西瓜の種と孤独な犬と震える手と案ずる瞳とWoman(田中裕子)
水曜日の朝、「あまちゃん」は高校を卒業してしまったのだ。
月曜日はお正月だったのに・・・。あっと言う間に1年前になってしまっている。
あの日の朝・・・だれもその夜の恐ろしさを知らなかった。
同様に、人々は明日、富士山が噴火し、明後日、東海地震が起きるかもしれない世界に生きている。
そういう「恐怖」が充満しているドラマである。
病院の待合室に絵本「ウーギークックと子どもたち/ハヤシダシュウイチ」(フィクション)が置いてある世界。
痴漢容疑者を無関係な酔客が集団暴行する世界。
無視された子供が玩具で子供の頭を殴る世界。
保健所で犬が殺処分される世界。
ロイヤルベイビーをニュース・ショーがもてはやす世界。
外国産ホタテの輸入を憂慮する世界。
青学の学生が予備校生を見下す世界である。
そして、ヒロインが再生不良性貧血を告知される世界である。
マンホールの下に地底人が生息している世界だ。
もはや「21世紀残酷物語」なのだな。
どうするんだ・・・これ・・・。
で、『Woman・第4回』(日本テレビ20130724PM10~)脚本・坂元裕二、演出・水田伸生を見た。シングル・マザー青柳小春(満島ひかり)は長女・望海(鈴木梨央)と長男・陸(髙橋來)を再び手元に置いて働き始めた。幼い頃に離別した母親の植杉紗千(田中裕子)との葛藤を母親の再婚相手の健太郎(小林薫)の善意と、異父妹の栞(二階堂ふみ)の秘密の暴露によってほんの少し乗り越えた小春だったがその未来には暗雲が立ち込めているのだった。
夏の陽射しの中を母と幼い二人の子供が歩いている。
「夏休みの宿題って何があるの」
「自由研究・・・お母さん・・・やったことある」
「あるよ・・・蝸牛の観察とかね・・・望海は何をやるの」
「地底人の研究」
「そうか・・・マンホールには気をつけないとね」
「マンホールの蓋は重いからねえ」
「だから・・・なんなの・・・」
「地底人は骨粗しょう症だと思うんだ・・・日光不足で・・・あ」
「どうしたの」
「陸がいない」
陸は暗がりの中で掲示板を見つめていた。
「父子で参加・・・ラジオ体操」というポスターを目にとめた小春。
「ラジオ体操か・・・陸・・・お母さんと一緒に行こうか」
頷く陸。
だが・・・陸は他の事が気になっていたのだった。
再び歩きはじめる三人。
「陸は何かしたいことある・・・」
「・・・犬」
「犬が飼いたいの?」と母。
「犬はお金がかかるよ」と姉。
夏の街路樹に漂う光と闇。
託児所の所員はマニュアル的に押し付けがましいアドバイスをする。
「少し・・・言葉が遅れてるんじゃないですか」
「私やお姉ちゃんの言葉は理解しているし・・・無口な性格なんだと思います。私もそうでしたから」
「知能テストを受けられたらどうでしょう」
所員はマニュアル的に対応できない事態の発生を懸念するのだった。
悪意ではないが善意ではない意志がそこにある。
小春はパンフレットに目をおとす。
「言葉の遅れている子供について」
陸は大人しく一人で遊んでいた。
縁側で無職に等しい仕立屋の健太郎は西瓜を食べていた。
カットした西瓜を渡した紗千は健太郎の食べた西瓜の皮を見咎める。
「あなた・・・種をどうしたの」
「あれ・・・気がつかなかったかな・・・二年前くらいから種も食べることにしたんだ・・・健康にいいかと思ってね」
「あらまあ・・・世の中にはいろんな人がいるものね・・・いい年してエベレストで遭難したり、いい年して西瓜の種を食べ始めたり」
「暑いなあ・・・小春ちゃんち・・・暑いだろうなあ」
「・・・」
「あの家・・・クーラーないんだぜ・・・子供たちもいるのに」
「・・・」
善良だが経済力のない父親と娘を溺愛する母親に育てられた栞は夢を見ていた。
大家さんになりたい。
店子はフランケンシュタインのモンスターとドラキュラ伯爵と狼男でもいい。
そして・・・のんびり暮らしたい・・・と心から願う栞。
しかし・・・栞にとって現実世界はいつからか息苦しい場所になっていた。
父と母と栞の三人の世界はまだしも・・・玄関を一歩出ればそこは空気の薄い荒野なのだ。
美術関係の予備校に通う栞だが・・・そこでも自分の才能の限界を感じている。
栞は仕方なく一人でお茶を飲んで時間をつぶす。
そこに「同級生」今野美希(大西礼芳)という名の悪魔が現れる。
「あれ・・・栞じゃない・・・何してるの・・・私は今、青学に通ってる」
「私は今・・・お茶を・・・」
「ふ・・・あんた・・・相変わらず・・・気持ち悪い子だね」
「・・・」
砂川藍子(谷村美月)が研修医を勤める病院の指導医・澤村友吾は笑顔で患者(玄覺悠子)に「再生不良性貧血」の告知をするのだった。
「死の宣告」に震えが止まらない患者。
「患者さんも震えていたけれど・・・先生の手も汗をかいていましたね・・・やはり・・・告知は緊張するものですか」
「まあ・・・そうだね」
「今までで一番困難だった告知はどういう患者さんを相手にした時でしょうか」
「妻に・・・告知した時かな」
「・・・」
小春は職場でまたしてもたちくらみを起こしていた。
腕には痣が鮮やかに浮かぶ。
砂川藍子は夫に託して家に残してきた愛児の画像を眺める。
小春は道を急ぐ。
藍子の夫の生活福祉課生活保護担当職員・砂川良祐(三浦貴大)も道を急ぐ。
「どうしましたか」
「うちの子が託児所で誰かに乱暴したらしくて・・・」
「それ・・・うちの子です」
砂川の息子が陸の無反応ぶりにじれて手を出してしまったらしい。
しかし、小春と砂川が二人を公園に連れ出すと・・・たちまち仲良く遊びだす子供たち。
「子供は無邪気でいいなあ」
「育児は大変ですか」
「大変ですよ・・・もう言葉にできません」
「奥さん・・・戻ってきそう?」
「さあ・・・とにかくどっちが先に折れるかですよ・・・いや・・・むこうが折れるか・・・こっちが破滅するかかな」
小春は微笑む。
患者の検査結果をチェックする藍子。
「・・・」
「青柳さんか・・・次はいつだっけ」
「月曜日です」
「・・・」
深夜・・・突然泣き出す・・・陸。
「どうしたの・・・」
「ブン・・・」
「なに?」
「どこにいるの・・・」
「え・・・」
掲示板で駿が気にしていたのは「迷い犬」の貼り紙だった。
「そうか・・・犬のことが・・・心配だったのね・・・」
「捜しています・・・犬は一人ぼっちです」
「わかった・・・じゃあ・・・捜そう」
小春と望海と陸は他人の家の迷い犬を捜す旅に出るのだった。
しかし・・・犬はすでに別の家で飼われていた。
そして・・・最初に犬を飼っていた家では別の犬が飼われていた。
小春に比べるといかにも経済的余裕のある飼い主(濱田マリ)は御礼を述べる。
「何か御礼をしないとね・・・そうだ・・・ちょうどオカジューのクッキーがあるわ」
「いえ・・・御礼はいいです」
「ブンはどうしたの」と陸。
新しい飼い犬を抱いて少女が言う。
「きっと保健所で殺処分になったのよ」
「お母さん・・・殺処分てなに」
「殺処分てなに」
「さあ・・・お母さん・・・わからない」
家に戻った陸はお父さんに祈るのだった。
「ブンをさがしてください」
「きっとお父さんがみつけてくれるよ」
「でも・・・ぼく・・・お父さんに会ったことない」
「・・・」
「お父さん、見たことないよ」
「・・・」
「お父さんと遊びたい・・・」
「・・・」
「ブンはね・・・首輪ををしているよ・・・ブンは肉が好きだよ・・・ブンは吠えないよ・・・ブンは噛まないよ・・・ブンはお手をするよ・・・・ブンは・・・」
言葉があふれだす陸だった。
望海はお風呂の水を止める。
小春は陸を抱きしめた。
紗千は栞と新宿に買い物に出た。
娘に服を選ばせる間・・・母親は「あんみつ」を口実に家電売り場に足を向けた。
その後で娘は母親をカラオケ・ルームに誘う。
栞は唐揚げやハニートーストなどを大量にオーダーした後で告白を始める。
「お母さんに似合いそうなバッグがあったよ。四万円くらい。クーラーより安いでしょう。工事費込みだし。私、お姉さんが嫌い。死んだ人の事は再婚すればいいのに。お姉さんの夫だった人は痴漢でしょ。被害者は私だもの。私は絵が上手くないの。お母さんにおだてられてうっかりその気になって・・・いい気になってたけど。私より上手い子なんてざらにいる。目の前に二、三人いたら東京には一万人人いるでしょう。日本には十万人いるし、世界には七百万人いるわ。そんなだから私、だめな子だった。小学校でも中学校でもいじめられてたわ。高校になってなんとなくグループの一人になって。そしたらそのグループの一人が痴漢にあって・・・声をあげたら口止め料をもらえて。それから電車で・・・私はこの人痴漢ですと男の人の手をつかむ役になった。ずっとお金をもらえたけどある日、男の人に別の子が殴られてその遊びは終った。そうなれば今度は私がいじめられるしかないの。死にたいと思っているあの日。お姉さんの夫という人が来た。お父さんもお母さんも笑っていた。私の知らないお姉さんと・・・その人の子供と会えるのが楽しみだといっていた。もう、わたしの場所はどこにもなくなると思った。あの人をつけて電車の中であの人の手を捕まえた。痴漢です。あの人が震えているとおもったけれど震えていたのは私だった。あの人は私を見た。心配そうに見た。私の事を気遣ってくれていた。でもそれから酔った乗客たちがあの人を電車から引きづり出して、叫んで、あの人をののしって、殴って、蹴って、笑って・・・私は何かを言おうとしたけど声が出なかった。私はその場から逃げた。梨が転がってあの人が手を伸ばして。誰かがあの人を押して。電車が。電車が。電車が。・・・死にたい。死にたい・・・死にたい。死にたい」
紗千は栞を平手打ちで黙らせて抱きしめた。
号泣する栞。
届く注文の品々。
紗千は栞に命ずる。
「何も言わないで・・・口を閉ざして・・・私も二度とあの人たちとは関わらないから」
小春は病院に子供たちを連れてやってきた。
待ち合い室で陸に絵本を読む望海。
「子供たちは皆・・・病院にすんでいました。そして・・・病院の地下室には一つ目のウーギークックが子供たちの魂を食べるために潜んでいたのです・・・」
そして・・・澤村は小春に告知をする。
夏の陽射しがじゃぶじゃぶ池に降り注ぐ。
関連するキッドのブログ→第三話のレビュー
シナリオに沿ったレビューをお望みの方はコチラへ→くう様のWoman
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コメント
こんにちは。大家さんには私もなりたいです!
犬がいなくなった家族が新しい犬を買う
という事件で、りくの個性や感情を描いて、
かけがえのないものを愛するということの情緒を描いて、
それが
↓
新しい旦那さんみつければいいのに
のメタファーになっている上手さに口ポカーンでした。
再婚のことが口から出たのは栞の罪悪感もあったのでしょうか。
りくの子供、演技うま!と思いました。
私にあの張り紙の文言を覚えて暗唱しろと言われ
たって覚えられるかどーか…(^^;
栞について最悪と言う知人もいましたが、私も
多少は暗いなあとは思いますが、
道に外れた人を外れるところまで
追い詰められたことのない人が、
最低だと言うのは簡単なので、ただ
見守るです。
凶悪犯罪者が不遇な境遇だったから
そのために罪が軽くなるとは思いませんが、
自分が罪を犯していないのは自分の手柄でなく
運に恵まれたということだろうなと思うのです。
どっちかというと人としては半沢に出てくる
デフォルメ化された権威の方が怖い気がしてます。
ウーギークックって人が追い詰められたりなんかした
時に出てきてしまう化物のようで
憐れ怖い感じしました。
ショムニを視聴率で超えたそうですね!
また、キッド様のほかの記事が面白そうでしたので
ほかのドラマも時間があったら見てみようかと思いました。長々すみません。
投稿: りんごあめ | 2013年7月25日 (木) 12時54分
大家さんが人間なのかどうか・・・気になりますな。
人間だとしても魔女なのか。
犬が家族なのか・・・ペットなのか。
人それぞれでございますが。
欠損したものを補うというのは合理的でもあります。
心臓が欠損したので新しい心臓を移植するみたいな。
古い心臓は忘れられて処理される。
新しい心臓の他の部分も忘れられて処理される。
二夫にまみえず・・・はある意味女性を縛る考え方でもある。
再婚を強要されれば女性には意志がなくなる。
それぞれがそれぞれの道を行くしかないわけですが
流れに逆らうのが苦手な人もいる。
介護の必要な子供も
やがて・・・誰かの介護をする可能性もあれば
死ぬまで介護されたままの子供もいる。
その子供から生きる勇気を感じる人もいれば
果てしない疲労と陰鬱を感じる人もいる。
障害者の生命の選択は・・・実に危ういものですな。
ろくでなしの父親を廃棄処分にして
新しい父親を導入する是非も問われますし
そこにはいない誰かを
思い続けることの是非も問われてしまう場合がある。
三歳で世界の秘密を解く子供もいれば
眠ったままで三歳になる子供もいる。
吐き出される種もあれば消化される種もある。
正しいことをし続ける人が
優しくあり続けた人が
自分の家族を不幸にすることは
日常茶飯事でございますしねえ。
悪を憎んで人を憎まずにいたい・・・
しかし・・・悪を為し続ける人を
放置して
悪を為さない人が傷つくのを見過ごすべきなのかどうか
人々には常に答えのない問題が出され続ける。
それは基本的には「恐ろしいこと」でございます。
恐ろしさは連鎖しているのですな。
介護につかれた人間が
保健所に行くと
整理券をもらえて
要介護者ともども
殺処分を手数料で受けられる。
そういうシステムだって
あってもいいと思えばありうるわけでございます。
しかし・・・そうはなかなかなりません。
まだまだ何があっても生きていたい人が多いからなのでしょう。
「誰かを滅茶苦茶にしてやりたい」
と考える時・・・それは
「自分を滅茶苦茶にしたい」のと
同じ場合がある。
そうである場合とそうでない場合の区別に何の意味があるかと考える人もいる。
栞の「心」が理解できるのは・・・
ある意味、恐ろしいことですが
理解できない人もある意味、恐ろしいのですな。
恐怖に満ちた物語でございます。
子供がこわくて病院に行きたくなくなるほどの
絵本が病院に置かれている世界なのでございます。
そして、それは現実の世界そのものなのかもしれない。
このフィクションの並々ならぬ圧倒感。
重ねられていくイメージの奔流。
まあ・・・ショムニでは最初から太刀打ちできませんな。
それでもあれはあれでいいのです。
だって世界には「恐怖」を嫌悪する人々も
たくさんいるわけですからね。
こよなく「恐怖」を愛するものだけが喜ぶドラマばかりでは・・・恐ろしいことですからねぇ。
投稿: キッド | 2013年7月25日 (木) 17時22分