あまちゃん、十二色目の土曜日(橋本愛)
高校の進学率が限りなく100パーセントに近くなり、中卒が金の卵となった頃、18才までは生まれ育った土地で暮らすのが普通になった。
もちろん、いつだって例外はある。保護者の転勤だの、離婚だの、原発事故だのによって若くして故郷を離れる子供もいるわけである。
上京ということで考えれば大学や専門学校に進学したり、就職したりで、18才で東京で一人暮らしを始めるのはある意味、普通のことである。
しかし、アイドルとなって東京の特殊な高校生になるのはあまり、普通ではないのである。
甲子園で野球が得意な子供たちが選抜されるように、アイドル性の高い子は東京以外にも当然、存在するわけで・・・業界の人々は常に逸材を求めている。
そして、様々な形で選抜を行うのだな。スカウトとか、コンテストとか、オーディションとか、キャラバンとか・・・。
ハイティーンで、思春期で、性的魅力にあふれた子供たちが東京で親元を離れて暮らす・・・。
想像するだけで目が眩むような危険な香りがするわけである。
昔、デビューする新人たちの資料を得ると、キッドは大日本地図を広げ、出身地を確かめたものだった。
週にのべ二十時間くらいラジオ番組を構成していたからだ。
そういう番組はそういう子供たちがデビューする場所なのである。
最果ての聞いたこともない街や村から・・・輝くためにやってきた子供たち。
どんなにか・・・心細い旅をしてやってきたことか。
そうやって想像することで素材に対する愛を高めるわけだ。もちろん・・・トークのフリを作る作業でもある。
今なら、グーグル・マップがあって便利なんだろうな。
だから・・・行ったこともない街なのに凄く知っている街は多いのである。
いよいよ、三回目の起承転結が終了し、来週は折り返しに突入する「あまちゃん」・・・。
結局、前半は・・・東京に行くこともできずに挫折した東北の少女・ユイちゃんの物語だったのだなあ。
かわいそうだったなあ。
三回目の起承転結のサブタイトルは次の通り。
第9週「おらの大失恋」
第10週「おら、スカウトされる!?」
第11週「おら、アイドルになりてぇ!」
第12週「おら、東京さ行くだ!」
たった一人の親友で恋仇でもあるユイちゃんの夢にヒロインのアキが同化していく過程が懇切丁寧に描かれた四週間だった。
で、『連続テレビ小説・あまちゃん・第12週』(NHK総合20130617AM8~)脚本・宮藤官九郎、演出・井上剛を見た。母の故郷・岩手県北三陸市(フィクション)にやってきたアキ(能年玲奈)は心の不安定な母親・春子(小泉今日子)と海女である祖母の夏(宮本信子)の葛藤に翻弄されながら、一年が過ぎてそこそこたくましく成長したのだった。2009年の夏休み。親友のユイ(橋本愛)が家出に失敗、失意の引き籠りになってしまった窮状を救おうと海女カフェで潮騒のメモリーズを復活させたアキは芸能事務所・ハートフルの社長・荒巻太一(古田新太)から勧誘を受ける。そして・・・ユイとともに「アイドルになるための東京行き」を決意する。家族には内緒で家を出たアキはユイと北三陸駅で待ち合わせをするのだった。
月曜日 北三陸からバスに乗って袖が浜に着いた~♪(能年玲奈)
北三陸の終電が午後七時半。東京(上野行き)のバスが午後九時。
「この一時間半・・・誰にも見つからなければ・・・私たちの勝ち」と足立結衣に告げられた天野秋は・・・秘密めいた冒険の始りにドキドキしつつ北三陸駅に降り立った。
あなたがいれば
こわくはないさ
東京砂漠
東京を忌み嫌うアキの神経を逆なでする吉田副駅長(荒川良々)が営業終了業務を行う駅構内。
スパイのように忍び出たアキは観光協会の窓辺でバス・ターミナルを双眼鏡監視する足立洋(小池徹平)を発見するのだった。アキを監視するのはストーブの本性のようなものである。そのおかげで一命をとりとめたこともあるアキなのである。
監視する場合は室内灯を消すのが鉄則だが、観光協会には観光協会長の菅原保(吹越満)とストーブの恋人の栗原しおり(安藤玉恵)も残業中である。
アキとユイの脱出を阻止することは北三陸観光協会の最重要業務なのである。
「しかし・・・今夜は大丈夫なんじゃないのか」
「裏をかかれるおそれがあります」
「まあ・・・兄として妹が心配なのはわかるが・・・」
「ユイはどうでもいいんです・・・でもアキちゃんが北三陸からいなくなるなんて・・・あってはならないことですから」
ストープの心に燃えるアキへの片思いにハンカチを噛みしめる栗原ちゃんだった。
「あらあら・・・栗原ちゃん・・・嫉妬でハンカチ食っちまう勢いだよ・・・」協会内恋愛の修羅場を恐れる保だった。
そんな・・・観光協会内の葛藤も知らず、あわてて駅構内に退却するアキ。
ユイはミス北鉄の自習スペースに潜んでいた。
「ここにずっと隠れているのか」
「だって・・・外に出たらストーブに見つかっちゃうもの」
考えてみれば・・・北三陸市には・・・女子高校生がお茶する喫茶店は「リアス」しかないのだった・・・本当なのかよっ。・・・フィクションですから。
すでにスナック梨明日の営業時間である。
最近では春子ママはママのポジションとなっているらしい。客は琥珀の掘削職人の小田勉(塩見三省)、騒音婆こと海女の今野弥生(渡辺えり)、その夫でブティック経営者のあつし(菅原大吉)・・・。そして、駅長の大向大吉(杉本哲太)である。
潜伏するアキとユイに気がつかないまま、鼻歌まじりで業務終了を駅長に告げる吉田。
「機嫌いいね」
「今日は手巻き寿司なんですよ」
吉田のハイテンションには同意しない一同だった。
「吉田くんは家族と同居なの?」
と春子ママは水をむける。
「母と妹と三人暮らしです・・・ちなみに妹はユイって言います。ブスですけどね」
リアクションにとまどう一同だった。まだまだ知られざる北三陸市(フィクション)の秘密は眠っているのだなあ。
消灯された駅構内ではアキとユイのひそひそ話が続く。
「おら・・・」
「行かないなんて・・・言わないでね」
「いぐ・・・いぐけんど」
「知ってた・・・ウチの高校、修学旅行、東京だったんだ」
「じぇ・・・じゃ、ユイちゃん東京行ったことあるのか」
「ううん・・・行けなかった・・・お風呂で転んで骨折しちゃって・・・」
首をかしげる蠟人形の館の美少女ユイだった。
呪われているんだな・・・ユイ。東京行きを許さない悪霊に憑依されているんだな。
「でも・・・それでよかった・・・はじめての東京が・・・修学旅行で・・・駒場と駒沢の区別もつかない田舎者と一緒じゃ・・・東京に失礼でしょ・・・」
「何を言ってるんだユイ!」とリアスから飛び出す吉田。
自分の妹のユイと携帯電話で会話中なのである。
「今さら・・・ちらし寿司なんて言われても気持ちがおさえきれないべ」
身をすくめるアキとユイ・・・。この時、柱の陰ではトイレに向かう勉さんが吉田とすれちがっていた。
静けさを取り戻した駅構内。
「あのな・・・ユイちゃん、おら、言っておきてえことさある。おら、東京さ行ったら別人になるからな」
口数減るからな・・・
「じぇじぇ!」とか言わねえからな!
基本、敬語になるからな!
一日1食になるからな!
歩く速度が1.5倍になって、便秘になるからな・・・
ネガティブなポエム書くからな・・・
毎日木や草花に話しかけるからな・・・
「アキちゃん・・・すでにポエム・・・」
ユイはアキがどうしてそこまで東京に怯えるのかが理解不能だった。
しかし、そこでトイレから出てくる勉に発見される二人。
ユイは必死にジェスチャーで勉に口止めをするのだった。
頷く勉・・・しかし、露呈は時間の問題と察知するユイだった。
「アキちゃん・・・行くわよ・・・その前にストーブに電話して・・・」
「じぇ?」
「窓際からストーブを追い払わないと身動きできないから」
窓際のヒロシの携帯にアキからの着信がある。
「アキちゃん!・・・今どこ?」
((家さいる・・・あのな、お願いがあるんだけど・・・ちょっこし、テレビさ、つけてけろ・・・見てもらいたい番組がある))
「テレビ・・・」
テレビは保がオンにする。
「なんていう番組?」
((テレビはもういい・・・そうだ・・・冷蔵庫からマヨネーズ・・・マヨネーズを出して))
「スルメイカ食ってるからマヨネーズここにあるよ・・・七味唐辛子も」
((・・・ああ・・・もう・・・おら・・・東京なんていぎたぐねえ・・・おら・・・東京なんて大嫌えだ!・・・・))
「アキちゃん、どうしたの・・・今、すぐ行くから待ってて」
あわてて・・・窓際を離れるストーブ。間隙を突いてターミナルに走り出すアキとユイ。
ユイは目指す「上野行き急行バス」に乗り込んだ。追いかけるアキ。
その頃、天野家では目覚めた夏ばっぱがアキの不在に驚いていた。
スナック梨明日では挙動不審の勉さんが一同に問い詰められて自白に追い込まれる。
春子の元へ夏から電話がかかる。
「え・・・アキがいない・・・海女カフェは・・・海女カフェも捜して」
大吉は封鎖が突破されたことを直感する。
「しまった・・・逃げられた・・・」
バスは定刻に走り出した。
後部座席で追手の有無を確認して歓喜に震えるユイ。
「やったね・・・まさか・・・お芝居とは思わないから・・・びっくりした~、アキちゃん、女優になれるよ」
しかし、アキは車内の様子に戸惑いを感じるのだった。
「これ・・・本当に長距離バスだべか・・・」
アキが感じる違和感を・・・箱入り娘のユイは全く感じることができない。
ユイは長距離バスなんて知らないのである。
バス前面上部の行き先表示はスクロールを始めていた。
うっかり表示変更を間違えることはありがちなのだった。
上野行き(急行)→回送→北三陸行き→袖が浜行き
「これ・・・東京に行きますか」と運転手に尋ねるアキ。
「行きませんよ・・・市内循環バスですから・・・」と淡々と答える運転手。
停留所で停車すると老婆が一人、下車して行く。
「次は・・・終点・袖が浜・旧漁協前」
夜の北三陸市をバスは走り出す。口の開いた二人の娘を乗せて。
終点の旧漁協=海女カフェでは孫の身を案じる夏ばっぱが途方に暮れている。
どこかで悪霊の忍び笑いが聞こえる。
ユイはけして・・・北三陸の魔物から逃れることはできないらしい。
ユイは囚われの姫、そしてアキこそは姫を助けにきた流離の英雄なのである。
はたして・・・アキは姫を救い出すことができるのだろうか。・・・そういう英雄譚だったのかよっ。
火曜日 いつ、アイドルになるために上京するか・・・今でしょ的アキノミクス(橋本愛)
北三陸の大人たちに拘束されてしまったアキとユイである。
二人の処遇は二つの分科会で話し合われることになった。
海女カッフェではアキと海女クラブが・・・。
北三陸観光協会ではユイとその他のメンバーが話し合う。
公開家庭内暴力を抑止するために春子はアキとは隔離されていた。
「なんで・・・アキがいないのよ・・・っていうよりどうしてアタシはこっちなの・・・」
「一緒にするとまた、アキちゃんさたたくべ・・・」と釘を刺す北三陸市におけるアキの父親代わりを自負する大吉だった。
その他には吉田、観光協会の三人、商工会長のあつし、漁協長の長内六郎(でんでん)、そして勉さん。さらにはユイの父親の岩手県議会議員・足立功(平泉成)もいる。
春子はラスボスよろしく奥の席に鎮座し冷たい氷の女王様の吐息を吐き続ける。
あたかも・・・ユイにとりついた悪霊そのもののようである。
修学旅行でも東京に行けなかったユイ。
蛇口さんこと水口(松田龍平)と車での脱出に失敗したユイ。
二度あることは三度あるというが、三度目の正直の長距離バスは循環バスだった。
「毎度、お騒がせしてすまない」と謝罪する功だった。
「どうして・・・そんなに東京に行きたいの」と春子。
「幼い頃からの夢でしはたから・・・」とユイ。
春子にはユイの心は痛いほどわかるのである。
「しかし・・・今、ユイちゃんとアキちゃんに去られては・・・北三陸市の財政は破綻する。二人のおかげで観光収入は大幅にアップしているんだ」と大吉。
「もしも・・・二人がいなくなったら・・・損失は・・・」と保。
損失額を計算する栗原ちゃんは苦悩のためにしわだらけになるのだった。
「ここはウニの単価を600円に値上げして漁協の取り分を増やしてもらわねば・・・」と漁協長は便乗値上げを口走る。
「琥珀については・・・」と意見を述べようとした勉を口汚く罵る漁協長。
「琥珀は関係ねえべ・・・お前さ黙ってろ」
「・・・」
不当な圧力を受けた勉は漁協長のお茶に七味唐辛子を大量投入するのだった。
「観光PR業務については・・・私なりに考えています。私たちがいなくなれば・・・一時的に売り上げはダウンするかもしれませんが・・・」と意見を開陳するユイだった。
「上京して・・・アイドルとしてデビューしたあかつきには・・・北三陸出身のアイドルとして地元のアピールに努めます。積極的に訛っていこうとアキちゃんとも話し合っています。ウニ丼など特産品についても、いいとものタモリさん、おまかせのアッコさんなどに会った場合には必ずお薦めして・・・いつでも食べられるように肩には生ウニ装備も考慮中です。JJガルズとしてじぇじぇを連発して流行語大賞を狙って行きます。そのような広告宣伝効果は地元アイドルの活動を大きく上回る波及効果があるはずです」
「・・・正論だ」と静まりかえる一同。
「我が子ながら手強いねえ」と目を細める親バカ発動中の功だった。
一方、海女クラブでは会長の夏ばっぱを始めとして、眼鏡会計婆の長内かつ枝(木野花)、事務員のフレディ花巻珠子(伊勢志摩)、海女の弥生や、駆け落ちフェロモン海女の熊谷美寿々(美保純)たちがアキを囲んでいた。遠巻きに桜庭(山谷花純)や坪井(久野みずき)ら海女見習いたちも心配そうに様子を伺う。
「まず、海女クラブの会長として言わしてもらう」と夏ばっぱ。
「おらたちは命がけで海さもぐってる・・・海女同士の信頼関係はとても大事なもんだ。おめえはその信頼を裏切ったんだぞ・・・」
「・・・」とアキは無言で謝罪するのだった。
「東京に行ってどうするつもりだ・・・」
「アイドルになる」
「ふっ」と噴き出すフレディだった。
「海女になるのはいやか」
「そんなことはねえ・・・」
「母ちゃんに叩かれたからか」
「あれはおらが悪かっただ・・・言うことがコロコロ変わるから・・・東京さ帰りたくねえって言ったり、帰りてえって言ったり」
「海女になったり、南部潜りはじめたりな・・・」
「おら・・・海女は好きだ・・・いつまでも潜りてえ・・・でも」
「でも・・・なんだ・・・怒らないから言ってみろ」
「海女はいつでもできる・・・ユイちゃんと東京さ行ってアイドルになるのは今しかできねえべ」
「なれなかったら・・・どうする」
「そんときはいさぎよくここさ帰ってきて就職して夏は海女をやる・・・」
何度も駆け落ちしてはここに戻ってきた美寿々が微笑む。
「でも・・・おらは誰かのために潜るんでねえ・・・自分が潜りたいから潜るんだ・・・じっちゃが言ってた・・・ここが素晴らしい事を確かめるために外さ出て行くと・・・じっちゃんにとっちゃ・・・北三陸も東京も日本にすぎねえとも言ってただ・・・おらは外国に行くわけでねえだども・・・東京より北三陸の方がずっとすげえってもう、知ってる・・・だから東京さ行ってもいつかきっとここさ帰ってくるべ」
「よし、わかった」と叫んだのは眼鏡会計婆だった。
「アキは東京さ・・・行け・・・そうだもんな・・・海女は潜りたいから潜るんだもんな」
「んだんだ・・・朝か早えとか、水が冷っこいとか、家族のためとか口では色々言うけんど・・・潜るのが好きだから潜る・・・それが根本だべ」と弥生。
「そうだ・・・若い時はそりゃもう・・・面白いから潜るんだ・・・面白いことやればいいんだ」と美寿々・・・」
「でも・・・海女カフェのローンは・・・」とフレディー。
「銭のことはなんとでもなる・・・アキ一人いなくたって歴史ある海女クラブはビクともしねえぞ・・・」と眼鏡会計婆。
「後継者だっているしな」
頷く海女見習いたち。
「私、アキちゃんみたく海に潜ってウニをとる」と夜尿症の花巻の長女・鈴(小島一華)・・・。
「私はミス北鉄になる」と花粉症の次女・琴(吉村美輝)・・・。
「よし・・・みんなの気持ちはわかった」と夏ばっぱ。
かって・・・娘の春子の上京問題では孤立無援だったが・・・今は海女クラブが全員味方なのである。そこが・・・歳月のなせる業なのか・・・春子とアキの資質の違いなのか・・・そこはあえて問うまい。
要するにアキにはそれだけの魅力があるのだった。
「アキ・・・東京さ・・・行け・・・大人たちはおらが説得するべ」
「夏ばっぱ・・・」
かって・・・春子にも同じセリフを言った夏ばっぱだった。
あの時は・・・反対する大人たちに「後はおらが娘を説得する」としか、言えなかった。
春子は誤解しているが・・・その後で「春子に何も言わないこと」が母として上京を許した娘に対する防波堤だったのである。
今度はもっと言うべきことを言う。
固く決意する夏だった。
観光協会では意見は出尽くしていた。
春子は結論を述べるように言う。
「ユイちゃんの気持ちはわかった。いいじゃない・・・行かせてあげれば・・・ただし、これだけは言っとくけどうちのアキを巻きこまないで・・・行くなら一人で行ってちょうだい・・・うちの子はバカでブスでアイドル適性ゼロなんだから・・・」
無言を貫くユイ。
そこへ・・・アキがやってくる。
続いて登場する海女クラブ一同。
「じぇじぇじぇーっ」とあわてる大吉。
「なぜ・・・みんなでここに・・・」
「アキの応援にきました・・・」と夏。
「応援・・・?」たちまち眉間にしわがよる春子だった。
ただならぬ気配にそうとは知らず唐辛子入りのお茶を一気飲みする漁協長・・・。
「ずぇずぇずぇーーーーーーっ」
素知らぬ顔で沈黙する勉アフレック(「アルマゲドン」などで知られるハリウッド俳優で脚本家ベン・アフレック)だった。
水曜日 あの夏の夜から私の時計は止まったまま・・・チッチッチッと同じ一秒を刻むのだ(有村架純)
唐辛子茶で喘ぐ漁協組合長。
「そんなに泣かれたら・・・おら」
と誤解するアキだった。
「そうそう・・・みんなショックで涙目になっている」と適当なことを言う吉田。
「まず・・・みんなに迷惑さかけたことを謝罪しろ・・・な、アキ」と夏ばっぱ。
謝罪の言葉を口ごもるアキ。
気配を察してユイが立ち上がる。
「お騒がせして申し訳ありませんでした」
「さあ・・・アキも・・・」
「・・・すみませんでした」
「そしたら・・・春子もアキさたたいたことあやまれ・・・」
「なんで・・・ここでえ」と唇を尖らせる春子だった。
「こういうことはしこりになる・・・みんなの前でたたいたんだから・・・みんなの前であやまれ」
「・・・ごめん」
「声さ・・・小せえ」
「すいませんでしたあ」
すでに暗黒面の仮面をかぶったダースベイター春子の声はスーハーしているのだった。
「そんじゃ、大吉の言い分から聞こうか」
「それは・・・もう大体・・・春ちゃんと足立先生には・・・」
「そうなのか」
「ええ・・・みんな・・・目先の金欲しさに目がくらんで・・・アキやユイちゃんのことはどうでもいいみたいでえす」と春子。
「そんな・・・まるで俺たちが金儲けの道具として二人を使ってるみたいに・・・」と言いわけをしようとした大吉は冷たい視線に気がついて開き直るのだった。
「ああ・・・そうですよ・・・金が欲しいのはその通りだ。赤字だった北鉄がユイちゃんのおかげで黒字になった・・・じぇってなるべ。閑古鳥が鳴いてた袖が浜がアキちゃんのおかげで満員盛況だ・・・じぇじぇってなるべ・・・そうなったらじぇじぇじぇ・・・さらにじぇじぇじぇじぇを目指すのが人間だべ」
「つまり・・・人間の欲望には限りがないってことか」と足立先生。
「だから、云ったのよ・・・お座敷列車までって・・・」と春子。
「だから・・・アキをたたいたんだな」と夏。
すでに春子の投げつける敵意の暗黒理力を察知する夏は牽制を絶やさない。
「・・・」
「みんなの云いぶんはこうか。大吉さんたちは金が欲しい。春子は娘の将来のことを考えていると・・・先生はどうお考えですか?」
「家はね・・・高校だけは卒業してほしいと家内とも話し合ってるんです・・・その後は本人が悔いのないようにやればいいと・・・」
「俺の時とはちがうな・・・」と臨場するストーブ。
「お前はだまってなさい」と功。
「つまり・・・本人しだいということですね」と夏。
「ちょっと待って全然ちがうわよ・・・芸能活動は絶対許さない」
「だから高校卒業までは」
「せめて九月の本気獲り」
「ローカルテレビで充分じゃないか」
「北鉄としてはミス北鉄は手放せない」
「あー、うっせえ・・・どいつもこいつも自分のことばかりっ。この辺で・・・若い二人に恩返ししようってのがスジじゃねえのかっ」と夏ばっは。
鎮まり返る一同。沈黙を破ったのは春子の乾いた拍手だった。
「ああ、そうですか。さすがだわ・・・夏さんは良いこと言うわあ」
「なんだ・・・」
「私も云ってほしかったなあ・・・」と隠されていた本性・・・十七歳の春子(有村架純)が頭をもたげるのだった。それはアイドルになれず挫折した春子の青春の怨念だった。
「来たよね・・・欲の皮のつっぱった大人たちが・・・あの夜も・・・夏さん・・・私にはなんにも云ってくれなかったよね・・・行けとも行くなとも・・・」
春子は黒い瘴気を撒き散らしながら夏に因縁をつけまくるのだった。
「私は言ってほしかったよ・・・行けでも行くなでも・・・そうしたらこんなことにはならなかったよね」
「春子・・・」と夏は春子に対峙する。
「そりゃ・・・今だ云えることだっぺ。過去を振り返ってるから言えることだろう・・・あの時はお前は未来しか見てなかった。そんなお前に何を言ったって聞かないべ」
「そう・・・そうかもね・・・だけど私はアキを追うよ」
アキの思う通りになんか絶対にさせるもんかと十七歳の春子は叫ぶ。
「あんたみたいに・・・心が広くないからさ・・・娘が傷付くとわかっていて芸能界になんかやれないね」
「そうか・・・だども・・・アキとおめえも違うど」
夏はここが正念場と春子を一刀両断するのだった。
絶句する春子。
「まあ・・・いいべ・・・云いたいことは言った・・・もう寝るべ・・・」
引き下がる夏だった。
「夏ばっぱ・・・」と沈黙を破るアキ。
「あん?」振り返る夏。
「かつ枝さん・・・弥生さん・・・美寿々さん・・・花巻さん・・・ここにはいないけんど・・・安部ちゃん・・・みんなにありがとうさ云う・・・おらみんなにはげまされておこられてウニとって・・・強くなれた気がする・・・ユイちゃんと一緒に東京さいっても・・・きっと大丈夫だと思うんだ」
「そっか・・・それならよしっ」と頷く夏と海女一同だった。
春子は仮死状態となるのだった。
「なんなんだよ・・・なんなんだよ・・・なんなんだよ」
喫茶リアスでは大吉がウーロンハイ(実はウーロン茶)に飲まれていた。
「思わず・・・泣いちゃったぜ・・・アキちゃんの言葉によ・・・」
「うるっときたよな」と足立先生。
「私もさ・・・くやしいけど認めなくちゃと思ったんだ・・・」と春子。
しかし、それは娘の成長ではなくて・・・大吉の春子とアキへの援助についてだった。
「ありがとうね・・・大吉さん」
春子は娘の芸能界入りは絶対に認められない。そのためには一人でも味方をつけなくてはと考え始めているのである。
25年前と同じで・・・春子は孤立無援なのである。
それがなぜなのか・・・春子には判らない。
「コーヒーください」
「はい・・・」
「ああ・・・まだスナックタイムじゃなかったか・・・」
誰も気がつかない中で勉さんだけがいつのまにか忍んできた水口に気がついていた。
「じぇ・・・」
「なんだ・・・勉さん・・・じぇって・・・じぇ」
「じぇ」
次々に気がつくメンバーの中で帰宅してアキを説得することに心を奪われている春子だけは水口に気がつかない。
交代要員の美寿々に引き継ぎをすると店を出る春子。
「じぇ」と驚く美寿々。
漸く春子も気がついて引き返す。
「今・・・水口いなかった?」
「水口~」とウーロン茶に飲まれた大吉は例によって殴りかかるのだった。
抵抗せずに殴られる水口。殴って正気に帰る大吉だった。
「ああ・・・殴っちゃった・・・」
天野家にいるアキとユイに電話するストーブ。
「とにかく・・・水口さんが来てる・・・何しに来たかはわからない・・・また、電話する」
「もう、大丈夫です・・・」
「何しに来たのよ・・・」とダースベーダー春子。
「今回は・・・オーディションではなく・・・正式にハートフルとアキさん、ユイさんの契約についてお願いにあがりました・・・社長命令で」
「なんで・・・社長が来ないのよ」とラスボス春子。
「社長はこの前の海女フェスの中継を見て・・・感銘を受けていました・・・GMT47のコンセプトにぴったりだと」
「じーえむてー?」とヤンキー春子。
「地元を愛する地元発のアイドルです」
「ああ・・・だじゃれかあ・・・」とやさぐれた春子。
「すでに16組の代表が正式に登録されています・・・少し・・・説明しても良いですか」
「うん」と興味を持った吉田。
「静岡代表の夫婦茶碗と急須の三人組・茶柱ピンピン娘・・・福島代表の二人組・赤べこ&青べこ・・・福岡代表、とんこつラーメン、めんたいこ、柚こしょう、にわかせんべいの四人組・親不孝ドールズ・・・」
「もういい・・・アイドルつうよりユルキャラ・・・?」と興味を失う吉田だった。
「そのうち選抜されたメンバーがGMT47の代表として上京してすでにレッスンを受けています」
「じえむてえ」とおちょくる春子。
「だじゃれです」と切り返す水口。
カチンとくる春子だった。
「なんだ、てめえ・・・口では調子のいいこと言って売られたら買うその態度・・・まったく信用できねえんだよ」
「よく言われます・・・」
「そこが良いのよね」と美寿々。
「ちっ・・・ちっ・・・ちっ・・・ちっ・・・」と舌打ちしながらガンを飛ばす完全なるレディース的な春子だった。
「しかし・・・引き下がれません・・・私も本気ですから」と微笑む水口。
「ああ・・・そう。これから・・・家で話し合うのよね・・・アキは行きたがってるけど・・・私は絶対に行かせないつもり・・・どっちが勝つかなあ?」
ドスをきかせて凄むあきらかに極道関係者の春子だった。
しかし・・・動じない水口。
天野家では・・・アキが武者震いを繰り返すのだった。
いよいよ・・・天野家女三代・・・最後の戦いが始るのだった。
木曜日 あなたなあら、どおするう?(小泉今日子)
大吉に送られて春子は天野家に帰って来た。
雨の降らない故郷の街でいつもどしゃぶりの雨の中を歩く春子。
アキとユイが出迎える。
「水口さんは・・・」
「スナックに待たせてあるよ・・・夏さんは」
「いねえ・・・海女カフェでねえか」
「そう・・・あ、お父さん帰ったわよ・・・なんだか疲れちゃったんだって」
「そうですか・・・しょうがないなあ」
「じゃ、アキ・・・行くよ、二階に・・・」
秘密の部屋に籠る春子とアキ。
二人の会話を盗み聞くユイだった。
「ここで・・・話したよね・・・アイドルのこと・・・デモテープも聞いたよね」
「あんとき・・・ママ面白かった・・・」
「あれが・・・よくなかったかな・・・」
春子の中でハルコと春子が交錯する。
アイドルになれない不幸によってずっと幸せを感じないハルコと・・・それでもなんとか生きてきてアキの母親にもなった春子。二人の春子は嘆き怒り哀しみ続ける。
「思っちゃったのかな・・・ママもアイドルになりたいって思ったんだから・・・私もアイドルになろうとか・・・」
「そんなことはねえ」
「あれはね・・・アイドルなんかに憧れたらろくなことにはなんないぞっていう。痛くてバカな子ができれば人生やりなおしたいってそういう意味の話なんだよ」
「そしたら・・・おら生まれてねえ」
「そういうこじゃないんだよ」と急所を突かれて暴力衝動に駆られる春子だった。
夏に釘を刺されているので頬をつねるのにとどめる春子。
「私はあんたが東京に行くことに反対はしない。韓流スターのおっかけでも、なでしこジャパンに入りたいとか、なんならガールズバーで働きたいとかでも全然OKだよ・・・でも・・・アイドルだけは絶対ダメ・・・」
「なんで・・・」
「無理だから・・・」
「やってみなくちゃわかんないべ」
「わかるんだよ・・・純粋な心を弄ばれて、利用されて消費されて・・・心が折れることになるんだよ。その時、水口だろうが・・・太巻だろうが・・・あんなやつら、何にも助けになってくれないんだ」
じっと春子の言葉を聞くユイ。
その時・・・夏が帰宅する。
「お邪魔しています」
「アキは?」
「二階で春子さんと・・・」
「そうか・・・」
「お世話になりました・・・」
深々と頭を下げるユイ。応ずる夏だった。おそらく、大吉が車で待っていたのだろう。
ユイの心に去来する思いは謎のままである。
このままかもしれないが・・・伏線と言えないこともない。とにかく・・・回収するからなあ・・・クドカンは。
春子とアキの対決は続く。
「おらがアイドルになりたいと思ったのは・・・はじめてママの歌を聞いた時だ・・・」
「え・・・」
「料理を作るママや、洗濯ものを干すママも好きだけど・・・歌っているママはかっけえと思った。大分たってから・・・本物さ聞いたけど・・・」
映画「潮騒のメモリー」を想起する春子。そこに広がる複雑な思い。
それもまた・・・今は明らかにされない。
「でも・・・おらにとってはママの歌が本物だ・・・先に聞いたせいかもしれないけど」
「そう・・・ありがとう」
「だから・・・お座敷列車でお客さんが喜んでくれた時、うれしかった・・・ママの足元にも及ばないかもしれないが・・・もっとお客さんを笑顔にしてえと思っただ」
春子の心は25年前のハルコに回帰する。
テレビ番組「君でもスターだよ」で純粋に歌うハルコ。
あの日のハルコは・・・アキの言葉に共感するのだった。
私のどこがいけないの
何ができるというの
女がひとりで
あなたならどうする
泣くの歩くの死んじゃうの
「ダメか・・・おらがアイドルになろうと思ったらダメか」
「わかんね・・・お母さんに聞いてくるわ」
我が子の眩しい光に打ちのめされてふらふらと立ちあがる幽鬼の如き春子/ハルコだった。
春子はハルコのように・・・寝ている夏に問いかける。
「お母さん・・・私、あの子になんて言えばいいの・・・わからないのよ・・・」
「・・・」
「なんとか云ってよ・・・ふ・・・あの日と同じか」
「・・・待て」
夏は起きあがり、娘である春子と向き合うのだった。
「行かせてやればいいでねえか」
「なんで・・・娘には云えなかったことが・・・孫には言えるの」
「ずっと・・・ひっかかってたからかもしれんねえな」
「・・・」虚をつかれる春子だった。
「あん時・・・お前は真剣だった・・・おらも真剣に応えるべきだった・・・欲の皮のつっぱった大人たちにおらの娘を好きにはさせねえと啖呵を切るべきだった・・・おめえの母親として・・・海女クラブの会長として・・・なんにも言えなかったおらをおらは責めた・・・そんで二十五年だ・・・おめえの顔をまともに見ることもできねかった・・・すまねえ・・・許してけろ」
「・・・よしてよ・・・やめてよ・・・顔をあげてよ・・・ああ・・・そうか・・・私はただあやまってもらいたかったのか・・・お母さん・・・よくわかったね」
「まあな・・・ああ・・・すっとしたあ」
「私も・・・すっとしたよ」
「腹がへったな、うどんでも食うべ・・・」
「うん・・・」
春子の心に降る雨は・・・今、涙となって流れていく。
少なくとも・・・春子の積年の恨みの半分は消え去っていた。
しかし・・・その心が完全に晴れることはないのだろう。
結局、ハルコはアイドルになれなかったのだから。
しかし、春子の暗い怒りは鎮まったのである。
25年の歳月を越えて母親に宥められた娘。
そんなことも知らずアホの子のアキはすでにスヤスヤと寝息を立てていたのだった。
金曜日 都会の絵の具に染まらないで帰ってけろ(杉本哲太)
うどんを食べながら夏は春子に云う。
「今なら・・・娘の気持ちも母親の気持ちもわかるべ・・・アキのためにどうすれば一番いいか・・・よく考えて決めろ」
「うん、わかった・・・」
母親の言葉に素直に頷く春子だった。
秘密の部屋で眠っていたアキは春子の気配を感じて目を覚ます。
春子は書きかけた手紙を隠すのだった。
「ごめん・・・おら、眠っちまった・・・」
「いいよ・・・まだ寝てな・・・」
「でも・・・水口さん・・・」
「大丈夫・・・観光協会も・・・北鉄も・・・漁協もママが説得するから・・・ユイちゃんと東京に行っといで・・・」
「じぇ・・・じゃアイドルになってもいいの・・・」
「その変わり・・・ゼロか十かだよ・・・がんばりな」
「おら・・・100がんばる」
「うん」
「ありがとうママ・・・大好きだあ」
ママなんか嫌いと言われるより百倍嬉しいと感じる春子だった。
抱きついたアキは春子よりずっとたくましいのだった。
天野・足立両家の保護者、駅長や漁協長・・・そして北三陸高校潜水土木科の磯野心平(皆川猿時)も立ち会い、ハートフルとアキとユイの契約が交わされる。
涙にくれる大吉と心平だった。
北三陸鉄道・北三陸駅から貸切の臨時列車で畑野を経由して宮古駅へ。
宮古駅から山田線で盛岡駅へ。
盛岡駅からJR新幹線やまびこで仙台駅へ。
仙台駅からJR東北新幹線はやぶさで上野駅へ。
およそ八時間で東京に到着するのだった。
やはり、遠いぞ・・・北三陸市。
アキは最後に思う存分、潜ってウニを獲るのだった。
大量だった。
アキはそっと春子に甘える。
「ママも東京にくればいいのに」
「そうか・・・でも・・・アキは一人でも大丈夫だけど・・・夏さんが心配だからさ・・・ママは残るよ」
「そっか・・・」
「アキ・・・あんたは強くなったよ・・・夏さんの云う通りママとあんたは違う。あんたならアイドルになれる・・・かもしれない」
「ママ・・・」
天野家の女三代の軋轢は解けた・・・今、アキの新たなる物語が始ろうとしている。
足立家でも別れのディナーが例によって饗された。
「淋しくなるわね」と足立よしえ(八木亜希子)が呟く。
「つらくなったら・・・いつでも帰ってこいよ・・・」と功。
功は頭痛がすると云って立ち上がる・・・命に代えても娘を手放さない気満々なのである。
「お父さん・・・お母さん・・・お兄ちゃん・・・永い間お世話になりました」
ユイは全国のファンの妄想の花嫁になる覚悟なのだった。
そして・・・旅立ちの日がやってきた。
アキは夏から北の海女の鉢巻きを手渡される。
「つらいことがあったら・・・朝の冷たい海さ・・・思い出せ・・・そしたら我慢できる・・・そしてこれで涙をぬぐえ・・・」
「ばっぱ・・・うええん」
「バカ、今、泣くな・・・じっちゃんに線香さ、あげてけ」
その後の天野忠兵衛(蟹江敬三)の消息は不明である。
そして・・・夏はわかめを採りに浜へ出る。
「ばっぱ・・・今、いたのに」
「湿っぽいの嫌いだからね」
「ママは見送りに来てくれるんだろ」
「行くよ。早く、ごはん食べちゃいな」
車で大吉が迎えに来るのだった。
アキと春子は北三陸駅に到着する。
後ろ髪をひかれるアキ。
海女たちが見送りのために到着していた。
「北の海女の精神を忘れんな」
弥生に抱きしめられたアキは・・・「苦しい、息がつまる」とタップするのだった。
「よし、ミサンガ巻くぞ」
「痛い・・・血が止まる」
「手加減なんかできねえ」
うるさい海女たちともしばしの別れなのだ。
その頃・・・夏は磯辺であおさを採っていた。
土曜日 春子、万歳、アキ、万歳、辛くなったら帰ってこいよ~(宮本信子)
旅立ちの日。見送りの人々は北三陸駅構内で万歳を三唱し・・・旗を振る。
貸切の車内は・・・大吉の心尽くしのデコレーションがされている。
がんばれ・・・ユイ&アキのばけましのメッセージが揺れる。
「ありがとう・・・大吉さん」
「出発まで間があるから・・・後は母子水入らずで・・・」
「何よ・・・それ・・・」
二人きりになったアキはたちまち里心がつくのであった。
「忘れ物ないでしょうね。向こうに云ったら水口さんの云うことよく聞くのよ。お金は半分、パンツの中にしまっておきなさい」
「おら・・・おら・・・東京さ、いきたくねえ」
「え・・・なに云ってんのよ」
「ずっと・・・ここさ、いてえ」
「ほら・・・吉田くん、来ちゃったよ」
「うん・・・おら・・・いぐ」
「・・・行くんだ・・・」
海女の鉢巻きで涙をぬぐうアキ。
春子はホームに下りる。
「ママ・・・おら・・・強くなったよな」
「アキ・・・あんたはなんにも変ってないよ・・・アキは地味で暗くて向上心も協調性も存在感も華もない子のままだよ・・・でも・・・みんなに好かれたよね・・・こっちへきて・・・みんなを変えたよ・・・それはきっとすごいことなんだよ・・・あんたはやれるよ・・・これ・・・後で読んで・・・」
「ママ・・・」
「アキ・・・がんばっといで・・・」
アキは歯をくいしばる。春子から手渡された手紙を見る。
ナレーションは夏からアキへバトンタッチされて・・・手紙にアキの知らない春子の半生が綴られていることを語るのだった。
その手紙の内容をお茶の間は知りたくて知りたくてたまらないのだった。
なるべく早めでお願いします。
ここで北三陸篇・・・最大のフリオチが完成されるのだ。
「でも・・・あの子は幸せもんだよね・・・みんなに見送られてさ・・・私なんて誰も来てくれなかった・・・」
「春子さん・・・」と重い口を開く勉さん。
「何よ・・・?」
「夏さんは見送ってました・・・浜辺で・・・大漁旗を振って・・・万歳って叫んでました」
「え・・・そんな・・・」
「あ・・・あの時・・・おらが話しかけて・・・春ちゃん、海側の席を・・・」と大吉。
「夏さんは・・・がんばってこいって叫んでました。夏さんは・・・辛くなったら帰ってこいと・・・」
「なんで黙ってたの・・・」と弥生。
「わかめもらって・・・口止めされたから・・・」
「なんなのよ・・・ずっとうらんでいたのに・・・」
「ああ、俺がバカだった・・・」
「ううん・・・いいのよ・・・なんだ・・・そうだったのか」
春子の顔は穏やかで・・・美しく輝く。
車内では歴史が繰り返されようとしていた。
「ねえ・・・アキちゃん・・・本当に東京に行くのか」と車掌の吉田が話しかける。
その時、いつの間にか乗ったのか老婆が話しかけるのだった。
「次の駅まで何分だべか・・・」
「ええ、おばあちゃんいつ乗ったの・・・これ貸切だよ」
アキはふと海を見た。
そして・・・大漁旗を振る夏を見つけるのだった。
「ばっぱ・・・」
「アキ~・・・行ってけらっせ~・・・気いつけていくんだど・・・アキ~万歳・・・アキ~万歳・・・アキ~辛かったら帰ってこい・・・」
「ばっぱ・・・行ってきます・・・元気でな・・・おら・・・がんばる」
お茶の間の涙を絞りつくした後で・・・通過する予定だった袖が浜駅に停車する車両。
ホームには畑野駅から乗車するはずだったユイとストーブが立っていた。
「ユイちゃん・・・なんで」
「ごめんね・・・アキちゃん、お父さんが倒れて・・・私行けなくなった」
「病院に運んでまだ意識は戻らないんだ・・・大きな病院に転院するかもしれない」
おそらく北三陸の病院から袖が浜駅に駆けつけたのであろう足立兄妹だった。
「それじゃ・・・おらも残るべ」
「ダメ・・・アキちゃんは行って・・・私も後からすぐ行くから・・・」
「でも・・・」
「お願い・・・」
ユイにとってアキは最後の希望なのである。
アキの手をとって願うユイ。
「・・・わかった・・・じゃ・・・新幹線の切符」
アキは新幹線の切符をユイに渡す。
発車の時刻となっていた。
「アキちゃん・・・かならず・・・すぐにいくから」
「ユイちゃん・・・」
電車にすがりつくユイをストーブと吉田が制止する。
「あぶねえから・・・」
「アキちゃん・・・」
「ユイちゃん・・・」
「アギぢゃあん、ずぐにおいがげるがら、ごめんね・・・待っででねああ・・・あああああ」
ユイは絶望の中で泣きじゃくる。
アキは小さくなっていくユイを見つめて・・・ただただ立ちすくむのだった。
関連するキッドのブログ→第11週のレビュー
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コメント
ハイ!涙を絞りとられました(笑)
木曜日も宮本信子さんの演技に泣かされました
マルサのイメージしかなかったんですが
懐の深い素敵な女優さんですね
夏ばっぱが好きな分、種市先輩と爽やかに別れた後の
展開は、なんか もやもやしながら見ていました
お座敷列車で穏やかな母の表情を見せていたはずなのに春子の幼児化 暴走っぷりに距離をおきたい気分
夏ばっぱがまったく活躍しない週は このままフェードアウトしてしまうのかと複雑でした
ストーリーが進んでいるようで進んでいない?数週間を見ていた分
昨日の大漁旗を振っている夏ばっぱの姿に泣かされました 夏ばっぱの姿を確認できたアキはやっぱり運の強い子なのでしょうね
東京編になったら北三陸の人たちは登場しなくなるのかと思っていたら 春子の過去を含め 物語は複合的に展開するみたいですね
今日 知ったのですが 安心しました
吉田里琴ちゃんが出演する日もあるのかな?
北三陸の人たちの様子をどんな風に東京編に絡めてくるのかわかりませんが、ますます賑やかな楽しい朝ドラになりそうでワクワクしてます!
投稿: chiru | 2013年6月23日 (日) 12時58分
シンザンモノ↘シッソウニン↗・・・chiru様、いらっしゃいませ・・・大ファン
まさに一日一リットルの涙展開でしたな。
マルサの女なので
したたかさをつい妄想してしまい
目を開いたまま眠ったフリとかもあるのではないかとか
春子もアキも手玉に取られているのではないかと
ついつい深読みしそうですが・・・。
夏ばっぱはありのまま・・・
頑固だけれども涙もろく
泣きそうになったら海に潜る・・・
そんな一本気なアホの子の祖母なのかもしれませんねえ。
まあ・・・懐は深いことは間違いないのですな。
来るものは拒まず、去るものは追わずですからな。
春子はずっとファンキー・モンキーだったのですが
最後の最後で聖母の顔立ちを見せましたな。
口紅一本でこの変化。
素晴らしい演技プランと言えましょう。
一瞬の穏やかな高貴さのために
ずっと猿と化していたのですからねえ。
あまちゃんは
甘えん坊なので・・・
周りをハラハラさせるのですが
筋金入りなので
みんなに愛されてしまうのですな。
ユイちゃん派にとっては
アキのくせに・・・と思うのですが
そのユイちゃんがアキにメロメロなので
問題ないのだと思いますぞ。
ユイちゃんが・・・アキなしでは
生きていけない女の子になる過程が
じっくりと描かれた四週間。
キッドはとてもハッピーでございましたよ。
最高の二人に仕上げておいて
一人にさせる・・・
クドカンの剛腕さにしびれる思いもいたしますぞ~。
残された謎は
春子の東京物語。
それはアキが北三陸に来るまでのお話でもありますな。
そういう過去と
芸能界の人々が
アキをどんなヒロインに仕上げていくのか・・・。
ドキドキワクワクいたしますねえ。
なにしろ・・・
吉田里琴様や大野いと様という
意地悪やわがままが超得意な美少女たちが
多数集合中というだけで
実に心が躍る今日この頃でございます。
次週予告では里琴様がすでに
上から目線で登場していましたからねえ。
北三陸では日本のアイドルを目指す
アキを祈るような気持ちでリアス/梨明日にて
応援するのでしょうな。
先発していた安部ちゃんもきっと
再会しますよねえ。
なにしろアキは安部ちゃんが大好きなんですから。
何もかもが楽しみでございます。
投稿: キッド | 2013年6月23日 (日) 16時30分