525円の深紅のワインと夏の花火と2360円の血液検査とWoman(満島ひかり)
認知症になった母はどこからか聴こえる子供の泣き声を聞くと・・・。
「虐待されているのではないか」と騒ぎ出すのだった。
「子供は泣くものでしょう」と宥めると「私はあなたを泣かせたりしなかった」と言い張るのだった。
お母さん・・・私も子供の頃は泣いたのです。
そういう狂気は社会にもある。
片手で少子化対策をしながら片手で虐待のない社会を目指す。
お役所仕事はいつだってどこかで物議をかもしだす。
産めよ増やせよと煽りながら、子供を殺させたり、良き母親から子供を取りあげたりする。
三千万円で買った終の棲家で一ヶ月五十万円の管理費を払いながら死を待つ女がいて、保険料を払えないから身体の不調を感じながら受診しない女がいる国である。
それでも・・・きっと・・・なにもかもが・・・だんだん良くなっているのだろう。
どちらにしろ・・・最後に待っているのは永遠の安息なのだから。
で、『Woman・第2回』(日本テレビ20130710PM10~)脚本・坂元裕二、演出・水田伸生を見た。「Mother」(1970年)も「Woman」(1981年)もジョン・レノンのシングル曲のタイトルである。直接の関係はないが無関係とも言えない。「Mother」は母親に捨てられた怨みを歌った歌だし、「Woman」は母親のような恋人への感謝を捧げた歌である。そこには今よりもずっと激しい男女差別の時代が匂い立つ。それでも・・・子供が母親に求める何かは・・・父親に求める何かとは永遠に違うような気がする。もちろん、そういう意識そのものが男女差別の産物に過ぎないという批判を甘んじて受けるとしても。「Mother」と「Woman」描く世界はジョン・レノンよりもさらに先鋭的でありながら・・・普遍の何かも感じさせるところが素晴らしいと考える。
お母さん 私はあなたのものだったけれど
あなたは私のものではなかった
私はあなたを求めたけれど
あなたは私を求めなかった
お母さん さようなら
家庭を捨てて、植杉健太郎(小林薫)との愛を選択した母親の紗千(田中裕子)を幼い頃から憎んできた小春(満島ひかり)は青柳信(小栗旬)と出会い、結婚して、安らぎを得る。
しかし、青柳信は事故死し・・・小春は幼い娘・望海(須田理央→鈴木梨央)と息子・陸(田中レイ→髙橋來)を抱えて途方に暮れるのだった。
2013年、小春は27歳、望海は6歳、陸は3歳になっていた。
生活保護の給付を受けるための審査の段階で・・・20年間、音信不通だった母親から援助の意志ありと回答された小春は・・・植杉家を訪ね・・・信の死が・・・植杉家からの帰路に起こったことを知り心を乱されるのだった。
身体の不調を感じながら・・・昼はクリーニング工場、夜は居酒屋で働く小春。
ある夜、近所の火事のために・・・部屋に残した子供たちを案じた隣人に通報されてしまう。
調査に訪れた相談所の職員に「育児放棄や児童虐待はどんなに子供を愛する母親にも起こりうる」と説諭される小春だった。
やりきれない気持ちを抱えた小春はかってのシングル・マザー仲間で、今は結婚して田舎暮らしをする由季(臼田あさ美)に子供を預ける決心をする。
由季は9歳の直人(巨勢竜也)と7歳の将人(高田愛斗)を富士山の見える大自然の中で育てているのだった。
「お母さん、100円ショップで花火を売ってるかな」
「どうして?」
「・・・直人くんちは花火をするんだって・・・」
「わかった・・・今度・・・花火しようね」
田舎へ向かう電車の中でまどろんだ小春は信の夢を見るのだった。
幼い望海は信の背中でうたた寝をしている。
「小春・・・お願いがあるんだ」
「・・・なによ」
「僕のことをできれば忘れないでほしい」
「なにを言ってるの・・・?」
微笑む信。
目覚めれば信はいないのである。
初めて別れて暮らす小春と望海。
小春は心配で夜毎に電話をかける。
しかし・・・望海は母親に心配をかけまいと淋しい気持ちを隠すのだった。
「お母さん・・・あのね」
「何・・・」
「トイレがね・・・」
「うん」
「お尻を洗ってくれるの・・・」
「そうなんだ」
戸川純が「お尻だって洗ってほしい」(1982年)と訴えてから30年が過ぎているのに望海とともに小春はまだそれを未体験なのかもしれない。
小春は自分に妹がいることを知らない。
しかし、異父妹の植杉栞(二階堂ふみ)は姉とその家族に何故か重大な関心を寄せているのだった。
美術大学進学のために予備校に通う栞はデッサンを塗りつぶすほどの鬱屈を抱えている。
バレエスクールを熱心に見つめる望海を見かけた栞は・・・「梨」の絵を拾って保管していた御礼を口実に望海をファースト・フード店に誘ったりもする。
「バレエが好きなの?」
「バレリーナの絵を描いていただけなの」
バレエスクールが経済的に無理なことを理解している望海だった。
「絵が下手ですね」
「お姉ちゃんは・・・上手だね」
「・・・」
「遺伝?」
「遺伝って」
「望海が左利きなのはお父さんの遺伝なの」
「お父さん・・・」
「望海のお父さんだよ」
「お父さん・・・いないですよね・・・電車の事故で亡くなったんですよね」
「いるよ・・・いつも望海を見ているの」
鬱屈した笑顔を浮かべる栞は何か秘密を抱えているらしい。
離れ離れになった母と娘の日々は淡々と過ぎていく。
その間も・・・小春の体調不良は続くのだった。
夢の中で幼い望海は泣いている。
それを宥める在りし日の信。
「お父さんは・・・一生・・・望海を守ってやるから」
「本当・・・?」
目覚めれば信はいないのである。
いてくれればいいのに・・・いてくれればいいのに・・・と何度も思う小春だった。
子供たちのいない生活はわびしさを増す。
病院からは再検査の通知が届く。
小春が受診した病院の医師・砂川藍子(谷村美月)と・・・小春が生活保護を申請した役所の係員・砂川良祐(三浦貴大)は夫婦だった。
一人息子の舜祐(庵原匠悟)がいるが・・・夫婦仲は良好とは言えない。
研修医として疲労しているのか・・・家庭のことに手が回らない藍子を「母親のくせに・・・」と詰る良祐。
二人ともが・・・それぞれになんらかの鬱屈を抱えている気配である。
そういう重い気持ちを抱えた良祐は・・・偶然、マーケットであった・・・小春に不用意な発言をしてしまう。
525円のワインから目をそらした小春は315円のワインをふと手にとる。
「子供を他人に預けて・・・ワインですか」
ワインを戻して立ち去る小春を追いかける良祐。
「あの・・・すいません・・・変なことを言って・・・」
良祐は購入したワインを手渡そうとするが拒絶する小春。
「関係ありませんから・・・」
「でも・・・なんか・・・ひどいことを言ったみたいな感じで・・・」
揉み合ううちに落ちて割れるワインのボトル。
「ごめんなさい」
欠片を拾い合う二人。
「母親失格ですよね」
「すみません・・・その深い意味はなかったんです・・・」
「飲もうとしたんです・・・子供を預けて・・・本でも読みながらワインでも・・・飲もうかなって」
「・・・」
そこで良祐の携帯がメールを受診する。
【でていきます・・・舜祐をよろしくお願いします・・・藍子】
茫然とする良祐だった。
その夜・・・由季の家では花火を楽しんでいた。
母親との約束が気になり逡巡する望海だったが・・・花火の美しさについ見とれるのだった。
翌日・・・小春は再検査のために病院を訪れていた。
採血の後の注射痕に目を止める医師の澤村友吾(高橋一生)・・・。
その机に置かれた「白血病」関連の書籍が小春に不安な気持ちを抱かせる。
「その痣はどうしましたか・・・」
澤村は小春も気がつかなかった痣に目を向ける。
「さあ・・・仕事先で・・・ぶつけたのかな」
「そうですか・・・」
少なくともお茶の間は・・・小春が再生不良性貧血の疑いがあることを感じるのだった。
その頃、望海は何故か・・・帽子の裏に入っていたガムのために・・・髪の毛を切る事態に陥っていた。
もちろん・・・異物に対する子供たちの意地悪であることは間違いない。
由季は優しく髪の毛を切るが・・・望海は罰を感じていた。
母との約束を破り・・・花火を楽しんだ罰である。
悪戯をした子供たちを叱った由希は望海が陸を連れて家出をしたことを知り愕然とするのだった。
望海はただ・・・母親に会って謝罪がしたかったのだった。
あわてて・・・車で後を追う由希。
落しものを拾おうとホームに取り残された陸は確保するが・・・望海は電車に乗っていってしまう。
電車は大月駅が終点だった。中央本線と富士急行の接続駅である。
電車を乗り換えることを思い出した望海は困惑するが・・・母親に連絡するために公衆電話に向かう。
しかし・・・病院にいる小春は携帯電話の電源を切っていた。
(ただ今、電話に出ることができません、留守番電話サービスにおつなぎします)
望海は母が電話に出ないということを知らなかった。
間違ってしまったと考えた望海は何度も電話をかけなおし・・・ついに最後の十円を残すのみとなってしまう。
そこで・・・最後の十円を・・・「まどいせん」の意味を教えてくれたナマケモノへの電話に切り替える望海。
電話を取ったのは栞だった。
受診料の2360円を痛みを感じながら支払った小春は由希からの電話に応じる。
「ごめんなさい・・・望海ちゃんが・・・今、終点の大月駅に連絡してもらっているの」
「大丈夫よ・・・望海はしっかりした子供だから・・・」
小春は遠き山に日が落ちる頃・・・大月駅に到着する。
望海を発見し・・・安堵の涙を流す小春。泣きじゃくる望海。
「ごめんなさい・・・お母さん・・・私、お母さんと約束したのに・・・花火をしてしまった」
「いいのよ・・・そんなことはいいの・・・」
「私がいなくて・・・さびしかった?」
「さびしかったよ・・・」
「もう・・・大丈夫だよ」
私の人生はあなたの手の中だ
だから私を大切に思ってほしい
私たちは離れられない
運命がそう決まっているのだから
だから何度でも何度でも何度でも言う
永遠にあなたを愛すると
ふと・・・小春は黒いワンピースの少女に気がつく。
四年ぶりに電車に乗った少女は震えていた。
「あなたは・・・」
「植杉栞です・・・お姉ちゃん」
その頃・・・二人の母親である紗千は・・・栞の部屋で・・・信の似顔絵と古い新聞記事を発見する。
「痴漢の男性・・・事故死」
そこには・・・女子高校生への痴漢の疑いのある男性会社員・青柳信が轢死したことを伝える小さな記事が載っている。
関連するキッドのブログ→第1話のレビュー
シナリオに沿ったレビューをお望みの方はコチラへ→くう様のWoman
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コメント
キッドさまこんにちは。
ビートルズの歌にはときどき母親を見失ってさまよう寄る辺なき子供、のような歌詞があるのですよね
(あまりよく知らないのですが)
花火って危ないというノゾミは、ホントはしたいけど
お金いるし、こういうとお母さんが喜ぶだろうと思って
子供ながらに気を使って言ってる感を感じました。
ワイン、315円とか書いてありませんでしたっけ。
超安い。小春が母親じゃなかったら、「どうせなら
もっといいの飲みなよ」くらいは言ってやってるくらいの品物で。
それでも迷いながら買おうかなというシーン、
母親になったとたんに違うという人々の意識を
写そうとする脚本の頑張りを感じました。
予告で男の犠牲になる人のことを母親という、と
セリフが出てきましたが、子供のほうから見ても、
母親というだけで、母親なんだから子供の私のこと
わかってくれてもいいじゃないの、もっと
こうしてくれてもいいじゃない、とか、母親のほうに
文句や要求を集中させちゃうなあと思いました。
愛着や甘えを根本に。
辛い展開ですがきっとまた見ちゃいます。
口直しに孤独のグルメを勧められて見てみました。
今週はフルーツサンドが美味しそうでした。
猛暑なのでキッドさまもクリームたっぷりフルーツサンドみたいな
滋養たっぷりなものをとってご自愛くださいませ。
投稿: りんごあめ | 2013年7月11日 (木) 18時19分
◉☮◉Mother~リンゴあめ様、いらっしゃいませ~Mother◉☮◉
基本的には両親から里子に出された
ジョン・レノンが「それ」について醸しだす詩心が
あるのですな。
「Mother」は最もストレートな歌。
で「Woman」は二番目の妻であるオノ・ヨーコに捧げた歌なのですが・・・オノ・ヨーコにジョンは母性を感じていたと言われています。
つまり・・・現在なら「私はあなたのママじゃない」と言われそうなところを・・・「だって男の子はいつまでたっても子供なのさ」と開き直っているみたいな・・・。
そしてヨーコはそれでいい・・・みたいな。
まあ、ジョン・レノンだから許される世界なのですな。
育児放棄の気配のある砂川家は
「女=母みたいなことを許さない」姿勢が仄かにありますな。
フィギュアスケートのマドンナを見ても分かるように
「母親」はこうあるべきとか
「母子」はこうあるべきとか
そういう無言の圧力を押しつける世間というものは
あるのですな。
まあ、悪魔はそういう良識のようなものには
まったく興味がないのですが・・・
世界の秩序を維持するためには
仕方のない部分もあるわけですな。
ダメな母親を許したら
がんばっている母親の立場がないみたいな・・・
まあ、早い話が嫉妬が根底にある嫌な話ですけれどもね。
525円は最初に小春の視線が行くワインなんですよ。
そこでは目もくれないのですが
315円のワイン・・・を手にとってしまう。
この210円の差額が・・・哀愁なのですねえ。
キッドはあえて525円の方をタイトル化いたしました。
飲酒の問題はまた別のカテゴリーも含んでいる。
つまり
「飲まなきゃいい人」問題ですな。
飲んで悪い事をしてしまう人は多いわけです。
「幼児虐待」をしなかった人が
飲酒によってそれを行うケースは当然あるわけです。
そういう困った人はキッドの友人にも多いですからな。
ここでは貧困と幸福の問題もからみあっています。
100円ショップの花火さえ・・・今度と
子供に我慢させておいて
母親がワインを飲んでいいのか・・・っていう意識ですよね。
そういう一線の引き方は実に難しいわけです。
自由という感覚が介入してくる。
たとえば宗教とかねえ。
親の宗教を子供に伝えるのが
正しいのか悪いのか実にナイーブな問題でございます。
まあ・・・産んでしまった親と
生まれてきた子供というのは
感覚的に責任の重さが違う。
しかし・・・いつか子供も親になる。
ここが醍醐味なんですよねえ。
まあ・・・悪魔は
子捨て親殺しが当たり前の修羅の道にいるので
これについてはなんとも言えないのですなあ。
しかし・・・このドラマの美しさを感じることはできるのです。
まあ・・・こういうドラマが
辛いというのはきっと純情ということなのでしょうね。
欲望に忠実な番組は確かに心が休まるのかもしれませんな。
キッドはダイエットにとっては天敵にも思えますけれど~。
夏になると・・・ついトウモロコシを食べ過ぎて
しまうんですよね。
一日三本くらい食べてしまう。
その上で枝豆とか西瓜とか・・・。アイスクリームとか。
危険があぶないのでございますよ~。
投稿: キッド | 2013年7月11日 (木) 19時31分
号泣ロケット第一段…広告の品のワイン(と、お詫びワインの押しつけと割れ)
号泣ロケット第二段…ガムと「5センチ、超5センチ!」
号泣ロケット第三段…なぜログハウスを飛び出したかの謎が「おかあさんと花火をする約束がかなう前に母不在のまま花火をさせられてしまったから」
最後のこれが一番アカン…また泣けてきました。
投稿: 幻灯機 | 2013年7月13日 (土) 13時24分
✪マジックランタン✪~幻灯機様、いらっしゃいませ~✪マジックランタン✪
悪魔の涙腺は荒野の砂漠ほどにも乾いているのですが
それでも・・・再現性高めと戦いつつ
ふと・・・こみあげてくるものがある。
女を描かれば描かれるほど男を泣かせるドラマなんじゃないかと
思いますな。
みんな・・・気が強いのか弱いのかわからない・・・
それぞれの譲れない一線を必死で守っている
してはいけないことをついしてしまい
それを悔しく思いつつ
なんとかとりつくろうとしてあがく。
そういう繊細さがたまりませんな。
私・・・髪をきりました
肩までのびた髪だったけれど・・・
ママからもらったこの髪を
うっかり汚してしまったこの私
ママではないおばさんに
仕方なく髪を切らせるこの私
こんな私をママは
許してくれますか
許してくれればくれるほど
悲しい気持ちになるのです・・・
艶歌です・・・怨歌です・・・焔歌です
投稿: キッド | 2013年7月13日 (土) 16時30分