みんな!ビューティフル・ドリーム・ループだよ!(本郷奏多)
夢は仮想現実のルーツである。
私たちはテレビの前にすわり、そこにはない何かを見る。
テレビを見ている人は眠りの中で夢を見ているのと同じようなものだ。
ほとんどの時間をテレビの前で過ごす人はずっと夢を見ている。
それが放送の産物であろうと、コンシューマ・ゲームやパッケージ・プログラムであろうと同じである。
夢を作る人々は人間の大切な時間を消費させる。
時にはよりよい現実を願って。
時には苦い現実を薄めるために。
あるいは単なるビジネスとして。
本物の夢は眠りの中にある。
しかし、それは本人でさえも振り返ることが難しい隠された現象である。
人々は永遠の夢に憧れる。
しかし、それは永遠の人生と同じく虚構の世界に属している。
それでもある種の人々はビューティフル・ドリーマーを求めて世界を彷徨い続けるのだ。
で、『みんな!エスパーだよ!・第9回』(テレビ東京201306150012~)原作・若杉公徳、脚本・田中眞一、演出・月川翔を見た。数々の傑作を生み出してきたこの辺りの枠にまた新たな傑作が加わったと言えるだろう。「キューティーハニーTL」「怨み屋本舗」「湯けむりスナイパー」「まほろ」「モテキ」・・・21世紀の傑作ドラマの半分はこの辺の枠から生じているのだ。・・・それは断言しすぎだろう。それはともかくとして・・・この辺境の虚空から生み出された物語が・・・夏帆をはじめとする役者たちの存在感を我が心の内で不動のものとしたことは間違いないと思う。ありがとうフレディ! ・・・。それは明日だろうっ。
愛知県立東三河の地で覚醒した愛知県立東三河高校の男子生徒・鴨川嘉郎(染谷将太)は東京からの転校生・浅見紗英(真野恵里菜)と束の間の休日を楽しんでいた。
先行する回転木馬に浅見さんがいて嘉郎の乗る木馬は永遠に追いつけないメリーゴーランド。
「楽しいわ・・・嘉郎くん」
「まるで夢みたいだ」
「私を捕まえてよ・・・嘉郎くん」
「無理だで・・・手が届かんだに」
「しょうがないなあ・・・」
紗英は木馬を下りると嘉郎の所まで来てキスを求めるように目を閉じる。
そこで・・・覚醒する嘉郎だった。
他人の心の声を聞くテレパシーの能力に目覚め、ヒーローになった嘉郎だが・・・父親(安田顕)の研究に不信感を抱き、エスパーを嫌悪する紗英との距離はますます開いてしまった・・・と思い悩む嘉郎だった。
その苦悩を冴えない若者らしく、匿名でラジオに投書したりしてみる。
すると・・・。
「えーと、次は好きな人にまったく相手にされないことで悩んでいる高校生のかもがわよしろうくん・・・おっと匿名希望のうっかりよっちゃんです」
翌日、親友のヤス(柄本時生)に終日、その件でからかわれる嘉郎。
鬱屈した気持ちで喫茶「シーホース」にやってくると店内では・・・本当は嘉郎のことが好きらしいヤリマンに見えるが処女のテレパシスト・美由紀(夏帆)がタロット・カードで占われている最中である。
怪しい占い師・土岐野悠介(本郷奏多)は嘉郎を占う。
「あなたは・・・恋に悩んでいる・・・恋の相手はあなたを誤解している・・・その誤解はますま深まるばかりだ・・・」
「当たっている」
占い師は次のカードを開く。
それは・・・破滅のカードだった。
「このままでは・・・あなたは破滅します」
不可解な思いを感じながら家路に着く嘉郎。
(僕は・・・いつシーホースを出たのかな)
見慣れた商店街だがどことなく異様な光景が広がっている。
すれ違う女性は嘉郎の愛するタンクトップとホットパンツを着用。
タイトスカートを履いた女性が身を屈めて落し物を拾う。
メイドカフェのメイドがティッシュを配る。
ナースとキャビン・アテンダンドが通り過ぎる。
修道尼が愛ほ叫ぶ。
(なんか・・・おかしいぞ・・・)
街角では不良にカツアゲされるヤスがゴミ箱から救いを求める。
(ごめん・・・ヤス)
逃げるように地下道に下りた嘉郎を占い師が待っていた。
「破滅ってどういうことなんですか」
「あなたの恋が成就しなければ・・・世界は終ってしまうっていうことです」
「そんな・・・どうすれば・・・」
「愛を告白して・・・運命の扉を開くしかありません」
「無理です」
「そうしないと・・・破滅です」
豊橋総合動植物公園のような場所の巨大恐竜展示物のようなものの前に浅見さんを呼び出す嘉郎だった。
訝しげに嘉郎を見つめる浅見さんに勇気をだしてはじめての告白をする嘉郎。
「最初から好きでした・・・僕と付き合ってください」
「ごめん・・・それは無理」
予想していたものの淡い期待を裏切られて苦悶しながら走り出す嘉郎。
車道に飛び出すと車に轢かれてしまうのだった。
気がつけばシーホースの客席である。
マスターの輝光(マキタスポーツ)が声をかける。
「どうしたに・・・急に眠ってもうて」
美由紀が向いの席でジュースを飲みながら言う。
「どうせ・・・浅見紗英のことで悩んで寝不足なんだら」
そこへ・・・全裸テレポートしてくる瞬間移動エスパーの洋介(深水元基)だった。
「やったぜ・・・人類股間計画は順調だ・・・もうすぐ女子生徒全員が俺のチンコを視認することになる」
驚いてジュースをこぼした美由紀は洋介を蹴り殺すのだった。
助けを求める洋介を残し、家路に着いた嘉郎。
見慣れた商店街を通り抜け、ヤスを見捨てて、地下道の占い師に逢う。
「おかしい・・・デジャブを感じる」
「失敗しましたね」
「あんなこと・・・二度とごめんだに」
「あなたは運命を誤解している・・・あなたの恋が成就しなければ世界は破滅するのです」
「でも・・・」
「どんな風に告白したんですか・・・」
「普通に・・・」
「彼女は・・・もてるから・・・普通の告白には飽きているのかも・・・冷たい言葉を投げてみたらどうでしょう」
再び、浅見さんを呼び出した嘉郎。
「いつも・・・君の言いなりになると思ったら大間違いだに・・・君はすぐに他人のせいにするけど・・・君が東京の男にふられたのは君に魅力がなかっただけだがや」
「何言ってるの・・・キモい」
「そんな・・・」
立ち去ろうとする浅見さんを思わず抱きすくめる嘉郎。
そこに警官隊が到着する。
「その女性を離しなさい」
「誤解だに」
しかし、問答無用で射殺される嘉郎だった。
再び、目覚めるとシーホースである。
嘉郎は無限のループにはまり込んだようだった。
(これは夢・・・それともタイプ・ワープ?)
嘉郎は地下道へと急ぐ。
「どうなっているんだに」
「とにかく・・・恋を成就するのです」
嘉郎はあらゆる可能性を試してみることにした。
浅見さんの心をつかむために・・・アタックを繰り返すのである。
ついには首輪をはめたパンツ犬になる嘉郎。
しかし・・・浅見さんは嘉郎を飼い犬にさえしないのだった。
「もうだめだら・・・僕には無理だに」
「あきらめないで・・・君には夢を現実に変える力がある」
嘉郎に強力な暗示を与える占い師だった。
眩暈を感じる嘉郎。
シャンプーの香りが鼻をくすぐる。
目の前に黒髪があった。
嘉郎の身体に預けられた浅見さんの背中の重さと温もり。
二人は一頭の回転木馬に二人乗りしているのだった。
「浅見さん・・・」
「楽しいね・・・嘉郎くん・・・」
「浅見さん・・・」
「ずっと一緒にいようね・・・嘉郎くん」
「ちょっと待ちいな」
割り込んでくるのは隣の木馬に乗った美由紀ちゃんだった。
「美由紀ちゃん」
「嘉郎・・・本当はアタシのことが好きなんだろう」
「そんな・・・」
「嘉郎くんが好きなのは私でしょう」
「嘉郎・・・」
「そんな・・・浅見さんと・・・美由紀ちゃんのどちらか・・・なんて・・・」
背後の木馬には占い師が乗っていた。
「これが・・・君の・・・パラダイスなんだね」
シーホースでは嘉郎が昏睡を続けていた。
心配げに見つめるエスパーたち。
そこに教授が到着する。
「これは・・・ドリーム・ループだ・・・エスパーの能力によって夢の回廊に精神が閉塞されているんだ・・・このままでは嘉郎君の精神は崩壊してしまうだろう」
「なんとか・・・せんと」
「あの占い師が怪しいだに」
サイコメトラー英雄(鈴之助)によって謎の採掘場にたどり着くエスパー・チームだった。
「本当にこんなところに・・・まるでショッカーの怪人みたいだに」
「あ・・・あそこにいた」と透視能力者・直也(柾木玲弥)が叫ぶ。
「みんな、あいつを捕まえるだに」と美由紀がいきり立つがエスパーたちはそれほど気勢があがらないのだった。
「君は誤解しているよ・・・僕は嘉郎くんの夢をかなえてあげただけさ・・・皆さんもいかがですか」
「美女に囲まれたい・・・」
「世界中の女にチンコを見せたい・・・」
「純粋無垢な女と交際したい・・・」
「明るくなりたい・・・」
それぞれの願望を口にするエスパーたち。しかし、美由紀の夢は嘉郎を取り戻すことだった。
「そうですか・・・しかし・・・僕を倒したって嘉郎くんは目覚めません・・・目覚めの鍵が必要なのです・・・嘉郎くんの悩みの根源がね・・・」
徒歩で立ち去る占い師だった。
美由紀は唇をかみしめるが・・・ある意味、手段を選ばない女だった。
「どうせ・・・嘉郎の悩みは浅見紗英のことだで」
エスパーたちは紗英を拉致するのだった。
「何するのよ」
「嘉郎にキスせい・・・そうすれば・・・きっと嘉郎は目が覚める・・・」
「嫌よ・・・」
「え・・・」と困惑する教授。
浅見が嘉郎と無理矢理キスさせられそうになった瞬間・・・。
マスターの心に微妙な感情が芽生える。
(いやだ・・・嘉郎がキスするなんて・・・なんだか・・・いやだ)
マスターは嘉郎の唇を奪う。すると覚醒する嘉郎。
「誰でも良かったのかよ・・・」と絶句する美由紀だった。
こうして・・・嘉郎は危地を脱した。
「なんだ・・・まだ・・・喧嘩してるの・・・じゃ・・・こうしよう・・・月火水は浅見さんで・・・木金土は美由紀ちゃん・・・日曜日はどうしょうかな」
「寝ぼけとんのか・・・」
呆れながら・・・深く安堵する美由紀だった。
そして、いよいよ・・・物語は佳境に入って行く。
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