ガリレオXX~蛍光灯の蒼き光は勇気の証ですからやるわよ(柴咲コウ)
原作小説とテレビドラマが融合し、分離し、新たな作品世界を生み出す。
虚構が生命を持っていることが感じられる瞬間である。
原作「ガリレオ」には不在だった内海薫がドラマ「ガリレオ」から逆流し、原作「ガリレオ」の内海薫がドラマ「ガリレオ」では岸谷美砂となって浮上する。
プレイボーイ・ガリレオはドラマ版ではよりフレッシュな肉体を求める傾向が見えるのだった。
しかし、お茶の間の一部は遊び人であるガリレオが生真面目な女性刑事に飼育される構図がお気に入りだったりする。
それが転じてキャリアで小生意気で若さほとばしる岸谷美砂よりも、たたき上げで一生懸命で少しくたびれた内海薫の復活を待望したりするのである。
もちろん、それだけではビジネスは成立しないわけだが、それもビジネスとして成立させるのがあこぎな業界の性なのである。
そして・・・そういうスピン・オフがそれなりに面白かったりするのだな。
このようにして主役としての内海薫が誕生したのだった。
それはテレビドラマ「ガリレオ」と「ガリレオ2」の間に「ガリレオ1.5」として存在する。
で、『土曜プレミアム・ガリレオXX 内海薫最後の事件 愚弄ぶ』(フジテレビ20130622PM9~)脚本・池上純哉、演出・西谷弘を見た。ドラマシリーズの時間軸は第1シリーズの六年後、第2シリーズの開始直前に遡上する。ガリレオこと帝都大学物理学科准教授・湯川学(福山雅治)の協力によって数々の難事件を解決してきた警視庁貝塚北警察署刑事課強行犯係の内海薫刑事も三十路を越えて警察官としての曲がり角に差し掛かっていた。体力勝負の現場の刑事として・・・男社会の女警察官として。アメリカでの研修としてオクラハマ行きを打診される内海刑事は・・・留学後に戻る場所があるのかを不安に思い即答を避けていたのである。
ミステリアスなガリレオの導入のテーマにのって事件現場に駆けつける内海刑事。
しかし、現場に先着している後輩の太田川稔刑事や、上司の間宮昌明刑事課課長(モロ師岡)の態度は内海を無視するかのように素っ気ない。
違和感を感じながら遺体のカバーをめくりあげた内海刑事は・・・そこに自分の変わり果てた姿を発見し、驚愕する。
驚愕夢から覚醒した内海は独身のまま三十三歳になってしまった女性が感じやすいわびしさを胸に宿すのだった。
格闘術の修練を積んでいても体力の衰えを感じることがある。
女性としての体力差をカバーするための気力が日に日に失われていくような予感。
見学にやってきたピチピチでキャリアの幹部候補生の女性警察官・岸谷美砂警部補の姿を眩しく感じる。
来年には彼女の部下としてお守役をしているかもしれない自分を想像すると憂鬱な気分にさえなってくる。
新聞では病死した死刑囚「猿渡雄吉冤罪事件」の記事がにぎわっている。
底辺にいても鬱屈するが・・・上は上で大変だ。
内海刑事は「冤罪事件の騒動」を他人事のように感じながら、目の前の事件を追う日常に戻って行く。
(私はやるべきことをやるだけだ・・・警視庁の刑事として首都を守るプライドをもって)
自分を奮い立たせて捜査に出た内海刑事は路上で不審な人物を目撃する。
老婆を乗せた車椅子を押す幽鬼のような男。
そして・・・老婆は死亡していた。
職務質問をかけた内海刑事は男に任意同行を求める。
取調室で男は長野県の介護派遣センター・タイヨウ所属の介護士で上念研一(ユースケ・サンタマリア)と名乗る。
衰弱死したと思われる老婆・・・岩見芙美(池田道枝)は認知症を発症しており、上念は自宅介護を担当していたのである。
「なぜ・・・東京に・・・」
「人を殺したから・・・」
上念は介護方法について芙美の娘で歯科助手の岩見千加子(大路恵美)と口論になり、室内にあった金属バットで撲殺したと淡々と供述するのだった。
照会により上念は長野県警によって指名手配されていたことが判明する。
冤罪事件疑惑の対応に追われる警視庁捜査一課管理官の多々良(永島敏行)は警視庁職員の手柄をマス・メディアにアピールするのだった。
一躍脚光を浴びた内海は警視庁から長野県警への身柄の送致を担当することになる。
警視庁刑事部捜査第一課刑事の草薙(北村一輝)も内海の殊勲を讃えにやってくるのだった。
内海はちょっといい気分になったのだった。
しかし、護送中にトイレ休憩を要求した上念は突然、トイレを借りた店で無罪を主張して暴れはじめるのだった。
「俺は・・・無罪だ・・・取り調べ中に自白を強要された」
その姿は通りすがりの人々によって撮影され、素晴らしいインターネットの世界にアップされるのだった。
移送先の長野県警察御坂警察署で、内海は署長の髙﨑依子(余貴美子)に柔らかく注意されるのだった。
「こういうのは・・・あまり・・・感心しないわねえ」
「・・・」
その上、上念は供述を翻し、犯行を否定するのである。
しかも・・・供述内容と現状は大きく食い違っていた。
凶器は金属バットではなくミキサー。被害者と上念の関係は良好で自供した動機そのものが疑わしいものとなっていた。
あたかも・・・内海が嘘の供述を強要したと思われかねない事態となったのだ。
上司の間宮警部は帰還を命ずるが内海は拒否する。
「このままでは・・・帰れません」
長野県警に一人残留した内海だったが、おりしもダム建設工事のために市内の宿泊施設は満室で・・・ラブホテルに逗留することになる内海だった。受付の女(濱田マリ)は何かを隠すようにリストバンドを巻いていわくありげな不気味さを醸し出している。
凶器には上念の指紋が残されており、状況的には送検可能だった。
しかし、内海の聴取した供述書とは大きな食い違いがあり、それが問題なのだった。
「老人の具合を案じて自宅を訪問した時には・・・彼女は死んでいたのです。通報した瞬間、衝撃を感じて・・・気がつくとミキサーを握らされていたのです」
供述を翻した上念はまるで別人のようだった。
(なんなの・・・あの自信に満ちた態度・・・まるであらかじめ無罪が立証されているような・・・)
一人、悩む内海に警視庁の弓削志郎刑事(品川祐)から連絡が入る。
「先輩・・・」
「そっちはどうだ・・・こっちはただでさえ・・・冤罪事件疑惑がもちあがっているのに・・・お前の件が不祥事になりそうなので大変だぞ・・・」
「・・・」
「何か・・・手伝えることがあるか・・・」
「上京した上念の足取りを追ってもらえますか・・・」
「なるほど・・・」
「お願いします」
上念には前科があり、さらに被害者の血痕がついた上念の上着が発見されたことにより、長野県警は容疑者否認のまま送検に踏み切るのだった。
一方で、長野県警察御坂警察署刑事課強行犯係のトンマこと当摩健斗巡査部長(柳楽優弥)を従えて独自の捜査を開始した内海。
そんな内海にかってキャリアの女刑事として警視庁に在籍したという女署長は教育的指導をする。
「警察組織では女はしたたかに水のように沁み込まなきゃね・・・」
「はあ・・・」
「男がウイスキーなら、女は水・・・で、水割りになって手柄は頂くってわけ」
「意味わかりません・・・」
ラブホテルの内海の元へ「しなの新報」社会部記者の甲本章雄(滝藤賢一)が訪れる。
甲本は「警察官Y・Tは記者を無実の罪で自殺に追い込んだ」という怪文書の存在を告げる。自殺した記者とは衰弱死した老婆の夫で殺害された被害者の父親・岩見隆治(神崎孝一郎)だった。
岩見は「猿渡雄吉冤罪事件」を取材していたのだった。
そして・・・女署長・髙﨑依子のイニシャルは「Y・T」であり・・・女署長は「猿渡雄吉事件」の担当刑事だったのである。
なんらかの核心に迫ったと感じた内海だったが・・・強制帰還を命じられる。
岩見千加子殺人事件の捜査は終結したのである。
不完全燃焼のまま・・・東京に戻った内海を弓削が出迎える。
「結局・・・犯人は上念で決まりか・・・」
「どうも・・・何かがひっかかるんですけど・・・」
「上念の前科は・・・恐喝だ・・・ゲームの批評家を脅したらしい・・・知ってるか、上念は以前は人気のゲーム作家だったらしい・・・しかし、盗作を疑われ、逆ギレして犯行に及んだってことだ・・・前科がついて・・・ゲーム作家としてはやっていけなくなり・・・介護士になったらしい・・・取り調べにあたった検事が言ってたよ・・・参考までにゲームをプレイしてみて・・・その難解さに辟易したことを正直にいったら・・・やっこさん、取調室で逆上したそうだ」
「やっこさん・・・」
「結局、今回はお手柄が台無しになった感じだが・・・気にするな、俺なんかこの年になるまで手柄なんて一つも立ててないけど・・・なんとかやってるんだからさ・・・」
「フォローにならないフォローありがとうございます」
内海はやるせない気持ちを抱え、ガリレオの研究室を訪れた。
「捜査協力ならお断り・・・」といつもの文句を繰り返す助手の栗林(渡辺いっけい)を軽くいなして内海はガリレオに問う。
「私、このまま刑事を続けていいんですかね」
遠回しに結婚関係のことを匂わせていると邪推したガリレオは蛍光灯を使った実験に没頭するフリをするのだった。
「蛍光灯には悪魔の力が流れていると思われがちだが、実は外部からの刺激によって、内部がゴタゴタして、発光しているのだ」
「はあ・・・」
実験に使用した蛍光灯は明滅する。
「寿命じゃないんですか」
「ちょっとした不具合によって機能性の喪失を疑うのは早計だ・・・」
ガリレオは息を吹きかけ埃を払い接触不良を解消するのだった。
点灯する蛍光灯。
その光は内海の心を照らすのだった。
帰路で内海は一生懸命に仲間を追いかける少女(信太真妃)を目撃する。
ドラマ「それでも、生きていく」で撲殺された少女に似ている・・・と内海は感じた。
死んだ者さえ復活するのだ・・・生きている私が何もせずにいていいものか・・・内海は気をとりなおしたのだった。
「猿渡事件が絡んでいます」と多々良管理官に直訴する内海は・・・再び長野への出張を許可されるのだった。
「最後にお願い、もう一回だけ」と当摩刑事を口説く内海。
当摩の母親(石野真子)はゲームおタクだった息子に女性が訪問してきたことに感激する。
「囮捜査ですか・・・で、誰が囮になるんです・・・」
「・・・」
「えーっ・・・僕ですか」
当摩が発信した「事件告発」の匿名メールは女署長を突っつくのだった。
そして・・・動き出したのは長野県警のベテラン刑事・・・関岡(伊武雅刀)だった。
関岡は警視庁時代かにの女署長の部下だったのだ。もちろん、男と女の関係でもあったと思われる。
彼は・・・「猿渡事件」を追及する岩見隆治を自殺に見せかけて殺害していた。
そして・・・取材資料を捜索するために岩見家に侵入し、千加子と遭遇し、これを殺害。
訪問した上念を犯人に仕立てのである。
歯止めの利かなくなった関岡は当摩と内海を拉致し、心中に見せかけて殺害しようとする。
しかし、拳銃を携帯していた内海は間一髪、関岡の襲撃を封じ、身柄を拘束するのだった。
「あなたを信じて・・・職務を遂行してきたのに・・・」と激昂する当摩・・・。
「すまん・・・一度殺せば・・・何人でも殺せるんだ・・・それが俺という人間なんだ」
深く謝罪する・・・関岡だった。
女署長も共犯者として逮捕された。
「これが・・・水のようにしたたかに生きるってことですか」
「私は・・・きっと最初から腐った水だったのよ」
開き直る女署長だった。
冤罪の被害者として・・・一躍、ヒーローとなった上念。
しかし・・・上念の足取りを追跡した弓削は時間を指定して宅配するサービス「未来宅配便」で重要な証拠を押収していた。
介護のための監視カメラには関岡が岩見夫人を殺害する模様が映っていたのだった。
「あなたは・・・最初から自分が無実になることが分かっていて・・・あえて・・・犯行を自供したんでしょう・・・冤罪被害者として・・・ヒーローを演じるゲームがしたかったのね」
あえて単独で上念に迫る内海。
「云いがかりですよ・・・未来の自分に自分の姿を送ると言って介護利用者が僕に記録を託したんです。そこにたまたま・・・そういう映像があったと言うことでしょう」
「あなたって・・・人の痛みが判らない・・・本当につまらない人間ね。あなたのゲームが面白くない理由がわかったわ・・・あなたにはリアリティーが欠如しているのよ。だって・・・あなたには人間の心というものが判っていないんだもの」
「なんだと・・・ふざけるな」
自分の作品が揶揄されることだけは許容できない上念は本性を剥きだしにして内海に暴行を加えるのだった。
しかし・・・その模様は監視カメラで記録されていた。
暴行の現行犯で逮捕される上念。
血まみれの内海は嗚咽を漏らす。
その涙の理由は誰にもわからない。
許しがたい犯罪者への憎しみの涙・・・。
しかし、それを野放しにした哀しみの涙・・・。
それとも・・・人類そのものへの絶望の涙なのか。
だが、現象に理由があろうがなかろうが内海は生きていくのだった。
内海は新天地を求めて、渡米を決意するのだった。
「本当に行くのか・・・」といなくなるとなると惜しい気持ちが生じる間宮刑事課長だった。
その時、事件発生の一報が入る。
「行きます・・・それが私の仕事ですから・・・」
晴れ晴れとした女刑事の挨拶だった。
この美しさに魅かれるお茶の間の皆さまの気持ちもなんとなくわかるのだった。
まあ、内海刑事の干した下着で充分の・・・変態の皆さんもそれなりに満足したと思われる。
もちろん・・・下着を盗んだのはあの受付嬢なのだろう。
もちろん・・・ガリレオ不足なので・・・視聴率は少し下がるのです。
ガリレオプラス内海とガリレオプラス岸谷の視聴率がそれほど変わらないことを考えるとガリレオシリーズの人気の秘密が垣間見えることは言うまでもない。
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