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2013年7月18日 (木)

パトカーもしくは牛さんとピアノもしくは将棋と母親もしくは父親とWoman(二階堂ふみ)

人は皆自分の王である権利を持っている。

自分で自分を支配することは生きる上で必要なことである。

そして・・・自分の王である他人を支配することは恐ろしいことなのである。

しかし、時に他人を支配することを必要とされるものがいる。

それが親である。

人が自分の王となるまで・・・親は子を支配する。

両親があることは時に恐ろしいことである。

母親の支配と父親の支配が敵対する時・・・悲劇は必然となるからだ。

「お父さんとお母さん、どっちが好き?」

この禁断の質問によって発狂する子供は少なくないと思われる。

で、『Woman・第3回』(日本テレビ20130717PM10~)脚本・坂元裕二、演出・相沢淳を見た。シングル・マザー青柳小春(満島ひかり)の勤務中に自宅付近で家事があり、アパートの隣人(片岡富枝)が善悪定かでない意志によって児童相談所に通報。職員の三澤(町田マリー)が事情聴取のために訪問する。その圧力に屈し、かってのシングル・マザー仲間の相馬(旧姓・蒲田)由季(臼田あさ美)の山梨県における新婚家庭に一時期、長女の望海(鈴木梨央)と長男の陸(髙橋來)を預ける小春。しかし、些細なトラブルで二人は家出し、望海は一人列車に乗ってしまう。中間点の大月駅で資金の尽きた望海は母親と連絡が取れずに小春の母親の再婚相手であるナマケモノこと植杉健太郎(小林薫)の仕立屋に電話をする。しかし、迎えに来たのは娘の栞(二階堂ふみ)だった。漸く駆けつけた小春は期せずして異父妹の栞と初めての対面をする。

「はじめまして・・・」

「はじめまして・・・」

「おかしいですね・・・こんな風に・・・お姉ちゃんとはじめて会うなんて」

「そうですね」

二人の・・・植杉紗千(田中裕子)は不気味としか言いようのない和やかさで対峙するのだった。

そこへ・・・陸を連れて由紀が到着し・・・結局、小春は望海と陸を連れ帰ることになる。

成り行きで東京にやってきた由紀に・・・小春は夫の青柳信(小栗旬)を失った日について語りはじめる。

「その日は普通の日でした・・・何の予感もなかったの・・・卵焼きとしゃけの朝ごはんを食べて・・・いつものように夫は仕事に行きました。ゆっくりと穏やかに一日が過ぎて・・・何故か彼の帰りが遅いことも・・・残業だろうと思っていたの。望海をお風呂に入れて髪の毛を拭いているところで・・・警察から電話がありました。夫か死んだので・・・すぐに来てほしいというのです。夫は電車の中で女子高校生を痴漢した疑いをかけられ、乗客たちに電車から引きずりおろされ、そのうちに夫の持っていた梨が転がったとか・・・それを夫が拾おうとしたとか・・・誰かが夫の背中を押したとか・・・押さなかったとか・・・とにかく夫は電車に轢かれて死亡した・・・そして・・・その騒ぎの中、女子高校生も、夫を引きずり下ろした乗客も姿を消していたというのです・・・そんな・・・なんだかわからない理由で死んでしまった彼・・・私は今でも・・・夫の「死」がなんなのか・・・よくわからないの」

「・・・」言葉につまる由紀だった。

小春の二人の子供たちは寝入っているように見える。

その頃・・・紗千(さち)は娘の栞(しおり)を問いつめていた。

娘の部屋から・・・青柳信の死亡記事と・・・青柳信の似顔絵が見つかったからだ。

「あなた・・・これはどういうことなの」

「小春さんの夫になった人でしょ・・・私の義理のお兄さんでしょう。一度、この家に来たことがあるでしょう」

その日の家路の途中で信は事故に遭遇した。信が持っていた梨は紗千が託したものだった。

「あなたはいなかったじゃない」

「いたの・・・隠れていたの・・・だって・・・小春さんのことは一種のタブーだったでしょう」

「・・・」

「それで・・・記事を見つけて・・・なんだろう・・・好奇心みたいな気持で・・・思わず絵を描いてみたの・・・」

「死んだ人を描くなんて・・・そんな気持ちの悪いことをしないでおくれ」

「だって・・・お姉さんの・・・夫になった人でしょ・・・」

「あなたには・・・お姉さんなんて・・・いないの・・・私の娘はあなただけよ・・・」

「・・・」

不気味としか言いようのない表情を浮かべて見つめ合う母と娘だった。

そんなある日・・・。

植杉健太郎はいつになくおしゃれをして外出する。

見咎めた紗千には「知り合いの見舞い」と嘘をつくが・・・そのために将棋セットと・・・知り合いの妻に紗千が借りたコミック「ガラスの仮面/美内すずえ・(1)~(24)巻」を返却するように頼まれる。

健太郎の訪問先は青柳家であったためにお土産のケーキを含めて健太郎の手はふさがる。

小春のアパートの階段でついに腰を痛める健太郎だった。

そこへ望海が帰ってくる。

「部屋で休ませてくれないか」

「残念だけど・・・知らない人は家にはあげられないの」

「知らないわけじゃないだろう」

「でも・・・家族ではないもの・・・どこかで区切りをつけないと・・・さしさわりが生じるでしょう」

「わかった・・・君のお母さんが帰ってくるのを待つよ」

陸を連れた小春が帰宅した時には健太郎は半死半生になっていた。だがおせっかいな隣人に通報されなかったのは僥倖と言えるだろう。

ようやく部屋にあがった健太郎は望美や陸に身体を弄ばれながら・・・用件を述べるのだった。

「君にとって私はお母さんを盗んだ悪い男だろうから・・・嫌だったら殴ってくれても蹴ってくれてもいい。だけど・・・君が八歳の時から君のお父さんが死ぬまでの十年。それからの十年。もう二十年の月日がたったのだ。母と娘なんだから・・・もう・・・家族に戻ったらどうだろう・・・せめて・・・君が忙しい時・・・この子たちを預かることくらいはさせてもらえないか・・・」

なぜか・・・小春の怨みは母親を奪った男よりも、父を捨てた母親に向かっている。

間もなく・・・血液検査を受けなければならない小春はその日に二人を母親には内緒で預けることに同意するのだった。

とにかく・・・健太郎は小春が無敵の将棋王だったことを知るのだった。

「再生不良性貧血の疑いがありますが・・・あなたの場合は栄養失調によるものかもしれません。しかし・・・念のために検査を推奨します」と主治医の澤村(高橋一生)が告げる。

「検査の費用は・・・」

「一万五千円くらいですね」と研修医の砂川藍子(谷村美月)・・・。

「あの・・・」

「もしも・・・何かあったら・・・一万五千円どころじゃないんですよ」と説得する藍子だった。

小春は熱意に負けた。

藍子の元へ、夫で福祉事務所職員の良祐(三浦貴大)が訪ねてくる。

「ひどいじゃないか・・・息子を放置して・・・」

「放置なんかしてないわ・・・あの子のことはあなたに頼んだじゃない」

「母親のくせに・・・」

「身勝手な男の犠牲者を母親と呼ぶのなら・・・私は違うのよ」

「・・・」

二人の不仲の原因はまだ明らかにされないのだが・・・おそらく・・・良祐は男女雇用機会均等法の精神が理解できないタイプなのだろうと推測される。

例によって幼い姉弟の玩具と化した健太郎。

そこへ紗千が帰宅する。

紗千はけして子供が嫌いではないのだが・・・娘との確執のためにそれを素直に表現できない。

お絵かきを始めた姉妹のためにきれた電球を換え、孫の望海に耐熱用のタオルをさしだされても「最近の子供は媚びるのが上手ね」などと皮肉を言ったりする。

しかし、「すべての生物がてんとう虫化した世界」を描く望海の画力に魅了されてしまうのだった。

二人を迎えにきた小春は・・・紗千が孫たちをお風呂な入れているところに遭遇するのだった。

「木のお風呂が珍しいから・・・入りたいっていうから」

風呂上がりの二人に浴衣を着せる紗千だった。

小春は固辞するが・・・健太郎は夕食を食べるように進める。

「ちくわチャーハンたべたいだろう」と望海に誘いをかける健太郎。

「食べたくありません」と母親に味方する望海だった。

「ほら・・・子供が食べたいものを食べたいって言えないなんて無惨でしょう。娘や孫にそんな気持ちを押しつけて・・・かわいそうじゃないですか」

健太郎の論理に屈する母と娘だった。

紗千とちくわチャーハンを食べた望海は「お母さんと同じ味だ」と叫ぶのだった。

「食べ終わったら帰るわよ・・・」

「もう少しいいじゃないか・・・」

「この子は私のことが嫌いなのよ」

「そんなことはないです」

「だってそうじゃない・・・ピアノの時だって・・・」

「ピアノより将棋が好きだったんです」

「私が入院した時だって・・・見舞いにこなかった」

「病院の幽霊がこわかったんです」

「ほら・・・なんだかんだ・・・この子は私になつかなかった・・・私がお腹を痛めて産んだのに・・・私が育てたのに・・・私より父親になついたんだ」

「そんなこと・・・云われたくありません。貴女が出て行った後、お父さんは小説を書くのをやめました。こんなものを書いていたからお母さんは出て行ったと・・・でもお父さんしそれから死ぬまでの十年間、私を育ててくれたのです」

「違う・・・違うぞ」と健太郎が割り込む。

「お母さんは何も悪くない・・・悪いのは私だ・・・私が君の家を壊したのだ・・・憎むなら私を・・・」

「違うでしょう」といつの間にか帰宅していた栞が割り込むのだった。

「お父さんは・・・お母さんを助けたかったんでしょう。妻を殴ったり蹴ったりして・・・恥じることのなかったこの人の父親の手から・・・お母さんが入院したのだって・・・そんな人間の屑から受けた暴力のせいじゃないの・・・お姉さん、貴女は幼すぎて・・・そのことに気がつかなかったのか・・・大事なことを見落とす愚か者だったのよ・・・パンがないならケーキを食べればいいっていうタイプなのよ・・・そんなことじゃ、いつか断頭台の露と消えるわよ・・・あなたの結婚相手だって・・・本当はどんな男なのか知れたもんじゃないかもよ」

「な・・・なんでそんなことをお前が知っているんだ」と驚愕する両親。

「おじさんに聞いたのよ・・・当時のことをみんな話してくれたわ」

それぞれに言葉を失う三人だった。

その頃・・・二階では幼い姉弟がガラスに封じられた雪景色に魅惑されていた。

栞の言葉に戸惑いながら・・・積年の怨みが揺らぐ気分を味わう小春。

「浴衣は洗っておかえししますから・・・」

「いいんだよ・・・だってこの浴衣はお母さんのだって」

「・・・」

「だから・・・かえさなくっていいんだよ」

「・・・」

「いいでしょ」

「いいよ・・・」

「よかった・・・」

「植杉さん・・・ちくわチャーハン御馳走さまでした」

「お粗末様でした」

母と娘は二十年ぶりにぎこちなく会話を交わしたのだった。

夕暮れの街にどう聞いても不気味な・・・遠き山に日は落ちて・・・が鳴り響く。

紗千は孫が忘れて行ったパトカーのように見えるが牛の工作を・・・。

車のように走らせてみる。

その顔にはそこはかとなく不気味な微笑みが浮かんでいる。

不気味でも良い幸せになってほしいとお茶の間は願うのだった。

関連するキッドのブログ→第2話のレビュー

シナリオに沿ったレビューをお望みの方はコチラへ→くう様のWoman

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コメント

こんにちは。3話すごかったです。
周りではお母さんが酷いとか父親が酷いとか
お母さんの気持ち分かるとか、いろいろ、それぞれの
立場から感想を言う人もいます。
立場が違えば見えてくるものや人間像は違うし、
人間は全ての事実を知ってるわけでない、
でもそれで割り切れない愛着は存在する
という世界のかたちを久々に思い出させてもらいました。
それぞれ傷を負っている人たちがどうしようもなく
責め合って気持ちを補いたいと思ってしまうようすが
すごくうまく描かれていたなあと思いました。
何か胸いっぱい…
望海となまけものさんの愛の訪問劇場、キッド様絶好調ですね(^O^)

投稿: りんごあめ | 2013年7月18日 (木) 14時18分

◉☮◉Mother~リンゴあめ様、いらっしゃいませ~Mother◉☮◉

で、ございましたねえ。

それぞれの王国の王たちは
それぞれの王国の歴史、王国の文化、王国の法に
照らし合わせて世界を見ますので
少しでも違う世界を見出せば
たちまち混乱するのですな。

母である王、母になれない王、母だった王
母親ひとつでも様々な王がいて
母の子にも父の子にもそれぞれの王がいる。
だけど・・・女の子だもん・・・涙が出ちゃうところは
一緒っ・・・みたいなドラマですからな~。

再現しながら・・・その構造の見事さに
痺れるのでございますよね。

たとえば父親は男性ですから
ある程度、男性原理的な匂いがある。
エディプス・コンプレックスによって
母を憎み、父を敬愛する娘。
将棋よりもピアノ。
文学にもエモーションはあるのですが
母親が求めるのは色や音であり
論理ではない。
娘は感情よりもロジカルなものに傾斜していく。
それが自分を否定することにしか感じられない母親。
可愛さ余って憎さ百倍になっていく。
殴られても蹴られても愛し続ける女はいる。
しかし、白馬の王子がそれを許さない。
その時「愛」はどこに消えていくのか。
戦理を極めていく長女に対して
次女に・・・美術を強要していく母親。
しかし、次女の中には仕立屋の血も眠っている。
やがて・・・憎んだ孫の中に
美しく恐ろしいてんとう虫の世界を発見して
狂喜する祖母。
だが・・・もう一人の孫の牛は・・・
娘と同じようにパトカーにしか見えない。
実に見事なモザイク螺旋でございました。

俯瞰で見ればシンプルな構図ですが・・・
それを見る人と見ない人がいる。

拙文がそれを少しでも補完できれば僥倖でございます。

おほめ頂き感謝に堪えません

投稿: キッド | 2013年7月18日 (木) 15時58分

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