割り切れない気持ちをおよそのところで抱えて生きるのです(香取慎吾)
たとえば数学は素晴らしい学問だが、算数・・・その中でも割り算は人生の基本である。
1/3が0.3333333333333333333・・・であることの不可解さこそ人生の中心にあるものだろう。
記述が永遠に完了しないもの。
生と死の中間にあるもの。
善と悪の中間にあるもの。
歓びと哀しみの中間にあるもの。
愛と憎しみの中間にあるもの。
割り切れないもの。
やりきれないもの。
どうにもできないこと。
それがあることを・・・100円を三人で分けあうことの難しさを。
他人と自分の間に何かがあることを。
数字で示してくれてありがとうと言う他はない。
で、『幽かな彼女・第9回』(フジテレビ20130604PM10~)脚本・古家和尚、演出・白木啓一郎を見た。世田谷区立小原南中学校構築した城壁を崩し始めた3年2組担任・神山先生(香取慎吾)を牽制するために森野小夜(森迫永依)をターゲットに選んだ京塚りさ(山本舞香)は忍びよる神山先生の精神攻撃に追い込まれ、凌辱された過去をフラッシュパックしてしまう。小学生時代クラスメートに服を脱がされ写真を撮影され恥ずかしめられた傷心は小夜に反射して行く。りさの行きすぎを嗜めようとした矢沢舞(飯豊まりえ)は逆上したりさに斬りつけられ出血するのだった。
「私の邪魔をする奴は許さない」
悪鬼と化したりさに恐れを感じた女子中学生たちは脱兎のごとく逃走するのだった。
取り残された小夜はりさのからっぽの心に戦慄しつつ深い憐憫を感じる。小夜はある程度他人の心も視える霊感生徒だった。
帰宅した女子中学生たちの親からの通報で対応に追われる学校職員たち。
「次から次へと厄介なことがおこるわね」と迷惑げに眉をひそめる3年1組の大原先生(濱田マリ)だが原因の一端が自分が発案して配布した「親が子供に聞かせる愛の証」プリントであることにはまったく気がついていないおめでたさがある。
その頃、もう一人の当事者である神山先生(香取慎吾)は依存する女教師の幽霊・アカネ(杏)の行方不明に動揺していたのだった。
「吉岡さん・・・どうしましょう」
神山先生は困った時は死後五十年の浮遊霊の吉岡(佐藤二朗)に頼る霊感教師だった。
「犬の霊に追わせてみよう・・・犬の霊は鼻が効くから」
しかし、来たのは猫の霊だった。
「猫じゃないですか」
「ちょっとまて・・・今度こそ」
しかし、次には何か邪悪な獣がやってくる。
「なんなんですか」
そこへ・・・事件の第一報がもたらされるのだった。
傷害事件の発生に霧澤和泉副校長(真矢みき) はいつもの冷静さを失う。
被害者の矢島家の意向で警察への通報は控えたものの教育委員会には連絡し、加害者のりさの処分を急ぐのだった。
「いつもと違うじゃないですか・・・」と霧沢の真意を疑う神山先生。
「傷害事件なのよ・・・一線を越えてしまった生徒は処分するしかない・・・そうでなければ誰も守れない」
霧沢も生前のアカネの殺害に不本意ながらも自分が関与した心の傷が開き、我を失っているのだった。
不審な窪内先生(林泰文)のパソコンを開いた3年2組副担任の河合先生(前田敦子)は「学級飼育型シミュレーションゲーム・みんな!いい子だよ!」を発見し、窪内先生のレクチャーを受けるのだった。
「市販のゲームを改造した生徒の育成ゲームですよ。個人的なデータを収拾しキャラクターを造形してあります・・・3年2組は個性的な生徒が集まっていて面白いですよ・・・ああ・・・リサはまたしても破滅してしまったか・・・リセットしなきゃな・・・」
「どうして・・・こんなものを・・・」
「現実は複雑すぎるんで・・・私にはゲームがお似合いなんです」
「キモい・・・」
「自覚してますから・・・でも、ゲームと現実は似て非なるものですからね。たとえば・・・いじめっ子のリサには・・・裏の顔があったりします・・・」
「裏って・・・」
「私のデータ入力はかなり過去まで遡っていますからね・・・リサはかってはいじめられっ子だったんですよ。しかも・・・かなりハードなね。彼女の凌辱写真も関係者からハッキングして入手していますが、現在では所持しているだけで処罰の対象になるのでお見せすることはできません・・・ちなみに証拠隠滅のためのプログラムは完璧なので通報しても無駄ですよ・・・」
「なぜ・・・そんなことを・・・」
「さあ・・・あなたに言ってもわからないかもしれませんねえ・・・私は教師という仕事が好きなんです・・・ただ、ものすごく弱虫なので・・・実際の生徒を相手にすることはできないのです」
「さっぱりわかりません」
「そうかなあ・・・あなたはきっと優秀な教師になりますよ」
「まさか」
「ほら・・・」
教室の箱庭画面にカワイが現れる。
「元いじめっ子の女教師・・・破壊力も抜群ですけどね」
「ア、アメ・・・グですか、変態ですか」
「変態は自分のことは変態とは思っていないものですよ・・・私は変態って自覚しています。さて、私は変態なんでしょうかね」
「・・・」
京塚家では母親の麗子(宮地雅子)が慄いていた。
「どうしたの・・・りさ・・・」
「人を刺してきたんで・・・いつものように後始末よろしく」
自室に籠ったりさは凌辱された過去の記憶が蘇る。
国立大学の有名付属小学校でりさは政治家の父親・京塚某(飯田基祐)の所属する政党のボス的存在である長谷川某の孫娘から陰湿ないじめを受けていた。しかし、父親は政治的立場から問題をうやむやに処理したのだった。長谷川某の圧力に屈したのである。
「上手く立ち回らなったお前が悪いのだ」
いじめの被害者であるりさはいじめの加害者たちに学校を追放されたのだった。
事情知る母親はりさの懐柔に手を尽くしたが・・・782個のプレゼントも恥辱にまみれたりさの心を癒すことはなかった。
結局、自分の身を守るためにりさは自分で防壁を築くしかなかった。
それは・・・いじめられる前にいじめることで達成されていたのである。
神山先生はその牙城を無思慮に崩壊せしめたのであった。
帰宅した神山先生は生徒のことよりもアカネのことが気がかりだった。
しかし、アカネは唐突に帰還する。
「どけだけ・・・心配したと思ってんだ」
「まあ・・・最悪、消散するか成仏するだけなんですけどね」
「まあ・・・そうだけどさ」
「私、地縛霊を卒業して浮遊霊にジョブチェンジしたみたいなんです」
「それは・・・記憶をとりもどしたからか・・・」
「さあ?」
神山先生は霧澤副校長の話をアカネに話す。
「なんだ・・・和泉ちゃん・・・そんなことを気にしているのかあ」
「そんなことって・・・」
「幽霊にとってはどうでもいいことなんですよ・・・だってもう死んでるんですから」
「お前の場合はなっ」
「それより・・・今は先生の生徒たちのことですよ」
「しかし・・・彼女には処分が・・・」
「大切なのは罰することではなく正すこと・・・見放さず彼女を救うべきです」
アカネが戻ったことで漸く、職務を思いだす神山先生だった。
神山先生の生きる証は・・・①アカネ ②教職 ③お城のプラモデル組み立ての三者が激しく流動的に優先順位をチェンジしながら示されるのだ。
その夜はとりあえず「お城」に逃避した神山先生だった。
一夜明けた3年2組。
軽傷だった矢沢舞は登校し、りさの処分を神山先生に問う。
「それはこれから決まります・・・それまでは皆さんは彼女のクラスメートです」
「じゃあ・・・彼女に伝えてよ・・・あんたを友達なんて思ったこと一度もないって」
りさの子分の一人だった下川千夏(関紫優)も尻馬に乗るのだった。
「死ねって伝えてください」
神山先生はたしなめることを控えるのだった。生徒たちにおまかせのワザを覚えたからである。
神山の使徒となった剣の達人・香織(荒川ちか)が立ちあがる。
「千夏は云いすぎだと思うよ」
「あんたには関係ないでしょう・・・」と千夏を庇う舞。
「私は関係あるわよ・・・」と小夜が立ち上がる。「私をターゲットにした時、りさとあなたたちは一緒だったじゃない・・・今度はりさをターゲットにしてるだけでしょ」
小夜贔屓である亮介(森本慎太郎)が賛意を示す。
「お前ら・・・手のひら返しすぎだよ」
りさの子分から早期離脱した香奈(未来穂香)が立ち上がる。
「きれいごとは云わないよ・・・私もりさと一緒になって気に入らないやつハブってたからさ・・・でも、りさが何もかも悪いわけじゃないでしょ」
「何よ・・・私は被害者なのよ・・・ナイフで斬られて気持ちがおさまると思うの?」
不登校から脱した拓途(神宮寺勇太)が立ち上がる。
「被害者だから・・・何をしてもいいのかい。いじめてもいいのかい。そんなこといつまで続くんだ・・・いやな感じが・・・好きなのか」
漂う教室内の不穏な空気。
そこへ・・・何事もなかったように・・・りさが登校してくるのだった。
いつものように子分たちをカラオケに誘うりさ。
その不気味さに怯える子分たちだった。
「あんた・・・まさか・・・何事もなかったですむと思うの?」
「あんたの帰る場所なんてないよ」
「あんた・・・終りだよ」
子分たちに拒絶され、教室を出るりさだった。
帰宅したりさに父親が言葉をかける。
「結局、また、お前は俺の足を引っ張るんだな」
りさは無言で部屋に戻るとテディ・ベアからナイフを取り出すのだった。
学校では霊感先生と霊感生徒が意見を交換していた。
「先生、りさを助けてあげて」
「いじめていたりささんを許すのですか」
「あの子は・・・憐れなほどに心がからっぽだったよ・・・」
神山先生は京塚家の家庭訪問に乗り出した。
そこへ集まる使徒たち。
「先生、私たちもお供します」
「でも・・・」
そこでアカネが口を挟む。
「いいんじゃないですか・・・りさちゃんち広いし」
すでに下見をすませた浮遊霊・アカネだった。
そこへ・・・りさが家出をした一報が入る。
手分けして捜索を開始する使徒たち。
河合先生は懊悩するのだった。
自分の過去の何かが河合を責め立てる。
河合先生は過去に犯した過ちに縛られているのだった。
河合先生はかって犯した悪に拘泥し自らを責めていたのである。
無邪気な罪、罪と知らずに犯した罪は・・・罪を自覚した時に償いようもなくまとわりつくものだからである。特に生真面目なものには。
だから河合先生には・・・りさの行動を推測することが可能だった。
すっかり、幽霊たちに依存する神山先生は吉岡の影法師情報網に期待する。
しかし、吉岡は霊的なスランプに陥っていた。
だが、進化したアカネは影法師を遣えるになっていたのだった。
浮遊霊たちを同化して・・・千里眼を発揮するアカネ。
りさが凌辱された小学校に向かっていることを発見する。
世田谷区教育委員会管理局教育指導係の轟木庸一郎(加藤虎ノ介)は霧沢に緊急連絡をする。
「京塚りさから小学校時代のいじめについての告発文が届きました。加害児童の実名入りです・・・穏便に処理するのでご協力をお願いします」
「小学校時代のいじめ・・・」
霧沢はアカネを刺殺した渡辺淳也を憎悪するあまりに、民自党議員の渡辺幹彦の息子だった淳也とりさを同一視していた自分の不明に漸く気がつくのだった。
結局、霧沢は・・・淳也を恐れるようにりさを恐れていたのである。
「早急な処分は失敗だったのか・・・」
「彼女は死ぬつもりよ・・・淳也くんもそうだったもの・・・」
霧沢とは別のベクトルでアカネはりさと淳也を重ねていた。
霧沢はりさを排除しようとしたが・・・アカネはただ救出しようとしていたのだった。
そして・・・りさの運命は河合先生に委ねられていた。
りさの行動を推測した河合先生は呪われた小学校で待ち伏せた。
黒を着こんだりさは河合先生の読み通りやってきた。
「先生・・・どうしてここに」
「あなたは・・・あまり出歩いちゃ駄目でしょう」
「邪魔しないで・・・先生はいつものように・・・見て見ぬフリをしていればいいのよ」
「待ちなさい」
校舎に走るりさを追いかける河合先生。
やや遅れて神山先生とアカネが駆けつける。
不審な男性を発見した警備員が邪魔に入るが吉岡とメグミ(上間美緒)が憑依の術で排除に成功する。
屋上ではりさと河合先生が対峙していた。
「死んで復讐する気なのね」
「親は根性なしで仇をとる気がない。私が死んでも困る人はいないもの」
「そうして・・・かっての敵に誰かが制裁をくだしたって・・・その時、あなたはいないのよ」
「・・・」
「私はあなたより・・・ずっとずっと嫌な奴。それでも私は恥をさらして生きている。自己嫌悪に耐えて生きている。あなたも生きなさい」
「問答無用」
りさはナイフを自分に突き立てるために力を入れた。
その瞬間、アカネは憑依の術でりさを金縛りにする。
同時に河合先生はりさのナイフを制していた。
迸る河合先生の鮮血。
神山先生はりさからナイフをとりあげた。
アカネが呪縛を解いたりさを平手打ちしてから抱きしめる河合先生。
「馬鹿・・・死んだら負けなのよ・・・あなたは強いんだから・・・負けずに生きなさい」
二人を見守るアカネと神山先生。
河合先生への謝罪のためにりさの父親が呼び出しに応じる。
「それなりのお詫びの気持ちはさせていただきます」
鼻白む河合先生と・・・立ち会った神山先生。
霧澤は眉を潜める。轟木はあくまで事態の鎮静化を見守る。
「娘は海外に留学させます」
「救いを求める娘さんを放り出すのですか・・・」と声を荒げる神山先生。
「私の立場もお考えください」
「子供の心より自分の立場が大切ですか」
「先生のようにきれいごとですませるわけにはいかないのですよ」
「大人がきれいごとを子供に教えなかったら世界はゴミだらけですよ」
「何を言ってるのか・・・さっぱりですな」
「あんた・・・最低だ」
神山先生は怒りの拳を振り上げた。
「やめてください、神山先生」と河合先生。
「やめてください、神山先生」と霧澤副校長。
「やめてください、神山先生」とアカネ。
幽霊が立ちふさがるので・・・怒りを鎮める神山先生だった。
「娘のりささんをクラスに戻して・・・僕と僕の生徒たちに救わせてください」
しかし、りさの父親は無言で立ち去る。
帰りかける河合先生を呼びとめるりさ。
「先生・・・ありがとう」
河合先生に赦しの天使が舞い降りるのだった。
神山先生は河合先生に告げる。
「結局、立ち向かうしかないんです・・・立ち向かうことで何かが変わるかもしれないでしょう」
「でも・・・私は・・・」
神山先生は霧澤から託された河合先生の退職願いを取り出した。
「これは・・・おかえしします」
河合先生は自分で退職届を破り捨てた。
教師・河合先生の誕生である。歓喜する世界。
そんな生きている二人の交情に少し割り切れない気分を感じるアカネだった。
「死んだら負けですもんね・・・うらめしや」なのである。
しかし、霧山は轟木からの業務連絡を受ける。
「神山先生には辞めていただくしかないですな・・・生徒の親への暴行未遂を見逃しては私が職務怠慢を問われますから」
「・・・」
その頃、神山先生は何者かに破壊されたお城の残骸を前に途方に暮れていた。
割り切れない世界は続いていく。
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