特殊相対性花火師ガリレオ~北の虹橋と南の満月の間で殺す女(蒼井優)
「友達少ない万年助手」ってタイトルにしようとしていた痕跡があるぞ。
・・・黙秘します。
「ガリレオ」では黙秘は禁じ手だ・・・まあ、ミステリ全般がそうだけどな。
まあ、良心の呵責や根気のなさによめ容疑者の自白がなければほとんどの犯罪は解決しないとも言えるな。
それを言ったらハイ、それまでよだろう・・・疲れてるのか。
まあ・・・美しい女優がいて・・・冷酷と情熱の犯罪があって・・・懺悔とか告白しないとどうにもならないジャンルだから。
蒼井優をたまにしか見れないなんて・・・ドラマのスタッフは何をやっているのか。
まあ、そういう時は「うぬぼれ刑事・癒し系」をリピートしてく~ださい。
豪華なゲストだなあ・・・と思えるキャスティングというポジションも大切だしな。
蒼井優も夏には28歳になるのだなあ。特殊相対論的にも一般相対論的にも時は流れていくのだなあ。
で、『ガリレオ(第2シーズン)・第8回』(フジテレビ20130603PM9~)原作・東野圭吾、脚本・福田靖、演出・澤田鎌作を見た。犯人は狂気を秘めた美人女優、狂言回しの刑事もそれなりに面白美しく、ヒーローはあくまで自己中心的に事件を解明していく。今回のガリレオはストレートで見ごたえ抜群である。こういうストレートは変化球の後だとかなり効きます。
擬似倒除で描かれる冒頭。ベイエリアの花火大会を見下ろす高層マンションの一室。犯行現場に横たわるナイフを突き立てられた死体。犯人と思われる人物はテレビを消して現場から去っていく。現場からさほど遠くないカフェには人気劇団の衣裳係の安部由美子(佐藤仁美)が待っている。容疑者の前座としては申し分ない貫禄である。しかし、颯爽と現れる真打ちの登場で・・・犯人の正体が明らかになる。劇団の看板女優・神原敦子(蒼井優)である。
次回公演の「カミーユの美しき憂鬱、あるいは沈黙」の衣装の変更について演出家の伝言を伝える神原・・・。
「そんなこと・・・直接云ってくれればいいのに・・・」
「そうなんだけど・・・」
安部の携帯電話に演出家本人からの着信がある。
「噂をすればなんとやらね」
「きっと・・・衣装の件よ・・・人に頼んでおいて・・・結局、自分でやる・・・困った性格よね」
演出家との特殊な関係を仄めかす神原・・・。
しかし・・・無言電話である。
不審に感じた様子の神原は自分の携帯電話も確かめる。
「あら・・・私にも着信があったみたい・・・午後7時31分・・・ついさっきね・・・なんだか・・・様子が変だわ・・・ちょっと様子を見に行ってみる・・・一緒に来て下さる?」
「ええ・・・」
そして・・・人気劇団の代表であり、演出家の駒田良介(丸山智己)の死体を発見する。
部屋は密室状態だったが、駒田の恋人だった神原は・・・合鍵を持っていたのである。
捜査にあたったオカルト小娘刑事ちゃん・岸谷美砂警部補(吉高由里子)はたちまち捜査に行き詰まり、ガリレオこと帝都大学物理学科准教授・湯川学(福山雅治)の研究室にやってくる。
「第一発見者で被害者の恋人の神原がものすごく怪しいんですけど・・・アリバイがあるんですよねえ・・・」
「それは明らかに刑事の仕事だろう」
「大体・・・神原って誰だよ」と万年助手の栗林宏美(渡辺いっけい)は口を挟む。
「知らないんですか・・・すごく有名な女優さんですよ」と湯川ゼミの学生たちは栗林の無知を嘲笑するのだった。
前回・・・湯川の代行講師を引受けて女学生の出席ゼロだった事件の傷心でナイーヴになっている栗林は唇をかみしめるのだった。
「とにかく・・・愚痴を言うなら他の場所でやってくれ」
一度関係した女にはそれとなく冷淡なガリレオだった。
しかし、小娘刑事にも女の意地があるのだ。
「殺害時刻は電話のあった午後七時半前後なんですが・・・その電話を受けた衣裳係と私が疑っている女優の神原は一緒だったんですよ」
「仮に女優が犯人だとしたら・・・殺したと思った人間が息を吹き返して電話してきた可能性もあるだろう」
「でもそうじゃない可能性もあります・・・」
「つまり・・・決め手に欠けるのだな」
とりあえず・・・神原にアタックしてみる小娘刑事。
「第一発見者で・・・合鍵を持っているということなので・・・一応、事情を伺いたいのですが」
「私に嫌疑がかかっているんですか・・・私は彼を愛していたのに・・・」
「愛しているからこそ・・・殺す場合もあります」
涙を流す神原に同行していたエリート警部補のお守役である太田川稔刑事(澤部佑)はパートナーのいつもの失言に冷や汗を流すのだった。
「あくまで・・・事情聴取なのでお気になさらずに・・・」
「彼は私を愛してくれたのに・・・私は彼の愛を素直に受け止められなかったのかもしれません・・・でも、今は後悔しています・・・失って初めて大切なものだと気付くって・・・こういうことなんですね・・・」
小娘刑事の捜査はまたしても暗礁にのりあげた。
「絶対に怪しいんです・・・女の涙は泥棒の始りなんです」
「そんな格言は訊いたことがない」と栗林。
「とにかく・・・行き詰る度にこないでくれ」とガリレオ。
「なんとかしてくださいよう」
一度関係した女にはそれなりに甘くもあるガリレオである。
「とにかく・・・携帯電話のトリックだけは解明してやる」
ガリレオは栗林の携帯電話を利用して神原のアリバイ工作を再現するのだった。
「私が栗林さんを殺したとしよう。私は栗林さんの携帯を持って君との待ち合わせ場所に行く途中で自分の携帯に栗林さんの携帯から電話する。私の携帯には栗林さんからの着信記録が残る。それから君より前にある栗林さんの連絡先を削除する。栗林さんは連絡する相手が少ないので君の前には二人しかいないから簡単だ。そして・・・君に会った私は隠し持った栗林さんり携帯から君の携帯に電話をかける・・・」
「でも・・・携帯電話は死体の手元に・・・」
「合鍵をもっていた彼女は・・・先に室内に入る。携帯電話を置くことは可能だったかもしれない。あるいはダミーの携帯を転がしておいて・・・救急車や警察が到着する間に同行者の目を盗んで本物とすり替えることもできたかもしれない・・・とにかく・・・彼女に反抗が可能だったことは明らかだ・・・」
再び・・・捜査を開始した小娘刑事は神原がタクシーに乗って犯行時間に被害者のマンションに現れた証拠をつかむ。
タクシーの車載カメラには神原の姿が記録されていた。
「あなたは・・・犯行時刻に・・・現場にいましたね」
「いったけど・・・彼は留守だったんです」
「なぜ・・・それを隠していたんですか」
「疑われると思ったからです・・・ごめんなさい・・・本当にごめんなさい」
再び泣き出す神原。彼女を残し部屋を出た小娘刑事は太田川刑事とマジックミラー越しに神原を監視する。
しかし・・・神原はただただ涙にくれるのだった。
「枯れない涙だな・・・」
だが・・・解放された神原は冷たい微笑みを示すのだった。
神原は演技者として常に周囲のものとの会話を録音し、分析する手法を用いていた。
「岸谷・・・職業・刑事・・・気が短く、常にイライラしている」
神原の分析リストは続く。
「駒田・・・職業・演出家・・・彼を刺した時にナイフがろっ骨にあたった感触あり」
お茶の間は真犯人が誰かを提示されたのだった。
同時に・・・科捜研の分析により・・・駒田の携帯電話から・・・神原の無実を立証する証拠が発見されてしまうのだった。
「彼女には犯行は不可能でした・・・」
「なぜ・・・そう思う」
小娘刑事は問題の写真を披露する。
花火と月が写り込んだ画像だった。
犯行現場は月を南の窓から、花火大会のあったレインボーブリッジを北の窓から見ることができた。しかし・・・同時に花火と月を映すためにはレインボーブリッジの北側に位置しなければならない。
七時十四分・・・被害者はレインボーブリッジの北側にいて・・・その時刻に容疑者はレインボーブリッジの南側にある被害者のマンションにいたのである。
それから容疑者は待ち合わせの場所に向かったために・・・帰宅した被害者を殺すことは時間的に不可能なのだった。
「ふふふ・・・GPS衛星は秒速およそ4キロメートルで移動するために時間の進み方が遅くなる。つまり・・・時間は局所的に物理的解釈不可能なものとなる・・・栗林くん・・・これは何を示しているかな・・・」
「アインシュタインの特殊相対性理論です」
「そして・・・それは完全ではなかったのだ」
「さっぱりわかりません・・・」
「ふふふ・・・ははは・・・・ははははははははは・・・・実に面白い」
ガリレオの心に女優・神原に対する興味と欲望が芽生えたのだった。
事件現場を訪れたガリレオはしばらく周囲を観察すると・・・いつもの外部記憶のための数式叙述をしながら事件を解明するのだった。
神原の稽古場に姿を見せるガリレオ。
「捜査協力をする物理学者なんて・・・すごく貴重な存在ですね」
「あなたとは正反対の仕事です」
「そんなことはありませんわ・・・演技をするというのも科学の一種ですから」
「そうでしょうか・・・」
「人が何を思い、どう行動するのか・・・人間の内面と外側の関係を常に分析し・・・考察してこそ・・・人間というものを理解した上での演技が可能となるのです」
「実に興味深い・・・しかし・・・愛を演じることは可能なのでしょうか」
「もちろんです・・・お試しになりますか」
「まもなく・・・私はあなたの犯罪を立証してしまうかもしれません・・・そうなればあなたとの愛を育むことはできなくなってしまいます」
「いつ・・・愛するか・・・それはとても大切なことですね」
二人はお互いを認知するために・・・肉体で会話をしてみるのだった。
満足したらしいガリレオは小娘刑事とともに花火職人・段田団二郎(ガッツ石松)を訪ねる。
「花火をお願いしたいのですが・・・」
「昇り曲導三重芯先青紅か・・・結構高いよ」
「赤は塩化ストロンチウムですか」
「そうだよ・・・」
「ス、ストロンチウムって放射能がでるんじゃないんですか」
「なんだって」
「すみません・・・この子は文系なんでストロンチウムと放射性ストロンチウムの区別がつかないんです」
「アホの子じゃしょうがねえな」
「なんなの・・・花火おタクなの・・・」
なんとなく口惜しい小娘刑事だった。
やがて・・・準備が整い、神原は犯行現場に呼び出された。
「これから・・・あなたが・・・被害者を殺した後でどうやって・・・被害者の携帯電話に月と花火の記念写真を残したのか・・・再現実験をします」
「そんなことができますの・・・?」
「すべての結果には原因があるものです」
南の窓に月が昇り、北の窓には花火が打ちあがる。
「テレビと部屋の灯を消してくれ」
小娘は命じられテレビを消し消灯するのだった。
すると・・・部屋の中央に置かれたテレビは鏡となった。
マジックミラーと同様の偏光フィルムが貼られていたのである。
北の窓の花火の光はテレビに反射し、さらに南の窓に反射する。
ガリレオの構えた携帯電話のカメラには「月と花火」が写されていた。
「証明終りです・・・神原さん・・・あなたは他の女優に心変わりした被害者を殺し、そしてこのように写真を撮影したのです」
神原の顔に熱狂が現れる。それはガリレオへの賞賛でもあったが・・・彼と同等の知力を持っていた自分への賞賛でもあった。
「私は彼を憎んでいたし・・・人を殺して演技を極めたかった・・・特に後悔はありませんわ・・・十年、刑に服して・・・次に舞台に立った時は素晴らしい演技をお目にかけますよ」
「そういう趣味の人も世の中にはいるかもしれませんが・・・私は遠慮します・・・人を殺しもしないで・・・人を殺したかのような演技をする・・・それが演技者の極みなのだと考えるからです・・・人を殺して人殺しの気持ちを知ることは素人にもできますからね。あなたは・・・完璧を求めるあまりに本筋を忘れてしまった。それでは多くの人々を魅了することはできないでしょう。岸谷くん・・・そういうのをなんて言うと思う?」
「自己満足ですか・・・」
「そう・・・神原さん、あなたはセックスをするべきだった・・・殺人者を演ずるために殺人を犯すのはオナニーと一緒ですよ」
「つまり・・・不完全で・・・一般相対性理論ではないということをおっしゃりたいの」
「GPS衛星は高度2万キロメートルの軌道上にあり、重力場の影響が減少して一般相対論によって時間が早く進みます。遅くなったり早くなったりする時間を相対論的に補正しなければ正しい道は示せないのですよ」
「ふふふ・・・あなたは・・・とても面白い方ね・・・でも・・・正しい道は人それぞれでしょう・・・あなたにとっての狂気は私にとっての正気・・・ただそれだけのことですわ」
「・・・」
「今のは・・・自白ですよね・・・」
「ふふふ・・・せっかちな方ね・・・余裕を持って余韻を楽しまないと・・・本当の愉悦を逃がしてしまうわよ」
その時、小娘刑事は美しくも狂った女優にブラインドタッチで手錠をはめている。
「余計なお世話よ。私には私なりの感じ方があるの。あなたは手錠の肌触りでも分析してなさい」
二人を堪能したそれぞれの夜を回想しながらガリレオは呟く。
「花火代の支払いを忘れずに・・・正しい道を歩むものの美しい仕事にはそれなりの報酬が支払われるべきだから」
人々が去ると窓の外には豪華な夜景が虚しく取り残された。
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