別だもの。最初に会った時も輝いていたし・・・秋祭りでも輝いていた・・・あの光の中のユイちゃんが・・・本当のユイちゃんだべ」

「アキちゃんは・・・アキちゃんは・・・どうなの」

「おらは・・・」

答えにつまるアキだった。

アキによって北三陸市の人は幸せになった。北三陸市はアキを幸せにした。

ユイによってアキは幸せになった。しかし・・・ユイをアキは・・・。

Am010 その頃・・・ユイの家出がストーブによって確認されていた。

梨明日に戻ってきた勉さんは蛇口さんが今夜、この街を出て行くことを告げる。

「あたしの車で?」

「ユイちゃんを連れて・・・?」

「それは駄目だ・・・たとえこの街を出て行くにしても・・・北鉄でないと・・・ミス北鉄なんだから・・・」ともはや方向性を見失う大吉。

ユイの電話が鳴る。出ようとしないユイ。

「まさか・・・ユイちゃん、だまって家を・・・」

今度はアキの電話が鳴る。

「でないで・・・」

「二人とも出ないと怪しまれるべ」

アキの野生の勘が冴えわたるのだった。

「ストーブさん・・・ユイちゃん・・・一緒じゃないよ・・・おら・・・家にいる・・・」

しかし・・・電話の相手は春子に代わるのだった。

「怒らないから正直にいいなさいよ・・・あんた、ミズタクになんかされたんじゃないでしょうね・・・声が小さいわよ。こーら、はっきり返事なさい、このくそったれが」

「ヴぁい・・・」

「ユイちゃんから電話があったらすぐに連絡するのよ。このボケカスっ、わかったわね?・・・へ・ん・じは?」

「うあい・・・」

「あんた今何してんのよ・・・さっさと寝なさいよ・・・このタコ」

「ううぁぃ・・・」

「大丈夫・・・アキちゃん」

はっとするアキだった。

「まずい・・・すぐに戻るからちょっと待ってて」

アキはダッシュで海女カフェから天野家に戻るのだった。

アキに流れる春子の血。

その頃、春子は家に電話をしていたのだった。

鳴り響く電話に飛びつくアキ。

寝ていた夏ばっぱも起き出す。

アキは夏ばっぱのような海女になる。

そしてアキは春子のなりたかったアイドルに・・・。

「なにしてたのよ」

「おら・・・もう眠い」

「じゃ、このどぐされ外道が・・・わざわざ電話をとらなくてもいいわよ・・・バ~カ、とっとと寝なさい」

スナック梨明日では春子の恐ろしい正体に呪縛されていた一同が気を取り戻した。

「そうだ・・・このままじゃ逃げられる」

「封鎖だ・・・国道45号線を封鎖して・・・コンビニ、ファミレス、ラブホテルに緊急配備だ」

天野家には足立夫妻が訪れていた。

「ウチのアキは来ていませんか」

「来ていません」

思わず正座して家電では打てないメールを打ちまくるアキ。

「オッテカカッタ・・・ハヤクニゲテ」

漸く海女カフェに蛇口さんが到着する。

「どうしたの・・・大丈夫」

口元の血を拭う蛇口さん。

「ちょっと・・・いろいろあってね・・・とにかく・・・行こうか」

突然、鳴り響くサイレンの音。

緊急連絡用のスピーカーからのアナウンス。

「国道45号線封鎖完了」

「なにこれ・・・」

「誰か来る・・・」

「海女カフェに人気があるぞ」

なだれ込んでくる関係者一同。

ステージに追い詰められた未成年略取の容疑者・蛇口さんと・・・誘拐されたヒロインだった。

「泥だらけの純情かよ・・・」

主人公のアキは・・・ただ・・・茫然と立ちすくむのだった。

そして・・・今週も長い日曜日がやってくるのだ。

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2013年6月 8日 (土)

みんな!ニンジン残すなよ!(夏帆)

さて、とりあえず「醜女狩り/芝妃美子」(1975年)を聴いて前を向いていくわけである。

古き歌の世界では隔離されてしまった醜女を愛する男が醜女に変装して密会しに来たり、穴掘って大脱走したりのスペクタクルが展開するわけだが・・・こちらではせつないラブ・ストーリーが展開していく。

醜女と醜男の愛に共感するヒロインが美少女というところがさらにせつないわけなのだなあ。

まあ、たまたま、美しく生まれたり、たまたま醜く生まれたりする。

ただ、それだけのことなんだけどなあ。

でも、美しい人間が言っても嫌味に聞こえるかもしれないのだよなあ。

だけど・・・そういう美しさもはかなく消えて行くんだけどねえ。

しかし、そんなことを言うとまた年寄りが僻むんだけどさ。

見て見ぬフリをしたいところなんですよお。

で、『みんな!エスパーだよ!・第8回』(テレビ東京201306080012~)原作・若杉公徳、脚本・田中眞一、演出・月川翔を見た。愛知県立東三河の地に一人の女エスパーが現れた。何者かの指令を受けて彼女は正義のエスパーたちを滅ぼすために行動を開始する。彼女の超能力はラブ・コントロール(愛情制御)・・・。他者の脳内の化学物質を変化させ、幻想の理想の恋人を演じることができるのだった。他人の心を読める超能力が発現した愛知県立東三河高校の男子生徒・鴨川嘉郎(染谷将太)はこの危機を乗り切ることができるのだろうか。今、彼らの愛が試されるのだった。・・・本当(マジ)かよっ。

無垢な変態・喫茶「シーホース」のマスター輝光(マキタスポーツ)の前に絶世の美女・二宮サリー(河井青葉)が現れる。マスターは一目で心を奪われるのだった。

その頃、エスパー仲間の美由紀(夏帆)と帰宅途上の嘉郎は東京からの転校生・浅見紗英(真野恵里菜)に声をかけられる。

「私も一緒に帰っていい」

(パパの秘密をこのオナニー狂いのクソメガネから聞き出してやる)

紗英は超能力研究家の教授(安田顕)の娘だった。

バスで隣の席に座り、束の間の幸福を感じる嘉郎。

「嘉郎くんも超能力があるの?」

「いや・・・僕はまだ教授と知り合ったばかりだし・・・」

(ちぇ・・・使えない奴)

「じゃ・・・私はここで降りるから」

最近、嘉郎のことが気になりだしている美由紀は少し不機嫌に心で尋ねる。

(あんなひどい性格の女のどこがいいんだに?)

(浅見さんは・・・まだ子供なんだよ)

(かわいい外見にごまかされてるだけだら)

(ちがうよ・・・)

紗英の本心を知りながら紗英を信じる嘉郎に唖然とする美由紀だった。

しかし・・・そういうアホな嘉郎だからこそ・・・美由紀は魅かれるのかもしれなかった。

美由紀もまた自分の心をつかみかねていた。

喫茶「シーホース」で・・・マスターは嘉郎と美由紀に絶世の美女と出会ったことを報告する。

「もう一度会いたい・・・」というマスターと捜索を試みる嘉郎。

しかし、ビリヤード場に現れた二宮サリー(伊藤麻実子)は話しに訊いたスレンダー美人ではなく巨漢の醜女(しこめ)だったのだ。

だが・・・マスターの目には美女に見えるらしい。

マスターと美女を追跡した嘉郎は彼女の心を読んだ。

(バカな男・・・すっかりその気になって・・・廃人にされるとも知らないで・・・)

驚愕した嘉郎は教授の元にエスパーたちを集めるのだった。

「危険だ・・・その女はラブコントロールの能力者に違いない」

「ラブコントロール」

「愛情を自由に操られる能力だ・・・性欲の強いものほど虜になりやすい・・・このままではマスターはエロスのエネルギーを奪われ、能力を喪失してしまうかもしれない」

「そんな・・・」

「でも・・・二人はただ愛し合っているだけかもしれないがや」

乙女心に優れた美由紀は外見に囚われて純愛を否定する仲間たちに反発を感じるのだった。

「マスターはスレンダー美人が好きなんだ・・・あんなデブを好きになるわけないだに」

「そんなのわかりゃせんわ」

決裂する嘉郎と美由紀だった。

サリーと交際を続けるマスターは日に日にやつれて行くのだった。

「ただごとじゃない・・・マスターはTENGAを手放したで」

マスターは嘉郎の親友・ヤス(柄本時生)に自律式膣様器のTENGAを譲渡していたのだった。

「そりゃ、大変だ」

呑気な仲間たち、テレポーターの洋介(深水元基)、サイコメトラー英雄(鈴之助)、透視能力者・直也(柾木玲弥)も顔色を変える。

なんとか・・・マスターのエロスを取り戻そうとエロ小説を朗読したりする一同。

嘉郎も父(イジリー岡田)譲りの舌技をレロレロと披露する。

しかし、効果はない。そこで直也がコスプレを用意する。

美由紀は拒絶するが・・・男たちに「自信がないのか」と煽られてミニスカポリスに変身するのだった。

「逮捕しちゃうぞ☆」

あまりの可愛さに悩殺される仲間たち。しかし、マスターには通じない。

「・・・失敗だ」

「・・・」

唇を尖らせる美由紀だった。かわいいよ、美由紀かわいいよなのである。

とある夜の公園。

マスターは指輪を取り出してついにサリーに愛を囁く。

その時・・・通りすがりの酔っ払いが二人を揶揄する。

「すっげえ・・・ブスだなあ・・・」

「おっさん・・・変わってんなあ・・・」

血相を変えて男たちに向かって行くマスター。

「誰がブスだ・・・彼女を侮辱するなんて許さんだがや」

しかし、男たちに返り討ちにあうマスターだった。

サリーのうらぶれた棲家で介抱されるマスターは空腹を覚えた。

サリーはカレーライスを作るのだった。

「あ・・・ニンジンきらいだったわね」

サリーはニンジンをとりのける。

「どえりゃあ美味いであかんわ」

マスターは微笑むのだった。

一人で街をぶらついていた美由紀はサリーを見かける。

(輝さんは・・・ニンジン嫌いだったわ)

買い物をしているサリーの心を読んだ美由紀は微笑んだ。

(どうせ・・・もうすぐ廃人になるんだし)

美由紀は哀しみで満たされ・・・激昂する。

「なんだら・・・あんた・・・本当に悪いエスパーなのか・・・」

問いつめた美由紀を怪力で突き飛ばすサリー。

この最高に緊迫したシーンでパンチラをサービスされたら笑うしかないのだった。

サリーを見失った美由紀は嘉郎を呼び出す。

しかし・・・集合したエスパーたちはシーホースに閉店の札を発見して驚くのだった。

「くそ・・・この街を出る気だわ」

「どうすればええん」

だが、美由紀がサリーに突き飛ばされたと知ったサイコメトラー英雄は・・・。

「ちょっと・・・ごめん・・・」

美由紀の肩から・・・サリーの棲家を突き止めるのだった。

教授のマンションの目と鼻の先にある敵のうらぶれたアジトを急襲する仲間たち。

しかし・・・そこには携帯用のTENGAが転がっているばかり。

「しまった」とTENGAからマスターの痕跡を読みとった英雄が叫ぶ。「マスターはシーホースに行った・・・行き違いだ」

「どうする・・・」

「俺にまかせろ・・・」と洋介。

全裸瞬間移動でシーホースに飛んだ洋介はサリーの前に立ちふさがる。

「仲間が来るまで・・・ディフェンスさせてもらうぜ」

サリーの視線は洋介の股間に釘付けになるのだった。

タクシーで駆けつけた嘉郎たち。

嘉郎は領収書をもらって誰に請求するのだ。

「もう・・・逃げられないぞ」

「なんで・・・こんなことするんだ・・・」

「エスパーはエスパーと引きあう・・・いつか、あなたたちも思い知ることになるわ」

「・・・」

「セックスしか頭にない男たちとなぜ一緒にいるの」

問われて返答に屈する美由紀。

その時、直也が指摘する。

「バッグの中にカレーが・・・」

「カレー・・・」

取り出されたカレーを見て美由紀が言う。

「ニンジン抜きって・・・あんた・・・本当はマスターのこと・・・好きになったんでしょ・・・」

サリーは立ちあがってマスターのラブコントロールを解く・・・そして無言で立ち去るのだった。

夢から醒めたマスターに・・・愛の記憶は消えていた。

そしてヤスからTENGAを取り戻すのだった。

ふと・・・カレーに気がついたマスターは味見をしてみる。

「どえりゃあ美味いであかんわ」

微笑む嘉郎と美由紀だった。

バスで紗英に遭遇する二人。

(また・・・オナニー狂いのクソメガネとヤンキー女が一緒だわ)

(この女どんな性格しとるんだりゃ)

「確かに・・・僕はオナニー狂いのクソメガネかもしれん・・・」

「え・・・」

(私・・・今・・・声に出していた?)

「この街は東京とくらべたら田舎かもしれないけど・・・いいところもあるんだ・・・浅見さんにも・・・そういうところがあることに・・・気がついてもらいたいと思っています」

美由紀は気持ちが安らぐのを感じるのだった。

シーホースでは今日も美由紀はマスターのエロスの標的である。

まとまったサービスをこなしながら・・・美由紀はマスターをお仕置きしたり恥じらったりする。

エスパーたちに・・・和やかで・・・束の間の・・・休息の時が訪れたのだ。

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2013年6月 7日 (金)

はじめてのチュウ型国産輸送機C-1やさしい気持ちがいっぱい(新垣結衣)

ここでアニソンかよっ・・・まあ、いいか・・・名曲だしな。

C-1は1945年以後、初の国産中型軍用輸送機であり、量産型は川崎製である。

1976年から運用が正式に開始され、四機が事故で喪失され、現在20数機が保有されている。

1983年、2000年の事故では乗員などあわせて19名が死亡。

耐用年数によってすでに退役が始っており、後継機はXC-2で2014年から数機ずつ更新される予定。

国産中型輸送機計画と米国ロッキード社からの輸入機C-130Hは絶えずある種の貿易摩擦を抱えている。

実際にC-1は能力的に国内任務が限界であり、国際協力などにおいては主力はC-130Hとなっているのが実情なのである。

C-1は巡航速度マッハ0.65、航続距離2400km、最大積載量8t。

XC-2は巡航速度マッハ0.8、航続距離6500km、最大積載量30t。

一応、スペックは向上している。ただし、XC-2はあくまで実用試験中である。

国産品を愛好するべきだが・・・一筋縄ではいかない問題が横たわっているからである。

で、『日曜劇場 空飛ぶ広報室・第8回』(TBSテレビ20130602PM9~)原作・有川浩、脚本・野木亜紀子、演出・土井裕泰を見た。航空自衛隊の協力ぶりは至れりつくせりなのだな。それにしても前政権では実現不可能な番組だったのではないか。なにしろ・・・自衛隊を暴力装置などという認識で捕捉していた議員もいるアホの子集団だったからなあ。しかし、それに準じる社会人もまだ多数潜伏しているはずである。局内での風あたりとか嫌がらせがないのを願うばかりだが・・・次回は実録ネタなのかもねえ。

ストレートに言えば反戦主義者やアジア某国にシンパシーを感じる人々はまず国際関係論を教養としていないのが明白なのだな。弱肉強食の国益の対立があって国際関係が生じ、その均衡の上でのみ平和が成立するという現実を直視せずに気分や思いこみで報道されては困るのである。時々、そういうことをニュース・ショーで感じることのある局がこのドラマをオンエアしているっていうことが奇跡なのかもしれない。

なんといっても日本は最後の敗戦国である。第三次世界大戦があって戦勝国側に名を連ねるという奇跡が起これば別だが・・・それまでは立場の弱い敗戦国として生きて行かなければならない。そのために土下座ですむなら土下座をすればいいのである。しかし、譲れない一線というものはあるはずだ。

世界が犯罪者扱いにする人も英霊だと考えれば英霊なのだし、他国が領土権を主張しても自国の固有の領土は固有の領土なのである。

常に最悪の事態を想定し、許された範囲で最低限の防衛努力をしなければ・・・平和などというものは維持できない。

隣国には中学生を誘拐・監禁してしまう恐ろしい国家や、他国の領土を武装占領して恥じない潜在的敵国、他国の領海を侵犯することが正義だと主張する尊大な一党独裁国家などが存在していることをわが敗戦国民はけして忘却してはいけないのである。

・・・というような現状の中、国防意識が薄い若者に「自衛官募集」を呼び掛け過ぎて、お偉方にNGを食らった防衛省航空幕僚監部総務部広報室一同だった。

主犯は少しおっちょこちょいな片山和宣1等空尉(要潤)であるが・・・部下の暴走を抑止できなかった広報室長・鷺坂正司1等空佐(柴田恭兵)にも責任はあるのであった。

とにかく・・・渾身の一作がお蔵入りになったために「製作費」にあてる予算がなくなってしまったのだ。

「仕方ないから前年度のプロモーション・ビデオの使い回しで・・・」という意見も出るが、それでは国民の税金の無駄遣いの指摘は避けられないのだった。

そんな時、すっかりお友達になってしまった帝都テレビ情報局ディレクターの稲ピョンこと稲葉リカ(新垣結衣)のつぶやきが天啓となって閃くのだった。

「いつもカメラマンや音声さんが出動すると採算がとれないので長期取材の場合、雑感などは私が自分でカメラをまわします・・・今はそれが普通なんですよ・・・小型軽量カメラの性能が向上してますから・・・」

「それだ」

・・・ドキュメンタリータッチで低予算のプロモーション・ビデオ自主製作を開始する広報班なのだった。

そのターゲットとして選ばれたのが病死した父親が航空自衛官でC-1のパイロットであり、父の影響で空自の整備士となった入間基地第2輸送航空隊整備群検査隊2分隊整備員・アッキーエこと芳川秋恵空士長(南明奈)だった。

スカイこと空井大祐2等空尉(綾野剛)はパイロット時代の顔なじみであり、何回かデートした仲らしい、当然、リカはもやもやし・・・鷺坂室長はリカの顔色を伺いつつニヤニヤするのだった。

一方、リカも上司の阿久津チーフディレクター(生瀬勝久)から新番組「あしたキラリ」の取材を命じられ、アッキーエを主人公とした「父への想いを胸に~輸送機に乗せた夢/26歳・航空自衛隊整備員」という企画を立案する。

こうして・・・またもや・・・スカイとリカは一体となって広報作業/情報番組制作を行うのである。

もはや、交通費など諸経費がどこからどこまでが広報室持ちでどこからどこまでが番組予算なのか判然としない危険な関係と言えなくもないのである。

このあたり・・・鷺坂室長の手綱も甘いが、阿久津の手綱も緩いと言える。

しかし、二人の素晴らしい上司は部下の成長を生温かく見守る姿勢である。

やがて・・・アッキーエの取材を通じて「職業選択について」深く考えるスカイとリカ。

リカはついでにスカイが昔から「話の順番がメチャクチャだったこと・・・アッキーエとスカイが淡い恋愛関係にあったこと」なども知るのだった。

しかし、恋愛関係ではあまりドロドロとしない方針のドラマらしい。スカイ狙いだった情報番組「帝都イブニング」ADの佐藤珠輝(大川藍)なども「自分に興味のない男性には興味がない」と早々と脱落宣言である。仕事にも淡泊だが恋愛にも淡泊らしい。

唯一、ドロドロしてきそうなのは・・・昼メロあがりのマナカナのマナが演じる報道局記者・香塚ともみ(三倉茉奈)ぐらいである。リカをライバル視している上に藤枝アナウンサー(桐山漣)がらみでぬめっとした感触を醸し出すムードがあります。

「赤い糸の女」的な・・・。このドラマでも唯一の汚れ役を引き受けそうな気配が漂っていますな。

アッキーエもリカの恋のライバルにはならず・・・他界した父親と同じ業種を目指した娘同志のシンパシーを感じる方向だったのである。

「幼い頃に死んだので思い出も特にないのに私も・・・いつの間にか・・・父と同じ報道の仕事を選んでいたの・・・」

リカはスカイに打ち明ける。

「たった一つだけ・・・田んぼをみたことがないといったらドライプに連れ出してくれて・・・湖と山に囲まれた水田風景を見せてくれたことがあった・・・それが思い出といえば思い出・・・だけど・・・きっと父は何かを教えてくれようとしたのだと今では思っている」

「稲ピョンだけにイネを知らないのはいけないと思ったのかもね」

スカイはアホの子として精一杯話すのだった。

やがて・・・「父の意志を継いで自衛官になった娘」のプロモーションビデオのクライマックス・・・亡き父の墓参りのシーン。

すっかり空自マニアと化した坂手カメラマン(渋川清彦)は素人カメラマンとなった片山を懇切丁寧に指導する。

「ドキュメンタリーを撮影するときはカメラの画像だけでなく、全体を見渡すことも大切」などとアドバイス。

「パイロットも同じです・・・どこから敵が現れるかわからないので前方に集中するのは敵をロックオンした二秒間だけなんです」

「短いわね」とアッキーエ。

「長いですよ・・・マッハ(音速)の世界の二秒間は・・・」

夢をかなえて整備士になったアッキーエ。

パイロットになれなかったスカイ。

報道記者になれなかったリカ。

それぞれの立ち位置が微妙に交錯する一瞬。

そこへ偶然にも上空を通過するC-1が現れる。

「奇跡だ・・・」と呟くアッキーエの亡き父親と交友のあった鷺坂室長。

感動して泣き出す坂手カメラマンだった。

ついに完成したプロモーション・ビデオを試写する日。

スカイに同行を求められたリカはC-1に搭乗し、北海道に空輸されるのだった。

その機内でスカイはリカにパイロットに頼んでサービスをする。

「あの・・・山と湖に囲まれた水田って・・・きっと福島県の猪苗代湖だと思うんです。山は会津磐梯山・・・見せることはできないんですが・・・上空を通過するようにパイロットにお願いしました・・・稲ピョンだけに猪苗代湖です」

その時、機内アナウンスが入る。

「一分後にポイントを通過します」

厳かな静寂が過ぎ・・・リカは追憶の景色を見るのだった。

「視えた・・・時の涙を見たわ・・・」

到着したリカは高揚した気分で千歳基地の広報官から学生相手の説明会でのゲスト・スピーチを求められ応ずるのだった。

「私は・・・自衛官ではないので・・・自衛隊の仕事について語る資格があるとは思えません。しかし・・・自衛隊の仕事を取材する過程でいくつものことを学ぶことがてきました。何よりも出会いの大切さを学んだ気がします。夢を見ても必ずそれが叶うとは限りません。パイロットになりたかったけれどなれなかった人がいます。私も報道記者を目指していますが今は娯楽色の強い情報番組を作っています。サッカー少年のすべてがワールドカップの舞台に立つことはできません。しかし、夢がかなわなくてもそれで人生が終わるわけではないのです。その後も素晴らしい人生が待っていることを忘れないでください。そのためには一つ一つの出会いを大切にすることが肝心だと私は思います・・・私にはそれがあったのです」

説明会の学生がどう思ったかは別としてスカイには凄く伝わったらしい。

スカイはついに決心したのだった。

帰りの飛行機に向かう路上で・・・。

「稲ピョン・・・僕に二秒間だけ・・・時間をください・・・」

そしてリカの唇を奪うスカイ。

「・・・」

「二秒間は・・・地上だと短いな・・・」

少しずれた感想を述べるスカイの手をとって走り出すリカだった。

「乗り遅れちゃいますよ・・・」

こうして・・・リカとスカイの本格的な交際が始った。

広報室の・・・プロモーションビデオも・・・リカの新番組のためのドキュメント・ビデオも・・・成功の気配に満ちた。

しかし・・・なにやら不穏な空気が醸し出される。

坂手カメラマンは浮かぬ顔でリカに新聞記事を示す。

そこにリカが見たものは・・・。

① プロモーションビデオに偶然C-1が映っていたことが騒音問題市民の逆鱗にふれた

② リカとスカイの不適切な交際疑惑

③ 中国共産党工作員による鷺坂室長の情報漏洩問題

④ 終電でスカイが痴漢と間違われる

⑤ アッキーエの整備士制服が可愛い件

⑥ 柚木3等空佐(水野美紀)の恥ずかしいデートの全貌

正解は次回で・・・。

関連するキッドのブログ→第7話のレビュー

Sk007 ごっこガーデン、C-1とアベック追いかけっこセット。まこはううーん、マッハならどこまでいくのかチュウ&手をつないで滑走路までダッシュはセットでプレイできるのデス。ぼぎゃあああんと興奮した後のダッシュは心臓に負担がかかるので持病のある人は注意が必要だじょ~。まこが整備したC-1はいつも部品が少し余るので飛行は禁止されてましゅ・・・・・

くう爽やかなストーリー展開、まさかの会津上空通過飛行、そして可愛い二人の可愛いキス・・・どこまでも気持ち良く蒼穹を上昇して行ったのに・・・最後の最後でノーヒントのもやもや~・・・まあ、予告で大体わかったけどさ・・・日曜日のドラマは・・・あざとい引きはいらないと思うんだよね・・・予告編で充分なのさ・・・なんてったって次の日は月曜日なんだから~

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2013年6月 6日 (木)

家族ゲーム~答え合わせという名の神を殺す作戦~

人々は世界を記述するゲームを続ける。

その基本線は「神を記述するゲーム」であった。

同時にそれは「人間の営みを記述するゲーム」でもある。

西洋支配を長く続けた「神を記述するゲーム」は産業革命によって「世界を支配するゲーム」へと変貌する。

その結果、想像を越えた「悲惨」が生みだされた。

その衝撃に耐えかねたナイーヴな人々は「神殺しのゲーム」に逃避する。

しかし、「ゲームのためのゲーム」である「戦争」からは逃れることができず、勝利した人々は「勝者を記述するゲーム」を開始する。

「神は死んだゲーム」は「全体主義のゲーム」に飲みこまれ、「勝者のゲーム」は「テロリズムのゲーム」を生みだす。

「家族ゲーム」は「神は死んだゲーム」と「神秘ゲーム」の間に咲いた仇花である「神に替ってお仕置きゲーム」なのである。

で、『家族ゲーム・第8回』(フジテレビ20130605PM10~)原作・本間洋平、脚本・武藤将吾、演出・佐藤祐市を見た。1980年は太平洋戦争の終戦(1945年)から35年である。都会と田舎に10年くらいのタイムラグがまだたったために田舎では25年くらいの感覚になるかもしれない。原作小説「家族ゲーム」は1981年のすばる文学賞受賞作である。今回はドラマ版冒頭で沼田一茂(板尾創路)が「昭和40年(1965年)生まれ」とモノローグで自らの出生年を語る。公式による設定が48歳になっており、(板尾)の実年齢は49歳であることから、2013-1965=48からこのドラマがほぼ現代を舞台としていることが妄想できる。

原作とのタイムラグはおよそ30年であり、原作の一茂は昭和ヒトケタの生まれとなる。

初年兵として軍隊生活を過ごすにはギリギリの年齢であり、「会社を解雇されたのであります、軍曹殿」は実体験というよりも、映画などによる仮想体験のセリフということになる。

ましてや、ドラマの一茂が口にするセリフとしてはかなり超現実的と言えるだろう。

この1981年~2013年に横たわる歳月をなんとなく知るものにとってこのドラマの「超現実的感覚」は眩暈を感じるほどに違和感たっぷりなのである。

「なんとなくクリスタル」(1980年)より後の時代に「見合い結婚」が日常的な風に描かれても困惑する。「受験戦争」から「ゆとり教育」の過程もまるまる空洞化している。すべての企業がブラック企業だった時代から、裏社会との絶縁を経て、国際化された企業モラルなんていう神話も払拭されて、一茂はずっとギスギスした社会で生きて来た企業戦士のように振る舞う。

この気持ちの悪さが・・・このドラマの魅力なのである。

エンディングに登場する原色が強調された加工された街並みをゲームのキャラクターのように移動する吉本荒野/田子雄大(櫻井翔)と同様に1980年代から2013年にタイムスリップしてきた沼田家の一家が平然とパソコンやスマートフォンでインターネットとつながっている世界。これはもはや・・・ホラーの一種なんだな。

つまり・・・30年の時が経過しても・・・家族の問題の本質にはそれほど大差がないということなのだ。

はたして・・・本当にそうなのかどうかを実感できるかどうかは個人差があるだろうが・・・あえて80年代の時代劇として描かれた時の時代考証的違和感よりも・・・今回の無理矢理現代劇の方が面白いチャレンジだと考える。

さて、哲学者・ヴィトゲンシュタインは「ゲームを定義しようとしても必ず例外はあるがゲームというカテゴリは家族的な類似性でゆるやかにまとまっている」と論じている。「家族ゲーム」もまた「ゲーム」という家族の一員なのである。

しかし、登場人物によって「家族ゲーム」そのもののルールや楽しみ方は変わって行くと言えるだろう。

一茂にとっての「家族ゲーム」は人生を楽しむための必需品である「家族」をなるべく個人的欲望に抵触しない程度に維持することにある。最も重要なゲームである「お仕事」ゲームを堪能するために「休憩所」としての「家庭」はないよりあった方がいいということだ。

妻で二児の母親でもある沼田佳代子(鈴木保奈美)にとっての「家族ゲーム」はお嬢様である佳代子が「おままごと」の延長線上として営む「家族ごっこ」であると言える。夫も子供たちも「お人形さん」なのであり、彼女の考える夫のようなものや子供のようなものからの逸脱は許されない。「浮気をする夫」や「万引きする長男」「登校拒否の次男」などはもはや夫でも子供でもないのである。そんなものに関係するくらいなら「マネー・ゲーム」に逃避していた方がましなのである。

長男の慎一(神木隆之介)にとっての「家族ゲーム」は子供として家庭に寄生しながら、いかに家族を軽蔑し、自我を賞賛するかというゲームなのである。中小企業の経営者を祖父に持ち、大企業の雇用者である父を持つ慎一はどちらの存在も見下しながらおそらく官僚を目指しているのだろう。祖父も父も支配するためには国家の一員になるしか選択肢がないのである。父のアクセサリーであり、母の玩具である慎一が「神が死んだ世界」で「勝者のゲーム」をするためには必然的な選択でもあり、もちろん・・・子供としては犠牲者と言えないこともない。

次男の茂之(浦上晟周)は「弱肉強食の世界」の残酷さにも「平和共存の世界」の賢明さからも脱落した落ちこぼれである。彼にとっての「家族ゲーム」はどこまで甘えられるのか試してみようという限界追及ゲームとなっていた。しかし、アクセサリーとしては模造品で、玩具としてはガラクタとなった彼には両親も興味を失っており、自滅は目前だったのである。それでも「豊かな社会」は彼のサバイバル・ゲームをある程度支援するだろう。そういう意味で茂之の「家族ゲーム」はもっとも現代的なモチーフなのかもしれない。ただ、幼くてチャーミングな容貌がその醜悪さを隠蔽しているわけである。だが実態は「くそったれなブタ」なのだ。

そこにやってきたのが「実存主義からの使者」・・・つまり、神は死んだのだからすべての責任は人間が自ら引受けなければならないという思想の体現者である悪魔の家庭教師だった。

彼は「妻や子供のために悪事を働き妻や子供のために不快な夫」や「夫や子供のために汚れ夫や子供のために不満な妻」や「父や母や弟にストレスを感じて冷酷になった子供」や「父や母や兄に見放されて落ちこぼれになった子供」に「すべての責任は自分自身にある」という彼の「信仰」を布教するために手段を選ばない「家族ゲーム」を展開する。

彼のゲームは「神は死んだという信仰に目覚めて自らが生きる世界に生じるすべての責任を自らが引受ける人間が信仰の絆によって結ばれる理想の家族となる」と「堕落したまま家族が崩壊する」という二つのゴールに向けて「様々な試練」を用意し、「家族」というプレイヤーを追いたてて行くというものである。それによって彼はゲームのマスター(神)となり、なんらかの理由で失われた彼自身の人間性を回復しようとしているように見える。

しかし・・・実際には・・・彼は「人は不幸になるべくして不幸になる」という実験によって・・・己を正当化しようとしている狂人にすぎないのかもしれない。

ドラマは今、その境界線上を彷徨っている。問題作としては後者の方が娯楽性が高いのだが、帝国スター主演のドラマとしてはあまり凶悪なのもビジネスとしては好ましくないというジレンマがあるためだろう。

ともかく・・・決着を前に・・・。

一茂は浅海舞香/立花真希(忽那汐里)の誘惑によって浮気現場を捏造され、アクセサリーとしての妻を消失し、妻の作った借金を妻の実家に肩代わりしてもらうということで自尊心が傷つくのを恐れ、モラルハザード(倫理観の消失)を武器に会社の金を横領して発覚、解雇された上に犯罪者の一歩手前にいる。それでも彼は自己否定を拒絶してあくまで他者を否定するのである。

佳代子は夫の浮気、長男の非行、次男の登校拒否という現実から目をそらしながら、あくまで夢の世界に逃避を続け、1000万円の借金も、夫の失職も、子供の不良化、子供の不幸もすべて自分とは無関係だと感じ続ける。そのために何も感じなくなる日は近いのである。

長男は唯一、悪魔の家庭教師の危険性を察知した登場人物である。それは「他人を自分のルールで支配して弄ぶゲーム」のプレイヤーとして吉本/田子と同じゲーム・ボードに乗っているという自覚があったためであろう。しかし、キャリアと実力にまさる悪魔の家庭教師の敵ではなく、軽蔑していた父親同様に浅海舞香/立花真希(忽那汐里)の誘惑にたやすく翻弄されてしまう。父親同様に彼女のキスを得たことがせめてものなぐさめと言えるだろう。彼は世界にも自分にも絶望し、高校を自主退学するのだった。

次男は一番、救済の道が開かれていたプレイヤーだったと言えるだろう。吉本/田子のルールの全貌が明らかになったわけではないが、そこでは幼子はある程度ハンディキャップを与えられることが予想される。しかし、中学生はすでに一人前のプレイヤーとして認知されるようだ。文武においての発達の遅れから迫害の対象となり「学校ゲーム」から脱落した次男を悪魔の家庭教師は標準ルートまで導く。真野さくら(有川結女)の誘惑も「キスなし」だったためにモラトリアムの域にあったわけである。しかし、次男は被害者から加害者に転じることを拒否しなかったことで・・・悪魔の家庭教師の断罪対象になってしまうのだった。

ニセの吉本荒野であるゲームのマスターは結果を発表する。

「全員、実存的ではないので・・・私が死んだ神に代わってしかるべく皆さんに責任をとってもらいます。仕方ありませんよね・・・すべて自らの決断が招いた結果なのですから・・・」

ニセ吉本は田沼家を去って行ったのであった。

遺された家族たちは家族に責任をなすりつけあい、あくまで自分の責任ではないことを示すために幼児的な破壊衝動の命ずるまま器物破損に明け暮れるのだった。片付けることを考えればとてもできない自暴自棄ぶりなのである。

まさに沼田一家は「バカでクソなファミリー」だったのである。まあ、ほとんどのファミリーはそうだというところがお茶の間的にはやや問題なのですな。

光に満ちた街角で・・・ニセ吉本はかって田子雄大の教え子だったらしい浅海舞香/立花真希に中立的立場のプレイヤー(演技者)としての報酬を渡す。

「先生・・・どこに行くんですか」

「さあ・・・それに僕はもう先生じゃないよ」

「いいえ・・・私にとっては今も先生です」

悪魔の師弟関係は純情な高校生の恋心を弄んでも全く平気なほど深いのである。

新しいカレンダーの最初の一枚

世界は事もなし

雪景色のままで

24時間が経過するのみ

今がその時だと

偽りの神が叫ぶ

恋人たちは引き裂かれる

未練たっぷりに私は囁く

きっとまた会えるよねと

関連するキッドのブログ→第7話のレビュー

シナリオに沿ったレビューをお望みの方はこちらへ→くう様の家族ゲーム

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2013年6月 5日 (水)

割り切れない気持ちをおよそのところで抱えて生きるのです(香取慎吾)

たとえば数学は素晴らしい学問だが、算数・・・その中でも割り算は人生の基本である。

1/3が0.3333333333333333333・・・であることの不可解さこそ人生の中心にあるものだろう。

記述が永遠に完了しないもの。

生と死の中間にあるもの。

善と悪の中間にあるもの。

歓びと哀しみの中間にあるもの。

愛と憎しみの中間にあるもの。

割り切れないもの。

やりきれないもの。

どうにもできないこと。

それがあることを・・・100円を三人で分けあうことの難しさを。

他人と自分の間に何かがあることを。

数字で示してくれてありがとうと言う他はない。

で、『幽かな彼女・第9回』(フジテレビ20130604PM10~)脚本・古家和尚、演出・白木啓一郎を見た。世田谷区立小原南中学校構築した城壁を崩し始めた3年2組担任・神山先生(香取慎吾)を牽制するために森野小夜(森迫永依)をターゲットに選んだ京塚りさ(山本舞香)は忍びよる神山先生の精神攻撃に追い込まれ、凌辱された過去をフラッシュパックしてしまう。小学生時代クラスメートに服を脱がされ写真を撮影され恥ずかしめられた傷心は小夜に反射して行く。りさの行きすぎを嗜めようとした矢沢舞(飯豊まりえ)は逆上したりさに斬りつけられ出血するのだった。

「私の邪魔をする奴は許さない」

悪鬼と化したりさに恐れを感じた女子中学生たちは脱兎のごとく逃走するのだった。

取り残された小夜はりさのからっぽの心に戦慄しつつ深い憐憫を感じる。小夜はある程度他人の心も視える霊感生徒だった。

帰宅した女子中学生たちの親からの通報で対応に追われる学校職員たち。

「次から次へと厄介なことがおこるわね」と迷惑げに眉をひそめる3年1組の大原先生(濱田マリ)だが原因の一端が自分が発案して配布した「親が子供に聞かせる愛の証」プリントであることにはまったく気がついていないおめでたさがある。

その頃、もう一人の当事者である神山先生(香取慎吾)は依存する女教師の幽霊・アカネ(杏)の行方不明に動揺していたのだった。

「吉岡さん・・・どうしましょう」

神山先生は困った時は死後五十年の浮遊霊の吉岡(佐藤二朗)に頼る霊感教師だった。

「犬の霊に追わせてみよう・・・犬の霊は鼻が効くから」

しかし、来たのは猫の霊だった。

「猫じゃないですか」

「ちょっとまて・・・今度こそ」

しかし、次には何か邪悪な獣がやってくる。

「なんなんですか」

そこへ・・・事件の第一報がもたらされるのだった。

傷害事件の発生に霧澤和泉副校長(真矢みき) はいつもの冷静さを失う。

被害者の矢島家の意向で警察への通報は控えたものの教育委員会には連絡し、加害者のりさの処分を急ぐのだった。

「いつもと違うじゃないですか・・・」と霧沢の真意を疑う神山先生。

「傷害事件なのよ・・・一線を越えてしまった生徒は処分するしかない・・・そうでなければ誰も守れない」

霧沢も生前のアカネの殺害に不本意ながらも自分が関与した心の傷が開き、我を失っているのだった。

不審な窪内先生(林泰文)のパソコンを開いた3年2組副担任の河合先生(前田敦子)は「学級飼育型シミュレーションゲーム・みんな!いい子だよ!」を発見し、窪内先生のレクチャーを受けるのだった。

「市販のゲームを改造した生徒の育成ゲームですよ。個人的なデータを収拾しキャラクターを造形してあります・・・3年2組は個性的な生徒が集まっていて面白いですよ・・・ああ・・・リサはまたしても破滅してしまったか・・・リセットしなきゃな・・・」

「どうして・・・こんなものを・・・」

「現実は複雑すぎるんで・・・私にはゲームがお似合いなんです」

「キモい・・・」

「自覚してますから・・・でも、ゲームと現実は似て非なるものですからね。たとえば・・・いじめっ子のリサには・・・裏の顔があったりします・・・」

「裏って・・・」

「私のデータ入力はかなり過去まで遡っていますからね・・・リサはかってはいじめられっ子だったんですよ。しかも・・・かなりハードなね。彼女の凌辱写真も関係者からハッキングして入手していますが、現在では所持しているだけで処罰の対象になるのでお見せすることはできません・・・ちなみに証拠隠滅のためのプログラムは完璧なので通報しても無駄ですよ・・・」

「なぜ・・・そんなことを・・・」

「さあ・・・あなたに言ってもわからないかもしれませんねえ・・・私は教師という仕事が好きなんです・・・ただ、ものすごく弱虫なので・・・実際の生徒を相手にすることはできないのです」

「さっぱりわかりません」

「そうかなあ・・・あなたはきっと優秀な教師になりますよ」

「まさか」

「ほら・・・」

教室の箱庭画面にカワイが現れる。

「元いじめっ子の女教師・・・破壊力も抜群ですけどね」

「ア、アメ・・・グですか、変態ですか」

「変態は自分のことは変態とは思っていないものですよ・・・私は変態って自覚しています。さて、私は変態なんでしょうかね」

「・・・」

京塚家では母親の麗子(宮地雅子)が慄いていた。

「どうしたの・・・りさ・・・」

「人を刺してきたんで・・・いつものように後始末よろしく」

自室に籠ったりさは凌辱された過去の記憶が蘇る。

国立大学の有名付属小学校でりさは政治家の父親・京塚某(飯田基祐)の所属する政党のボス的存在である長谷川某の孫娘から陰湿ないじめを受けていた。しかし、父親は政治的立場から問題をうやむやに処理したのだった。長谷川某の圧力に屈したのである。

「上手く立ち回らなったお前が悪いのだ」

いじめの被害者であるりさはいじめの加害者たちに学校を追放されたのだった。

事情知る母親はりさの懐柔に手を尽くしたが・・・782個のプレゼントも恥辱にまみれたりさの心を癒すことはなかった。

結局、自分の身を守るためにりさは自分で防壁を築くしかなかった。

それは・・・いじめられる前にいじめることで達成されていたのである。

神山先生はその牙城を無思慮に崩壊せしめたのであった。

帰宅した神山先生は生徒のことよりもアカネのことが気がかりだった。

しかし、アカネは唐突に帰還する。

「どけだけ・・・心配したと思ってんだ」

「まあ・・・最悪、消散するか成仏するだけなんですけどね」

「まあ・・・そうだけどさ」

「私、地縛霊を卒業して浮遊霊にジョブチェンジしたみたいなんです」

「それは・・・記憶をとりもどしたからか・・・」

「さあ?」

神山先生は霧澤副校長の話をアカネに話す。

「なんだ・・・和泉ちゃん・・・そんなことを気にしているのかあ」

「そんなことって・・・」

「幽霊にとってはどうでもいいことなんですよ・・・だってもう死んでるんですから」

「お前の場合はなっ」

「それより・・・今は先生の生徒たちのことですよ」

「しかし・・・彼女には処分が・・・」

「大切なのは罰することではなく正すこと・・・見放さず彼女を救うべきです」

アカネが戻ったことで漸く、職務を思いだす神山先生だった。

神山先生の生きる証は・・・①アカネ ②教職 ③お城のプラモデル組み立ての三者が激しく流動的に優先順位をチェンジしながら示されるのだ。

その夜はとりあえず「お城」に逃避した神山先生だった。

一夜明けた3年2組。

軽傷だった矢沢舞は登校し、りさの処分を神山先生に問う。

「それはこれから決まります・・・それまでは皆さんは彼女のクラスメートです」

「じゃあ・・・彼女に伝えてよ・・・あんたを友達なんて思ったこと一度もないって」

りさの子分の一人だった下川千夏(関紫優)も尻馬に乗るのだった。

「死ねって伝えてください」

神山先生はたしなめることを控えるのだった。生徒たちにおまかせのワザを覚えたからである。

神山の使徒となった剣の達人・香織(荒川ちか)が立ちあがる。

「千夏は云いすぎだと思うよ」

「あんたには関係ないでしょう・・・」と千夏を庇う舞。

「私は関係あるわよ・・・」と小夜が立ち上がる。「私をターゲットにした時、りさとあなたたちは一緒だったじゃない・・・今度はりさをターゲットにしてるだけでしょ」

小夜贔屓である亮介(森本慎太郎)が賛意を示す。

「お前ら・・・手のひら返しすぎだよ」

りさの子分から早期離脱した香奈(未来穂香)が立ち上がる。

「きれいごとは云わないよ・・・私もりさと一緒になって気に入らないやつハブってたからさ・・・でも、りさが何もかも悪いわけじゃないでしょ」

「何よ・・・私は被害者なのよ・・・ナイフで斬られて気持ちがおさまると思うの?」

不登校から脱した拓途(神宮寺勇太)が立ち上がる。

「被害者だから・・・何をしてもいいのかい。いじめてもいいのかい。そんなこといつまで続くんだ・・・いやな感じが・・・好きなのか」

漂う教室内の不穏な空気。

そこへ・・・何事もなかったように・・・りさが登校してくるのだった。

いつものように子分たちをカラオケに誘うりさ。

その不気味さに怯える子分たちだった。

「あんた・・・まさか・・・何事もなかったですむと思うの?」

「あんたの帰る場所なんてないよ」

「あんた・・・終りだよ」

子分たちに拒絶され、教室を出るりさだった。

帰宅したりさに父親が言葉をかける。

「結局、また、お前は俺の足を引っ張るんだな」

りさは無言で部屋に戻るとテディ・ベアからナイフを取り出すのだった。

学校では霊感先生と霊感生徒が意見を交換していた。

「先生、りさを助けてあげて」

「いじめていたりささんを許すのですか」

「あの子は・・・憐れなほどに心がからっぽだったよ・・・」

神山先生は京塚家の家庭訪問に乗り出した。

そこへ集まる使徒たち。

「先生、私たちもお供します」

「でも・・・」

そこでアカネが口を挟む。

「いいんじゃないですか・・・りさちゃんち広いし」

すでに下見をすませた浮遊霊・アカネだった。

そこへ・・・りさが家出をした一報が入る。

手分けして捜索を開始する使徒たち。

河合先生は懊悩するのだった。

自分の過去の何かが河合を責め立てる。

河合先生は過去に犯した過ちに縛られているのだった。

河合先生はかって犯した悪に拘泥し自らを責めていたのである。

無邪気な罪、罪と知らずに犯した罪は・・・罪を自覚した時に償いようもなくまとわりつくものだからである。特に生真面目なものには。

だから河合先生には・・・りさの行動を推測することが可能だった。

すっかり、幽霊たちに依存する神山先生は吉岡の影法師情報網に期待する。

しかし、吉岡は霊的なスランプに陥っていた。

だが、進化したアカネは影法師を遣えるになっていたのだった。

浮遊霊たちを同化して・・・千里眼を発揮するアカネ。

りさが凌辱された小学校に向かっていることを発見する。

世田谷区教育委員会管理局教育指導係の轟木庸一郎(加藤虎ノ介)は霧沢に緊急連絡をする。

「京塚りさから小学校時代のいじめについての告発文が届きました。加害児童の実名入りです・・・穏便に処理するのでご協力をお願いします」

「小学校時代のいじめ・・・」

霧沢はアカネを刺殺した渡辺淳也を憎悪するあまりに、民自党議員の渡辺幹彦の息子だった淳也とりさを同一視していた自分の不明に漸く気がつくのだった。

結局、霧沢は・・・淳也を恐れるようにりさを恐れていたのである。

「早急な処分は失敗だったのか・・・」

「彼女は死ぬつもりよ・・・淳也くんもそうだったもの・・・」

霧沢とは別のベクトルでアカネはりさと淳也を重ねていた。

霧沢はりさを排除しようとしたが・・・アカネはただ救出しようとしていたのだった。

そして・・・りさの運命は河合先生に委ねられていた。

りさの行動を推測した河合先生は呪われた小学校で待ち伏せた。

黒を着こんだりさは河合先生の読み通りやってきた。

「先生・・・どうしてここに」

「あなたは・・・あまり出歩いちゃ駄目でしょう」

「邪魔しないで・・・先生はいつものように・・・見て見ぬフリをしていればいいのよ」

「待ちなさい」

校舎に走るりさを追いかける河合先生。

やや遅れて神山先生とアカネが駆けつける。

不審な男性を発見した警備員が邪魔に入るが吉岡とメグミ(上間美緒)が憑依の術で排除に成功する。

屋上ではりさと河合先生が対峙していた。

「死んで復讐する気なのね」

「親は根性なしで仇をとる気がない。私が死んでも困る人はいないもの」

「そうして・・・かっての敵に誰かが制裁をくだしたって・・・その時、あなたはいないのよ」

「・・・」

「私はあなたより・・・ずっとずっと嫌な奴。それでも私は恥をさらして生きている。自己嫌悪に耐えて生きている。あなたも生きなさい」

「問答無用」

りさはナイフを自分に突き立てるために力を入れた。

その瞬間、アカネは憑依の術でりさを金縛りにする。

同時に河合先生はりさのナイフを制していた。

迸る河合先生の鮮血。

神山先生はりさからナイフをとりあげた。

アカネが呪縛を解いたりさを平手打ちしてから抱きしめる河合先生。

「馬鹿・・・死んだら負けなのよ・・・あなたは強いんだから・・・負けずに生きなさい」

二人を見守るアカネと神山先生。

河合先生への謝罪のためにりさの父親が呼び出しに応じる。

「それなりのお詫びの気持ちはさせていただきます」

鼻白む河合先生と・・・立ち会った神山先生。

霧澤は眉を潜める。轟木はあくまで事態の鎮静化を見守る。

「娘は海外に留学させます」

「救いを求める娘さんを放り出すのですか・・・」と声を荒げる神山先生。

「私の立場もお考えください」

「子供の心より自分の立場が大切ですか」

「先生のようにきれいごとですませるわけにはいかないのですよ」

「大人がきれいごとを子供に教えなかったら世界はゴミだらけですよ」

「何を言ってるのか・・・さっぱりですな」

「あんた・・・最低だ」

神山先生は怒りの拳を振り上げた。

「やめてください、神山先生」と河合先生。

「やめてください、神山先生」と霧澤副校長。

「やめてください、神山先生」とアカネ。

幽霊が立ちふさがるので・・・怒りを鎮める神山先生だった。

「娘のりささんをクラスに戻して・・・僕と僕の生徒たちに救わせてください」

しかし、りさの父親は無言で立ち去る。

帰りかける河合先生を呼びとめるりさ。

「先生・・・ありがとう」

河合先生に赦しの天使が舞い降りるのだった。

神山先生は河合先生に告げる。

「結局、立ち向かうしかないんです・・・立ち向かうことで何かが変わるかもしれないでしょう」

「でも・・・私は・・・」

神山先生は霧澤から託された河合先生の退職願いを取り出した。

「これは・・・おかえしします」

河合先生は自分で退職届を破り捨てた。

教師・河合先生の誕生である。歓喜する世界。

そんな生きている二人の交情に少し割り切れない気分を感じるアカネだった。

「死んだら負けですもんね・・・うらめしや」なのである。

しかし、霧山は轟木からの業務連絡を受ける。

「神山先生には辞めていただくしかないですな・・・生徒の親への暴行未遂を見逃しては私が職務怠慢を問われますから」

「・・・」

その頃、神山先生は何者かに破壊されたお城の残骸を前に途方に暮れていた。

割り切れない世界は続いていく。

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2013年6月 4日 (火)

特殊相対性花火師ガリレオ~北の虹橋と南の満月の間で殺す女(蒼井優)

「友達少ない万年助手」ってタイトルにしようとしていた痕跡があるぞ。

・・・黙秘します。

「ガリレオ」では黙秘は禁じ手だ・・・まあ、ミステリ全般がそうだけどな。

まあ、良心の呵責や根気のなさによめ容疑者の自白がなければほとんどの犯罪は解決しないとも言えるな。

それを言ったらハイ、それまでよだろう・・・疲れてるのか。

まあ・・・美しい女優がいて・・・冷酷と情熱の犯罪があって・・・懺悔とか告白しないとどうにもならないジャンルだから。

蒼井優をたまにしか見れないなんて・・・ドラマのスタッフは何をやっているのか。

まあ、そういう時は「うぬぼれ刑事・癒し系」をリピートしてく~ださい。

豪華なゲストだなあ・・・と思えるキャスティングというポジションも大切だしな。

蒼井優も夏には28歳になるのだなあ。特殊相対論的にも一般相対論的にも時は流れていくのだなあ。

で、『ガリレオ(第2シーズン)・第8回』(フジテレビ20130603PM9~)原作・東野圭吾、脚本・福田靖、演出・澤田鎌作を見た。犯人は狂気を秘めた美人女優、狂言回しの刑事もそれなりに面白美しく、ヒーローはあくまで自己中心的に事件を解明していく。今回のガリレオはストレートで見ごたえ抜群である。こういうストレートは変化球の後だとかなり効きます。

擬似倒除で描かれる冒頭。ベイエリアの花火大会を見下ろす高層マンションの一室。犯行現場に横たわるナイフを突き立てられた死体。犯人と思われる人物はテレビを消して現場から去っていく。現場からさほど遠くないカフェには人気劇団の衣裳係の安部由美子(佐藤仁美)が待っている。容疑者の前座としては申し分ない貫禄である。しかし、颯爽と現れる真打ちの登場で・・・犯人の正体が明らかになる。劇団の看板女優・神原敦子(蒼井優)である。

次回公演の「カミーユの美しき憂鬱、あるいは沈黙」の衣装の変更について演出家の伝言を伝える神原・・・。

「そんなこと・・・直接云ってくれればいいのに・・・」

「そうなんだけど・・・」

安部の携帯電話に演出家本人からの着信がある。

「噂をすればなんとやらね」

「きっと・・・衣装の件よ・・・人に頼んでおいて・・・結局、自分でやる・・・困った性格よね」

演出家との特殊な関係を仄めかす神原・・・。

しかし・・・無言電話である。

不審に感じた様子の神原は自分の携帯電話も確かめる。

「あら・・・私にも着信があったみたい・・・午後7時31分・・・ついさっきね・・・なんだか・・・様子が変だわ・・・ちょっと様子を見に行ってみる・・・一緒に来て下さる?」

「ええ・・・」

そして・・・人気劇団の代表であり、演出家の駒田良介(丸山智己)の死体を発見する。

部屋は密室状態だったが、駒田の恋人だった神原は・・・合鍵を持っていたのである。

捜査にあたったオカルト小娘刑事ちゃん・岸谷美砂警部補(吉高由里子)はたちまち捜査に行き詰まり、ガリレオこと帝都大学物理学科准教授・湯川学(福山雅治)の研究室にやってくる。

「第一発見者で被害者の恋人の神原がものすごく怪しいんですけど・・・アリバイがあるんですよねえ・・・」

「それは明らかに刑事の仕事だろう」

「大体・・・神原って誰だよ」と万年助手の栗林宏美(渡辺いっけい)は口を挟む。

「知らないんですか・・・すごく有名な女優さんですよ」と湯川ゼミの学生たちは栗林の無知を嘲笑するのだった。

前回・・・湯川の代行講師を引受けて女学生の出席ゼロだった事件の傷心でナイーヴになっている栗林は唇をかみしめるのだった。

「とにかく・・・愚痴を言うなら他の場所でやってくれ」

一度関係した女にはそれとなく冷淡なガリレオだった。

しかし、小娘刑事にも女の意地があるのだ。

「殺害時刻は電話のあった午後七時半前後なんですが・・・その電話を受けた衣裳係と私が疑っている女優の神原は一緒だったんですよ」

「仮に女優が犯人だとしたら・・・殺したと思った人間が息を吹き返して電話してきた可能性もあるだろう」

「でもそうじゃない可能性もあります・・・」

「つまり・・・決め手に欠けるのだな」

とりあえず・・・神原にアタックしてみる小娘刑事。

「第一発見者で・・・合鍵を持っているということなので・・・一応、事情を伺いたいのですが」

「私に嫌疑がかかっているんですか・・・私は彼を愛していたのに・・・」

「愛しているからこそ・・・殺す場合もあります」

涙を流す神原に同行していたエリート警部補のお守役である太田川稔刑事(澤部佑)はパートナーのいつもの失言に冷や汗を流すのだった。

「あくまで・・・事情聴取なのでお気になさらずに・・・」

「彼は私を愛してくれたのに・・・私は彼の愛を素直に受け止められなかったのかもしれません・・・でも、今は後悔しています・・・失って初めて大切なものだと気付くって・・・こういうことなんですね・・・」

小娘刑事の捜査はまたしても暗礁にのりあげた。

「絶対に怪しいんです・・・女の涙は泥棒の始りなんです」

「そんな格言は訊いたことがない」と栗林。

「とにかく・・・行き詰る度にこないでくれ」とガリレオ。

「なんとかしてくださいよう」

一度関係した女にはそれなりに甘くもあるガリレオである。

「とにかく・・・携帯電話のトリックだけは解明してやる」

ガリレオは栗林の携帯電話を利用して神原のアリバイ工作を再現するのだった。

「私が栗林さんを殺したとしよう。私は栗林さんの携帯を持って君との待ち合わせ場所に行く途中で自分の携帯に栗林さんの携帯から電話する。私の携帯には栗林さんからの着信記録が残る。それから君より前にある栗林さんの連絡先を削除する。栗林さんは連絡する相手が少ないので君の前には二人しかいないから簡単だ。そして・・・君に会った私は隠し持った栗林さんり携帯から君の携帯に電話をかける・・・」

「でも・・・携帯電話は死体の手元に・・・」

「合鍵をもっていた彼女は・・・先に室内に入る。携帯電話を置くことは可能だったかもしれない。あるいはダミーの携帯を転がしておいて・・・救急車や警察が到着する間に同行者の目を盗んで本物とすり替えることもできたかもしれない・・・とにかく・・・彼女に反抗が可能だったことは明らかだ・・・」

再び・・・捜査を開始した小娘刑事は神原がタクシーに乗って犯行時間に被害者のマンションに現れた証拠をつかむ。

タクシーの車載カメラには神原の姿が記録されていた。

「あなたは・・・犯行時刻に・・・現場にいましたね」

「いったけど・・・彼は留守だったんです」

「なぜ・・・それを隠していたんですか」

「疑われると思ったからです・・・ごめんなさい・・・本当にごめんなさい」

再び泣き出す神原。彼女を残し部屋を出た小娘刑事は太田川刑事とマジックミラー越しに神原を監視する。

しかし・・・神原はただただ涙にくれるのだった。

「枯れない涙だな・・・」

だが・・・解放された神原は冷たい微笑みを示すのだった。

神原は演技者として常に周囲のものとの会話を録音し、分析する手法を用いていた。

「岸谷・・・職業・刑事・・・気が短く、常にイライラしている」

神原の分析リストは続く。

「駒田・・・職業・演出家・・・彼を刺した時にナイフがろっ骨にあたった感触あり」

お茶の間は真犯人が誰かを提示されたのだった。

同時に・・・科捜研の分析により・・・駒田の携帯電話から・・・神原の無実を立証する証拠が発見されてしまうのだった。

「彼女には犯行は不可能でした・・・」

「なぜ・・・そう思う」

小娘刑事は問題の写真を披露する。

花火と月が写り込んだ画像だった。

犯行現場は月を南の窓から、花火大会のあったレインボーブリッジを北の窓から見ることができた。しかし・・・同時に花火と月を映すためにはレインボーブリッジの北側に位置しなければならない。

七時十四分・・・被害者はレインボーブリッジの北側にいて・・・その時刻に容疑者はレインボーブリッジの南側にある被害者のマンションにいたのである。

それから容疑者は待ち合わせの場所に向かったために・・・帰宅した被害者を殺すことは時間的に不可能なのだった。

「ふふふ・・・GPS衛星は秒速およそ4キロメートルで移動するために時間の進み方が遅くなる。つまり・・・時間は局所的に物理的解釈不可能なものとなる・・・栗林くん・・・これは何を示しているかな・・・」

「アインシュタインの特殊相対性理論です」

「そして・・・それは完全ではなかったのだ」

「さっぱりわかりません・・・」

「ふふふ・・・ははは・・・・ははははははははは・・・・実に面白い」

ガリレオの心に女優・神原に対する興味と欲望が芽生えたのだった。

事件現場を訪れたガリレオはしばらく周囲を観察すると・・・いつもの外部記憶のための数式叙述をしながら事件を解明するのだった。

神原の稽古場に姿を見せるガリレオ。

「捜査協力をする物理学者なんて・・・すごく貴重な存在ですね」

「あなたとは正反対の仕事です」

「そんなことはありませんわ・・・演技をするというのも科学の一種ですから」

「そうでしょうか・・・」

「人が何を思い、どう行動するのか・・・人間の内面と外側の関係を常に分析し・・・考察してこそ・・・人間というものを理解した上での演技が可能となるのです」

「実に興味深い・・・しかし・・・愛を演じることは可能なのでしょうか」

「もちろんです・・・お試しになりますか」

「まもなく・・・私はあなたの犯罪を立証してしまうかもしれません・・・そうなればあなたとの愛を育むことはできなくなってしまいます」

「いつ・・・愛するか・・・それはとても大切なことですね」

二人はお互いを認知するために・・・肉体で会話をしてみるのだった。

満足したらしいガリレオは小娘刑事とともに花火職人・段田団二郎(ガッツ石松)を訪ねる。

「花火をお願いしたいのですが・・・」

「昇り曲導三重芯先青紅か・・・結構高いよ」

「赤は塩化ストロンチウムですか」

「そうだよ・・・」

「ス、ストロンチウムって放射能がでるんじゃないんですか」

「なんだって」

「すみません・・・この子は文系なんでストロンチウムと放射性ストロンチウムの区別がつかないんです」

「アホの子じゃしょうがねえな」

「なんなの・・・花火おタクなの・・・」

なんとなく口惜しい小娘刑事だった。

やがて・・・準備が整い、神原は犯行現場に呼び出された。

「これから・・・あなたが・・・被害者を殺した後でどうやって・・・被害者の携帯電話に月と花火の記念写真を残したのか・・・再現実験をします」

「そんなことができますの・・・?」

「すべての結果には原因があるものです」

南の窓に月が昇り、北の窓には花火が打ちあがる。

「テレビと部屋の灯を消してくれ」

小娘は命じられテレビを消し消灯するのだった。

すると・・・部屋の中央に置かれたテレビは鏡となった。

マジックミラーと同様の偏光フィルムが貼られていたのである。

北の窓の花火の光はテレビに反射し、さらに南の窓に反射する。

ガリレオの構えた携帯電話のカメラには「月と花火」が写されていた。

「証明終りです・・・神原さん・・・あなたは他の女優に心変わりした被害者を殺し、そしてこのように写真を撮影したのです」

神原の顔に熱狂が現れる。それはガリレオへの賞賛でもあったが・・・彼と同等の知力を持っていた自分への賞賛でもあった。

「私は彼を憎んでいたし・・・人を殺して演技を極めたかった・・・特に後悔はありませんわ・・・十年、刑に服して・・・次に舞台に立った時は素晴らしい演技をお目にかけますよ」

「そういう趣味の人も世の中にはいるかもしれませんが・・・私は遠慮します・・・人を殺しもしないで・・・人を殺したかのような演技をする・・・それが演技者の極みなのだと考えるからです・・・人を殺して人殺しの気持ちを知ることは素人にもできますからね。あなたは・・・完璧を求めるあまりに本筋を忘れてしまった。それでは多くの人々を魅了することはできないでしょう。岸谷くん・・・そういうのをなんて言うと思う?」

「自己満足ですか・・・」

「そう・・・神原さん、あなたはセックスをするべきだった・・・殺人者を演ずるために殺人を犯すのはオナニーと一緒ですよ」

「つまり・・・不完全で・・・一般相対性理論ではないということをおっしゃりたいの」

「GPS衛星は高度2万キロメートルの軌道上にあり、重力場の影響が減少して一般相対論によって時間が早く進みます。遅くなったり早くなったりする時間を相対論的に補正しなければ正しい道は示せないのですよ」

「ふふふ・・・あなたは・・・とても面白い方ね・・・でも・・・正しい道は人それぞれでしょう・・・あなたにとっての狂気は私にとっての正気・・・ただそれだけのことですわ」

「・・・」

「今のは・・・自白ですよね・・・」

「ふふふ・・・せっかちな方ね・・・余裕を持って余韻を楽しまないと・・・本当の愉悦を逃がしてしまうわよ」

その時、小娘刑事は美しくも狂った女優にブラインドタッチで手錠をはめている。

「余計なお世話よ。私には私なりの感じ方があるの。あなたは手錠の肌触りでも分析してなさい」

二人を堪能したそれぞれの夜を回想しながらガリレオは呟く。

「花火代の支払いを忘れずに・・・正しい道を歩むものの美しい仕事にはそれなりの報酬が支払われるべきだから」

人々が去ると窓の外には豪華な夜景が虚しく取り残された。

関連するキッドのブログ→第7話のレビュー

天使による数式的アプローチはコチラへ→テンメイ様のガリレオ2

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2013年6月 3日 (月)

天下御免の万国公法でごぜえやす(綾瀬はるか)

「万国公法」(Elements of International Law)は米国の法律家・ヘンリー・ホイートン(1785-1848)の1836年刊行の著書である。

日本に伝来した時期は不明だが幕末の志士たちの必読書となっていた。

オランダに留学した津和野藩士の西周(にしあまね)が1866年頃にすでに「万国公法」について触れていることが記録されている。

死の直前の坂本龍馬は「万国公法」の翻訳を計画していたとされる。これによって「いろは丸沈没事件」における紀州藩との談判を有利に進めようとしたらしい。

当然のことながら、そこに記される万国とは西洋列強を示している。

西洋列強の文明国が万国であり、アジア諸国は野蛮国、アフリカ諸国は未開国であり、万国には数えられなかったわけである。

幕末の教養あるものたちはここに着目し、「万国公法」を理解することで文明国の仲間入りをし、万国の列に加わろうとしたわけである。

「敵国の元首は討ち首だ」と誰かが言えば・・・「万国公法にはそんなことは書かれていない」と批判され・・・前言を撤回せざるをえないという一種のお約束が成立したのだった。

「万国公法」の原題は「国際法原理」であり、一種の学術書であるために・・・原理原則の概要を示している。

つまり、すべての事例が書かれているわけではない。

そのために・・・「万国公法」を持ち出せば・・・ある程度の無理は通ったのだった。「ないもの」を肯定はできないからである。

で、『八重の桜・第22回』(NHK総合20130602PM8~)作・山本むつみ、演出・末永創を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は次男・三郎は戦死、長男・覚馬は斬首(誤報)と一挙に二人の後継者を失った会津藩士にして八重の父親・山本権八の慟哭のイラスト描き下ろし大公開でお得でございます。まさに無惨に尽きる一幕でしたねえ。息子二人を同時に失って途方に暮れながら悲報を伝える婿に礼を述べる父はまさに武士の鏡でございましたな。同じ哀しみを抱えながら夫を失った嫁うらを慰める母の姿も見事でございました。一番悲しいのは母の佐久でありましょうに・・・。

Yaeden022 慶応四年(1868年)三月一日、関東防衛のために出陣した近藤勇の甲陽鎮撫隊は行進速度が遅く、東山道を進む板垣退助の迅衝隊が先んじて甲府城へ入城。野戦を余儀なくされた甲陽鎮撫隊は六日、壊滅する。同日、東海道を進軍する新政府軍は駿府城にて江戸総攻撃を十五日と定める。恭順派の旧幕府陸軍総裁の勝海舟は江戸城引き渡しの交渉を開始し、東征大総督府参謀の西郷隆盛の合意を得る。総攻撃は中止され、四月十一日に江戸城は無血開城され、徳川慶喜は水戸で謹慎するために江戸を出発する。二十一日、東征大都督である有栖川宮熾仁親王が江戸城に入城し、江戸は新政府の支配下に入る。閏四月三日、抗戦派の旧幕府軍と新政府軍が船橋で激突。旧幕府軍は壊滅する。五月十五日、旧幕府軍による江戸治安維持部隊の彰義隊が上野にて新政府軍と激突。新政府軍司令官・大村益次郎は佐賀藩のアームストロング砲によって彰義隊を壊滅せしめる。一方、孝明天皇の義弟にあたる奥羽鎮撫総督九条道孝は京都をたって三月二十三日に仙台に到着。朝敵となった会津藩、庄内藩に対して、仙台藩、米沢藩を通じて降伏交渉に入っていた。陸奥国、出羽国、越後国の諸藩は会津藩・庄内藩に同情的であり、両藩の赦免嘆願を願う奥羽越列藩同盟を結成した。しかし、それは軍事同盟ではなく諸藩は新政府軍の支配に従っていたのである。六月六日、上野戦争に敗北した輪王寺宮公現法親王が会津に到着する。

西郷吉之助は東西奔走を続けていた。篤姫の指示により科学忍者隊は西郷直轄の隠密部隊となっている。

幕府海軍の甲鉄艦・轟天丸は回天と改名され、西郷の専用艦となっている。

艦長は元・海援隊の陸奥宗光である。回天は巡航速度15ノットの蒸気船で江戸~大阪間を二日で渡航可能であった。

西郷は品川沖を出発し、二日後に大坂湾に入港、河川艇・荒川で半日で京都入りし、往復五日で江戸に戻ってこれたのである。

江戸で勝海舟と会談し、駿府で新政府軍に号令し、京で新政府と調整を行うことが三日間で可能なのだった。

江戸の無血開城を決めた西郷は京都での朝議の後、新政府によって接収された京都長者町の仙台藩屋敷に向かった。

屋敷は鳥羽伏見による戦いの負傷兵の看護のために臨時の病院が設営されている。

薩摩藩京屋敷の地下牢から山本覚馬は身柄を屋敷の一室に移されていた。

すでに失明した覚馬には逃亡の恐れがなかったのである。

また、天皇のくのいちである小田時榮と藤原のしのびの会津小鉄およびくのいちのお市が昼夜を分けて覚馬を監視していた。

「勝様のはからいで・・・江戸の街を火の海にすることは避けられ申した」

「それは・・・何よりでござった」

「旧幕府の残党は関東各地で抵抗を続けておりますが・・・制圧は時間の問題でごわす」

「・・・」

「問題は・・・元京都守護職の会津藩と元江戸市中見廻り役の庄内藩でごわす」

「・・・」

「近頃はどの藩も・・・それなりに尊皇攘夷と佐幕派の藩内抗争があるのが普通でごわす」

「しかし・・・雪深い地方のものどもは・・・鈍いと申されるのだな」

「いかにも・・・恭順して武装解除に応じる気配がまったくありもはん」

「・・・」

「会津藩などは・・・武装して恭順していると・・・困ったことを申すのでござる」

「それはなりませぬか・・・」

「なりもはん・・・特に長州藩は・・・長州征伐の怨みがごわす」

「岩倉様にもお頼み申したが・・・なんとか・・・拙者を使者として会津に遣わしてもらえぬでごぜえましょうや」

「それも・・・さすがになりもはん・・・また・・・山本殿がいかに口説こうとも・・・藩論は覆らぬと思えるのでごわす・・・有能の士であった神保修理に切腹申しつける愚鈍さがなによりの証でごわそう」

「・・・会津は火の海となりましょうな」

「それは・・・判り申さぬ・・・早晩、降伏してくれるのを願うばかりでごわす・・・」

会津はそう簡単に降伏せぬであろう・・・と覚馬は暗澹たる気分となった。

「本来なら・・・戦のありかたを論じたいほどでごわすが・・・それを控えるのが精一杯であるとご理解たまわりたい・・・」

覚馬には軍学者として会津攻略のための作戦が整いつつあった。

いっそ、それを話し、戦の早期決着を図るのも一つの奉公であるかもしれなかった。

しかし・・・故郷に遺した父や妹弟のことを思えばそれも出来かねた。

「すべては運命と・・・お覚悟くだされ」

「運命と仰せられるか・・・」

「日の本を・・・西洋列強から守るための犠牲でごわす・・・」

覚馬は心中ひそかに頷いた。

しかし・・・それでも会津の地が見舞われる悲惨を思えば割り切れぬ思いも残るのだった。

すでに弟・三郎が鳥羽伏見の戦いで戦死したことを虜囚の身である覚馬は未だ知らなかった。

会津藩では本土防衛・四民玉砕の臨戦態勢が整いつつあった。

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2013年6月 2日 (日)

あまちゃん、九段目の土曜日(橋本愛)

最初のフィナーレとも言うべき、九週目の「あまちゃん」・・・。

どん底に落ちたヒロインが立ち直って一週間後のイベントに参加できるかどうかを連日お届けである。

(月)・・・うひ。

(火)・・・腹へった~。

(水)・・・ふっかーつ。

(木)・・・Λ

(金)・・・ΛΛ

(土)・・・楽しかった~。次、いくべ。

加速した第八週から一気に減速。この緩急が実にトレビアンである。

(金)は五月の最終日であり、(土)は六月の初めの一日。

序盤終了の余韻を残しつつ、新たなる展開へのスタートを切る。

オーソドックスでありながら、フレッシュな構成が・・・脚本家の腕の冴えを見せつけるのである。

今週は「おらの大失恋」というタイトルの通りにヒロインの初恋の顛末が描かれるのだが、同時にヒロインのパートナーたちが混乱した事態の収拾に精魂を傾けるストーリーにもなっている。

娘(能年玲奈)に対する母(小泉今日子)、孫娘に対する祖母(宮本信子)も奮闘するが・・・やはりメインはヒロインの親友であり、ライバルでもある彼女(橋本愛)なのである。

その美しすぎて呪われたようなポーカーフェイスの真骨頂が展開していくのだ。

で、『連続テレビ小説・あまちゃん・第9週』(NHK総合20130527AM8~)脚本・宮藤官九郎、演出・西村武五郎を見た。2008年夏、母の故郷・岩手県北三陸市(フィクション)にやってきたアキ(能年玲奈)は心の不安定な母親・春子(小泉今日子)と海女である祖母の夏(宮本信子)の葛藤に翻弄されながら、海女になり、南部ダイバーになり、北三陸のアイドルにまで上り詰める。時は流れて気がつけば2009年の早春。しかし、高校の先輩である種市浩一(福士蒼汰)に告白して失恋し、自転車で海中に特攻をかけたのだった。

月曜日 Get Up (I Feel Like Being Like A) Sex Machine (伊勢志摩)

北三陸鉄道を追い抜くスピードで疾走し、袖が浜の海に自転車ごと身を投げたアキ。

その光景のスピルバーグ監督の名作映画のパロディー演出に「E.T.かっ」とたとえツッコミを入れる漁協の職員・花巻珠子(伊勢志摩)だった。

小林一茶が「やれうつな蝿が手をすり足をする」と詠んだ時に「DV男の愛人か」とツッコミを入れるようなものである。・・・たとえが分かりにくいわっ。第一、蠅を擬人化している時点でたとえツッコミ成立してるだろうがっ。

海から引き上げられたアキをおもてなしする海女クラブ一同。

孫がかわいくて仕方ない夏ばっぱは大慌てで駆けつけるのだった。

自分の発言を解説する珠子に・・・理解力のないアホの子であるアキはさらに哀しみを募らせ大号泣した後で発熱するのだった。

「アキが失恋して自殺未遂・・・風引いて寝込んで学校休む」の知らせは海女クラブ→漁協→北三陸鉄道のルートで伝播し、大吉(杉本哲太)の関係者一斉メール送信によって完全に人々の知るところとなるのである。

喫茶リアスでは春子が看病のために早退する。

すっかり謎多き男・ミズタク(松田龍平)に心奪われたらしい熊谷美寿々(美保純)は囁く。

「失恋なんてロマンチックよねえ・・・だって失恋しないと新しい恋が始められないでしょう」

「とにかく・・・ここだけの話にしてよ」と春子。

「アキちゃん・・・失恋したんですって」と喜々として飛び込んでくるストーブ(小池徹平)だった。

北三陸駅の恋多き構内ではアキと連絡がつかず、潮騒のメモリーズのデビュー一週間前なので気が気ではないユイ(橋本愛)が大吉に事情を問う。

「風引いて寝込んでるって話だ」

「だから・・・返信来ないのか」

「ユイちゃんも気をつけてくれよ。ま、ユイちゃんは海には飛びこまないと思うけんど」

「ええっ・・・なんで」

「失恋したってことだ・・・」

何かひどい目にあったような気がするアキはいてもたってもいられないのだった。

幼子のように裸足で表に出ようとするアキに夏ばっぱは綿入れを着せかける。

しかし、それを振り払って立ちあがるアキのリフレイン。

「ジェイムズ・ジョセフ・ブラウン・ジュニア(1933-2006)かよっ」とたとえツッコミをいれる珠子だった。ジェームズ・ブラウンと言えば「セックス・マシーン」(1970年)である。

ゲロッパ

ゲロッパ

勃起だよ

おっ立ってるよ

セックスする機械みたいな気分だよ

俺は感じるぜ

お前も感じるだろうが

この世に生まれて来たってことをさ

俺のやり方でやりまくれ

ケツをゆさぶりまくれ

ゲロッパ

ゲロッパ

こんな歌ですが1992年にCMでお茶の間にファンク旋風を巻き起こしたのである。

ファンクの帝王から犯罪者へ・・・そして復活。乱高下する彼の人生とアキの心の見事な対比である。

海女クラブではアキの失恋話が盛り上がる。

なにしろ、海女クラブにとってアキは宝物なのである。

かつ枝(木野花)が「それにしても種市くんは最近では珍しい好男子と思っていたのにな」と言えば、弥生(渡辺えり)が「種市の野郎、しめないとなんないべ」と凄むのだった。

そして、出会いと別れの駅構内では種市を待ち伏せたユイが絞めにかかるのである。

「ちょっと、ちょっとなにしてくれてんのよ・・・アキちゃんがどうして海に落ちたと思っているの」

「・・・若さ」

「キーッ」である。

喫茶「リアス」では大吉たちが固唾を飲んで成り行きを見守る。もちろん、吉田(荒川良々)もなんとなく通りすがるのを忘れない。

「アキちゃんに・・・なんて言ったの」

「ユイと付き合っているから付き合えないって」

「ちょっと待って・・・誰が付き合ってるって・・・」

「俺とお前・・・」

「違うでしょ・・・付き合ってないでしょ・・・付き合うのは東京行ってからって言ったでしょ・・・あれは予告っていうか・・・予報でしょ・・・一週間後にはつきあうことになるでしょうっていう」

「そんなこと言ったって・・・」

ユイは自分の誤算に目がくらむ思いだった。

アキが失恋して・・・ショックを受けるのはお座敷列車のイベントが終わってからでなければならない・・・。

しかし・・・口が軽い男のことを失念していたのは・・・大失敗だったのだった。

とにかく・・・なんとかしなければ・・・と唇をかみしめるユイだった。

盗み聞きしていた人々はすべての事情を把握したのである。

アキは天野家の囲炉裏端に固まっていた。

帰宅した春子は猫なで声で話しかける。

「ストーブさんのことを笑えないぞ・・・囲炉裏の前から動かないのは・・・い・・・い・・・いろりちゃんだぞお」

「うひ」

思わず母にあやされかかるアキ。

「ほら・・・笑った」とすかさず云わずには居られない春子だった。

あわててふさぎこむアキである。

「お母さん、なんか作るね・・・」

内向的な子供を育てた春子である。その扱いは一応心得ているのである。

「何があっても・・・お腹が減るんだよね・・・そんで焼きそば食べると歯に青のりがつくんだよね~」

母の言葉に焼きそばを食べたり、食べるのをやめたりするアキである。

「でも・・・早く治さないとお座敷列車で歌えないよ・・・」

「おら・・・やりたくねえ・・・歌ったり踊ったりする気分じゃねえもの!」

「そう・・・それならそれで別にいいけど・・・お母さん、反対だしさ・・・でも・・・みんな、楽しみにしてるんだろうねえ」

春子も矛盾した心情を吐露する。我が子がちやほやされるのは憎らしいのだが・・・我が子の可愛いところも見てみたいのである。

痛いところをつかれて・・・アキは重い口を開くのだった。

「おら・・・先輩に告白しただ・・・正式につきあってけろって・・・そしたら・・・先輩には好きな人がいて・・・」

「ユイちゃん・・・」

「もう、付き合ってるって・・・バリバリ付き合ってるって言われた・・・」

天野家の玄関にはユイが仁王立ちしていた。

火曜日 私たちの職場恋愛をたまたまにしないでください(安藤玉恵)

敵だ・・・敵がやってきた。

ドテラ(褞袍)モードのアキは制服姿のユイを突破してウニ丼製造工場に祖父・忠兵衛が船出した時の祖母・夏の真似をして立てこもるのだった。

大好きだった先輩を親友のアキちゃんに盗られちゃったからである。

「あのね・・・アキちゃん・・・私たち・・・つきあってないの・・・あれは先輩の勘違いなの・・・ごめんなさい」

「あやまることないじゃん・・・ユイちゃんは何も悪い事してないんだから・・・たまたま、種市くんにとって、アキよりユイちゃんの方が魅力的だっただけなんだから・・・この年で初めての失恋なんて・・・それこそ、どうかしてるんだし・・・」

アキの傷心に塩を摺りこむ容赦ない悪魔のような母だった。

春子はユイにも焼きそばを振る舞うのだった。

「私・・・彼氏とか必要ない子なんですよね・・・だから、ウキウキしているアキちゃんが腹立たしかったっていうか・・・嫉妬してました。それに・・・なんで私じゃなくてアキちゃんなんだろうと思ってたし・・・先輩はちょっと格好良かったし・・・東京に行くって言うし・・・」

「ああ・・・東京に彼氏が欲しかったんだ」

東京を崇拝するユイの心情を察する春子だった。

「でもね・・・大丈夫だよ・・・さっき、ユイちゃんを突き飛ばしていったでしょ・・・あんなに悔しい気持ちを見せたアキは初めてなの・・・アキも強くなったなと思うんだ」

娘の闘争心に喜ぶ親バカな元ヤンキーの春子だった。

その頃、アキは食べかけた焼きそばを食べ残したことで頭が一杯だった。

「ハラ減った~、はらへったあ~」

寝ながら駄々をこねるアキ。

「アキちゃん・・・帰るね・・・早く元気になって」

意地でも答えない、絶対顔も合わせないアキだった。

て、敵のくせに・・・。う、裏切りもののくせに。心で唸る手負いの獣である。

二日後、漸く登校を再開したアキだったが、電車の中で「おはよう」と挨拶するユイを完全無視するアキだった。

意地でも答えない、絶対顔も合わせない、ましてや同席なんてしないアキなのである。

関係修復に絶望するユイだった。このままでは・・・デビューの舞台が台無しなのである。

喫茶リアスでは大吉が血相を変えていた。

「そ・・・それはどういうことですか・・・」

「だから・・・お座敷列車にはアキは乗らねえと・・・」と夏ばっぱ。

「じぇじぇーーーーっ」

観光協会では「太陽にほえろ!」サントラよりサスペンスM1が薄いB.G.M.で流れていた。

ブラインドを押し下げて外の様子を伺う吉田。

薄暗い室内には大吉、ストーブ、保(吹越満)、栗原しおり(安藤玉恵)ら腹黒い大人たちが種市を拉致し、軟禁しているのだった。

「君がノーと言えば・・・ローカル鉄道の未来が閉ざされるんだ」と大吉は鉄道模型を凶器として種市を恫喝する。

「自分の気持ちに嘘はつけません」

哄笑するどす黒い大人たち。

「君の気持なんてどうでもいいんだよ」と吉田。

「アキちゃんはめんごいべ」とストーブ。

「この男は今でもアキちゃんが好きなんだよ。好きなんだけどどうにもならなくてたまたま職場恋愛で栗原ちゃんとつきあってる。その彼が君とアキちゃんの恋を応援するって言ってるんだ・・・察しろ」と保。

「たまたまじゃないから」としおり。

「すごい・・・赤字が出ちゃうんだ・・・赤字覚悟で準備したイベントなのに・・・中止になったらもう・・・とんでもない赤字なんだよ・・・つぶれるよ・・・北鉄・・・君のせいでつぶれちゃうよ」と大吉。

「ずぶんは・・・天野を傷つけちまった・・・天野は不器用でバカだけど・・・人の本心を見抜く動物的な勘があります・・・ずぶんにはもう無理なんです」

「・・・中止か」と一同が肩を落とした瞬間。

ユイと父親の功(平泉成)がやってくる。

「私、一人でもやりぬきますから・・・中止にしないでください」

父親「娘のミス北鉄としての自覚を欠いた行動については正座して詫びたい。ただし、土下座をするほどではないと思う。しかし・・・そのために北鉄が廃止に追い込まれるようなことになったら議員を辞職する覚悟だ」

つまり、覚悟はあるが辞職はしないのである。

こうして・・・ユイに対する歌唱指導係・弥生の猛特訓が再開された。

「だめだ・・・そんなことではお客の心はつかめねえ」

「あの・・・うちの子は誉められてのびる子なんです」とユイの母・よしえ(八木亜希子)が嘆願する。

「大丈夫・・・たたかれてものびるから・・・」と必死だが無表情なユイだった。

「もっと、感情を表現して・・・」

私のお墓の前で

私のお墓の前で

泣かないでください・・・

抜け目なく観察していたミズタク(松田龍平)はこっそり様子を伺うアキに気がついて喫茶「リアス」から出てくるのだった。

「やあ・・・入らないのかい・・・面白いよ」

「・・・」

「君の動画見たよ・・・ウニを取ってる奴・・・浅瀬でやっているのかと思ったら結構、沖に出てるんで驚いた」

「あれは・・・本気獲りの日だから・・・」とあの日の興奮を思い出すアキ。

「そうなんだ」

「夏になったらまた潜るんで蛇口さんも見に来てけろ」

「惜しい・・・蛇口から出る方だよ・・・水口です」

「ふひぇひぇ・・・」と一瞬、笑顔を取り戻すアキ。

「東京から来たんだって・・・東京のどこ・・・」

「・・・世田谷」

「世田谷のどこ・・・」

「東京の話はいいです・・・東京へ行くなんてバカのすることだ・・・そんな奴は浅草寺の鳩に襲われて食われちまえばいい」

「それって・・・誰のこと」

アキの脳裏に浮かぶ種市先輩の面影。

そこへ・・・本人登場である。

「あ・・・俺、煙草買いにきたんだっけ」と如才ないミズタクだった。

「アキ・・・」

「・・・はい」

ユイには口を開かなかったのに種市には応じるアキだった。

女の敵は女なのである。

「・・・東京の住所さ・・・」

ああ、敵だ。種市先輩も敵なのだ。

「ごめんしてけろ・・・」とつらい現実から逃げ出すアキだった。

アキのアホの子手袋に一部愛好家釘付けの名場面である。

春子が思うほどにはアキは強くなってませんから~とツッコミを入れる夏だった。

ユイの熱唱する「潮騒のメモリー」が虚しく響く駅の構舎だった。

来てよ その火を 飛び越えて

砂に書いた アイ ミス ユー

水曜日 地獄さ落ちろと思っただ(能年玲奈) 

アキの心のケアについて話し合う夏と春子の母娘。

「男と女のことだからなあ・・・」と見守る姿勢の夏。

「本当は地味で暗くて向上心も協調性も存在感も華もない子なんです」とポジティブな母親の裏の顔をのぞかせる春子だった。

「よくもまあ・・・娘の欠点をそんなにスラスラと・・・」と呆れる夏だった。

お座敷列車イベントの二日前・・・再び引き籠るアキなのである。

そんなアキの秘密の部屋に食事を届ける春子。

「ごはん・・・ここにおくわよ」

「いらね」

しかし・・・小動物の目付で様子を伺うアキ。

忍び足でドアを開け、置かれた食事に目を輝かせる。

それをニヤニヤ見ている春子。

「いらねったらいらね」と反抗するアキだった。

えげつないよ、春子えげつないよ。

かわいいよ、アキかわいいよの応酬である。

しかし・・・大人たちの世界ではパニックが巻き起こっていた。

「キャ、キャンセルが止まりません」と大吉に悲しいお知らせを届けるストーブ。

「キャンセル待ちのお客さんにまわせばいいべ」

「キャンセル待ちのお客さんよりキャンセルのお客さんが多いし、キャンセル待ちをキャンセルするお客様もおキャンセルなんです」

「やはり・・・アキちゃんじゃないと・・・」

その一言を無表情に聞くユイ。

ストープとユイは春子に訴えるのだった。

「でも・・・あたしの云うことなんか・・・あの子きかないもん」

「お母さんは・・・アキちゃんの歌を聞きたくないんですか・・・」

「いやいや歌われてもねえ・・・あんたたちが心から仲直りして・・・楽しく歌ってくれるんだったら聴きたいけどなあ・・・」

「・・・」

春子はユイを挑発するのだった。

アキはのんびと自宅ライフを満喫しながら干し芋を食べようとしているのだった。

そこを急襲するユイ。

「ごめん・・・最後にするから・・・云いたいことを云おう」

「おら・・・云いたいことなんかねえ・・・干し芋食うんだ」

天野家を逃げる小動物のアキ。獲物を追う狩人のユイだった。

「私、アキちゃんがちやほやされて・・・アキちゃんにむかついてた」

「・・・」

「彼氏ができたと聞いて頭にきてた」

「・・・ユイちゃんは種市先輩のこと・・・好きじゃないの」

「わからない・・・」

「そんな・・・私は本当に種市先輩のこと、好きだったのに・・・」

「だから・・・最初は断ったんだ・・・でも東京の彼氏と遠距離恋愛してみたかったし・・・」

「じぇじぇ・・・」

買い物帰りの夏は家に入りかねて外から様子を伺っている。

そこへ呼び戻された春子が到着。

「どうしたのよ・・・」

「ユイちゃんが来てる・・・」

「・・・」

「入んなよ・・・二人ともナーバスになってるから・・・」

修羅場が苦手な夏は春子を残して逃亡するのだった。

ついに本音中の本音を語るユイ。

「本当は・・・アキちゃんと同等か上にいないと我慢できない性格なの・・・ごめんね」

「ははは・・・」と乾いた笑いをもらすアキ。

「ユイちゃんが・・・そんなこと考えてたなんて・・・思ってもみなかった・・・」

「・・・」

「おら・・・長い夢から覚めたみたいだ・・・」

「夢・・・」

「こっちゃさ・・・来てからアキアキって可愛がられて・・・おら調子にのってただ・・・先輩がユイちゃんと付き合ってるって聞いた時も、ユイちゃんが憎くて悔しくて・・・地獄に落ちろって思っただ・・・でも考えてみれば・・・おらとユイちゃんは比べるまでもねえ・・・おらなんか・・・地味で暗くて向上心もねえ・・・あと・・・なんだっけ・・・ママが云ってたんだけど・・・」

アキの心の傷に今、気がついた春子は辛抱たまらず現場に乱入するのだった。

「そんなこと忘れなさい。アキは地味じゃないし、暗くないし、向上心も、協調性もあるんだから・・・あんたは変わったんだから・・・」

「あ・・・協調性だ・・・」

「いいのよ、悔しかったら呪えばいいの・・・地獄に落としてやればいいの・・・とられたら・・・とりかえしなさい・・・それでもあんたたちは変わらない・・・二人ともいい子だし、バカだし、子供なんだから・・・」

もう勢いでごまかす気持ち満々の春子だった。

子供たちは大きな子供に叫ばれて大人になるしかないのだった。

「私・・・なんか作る・・・二人とも食べなさい」

アキとユイの切れた絆は再び繫がった。

「ねえ・・・どうする・・・潮騒のメモリーズ」と本題に入るユイ。

「・・・」しかし、即答はできないアキだった。

「じゃ・・・とにかく・・・学校には来なさいよ・・・明日は卒業式なんだから」

種市先輩との別離の日である。アキは漸く頷くのだった。

その頃・・・ストーブはアキのファン一号として・・・アキを愛した男として・・・ただの男として・・・種市を呼びとめていた。

イベントの看板を描く人手が足りなかったのである。

観光協会プラスワンはお座敷列車イベントの看板作製のため・・・徹夜で作業を続けるのだった。

そして・・・翌朝・・・アキは・・・出来上がった看板を見上げて決意する。

「ユイちゃん・・・おら・・・やるだ・・・」

「え・・・」

「お座敷列車さ乗って、潮騒のメモリー歌って踊るだ」

「じぇじぇーっ!」

無表情のまま、方言に戻るほど驚くユイ。完璧なキャラクター造形である。

「やらないわけにはいかないべ」

ストーブの真心が今、アキに届いたのだった。

教室では三年生が磯野先生(皆川猿時)に別れを告げる。

「お前たち・・・卒業しても遊びに来いよ・・・って毎年云ってるけど誰も遊びに来ねーっ」

「御指導、ありがとうございました」と卒業生を代表してお礼の挨拶をする種市先輩を見つめるアキ。

「天野・・・」

「先輩・・・」

何故か、ペンキで汚れている種市の差し出した手を見て・・・可笑しくなるアキだった。

二人は仲直りの握手を交わすのだった。

一件落着・・・と安堵したユイ。デビューの舞台は整ったのだ。

そんなユイの元に届く不審な声。

それは何者かと電話で話すミズタクだった。

「ええ・・・一応、席は用意しておいたので太巻さんにはそう伝えてください・・・僕もムービーを回しますけどね・・・二人ともキャラはいいんです・・・問題があるとすれば歌唱力ですかね・・・可能性・・・五分五分ですね・・・母親のガードが固くて・・・訛ってる方です・・・」

ミズタクの正体にピンと来たユイだった。

木曜日 ハッとしてGood来たならトシちゃんです(福田萌)

いよいよ、北三陸鉄道開業25周年記念イベント・・・潮騒のメモリーズのお座敷列車出発進行の当日がやってきた。

しかし・・・朝。午前六時に父親に駅に送り届けられたユイはそのまま消息不明になってしまったのである。刻々と迫る出発時間なのだった。

午前八時・・・続々とつめかける乗客。

岩手こっちゃこいテレビの情報番組「5時だべ わんこチャンネル」の司会者・福田萌(福田萌)はホームで出発の時を待つ、お座敷列車の完全密着取材を敢行中である。

改装費一千万円で売上百万円では赤字じゃないかというお茶の間の皆様もいるだろうが、一度改装すればお座敷列車は団体貸し切り列車として運行が見込まれているのである。本日満員御礼が出れば宣伝効果は抜群で充分に成算があるのだった。

福田萌はスタンバイしているアキの元へ。

「体調不良のために・・・参加が心配された海女のアキちゃんでしたが・・・無事体調も回復して本番に間に合いました」

「海女のアキです・・・御心配かけてごめんしてけろ」

「アキちゃんは今日限りで引退するそうですね」

「はい・・・普通の女の子に戻ります・・・でも、夏になったら海女をやるので会いに来てけろ」

「キャンディーズからの蝉宣言のアキちゃんでした・・・分る人には判るたとえツッコミでした~」

しかし・・・肝心のユイが来ないのだった。

娘が行方不明だというのに立場上謝罪するしかない足立夫妻である。

ストーブも岩手こっちゃこいテレビのディレクター・池田(野間口徹)に頭を下げるのだった。

「すみません・・・もうすぐ到着すると思うので」

「気にしないでください・・・まだ出発まで二時間ありますから」

鷹揚なところを見せる池田だった。

夏たち海女クラブが総出で作ったウニ丼も到着。

最前列に陣取ったヒビキ(村杉蝉之介)たち熱狂的なファンへのインタビューも収録される。

「最初からのファンだそうですね」

「ユイちゃん押しです」

しかし、ユイはまだ姿を見せない。

午前八時。

「どうなってんの」と突然、キレ出す池田だった。

そこへ・・・キャンセルされ忘れたらしいピンチヒッターのものまね芸人・原俊作(原俊作)が到着する。

「あんた・・・誰・・・」

「田原俊彦です」

「どうすんだよ・・・一時間切っちゃったよ」

「アキちゃん・・・昨日、ユイちゃんに変わったところはなかった・・・」

「さあ・・・あ・・・」

突然、叫ぶアキ。そして何やらポーズを決める。

「潮騒のメモリーズのポーズを決めましたっ」

さらにキレる池田だった。

「ちょっと表に出ようかっ」

「なんだよっ」と眠れるヤンキー魂に着火しかかるアキだった。

「パソコンで・・・太巻き寿司のこと調べてました・・・」としおり。

「寿司を食べに行ったのか・・・」と保。

「いや・・・それはちょっと・・・」とストーブ。

そこへ大吉がやってくる。

「もう準備整っちゃった・・・どうしよう・・・中止にしようか」

「駅長・・・」

「そんな・・・」

「お客さんが一杯きてくれて・・・やってもやらなくてもいいような気になってきた・・・もう祭りだべ」

「黒字ハイだ・・・」

「しかし・・・中止となれば・・・払い戻しが・・・」

ついに・・・出発時間の九時を回る。

「中止か・・・」

「いや・・・おら一人でも頑張る・・・ユイちゃんはきっと来る・・・だっておらたち約束したんだ」

そこでユイからの着信が・・・。

「ユイちゃん」

「アキちゃん・・・」電話の向こうのユイは消え入りそうな様子である。

「どうしたの?」

「驚かないで聞いてね・・・昨日電話で話をしているのを聞いたの・・・芸能事務所のスカウトが来ているの」

「誰なの・・・」

「勉さん・・・」

「じぇじぇっ」

思わず琥珀掘りの勉(塩見三省)を見るアキ。見られて驚く勉だった。

「・・・の弟子のミズタク・・・いるでしょ」

「・・・うん」

「私たちキャラはいいけど歌唱力に問題があるって東京のプロデューサーみたいな人に報告してた・・・私・・・こわい」

すべてが理解できなくても事情を動物的な勘で察したアキ。どうやらユイはビビっているらしいと気がついたのだ。

場所を変えて一人になり・・・ユイを説得するアキだった。

「こっちにくれば・・・みんな集まって楽しいよ」

「お腹が痛い・・・とても楽しめない」

「ユイちゃん・・・前におらのこと怒ったべ。思い出作りだけじゃないって・・・でも・・・おらは思い出作りたい・・・ユイちゃんと楽しい思い出作りたい・・・それじゃ・・・ダメか」

「わかった・・・行く」

無表情のまま・・・苦悩からの解放を演じるユイ・・・見事である。

「どこにいるの・・・どのくらいかかる」

しかし、ユイは目の前のトイレから颯爽と登場し、付き人にコートを投げ渡すのだった。

ゲロッパ

ゲロッパ

二人は手をつなぎホームへと走り出す。

「今、二人がそろってやってきました・・・」と実況する萌。

ユイとアキを歓声で迎える乗客たち。

「ミス北鉄のユイちゃんです」とアキがユイを紹介。

「海女のアキちゃんです」とユイが返す。

「二人揃って潮騒の・・・メモリーズで~す」

~~λλ~~と波うたせた指でМを作る二人だった。

出発するお座敷列車を笑顔で見送る春子。

ホームにはトシちゃんが残されていた。

見送りの客たちに「トシちゃですよ・・・」とフォローする春子だった。

一応・・・トシちゃんとキョンキョンの夢のツーショット成立なのである。

金曜日 行け!走れ!南部ダイバーからの潮騒のメモリー・・・かたく腕を組んで(大方斐紗子)

大盛況のお座敷列車はアニソンヲタも鉄ヲタも殺すキラーアイテム「THE GALAXY EXPRESS 999」のメロディーにのって往路を疾走する。客層はファミリーあり、高齢者あり、おタクありでアキとユイの幅広い年齢層からの支持を物語る。

思わず荷物棚に頭をぶつけて苦笑する時もポーカーフェイスのユイだった。

車窓には第一話でアキを魅了したリアス式海岸の風景が広がる。

「リアスの海が見えてきました」

「絶景ポイントなので記念撮影をどうぞ」

コンビネーションも抜群の潮騒のメモリーズだった。

まさに第一部のフィナーレの趣きである。

夏と海女クラブの面々はウニ丼300個の量産を終えて息も絶え絶えだった。

春子は定員オーバーの喫茶リアスで切れかかっていた。

ミサンガまでも売り切れて海女クラブに手間賃倍の追加発注が出た。

勉は「じぇっ」と叫び、美寿々はオーバーワークでナチュラル・ハイになりニヤニヤしていた。

そして・・・お座敷列車は折り返し点の「畑野駅」(フィクション)に到着する。モデルとなっている北リアス線には田野畑駅があります。

ここで・・・潮騒のメモリーズの二人は衣装チェンジをするのだった。

ユイは可愛い帽子を被り、アキはバカリボンを頭に装着する。

「どうかな・・・わからなくなっちゃった」

「ユイちゃんは似合ってる・・・問題はおらだ・・・これ・・・アイドルか」

「・・・」

アイドル・・・女芸人の中間域を彷徨うアキだった。

「そろそろ・・・出発するよ」

呼びに来たマネージャーのストーブに衣装チェックを求めるアキ。

「どうだべ」

「・・・」

「き、兄妹そろってなんだべ~」

ノリノリのコント終了後、復路はじゃんけん大会やゲーム大会、そしてカラオケ大会で盛り上がるお座敷列車。

そして・・・ついに「潮騒のメモリー」(一部披露)である。

北へ帰るの 誰にも会わずに

低気圧に乗って 北へ向かうわ

彼に伝えて 今でも好きだと

ジョニーに伝えて 千円返して

振付も可愛いし、歌割も楽しいのだが・・・完全版はいつ見せてくれるんだよっ。

こうして・・・北三陸駅・畑野駅間を三往復・・・お座敷列車は大盛況のまま・・・幕を閉じた。

「わははははははははははは」と笑いの止まらぬ大吉だった。

関係者一同は死屍累々を駅舎にさらすのだった。

そこへ到着する海女クラブ一同。酒とつまみの一斗缶をかかえて・・・「打ち上げの宴会列車」を臨時で運行しろと大吉に詰め寄るのだった。

「おらたちにも飲ませろ・・・」

「アキとユイの歌をきかせろ・・・」

そこへ・・・アキとユイが乗り遅れた鈴木のばっぱ(大方斐紗子)を連れてやってくる。

「孫に切符買ってもらったのに・・・もたもたしていたら乗り遅れた」

鈴木ばっぱは初回にも登場した北三陸市の人である。

演じているのは監督・高畑勲、作画監督・大塚康生、原画・宮崎駿(他)という豪華トリオの劇場アニメ「太陽の王子 ホルスの大冒険」(1968年)の主役・ホルスの声優の人なのだった。ちなみにヒロインのヒルダは市原悦子が演じています。

「大先輩なのでおらたちからも頼むだ・・・」

アキとユイから頼まれたら拒めない大吉はまたしても第三セクターの意地を見せるのだった。

すかさず・・・大吉は春子も乗車させ・・・お座敷列車は宴会場へと早変わり。

本職の運転士の方だけは参加できない不条理がここにあります。

そこへ・・・ユイが呼び寄せた種市先輩が登場。

「呼ばない方がよかった?」

「先輩~、早くのってけろ~」

微笑む種市だった。

トシちゃん相手にすっかり「うける~」などといって「まほろ駅前番外地」(テレビ東京)の登場人物と化していたミズタクも正気に戻って乗り込んでくるのだった。

スカウトマンかもしれないミズタクの登場に緊張するユイ。

「ユイちゃん・・・大丈夫?」とユイを気遣うアキ。

「アキちゃんと歌うのも・・・これが最後だもの」と気丈に振る舞うユイ。

大吉と吉田の「ゴーストバスターズ」熱唱を前座として・・・ついに春子の前で「潮風のメモリー」が披露されるのだった。

とぎれとぎれに流されるのだが気がつけば歌えるようになっている人は多いはずである。

コチラでためしてみてください。

置いていくのね さよならも言わずに

再び会うための 約束もしないで

北へ行くのね ここも北なのに

寒さこらえて 波止場で待つわ

やがて・・・列車は折り返し駅に到着。

「どうだった?」と夏と春子に問うアキ。

「おらにはわかんね・・・春子さ訊け」

「今まで一番良かったよ・・・」

そこへ・・・種市がやってくる。

「ずぶんは・・・ここから宮古に出て仙台から新幹線で上京します」

「先輩・・・」

「天野・・・元気でな」

遠くから見守るユイだった。

♪白い鴎か 波しぶき 若い血潮が 躍るのさ

突如、思い出のこもった「南部ダイバーの歌」を歌い出すアキ。

♪カップかぶれば 魚の仲間 俺は海の底 南部のダイバー

合唱する種市先輩だった。

アキの初恋は終ったのだった。

ストープが「まもなく発車します」と別れを急かすのである。

複雑な表情のユイにミズタクが囁く。

「歌、良かったよ・・・」

たちまち、緊張で蒼ざめるユイだった。

窓から身を乗り出したアキは叫ぶ。

「先輩~、またな~」

来てよ その川 乗り越えて

三途の川の マーメイド

友達少ない マーメイド

マーメイド 好きよ・・・

いま万感の思いを込めて・・・汽笛が鳴る。

いま万感の思いを込めて・・・汽車が行く。

ひとつの旅は終わり、また新しい旅立ちが始まるのだった。

土曜日 去年よりずっときれいになった春(山谷花純)

2009年度の新学期が始った。

お座敷列車のイベントは潮騒のメモリーズの人気を不動のものとした。

岩手県民なら誰でも知っているジモドル(地元アイドル)となったアキとユイ。

しかし、アキは芸能活動を忌み嫌う春子との約束に従い普通の女子高校生に戻ったのである。

訪れるファンのために復帰を願う大吉の下心を鼻で笑う春子だった。

アキの人気は意外なところにも現れていた。

北三陸高校潜水土木科の新入生に女子が八人も出現したのである。

そんなにたくさんの女子生徒と対峙したことのない磯野先生は思わずおねえになってしまうのだった。

新入生たちの中にはアキに握手を求めたり、ミーハー丸出しの女生徒もいた。

桜庭(山谷花純・・・「リセット〜本当のしあわせの見つけ方〜」で坂井真紀の少女時代役)などは「あ、ゴキブリ」と言ってアキに「じぇじえっ」と叫ばせ、「本当に訛ってる」ことを確認したりするので油断ならないのである。

他に坪井(久野みずき・・・「帰ってきた時効警察」で関取とあだ名された三日月しずかの中学生時代役)などは体格もいいのだった。

Am009 そんな普通の女子高生になったアキだったが・・・秘密の部屋にはお座敷列車のメガホンやホイッスル、潮騒のメモリーズの写真など潮騒のメモリーズのメモリーが飾られている。

種市先輩とのその後は不明だが・・・親友のユイとは秘密の部屋でお気に入りの飲料パピーを飲みながらおしゃべりする仲である。

ユイは芸能プロデューサーの太巻こと荒巻太一(古田新太)とミズタクとの怪しい関係をアキに話してみる。

「アメ横女学園芸能コースをメジャーデビューさせ、デビュー曲『なみだ目セプテンバー』は60万枚超のスマッシュヒット、 セカンドシングル『空回りオクトーバー』、 カップリングの『肌寒いノーベンバー』はドラマの主題歌に、 『暦の上ではディセンバー』で初のミリオンを達成・・・」と教科書を朗読するように訛りつつ読みあげるアキだった。

「そこまで読めばピンと来るでしょ?」

「わかんね」

「スカウトマンなのよ・・・ミズタクはスカウトしに来たのよ」

「まさか・・・」

「私たちのこと・・・キャラはいいけど・・・歌唱力が問題あるって言ってた」

「めちゃくちゃ怪しいでねえか」と何故か食いつくアキだった。

自分の歌唱力は気になるらしい。

「どうする?」

「どうもこうも関係ねえ・・・おらはアイドルじゃねえし・・・」

無表情のまま、複雑な気持ちを示すユイだった。ものすごいアクロバットを展開中だな。この後もユイは無表情で笑い、無表情でキレるのである。

「そうだねえ・・・」とお茶を濁すユイ。

ユイはアキを必要としている自分とそうではない自分とが葛藤しているようだった。

「でも・・・あの日は楽しかった・・・」

歌い出すアキ。たちまち、二人はあの日に帰って行く。

潮騒のメモリーズだったあの日に・・・。

海女クラブでは海女の集いが開かれていた。

何故か・・・美寿々はミズタクを同伴してきて・・・アキの表情には一瞬、警戒心が浮かぶ。

話題はウニ一個500円のうち、漁協が200円、観光協会が200円搾取するので海女の手取りが100円しかないというもの。

シーズンの間にウニを一個しか獲れなかったアキは年収100円の女なのである。

組合長(でんでん)が弥生に首を絞められる騒ぎの中・・・夏ばっぱはアキに意見を求める。

「待ってるお客さんのために・・・なんか休憩所があったらいいと思ったべ」

「海の家みたいなもんか」

「海の家だと夏の間だけになっちまう・・・フルシーズンの海女カフェがいいべ」

「海女カッッフェかっ」

アキの発案に盛り上がった海女たちは観光協会に押し掛けるのだった。

そして保の自慢のジオラマに手作り海女カフェの簡易模型を配置するのだった。

「海女カフェ作ってけろ・・・」

「そんなこと言っても予算が・・・」としり込みする大吉。

「アキとユイの人気で稼いだ金の半分は北鉄のもんだが・・・半分は海女クラブのもんだべ・・・いくら稼いだ」と詰め寄る弥生。

「海女カッフェ、海女カッフェ」のシュプレヒコールの波が通り過ぎていくのだった。

そんな土曜の昼下がり、ミス北鉄のユイは一日駅長の任についている。

しかし、その顔は無表情だが物憂げだった。

「ユイちゃんも相変わらずすごい人気だね」とお愛想を云う春子。

「田舎の女子高生だから・・・珍しいという希少価値がある今だけですよ・・・東京にいったら私は珍しい存在じゃありません」

アキに芸能活動を許さない春子に苛立ちと不信感を抱いているユイなのである。

「どうしたの・・・ユイちゃん」

春子は防衛本能が発動して前もって弁解口調になるのだった。

「別に・・・」

他人なのに似た者同士のユイと春子の間に緊張が走る。

その緊張は・・・末席にいたミズタクに飛び火するのだった。

「っていうか・・・なんなのよ・・・こっそりカメラを回したり・・・様子を伺ったり・・・一体、私をどうする気なの?」

ついにミズタクの正体に噛みついたユイだった。

不意をつかれて・・・とまどうミズタク。

新しいドラマの幕開けなのだった。

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2013年6月 1日 (土)

みんな!タンクトップでホットパンツだよ!(染谷将太)

ギリシャ神話のヒュプノスは眠りの神である。

覚醒した意識と睡眠中の無意識の中間の領域が催眠状態だと考えると、ヒュプノスは眠りを誘う神であると言える。

ヒュプノスは夜の女神ニュクスの息子であり、兄に冷酷な死神タナトスを持っている。

しかし、永遠の眠りに誘うのはやはりヒュプノスなのである。

苦しみからの解放という意味ではヒュプノスは「死」の持っている優しさを示しているのだった。

そのような背景から催眠術師や、催眠能力者をヒュプノシストと呼ぶ場合があるわけである。

睡眠中の生物は無防備であるが・・・催眠中もまた精神が脆弱な状態にあるとされる。

意識/無意識の中間領域で言葉による暗示が有効となるのは精神的な防衛機能が弱まり、幻覚などが生じやすくなるためだという。

夢うつつの状態で自分が思考しているつもりがいつの間にか夢の中にいるといった経験があれば御理解いただけるだろう。

超能力者としてのヒュプノシストは精神に直接働きかけ、他人を制御できる能力を保有する。

もちろん洗脳の一種で・・・かなり危険な能力である。

で、『みんな!エスパーだよ!・第7回』(テレビ東京201306010012~)原作・若杉公徳、脚本・演出・園子温を見た。超自然現象によって愛知県立東三河の地にエスパーたちが続々と誕生していた。愛知県立東三河高校の男子生徒・鴨川嘉郎(染谷将太)も他人の心を読める超能力が発現する。正義の心を持つ嘉郎は・・・欲望のままに悪に染まる超能力者たちと戦う運命に翻弄されるのだった。・・・そうだったのか?

東京からの転校生・浅見紗英(真野恵里菜)が超能力研究家の教授(安田顕)の娘だと知った嘉郎はまたもや思い悩む。

(僕がエスパーだと知ったら・・・他人の心を読むなんて・・・盗聴マニアの延長だと思われるにきまっとるだに・・・)

超能力を使うことに消極的で臆病な気持ちになっている嘉郎は・・・神聖な処女である紗英の心を覗くことができずに懊悩するのである。

しかし、実際には処女ではなく、経験豊富な感じさえある紗英は何故か・・・セパレートの純白なランジェリーでおヘソ出しのお茶の間サービスをしながら嘉郎に電話してくるのだった。だらしなくこぼれる白いお腹もむっちりしてたわわな白い太もももたまりにたまらないのである。

「嘉郎くん・・・この間はせっかく助けてくれたのにひどいことを云ってごめんなさい」

「あ・・・うん」

「嘉郎くんも・・・エスパーなの?」

「いや・・・僕は・・・うん」

言葉を濁す嘉郎だった。

(よかった・・・浅見さんにきらわれとりゃあせんだに)

しかし・・・紗英の本心は・・・。

(こんなバカでも・・・お父さんの研究を知る手掛かりになるかも・・・)

紗英は父親に変な研究を中止させ、恋人の待つ東京に帰りたい一心なのだった。

紗英の心を読みさえすればその邪悪さに気がつくのだが・・・ストイックな性格が邪魔をしてぬかよろこびする嘉郎なのである。

しかし、束の間、憂鬱から解放された嘉郎はお気に入りの雑誌「週刊お色気ウエイトレスMAP」をその☆しおん風の店主の店で立ち読みするのだった。

ショートパンツにタンクトップ・・・西海岸風の香りのするウエイトレスは嘉郎の憧れだった。

その姿を遠方から監視する怪しい男(栗原類)・・・。

彼は「ついにその時がきた・・・」とつぶやく。

嘉郎に新たなる危機が迫っていた。

異変は喫茶「シーホース」で始った。女性客が寄り付かなくなってしまったのだ。

思い悩むマスター輝光(マキタスポーツ)に常連客のヤス(柄本時生)がささやく。

「気にせんでええだに。客が少ないのはマスターが童貞だからではなくて・・・新しくできた店がえらく人気なんだら」

「新しい店はともかく童貞は捨てたいだに」

しかし、マスターは敵情視察に向かう。

確かにニュー喫茶「オンコ園」は女性客であふれていた。

ウエストコーストの香りがする妖しいウエイトレス(今村美乃)の隙をついて裏口から侵入したマスターは調合された白濁液に淫靡な香りを嗅ぎつけるのだった。

それが・・・女性客を惑わす淫靡コーヒーの秘密らしかった。

たちまち、マスターのエロス念力が発動し震えだすオナニー補助用具のTENGAたち。

敏感なテレパスの美由紀(夏帆)はたちまち感応し、地に倒れ伏す。

「また・・・輝光がオナニーしとるだに・・・はあ・・・たまらんだら」

お茶の間サービスのために甘い吐息をもらして下半身を濡らす美由紀だった。

「やめり・・・やめりん・・・ああん」

その時、哀愁あふれる笛の音が響く。

「なんだら・・・勝手に身体が・・・」

ハーメルンの魔笛に誘われるように美由紀はふらふらと歩き出すのだった。

マスターはエスパーたちに集合をかける。しかし、娘に冷たくされた上に助手の秋山(神楽坂恵)が行方不明になっている教授は気乗り薄である。

「それは・・・新しい店に客を奪われた君の嫉妬による妄想じゃないのかね」

「そんなことないだに・・・あの店は怪しいにきまっとるだがや」

そこへテレポーターの洋介(深水元基)が着衣のまま徒歩でやってくる。

「秋山さんがエロイ恰好でジョギングしてます」

「なに・・・」

あわてて飛び出す教授だった。

ついに調査に乗り出す決意をした嘉郎。

しかし・・・お・・んこ園にはすでに紗英や美由紀も入店しており、淫靡コーヒーの虜になっているのだった。

「どうして・・・ここに・・・」

「すごく・・・気持ちのいいコーヒーなの・・・」

「そうだに」

邪悪なものの存在を感知する嘉郎だった。

そこへ・・・あの怪しい男が登場する。

「私はパーオ大帝・・・嘉郎くん・・・君と同じで・・・地球を救いたいと願っているものだ」

「怪しすぎる・・・」

「嘉郎くん・・・君は私の心を読もうとしているね・・・」

「あんたも超能力者なのか」

「いや・・・私は科学者だ。さあ・・・君も淫靡コーヒーを飲みたまえ」

「やめり・・・みんなももう遅いから帰り・・・」

しかし、紗英も美由紀も無反応だった。その顔には妖艶な不気味さが漂っている。

「う・・・う・・・うぎゃあ」

ついに恐怖にかられて退散する嘉郎。

街はすでにエッチなジョギングスタイルの淫靡ゾンビの群れであふれている。

乳首のあたりにボカシが入るのは販売ソフトで消える予兆なのか。

「なんてエロイだら・・・」

嘉郎は憧れのお色気レストラン状態となった故郷の街に頬を染める。

しかし、帰宅すると父(イジリー岡田)と母(筒井真理子)も淫靡ゾンビでエロいことになっているのだ。

「いかんだがや・・・」

あわてて教授の家を訪ねた嘉郎は頬を上気させた教授と秋山さんに遭遇する。

「僕たちもそろそろ結ばれることになりそうなんだ」

あらぬことを口走る教授だった。

「あんたまでコーヒーを飲んでしまったんだに」

街では淫靡なゾンビの群れに襲われたバイオハザード的マスターがエロい女体に飲みこまれて絶頂を迎えていた。

仕方なく再びオ×コ園に戻る嘉郎。

そこではパーオ大帝が魔術的な機械を使い、人間をTENGA GIRLSに変身させているのだった。テンガールたちはパーオの虜となるのである。そしてハアハアと甘い吐息をもらしてうっとりなのだった。

そして紗英も美由紀もなんだかエロいことになっているのである。エスパー仲間もすでに全員が淫靡ゾンビ化しているのだった。もう画面一杯がサービス満載である。

「エロスこそが地球を救うのだ・・・さあ、嘉郎くん、君もこちらへ来たまえ・・・これが君の望んだ世界だろう・・・」

嘉郎はうるんだ目で見つめる紗英や美由紀に動揺する。

しかし・・・何かが違うと感じる嘉郎。

嘉郎の感じる愛とはもう少し清楚なものだったのだ。

「これは・・・愛じゃないだに・・・」

「そうか・・・さすがだな・・・嘉郎くん・・・君は見事だ・・・また会おう」

パーオ大帝が指を鳴らすとみんな正気に戻るのだった。恐るべきマインド・コントローラーらしい。

「なに・・・これ・・・」

「やだ・・・」

「なんじゃ・・・」

「うわ」

「きゃ・・・」

各所であがる恥じらいの叫びに・・・嘉郎は本当のエロスを感じるのだった。

こうして・・・危機は去った。嘉郎はまたもや紗英をそして愛する人々を救ったのである。

しかし・・・嘉郎が電話をかけても紗英は「バカが・・・」と蔑むばかりなのであった。

洗濯ものはたまっていくだけ

世界は滅亡へのカウントダウン

テレビは見たくない顔

うるさいな救急車

今回はエンディングテーマ「夜間飛行」を熱唱する石崎ひゅーい(本名)だった。

親はある程度痛くても子供は育つのだなあ。

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