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2013年7月31日 (水)

天空のモールス信号系交信器起動中・・・スターマン応答せよ(有村架純)

電信器による発信で・・・トン(短点)・ツー(長点)の二種類の長さで特定の文字を示すのがモールス信号である。

トントントンツーツーツートントントンでSOSになる。

これを受信してサンダーバードは出動するのだ。

いわゆるひとつの救難信号である。

無線電話の場合は「メーデー、メーデー」ということになる。

今は、電信的な救難信号がかなり廃れていることは言うまでもない。

携帯電話で「助けて~」と言った方が早いからである。

いかにも「モールス信号」的装置で・・・あいうえお五十音対応表的に宇宙人と交信するという発想はもちろん荒唐無稽なのであるが・・・宇宙人の超文明的、超解読力によればあながち交信は不可能ではないと思われる。

とにかく・・・通信販売で購入した「商品」で一人部屋で美少女が宇宙人との交信を試みるというのはそれだけで超がばい感じで大爆笑なのであるが・・・さらに宇宙人がそれに反応しちゃうとなると超々がばい感じである。

で、『スターマン・この星の・第4回』(フジテレビ20130730PM10~)脚本・岡田惠和、演出・堤幸彦を見た。やはり・・・このドラマの中では最後に富士山が噴火しそうな気がしてならない。さて、脚本家的には・・・「泣くな、はらちゃん」からここである。「はらちゃん」は荒唐無稽を極めた傑作であるが、「ちゅらさん」や「おひさま」も書く作家なのでそこには落差が生じている。ある意味では「おひさま」「最後から二番目の恋」でたまりにたまった鬱屈が噴火したのが「はらちゃん」だったと言えるのではないか。そういう意味で「スターマン」は「はらちゃん」寄りでありながら・・・どこか「日常」への回帰みたいなニュアンスが漂っている。漫画から「彼氏」が飛び出してくるより、拾った異星人を「パパ」にしてしまうことの方が現実的だからである。そういう意味で物足りない感じもするが・・・「はらちゃん」ばかり書いているわけにもいかないもんな。バカだと思われちゃうかもしれないもんなあ。そんなことを妄想する今日この頃である。

そういうわけで妙に現実的に離婚による不倫関係の解消などが行われる今回なのだった。

失踪中の夫・光一(安田顕)が現れて戸惑う佐和子(広末涼子)だった。

星男(福士蒼汰)との関係は法律的には不倫になるし、恐ろしいことに光一に対して未練がないわけではないのである。

そうした佐和子の心理を見抜いたように佐和子にもたれかかってくるダメ男・光一だった。

すでに・・・子供たちに会ってきたという光一に対し・・・星男を「スナックスター」のママで親友の節(小池栄子)に預けると光一を連れて帰宅する佐和子だった。

超人的なパワーを発揮した星男の正体よりは・・・家庭の事情を優先させる人々だった。

林業関係者だったらしい富山(村松利史)たちも星男の就業を期待するばかりなのである。

残された星男に問いかける節。

「ねえ・・・どうする・・・なんだったら・・・私のところに・・・」

「俺は・・・佐和がいい・・・」

「そっかあ・・・じゃあ・・・いっといで・・・佐和を守ってあげな」

「はい」

高速移動する星男だった。

その頃・・・光一は「嫌な感じ」を子供たちの前で爆発させていた。

父親の記憶のある大(大西流星)や秀(黒田博之)の心は揺れまくるのだった。

なにより・・・光一に未練のある佐和子の心は揺れまくるのであった。

すべてを見抜く超能力者のような祖母の美代(吉行和子)は「子供をダシに使うのはおやめ・・・」と言いながら・・・子供たちを別室に誘導する。

帰宅した星男と新旧夫対決モードに・・・。

佐和子との性生活に言及する光一に佐和子は「前はただのダメ男だったのに・・・嫌なダメ男になった」と精一杯の抵抗をするのだった。

しかし・・・美代は「わざと嫌な感じを装っている」と看破するのだった。

「さすがだねえ・・・美代さん」と観念した光一は離婚届を取り出すのだった。

未練たっぷりの佐和子は動揺するが・・・星男の前なのでなんとか虚勢を維持するのだった。

光一は星男を連れ出す。

「佐和子たちのことをよろしくお願いします」と頼む光一。

外には・・・光一の新しい愛人であるいかにも外国人風な女が待っていたのだった。

「こわい女から逃げてもっとこわい女につかまっちゃった」

光一はそう言い残すと・・・女と夜の闇に消えていくのだった。

そして・・・その夜・・・佐和子は光一と肉体的に結ばれるのだった。

一夜明けて・・・子供たちを起こしに行く星男。

俊(五十嵐陽向)は実の父親に何の思い入れもないために「パパ」と言って星男に抱きつくのだった。離婚歴のある父親がお茶の間から泣きながら飛び出す展開だった。

まだわだかまりの残る大に「パパがいやなら・・・兄ちゃんでもいいぞ」と言う星男。

本当は星男が好きになりかけている大は嫌々を装いながら頷くのだった。

嵐の後の一家団欒に思わず泣き出す佐和子だった。

「幸せすぎて・・・こわいんだ」と言う佐和子。

「大丈夫だ」と安請け合いをする星男だった。

様子を見に来た節はうらやましくて泣きそうになるのだった。

帰り道に偶然出会った常連客の幸平(KENCHI)になびきそうになるが・・・間一髪、正気を取り戻す節である。

だれかいますか 

だれかいますか 

だれかいますか 

だれかいますか 

生きていますか 

聞こえていますか

送ってみる 

あてのない呼びかけを

自宅に引きこもった臼井祥子(有村架純)は怪しい通信販売で購入した宇宙交信器で・・・宇宙人たちに呼びかける。

(ム・カ・エ・ニ・キ・テ・ハ・ヤ・ク・ム・カ・エ・ニ・キ・テ・・・・)

何故か・・・誰かに呼びかけられているような気がする星男と重田信三(國村隼)なのだった。

スーパーマーケットやまとで眠たそうな祥子に下世話な関心を向ける佐和子。

なにしろ・・・自分の性生活が充実したので気楽なのである。

「どうしたの・・・眠れないくらいハッスルしちゃった・・・」

「宇宙人と交信してたんです」

絶句する一同の中で信三だけは重大な関心を寄せるのだった。

「宇宙人に・・・なんて・・・」と佐和子は聞いてみた。

「この退屈な町から・・・早く連れ出してって・・・頼んでるんです」

蒼白になる一応交際中の安藤くん(山田裕貴)だった。

「そんな機械・・・どこで手に入れた・・・」という信三。

「通販です・・・」と答える祥子だった。

昼休み・・・携帯で検索してみる信三。

続々とヒットする機種に・・・「こ、こんなに」と驚きを隠せない。

そんな信三を同性愛者と誤解している佐和子は声をかける。

「気持ちはわかりますが・・・彼はあげませんから」

「何を言ってるんだ・・・」

「彼はあなたとは・・・違いますから」

「そんなことはない・・・一緒だ」

「どうして・・・そんなことが分かるんですか」

「わかるさ・・・」

かみ合わない二人の会話だった。

その頃、安藤くんは祥子にすがっていた。

「俺・・・宇宙人にも興味持つようにするから・・・」

「そう・・・ありがとう・・・」

しかし・・・祥子の視線は高く遠い空に向けられている。

何か予感の 不思議な気分

きっときっと 異次元からの

モールス信号

おつかいにきた星男は佐和子の職場に顔を出す。

そこで発作に襲われる星男。

発作が治まるとと・・・心配する佐和子に「お前・・・誰だ・・・」と言い放つ。

別人のように粗暴になった星男は「ここはどこだ・・・お前ら誰だ」と叫ぶ。

生前のタツヤの記憶が一部修復されてしまった模様である。

ひょっとするとタツヤに憑依したのは宇宙生命体ではなく、超文明の有機体修復ナノマシーンなのかもしれない。

混乱した星男は再び発作を起こし気絶する。

倒れそうになる星男を超高速移動で支える信三だった。

唖然とする一同の中で・・・祥子だけが瞳をキラリと輝かせるのだった。

そろそろ・・・荒唐無稽の物語にふさわしい奇想天外な展開が欲しいものである。

関連するキッドのブログ→第3話のレビュー

予告編のキスシーンが気になる方はこちらへ→まこ様のスターマン・この星の恋

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2013年7月30日 (火)

いつかの誰かの感触を忘れさせる水鉄砲(戸田恵梨香)のSUMMER NUDE(山下智久)

東京近郊の架空の海辺の町・・・みさき市。

クレジットによれば撮影協力は南房総市といすみ市になっている。

南房総なら内房線、いすみなら外房線とイメージは分岐していく。

南房総市は館山市とか鴨川市とか・・・東京ローカル的にメジャーな地名と隣接している。

いすみ市は九十九里浜の南端に位置している。

いすみ市は2005年に合併して誕生したのだが・・・合併によって消滅したのが大原町、夷隅町、そして岬町(みさきまち)である。

・・・ということでキッドの中ではみさき市(フィクション)はいすみ市岬町的ポジションにあることになっている。

岬の由来は太東崎である。太東漁港があって太東埼灯台があって太東海水浴場がある。

太東地区では甘みのあるキャベツの栽培が特色の一つになっている。

キャベツといえばキッドの中では回鍋肉だが・・・海の家的には「ヤキソバ」であろう。

いすみ市岬町的みさき市(フィクション)の「ヤキソバ」が突然、リアルになってくるわけである。

フィクションの世界を作るために・・・ドラマ「SUMMER NUDE」の世界ではみさき駅(フィクション)があり、みさき海岸(フィクション)があり、みさき市市営バス(フィクション)が巡回している。

それなりに手間暇かかっているのである。

しかし・・・「あまちゃん」の世界では岩手県久慈市的な北三陸市(フィクション)が・・・それだけにとどまらないのだ。それは多くのドラマファンの実感だろうからあえて説明はしない。

別にそんなものはなくても・・・ドラマは進行していくのだが・・・いすみの市岬町的なキャベツが海の家「レストラン青山」とリンクするともっと楽しいのになあと思う。

このあたりは漁協別の水揚げ量で言うと「イセエビ」が日本一なのである。

ヒロインがイセエビを使った「豪華すぎる海の家」のメニューを作ったりするといいのになあ・・・と考えます。

で、『SUMMER NUDE・第4回』(フジテレビ20130729PM9~)脚本・金子茂樹、演出・宮木正悟を見た。もちろん、フィクションである以上、絵空事に徹するという手法もあるわけである。ここは実に微妙なところなんだな。だって・・・地元の写真館の専属カメラマンの主人公・三厨朝日(山下智久)で消息不明の恋人・香澄(長澤まさみ)なのである。朝日にずっと片思いの後輩が波奈江(戸田恵梨香)でその弟・駿(佐藤勝利)だ。ひと夏限りの約束で海の家の臨時店長になるのが夏希(香里奈)・・・朝日の親友・タカシ(勝地涼)・・・波奈江に片思いするヒカル(窪田正孝)・・・通りすがりの恋人たちまで春夫(千葉雄大)と清子(橋本奈々未)だし、これに加えてモデル志望の帰国子女・あおい(山本美月)とか写真館のアルバイト・麻美(中条あやみ)までが配置されている。・・・フィクションにも程があるのである。美男美女過ぎて・・・息苦しいんじゃないか・・・。

今回なんか・・・ゲスト母子が・・・母(奥田恵梨華)で息子(スマートさん)である。

スケバン欧愛留(サラリーマンNEO)の最後の一人、ルイ子(奥田)がここに来たのは想定外でちょっと笑ったが・・・それしか説明しないのかよ・・・息子はスマートさん(秋元黎)ではなくて、イノさん(青木勁都)とは言わないがナベさん(鏑木海智)でもよかったのではないかと思う・・・誰が「コドモ警察」の話をしろと言った・・・それに「八重の桜」にナベさん出てたぞ。

ま・・・いいか・・・夢のようなひと夏のラブ・ストーリーなんだから・・・。

すべての人々が美しすぎても・・・。

いかにもなオーシャン・ビューでいかにもなファションを身に付けた波奈江。

「もっと・・・自然に・・・もっと自然に笑って・・・もっと肩の力抜いて・・・顔を歪めないで・・・し・・・しぜん・・・ひょっとこかっ」

「ひど~い」

「あのな・・・もう少し・・・いつものお前でいいんじやないか」

「え~・・・せっかく撮ってもらえるのに・・・」

「いつもの・・・お前がいいんだよ・・・」

「いたっ・・・」

「どうした・・・」

「ハートに矢が刺さったあ・・・」

結局、町に戻ってきた二人。

二人の母校である高校のグラウンドでバットを持ってバッターものまねを披露する波奈江だった。

「サミー・ソーサ(60本塁打以上を、MLB史上最多の3度記録しているホームラン・バッター)・・・からの・・・・落合博満(日本プロ野球史上唯一となる、三度の三冠王を達成したホームランバッター)・・・からの三厨朝日~」

「なんで・・・俺だけ・・・バントなんだよ」

「だって・・・高校時代・・・最後の試合の最後の打席・・・送りバントだったでしょ~」

「う・・・古傷をナイフでえぐられた・・・」

←←←←←(時間を巻戻し)←←←←←

「九回裏・・・得点は1対0・・・一死ランナーは一塁・・・バッターは三厨くん。カウントはワンストライクワンボール・・・ピッチャー振りかぶって投げた・・・バントした・・・これはちょっと強いか・・・二塁アウト・・・一塁もアウト・・・ダブル・プレーだ・・・試合終了だ・・・みさき東高校の夏が終わりました・・・」

→→→→→(時間を早送り)→→→→→

ずっと朝日を見て来た波奈江・・・それを感じる朝日だった。

ヒカルの実家の鮮魚店にやってきた二人。

新鮮な真鯛を持ってポーズをする波奈江。

「お刺身にしたら・・・さぞや・・・ですな」

「いいね・・・いいよう」

「私もまだまだ・・・新鮮なんですけどな」

「・・・」

そこへ・・・ヒカルが通りかかる。

「私だってピチピチだよね」

同意を求める波奈江にポーカーフェイスを装って・・・「それ・・・ちゃんと買い取ってよ」と嫌味を言うヒカルだった。

「なによ・・・もう・・・」とお茶の間は全員気が付いているヒカルの心を知らぬ波奈江だった。

結局・・・「いつもの波奈江」の写真は朝日のカメラマンとしての心をそれなりにニヤニヤさせる仕上がりだった。

一人、作品をチェックする朝日の自宅にタカシがやってくる。

「そのニヤニヤは・・・なんか・・・してたのかな」

「してねえよ」

「またまた・・・ま・・・いいか」

「なにしにきたんだよ」

「夏本番だからさ・・・今年の抱負を聞いてもらおうと思ってさ」

「なんの抱負だよ」

「今年こそ・・・男になりたいんだ・・・なにしろ・・・夏希さんもいるしさ・・・あおいちゃんもいるし・・・いざとなったら波奈江もいるし・・・」

「いざとなったらってなんだよ」

「だって・・・お前が相手にしないからさ」

「いつの話してんだよ・・・」

「いつの話って・・・・ええーっ、なにそれ・・・波奈江の相手するのかよっ」

「しちゃ・・・悪いのかよ」

「いや・・・いいさ・・・いいに決まってる」

夏希は「ヤキソバ」を焼きまくる。

客はあおいである。

「どうなの・・・モデルの仕事は・・・」

「仕事どころか・・・事務所にも入れません」

「脱がないんだもんね」

「ここでバイトしようかな・・・」

「それは無理・・・バイトなんて雇う余裕ないもん」

「バイト雇う余裕のない海の家ってそもそもやっていけるんですか」

「脚本家的にはそうみたいだよ~・・・でもとなりはバイト募集中みたい」

「わ~い」

仕上がった写真に満足した波奈江は勢津子(板谷由夏)に自慢するのだった。

「駄目だね」

「なんで・・・」

「こんなんで満足してる場合じゃないってこと」

「よ、予言ですか」

「いいかな・・・朝日はいままで香澄ちゃんという名の檻に入っていたライオンなのよ。たしかに・・・あんたは檻の鍵をあけたかもしれないけど・・・自由になった以上・・・ライオンは狩りに出るからね」

「私・・・狩られたい」

「他の女を狩っちゃうかもよ」

「え~・・・私、そんなに美味くなさそうなんですか~」

タカシはヒカルを訪ねていた。

「事件だよ・・・」

「なんですか・・・」

「朝日が波奈江に食欲を感じたみたいなんだ・・・」

「それ・・・波奈江は知っているんですか」

「いや・・・どうかな・・・でも波奈江はずーっと据え膳状態なんだから・・・もうセイコーしたのも同然なんじゃないの」

「セイコーって」

「いや・・・あくまで大成功の方ね・・・譲れない一線ね」

唇をかみしめるヒカルだった。

朝日は時の流れを感じ始めていた。

波奈江の笑顔をうれしく感じる。

そして「ヤキソバ」が美味しいのだった。

世界が夏の光に包まれているのに気がつくのだった。

「波奈江の写真、撮ったんだってね」

「うん」

「よくやった・・・」

「でもなあ・・・今更なんだよな」

「なによ」

「だって・・・ずっと一緒にいたから」

「もう・・・酔った勢いでやるしかないね」

「マジがばいね」

「超がばいよ」

「あのさ・・・俺は・・・勢津子さんのヤキソバが世界で一番美味いって思ってた」

「え」

「でも・・・このヤキソバの方が美味い」

「なに、いっちゃてんの」

「はい、650円」

「毎度・・・」

去っていく朝日の後ろ姿と料金を交互に見て・・・夏希はこみ上げてくる嬉しさに驚いた。

朝日の心の中では「香澄と過ごした日々」が急速に遠ざかっていく。

知りあって一年。別れて三年。何もかもが過ぎ去ったことだと朝日は漸く納得したらしい。

そして・・・その心はゆっくりと波奈江に向かって行く途中なのだ。

「今・・・なにしてんの」

「なんにも」

「もし・・・港区にいるんなら飲もうかなって思ったんだけど」

「いく・・・すぐにいく」

「ああ・・・そんなに無理しなくていいよ」

「ちっとも無理じゃないんですけど」

「また・・・誘うから」

「そう・・・」

相手が近すぎて恥じらう朝日。

そして・・・優しい言葉で満足できる波奈江。

じれったい二人なのだった。

もちろん・・・恋愛ドラマの達人たちはそろそろ・・・夏希が助走に入っていることを感じるしかないのだった。

早速、となりの海の家で働き始めるあおい。

東京スーパーモデルコンテストの初代クイーンにはなんの責任もないのだが・・・やはり荷が重いと感じるのはキッドだけではないと思う。

この役は・・・かなり難しい役なのである。

なにしろ・・・ある意味、長澤まさみのポジションで・・・コミカルでなければならず・・・圧倒的な存在感も要求される。

最初の客である春夫にちょっかいを出して、清子の嫉妬を誘い・・・二人の運命を壊しにかかるわけだが・・・それを「暗示」として感じさせる力はまだないと考える。

まあ・・・なんだって助走期間は必要だからな。

しかし・・・ここで「笑い」をとれないと・・・本当に息つく暇がない感じのドラマになってしまうのだった。

だから・・・もう誰もかれもが美人すぎるんだよ~。

そして、濱田岳や浅利陽介と勝地涼は違うんだよお。

とにかく・・・ここからは夢の国にやってくる夢の旅人の物語が挿入されるのだった。

その前に「プロポーズ大作戦」直後の脚本家の作品に言及しておこう。

ハチミツとクローバー」(2008年)である。原作ものだが・・・片思いの連鎖で綴るラブ・ストーリーで平均視聴率*8.9%である。この時も生田斗真、向井理、成宮寛貴とイケメンを揃えてました。懲りないのか、懲りない人なのかっ。

で、ヒロインに片思いの生田斗真的ポジションなのがヒカルである。

ヒカルの過去は断片的だが・・・波奈江の一つ年上の幼馴染であることは確実で・・・それこそ何十年も片思いをしていると考えられる。元野球部で現在カメラマンという文武両道な朝日は実はガキ大将的キャラらしいのだが・・・その影に隠れ・・・ひっそりと波奈江を思い続けて来た映画研究会出身の青白きインテリ・・・しかも、波奈江と離れたくない一心で東京に出ていかなかった超後ろ向きキャラクターである。

そんなヒカルはカフェ&バー「港区」の店長・賢二(高橋克典)に「いつまでもやらないわけじゃない」宣言をするのだったが・・・力ためすぎですからああああっ。

しかも・・・朝日が「48時間」を返却したために・・・波奈江がチェックしに来なくなったので・・・レンタルビデオ店のアルバイトをやめてしまうという・・・超後ずさり的アクションなのだった。

小南写真館に両親とスマートさんの三人家族が訪れていた。

「旅行の記念に・・・家族写真をお願いしたいのです・・・うっ」とすで何故か、涙目のスマートさんの母。

理由ありを察して、小南館長は朝日を指名するのだった。

「・・・というわけで・・・よろしくね」

「了解です」

レストラン青山では例によって夏希を口説くタカシだった。

「どうして・・・俺にだけよそよそしいのかな」

「そんなことないですよ」

「丁寧語だしね・・・俺にだけですます調だしね」

「気の所為じゃありませんか」

「どうみてもフランクじゃないよね」

「ち、うっせえな」

「あ・・・通り越したよね・・・なんか今、快速通過したよね」

海岸では理由ありの家族写真に挑戦する朝日。

「海ははじめてなんだって」

「・・・」

「どうかな・・・」

「まあまあかな」

「この子・・・口が悪くて・・・まあまあってことは気に入ったという意味なんです・・・うっ」

「・・・とにかく・・・もう少ししたらお昼にしましょう・・・スマートくんは何が好き?」

「オムライス・・・子供向けじゃないやつね」

「・・・わかった・・・とびっきりのオムライスを御馳走するよ」

「ありがとうございます・・・うっ」

「レストラン青山」で夏希に頼る朝日だった。

「この店、オムライスはないんですけどね」

「でも・・・とびっきりのオムライスできるでしょ・・・ねえ?」

このドラマでは朝日の頼みごとは誰も断れないというルールがあります。

「できるわよっ・・」

仕方なしに黄緑野菜たっぷりの富士山噴火形オムライスを完成させる夏希だった。

「世界遺産登録記念ね・・・」

「ここからは富士山見えないけどな」

「どうかな・・・」

「まあまあかな」

「うまいって・・・この子・・・まずいものは食べない子なんですよ・・・う」

「しかし・・・わがままなお子さんですな・・・」

その言葉にそっと朝日を連れ出すスマートさんの母だった。

「実は・・・・うっ・・・あの子・・・・大きい手術を・・・控えているんです・・・うっ」

「う・・・それはもしかして・・・失敗したら命の保証はない系ですか・・・」

「うっ・・・そんなんです・・・だから・・・いい思い出を作ってあげたくて・・・うっ」

「う・・・もしかして・・・海で泳いだりするのもNG系ですか・・・」

「うっ・・・そうなんです・・・」

「う・・・じゃ・・・なんで・・・海に・・・」

「うっ・・・海も見ないで・・・逝ったりしたらと思うと・・・うっ」

「う・・・それもそうですね」

「本当は・・・砂浜を駆け回りたい年頃なんですよ・・・うっ」

「う・・・わかりました・・・なんとかします・・・素敵な思い出作りますよ」

その夜・・・「港区」に仲間たちを召集する朝日だった。

「なんすか、なんすか・・・」

「実はね・・・」

「う」

「で・・・なんか・・・楽しい思い出作りのアイディアないかなって思って」

「ノープランかよっ」

「花火」「バーベキュー」「落とし穴」「ダメだろ・・・」「落す方なら」「いい思い出か」「スイカ割り」「ビーチバレー」「ビーチサッカー」「ビーチ野球」「運動する方に行ってますけど」「ビーチ眼鏡捜し」

「ビーチ眼鏡捜しって何よ」

「ヒカルの眼鏡を砂浜に埋めて捜すゲームさ」

「いじめじゃないの」

「でも勢津子さんがなくしたサングラスを発見したりして盛り上がったよな」

「そうだよね~」

楽しそうな夏の思い出を語る地元の仲間たちに夏希は少し疎外感を感じるのだった。

「どうしたの・・・」とちょっと気にする波奈江だった。

「なんか・・・仲いいなあ・・・と思って・・・あの人ってリーダー・タイプだったんだね」

「そうだよ・・・昔は・・・ああ、四年前まではね」

「戻ったんだね」

「うん・・・みんな夏希のおかげだよ」

「なにしろ・・・私はクロマティー(読売ジャイアンツの助っ人外国人選手・.378の球団歴代最高打率を残す)だからね」

「うかつにその名前を出すと訴えられるからほどほどにね」

結局・・・朝日の発案で「ビーチ・水鉄砲・サバイバルゲームごっこ」の開催が決定するのだった。

あくまでごっこなので・・・スマートさんに喜んでもらうゲームである。

しかし・・・海辺の水鉄砲には悪魔的魅力があるのでそれなりにのめりこむメンバーだった。

ちなみにタカシの会社勤務はどうしたとか・・・ヤキソバは誰が焼くんだとか・・・プライベートビーチなのかとか・・・そういう疑問はけして持ってはいけない。

しかし・・・震災後の放射能汚染疑惑で・・・太平洋岸の海岸はそれなりにイモ洗いではなくなっているという噂や、湘南と違って千葉の海はすいてるときはすいてるよね~という憶測はある。

しかし、浮かれて騒ぐ大人たちを見て、自陣を守るスマートさんはちょっぴり攻撃にも参加したくなったのだった。

「俺も・・・攻めたい~」

「だめよ~、走っちゃだめ~・・・うっ」とスマートさんの母。

「大丈夫です」とスマートさんを肩車する朝日だった。

戦闘モードになったスマートさんは敵を虐殺するのだった。

ここで・・・夏希は半端ない死に様の上手さを発揮します。

こういうのって成りきって楽しめるかどうかだもんねえ。

ある意味、それがドラマの基本なんだもんねえ。

勝利を示す圧縮空気のロケットが虚空高く討ちあがり、スマートさんチームは大勝利となるのだった。

もちろん、頂点を極めたロケットが落下して行くのはいわゆる一つの暗示である。

それがスマートさんの人生なのか・・・波奈江と朝日の恋愛なのかは別として。あるいは潜伏中の真のヒロインの我慢の限界かもしれない。真のヒロインが夏希なのか香澄なのか、はたまたあおいなのかは謎である。

勝利を祝ってお互いを射殺しあう朝日と波奈江。

その仲睦まじい姿をせつなく見つめるタカシ。

そして・・・うらやましげな・・・夏希だった。

夏希の参戦旗が掲揚されました。

ついでに・・・せつないタカシを見つめるあおいである。

ほら・・・やっぱり、なんていうか・・・酒井若菜とか、木南晴夏とか、仲里依紗とか・・・その手の人のポジションなんだよな・・・なんだったらローラとか板野友美でもいいくらいだっ。

スーパーモデルが売れないモデルをやるなんていうレベルでは笑えないんだよっ。

でも、キャスティングされてしまった以上がんばるしかないよね。

楽しくてすっかり朝日になついてしまうスマートさんだった。

「今夜は朝日と一緒に寝る」宣言である。

「別にいいですよ・・・」

「そうですか・・・うっ」

家族の思い出作り・・・台無しである。

朝日に協力できたことでご満悦の波奈江はヒカルと家路に着く。

「スマートさん楽しそうだったね」

「お前が一番はしゃいでいたんじゃないの」

「だって朝日とこんなに盛り上がるのって・・・四年ぶりだもん」

「・・・」

「昔はいつも・・・毎日がこんな風に楽しかったよね」

「あいつが・・・いるからか」

「みんなそうでしょ・・・朝日がいるだけで楽しいでしょう」

「バカかっ・・・なわけないだろう」

「だって・・・なんだかんだ・・・いつも遊びに参加してたじゃない」

「お前だよ」

「え」

「お前がいたからだよ」

「・・・」

「朝日なんてどうでもいいんだ・・・お前がいたから・・・お前と一緒にいたくて・・・なんだよ」

「何言ってんの」

「もう・・・朝日のことを追いかけるの・・・やめてくれよ・・・俺、お前が好きなんだ」

「うそ・・・私のこといつもバカにしてたでしょ」

「なわけないだろう・・・いつもいつもお前を見てたじゃないか」

「全然きがつかなかった・・・ありがとう」

「なんだよ・・・ひどいな」

「ごめんなさい」

「・・・」

数十年の片思いを経て即死のヒカルだった。

勢津子の復帰の時期が迫り、進退問題が生じる夏希。

そこへ・・・朝日から電話がある。

「オムライスの出前を頼みたいんだけど」

「しょうがないなあ」

朝日の頼みは断らないのがみさき市のルールなのである。

スマートさんに大人のオムライスを・・・朝日にヤキソバを作る夏希。

帰ろうとする夏希を引きとめるスマートさん。

「僕・・・本当はこわいんだ・・・えっ」

「そうか・・・俺も手術なんて言われたらこわいよ・・・注射もこわいしな」

「・・・」

「だから・・・こわいのを我慢してるスマートさんは凄いって思うよ・・・」

「・・・」

「そうだ・・・いいことを教えるよ・・・英語で勇敢ってなんていうか知ってる?」

「・・・」

「YOU CANさ」

「だじゃれかよっ」

「YOU CANって どういう意味?」

「だから勇敢って意味だってば」

「子供に嘘を教えるなよ」

「え・・・違うの」

「あ・・・朝日・・・」

川の字で眠る朝日とスマートさんと夏希だった。

「あのさ・・・ありがとうございます」

「オムライスとヤキソバくらいで・・・そんな」

「そうじゃなくて・・・この街に来てくれて・・・そんで・・・あの看板の人のことを・・・のりこえさせてくれて・・・」

「のりこえたんだ・・・」

「もう・・・すべて・・・昔話になったみたいだ」

「そう・・・私もね・・・この街に来てよかったと思っているよ」

「・・・」

「おやすみなさい」

「おやすみ」

その時・・・マナーモードの携帯電話に着信がある。

ヒカルから突然告白されて・・・もやもやした気分を晴らそうとした波奈江は・・・新たなる戦いの始りにうっかり気付かないままなのである。

みさき市営バス乗り場で朝日を待つ・・・波奈江と朝日とスマートさん。

「昨日、お姉ちゃんと朝日と三人で寝たんだ」と天使のスマートさんは汚れを知らない爆弾発言である。

「ちがうよ・・・なんにもないよ・・・出前のついでに添い寝しただけだよ」

「ふふふ・・・そんなこと・・・疑うわけないでしょう」

そこへ朝日が到着する。

「遅いじゃん」

「スマートさんのために・・・神社でおみくじひいてた・・・」

「大大吉って何?」

「スーパーがばいお守りなんだ」

「がばいの」

「がばいがばい」

「なにから・・・なにまで・・・ありがとうございました・・・うっ」

空気のような父親を含めた三人家族は・・・生死を分かつ手術の待つ東京方面へと去って行った。

「じゃ・・・私は店に戻るよ」と去っていく夏希。

二人きりになったところで・・・朝日はおみくじを波奈江に渡すのだった。

「なに・・・これ・・・大吉が五枚・・・ハズレくじ?」

「失礼な・・・吉とか凶とかもありました・・・」

「いくら使ってんのよ」

「経費で落とすから・・・」

「そうなんだ」

「それより・・・今夜・・・看板の前で会ってくれないか」

「え・・・」

ドキドキしながら・・・看板の前へいく波奈江。

男にはありがちなことだが・・・前の女との訣別を言いたがるものなのである。

今の女にとってはどうでもいいか・・・ある意味、悪趣味なことだと思わない男は意外と多いのだった。

「お父さんに頼んでくれ・・・この看板・・・チェンジしてくれって・・・」

「いいの・・・」

「もう・・・俺には必要がないから」

微笑む朝日に思わず抱きつく波奈江だった。

その背中にそっと手を回す朝日。

波奈江はそれだけでもう幸せの絶頂を感じるのである。

大丈夫なのか・・・あるはずのものがない感触に・・・朝日の心は揺れるんじゃないのか。

目を伏せて その髪の毛で その唇で

いつかの誰かの感触を君は思い出してる

そして・・・なぜか・・・あおいを抱きしめるヒカル。

ああ・・・このどうでもいい感じをスタッフの皆さんは感じませんかあああああっ。

それともキッドの心配しすぎなのですかあああああっ。

視聴率は17.4%↘12.8%↘10.8%↗13.4%でちょっと一息つきましたけどおおおおおおっ。

リフレッシュ&ゴー!

関連するキッドのブログ→第三話のレビュー

Sn004 ごっこガーデン、水鉄砲水撃ウォーズ会場。エリずぎゅーんって何の音でしょう?・・・水辺で遊んだ後は看板前セットで前半のクライマックス、昔の彼女の写真の前で抱きしめて~ごっこをプレイするのでス~。ある意味、変態ですよね~、ムフフまこおみくじは吉凶に関わらず神社の所定の場所に結ぶのが基本でしゅ~。お持ち帰りの場合は大切に保管しなければならないのでしゅよ~。それはともかく、ふられロイドと遊びに来たのに~。みなしゃん、エキストラ参加でしゅかあああああっくうホラーがいい・・・ホラがいい・・・法螺貝・・・の夏シャブリ銀のエンゼル 5枚で金のエンゼル 1枚分・・・ああ、玩具の缶詰の神秘・・・ikasama4なにもかもが夏ですな・・・mari明るくなったPちゃま・・・素敵ですねえ・・・これこそ夏に乾杯ですよねえ

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2013年7月29日 (月)

夢うつつ思いも分かず惜しむぞよまことある名は世に残るともでごぜえやす(綾瀬はるか)

寝ても覚めても変わらぬ気持ちでただただ惜しいと思う・・・誠実そのものであったその名は歴史に残るとしても・・・。

和歌に堪能であった松平照姫が会津戦争の責を負って自刃した萱野権兵衛長修に贈った歌と言われる。

大東亜戦争に敗れた東条英機首相を連想させる刑死であった。

「昭和天皇」も「松平容保」も臣下の死を持って永らえたという点では非常に相似的である。

しかし・・・萱野長修の名はいつしか忘れられていると言ってもいいだろう。

東条英機の名もいつしか朽ちていくのだと思われる。

もちろん・・・その名の下には名もなき無数の死者が埋まっているのである。

第二次世界大戦の敗北と会津戦争の敗北は実に似通っている。

会津の兵士たちが下北半島に流刑になったのも・・・シベリア抑留を連想させるのだった。

しかし・・・終戦後に日本国民が不死鳥のように蘇ったように・・・会津藩士とその家族も再生していくのだった。

生きていくものの恐ろしさがここにある。

で、『八重の桜・第30回』(NHK総合20130728PM7~)作・山本むつみ、演出・末永創を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は明治政府による東北諸藩減封・転封一覧表付き、ファン待望の小田隼人・四女・時栄あらため山本時栄の描き下ろしイラスト大公開でお得でございます。ついにキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!! でございましたが・・・あくまでマイペースでお願いします。みねとか咲はこないかあ・・・。

Yaeden030 明治元年(1868年)十月十三日、明治天皇は東京に到着し、江戸城は東京城と改称される。二十二日函館・五稜郭の新政府軍に対し土方歳三らの率いる旧幕府軍が攻撃を開始する。榎本武揚の率いる旧幕府海軍艦隊も合流し、函館府の占拠に一時成功する。明治二年(1869年)三月、操船ミスなどで自滅した旧幕府艦隊は宮古湾の新政府軍艦隊に特攻を試みるがガトリング砲の餌食となって海の藻屑と消える。五月十八日、抗戦を続けていた榎本武揚は降伏し五稜郭は開城された。同日、上総国飯野藩(会津藩とは姻戚関係にある保科家が藩主)下屋敷にて会津藩家老・萱野長修は自刃による刑死を遂げる。これによって戊辰戦争は終結した。会津藩は二十三万石から陸奥斗南藩三万石に転封処分となる。山本家が身を寄せた米沢藩は18万石から14万石に減封処分。六月三日、松平容保と側室・佐久の間に嫡男・容大(かたはる)が誕生し、十一月斗南藩初代藩主となる。二十七日、皇后・一条美子が東京に到着。明治三年一月、会津藩士の謹慎は解かれ斗南藩への移住が開始される。山本覚馬は釈放され京都府庁(明治元年設置)に出仕する。

内藤新一郎は砲術師としての川崎尚之助の弟子である。米沢藩士としては小禄(四石)だったがその縁で山本一家の女子四名を世話していた。八重は新一郎に四斤弾を贈っている。新一郎は砲兵として士官しており、八重も砲術師として伝授を継続したことが推察される。

しかし、実際には内藤新一郎は会津藩の草の者である。

八重はここで会津くのいちの巣を作っていた。

すでに・・・会津藩そのものが解体され、領地は新政府軍の管理下に置かれている。

軍使金は乏しく・・・つなぎ(連絡)にも不自由する状態だったが・・・占領下の街では占領軍兵士が女と賭博に金をつぎ込むのは必然だった。

遊女くのいちたちは春をひさぎ・・・八重は男装して渡世人に変装し、賭場を荒らしたのである。

もちろん、忍びの技で八百長もしたが・・・基本的には賭場の金を強奪しまくったのである。

東北諸藩の賭場と言う賭場を会津の八兵衛は襲撃しまくったのだった。

東北各地の渡世人の世界では会津の八兵衛の名を知らぬものはいなかったが・・・その姿を見たものは皆無だった。

ただ・・・東北の渡世人には片耳の者が増えていた。

八重を取り押さえようとした極道は皆、抜き打ちの拳銃弾で片耳を吹き飛ばされていたのである。

八重は照姫から使命を与えられていた。

「八重殿の腕あらば・・・刺客の仕事もたやすいことでしょう・・・」

「は・・・」

「しかし・・・それはならぬ・・・と大殿からの命でございます」

「・・・」

「一人・・・二人の敵を討っても・・・必ずやすめらみことのしのびに報復を受ける・・・と大殿は申されました」

「京都での忍び組の全滅のことはうかがっております」

「京では・・・山本覚馬が存命のこと・・・」

「兄上が・・・」

「今は・・・お家の再興のために・・・影の組織をなんとか・・・残さねばなりませぬ・・・」

「・・・」

「明治とやらが・・・どのような世になるかは・・・わかりませぬが・・・松平の家のために・・・もうしばらく・・・お働きになってはくれまいか・・・」

「もったいなき・・・お言葉でございます」

「そなたたちには・・・苦労をかけるのう・・・」

「おやせになった・・・」と八重は思う。謹慎中の大殿が寵愛する側室が出産したことが・・・こころの痛手になっておられるのだろう・・・と八重は推量した。

しかし・・・主家・松平家の存続のためにそれは慶事であった。

女たちがそのように躾けられた時代はまだしばらく続いていく・・・。

八重は照姫の顔色を伺い・・・なんとなく思う。

そして・・・そのような鬱屈は賭場あらしで晴らすしかないのだった。

みちのくの夜の闇を、賭け金総取りで懐に忍ばせて、会津の八兵衛は駆け抜けるのだった。

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2013年7月28日 (日)

あまちゃん、十七ターン目の土曜日(小泉今日子)

隅田川花火大会が雷雨で中止である。

あまちゃんの世界の人々は2010年を生きているので知らないのだった。

それでも時々、加速して「この時間」に追いついて来ようとしている「あまちゃんの時間」・・・。

さらに「あまちゃんの中の春子の時間」があり、それも時々、加速するのである。

2008年の夏からはじまったあまちゃんの時間は2010年の夏に向かって行く。

1984年の夏からはじまった春子の時間は1989年、あるいはアキ誕生の日まで追いすがる。

この時間の流れの奔流が「あまちゃん」らしさを形成していることは言うまでもない。

そしてそれは現代に合流する前に2011年3月11日という「その時」を過ごすことになる。

それがどのように描かれるかは別として・・・このドラマに登場している多くの人物にある共通点を意識せざるをえないのである。

それは「目先の利益に目がくらんで大切なものをすぐに見失うドス黒さ」ともいうべきものだ。

そういう「賢さ」によって・・・「アホの子」が翻弄される局面が今である。

しかし、一方で「アホの子」はそういう「小賢しさ」をものともしないでやりたいことをやるのだった。

その行く手を阻む「こざかしい大人のシンボル」が「芸能プロデューサー」であるというのも凄い話なのである。

いよいよ・・・終盤にむけた加速に入った感じのする今週。

濃厚な登場人物たちの持つそれぞれの物語のフリとオチも回収につぐ回収中である。

今週は月曜日にフリ「春子と夏の平成元年の電話の内容とは?」があり、土曜日にオチ「夏の春子に対する叱咤激励だった」があるという加速ぶりである。つまり、もうフリをどんどん回収しないと間に合わない残り時間に入っているのである。まだ二ヶ月も先のゴールなのに・・・ああ、この素晴らしいレースが終りに近づいていると予感し涙目になる今日この頃なあのだあ。

で、『連続テレビ小説・あまちゃん・第17週』(NHK総合20130722AM8~)脚本・宮藤官九郎、演出・梶原登城を見た。1984年、母の夏(宮本信子)を岩手県北三陸市(フィクション)に残してアイドルになるために上京した天野春子(有村架純→小泉今日子)は元ダンサーで芸能プロダクション社員の荒巻太一(古田新太)と出会い、アイドル女優・鈴鹿ひろ美(薬師丸ひろ子)の声の影武者として起用され、1989年まで飼い殺しにされてしまう。夢破れ帰郷しようとした春子はタクシー・ドライバーの黒川正宗(森岡龍→尾美としのり)と出会い、結婚し、アキ(能年玲奈)が生まれる。アキは2008年、夏に憧れて海女になり、種市先輩(福士蒼汰)に憧れて南部ダイバーとなり、親友のユイ(橋本愛)とアイドルを目指す。様々な事情で単身上京したアキは鈴鹿の付け人となり、アイドルの奈落で修行を続けるが・・・太巻と仇名される芸能プロデューサーとなった荒巻と母親・春子の因縁がその前途に暗雲を生じさせるのだった。

月曜日 純喫茶・アイドル・ラブ・ストーリー(有村架純)

「春子からアキへの手紙・二通目」に記された上京後の春子の物語のクライマックスである。

主な舞台となるのは甲斐さん(松尾スズキ)がマスターの純喫茶「アイドル」・・・。ここでは平成元年仕様のキャスティングで隠されているが・・・実は、松尾スズキと小泉今日子と尾美としのりといえば・・・。ドラマ「マンハッタンラブストーリー」(2003年TBSテレビ)の主要登場人物である。平均視聴率*7.2%だったあの日から十年・・・。声優・土井垣、タクシー運転手の赤羽ちゃん、タクシー運転手のイボリーは純喫茶「マンハッタン」でこのドラマを見ているに違いない。

「今はまだ時期じゃない」と春子を宥める若き日の太巻。

「じゃ、何時なのよ・・・あなたを信じて22歳になっちゃった・・・馬鹿にしないでよ・・・」

春子は捨て台詞を残して太巻と決裂する。

故郷に向かうために世田谷から上野までタクシーに乗る春子・・・かなりの出費である。

偶然にも運転手は鈴鹿ひろ美の影武者誕生の経緯を知る正宗だった。

一目で春子に気が付く正宗。しかし・・・春子はまったく気がつかない。

上野駅で春子を降ろした正宗は駅の東側から北側に抜けるルートで上野の山に昇る。

博物館側の路上で・・・何故か、再びタクシーを止める春子だった。

→→→→→(時間を早送り)→→→→→

「じぇじぇ・・・」春子からの手紙で両親の運命の出会いを知ったアキは情報を補完するために正宗のマンションを訪問していた。

一人暮らしのかっての実家でアキはパパ正宗のすきやきを味わうのだった。

父親のウザさまでが懐かしいアキだったがイラッとはくるのだった。

「早く・・・続きを話してけろ・・・パパとママがくっつかないとおらが生まれてこれねえべ」

娘に妻との性的なあれこれに関する直接的言及をされ一瞬、たじろぐ正宗だったがすぐに顔を綻ばせるのだった。

「くっつくさ・・・くっついたからアキが生まれたんだよ」

←←←←←(時間を巻き戻し)←←←←←

再び、世田谷まで春子を乗せることになった正宗は運命的な出会いを感じ、東京湾に沈められる覚悟を決めるが・・・会話のきっかけがつかめない。

そこへ奇跡的に流れるラジオ・ネーム「転校生はつらいよ」さんのリクエスト曲・・・「潮騒のメモリー」だった。

来てよ その火を 飛び越えて 砂に書いた アイ ミス ユー

「♪北へ帰るの・・・ふふふんふーん」と口ずさむ正宗。

「いい曲ですよね・・・」

しかし・・・春子にとってもはや思い出すのが苦痛でしかない曲であった。

「停めて・・・おろして・・・私・・・やっぱり、上野に戻る・・・」

「この曲・・・あなたが歌っているんですよね」

「え」

「私・・・あの時のあほんだらです」

春子はおぼろげな記憶を蘇らせる。

そして・・・二人は世田谷と上野の中間点と言えないこともない原宿の純喫茶「アイドル」ではじめてのデートをするのだった。

見知らぬ男の登場に戸惑うマスターの甲斐さんであった。

「・・・そういうわけで帰ろうと思っているんです」

「ずっと・・・一人でかかえていたんですね」

「・・・」

「あきらめることないじゃないですか・・・僕はあなたのファン1号として・・・ずっとむあなたを応援してきました。あなたの声が聞きたくて・・・鈴鹿ひろ美のレコード、全部買っちゃいました。みんな、あなたの歌声に癒されたんです。僕だっていやな客に後部座席を蹴られたり、料金踏み倒されそうになったりしても・・・あなたが頑張っていると思うと頑張れたんです・・・タクシー運転手はみんな、あなたのファンなんだ・・・」

「・・・鈴鹿ひろ美のでしょ・・・」

「でも・・・声はあなたの声じゃないですか。歌はあなたの歌でしょう。あなたの歌は凄いんだ・・・それなのにあきらめて帰るなんて・・・もったいない・・・っていうか、そんなの嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だっ」

興奮する正宗に恐怖するマスターだった。

そんな正宗の情熱に心が動く若き日の春子だった。

(この人だけが・・・本当の私を知っている)のである。

→→→→→(時間を早送り)→→→→→

「そして・・・パパとママは付き合いだしたのさ・・・それからママはアイドルにはなれなかったけれどパパと結婚して・・・アキが生まれたんだよ」

アキは生まれて初めて父親を「かっけえ」と思ったのだった。

ま、正宗・・・。

「でも・・・」とアキは疑問を感じる。「ママはどうして上野から世田谷に戻ろうとしたんだべ」

「さあ・・・それはママに聞いてみないとな」

アキは早速、スナック「梨明日」に電話をする。電話を受けたのはすっかりスナックに馴染んだユイだった。

「アキちゃんから・・・電話・・・手紙読んだって」

「あら・・・なによ・・・パパのところにいるの」

カウンターで春子にプロポーズ中の大吉(杉本哲太)は蒼ざめるりだった。

「そう・・・手紙読んだの・・・」

「ママのこと・・・かっけえって思った・・・」

「・・・ちょっともう一回いいなさいよ」

「おら・・・こっちにきて・・・ユイちゃんが来るまでとか・・・鈴鹿ひろ美みたいな女優になりてえとか思って頑張って来たけど・・・新しい目標ができた・・・」

「なによ・・・」

「ママみてえに・・・みんなをはげます歌さ歌いてえ・・・」

「駄目よ・・・影武者になんかなっちゃ・・・」

しかし・・・春子は娘の言葉が嬉しくて馬鹿みてえな感じになるのだった。

潮騒のメモリー 私はギター

Aマイナーのアルベジオ 優しく

ハードに始った月曜日は時の流れの果て・・・優しさに溶けていくのである。

火曜日 まめぶ汁に入れる唐辛子がとまらないように(薬師丸ひろ子)

嵐の前の静けさに満ちた火曜日。

2010年の冬は穏やかに過ぎていく。

寝袋で眠るアキは「まごころ第2女子寮」の床を元気に雑巾賭けするのだった。

BGMの「潮騒のメモリー/鈴鹿ひろ美」を耳にとめる元・アメ横女学園芸能コースのセンター・マメりんこと有馬めぐ(足立梨花)は「ベッド使用許可」をアキに告げる。そして自分は「カレシの家でお泊まり宣言」をするのだった。

「あの・・・一応、女子寮には門限が・・・それに恋愛御法度でがす」

苦言を呈するアキを「ばれなきゃいいんでしょ」と歯牙にもかけないマメりんだった。

一度は「アメ女」の頂点に立った女と最下位(繰り上げ残留)の女は袂を分かつ定めである。

その頃、北三陸市の天野家では・・・大吉が二度目の朝食をとっていた。一度目は実母を気遣って実家で食べているらしい。

プロポーズの答えはまだだったが・・・バツイチ同士の再婚の日は近いと信じる大吉である。

今年の健康診断の結果良好だった天野忠兵衛(蟹江敬三)は「今年は漁には行かない宣言」の三日後、南半球に向けて出漁するのだった。

春子は平成元年に上野駅から夏に電話をかけたことを思い出すが・・・会話の内容は思い出せないでいた。

どうやらその電話によって春子は上野から世田谷に戻ることになったらしい。

夏は例によって「そんな昔のことは忘れた」と断言。

ちなみに当時、大吉は安部ちゃん(片桐はいり)と婚約中で三食まめぶ汁生活だったらしい。

アキは鈴鹿ひろ美の付き人稼業中である。

鈴鹿は「岩手こっちゃこいテレビ」の情報番組を東京のスタジオで収録中。司会者は中田有紀である。「欧愛留夜叉」(サラリーマンNEO)からミサキ(原史奈)に続いて矢部総長の出陣なのだ。

宣伝している映画「猫に育てられた犬」の公開日が1/25なのでそれ以前の日付と思われる。

コメント中に主演映画のタイトルが思い出せなくなった鈴鹿は「天野さん」にぼやきまくるのだった。

「なによ、あの司会者、残り時間五分もあるのに最後に一言って・・・あんなにつまんない映画について五分もコメントできるわけないじゃない。私だったら五分で映画館出るわよ。猫の気持ちなんかわからないわよ。猫アレルギーだもの。実話に基づいた映画ならなんだっていいってもんじゃないでしょ・・・現実なんて退屈なんだもの」

「無頼鮨」でもこらえきれずぼやきが止まらない鈴鹿。実話を元にした迷い犬の映画「わさお」(2011年)に主演している薬師丸ひろ子だった。ちなみに公開日は三月五日だった。公開一週間で東北には牛や豚までが迷い出すのである。

ちなみに「1リットルの涙」(2005年)では肝っ玉でも病弱でもない普通の母親を演じた薬師丸ひろ子だった。ただし、娘役は完全に病弱の沢尻エリカである。

「この年になると・・・母親役ばかりなのよね・・・天野さん、あなたの母親ってどんな方?」

「・・・」思わず答えにつまるアキ。

「あら・・・ごめんなさい・・・聞いちゃいけなかったかしら」・・・と見当違いに察する鈴鹿。

「歌がうまいママでがす・・・今はスナックでママやってます」

「海女じゃないんだ」

「海女は・・・祖母が・・・母は海女になりたくなくて・・・か・・・」

「か?」

影武者という言葉を飲みこんで「歌手を目指していたこともあります」

「まあ・・・」と事情を飲みこんで「じゃあ・・・お母様はあなたに夢をたくしたのね・・・」

鈴鹿は底の知れない人物だが・・・ドラマの流れとして・・・自分に影武者がいたとはまったく気が付いていないということである。それどころか・・・自分が超絶的な音痴であることにも気が付いていないと思われる。

アキは鈴鹿の言葉を半信半疑で受け止めながら・・・確かに・・・母親の夢が自分に託されていることを感じ取った。

(それじゃ・・・なんで・・・あんなに最初は反対したのか・・・)

春子の平手打ちを思い出して「痛み」を感じるアキ。

寮に帰ろうとするアキを呼びとめる種市。種市はつきあっているはずのユイのことをアキから聞き出したいのだった。

いろいろな意味で舌打ちするアキ。

しかし、親友と先輩の「仲」の事なのでないがしろにはできない。

「ユイちゃんはスナックで働いてる」

「スナック?」

寝耳に水の種市だった。

ツーショットのスナップ画像を見せるアキ。

「だせっ」とユイの姿に驚きを隠せない種市。

「だせえくらい我慢しろ・・・これでもたちなおったんだ」

「そうか・・・そうだな」と交際相手のその後を補完する種市だった。

その頃、スナック「梨明日」ではユイが明るい微笑みを浮かべ、春子、弥生(渡辺えり)、美寿々(美保純)とともにガールズ・バーを越えたスナック四天王の一角を担っていた。

夜のアメ横を自転車で抜けるアキ。

その両肩には「アイドルになりたくてアイドルになれなかった春子とユイの夢」が重くのしかかっていた。

寮に戻ると「反省会」が待っている。

受験生であり、「アメ女」のレギュラーでもある中学生の小野寺薫子(優希美青)は特別に睡眠中。マメりんは外泊中である。

GMTのリーダー格である入間しおり(松岡茉優)の熱血は高まっているが。アキは安部ちゃんにまめぶ汁をリクエストするのだった。

部屋の壁には去って行った宮下アユミ(山下リオ)の名前入り幟(のぼり)が立てかけてある。おそろくリーダーり熱い心がそれを片付けさせないのだ。

一体・・・奈落落ちした高幡アリサ(吉田里琴)はどうなってしまったのだ。

「大体・・・アメ女と・・・GMTのかけもちの二人はそれについてどう思っているわけ」

「ようわからんばい、佐賀と福岡の区別もようわからんばい」と真奈ちゃんこと遠藤真奈(大野いと)が応じる。

「それはわかってるだろう・・・佐賀のがばいキャラでいくんだろうがっ」

「がばいの意味もようわからんばい。すごいのか、やばいのか」

「あんたね・・・」

「ストップ・・・」と安部ちゃんの唐辛子増量中を制止するアキ。

発言を止められてちょっとムカつくリーダー。

気配を察したキャンちゃんこと喜屋武エレン(蔵下穂波)は自分の分のまめぶ汁が赤くなっていくことを止められないのだった。

その時・・・奈落の屑かごから・・・「社長の書いた歌詞の断片のメモのごみ」を発見したマネージャー水口(松田龍平)は・・・「GMTのデビュー曲ができる」と朗報を持ち込む。

深夜アニメを連想させるかわいいパジャマ姿で小野寺ちゃんも起き出してくるのだった。

それはバンクーバー五輪で浅田真央が銀メダルに沈み、日本中が涙する二月直前の出来事である。

世界は大不況の波に沈んでいる。

穏やかで退屈な夜はいつだってとまらない悲しみの前触れなのである。

水曜日 ちゃん・・・ちゃんちゃらおかしい早春物語なのでした(能年玲奈)

GMTのデビュー曲・・・それは「地元に帰ろう」(仮題)だった。

しかし、それは太巻が磨き上げた宝石であるアイドル・マメりんの奈落からの再生を主題とした楽曲であった。GMTはその添え物であり、マメりんのバックダンサー的ポジションだったのである。

デスメタルでサビ、テクノの「マメりん with GMT」的発想に意気消沈するGMTのメンバーたち。

しかし、水口は「GMTが注目されるチャンスじゃないか・・・」と励ますのだった。

その頃、すでにマメりんは先行して、太巻との単独レッスンに入っていた。

だまされた・・・とアキは唇をかみしめる。男遊びと見せかけてすでに奈落からの脱出の足がかりをつかんでいるマメりんに対抗心が芽生えるアキである。

寝袋からベッドに昇格したぐらいでは喜べないのである。ちゃん・・・ちゃんちゃらおかしいのである。

フリ先行で楽曲作りに専念する太巻。

その姿勢は真摯で・・・少なくともクリエーターとしての太巻は「ドス黒さ」を見せない。

ここはおそらく物語展開の基調になってくるだろう。この世界には善人もいないが悪人もいないと思われるからだ。

そして、おそらくマメりんも仕事一筋ではないわけである。

インスパイヤを目指して作っては壊す太巻のチャレンジは続く。

アキも懸命にその作業に参加する。

いつしか月日は流れ、高校三年生だった・・・アキ、しおり、キャンちゃん、真奈ちゃんは朝日奈学園を卒業するのだった。おそらく、小野寺ちゃんは朝日奈学園に入学したのである。

そして・・・早春。岩手物産展のスタッフとして足立ストーブヒロシ(小池徹平)が上京してくるのだった。

アキのファン第一号であるストーブは・・・アキに寄せる思いは変わっていない。

リーダーや真奈ちゃんはストーブの外見に一瞬ときめくが・・・たちまちなんとなくガッカリするのだった。

ヒロシは種市が転職してアキの間近にいることを知り、嫉妬の炎を燃やす。

逢いたくて 逢いたくて 逢いたくて

逢えない時は

せめて風に姿を変えて

あなたのもとへ

・・・的なヒロシなのだった。

「あらあら・・・三角関係じゃないのお・・・」と無頼鮨でおばちゃん的乙女心を燃やす鈴鹿だった。

大将の梅頭(ピエール瀧)は虚空を睨んでいるようで実はテレビのナイター中継に夢中なのである。

変わって種市が小林薫的愛想笑いを披露するのだった。

「いえ・・・種市先輩にはふられてますし・・・ストーブさんとはアイドルとストーカーの関係でがす・・・それに恋愛は御法度ですから」

「ふふふ・・・そんなのばれなきゃいいのよ・・・アイドルなんて・・・みんなやってるんだから・・・ちゃんりん・・・ちゃんちゃらおかしいのよ」

「そうなんですか・・・」

「ふふふ・・・太巻がなんで・・・恋愛御法度なんて言うのかって言うとね・・・私のせいなんだな・・・これが・・・」

鈴鹿ひろ美の付き人としてあわててシャットアウトを行うアキ。

「大丈夫よ・・・割と有名な話だから」

「そうなんですか」

「太巻はチーフマネージャーに出世したばかりでね・・・私の方から交際を申し込んだの・・・会社も公認だったのよ・・・悪い虫がつくよりいいってね・・・」

鈴鹿ひろ美と太巻が男と女の交際をしていたことはアキにとってかなりの衝撃を与えた。

「私の独立話が起きて・・・私は女優業に専念したかったし・・・彼は音楽畑出身で・・・アイドルの卵も手掛けていたんだけどね・・・」

「それは・・・いつ頃のことですか」

「平成元年の事かしらね」

一つの物語を別の語り手に語らせる手法である。

「彼は悩んでたみたい・・・その子が潮騒のメモリーを歌いたいなんて言い出して・・・ちゃんりんしゃんちゃらおかしいでしょ・・・私が許すわけないじゃないの・・・私のデビュー曲ですもの・・・だから・・・太巻が代わりに断ったんだけどね」

自分に影武者がいるとは夢にも思わない。その子が自分の影武者とはまったく知らない。ましてや、その子がアキの母親の春子だとはまったく想定外の鈴鹿なのだった。

もちろん・・・アキはそれを半信半疑で聞く。

尊敬する女優・鈴鹿ひろ美、その影武者だった母親・春子、鈴鹿ひろ美の恋人で・・・春子を結果的に飼い殺しにした太巻。

その青春の光と影がアキの心をかき乱すのだった。

「結局・・・その子はデビューできなかったみたい・・・結局、運なのよ・・・運があるか、ないか・・・それだけ」

「運・・・ですか」

大好きな鈴鹿ひろ美から切り捨てられるように大好きな母親の残酷な運命を語られて・・・この世の闇を感じるアキ。

「あら・・・ごめんなさいね・・・聞きたくない話を無理に聞かせちゃって・・・」

「いいえ・・・聞けてよかったと思います」

寮に戻ると安部ちゃんの岩手物産展用のウニ丼試食会が行われている。

安部ちゃんは出来に不満だったが、キャンちゃんや水口はお愛想を言うのだった。

アキは食べた。ふっくら感のない夏ぱっぱレシピのウニ丼を・・・。

それはアキのハートに悲しみの火をつけるのだった。

I Can't Stop The Loneliness

どうしてなの

悲しみがとまらない

運命の歯車は時を越えてアキに哀しいリズムを伝える。

木曜日 帰ってこいよ、帰らないぞ、そして帰還する傷跡(小池徹平)

「うめえ」ウニ丼に逃避するアキだから「おかわり」をするのだった。

GMTのデビュー曲は岩手物産展には間に合わなかった。

しかし、GMTのメンバーは海女の衣装を着て物産展のお手伝いをするのだった。

「まめぶ汁、夏ばっぱのウニ丼、一人じゃドキドキできません」

夢で叫んだように

くちびるは動くけれど

言葉は風になる

物産展の合間にアキはストーブと春子の青春の地を探訪する。

影武者だった春子が確かに存在したことを確かめたいアキなのだ。

原宿の純喫茶「アイドル」は実在した。

くすんだ店と同じようにくすんだ甲斐さん。

「あの・・・おら・・・天野春子の娘なんですけど・・・」

「ああ・・・あった」とテレビのリモコンを発見するのだった。20年の歳月はいろいろなものをくすませるのである。

「アナログ放送はまもなく終了します」と呪いの言葉を吐くアナログ・テレビ。

「わかってますよ・・・御苦労さま」とテレビに話しかける甲斐さんだった。

あんなに激しい潮騒が

あなたのうしろで黙りこむ

「アキちゃんは東京に来ても変わらないね」と語りだすストーブ。

「そうだべか・・・」

「うん・・・なんだか・・・アキちゃんがいるだけで・・・世界が変わっていく気がするよ」

「まさか・・・」

「だって・・・女子寮なんて・・・昔の漁協みたいだし・・・」

「そっか・・・そうだな・・・みんなわいわいやって・・・あんべちゃんがいて・・・楽しいもんな」

「だべ・・・場所じゃなくて・・・人なんだよ」

「うめえこというな」

「春子さんの受け売りなんだけどな」

「ママの・・・」

「田舎でダメなやつは都会へ行ってもダメで・・・田舎でそれなりに楽しくやれるヤツは東京行ったって楽しくできる・・・って。アキちゃんは・・・いるだけで少し、まわりを温い気分にさせるんだ・・・」

「そんな・・・人をストーブみたいに・・・」と会心のポエムに微笑むアキ。

「いや・・・ホントさ・・・」

「そうだな・・・どこにいたって自分は自分だものな・・・たとえ奈落だって・・・アメ女だって」

「アメ女」と突然、反応するマスター。「君、アメ女のメンバーなの」

「アメ女じゃなくて・・・GMTだけど」

「GMT!・・・今、あついよね・・・マメりんもいるし・・・小野寺ちゃんもいるし・・・小野寺ちゃんのブログもあついよね・・・なまってるし」

「じぇじぇ・・・くわしいんだな」

「そりゃくわしいさ・・・アイドル暦40年だ・・・え・・・じぇじぇ・・・なんだか・・・聞いたことあるな」

「そりゃ、きっと、おらのママだ・・・おら・・・天野春子の娘なんですけど・・・」

「ま・・・いいか・・・知ってる?・・・太巻ってこの店によく着てたんだぜ」

「知ってるってば・・・おら、天野春子の娘なんだから」

「ええーっ・・・君、春ちゃんの娘なの・・・早く言ってよ」

「・・・三回、言いました」

「そうか・・・春ちゃん・・・娘さんに自分の夢を託したんだね」

甲斐さんのくすんだ言葉がアキの心に波紋を投げかける・・・。

波の頁をめくる

時の見えない指さき

岩手物産展は終り、田舎に帰るストーブを駅まで送るアキ。

二人は握手で別れる。

「大吉さんが春子さんを待っていたように・・・俺もアキちゃんを待っているから。頑張って・・・しんどくなったら帰ってくればいいよ」

アキは微笑みを返す。

「おら・・・よしえさんに東京で会っただ・・・黙っていてごめん・・・でもユイちゃんを傷つけたくなかったから・・・だども・・・もう黙っているのも限界だ・・・よしえさん・・・男と一緒に歩いてた・・・たぶん、帰らねえぞ・・・」

「話してくれて・・・ありがとう・・・でも・・・聞かなかったことにするよ」

重荷を背負って帰るストーブだった。

地元に帰ろう 

地元で会おう

地元 地元 地元に帰ろう

好きです 先輩

覚えてますか 朝礼で倒れた私・・・

ついに・・・ミディアム・テンポのバラードとして完成した「地元に帰ろう」・・・。

デモテープを聴くGMTメンバーは嬉しくて嬉しくてクスクス笑わずにはいられない。

しかし・・・血相を変えて・・・水口を呼びに来るチーフマネージャーの河島(マギー)・・・。

太巻は水口に「マメりんのお泊まり愛」が暴露記事として抜かれたことを告げる。

「レコーディングは中止だ」

「そんな・・・中止しなくても・・・」

「三回目だぞ・・・さすがに俺もお手上げだ」

「マメりんを脱退させればすむ話じゃないですか」

「マメりんは卒業させる・・・GMTだけでは売れない」

「売る努力もしないで・・・」

「なんだって・・・おい・・・勘違いするなよ・・・マメりんのソロデビューありきだ・・・そのためにフリを考えて・・・作詞して・・・作曲して・・・それを全部捨てるんだ・・・俺が悔しくないとでも・・・」

「・・・すみません」

そこへ・・・事情を聴いたアキたちがやってくる。

「どうして・・・ダメなんですか」

「連帯責任だ・・・GMTだけではビジネスとして成立しない・・・それだけだ」

「やってみなければわかんないべ・・・」

「天野・・・」となだめようとする水口。

「まだ早い・・・時期を見て・・・」と河島。

その言葉がアキの闘志を燃やすのだった。

「そうやって・・・おらがママみたいにあきらめるのを待ってるのか」

「なに・・・」と表情を変える太巻。

「おらが・・・天野春子の・・・娘だから・・・」

「・・・そうだよ」

全国のお茶の間の太巻だって・・・根っからの悪人じゃないはずだと信じていた人々が・・・そりゃないぜと絶叫するのだった。

金曜日 恩を仇で返すという生き方もがばい、毎度おなじみの夢もがばい(大野いと)

太巻はアキと水口を完全防音のクリアな社長室に連れ込むのだった。

残されたGMTとチーフ・マネージャーの河島は美少女アイドル的下世話な憶測をするのだった。

「なにね・・・アキのお母さんがなんばしよっと」

「キャンちゃん、会ったことあるんでしょ」

「でーじ美人な人だったさ」

「太巻さんと昔、つきあっとったのかねえ」

「じゃ・・・アキは太巻さんの隠し子・・・!」

「そりゃがばいね」

室内では太巻がぶっちゃけていた。

「水口も・・・聞いておいて損はない・・・しかし、これから話すことは絶対に口外するな」

「・・・」

「鈴鹿ひろ美のデビュー曲・・・潮騒のメモリー・・・を歌ったのは・・・この子のお母さん・・・天野春子だ」

「ええっ」と驚く水口。

そして・・・太巻は金庫から何かを取り出そうとする。殺気を感じる水口は思わずハンガーで武装するが・・・太巻の取り出したのは古びたカセットテープだった。

太巻は古びたレコーダーの再生ボタンを押す。

流れ出す・・・オリジナルの鈴鹿ひろ美版「潮騒のメモリー」・・・。

その殺人的な音痴っぷりに・・・。

「・・・わざとか」と母親と同じ感想を漏らすアキ。

「ひどいだろ・・・」と応じる太巻。

絶対音感を持つ水口には吐き気がするほどの不快音なのである。

「と・・・とめてください」

「アハハ八八ノヽノヽノヽノ \ / \/ \」

とボリュームをアップして水口を責めて遊ぶ太巻。

外野席では・・・。

「なにしてんだ」

「まさか・・・エッチなテープを・・・」

「水口さんが・・・水口さんが悶えちゃう」

「がばいね・・・超がばいね」

「それ、かばいの使い方違うだろう」

・・・漸く、本題に戻る太巻。

「鈴鹿ひろみのデビュー曲が大ヒットしたのは・・・半分は天野春子のおかげだ・・・」

「半分・・・」

「半分は鈴鹿ひろ美の存在だ・・・当然だろう」

「影武者がいるのを鈴鹿ひろ美さん本人も知らない」

アキはお茶の間を代表して半信半疑でそれを聞く。

「知っているのは・・・ごく少数のスタッフだけだ」

「・・・」

「そしてこれは絶対に秘密なのだ」

「・・・」

「鈴鹿ひろ美の伝説を損なわないために」

「・・・」

「まさか・・・娘を送りこんでくるとはな・・・」

「おらとママは関係ない・・・おらはおらの意志でここさ来た」

「ほう・・・ならば・・・ここでなくてもいいよね」

「・・・」

「ここにいるかぎり・・・君は絶対にデビューできない・・・はい上がってもはい上がっても何度でも奈落に突き落とす」

「なんでだよ」

「どうしてもデビューしたければよそでやってくれ」

こうして・・・アキは重大な規約違反を犯したという名目で解雇されることになったのだった。

その理不尽さに・・・納得のいかないGMT・・・。

「どういうことですか・・・」と水口に詰め寄るリーダー。

「アキちゃんがやめるなら私もやめる」とキャンちゃん。

俯く水口だった。

筋だって想定するとこういうことになる。

鈴鹿ひろ美の成功でチーフマネージャーとなり、アイドルのプロデューサーの道を開いた太巻。

その根底を覆す鈴鹿ひろ美のスキャンダル発覚は保身のために絶対阻止。

しかし・・・一般人が何を言おうと抹殺できるが、もっとも恐ろしいのは有名人の口から発言されること。

天野春子がスターになって「実は私が鈴鹿ひろ美の影武者でした」と言えば真実だが・・・素人が言う分には妄想。

だから・・・太巻は天野春子をデビューさせなかった。

同様に・・・「実は私の母は鈴鹿ひろ美の影武者でがす」と言い出す可能性のあるアキも絶対にデビューさせられないのだった。

もちろん・・・やや破綻のある論理だ゛し、太巻の真意がそうなのかどうかは分らない。

しかし・・・少なくとも・・・アキを絶望させるには充分な太巻の言動なのである。

鈴鹿はる美の歌が天野春子の歌だと知り・・・感動して・・・。

「ママのような歌っ子を歌えるようになりてえ・・・」と母に宣言し・・・。

「お母さんはあなたに自分の夢を託したのね」と鈴鹿ひろ美に言われ・・・。

「春ちゃん・・・君にアイドルになってもらいたいんだな・・・」と甲斐さんに告げられ・・・。

その気になっていてアキを悪意をあからさまにしてへし折った太巻・・・。

そして・・・助けてくれなかった水口・・・。

Am017 それでもアキは・・・水口に救いを求める・・・ただし・・・夢の中で・・・。

「水口さん・・・おら・・・やめたくねえ・・・歌って踊って・・・アイドルになりてえ」

「・・・」水口の部屋は閉ざされたまま。

「・・・腹減った」

冷蔵庫はからっぽ・・・。

そして・・・目の前にはヤング春子。

「じぇじぇじぇ・・・水口さん、水口さん」

「私・・・幽霊じゃないよ・・・生きてるし・・・駅前のスナックでママやってるし・・・」

「そうですか・・・」

「かわいそうに・・・私のせいで太巻に意地悪されたんだね・・・太巻って・・・神経が細いんだ・・・太巻じゃなくて・・・細巻だべ・・・なんちゃってえ」

「かわいいな・・・目はパッチリしてるし髪の毛クリンクリンだし・・・おら・・・パパに似たのか」

「ブスだもんね・・・繰り上がり奈落ブスだもんね」

「母子だからってブスはあんまりだ」

「お詫びに唄います」

「なんてマイペースなんだ・・・」

そこへ現れる巫女姿の静御前(鈴鹿ひろ美)・・・。

「あらわれたな・・・妖怪変化・・・私のデビュー曲を返しなさい」

「アハハ八八ノヽノヽノヽノ \ / \/ \」

「待て・・・痛い・・・段差が・・・段差がこわい・・・天野さん」

「アハハ八八ノヽノヽノヽノ \ / \/ \」

「やめてけろ・・・やめてけろ」

・・・目覚めれは二段ベッドの下。

徹平から・・・アキがウニ丼を食べて泣いていたという話を聞いた春子が携帯を鳴らす。

「ママ・・・」

「どうしたの・・・アキ・・・」

「おら・・・クビになっちゃった」

あの日電話が

ふいに鳴ったの

あなたに彼女 会わせたことを

わたし今も悔んでいる

I Can't Stop The Loneliness

だれか救けて

悲しみがとまらない

泣いている愛おしい娘を感じて春子は遠い記憶が蘇る。

土曜日 天野春子、出撃!(宮本信子)

ユイは予感を感じていた。

予想以上に酷い奈落での暮らし・・・汗にまみれて少し匂う・・・親友のアキを・・・アバズレのママはけして放ってはおけないだろう。

お礼参りは近いと・・・。

頷く・・・愛犬家の小太りの友人(山田健太)だった。

「お・・・お・・・お・・・」

「おっとせい・・・」

「おら・・・太巻さんに嫌われて・・・クビになった・・・」

「なんでよ」

「わかんね・・・ママの方がわかるんでねえか」

アキは・・・鈴鹿ひろ美の伝説・・・夢を壊したくないという太巻の気持ちをどうにか理解している。

しかし・・・それで・・・自分の夢が壊される理不尽さは納得ができない。

そのことを自分より残酷な仕打ちにあった母親の春子にぶつけることもできない。

アキはもう・・・なにもかもが・・・イヤになっていた。

春子は自分との過去が暗い影を娘に落していることを察知した。

それは・・・ある意味で予想外・・・ある意味で想定内のことだった。

「もう・・・アキ・・・家へ帰りたい・・・帰っていいでしょ」

「・・・・・・だめよ」

蘇る記憶。20年前の電話ボックス。

傷心の若き日の春子が故郷の夏に甘えようとした通話。

交錯する・・・春子と若き日の春子。若き日の夏。そしてアキ。

→→→→→(時間を早送り)→→→→→
←←←←←(時間を巻き戻し)←←←←

・・・の使用も躊躇する時間のシャッフルである。

「なして・・・」

「だから・・・言ったよね・・・あんたには無理だって言ったよね・・・だけど・・・あんたは行くって言ったんでしょ・・・やれるって信じたんでしょ」

「・・・なしてだ」

「五年もがんばったし・・・そろそろ帰ろうと思って・・・平成元年になったしさ・・・」

「なして・・・」

「アイドルになるんでしょ・・・まだ一年もがんばってないじゃない・・・ママのなれなかったアイドルになってくれるんでしょ・・・」

「なしてだ・・・」

「一人で淋しいかと思って・・・そっちで役所にでもつとめてお見合いでもして」

「何がお見合いだ・・・おめは人様の善意を踏みにじって東京に出て行ったんだべ」

「そんなこと・・・わかってるよ」

「わかってねえ・・・お前なんか娘でもねえ・・・アイドルでもねえ・・・一体、お前はどちら様だ」

「今、帰ってきたら・・・腫れもの扱いだよ・・・雑に慰められて・・・噂話されて・・・影口叩かれて・・・あんた・・・それでいいの」

「やんだ」

「たった五年であきらめるくらいなら最初から行くな」

「ママは帰ってくるなんて・・・許さないからね」

「もうたくさん」

「やんだ」

「アキ・・・聞いてるの・・・アキ・・・アキ・・・アキったら・・・」

アキは電話を切っていた。25・・・24・・・23・・・急速に減るテレフォンカードの残り度数。上野-北三陸間の長距離電話を若き日の春子が断ち切ったように・・・。

襖を開けて心配げに顔を出す・・・夏。

「どうした・・・春子」

「なんでもない・・・」

いつものように喫茶リアスで働く春子。しかし・・・心はここにないのであった。

いつの間にか・・・コップではなく琥珀を磨いている春子を一同は囃したてる。

しかし・・・春子の心は・・・アキでいっぱいなのだった。

「四畳半で二段ベッドで三人部屋だって・・・トイレ共同で風呂もないって・・・」

問いただされ答えるストーブ。

「銭湯は高いんで・・・稽古場のシャワーを使うって・・・」

「汗をかいて・・・これから夏になるのに・・・匂って・・・」

「どうした・・・春子」と大吉。

「クビになったのよ・・・あの子・・・泣いてた」

「じぇ・・・」

「それなら・・・帰ってくればいい」

「潮騒のメモリーズ復活だ」

「海女カフェでバイトして・・・シーズンになったら海女やって」

「んだんだんだ・・・土日はウニ丼売って・・・」

「駄目よ・・・そんなのダメ・・・あの子が帰ってくる時は・・・駅前は黒山の人だかり、握手会でサイン責め、凱旋コンサートは・・・市民ホールでドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッと」

「どうしたんですか・・・春子さん」と顔を出すユイ。

「あ・・・ちょうど良かった・・・これ、レジのキー。これ、金庫の鍵、二日に一度は銀行に入金で印鑑と通帳、夏にかけてビールの仕入れ増やして行って月に一度のガスの点検忘れずに・・・私ちょっと行ってくる・・・」

春子は家に戻ると・・・夏に別れの挨拶をする。

「どうした・・・急に」

「アキの側についててやりたいんです・・・あの子の夢を応援したいんです・・・あの子に私の見れなかった景色を見てもらいたいんです・・・」

「どいつもこいつも勝手なことを・・・」

「一人で大丈夫・・・」

「おらは平気だ・・・淋しいのは出たり入ったりするからだ・・・」

「お母さん・・・あの日、言ってくれたよね・・・夢を簡単にあきらめるなって・・・」

「そんなこと・・・忘れた」

ラテアートでジョージクルーニーに挑戦している花巻(伊勢志摩)は別として・・・一応、引き留めに来る大吉、かつ枝(木野花)、美寿々・・・。

「おら・・・今日は北鉄、運休する・・・」と駄々をこねる大吉。

「夏ばっぱ加勢に来たぞ・・・」と夏を捜す美寿々。

しかし・・・夏はすでに海へ去っていた。

再び・・・東京に雨が降る。

帰郷を決意したアキは鈴鹿の付き人もやめることを宣言する。

「事務所クビになったって・・・私の付き人続けていいのよ・・・」

「・・・」

「重大なペナルティーってなんなのよ」

付添の水口は口を閉ざす。

別れの鮨桶は超豪華推定三万円級だった。

「私も・・・休みとって北三陸に遊びに行こうかな・・・」

「来てください・・・ウニは五百円ですけど鈴鹿さんなら三百円でいいでがす」

鈴鹿があらあら・・・私からお金とるの・・・と思った刹那・・・。

修行中の種市は来客に「じぇじぇっ」と叫ぶ。

紅白の上下で決めた黒いサングラスの女。

「アキ・・・」と娘の名前を呼ぶ。

呼ばれた娘は・・・二度見して・・・。

「じぇじぇじぇじぇじぇ」と叫ぶのだった。

呆気にとられる鈴鹿ひろ美。

艶然と見返す天野春子。

つづきがみたいつづきがみたいつづきがみたいつづきがみたいつづきがみたいつづきがみたいつづきがみたいつづきがみたいつづきがみたいつづきがみたいつづきがみたいつづきがみたいはやくつづきがみたい逃げちゃだめだつづきがみたいつづきがみたいつづきがみたいつづきがみたいつづきがみたい・・・・。

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2013年7月27日 (土)

夏の夜の驚愕~悪霊病棟(夏帆)

恐怖の根源とは不明である。

不明から判明への転換は安堵をもたらす。

「幽霊の正体見たり枯れ尾花」はその一例である。

しかし、その一歩手前には「驚愕」がある。

緊張と緩和の境界線が「驚愕」である。

「幽霊の正体見たり妖怪変化」だった場合には恐怖は驚愕の後にさらなる恐怖を生み出すことになる。

驚愕は急ぎ過ぎてまずい・・・ということはあるが、遅過ぎてうまいということはない。

恐怖が高まっている間に素早く驚愕させることが重要である。

あまりに間を置きすぎるとうっかり、驚愕を見過ごされる場合もある。

これを逆手にとるのが、「狼少年の恐怖」である。

狼が来たと言う情報が蔓延し、すでに日常茶飯事になれば少年が狼に食われても誰も驚かない。

ただ少年そのものは恐怖する。

その少年の恐怖を想像することでちょっとした驚愕はやってくる。

だが、そういう悠長なことでは真の驚愕の道は得られない。

迅速に驚愕させることが恐怖への道を示しているのである。

不明から驚愕へ、そしてさらなる不明へ。

これが恐怖の緩急の基本なのだ。

で、『病棟~第2号室』(TBSテレビ201307260058~)脚本・鈴木謙一(他)、演出・鶴田法男を見た。隈川病院に勤務するために一人暮らしを始めた尾神琉奈(夏帆)は「死者の姿を見る」という心の病気を克服したばかりの二十四歳の看護師である。

しかし、新しい勤務先の隈川病院には悪い噂があった。

現在は廃墟となっている旧病棟は「お化け屋敷」だというのである。

勤務を始めた琉奈は何故か、入院患者に嫌われ、精神的な不調を感じる。

「死者の姿を見てしまう」ことによって幼い頃から疎外された琉奈はどこか精神的に弱い部分を抱えており、異様なほどの猫背なのだった。

そんな琉奈に唯一の親友である情報番組のアシスタント・ディレクター・坂井愛美(高田里穂)は番組の取材のために協力を依頼する。

精神的に不安定な琉奈は一度は拒絶するが・・・困っている愛美のために出来るだけのことをしようと考え直すのだった。

愛美を演じる高田里穂は1994年度組の18歳である。24歳の役設定はかなり背伸びをしているのだが大人びた美少女タイプなので違和感はない。とにかく・・・この年度には福田麻由子、二階堂ふみという飛び抜けた実力派がいる上に、岡本杏理、早見あかり、竹富聖花、土屋太鳳、広瀬アリス、松岡茉優、荒井萌など・・・物凄いレベルの生存競争が展開中なのである。もうどんな役でもありがたいと思う他ないのだった。「リミット」なんか即死だもんな。とにかく1994年度に生まれたことがある意味すでに恐ろしいのだった。

とにかく、そういう親友の期待に応えようと深夜の旧病棟行きを志願する琉奈だった。

ちなみに旧病棟は倉庫代わりに使用されているらしく、備品や古いカルテなど・・・看護婦が夜のおつかいに行かなくてはならないシステム設定なのである。

こういう説明の処理がこの演出家は若干甘い・・・その辺が二流なんだなあ。

それがいたるところに噴出して行くのが一種の恐怖である。

旧病棟に備品のおつかいに来た琉奈は鍵を開ける。

この時、外鍵と内鍵の連動がわかりやすく描かれていないので・・・その後で内鍵がしまってしまう驚愕がやや弱くなる。

倉庫で備品を手にいれた琉奈は「るな」と自分の名を呼ぶ声に導かれて階段を昇る。

ここで「階数表示」の美術発注を手抜かりしているので・・・減点がある。

この場合は上の階に上がる度に出口は遠のくのである。

折り返しの階段をただ上がるよりは二階、三階と上がるほどに恐怖は高まるのだ。

また「るな」と呼ぶ声の方向感覚の示し方にも甘さがある。

そちらから聴こえてくるという画面構成にしないと・・・琉奈がつい声のした方に進んでしまうという仕方なさが減ずる。

それは一種のリアリティーの欠如につながっていくのだな。

「なんとなく怖い」のと「なんだか無性にこわい」のとは微妙に違うのである。

声に導かれた琉奈は「何階か」の「何号室」かの病室のドアの向こうから声を聞く。

それは行き止まりの病室である。

ドアにはノブが付いている。

このドアが壁の段差によって隠れているために・・・アングルによっては見えない。

「閉じたドアをあえて開いてしまう」という琉奈の異常心理が伝わりきらない。

部屋の中には無人の病院用ベッドがあるだけで特に異常はない。

しかし、ポケットの中のお守りが高温化している。

「熱い」と琉奈が取り出すと湯気が立っている。

かなり異常事態だが・・・「それ」が琉奈にとって「異常」なのか「よくあること」なのかが不明のために・・・恐怖の道が開かれないのである。

部屋から飛び出した琉奈はさらに驚愕する。

行き止まりだった壁に扉が出現しているからである。

「うそ・・・」と慄く琉奈。

しかし、お茶の間的には最初の「行き止まりの壁」が強調されていないので、琉奈が何に驚いているのか・・・分らなかった人も多いのではないかと思う。

ここは・・・壁にドアが出現する描写があってもよいくらいなのだな。

それか、部屋にいる時間をもっと短くするべきなのである。

思わず、ドアの鍵に手を伸ばす琉奈。しかし、ドアは勝手に開く。

驚いてお守りを床に落とす琉奈。

ドアが開き始め、「逃げる」と「お守りを拾う」の間で逡巡する琉奈。

ここまでよどみなく展開していれば・・・かなりこわいところだが・・・よどんでいるので恐怖マイナス3ポイントくらいになる。

思い切ってお守りに手を伸ばす琉奈。

その上に「見知らぬ何者かの手が重なる」ので悲鳴である。

とにかく、お守りをつかんだ琉奈は廊下を走り、階段を駆け降りる。

階数表示がないので切迫感が薄れるわけである。

途中、躓いて転ぶ。階数表示がないのであせれないのだ。

ともかく・・・出口にたどりつくが扉は開かない。

鍵に気付かない。

気がついても動顛して解錠できない。

もどかしい恐怖。

ここで追いかけてくるものがもう少し影として描写されないと・・・プレッシャー不足を感じる。

最後は節くれだった指と手と腕の影が迫る描写。

さて・・・このドラマのスーパーナチュラルホラーの本体は「黒い歯」らしい。

要するに「お歯黒」である。日本や中国南東部・東南アジアの風習で主として既婚女性、まれに男性などの歯を黒く染める化粧法のことで・・・慣れないものには「不気味」な印象を与える。「歯」が黒いのは「食」を連想させ、妖怪化すると「人食い」になる。

著名な妖怪に「お歯黒べったり」がある。一種の「口だけ女」であり、お歯黒はそれを強調する装飾と言えるだろう。

本来、お歯黒には魔よけの効果があり、妖怪「一反木綿」はお歯黒の歯にかまれるのを嫌うともされている。

まあ・・・とにかく・・・今回はちょっと薄汚れた「お歯黒」を恐怖の根本にしているのである。

琉奈はそれを「かいま」見て・・・恐怖を感じるのだった。

一方で、琉奈の帰りが遅いので様子を見に来た後輩ナースの鈴木彩香(川上ジュリア)は琉奈の蒼白な様子から恐怖の伝染を感じるのだった。

主任ナースの木藤純子(森脇英理子)は琉奈の臆病さを叱咤する。

しかし・・・「何もみなかった」という琉奈に・・・院長の息子の研修医・隈川朝陽(大和田健介)は「そういうことにしてくれてありがとう」と謝意を示す。

朝陽は父親の院長・隈川圭太(春田純一)が病院の最上階に何か秘密を隠していることを確信しているのだった。

朝陽と琉奈は恐ろしい悪夢で結ばれているらしい。

精神的に不調になった琉奈だが「気にすることはない・・・病気はもう治っているし琉奈は立派な看護師だ」と父親の尾神辰男(嶋田久作)から電話で励まされ、気を取り直すのだった。

何事もなかったように出勤する琉奈だったが・・・今度は子供の患者から・・・「この人はこわい」と怯えられてしまう。

そして・・・琉奈を忌み嫌っていた患者の石川勲(高橋長英)の容態が急変する。

心拍が停止し、蘇生処置が行われる中。

琉奈はゴーストと化した石川の霊体が「みつこ」と誰かの名前を呼んで廊下を立ち去るのを茫然と見送るのだった。

そして・・・今度は鈴木彩香が旧病棟へとおつかいを命じられるのである。

次はもっと怖いといいのになあ。

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2013年7月26日 (金)

オバケのこわい人この指とまれ(堂本剛)天魔さんがゆくのは気絶した後で(川口春奈)

久しぶりの谷間である。

そして・・・毎度おなじみの深夜の福田雄一ドラマである。

まあ、「33分探偵」も「ヨシヒコ」もスルーしてきたのだが・・・深夜の福田雄一は大好きだ。

キッドのブログ的にふりかえってみよう。

最初の登場は、『ドスペ2・キングコングの動物図鑑Ⅲ・オーストラリアの動物一気に図鑑にしちゃうぞSP』である。

ドラマじゃないが・・・構成・福田雄一で・・・その後の活躍を予感させるひどさがある。2006年といえばこのブログを書き始めた年で・・・なにもかもがなつかしい。

次は2008年で『1ポンドの福音』の脚本。バラエティーの構成からドラマへ・・・シフトチェンジして・・・好感がもてた。ドラマもまずまずだったと思う。原作の魅力が大きいのだが。

そして、2009年。「東京DOGS」・・・月9である。大抜擢である。そして・・・惨憺たる結果を残したのだった。

まあ、それからは「プロゴルファー花」(2010年)とか「コドモ警察」(2012年)とかで深夜のゆるい恋人になったのだった。

深夜に福田ドラマがあると・・・なんだか安心なのだな。

ちなみに「花」にも「コドモ」にも上野なつひがゲスト出演しており、なんかおなじみなのである。

で、『ドラマNEO・天魔さんがゆく・第1~2回』(TBSドラマ201307160028~)脚本・演出・福田雄一を見た。テレビドラマの著作権は基本的にテレビ局が持っている。その中で脚本家や演出家はある程度の部分的な権利を保持することになる。そういう意味ではギリギリアウトなんじゃないかと思う「勇者ヨシヒコ」(テレビ東京)テイストのオープニングやらエンディングである。しかし、まあ、そういう部分までがネタなんだからしょうがないと思うしかないのだった。少なくともテレ東側はセンスを賭けて笑う(すましてなかったことにする)のだな、きっと。

まあ、そんなことを言ってると佐藤二朗なんてどこへいっても佐藤二朗なんだけどさ。

月夜。夜の学校全景。公務員室。

実にオーソドックスなホラーの序盤で・・・懐中電灯片手に公務員は夜回りに出る。

暗い廊下の彼方に突如、出現する・・・落ち武者の幽霊(ムロツヨシ)・・・なのだが・・・。

それを演じているのがムロツヨシだとわかるのはなんと第②回なのだった。

それどころか・・・レギュラーの椋木リカ(芹那)や、足利実(森崎博之)までが第①回には登場しないのだった。

主人公の法界天魔(堂本剛)は有限会社おばけ警備保障の社長で・・・法界家は降魔調伏の家柄である。ただし、天魔は極度のお化け恐怖症で毎回必ず気絶するという設定である。しかし、第①回はなんとか気絶するが第②回はもう気絶しないというお約束なのだった。気絶すると先代社長で父親の法界天童(佐藤二朗)と霊界で交信できると言う設定である。もちろんアバウトなので第二回は交信しない・・・まあ、もうグズグズで構わないし、深夜なんだもんだな。

略称・オバケーに就職した岡崎旭(川口春奈)は先輩社員の大覚慶三(皆川猿時)にいきなりクレームをつける。

「え・・・オバケーってゲームを作る会社じゃないの・・・」

「ゲーム感覚でオバケを成仏させる会社です」

「そんなあ」

「社会人の自覚もなく返済不能の借金作ってそれをうちの会社に肩代わりしてもらってるのにそんなあとか言わないでっ」

「・・・」

一体、岡崎旭の過去に何があったのかは気になるところだが・・・とにかく天魔社長の好みのタイプだったようだ。

旭(アキラ)の初仕事が・・・中学校に出る落ち武者の霊を成仏させることだった。

「うん・・・ただならぬ妖気を感じる」

天魔の髪の毛を見て鬼太郎の妖気アンテナを旭が感じ取ることができるのもくりかえし「ゲゲゲの鬼太郎」をリメイクしてきたアニメ制作会社の努力と企画力不足の賜物である。

「お化けをころすんですか」

「お化けは死なない・・・病気もなんにもない」

「じゃ・・・ころさないんですね」

「場合によって・・・というか企画のなりゆきでは殺す場合もある」

依頼者は中学教諭の小宮香織先生(上野なつひ)である。

吉野公佳、佐伯日菜子、加藤夏希に続く四代目・黒井ミサ(実写版「エコエコアザラク」シリーズ)だけに・・・業者に頼まなくてもな・・・と思わせるキャスティングなのである。

案の定、こわがりの天魔に代わって女子トイレの幽霊をチェックするのは小宮先生だった。

幽霊はゆるキャラのふなっしーの幽霊(ふなっしー)だった。

お風呂上がりの小宮先生の黒髪に恐怖して気絶する天魔である。

この中学校は霊的密集地で・・・「呪怨」系の霊なども散見できるのだった。

お化けに恐怖した旭はトイレの個室で白目をむくのだが・・・。

ここは「ヨシヒコ」で展開に呆れたムラサキ(木南晴夏)が白目になる。

「あまちゃん」で歌を歌うアキ(能年玲奈)が白目になる。

という流れに対する本家的主張なのだと思われる。

アイドル女優にそんな顔ばかりさせてはいけません。

本人ノリノリなんだからいいんじゃないか。

旭「昼間から幽霊退治ですか」

天魔「これだから・・・素人は・・・幽霊は昼間だっておんねん」

大覚「怨念とかけてます」

というなんだかんだがあって・・・ついに落ち武者と対峙するオバケー社員一同。

・・・で第②回に続くのであった。

落ち武者は「俺はさ・・・木曾ノ道国吉って明智光秀のダチでさ、本能寺で信長を殺したのは俺なのに一緒に焼け死んじゃってさ・・・歴史に残ってないのが口惜しや~」なのである。

そこで・・・小宮先生に頼み、特別授業をしてもらう天魔。

「歴史には記されていないけど・・・織田信長を殺害したのは木曾ノ道国吉という武将なんですよ・・・試験には絶対でませんけどね・・・歴史もフィクションだということを忘れないでください」

なんとなく納得する生徒たちに・・・落ち武者は昇天する。

霊が見える天魔以外の人間は霊の見えるメガネでその様子を見物する。

旭はなんとなく仕事にやりがいを見出すのだった。

で・・・第①回には未登場だった天魔の好みではなかったので就職できなかったリカが天魔に横恋慕したり、怪事件を解決できないのに横槍をいれる足利警部と部下の大平三太刑事(鎌倉太郎)が紹介されるくだりがあって・・・。

第二の依頼者、AKB48の藤江れいな(藤江れいな)が登場する。

監視カメラによって幽霊の実在をチェックする天童。

ベッドルームで寝像の悪い姿を監視される藤江だった。

寄り添いからはじまり、うしろやぐらだの、こたつがくれだの、まつばくずしだの、しぐれちゃうすだの、みだれぼたんだの、ぶつだんがえしだの・・・四十八手を一人披露するアイドルなのだった。

興奮した大覚は関係ブログが炎上しかねないほど藤江にまとわりつくのだった。

そして・・・巻き起こる怪奇現象。

しかし・・・何故か・・・その霊は天魔にも見えないのだった。

「もう・・・設定くずしたいだけでしょう」と思う旭なのである。

まあ・・・そう言う感じですよ。

関連するキッドのブログ→堂本剛の正直しんどい

シナリオに沿ったレビューをお望みの方はコチラへ→くう様の天魔さんがゆく

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2013年7月25日 (木)

西瓜の種と孤独な犬と震える手と案ずる瞳とWoman(田中裕子)

水曜日の朝、「あまちゃん」は高校を卒業してしまったのだ。

月曜日はお正月だったのに・・・。あっと言う間に1年前になってしまっている。

あの日の朝・・・だれもその夜の恐ろしさを知らなかった。

同様に、人々は明日、富士山が噴火し、明後日、東海地震が起きるかもしれない世界に生きている。

そういう「恐怖」が充満しているドラマである。

病院の待合室に絵本「ウーギークックと子どもたち/ハヤシダシュウイチ」(フィクション)が置いてある世界。

痴漢容疑者を無関係な酔客が集団暴行する世界。

無視された子供が玩具で子供の頭を殴る世界。

保健所で犬が殺処分される世界。

ロイヤルベイビーをニュース・ショーがもてはやす世界。

外国産ホタテの輸入を憂慮する世界。

青学の学生が予備校生を見下す世界である。

そして、ヒロインが再生不良性貧血を告知される世界である。

マンホールの下に地底人が生息している世界だ。

もはや「21世紀残酷物語」なのだな。

どうするんだ・・・これ・・・。

で、『Woman・第4回』(日本テレビ20130724PM10~)脚本・坂元裕二、演出・水田伸生を見た。シングル・マザー青柳小春(満島ひかり)は長女・望海(鈴木梨央)と長男・陸(髙橋來)を再び手元に置いて働き始めた。幼い頃に離別した母親の植杉紗千(田中裕子)との葛藤を母親の再婚相手の健太郎(小林薫)の善意と、異父妹の栞(二階堂ふみ)の秘密の暴露によってほんの少し乗り越えた小春だったがその未来には暗雲が立ち込めているのだった。

夏の陽射しの中を母と幼い二人の子供が歩いている。

「夏休みの宿題って何があるの」

「自由研究・・・お母さん・・・やったことある」

「あるよ・・・蝸牛の観察とかね・・・望海は何をやるの」

「地底人の研究」

「そうか・・・マンホールには気をつけないとね」

「マンホールの蓋は重いからねえ」

「だから・・・なんなの・・・」

「地底人は骨粗しょう症だと思うんだ・・・日光不足で・・・あ」

「どうしたの」

「陸がいない」

陸は暗がりの中で掲示板を見つめていた。

「父子で参加・・・ラジオ体操」というポスターを目にとめた小春。

「ラジオ体操か・・・陸・・・お母さんと一緒に行こうか」

頷く陸。

だが・・・陸は他の事が気になっていたのだった。

再び歩きはじめる三人。

「陸は何かしたいことある・・・」

「・・・犬」

「犬が飼いたいの?」と母。

「犬はお金がかかるよ」と姉。

夏の街路樹に漂う光と闇。

託児所の所員はマニュアル的に押し付けがましいアドバイスをする。

「少し・・・言葉が遅れてるんじゃないですか」

「私やお姉ちゃんの言葉は理解しているし・・・無口な性格なんだと思います。私もそうでしたから」

「知能テストを受けられたらどうでしょう」

所員はマニュアル的に対応できない事態の発生を懸念するのだった。

悪意ではないが善意ではない意志がそこにある。

小春はパンフレットに目をおとす。

「言葉の遅れている子供について」

陸は大人しく一人で遊んでいた。

縁側で無職に等しい仕立屋の健太郎は西瓜を食べていた。

カットした西瓜を渡した紗千は健太郎の食べた西瓜の皮を見咎める。

「あなた・・・種をどうしたの」

「あれ・・・気がつかなかったかな・・・二年前くらいから種も食べることにしたんだ・・・健康にいいかと思ってね」

「あらまあ・・・世の中にはいろんな人がいるものね・・・いい年してエベレストで遭難したり、いい年して西瓜の種を食べ始めたり」

「暑いなあ・・・小春ちゃんち・・・暑いだろうなあ」

「・・・」

「あの家・・・クーラーないんだぜ・・・子供たちもいるのに」

「・・・」

善良だが経済力のない父親と娘を溺愛する母親に育てられた栞は夢を見ていた。

大家さんになりたい。

店子はフランケンシュタインのモンスターとドラキュラ伯爵と狼男でもいい。

そして・・・のんびり暮らしたい・・・と心から願う栞。

しかし・・・栞にとって現実世界はいつからか息苦しい場所になっていた。

父と母と栞の三人の世界はまだしも・・・玄関を一歩出ればそこは空気の薄い荒野なのだ。

美術関係の予備校に通う栞だが・・・そこでも自分の才能の限界を感じている。

栞は仕方なく一人でお茶を飲んで時間をつぶす。

そこに「同級生」今野美希(大西礼芳)という名の悪魔が現れる。

「あれ・・・栞じゃない・・・何してるの・・・私は今、青学に通ってる」

「私は今・・・お茶を・・・」

「ふ・・・あんた・・・相変わらず・・・気持ち悪い子だね」

「・・・」

砂川藍子(谷村美月)が研修医を勤める病院の指導医・澤村友吾は笑顔で患者(玄覺悠子)に「再生不良性貧血」の告知をするのだった。

「死の宣告」に震えが止まらない患者。

「患者さんも震えていたけれど・・・先生の手も汗をかいていましたね・・・やはり・・・告知は緊張するものですか」

「まあ・・・そうだね」

「今までで一番困難だった告知はどういう患者さんを相手にした時でしょうか」

「妻に・・・告知した時かな」

「・・・」

小春は職場でまたしてもたちくらみを起こしていた。

腕には痣が鮮やかに浮かぶ。

砂川藍子は夫に託して家に残してきた愛児の画像を眺める。

小春は道を急ぐ。

藍子の夫の生活福祉課生活保護担当職員・砂川良祐(三浦貴大)も道を急ぐ。

「どうしましたか」

「うちの子が託児所で誰かに乱暴したらしくて・・・」

「それ・・・うちの子です」

砂川の息子が陸の無反応ぶりにじれて手を出してしまったらしい。

しかし、小春と砂川が二人を公園に連れ出すと・・・たちまち仲良く遊びだす子供たち。

「子供は無邪気でいいなあ」

「育児は大変ですか」

「大変ですよ・・・もう言葉にできません」

「奥さん・・・戻ってきそう?」

「さあ・・・とにかくどっちが先に折れるかですよ・・・いや・・・むこうが折れるか・・・こっちが破滅するかかな」

小春は微笑む。

患者の検査結果をチェックする藍子。

「・・・」

「青柳さんか・・・次はいつだっけ」

「月曜日です」

「・・・」

深夜・・・突然泣き出す・・・陸。

「どうしたの・・・」

「ブン・・・」

「なに?」

「どこにいるの・・・」

「え・・・」

掲示板で駿が気にしていたのは「迷い犬」の貼り紙だった。

「そうか・・・犬のことが・・・心配だったのね・・・」

「捜しています・・・犬は一人ぼっちです」

「わかった・・・じゃあ・・・捜そう」

小春と望海と陸は他人の家の迷い犬を捜す旅に出るのだった。

しかし・・・犬はすでに別の家で飼われていた。

そして・・・最初に犬を飼っていた家では別の犬が飼われていた。

小春に比べるといかにも経済的余裕のある飼い主(濱田マリ)は御礼を述べる。

「何か御礼をしないとね・・・そうだ・・・ちょうどオカジューのクッキーがあるわ」

「いえ・・・御礼はいいです」

「ブンはどうしたの」と陸。

新しい飼い犬を抱いて少女が言う。

「きっと保健所で殺処分になったのよ」

「お母さん・・・殺処分てなに」

「殺処分てなに」

「さあ・・・お母さん・・・わからない」

家に戻った陸はお父さんに祈るのだった。

「ブンをさがしてください」

「きっとお父さんがみつけてくれるよ」

「でも・・・ぼく・・・お父さんに会ったことない」

「・・・」

「お父さん、見たことないよ」

「・・・」

「お父さんと遊びたい・・・」

「・・・」

「ブンはね・・・首輪ををしているよ・・・ブンは肉が好きだよ・・・ブンは吠えないよ・・・ブンは噛まないよ・・・ブンはお手をするよ・・・・ブンは・・・」

言葉があふれだす陸だった。

望海はお風呂の水を止める。

小春は陸を抱きしめた。

紗千は栞と新宿に買い物に出た。

娘に服を選ばせる間・・・母親は「あんみつ」を口実に家電売り場に足を向けた。

その後で娘は母親をカラオケ・ルームに誘う。

栞は唐揚げやハニートーストなどを大量にオーダーした後で告白を始める。

「お母さんに似合いそうなバッグがあったよ。四万円くらい。クーラーより安いでしょう。工事費込みだし。私、お姉さんが嫌い。死んだ人の事は再婚すればいいのに。お姉さんの夫だった人は痴漢でしょ。被害者は私だもの。私は絵が上手くないの。お母さんにおだてられてうっかりその気になって・・・いい気になってたけど。私より上手い子なんてざらにいる。目の前に二、三人いたら東京には一万人人いるでしょう。日本には十万人いるし、世界には七百万人いるわ。そんなだから私、だめな子だった。小学校でも中学校でもいじめられてたわ。高校になってなんとなくグループの一人になって。そしたらそのグループの一人が痴漢にあって・・・声をあげたら口止め料をもらえて。それから電車で・・・私はこの人痴漢ですと男の人の手をつかむ役になった。ずっとお金をもらえたけどある日、男の人に別の子が殴られてその遊びは終った。そうなれば今度は私がいじめられるしかないの。死にたいと思っているあの日。お姉さんの夫という人が来た。お父さんもお母さんも笑っていた。私の知らないお姉さんと・・・その人の子供と会えるのが楽しみだといっていた。もう、わたしの場所はどこにもなくなると思った。あの人をつけて電車の中であの人の手を捕まえた。痴漢です。あの人が震えているとおもったけれど震えていたのは私だった。あの人は私を見た。心配そうに見た。私の事を気遣ってくれていた。でもそれから酔った乗客たちがあの人を電車から引きづり出して、叫んで、あの人をののしって、殴って、蹴って、笑って・・・私は何かを言おうとしたけど声が出なかった。私はその場から逃げた。梨が転がってあの人が手を伸ばして。誰かがあの人を押して。電車が。電車が。電車が。・・・死にたい。死にたい・・・死にたい。死にたい」

紗千は栞を平手打ちで黙らせて抱きしめた。

号泣する栞。

届く注文の品々。

紗千は栞に命ずる。

「何も言わないで・・・口を閉ざして・・・私も二度とあの人たちとは関わらないから」

小春は病院に子供たちを連れてやってきた。

待ち合い室で陸に絵本を読む望海。

「子供たちは皆・・・病院にすんでいました。そして・・・病院の地下室には一つ目のウーギークックが子供たちの魂を食べるために潜んでいたのです・・・」

そして・・・澤村は小春に告知をする。

夏の陽射しがじゃぶじゃぶ池に降り注ぐ。

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2013年7月24日 (水)

なにもかもがうまくいかなくてもさこの星で生きるしかないスターマン(木南晴夏)

里香、神無月、万里子、美和子、カイラ、かしこ、麗香、マナミ、芳恵、真希、香織、静香、響子、カエデ、ミンハ、千紗、ムラサキ、お菊、七瀬、メグ・・・・ああ、果てしなき木南晴夏の分身たちよ・・・どこまで増殖していくのか・・・。

その中で・・・この脚本家による造形といえば・・・「銭ゲバ」(2009年)の三國茜である。

痣が消えて幸せになった茜から・・・五年。

今度のミチルはドス黒い世界からドス黒い過去を背負ってやってくる使者である。

彼女は天使となった死者を奪還しにやってくるが・・・その「輝き」に圧倒されて手ぶらで地獄へと戻っていく小悪魔だったのである。

なんでもできちゃうんだよなあ・・・凄いよなあ。

また、会えるといいなあ。

で、『スターマン・この星の・第3回』(フジテレビ20130723PM10~)脚本・岡田惠和、演出。堤幸彦を見た。なんとなく・・・東海地方がドラマの舞台になっていることが多いような気がする今日この頃。噴火が間近い富士山が世界遺産に登録された影響なのかしら。明日、富士山が大噴火して・・・山頂が吹っ飛んで「あまり美しくない活火山」に変貌したら大爆笑なんだな。そして・・・東海地方は地震と津波で壊滅し、ついでに首都直下地震で東京も終焉する・・・阿鼻叫喚の寸前にのほほんとファンタジーというのが素晴らしいと言う他ないのだな。

おい・・・暑さに負けるなよ。

道端で拾った星男(福士蒼汰)をちゃっかりネコババして、三人の子供の父親と自分の夫にしたちょっとおバカなシングル・マザー・宇野佐和子(広末涼子)・・・。星男が宇宙生命体によって蘇生した服毒死体であることはまだ知らない。そこへ・・・生前の星男を知る謎の女・羽生ミチル(木南晴夏)が登場。祖母の柏原美代(吉行和子)や・・・長男・大(大西流星)、次男・中でなくて秀(黒田博之)、三男・小でなくて俊(五十嵐陽向)の眼前で星男をぶっとばすのであった。

茫然とする落し物を交番に届けないタイプの佐和子だった。

美代は修羅場を予感して・・・子供たちを別室に避難させる。

「あなた・・・どなた・・・」

「そりゃ・・・こっちのセリフだよ・・・てめえ・・・だれだよ・・・タツヤ、こんなとこでなにやってんだ」

「タツヤって・・・」

タツヤ時代の記憶が修復されていないらしい星男は唖然とするのだった。

「なに・・・ボケッとしてんだよ・・・その顔、すんげえむかつく。どんな冗談なんだよ・・・タツヤ」

「・・・俺のこと・・・知ってるんですか」

「はあ?」

「あの・・・」

「なんだよ・・・おばさんっ」

「ごめんなさい・・・」

「・・・」

「星男・・・私、ウソついてました」

「え」

「全部、ウソでした」

佐和子の観念するスピードは疾風の如しである。

佐和子にとって「いい男」とは「もの」の一種なのだろう。

着服した「もの」の持ち主が現れると真偽を確かめもせず・・・ひたすらうろたえて・・・返品をする覚悟なのである。

それが・・・「悪い事」だという自覚はあるらしい。

「ひろっちやってえ・・・自分のものにしちゃってえ・・・ごめんなさい」なのだった。

「じゃ・・・俺は・・・」と星男/タツヤ・・・。

「うん・・・知らない人」・・・ものすごい白状の仕方である。桜の木を折ったワシントン・レベルだな。完全土下座体制で正直者は無罪を主張する佐和子だった。

「おばさんのウソなんてどうでもいいわ。ウソでしょ・・・記憶喪失が。タツヤ・・・いつまでシラきってんだよ」

「いえ・・・記憶喪失はお医者さんも・・・間違いないって・・・それに星男は自殺しようとしてたみたいだし」

「自殺・・・タツヤが・・・自殺なんてしようとしたらすぐできるじゃん。自殺しようとして自殺しないのは・・・自殺しようとするフリをしているだけで・・・自殺する気なんてまるでない・・・これね。タツヤのセリフね。そういう男だよ、この男は。あんた・・・騙されてるんだよ」

「騙す・・・俺は・・・そんな男だったんですか・・・なんか、すごく、悪い男だったみたいですけど」

「悪い・・・みたい・・・はあ?・・・悪だよ、悪そのものだよ・・・100%悪でしただよ・・・切ったら黒い血が出るくらいドス黒い悪だっただろう」

「記憶を失ったフリじゃありません」と割り込む佐和子。

「なんでおばさんにそんなことがわかるんだよ」

「わかるわよっ、それくらい」

「なにそれ~、女の勘とか~、そんなに冴えてる女なら、拾った男、夫にしたりしないだろっ、ふつう。何が・・・星男だよ・・・ロマンチックにも程があるだろう・・・このメルヘンばばあっ」

「ば、ばばあで悪かったわね。ああ、そうですよ、ロマンチックな夢なんか見てすみませんっ。でもさあ。年齢とか関係ないでしょ。女なら王子様を拾ったら神様からのプレゼントだって信じるでしょう、ふつう。それが悪いことかどうかなんて知ったこっちゃないでしょう。女だったらね、共感してくれる人多いと思います。これ、ガチでそう思う・・・そんで・・・好きな女が捜しにきたら・・・普通、男は記憶がなくてもなんかピンときたりするもんでしょ・・・これ、ちっともピンと来てませんよ・・・あんた、本当に持ち主なの」

「なんだってえ・・・あんた・・・何開き直ってんの・・・これ・・・人間だろう・・・十円拾ったんじゃないだろう・・・身元不明の男を警察に届け出もしないで内縁の夫にしちゃうって・・・それ・・・犯罪じゃん」

「・・・」

「タツヤ・・・あんた、なんとかいいなさいよ」

「え・・・あの・・・その」

「タツヤって・・・なんか似合わない名前」

「本名は似合うとか・・・そういう問題じゃねえだろがっ」

「すいやせんでした」

「時間の無駄だわ・・・帰るわよ・・・タツヤ」

「・・・どこに」

「あんたのいたとこによっ」

こうして・・・星男/タツヤは強奪されてしまうのだった。

佐和子は切り替えの早い女である。

いい夢見た気分で素早く立ち直るのだった。

「さて・・・仕事に行くか・・・」

何事もなかったように出勤する佐和子だった。

スーパーマーケットやまとの惣菜厨房。

ワケありの佐和子を慰めるように揚げたてお惣菜を差し出す重田信三(國村隼)・・・。

問わず語りで自分の身の上話を始める。

「今から、四十年前、俺は駅前を腹をすかして歩いていた・・・すると総菜屋の娘が俺にコロッケを一枚くれた・・・そのコロッケの上手かったのなんの。おれはそれ以来、お惣菜を作って行こうと決めたんだ」

佐和子はお惣菜の味が心にしみて・・・思わず、重田を突き飛ばす。

そして・・・お茶の間は見る・・・煮えたぎった油に手を突っ込んでも火傷一つしない職人魂を・・・いや・・・重田が人間ではないらしいことを。

呑気な安藤くん(山田裕貴)はどうでもいいことを聞いてみる。

「重田さんはこの街の生まれなんですか」

「いや・・・よそものさ」

「どこ出身なんですか」

「言ってもだれも知らない所さ」

「名もない田舎じゃ・・・ここだってそうですけどね」

そんなどうでもいい会話に目を輝かせるものがいた。

異常なことが退屈な男とのデートより好きな変な女・臼井祥子(有村架純)である。

彼女は研究によって・・・この街が四次元スポットであることに確信を持っているらしい。重田の身の上話からミステリーの香りを嗅ぎ取ったのである。

「今から・・・40年前・・・この街ではたくさんのUFO目撃情報がありました・・・もしかしたら・・重田さん」

「知らん」

しかし・・・疑いの目を消さない祥子なのである。

祥子・・・「幸せの青い鳥」なんか絶対信じない女なんだな。

「幸せが住む虹色の湖」を捜すタイプらしい。

隕石落下の時も現場検証して・・・空き瓶を回収したのは異星人遺留品の可能性を疑っていたのだ。薬物の分析を依頼して・・・毒物としった時・・・祥子はミステリアスな展開にワクワクなのであった。

一方、運転免許のない星男/タツヤを黒い車に乗せて・・・ディスシティ東京に向かうミチルはドライブ・インでソフト・ドリンク休憩をとっていた。

戸惑いながら小動物のようにミチルに従う星男/タツヤに・・・彼女の苛立ちは頂点に達していたのだった。

なんだか気分が悪いのさ

不吉な予感がするんだよ

ドジをふんだとしたら

お願いするんだろ

ここじゃないどこかへ

埋めてくれって

どこか寒くない場所へってな

「ああ・・・もう・・・あんた・・・タツヤだか・・・星男だか・・・・しんないけどさ・・・もどりなよ」

「え」

「むかつくけどさ・・・あんた・・・あそこにいたらしあわせになれるかも」

「・・・」

「なんだか・・・うらやましい・・・自分のことを忘れられるなんて・・・アタシだってさ・・・忘れられるもんなら忘れちまいたいよ」

「すみません」

「だから・・・気持ち悪いんだよ・・・あんたが・・・誰かに謝るとこなんて・・・見たくないんだよ」

「・・・」

「まあ・・・思い出して戻ってくる気になったら・・・戻ってくりゃいいさ・・・ま、ねーとおもうけどさ」

「・・・」

「ここで・・・サヨナラだ」

結局、ミチルはいい女だったらしい。

女は暗闇の街へ戻り、「タツヤ」の消息が不明だったことを誰かに報告するのだった。

一方・・・スーパーマーケットには見るからにダメな男らしい・・・宇野光一(安田顕)がしばらく佐和子の様子を伺っている。

佐和子は駐車場から倉庫へ荷物の搬入作業をしていた。

どうやら・・・佐和子の元夫は嫌な微笑みを残して立ち去る。

すれ違う星男。

その直後、お約束で崩れる積み荷。

佐和子が「とんび」的危機一髪になるところを空を飛び、荷物を片手で押しとどめるスーパープレイで救う星男だった。

「星男・・・」

「あの人が帰っていいっていうから帰ってきました」

「・・・」

「佐和子さんにあの人から伝言があります・・・クソばばあへ、クソタツヤをクソプレゼントしてやるよ。せいぜい・・・クソお伽噺をクソプレイすればいい・・・クソお飯事的なクソハッピーエンドはないと思うけどな・・・以上です」

げんなりする佐和子だった。

「いいの・・・」

「うん・・・俺・・・佐和子のことが好きだから・・・」

興味津々の従業員一同に星男を発表する佐和子。

祥子だけは・・・狂信的に星男を特別な存在と見抜いている。

「本当は・・・私を迎えに来たんだよね」

祥子の言葉を怪訝に感じる佐和子だったが・・・とにかく・・・細かい事にはこだわらない性格なのだった。

しかし・・・何故か・・・星男を抱きしめる重田には唖然とするのだった。

重田は星男となんらかの種族的関係があるらしい。

「あの・・・」

「誤解しないでくれ・・・同性愛じゃなくて・・・単なる激励だ・・・」

「はあ・・・そうですか・・・」

とにかく・・・佐和子は細かいことは気にしない性格なのである。

星男の帰還を喜ぶ・・・祖母と子供たち。

佐和子は意を決して夜の公園で星男とのファースト・キスを達成するのだった。

早速、同伴でスナックスターに報告に向かう佐和子。

親友の須多節(小池栄子)は我がことのように喜んでくれた。

しかし・・・そこに姿を見せる。元夫・・・。

「帰ってきちゃった」

「間に合ってます・・・100年後くらいに出直して来い」

佐和子は店から元夫を追い出すが・・・夜の街にはなぜか・・・鹿がたむろしているのだった。

「え・・・」

呆気にとられる一同。

そこへ鹿をよけようとしたトラックが飛び込んでくるが・・・例によって片手で受け止める星男だった。

さすがに・・・普通の人間じゃないって・・・気が付くのかな。

もう・・・ピチピチの衣装とマントが必要なレベルだよね。

スターマンじゃなくて・・・スーパーマン的な。

次回・・・悪い宇宙人が出てくるといいなと思うけど出てこないよね。

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2013年7月23日 (火)

特大ホームランボール(長澤まさみ)とハートに刺さったガラスの破片のSUMMER NUDE(山下智久)

恋愛ドラマの基本はエピソードである。

胸を焦がすエピソードを作るために脚本家は頭を悩ます。

主人公は三年前に理由を告げずに去った恋人を忘れられない男である。

一体、何が忘れられないのか。

それこそがポイントなのだ。

主人公と昔の彼女はおそらく一年ほどのつきあいである。

ミスみさきになった女子大生。

地ビールの広告のモデルになって主人公が写真を撮影・・・恋に落ちた二人。

一緒に暮らし始めた二人。

そして、主人公にとって突然失われた愛の生活。

主人公が次の恋に踏み出せないのは・・・もしも彼女が戻ってきたらたちまち虜(とりこ)になってしまうという虞(おそれ)があるからだ。

そこまで特別な彼女であることをエピソードだけで示すのはかなり至難と言える。

しかし・・・長澤まさみという強力なスターがエピソードを補うのである。

明日、長澤まさみが「ただいま」と言って帰ってきたら日本中の家庭は崩壊するのだな。

それはもう一度、原発がメルトダウンしたら日本の息の音が止まると山本太郎が円形脱毛症になるほど心配したり、産卵した放射能が最終的には海に流出するに決まっていたり、ねじれが解消された以上、原発が再稼働するのは当然だったり、誰が何をしようがない袖はふれないことほどに明らかなのだと考える。

で、『SUMMER NUDE・第3回』(フジテレビ20130715PM9~)脚本・金子茂樹、演出・宮木正悟を見た。ドラマの主題歌は「SUMMER NUDE'13/山下智久」なのだが・・・第1回で述べたように「サマーヌード/真心ブラザーズ」のカヴァーである。で、ドラマ「モテキ」(テレビ東京)の第11話~12話の主題となるのもこの曲である。「モテキ」の主題歌は「夜明けのBEAT / フジファブリック」(2010年)である。そして・・・ドラマ「SUMMER NUDE」は第2~3話を「若者のすべて/フジファブリック」(2007年)で縁取っている。「若者のすべて」も「夜明けのBEAT」も志村正彦の作詞・作曲だが彼は2009年12月24日に逝去しているために「夜明けのBEAT」は言わば遺作なのである。

半分の事で良いから 君を教えておくれ

些細な事で良いから まずはそこから始めよう

忘れようとしても忘れられない一倉香澄(長澤まさみ)への想いを断ち切るために谷山波奈江(戸田恵梨香)の「写真」を撮ることを決意した三厨朝日(山下智久)だったが・・・ラジオから流れ出した思い出の曲「若者のすべて」によってたちまち、再燃する香澄への想いにたじろぐのだった。

とぎれた夢の続きを

取り戻したくなって

夕方5時のチャイムが

今日はなんだか胸に響いて

何年たっても思い出してしまうな

だから朝日は・・・。

←←←←←(時間を巻戻し)←←←←←

目隠しをして・・・朝日は香澄を完成したばかりの「みさき潮騒ビール」の広告看板の前へと連れてくる。

「もういいよ」

「うわあ・・・大きいな」

「すごいでしょ」

「なんだか・・・はずかしいな」

「はずかしいことなんかないさ」

「この看板を見たら・・・ちゃんと声かけてね」

「え」

「だって・・・挨拶なしで素通りされたら・・・この笑顔がだんたん哀しい顔になっちゃいそう」

「・・・わかった」

バカヤローな二人だった。

→→→→→(時間を早送り)→→→→→

だから、本人が失踪した後も律義に看板に挨拶をする・・・朝日だった。

「おはよう・・・」

そんな朝日を・・・「レストラン青山」の臨時店長・千代原夏希(香里奈)は見ていた。

「なにやってんの・・・」

「ほっといてくれ・・・」

「おはよう・・・」

「なんだよ・・・」

「看板の代わりに言ってあげたのよ」

「・・・」

「例のDVDは無事に返せたの?」

「・・・」

「あんた・・・まさか・・・」

逃げるように立ち去る朝日だった。

三年間返却していない・・・香澄と見る予定のレンタルDVD「48時間PART2/帰って来たふたり」を返す決意が崩れてしまった朝日なのである。

二人の背中を押す目的で夏希が海に投げ捨てた「裏切りの象徴である指輪」は虚しく海の底に沈んでいる。

夏希は憤った。

一方で波奈江はカフェ&バー「港区」で店長の賢二(高橋克典)相手に「朝日に写真を撮ってもらえるのでハードスケジュール」だと告げる。もちろん・・・「とびっきりのおめかし」のためである。気分は花嫁なのだった。波奈江は「みさき海岸のパリス・ヒルトン」なのだ。

「やっぱり、オーシャン・ビューのホテルの一室で冷蔵庫からビール出して、窓辺で海岸の男たちを全員釘付けにするセクシーポーズを決めないとかしら」

「それで飲酒運転で逮捕されちゃうのか」

「オー、ノー」

「イエーイ」

「レストラン青山」には波奈江の弟・駿(佐藤勝利)が顔を出していた。

「朝日先輩が写真とってくれるっていうんで・・・姉ちゃん、大はしゃぎなんですよ」

夏希は笑顔で応じるのだった。

「私も洋服選びに誘われるてるよ」

「ふう・・・」

「なによ」

「いや・・・こで弟としても・・・一安心っていうか・・・肩の荷が下りたっていうか」

「シスコンなの」

そこへ・・・タカシ(勝地涼)がやってくる。

「いやあ・・・今日の波は最高っす」

「この混雑じゃ・・・ボードは危なくないの」

「いい波を感じるだけで充分す・・・」

「沖に出ると泳げないんで溺れるんでしょ」とおちょくる駿。

「お前は家でリフティングの練習でもしてろっ」

「タカシさんも昔はサッカー部?」

「いや・・・朝日と一緒に野球部っす」

「それで仲いいんだ」

「この街の人って野球好きですよね」

「さすがに・・・今はサッカーの話もたまにしますけどね・・・やはり、日本人は野球でしょう」

「はあ・・・」

「海と野球は兄弟みたいなもんでしょ・・・ミスターも永遠に不滅ですって言ってるし」

「まったく・・・わかりません・・・それにしてもあいつはどうしてDVD返さないのかしら」

「ああ・・・48時間すか」

「いくら・・・別れた彼女と見る約束してたからって・・・三年も」

「朝日の中では別れたことになってないっす。それほど、香澄ちゃんは特別な存在・・・つまり、俺にとっての夏希さんみたいなものっす」

「でも・・・三年も待ってるなんて・・・ちょっとやばくね?」

「おっと・・・俺の直球は無視っすか」

「ごめん・・・私、ストレートとかカーブとか・・・野球のことよくわからなくて」

「知ってるじゃないっすか」

「えへへ」

「よし、こうなったら・・・俺が朝日にDVD返すように説得してみせますよ」

「マジで・・・波奈江ちゃん、喜ぶよ」

「その換りに・・・説得できたら俺とデートしてほしいっす」

「デートねえ・・・」

レンタルビデオ店には波奈江が日課の「48時間ソフト返却チェック」にやってきていた。

しかし、それだけではなく名作映画を借りまくるのだった。

「こんなに借りるの?」とアルバイト店員のヒカル(窪田正孝)・・・。

「へへへ・・・世界の名女優のポーズを研究しないといけないんで」

「なんでさ」

「ふふふ・・・朝日が私をモデルに写真を撮りたいっていうから」

「え・・・」ど真ん中のストレート的に表情が曇るヒカルだった。

その思いにまったく気がつかずにヒカルを例の大看板前に連れ出す波奈江だった。

罪なやつさ Ah PACIFIC 碧く燃える海

「香澄ちゃん・・・最後にもう一度だけ・・・勝負させてください」

「・・・」

「どうせ・・・勝てないと思ってんでしょう」

「いや・・・」

「今日は・・・何点差で負けてるかな」

「・・・勝ってるね」

「え」

「俺の中では・・・お前が大量リード中だよ」

「ふふふ・・・慰めてくれてありがとう」

ヒカル・・・カープがすっぽぬけたな。

朝日の家に押し入ったタカシはDVDを無断で持ち出そうとしていた。

タカシはストレート勝負に出たのだった。

しかし、朝日に発見されてしまうのだ。

「なんだよ・・・こっそり・・・DVD返そうとするなんて・・・何、勝手なことしてんだ」

「こんなもん・・・ただのDVDじゃないか」

「俺の自由だろう」

「お前のじゃなくて・・・レンタルショップのもんだろ」

「ちゃんと料金払ってる」

「だから・・・その無駄をな。貯金して。もう少し、未来設計とか考えろって」

「お前に言われたくないわ・・・貸してる一万円返せ」

「いいから・・・DVDを返そうぜ」

「いやだね」

「お前がコレを返したら俺は夏希ちゃんとデートできるんだよっ」

「なんじゃ、そりゃあ」

僕ら今 はしゃぎすぎてる 夏の子供さ

波奈江の家ではデート前夜の姉と妹のように夏希と波奈江が浮かれている。

「あのさ・・・あいつ・・まだDVD返してないんだよね」

「知ってるよ・・・今日もチェックしてきたし」

「・・・」

「DVDか写真か・・・どっちもなんて・・・贅沢だと思うんだ」

「殊勝だねえ」

「とにかく・・・写真だけでも・・・私にとっては・・・すごい追い風なんだよ・・・風にのってぶっちぎりたいんだよ」

「そっか・・・」

「なにしろ・・・今はチームに頼もしい大物助っ人が来ているしさ」

「誰のこと・・・?」

「夏希に決まってるじゃん・・・私のクロマティー」

「誰なの?」

タカシと朝日は休戦していた。

「日没引き分けの後のビールはほろ苦いねえ」

「今度、おかしな真似したら・・・永久追放するからな」

「ちぇ・・・それにしても・・・香澄ちゃんのことになると・・・お前ってマジになるよな」

「・・・」

「その映画・・・面白いの?」

「だから・・・見てねえよ・・・」

「・・・」

「なんだよ」

「今、全米が泣いてるとこだよ」

「・・・」

「お前さ・・・香澄ちゃんが・・・帰ってくるって本気で思っているわけ」

「野球は九回裏まであるんだぜ」

「あのな・・・どう見てもコールドゲームだよ」

「・・・」

「まあ・・・いいわ・・・あきらめたら試合終了だからな」

「それ・・・野球じゃないだろっ」

あの日の香澄の一言。

←←←←←(時間を巻戻し)←←←←←

「あのさ・・・もしも私が消えたりしても待ったりしないでね・・・待たれるの嫌いだから」

「まるで・・・消えるみたいじゃないか」

「消えるわけないじゃないの・・・だってまだ48時間の続編、一緒に見てないでしょ・・・」

→→→→→(時間を早送り)→→→→→

朝日にとってはそれがたった一つの最後の砦だった。

(10対0で負けている最後のバッターみたいなもんだけど・・・負けたら終りのトーナメント戦なんだ・・・香澄よりも・・・いい女なんて・・・この世にはいないに決まってるんだから・・・)

朝日にとって・・・香澄はそれほどまでに絶対的な存在だった。

小南写真館にはモデル志望の帰国子女・堀切あおい(山本美月)がやってきていた。

「日本の男たちって見る目がない」

「そうなの」

「東京中のモデル事務所をまわったのに一社も採用してくれない」

「そりゃ・・・変だな」

「脱ぐならOKとか」

「脱がないんだ・・・」

「なんか・・・いい仕事ない?」

「仕事って・・・朝日く~ん、なんか、あったっけ」

「モデルが必要な撮影なんて・・・めったにないに決まってるじゃないですか」

「じゃあ・・・そろそろうちの証明写真でもとりかえるかな」

そそくさと仕事に出る朝日だった。

「あの人・・・冷たい」

「彼は・・・その気になったら・・・すごいんだけどね」

「そうなの?」

「ほら・・・大看板の子いるでしよ・・・あの子の写真撮るために・・・朝日くんはものすごく営業して仕事とってきたからね・・・」

「あはん」

狩人となったあおいはカフェ&バー「港区」で朝日を待ち伏せる。

「写真館の人がここに来たら、ユーに逢えるって」

「・・・」

「駅でナンパしてきたのに・・・」

「してないよ」

「声だけかけて放置プレーって変態なの」

「誰がだよ」

「やはり、アメリカ人はグイグイくるの」と割り込んでくる賢二だった。

「くるくる」

「なんのこっちゃ・・・・それより・・・今日、波奈江来た?」

「お前に写真撮ってもらえるって大はしゃぎだったぞ」

「・・・」

「その人って恋人?」とあおい。

「ちがいます」

「じゃ・・・他に恋人がいるの」

「なんで・・・そんなこと答えなきゃいけないの」

そこへ仕事を終えた夏希がやってくる。

「おつかれっす」

「おつかれさま」

「お・・・律義な人も来てましたな」

「律義な人?」

「この人・・・看板にまで挨拶してるんですよ」

「看板に・・・私は放置されてるのに・・・日本名物の二次元の人か?」

「間違った日本が紹介されているだろ」

「この人が変なのよ」

「なんだ・・・私、ちょっと期待してたのに・・・私に仕事をどんどん持ってくる人かと」

「無理無理」

「他に誰かいませんかね」

「ごめんね・・・ここ、地元じゃないんだ」

「あはん」

「それより・・・タカシに変なことやらせるなよ」

「変なこと?」

「あいつ・・・DVDを盗もうとしたぞ」

「なにそれ・・・」

「とにかく・・・余計なおせっかいはやめてくれ」

「知らないわよ・・・私はただ・・・波奈江との約束を守ってくれれば・・・それでいいわけ」

「・・・」

波奈江は映画「ローマの休日」を研究中だった。

「もっと切って」

生まれて初めて街の美容院に入店した冒険中のアン王女(オードリー・ヘプバーン)は美容師のマリオ・デラーニ(パオロ・カルリーニ)に「ショート・カット」を要求するのだった。

王女の美しい髪を切ることを躊躇するマリオも次第に大胆になり、王女の命令に応じていくのである。

「もっと・・・」

「オードリー姉さん、そりゃ、いくらなんでもバッサリすぎますぜ~。やりますな~。姉さんはよろしいですな~。黙っていてもパパラッチに狙われて。こっちなんか・・・カメラマンがちょっと消極的になるだけで・・・もう凹みまくりますわ~」

波奈江は友達少ない田舎のお嬢様なのである。

写真館の前には謎のカップルである米田春夫(千葉雄大)と石狩清子(橋本奈々未)が茫然としていた。

ショーウインドーに飾られていた二人の証明書写真。

清子だけがあおいにチェンジしていたのである。

春夫の裏切りを清子は詰るのだった。

「きらいならきらいと直接言ってくださいよ」

「いや・・・これはまったく青天の霹靂だよ」

しかし、失意の清子は「盆踊り大会」のチラシを投げ捨て走り去るのだった。

「待って・・・清子さ~ん」

今回は清子の水着サービスはなかった。

「レストラン青山」ではあおいが身の上を語っている。

「小学校三年生で渡米したので・・・こっちに知り合いが全くいない。いたとしてもすれちがっても気がつかないし、一人暮らしだから、日本語にもなれない」

「いろいろと大変だねえ」と愛想笑いでごまかす夏希だった。

なにしろ・・・一人で何もかもしているので客一人にさいている時間はないのだ。

そこへタカシがやってくる。

あおいは店を出る。

「今の誰っすか」

「さあ・・・」

「なんか・・・西海岸の香りがしたっす」

「ある意味、凄いな。ところでDVDの件はどうなったの」

「ああ・・・あれは無理でした」

「まったく・・・この街の男たちは大口ばかりですねえ」

「ねえ・・・夏希さん」

「うん」

「夏希さんは好きだけど・・・夏希さんは・・・朝日のあれからの三年間を知らないから・・・」

「え・・・」

「もう・・・あいつのことはほっといてやってください」

遠い目をするタカシにとまどう夏希だった。

暗雲を感じながら波奈江は朝日を待ち伏せるのだった。

「ねえ・・・私の撮影はいつにするの」

「・・・」

「明日かな、明後日かな・・・オールフリーで準備万端整ってるんですけど」

「波奈江・・・ごめん」

「ああ・・・そうなんだ」

「やはり・・・無理だ」

「どうして・・・どうして・・・どうして・・・どうして・・・どうして・・・どうして・・・」

「・・・」

「香澄ちゃんなんか・・・挨拶返してもくれないのに」

「・・・」

「しゃべんないしさ・・・手だってつなげない・・・淋しい時にも隣にいないのにさ」

「・・・」

「どうして・・・私じゃだめなのよ」

波奈江は意気消沈して「港区」にやってくる。

一同は一目で事情を察した。

夏希の怒りは頂点に達するのだった。

そんな夏希を宥めるマスター。

「私、約束を破る男が許せないタイプなんですよ」

「朝日さん・・・バカだよな・・・待ってたって無駄なのに・・・」と呟いて店を出る駿。

夏希は秘密の匂いを嗅ぎつけて駿の後を追うのだった。

残された波奈江はマスターに・・・「朝日と香澄の思い出」を語りだす。

「やっぱり・・・勝てないのかな・・・」

「絶対に勝てない試合なんて・・・ないと思うんだ・・・なにしろ・・・俺が結婚できたくらいだから」

「それって説得力ありすぎだよね」

「そこまでいうか・・・」

「もう・・・最初から・・・香澄ちゃんて・・・いい女だったもんな」

「最初って・・・」

「あそこの窓ガラスが割れた時・・・」

「ああ・・・千葉のバリー・ボンズな・・・」

「高校のグラウンドから・・・ここまでかっとばすなんて・・・彼もすごかったけど・・・香澄ちゃんもかっこよかったんだ」

←←←←←(時間を巻戻し)←←←←←

初めて朝日が「港区」に香澄を連れて来た昼下がり。

「素敵な店ね」

「でしょ・・・下にも・・・ここが港区で海まで下りると青山があるんだよ」

「青山って」

「レストランっていうか・・・海の・・・」

その時、ガラスを割って打球が店内に飛び込んだのだ。

悲鳴をあげる客たち。

「大丈夫・・・」と香澄を見た朝日は・・・香澄の手から血が流れているのを見て逆上する。

「ちょっと・・・文句言ってくる」

「ちょっと・・・いいわよ・・・わざとじゃないんだから」

「だって・・・血が」

「たいしたことないよ」

「マスター、救急箱~」

そこへ打った本人らしい少年がやってくる。

「すいませんでした・・・」

「お前・・・ケガしてんだぞ・・・どうしてくれんだよ」

香澄の血を見て我を失っている朝日だった。

「・・・」

掴みかからんばかりの朝日に割って入る香澄。

「すごいよね・・・ここまで飛ばすなんて・・・特大ホームランだよね」

「あの・・・申しわけないっす」

「このボール・・・記念にちょうだい」

「え・・・」

「そうだ・・・サインしてよ・・・未来のホームラン王をチェキラだね」

「はあ・・・」

「ねえ・・・サインペンないかな・・・」

「・・・」

坊主頭の浦野君 日に灼けて

練習したって 補欠だけれど

汗を流して走ってる ひたむきな

あなたを見るのが とても好きなの

→→→→→(時間を早送り)→→→→→

「なんていうか・・・美人なだけじゃなくてさ・・・男前なんだよね・・・香澄ちゃん・・・」

「・・・」

それだけじゃないけどな・・・と思うマスターだった。マスターは比べる。

胸と胸

同じ頃・・・部屋で一人・・・朝日もその日のことを思い出していた。

それから・・・。

←←←←←(時間を巻戻し)←←←←←

夏の高校野球のラジオ中継を二人は聞いている。

「ツーアウトで・・・ランナーはありません。ビッチャーふりかぶって第一球を投げました、打った・・・打球はのびている・・・大きい・・・大きい・・・大きい・・・・・・レフトの場外に打球は消えていった・・・ホームラン・・・四番浦野の場外ホームラン、みさき東高校1点先制です・・・」

「浦野かよっ」

「ねえ・・・さすが私の目に狂いはないでしょう」

「参りました・・・」

部屋にはあの日の浦野のサインボールが飾られていた。

→→→→→(時間を早送り)→→→→→

朝日には香澄がただの女ではなく・・・神秘的な存在に思えるのだった。

そういう祈りにも似た朝日の回想を闖入者の夏希が打ち破る。

「・・・」

「なに」

「なんで・・・また約束を破るのよ・・・ウソつき」

「あんたには・・・関係ないだろ」

「関係あるでしょ・・・あんたに呼ばれてこの街にきたし・・・波奈江はこの街で唯一の女友達だし」

「・・・」

「待ってたって・・・香澄って子は帰って来ないよ」

「なんで・・・そんなことが・・・彼女にあったこともないあんたに・・・わかるんだよ」

「聞いたもん」

「・・・何を・・・」

「香澄って子が出て行った日・・・駿くんが・・・彼が聞いたのよ。彼女、看板を外してくれって会社に頼みに来たんだって・・・それで・・・駿くんは彼女を追いかけて・・・。その理由を訊ねたの。彼女は・・・あの看板があると・・・あなたが彼女のこと忘れられないから・・・そう答えたの・・・わかるでしょ・・・彼女は戻ってくる気がなかったの」

「・・・」

「みんな・・・知ってて黙ってたんだよ・・・彼女がさ・・・戻ってくる気なんて・・・なかったってこと・・・あんたは・・・今日まで帰って来ない彼女をずっと待ってたわけ・・・可能性なんかないのにさ・・・」

「・・・教えてくれて・・・ありがとうございます」

「・・・大丈夫?」

「大丈夫じゃありません」

朝日は家に閉じこもるのだった。

「港区」では波奈江が泣き寝入りしている。店に戻った夏希が上着を着せかけているところへ「レストラン青山」のオーナー・勢津子(板谷由夏)が現れる。

「朝日に約束やぶられて・・・ガッカリなんだってね」

「私・・・頭にきて・・・あいつんとこに文句言いに言ったんですけど・・・ちょっと言い過ぎたかなって・・・いま、少し後悔してるところです」

「そうなの?」

「彼には彼の事情ってあるんでしょうからね」

「・・・朝日はね・・・あれでもマシになったのよ・・・」

「え」

「最初はひどかったわよ・・・香澄ちゃんが消えてしばらくは・・・何日もあの看板の前を動かなくなっちゃってさ」

「忠犬ハチ公ですか・・・」

「その頃は・・・タカシとか・・・みんな一生懸命になだめてた・・・波奈江なんて毎日ね」

「・・・」

「それから・・・今度は看板の前っていうか・・・香澄ちゃんのポスターのある場所にも近づかなくって・・・」

「痛いですね」

「その頃は・・・死ぬかもって思ったわ・・・予言はしなかったけどね」

「・・・」

「ようやく・・・看板の前で挨拶するようになったわけ・・・」

「はあ」

「波奈江はさ・・・香澄ちゃんがいなくなってから・・・ますます朝日が好きになっちゃったじゃないかな」

「どうして」

「さあ・・・女々しい男をキモいって思う人もいるけど・・・一途なところに魅かれるタイプもいるでしょう・・・波奈江は見すぎちゃったのよね・・・香澄ちゃんを思い続ける朝日のことを」

「・・・バカですね」

「バカなのよ」

その時・・・勢津子は測るように夏希を見つめるのだった。

勢津子は予言者だからである。

絶対に叶えられない願いなんてあるのかな

絶対に救えない人なんているのかな

他の誰かじゃなくてあなたはあなたに決まってる

そういうすごくかんたんなことだから

夏希は朝日に電話をかけずにはいられない。

「もしもし」

「ハロー」

「え・・・あのさ・・・私だけど」

「まだ・・・なんか・・・俺に文句がありますかあ」

「何・・・あんた・・・酔ってるの」

「酔ってると・・・怒りますか」

「・・・」

「酔ってるのは・・・それだけで許されませんかあ」

「ちょっと・・・あんた・・・どこにいるのよ」

気配で波奈江は目を覚ます。

「どうしたの・・・」

「朝日のね・・・様子がね・・・」

「きっと・・・あそこにいるな」

二人は大看板の前にやってきた。

「こんばんは・・・・ボクは律義な男なんで・・・看板にもそうじゃない人にも挨拶できるんですよお」

「ちょっと・・・飲みすぎだよ」

「俺だって・・・俺だってな・・・香澄が帰ってくるなんて・・・そんなことないって・・・分ってたさ・・・でも・・・もしかしたら・・・俺が間違ってるかもしれないでしょ・・・そしたらその間違いに賭けるしかないでしょう・・・だってさ・・・香澄はさ・・・特別なんだよ・・・世界でたった一人の最高の恋人なんだよ・・・絶対に忘れられない女なんだよ・・・誰がなんて言ったって・・・あきらめるなんて無理なんだよお」

「わかった・・・わかったから・・・私・・・あんたのこと・・・なめてたよ・・・わかったから・・・私だって同じだもの・・・あいつがさ・・・目の前に現れたらさ・・・どうなるかわかんない・・・でもさ・・・それで・・・私たち・・・幸せになれるのかな・・・あんたは・・・今、幸せなの」

「幸せにならないといけないのかな」

「え」

「誰にも分らないよ・・・香澄がいた頃の俺がどれだけ幸せだったかなんて・・・最高にハッピーなんだ・・・最高にハッピーなんだよ・・・なぜなら。香澄が最高の女だからさ・・・あの日のハッピーを取り戻せないなら・・・ハッピーなんてくそくらえなんだよ」

「いいじゃない・・・それで・・・無理にあきらめる必要なんてないもんね」

波奈江はずっとそうしてきたように朝日に寄り添うのだった。

「こうやって・・・飲むの・・・久しぶりだね」

朝日の中で波奈江の記憶が走馬灯のように蘇る。秋の夜。冬の夜。春の昼下がり。夏の夜明け前・・・。

「お前さ・・・いつも隣にいるよな・・・」

「だって・・・それしかできないんだもん」

夏希は「愛するモデルに逃げられたカメラマン」と「その男のモデルになりたい女」の背後で佇むのだった。そんな二人に微笑みかける巨大な看板の中の消えたモデルの女。まるで何かの呪いにかけられたような気がするのだった。

「夏希・・・夏希も飲もうよ」

波奈江に声をかけられて呪縛が解ける夏希・・・。

もう・・・飲むしかない夏の夜なのである。

翌日・・・何事もなかった如くいつものようにレンタルビデオに出向く波奈江。

ヒカルは幽霊を見たような蒼白な顔をしている。

それには全く気がつかず・・・「48時間」をチェックする波奈江。

「え・・・」

「今日の・・・昼・・・返しにきたよ・・・」

「嘘・・・」

何故か・・・涙の止まらない波奈江だった。

「レストラン青山」に報告に来る波奈江だった。

「やったじゃん・・・」

「うん・・・」

二人の間に一瞬の不安がよぎる。何かが変わるのはそれがなんであろうと恐ろしいことでもあるからだ。

そこへ・・・朝日がやってきた。

その和やかな態度に心が緩む二人。

「今日は・・・終り?」

「うん」

「じゃ・・・賢二さんのところへ行く?」

「行くよ」

「・・・」

「じゃあ・・・二人で先に行っててよ・・・私・・・ちゃっちゃと片付けるから」

「手伝うよ」

「私も」

「そう」

「波奈江・・・」

「なに・・・」

「今度の月曜・・・暇かな」

「暇に決まってるてしょ」

「じゃ・・・あけといて・・・俺、休みだから・・・撮るよ」

「何を・・・」

「波奈江を・・・約束だからな」

波奈江は微笑んだ。

朝日は微笑んだ。

そして、夏希も微笑んだ。

響くサラウンドの波

時が溶けてゆく真夏の夜

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Sn003 ごっこガーデン。大看板前土用の丑の日うなぎ三昧パーティー会場。エリ「DVDと写真撮影のエンドレス・サマーかと思ったらついにレンタルショップに帰って来た48時間なのでス~。エリの読み通りに波奈江ちゃんが一点リードの展開なのですよ~。しかし、油断はできませんね。じいや~、山椒、も~少し~まこ朝日DVD返却祭りを開催中でしゅ~。明日、みさき駅前を祝賀パレード正午出発だじょ~。香澄ちゃんの出番少なめなのは「プロポーズ大作戦」リピートよろしく作戦でしゅかっ。胸と胸の勝負に負けないためにもウナギは十段重ねで・・・山椒はストップというまでふってもらいましゅ~アンナみんなの水着はまだなのかぴょんくう心変わりを許さない夏ikasama4明治維新の夏シャブリ新しいリキに心奪われる夏mariやはり・・・スリムなだけでは殿方の気持ちは・・・Pちゃまの笑顔をもう少し見たいですね~

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2013年7月22日 (月)

撃つべし!撃つべし!撃つべし!撃つべし!撃つべし!撃つべし!撃つべし!でごぜえやす(綾瀬はるか)

山本覚馬が妹の川崎八重に送ったスペンサー銃は七連発のレバーアクションライフルである。

カートリッジ式の弾倉であるために・・・予備弾倉を所持すれば、さらに連発が可能だった。

優れた射撃能力を持つものが射手となれば近距離射撃戦で恐ろしい威力を発揮したはずである。

一人で七人の敵を数秒で倒すことも可能だからである。

もちろん・・・平和な日本では単なる乱射殺人のイメージを喚起するだけかもしれない。

しかし・・・そういうことも恐れず描写するのが芸術表現というものだろう。

西郷隆盛はこの年の書簡の中で前年の鳥羽伏見の戦争について触れ、「弟の信吾(西郷従道)は敵陣深く進み、耳の下あたりから首にかけて射ぬかれましたが大した傷ではなく、次の戦にはまた出ると言っており、大山弥助(隆盛の父の弟の子・大山巌)は耳を撃たれましたが休むことなく連戦しています。この二人には負傷しないようなら追い返すと申しつけておりました。二人とも充分に戦って負傷したので誠に悦ばしい事だと思います」と認めている。

そういう男たちが咎められることもなく褒めそやされて生きていた時代なのである。

で、『八重の桜・第29回』(NHK総合20130721PM7~)作・山本むつみ、演出・末永創を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は会津戦争を勝利に導いた東山道先鋒総督府参謀の板垣退助、砲術家として野砲を改造して弥助砲を完成し新政府軍の勝利に貢献した大山弥助、耐えがたきを耐え、忍びがたきを忍び敗軍の将となり明治二年六月には側室が待望の長男出産をする松平容保、そして男装して会津鶴ヶ城を死守した川崎八重(落城篇)の四大イラスト描き下ろしで感涙でございます。引き続き明治維新後もあくまでマイペースでお願い申しあげます。

Yaeden029 明治元年(1868年)九月十七日、新政府軍は越後口、藤原(日光)口から到着した援軍を加え、鶴ヶ城包囲を完成すると総攻撃を開始した。東西から砲撃する新政府軍の前に兵糧・弾薬の尽きた会津藩士は成す術もなく沈黙した。狂乱した一部藩士は散発的に突出し、一ノ堰の戦闘で八重の父・山本権八は討ち死に。佐川官兵衛は城外で徹底抗戦を叫ぶが前藩主・松平容保は降伏・開城の意志を固める。会津藩士ではない旧幕府残党は城外山中に潜み抵抗を続けるが、その中には元新撰組隊士・斉藤一こと一瀬伝八の姿もあったと言われる。主君の密命を帯びた秋月悌次郎は新政府軍の陣営に降参の意志を伝える。九月二十二日に開城となる。その日の大町口郭門の戦闘で日向ユキの父日向左衛門は自刃する。その夜、八重は城壁に「明日よりはいづこの誰か眺むらんなれし大城に残す月影」と落書きする。自城に落書きするなどもはや自暴自棄の心情であろう。二十三日、松平容保は敵陣に出頭し、会津征討総督参謀の長州藩士・山縣狂介(有朋)と大総督府軍監の薩摩藩士・中村半次郎(桐野利秋)に面会して降伏文書に調印をする。半次郎はこの日男泣きをして降伏した会津藩士を手厚く遇したという。謹慎した松平容保は後に宝刀を贈り占領軍の温情に対する謝意を示したと言う。二十四日、藩士たちは猪苗代城跡の謹慎所に移る。この中に川崎尚之助も含まれていた。八重たち女子供は校外の村々に分散し賊軍の家族として避難所生活を始めるのだった。二十六日、会津藩の降伏を受けて列藩同盟最後の一藩となった庄内藩も恭順の意を示す。庄内藩は戦わずして負けたのである。そのために庄内藩は戦場にならなかった。

松平容保による焦土化作戦により・・・会津城下は焼け野原となっていた。

開城に先立ち、城内では書類の焼却や武器の処理が行われた。

しかし、新政府軍が武装の納入を求めたために・・・廃棄処分は見送られた。

八重の率いるくのいち部隊は鉄砲や弾薬などを地下通路を通じて城下の地下倉庫に移送していた。

森の石松は皮肉を交えて言う。

「へへへ・・・運び込んだものをまた運びだすんじゃ・・・世話ないねえ」

「・・・」

八重は無言で機嫌の悪さを示していた。

「清水の親分様には・・・感謝の意を申し伝えてくださりませ」

八重に代わって佐久が旅の食糧として石松に握り飯を渡しながら言う。

戦死した権八は婿であり、山本忍びの血脈は佐久を通じて八重たちに伝わっているのである。

「これから・・・御一家はどうなさるのでごさんしょう」

「さあ・・・幕府も敗れ・・・会津も敗れ・・・この先どうなるかなんて・・・このご時勢じゃ誰にもわからねえんじゃ・・・でがしょう」

「へ・・・そりゃ・・・そうですねえ」

「道中、お気をつけていかれなんしょ」

「へい・・・皆さんもどうか・・・ご無事で・・・」

石松は去って行った。

小田山付近の避難所に身を落ちつけた山本家の女たちは冬に備えねばならなかった。

八重は隠匿した鉄砲を改良して何丁かの猟銃を仕上げている。

そして・・・若い娘たちを仕込むために山に入るのだった。

その中には山川家の幼い娘・咲もいた。

「本当の深山に入るのはまだ無理だが・・・裏山にならあんたらでも行ける・・・そこで食い物を手に入れなければこの冬は越せねえと思え」

娘たちは神妙に八重の話に耳を傾けていた。

「山には木の実もあれば野草や芋、木の子もある・・・それらの見分けが肝心だ」

咲は言う。

「ウサギやタヌキを撃つのだか」

「それはまだだ・・・罠を仕掛けて捕まえる方法さ・・・教えるべ」

娘たちはクスクス笑う。

八重も・・・幼少の頃、山に入って・・・父と熊を撃った。

その日々はもう帰らないのだった。

新しい時代がやってこようとしている。

(はたして・・・それはくのいちが生きられる時代なのか・・・)

八重は生まれてはじめて不安を感じたのだった。

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2013年7月21日 (日)

あまちゃん、十六曲目の土曜日(有村架純)

ジグソーパズルのような青春絵巻である。

断片が渦巻き、らせんを描いて、アキの・・・ユイの・・・春子の青春が交錯していく。

そして・・・誰のせいでもなくて・・・夢だけ置き去りに・・・ぬけがらだけが宙に舞う・・・いい事なんかなかった季節に・・・「GOOD-BYE 青春」なのである。

誰が作詞・秋元康、作曲:長渕剛の歌を歌えと云った。

さて・・・春子の青春・・・「アイドルになる夢を追いかけた季節」は映画「雨に唄えば」(1952年)的な筋立てで残酷な物語となっていく。

このドラマは・・・かなり異常な感じで「雨天」がないわけだが・・・「傘」が登場するのはGMTの宮下アユミが去っていく「別れの記念撮影」くらいなのである。

もちろん・・・舞台となる北三陸市は雪国だから雨よりも雪なのだが・・・降雪のシーンがそれほどあるわけでもない。

そうなると春子の「雨に唄えば」的な秘話が一つのイメージ的な縛りになっていたと妄想することもできる。

もちろん・・・「あまちゃん」であるために・・・水は・・・「海」に限定したいとう拘束かもしれないし・・・。

いよいよ・・・一年後に迫って来た「あの日」のイメージによる呪縛も考えられる。

しかし・・・晴れた日で綴られていく「あまちゃん」の物語はヒロインの素晴らしきアホの世界を強調しているようにも思えるのだった。

「あまちゃん」のことをあれこれ妄想しているたけで・・・一日が終わり、次の日の「あまちゃん」に逢える日々の・・・なんと恐ろしいことだろうか。

ユイの「アイドルになる夢を追いかけた季節」も終り・・・春子とユイの「希望」を背負ったアキの本格的な夢の始り・・・それが苦難の道であることは言うまでもないだろう。

やがて・・・「あの日」がやってきて・・・おそらく多くのものを失うアキ。しかし・・・その後で・・・「潮騒のメモリーズ」が復活したらいいよなあ・・・と心から祈るのだった。

四回目の起承転結のサブタイトルは次の通り。

第13週「おら、奈落に落ちる

第14週「おら、大女優の付き人になる

第15週「おらの仁義なき戦い

第16週「おらのママに歴史あり2」

ユイの青春が18歳で終わり、春子の青春が22歳で終わる。そして・・・波乱に満ちたアキの青春は来週からが本番なのである。

で、『連続テレビ小説・あまちゃん・第16週』(NHK総合20130722AM8~)脚本・宮藤官九郎、演出・梶原登城を見た。2008年、母の故郷・岩手県北三陸市(フィクション)にやってきた高校二年生のアキ(能年玲奈)は祖母の夏(宮本信子)に憧れて海女になり、母親・春子(小泉今日子)の歌声を聞いて、大女優・鈴鹿ひろ美(薬師丸ひろ子)に恋焦れる。そして親友のユイ(橋本愛)と共に高校三年生の夏の終りにアイドルを目指して上京する予定が・・・ユイの家庭の事情で狂い・・・東京では失敗の連続・・・2010年の正月・・・凹んだ気持ちで帰郷するのだった・・・。しかし、アキが不在のたった四ヶ月で北鉄のアイドル・ユイは高校も中退し眉毛のないあばずれとなっていた。

月曜日 ギザギザハートの潮騒のメモリーズ(橋本愛)

沖縄出身のGMTメンバーで朝日奈学園のクラスメートであるキャンちゃんこと喜屋武エレン(蔵下穂波)とともに実家でくつろいでいたアキに・・・ユイからの呼び出しがかかる。

ヤンキーと化したユイ・・・一部地方やださい青春ドラマなら事件になるところだが・・・北三陸市では・・・海女カフェの薄暗がりで二人はただ密やかに再会するのだった。

豹変したユイに戸惑うアキは舞台に腰掛けてネイルを塗る親友を見つめる。

呼びだされたのだから・・・話しかけられるのを待つしかないのだ。

ステージにはシーズンオフのため・・・水中カメラのモニターの代わりに潮騒のメモリーズの大看板が設置されている。目を泳がせたアキは思わず・・・楽しかったあの日の二人を思い出す。

潮騒のメモリー

17才は

寄せては返す波のように

激しく

しかし、二人はもう18歳だった。

「懐かしい?・・・」ようやく言葉を発するユイ。

ユイも何を話していいのか・・・迷いに迷っているのである。

「うん・・・四ヶ月しかたってねえのに・・・もっと長く・・・」

ユイにとってはつい昨日のことなのである。

ユイの時間は停まっている。

しかし・・・もう一人のユイにとっては・・・それはすでに終った時間でもあった。

分裂した二人のユイ。

一方のユイはアキに救いを求め、もう一方のユイはアキを激しく憎む。

二人のユイはなんとか・・・言葉を紡ぎ出そうとする。

「ここでイベントやったよね・・・ナンダッケ?」

「海女~ソニックだ」

「ソウソウ・・・テレビで生中継もされたよね」

「んだ・・・楽しがったよね」

アキはユイがユイらしいことに安心する。

二人は一心同体で二人三脚で一蓮托生なのである。

ふたりはプリキュアで・・・死ねばもろともで・・・永遠の絆で・・・。

「ゼンゼン」

「じぇ・・・」

「タノシクナカッタ・・・ワタシハゼンゼン」

「・・・」

「・・・アンナノ消シタイ過去」

「・・・」

「忙しくって帰ってこれないって・・・キイタケド」

「ああ・・・なんかヒマになっちゃって・・・お父さん、退院したんでしょ?」

「うん・・・アア、ソウミタイダネ」

「・・・」

「家、帰ってないの・・・最近、友達んちとか・・・トマリアルイテイルカラ」

「じゃあ・・・来れば?」

「・・・」

「東京おいでよ・・・みんな待ってるよ」

「ミンナ・・・って誰?」

「水口さんとか・・・太巻さんとか・・・あと・・・メンバーも」

「ククク・・・メンバーダッテ」

「沖縄の子はリアスで会ったべ・・・あと、宮城のことか」

アキは携帯に保存された新しい仲間たちの画像を見せようとする。

しかし・・・ついにアキに救いを求めるユイは消滅し・・・アキとアキの東京でのアイドル活動に嫉妬して目が眩み憎悪の権化となったユイが爆発するのだった。

「もう・・・いいわっ。もういいっ。ヤメタッ。行カナイッ。ヤリタクナイッ」

「え・・・」

アキは思い出す。お座敷列車直前に・・・急に弱気になったユイを。

「ドウデモイイ、カカワリタクナイッ」

だからアキはあの日のように一生懸命にユイを励ます。

「・・・大丈夫だ・・・みんな性格いい子で・・・ユイちゃんのことセンターにふさわしいって・・・」

しかし・・・あの日のユイはもう消えてしまったのだ。

「アキラメタワケジャナイノ。サメタノ。カンゼンニサメタ・・・ダッテ、あいどるナンテ・・・ダサイジャン・・・」

「ださい・・・」

「ダサイヨ」

「・・・」

「オタクアイテニナマアシダシテコビウッテ・・・真ん中に立って・・・ソレガナンナノ」

「・・・」

「・・・暦の上ではディセンバー・・・ダカラナニ・・・絶滅危惧種、下町アイドル・・・シラネエヨ」

ユイが一人レッスンしていた形跡を痛々しくふりまきながら覚醒と言う名の諦念に至る論理を噴出させていく。

「ソノシタデショ・・・ダサイあめ女ノダサイ妹分ガじーえむてぃーナワワデショ、ウケルー」

手に入らないもの。それを蔑むことは。

「イマトナッテハ夢中ニナッテイタ自分ガハズカシイッテイウカ、モウ黒歴史」

否定して・・・否定して・・・どこまでも否定して。

「昔ノ自分ヲ知ッテイル人ニナンテアイタクナイ・・・ミス北鉄トカ潮騒のメモリーズトカユイチャントカアキチャントカ・・・ホントニムリ・・・カンベンシテホシイ」

アキはユイが過去を否定していることに・・・過去のユイとアキを否定していることに・・・漸く気がついた。

「そりゃ・・・ねえべ・・・」

アキの表情に・・・とりかえしのつかないことをしてしまった自分自身を見るユイ。

「・・・セイゼイガンバッテヨ・・・オウエンシテマスンデ」

捨てるに捨てれなかった期限切れの新幹線のチケットを破り捨て、捨てゼリフを残して逃げ出そうとするユイをアキは逃がさない。

「ユイちゃん・・・あんまりでねえか。おらは・・・ずっと待ってたんだぞ・・・ユイちゃんのこと、ずっとずっと待ってたんだ・・・ユイちゃんが・・・必ず行ぐって言うから・・・すぐ行ぐって言うから・・・待ってたんだぞ。その言葉だけをずっと信じて・・・おらは待ってたんだぞ・・・それなのに・・・・・・・なんだよっ・・・さめたとか・・・やめたとか・・・恥ずかしいとか・・・ださいとか・・・おら・・・・・・なんのために・・・東京さ行って・・・奈落で・・・風呂もねえ合宿所で・・・」

「ソンナノ・・・シラネエシッ」

「ださい・・・そんなの最初から知ってる・・・ユイちゃんがアイドルになるって言い出した時だって・・・ダサイと思ったから聞こえねえフリしたくらいだ・・・でもユイちゃんはもう一度大きな声でアイドルになりた~いと言ったんだ。ダサイの通り越してバカだと思ったほどだ」

「ワタシガワルイッテイイタイノ?・・・ミンナワタシノセイナノ」

「ちがうべ・・・」

「ジャ・・・何ナノヨオ・・・」

アキの言葉に死んでいるユイが揺り動かされる。

「アキちゃんは・・・なんで・・・やってたの」

「楽しいからに決まってるべ。ださいけど楽しいから・・・ユイちゃんと一緒だと楽しいからやってたんだべ・・・ださいくらいなんだよ・・・我慢しろよ」

我慢して我慢して我慢しているアキ。

他人にはそうは見えないが・・・アキとしては東京での生活は耐えがたきを耐え、忍びがたきを忍んだものだった。すべては・・・ユイが来るまでの辛抱だったのだ。

それを全否定されたアキは押さえていた怨みつらみを全開で吐露するのだった。

「みんな・・・おらじゃなくてユイちゃんを待ってた。おらだってわかってたけど・・・みんながみんなユイちゃんユイちゃんで・・・警備員のおじさんにまで比較されて・・・さすがのおらも傷ついた・・・でも・・・みんなが必要なのはなまってる方じゃなくて・・・かわいい方に決まってる・・・なんてったってアイドルだ・・・おらは何度も思っただ・・・逆だったらいがったのに・・・おらが残ってユイちゃんが来ればよかったのにって」

「ハア?・・・逆~?」

しかし・・・アキの一言は再び、果てしなき緊張と限りない悔恨の果てのユイの激昂を呼び覚ますのだった。アバズレ化したユイはアキを突き飛ばす。

「逆だったらよかったなんて・・・そんなこと軽々しく云わないでよ・・・母さん蒸発して病気の父さん置いて行けるワケないでしょうがっ。退院したって安心できないの。再発の恐れだってあるし、兄貴一人に任せておけないし、分るかなあ・・・アキちゃんみたいな気楽な身分じゃないのよ・・・カワッテホシイノハコッチダヨ!」

母親の春子にぶたれるのには慣れているが親友からはじめて突き飛ばされたアキは思わず東京で目撃した・・・ユイの母親であるよしえ(八木亜希子)のことを思い出す。

大好きなユイちゃんをここまで苦しめているのは自分ではなくあの女だと思わずにはいられないアキだった。

「お母さん、帰ってこないよ」

しかし・・・それ以上のことは言えないアキ。

ユイの動揺から親友が思った以上に母親思いだと直感したからである。

「そんなことないよ・・・帰ってくるよ・・・母さん・・・帰ってくるよ」

ユイはうわごとのようにつぶやく。

結局・・・父親や母親に愛されて・・・その上でアイドルに憧れていたユイだった。

父親や母親を殺してでもアイドルになりたいわけではなかったのだ。

ユイもまた甘ちゃんに他ならない。

しかし・・・ノーガードの討ちあいに突入したジョーのパンチは止まらないのである。

「おらだって・・・必死にふんばって・・・はい上がろうとしてんだ・・・気楽な身分じゃねえぞ」

アキの自嘲がユイには鼻持ちならない言葉に聞こえる。

「40位の繰り上げ当選のくせに・・・自慢しないでよ」

「自慢じゃねえ・・・それがおらの現実だ・・・ださいのなんて・・・そんなの自分が一番わがってることだ」

「・・・」

「でもな・・・ユイちゃんがどんたげ不幸か知らねえが・・・ここで過ごした二人の思い出まで拒否られたら・・・おら、やってらんねえっ!」

アキには分っていた。ユイがそんなことをアキに言いたいわけではないことを。

だがアキには分っていた。ユイには言いたくないことを自分が言っていることを。

ユイにも分っていた。アキがそんなことをユイに言いたいわけではないことを。

だがユイにも分っていた。アキには言いたくないことを自分が言っていることを。

二人はいっぱいいっぱいだったのだ。

これ以上、傷つけるのにも傷つけられるのにも耐えきれず、アキはユイを振り切って海女カフェを飛び出すのだった。

置いていくのね さよならも言わずに

再び会うための 約束もしないで

その頃・・・死の淵から生還した足立功(平泉成)はろくでもない大人たちに囲まれて久しぶりの一杯を味わっていた。

ろくでもないストーブことヒロシ(小池徹平)のろくでもない嘘にも関わらず・・・ろくでもない妻が自分を見捨てて出奔したことも分っている功。

「馬鹿な妻だ・・・でも何より・・・ユイにはすまなかったと思っている」

ろくでもない大人たちはろくでもない過去をふりかえり・・・とりあえずろくでもない酒を飲むのだった。

足立父子を送り出した春子は・・・構内に一人座りこむユイを発見する。

「あれ・・・どうしたの・・・ユイちゃん・・・」

「私・・・アキちゃんを・・・アキちゃんを傷つけちゃった」

「・・・」

泣きじゃくるユイを抱きしめて我が子のように宥める春子だった。

ゼブラとパンサーの種族を越えた愛だった。

その頃、アキは何もかもを失くした気分で・・・天野家に戻っていた。

そこには・・・祖父母や仲間がいた・・・たが、たった一人の親友だけがもういないのだ。

アキにはそう思えてならないのだった。

来てよ その川 乗り越えて

三途の川の マーメード

友達少ない マーメイド

マーメード 好きよ 嫌いよ

火曜日 たったひとつの失われたセリフ(能年玲奈)

2010年1月2日。里心がついて沖縄に帰省することにしたキャンちゃんをアキと夏は駅まで見送りに来た。

どうやら旅費は北鉄&観光協会が持つらしい。アキは地元ではアイドルなのである。栗原ちゃん(安藤玉恵)が航空券を持って現れる。そして、吉田くん(荒川良々)が北三陸から那覇に至る道程を説明するが一回噛んでしまい、セリフは途中で端折られるのだった。電車から旅客機への見事なトランスフォームがパラパラマンガ的に泣かせるのだった。

一方、天野家ではドラマ「メイドインジャパン」(NHK総合2013年)でおなじみのタクミ電機のプラズマテレビとハードディスクレコーダーを購入していた。もちろん、今夜、放送のアキが出演する「新春SPおめでた弁護士」に備えてのことである。

しかし、アキは春子の秘密の部屋に引き籠っているのだった。

そんなアキを急襲する春子。

「あれ・・・ママ、どうしたの・・・リアスは?」

「ユイちゃんにまかせてきた」

「そうか・・・」

「ユイちゃんと・・・なんかあった・・・」

「おら・・・ユイちゃんを傷付けちまった・・・ママからあやまっといてけろ」

人は誰のため 涙 流しても

傷つけあう 青春を

尽きることの無い 熱い嘆きを

身体ごとぶつけて 闘うわ

アキとユイはお互いを傷つけあったのか・・・。

春子は困惑しつつも若い二人をうらやましく思うのだった。

しかし、春子は疑い深い母親である・・・アキの落ち込みの理由をもう少し探索してみるのだった。

「東京はどうなのよ」

「どうって・・・」

「東京の話を聞かせろよ・・・地下鉄銀座線は相変わらず地下街のラーメン屋のだしの匂いがするのかな~」

「なわけねえべ」

じゃれつく母親を軽くあしらうアキだった。

「ママ・・・おかしいぞ」

「四ヶ月も離れてたから可愛がってんだろう」

「うへへ」

母親としてははじめての子供と別れた生活に違和感を持っているのだが、巣立ちはじめたアキにはそれほどのことでもないのだった。

「どうなのよ・・・芸能界は・・・誰と誰が付き合ってるとか・・・誰それの年収とか・・・スナック向けの下衆いネタはないの。鈴鹿ひろ美の性格がドス黒いとか、酒癖がマジ悪いとかウエルカムよ~」

「そんなものはねえ・・・そうそう・・・社長にはママのこと話したぞ」

「そう・・・なんか言ってた?」

「いや・・・ママと太巻社長はどんな関係だ・・・」

「関係も何も・・・ただのウエイトレスと客だよ」

←←←←←(時間を巻き戻し)←←←←←・・・1985年。アイドルとしてのデビューを目指し、原宿の純喫茶「アイドル」でウエイトレスをしていた若き日の春子(有村架純)。店のマスター甲斐さん(松尾スズキ)の紹介で当時、26歳の太巻こと荒巻太一と会話を交わすようになる。

太巻は芸能事務所の駆け出しのマネージャーで春子にプロフィールを作ることなどをアドバイスするのだ。

「その髪形・・・」

「聖子ちゃんカットです」

「でも・・・聖子もその髪形してないよね」

それどころか・・・この年、かねてから交際していた郷ひろみと破局した聖子は半年後には神田正輝と「聖輝の結婚」をして、翌年には長女SAYAKAを出産、元祖ママドルになるのだった。ジャケット写真がショートカットの「天使のウィンク」はこの年発売の松田聖子の20枚目のシングルで聖子は結婚休業後、この年の紅白歌合戦に姿を見せてこの曲を歌うのだ。

若き日の春子は時代遅れで世間知らずの小娘だったのである。

→→→→→(時間を早送り)→→→→→・・・「それで・・・ママはその気になったのか」

「その気ってどんな気よ」

「だから・・・スナック受けする下衆い気だ」

「そんなわけないでしょ・・・」

「そうか・・・おら・・・昔、ママと社長がいろいろあって・・・それでおらが冷遇されているのかもって考えちまった。だめだな・・・おら・・・自分の実力のなさを棚に上げて人のせいにするなんて・・・でも・・・なんかすっきりしたぞ・・・すっきりしたら・・・腹さへった・・・夏ばっぱ・・・餅焼いてけろ~」

部屋から飛び出したアキを見送った春子の表情に幽かな曇りが生じるのだった。

春子と太巻には・・・明らかに何かあったのである。

やがて・・・天野家には次々と人が集まり、新年会のような賑わいとなるのだった。

アキは最後の希望である「セリフのある役で憧れの大女優・鈴鹿ひろ美とドラマで共演」に期待をかけるのだった。それはアキにとって何もいいことがなかった東京での唯一の成果なのである。

もちろん・・・北三陸の人々はアキの晴れ姿を見ようと集まってくるのだが・・・そこにはあまり期待しすぎないようにしようという気遣いも伺える。

忠兵衛(蟹江敬三)と組合長(でんでん)は邪気祓いの鬼であるなもみ(ナマハゲやスネカと同種の妖怪である)に扮し、来客を迎えるのだった。

花巻一家は珠子(伊勢志摩)を始め、鈴(小島一華)も琴(吉村美輝)もなもみに無反応だったが・・・美寿々(美保純)の交際相手のバングラデッシュ人のカマール(アベディン)は「悪霊」と信じて腰を抜かす。さらにカマールはアキを女優として紹介されると「濡れ場」「R指定」などと連発し美寿々の日本語教育の乱れを暗示する。

大吉(杉本哲太)も春子の亭主面をして・・・「プロポーズの返事はまだだけど・・・ノーでない限りイエスだと思っている」と前向きに考えつつ・・・「もしも、春子と結婚したら・・・おらのことパパって呼んでくれるか」とアキに迫るのだった。

そんなてんやわんやの中、「新春SPおめでた弁護士」は放映される。

一方、スナック「梨明日」は静かな夜を迎えていた。

留守番ママはユイ。客は琥珀の勉さん(塩見三省)と磯野先生(皆川猿時)だけである。

そこへ吉田くんが入店する。

「・・・静かだね・・・別の店みたいだ・・・水割り・・・」

「・・・はい・・・」

氷をつまむユイ。

グラスに氷を入れるユイ。

グラスにウイスキーを注ぐユイ。

グラスにミネラルウォーターを注ぐユイ。

グラスの中をタンブラーでかき混ぜるユイ・・・。

「うわあ・・・もうだめだ・・・辛抱できねえ」

吉田くんは店のテレビをスイッチ・オンするのだった。

画面では寿蘭子(鈴鹿ひろ美)が「双生児を妊娠していること」を告げられて軽く驚いていた。

そして・・・件の廊下のシーンとなり・・・「もうすぐだ」というアキの言葉で天野家もシーンとなるのだった。

ドアを開けて隣人C(天野秋)が一瞬姿を見せるが・・・セリフがないままに「怪しいインド人の登場するバイク買い取りのCM」となってしまう。

おそらく・・・CM後に鈴鹿が「結局、島田は先週引っ越していたわ」などと言っているはずである。

アキのセリフがあってもなくてもいい展開で・・・アキのセリフは編集でカットされてしまったのだった。

アキは茫然とするのだった。

アキの表情から事態を察する春子だった。

結局・・・アキのセリフはないまま・・・番組はエンディングを迎える。

天野家でもスナック「梨明日」でも微妙な空気が流れる。

ユイの表情にようやく・・・苦境に立っている親友を案じる気持ちが浮かぶ。

事情を知り心苦しくなる・・・一瞬の変化で見せるその表情が実に素晴らしいのだった。

アキは・・・追い詰められて・・・マネージャーの水口(松田龍平)に電話をするのだった。

「あの・・・アキです」

「見たよ・・・うん・・・セリフなかったね。でもそういうのはよくあることだから」

「おらが・・・40回もNG出したからですよね」

「そんなことはないさ・・・ちゃんとOKが出ただろう・・・カットされたのはあくまで時間の問題さ・・・」

でも・・・とアキは思うのだった。

ユイちゃんだったら・・・セリフはカットされなかっただろう。

なまってる方だから・・・いらないセリフになってしまったのだ・・・と。

「アキちゃん・・・そんなこと気にしてたら芸能界じゃやっていけないよ」

芸能界じゃやっていけない・・・の部分だけが心に響くアキ。

「で・・・いつこっちに帰ってこれるかな」

アキはすでに電話を切っていた。

夏はレコーダーの再生、スローサーチ、一時停止を使いこなし可愛い孫を何度も見るのだった。

「うわあ・・・アキだあ」

夏は心からはしゃぐ。

春子は無邪気な母を楽しそうにからかう。

「何回見れば気が済むのよ・・・」

しかし・・・その言葉も奈落の底へ沈んでいくアキの耳には届かない。

一人で東京へ行き・・・みんなに可愛くない方と言われ・・・奈落でひたすらシャドウを勤め・・・人気投票では解雇寸前となり・・・憧れの大女優との共演では大失敗して女優にむいてないと宣告され・・・たった一人の親友からは見捨てられ・・・たったひとつのセリフはカットされ・・・アキは自分自身にほとほと嫌気がさしている。

辛い 辛すぎるけど

決して 負けはしないわ

切れた 切れたくちびる

噛みしめて 夢を見るの

水曜日 新巻鮭の下で留守番電話を聞いてくれ(松田龍平)

すでに三が日は終っていた。2010年の街は正月気分ではないのである。

谷中にある「まごころ第2女子寮」にサングラスをかけた怪しい女がやってきた。

女は既にGMTの合宿所を見下していた。

「ちっ・・・マジかよ」

女はマメりんこと・・・奈落に落ちた元アメ女のセンター有馬めぐ(足立梨花)だった。

何故か・・・アキのベッドに入り込み、勝手にアキの私物を整理し始めるマメりん。

GMTのメンバーを代表して「リーダー」の入間しおり(松岡茉優)は抗議を申し入れるのだった。

「あの・・・それ・・・アキちゃんの私物なんで・・・勝手なことはやめてください・・・」

「その子・・・辞めたって聞いてるけど」

「じぇ・・・」戸惑うメンバーたち。

マメりんの上で寝る・・・想像しただけで卒倒しそうになる小野寺薫子(優希美青)だった。

仕事始めの観光課はストーブがストーブでもちを焼いていた。

血相を変えて飛び込んできた大吉は「アキが海女カフェで働いていること」をお年玉付きで発表するのだった。

アキは海女カフェで笑顔で働いていた。

地元ではまだまだ根強い人気があるアキによって海女カフェは正月早々活気にあふれているのだった。

「まさに・・・掃き溜めに鶴だな」

「昨日まではただの掃き溜めだった」

「じゃ・・・掃き溜めカフェか・・・」

邪な大人たちは勝手なことを言うのだった。

「これでユイちゃんが復活したら・・・」と大吉は算盤をはじき始めるのだった。

営業終了後の海女カフェでストーブはアキに話しかける。

「ユイもね・・・最初の頃は本当にがんばってたんだ・・・親父が倒れているのを発見したのもユイだし・・・そうじゃなかったら・・・手遅れになるところだった。アキちゃんからメールが来る度に報告してきたし・・・いつでも出発できるように荷は解かなかった。父さんが初めて歩いた日は観光課までわざわざ報告にきて・・・父さんが美空リハビリだの、前田リハビリだのだじゃれを連発したことをうれしそうに話していたよ。あの頃が・・・足立家の最後の幸せな日々だったんだよね。もちろん・・・ユイには眉毛があったんだ」

「やはり・・・お母さんのことが・・・」

「・・・そうだね・・・母さんがいなくなって・・・道が断たれたって・・・思ったんだろうね・・・そして眉毛もなくなった」

「おらが・・・一人で行かなければよかったんだ・・・ユイちゃんが行けるようになるまで・・・抜駆けなんかするから・・・しょぽいことになっちまった」

「そんなことないさ・・・ユイがアキちゃんに行くことを頼んだんだし」

「おらが行っても無駄だった・・・ユイちゃんが居れば百人力だけど・・・おらだけじゃ、一人前にもなれねえ」

「・・・アキちゃん」

アキは絶望したユイに甘えて・・・鞭打つような言葉を吐いた自分に愛想が尽きていた。

仮面をつけて生きるのは 息苦しくてしょうがない

どこでも いつも 誰とでも 笑顔でなんかいられない

世界がゆがんでいるのは 僕の仕業かもしれない

スナック「梨明日」でユイは勉さんの琥珀に目が止まる。

「それ・・・きれい・・・私にもやらせて・・・」

勉さんは喜んで琥珀をユイに渡す。

ユイは微笑みを浮かべて琥珀を磨き始める。

閉店後の後片付けをしながら春子はユイに話しかける。

「アキがさ・・・ユイちゃんを傷つけるようにこと言ったんだって・・・ごめんね」

「・・・」

「あの子もさ・・・なんだか上手く行ってないみたいなんだよね・・・こっちで大分強くなったかと思ったけど・・・やっぱさあ・・・東京じゃダメみたい・・・ユイちゃん・・・慰めてやってよ・・・」

「・・・」

ユイの中でせめぎあう絶望と祈り。

生きているっていうことは かっこ悪いかもしれない

死んでしまうということは とっても惨めなものだろう

だから親愛なる人よ その間にほんの少し

人を愛するって事を しっかりとつかまえるんだ

一月八日の昼下がり・・・アキはまだ北三陸にいた。

忠兵衛もいた。

「何してんの・・・」

「タコを捕まえる仕掛けを作ってる・・・」

「じいちゃんは・・・漁さ出たくねえって思うことあるの・・・」

「今がそうだべ・・・昨日も組合長にイカ釣り船さ乗んねえかって話があったのに・・・なんだかんだと断った・・・今、激しく後悔している」

「おらが・・・海女カフェでバイトしてんのも・・・現実逃避だ」

「こんな仕掛け作ったってこの季節・・・タコなんていやしねえ」

ふはっ・・・とため息をつく二人だった。

「現実はつれえな」

「んだなあ・・・」

そこへ・・・水口がやってきた。

「じぇじぇ・・・」

「なんで・・・電話に出ない・・・電話に出れないなら折り返しだろ・・・マネージャーからの電話に出ないなんて・・・」

「それさ・・・言いに来たのか」

「・・・で・・・いつ東京へ帰ってくるんだ」

「わがんね・・・」

「何言ってんだ・・・みんな待ってるんだぞ」

「せっかく・・・来たなら・・・ユイちゃんを連れていけばいいべ」

「なんだって・・・」

「どうせなら・・・かわいい方を連れてってかわいくプロデュースすればいい」

アキは水口にユイをなんとかしてもらいたかった。同時に自分自身でも呆れるほどにどうしようもなく拗ねていたのだった。

そこへ・・・忠兵衛を説得するために組合長がやってきてくんずほぐれつとなりややこしく話はこじれていくのだが・・・堪忍袋の緒が切れた水口が叫ぶのだった。

「留守電聞いてないのかよ」

「すいません」

「聞け・・・すぐに聞いてくれ」

「自分の口で言えばいいだべ」と組合長。

「同じことを・・・っていうか・・・昨日のテンションには二度となれないから・・・」

アキは仕方なく携帯電話を取り出すのだった。

「16件のメッセージがあります」

「じぇじぇっ」

((もしもし・・・天野・・・水口です・・・今は一月七日の夜です・・・一回しか言わないからちゃんと聞いてくれ・・・ここ数日、きみのことを考えている・・・正確には・・・きみのいないGMTの未来を考えて・・・激しく落ち込んでいる・・・俺はずっとユイちゃん派っていうか・・・ユイちゃんをセンターに抜擢しようとしてきた・・・でも・・・そん・・・))

ピー。

((もしもし、水口です。さっきの続き。・・・そんな逆風の中できみは・・・四ヶ月かけて自分の立ち位置を獲得した。もう君はユイちゃんの相方じゃないよ・・・GMTの天野アキだ。なまってるけど、40位だけど最下位だけどそれが))

ピー。

((それがどうしたっ・・・水口です。それがどうしたっ・・・誰が何と言おうときみの代わりはきみしかいないんだよ。そんなきみを売りだすことがマネージャーとしての僕の・・・))

ピー。

((僕の仕事だ・・・きみをきみを売りたいんだ・・・きみをきみこそが・・・ぼくの売りたいものなんだ・・・ぼくはきみを売りたいんだ・・・売りたくて売りたくてたまらないんだ))

ピー。

((だから・・・電話に出てください・・・ぼくの話をきいてください・・・今・・・入間に代わる))

ピー。

((アキ・・・なにしてんのよ・・・とっとと帰っておいで・・・約束したでしょ・・・みんなで天下をとるって・・・))

ピー。

((アキちゃん・・・真奈ばい・・・アキちゃんがおらんと・・・奈落がお通夜んごと静かで・・・はやく帰ってきてほしか・・・))

ピー。

((アキちゃん・・・アキちゃんが早く帰ってきてくんねえと・・・おら・・・マメりんと相部屋になっちまうだ))

ピー。

((ざわわ・・・ざわわ・・・ざわわあ))

ピー。

((・・・))

ピー。

((今のは大将の梅頭さんだ・・・天野・・・みんな待ってるぞ・・・みんなお前が必要なんだ・・・早く東京に戻ってこい・・・今こそ南部ダイ))

ピー。

((あ・・・アキちゃん・・・帰って来る時、磯汁の缶詰、三缶くらい買ってきて・・・いらっしゃい・・・うどんにしますかまめぶに))

ピー。

((天野さあん。あけましておめでとうございます・・・あなた田舎に帰っちゃったんですって・・・ちゃん・・・ちゃらおかしいわあ))

ピー。

「な・・・天野・・・みんな、お前を待っているんだ」

揺れるアキの心。

僕の話を聞いてくれ 笑い飛ばしてもいいから

そこへ・・・ユイが現れた。

(また・・・おらは・・・ユイちゃんを置いて出ていこうとしてるのか・・・)

アキは答えに屈し・・・あの大失恋の時のように・・・作業小屋に籠城するのだった。

「どうして・・・もう少しだったのに・・・」

落胆する水口・・・彼には近づいてくる阿婆擦れが・・・誰だか分らない。

木曜日 あきらめました・・・アイドルのことは・・・もうサインも書かない(小泉今日子)

忠兵衛や組合長の言葉には答えないアキ。

「だめだな・・・」

「やはり、ユイちゃんでねえとな」

立ち去る二人の言葉に首をかしげる水口。

近づいてきた見知らぬ不良少女の声を聞いて彼はのけぞるのだった。

「アキちゃん・・・」

「え・・・ユイちゃんなの・・・眉毛どうした・・・」

あきらめました あなたのことは

もう 電話も かけない

あなたの側に 誰がいても

うらやむだけ かなしい

かもめはかもめ 孔雀や鳩や

ましてや 女には なれない

全国津々浦々のユイちゃん派が絶叫し、滂沱の涙を流す日がやってきたのだった。

そうじゃないか、そうじゃないか、でもそんな馬鹿なと否定したかった不安が現実のものとなったのである。

仕方なく・・・夏と春子のいる母屋に挨拶に行く水口。

ユイと二人だけになったのを確かめてアキは心張棒を取り除くのだった。

ユイはそっと作業小屋に入った。

失恋して閉じこもったアキに呼びかけた小屋。

二人で「潮騒のメモリー」を練習した小屋。

一蓮托生で二人三脚の親友と過ごした小屋である。

アキはユイの言葉を待っていた。

「一緒に行こう」と言ってくれるのを・・・。

「海女カフェでひどいこと言ってごめんね」

「・・・お互い様だ」

「アキちゃんにあたっても仕方ないってわかってるのに・・・アキちゃんにあたるしかなかったんだあ」

「それもお互い様だ」

アキはユイの声が哀しみに沈んでいるのが哀しかった。

ユイちゃんは・・・。

「おらは・・・奈落にもシャドウにもわがままな女優の付き人にも耐えられた。それは・・・みんなユイちゃんのためだと思えたからだ・・・でも・・・さめたとか・・・ださいとか言われて・・・おら・・・何のためにやってるのか・・・わかんなくなった・・・モチ・・・モチが・・・」

「モチベーション?」

「んだ・・・おら・・・ユイちゃんがいなかったら・・・アイドルなんてやってられね」

「海女は・・・?・・・海女はどうなの」

「海女は・・・自分のために・・・やった」

「自分のために・・・歌ったり踊ったりはできない?」

「・・・どうかな」

「私は・・・あきらめた・・・さめたんじゃなくて・・・あきらめたの」

ああっと絶叫する一部お茶の間。

「・・・」

アキは戸惑う。

「でも・・・見てるから・・・アキちゃんを見てるから」

「・・・」

アキは理解する。

「だから・・・アキちゃんは東京に行って・・・自分のために・・・」

アキには逃げる場所はなくなっていた。

「・・・おら・・・やる・・・やってみる」

和らいでいく二人の間の空気。

ユイは袋から・・・色紙を取りだした。

かってアキはファン1号としてユイのサインをもらったのだ。

今度はユイがアキのファン1号になるための儀式をするのだった。

涙が止まらないユイちゃんファン一同。

「サインを書いて・・・」

「うん・・・」

アキはサインを書いた。

「・・・あるんだ」

ユイが微笑む。

「エヘヘ」

アキが微笑みを返す。

「ありがとう・・・大事にする・・・頑張って・・・もしもダメだったら・・・帰ってくればいいよ」

ユイの言葉に素直にうなずくアキだった。もはやユイちゃんマニア一同は涙で前が見えないのだ。

二人は手に手を取り合って・・・小屋を出た。

「結局さ・・・過去の自分を否定しなきゃ・・・乗り越えられなかったのよ・・・今の自分を受け入れられなかったの・・・だから・・・ユイちゃんの眉毛はどっか行っちゃったの・・・」

春子はユイの心情を水口に語ってきかせる。

夏は水口のために餅を焼いている。

「私の場合はさ・・・全部親のせいにして・・・のりきったの・・・夏さんがつきはなしてくれたおかげでさ」

餅を焼き終えた夏は水口に勧めるのだった。

「なんだか・・・今の若いもんは面倒くせえな。昔の自分を捨てたりとか・・・誰かのせいにしねえと・・・右にも左にも行けないなんてな・・・おらはもっと単純だ・・・そこに海があるから潜る・・・それだけだ・・・」

「はいはい・・・夏さんはさすがですよ」

「僕は・・・二人ともものになるとは思ってませんでした・・・どっちかと言えば・・・成功するのはユイちゃんだと思ってました」

「本音が出たな」と夏。

「でも・・・思ったんです・・・アキちゃんは・・・なんだか・・・なんだか・・・可愛いですよね」

「気持ち悪いぞ・・・」と春子。

しかし・・・水口は固い決意をのぞかせる。

「だから・・・本気でアキちゃんを売りだす覚悟です」

「おい・・・時間はいいのか」

「ええ・・・いや・・・駄目ですね・・・もう行かないと・・・夜のステージに間に合わない」

水口は小屋が空になっているのを発見する。

二人の少女は海岸線の下り坂を自転車で滑走していた。

ユイが先行してアキが追いかける。

「アキちゃああああん」

「なあに・・・ユイちゃん・・・きこえねえよおおおおお」

潮騒が二人を優しく包む。

帰って来たアキは元気よく夏に告げる。

「おら・・・行ってくる」

一瞬の淋しさをこらえた後で夏は顔をほころばせる。

「そうか・・・がんばれや」

そして・・・春子は秘密の部屋で二通目の手紙を書きだすのだった。

一月十日。アキは再び北三陸を旅立った。

土産を抱えて晴れ晴れとした顔で。

腕にはユイの作った琥珀のブレスレットが輝いている。

そして・・・アキは春子の手紙を読み出すのだった。

一通目とは違い、今度は速攻で読むのだ。

そこには大切なことが書かれているに決まっているのだから・・・。

上京も二度目なら・・・少しは上手になるのだった。

時は遡上して←←←←←(時間を巻き戻し)←←←←←1985年・・・アイドルたちは多様化していた。ある意味、方向性を見失った状態だった。アクロバットをするアイドル、セイントフォー・・・。制服を売りにして「セーラー服を脱がさないで」をヒットさせたおニャン子クラブ・・・。女子プロレスラーの長与千種とライオネス飛鳥はクラッシュギャルズを結成し歌謡際の優秀歌謡音楽賞を受賞した。

アイドルの概念は多種多様化し・・・正統派アイドルにとってはまさに冬の時代を迎えていたのである。

上京して一年半・・・春子は・・・十代の終りに差し掛かっていた。

そんなある日・・・太巻は春子を純喫茶「アイドル」から連れ出したのだった。

「今度・・・うちの事務所から・・・鈴鹿ひろ美という清純派アイドルを売りだすことになった。来年のお正月映画でスクリーンデビューする予定なんだ・・・主題歌も彼女が歌う予定なんだが・・・一つ問題が発生した」

太巻はタクシーの中でカセットテープに吹き込まれた歌を聴かせた。

その瞬間・・・薬師丸ひろ子による「潮騒のメモリー」を楽しみにしていた一部お茶の間は失望するのであった。ドラマの中でアメ女の成田りなを演じた声優の水瀬いのりがわざと音痴に唄ったような歌声が流れて来たのである。

大江戸タクシーの運転手・若き日の黒川正宗(森岡龍)も眉をしかめる不協和音が鳴り響くのだった。

「鈴鹿ひろ美は凄い音痴なのだ」

「こういう曲なのかと思いました」

「本当はこういう曲だ」

太巻は自分で吹き込んだ「潮騒のメモリー」のデモテープを春子に聞かせた。

「困り果てて・・・君のことを思い出した・・・レコーディングまで後・・・30分ほど時間がある。くりかえし聞いて歌を覚えてくれ・・・そして・・・鈴鹿ひろ美の代わりにきみが歌ってくれ」

「え・・・私が・・・鈴鹿ひろ美の名前で・・・レコーディングするってことですか」

「頼むよ・・・君しか頼れる人がいないんだ・・・ねえ・・・いいだろう」

春子は断り切れなかった。断る理由が思いつかなかったのだ。

夢にまで見たレコーディング・・・。たとえ他人の代役でも春子の夢が叶うのである。

こうして・・・春子はマイクの前に立った・・・鈴鹿ひろ美の落ち武者・・・いや影武者として・・・。

→→→→→(時間を早送り)→→→→→2010年、上京中のアキは列車の中で「じぇ・・・じぇじぇ・・・・じぇじぇじぇじぇーっ」と叫んだのだった。

金曜日 晴れ、ときどきゴースト・シンガー(薬師丸ひろ子)

←←←←←(時間を巻き戻し)←←←←←1985年の秋、一台のタクシーの中で「潮騒のメモリー」のメロディーが繰り返し流れていた。若き日の春子は必死にその歌を覚えていた。アイドルになりたくてなれなくて無為に過ごした時間に比べればそれは魔法の時間だったかもしれない。

(私の歌がレコーディングされる)

それによって春子の未来がどう変わるかなんて考えてもみなかった。

春子はただ夢中で歌を覚えた。

やがて春子はレコーディング・スタジオに到着する。

タクシーを降りる時、太巻はタクシーの運転手に2万円を渡して未来の春子の夫を恫喝した。

「口止め料じゃ、あほんだら・・・ええか・・・このことがおおやけになってみい・・・てめえの仕業だと思うからな、あほんだら、そしたら、あほんだら、東京湾に沈めたるで、あほんだら・・・ぼけ、かす、あほんだら、関西方面の視聴率がもうひとつだからっていやがせしとるのじゃ、あらへんで、あほんだら、関東の人間は関西弁を使われたら、相手はやくざやと思うとるんや、ぼけ、かす、このあほんだら、聞いてんのかい、大江戸タクシーの黒川正宗さんよ。あほんだらあほんだらあほんだらあほんだらあほんだら」

春子は夢でも見ているような気持ちで太巻の得意な関西弁の恫喝の芸を聴いていたのです。

しかし、そうとは知らない正宗はハンドルを握る手の震えが止まらないのだった。

おそらく、これが原因で正宗は護身術を習得したと思われる。

スタジオで・・・春子は帰る途中のアメ女の成田りなを演じた声優の水瀬いのりとよく似た若き日の鈴鹿ひろ美に偶然、遭遇する。

(あれが・・・鈴鹿ひろ美・・・かわいいな)

初めて入ったプロのレコーディング・スタジオ。たくさんのスタッフがウインドゥ越しに見つめている中でマイクと楽譜を目の前にして春子は緊張する。

そのために一回目は歌いだしをしくじった。

その時、太巻は言った。「どうせ、他人の歌なんだから気楽にやれ」と。

春子は思った。

(そうか・・・他人の歌なんだ・・・私が失敗するわけじゃない)

春子は何かから解放されて・・・歌いだした。

ゴースト・シンガー

彼女は歌唱印税の1/1000を手にする女

その歌声はまるで蜘蛛の巣のように

あまりにも冷やかな声色で

みんなを手招きする

罪なる不正の世界へようこそと

だけど行くのはあなた次第

ゴールドシンガーになった時

あなたは知るでしょう

彼が囁いた時

それは終りの合図

彼の言葉に気をつけて

彼は嘘の世界に生きているから

ゴールドフィンガー・・・かっ

春子の歌声は・・・スタッフたちを魅了する。太巻の顔に浮かぶ、安堵と不安と歓喜と驚愕と後悔。

こうして春子は鈴鹿ひろ美の影歌手(シャドー・シンガー)となったのだった。

Am016 そして、時は流れて・・・春子はカラオケで「潮騒のメモリー」を歌い、アキはそれを聴いて感動し、素晴らしいインターネットの世界で「潮騒のメモリー/鈴鹿ひろ美(若き日の春子)」をダウンロードして、「ママの歌の方が本物みたいだ」と思うのだった。アホの子の直感、恐るべしである。本人、目の前にして「本物みたい」というのもアホ丸出しである。

→→→→→(時間を早送り)→→→→→2010年、アキは大荷物を両手に持って上野に到着、アメ横の東京EDOシアター前で漸く衝撃の事実に思い当り、「そんなバカナ」と叫ぶのだった。

アキを出迎えたのは偶然、ジュースを買いに来たチーフ・マネージャーの河島耕作(マギー)である。

「あれ・・・君、やめたんじゃなかったの?」

衝撃の事実に熱中しているアホの子は河島を完全、無視体勢である。しかし、今まで、アキは・・・ユイのために些少は猫をかぶっていたのであるが・・・自分のために唄って踊るとなればなりふり構わないのである。自分に対して冷たい態度をとってきた河島なんか眼中にないのだった。たとえ、それがマネージャー水口の上司だったとしてもだ。

なにしろ・・・アキはその姿勢で地元じゃ負け知らずだったのである。

めまぐるしく回転するアホの子頭脳。

(だけどなんで今までママは内緒にしていたんだろう)(こういう時おめでた弁護士なら)(消したい過去を消そうとするべ)(んだ・・・あの時もパパが潮騒のメモリーをかけて・・・ママは一回目は歌わなかった・・・)(太巻社長にとっても)(消したい過去なのか)(そりゃそうだべ・・・鈴鹿ひろ美が本当には歌っていないなんてファンを騙すにもほどがあるべ)(その大いなる不正を知っているゴースト・シンガーの娘がいると知ったら)(太巻社長のあの動揺・・・態度の急変)(おらなんて不要だと言った)(40回もNGを出したこと叱るのではなくて・・・切り捨てようとした)(社長にとっても消したい過去)(秘密を知ってると知られたら)(おらも消される!)

「じぇっ」と叫んだアキにびっくりした河島は思わず自動販売機のしょうが湯を購入してしまうのだった。

さらにアキの落した「春子の手紙その2」を拾いあげ、目を落とした瞬間をアキに見咎められるのだった。

「それ・・・おらの!」

「あ・・・おちてたから・・・」

「おちてたからって読んでもいいわけないべ」

「あ・・・ごめんなさい」

「この・・・あほんだらあほんだら」

早くもヤング太巻に影響されたアメ女の最下位に圧倒されるチーフ・マネージャーだった。

そこへ現代の太巻が通りかかる。

「太巻さん、おはようございます」

「おは・・・あれ・・・君、田舎に帰ったんじゃなかったの」

「今、帰ってきました」

「あ・・・そう・・・」

太巻のこれ見よがしの素っ気ない態度にアキは直感するのだった。

アキが春子の娘と知る以前と・・・以後では太巻の態度は全く違うのである。

(おらを・・・東京湾の底に沈める気か・・・)

アキの緊張感はマックスに達しようとしていた。

そこへGMTのメンバーがやってくる。

「アキ、いつ帰ったとお」と佐賀出身の遠藤真奈(大野いと)はアキに抱きつくのだった。

「今だべ」と応じて一気に緊張が解けるアキ。

「あ・・・これこれ・・・お土産」

背後ですべてを見守っていた河島は・・・まずスタッフっていうか、チーフ・マネージャーへの挨拶が先だろうとは思わない・・・アキから発散される朝ドラマのヒロイン特有のオーラに圧倒されていたのだ。

「ゆべしは歯の裏のにくっつくさ」とすっかり東北通になったキャンちゃん。

アキは仲間たちの温かさに・・・うれしくて・・・せつなくて・・・唇をつんととがらせるのだった。

しかし・・・そんなアキに冷水を浴びせるメグりんだった。

「帰ってこなくてもよかったのに・・・」

「メグりん・・・」

「ま、いいわ・・・私はすぐに復帰する・・・そしたらあんたにはまたシャドーをやってもらうから・・・しっかり、私のダンスを見ておきなさいよ」

いや・・・メグりん、それはまた自分に何かある宣言なのでは・・・。とにかく・・・アキは奈落に舞い戻った。レギュラーとなった小野寺薫子のサポートをして、ステージの下で踊る毎日。おそらく現センターのシャドウとなったマメりんのシャドウとして鋭い視線でマメりんの芸を盗む姿勢を見せるのだった。マメりんは奈落の女王として・・・入間しおりのポジションを完全に奪っている・・・。

そして・・・アキは鈴鹿ひろ美(薬師丸ひろ子)の付き人としても復活したのだった。

無頼鮨で鮨を食べるためである・・・こともないのだった。

天野春子と太巻社長と鈴鹿ひろ美の関係をもっと深く知りたいと思ったのだ。

そのためには・・・もっと鈴鹿ひろ美に近付くしかない。アイドル探偵・天野秋の誕生である。

「本当にまた・・・付き人やってくれるの」

「はい」

「女優になれなくても」

「はい」

「私・・・これからますます面倒になるわよ」

「おら、鈴鹿さんに一生ついていくだ」

アキの言葉に嬉しそうな鈴鹿。しかし、女優なので本心は不明だ。

「今のはウソだ・・・当分ついていく」

アキも快調に我を通すのだった。

そして・・・土産の海女のミサンガを渡す。

「きゃ・・・毛虫・・・じゃなくて・・・切れると願い事が叶うってやつね」

「んだ・・・おらとおそろいだ」

素直にミサンガを巻かれる鈴鹿だった。

「鈴鹿さんの夢はなんだ・・・」

「そうねえ・・・世界制服・・・そして結婚かしらね」

鈴鹿ひろ美は・・・アキが天野春子の娘だと知ったらどうするだろう。

そもそも・・・鈴鹿は春子を知っているのか。

いやいやいや・・・鈴鹿はそもそも自分にゴースト・シンガーがいたことを知っているのだろうか。

普通ならありえないと思うが・・・相手が鈴鹿ひろ美ならありえるとアキは思うのだった。

そして再び時は遡上する。←←←←←(時間を巻き戻し)←←←←←1986年の正月映画「潮騒のメモリー」は大ヒットした・・・そして主題歌の「潮騒のメモリー/鈴鹿ひろ美」も大ヒット曲になったのだった。

街中、どこへ行っても聴こえてくる自分の歌声。

春子は夢を見ているような気分だった。

(私の歌が日本中に流れている)

それは春子がいつも夢見ていたことだった。

「潮騒のメモリー、いい歌だよね」

「声がいいよね」

春子は自分が誉められているようなくすぐったい気分を味わった。

未来の見えない苦しい日々を過ごしていた少女にとってそれは眩しいほど晴れやかな日々だったのである。

しかし・・・鈴鹿ひろ美の歌声が本当は春子のものだということを知る人は一握りだった。

その一人・・・太巻の表情には晴れやかではない何かが潜んでいた。

そんなある日、春子は太巻から「困ったことが起きた」とふたたび告げられる。

「夜のベストヒットテンって知ってるだろ」

「毎週、潮騒のメモリーが第1位になっているやつですよね・・・出演しないで手紙だけ届くやつ」

「あれに・・・鈴鹿ひろ美が出たいって言い出した」

「口パクで・・・」

「それもいやだと言っている・・・っていうか鈴鹿は・・・音源に口を合わせられない」

「・・・」

「どうしよう・・・」

「どうしようって・・・」

若き春子は戸惑うばかりなのである。

全国のヤング春子ファンはそのアホさ加減にうっとりなのだった。

土曜日 松田聖子ちゃんになれなかったよ(有村架純)

あの歌を歌っているのは私・・・それで充分、満足だったあの日の春子。

しかし、1986年。春子は再び不正に手を貸したのだった。

純喫茶「アイドル」のマスターたちは「夜のベストヒットテン」のスタジオに今日こそ、鈴鹿ひろ美が現れるのではないかと期待に胸を膨らませていた。

その日、春子は体調不良で店を休んでいた。

春子はテレビ局のスタジオにいた。

鈴鹿ひろ美よりも先にテレビ局に極秘裏に到着したサブ・スタジオに入室。

モニターに映る鈴鹿ひろ美の口元を見ながら、それにあわせて生歌を歌うという特殊任務を背負わせられていたのである。

この作戦を知るのは太巻とテレビ局の限られたスタッフだけだった。

っていうか・・・絶対バレるよなこれ・・・。

まあ・・・噂がたってもあくまで噂だし・・・携帯電話と同様に・・・素晴らしいインターネットの世界もまだ始ったばかりだったからな。

男の司会者(糸井重里)と女の司会者(清水ミチコ)に迎えられて登場する鈴鹿ひろ美。

「ようやく・・・きてくださいましたね」

「ファンの皆さんの期待に応えるのも仕事だと考えました」

「自分が一番かわいい時代に・・・鈴鹿さんはファンを一番大切に考えるんですね」

「ようこそ・・・いらっしゃいました」

「てへへ」

「それでは・・・歌っていただきましょう・・・今週の第1位・・・鈴鹿ひろ美さんで潮騒のメモリー」

イントロが流れ出し・・・マイクが切り替わる。

春子は夢中で歌う・・・。

来てよ その火を 飛び越えて 砂に書いた アイ ミス ユー

歌い終わった時・・・鈴鹿ひろ美が去るのを待ちながら・・・春子は突然、気がついた。

自分がなにか・・・ひどく間違ったことをしていることに・・・。

しかし・・・今更、気がついてもすべては終わったことなのであった。

そして・・・一度やれば・・・二度。

二度やれば三度。

悪事の果てることはないのだった。

春子はこうして・・・「夜のベストスタジオ」やら「トップヒットベストテン」やら「歌番組」やらに出演する鈴鹿ひろ美の影武者として歌い続けることになったのだった。

歌った次の日に・・・太巻は封筒に入った闇の謝礼金三万円を渡す。

領収書のいらない・・・ドス黒いお金である。

もちろん・・・そこには口止め料も含まれている。

「大丈夫だ・・・君の経歴に傷はつかない・・・」と嘯く太巻。

しかし・・・春子はいつの間にか自分が輝かしいステージの中央ではなく、薄暗い影の中で歌っていることにさすがに気が付いている。

「傷どころか・・・経歴そのものがないじゃない」と春子は言いたかったが言えなかった。歌ってお金をもらえるのは仕事として悪くない。何よりも春子にとって芸能界とのパイプは太巻そのものだったのだ。

そして・・・時は流れた。→→→→→(時間を早送り)→→→→→・・・あれから24年の歳月が流れた2010年。アキは鈴鹿ひろ美にそっと探りを入れてみる。

「鈴鹿さんは・・・アイドル時代にはテレビで歌ったんですよね」

「そうね・・・遠い昔、何回か・・・歌った気がする・・・うっすらと記憶があるわね」

「何を・・・」

「潮騒のメモリーの頃よ・・・あの頃は忙しかったという記憶しかないんだけどね」

「歌ったんですか・・・ずぶんで」

「そりゃそうよ・・・私ね・・・口パクだめなのよ・・・音を聞いてもなぜかあわせられないの・・・口パクなんてしたら・・・一発でバレちゃうわ・・・」

音痴だからか・・・とアキは思う。

音痴だから・・・自分の歌を他人が歌っていても気がつかねえ。

その歌に口をあわせることもできねえ。

そんなことがあるんだろうか・・・。

そんなバナナ・・・と思うアキだった。鈴鹿ひろ美の真実は不明のままにアキは再び時を遡上するのだった。時をかけるアキなのである。

←←←←←(時間を巻き戻し)←←←←←1986年(昭和61年)・・・夏、鈴鹿ひろ美のセカンド・シングル「縦笛の天使」も三週連続ヒットチャート1位を獲得するスマッシュ・ヒットとなり、サード・シングル「DON感ガール」はヒットチャート1位は逃したもののB面と言う名のカップリング曲「私を湖畔に連れてって」が昭和62年の全国選抜高校野球大会こと春の甲子園の入場行進曲に選ばれ・・・女優だけではなく歌手としても鈴鹿ひろ美は人気を博したのだった。

「というわけで・・・ファーストアルバムを出すことになった」

「私の・・・ですか」

「馬鹿だな・・・鈴鹿ひろ美のに決まってるじゃないか。まあ・・・セカンド・シングルも、サード・シングルも「潮騒のメモリー」ほど売れなかったから・・・ここらでアルバム出しておこうって感じだ。鈴鹿本人は歌を出すことにそれほど乗り気じゃないんだけどね・・・なんてったって歌心のない子だから・・・でもアルバムはあたればでかいから・・・」

もはや・・・ゴースト・シンガーの春子を当然の存在と考えているような太巻。

しかし・・・春子ははじめて拒否の姿勢を示す。

「嫌です・・・やりたくありません」

「なんだって・・・」

「このまま・・・一曲三万円で影武者をやってたら・・・永遠にデビューできませんよね・・・いくら田舎者で・・・世間知らずの小娘でも・・・気が付きます」

「あのね・・・違うんだ・・・春子ちゃん・・・いずれ君だってデビューする。必ずデビューできるように僕が・・・あのね・・・いろいろ考えているから」

「私・・・もう、二十歳になっちゃったんですよ」

「そうか・・・おめでとう」

二十余年後に・・・ユイが春子に「もう18歳になっちゃったんです・・・20歳になるまでデビューできるかって話でしょ」と苦しい胸の内を明かした時・・・その言葉を春子がどんなにひりひりと重く受け止めたか・・・物語る話なのである。

ユイの気持ちは春子にしか分らないと言っても過言ではないのだった。

「・・・私、アイドルってもうきついですか・・・無理なら無理って正直に言ってください」

「きつくないよ・・・だって二十歳になんてみえないよ・・・せいぜい19ぐらいだよ。大丈夫。それに二十歳過ぎたってアイドルやってる人たくさんいるよ」

「そりゃ・・・みんな十代でデビューしている人じゃないですか・・・デモテープ、事務所の社長さんに聞かせてくれたんですよね」

「もちろんさ・・・」

「反応はどうなんですか」

「社長・・・鈴鹿ひろ美の声に似てるなあって・・・」

「なんですってえ・・・バカなの・・・あんたんとこの社長って・・・バカ社長なの」

「春子ちゃん・・・落ち着こう・・・一端、気を鎮めて・・・違うから」

「ちがわねえよ・・・私じゃん、似てるんじゃなくて・・・どっちも私じゃん。そっくりに決まってるじゃん。本人が本人に似てるってバカでしょ」

「いや・・・違うんだ・・・とにかく・・・静かに・・・静かにしないと乳揉むで~」

鎮まり返る純喫茶「アイドル」だった。

「あ・・・違うんです・・・ウソです・・・冗談です・・・揉みませんわ~。東京湾にも沈めませんわ~」

「・・・」

「知らないんだ・・・社長・・・君がひろ美の影武者だって」

「え・・・」

「だから・・・君がそれをやってるのも知られると不味いんだ」

「じゃ・・・どうするつもりなんです・・・私を」

「違う・・・時期の問題なんだ・・・今、君がデビューしようとしたら・・・必ず、うちの事務所の圧力がかかる・・・つぶされて・・・君はデビューできない」

「・・・」

「時期を見て・・・必ず君もデビューさせる・・・僕を信じて任せて・・・ね」

春子は(騙されている)と直感した。

しかし・・・当時の春子には太巻の言葉を信じることでしか・・・デビューへの道が見えていないのだった。

→→→→→(時間を早送り)→→→→→2010年の合宿所。過去の事情を知ったアキは勉さんを数えても寝られないほどの不安に襲われていた。結局、マメりんに部屋を強奪されたアキは合宿の集会所のソファで歩ける寝袋にくるまって寝ているのである。

不安で眠れなくてアキは水口を叩き起こすのだった。

「眠れません」

「・・・あ・・・ソファだと寝付けないか」

「それはいい・・・」

「じゃ・・・どうした」

「おら・・・急に不安になったんです・・・おらたち・・・ホントにデビューできるんでしょうか」

「なんだよ・・・突然・・・」

眠気をこらえながらなんとかアキに対処しようとする今ではアキ派の水口だった。

「おらがいる限り、GMTはデビューさせてもらえねえんじゃねか・・・どうなんだ・・・水口さん・・・おらが邪魔なら・・・そう言ってけろ」

「落ち着いて・・・アキちゃん・・・こないだも言ったけど・・・僕は・・・君を絶対デビューさせるから・・・君の夢は叶うから・・・おやすみ」

アキは不安だった・・・水口も太巻の一味なのではないか・・・もし・・・そうでないとしたら・・・アキの母親と太巻の関係を水口に知らせるべきかどうか。

アホの子には難しすぎる問題だったのである。

アキにはようやく春子の言う芸能界の恐ろしさが分りはじめたのだった。

←←←←←(時間を巻き戻し)←←←←←夢の中でアキは春子のその後を見る。時は平成となっていた。昭和64年(1989年)・・・昭和天皇は崩御し・・・今上天皇が即位したのだった。荒巻は出世して29歳でチーフ・マネージャーとなっていた。春子は二十二歳になっていた。そして・・・相変わらずゴースト・シンガーだった。

純喫茶「アイドル」にも新人ウエイトレス(秋月三佳)が雇用されていた。

太巻が任せてくれと行ってから二年、結局、春子は飼い殺しになっていた。

「私・・・田舎に帰ります」

「待ってくれ・・・携帯電話ももっとコンパクトになるっていうし・・・せめて後一年、1990年なんてキリがいいじゃないか・・・」

「だったら・・・最後にお願いがあります」

「何・・・」

「潮騒のメモリーでデビューさせてください」

「・・・」

「天野春子として・・・潮騒のメモリーを歌いたいんです」

「そんなの無理に決まってるだろう」

「でも・・・本当は私が歌っているんだし・・・」

「それじゃ・・・すまないんだよ・・・カバーとしてリバイバルするには少し早すぎる。なにしろ・・・ヒットしてから三年しかたってないし・・・もしも・・・話題になったとしよう。なにしろ・・・名義の違う同じ歌なんだから・・・そして・・・誰かが裏事情を話でもしたら・・・世間は大騒ぎだ・・・」

「そんなの分ってます」

「ガッカリだな・・・君にはプライドってものがないの・・・潮騒のメモリーを歌っていたのは確かに君だ・・・でも、それだけじゃないだろう。鈴鹿ひろ美というアイドルがいてこその・・・君の歌なんだ。君が声は私だって言い出したら・・・すべてぶちこわしじゃないか」

「プライドってなんなのよ。小娘だまして影武者やらせるのがプライドなの?・・・プライドなんてあるに決まってる・・・プライドなかったら・・・とっくに田舎に帰ってるよ・・・プライドがあるから・・・あきらめられないから・・・このままじゃ終われないから・・・今日まであんたの言うこと聞いてきたんです・・・プライドないのはそっちだろうがっ・・・バカにしないでよ・・・」

あなたに・・・さようならって言えるのは

今日だけ

明日になってまたあなたの

暖かい「嘘」にふれたらきっと

言えなくなってしまう

春子は太巻とそれきり二度と会わなかったと言う。

ただし・・・太巻については知人を通じてその後のことを聴きだしたらしい。

とにかく・・・春子は故郷に帰るためにタクシーを拾い・・・黒川正宗と再会するのだった。

アキが生まれる三年前の話である。

とにかく今週は二人の少女が夢をあきらめて、それでも生きていく物語なのだった。

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2013年7月20日 (土)

夏の夜の恐怖~悪霊病棟(夏帆)

恐怖とは世界における一番大切な精神である。

人間の生死の分岐点を決定し、世界の存亡を左右するのは恐怖である。

そのために恐怖について深く洞察することは最重要課題と言える。

恐怖は五つのカテゴリーで分析できる。

支配するものとされるものの共感度。

季節、昼夜、天候などの条件設定。

距離、高所閉所などの空間範囲、逃走の有利不利などの地形的問題。

対象者。怖がるものと怖がらせるものの能力差。知恵と力と勇気。

法則性。封印可能性。敵対可能性。科学的法則への近似。生存に対する死亡確率。死んでも救われない場合。

これらを厳密に比較検討して、情報を精査し、恐怖するかどうかを決定しなければならない。

そのためには七つのエレメントが重要となるが、それはあえて秘しておく。

秘せばこその恐怖だからである。

で、『病棟~第1号室』(TBSテレビ201307190058~)脚本・鈴木謙一(他)、演出・鶴田法男を見た。谷間予定の金曜日をコレにして木曜日を谷間にする方向である。主演の夏帆は「みんな!エスパーだよ!」からココであるが・・・1991年度生まれのライバルの一人・真野恵里菜との共演の後は一人荒野で猫背で眼鏡っ子で白衣で鼻水を垂らす熱演を展開するのだった。他にもメジャーどころのライバルには滝本美織や、波瑠、朝倉あきがいるが・・・存在感は他者の追随を許さず独走態勢と言っても過言ではないな。

このまま どこか遠く 連れてってくれないか

君は 君こそは 日曜日よりの死者

一人暮らしを始めた尾神琉奈(夏帆)は二十四歳の看護師である。

新しい勤務先の隈川病院では何故か不調を感じる琉奈。

ナース・コールに応えて病室に行けば、入院患者の石川(高橋長英)に看護を拒否される有様だった。

「あの・・・お小水なら・・・私が」

「いやなんだ・・・あんたが・・・あんた以外なら誰でもいい・・・他の看護師を呼んでくれ・・・」

「・・・」

心に鬱屈を抱える琉奈はますます気が滅入るのだった。

隈川病院には怪事が続いていた。

年下の新人ナースは深夜勤務中に・・・薄暗い廊下でふりむけば「血まみれのセーラー服の少女」に遭遇してしまうのだった。

「私、事故に遭ったのかも・・・と思って・・・どうしたの・・・と声をかけたんです」

三十代の主任ナース・木藤純子(森脇英理子)が問いかける。

「どうしたのよ」

「・・・消えちゃったんです・・・目の前から・・・」

「しっかりしなさい・・・そんなものを見るなんて・・・どうかしてる」

「・・・」

琉奈には新人に向けられた言葉が・・・着任早々で不慣れな自分にも向けられているような気になる。

(それに・・・私には・・・心の病気があるから)

琉奈には幼いころに母親を亡くして以来、他人には見えないものが見える時がある。

別居中の父親はそれを「心の病気」と琉奈に告げた。

(どうか・・・変なものが・・・見えませんように)

琉奈はいつも持ち歩いているお手製のお守りをポケットの中で握りしめるのだった。

隈川病院には新病棟と旧病棟があった。

旧病棟は閉鎖中で鍵がかかっていたが・・・琉奈は何故か、旧病棟が気になって仕方ないのである。

そんなある日、自宅に中学校以来の親友である坂井愛美(高田里穂)が訪ねてくる。

久しぶりの再会を喜ぶ二人。

しかし、愛美には言い出しにくい用件があった。

「何?」

「・・・やっぱりいいや・・・」

「水臭いな・・・私にできることならなんでもするから・・・」

「あのさ・・・私、今、ローカルテレビで・・・情報番組のアシスタント・ディレクターをやってるじゃない・・・で・・・その番組で・・・隈川病院の取材をしているんだけど・・・」

「・・・」

「あの病院の旧病棟って・・・お化け屋敷って言われていたんですって・・・でね・・・昔の入院患者とかから・・・話を聞けたんだけど・・・病院関係者は口が堅いっていうか・・・」

「う・・・う・・・」

「琉奈」

「・・・う・・・私・・・私が・・・こわいものを見たのかどうか・・・聞きたいの」

「あ・・・ちがうわよ・・・そんなこと・・・」

「私・・・私が中学生の時に・・・血まみれになったあの子を教室で見たって言って・・・私・・・馬鹿だから・・・それをみんなに言っちゃって・・・あの子が事故で死んだから・・・みんなに変な目で見られたって・・・愛美だって知っているでしょ・・・」

「でも・・・ほら・・・みんな知らなかったから・・・」

「え・・・え・・・でも・・・先生は知っていたから・・・私はそれをどこかで聞いて・・・こわくて・・・変なものを見てしまっただけなの・・・」

「だけど・・・琉奈は・・・公衆トイレで黒人の女の人の幽霊も見たでしょ・・・そこで・・・本当に黒人女性が首吊自殺をしたっていう噂の」

「それだって・・・小さい頃・・・お母さんが死んだのがショックで・・・変なものを見る・・・心の病気になってしまったんだもの・・・え・・・ぇ・・・ひっ・・・ひっく」

涙と鼻汁と涎を垂らして嗚咽する琉奈を愛美は慰める。

「ごめんね・・・変なこと・・・思い出させて・・・でも・・・私・・・そんなつもりじゃなかったの・・・」

「う・・・うえ・・・う・・・」

「この話は忘れて・・・私が悪がったわ・・・」

「う・・・私・・・私の方こそ・・・愛美がいなかったら・・・生きてこれなかったのに・・・責めるようなこと言って・・・」

「いいのよ・・・」

「ごめんなさい・・・」

不安定な琉奈をうっかり刺激してしまったことを悔いる愛美だった。

しかし・・・それだけに・・・琉奈の胸中には親友のためになんとかしたいという思いが芽生えていた。

隈川病院の怪奇現象は続いていた。

看護婦たちはひそひそと噂話をする。

「子供の幽霊が出たらしいよ」

「トイレには黒人の女が出たってさ・・・」

黒人の女・・・という言葉に琉奈の心はざわめく。

「やめなさい」と木藤主任がたしなめる。

そこへ・・・研修医ながら・・・院長の息子である隈川朝陽(大和田健介)がやってくる。

「いいじゃないか・・・噂くらい・・・なにしろ・・・旧病棟がお化け屋敷って言われていたことはこの街じゃ有名な話だからな・・・とはいえ・・・お化けが怖くて新病棟を建てたわけじゃないぞ・・・旧病棟は手狭だし、何より老朽化が激しかったからな・・・」

愛美の役に立ちたいという思いで琉奈は勇気を出して質問する。

「どうして・・・旧病棟は取り壊さないんですか」

「そりゃ・・・解体費用もバカにならないし、跡地をどうするかも決まってないからさ」

よどみなく答える朝陽に琉奈はそれ以上、聞くことができなくなってしまった。

仕方なくカルテの整理を始める琉奈。

そこへ・・・人形を抱えた老婆が幽鬼のように現れる。

しかし・・・それは徘徊癖のある入院患者だった。

看護師たちが世話を焼く間に・・・主任が立ち上がる。

「旧病棟に備品を取りに行かなきゃならないけど・・・怪談好きのみんなには頼めないわね」

「あ・・・あの・・・私が行きます」

「あら・・・じゃ・・・お願いね」

琉奈は旧病棟の鍵をとった。

愛美に話して聞かせる何かを求めて・・・真夜中の旧病棟に向かう琉奈。

暗い旧病棟だったが目当ての備品はすぐに見つかった。

その時・・・。

「琉奈・・・」

琉奈は自分を呼ぶ声を聞いたのだった。

懐中電灯を暗がりに向ける琉奈。

しかし・・・そこには誰もいなかった。

琉奈は足を踏み出し・・・声のした方向を探る。

暗闇へと続く階段。声はそちらの方で聴こえたようだった。

琉奈はおそるおそる・・・蜘蛛の巣のはった階段を昇りはじめる。

その時・・・琉奈の背後で旧病棟のドアの鍵が音を立てて施錠されたのだった。

驚くほどの霊のめぐみ

なんとうつくしいしらべだろうか

けがれたたましいも

悪魔のような人でなしも

死は救いあげる

くるしみからのがれ

おそれるものとてなにもなく

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2013年7月19日 (金)

御曹司(玉森裕太)VS雑草(中山優馬)でぴんとこな(川島海荷)

歌舞伎界をモチーフにしたザ・少女マンガである。

様々な要素を含んでいるが・・・すぐに連想するのが「ガラスの仮面/美内すずえ」であることは云うまでもない。

名もなき出前持ち・北島マヤが一心不乱の努力の末に天才女優として花開く物語。

そのライバルが映画監督の父を持ち、大女優の娘である姫川亜弓である。単なるヒロインではなくもう一人の主人公と言われる。

ここでは歌舞伎界の御曹司である河村恭之助を主役として「逆」を行くわけである。

そして・・・歌舞伎界とは無縁でありながら雑草魂で成りあがるのが澤山一弥という趣向になっている。

マヤの恋の相手は「紫のバラの人」である速水真澄とマヤに一目惚れした桜小路優がいるわけだが・・・この二人を合体して男女逆転させ・・・御曹司を夢中にさせ・・・雑草魂の初恋相手である千葉あやめが誕生する。

二人の歌舞伎役者の才能を見出す天才的ふつうの女の子なのだな。

男女逆転によって巧みな配置転換があり・・・紫のバラの人とマヤの恋の障害役となる鷹宮紫織は・・・雑草役者と歌舞伎界を結ぶ梨園の令嬢・澤山優奈として登場する。

彼女が自殺未遂をしたり、発狂したりしないことを祈るばかりである。

で、『ぴんとこな・第1回』(TBSテレビ20130718PM9~)原作・嶋木あこ、脚本・高橋麻紀、演出・河合勇人を見た。脚本は「オー!マイ・ガール!! 」や「アイシテル〜海容〜」など地味目な作品をコンスタントにこなしてここである。地力がついてきた感じがしますな。「半沢直樹」などと同様にこの作品も初回二時間スタート。つまり、初回にすべてを投入してくる作戦にでているのだな。まあ・・・完全に好みがわかれるところである。しかし、ゴリ押しも手のうちだからねえ。

はじめに小さな恋のメロディがあった。

杏星学園高校の三年生、千葉あやめ(川島海荷)は「なでしこの押し花」を見て思う。

幼くして歌舞伎を好きになるためにはそれなりの経済的背景が必要である。

まず、親がそれなりに資産家で「歌舞伎」の常連客であることが第一条件だ。

それでも・・・数百年の伝統を持つ古典芸能を味わうためにはそれなりの資質が要求される。それが第二条件だ。

幼くして「歌舞伎」という舞台芸術の魅力の虜となったあやかは二つの条件を満たしていた。

あやめは小学生にしてすでに歌舞伎ごっこをプロデュースするほどの知性を兼ね備えた社長令嬢だったのである。

そんなあやめがクラスメートの少年に恋をして「歌舞伎」を演じさせる。

あやめの願いを叶えるために少年は「日本一の歌舞伎役者を目指すこと」になるのだった。

この設定がすでに尋常ではない。

あやめの夢をかなえるために歌舞伎部外者に開かれた養成所に入り、高校へも行かずに一心不乱に役者の道を進む・・・それが少年・本郷弘樹であり、今は名門・轟屋の弟子となって澤山一弥(中山優馬)と名乗っている。

二人は幼くして別れることになった。

千葉あやめの両親は他界し、事業は借金を残して潰えた。

今や、あやめは持ち前の知性で授業料免除の特待生ではあるものの学校の校庭で農耕して自給自足しつつ、安アパートで一人暮らしをする天涯孤独の身の上だった。

しかし・・・アルバイトで稼いだ金で歌舞伎鑑賞だけは欠かさないのである。

幼い別れの日・・・一弥が摘んでくれた野辺のなでしこの押し花だけが・・・あやめの心の支えだった。

「好きな人が私のためにがんばっているから・・・私も頑張る」のだった。

そんなあやめを親友の千晶(草刈麻有)は遠くを見る目で見守るのだった。

そして・・・新たなるドラマの幕が開く。

一方・・・小学生時代に初めてプロデュースした歌舞伎の演目「春興鏡獅子」を鑑賞したあやめは主役の獅子の精(弥生)を演じる名門・木嶋屋の御曹司で同級生でもある河村恭之助(玉森裕太)の大根役者ぶりに激昂する。

そうとは知らない恭之助はあやめをファン一人だと思い気安く肩を抱く。

一本背負いで恭之助を投げ飛ばすあやめだった。

「こっちはなけなしの金払ってんだ・・・稽古不足で所作振る舞いが未熟な芸のようなものをみせられてたまるか」

「なんだとっ」

「一言で言って・・・あんたの芸は逃げの芸だよ」

「・・・」

恭之助の親友で悪友で腰ぎんちゃくの坂本春彦(ジェシー)はあやめに見覚えがあった。

「あれ・・・たしか・・・変わりもので有名なうちの生徒だよ・・・あんなの気にするな・・・」

しかし・・・恭之助は気になるのだった。

同じことを父親や・・・下っ端役者の一弥に云われていたからである。

恭之助の父・河村世左衛門(岸谷五朗)は芸に厳しい師でもあった。

名門の御曹司に生まれ、子供の頃は歌舞伎役者であることを苦にしなかった恭之助だったが、芸の壁にぶつかる度に挫け、名門の重みに押しつぶされそうになり、最近は稽古から逃げるようになっていたのである。

一方で、「日本一の歌舞伎俳優になり・・・あやめと再会」するべく、精進を重ねる一弥。

ついに・・・一弥は世左衛門に才能を認められるところまではい上がっていた。

しかし、伝統芸能である以上、実力だけでは乗り越えられない一線もあるのだった。

そのために・・・一弥は後継者のいない轟屋の澤山咲五郎(榎木孝明)の門下生となっていた。咲五郎には娘の澤山優奈(吉倉あおい)があり、婿におさまれば大きく道が開かれるのである。

一弥は日本一になってあやめと再会することを目指すあまり・・・その手段として婿入りをするという本末転倒な境遇にまるで気がつかないように振る舞うのである。

一途に一弥を思うあやめの気持ちとは裏腹に・・・王子様である恭之助に・・・チャンスがめぐってくるのは少女マンガだからである。

所謂一つの泣く子と王子様には勝てない法則なのである。

そして、ブレーキの壊れたあやめの自転車は運命の出会いを目指して恭之助に突っ込んでくるのだった。

名誉の負傷を負った恭之助はあやめから「この間は云いすぎだった・・・あなたは稽古不足だけど華ばある」と評価され、飴と鞭効果でたちまち・・・あやめに恋するのだった。

そんな折、「仮名手本忠臣蔵」の三段目の裏「道行旅路の花聟」で主役の早野勘平を演じることになる恭之助だった。

相手役の腰元のお軽は女形で名優の呼び声も高い佐賀田完二郎(山本耕史)である。

いわゆる一つの「おかるかんぺい」である。

喜び勇んで・・・あやめにチケットをプレゼントする恭之助だった。

しかし・・・現実は厳しく、泣く子も黙る鬼師匠で歌舞伎界の重鎮である大岩松吉(高嶋政宏)からは「なっておらん」と激しい叱責を受け、相手役の完二郎からも「もう少しがんばれ」と言われてしまう恭之助。

しかし・・・出稽古にきた一弥があやめの初恋の人で恋仇としるや・・・河村家の女中シズ(江波杏子)も「坊ちゃん、人が変わりましたな」と呟くほどの稽古の鬼となるのだった。

そんな頃、あやみは不良女生徒(山谷花純)たちにからまれる下級生を助ける。

「余計な口出ししないでよ」

「何言ってんの・・・恐喝は立派な犯罪よ・・・広島の少女(16)みたいにならないように今のうちに警察に通報しようか」

「おぼえてやがれ」

「ありがとうございます」

「あなたも毅然とした態度をとらないと駄目よ」

「どうしたら・・・先輩のように強くなれるのですか」

「私だって・・・そんなに強くないけど・・・好きな人が頑張ってると思うと・・・私も頑張らなくちゃって思うの」

下級生は・・・澤山優奈だった。

優しい先輩の恋仇になっているとは露知らず、お嬢様特権で一弥に激しくアタックする優奈。

一弥もまた「努力だけでは手に入らないもの」を求めてそれなりに応ずるのだった。

やがて・・・芸のこやしをやりすぎてぎっくり腰になった完二郎に代わり、代役を獲得する一弥。

あやめの見守る中・・・舞台の上で勘平を演じる恭之助とお軽を演じる一弥は激しい芸の火花を散らせる。

初心者の千晶はあやめに聞く。

「これってどういうお芝居なの?」

「仮名手本忠臣蔵っていうのはいわゆる忠臣大石内蔵助と赤穂四十七士が主君・浅野長矩の仇である吉良義央を討つあの話を題材にしているんだけど江戸幕府はそういう事件をそのまま演じることは禁じていたので太平記に描かれる塩冶判官讒死の事を借りて表現しているの。吉良義央は高師直に。浅野長矩が塩冶判官とかね。そして師直が判官の妻に横恋慕したことが事件の発端となり、鶴岡の饗応で始り、合印の忍び兜で終る全十一段の大芝居なんだけど、今回はその三段目の裏にあたる「道行旅路の花聟」が演目になっていて、塩冶判官の家臣の勘平と腰元のお軽が駆け落ちを決意し、おかるの故郷山城国の山崎へと目指すんだけど、結局、最後は勘平は自害して果てるんだけどね・・・」

千明はあやめの話を遠い目で聞き流すのだった。

舞台ではそれぞれが精一杯の輝きを放ち・・・一弥は初めて舞台の大役を勤め、恭之助は初めて演ずることの喜びを見出す。

しかし・・・大舞台に立った一弥は禁を解き、ついに「なでしこの花の人」としてあやめに微笑みかけるのだった。

歓喜するあやめ。

恭之助は恋の奈落へまっさかさまなのであった。

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→「好好!キョンシーガール〜東京電視台戦記〜

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2013年7月18日 (木)

パトカーもしくは牛さんとピアノもしくは将棋と母親もしくは父親とWoman(二階堂ふみ)

人は皆自分の王である権利を持っている。

自分で自分を支配することは生きる上で必要なことである。

そして・・・自分の王である他人を支配することは恐ろしいことなのである。

しかし、時に他人を支配することを必要とされるものがいる。

それが親である。

人が自分の王となるまで・・・親は子を支配する。

両親があることは時に恐ろしいことである。

母親の支配と父親の支配が敵対する時・・・悲劇は必然となるからだ。

「お父さんとお母さん、どっちが好き?」

この禁断の質問によって発狂する子供は少なくないと思われる。

で、『Woman・第3回』(日本テレビ20130717PM10~)脚本・坂元裕二、演出・相沢淳を見た。シングル・マザー青柳小春(満島ひかり)の勤務中に自宅付近で家事があり、アパートの隣人(片岡富枝)が善悪定かでない意志によって児童相談所に通報。職員の三澤(町田マリー)が事情聴取のために訪問する。その圧力に屈し、かってのシングル・マザー仲間の相馬(旧姓・蒲田)由季(臼田あさ美)の山梨県における新婚家庭に一時期、長女の望海(鈴木梨央)と長男の陸(髙橋來)を預ける小春。しかし、些細なトラブルで二人は家出し、望海は一人列車に乗ってしまう。中間点の大月駅で資金の尽きた望海は母親と連絡が取れずに小春の母親の再婚相手であるナマケモノこと植杉健太郎(小林薫)の仕立屋に電話をする。しかし、迎えに来たのは娘の栞(二階堂ふみ)だった。漸く駆けつけた小春は期せずして異父妹の栞と初めての対面をする。

「はじめまして・・・」

「はじめまして・・・」

「おかしいですね・・・こんな風に・・・お姉ちゃんとはじめて会うなんて」

「そうですね」

二人の・・・植杉紗千(田中裕子)は不気味としか言いようのない和やかさで対峙するのだった。

そこへ・・・陸を連れて由紀が到着し・・・結局、小春は望海と陸を連れ帰ることになる。

成り行きで東京にやってきた由紀に・・・小春は夫の青柳信(小栗旬)を失った日について語りはじめる。

「その日は普通の日でした・・・何の予感もなかったの・・・卵焼きとしゃけの朝ごはんを食べて・・・いつものように夫は仕事に行きました。ゆっくりと穏やかに一日が過ぎて・・・何故か彼の帰りが遅いことも・・・残業だろうと思っていたの。望海をお風呂に入れて髪の毛を拭いているところで・・・警察から電話がありました。夫か死んだので・・・すぐに来てほしいというのです。夫は電車の中で女子高校生を痴漢した疑いをかけられ、乗客たちに電車から引きずりおろされ、そのうちに夫の持っていた梨が転がったとか・・・それを夫が拾おうとしたとか・・・誰かが夫の背中を押したとか・・・押さなかったとか・・・とにかく夫は電車に轢かれて死亡した・・・そして・・・その騒ぎの中、女子高校生も、夫を引きずり下ろした乗客も姿を消していたというのです・・・そんな・・・なんだかわからない理由で死んでしまった彼・・・私は今でも・・・夫の「死」がなんなのか・・・よくわからないの」

「・・・」言葉につまる由紀だった。

小春の二人の子供たちは寝入っているように見える。

その頃・・・紗千(さち)は娘の栞(しおり)を問いつめていた。

娘の部屋から・・・青柳信の死亡記事と・・・青柳信の似顔絵が見つかったからだ。

「あなた・・・これはどういうことなの」

「小春さんの夫になった人でしょ・・・私の義理のお兄さんでしょう。一度、この家に来たことがあるでしょう」

その日の家路の途中で信は事故に遭遇した。信が持っていた梨は紗千が託したものだった。

「あなたはいなかったじゃない」

「いたの・・・隠れていたの・・・だって・・・小春さんのことは一種のタブーだったでしょう」

「・・・」

「それで・・・記事を見つけて・・・なんだろう・・・好奇心みたいな気持で・・・思わず絵を描いてみたの・・・」

「死んだ人を描くなんて・・・そんな気持ちの悪いことをしないでおくれ」

「だって・・・お姉さんの・・・夫になった人でしょ・・・」

「あなたには・・・お姉さんなんて・・・いないの・・・私の娘はあなただけよ・・・」

「・・・」

不気味としか言いようのない表情を浮かべて見つめ合う母と娘だった。

そんなある日・・・。

植杉健太郎はいつになくおしゃれをして外出する。

見咎めた紗千には「知り合いの見舞い」と嘘をつくが・・・そのために将棋セットと・・・知り合いの妻に紗千が借りたコミック「ガラスの仮面/美内すずえ・(1)~(24)巻」を返却するように頼まれる。

健太郎の訪問先は青柳家であったためにお土産のケーキを含めて健太郎の手はふさがる。

小春のアパートの階段でついに腰を痛める健太郎だった。

そこへ望海が帰ってくる。

「部屋で休ませてくれないか」

「残念だけど・・・知らない人は家にはあげられないの」

「知らないわけじゃないだろう」

「でも・・・家族ではないもの・・・どこかで区切りをつけないと・・・さしさわりが生じるでしょう」

「わかった・・・君のお母さんが帰ってくるのを待つよ」

陸を連れた小春が帰宅した時には健太郎は半死半生になっていた。だがおせっかいな隣人に通報されなかったのは僥倖と言えるだろう。

ようやく部屋にあがった健太郎は望美や陸に身体を弄ばれながら・・・用件を述べるのだった。

「君にとって私はお母さんを盗んだ悪い男だろうから・・・嫌だったら殴ってくれても蹴ってくれてもいい。だけど・・・君が八歳の時から君のお父さんが死ぬまでの十年。それからの十年。もう二十年の月日がたったのだ。母と娘なんだから・・・もう・・・家族に戻ったらどうだろう・・・せめて・・・君が忙しい時・・・この子たちを預かることくらいはさせてもらえないか・・・」

なぜか・・・小春の怨みは母親を奪った男よりも、父を捨てた母親に向かっている。

間もなく・・・血液検査を受けなければならない小春はその日に二人を母親には内緒で預けることに同意するのだった。

とにかく・・・健太郎は小春が無敵の将棋王だったことを知るのだった。

「再生不良性貧血の疑いがありますが・・・あなたの場合は栄養失調によるものかもしれません。しかし・・・念のために検査を推奨します」と主治医の澤村(高橋一生)が告げる。

「検査の費用は・・・」

「一万五千円くらいですね」と研修医の砂川藍子(谷村美月)・・・。

「あの・・・」

「もしも・・・何かあったら・・・一万五千円どころじゃないんですよ」と説得する藍子だった。

小春は熱意に負けた。

藍子の元へ、夫で福祉事務所職員の良祐(三浦貴大)が訪ねてくる。

「ひどいじゃないか・・・息子を放置して・・・」

「放置なんかしてないわ・・・あの子のことはあなたに頼んだじゃない」

「母親のくせに・・・」

「身勝手な男の犠牲者を母親と呼ぶのなら・・・私は違うのよ」

「・・・」

二人の不仲の原因はまだ明らかにされないのだが・・・おそらく・・・良祐は男女雇用機会均等法の精神が理解できないタイプなのだろうと推測される。

例によって幼い姉弟の玩具と化した健太郎。

そこへ紗千が帰宅する。

紗千はけして子供が嫌いではないのだが・・・娘との確執のためにそれを素直に表現できない。

お絵かきを始めた姉妹のためにきれた電球を換え、孫の望海に耐熱用のタオルをさしだされても「最近の子供は媚びるのが上手ね」などと皮肉を言ったりする。

しかし、「すべての生物がてんとう虫化した世界」を描く望海の画力に魅了されてしまうのだった。

二人を迎えにきた小春は・・・紗千が孫たちをお風呂な入れているところに遭遇するのだった。

「木のお風呂が珍しいから・・・入りたいっていうから」

風呂上がりの二人に浴衣を着せる紗千だった。

小春は固辞するが・・・健太郎は夕食を食べるように進める。

「ちくわチャーハンたべたいだろう」と望海に誘いをかける健太郎。

「食べたくありません」と母親に味方する望海だった。

「ほら・・・子供が食べたいものを食べたいって言えないなんて無惨でしょう。娘や孫にそんな気持ちを押しつけて・・・かわいそうじゃないですか」

健太郎の論理に屈する母と娘だった。

紗千とちくわチャーハンを食べた望海は「お母さんと同じ味だ」と叫ぶのだった。

「食べ終わったら帰るわよ・・・」

「もう少しいいじゃないか・・・」

「この子は私のことが嫌いなのよ」

「そんなことはないです」

「だってそうじゃない・・・ピアノの時だって・・・」

「ピアノより将棋が好きだったんです」

「私が入院した時だって・・・見舞いにこなかった」

「病院の幽霊がこわかったんです」

「ほら・・・なんだかんだ・・・この子は私になつかなかった・・・私がお腹を痛めて産んだのに・・・私が育てたのに・・・私より父親になついたんだ」

「そんなこと・・・云われたくありません。貴女が出て行った後、お父さんは小説を書くのをやめました。こんなものを書いていたからお母さんは出て行ったと・・・でもお父さんしそれから死ぬまでの十年間、私を育ててくれたのです」

「違う・・・違うぞ」と健太郎が割り込む。

「お母さんは何も悪くない・・・悪いのは私だ・・・私が君の家を壊したのだ・・・憎むなら私を・・・」

「違うでしょう」といつの間にか帰宅していた栞が割り込むのだった。

「お父さんは・・・お母さんを助けたかったんでしょう。妻を殴ったり蹴ったりして・・・恥じることのなかったこの人の父親の手から・・・お母さんが入院したのだって・・・そんな人間の屑から受けた暴力のせいじゃないの・・・お姉さん、貴女は幼すぎて・・・そのことに気がつかなかったのか・・・大事なことを見落とす愚か者だったのよ・・・パンがないならケーキを食べればいいっていうタイプなのよ・・・そんなことじゃ、いつか断頭台の露と消えるわよ・・・あなたの結婚相手だって・・・本当はどんな男なのか知れたもんじゃないかもよ」

「な・・・なんでそんなことをお前が知っているんだ」と驚愕する両親。

「おじさんに聞いたのよ・・・当時のことをみんな話してくれたわ」

それぞれに言葉を失う三人だった。

その頃・・・二階では幼い姉弟がガラスに封じられた雪景色に魅惑されていた。

栞の言葉に戸惑いながら・・・積年の怨みが揺らぐ気分を味わう小春。

「浴衣は洗っておかえししますから・・・」

「いいんだよ・・・だってこの浴衣はお母さんのだって」

「・・・」

「だから・・・かえさなくっていいんだよ」

「・・・」

「いいでしょ」

「いいよ・・・」

「よかった・・・」

「植杉さん・・・ちくわチャーハン御馳走さまでした」

「お粗末様でした」

母と娘は二十年ぶりにぎこちなく会話を交わしたのだった。

夕暮れの街にどう聞いても不気味な・・・遠き山に日は落ちて・・・が鳴り響く。

紗千は孫が忘れて行ったパトカーのように見えるが牛の工作を・・・。

車のように走らせてみる。

その顔にはそこはかとなく不気味な微笑みが浮かんでいる。

不気味でも良い幸せになってほしいとお茶の間は願うのだった。

関連するキッドのブログ→第2話のレビュー

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2013年7月17日 (水)

ムラサキ(木南晴夏)VS偽ムラサキ(有村架純)スターマン争奪戦~追跡篇

さて・・・夏ドラマがスタートしたわけだが・・・意外にも好調なスタートである。

「ぴんとこな」とか「京都地検の女」などこれからのものもあるがほぼ・・・出そろったところでは・・・。

おバカドラマとしてではなく・・・リアルなドラマとしておバカなお茶の間の掴みに成功した「半沢直樹」は19.4%↗21.8%とぶっちぎりの展開である。・・・ヤレヤレだな。

そういう意味では「DOCTORS2~最強の名医~」19.6%、「ショムニ2013」18.3%と三大おバカドラマが絶好調で・・・今年の夏の暑さを物語るのだった。

で・・・「SUMMER NUDE」17.4%↘12.8%、「Woman」13.9%↘11.3%とあきらかにおバカ層をつかみ損なったドラマは残念な感じなのであるが・・・めげずに我が道を貫いてもらいたい。評価は後からついてくるのである。

「斉藤さん2」15.5%も健闘したよね。

そんな夏ドラマ戦線にあって・・・ほぼ予想通りだったのが・・・「スターマン」10.5%のスタートなのである。

リアルでもなく・・・バカドラマでもない・・・微妙な感じが・・・お茶の間を困惑させていることが充分に窺がわれるのだな。

まあ・・・「天魔さん」*2.3%とか、「仮面ティーチャー」*2.9%とかと・・・ある意味、ジャンルが一緒なのでそういう意味では物凄い高視聴率だと思うしかないんです。

で、『スターマン・この星の・第2回』(フジテレビ20130716PM10~)脚本・岡田惠和、演出。堤幸彦を見た。河口湖畔で自殺した一人の男(福士蒼汰)に特殊な流星が落下し、宇宙生命体が寄生する。ここまででハル・クレメント(1922-2003)の小説「20億の針」(1950年)を連想し、その派生作品である「ウルトラマン」を想起する人は結構、いい年齢だと考える。宇宙生命体もしくは宇宙人を題材とした作品はあまたあるわけであるが・・・宇宙生命体と地球人の合体による「宇宙人」というアイディアは実に秀逸だと言う他はない。もちろん、西洋には神の子の処女懐胎という伝統があり、異世界と現世の融合には馴染みがあるわけである。とにかく・・・そうして生まれた宇宙人は地球人としての記憶を失ってしまう。それを通りすがりのシングル・マザー・宇野佐和子(広末涼子)が拾って、自分のものにしてしまうところから物語は始るのだった。ここは桃の中や竹の中から出て来たものは自分のものという昔からの伝統なのだった。

星男と名付けられ、宇野家の暮らしに馴染み始めた内縁の「夫」に佐和子はうっとりなのであった。

しかし、佐和子と佐和子の祖母・柏原美代(吉行和子)にでっちあげられた過去・・・ふらりとやってきて・・・長男・小学五年生の大(大西流星)、次男・小学三年生の秀(黒田博之)、保育園に通う三男の俊(五十嵐陽向)という三人の子持ちである佐和子と結婚し、主夫として生活していた・・・を信じた星男には様々な疑問が浮かぶのだった。

ここで・・・記憶障害についてのある程度の知識が要されることは言うまでもない。

人間の心の形成はまだ様々な謎を含んでいる上に個人差があるという厄介なものである。

たとえば記憶力の差異がある。記憶力に優れた人間とそうでない人間は同じ人間とは思えない場合がある。

あるいは意志の強弱の問題がある。意志の強い人間とそうでない人間も同じ人間とは思えない場合がある。

そして意識の差異がある。そもそも・・・人間は同じ意識を持っているのかどうかも・・・根本的には不明なのだ。

しかし・・・人間は他人もある程度は自分と同じような心を持っているはずだと考えて行動するしかない。

そして・・・考えられないような行動に出た人間に驚愕したり、考えられない行動に出た人間に共感する自分を見出して恐怖したりするのである。

基本的に意識は・・・記憶の保存と再生の処理の流れに浮かんだ泡のようなものだと考えることができる。

その泡は電子の流れによる波で構成されている。

人間の記憶の一部は有機的なメディアに保存されるわけだが・・・一度、電気的な流れが遮断すると喪失したり、取り出し不能になってしまう。

人間的機能が喪失されたか否かの判断は非常に困難だが、臓器の再利用という経済的要求から「脳死」なる判定基準が考案されたことは周知の事実である。

生命活動の維持が自力では困難であり、脳内活動が電位の変化として観測できないから・・・「意識」がないかどうかは本当は分らないが・・・本人がそうだと言えない以上、他人にとっては知ったことではないということなんだな。

ともかく・・・一度死んだ星男(仮名)の脳内から「宇宙生命体」はある程度の情報を引き出すことに成功したが・・・生体機能の維持や常識的な知識は可能でも、星男の過去・・・個人的生活史までは再現できなかったと思われる。

また・・・宇宙生命体に人間と同じような意識があるのかどうかも定かではない。

星男は突然の発作を起こすのであるが・・・これは宇宙生命体が情報を引き出すためにリサーチをかけているショックによるものだと推測できる。

人としての知識・・・たとえば車が何かを知っており、車を運転するのに免許があることを知っている。人としての感情・・・たとえば美味しいものを食べると美味いと感じ、子供を可愛いと思ったり、愛されていると知れば嬉しく感じる。

そういう知識や感情はありながら・・・自分の過去という記憶が脱落している・・・それがいわゆるドラマにありがちな都合のいい記憶喪失というお約束なのである。

佐和子の長男・大は見ず知らずの男を拾ってきた母親の無謀さに批判的である。

「だっておかしいじゃないか」と言わずにはいられない。

「その通り、お前は正しくてお母さんやおばあちゃんは間違ってる」と祖母の美代は応じる。しかし・・・。

「お前も彼女ができたらわかるかもしれないが・・・女にとって正しいかまちがってるかなんて・・・どうでもいいことなんだよ」

大は世界の秘密の一端を知らされ・・・恐怖を感じるのだった。

一方で・・・自分の境遇を理解し始めた星男は・・・「収入もなく・・・主夫として家事も得意ではない自分はダメ人間なのではないか」と疑問を感じ始める。

そして・・・「佐和子は自分といて幸せなのでしょうか」と美代に質問するのだった。

美代は「それは佐和子本人でなければわからない・・・自分で確かめなさい」と星男を佐和子の勤める「スーパーマーケットやまと」に送りだす。

本人は気が付いていないらしいが時速100キロくらいで走る星男はたちまち佐和子の職場に到着する。

ちょうど佐和子は帰宅するところだった。

「美代さんに佐和子とデートしてくるように言われました」

「あら・・・そうなの」

すっかり、星男の魅力の虜になった佐和子は頬を赤らめるのだった。

役柄では佐和子が32才で星男が25才の設定だが、広末涼子はまもなく33才、福士蒼汰は20才そこそこである。ある意味、犯罪ギリギリなのだった。

そんな二人を見つめる人間たちがいた。

一人はどうやら・・・星男の先輩宇宙人であるらしい、惣菜売り場の主・重田信三(國村隼)である。彼は古女房(角替和枝)に40年前に拾われて今では大家族の名目上の長となっている。

そして、もう一人は佐和子の同僚で・・・安藤くん(山田裕貴)と職場恋愛をしている臼井祥子(有村架純)だった。彼女は現実の生活にどうしようもない鬱屈を感じており・・・宇宙から星の王子様が迎えに来てくれるという妄想を抱くようになっていた。

この人物造形には小説「ビームしておくれ、ふるさとへ/ジェイムズ・ティプトリイ・ジュニア」を連想させるものがあります。

とにかく、国道沿いのラブホテルで安藤くんが「マイ・ウエイ」を熱唱しながらシャワーを浴びたのにやらせてあげない悪い子なのです。

「泣くな、はらちゃん」の悪魔さんポジションですが・・・さらに凶悪なキャラクターの匂いがします。

祥子は恐ろしい直感・・・あるいは何か隠されている事情により・・・佐和子の内縁の夫が実は星の王子様ではないかと疑っているのだった。太陽系をデザインしたバッグを持っていて・・・ある意味神秘的な存在なのだが・・・ここが一番、説明不足だぞう・・・。

説明不足と言えば・・・「泣くな、はらちゃん」のアナザー・ワールド的世界観を持つこのドラマ。いろいろな意味で・・・物足りない感じはある。

一番大きいのは佐和子の隠れた魅力に気が付いている男の存在不足であろう。

田中くん(丸山隆平)に対して、佐竹幸平(KENCHI)はあまりにも力量不足なんだな。

EXILEというドラマ世界のデストロイヤーたちはなんとか早く消滅してほしいと心から願うよ。

まあ、バカとハサミは使いようなのかもしれませんがーーーっ。

・・・そのぐらいにしとけよ。

さらに言えば広末涼子の難しさがある。最近では「リーガルハイ」が抜群の上手さを見せていたが・・・ある程度、取り扱い注意なのである。

クドカンでさえ「11人いる」では手こずってた感じがあるからな。

つまり、素材としての魅力が抜群すぎてスタッフの手に余るのですな。

たとえば堤幸彦は映画「恋愛寫眞」(2003年)に絶頂期の広末涼子を撮っているだけに三十代の彼女を捕らえそこなっている気がしてならない。

そういう意味では小池栄子にもまったく同じ傾向がある。

スケジュール的な問題もあるが・・・次回、登場する蒸発した夫(安田顕)もからめて・・・もう少し・・・第一回は過去から語り起こしても良かった気がする。

イメージとしては佐和子とスナックスターのママ・須多節(小池栄子)は体育会系の親友である。女子野球、あるいはソフトボール部ではバッテリーを組んでいたわけである。ここはなんちゃって高校生をやらせるぐらいでも良かった気がする。

ピッチャー佐和子とキャッチャー節の青春物語から始ってもよかったはずである。

そういう作り込みがほんの少し・・・足りなかったんじゃないのかなあ・・・と感じるのだった。

まあ・・・妄想で補える範囲ですけれどね・・・お茶の間的にはねえ。

結局、ガストに星男を連れて行った佐和子。星男に問われるままに二人のなれそめをでっちあげるのである。

ここも・・・少し・・・話している間に佐和子がそういうことが本当にあった気になってしまう流れが脚本・演出ともにやや甘いのである。

「二人が出会ったのも・・・この店なのよ・・・その日は凄く混んでてさ・・・凄くお腹がすいてたあなたは・・・一人で食べていた私に合席を申し込んできたワケ。ファミレスで合席なんて初めてだったから・・・とまどったけど・・・私・・・あなたを一目みて・・・惚れちゃったのよね。で・・・あなたは・・・お腹がすいているくせに・・・なかなか注文を決められないの。そして・・・私の注文した和風ハンバーグにのっかってきたわけよ・・・だから・・・今、食べている和風ハンバーグ・セットで二人の思い出の料理なのよ。私・・・これを食べる度にあの日のことを思い出してちょっとうっとりしちゃうわけ。で・・・食べながら、私たちはおしゃべりをしたわ。といっても・・・しゃべるのは私ばかり。あなたは東京から来たことしか・・・云わなかった・・・なんだか・・・失職して旅をしているようなことは云ったけどね。私は・・・この街で生まれて・・・この街で育ち・・・この街で結婚して・・・この街で子供を三人産んだなんてことを洗いざらい喋っちゃった・・・なにしろ・・・この街のことしか知らないし・・・そして前の夫に逃げられたことも話したの。そしたら・・・あなたは突然、私のことを好きになったって云いだして・・・私はびっくりしたし・・・とまどったわ・・・だってどう見ても私の方がかなり年上だし・・・でもね・・・なんてったって私は一目見た時からあなたのことが好きになっていたのよ・・・相思相愛なんだから・・・何も問題ないのかなって・・・思っちゃった」

「・・・それで・・・後悔してないの・・・今は・・・どうなのかな」

「後悔なんてするわけないじゃない・・・だって・・・今もあなたといるだけでとっても幸せなんだもん」

「・・・」

それから・・・二人は夜の公園に行く。

でっちあげられたファースト・キスの場所なのである。

そこで・・・二人はどちらからともなく・・・キスをしようとするのであるが・・・嘘に嘘を積み重ねている佐和子は突然、躊躇するのだった。

それは罪悪感によるものなのか・・・乙女の恥じらいなのかは微妙なのだった。

ところが、直後に星の光を受けた星男は激しく痙攣し、昏倒してしまうのだった。

一方、「ガスト」の二人を目撃して激怒していた女が一人いたのだった。

二人の乗った赤い車を見失った女だったが・・・執念深い猟犬のように黒い車で二人を追跡するのだった。

どうやら・・・生前の星男の関係者であるらしい。

昏倒した星男を担いで家に連れ帰った佐和子は医者の溝上先生(モト冬樹)に往診を求める。しかし、星男の身体に異常はなく、彼は何事もなかったように目覚める。

この時、二人を監視していた重田は不覚にも転倒事故を起こしてお持ち帰りのお惣菜を台無しにするのだった。

その日・・・次男の秀(黒田博之)は不思議な光景を目撃する。

庭で瀕死の野鳥を拾いあげた星男は手の中で野鳥を治癒し、蘇生させたのだった。

秀は奇跡の光景を自分の心の中にしまいこむのだった。

翌朝・・・いつものように和やかにはじまった朝食。

しかし・・・謎の女・羽生ミチル(木南晴夏)はついに・・・赤い車の発見に成功していた。

土足で宇野家に踏み込んだミチルは物凄いジャンピング・パンチで星男を殴り飛ばすのである。

星男を狙う二人の女は・・・ムラサキが偽ムラサキを一歩リードしたらしい。

誰が・・・「勇者ヨシヒコと悪霊の鍵」(2012年テレビ東京)の話をしていいと云った。

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2013年7月16日 (火)

ファンキービート(山久智久)とチェリーパイ(戸田恵梨香)のSUMMER NUDE

七月の第三月曜日は「海の日」である。

そうなったのは2003年からで・・・ハッピーマンデー制度だ・・・1996年に施行された時は七月二十日だった。

地域によっても変わるが基本的に小中学校の夏休み開始直前である。

それに対して・・・これも地域差があるわけだが「海開き」は概ね七月一日である。

つまり、ドラマの中のカレンダーとオンエアの間には2~3週間のタイムラグか生じている。

おそらく、計算ではなく・・・たまたまなのだろうが・・・ある種の「もどかしさ」は感じさせるわけである。

とっくに・・・夏なんだよ・・・暑くて暑くて死にそうなんだよ・・・ということだ。

ちなみにドラマの主題歌になっている「サマーヌード/真心ブラザーズ」は海の日が制定された1995年にリリースされている。

そして・・・その前年の1994年の秋ドラマに「若者のすべて」(フジテレビ)がある。

今回はラジオから二曲の誰かのリクエスト曲が流れてくる。

「風の吹き抜ける場所へ Growin' Up, Blowin' In The Wind/FLYING KIDS」(1994年)と・・・。

「若者のすべて/フジファブリック」(2007年)である。

「若者のすべて」には・・・。

同じ空を見上げているよ

という歌詞があるのだが・・・。

ドラマ「若者のすべて」の挿入歌「星になれたら/Mr.Children」には・・・。

空に手をかざしてみよう この風は きっとどこかで君とつながっているから

という歌詞があることを指摘しておく。

「若者のすべて」というフレーズは1960年公開のルキノ・ヴィスコンティ監督のイタリア映画「Rocco e i suoi fratelli(ロッコと彼の兄弟たち)」の邦題にある。

で、『SUMMER NUDE・第2回』(フジテレビ20130715PM9~)脚本・金子茂樹、演出・石井祐介を見た。どこがサマー・ヌードなのかと言えば・・・冒頭で朝八時半過ぎに夢の中で目覚める主人公・三厨朝日(山下智久)が上半身裸なのである。夏だから裸で・・・夜には着て寝ても朝起きたら裸はよくあることなのである。それ以上を期待してはいけないと考える。基本的に・・・ここでのヌードとは・・・過去の執着を脱ぎ捨てるという意味だと朝日本人がナレーションしているのだから間違いないのだ。

夢の中は過去の世界。

朝日が恋しくて恋しくてたまらない気持になる一倉香澄(長澤まさみ)との愛の日々である。

その頃は・・・朝日が目覚めると・・・トーストの匂いと目玉焼きの焼ける音がしてテーブルにはサラダとヨーグルト、そして裸にエプロンの・・・そうとは限らないが・・・恋人の香澄が「おはよう」と微笑んでくれたのだ。

現実には朝日は一人ぼっちで目を覚まし、ラジオから流れるDJの声を聞く。

彼女の耳にピアスが揺れて

ちょっとしたしぐさ

やけにまぶしく大人びている

風の吹き抜ける場所を目指し

君の体チェリーパイ

そして僕の心ファンキービート

夏をかけぬけてゆく

流れ出すなつかしのナンバー。しかし・・・朝日の心は風に吹かれて成長して行く気分ではないのだった。

チェリーパイよりも失われた血もしたたるステーキが食べたいのである。

去年の夏。彼女はいなかった。

二年前の夏。彼女はいなかった。

三年前の夏。彼女はいなくなった。

四年前の夏。彼女と出会った。

一つ年下の大学生だった・・・香澄。

彼女と出会う前の世界はセピア色に色あせ、彼女が去った後の世界はモノトーンに沈む。

朝日は鮮やかな色彩を失った世界で生きている。

理由も告げずに去って行った女を・・・あきらめきれずに待っている男は自分で自分を笑うこともできないのである。

そんな朝日に片思いし続ける二つ年下の谷山波奈江。

一年前、片思い。

二年前、片思い。

三年前、片思い。「彼」が「彼女」を失った。

四年前、片思い。しかも「彼」には「彼女」ができた。

五年前、片思い。二十歳になったのに写真をとってもらえなかった。

六年前、片思い。「二十歳になったら・・・写真を撮って」と約束した。

七年前、片思い。

八年前、片思い。

九年前、片思い。

十年前、十五歳で高校一年生だった。

あの夏、高校三年生だった野球部の三厨朝日先輩と校門ですれ違った。

校外のランニングから戻ってきた先輩は何気なく声をかけた。

「早く帰った方がいいぞ・・・もうすぐ一雨くるから」

波奈江はスケッチブックを抱えていた。

家に戻るとどしゃぶりの雨が降ってきた。

その時・・・波奈江は恋に墜ちたのだ。

「それから・・・十年ですよ・・・」

朝日の勤務する小南写真館で館長の小南文博(斉木しげる)と将棋をさしながら・・・波奈江はぼやくのだった。

もちろん・・・みさき海岸周辺のほとんどの人は波奈江の片思いについて熟知しているのである。

「十年前は・・・もう少し・・・優しい将棋をさしてたよなあ・・・そこで歩が金に成ると・・・」

「成り金の娘ですから~」

「まいった・・・」

投了する小南館長だった。

社長令嬢で形ばかりの社長秘書である波奈江は暇をもてあましているのだった。

写真館には新顔の客が訪れていた。

帰国子女で・・・小学生時代に住んでいたこの町に十年ぶりに戻ってきたという堀切あおい(山本美月)である。モデル志望ということでオーディション用の写真を撮りにきたらしい。

仕事を終えた朝日に「今度、正式にナンパしてくださいよ」などと物騒な雑談を交わしているのだった。

しかし・・・片思いのベテランである波奈江はそんなことではポーカーフェイスを崩さない。

だが・・・思い切っておねだりはしてみるのだった。

「私の履歴書の写真撮ってよ」

「何するんだ」

「履歴書は履歴書だろ」

「じゃ・・・麻美ちゃんに撮ってもらえ」

朝日はアルバイトの一瀬麻美(中条あやみ)の名をあげるのだった。

「さっきの女の写真はとったくせに・・・」

「彼女はお客さんだから・・・」

「私だってお金払うわよ」

「お前から・・・お金はもらえないだろ」

「・・・」

波奈江には分っていた。朝日が波奈江との約束を果たさないのは・・・波奈江の気持ちを知っていて・・・それに応えるつもりがないからだと。

波奈江は心の中で唇をかみしめる。

そんなことで・・・表情は崩せないのである。

偶然と気まぐれが重なって・・・開業が危ぶまれた海の家「レストラン青山」の臨時の店長となった千代原夏希(香里奈)は出産したばかりのオーナーの下嶋勢津子(板谷由夏)に開店準備がほぼ整ったことを報告する。

「よかったわ・・・海開きに間に合って・・・ありがとうございます」

「どういたしまして・・・勢津子さんの予言通りになってしまいました・・・」

「そうでしょ・・・私の予言は割とあたるのよ・・・あたらなかったのは前の亭主の寿命と・・・今の亭主との結婚だけね」

「自分のことは占えないって云いますもんね」

「そうよ・・・ついでに予言するとね」

「ついで・・・ですか」

「あなたは・・・この夏、運命の人に出会うわね」

「そんな・・・婚約者に逃げられたばかりなのに」

「だからよ・・・禍福は糾う縄の如しなの。不幸の分だけ幸福がやってきてバランスをとるのよ」

「世の中にはとことんついてない人や、付きまくっている人もいますけど」

「それはね・・・例外なのよ」

「はあ・・・」

「それと・・・逃れられない宿命ね」

「・・・」

もはや微笑むしかない夏希だった。

勢津子の二番目の夫・賢二(高橋克典)の経営するカフェ&バー「港区」に屯するいつものメンバーたち。

朝日が残業しているために・・・話題は「写真を撮ってもらえない波奈江の愚痴」になっていく。

新参者の夏希は「事情」を知り・・・一つ年下の朝日と・・・三つ年下の波奈江のために一肌脱ぐことを決意するのだった。しかし、ヌードになるわけではありません。・・・断る必要あるのかよっ。

夏希にも「雨」についての思い出があった。

結婚式から逃げ出した婚約者・古山幸太(福士誠治)との思い出である。

出会って間もなくサッカー観戦のデートの約束をした。

その日は朝から雨だったのでてっきり試合が中止だと思いこんだ夏希。

しかし、サッカーは雨天決行のスポーツである。

うたた寝から目覚めると「ゲートで待っている」と幸太からメールが入っていた。

それ以来、雨の日には「傘マーク」の絵文字が幸太から届くようになった。

そんな、ある日、仕事帰りににわか雨が降る。

いつものように「傘」の絵文字が届く。

店を出た夏希を幸太が傘を持って待っていた・・・という甘い記憶である。

あの日・・・夏希はどしゃ降りの雨の中を幸太と二人であいあい傘で歩いたのだ。

そんな思い出が夏希の心を疼かせる・・・ひどいことをされたのに・・・幸太をふっきれないのである。

「酷いことをされればされるほど・・・好きになっちゃうことってありますよね」

「そういう女は不幸になるしかないのよね」

「それが幸せだって思ってるわけですもんねえ」

十年片思いの女と婚約者に逃亡された女は同類相哀れむのだった。

着信があれば「彼」かもしれないと思い、胸を焦がすが「母」からなのだった。

「そっちはどうなの?」と突然海辺の町へ引っ越した娘を気遣う夏希の母(キムラ緑子)だった。

「順調だよ・・・」

「無理してない・・・せきたてるようなことを言ったけど・・・あんなことの後だから・・・本当はもっとのんびりしていていいんだよ」

「大丈夫だよ」・・・結局、母親というものは娘が何をしていようが心配なのだと夏希は思うのだった。それはありがたくもあり、鬱陶しいものでもある。

姉の別宅にあがりこんだ波奈江の弟・駿(佐藤勝利)は高校一年生である。

十歳近く、年の離れた弟はサッカー・ゲームに興じていた。

「また・・・試合に負けたのね」

「ほっといてくれよ」

弟はサッカー部に所属していた。

「サッカーって楽しいの?・・・やはり、勝利には喜びがあるの・・・」

「勝ったことのない人間にする質問じゃねえな」

「じゃ・・・なんでやってるの・・・」

「そりゃ・・・好きだからだべ」

「じぇじぇっ・・・てあまちゃん、見過ぎ~」

「姉ちゃんこそ・・・ロスタイム長すぎ~・・・十年で1点くらいとれないかなあ」

「ほっとけよ・・・」

「ま・・・ロスタイムで1点とれば勝利は目前なんだけどな」

「1点とられたら・・・敗北も目前だけどね」

「むこうは一人退場で数的有利なのにな」

「そのたとえは・・・やめてくれ・・・弟のくせにひどすぎるから」

狭い町なのである。

波奈江の同級生でレンタルビデオ屋の店員・ヒカルこと桐畑光(窪田正孝)の実家はレストラン「青山」に食材を卸す鮮魚店を経営している。

仕入れ先の挨拶回りをする夏希と波奈江は「三年間延滞料金を払い続ける男」の話をする。

「逃げた女と最後に見る約束していたビデオを借りっぱなしの男がいて・・・一日300円で一週間2100円の延滞料金を毎週払ってるわけ」

「ばかだね」

「ばかでしょ」

「で・・・それをあんたは毎日、チェックしているわけだ・・・なんて映画」

「48時間PART2/帰って来たふたり・・・」

「エディ・マーフィとニック・ノルティか・・・」

「ウォルター・ヒル監督で1982年の作品です」

「くわしいわね」

「三年間ずっと・・・空ケース見てるんで」

「あんたも・・・ばかだね」

「ばかでしょ」

朝日の高校時代の野球部からの悪友であるタカシこと矢井野孝至(勝地涼)は突然、サーファーになって・・・朝日の部屋でボードに立つ特訓中だった。

「おまえ・・・バカだろう」

「うるさいな」

「そんなこと・・・家でやれよ」

「こんなこと家でやってたら・・・本当にバカじゃないか」

「・・・」

「お前さあ・・・写真くらい撮ってやればいいじゃないか」

「・・・」

「10年も空振りしてきた女が写真一枚くらいで勘違いしないだろ」

「サヨナラヒットを打つ気かもしれないぜ・・・」

「だからって満塁だったら敬遠できないぜ」

「何の話をしてるんだっけ・・・」

言葉を濁す朝日だった。そして、お互いを知り尽くした狭い町なのだった。

朝日は小学校の校外活動の撮影をしていた。

海辺の子供たちを微笑みながら撮っていても変態ではないのである。

レストラン「青山」で開店準備をしていた夏希は朝日に声をかける。

「そんな仕事もするんだ・・・」

「町の写真のことは大体・・・ウチの写真館が引受けてます」

「あんた・・・腕は確かだもんね」

「ま・・・モデルが良かったのかもしれないけど・・・私の事、割ときれいにとってくれた」

「かなり・・・きれいに撮ったつもりですけど」

「でも・・・海なんて・・・誰が撮っても海でしょ・・・」

「そんなことはないよ・・・食材とレシピが同じなら誰が付くっても同じ料理じゃないでしょ」

「そんなもんかねえ」

「試しに撮ってみれば」

朝日は夏希にカメラを渡すのだった。

「どう・・・?」

「いいんじゃないか・・・でも・・・ここをこうするとさ・・・」

「あ・・・いいわね」

「ほら・・・ちょっと違うだろう」

「そうねえ・・・ここはどうなのよ」

「うん・・・いい感じだ」

ある意味・・・すでにいちゃいちゃしています。

「ミスみさきコンテストの女王だったんだってね・・・あんたの元カノ・・・」

「・・・」

「元じゃないってか・・・」

「・・・」

「ミスみさきがモデルになるポスターの写真を・・・あんたに撮らせるようにスポンサーの父親に頼んだの・・・波奈江なんだってねえ」

「・・・」

「ものすごい・・・作戦ミスだよね・・・」

「・・・」

「でもさ・・・それは昔の話じゃない・・・今は撮ってもらいたい人を・・・撮ってあげればいいんじゃないの」

しかし・・・答えない朝日だった。

海開きの日がやってきた。

和太鼓実演のパフォーマンスなどもあり・・・海辺に集う若者たち。

その中には怪しいカップルの米田春夫(千葉雄大)と石狩清子(橋本奈々未)の姿もある。

中心人物たちがなかなか水着にならないので清子はビキニ・スタイルを披露するのだった。

それ以外に存在意義があるのかどうかはまだ謎である。

レストラン「青山」も初日から満員御礼で好スタートをきるのだった。

オーナー夫妻や常連たちによる恒例の記念写真も撮影され・・・カメラを構えた朝日に「私たちも撮ってよ」と持ちかける夏希とタカシ。

「波奈江もおいでよ」

夏希とタカシは波奈江を挟みこむのだった。

「なんか・・・気の効いた合図の言葉ないのか」

「チーズでいいだろう」

「モッツァレラなんてどうかな・・・」と横からアシストするヒカル。

「いいね・・・じゃあ・・・モッツァレラ」

シャッターを切る瞬間、しゃがみこむ夏希とタカシ。

スリーショットの写真は・・・波奈江のワンショットになったのだった。

「よし・・・データ押収・・・」

「確保しました・・・」

「なんなんだよ・・・」

「いいじゃない・・・たかが・・・写真なんだもの・・・」

夏希とタカシは「朝日が撮った波奈江のポートレートは存在しない伝説」を強行突破で打ち破ったのだった。

そして・・・そんな写真でも・・・波奈江は嬉しかったのだった・・・乙女だからである。

物凄く釈然としない朝日と波奈江を黄昏の海岸に呼び出す夏希。

「裏切られた誓いの指輪・無許可海洋投棄の巻・後篇」である。

「私もさ・・・まだ・・・彼のこと・・・本当に嫌いになれてない・・・あんなひどいことされたのに・・・彼から連絡がないかってスマホをチェックしちゃう・・・でも・・・そんなんじゃ・・・なんにもはじまらないからさ・・・自分でサヨナラすることにしたよ・・・青春のばかやろーっ」

憐れなリングは放物線を描いて波間に消えた。

「いい投球ホームだった」

「かっけえええーっ・・・」

「あまちゃんの見過ぎね」

思うところのある・・・朝日だった。

出来あがった写真を受け取りに写真館に現れた波奈江。

「本当にそんな写真でいいのか」

「これで・・・いいの」

帰りかける波奈江に傘を渡す朝日。

「これから・・・どしゃぶりになるからな・・・」

「・・・まさか・・・覚えていたわけじゃないでしょうね」

「なにを・・・高校時代の雨の予報をか・・・」

「朝日・・・あなた・・・お天気お兄さんだったの・・・」

「波奈江・・・テレビの見過ぎだよ」

「暇だからね」

「撮るよ・・・ちゃんとしたの・・・それからビデオを返す」

「・・・」

夏希に背中を押されて・・・一歩を踏み出そうとする朝日。

僕ら今 はしゃぎすぎてる 夏の子供さ

胸と胸 からまる指

しかし・・・呪いのラジオはそれを許さない。

ウソだろ 誰か思い出すなんてさ

流れ出す・・・思い出のナンバー。

記憶の中の香澄が話し出す。

有村架純でも山谷花純でもなく一倉香澄である。・・・「あまちゃん」の見過ぎはお前だっ。

「この歌ってさ・・・最後の最後に二人は再会するのよね」

「違うだろう・・・結局、最後まで会えないんだろう」

「違うわよ・・・もうだめだとおもっていると大どんでん返しなのよ」

「いや・・・そんなことはないって」

「よく聞いてよ」

「聞いたって・・・」

二人の思い出の曲なのである。

真夏のピ一クが去った

天気予報士がテレビで言ってた

最後の花火に今年もなったな

ないかな ないよな きっとね いないよな

ないかな ないよな なんてね 思ってた

まいったな まいったな 話すことに 迷うな

最後の最後の花火が終わったら

僕らは変わるかな

同じ空を見上げているよ

思い出してしまった朝日は踏み出した足をそろりそろりとひっこめるのだった。

その頃、同じ曲はタクシーのカーラジオからも流れていた。

東京タワーの見下ろす街中を走っていくタクシー。

窓から空を見上げる乗客は・・・一倉香澄だった。

香澄は生きていました。

関連するキッドのブログ→第1話のレビュー

Sn002 ごっこガーデン。海開きの海の家セット。エリきゃぁぁぁぁぁぁぁ・・・せっかくエリが一押しの波奈江ちゃんが1点獲れそうだったのに神様のラジオが意地悪したのでス~。こういうラジオは買収して厳重に選曲管理しなければいけませんねえ。やられたら倍返しでス~。しかし、あわてず騒がず、ただちに香澄ちゃんモードに衣装チェンジしますのよ~。じいや~!」まこラジオのいけず~なのでしゅ~。香澄の彼氏もなあ・・・なんで逃げたんだろう・・・まこにはまったく理解不能でしゅ~。しかし・・・レンタルビデオ代とか質屋さんに指輪もってかないとか・・・ドラマのみなしゃんの経済感覚はユルユルでしゅね~。まこならまこかま工場の回転資金にぶっこみだじょ~・・・タカシ、海で溺れて死ぬなと思うばかりなのでございましゅ・・・大奥かっくう甲子園・・・球児たちのなちゅ・・・そして怪しい千葉ちゃんシャブリみさき市に お住まいのラジオネーム嬉しー悲しー グレイシーさん・・・香澄なのか?でありました~・・・なんてったって水着で覚醒するドラマなのでありました~ikasama4ただいま・・・ドライアイ療養中ですmari同じ境遇なのに夏希は前向きなのに・・・朝日は後ろ向き・・・心配です・・・」 

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2013年7月15日 (月)

慶応四年九月八日、時代は明治になったのでごぜえやす(綾瀬はるか)

慶応四年三月、明治天皇は五箇条の御誓文を発布。

一 広ク会議ヲ興シ万機公論ニ決スヘシ

一 上下心ヲ一ニシテ盛ニ経綸ヲ行フヘシ

一 官武一途庶民ニ至ル迄各其志ヲ遂ケ人心ヲシテ倦マサラシメン事ヲ要ス

一 旧来ノ陋習ヲ破リ天地ノ公道ニ基クヘシ

一 智識ヲ世界ニ求メ大ニ皇基ヲ振起スヘシ

一口で言えば、「よく話し合い、身分に関係なく心をひとつにして、誰もが努力を惜しまず、古い仕来りに囚われず、世界から学んで、天皇に尽くせ」ということである。

最後が・・・いろいろな問題を含んでいるのだが・・・とにかく、革命なので「将軍」ではなく「天皇」の時代が来たことは主張せずにはいられないわけなのだ。

日清戦争の死者に匹敵する戦死者を出した戊辰戦争がまぎれもなく内戦であったことは疑いようがない。

慶応四年八月、明治天皇は即位の儀式を終了し、名実ともに天皇の地位につく。

慶応四年九月八日、元号を明治と改め、一世一元の実行を開始した。

これにより、遡って慶応四年一月一日より、明治元年とすることを宣言するのだが、各種記録が改められたわけではなく・・・結局、1868年は慶応四年と明治元年が同居するのである。

もちろん、西暦と元号の間に人々を迷いこませる悪魔の所業なのである。

さらに言えば・・・1868年は慶応三年十二月七日から始り、明治元年十一月十八日で終わる。

太陰暦と太陽暦の不一致の問題が生じるからである。つまり、明治元年十一月十九日からは1869年なのである。まぎらわしいのさっ。

グレゴリオ暦(太陽暦)に改歴される明治六年(1873年)までしばらくお待ちください。

で、『八重の桜・第28回』(NHK総合20130714PM8~)作・山本むつみ、演出・加藤拓を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は王政復古の立役者、堀河公卿家出身、権大納言岩倉家の養子にして岩倉友山改め、輔相・岩倉具視の描き下ろしイラスト大公開でお得でございます。雌伏の時を終え、陽忍の道を歩く、天皇のしのびの長は度々、行方をくらまして・・・苦難に満ちた大日本帝国建国の舵取りをしていくわけですな。あまちゃんなら「かっけーっ」と叫ぶところでございます。日本人初のガン告知を受けて世を去るまで十六年・・・がんばれ、旧五百円札の人。鉄オタもご照覧あれ。

Yaeden028 慶応四年八月、新政府軍は鶴ヶ城西側の藩校日新館天文台と東側の小田山山頂に砲台陣地を構築し、城内に盛んに砲撃を開始する。籠城開始後、入城を拒まれた会津正規軍以外の旧・幕府軍は城外に散開し、ゲリラ戦を余儀なくされる。無計画な会津軍は城内に兵糧の備蓄がなく、城外の倉庫を奇襲によって確保する必要に迫られる。八月二十九日、家老・佐川官兵衛は松平容保より伝来の宝刀・正宗を賜り、長命寺方面への出撃を命じられる。しかし、飲酒爆睡し、出撃時期を逸し、包囲殲滅されるという嘘のような失態を演じる。この頃、西郷頼母は庄内藩への連絡という密命を帯びて戦線を離脱、政敵である梶原平馬は暗殺指令を発するが失敗する。この期に及んで内訌(うちわもめ)なのである。やがて九月五日に藤原(日光)口より薩摩藩主力を率いた桐野利秋が城南に着陣。汚名返上を目指す佐川は明治元年九月八日、材木町周辺の兵糧の奪取に成功し、薩摩藩から「鬼の官兵衛」の異名で恐れられる。しかし、門田村御山付近に潜伏中の日向ユキはこの戦いで兄を失うことになる。九月十日、萱野権兵衛らの高久陣地を無視して越後口より前原一誠の率いる長州軍主力が到着。ついに会津城包囲網が完成する。九月十七日、新政府軍は総攻撃を開始。進撃に先立つ一斉砲撃で山川大蔵の妻、登勢は城内で爆死する。鶴ヶ島攻防戦は最終局面に突入した。

鶴ヶ城から城下町へはいくつかの地下道が掘削されている。

松平容保より、会津忍びの長として秘義伝授を受けた鉄砲くのいちの八重は・・・白虎しのび、娘子くのいちを引き連れて地下道からの出撃を続けていた。

各所に分散した兵糧の搬入が主任務である。

八重はまた武田の軍師・山本勘助の血脈を受け継ぐものである。東海道ですでに政府軍の軍門に下っている清水の次郎長こと山本長五郎もその一門である。仁義の精神により、長五郎は配下の忍びを会津へ助っ人として派遣していた。

その一人、石松は・・・万延元年に死んだと思われている遠州森の石松である・・・八重とともに暗い地下道を進みながらつぶやく。

「八重のあねご・・・」

「なんだい・・・石松さん」

「それにしても・・・会津のお人はうかつだねえ」

「うかつとは・・・聞き捨てならないねえ」

「だってよお・・・これから戦(いくさ)って時にお城に米を運び込んでおかねえとはどんな料簡なんだい」

「薩長のやつらがすばしっこいのさ・・・こっちがうかうかしているうちにあっという間になだれこんできやがった・・・戦の作法もなにもあったもんじゃねえのでがんす」

「まあ・・・なんだな・・・疾きこと風の如しはおいらたちの合言葉なんだが・・・おかぶうばわれちまったってとこか」

「石松さん・・・無駄口はそこまでだ・・・いくよ」

城下の長屋の床下に地下道からの出口の一つがあった。

八重は鉄砲しのび五人を率い、石松は相撲人夫五人を率いている。

「どうやら・・・倉庫には見張りがいるようだなし」

「面倒だな」

「いや・・・ここは音無筒を使うのでがんす」

八重が目配せすると黒装束のくのいちたちは短筒に消音器を装着した。

「そりゃ、なんですかい」

「サイレンンサーというものでがんす」

八重たちは長屋を踊り出ると倉庫に殺到する。

プスッと鈍い音がして・・・見張りの雑兵が声もなく息絶える。

くのいちたちは雑兵たちが倒れこむのを許さず、静かに寝かしつけるのだった。

石松は目を丸くしながら・・・倉庫の扉についた鍵を遠州伝来の盗みの術で手早く解錠する。石松は石川五右衛門の流れを組んでいるのだ。

米俵を担いだ相撲人夫たちは足早に地下道へと戻っていく。

夜風が雑兵たちの骸の上を静かに渡っていく。

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2013年7月14日 (日)

あまちゃん、十五種類の土曜日(能年玲奈)

折り返し地点を過ぎて・・・一週ごとに最終回に向かっているのかと思うとそれだけで悲しくなってくる今日この頃である。

どんだけ「あまちゃん」が好きなんだよ。

今週の土曜日は2010年元旦の描写となる。もう、あの日まで一年とちょっとなのである。

2008年の七月から始ったドラマなので一年半が過ぎただけなのに・・・この思い出の濃さは凄いよな。

もちろん、春子の上京からは25年以上が過ぎているので当然と言えば当然なのである。

四週ごとの起承転結で言えば、1~4、5~8、9~12、13~16であり、今週は転の週、来週は結の週になる。

しかし、四週を一つの章と考えれば・・・13話からは最初の結の章に入っているのである。

その結の章の結の週にあたる来週は物凄いことになることは充分に予想できる。

そういう意味で今週は・・・結果発表というイベントとは別に話をフリにフリまくっているわけである。

で、『連続テレビ小説・あまちゃん・第15週』(NHK総合20130708AM8~)脚本・宮藤官九郎、演出・西村武五郎を見た。2008年、母の故郷・岩手県北三陸市(フィクション)にやってきたアキ(能年玲奈)は心の不安定な母親・春子(小泉今日子)と海女である祖母の夏(宮本信子)の葛藤に翻弄されながらそれなりにたくましく成長し、2009年の夏休みの終り、アイドルになるために親友のユイ(橋本愛)と上京する予定だったが、家庭の事情により、単身赴任となる。新しい仲間と出会い、憧れの大女優・鈴鹿ひろ美(薬師丸ひろ子)の付き人となったアキ。一方、ユイは度重なる家庭の事情で転落していくのだった。そんな折、「アメ女」と「GMT6」は生き残りを兼ねた国民投票を迫られるのだった。

月曜日 前略、ユイちゃん・・・仁義なき戦い勃発でがんす(優希美青)

人気アイドルグループ「アメ横女学園芸能コース」総勢40名と「GMT6」の6名、合計46名の人気投票が行われることになった。しかも20位までがレギュラー、30位までがリザーブ、40位までがビヨンド(奈落組)となり、下位6名は解雇されることが発表される。

危機感を持ったマネージャーの水口(松田龍平)はいつになく積極的になり、GMT6の「ファン・ミーティング」を企画する。しかし、「アメ女」チーフマネージャーの河島耕作(マギー)を始めとしたスタッフの反応は鈍く、「ハートフル」の社長・太巻こと荒巻太一(古田新太)は「時期尚早」を口にする。

アキは「天野春子の娘」と名乗ってから社長の態度が変わったことに野生の勘で気がついていたが、お茶の間同様・・・社長の真意を伺い知ることはできない。

一体・・・太巻と春子の間に・・・何があったのだろう・・・それについては来週らしい。

気になるわけである。

帰りにラーメンでも食べようとなったところに・・・GMTのファンを名乗るおタクが二人組で登場。

喜ぶ・・・一同だが、二人組の目当ては試験勉強で不在のオノデラちゃんだった。

気勢をそがれたGMT6が不満を口にしながら女子寮に戻ると・・・そこにはアキの父親・黒川正宗(尾美としのり)が待ちかまえている。視力に問題のある本当はメガネっ子で本当は佐賀代表のマナばあちゃんこと遠藤真奈は「不審者侵入」と興奮するが・・・シャドウとしての緊急招集の時のタクシー運転手だったことを思いだし恐縮するのだった。

しかし、女子寮には牛のオノデラちゃんこと小野寺薫子(優希美青)のブログのゴーストラタイターで実の母親の小野寺さとみ(石田ひかり)も到着していた。

宮城県土産のずんだ餅を食べる正宗とさとみは「解雇問題」で意気投合、クレームをつけにやってきたのである・・・。

「娘にすべてを賭けてるんです。解雇されたら母娘そろって路頭に迷うんです」

明らかにいろいろと困った感じのオノデラちゃんの母親だった。

しかし、水口はいつになく熱弁をふるうのだった。

「小学校の運動会じゃないんです。ウチの事務所の経営方針がお嫌ならば・・・他の事務所で飼い殺しになればいい。飼い殺しになればいい」

「・・・」

「でも・・・もしかしたら・・・人気投票で上位になるかもしれない。そしたら・・・え・・・あいつ誰ってことになるんですよ。ね・・・ね」

「・・・」

「そしたら凄いじゃないですか・・・なあ、なあ、なあ」

「はい」と勢いで合意を示すアキだった。

しかし・・・他のメンバーはまったく納得した様子はないのだった。

「あ・・・今のは・・・合いの手という方向で考えてください」とお茶を濁すアキだった。

アキとしては精一杯、空気を読んだ発言なのである。

「わかりました・・・こうしましょう・・・もしも・・・GMT6の一人でも解雇されることになったら・・・私も辞職します」

水口が意外と嘘つきだと知っているにしても、驚く一同だった。

一旦は引き下がる二人の親たち。

しかし・・・オノデラちゃんの母親さとみは・・・ライバルを蹴落とすためにゴシップを捏造することも辞さないタイプだ・・・ということは指摘しておきたい。

一方、正宗はタクシーの中で久しぶりに娘とひとときを過ごすのだった。

「ごめんな・・・アキ・・・こんなに近くにいるのに・・・何もしてやれなくて」

「パパにはパパの生活があるから・・・」

アキは暗に件の女(大久保佳代子)のことを仄めかす。

「いや・・・彼女とは別れたんだ・・・振られたり振ったりじゃねえぞ」

「いわゆるフェードアウトってやつ」といつの間にか後部座席に乗り込んだ鈴鹿ひろ美(薬師丸ひろ子)・・・。

「そうではなく・・・話し合った結果なんだ」

「同窓会の魔法が解けたのね」

「そう・・・そして・・・妻を愛してるって・・・ええっ」

「月島あたりまでお願いします」と客として告げる鈴鹿。

「あ・・・鈴鹿さん、この人、おらのパパです」

「あら、そうなの」

「パパ、おら、今、この人の付き人やってるだ」

「ええーっ」

「じゃ・・・おらはここで。パパ、元気でな」

「おい、アキ・・・鈴鹿・・・ひろ美」

すでに眠っている鈴鹿だった。茫然とする正宗。

背後には銭湯の女湯ののれんが揺れる。アキその他の入浴シーンはまだですかーっと誰かが叫んでいるような気がした。

それはともかく映画「翔んだカップル」(1980年)、映画「ダウンタウン・ヒーローズ」(1988年)の二人だった。

ああ、何もかもが懐かしい・・・。

この二人・・・なんか展開があるのか。気になるのである。

女子寮に戻ったアキは水口と対話する。

「お仕事ですか・・・」

「仕事ってほどじゃないけど・・・イベント会場を捜してるんだ」

「・・・」

「俺さ・・・昔、勉さんに・・・琥珀もアイドルも同じだって云われたことがあった。琥珀もアイドルも磨かなければ宝石にはならないって・・・。それがなんだか・・・最近、身に沁みてきたんだ。俺の手元には六個の原石があって・・・それを宝石にするもしないも・・・俺の磨き方にかかってるんじゃないかって・・・」

そこそこ熱い水口に感激するアキだった。

「路上ライブはどうだべか・・・お披露目だし・・・人目につくところで」

「田舎とちがって都会の人間は冷たいぞ・・・コンクリートジャングルなめんなよっ」

しかし・・・とりあえず無料に魅力を感じた水口はとりあえず・・・路上ライブを決行することにする。

火曜日 仁義なき戦い神田川昌平橋死闘篇(松岡茉優)

とにかく・・・ファン・ミーティングを開始したGMT6。メンバーそれぞれの幟を調達したらしい水口だった。

「来年・・・必ず来るアイドルです・・・」と静かなる呼び込みを展開する。

暦の上ではディセンバー でもハートはサバイバー

師走は忙しい 町は慌ただしい

だけど 虚しい そこは デリカシー

できるだけのことをしよう・・・アキとしては精一杯の気持ちだった。

安部ちゃんも協力してシアター正面では地元の名物料理、ミミガーや行田フライ、ムツゴロウのかば焼きなどが振る舞われる。

しかし、それはB級グルメグランプリである。

そして・・・各地の名物は油系に偏るのだった。

だが・・・世間の風は厳しいのだった。アキたちのパフォーマンスに立ち止まる人はコンクリートジャングルにはいないようだ。

そんなある日、雑誌「プレイガイ」の人気コーナーの取材が入るのだった。

取材者はいつの間にかアイドル評論家として有名になったらしいヒビキ一郎(村杉蝉之介)である。

「じぇ」と驚くアキを「よう、まだやってたのか」と軽くいなすヒビキ。

「知ってる人なの・・・」

「おらたちのイベントに最前列で・・・」

「ユイちゃん狙いでブスは眼中にないけどな」

「なんだとっ」と蹴りを入れるアキだった。

「あ・・・あたし、知ってます・・・アメ女が人気になったのもヒビキさんが注目してからなんですよね」と・・・すかさずヨイショを展開するオノデラちゃん・・・やはりオノデラ母娘・・・侮りがたしなんだな。

そして・・・ヒピキはオノデラちゃん・・・推しなのである。

「じゃ・・・リーダーから・・・早くしろよ・・・ブス」

ブスと言われてたちまち腹を立てる入間しおり(松岡茉優)だった。衣装が分かりにくいためにネギ(生)を持ってパフォーマンスを始めたらしい。・・・それは匂いますな。

「口で言うほどブスだと思っていないから」とリーダーを宥めるアキだった。

スタジオから路上イベント会場へと取材場所は移動。

「宮城県から来ました小野寺薫子15歳でがす」

というオノデラちゃんに・・・いつの間に仕込んだのか・・・成田りな風合いの手を入れる水口。

「小野寺ちゃん!イエ~イ!」

「宮城と言えば?」

「ずんだ~、ずんだ~」

「わたすの名前は?」

「小野寺ちゃ~ん」

「え?・・・呼んだ?」

「呼んだ~、呼んだ~、イエ~イ!」

鋭く反応して「今の、後で教えてよ」とチェックを入れるヒビキだった。

アキも「北三陸から来た海女のアキちゃんで~す・・・潜水士の資格も持ってます」とアピールするのである。

やがて・・・握手会・・・並ぶのはオノデラちゃん推しの野郎どもだけだった。

凹みまくるその他のメンバー。

「こんなに恥ずかしい思いをしたのは初めてバイ」とがばいばあちゃん。

「どうして・・・マイク三本しかなかったの」とリーダー。

「発注ミスさ~」とキャンちゃんこと喜屋武エレン(蔵下穂波)である。そろそろと芸達者の片鱗を垣間見せるのだった。

「誰が、発注ミスしたの」

「キャンちゃんさ~」とキャンちゃんなのである。

その間、ひっそりと気配を消すオノデラちゃん・・・やはりただものではないのである。

惨憺たる結果に太巻は水口を揶揄するのだった。

「云った通りだろう」

「しかし・・・何もしないで・・・解雇するのは」

「リストラじゃない。俺は気さくな鬼なんだ・・・緊張感とチャンスを与える戦略だよ・・・でもなあ・・・あの子・・・海女の子な・・・あの子はなんか違う・・・」

「え・・・なんかって・・・」

「なんかってったらなんかなんだよ」

どのようになんかなのかは明かさない太巻だった・・・気になるだろう。

そんなこんなでくたびれたアキは付き人業務中に居眠りをするうかつさである。

「被告人」

「はい!・・・裁判長」

「弁護士でしょ・・・居眠りしてたわね」

「今日は朝からイベントで・・・」と言いわけをするアキ。

「じゃ・・・付き人やめる」

「いやです・・・ガリ食って目が覚めました」

しかし・・・いよいよ「あまちゃん」ぶりを発揮しはじめるアキだった。

そんなアキを気遣う種市(福士蒼汰)だった。

「大丈夫か・・・台本忘れてるぞ・・・」

「あ・・・ごめん」

眠たい一心で台本をぞんざいに扱うアキ。しかし・・・ふと出演者一覧に目が止まる。

「マンションの住人C・・・天野秋」

明らかにアキに好意を感じている鈴鹿は・・・アキのために端役を用意していたのだった。

アキは無頼鮨に自転車で乗り込み、大将(ピエール瀧)を唖然とさせるのだった。

「それはバーターだな」とアキに鈴鹿が主演女優としてのコネクション(つきあい)でチョイ役を回してくれたことを解説する水口。

「御礼を言わないとな・・・」

「誰に・・・?」

「鈴鹿さんに決まってるだろう・・・」

アキには・・・それが特別な好意の表われであることがピンと来ないのだった。

「あまちゃん」なのである。

ここからは・・・アキとしては精一杯のことが・・・まだまだ「あまちゃん」であるという過酷な流れが加速していくのだった。

そして・・・水口には「アキ」が「なんか違う」と太巻に云われたことが重くのしかかってくる。

「やる気はあるんです」

「それがな・・・問題だ」

どう考えても・・・肯定的には受け取れない流れなのである。

おめでた弁護士・寿蘭子(鈴鹿ひろ美)との共演が決まり・・・夏ばっぱに報告するアキ。

「まだ・・・誰にも言わないでけろ」

「わかった・・・内緒にしとく」

「いや・・・誰にも見てもらえなかったら淋しいべ」

「なんだ・・・みんなに教えてもらいたいのか」

「えへへ」

「正月には帰ってくるのか」

「忙しいから無理だべ」

電話の後で北三陸の夏は淋しさを感じる。

そして・・・アキたちの部屋にたちこめる緊張感。

「ドラマ出演・・・おめでとう・・・」とオノデラちゃんが2段ベッドの上から貞子のように顔を出す。

「オノデラちゃん・・・」

「でもね・・・そういう電話は外でした方がいいかも」

「え」

「だって・・・ドラマに出たいのはアキちゃんだけじゃないもの」

「あ」

「うーん」と寝返りを打つリーダーだった。

アキは少なくともオノデラちゃんより「あまちゃん」の自分に気がつく。しかし・・・その気付き方が・・・まだまだ「あまちゃん」なのである。

雑誌掲載効果でファン・ミーティングの動員数に変化が現れる。

一番人気のオノデラちゃん推しの二人組のうちの一人がアキに鞍替えするという現象まで起きるのだった。

おこぼれを素直に受け取るアキだったが・・・すぐ隣にいるオノデラちゃんへの気遣いはまったくないのである。

ただただ・・・自分を「推す人」(ファン)が現れたことに喜ぶのだった。

まずいんだよ・・・アキ・・・それはまずいんだよ・・・と一部お茶の間があげる絶叫をかき消す暴風雨のようにファン・ミーティング前方を通り過ぎていくものがあった。

行方不明の足立よしえ(八木亜希子)と見知らぬ男(天野勝弘)のカップルである。

ユイちゃんの母親の屈託のない笑顔に「じぇじぇじぇ」と叫ぶアキだった。

あんたのせいでな・・・あんたのせいで・・・ユイはなあ・・・。

水曜日 仁義なき戦い 鬼嫁代理戦争(橋本愛)

アキがたった一人で東京でアイドルになるために戦っている理由。そのすべてではないにしても・・・一端を担う女。ユイちゃんのママ・・・足立よしえが見知らぬ男と通り過ぎるのを目撃したアキは・・・我を忘れ、隣で営業中のあんべちゃんこと安部小百合(片桐はいり)に声をかける。

「あんべちゃん、見てけろ・・・」

「見るって・・・何を・・・」

あんべちゃんは見た・・・三又又三(三又又三)が女連れでこちらに向かって歩いてくるのを。

「あんれ・・・三又又三でねえの」

「じぇ」

「ほら・・・岩手県出身で・・・コロッケの弟子だった・・・このバカちんがって武田鉄矢さんの真似してたの・・・」

「あんべちゃん、三又又三にくわしすぎる~って・・・そうじゃないべ・・・ああ、もう・・・どっかいっちまった・・・」

よしえを見失うアキだった。虚しく通り過ぎる三又又三。

こんな重大な局面で・・・アホの子を貫徹し・・・しかもほとんどのお茶の間を・・・しょうがない子だねえ・・・と納得させる朝ドラマのヒロインは前代未聞である。それだけは間違いないっ。

そして・・・もちろん・・・よしえのことは気になるのである。

ましてや・・・アキは気になるなんてものではすまないのだった。

「あの・・・北三陸で・・・一番恵まれていると言っても過言できない・・・足立家の奥様が・・・いつも優しい笑顔で・・・家族の帰りを待っているはずのユイちゃんママが・・・いやいやいやいや・・・でもユイちゃんは・・・あんなのみんな嘘だよ・・・言葉も笑顔もウソ臭いでしょ・・・って・・・そうなのか・・・みんな嘘なのか・・・家を捨て、夫を捨て、ユイちゃんの夢まで奪って東京で男と楽しそうに歩いてんのか・・・恐ろしい女、鬼嫁なのか・・・ああ・・・そうだ、ユイちゃんに教えないと・・・いやいやいやいや・・・なんて言うだ・・・お、お腹がいてえ・・・・言えねえ・・・ユイちゃんにそんなこと言えねえ」

「ああ・・・うるさいわっ」

起きあがるリーダー・・・そしてオノデラちゃん。

「アキちゃん・・・」

「何時だと思ってんだ・・・寝ろよっ」

北三陸市では・・・ユイがふと・・・携帯電話を手に取る。

荒れ果てているがユイの部屋だった。

ユイはアキに電話しかけて・・・やめるのだった。

アキは枕を抱えて水口の部屋へ泣きながら真夜中の訪問をするのだった。

「眠れねえ」

「小学生かっ・・・寝なくていいから目をつぶってじっとしてろ」

「気配がうるさいって言われた・・・」

「・・・」

アキから事情を聴いて驚く水口。

「えええ・・・あの・・・ベンザブロックのCMに出ていそうな上品な人が・・・男と・・・信じられない」

「どうするべ・・・ユイちゃんに・・・」

「それは駄目だ・・・ただでさえ・・・心が折れそうな時に・・・そんなこと云ったら即死だ」

「ユイちゃんが不憫だ・・・」

「責任を感じるよ」

「・・・」

「二人の仲を引き裂いたのは俺みたいなもんだからな・・・」

「確かに・・・北三陸にいた頃は・・・何時間でも話せたのに・・・今は正直言って何を話していいかわからねえ・・・せめて・・・おらとユイちゃんの立場が逆だったら・・・」

「そういうものなのかもしれないな・・・」

「・・・」

「前にいっただろう・・・ユイちゃんが一番だって・・・でも世の中を動かすのは一番じゃなくて・・・二番の子が一番に恥ずかしくないように頑張ることなのかもしれない」

「それは・・・おらがユイちゃんに恥ずかしくないように頑張るってことか」

「いや・・・だからといって君は二番じゃないけどね」

「それは・・・うんでいいでねえか」

「だめだよ・・・なんてったって40番になれるかどうかってところなんだから・・・」

「・・・」

その頃、ユイは部屋で一人カップラーメンを食べるのだった。

「とにかく・・・隣人Cを頑張ることだ・・・セリフは覚えたのか」

「島田さん、先週引っ越しましたよ」

「・・・棒読みだな・・・」

「今のは・・・本気出してないだけだ」

「じゃ・・・もう一回・・・」

「シマダサン、センシュウヒッコシマシタヨ」

「カタカナだっ」

「しまださん、せんしゅうひっこしましたよ」

「ひらがなだっ」

こうして・・・マネージャー水口のはじめての特訓は朝まで続くのだった。

しかし・・・二人の特訓も虚しく・・・一度狂い出した歯車は簡単には直らない。

ふとした瞬間に「ユイママのふしだらな姿」を思い出してしまうアキはたったひとつの隣人Cのセリフとの間で激しく揺れ動くのだった。

前門の嫌な記憶、後門の暗記事項なのである。

暦の上ではディセンバー でもハートはサバイバー

今宵の私はディセンバー さまよう気分は ハンター

来年の恋なんて 鬼が笑うわ

アキはパフォーマンスで失敗し、リーダーに叱責される。

「やる気ないなら・・・棄権してよ・・・邪魔だから」

「踊りはともかく・・・握手会のアレはないわ」

アキは握手会で「島田さん引っ越しました」を連呼していた。

「じぇ・・・まったく無意識・・・無意識」

もはや、アホの子にしかできない特殊能力である。

リーダーは怒って部屋に引き上げてしまう。

「ごめん・・・みんな・・・」

「でも・・・アキちゃんは大丈夫よ・・・ファンもおるし、ドラマもあるし」と慰めるがばいばあちゃん。

「うへへ」と今泣いた子がもう笑うアキだった。

「余裕だねえ」とアキをくすぐりにかかるキャンちゃん・・・便乗するオノデラちゃんだった。

「でも・・・本当にしっかりしないと・・・国民投票の日(12/12)まで1週間を切ってるんだからさあ」

「じぇじぇっ」

「忘れてたの」

「ごめん・・・おら・・・自分のことばかり・・・みんなで残りたいと思ってるのに」

「暦の上ではディセンバーなのさ・・・」

「じぇじぇじぇ・・・しかも・・・国民投票の日とドラマの収録かぶってる・・・」

一同が沈黙した時・・・アキのミサンガが一本切れるのだった。

ミサンガが切れる時、願いがかなうという言い伝えがあるのだった。

「あ・・・」

「願い事がかなう」

「みんな・・・残れるのか」

迷信深い女の子たちの心に希望の光が灯る。

まさに溺れるものはミサンガにもすがるのだった。

リーダーも戻ってきて、遊びに来たあんべちゃんも加えて・・・GMT6は団結するのだ。

水口の心の中には「なんか違う」という太巻の声が揺れる。

それは・・・良い意味でなのか・・・それとも・・・。

そんな疑問に応える気はまるでないとばかりについに決戦の日はやってきたのだった。

「国民投票の日」・・・それはアキの「ドラマデビューの日」でもあった。

名もなき役ながら・・・現場で紹介され・・・鈴鹿ひろ美に優しく引きたてられるアキ。

「今日は女優同士・・・対等よ」と言う鈴鹿に・・・。

「今までお世話になりました」と訣別宣言をするアキ。

「なによ・・・引退するの?」と戸惑う鈴鹿。

「そのつもりであたってくだけます」

もはや・・・舞い上がり自分でも何を言っているのかわからないアキ。

「ドライってなんだ・・・教えろ」と鈴鹿に詰め寄るのだった。

「段取りだけのリハーサルだよ」と教える水口。

「じぇじぇ・・・どうして・・・ここに」

「マネージャーは・・・現場に立ち会うんだ」

「そうなのか・・・」

あれだけ・・・鈴鹿の付き人をやっていながら・・・一体、アキは何を学んでしまったのだろうか・・・。

もちろん・・・アホの子の考えることなんか・・・わかりゃしねえ・・・なんですが。

ああ、アキ・・・ピンチだよ・・・アキ。もう・・・とてつもなくピンチなんだよ。

何がピンチってピンチだって気がつかないことなんだよ。

木曜日 仁義なき戦い アホの子頂上作戦(薬師丸ひろ子)

ああ・・・ユイがもしも一緒だったなら・・・「アキちやん、もっと真剣にやって」と練習の段階で・・・もう少し、アキの集中力に磨きをかけただろう。予想される専門用語なども・・・きっちりと教え込んだはずだ・・・。もちろん・・・国民投票ではユイは断トツの得票を得て・・・そのおこぼれ票を獲得するアキも余裕で通過したのである。ドラマではなかったもう一つの世界で・・・ユイママの犯した罪は深い。しかし・・・ドラマの神様がそういう世界を選択した以上・・・悲しくも可笑しいアキの失敗を見守らなければならないのだった。

次々と襲いかかるアキにとっては予想外の出来事。

島田を訪ねて来たおめでた弁護士が廊下を歩いてきて住民とすれ違い、島田の呼び鈴を押す。ちょうど出かけるところだった隣人Cが向いの部屋の扉を開けて、訪問者に気がつき「島田さん、先週引っ越しましたよ」と声をかける。

これだけのことが・・・できないアキだった。

まず・・・いつ扉を開けるのかがわからない。

キュー(きっかけ)がわからない。きっかけ(合図)がわからない。ボールド(テイク数などを標したカチンコ)がわからない。

『新春SPおめでた弁護士』AD(アシスタント・ディレクター)の小池(太賀)の合図がドア越しに見えない。

簡単なことができないアキはパニックに陥り、パニックになればなるほどハイになっていくのである。

監督(ベンガル)が「ボールド」(カチンコ打って)と叫べば一緒になって叫ぶのである。

アキがアホで面白い子だと思っていた鈴鹿はそのアホさが尋常ではないことに漸く、気がつくのであるが時すでに遅しだったのだ。

テイク1・・・アキの出が早すぎてNG。テイク2・・・アキの出が遅すぎてNG。テイク3・・・アキが出るきっかけがつかめずNG・・・。

やがて・・・完全に暗記したはずのセリフまでが消滅し始めるアキ。

しかし・・・その表情は笑顔にあふれ・・・とても失敗に懲りている様子はない。

スタッフもキャストも次こそは大丈夫だという思いである。

しかし・・・3分で収録が終わるシーンは・・・テイク2で6分、テイク10で30分・・・いつ果てるとも思われぬ無限地獄に突入する。

「鈴鹿さん、先週引っ越しましたよ」

・・・一方・・・国民投票の結果はニューヨークからの中継という体で・・・太巻が淡々と発表して行く。

一喜一憂する奈落のGMT6・・・。

リザーブ組・・・第30位、藤川のり美

第29位、宮下アユミ(山下リオ)

1抜けである。しかも・・・奈落から昇格なのだ。

徳島出身のアユミは阿波踊りを踊りながら・・・仲間たちに祝福され・・・奈落を去る。

「小池さん、先週引っ越しましたよ」

ついに・・・ADの名前を暗記してしまったアキだった。

水口の表情も祈るような感じになっていく。

重くのしかかる太巻の一言。

「あの子はなんか違う・・・」

「島田さん・・・しっこしましたよ」

おもらしかっ。

第27位 清水真由

第26位 遠藤真奈(大野いと)

がばいばあちゃんも出世したのだった。

「島田さん・・・先週・・・引っ越してきましたよ」

第20位 小野寺薫子(優希美青)

なんと・・・というかやはりというか・・・レギュラー入りの大出世を果たすオノデラちゃん。

GMT6の大躍進・・・そして・・・煽りを受けて奈落に落ちる・・・「アメ女」たち。

第31位 有馬めぐ(足立梨花)

「アメ女」のセンターマメりんがビヨンド(奈落)落ちである。

まさに下剋上。まさに番狂わせ。

「島さん、先週、引っ越しましたよ」

「島川さん」

「島村さん」

「山田さん」

テイク30を越え、ついに狂気さえ感じさせる・・・隣人Cの世界。

奈落に残っているのは・・・キャンちゃんこと喜屋武エレンとリーダーの入間しおり・・・。

第37位 横田あゆみ

第38位 喜屋武エレン(蔵下穂波)

第39位 成田りな(水瀬いのり)

第40位 高幡アリサ(吉田里琴)

ええーっである。何がってアリサが奈落落ちって・・・。

「きっと呼ばれるさあ・・・」と言い残して去って行ったキャン。

見送ったリーダー。

奈落の片隅で一本のネギが枯れた。

「ボルド」

「ボールド」

「テイク41」

「島田さん、先週、引っ越しましたよ」

「OK」

精も根も尽き果てるスタジオ内の一同。

アキとADの小池だけが・・・絆が生まれ歓喜で結ばれたのだった。

一心同体になる二人だった。

「すみませんでした・・・」必死に謝るアキ。

「ご迷惑をおかけしました・・・」

「おつかれ・・・」と声をかける鈴鹿。

「明日もよろしくね」

「え・・・付き人つづけていいんですか」

「その気があるならね・・・でもあなた・・・女優にはむいてないわ」

「じぇ・・・」

「もう二度と役はあげられない・・・だって私まで終りになっちゃうもの」

「・・・」

「それでよければきなさいよ」

「でも・・・鈴鹿さん・・・おらのこと・・・昔の自分を見てるみたいだって」

「勘違いだったみたい・・・ちゃんちゃらおかしいわ」

「・・・」

「あなたは話していて面白い・・・でもそれだけなの・・・あなたに女優は無理よ」

憧れの大女優から女優生命の死刑宣告を受けたアキだった。

ショックで茫然自失のまま・・・奈落へと向かうアキ。

非常事態発生で水口の姿はない。

そんなアキを種市が待っている。

「残念だったな・・・残れなくて・・・」

「じぇ・・・」

「え・・・知らなかったのか・・・落ち込んでいるから・・・てっきり・・・」

「ミサンガきれたのに・・・女優もダメ・・・アイドルもダメ・・・いいことなんかありゃしねえ」

「でも・・・さっき・・・ユイからメールが来て・・・お父さんが退院するって」

突然。晴れ晴れとした顔になるアキ。

アホだ・・・アホなのだ。しかし・・・アホの天使なのだ。

「よかった・・・ユイちゃん・・・来れるな」

そこへ・・・やってくるがばいばあちゃん。

「大変よ・・・アキちゃん・・・アユミちゃん、GMTやめるってよ」

「じぇじぇじぇ」

解雇、解雇・・・残酷なファンたちの解雇コールが響く聖地・上野に日が落ちる。

金曜日 仁義なき戦い・・・完結篇・・・アユミ忍者居酒屋に散る(山下リオ)

奈落から去ろうとしたリーダーを呼びとめる水口。

「待ってくれ」

「短い間でしたが・・・お世話になりました」

「いや・・・まだ・・・わからないんだ・・・」

「・・・?」

匿名による盗撮メールが届く。

それは・・・宮下アユミが男と親密にしている場面だった。

チーフマネージャーの河島耕作が問責する。

「バイト仲間とか・・・」と助け舟を出す水口。

しかし・・・「彼氏です」と答えるアユミ。

「おいおい・・・GMTを盗撮するなんて・・・身内しか・・・考えられないじゃん」

いや・・・すでにファンがいるんだから・・・盗撮だってあるよな。それか・・・オノデラのママが・・・。

「どうするつもりなんだ・・・」

撮らない 撮られない ついていかない

男女交際の三原則を復唱する川島。

アユミは即断する。

「やめます」

アユミが解雇されることで繰り上げ残留するリーダー。

「どういうことよ・・・あんたがやめて・・・私が残るなんて・・・そんなお情け・・・あたしは」

「ごめん・・・私・・・リーダーを疑ってた・・・だって・・・彼の事、知ってるの・・・リーダーだけだから・・・だから・・・そんな世界より・・・彼との幸せを選んだの」

「そんな・・・」

「やめりゃ・・・いいじゃない」

颯爽と登場する太巻だった。

「ニューヨークにおるんじゃなかと・・・」とツッコミをいれるがばいばあちゃんだった。

「あんなものはそういう演出だ」

「じぇじぇじぇ」

「恋愛禁止なんてものは・・・メッセージだ・・・ストイックにアイドルとして生きるもよし・・・スブズブの恋愛を楽しむもよし・・・だろう」

「はい」と素直に応えるアユミ。

「はいって言われちゃったよ・・・忍者居酒屋の調理師見習とズブズブで将来誓い合ってる子は・・・やめちゃっていい・・・それと海女ちゃん」

「はい・・・」

「あんた・・・NG40回出したってね」

「じぇっ」と驚く成り行きで来ていた種市先輩。内部情報だだ漏れである。

「もはや・・・奇跡だよ・・・」

「次・・・がんばります」

「次なんかないよ・・・終りだよ・・・君にはこれから何一ついいことなんかない・・・ここには君を必要としている人間は一人もいないってことだ」

もはや・・・アキの人間性そのものを否定しているような太巻だった。

アキの心の中を想像することさえ、困難な罵詈雑言である。

「みんなも・・・それぞれ落込め・・・若さに甘えるな」

それらしいことを言いつつ退場する太巻。

その真意はまったく不明なのだった。

いや・・・暗黒面かな。

Am015 そこまで云われたアキだったが・・・奈落落ちした「アメ女」の誰かが・・・フェイドアウトして・・・復活当選すると・・・事務所に残留するのだった。

もはや・・・アキの心はまったく読めない。

一体・・・なぜ・・・アキは奈落に残ったのか。

大晦日・・・出世したメンバーたちは・・・ライブで歌い踊る。

オノデラちゃんに至ってはテレビ番組に出演するのである。

リーダーは実家に戻り・・・女子寮にはアキとキャンちゃんが残るばかり・・・。

そこへ・・・種市が大将からの差し入れを届けに来る。

大将をハブ系と言い放つキャン。

「先輩は・・・いつ帰るの」

「帰るつもりだったが・・・正月、宴会が入って帰れなくなった・・・お前も・・・今、帰ったら負けだと思ってるべ」

「・・・」無言のアキだった。

お寿司を食べながら・・・「アマ女」の紅白出演のようなものを見る二人。

果てしなく ラララ 貪欲 貪欲

終わらない 恋の大掃除

去り際は ラララ 淡白 淡白

連絡しないで 喪中なんだから

「ああ・・・出たかった」

アキ・・・テレビに出て・・・歌って踊りたかったのか・・・いつの間にか・・・マジでそう思うようになっていたのか。

そう言葉にした瞬間・・・アキの心に浮かぶのは・・・第二の故郷・北三陸市の懐かしい日々だった。

アキはそれを我慢することができなかった。

ただただ・・・みんなに会いたかったのだ。

だって・・・それをずっとずっと我慢してきたのだから。

「おら・・・今から帰る・・・」

「えーっ」と驚くキャンちゃんだった。

土曜日 2010年のお正月~再会~アキとユイ(蔵下穂波)

アキは元日に雪の北三陸駅へキャンちゃんを連れて帰還した。

あの日まで後、一年と二ヶ月と11日を残すのみである。

アキを出迎える北三陸の人々。

そして・・・キャンちゃんに「誰?」と聞き、キャンちゃんは「ハイサイ」と挨拶する。

駅長の大吉(杉本哲太)が吉田(荒川良々)が甘酒で二人をもてなす。

言葉の通じないことにとまどいながら・・・北国を感じるキャンちゃん。

やがて春子が喫茶リアス/スナック梨明日を開店し・・・いつの間にか表われるヤンキーにびびるキャンちゃん。

しかし・・・それは変わり果てたユイの姿だった。

アキは言葉を失ってしまう。

そして・・・東京で目撃したユイのママのことを思い出してますます口が重くなるのだった。

ユイもまた無言で店を去り・・・小太りの男(山田健太)と初詣に行ってしまうのだった。

「種市先輩になんて言ったらいいか」と迷うアキにストーブ(小池徹平)は「だまっておいてくれないか・・・ユイの目が覚めた時のために・・・」

そして・・・大吉が春子にプロポーズをして・・・春子がまんざらでもない様子を知ったアキ。

同窓会の女と正宗が一時期交際していたことも言えないアキ。

ユイママのこと。ユイと愛犬家のこと。大吉と春子のこと。正宗と別れたと言っている女とのこと。

アキの胸の内にいかがわしいカップルが充満するのだった。

海女クラブでは・・・海女たちに抱きしめられ・・・「繰り上げ当選」について後輩たちに祝福され・・・ついに天野家に戻るアキ。

そこでは「雑煮とハムのこと」で夫婦喧嘩をする忠兵衛(蟹江敬三)と夏がいた。

二人は先を争ってアキを抱きしめる。

キャンちゃんは言うのだった。

「アーキーは本当にここではアイドルだったんだなーって思ったさあ」

「キャンちゃんだって・・・沖縄に帰ればそうだべ」とアキ。

「さあ・・・」と言葉を濁したキャンちゃんは「でも・・・帰りたくなった」とつぶやく。

星よりひそかに 雨よりやさしく

あの娘はいつも歌ってる

声がきこえる 淋しい胸に

涙に濡れたこの胸に

言っているいる お持ちなさいな

いつでも夢を いつでも夢を・・・

そして・・・アキはユイに海女カフェに呼び出されるのだった。

長い四ヶ月の別離の後・・・二人は何を話すのか・・・。

月曜日が待ち遠しいったらありゃしない。

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2013年7月13日 (土)

半沢直樹(堺雅人)とその妻(上戸彩)のナニワ金融道的日常

半世紀前ほどの旧財閥系の都銀の貸付係の家にはお中元とお歳暮の季節に山のように贈答品が積まれていた。

それは一種の儀礼的な交流であると同時にどこか・・・退廃的な祭礼の匂いも感じさせたものだ。

銀行員にとって顧客はお金を借りてくれるお客様であり、顧客にとって銀行員はお金を貸してくれる何か特別な存在だったのである。

「金融」もしくは「信用経済」というものが始って以来、金を貸すものと金を借りるものの特殊な関係はそれほど変わっていない。

「希望」という空想のために「金」を出し入れし、時にはあぶく銭を儲け、時には損失を出す。

人々は少しでも確実で少しでも楽ができる投資先を求めて齷齪し、少しでも欲望を叶えてくれ、援助を与えてくれる融資の相手を捜して奮闘する。

そして・・・やがて、借金の山は限界に達し革命が起きてすべては御破算(ごわさん)になるのである。

で、『日曜劇場 半沢直樹・第1回』(TBSテレビ20130707PM9~)原作・池井戸潤、脚本・八津弘幸、演出・福澤克雄を見た。弱肉強食のルールに従い、巨大資本がすべてを制するという発想はバブル景気崩壊後に金融再編の波として現れる。独占禁止法という安全装置を一部解除した日本は21世紀に突入後、三菱UFJフィナンシャル・グループ、みずほフィナンシャルグループ、三井住友フィナンシャルグループという三大メガバンクを誕生させ、現在に至る。絶滅寸前の恐竜を思わせる巨大な擬似生命体は今日も世界から血と涙と汗の結晶を吸い上げるのだった。

1992年、バブル経済崩壊直前の頃に就職できてよかった・・・と半沢直樹(堺雅人)は申し分なく巨乳と言える妻・花(上戸彩)胸に顔を埋めて思う。子供を産んでいない花の身体は未だ瑞々しく半沢の心に潤いを与えるのだった。ちょっと忙しくて結婚記念日を忘れた以上、身体でたっぷりと奉仕するのが夫婦円満の秘訣である。

半沢の父親・慎之助(笑福亭鶴瓶)は経営する「半沢ネジ」が倒産寸前に追い詰められた時、産業中央銀行(フィクション)から融資を打ち切られ資金繰りに困窮して自殺している。母親の美千子(りりィ)が経営を引き継ぎ、「半沢ネジ」はなんとか持ち直したが・・・とにかく、バブル前や、バブル崩壊後の・・・行員採用においての身元調査は完璧である。父親が経営失敗で自殺している半沢が・・・取引に絡んでいる産業中央銀行に入行できる可能性はまずない。いかに成績優秀で身体強健であろうとも・・・そういう私怨の発生する余地のある身分の者を採用するほど銀行は甘くないのである。しかし、バブルの時にはすべての箍が緩み、空前のなんでもあり状態になっており、狭き門が一瞬大きく開いたのである。融資の審査が甘くなったように、採用審査も甘くなったのである。

その一瞬の隙を突き・・・腹になにやら黒々とした野望を秘めた半沢は父親を殺した銀行にもぐりこんだのだった。

その時、半沢の真意を知ってか知らぬか・・・同じ慶応大学出身の同期の二人の男が半沢の盟友となった。

一人はトマリこと渡真利忍(及川光博)で東京本店の融資課に勤務している。

一人はストレスこと近藤直弼(滝藤賢一)で半沢の大学時代の剣道部仲間でもある。ストレスは秋葉原支店時代に発狂し、半年の休養後、大阪本店システム課に勤務している。完全なる左遷コースに乗っており出向という名の島流しを待つ身である。

2002年、バブルの遺産である多額の不良債権を抱え産業中央銀行は東京第一銀行(フィクション)と合併し、東京中央銀行(フィクション)として新しく生まれ変わる。

大阪西支店融資課課長に在籍する半沢は二人の友情を信じ、交流だけは欠かせない。

それは父の遺した「仕事は人がするものだから・・・人間関係は大事にしろ」という教えに半沢が忠実だからなのである。

半沢には胸に秘めた野望はあるが・・・それはそれ日常業務は日常業務なのであった。

また頭角を現すためには実力だけでは足りないことも半沢には判っている。

組織には派閥争いがつきものであり、学閥に加えて合併による旧組織閥までが存在するメガバングなのだ。

神をも畏れない半沢の目指す頭取の座に今、座っているのは中野渡謙(北大路欣也)である。一支店の融資課長なすぎない半沢だが・・・ナカノワタリ頭取は半沢の名を聞き及んでいる。半沢は特許権取得と信用調査のエキスパートであり、融資の虎と異名をとるエースの一人だったからである。

現に・・・旧・産業中央銀行系派閥のボスである大トカゲこと大和田暁(香川照之)・・・お前、さっきから勝手に仇名つけてるよな・・・良いじゃないか妄想なんだから・・・男優多過ぎて辟易してるんだから・・・の一の子分、トカゲこと浅野匡(石丸幹二)が支店長を務める大阪西支店の融資額大幅向上のために言わば切り札投入されているわけなのだ。

つまり、半沢が優良企業に融資し、利益を上げることでトカゲも大トカゲも喜び、半沢の出世も約束されるわけなのだった。

ウカジこと・・・おい・・・ま、いいか・・・東田満(宇梶剛士)が社長を務める西大阪スチールへの融資問題が発生するまでは・・・。

関西における鉄鋼関係の融資でライバル銀行に遅れをとっていた東京中央銀行だったがトカゲ支店長が・・・ウカジ社長と特別なパイプを構築できたという触れ込みで融資話が持ち上がる。

トカゲの子分である小トカゲの江島副支店長(宮川一朗太)もノリノリでこの話をプッシュし、楽な仕事なので担当を新人のジャンプくんこと・・・いい加減にしろよな・・・中西(中島裕翔)に任せるとまで言う。

超能力・危険察知で・・・怪しい気配を感じ取る半沢だったが・・・五億円の融資により・・・支店が優良店として表彰される瀬戸際にあったために・・・「すべての責任をとる」というトカゲの言葉を担保に・・・短期間で本店を説得、充分な審査をしないまま・・・融資に踏み切るのだった。

しかし・・・まもなく、西大阪スチールは倒産、五億円は回収不可能の損失となってしまう。

粉飾決算を審査が見抜けなかったことが問題となる。

そして・・・大トカゲとトカゲは・・・半沢にすべての責任を押し付けトカゲのしっぽ切りを仕掛けてくるのだった。

「あんた、このまま、貧乏くじひかされるんやないやろね」

「朱に交われば赤くなるとは言うが・・・お前、関東の人間だろう」

「大阪のおばちゃん相手に標準語なんて使ったらいびられ殺されるわ。それより・・・どうなの、根性みせたんの、みせないの」

「あたぼうよ・・・俺がまんまと切られる尻尾に見えるかよ」

「あんた~、しびれるわ~」

青い稲妻の勝負ネクタイを占めた半沢は本店の青トカゲ(緋田康人)、赤トカゲ(小須田康人)に啖呵を切るのだった。

「責任の一旦はあると申し上げる。しかし、責任は支店長にも本店のあんたらにもあるのは太陽が東から昇るくらい明白なことじゃねえのかい。そうじゃないってんならあんたら不能の極みだよ。要するに五億円を取り戻せるかどうかだ・・・おいらのじゃまをするんじゃねえよ」

「て、てめえ・・・おぼえてやがれ」と逃げ出すチンピラ幹部たち。

「穏便に低姿勢にしろよ」とアドバイスしていた親友のトマリはニヤニヤするのだった。

そこへ・・・ついに島流しがきまったストレスから緊急連絡が入る。

「ウカジの潜伏先が分ったぜ・・・」

「恩に着る」

早速、ウカジの潜伏先を張る半沢。ウカジを確保しかかるが・・・壇蜜のような愛人の未樹(壇蜜 )に逆襲され・・・取り逃がしてしまう。

ウカジの脱税を追及するために隠密監視を続けていた大阪国税局査察部のオカマ統括官・黒崎駿一(片岡愛之助)は舌うちする。

「金貸し風情がでしゃばりやがって・・・」

途方に暮れた半沢。

しかし・・・かって、半沢が自殺から救ったモンスター竹下(赤井英和)や倒産を防いだすだれマキノ(志賀廣太郎)たち、中小企業の親父たちが・・・手を貸してくれることになる。

「銀行は・・・晴れた日に傘を貸し、雨の日に傘をとりあげるなんていわれるが・・・恩義を返してくれる人もいる・・・情けがなくては人でなしさ・・・だから・・・やられたら倍返しが・・・私のポリシー・・・てめえたちゃ、にがさねえ・・・五億円は必ず取り返す!」

ウカジから分捕ったゴルフクラブに誓う半沢だった。

「それでこそ、あたしの旦那だよ」

谷間をのぞかせて励ます恋女房の花だった。

まあ、銀行を舞台にした仁侠時代劇ですな。初回視聴率19.4%に一同爆笑でございます。

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2013年7月12日 (金)

天才小学生刑事・御手洗未来・・・くんくん、簡単なのでわかっちゃったんです(畠山彩奈)

原点に戻ったんだな・・・。

ふりかえってみよう・・・警部補 矢部謙三2(劇場版TRICK ラストステージのためのステマ)・・・まったく隠れてないがな・・・警部補 矢部謙三(トリック・シリーズのスピンオフ)・・・トリックシリーズ(2000年)・・・ケイゾクシリーズ(1999年)・・・東大卒のキャリア警察官僚・柴田純(小島莉子→中谷美紀)の父親は柴田純一郎参事官で純は小学生時代、数々の難事件を「あの~、犯人わかっちゃったんですけど・・・」と解決していた。

柴田純と言えば入浴するのを忘れるために髪の毛が臭いのであるが・・・警視総監・御手洗ちかお(大和田伸也)の娘・御手洗未来(畠山彩奈)も自分の髪の匂いを嗅ぐと天才的な洞察力を示すのだった。

残念なことに決めセリフがまだ・・・確定していないのだな。

「簡単です」ではちょっと弱いよな。

もちろん・・・この間には「ケータイ刑事」シリーズが介入していることは言うまでもない。

作品の質的にはかなり劣化しているシリーズだが・・・警察官僚の娘が天才という系譜は維持したし・・・宮崎あおい、堀北真希などものすごい女優たちも生み出していることは否定できない。

「ケイゾク」→「ケータイ刑事」→「SPEC」というTBSテレビラインに対し・・・「ケイゾク」→「トリック」(テレビ朝日)→「警部補 矢部謙三」というラインが存在するわけである。

つまり、「警部補 矢部謙三2」と「SPEC」シリーズは遠い親戚なのである。

で、『警部補 矢部謙三2・第1回』(テレビ朝日201307052315~)脚本・福田卓郎、演出・木村ひさしを見た。「トリックシリーズ」を木村ひさしが初演出するのは第1シリーズの第8話で・・・ちなみに第6~7話は大根仁・・・もちろん、初回演出は堤幸彦である。2013年末に劇場版「SPEC~結~」があり、2014年新春に劇場版「TRICK ラストステージ」があることで15年間続く一つの世界がある意味、大団円を迎えるわけである。いわゆるひとつのかっぱぎ状態なんだな。その広告戦略の一環としてこの作品があるわけだが・・・堤ワールドの一環に映画「20世紀少年」(2008~9年)があってヒロイン・遠藤カンナの少女時代を演じるのが畠山彩奈である。もちろん・・・畠山彩奈は2002年生れを代表する子役の一人であり、映画版「火垂るの墓」(2008年)の節子も演じている。ドラマ版「火垂るの墓」(日本テレビ2005年)の節子を演じた佐々木麻緒(1999年生まれ)と並んで日本三大節子である。もう一人はアニメ版の声優・白石綾乃(1982年生まれ)である。

「碧き予言者」を名乗る予告宝石強盗犯が世間をお騒がせしていた。

犯行予告は「なぞなぞ」で送られてくる。

「ももももももももものうち」というメッセージが「すもももももももものうち」の「す」が「も」になっているので「巣鴨(すがも)」の宝石店が狙われているという暗号解読に失敗した警視庁は威信を問われ、前警視総監・郷秀帰(団時朗)はM78星雲に帰還を余儀なくされたのだった。

新・警視総監・御手洗ちかおをハゲます会に出席した警視庁公安部の警部補・矢部謙三(生瀬勝久)は謎の装飾品を装着している頭部を気にしながら・・・テーブル下でキャビアをつまみ食いしているところを総監令嬢で全国学力テスト首位の天才少女・未来ちゃんに発見されてしまい・・・「矢部くん」と懐かれる。

矢部くんは未来ちゃんから・・・総監の弱点である浮気相手の名前「キャサリン」を情報漏洩してもらい、それをネタに総監に己の出世を約束させるのだった。

それ以来、総監は密かに矢部の殉職を願うようになるのだった。

「眠らない駅と眠る駅のまん中の駅」という犯人の出題も髪の毛を嗅いで指パッチンするとたちまち「根津(寝ず)駅と鮫洲駅(覚めず)の中間に位置する新橋駅」と閃く未来ちゃんだった。

しかし・・・未来ちゃんの能力を半信半疑の矢部は最初は犯人確保に失敗する。

その間にも宝石は次々と奪われていくのだった。

厳しい母の躾で買い食いは許されない未来ちゃんだったが・・・高級駄菓子店「酒と駄菓子の鳥九」で矢部に接待されるのだった。マスター(ミスターちん)はどこかが小さい男らしい。

いつもの・・・上司・警視庁参事官の菊池愛介(姜暢雄)、三代目の部下・秋葉原人(池田鉄洋)に加えて、 警視庁新橋警察署刑事・網戸(賀集利樹)も捜査に参加する。

仮面ライダーアギトなので周囲から「アギト」と呼ばれるが、矢部や未来ちゃんからは口をそろえて「所轄はあっちへいってろ」と言われるのだった。

もちろん・・・矢部は未来ちゃんとは対等の存在であり・・・未来ちゃんの推理を「俺のと同じだなあ」と横取りすることも辞さない。

「鏡の国のマダムはレースカーにのっている」の予告は「鏡に映っても読み方が変わらないのは左右対称のアルファベット文字と読み解く未来ちゃん。

「madam」のDは違うけどな・・・は置いといて・・・たちまち・・・「AKASAKA」にたどり着く未来ちゃんだった。Kも違うけどな。

手柄を立てるために一人で赤坂の宝石店に乗り込んだ矢部だったが・・・武装した犯人たちに逆襲され・・・逮捕に失敗してしまうのだった。

「ジュエリーサタデーナイト新橋」「ジュエリーオールナイト赤坂」のオーナーである大道寺 文乃(秋本奈緒美)に失態を詰られる矢部だった。

そこへ「賢者の楽器」という予告が届く。たちまち・・・「利口な楽器・・・つまりリコーダーよ」と閃く未来ちゃん。

そこで大道寺が「リッコウダビルの宝石店」があると教えるのだった。

件のビルになだれ込む刑事たち。

しかし・・・それは罠で爆弾が仕掛けられているツイスト。

だが・・・爆発は犯人の潜む別のビルでおきるリバース・・・何故か犯人は爆死するのだった。

そして・・・未来ちゃんはリッコウダビルが本当は八甲田ビルの「ハ」が壊れて「リ」になっていることを発見する。

「出題者も間違えていた」から「犯人は大道寺」と見抜く未来ちゃん。

「それを知られては生かしておけないわ」と大道寺は矢部と未来を捕縛して新たなる爆弾をセットするのだった。

「あなたはどうして・・・自分の店から宝石を盗ませたのか」という問いに「本物はとっくに売っちゃったの・・・偽物を盗ませてさらに保険金をもらうのよ」と答える大道寺だった。

「天は我々を見放したか」と嘆く矢部。

しかし、割と自由がきいたので窓をあけて爆弾を捨てるのだった。

爆風で謎の物体を頭からヅラされた矢部だったが、爆弾の破片直撃で大道寺は昏倒し、お縄になるのだった。

こうして・・・この枠の変な探偵シリーズに新たなコンビが誕生したのだった。

ちなみに・・・新任の参事官・玉置浩市(相島一之)は結婚10周年記念の指輪を買いに来た池田ハル(大島蓉子)とジャーミー君(アベディン・モハメッド)を誤認逮捕して早くも失態を晒したのである。

まあ・・・とにかく・・・もうすぐやたらと「トリック」の再放送があるんだなあ・・・と思うばかりなのでございます。

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2013年7月11日 (木)

525円の深紅のワインと夏の花火と2360円の血液検査とWoman(満島ひかり)

認知症になった母はどこからか聴こえる子供の泣き声を聞くと・・・。

「虐待されているのではないか」と騒ぎ出すのだった。

「子供は泣くものでしょう」と宥めると「私はあなたを泣かせたりしなかった」と言い張るのだった。

お母さん・・・私も子供の頃は泣いたのです。

そういう狂気は社会にもある。

片手で少子化対策をしながら片手で虐待のない社会を目指す。

お役所仕事はいつだってどこかで物議をかもしだす。

産めよ増やせよと煽りながら、子供を殺させたり、良き母親から子供を取りあげたりする。

三千万円で買った終の棲家で一ヶ月五十万円の管理費を払いながら死を待つ女がいて、保険料を払えないから身体の不調を感じながら受診しない女がいる国である。

それでも・・・きっと・・・なにもかもが・・・だんだん良くなっているのだろう。

どちらにしろ・・・最後に待っているのは永遠の安息なのだから。

で、『Woman・第2回』(日本テレビ20130710PM10~)脚本・坂元裕二、演出・水田伸生を見た。「Mother」(1970年)も「Woman」(1981年)もジョン・レノンのシングル曲のタイトルである。直接の関係はないが無関係とも言えない。「Mother」は母親に捨てられた怨みを歌った歌だし、「Woman」は母親のような恋人への感謝を捧げた歌である。そこには今よりもずっと激しい男女差別の時代が匂い立つ。それでも・・・子供が母親に求める何かは・・・父親に求める何かとは永遠に違うような気がする。もちろん、そういう意識そのものが男女差別の産物に過ぎないという批判を甘んじて受けるとしても。「Mother」と「Woman」描く世界はジョン・レノンよりもさらに先鋭的でありながら・・・普遍の何かも感じさせるところが素晴らしいと考える。

お母さん 私はあなたのものだったけれど

あなたは私のものではなかった

私はあなたを求めたけれど

あなたは私を求めなかった

お母さん さようなら

家庭を捨てて、植杉健太郎(小林薫)との愛を選択した母親の紗千(田中裕子)を幼い頃から憎んできた小春(満島ひかり)は青柳信(小栗旬)と出会い、結婚して、安らぎを得る。

しかし、青柳信は事故死し・・・小春は幼い娘・望海(須田理央→鈴木梨央)と息子・陸(田中レイ→髙橋來)を抱えて途方に暮れるのだった。

2013年、小春は27歳、望海は6歳、陸は3歳になっていた。

生活保護の給付を受けるための審査の段階で・・・20年間、音信不通だった母親から援助の意志ありと回答された小春は・・・植杉家を訪ね・・・信の死が・・・植杉家からの帰路に起こったことを知り心を乱されるのだった。

身体の不調を感じながら・・・昼はクリーニング工場、夜は居酒屋で働く小春。

ある夜、近所の火事のために・・・部屋に残した子供たちを案じた隣人に通報されてしまう。

調査に訪れた相談所の職員に「育児放棄や児童虐待はどんなに子供を愛する母親にも起こりうる」と説諭される小春だった。

やりきれない気持ちを抱えた小春はかってのシングル・マザー仲間で、今は結婚して田舎暮らしをする由季(臼田あさ美)に子供を預ける決心をする。

由季は9歳の直人(巨勢竜也)と7歳の将人(高田愛斗)を富士山の見える大自然の中で育てているのだった。

「お母さん、100円ショップで花火を売ってるかな」

「どうして?」

「・・・直人くんちは花火をするんだって・・・」

「わかった・・・今度・・・花火しようね」

田舎へ向かう電車の中でまどろんだ小春は信の夢を見るのだった。

幼い望海は信の背中でうたた寝をしている。

「小春・・・お願いがあるんだ」

「・・・なによ」

「僕のことをできれば忘れないでほしい」

「なにを言ってるの・・・?」

微笑む信。

目覚めれば信はいないのである。

初めて別れて暮らす小春と望海。

小春は心配で夜毎に電話をかける。

しかし・・・望海は母親に心配をかけまいと淋しい気持ちを隠すのだった。

「お母さん・・・あのね」

「何・・・」

「トイレがね・・・」

「うん」

「お尻を洗ってくれるの・・・」

「そうなんだ」

戸川純が「お尻だって洗ってほしい」(1982年)と訴えてから30年が過ぎているのに望海とともに小春はまだそれを未体験なのかもしれない。

小春は自分に妹がいることを知らない。

しかし、異父妹の植杉栞(二階堂ふみ)は姉とその家族に何故か重大な関心を寄せているのだった。

美術大学進学のために予備校に通う栞はデッサンを塗りつぶすほどの鬱屈を抱えている。

バレエスクールを熱心に見つめる望海を見かけた栞は・・・「梨」の絵を拾って保管していた御礼を口実に望海をファースト・フード店に誘ったりもする。

「バレエが好きなの?」

「バレリーナの絵を描いていただけなの」

バレエスクールが経済的に無理なことを理解している望海だった。

「絵が下手ですね」

「お姉ちゃんは・・・上手だね」

「・・・」

「遺伝?」

「遺伝って」

「望海が左利きなのはお父さんの遺伝なの」

「お父さん・・・」

「望海のお父さんだよ」

「お父さん・・・いないですよね・・・電車の事故で亡くなったんですよね」

「いるよ・・・いつも望海を見ているの」

鬱屈した笑顔を浮かべる栞は何か秘密を抱えているらしい。

離れ離れになった母と娘の日々は淡々と過ぎていく。

その間も・・・小春の体調不良は続くのだった。

夢の中で幼い望海は泣いている。

それを宥める在りし日の信。

「お父さんは・・・一生・・・望海を守ってやるから」

「本当・・・?」

目覚めれば信はいないのである。

いてくれればいいのに・・・いてくれればいいのに・・・と何度も思う小春だった。

子供たちのいない生活はわびしさを増す。

病院からは再検査の通知が届く。

小春が受診した病院の医師・砂川藍子(谷村美月)と・・・小春が生活保護を申請した役所の係員・砂川良祐(三浦貴大)は夫婦だった。

一人息子の舜祐(庵原匠悟)がいるが・・・夫婦仲は良好とは言えない。

研修医として疲労しているのか・・・家庭のことに手が回らない藍子を「母親のくせに・・・」と詰る良祐。

二人ともが・・・それぞれになんらかの鬱屈を抱えている気配である。

そういう重い気持ちを抱えた良祐は・・・偶然、マーケットであった・・・小春に不用意な発言をしてしまう。

525円のワインから目をそらした小春は315円のワインをふと手にとる。

「子供を他人に預けて・・・ワインですか」

ワインを戻して立ち去る小春を追いかける良祐。

「あの・・・すいません・・・変なことを言って・・・」

良祐は購入したワインを手渡そうとするが拒絶する小春。

「関係ありませんから・・・」

「でも・・・なんか・・・ひどいことを言ったみたいな感じで・・・」

揉み合ううちに落ちて割れるワインのボトル。

「ごめんなさい」

欠片を拾い合う二人。

「母親失格ですよね」

「すみません・・・その深い意味はなかったんです・・・」

「飲もうとしたんです・・・子供を預けて・・・本でも読みながらワインでも・・・飲もうかなって」

「・・・」

そこで良祐の携帯がメールを受診する。

【でていきます・・・舜祐をよろしくお願いします・・・藍子】

茫然とする良祐だった。

その夜・・・由季の家では花火を楽しんでいた。

母親との約束が気になり逡巡する望海だったが・・・花火の美しさについ見とれるのだった。

翌日・・・小春は再検査のために病院を訪れていた。

採血の後の注射痕に目を止める医師の澤村友吾(高橋一生)・・・。

その机に置かれた「白血病」関連の書籍が小春に不安な気持ちを抱かせる。

「その痣はどうしましたか・・・」

澤村は小春も気がつかなかった痣に目を向ける。

「さあ・・・仕事先で・・・ぶつけたのかな」

「そうですか・・・」

少なくともお茶の間は・・・小春が再生不良性貧血の疑いがあることを感じるのだった。

その頃、望海は何故か・・・帽子の裏に入っていたガムのために・・・髪の毛を切る事態に陥っていた。

もちろん・・・異物に対する子供たちの意地悪であることは間違いない。

由季は優しく髪の毛を切るが・・・望海は罰を感じていた。

母との約束を破り・・・花火を楽しんだ罰である。

悪戯をした子供たちを叱った由希は望海が陸を連れて家出をしたことを知り愕然とするのだった。

望海はただ・・・母親に会って謝罪がしたかったのだった。

あわてて・・・車で後を追う由希。

落しものを拾おうとホームに取り残された陸は確保するが・・・望海は電車に乗っていってしまう。

電車は大月駅が終点だった。中央本線と富士急行の接続駅である。

電車を乗り換えることを思い出した望海は困惑するが・・・母親に連絡するために公衆電話に向かう。

しかし・・・病院にいる小春は携帯電話の電源を切っていた。

(ただ今、電話に出ることができません、留守番電話サービスにおつなぎします)

望海は母が電話に出ないということを知らなかった。

間違ってしまったと考えた望海は何度も電話をかけなおし・・・ついに最後の十円を残すのみとなってしまう。

そこで・・・最後の十円を・・・「まどいせん」の意味を教えてくれたナマケモノへの電話に切り替える望海。

電話を取ったのは栞だった。

受診料の2360円を痛みを感じながら支払った小春は由希からの電話に応じる。

「ごめんなさい・・・望海ちゃんが・・・今、終点の大月駅に連絡してもらっているの」

「大丈夫よ・・・望海はしっかりした子供だから・・・」

小春は遠き山に日が落ちる頃・・・大月駅に到着する。

望海を発見し・・・安堵の涙を流す小春。泣きじゃくる望海。

「ごめんなさい・・・お母さん・・・私、お母さんと約束したのに・・・花火をしてしまった」

「いいのよ・・・そんなことはいいの・・・」

「私がいなくて・・・さびしかった?」

「さびしかったよ・・・」

「もう・・・大丈夫だよ」

私の人生はあなたの手の中だ

だから私を大切に思ってほしい

私たちは離れられない

運命がそう決まっているのだから

だから何度でも何度でも何度でも言う

永遠にあなたを愛すると

ふと・・・小春は黒いワンピースの少女に気がつく。

四年ぶりに電車に乗った少女は震えていた。

「あなたは・・・」

「植杉栞です・・・お姉ちゃん」

その頃・・・二人の母親である紗千は・・・栞の部屋で・・・信の似顔絵と古い新聞記事を発見する。

「痴漢の男性・・・事故死」

そこには・・・女子高校生への痴漢の疑いのある男性会社員・青柳信が轢死したことを伝える小さな記事が載っている。

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2013年7月10日 (水)

スターマンは待機中~この星の恋を探査しちゃうのかもなのだ(広末涼子)

時々、この星のテレビ局の編成局員はみんなバカなんじゃないかと思う時がある。

(火)がシングル・マザーの話で・・・。

(水)もシングル・マザーの話だったりする時だ。

まあ・・・フジテレビと日本テレビで・・・局が違うので・・・たまたまかもしれないなあ・・・と思うしかないのである。

しかし・・・逆に考えると・・・(火)と(水)でシングル・マザーの共演って・・・これはこれで面白いなあと思うのだった。

とにかく・・・初回を見る限り・・・二人のシングル・マザーは真逆のベクトルを持っている。

同じ・・・日本のシングル・マザーとは思えないほど異質なのだ。

(火)のシングル・マザーはスタッフが豪華である。「泣くな、はらちゃん」の脚本家と「SPEC」の演出家なのだな。

そして、限りなくファンタジーな展開なのである。

まあ・・・とにかく・・・2013年の夏はシングル・マザーの夏らしい。

で、『スターマン・この星の・第1回』(フジテレビ20130709PM10~)脚本・岡田惠和、演出。堤幸彦を見た。ちなみに2013年の冬ドラマにはシェアハウスの恋人」というドラマがあって・・・宇宙人と地球人が恋をする話である。脚本が男女合作という変則であったこともあり・・・非常に微妙な出来だったわけだが・・・今回は少なくとも・・・そういう種類の微妙さは解消されている。なにより・・・宇宙からやってきた何かが・・・地球の男の身体・・・しかも自殺体を使用していることは最初から明示されているのである。早い話がペムラーを追いかけて来たウルトラマンが事故死させてしまったハヤタ隊員に憑依するのと同じ展開である。この「最初」の部分を曖昧にしておくと・・・もったいぶった展開になるに決まっているんだもん。隠したままの謎が実にたいしたことないとその幻滅感は半端ないんです。

富士山の見える河口湖畔に一人の男(福士蒼汰)がやってくる。

彼は着信している携帯電話を無造作にゴミ箱に捨ててしまう。

全身から荒廃した雰囲気を漂わせ・・・彼は水辺に浮かぶボートで薬物による自殺を図るのだった。

その時・・・河口湖上空では2013年2月15日のロシア連邦チェリャビンスク付近に落下した隕石の空中爆発のような光景が目撃される。

帰宅途中の・・・宇野佐和子(広末涼子)は「ロシア・・・」と呟いた後であわてて「いい男と出会いますように」と流れ星に願いをかけるのだった。

同時刻・・・佐和子と同じスーパーマーケットで働く・・・安藤くん(山田裕貴)と臼井祥子(有村架純)のカップルも巨大な火球の落下に目を奪われる。

そして・・・惣菜売り場で40年働いている重田信三(國村隼)も目撃者となるが・・・彼だけは驚きの中に奇妙な確信を滲ませるのだった。どうやら・・・彼は・・・何かを知っている男らしいのである。

そして・・・光の矢は・・・彼の遺体に向かって一直線に落ちていったのだった。

佐和子はシングル・マザーである。

三人の子供たちの父親はどこかへ・・・逃げたらしい。

小学五年生の大(大西流星)は「男は顔じゃない」というのが口癖の長男。

小学三年生の秀(黒田博之)は大に子分扱いされている不遇な次男である。

保育園に通う三男の俊(五十嵐陽向)は可愛い盛りである。二人の兄とは違い・・・父親の顔を覚えていないのがまた不憫なのであった。

佐和子は幼くして両親を失くして祖母の柏原美代(吉行和子)に育てられた女だったが・・・底抜けの楽天家で・・・夫に捨てられてもたくましく三人の子を育てている。

近所のスナック「スター」のママのセツこと須多節(小池栄子)とは幼馴染の親友で・・・二人の合言葉は「顔の良い男と巡り合いたい」なのだった。

火の玉が川口湖畔に落下した翌日・・・佐和子は危うく人身事故を起こしそうになる。

気を失った男のハンサムぶりに魅かれ・・・思わず自宅に持ち帰る佐和子。

祖母の美代に想いを寄せる町医者の溝上先生(モト冬樹)が往診にやってきて、男が身体的には異常がないが・・・どうやら記憶喪失らしいと適当な診断を下すのだった。

「記憶は戻らないんですか・・・」

「戻る場合もあるし・・・戻らない場合もある」

事態を把握した佐和子はあろうことか・・・「じゃあ・・・この子たちの父親っていうことにしちゃおうか」と決意するのだった。

長男の大は難しい年頃なので・・・「本物の父親はいるじゃないか」と反抗するのだが・・・「だってここにいないじゃない・・・」と断定する佐和子。

「私はいい考えだと思うね」と・・・佐和子を育て上げた肝っ玉婆ちゃんである美代も賛同。

「溝上先生なら・・・私の言いなりになってくれるよ」と嘯く。

駆けつけた親友のセツも賛成し・・・「とにかくしっかりと裏口をあわせないとね」と言い出す。

大は「口裏でしょう」と恐ろしい女たちに無駄な抵抗を試みるのだった。

しかし・・・佐和子に「お父さんが欲しいの欲しくないの」と睨まれると「欲しい」と答えるしかない無力な大だった。

こうして・・・記憶喪失の男は・・・三人の子供の母親である佐和子に一目ぼれして血のつながらない子供たちの父親となったが・・・運悪く、記憶障害になってしまった・・・(美代の作り話)・・・存在にでっちあげられたのだった。

名物鴨居下通過頭上注意あって・・・。

男が星を眺めていることに気がついた佐和子は・・・さっそく彼を「星男」と命名する。

その夜から・・・早速、三男の俊は星男の布団にもぐりこみ・・・父親の味を堪能する。

自分が誰かを思いだせない星男だが・・・日本語は不自由なく話すことができ・・・徐々に佐和子や美代、そして子供たちと打ち解けていく。

美代は・・・佐和子に囁く。

「星男くんは・・・自殺しようとしてたんじゃないかしら・・・」

「なんで・・・」

「だって・・・身元を示すものを何一つ持ってないって・・・そういうことじゃないの」

「すごい・・・おばあちゃん・・・名探偵みたい」

「日真名氏飛び出す(昭和30年代の素人探偵ものドラマ)なのよ」

「自殺か・・・もったいないなあ」

少しアホな・・・佐和子だった。

やがて・・・俊と入浴を共にするようになる星男。

佐和子は彼のために男ものの衣料を買いだす。

それを目撃したスーパーの主任・前川浩介(石井正則)によって冷やかされたりする。

「あなたは・・・私にぞっこんだったのよ・・・」と言われ・・・そうなのかもしれないと思い始める星男。

流れるのは「スターマン/ジギー・スターダスト(David Bowie)」のメロディー。

世界は暗闇の中

時間も曖昧になり

さよならを呟こうとすると

メッセージが届いたのさ

スターマンが待っている

空の上でみんなに会いたがってるって

とにかく誰かに電話しなくちゃいけないって

君の番号を呼びだしたのさ

長男の大だけは・・・納得がいかず・・・「もしも悪い奴だったら・・・どうするつもりなんだ」と心でつぶやくのだった。

そんなある日・・・子供たちの野球の試合を応援に出かけた佐和子と星男。

ちょっと目を話した隙にグラウンドに飛び出した俊。

ライナー性の打球が俊に襲いかかる。

あわや、大惨事と誰もが思った瞬間・・・星男は人間離れした跳躍力とスピードで俊を危機から救うのだった。

思わず・・・感謝する一同。

弟のピンチを救われて・・・大も口を閉ざすしかなかったのだ・・・。

こうして・・・正体不明の何者かと佐和子の奇妙な夫婦生活が始ったのだった。

その頃・・・なんとなく・・・あらゆるものにあきたらなくなった臼井祥子は・・・好奇心にかられて・・・河口湖畔にやってくる。

そこで・・・祥子が見たものは・・・控えめな演出にこらえきれずに最終回の予告篇までダイジェストでお届けする奇をてらいすぎる性癖だったのだ。

そのために・・・どうやら・・・生前の星男の恋人は木南晴夏だということが確認できたのだった。

関連するキッドのブログ→結婚報告

シナリオに沿ったレビューをお望みの方はこちらへ→くう様のスターマン・この星の恋

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2013年7月 9日 (火)

神様さえ油断するSUMMER NUDEをチェキラだね!(山下智久)

ドラマ「モテキ」(テレビ東京2010年)の後半で・・・主人公がずっとずっと好きだった憧れの女性と故郷で再会し・・・昔から夢だったデートが実現した時・・・流れ出すのが「サマーヌード/真心ブラザース」(1995年)である。

まぎれもない夏の青春の歌なのだが・・・ちょっぴり影がある。

子供とは言えないが完全に大人でもない・・・そういう危うさを秘めた歌なのである。

「サマーヌード」の間奏部分にはヴァン・マッコイとスタイリスティックスオーケストラの名曲「ハッスル」(1975年)を連想させるところがある。

累計売上が1000万枚を越えるこの曲は若者がディスコでフィーバーしていた頃から変わらぬ青春のときめきの象徴と言えるだろう。

しかし・・・ドラマ「SUMMER NUDE」の主要登場人物たちは・・・高校生でも大学生でもない。

もはや・・・青春の終焉を迎えつつある年齢である。

だが・・・夏という季節と・・・海という風景が・・・彼らを輝きに満ちた青春のときめきへと導くのは間違いないだろう。

愛することの苦しさを知らないわけでもないのに・・・愛さずにはいられない彼らの物語なのである。

きっと・・・甘酸っぱいに違いないのだな。

夏の終りに・・・彼らにどんなゴールが待っているのか・・・物凄く楽しみなのである。

で、『SUMMER NUDE・第1回』(フジテレビ20130708PM9~)脚本・金子茂樹、演出・石井祐介を見た。脚本家は「プロポーズ大作戦」でケンゾー(山下智久)と吉田礼(長澤まさみ)を時を越えて紆余曲折させてから・・・「ハチミツとクローバー」(2008年)、「ヴォイス~命なき者の声~」(2009年)とそこそこ活躍した後・・・単発ドラマは別としてかなり長い沈黙を経てここである。その間にいかなる臥薪嘗胆があったのか・・・興味深く見つめたい。

海辺の町に夏が近づいていた。

地元の教会では六月の花嫁が挙式の日を迎えている。

新婦は千代原夏希(香里奈)で・・・新郎は古山幸太(福士誠治)だった。お似合いのカップルのように見えた。

しかし、挙式のドキュメンタリー撮影とセレモニー用のなれそめVTRなどを請け負っている小南写真館から派遣されたカメラマンの三厨朝日(山下智久)はちょっとした不安を感じていた。朝日はそれなりの腕と感性を持ったカメラマンなのである。

「これは・・・なにか・・・よからぬことに・・・なりそうだなあ」

写真家の卵としてか・・・苦い恋愛経験の持ち主としてか・・・ともかく・・・新郎の表情や態度に嫌な予感を覚える朝日だった。

そして・・・その予感は新郎新婦のキャンドルサービス直前に的中したのである。

何故か、式場を抜け出す新郎。そして・・・点火用バーナーを持ったまま・・・血相を変えて追いかける新婦。

新郎は新婦を残して・・・車で走り去って行ったのだった。

その一部始終を目撃してしまった・・・朝日だった。

そして・・・カメラマンの性で動画撮影までしてしまったのだった。

「・・・何・・・撮ってるのよ・・・」と打ちのめされた花嫁は言う。

「いえ・・・聖火はまだ灯っているので・・・その・・・仕事なので」としどろもどろになる朝日。

「どういう状況か・・・わかるでしょう・・・」

「そうそう・・・さっき・・・あなたの勤務先のオーナーが・・・煙草の火を捜してました・・・今ならその炎で・・・」

花嫁は何かを殴りたかったのだろう。

そして・・・そこには言わないで良いことをつい言ってしまう男の腹があったのである。

朝日はやるせない気持ちを込めたボディー・ブローを甘んじて受け入れる男らしい。

そして・・・夏がやってくるのだ。

(三度目の夏なんだなあ・・・)と朝日は思う。

(彼女がいなくなってから・・・三度目の夏が来るんだなあ)

朝日もまた・・・愛している女に逃げられた口なのである。

砂浜に裸で寝そべって・・・近づいてくる夏を身体で感じる夏。

横縞のシャツを着た高校の後輩で・・・十年間くらいのつきあいがある・・・谷山波奈江(戸田恵梨香)は目敏く・・・朝日のお腹の痣を発見するのだった。

「どうしたの・・・これ」

「男に逃げられた花嫁に・・・やられた」

「まあ・・・かわいそうに・・・」

「どっちが・・・」

「私よ・・・好きな男の腹を他の女に殴られるかわいそうな私」

「誰が・・・なんだって・・・」

「憎い・・・憎いやつだ」

「いた・・・いたいよ・・・いたいってば」

「責任とってよ・・・ビールおごってよ」

「お前・・・俺より・・・金持ってるだろう」

「そういう問題じゃないのよ・・・奢るか、痛いか・・・どっちかよ」

「いたい・・・わかった・・・おごるから・・・も・・・もう・・・やめて」

人間は面倒臭い生き物だ。要領の悪い人間はさらに面倒臭い。

地元では有名な・・・「みさき潮騒ビール」の谷山酒造の箱入り娘である波奈江が・・・ずっと好意を寄せてくれていることは分かっている。

しかし・・・相手にしていないのだから・・・別の恋を捜せばいいのである。

高校一年から・・・ずっと朝日を好きだからといって処女とは限らないが・・・処女なのか。

本当に面倒臭い女なのだなあ。

しかし・・・朝日も他人のことはとやかくいえないのである。

「みさき潮騒ビール」の看板のモデルを勤める一倉香澄(長澤まさみ)・・・地元では有名な美貌の持ち主で・・・朝日の恋人だった女・・・。彼女が理由も告げず・・・突然、失踪してから・・・三度目の夏がやってくるのだ。

それなのに・・・朝日は・・・今も・・・彼女が帰ってくるのを待っている男なのである。

朝日が香澄を殺して埋めているのでもない限り・・・彼もまた面倒くさい男なのだった。

面倒臭くて要領の悪い男と女は・・・いつもの夏がやってくる・・・南の海をぼんやりと眺め・・・潮風に吹かれるのだった。

・・・おい・・・このペースで行くのかよ・・・いや、まともな展開なんで・・・「幽かな彼女」で一人はリハビリ済んだけど・・・山Pは「モンスター」からここだからな。

まともな山Pをもう少し感じていたいのだ・・・お、お前・・・・。

暑いんだ・・・夏なんだよお。

さて・・・青春の終りの物語なので当然、恋愛ゲームが要素になっている。

楽しみ方としては懐かしく俯瞰で見ることもできるが・・・女子は山Pとの擬似恋愛体験をしてもいいし、男子は女子よりどりみどりを楽しんでもいいのである。

擬似恋愛をする場合、誰に感情移入をしていくかは当然、問題となる。

キャスティング上で当然、本命は夏希(香里奈)ということになる。恋人や結婚相手に逃げられるという最悪の体験をした者同士の運命の出会いなのである。紆余曲折あって二人のハッピーエンドは申し分ない展開だろう。そもそも夏希を演じる香里奈は「カバチタレ!」(2001年)「ロング・ラブレター~漂流教室~」(2002年)で山Pとは古い馴染みだし、最近では映画「あしたのジョー」で白木葉子を演じている。木村拓哉のヒロイン役だったPRICELE$S?あるわけねぇだろ、んなもん!?」からここなのである。

しかし・・・対抗であるずっと片思いの後輩・波奈江を演じるのが・・・戸田恵梨香である以上・・・侮れないのである。戸田もまた「野ブタ。をプロデュース」で昔馴染みだし、なんといっても「LIAR GAME」シリーズの最強のアホの子天使、神埼直だし、「コード・ブルー」では藍沢・緋山の青赤コンビなのである。もちろん主演クラスで大傑作「書店員ミチルの身の上話」からここなのだ。そろそろ・・・一発逆転があってもおかしくないし・・・っていうかたまには幸せにしてやってくれよと思う。

だが・・・失踪中だから出番は少ないとしても・・・なんといっても・・・「プロポーズ大作戦」であれほどお茶の間をヤキモキさせた長澤まさみの演じる香澄だって大穴としてなくはないと思う。っていうか・・・この流れで最後に結ばれてもおかしくないのは長澤まさみ以外には考えられないキャスティングと言っても過言ではない。なにしろ・・・山Pと長澤まさみは「ドラゴン桜」から結ばれる運命にあるんだからなあ。誰が何と言ってもなあ・・・。そして長澤もまた問題作「」からここなのである。

まあ・・・要するに・・・二時間ドラマのサスペンスでゲストがあの人だから犯人はあの人に決まっているってことはないのである。

だからと言って・・・小南写真館でアルバイトをしていて、せっかく朝日にコーヒーをいれたのに小南館長(斉木しげる)に横取りされてしまう一瀬麻美(中条あやみ)や・・・謎の人物として駅前で・・・朝日がナンパしてきたと勘違いする変な女・堀切あおい(山本美月)はさすがにノーチャンスだよ。

ゲームとしては・・・夏希には逃げた結婚相手と・・・朝日の親友であきらかにオバカキャラのタカシこと矢井野孝至(勝地涼)が朝日の対抗馬として登場する。

さらに波奈江には謎の文学青年・桐畑光(窪田正孝)がまとわりついているし・・・慰め役として弟の谷山駿(佐藤勝利)も配置されている。

朝日がまさかの・・・香澄オチになってもフォローできる体制になっているのである。

まあ・・・そもそも・・・香澄は生きているのか死んでいるのかさえ・・・不明なのである。

出て行った理由も・・・男がらみから犯罪がらみさらには地球征服を企てている・・・までまったく謎なのだった。・・・地球征服だったらいいのになあ。・・・ないわ、ボケっ。

まあ・・・とにかく・・・最後がどうなるのか・・・全く読めない感じに仕上がっていることを指摘しておきたい。

「朝日は写真家としての才能もあるんですよ・・・でもね・・・あの日以来・・・作品を撮ってない・・・それがもどかしい・・・でも・・・それがアーティストの一面ですからねえ」と写真館の館長は遠い目をするのだった。

さて・・・そんな青春を生きる若者たちとは一線を画すのが・・・下嶋夫妻である。

夫の下嶋賢二(高橋克典)は若者たちのたまり場カフェ&バー「港区」の店長である。妻の勢津子(板谷由夏)とは三年前に結婚している。勢津子は最初の夫と死別し、亡き夫の親友であった賢二と結ばれている。それなりの青春を過ごした夫婦である。

勢津子は夏季限定の見た目は「海の家」にしか見えない・・・レストラン「青山」の経営者で料理人でもあった。「青山」は開店して20年目・・・数多くの夏の青春を見守り続けて来たのである。

しかし・・・この夏は賢二の子供を妊娠・出産したばかりであるために・・・「夏山」の開業が危ぶまれているのだった。

「港区」で朝日にビールを奢らせた波奈江はうっかり・・・賢二と勢津子の三年前の結婚式のメモリアルビデオをリクエストします。

その作品には・・・「彼女」が映っているために朝日はさりげなく席を外すのだった。

「ああ・・・しまったなあ・・・これ・・・映ってるやつだ・・・」

「そうですか・・・」

「ごめんな・・・」

「いいんです・・・ライバルをしっかりと目に焼き付けて・・・闘志燃やしますから・・・」

ビデオの中の朝日の「彼女」・・・香澄は朝日とイチャイチャしまくるのだった。

店を出た朝日は・・・あの日と同じ・・・海を見る。

「ねえ・・・朝日・・・もしも私が明日消えたとしたら・・・待たないでね」

「なんだ・・・それ」

「もしもよ・・・待たれるのは嫌だから」

「君が消えたらもっと嫌だ」

「消えたりしないわよ・・・借りたレンタルビデオ見てないし」

「48時間・・・な」

「うん・・・だけど・・・約束してほしいの・・・待たないって・・・」

「君が消えないって約束するならね」

「・・・いいわよ」

何度・・・同じやりとりを思いだしたことだろう。

約束を破って香澄は姿を消した。だから・・・朝日も約束を破って香澄をずっと待っているのだった。

桐畑光がアルバイトしているレンタルビデオ店に「48時間」の延滞料・一日300円を払い続けながら・・・。一年十万九千五百円である。

しかし・・・あの日から時間が止まっている朝日にとっては・・・そんな出費は痛くも痒くもないのだった。

部屋もあの日のままだ。

仕事もあの日のままだ。

だから・・・レストラン「青山」も・・・あの日のまま・・・開店してもらいたいと朝日は思っている。

「彼女」は・・・レストラン「青山」の料理が大好きだったんだから・・・。

そんな思いを抱えながら・・・写真館の仕事・・・結婚式のVTR編集をする朝日だった。

「素晴らしい・・・人生の一瞬を切り取ったな・・・」

花婿に逃げられた花嫁の写真を見て・・・率直な感想を述べる・・・写真館の館長。

「これって・・・料金・・・請求するんですか・・・」

「するさ・・・仕事だもの・・・」

「鬼ですね・・・」

「仕事の鬼なのさ・・・」

仕方なく・・・合計20万円近い請求書を郵送する朝日は一筆したためたのだった。

「拝啓・・・心苦しくも請求書をお送りいたします・・・あなたの幸せを心よりお祈り申し上げます・・・敬具」

その頃・・・花婿に逃げられた花嫁・・・夏希は悶々とした日々を過ごしていた。

母親(キムラ緑子)も・・・事情が事情だけに腫れものに触るような扱いである。

しかし・・・腫れものの膿はいつか・・・出さないと・・・とも思っているのだった。

「ずっと・・・ひきこもってないで・・・たまには外の空気を吸って来たら・・・」

しかし・・・結婚と同時に退職した・・・料理長を勤めたレストランにはすでに新しい店長が働いている。

逃げた花婿からは・・・「あのまま結婚したら君をもっと不幸にしたと思う・・・弱い俺を許してださい」と意味不明のメールが届いたきりである。

町へ出て一人、カラオケ店に入っても歌う気にもならないのだった。

一応・・・「TOMORROW/岡本真夜」なんかを入れてみる。

涙の数だけ強くなれるよ

アスファルトに咲く 花のように

見るものすべてに おびえないで

明日は来るよ 君のために

なれるか・・・と思うのだった。

そんな夜・・・朝日からの手紙が届くのだった。

社交辞令のような・・・何気ない一文が・・・朝日の心を少し揺らすのだった。

・・・一日も早く 素敵な笑顔を取り戻して下さいね

これからの幸せを心より 祈っております・・・

幸せ・・・祈り・・・。

夏希は置かれたままの結婚指輪を見つめる。

翌日・・・朝日の元へ・・・夏希からの着信がある。

「・・・あ・・・」

「わざわざ・・・お手紙ありがとうございました・・・」

「いえ・・・うちの社長、お金にうるさい人で・・・あの・・・すみませんでした」

「いえ・・・お仕事ですから・・・」

「あの・・・」

「なんですか・・・」

「今・・・お仕事の方は・・・」

「なかなか・・・人生・・・上手くいきませんよね・・・」

「実は・・・お願いがあるんですが・・・」

朝日は・・・生まれて来た下嶋家の赤ちゃんの将来設計のため・・・そして・・・もしも「彼女」が戻ってきた時のために・・・レストラン「青山」は開業するべきだと思っていた。

調理人のいないレストランと。

働く場所のない調理人。

二つをつなげるのはそれほど悪い事ではないと思ったのだ。

そして・・・うっかり・・・朝日の都合のいい話に乗ってしまった夏希だった。

史上最悪の嫌な思い出しかない海辺の町に電車でうかうかとやってきた夏希。

すべてを明かしていない朝日は少しおどおどしながら・・・車で夏木を「港区」へと案内する。

「あなたの料理・・・一度食べてみたいと思ってたんです」

「どうして?」

「式場で・・・皆さん、絶賛でしたから」

「おめでたい・・・ああいう席だからでしょう」

「いや・・・僕は・・・ずっとこういう仕事してますから・・・本音と社交辞令の区別くらいはつくんです」

「・・・ありがとうございます」

「港町」では賢二と波奈江が待っていた。

すっかり・・・「青山」の店長を引受けてくれたと思いこんだ賢二が先走り・・・とりあえず下見に来た夏希と話がすれ違って行く。

そして・・・波奈江が好きな男の周辺にいる女全員に発する悪意から・・・「まさか・・・あなた・・・朝日を殴った不幸な女」などと口走ったために・・・事態は完全に悪化するのだった。

そして・・・レストランとは名ばかりの・・・海の家を見た夏希は・・・。

「この話はなかったことにしてください」と結論する。

賢二の土下座もまったく通用しないのだった。

「どうしてですか・・・このレストランには・・・何もないように見えて・・・海があるんです」

「・・・」

「他にも・・・海があるんです」

「結局、海しかないんだなあ・・・」と波奈江。

交渉は決裂して・・・駅まで夏希を送る朝日。車内には重苦しい空気が漂うのだった。

「あの・・・どうしてもだめですか」

「無理です・・・」

「能力が生かせて・・・お金がもらえるんだから・・・そんなに無理な話じゃないと思うけど」

「あなた・・・私がどんな気持ちでこの町に来たと思ってんの・・・」

「あなたが・・・辛い思いをしているのは・・・分ってますよ」

「じゃ・・・なんで・・・いい加減な話をしたのよ・・・」

「いい加減な話って・・・」

「レストランじゃないでしょ・・・海の家でしょ」

「・・・プライドですか・・・あんな立派なお店の後で・・・あんなみすぼらしい店は無理ってことですか」

「悪いの・・・それのどこが悪いの・・・」

「悪いなんて言ってません・・・言葉が足りなかったこともすまなかったと思います。でも・・・レストラン青山は本当に・・・大切な店なんですよ・・・」

「あなたにとってはそうかもしれないけど・・・私には関係ないでしょ」

「そうですね・・・あなたには・・・わからないかもしれない」

「なにがよ・・・」

「人の気持ちが・・・」

「わかるわけないでしょ・・・あんた、バカ?」

「そんなんだから・・・逃げられたのかも・・・」

「・・・」

「・・・あ・・・」

「と・め・て・・・」

「ごめんなさい・・・」

「とめてよ・・・」

「言いすぎました」

「いいから・・・とめて」

車を降りて歩き出す夏希。

「ちょっと待ってください・・・あやまりますから」

「・・・」

「どうすんです」

「帰るに決まってるでしょ・・・」

「駅まで・・・遠いんですけど・・・」

夏のはじまりを告げる夕暮れは長い。

そして田舎の駅の最終電車は早いのだった。

夏希が駅に着くとすでに・・・東京へ帰る電車は去った後だった。

「だから・・・駅まで遠いって・・・」

「・・・」

「とりあえず・・・都内まで送りますから・・・」

「・・・」

しかし・・・朝日は「港区」で車を停める。

「また・・・嘘をついたのね」

「一応・・・都内ですから・・・」

仕方なく・・・店内に入る夏希。

「ああ・・・夏希さん・・・考え直してくれたんですか・・・」

「いいえ」

店内には朝日の高校以来の親友で野球部のチームメイトでもあったタカシと・・・敵愾心を露わにする波奈江・・・そして波奈江の弟の駿がたむろしている。

「とりあえず・・・今夜、彼女を泊めてくれないかなと思って・・・」

頼まれた波奈江は好きな男から頼みごとをされてたちまち機嫌が良くなるのだった。

「いいわよ」

アホの子の匂いがひっそりと漂い始める波奈江だった。

「姉ちゃんち・・・すごく豪華だよ・・・ジャグージーあるよ」

すでにアホの子の弟を発現する駿だった。

「この・・・素敵な人は誰ですか」

色めき立ち、アホの子全開のタカシである。

店内には「あまちゃん」だけにアホの子を独占されてたまるかというムードがたちこめるのだった。

もちろん・・・山Pも香里奈も不得意な分野ではないのだった。山Pだってアホの子としてロッカーで死体になっていたり、香里奈も正真正銘のアホの子として出産だってしたことがあるのだ。

しかし・・・ここはグッとこらえて・・・演技をするのだった。

「勝手に決めないでよ・・・」

「今夜のところは・・・我慢してください・・・」

夏の夜の道。

波奈江は単刀直入に夏希に問う。

「朝日のこと・・・好きなの?」

「はあ?・・・そんなわけないじゃん」

「だよね・・・他の人と結婚するはずだったんだもんね」

「なんで・・・そんなこと聞くの?」

「答えによっては・・・家での待遇違うからあ」

「ははん・・・あなた・・・あいつのこと好きなんだ」

「そうだよ・・・10年間も片思いしてんの・・・」

「・・・」

「あれ・・・あれがね・・・私のライバル・・・」

そこには巨大な「みさき潮騒ビール」の看板があり、特大の香澄が微笑んでいるのだった。

「なるほど・・・部分的には確かに勝てないかも・・・でも、世の中にはスレンダーが好きな人も多いから・・・」

「何の話?」

「なんでもないわ・・・」

「あの人のこと・・・朝日はずっと忘れられないの・・・」

「え」

「この街にいないの・・・」

「・・・」

「あなたと同じよ・・・朝日も好きな人に逃げられちゃったんだ・・・三年前に」

その頃・・・朝日はタカシにねだられて・・・封印した「夏希の結婚式」のビデオを秘密公開していた。

「母一人・・・子一人だったので・・・娘が料理人になるって言いだした時にちょっと心が痛んだんですよ・・・ろくなもの食べさせてこなかったから・・・」

花嫁の母の言葉に涙ぐむ・・・タカシだった。

「俺・・・このお母さんを幸せにしたい・・・」海苔の製造工場の営業マンであるタカシは夏希との結婚生活での抱負を語りだすのだった。

「お前・・・まず、自分の母ちゃんを幸せにしろよ・・・」

しかし・・・朝日は流れるBGMの「All you need is love(愛こそはすべて)/ビートルズ」にふと耳を傾ける。

絶対にできないことなんてないんじゃないかな?

絶対に歌えない歌なんてあるとは思えないんだよね

ルールを完全に覚えなくてもとりあえずゲームを始めたりするじゃないか

そんなもんじゃないか?

ジョン・レノンのまわりくどい口説き文句に揺らされる朝日だった。

朝日はなんとなく・・・ビデオの再編集を始めるのだった。

社長令嬢のプライベート・ルームでくつろいだ夏希は少し機嫌が直ったのだった。

「あのさ・・・朝日がレストラン青山にこだわるのわね・・・」

「・・・」

「たぶん・・・彼女のためだと思うんだよね」

「・・・」

「あの女も・・・レストラン青山がお気に入りだったから・・・ま・・・私もなんだけどさ」

「ふうん」

深夜、家を抜け出した夏希は指輪を持って海辺にやってくる。

そこへビデオの延滞料金を払い終わった朝日が通りかかるのだった。

「ごめん・・・」

「なんであやまんの・・・」

「いや・・・一人でいたかったのかと思いまして」

「あんた・・・野球部だったんだってねえ」

「・・・」

「これ・・・できるだけ・・・遠くまで投げてくれる?」

それは「指輪」だった・・・。

「いいの?」

「お願いします・・・」

投げようとする朝日をお約束で止める夏希。

転倒する朝日。

「ごめん・・・やっぱ・・・自分でやる」

「無理しなくても・・・いいんじゃないかな」

「・・・」

翌朝・・・一宿一飯の恩義で朝食を作った夏希。

料理の美味さに感激した波奈江は夏希のレシピ帳を見て・・・帰る前に・・・レストラン青山のシェフに会ってくれないかともちかけるのだった。

その頃、朝日は駅で夏希たちを待っていたのだが・・・謎の美女・堀切あおいが香澄が微笑む「みさき潮騒ビール」のポスターを見て「なつかしいわあ・・・」と声をあげたのを聞き咎める。

「(彼女のこと・・・)知ってるの?」と声をかけた朝日。

しかし、あおいは「昔から・・・あるでしょ・・・このビール」と答えるのだった。

「・・・」

「ああ・・・ナンパか」

「ち・・・ちが・・・」否定する間もなく立ち去るあおいだった。

夏希は勢津子と会って・・・レストラン青山の中身を知った。

なかなかに侮れないレシピだった。

「海の家だと思ってバカにしてたでしょ・・・」

「いや・・・そうなんですけど・・・」

「まあ・・・わかるけどね・・・でもさ」

「とことん・・・極めていることはわかりました・・・」

「でしょ・・・」

なんとなく意気投合している二人の料理人を見て微笑む波奈江だった。

成り行きで・・・レストラン青山の開店準備にも付き合う夏希。

「いよ・・・女神様が来ましたよ・・・」とタカシ。

「考えてくれるんだって・・・勢津子から聞きました」と賢二。

「やる・・・とは言ってませんから・・・」と夏希。

そこへ・・・朝日が到着する。

「あの・・・これ・・・」

「なに・・・」

「例のビデオ」

「そんなの・・・」

「でも・・・過去の痛みと向き合うのも・・・必要かもしれないと思って・・・」

「・・・」

不承不承、品物を受け取る夏希だった。

そこへ・・・通りすがりの盆踊りなどの夏祭り実行委員会の米田晴夫(千葉雄大)と石狩清子(橋本奈々未)もやってきて・・・なんとなく海開き直前モードになる一同だった。

高校の映画部出身の光はレストラン青山の看板作りを指導するのだった。

「塗装はね・・・映画部の伝統の技術だからね」

「美・・・美術さんか・・・美術さん中心の映画部なのか」と呆れるタカシだった。

しかし・・・素晴らしい看板が完成するのだった。

「暑い夏が来るね・・・」とはしゃぐ駿。

「店長就任おめでとう」の声に・・・渋々、ビールを受け取る夏希。

「乾杯」・・・夏はもうすぐそこまで来ていた。

夏希は・・・砂に大きな文字を書いていた。

「なにしてんの・・・」と朝日。

「借りを返しておこうと思って・・・私、あんたの手紙の言葉にちょっと救われた気がしたんだ」

これからの幸せを心より 祈っております

「ああ・・・」

「あんたも・・・逃げられたんだってね」

無言でカメラを取り出す朝日。

「なにしてんの・・・」

「波で消される前にさ・・・思い出のために・・・」

「・・・」

「今、砂に字を書いてた君って・・・産卵しにきた海亀みたいだった・・・」

「なんだとっこらっ・・・」

「いや・・・いい意味でさ・・・」

夏希はビールが美味いと感じた。

それは・・・結婚式以来のことだった。

夏の水際には魔法がかかっているからである。

夜・・・結局、今夜も波奈江の家に泊まっている夏希だった。

「ねえ・・・このビデオ・・・見ていい」

「悪趣味ね・・・私はみないけどね・・・」

「ねえ・・・これ・・・お母さん・・・?」

夏希はちらりと画面を見る。

娘の思い出を語る母親の言葉に引き込まれる夏希。

次から次へと夏希だけに温かい言葉をかける人々・・・。

「これ・・・結婚式出てこないね・・・」

「うん・・・」

「夏希・・・幸せになってね・・・」

「夏希のことはいつだって応援しています」

「私の娘として・・・生まれてきてくれてありがとう」

絶対わからないなんてことあると思うかい?

絶対に見つからないものなんて本当にあると思うのかな?

どこにも居場所がなくたって君はそこにいるじゃないか

そんなもんなのさ

愛なんだよ

愛なんだよ

マジで・・・愛があればそれだけで満たされるってこと

「朝日って優しいでしょう・・・」

「・・・」

「私が朝日のことを好きな理由ってこういうとこなんだよね」

「私、あんたを応援する」

「ふふふ・・・ありがとう」

甘い・・・甘いぞ波奈江・・・ガードが甘すぎる・・・。

人が人を嫌でも好きになる・・・眩しい夏が・・・すぐそこまで来ているわけだから。

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Sn001 ごっこガーデン・水無月の海辺セット。エリなにはともあれ~、誰がゴールしてもいい体制で臨みまス~。馬券は全部買えば必ず当たるシステムなのでス~。え~、それじゃ・・・儲からないってどういうことですの~。ギャンブルの収益金はすべてわが平成財閥に還元されますのに~まこきゃっほーーーっ、とりあえず、夏で海で恋なので・・・レストラン青山にはまこかまを大量納入しましゅ~・・・じいや、うに丼大もりでヨロシクなのだじょ~アンナおやおや~、香里奈ちゃんはダーリンの彼女ではなかったのかぴょ~んmariここは思い切ってまさみちゃんの一点賭けで勝負なのですシャブリ48時間 Part2 かあ・・・夏ですねえikasama4夏ですなああんぱんちあまちゃんのエキストラは8/6の予定なのよ・・・目印は緑なのくう夏なのですみのむしなちゅ・・・ちーずみんな!夏だよ!

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2013年7月 8日 (月)

トコトンヤレトンヤレナでごぜえやす(綾瀬はるか)

ココログフリーが前後広告化して一週間。

読者の皆様が広告ダウンロードの表示タイムラグにイラッとしてないかと戦々恐々の日々である。

キッド自身はかなり・・・ムカッとしています。

トップ画面なんか・・・前広告と文字広告に挟まれて・・・本文、埋もれてるじゃねえかっ。

本当に引っ越したいくらいだが・・・甘んじて受け入れるしかないのである。

読者の皆さん、ごめんしてけろ。

怨むなら、@niftyを怨んでくださいますように。

まあ・・・とにかく・・・会津を攻める官軍はこのようにやってきたのですな。

宮さん 宮さん お馬の前の

ひらひらするのは なんじゃいな

トコトンヤレトンヤレナ・・・。

あれは朝敵征伐せよとの

錦のお旗じゃ 知らないか

トコトンヤレトンヤレナ・・・・

なのでございます~。

で、『八重の桜・第27回』(NHK総合20130707PM8~)作・山本むつみ、演出・加藤拓を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回はついに登場、会津藩家老・梶原平馬とその妻・二葉そろい踏み、二葉の弟・山川大蔵の妻・登勢、そして、二葉の末弟・山川健次郎の四大イラスト描き下ろしでお得でございます。ついに山川一家ね揃って参りましたなあ。神保ファミリーのように揃った所で退場という・・・涙を禁じ得ない展開もございますねえ。神保雪子の最後については大河ドラマとしては渾身の力を込めてギリギリまで頑張ったと言える描写だったのでしょうな。まさに・・・少し前に世情を騒がした戦場の性の問題でございますからな~。これは第二次世界大戦まで続く・・・性欲的処理問題の原点の一つと言えるのでございますから。

Yaeden027 慶応四年(1868年)八月二十四日、会津若松城(鶴ヶ城)に殺到した新政府軍は薩摩藩、土佐藩を主力として、備前藩、肥前藩、尾張藩、紀州藩、大垣藩など多数の藩兵で構成されていた。各藩は外堀沿いに陣を構え、籠城の構えを取る会津藩兵を圧迫する。城外で少数の戦闘単位で応戦した会津藩軍はたちまち、各所で蹂躙される。士族以外の城下に住むものはすでに大半が避難を終えており、中には新政府軍に積極的に協力を申し出るものもいた。城外の会津藩士は城内に戻るために包囲中の敵陣を突破する必要に迫られた。越後口から来襲する官軍を防備する予定だった家老・萱野権兵衛の率いる一隊はすでに背後に敵がいることを確認し退却を決意。錯綜した情報により、城内にいる照姫の親衛隊である婦女隊が城北を彷徨っていたのを発見。これを保護する。翌、二十五日。敵陣突破を試みた萱野の部隊は阿賀川支流の涙橋付近で乱戦となり、長刀の名手・中野竹子は敵弾を受けて死亡。切腹した家老・神保修理の妻・雪子は大垣藩兵によって捕縛され凌辱される。同じ頃、会津藩の火薬庫のある小田山は政府軍によって占拠される。会津藩は奪還を試みるが政府軍によって簡単に撃退される。すでに外堀は東西南北が占領され、小部隊での突破は困難な状態にあった。越後口からは長州軍の主力部隊、藤原(日光口)からは薩摩軍の主力部隊が接近する中、日光口から敗走してきた山川大蔵の部隊は新政府軍を装い、敵中突破に成功する。二十六日、兵たちの慰み者となり監禁拘束されていた神保雪子を憐れんだ巡回中の土佐藩士が雪子の自害を幇助したと伝えられている。

かがり火が焚かれていた。城の西北に布陣した大垣藩の陣営には逃げ遅れた会津藩士の婦女子が多数集められ自害を防ぐために猿轡・手縄で緊縛され、雑兵たちの性のはけ口とされている。

大垣藩軍の指揮者は家老・戸田権大夫三弥である。大垣藩は苦しい立場にあった。第二次長州征伐に参戦し、鳥羽伏見の戦いも幕府側であった。そのために藩主は謹慎中の身である。会津戦争によって功績をあげ、汚名を灌がなければならない。それゆえ・・・士気を高めるための些少の軍紀の乱れは黙認していた。

遠征によって女に飢えた藩兵たちの鬼畜の所業にも目を瞑るしかないのである。

死線を彷徨う兵士たちの欲望は異様に昂進し、囚われの女たちは果てしなく犯され続けるのだった。

精液にまみれた身体で女たちは死ぬことも出来ず、次から次へと果てる男たちにかわるがわる組敷かれていた。

「おおお・・・おおお・・・」(殺せ、殺せ)と猿轡の下で叫んでいた女たちも夜通し犯され続け、今や、精も根も尽き果てていた。

八重の編成した短筒くのいちの一人・お末が斥候から戻り惨状を報告する。

「地獄でございました・・・」

八重は無言で改造した狙撃銃・スプリングフィールド改川崎式を手に取った。政府軍からの略奪品を尚之助が改造したものだ。

八重は夜の闇を城外へと走る。

忍びが通るけもの道である。

城下を占拠する敵陣の位置は短筒くのいちたちによって調べあげられている。

やがて河川敷の木に女たちが吊るされているのが夜目に映った。

女たちは疲労困憊し身じろぎもしない。

八重は遠距離射撃に特化した改造銃を構える。

「南無阿弥陀仏」

八重は念仏を唱えながら引き金を引く。

「南無阿弥陀仏」

超遠距離射撃だが・・・八重は一発で確実に女たちの息の音を止めて行った。

「南無阿弥陀仏」

周囲に寝込んでいた大垣兵たちが騒ぎ出す。

「南無阿弥陀仏」

しかし・・・すでに八重は囚われの女たち全員の命を奪い、逃走に転じていた。

「南無阿弥陀仏」

闇の中を黒い影が風を引き裂いていく。

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2013年7月 7日 (日)

あまちゃん、十四通り目の土曜日(能年玲奈)

再び加速する十四週目。

夏休みの終りに上京したアキ。

一週間ほどで新学期が始り、東京での新生活がスタートした先週。

しかし、今週は・・・九月上旬から始り・・・ユイの「大丈夫×4」メールの日付が2009年9月8日である。

気がつけば・・・暦の上ではディセンバー(十二月)に突入しているのであった。

それは同時にユイの苦難の三ヶ月だった。

九月~十月上旬までは父親の介護。

十月~十一月上旬にかけて母が失踪、失意と絶望の日々。

十一月から十二月にかけて転落の人生を歩み・・・漸く、回復の兆しを見せる。

この間に、ユイもアキも十八歳になっている。

「愚か者(フール)」のスタンド(特殊能力)を持つアキはその間・・・寿司を食べて食べて食べまくったのだった。

アキはアイドル修行の入り口でアイドリング中なのであるが・・・その分、ユイが起伏の激しい人生の一時期を過ごす。

これもまた・・・飽きさせないテクニックなんだなあ。

とにかく・・・激動の三ヶ月を一週間でお届けします。

で、『連続テレビ小説・あまちゃん・第14週』(NHK総合20130701AM8~)脚本・宮藤官九郎、演出・吉田照幸を見た。2008年の夏休みのはじめ、母の故郷・岩手県北三陸市(フィクション)にやってきたアキ(能年玲奈)は心の不安定な母親・春子(小泉今日子)と海女である祖母の夏(宮本信子)の葛藤に翻弄されながらそれなりにたくましく成長し、2009年の夏休みの終り、アイドルになるために親友のユイ(橋本愛)と上京する予定だったが、家庭の事情により、単身赴任となる。新しい仲間と出会い、憧れの大女優・鈴鹿ひろ美(薬師丸ひろ子)に寿司をおごってもらったアキは・・・自分のツキを確信するのだった。

月曜日 あれも大丈夫これも大丈夫きっと大丈夫たぶん大丈夫(橋本愛)

上京してすぐ・・・憧れの女優・鈴鹿ひろ美と出会い・・・しかも寿司までおごってもらうとは。

アキは有頂天になるのだった。蛇口さんことマネージャーの水口(松田龍平)に詰め寄るアキなのだ。

「なんで・・・鈴鹿ひろ美と知り合いだって教えてくれなかったんだ?」

「向こうは覚えていなかったけどな・・・それと鈴鹿ひろ美・・・さん・・・な」

「うわあ・・・もう、さん付けで呼び合う間柄かよ」

「・・・でも・・・社長の前では言うなよ・・・鈴鹿さんと太巻さんはいろいろあったらしいから」

「?」

とにかく・・・夏ばっぱに報告するアキだった。

北三陸は秋祭り・・・そして本気獲りの季節である。

「ばっぱのおかげで鈴鹿ひろ美にあえたんだあ」

「そりゃ・・・えがったな・・・静御前になあ・・・」

「そっちはかわりねえが」

「美寿々に新しい彼氏が出来たくれえだな」

美寿々(美保純)の新恋人はバングラデシュ人だった。

そして・・・ミス北鉄は本人不在のままユイが二冠を達成していた。

ストーブこと足立ヒロシ(小池徹平)の報告によれば足立一家は一丸となって足立功(平泉成)のリハリビを支えているらしい。

しかし、ユイは学校も休みがちになっていた。

顔をマスクで覆い、猫背になりかかるユイ。駅を歩けば田舎のヤンキーにナンパされる日々である。

そんなユイに磯野心平先生(皆川猿時)も、大吉(杉本哲太)&吉田(荒川良々)も、保(吹越満)も勉さん(塩見三省)もかける言葉が見つからないのだ。

「なによ・・・辛気臭い」と平常心の春子。

「慰めるタイミングがわからない」ダメな大人たち。

女子寮住まいのアキは足止めを食らっているユイの心情を思い、歯を磨くのだった。

アキはアキで・・・ユイのいないアイドル生活のスタートを不安に感じないわけにはいかないのである。なにしろ・・・アキとユイは二人で一蓮拓郎(一蓮托生)、二束三文(二人三脚)の「潮風のメモリーズ」なのである。

不安を抱えるアキの脚は自然と安部ちゃん(片桐はいり)の上野駅前まめぶ屋台に向かうのだった。

そこへやってきた種市先輩(福士蒼汰)はアキを誘う。

「なんか・・・うまいもんでもおごってやるべ」

「まめぶはうまいもんじゃないの?」

「安部ちゃん、またな~」

涙目の安部ちゃんである。

早速、梅頭大将(ピエール瀧)の寿司店「無頼鮨」に直行するアキだった。

「東京に来たなら、なんで・・・連絡してこないんだ・・・水くせえな」

「おらにも・・・意地がある・・・恋愛感情が残っていると思われたら癪だべ」

しかし・・・実は未練たっぷりのアキだった。

けれど・・・先輩がアキを訪ねてきたのは・・・ユイの近況を知りたいからなのである。

ユイは「父親の病気のこと」も種市に知らせていないらしい。

ユイにとってのアイドルのスタート・ラインの年齢制限18歳が目前に迫り、ユイは恋愛どころではないのだ。

アキはユイからのメールを披露する。

「お父さんの具合もよくなってきて・・・ユイちゃんももうすぐこれそうだ」

もう大丈夫。

ぜんぜん大丈夫。

まだ大丈夫。

本当に大丈夫だよ。

「こんな短いメールに四回も大丈夫って打って・・・これ、相当無理してるな」

「じぇ・・・」

「まあ・・・天野には弱いところをみせたくねえのかもな」

「・・・」

「なんとかしてやりてえけど・・・」

それについては人として同じ思いのアキだったが・・・女の子として複雑なのだった。

「いいな・・・ユイちゃんは・・・みんなに気にかけてもらえて・・・」

「?」

「みんな気になるのはかわいいユイちゃんのことでなまってる方のおらじゃねえ。わかってることだけどさすがに凹むべ・・・先輩も案の定・・・ユイちゃんのことばっか」

「まあ・・・いちおう・・・彼女のことだから」

「ひがんでるわけじゃねえぞ。すげえって思ってる。いないところで話題にあがるってところはスターならではだべ。ユイちゃんにはスターの条件が備わってるってことだべ・・・って彼女・・・?」

うっかり、種市先輩とユイの遠距離恋愛の関係を失念しているアキだった。

アホの子には目の前のことだけが事実だからである。

今、東京で種市先輩に寿司を御馳走してもらっている自分はデートしているのも同然・・・とアキは思っていたのだった。

アキの初心な初恋はなかなかに執念深いのだ。

「先輩も訛ってる方でなくて可愛い方がくればよかったのにって思ってるんだな・・・そうかい、そうかい・・・なんか、すいませんでしたあ」

「別に・・・そんなこと、言ってねえじゃん」

「じゃん・・・はあ、いつの間にやら・・・標準語か・・・俺って南部ダイバーじゃんってか」

「天野・・・」

思わず・・・声が大きくなる種市先輩に・・・大将も、店員・伊東(日向丈)も振り向くのだった。

「あのな・・・天野・・・俺はもう」

「なんだ・・・まさか・・・ユイちゃんと別れるつもりか?」

希望的観測が妄想レベルに発展し我を失うアキだった。

「いや・・・そんな予定はねえ・・・遠距離恋愛バリバリだ」

勝手に奈落の底に沈むアキだった。

「俺はもう・・・南部ダイバーじゃねえんだ」

先輩の言葉の意味がわからずに茫然とするアホの子。

「仕事も辞めたし、会社の寮も出た。ユイの事も心配だし、来週にでも田舎さ帰ろうと思っている」

先輩が田舎に帰る・・・。

もちろん・・・それがすべてとは言えないが・・・アキが上京した理由の62%ぐらい(当社推定比)は種市先輩への未練だったのである。なにしろ・・・大嫌いな東京へ行く決心も・・・大失恋前の胸の内に芽生えたものなのだ。

「なんでえ?」

アキの心は乱れに乱れるのだった。

種市の東京残酷物語は・・・。

種市の就職した会社は親会社の二つの計画に参画していた。

一つが羽田空港滑走路拡張工事。

一つが東京スカイツリー建設工事。

そして・・・羽田の着工が遅れて・・・種市はスカイツリーの現場に回されたのだった。

南部ダイバー魂とは無関係なのである。

その上・・・あろうことか・・・種市は高所恐怖症だったらしい。

「潜るなら水深100メートルでも平気だが・・・上がるのは5~6メートルが限度だ・・・スカイツリーが634メートルって聞いて・・・もう・・・とてもじゃねえが無理だと思った」

実は・・・東京スカイツリーはアキとも無縁ではなかった。

そもそも・・・太巻が東京EDOシアターを上野にオープンしたのは・・・東京スカイツリーのオープンによって・・・文化の中心が城西から城東に移ると考えたからであった。

スカイツリーのお膝元で・・・アイドルを育てる。

それが太巻の大戦略だったらしい。

東京スカイツリーは・・・種市先輩の職を奪い、アキをアイドルの道へと導いたのである。

アキは・・・茫然とするばかりだった。

そこへ・・・鈴鹿ひろ美と太巻こと荒巻太一(古田新太)が入店してくる。

「じぇじぇ・・・」

思わず身を隠すアキだった。

火曜日 きっと来る、きっと来る、きっと来る(能年玲奈)

会議中を抜け出したと言う太巻・・・どうやら鈴鹿ひろ美が誘いだしたらしい。

「聞きましたよ・・・運転手、クビにしたんですって・・・」

衝立を挟んで聞き耳をたてるアキだった。

「誰?」と種市先輩。

「うちの事務所の社長と大女優さんだ」

「じゃ・・・挨拶した方が・・・」

「だめだ・・・おらの事務所は男女交際はご法度だ・・・」

「男女交際って・・・俺と天野はそういう感じじゃないべ」

切ない恋心を木端微塵にされて、唇をつんととがらせて、空パンチを繰り出すアキだった。

鈴鹿ひろ美と太巻の他愛もない話は続く。

「・・・だって、家まで送るって言うのよ・・・次の日は家の前で待ってるし・・・私怖くなっちゃって・・・通報しようかと思ったくらい」

「ひええええ・・・それが運転手ってもんですから」

「あら・・・そうなの。でも・・・私、最低限のプライベートは守りたいしい」

「相変わらず、困った人だ・・・もっとも私も一年でクビになりましたけどね」

どうやら・・・太巻は昔、鈴鹿ひろ美のマネージャーだったらしい。

つまり・・・鈴鹿ひろ美は・・・太巻のいたあの事務所に所属していた可能性があるのである。ヤング春子が太巻の名刺で連絡したとなれば・・・鈴鹿ひろ美と春子との接点が浮上するのだった。

「付き人でもつけたらどうです・・・ウチにも女優志望の娘がいるから・・・紹介しますよ。ちょっと面白い新人がいるんですよ。グループ名が潮騒のメモリーズって言うんです」

「潮騒の・・・あら・・・この前も誰かに云われたわね」

「二人組なんですが・・・可愛い子の方はまだ東京に来ていないんです・・・この子は素質的に申し分ないです」

「もう一人は・・・」

「なまってます」

「ぷっ」と思わず噴き出す種市だった。

「・・・」憮然とするアキだった。アホの子だってアホの子なりに傷ついているのである。しかし、誰も慰めてくれないのだった。

「潮騒のメモリーか・・・懐かしい」と鈴鹿。しかし、意外なことを言い出す。「でも、覚えてないのよね。たまにカラオケで歌おうとするんだけど・・・なんでだろう・・・全然歌えないの」

「デビュー曲なのに・・・」

なにやら・・・もの思いにふける二人だった。

「そろそろ・・・失礼します」

「まだ、いいじゃない」

「会議を中座してるんで・・・」

「じゃ・・・私も帰るわ・・・大将、タクシー呼んでちょうだい」

カウンターで微笑む大将に容赦なくつっこむ鈴鹿だった。

「なによ・・・小林薫のつもり?」

小林薫の微笑みについては「Woman」でご確認ください。

三十分後、鈴鹿が店を出るまで息をひそめていた二人は・・・すっかりくたびれたのだった。

「ずけえ世界だな・・・天野・・・やっていけんのか・・・アメ女だって有名だけど・・・」

「アメ女八賢伝の下に何十人もいて・・・おらたちはその下だ・・・本当に下で踊ってるし」

「それでいいのか・・・」

「いいわけねえべ・・・でも・・・今はそれしか道がねえし・・・せめてユイちゃんが来るまでは」

「・・・来ねえんじゃねえかな・・・ユイ・・・あいつもうあきらめてるんじゃねえか」

「なんでそったなこというだ・・・」

種市先輩はあの日のユイを知らないのだとアキは思う。

駅のホームで泣きじゃくりながらアキを見送ったユイ。

必ず行くから待っててね・・・と叫んだユイ。

「もうアキにも遅れとっちゃてるわけだし・・・来ても舞台の下からのスタートだべ。天野と違って・・・ユイはプライド高いし、エリートだし・・・耐えられねえと思うんだ」

「馬鹿なこと・・・語んなっ」

店中に響き渡るアキの魂の叫び・・・炸裂である。

「お客さん・・・お客さん・・・」と止めに入る大将の声も激昂したアキには届かない。

「ユイちゃんは来る!・・・絶対来る!・・・ユイちゃんはそんなに簡単にあきらめねえし・・・ユイちゃんは弱くねえし・・・ユイちゃんは中途半端なことはしねえ!」

「お客様」と店員の伊東。聞く耳持たないアキ。

「種市先輩こそ・・・こないだまで70キロのメットかぶって颯爽としてたのに・・・縮こまって情けねえ。南部潜りの精神、忘れたのか!・・・田舎さいる時は田舎の悪口、東京さ来たら東京の悪口・・・そんだなことが一番嫌いだと云うたでないか。エリートでプライド高えのは先輩の方だ・・・なんだよ・・・おらの初恋の相手はこんなにちっちぇえ男だったのかよ」

「・・・」

「自分が挫折して帰るのはかまわねえが・・・おらとユイちゃんを巻きこむのはやめてけろ」

先輩がユイちゃんを慰めるのが嫌な気持ちや先輩がアキを残して田舎に帰るのが許せない気持ちも10%前後(当社比)混入しているアキでした。

「ユイちゃんは来る!・・・絶対来る!!」

「お客さん・・・」

「すいません」と大将に謝る種市だった。「わかった・・・天野・・・わかったから・・・」

両眼から同時にこぼれおちるアホの子の涙に魂を直撃される種市先輩。

漸く・・・エネルギーが切れるアキだった。

「そろそろ・・・帰るべ」と種市。

食べ残しの折詰を希望するアキだった。

そして・・・勘定はまたしても・・・鈴鹿によって支払い済みだった。

「おらたちのこと・・・気がついていたのか・・・」

なんとなく・・・不思議に思うアキだった。

その頃・・・足立功は順調に回復していた。

足立一家にも笑顔が戻っていた。

その日、ユイは出発の準備をしながら・・・水口にメールを送った。

秋の気配の漂いだした東京。奈落では・・・GMTが夜の練習を続けている。

A!M!E!横!アメYO!YO!YO!横!

上野から御徒町に棲息 絶滅危惧種 下町アイドル

会いたい でも会えない 脳内自由恋愛集団

男子禁制 選手宣誓 毎日会いたい 下町アイドル

「ちょっと待った」とリーダーの入間しおり(松岡茉優)・・・。

キャンこと喜屋武エレン(蔵下穂波)に問題があるらしい。

映画「ホテルハイビスカス」(2002年)でアホの子中のアホの子・美恵子(小学三年生)を演じていた穂波である。その秘めたアホの子パワーは森の精霊キジムナーも凌駕するのだな。

「絶滅危惧種」が「じぇちゅみぇちゅきぃぎゅちゅう」になってしまうキャン。

最年少、小野寺薫子(優希美青)が14歳ながら訛りをセーブしたお手本を披露する。

「上野から御徒町に棲息 絶滅危惧種 下町アイドル」

「うぇのおきゃりゃあよきゃちぃみゃちぃにゅいしぇいしょくじぇちゅみぇちゅきぃぎゅちゅう・・・」

「そっちの方が難しいわっ」と突っ込む最年長・宮下アユミ(山下リオ)だった。

すでにシャドウとして舞台に立った遠藤真奈(大野いと)は余裕で控えめなのだった。

そこへ・・・水口が朗報を持って現れる。

「ユイのお父さん・・・来月退院できるそうだ・・・」

アキにもユイからメールが届いていた。

ずっと連絡できなくてごめんね

アキちゃんが頑張ってくれているから

ユイもこの試練をのりこえられました

アキちゃんとの約束

やっと果たせそうです

潮騒のメモリーズ完全復活まで

もうちょっと待っててね

☆CATCH A DREAM!! Yui☆

タイトロープの上を歩くユイのギリギリの送信である。

ほら・・・やはり・・・私の信じているユイちゃんだ。

アキは嬉しくなった。

そして・・・足は何故か・・・「無頼鮨」に向かうのだった。

アキが佇んでいるのを目敏く見つける大将。

「どうした・・・鈴鹿さん?」

こっくりと頷くアキだった。

「入んな・・・」

鈴鹿ひろ美は常連客を相手に昔の出演映画の話に興じていた。

「じゃ・・・あれ知ってる・・・卑弥呼が現代にタイムスリップする奴・・・そうそう・・・いまどき卑弥呼・・・いまどきってなんだよって話よねえ」

「あの・・・」

「あら・・・あなた・・・」

「先日は・・・連れの分までごちそうさまでした」

「いいのよ・・・まあ、すわって食べなさいよ・・・この子、アイドルの卵なのよ~」

「私・・・天野秋って言います・・・潮騒のメモリーズってグループ組んでました」

「あら・・・あなたが・・・」

「勝手に歌を歌ってすいませんでした」

「そうよ・・・裁判になったら・・・勝つのは私よっ」

唐突だが・・・後に登場する劇中二時間ドラマのフリである。

この世界では・・・鈴鹿がこれを云ったらそういうことだという話なのである。

つまり・・・フリなのだがオチ先行でもあるのだな。手法としてはギリギリなのだ。

もちろん・・・アキはついていけないが・・・。

「・・・しないけどね・・・ふふふふふ」と勝手にここでのオチをつける鈴鹿なのである。

もちろん、マイペースな鈴鹿のキャラクター付けの要素も含んでいる。

この複雑さ・・・凄みがある。

そしてアキはユイがもうすぐ来ることを鈴鹿に自慢したい一心なのだった。

二人が揃ったらすごいんだということを鈴鹿に伝えたかったのである。

「もうすぐ・・・相棒のユイちゃんが来るんです・・・そしたら歌っこ・・・聞いてくだせえ」

「いいわよ・・・」とアキのセリフの後半部だけをとらえて手拍子を始める鈴鹿。

「いえ・・・今でなくて・・・来月です」

「なんだ・・・そうなの」と細かい事は全く気にしない鈴鹿。

「とにかく・・・なんか頼みなさいな・・・私はかっぱ巻き」

「じゃ・・・おら・・・ウニ!」

鈴鹿は少し驚いてそして微笑む。彼女が大雑把と繊細さを共に内蔵している暗示。

しかし・・・アキの喜びが打ち砕かれることを予感するお茶の間だった。

やつれはてた顔で・・・北三陸駅に現れたユイの母親・足立よしえ(八木亜希子)・・・。

笑顔の仮面の裏のユイが見抜いた空虚な中身がゆっくりと露出しようとしている。

ベンチに幽鬼のように座り込んだよしえを発見する春子。

「まあ・・・病院の帰り?」

娘の親友の母親を喫茶リアスに迎え入れる春子。

「ひろしくんがさあ・・・まだ見舞いに来てもらっても困る状態だっていうから遠慮してたんだけど・・・」

「もう・・・大分いいんですよ・・・来月には退院できるかも」

「あら・・・そうなの・・・よかったわね」

「なんだか・・・疲れてしまって・・・」

「休みなさいよ・・・」

「病院の先生にもそう言われているんだけど・・・加減がわからなくって・・・」

「頼ればいいのよ・・・みんな・・・先生の教え子なんだから」

「・・・」

春子はせめて・・・夫の教え子の一人ではなくてママ友として振る舞えばよかったのかもしれない。

しかし・・・北三陸市の中心である春子には・・・孤独に追い詰められたよしえの気持ちが読みとれない。

よしえは・・・考えている。

夏の終り・・・娘を送り出そうとした時・・・残される夫と自分にも耐えがたかった。

冬の始り・・・今度、残されるのは・・・身体の不自由な夫と自分。

この時・・・よしえには家を出ていく娘の幸せを願う気持ちは・・・まったくなくなっていたのである。

これが・・・私の人生。これが私の人生。こんなのが。

ただ・・・空虚な思いだけが・・・場末の喫茶店に漂うのだった。

よしえは最後の希望に燃える娘のユイを激しく憎悪しているのだった。

水曜日 ジェジェの奇妙な冒険(薬師丸ひろ子)

アキとユイの希望に満ちた長い一日が終わろうとしていた。

ヒロシが血相を変えてスナック梨明日に飛び込んでくる。

「どうしたのよ・・・」と春子。

「母が・・・」

「お母さんなら・・・昼間、来たけど・・・コーヒー飲んで・・・」

「帰ってこないんです・・・」

「じぇじぇじぇ・・・」驚くいつもの客一同だった。

それから・・・一週間・・・足立よしえの行方は杳として分らなかった。

ヒロシが警察に捜索願いを出し・・・「ウチのママ知りませんか」のポスターが北三陸駅の構内に貼られ、最後の目撃者として春子は刑事の事情聴取を受けたのだった。

喫茶リアスに集う海女クラブの一同。弥生(渡辺えり)の夫で商工会長のあつし(菅原大吉)やかつ枝(木野花)の内縁の夫で漁協の組合長・六郎(でんでん)も顔を出すのだった。

口さがない女たちはよしえの失踪を批判する。

「こっちの人間じゃないからな」

「山の手の生まれだそうだ」

「盛岡の女子アナで・・・二十歳そこそこで見合い結婚したんだべ」とピンクのブーツを履いてフェロモン全開の美寿々である。

「根っからのサブレだべ」と弥生。

「・・・セレブだな」と訂正する花巻珠子(伊勢志摩)だった。

「鳩セレブだ」と意味もなく反駁する弥生。

「しかし・・・あんなめんごい嫁さんもらったら・・・家から出したくなくなるべ」とあつし。

たちまち、夫婦喧嘩を始めるブティック今野夫妻だった。

「あの夫婦もこんなに遠慮なしなら・・・こんなことにはならなかったかもしれねえな」と夏。

ストーブが入店したことに気がついたのである。

「なあ・・・」とストーブに話かけることで店内に注意を促す夏。春子は阿吽の呼吸でそれを制するのだった。

「母は何も云わずに笑顔を絶やさなかったので・・・悩んでいるとは夢にも思いませんでした」と後悔し、自分を責めるストーブことヒロシだった。

「ユイちゃんはどうしてる・・・」と春子。

「家のことは・・・俺に任せて東京に行けと言ったんですが・・・あいつもそこまで子供じゃないから」と言葉を濁すヒロシだった。

連絡を受けて・・・水口とともにユイに連絡をとろうとするアキ。

「ユイちゃん・・・お母さんのこと聞きました・・・電話に出たくないのはわかってますが・・・聞いてけろ・・・なんくるないべさだべ・・・あ・・・これは沖縄の方言でどうてことないよって意味です・・・水口さんに代わります・・・」

しかし・・・・電話は切れていた。

ユイの緊張の糸が音を立てて切れたのである。

「なんで・・・ユイちゃんばっかり・・・こんな目に・・・」

「大丈夫だ・・・この危機を乗り越えたら・・・ユイはスーパーアイドルになる」

根拠のない水口の発言だった。

「でも・・・おらとちがって・・・ユイちゃんには・・・才能も・・・華もあるのに・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・そんなことないよ・・・とは言わないのですね・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・あ、社長が呼んでいるんだった」

「じえ・・・」

その日、「アメ女」にも緊急事態が起こっていた。

センターのマメりんこと有馬めぐ(足立梨花)が交際中の俳優と同乗中の車で事故に遭遇し、全治二週間のムチウチ症になったのだった。

「・・・・・・・・・」社長室で無言でアキを見つめる太巻。

「・・・えっ」と事態に気がついて笑みをもらすアキ。

「ほら・・・笑った・・・今、笑ったよね・・・そうだろう・・・出番が来たと思うよね」

「それじゃ・・・おらが・・・センターを・・・」と口にするアキ。

「ケガはたいしたことない・・・問題は男だ」

「ゴルフの王子様とかなんとかいうミュージカルに出ている俳優です」と水口。「すでにファックスで声明を出してます・・・大切な友人であり、お互いを高めあい、刺激を求めあう、特別な存在の知人の一人です・・・云々」

「さっぱりわからない・・・とにかく・・・そういうわけで体調不良でマメりんをしばらく休ませる」

「じゃあ・・・今日から・・・おらが・・・」

しかし・・・そこへ・・・クビにギブスを巻いたマメりんが物凄い勢いでやってくる。

「私、出ます!・・・シャドウなんかいりません」

「今日、ステージに出るとマスコミが殺到するぞ・・・」

「平気です」

「相手の男のことはどうする」

「会ったこともない人です」

「本当なんだな」

「はい」

「よし・・・出ろ」

「ありがとうございます」

アキを一睨みすると颯爽と去っていくマメりんだった。

太巻はアキに微笑んだ。

「残念だったな・・・マメりんのシャドウをやっている限り・・・君は奈落から這い上がれない・・・ということだ」

「・・・」

「しかし・・・それじゃかわいそうだから・・・チャンスをあげようと思う。

そして・・・水口はアキを「無頼鮨」に連れていくのだった。

そこには当然のように・・・鈴鹿ひろ美が待っていた。

「ここにいるのはね・・・BS時代劇『静御前のスタッフなのよ・・・紹介するわね・・・えっと」

「天野秋です」

「そうそう・・・じゃ、明日、八時に収録開始なんで・・・六時半に西口玄関ね」

「え・・・」

「あ・・・鈴鹿さん、この子まだ何も知らされてなくて」

「あら・・・そうなの。私はね。付き人を捜してたのよ」

「え・・・おら?」

「そうよ・・・おら、大女優鈴鹿ひろ美の付き人になるだ~の巻なのよ・・・よろしくね」

「あららららら・・・どうすぺえ・・・ちょっと考えさせてもらっていいですか」

のんびりとマイペースでうろたえるアキだった。

朝、もうすぐ来る予定だったユイちゃんのお母さんが失踪。ユイちゃん、音信不通に。

昼、マメりんが問題起こしてシャドウとしてセンターに立てるのかと思ったらぬかよろこび。

夜、突然、嵐のように鈴鹿ひろ美の付き人になるという話。

アキの情報処理能力には限度があるのだった・・・同時にアイドルの卵が女優の付き人になるのが・・・ひょっとしたら・・・ユイへの裏切り行為になるのではないか・・・そして美味しい話には裏があるのではないか・・・様々な心配がアキの胸に津波のように押し寄せてきたのだった。

「なによ・・・不満なの」

「どうして・・・おらなんですか・・・同情してるんですか」

「じょじょ・・・なによ・・・自分の方が私より不幸だって言うの」

いきなり食い違って行く二人の会話だった。

「いえ・・・でも・・・有名な女優さんだし」

「だからって、なによ・・・私のどこが幸せだっていうのよ」

「でも・・・おら・・・今日はいろいろあって・・・」

「親友のお父さんが倒れたんでしょ・・・そして・・・今度は親友のお母さんが失踪したんでしょう」

「なんで・・・それを・・・」

「彼が話してくれたわよ」

「じぇじぇっ」

ここでアキは何故か寿司職人見習いとなっている種市を発見して驚愕するのだが・・・。

一方で鈴鹿ひろ美は「じょじょ」ではなく「じぇじぇ」であることを再認識する。

そして・・・「そうか・・・じぇじぇか・・・ジョジョは奇妙な冒険ですものねえ」と分る奴にだけ分かればいいギャグを展開し、カウンターではジョジョ立ちのポーズを決める大将が止めを刺す。

しかし・・・このネタは余白に書き込まれたような裏ネタで・・・本筋は当然、アキと種市の話になっていく。

「なんでここに・・・」

「俺・・・田舎に帰るのやめにしたんだ」

「そんな・・・ユイちゃん・・・大変なのに」

「俺には俺の考えがある」

店奥に入った種市の言葉を漫画のキャラクターものまねを終えた大将が引き継ぐのだった。

「この間の説教が聞いたみたいだよ・・・」

「説教って・・・そんな」

アキの中で哀しみと喜びと驚きと不安が重なりあって・・・アキから言葉を奪うのだった。

もはや、現実はアキの理解を越え、何かが胸につかえるアキ。

返事を保留にしたまま女子寮に戻るアキ。

そんな・・・アキの胸のつかえを仲間たちが取り除くのである。

「やればいいじゃない」とリーダーの入間。

「お寿司が食べられそう」とサトウキビをかじりながらキャンちゃん。

「マメりんは昔、元カレとのプリクラ流出したことがあって・・・謹慎くらってから・・・絶対に負けない女になったんだ・・・このままじゃ・・・一生、出番はないかもしれないよ」と事情に詳しい本当は二十歳もしくは二十一歳の宮下アユミ。

仲間に背中を押されてアキはユイにメールを送信する。

ユイちゃん・・・

アキは鈴鹿ひろ美さんの付き人をすることになりました

アイドルの道からはちょっとはずれるかもしれないけど

やれるだけやってみようと思います

それはおそらく十月の出来事だっただろう。

それから一ヶ月。

十一月も中旬を過ぎた頃・・・北三陸駅で吉田は・・・変わり果てたユイを目撃する。

不良のように髪を染め・・・不良のように白ジャージ・・・不良のような目付で・・・不良のように空き缶を蹴り・・・不良のような小太りの男(山田健太)に肩を抱かれる猫背のユイ。

吉田は気絶するほど悩ましい気持ちを感じたのだった。

北三陸に早い冬が訪れようとしていた。

木曜日 季節のない街でも季節はめぐるめぐる季節の中で(福士蒼汰)

スナック梨明日では春子がブティック今野の新作を弥生とペアルックで着てみせて盛り上がっていた。

「同じ服とは思えない」と美寿々。

「春ちゃんが着るとブティック今野の服でもハイカラに見える」

「いやいや・・・おらのメリハリの効いたボディーには負けるべ」と弥生。

「春ちゃんが俺たちと同じレベルまで下りてきてくれたみたいだべ」

「こっちのも・・・きてみてくれ」

「それは・・・ハードル高いわね・・・」

しかし・・・一人、吉田はうわごとをつぶやく。

「ユイちゃんが・・・おらたちのユイちゃんが・・・北鉄のユイちゃんが・・・壊れちゃったよお」

ユイの転落情報はたちまち北三陸市を震撼させたのだった。

観光課の一同は素晴らしいインターネットの世界に飛び交うユイの好もしからざる情報に頭を抱えるのだった。

紫のジャージの女となったユイの不祥事に関する目撃情報が続々と画像付きで掲示板を賑わせる。

212 北三陸の名無しさん

ユイが小太りの愛犬家と改造車に乗っていた

213 北三陸の名無しさん

ユイが小太りの愛犬家と中学生をカツアゲ

214 北三陸の名無しさん

ユイが小太りの愛犬家とバールのようなもので自動販売機を・・・

215 北三陸の名無しさん

ユイが国道沿いのモーテルから・・・

216 北三陸の名無しさん

ユイが小太りの愛犬家と青汁を購入

217 北三陸の名無しさん

ユイが学校を中退

218 北三陸の名無しさん

誰かユイを止めてほしい

219 北三陸の名無しさん

ユイが父親の介護放棄

220 北三陸の名無しさん

ユイが朝帰り

221 北三陸の名無しさん

ユイが路上で・・・

222 北三陸の名無しさん

ユイはビッチ

223 北三陸の名無しさん

ユイが小太りの愛犬家とマンションで同棲

224 北三陸の名無しさん

ユイはもう・・・再起不能

「これはもうダメかもしれんね」とうなだれる一同だった。

栗原しおり(安藤玉恵)も言葉を失うのだった。

一方・・・アキは鈴鹿ひろ美の付き人となって・・・多忙な日々を送っていた。

本番中はモニターでチェック。

BS時代劇「静御前」で迫真の演技を見せる静御前(鈴鹿ひろ美)・・・。

源義経の子を宿した静御前は源頼朝に囚われの身となる。

「子が女子なら助ける・・・男子ならば殺す」と命じられ・・・男子を出産する静御前。

赤子を受け取りに来た安達(藤原氏)清常(吉野容臣)にとりすがる静御前なのだが・・・。

「あの平清経を演じているの誰だっけ・・・深みがないのよねえ」とぼやく鈴鹿である。

「ワッフルいくらだった・・・」

「一万円ちょっとでした」とアキ。

「領収書は・・・」

「あ・・・忘れた」

「ダメじゃない・・・私たち高額納税者にとって領収書は命なのよ」

説明しよう・・・自由業の高額納税者は信じられないくらいに高額を納税するのだが、交際費などの必要経費はある程度認められている。

そのためにどうせ、税務署に取られるくらいならと高額な買い物をして経費として申告するのである。

そのために高額納税者は信じられないくらいに人に高価な贈り物をしたり、御馳走を奢ったりするのであった。

アキがやたらと寿司を奢ってもらえるのはそういう理由があります。

業界に迷い込んだ飢えた子犬たちはこのシステムを知るまでに高額納税者たちが皆、慈悲深い観音様仏様に見えるのだった。

だから・・・領収書をもらわないのは神をも畏れぬ振る舞いなのである。

アキは素顔の大女優に接し・・・そのおばちゃんぽさに親しみを感じるのだった。

鈴鹿ひろ美はTをテーと言い、Dをデーと言い、味噌汁に砂糖を入れて「甘い」と言い、本番が終わると「あ・ま・のさ~ん」と叫ぶのだった。

付き人の業務が終わり、奈落に戻ると仲間たちとレッスン。

We are GMT6!!You are GMT6!!

いつの間にか・・・GMT6が定着している奈落のアイドル予備軍だった。

そして・・・鈴鹿さんからはGMT6に恒例の寿司の差し入れがあるのだった。

出前を持ってくるのは種市先輩である。

レッスンが終わると・・・夜9時を過ぎると鈴鹿が「無頼鮨」が待っていてその日の反省会が開かれるのだった。

「我が子を奪われて殺されるんだから・・・なりふり構わない演技を全身でしているのに・・・あの監督・・・アップばかり撮るのよ・・・」

早い話が鈴鹿の愚痴の相手をするのがアキの仕事だが・・・そういう愚痴もまた勉強になったりするのだから・・・うかつにはできないのである。

しかし・・・アキはいつもの通りに云いたいことを言うのだった。

「私の衣装・・・地味だと思っているんでしょう」

「いや・・・同じ衣装をおすぎさんが来てたが・・・鈴鹿さんの方が似合ってた」

なんとか・・・お世辞も言うアキだった。

「無趣味だと思ってるかもしれないけど・・・私は手芸もするし、お料理だってお菓子作りだって得意なのよ・・・」

「いや・・・鈴鹿さんは演技だけをしてればええでねえか」

「まあ・・・今日はもう帰りましょう」

「なんか・・・おら・・・失礼なことさいっただか」

「失礼なことしか云ってません!」

「あの・・・一つ質問していいですか」

「なに・・・」

「どうして・・・おらに・・・優しくしてくれるんだべ?」

「ふふふ・・・それは・・・昔の私を見ているみたいだから・・・」

その言葉に首を傾げるアキだった。

鈴鹿ひろ美とアキでは・・・まるで違うと思うからである。

一日を終えて・・・アメ横を見下ろすシアターの屋上で・・・種市とデートのようなものをするアキだった。

「正月はどうすんだ・・・」

「こっちにきたばっかりたもの・・・帰らねえ」

「もう11月だぞ・・・すぐに暦の上ではディセンバーだ」

「じぇ・・・そうだったか・・・忙しすぎて気がつかなかった」

「ユイの噂・・・聞いてるか・・・不良とつきあってるとか・・・不良と朝帰りしたとか・・・不良と同棲してるとか」

「・・・」

「噂だと思うけど・・・心配なんで俺は帰って確かめるつもりだ」

「ユイちゃんは・・・そんな姿をおらに見せたくもねえし・・・おらもユイちゃんのそんな姿はみたくねえ・・・だから・・・その話は聞かなかったことにする」

「心配じゃねえのか」

「親友にだって緊張感は必要だ・・・おらはユイちゃんにはいつもおらの前を走っていてもらいたいと思ってるんだ・・・」

もちろん・・・朝帰りだの同棲だのが・・・真実なら・・・ユイはアキよりもある意味・・・大人の階段をのぼっているわけだが・・・。

アキは消えかかるユイという高みを・・・アキの目標を懸命に信じようとしていたのだった。

金曜日 年季の入ったアバズレをなめんなよ!(小泉今日子)

アキがパンダの上でユイちゃんの救済を祈った翌日。

化粧品を万引きしようとしたユイをおそらく尾行していたと思われる春子が現行犯逮捕するのだった。

春子は喫茶リアスにユイを連行するとおもむろにナポリタンを作りだすのだった。

ふてくされたユイは怯えた獣のようにじっとしていた。

その模様を勉さんはドア越しに見ていた。

「何してんだ・・・勉さん、このやろ」と吉田。

「なんだばかやろ」とたけし化するアウトレイジな大人たちだった。

ナポリタンと粉チーズをテーブルに置いた春子は昔話を始める。

「これは・・・あばずれの食いもんだよ・・・昔の不良はさ・・・みんな、ナポリタンを食べたもんさ・・・チーズかけてさ・・・唇、油でテカテカにしてさ・・・あんたを見ていると・・・昔の私を見ているような気がするよ・・・なんだい・・・その頭・・・ブリーチ?・・・脱色」

髪を引っ張る春子の手を払いのけるユイ。

「警察に電話したっていいんだよ・・・それとも・・・アキに電話しようか・・・」

春子はユイの気配の変化を見逃さない。

「そうか・・・アキに電話される方がいやなのか・・・」

「なんなんですか・・・」

「あら・・・口をきいたね・・・」

「ほっといてください・・・誰かに迷惑かけたわけじゃないし」

「東京に行くって大騒ぎしてたのに」

「勝手に大人たちが騒いだだけだし・・・」

「そう・・・でもこれだけは頼むわ・・・親を怨むんじゃないよ・・・あんたのお母さんの家出と・・・あんたの脱色はなんの関係もないからね・・・」

「・・・」ユイの心が疼きだす。そんなことあるもんか。そんなことあるもんか。

「行けばいいじゃないか・・・東京へ。どうせ、学校にも行ってない。お父さんの世話もしていない。昼間はプラプラして、万引きして、夜は先輩の車でスピード違反して・・・くすぶってないで・・・どこにでも行けばいい」

「今さら・・・行ったって・・・もう十八歳だし・・・二十歳になるまでにデビューできるのって話じゃないですか」

「アキに遅れをとって・・・今更って感じ?・・・プライドが許さないってか」

「プライドなんて・・・最初からないし・・・夢からさめちゃったんすよ。アイドルになりたくて男に媚び売って・・・そんなのださいなって・・・東京に行ったってださいだけじゃないすか」

「アキもお?・・・アキもださいの・・・?」

「まあ・・・そうっすね」

「そう・・・じゃ、やっぱりアキに電話しよう・・・もしもし・・・アキ?・・・今、リアスにユイちゃんが来てるの・・・ユイちゃん・・・あんたのことださいってさ・・・」

つながっていない電話を春子から奪い取るユイ。

「なあんだ・・・やっぱり、プライドあるじゃないか・・・十八の小娘が・・・かっこつけてるんじゃないよ」

春子に心のガードを崩されて座りこむユイ・・・。

春子は店を出て・・・いつの間にか大吉と保も加わったダメな男たち四人組に告げる。

「今だよ・・・慰めてやんなよ」

腰がひけつつ・・・店内に入る四人組。

アキを送り出して以来・・・我慢しすぎて流し方を忘れた涙が・・・ユイの頬を伝っていた。

ユイはナポリタンを食べた。

勉は「粉チーズかけるか」と訊いた。

ユイは無言で頷いた。

座り込んでもの思いに沈む春子・・・柱にはよしえを捜すポスターがひっそりと貼られている。

その頃・・・アキはドラマ「おめでた弁護士」の収録に立ち会っていた。

「被告は・・・無罪です・・・うっ」と産気づくおめでた弁護士(鈴鹿ひろ美)・・・。

モニターを真剣に見つめる付き人アキ。

「カット」の声がかかると「あ・ま・のさ~ん」と例によって鈴鹿に呼ばれるのだった。

アキは収録進行表を確認しながら・・・鈴鹿の元へとかけつける。

次は「ラマーズ法講習会」のシーンだった。

「まったく・・・メシ押し(食事時間がずれこむこと)ならメシ押しって云ってよ・・・私もうお腹ペコペコよ・・・」

今日の差し入れは手作りクッキーだった。

「おめでたさんから手作りのクッキーいただきましたあ」

「誰がおめでたさんだっちゅうの」

「・・・」

「見てた・・・またアップばっかり」

「・・・」

「それにおめでた弁護士ってなんなのよ・・・法廷でいつも産気づくって」

「・・・」

「見てよ・・・もうパート14じゃない」

「・・・」

「もう・・・大家族弁護士でいいじゃないの」

快調に飛ばす大女優だった。

「無頼鮨」での反省会・・・。

「本読みしようか・・・」と言い出す鈴鹿。

「え・・・」

「女優志望でしょ・・・次のシーンから」

「・・・おめでとうございます・・・ぬんすんよんかげつです」

笑いを禁じ得ないカウンターの大将と種市。

「なによ・・・それ・・・わざとやってるの」

「いえ・・・」

「標準語できないの」

「そんなことはねえです」

「妊娠四カ月」

「にんしんよんかげつ」

「訛ってみて・・・」

「ぬんすんよんかげつ」

「ほほほ・・・訛ってる方がいいわね」

「事務所からも訛って行けと言われてるだ」

「そうね・・・アイドルは・・・名前が売れるまでそれでいいかもしれないけど・・・女優になるなら標準語でお芝居もできないとね」

「訛ってたらダメだべか」

「ダメでしょ・・・訛っている役しかできないでしょ・・・それが許されるのはアキ竹城さんだけよ」

「ダブルアキだな」

「そんなになまりたければ・・・アキ竹城の付き人になんなさいよ・・・」

「そしたら・・・鈴鹿さんがさみしくなるべ・・・」

「・・・ふふふ」

「それにおらが標準語で演技してたら・・・夏ばっぱや海女クラブのみんなが残念がるべ」

「なによ・・・あんた・・・お婆さんや海女さんたちのために芝居するの?」

「じゃ・・・鈴鹿さんは誰のために芝居すんだあ?」

「・・・わがんね」

もちろん・・・お客さんのためだし・・・それは結局金のためで・・・突き詰めれば生きていくためだが・・・鈴鹿もそれをアキに教えるのは大人気ないと思うのだった。

鈴鹿はどこまで本気かわからない・・・アキのアホさに・・・ある種の深みを感じているらしい。

Am014 女子寮に戻ったアキを「遅い」と咎める水口。

何やら重要なミーティングらしい。

「じゃ・・・全員そろったので発表する・・・国民投票をします」

「?」

「アメ女の40人とGMTの6人・・・合わせて46人で早い話が人気投票をします」

「じぇじぇじぇーっ」

開票日は12月12日らしい。

その頃・・・スナック梨明日では大人たちが他愛もないゲームに興じていた。ルールは「せんだみつおゲーム」のアレンジである。「琥珀の勉さんじぇじぇゲーム」・・・しかし、弥生はなかなかルールが把握できないのだった。

「じゃあ・・・次、ブティック今野ダサダサゲームいくよ」

妙に受ける夫に弥生は栓抜きを振り上げる。

そこへ・・・ユイがやってきた。

「いらっしゃい」と春子。

大人たちもおだやかにユイを迎え入れる。

センダミツオゲームとは・・・基本的に円陣を組んでする遊びである。一人が「せんだ!」と言いながら任意の誰か一人を指さして指名する。指名されたものは「みつお!」と言いながら任意の誰か一人を指さして指名する。指名された両隣りの人間が肘を曲げた両腕を上前に振るアクションをしながら「ナハナハ」と言うのである。指名された人間は「せんだ!」と言いながらゲームを続行して行く。アクションやセリフなどで誰かがしくじったらアウトになり・・・それなりの罰ゲームを行うのだ。

「ダサダサ」はコマネチのポーズでアイドルとしてはすでに罰ゲームである。

ユイを加えて・・・和やかにゲームは進行して行く。

「ブティック」と言って穏やかに微笑むユイだった。

土曜日 シクシクシクシクシクシクシクシクシク・・・残れなかったどうしよう(優希美青)

太巻が企画する・・・国民投票と言う名の人気投票。

2009年は「あまちゃん」の世界でも政権交代が行われたらしく・・・太巻はそれに便乗して一商売しようと考えたらしい。

しかし・・・下剋上でもあるこの企画。

GMT6を合わせた総勢46人のメンバーのうち・・・。

上位20人がレギュラー。

上位30人までがリザーブとしてライブに参加でき・・・。

上位40人までがビヨンドとして補欠要員。

そして・・・残った6人は解雇なのだった。

「それはひどい・・・」

「地下アイドルはメチャクチャ不利じゃないですか・・・」

「決まったことだ・・・」

「でも・・・クビなんて・・・」

「それも優しさだろ・・・ここで40位以内に入れない奴は・・・アイドルとして将来性がないってことだ・・・だとすれば見切りをつけて第二の人生を・・・」

と言いながら説明に使った動物クッキーを食べる水口だった。

「・・・というわけで・・・生き残る方法を考えてください」

あせりまくる地下の六人だった。

「キャンちゃんの云う通りに・・・うちら、滅茶苦茶不利だぜ」とリーダー。

「だって・・・シャドウだもんな・・・知名度もなにもあったもんじゃねえ」

そこで・・・ヒロイン・パワーで発案するアキだった。

「イベントしたらどうだべ」

「路上ライブとか・・・」とキャン。

「何を歌う?」

「BEGIN?」

「沖縄県人はそれしかないのかよ」

「涙そうそう・・・」

「埼玉には尾崎豊、小柳ゆき、所ジョージなど凄いメンバーがいるけど自慢はしねえ」

「福岡にも海援隊とか甲斐バンドとか」

「あんた佐賀だろう」

「佐賀にだってはなわさんが・・・」

「はなわは生まれは埼玉ですーっ」

「はなわのとりあいしてどうするっ」

「あの・・・潮騒のメモリーは・・・」

アキは海女フェスの動画を一同に見せるのだった。

「いい曲だけど・・・」

「ピンと来ないねえ」

「それにしても・・・もう一人の方・・・でーじ(すごく)かわいい」

「さすがは・・・センター候補だな・・・」

メンバーたちは口々にユイを讃えるのだった。

うれしくなったアキは久しぶりにユイに電話するのだった。

「ごめんな・・・ユイちゃん。みんなに動画みせたら・・・みんながユイちゃんのこと・・・めんごいめんごいって・・・おら・・・うれしくて思わず電話しちまった・・・あとな・・・知ってると思うけど種市先輩さ・・・寿司職人になった・・・まだ見習いだけどな・・・」

その時、二段ベッドの上の方から泣き声が聞こえることに気がつくアキ。

「ごめん、ユイちゃん・・・また電話する・・・」

上では宮城代表の小野寺ちゃんが泣いているのだった。

「どうした・・・」

「おら・・・残れるだろうかと思うと不安で・・・」

「そりゃ・・・みんなだって」

「でも・・・お母さんが上京してくんだ・・・」

「じぇ・・・」

「離婚したみてえで・・・」

「じぇじぇ・・・」

「お父さんはおらさアイドルになるの反対で・・・お母さんはノリノリで・・・それが原因でケンカして・・・」

「じぇじぇじぇ・・・」

「もし・・・解雇されたら・・・ごしゃがれる・・・」

「ごしゃ・・・ひでお?」

「叱られるっていう方言だ・・・」

「ビビる大木も埼玉だ・・・だからかんばろう」と・・・本当は自宅通勤組なので床に寝ているリーダー。

「ほら・・・リーダーもああ言ってるし・・・がんばんべ」

「・・・」

「ダイヤモンド☆ユカイも・・・照英もーっ」

「・・・うるせえな」

アキは夏ばっぱに相談するために実家に電話をするが・・・出たのは春子だった。

「じぇ・・・」

「なによ・・・私だと不満なの・・・」

「ママと話すと帰りたくなるから・・・」

「何言ってんの・・・まだ半年もたってねえべ・・・」

「じぇ・・・」

「何よ・・・」

「ママ・・・訛ってる?」

「なまってないわよ・・・やんだもう」

「じぇじぇじぇーっ」

「これはね・・・しょうがないべ・・・田舎のおばちゃんおじちゃんとばっか話してんだから」

「えへへ」

「太巻には挨拶したの・・・天野春子の娘だって」

「いや・・・まだだ」

「あっそう」

その頃、大吉は喫茶リアスで夏を相手に浮ついた話をしていた。

「北鉄は先月も黒字でした・・・そろそろ・・・俺も・・・正式に・・・プロ・・・プロポ」

そこへアキからの電話が入る。

「なんだ・・・アキ?」

「ばっぱ・・・海女の衣装ってどこで買えばいい?」

「そんなの・・・お前が来ていた春子のお下がり送ってやるべ」

「ありがとう・・・夏ばっぱ」

「あ・ま・のさ~ん」

「あ・・・呼ばれてるんでおら行くべ」

奈落に集合したコスプレーヤーたち。

阿波おどりスタイルの宮下アユミ。

海女スタイルのアキ。

牛の小野寺ちゃん。

エイサースタイルのキャンちゃん。

そして・・・なんだ・・・それは・・・。

「ネギです」と上白、下緑で逆立ちした深谷ネギのリーダー。

最後の一人は昔ながらの割烹着である。

「佐賀のがばいばあちゃんです」とメガネっ子・遠藤真奈。

「おかしいよね・・・アイドルがおばあちゃんっておかしいよね」と淡々と苛立つ水口。

「じゃ・・・牛で・・・」

「牛が2頭っておかしいよね」

1頭はいいのか・・・水口。

「歌はどうする・・・」

「やはり・・・アマ女の曲で」

「ディセンバーとか」

「感想で私が阿波踊りしてキャンちゃんがエイサー踊って・・・アキちゃんがウニを割って・・・」と宮下アユミ。

「いらないよね・・・ウニとかいらないよね・・・海女の要素必要ないよね」と断言する水口に口をとがらせるアキだった。

母親が失踪して1ヶ月半である・・・さすがに功も何かがおかしいと気がつく。

「母さん・・・どうした・・・」

「ちょっと疲れたみたい・・・なんだよ・・・俺じゃ嫌なのか・・・」

「そんなことはない・・・ありがとうなヒロシ・・・」

そろそろ・・・とっくに退院の時期だが・・・ヒロシ・・・なんだかんだと引き延ばしてるのか。

重い気持ちで北三陸駅に戻るストーブ。スナック梨明日からは・・・笑い声が漏れる。

扉をあけるとカウンターの中にはユイが立っていた。

「ヒロシくん、いらっしゃい」と春子。

「ユイ・・・」

「お客さん・・・何にします?」

「どうして・・・」

「週3で入ってもらってるのよ」

「プラプラして悪い虫がつくよりいいだろう」

「ビールでいいよな」

「・・・」

「ビール」

「はい」

「でも・・・」

「ユイはもう18だから・・・お兄ちゃんは関係ないんだよ」

まだ・・・唖然としたままのヒロシに春子が甘い口調で囁く。

「腫れものは・・・スナックで更生するって・・・昔から決まってるのよ」

「今色っぽい言い方したね」

忍び笑う人々。

場末のスナックの夜は甘くちょっぴりせつなく更けていく。

その頃、アキは太巻とシアター玄関ですれちがっていた。

「アマちゃん・・・おつかれ・・・また無頼鮨か」

「反省会です」

「ふふふ・・・鈴鹿さんは変な人だけど・・・悪気はないからな」

「勉強させてもらってます」

「そうか・・・よろしくな」

「あ・・・そうだ・・・母がよろしくって言ってました」

「君のお母さん?」

「はい・・・天野春子って言います」

「あ・・・あまの・・・はるこ・・・」

「これ・・・母のお下がりです・・・ここに母の名前が刺繍してあるべ」

「き、君が・・・天野春子の・・・娘・・・そうかそうか」

明らかに挙動不審な太巻を怪訝に思いつつ、鈴鹿の待つ無頼鮨に向かうアキ。

残された太巻は名札を裏返せないほどに・・・震えが止まらないのだった。

手先が震え・・・そして全身が震えるのだった。

春子と太巻はただならぬ関係らしい。

そして・・・太巻はたったいま・・・春子の娘の存在に気がついたのだった。

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2013年7月 6日 (土)

好きな人を失くしたら世界が終わっていたあの頃、みんな、エスパーだよと彼は言った(夏帆)

悪魔ヨハネの黙示録 最終章

昼が消えたたために夜もなくなった。

呪われるべきものがひとつもなくなったので呪いは消えた。

不義をするものは一人もいなくなり、正義を行うものもいない。

汚れたものは一人もいなくなり、無垢なものもいない。

アルパもなくオメガもない。

最初のものもおらず、最後の者もいない。

始めもなければ終りもない。

きたりませと言うものもなく、きたるものもない。

神がいないので悪魔もいないのである。

言葉を語るものもなく聞くものもない。

虚無である。そして虚無もない。

で、『みんな!エスパーだよ!・最終回(全12話)』(テレビ東京201307060012~)原作・若杉公徳、脚本・園子温、演出・そのしおんを見た。物語の終りは物悲しい。語り部たちはそれぞれにその物悲しさを打ち消そうとする。あるものは笑って立ち上がり、再会を約束する。あるものはギターを掻き鳴らし、静寂を残す。あるものは泣きながら、頭を下げる。聞き手たちもそれなりに対処しなければならない。拍手と歓声はそのオーソドックスな手段である。何れにせよ、物語の終りが物悲しいということは変わらないのである。

親の転勤のために東京の高校から愛知県立東三河高校に転校することを余議なくされた浅見紗英(真野恵里菜)は東京の恋人と別れ、月食の夜に自慰行為をした。

紗英の父親の研究によればエスパーへの覚醒は処女もしくは童貞であることが前提だったが・・・何事にも例外はつきものなのだった。

非処女でありながら、エスパーとなった紗英はテレパシー・未来予知・テレキネシス・テレポーションを併せ持つ完全なるエスパーだった。

しかし、その能力はまだ未開発だったらしい。

西南戦争から時空を越えてやってきた西郷隆盛(竹内力)は指導者魂で紗英の覚醒を促したのだった。

紗英は覚醒した能力で・・・未来を予知し・・・いくつかのバッドエンドを握りつぶした後で、催眠能力者のミツル(栗原類)に協力を要請し・・・最終戦争のための扉を開ける鍵を準備するのだった。

世界の命運を握る男を覚醒させるために・・・紗英・ミツル・西郷の三人は時の流れを越えるのだった。

「豊橋駅前のUSAというパチンコ屋の屋上のスペースシャトルは宇宙人の乗り物・・・UFOなのです」

紗英の発言は世情に波紋を投げかける。

娘もまたエスパーだと知った浅見教授(安田顕)は娘から秘事を打ち明けられ、助手の秋山多香子(神楽坂恵)とともに協力を約束する。

それは・・・「地球の資源強奪のために・・・地球に潜伏している宇宙人が・・・宇宙に帰還するために密かに豊橋駅前のUSAというパチンコ屋の屋上のスペースシャトルをUFOとして開発した」という荒唐無稽な話を完全肯定することであった。

マスメディアの取材により・・・そういう痕跡が全く発見されなかったために・・・浅見教授の信用は地に落ち・・・超能力開発センターとそこに所属するエスパーも全員、偽物の烙印を押されたのだった。

詐欺集団として世間の非難を浴びるエスパーたち。

そんなおり、シーホースにはミツルと西郷隆盛がアルバイト募集に応じてくる。

困惑する嘉郎(染谷将太)だった。

ミツルは「脳ある鷹は脳を隠す・・・いつか、君にも重大な選択の時がやってくる」と告げる。

そして、西郷は「その時が来たらこめかみをワンワンワンと唱えながら鐘をつくようにつつくのでごわす」と教え諭すのだった。

その頃、浅見家では一家団欒の時を迎えていた。

「お父さん、素晴らしい研究をありがとう」

「・・・」

「私はお帰りという言葉が好きよ」

「お帰り・・・」

「ただいま・・・」

父と娘の和解を微笑んで見守る秋山助手だった。

翌日、浅見家に呼び出された嘉郎は驚愕するのだった。

「私たち・・・東京に帰ることになりました」

「えええええ」

「嘉郎くん、今までいろいろありがとう」

差し出される紗英の手をおずおずと握る嘉郎。

そして、浅見一家は東三河の地を去っていったのだった。

(エスパーになって・・・世界を・・・そして浅見さんを・・・救うんじゃなかったのかよ)

紗英のヒーローになれないと知った瞬間、嘉郎はすべてのやる気を失ってしまったのだった。

そんな嘉郎を喫茶「シーホース」に呼び出す美由紀(夏帆)だった。

「おい・・・このままで・・・いいのか・・・お前が決めろ」

「決めろって・・・」

「チームエスパーをどうするかだよ・・・解散するのか・・・それとも新たなる進化を目指すのか・・・」

(浅見さんがいなくなったんだに・・・もうどうでもええだら)

「解散する」

「嘉郎・・・お前・・・そんな奴だったのか・・・見損なったわ・・・なんで・・・お前みたいなやつに・・・ももええ・・」

嘉郎が自分を選択しなかったことに絶望する美由紀だった。

そして・・・エスパーたちは皆、嘉郎の元を去って行った。

シーホースのマスター輝光(マキタスポーツ)はただの童貞親父にもどった。

内気な透視能力者・矢部直也(柾木玲弥)は嘉郎以外にも友人ができた。

マラソンの魅力に目覚めたテレポーター・榎本洋介(深水元基)は本格的なアスリートになった。

サイコメトラー英雄(鈴之助)はまともな社会人となった。

ミツルも西郷隆盛も姿を消した。

美由紀ともいつの間にか話さなくなった。

空虚で怠惰で平凡な高校生活が嘉郎を押し包む。

いつしか・・・テレパシーの能力さえも薄れつつあった。

(一体・・・俺は何を夢見ていたんだろう・・・超能力で世界を救うなんて・・・馬鹿馬鹿しいことに熱中して・・・世界なんて誰かが救うもんじゃないだろう・・・)

「世界なんて・・・ただそこにあるだけのものじゃないか」

終りなき憂鬱の日々。

父親(イジリー岡田)や母親(筒井真理子)と舌技を競うのが唯一の息抜きである。

果てしなき暗鬱な日々。

一度だけ・・・美由紀と廊下ですれ違ったことがあった。

(美由紀ちゃん・・・何を考えとる?)

心で呼び掛ける嘉郎。

しかし、ふりむいた美由紀は悲しげに首を横に振るだけだった。

こうして・・・嘉郎の青春の日々が終わろうとしていた。

変わらぬ友情を示すのは親友のヤス(柄本時生)だけだった。

とぼとぼと歩くいつもの田舎の一本道。

その時、脳裏に閃くものがあった。

(私は今・・・ウサを見張っている・・・探知メカとともに)

それは茂木健一郎(茂木健一郎)からのメッセージだった。

茂木健一郎は穏健派の異星人だったらしい。

(ワンワンワン)と犬が警告を発する。

犬もまた穏健派の異星人だったらしい。

(なんだよ・・・もう・・・ええて)

紗英を失って以来、ずっと死んだままの嘉郎は投げやりに応答する。

そこへヤスが血相を変えて走ってくる。

「えれえことになっただがや・・・嘉郎・・・逃げり・・・」

ヤスはそのまま、走り去る。

嘉郎の頭上を巨大なスペースシャトルが飛翔して行く。

「なんだら・・・あれは・・・」

何人もの人々が走ってくる。

「逃げり・・・」

「大変なことが起きた・・・」

「町は全滅だら」

頭上には種類も様々なUFOが飛び交い始めていた。

中には巨大なTENGAタイプも飛行している。

そして・・・UFOは熱線を発して田畑や森、そして市街地を焼き払っているのだった。

「うあ・・・」

嘉郎の中で鬱屈していたものが噴火しはじめていた。

「うわあ」

マグマのように溶けたドロドロしたものがこみ上げてくる。

「うああああああああああ」

嘉郎は走り出す。

「ひどいじゃないか・・・ひどいじゃないか・・・僕はなんにもせんのに」

しかし、異星の戦闘艦は容赦なく町を焼き払うのだった。

(全滅です・・・豊橋市は全滅です)

(助けて・・・)

(きゃあああああ)

嘉郎の頭に阿鼻叫喚の人々の心の声が木霊するのだった。

その時、一機の宇宙船が嘉郎に襲いかかる。

本能的に嘉郎は呪文を唱えて頭を三回ノックするのだった。

「ワンワンワン」

目からビームである。嘉郎の目からビームが発射されて宇宙船を撃墜したのだ。

(なんなんじゃ・・・これは・・・)

(くそ・・・エスパーだ・・・僕はエスパーなんじゃ)

(僕が・・・みんなを守るんだに)

巨大なウサギ型戦闘メカも一撃で倒す嘉郎。

「やった」

「そうだ・・・その通りだ」

突然、西郷隆盛が現れた。

「おはんはやればできる男なんでごわす。なぜ・・・あの時、やらんかった?」

「ぼ・・・僕は・・・」

「よか・・・戻るでごわす・・・あの時へ・・・」

燃えあがる故郷を残して・・・嘉郎は時を遡上した。

「おい・・・このままで・・・いいのか・・・お前が決めろ」

「決めろって・・・」

「チームエスパーをどうするかだよ・・・解散するのか・・・それとも新たなる進化を目指すのか・・・」

美由紀が嘉郎に決断を促していた。

「もちろん・・・解散なんかしない・・・だって僕らが地球を守るんだから」

覚醒した嘉郎の念力は一陣の風となる。

そして一部愛好家を除いたお茶の間は見たくもないおばちゃん(愛染恭子)のパンチラを目撃するのだった。

エスパーたちは全員集合した。

調子に乗った嘉郎は妄想する。

「迷うことはない・・・月水金は浅見さんを・・・火木土は美由紀ちゃんを愛せばいいだけだ・・・」

「なんだとこら・・・」と美由紀は嘉郎を半殺しにするのだった。

もちろん・・・彼らの青春はまだ始ったばかりなのである。

若者たちよ・・・時は過ぎ去る・・・やれる時にやるべきだ。

相手なんか選ぶな。後悔なんて後ですればいい。

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2013年7月 5日 (金)

町医者ジャンボ鶴田(眞木大輔)VS飛鳥(忽那汐里)異性格闘技王座決定戦!!

ジャンボ鶴田(1951-2000)は日本人初のAWA世界ヘビー級王者であり、全日本プロレスでジャイアント馬場(1938-1999)の後継者として完全無欠のエースと呼ばれた男である。

生ける伝説と呼ばれるライバル天龍源一郎(1950~)との抗争を制し、鶴田越えを目指す弟子の三沢光晴(1962-2009)と死闘を繰り広げた。

・・・誰が、全日本プロレスの歴史を振り返れと言った?

ちなみに・・・ライオネス飛鳥と長与千種といえばWWWA世界タッグ・チャンピオンのクラッシュギャルズである。

・・・だから、誰が?

天龍曰く「プロレスの技はよけたら負けなんだ」

・・・もう、いいか。

で、『町医者ジャンボ!!・第一回』(日本テレビ201307042358~)原作・こしのりょう、脚本・深沢正樹、大塚徹を見た。細々と営む日本テレビ・夜の人情紙芝居に忽那汐里降臨である。20歳になった忽那汐里は2013年冬ドラマ「泣くな、はらちゃん」春ドラマ「家族ゲーム」を経てここと存在感を強めている。もちろん、2011年の「家政婦のミタ」での知名度向上も大きいだろうが、映画「少女たちの羅針盤」で「死国」の長崎俊一監督、映画「マイ・バック・ページ」で「リンダ リンダ リンダ」の山下敦弘監督、そして、映画「つやのよる ある愛に関わった、女たちの物語」で「贅沢な骨」の行定勲にブラッシュアップされてきたと思われる。ここでも・・・存在感だけの主人公に対してそれなりの演技力でドラマ世界を維持しているヒロインを演じている。開眼したんだな。前二作の次がここでいいのかどうかは別として。

うらぶれた海岸沿いの街・風見町。

院長・馬場公平(久保酎吉)が死去した「馬場医院」では一人娘で世間知らずのお譲さんで、新米看護師の元へ・・・市議会議員・西川武(大谷亮介)が近所の太川酒店の夫婦・雅美(大島蓉子)と星児(川渕良和)と今後の相談のために訪れていた。

大病院と町医者のネットワーク化を推進する西川議員は「馬場医院」が「白根総合病院」の傘下に入ることを推奨するのだった。

別に悪い話ではないのだが・・・なんとなく・・・「馬場医院」の独立性が薄れてしまうのではないかと危惧する看護師にしかなれなかった後継者の馬場飛鳥(忽那汐里)なのである。

その時、海岸で患者を拾ってきたジャンボこと鶴田医師が現れる。

かって・・・馬場医院で前院長の薫陶を受け、その後、修行の旅に出たジャンボ。

患者を処置するその姿を見て・・・飛鳥の記憶は蘇る。

「ジャンボは父の一番弟子だった・・・」

ジャンボとならば・・・「馬場医院」を継続できると考える飛鳥・・・。

ところが・・・ジャンボは・・・前院長に「一億円」の融資をしており、返済されない場合の担保として土地建物の権利証も保持しているのだった。

「お前・・・看護師になって・・・何年だ」

「二年です・・・」

「それでその腕じゃ・・・見込みないな・・・クビだ」

「ええっ」

「荷物をまとめて出ていけ」

「えええーっ」

「この馬場医院は今日から俺が院長だ」と宣言するジャンボなのだった。

しかし、世間知らずのお嬢様である飛鳥は「そんなの嫌だ」と駄々をこねるのだった。

飛鳥の幼馴染で飛鳥のパンツを盗んだこともある白根総合病院の若手外科医・三沢光成(山口大地)に相談する飛鳥だが・・・まったく役に立たないのだった。

そこへ・・・下着のラインをこれ見よがしに見せつける実力派看護師の長尾千種(吉田羊)が到着する。飛鳥にとっては実力、バストともにおよばない相手なのだった。

睨み合う、ジャンボ・千種組VS三沢・飛鳥組。

電話が鳴り・・・太田酒店で飲食していた西川議員が嘔吐して肩の痛みを訴えていると連絡が入る。

「すぐに・・・救急車を呼べ」と指示するジャンボ。

しかし、飛鳥は「往診もしないで決めつけるなんて町医者失格だ」と看護師の分際で三沢医師を引き連れて往診に向かうのだった。

症状が落ち着いているのを見て「安静にして経過を見ましょう」と判断する三沢。

電話でジャンボに勝ち誇る飛鳥である。

「あんたなんかに馬場医院は渡せない」

しかし、たちまち病状は悪化。

「これは救急車を呼ぶしかない」とさじを投げる三沢だった。

そこへ到着する救急車。

西川議員はクモ膜下出血で一刻を争う容態だったが病院へのジャンボの適切な指示で西川議員の緊急手術は成功・・・一命を取り留める。

敬秀会白根総合病院の怪しい副院長・天龍一郎(尾美としのり)の元へ・・・東スポじゃなかった怪しい医療ジャーナリストの里中麗子(笛木優子)が接近する。

「ジャンボ鶴田って医師を御存じですか・・・」

「昔・・・私が指導した研修医だよ・・・」

「この街に現れたようですよ」

「私には関係ない話だ・・・」

「そうですかしら・・・」

・・・と何故か、天龍をベッドに誘う麗子だった。全く、意味不明だが・・・この枠ではよくあることである。

一方、気持ちのおさまらない我がまま育ちのお嬢様・飛鳥だった。

「どうして・・・診断できたの」

「患者の家系は脳溢血を発症するケースが多い」

「父のカルテを勝手に見たのね」

「経営に失敗して・・・借金まみれになっただけでなく・・・前院長は娘の育て方もまちがったようだな」

「なんですって・・・」

「患者を殺しかけたことを・・・土下座して謝れ・・・それができないなら・・・出ていけ」

「謝っちゃいなさいよ」とアドバイスする千種。

「すいませんでした・・・」と屈辱の土下座を敢行する飛鳥だった。

こうして・・・馬場医院はジャンボのものになったのだった。

「しかし・・・患者が少なすぎる・・・町へ出て、患者をキャッチして来い・・・そうだな・・・太田酒店の旦那がいい」

雑用係・飛鳥に命ずるジャンボ。

「なんで・・・」

不服な気分でいっぱいの飛鳥。

「良いから云われた通りにしろ・・・」

馬場医院のカルテをタブレットに収めたジャンボは・・・患者の経歴から・・・病気の発症を予測する怪物医師だったのである。

太川星児は職歴からラテックスアレルギーの可能性があった。

星児を尾行した飛鳥はランジェリー・パプの前で嫌気がさして電話をする。

「もう・・・帰っていいですか・・・いかがわしい店で遊んでるんで・・・」

「お前も体験入店しろ・・・」

「ええ・・・」

「いいか・・・絶対に奴にフルーツを食べさせるな・・・」

しかし、時すでに遅く・・・星児はラテックス・フルーツ症候群を発症し、倒れていたのだった・・・。

「どうした・・・メロンか」

「バナナを食べちゃったみたいです・・・」

「それもあるな・・・」

こうして・・・ジャンボ鶴田は夜の街へ出動するのだった。

まあ・・・なぜ・・・この時間に・・・このドラマなのか・・・はさておき・・・のんびり見る分にはそこそこ楽しめることいつもの如しである。

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2013年7月 4日 (木)

駅のホームで梨を拾ってはいけないWoman(小栗旬)

遠き山に 日は落ちて

星は空を ちりばめぬ

きょうのわざを なし終えて

心軽く 安らえば

風は涼し この夕べ

いざや 楽しき まどいせん

まどいせん

「遠き山に日は落ちて」(作曲・アントニーン・ドボルザーク交響曲第9番「新世界から」第2楽章より、訳詞・堀内敬三)

で、『Woman・第1回』(日本テレビ20130703PM10~)脚本・坂元裕二、演出・水田伸生を見た。この人生ではない。他の誰かの人生。それを追体験すること。ドラマの醍醐味はそれに尽きると思う。しかし・・・そういうドラマは数少ない。そういうドラマがあれば見るしかないのである。そういうドラマの書き手に・・・この脚本家は達したと考える。夫を失った幼い二児の母親にはキッドはおそらく永遠になれない。しかし・・・充分にそういう気持ちを味わった。不安で行き所のない気持ち。こみあげる人への愛おしさ。やるせなく冷たい世界。心の底に眠る怒りと悲しみ。「mother」で虐待された子供を誘拐する独身女性の追体験をキッドにもたらしたように・・・また週に一回の幽体離脱が行われるのである。そして・・・その気持ちの根源はまたしても一人の母親(田中裕子)に委ねられるのだった。お母さん、あなたがまた・・・お母さんなのですね。そして・・・今回は母(mother)である前に女(Woman)だったお母さんなのですね。

都内を走る最後の路面電車・・・荒川線のとあるホーム。

夕暮れの街に・・・どこからか「遠き山に日は落ちて」のメロディーが流れる。

停留所のベンチで小春(満島ひかり)は思わず歌詞を口ずさむ。

「え・・・」と驚く見知らぬ男・・・映画「岳-ガク-」(2011年)の主人公に似た山男である。

山男・・・青柳信(小栗旬)は「これって・・・歌詞があったんだ・・・」と驚く。

小春は・・・(山男のテーマソングじゃなかったのか・・・)と意外に思うのだった。

「歌ってくださいよ・・・」

「ええっ?」

しかし・・・小春は歌う。

「遠き山に日は落ちて・・・まどいせん」

初めて会った男を一人暮らしの家に泊めるほどの無防備さである。

しかし・・・小春は一目見た瞬間から・・・信に恋していたのだった。

小春は誰かと同じように愛に溺れる女だったのだ。

ヒマラヤのチョモランマ帰りの信は小春にキャラメルをプレゼントした。

そして・・・二人は結婚して・・・青柳小春は長女の望海(鈴木梨央)を出産し、長男の陸(髙橋來)を妊娠する。

信は一年働いて一年旅をする・・・冒険生活をやめて・・・水道設備の会社に就職したのだった。

貧しいけれど・・・楽しい我が家。

夫と娘とお腹の中の息子に囲まれた一家団欒。

家族の愛に恵まれていたとは言えない小春は束の間の幸せを味わった。

ところが、ある日・・・信は両手で抱えていた梨たちを駅のホームに落し、拾おうとして転倒してホームに落ちた。そして電車によって轢死したのだった。

梨は・・・小春の好物だった。

それでも、お腹にいた長男を出産した小春。娘の望海が六歳、息子の陸が三歳になった頃、わずかな蓄えは底を尽き・・・27歳のシングル・マザーは途方に暮れていた。

切羽詰まった暮らし・・・しかし、信の遺した子供たちは愛おしい。

「人は死んだらどこへ行くの」

「星になるって言う人もいるけど・・・本当はね・・・」

「本当は?」

「どこにもいかないのよ・・・すぐそばにいるの・・・ちょっと隠れているだけ」

今より、もっと幼かった望海にそんな話をした小春。

望海はどんどん成長して行く。おしゃべりで絵が上手で・・・面白い娘。

「猫と犬はお話できる?」

「そうね・・・できると思う。ママは見たことあるし・・・」

「猿と鳥は?」

「う~ん・・・挨拶ぐらいは・・・道を訪ねたり」

「オバマとアルパカは?」

「・・・オバマは人間だからな・・・」

子供は天才なのである。少なくとも一部の親には・・・一部の子供がそう見える。

通勤の車両の中で泣き出す弟を黙らせようとたたく姉。

「ダメだよ・・・たたいちゃ」

「でもね・・・電車の中で騒いだら・・・迷惑だから・・・いけないんだよ」

仕方なく降車したホームで望海と問答をする小春。

「キリンはなんて泣くか知ってる・・・?」

「知らない」

「もぉぉぉぉぉぉっだよ」

「牛みたい・・・」

「じゃ・・・これはどっちでしょうか?・・・もおおおおおおおっ」

「きりんさん」

「残念・・・牛でしたあ」

「あはははは」

例によってポエム全開である。

もう・・・ずっとこの母娘の会話だけでもいいぞと思う。

しかし・・・バイト先には遅刻する小春だった。

ガソリンスタンドで働く小春。

同僚には同じシングル・マザーの蒲田由季(臼田あさ美)がいる。

「離婚して・・・人並みに生きたいと思ったら・・・道は二つしかないのよね。

私の友達で夜の仕事に出る時・・・子供に睡眠薬飲ませている人いるよ。

保育園と託児所で・・・稼ぎの半分消えるでしょ。

そうなると・・・風俗に行くか・・・再婚するかなのよ・・・。

今夜、お見合いパーティーあるから来ない?」

「遠慮しておく」

なぜなら・・・小春は母親である前に女なのである。亡き夫・信以外に愛の選択はないのだった。

娘や息子のために夫の愛を裏切れない小春だった。

しかし・・・貧困は・・・そんな小春を容赦なく鞭打つのだった。

息子が熱を出せばたちまち金欠となり・・・前借りのためにバイト先では苦しい立場に。

居酒屋のアルバイトで夜を過ごせば子供たちは泣く。

ホットケーキを作ろうとして失敗する。

隣の住民に「子供たちはペットじゃないのよ」と叱られる。

些細なことで問題を起こした娘は保育園を退園させられる。

三歳になる息子は発育が遅れ気味である。

階段からベビーカーが転落する。

泣きたい夜もある。

夫の形見のカメラを質に入れる。

「泣かないで・・・パパがいなくなっちゃうよ」

「いないのよ・・・パパは死んだのよ」

ついに娘にまであたる小春。

そんなある日・・・娘の望海は写真館に飾られた在りし日の「青柳一家の家族写真」を見つめる栞(二階堂ふみ)に会う。

望海に気がついた栞はなぜかあわててその場を去るのだった。

公共料金、託児所代、家賃・・・ついにあらゆる支払いが滞りだした小春は福祉事務所を訪ねる。

審査を受け・・・ついに受給できそうな日。

福祉事務所の生活保護担当員・砂川良祐(三浦貴大)は「実父はお亡くなりだそうですが・・・実母の方が援助の意志ありと返答なされたので・・・支給できなくなりました・・・」と言う。

小春が七歳の時に・・・母親の紗千(田中裕子)は小春の父親と娘を捨てて男と出奔したのだった。

それ以来、20年音信不通の母親だった。

「すみません・・・不正受給でパチンコする人も多いので・・・審査基準は厳しくなる一方なんです」

途方に暮れて事務所を出た小春を良祐はつい追いかけた。

「・・・お金を貸して下さい・・・五千円・・・いえ・・・五百円でもいいから」

良祐が戸惑いつつとりだした五百円に手を伸ばしつつ・・・意識を失う小春だった。

救急搬送された病院には良祐の妻・藍子(谷村美月)が研修医として勤務していた。

どこか冷やかな空気が流れる良祐と藍子の関係。

「貧血だけど・・・とりあえず血液検査に出しときました」

俯いて聴く小春。

藍子の指導医である澤村友吾(高橋一生)はカルテを見て懸念ありの表情となる。

娘たちを連れて・・・福祉事務所から伝えられた実母の住所を訪ねる小春。

そこには・・・母の浮気相手である植杉健太郎(小林薫)が穏やかな笑みを浮かべていた。

「あ・・・今・・・あの人は・・・仕事に出てるんだ・・・ほら、俺はヒモみたいなものだから」

健太郎は廃業寸前のテーラーを営んでいた。家計は勤めている小春の母親の紗千が支えていた。

子供たちは・・・テレビに夢中である。ないのか・・・青柳家には・・・テレビが・・・。

「父親似だね・・・あ・・・信くんが来たことあるんだよ・・・君と母親の仲をとりもつって言って・・・あの人はちょっと期待してたみたいだけど・・・」

「・・・」

「あれから・・・どうしたのかな・・・君の好物の梨・・・いっぱい抱えて帰っていってそれきりだ」

小春の心に衝撃が走る。

そして・・・小春にとって憎むべき女が帰って来た。

気まずい沈黙の中・・・素麺をゆで始める紗千。

小春が作るようにいなり寿司を作っている紗千だった。

「あの人はどうしたの・・・」

「もう・・・いません・・・」

「・・・」

「援助をお断りします・・・申し出を取り下げないと給付が受けられないのです」

俯く紗千。

「子供を育てるのってホントは難しいことじゃないでしよ。

でも一人になるとそれだけで難しいことになるんです。

二人だったら簡単なことが・・・お風呂もごはんも電車も・・・弟に嫉妬するお姉ちゃんをなだめながら弟にごはんを食べさせるのも二人だったらなんでもないことです。

電車で三つ先の駅に行くんだって一人だと難しいことになるんです。

子供を連れて街に出れば耳に入るのは舌うちと咳払い。

毎日聞いてると・・・子供は邪魔で子供は迷惑で子供は悪い存在みたいに思えてきます。

お金があれば違うかもしれない。

稲荷寿司とぶどうパンが好きなんですよ。

安上がりな女なんですよ。

子供たちもそうなんですよ。

でも・・・今はそれすら満足に子供たちにたべさせられないんです。

お腹すいたって言わせてるんです。

子供たちを残して外に仕事に行くとこわいことしか考えられない。

何かあったらどうしよう。

私がいない間に何かあったらって。

時給900円のパートタイム勤務のために子供を一時間800円の宅託児所に預けたら通勤時間でもうマイナスなんですよ。

お金がなくたって幸せになれる。

愛があればって・・・愛なんて・・・私が一番欲しいですよ。

お金だけがすべてじゃないけど・・・お金があるのが前提でしょ・・・。

幸せはお金じゃ買えないけど・・・お金があれば・・・そんなに不幸にならないでしょ。

夫は・・・信さんは死にました。

三年前・・・駅で・・・線路に落ちて・・・電車・・・。

なんで・・・梨なんて拾おうとしたのかって・・・ずっと判らなかった。

梨なんて拾わなければ・・・よかったのに」

一瞬で・・・すべてを悟る紗千だった。

うろたえて思わず・・・素麺を頬張る紗千。

そして・・・おもむろに立ち上がると現金をつつみだす。

「これ・・・今・・・あるだけで・・・たいしてないけど・・・」

「いりません・・・いりません」

自分を捨てた女の金を断固として拒否する小春だった。

少しだけ・・・晴れ晴れとした小春は幼い子供たちと家路をたどる。

「素麺食べたの?」

「うん」

「夕飯どうしようか?」

「バナナがいいと思う」

「バナナはご飯じゃないよ」

「バナナはセットになってるから」

「セットかあ」

残された老いた女と男。

「あなたでしょ・・・福祉事務所に余計なこと言ったのは・・・」

「・・・」

「私はね・・・娘を捨てたんじゃない・・・娘に捨てられたんだ」

「・・・」

そこへ帰宅する・・・紗千と健太郎の娘である・・・19歳の栞。

植杉一家は団居(まどい)する。

やがて夜の 訪れに

星のかげも 見えそめた

草の露に ぬれながら

つえをついて 辿るのは

年を老いて 待ちわびる

森の中の 母の家

母の家

「家路」(訳詞・野上彰)

ああ・・・高まる再現性・・・困るよなあ。まさに・・・「mother」再びだよなあ。

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2013年7月 3日 (水)

激流~女子中学生失踪事件(刈谷友衣子)

2002年、当時の小泉純一郎総理大臣が訪朝し、金正日総書記が日本人の拉致を一部認める。

2004年、小泉総理の訪朝により、一部の被害者が帰国する。

日本政府が認定した拉致被害者の多くが「死亡した」と北朝鮮は回答し、その中には1977年、拉致された当時、中学生だった横田めぐみさんも含まれていた。

「横田めぐみさん」死亡の証拠は一切なく、日本政府は現在もこれを事実と認定していない。

ドラマの原作小説「激流」は2003年から雑誌に連載され、2005年に単行本として刊行された。

当然、現実の影響下に「中学生失踪」というフィクションの発想が置かれていると考えるのが普通である。

そういう意味では・・・微妙な出来であることは間違いない。

もちろん・・・原作中での事件は北朝鮮による拉致とは特に関係はないと妄想できる。

で、『ドラマ10 激流〜私を憶えていますか?〜・第1~2回』(NHK総合20130625PM10~)原作・柴田よしき、脚本・吉田紀子、演出・佐々木章光を見た。原作では墨田区の中学校だったがドラマではどこぞの田舎の中学校となっている通り、かなりの設定変更があるが例によって妄想はドラマに沿っています。原作の時系列は20年前が1980年代になるわけだが、ドラマでは1990年代になっており、様々な違和感を齎すことは言うまでもない。

20年前の修学旅行で・・・京都を訪れたとある中学校の生徒たち。

班別の自由行動で路線バスに乗った圭子(森高愛→田中麗奈)、サバこと鯖島(宮近海斗→山本耕史)、貴子(広瀬すず→国仲涼子)、耕司(六車勇登→桐谷健太)、美弥(南乃彩希→ともさかりえ)、長門悠樹(石橋樹)、小野寺冬葉(刈谷友衣子)の七人。

しかし、いつの間にか冬葉はバスから降車し、それきり、行方不明になってしまっていた。

当時は大問題となり、残された六人のいじめなども疑われ、担任教師の旭村(武田真治)は転任、冬葉の両親は離婚し、小野寺家には母親の裕子(田中美佐子)が冬葉の部屋を当時のままに残してひっそりと暮らしている。

中学卒業後、六人はバラバラになり、それぞれの人生を歩んでいた。

このうちの五人の現在の姿が描かれるのだが・・・これがかなり・・・特殊な感じになっている。まあ、ある意味、個性ありすぎるのである。田舎の中学の一つの班に才能集まり過ぎなのだな。

圭子は大手出版社の編集者になっており・・・同業の夫(山口馬木也)は女流作家の愛人となって離婚調停中である。

美弥は一世を風靡したミュージシャンで小説家でもあり、麻薬取締法違反の前科一犯で若い愛人と自堕落な生活を送っている。

貴子は娘(小林星蘭)を有名私立小学校に通わせるために主婦売春組織で高級コールガールとなっている。

ちなみに行方不明の冬葉はフルートの名手で美少女設定である。

まあ・・・かなり・・・なんじゃこりゃ・・・感はありますな。

サバはその後、東大に進み、銀行員となり、妻子持ちとなったが・・・年下の女・桑野留美との性的関係によって破綻し、離婚して、左遷されているダメ人間である。

サバとは鉄道おタクとして親友だった耕司は警視庁の捜査一課の刑事となっている。

どんな田舎の中学校なんだよ。

ちなみに・・・悠樹は卒業後、消息不明らしい。

残り五人もほとんど・・・交流はなかったのだが・・・20年後のある日・・・圭子とサバが下りの新幹線の車中で偶然、隣り合わせた時・・・「私を覚えていますか・・・冬葉」という謎めいたメールが送られてくるのだった。

同様のメールが美弥と貴子にも送られてきて・・・五人は一同に会することになる。

一方で耕司は・・・「代沢三丁目主婦殺人事件」の捜査中であり、実は重要参考人の一人で被害者の不倫相手である榎一之(金子昇)は失踪中。榎と美弥に事件がらみで交友があったことから・・・密かに美弥をマーク中なのである。

そして・・・榎は消息不明の悠樹とも交流があったらしい。

同じ班の四人の女子が・・・一人失踪、一人麻薬常習犯、一人売春婦である。

そして・・・圭子もまた何者かの陰謀によって仕事上の失策をし・・・左遷に追い込まれるのだった。

まあ・・・ミステリアスな出来事・・・多すぎなのである。

今の処・・・まともなのは・・・刑事の耕司だけだが・・・耕司もまた・・・美弥を横恋慕しつつ・・・犯罪関係者と目して接近中なのである。

なんだろう・・・この・・・表面的には高いポジションにいる人間をおとしめまくる流れは・・・。

美弥の弟に高橋一生まで配置して・・・もうなにがなにやら感ハンパないのだった。

はたして・・・冬葉が生存しているのかどうかも不明なまま・・・美弥の元には「なぜ捜してくれないの・・・冬葉」という第ニのメールが送られてくるのである。

佐津川愛美に押し倒される山本耕史。

カンニング竹山に囲われる国仲涼子。

曇りガラス越しだが竹山・国仲のフルヌードである。一同爆笑の衝撃ポイントでした。

そして、狂ったようにアルルの女の伴奏曲をピアノで引きまくる謎の女(賀来千香子)・・・。

大村彩子が出ているのだが・・・入来香苗役って・・・圭子の職場仲間か・・・。

圭子の夫の指図で珠洲京谷(高畑淳子)の原稿・・・細工したのか。

もう少しアップをくれよ。

圭子も文芸を愛しているとはとても思えないキャラクターなんだよなあ。

とにかく・・・時間が止まったままの女子中学生・冬葉と・・・ろくでもない大人になった圭子たちとがどのように交錯して行くのかが勝負となるわけだが・・・イメージ映像の冬葉が・・・なんだか90年代の美少女AVのオープニングに見えてしょうがないのはキッドだけですか?

生徒役の一つの重要な作品として2010年の映画「告白」と2011年のドラマ「鈴木先生」がある。

「告白」には今をときめく能年玲奈と橋本愛が。そして三吉彩花が。

「鈴木先生」には土屋太鳳、未来穂香、松岡茉優、小野花梨が。

刈谷友衣子はどちらにも絡んでいます。

次回は圭子がサバに猛アタック・・・なんだろう・・・何かを微妙に思い出す・・・「悪魔のKISS」かな。

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2013年7月 2日 (火)

2013年、夏ドラマを待ちながら(キッド)

とろろそばの美味しい季節である。

本日からブログの記事上にココログからのお知らせが付着している。

グリーンを基調としたキッドのブログを開始して7年。

どうしても違和感がある。

これが「お知らせ」から「広告」となると・・・かなりアレなんだな。

まあ・・・極力、経済活動とは無縁の「虚構」を目指しても来るべきものは来るのだった。

それにしても・・・どんな広告が来るのだろう・・・ある意味、楽しみである。

一時期、管理ページについていたチンケな評論家のイベントのお知らせなんかだったら・・・もうその人物に対する罵詈雑言を書き連ねるのは必定なのだが・・・そんなことで「継続可能なサービスの維持」に貢献できるかどうか、疑問だな。現在は管理ページに変な占い師の広告が出ていて「悪魔呪いの占いしちゃうぞ」としばしば思うのだった。

まあ・・・悪魔なので些少の違和感は我慢します。

読者の皆様もよろしくおつきあいください。

さて・・・いつもだと選択も割と楽な夏ドラマなのだが・・・今回は(土)と(日)の記事が埋まっている状態のスタートである。

(土)「あまちゃん

(日)「八重の桜

これは不動の週末なんだなあ。

再開後のレビューは一日一本と決めているので残り五本である。本当は週に一度は谷間が欲しいが・・・それは無理な気がします。

まあ、スタートして一回目での取捨選択は当然あるわけだが・・・それでも一応、ラインナップは仮定しておくわけである。

まずは・・・(月)・・・。

フジテレビの月9「SUMMER NUDE」・・・これは強力だよな。なにしろ・・・主演・山Pである。で・・・その昔の彼女が・・・長澤まさみ・・・ずっと山Pに片思いしているのが戸田恵梨香。そして・・・新しい恋のお相手が香里奈である。・・・なんじゃこりゃああああ的な豪華キャスティングなあのだああああっ。・・・教授かっ。

TBSの月8は宮部みゆき原作、神山由美子脚本の「名もなき毒」で深キョンなのだが・・・とにかく原作殺しの枠なので・・・おそらくチェックのみになるだろう。

深夜には福田雄一・堂本剛のコンビで「天魔さんがゆく」のヒロインが川口春奈なのである。佐藤二朗は二期連続・亡霊役である。あはは。ホラーテイストのコメディーなのか。コメディーテイストのホラーなのかで趣味が分かれるところである。前者に決まってるだろうが。

さて・・・(火)なのだ。

NHK総合の「激流」にもかなりそそられる。

そして「救命病棟24時 5th series」には岡本玲が出るのだ・・・そこかよっ。ちなみに「名もなき毒」にも出ます。

しかし、フジテレビ火10の「スターマン~この星の恋~」は脚本・岡田惠和、演出・堤幸彦で広末涼子有村架純が出るのだ。ここはもう仮押さえするしかないのである。ずぶん先輩(福士蒼汰)と広末のドキドキしちゃったキス・シーンも楽しみである。みんなの・・・コだかポだかに感謝した小池栄子も出ます。

そして・・・(水)・・・。

これはね・・・もう・・・日本テレビ水10の「Woman」でいいよね・・・。満島ひかり鈴木梨央(チビ八重)田中裕子二階堂ふみ谷村美月臼田あさ美とこれでもか・・・なのである。脚本はこの枠で「mother」を成し遂げた坂元裕二・・・そこから「それでも、生きていく」「最高の離婚」とはずさないまま、ココである。三連続を達成しているので一皮剥けたと推定します。

「ショムニ2013」は本田翼、森カンナたち新メンバーも楽しそうだが・・・語るほどのことは絶対にないと思われる。

(木)・・・。

忽那汐里の「町医者ジャンボ!!」があるし、比嘉愛未、黒川智花の「DOCTORS2 最強の名医」とか、川島海荷の「ぴんとこな」もあるわけだが・・・。

深夜の「悪霊病棟」脚本・監督・鶴田法男である。なんてったって美由紀ちゃん・・・じゃなくて夏帆なのである。

さてさて・・・もう(金)だなあ。

テレビ東京の「リミット」の桜庭ななみ、土屋太鳳、工藤綾乃、山下リオにもかなりそそられるっていうか・・・絶対視るわけだが・・・。

志田未来と橋田壽賀子のコラボですでに微笑ましい「なるようになるさ」には真加出くんこと早織も出ます。

ここは「警部補 矢部謙三2」も含めてペンディングだな。

で・・・週末には(土)は桐谷美玲酒井若菜早見あかりの「斉藤さん2」、(日)は堺雅人と上戸彩で銀行員「半沢直樹」なのである。

残り、一枠をかけて・・・「警部補 矢部謙三2」「なるようになるさ」「斉藤さん2」「半沢直樹」「リミット」が激突である。

物凄いサバイバ~なんだな。

どちらにしろ・・・夏のレビューはあっさりを心がけたいと考えます。

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2013年7月 1日 (月)

弓矢とる身にこそ知らぬ時ありて散るを盛りの山桜花でごぜえやす(綾瀬はるか)

政府軍は会津若松城(鶴ヶ城)を包囲するかのように城下町に侵入。

逃げ遅れた婦女子を容赦なく襲いながら街に放火した。

外堀沿いの北側の町屋では各所で会津武士によるささやかな抵抗が行われた。

会津藩武芸師範の黒河内伝五郎の修行仲間で宝蔵院流槍術師範の野矢常方もその一人である。

城北の桂林寺町の守備隊に加わった常方は一人退却せず、槍をふるい銃撃に倒れた。

常方は歌人でもあり、槍先に結びつけられた一首の歌があった。享年67才。

山桜花の最も美しいのはその散り際である。散るべき時を知ってこそ武士は美しい・・・。

基本、武士とは死にたがるものなのである。

で、『八重の桜・第26回』(NHK総合20130630PM8~)作・山本むつみ、演出・加藤拓を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は二週連続ヒロイン八重のスペンサー銃装備姿、神夢想無楽流師範にして稲上心妙流柔術、手裏剣術、鎖鎌術など武芸百般に通じる剣聖・黒河内伝五郎義信、そして、西郷頼母の妻・千恵子の姪にあたり、会津戦争で父と兄が戦死する日向ユキの三大イラスト描き下ろしでお得でございます。白虎士中二番隊頭の日向内記は日向一族の本家筋。これだけ、本筋に近い人物を・・・単なるご近所さんですますわけはないのですが・・・ここまではそんな感じでございますよねえ。まあ・・・総員フラグたちまくりの話なので・・・しょうがないとも言えますな。

Yaeden026 慶応四年(1868年)八月二十二日、白虎士中二番隊は鶴ヶ城東北の滝沢本陣より戸ノ口原方面に出陣する。政府軍の進出によりたちまち敗走した二番隊は飯盛山に逃げ込んで山中を迷走。二十三日に城下に火の手があがったのを落城と錯誤し自刃して果てる。会津藩主・松平容保と行動を共にしていた実弟の桑名藩主・松平定敬は仙台を目指して落ちのびる。容保は政府軍の追撃を受けながら鶴ヶ城に退却。政府軍は鶴ヶ島城下に殺到し、各所で殺戮を繰り広げる。会津藩士は広範囲に分れて守備をしていたが圧倒的兵力差により、包囲されたちまち外堀を突破される。この時、背炙山に展開中の西郷頼母や、戸ノ口原方面から敗走した佐川官兵衛らの一隊は漸く城内に帰還する。北大手門に敗走してきた容保を収容するために突出した田中土佐と神保内蔵助の一隊は壊滅。二人の家老は城外の屋敷で自刃して果てる。すでに外堀沿いに政府軍が群がっており、一部では内堀への侵入が開始されている。守備の手薄だった南門にも政府軍が突入し、激戦となる。この頃、西郷頼母一族他、多数の子女が自刃する。大手門の北に位置する西郷屋敷は土佐藩軍によって占拠され、西郷一族の遺体は土佐藩兵によって発見された。政府軍のアームストロング砲による砲撃は鶴ヶ城天守閣に到達する。政府軍の各藩兵は市街地の略奪に夢中になり、戦線は漸く停滞した。

城下の北側に広がる市街地では各所で火の手があがっていた。

薩摩くぐり衆の野津鎮雄と迅衝隊鉄砲忍びを率いる板垣退助は徒歩で占領地を巡視する。いたるところで女の叫び声と下卑た男たちの歓声があがっている。

「各藩の兵共の規律は最低じゃな」と板垣は笑いながら言う。

「しかたありもはん・・・遠路はるばる北の果てまでやってきた雑兵どもでごわす。旅の恥ばかき捨てねば男が立たんのでごわす」

「たちまくっちょるがの・・・米はどうじゃ」

「おのおのの屋敷には充分に蓄えがのこっておりもす。こんなに早く、外堀が突破されるとは思いもしなかったのでごわそう」

「刈り入れがすんどれば・・・それなりに収穫があろうが・・・これだけの軍兵が押し寄せたのではたちまち、食いつくすことになりそうじゃの」

「まあ・・・戦がしまえば後は野となれ・・・山となれでごわす」

「弾薬の補給も待たねばならんきに・・・ここはしばらくは持久戦かの・・・」

「敵は補給が断たれておる・・・ひと月もすれば音をあげもっそう」

「まあ・・・そんなところかのう」

「じゃっどん、藩主を滝沢で取り逃がしたのは・・・残念でごわした・・・」

「さすがに・・・護衛部隊は兵がそろっていたようじゃのう・・・」

「くのいちにひとりてだれがおりもした・・・」

「ほほう・・・」

その時、後方で着弾音が響いた。

「なに・・・」

「城からですな・・・」

「まさか・・・射程が長すぎる・・・」

川崎砲が天守閣に添えられていた。

川崎尚之助が設計した臼砲が二門北東に向けて並んでいる。

曲射により、飛距離を確保した巨大な臼砲が・・・川崎火薬を仕込んだ榴弾を次々と打ち上げていく。

「わが婿殿は・・・恐ろしいものを作ったものだ」

「結局、完成したのは二門でしたがね・・・しかも、設計の半分の大きさです」

後装填、無反動、ライフリングという超時代の新兵器・川崎砲は・・・外堀から侵入しようとした敵の後続部隊に大打撃を与えていた。

尚之助が極秘に開発した川崎火薬入りの榴弾は恐ろしい燃焼力で敵味方を問わずに焼きつくすのだった。

後に海軍が取り入れる下関火薬の原型だった。

「命中精度はひどいものですが・・・これだけ敵がうじゃうじゃしておれば・・・どこに飛んで行ってもそれなりに損害をもたらします」

「いや・・・たまげた」

「しかし・・・弾に限りがあります」

「まあ・・・敵の肝っ玉を冷やすには充分だべ」

その頃、大手門では後の日露戦争の英雄・大山弥助も四斤山砲改の弥助砲で強行突破を模索していた。

「戦を長引かせては民百姓が泣くばかりでごわす」

「弥助どんは優しいのう・・・」と従兄弟の西郷小兵衛とつぶやく。「おいどんはただ、吉二郎兄様の仇ば討ちたいのでごわすが」

西郷吉之助のすぐ下の弟、吉二郎は十日前に越後戦争で戦死している。

「む・・・殺気・・・」

大山弥助は西郷小兵衛を突き飛ばした。

銃弾は弥助の足を撃ち抜いた。

大手門の銃眼の向こうで八重が舌打ちをした。

「敵将をしとめそこないやしたでごぜえやす」

「勘の良い奴だったのう・・・」

黒装束の松平容保は八重の背後でつぶやいた。

「なんとか・・・夜をむかえられそうじゃな・・・」

阿鼻叫喚の城下町を藩主は痛ましく思った。

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