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2013年8月31日 (土)

夏の夜の悲鳴~悪霊病棟(夏帆)

恐怖には虚実がある。虚とは生きているものの恐怖であり、実とは死んでいるものの恐怖である。

「生」とは空虚なものであり、「死」こそが現実なのである。

人間が「死」を知らずに「生」を感じている時には恐怖は予感に過ぎない。

「死」を知った瞬間に恐怖は生じ、「生」が終わる時に恐怖は最高潮に達する。

油断とは「死すべき運命」を忘却することであり、恐怖なき死の直前を意味する。

「生」とは「死」と「死」の間の空虚な幻想に過ぎず、「死」こそが充満した現実であると知ることが恐怖に味わいをもたらす。

優れた恐怖は「死」を忘れた瞬間に「死」を想起させ、さらに「安堵」や「安寧」こそが「死」に直結していることを連想させるものである。

「死」から逃れたと錯覚した瞬間の「死」、「生」を失ったことを認識しない「死」は神がかった恐怖と言える。

さらに「死」と思ったものが「生」であったときに感じる恐怖こそが恐怖の大王となる。

臨終を迎えたものが地獄で覚醒した時の恐怖は想像するだけで恐怖なのである。

で、『病棟~第6号室』(TBSテレビ201308300058~)脚本・鈴木謙一(他)、演出・内藤瑛亮を見た。尾神琉奈(夏帆)と坂井愛美(高田里穂)の同級生で、中学時代に事故死し、愛美を霊界のような場所に引きずり込んだのは楠山冴子(田中明)である。田中明は「美少女戦士セーラームーン」で北川景子の、「富豪刑事デラックス」で深田恭子の、「野ブタ。をプロデュース」で柊瑠美の、「猟奇的な彼女」で松下奈緒の、それぞれ幼少役を務めたバリバリの子役キャリアである。やや、キャスティングが迫力不足のこのドラマにあってさすがにオーラを放っているのだった。

ここまで・・・キッドがちょっと怖いと思ったのはすべて「サエコ」がらみである。

今回、尾神琉奈の対角線上に後輩ナースの鈴木彩香(川上ジュリアが配置されていることがわかるのだが・・・ドラマとしては危惧した通りに通行人Aが重要な役だったという違和感が否めない。大抜擢すぎるのである。

比較することに何の意味もないが「みんな、エスパーだよ!」の真野恵里菜くらいのネーム・バリューが欲しかったよねえ。

もちろん・・・川上ジュリアには何の罪もないのである。まして、これがドラマデビュー作で・・・舞台女優としてはキャリアを積んでいるが・・・ここから素晴らしい女優になっていく可能性は充分にある。

だが、一つのエンターティメントとしてこのドラマを語る時に1993年度生まれならば草刈麻有、志田未来、能年玲奈、小池里菜、菅野莉央、水沢奈子、大野未来、宮崎香蓮、小島藤子、西内まりや、武井咲、川島海荷、渡辺麻友などがいるわけである。・・・みんな引受けなさそうだぞ。

今回、三鷹亮子(菊井亜希)がこわがり役なのだが・・・川上ジュリアはここのポジションがよかったと思う。

じゃ、菊井亜希の立場はどうなるんだよ・・・お前、何様なんだよっ。

ただのお茶の間の悪魔でございます。

サエコの霊(フェイクの可能性あり)によって転落死に導かれた琉奈の親友・愛美は隈川病院で死亡が確認される。

「友達の・・・愛美がいるから・・・ここに来たのに・・・この街で働こうと思ったのに・・・私のせいで・・・愛美が・・・あんなことに・・・」

夜更けの病院の待合室で蹲り、呟き続ける琉奈を主任看護師の木藤純子(森脇英理子)はもてあますのだった。鈴木彩香の誘導によって・・・純子も琉奈を不気味な存在として意識し始めている。

「とにかく・・・ここでは・・・」

「仮眠室にでも・・・」と病院後継者の研修医・・・隈川朝陽(大和田健介)は琉奈を抱え起こそうとする。

しかし、琉奈は「ここは・・・いや」と小学生のように駄々をこねるのだった。

「俺が・・・自宅に送る・・・」と当直医としては問題発言の朝陽だった。

ものすごく・・・説明不足だが・・・いつの間にか、朝陽は猫背のナース琉奈に「ただならぬ好意」を寄せているらしい。もう、巨乳好きだからと脳内補完するしかない展開である。

琉奈の自宅で・・・足腰立たない琉奈を抱いてベッドまで運んだ朝陽は足をもつれさせ、もう少しで琉奈の胸に顔を埋めそうになるのだった。

しかし、さすがにそのまま、男と女の関係になるのは自制する朝陽だった。

「もう・・・大丈夫です・・・」

「君は・・・何も悪くないと思う・・・充分、休養をとったら・・・病院に復帰してください」

「・・・」

そこはかとなく・・・琉奈も朝陽に好意を感じるのだった。

勤務中に・・・心霊番組で起死回生を狙っている丑寅プロダクションの三流のディレクター・斑目和也(鈴木一真)から呼び出され、明らかに問題行動と思われる外出をする朝陽である。

斑目は「自殺するのに首吊ではなくて飛びおりるなんておかしい」と自殺マニアとして奇妙な発言をして・・・朝陽の警戒心を誘う。

「何か・・・私に見せたいものがあるとか・・・」

斑目は鈴木彩香のインタビュー動画に移る「琉奈にそっくりな影」を示すのだった。

「何の悪戯ですか・・・」

「悪戯じありません・・・何の細工もしてません・・・坂井愛美は死の直前に・・・この動画を見ていたのです」

「だから・・・なんだと言うんです」

「隈川病院を取材させてください・・・さもなくば・・・この動画をネットに流します」

「脅迫ですか・・・」

「いや・・・私はただ・・・部下が何故、自殺なんかしたのか・・・真相を知りたいだけです・・・彼女には自殺する理由なんてなかった」

「自殺なんて・・・理由があるからするとは限りませんよ」

「じゃあ・・・あなたは・・・この奇妙な影をなんだと思いますか・・・」

「それは・・・」

隈川病院の怪異と・・・旧病棟最上階の謎を知る朝陽の好奇心は疼くのだった。

その頃、琉奈がかって幻視した・・・トイレで首を吊った黒人女性の幽霊が・・・ナースの一人・三鷹亮子を襲うのだった。

「わ・・・わたし・・・早退させてもらいます」

「どうしたの・・・」

「六階に出てた幽霊が・・・四階まで降りて来たんです・・・もう・・・私・・・我慢の限界なんです」

「何、言ってるの」

「お世話になりました」

三鷹は白衣のまま、病院を抜け出した。

看護師たちの目は・・・出勤してきた琉奈に注がれる。

化け物を見る目に耐えかねる琉奈。

そこで・・・朝陽から呼び出しを受ける琉奈だった。もう・・・この病院の勤務体制、崩壊してるよね。

そして・・・何も説明せずに・・・琉奈に映像を見せる朝陽なのである。

「なんなの・・・なんのつもりなの」

「・・・」

「こんなものを・・・私に見せて・・・ひどい・・・私のせいじゃないって・・・言ってくれたのに・・・先生を信じたのに・・・先生は医者かもしれないけど・・・人間じゃない」

「ひどいな・・・」

逃げ出そうとする琉奈を抱きとめる朝陽。

「君のことを信じてる・・・君には不思議な力があるだろう・・・医師としては失格かもしれないが・・・そういうことがあるってことを・・・僕は信じたんだ・・・だから・・・君も・・・その力と向き合ってほしい・・・」

「・・・どうしろって言うんです・・・」

「とにかく・・・この動画を見て・・・何か思い当ることがないか・・・考えてみてくれ・・・あるいは・・・僕たちには分らない何かを・・・君なら感じられるかもしれない」

「・・・わかりました・・・もう一度、先生を信じてみます」

「・・・」

斑目が撮影者として立ち会い、再び、動画を見始める琉奈。

すると・・・室内の電圧に変化が生じ、不気味な振動で物品が音を立てる。

「ポルターガイスト現象・・・」と息を飲む斑目。

「うわあああああああ」と突然、のけぞる琉奈。

「どうしたんだ・・・」と琉奈を抱きしめる朝陽。

「キヌ・・・」

「キヌってなんだ・・・それが・・・君に憑依しているのか」と斑目。

「私じゃない・・・」

「君じゃあない・・・じゃ・・・誰なんだ・・・」と朝陽。

「す・・・ず・・・き・・・あや・・・か」

「なんだって・・・」

顔を見合わせる斑目と朝陽だった。

二人が見ている怪異が・・・心霊動画だけだからなあ・・・ちょっと弱いんだよな。

まあ・・・今回は・・・許容範囲か・・・。

・・・だから、何様なんだよっ。

海女漁と悪霊は一字違いで大違い。

なんだって?

関連するキッドのブログ→第五話のレビュー

シナリオに沿ったレビューをお望みの方はコチラへ→くう様の悪霊病棟

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2013年8月30日 (金)

二人目の魔女(大野いと)と三人目の魔女(美山加恋)とうららちゃん(西内まりや)

7人の魔女がいるわけだが・・・とにかく最初の三人は強烈なメンバーである。

そもそも三人とも・・・今や悪女候補生である。

西内まりやはもはやコミカルなキャラが売りだが基本は残忍なお姉さまタイプである。

大野いとはフニャフニャ系でありながら・・・どこか・・・大胆にいたぶるタイプだ。

そして・・・美山加恋は・・・「僕と彼女と彼女の生きる道」の凜ちゃんでありながら・・・「ちびまる子ちゃん」「がきんちょ」「砂時計」「モップガール」「キャットストリート」などを経て・・・「高校入試」でラインを越え・・・静かにこっそりいじめるタイプに変貌したのである。

全部・・・お前の願望的イメージだろうが・・・。

いやいやいや・・・いじめられてみたいと思いませんか~。

とにかく・・・深く語ることはまったくできないドラマやってます。

で、『山田くんと7人の魔女・第2~3回』(フジテレビ201308172310~)原作・古河美希、脚本・小川真、演出・星護(他)を見た。朱咲高校の超常現象研究部で発見たされた謎のノートによれば・・・朱咲高校には特殊能力を持った七人の魔女がいるという。一人目はキスした相手と人格を交代できる白石うらら(西内まりや)、そして、二人目はキスすると魔女の能力をコピーできる山田くん(山本裕典)・・・男だけどな・・・であることが判明する。七人揃うと大変なことになるという伝承の真偽を探求すべく生徒会副会長・宮村(井出卓也)とちょっとおバカな女子高校生・伊藤(トリンドル玲奈)の学内捜索が展開するのだ。

まあ・・・単にキスに憧れる少年少女のための物語です。

魔女とは・・・ユーラシア大陸の西部に伝わる魔性の女の総称である。

広義には特殊能力を擁する魔性の女のことであり、狭義には反キリスト教的な異端の宗教に仕える女性信者を指す。

さらに限定的には悪魔サタンの使徒として魔力を行使する魔法使いを示している。

このドラマに登場する魔女たちは原始的なエスパーと考えられる。

魔女は英語ではwitch(ウイッチ)であるが・・・この場合は悪魔と契約した女妖術師のニュアンスが強い。中世暗黒時代には異端あるいは邪教の信仰者として財産目当ての教会が魔女狩りを行い火刑に処したことはキリスト教会の堕落と荒廃を象徴する史実である。

こうしたキリスト教会の腐敗は当然、批判の対象となり、その結果、凌辱された魔女たちの地位は回復する。

「奥様は魔女」「可愛い魔女ジニー」「魔女の宅急便」などに登場する魔女が基本的に善女であることがその証拠である。

そういう傾向が洋の東西を問わないことは「聖書」に書かれていることの不合理性をおちょくりたい気持ちが普遍的なものであることを示している。

しかし、もちろん、原理主義者たちが隙あらば魔女狩りを復活させようとしていることも忘れてはならないのである。

そういう意味では・・・単にキスが描きたいだけでみだりに魔女の名を口にすることは悪魔を恐れぬ行為であることを指摘しておく。

まあ、関係者一同が地獄でどんな処遇を受けるか・・・妄想をかきたてられる今日この頃です。けしてキス地獄などという楽しいものではないと思えてなりません。

さて・・・うららの「進路希望が進学に変更されたこと」で生徒会での地位を向上させた宮村。

宮村のライバルであるもう一人の副会長・小田切寧々(大野いと)は心中穏やかではない。

実は寧々は第三の魔女であり・・・キスした相手を恋の虜にする特殊能力者であった。

寧々は宮村に関する情報を得ようと宮村と行動を共にすることの多くなった山田くんを誘惑し、虜にするためにキスをするのだった。

しかし、魔女の能力をコピーする山田くんは「虜の能力」をコピーするだけで虜にはならないのである。

これによって・・・山田くんがコピーの能力があることが明らかになり、同時に寧々が第三の魔女であることが発覚する。

第三の魔女の能力を確認するために・・・山田くんとキスをした宮村と伊藤はたちまち山田くんの虜になってしまうのだった。

それどころか・・・寧々までが山田くんの虜になっていたのである。

これは「虜の能力」を持つ山田くんとキスしたからなのである。

たちまち・・・山田くんを巡る恋のドタバタがくりひろげられる。

そんな争奪戦を物憂げに見つめるうらら。

もちろん・・・山田くんに好意を寄せているからである。

そして・・・山田くんはうららとのキスをためらう。それは・・・能力によってうららが虜になることを嫌うからである。

もちろん、うららに好意を寄せているからである。

このように・・・うららと山田くんのラブコメが根底にあるのだが・・・話の展開はうららが主人公になるのは無理があるのだった。どうしても山田くん中心で進行していくからである。

うららはラムちゃんぐらい嫉妬深くないとな・・・。

まあ・・・そういう設定ミスはさておき・・・「虜」の能力は同じ相手ともう一度キスをすると解消されることが発見される。

それぞれともう一度キスをすることで学園に平和が戻る。

二度目のキスをおあずけしたまま、下僕たちに傅かれる寧々だったが・・・自分を虜にした山田くんにはなんとなく恋心を感じたままなのだった。

すべては・・・山田くんに都合のいい話だからである。

そんな山田くんに眼鏡っ子美少女の大塚芽子(美山加恋)がアプローチしてくる。

芽子の描いたマンガを誉めた山田くんに御礼のキスをする芽子。

ついに凜ちゃんも堂々とキス・シーンをするお年頃なのである。

あれから九年か・・・時の流れは早いなあ・・・と遠い目をしている場合ではなく・・・芽子にも思惑があった。

医師の娘に生まれた芽子は稼業を継がなければならないと母親の美栄子(阿知波悟美)と強要されていたのだ。

しかし・・・趣味の漫画に熱中し学力があがらないために困窮していたのである。

そこでうららと入れ替わり追試を受けて抜群の成績を残した山田くんを利用しようとしたのである。

なぜなら・・・芽子は第四の魔女で・・・キスした相手と「テレパシー」が通じ合う特殊能力者だったのだ。

愛犬のマロン(声=平泉成)とキスすることで能力に気がついた芽子。

そのために山田くんはマロンの声も聞こえるようになってしまう。

芽子はテレパシーで山田くんからカンニングをしようとしたのである。

しかし・・・バカの山田くんと通じ合っても成績向上は望めないのだった。

そこで山田くんは・・・宮村と伊藤ともキスし、テレパシー中継で・・・うららに正解を教えてもらう作戦を実行する。

しかし・・・芽子の差し入れたスイカ・クッキーが痛んでいたために下痢を発症。

計画は失敗する。

芽子の本心が医者ではなく漫画家になることであると見抜いた山田くんは・・・芽子に母親と本音でぶつかることを推奨する。

しかし、内気な芽子にはそれができない。

そこで・・・山田くんは芽子の母親とキスをする強硬手段に出るのだった。

「テレパシー」で通じ合った大塚母娘は和解の時を迎える。

すべては・・・山田くんの都合がよい方向で進む話なのである。

しかし・・・そろそろ・・・うららの愁いは深まりはじめているような気がします。

まあ、とにかく・・・次も美少女と確実にキスする山田くんなのであった。

ちなみに魔女同志のキスでは能力が発動しないことを確認するために・・・一部愛好者熱狂の寧々と芽子のキスのサービスもありました。

ま・・・それ以上でもそれ以下でもない話なのでございます。

次回、ターゲットは滝川ノア(松井愛莉)・・・。

関連するキッドのブログ→第1話のレビュー

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2013年8月29日 (木)

永久凍土のユカ(マンモス)とルシールの息子・ジミヘンのシャツとホットドッグのケチャップと香車と川と橋とダイヤモンドとWoman(鈴木梨央)

海水温度の上昇が「地球温暖化」とは無関係ではないとなんとなく言った後で。

若者の車離れを危惧する車メーカーの「企業努力」の話を淡々とした後で。

放射能汚染水が何故漏水したのかの「原因特定」が進まないことについて疑問を呈した後で。

携帯端末機器の「新製品の性能」について楽しげに語る。

その直後に「シリア情勢」について深刻な顔をする。

我が国のニュースキャスターたちが皆、発狂しているように見えるのはキッドだけなのだろうか。

しかし、情報とは基本的にそういう統合失調症のような側面を持っている。

支離滅裂な情報を伝える仕事をする人々が支離滅裂に見えるのは仕方ないことなのかもしれない。

「だけどさ・・・」と彼らは言うだろう。「ラーメンの美味しそうに見える食べ方は考えられるけど・・・海水の放射能濃度の調べ方はわからないんですよねえ」と。

今夜は「高校の技術科の先生」に取材して「タンクから放射能がどのように漏れるか」を解説していた。

「溶接ならば漏れにくいと思うんですけど、接合部分がボルト留めだとパッキンが腐食して劣化するので漏れる可能性は大きくなるかもしれませんねえ」

いや・・・そういうレベルの問題なのか。

そこまで・・・馬鹿なのか。

しかし・・・社会が平均的にものを考えようとすれば・・・最高水準の話はできないのである。

だから・・・とにかく・・・なんだかわからないけれど・・・「Woman」は安心する。

最高水準的な何かがそこにあるからだ。最高水準の脚本。最高水準の演技。最高水準の演出。

その最高水準さ加減がすべて伝わらないとしても・・・最高水準的なものが存在すること自体が一つの救いなのである。

少なくともそこには目指すべき目標が示されているのだから。

で、『Woman・第9回』(日本テレビ20130828PM10~)脚本・坂元裕二、演出・水田伸生を見た。シングル・マザー青柳小春(住田萌乃→満島ひかり)は母親の紗千(田中裕子)の二度目の夫・健太郎(小林薫)の娘である異父妹・栞(荒川梨杏→二階堂ふみ)が亡き夫・青柳信(小栗旬)の死に関与していたことに激怒する。渾身の謝罪が受け入れられなかった栞はすべてを捨てる決心をして家を出る。最愛の栞に去られて絶望する紗千だったが小春が死に至る病に冒されていることを知り茫然とするのだった。

名人に香車を引いた男・将棋棋士・升田幸三(1918-1991年)は広島市でクリーニング店の丁稚奉公をしていたという。香車は将棋の駒の一つで、「香車を引く」とは香車抜きで戦うということ。名人と不利な条件で戦っても勝てるぐらい強いという話である。

クリーニング店で転倒した小春は負傷して出血してしまうのだった。

「生姜焼きにしようか、西京焼きにしようか迷ってるんすけど・・・西京焼きにはしゅうまいがついてるんす。だから・・・二人で別々に頼んで半分ずつシェアしたら・・・あら、小春さん、どうしたの」

シングルマザー仲間の蒲田由季(臼田あさ美)は驚愕するのだった。

「ごめん・・・お弁当の件は無理みたい・・・」

主治医の澤村医師(高橋一生)に入院を命じられる小春だった。

「とりあえず・・・感染症の兆候は出ていないし、発熱が収まったら退院できますよ・・・三日と言いたいけど二日は入院してください」

「そんな・・・困るんですけど・・・夕方になったら子供たちにご飯を作らないと・・・熱もないと思うんですけど」

「熱はありますよ・・・熱がないと死んでますし、死んだら一生、夕ご飯つくれませんよ」

無能であるがゆえに声をかけやすいナマケモノの健太郎に病院の公衆電話から電話する小春。

「ただの過労なんですけど・・・二日入院するので・・・子供たちのことをお願いします・・・あの子供たちには入院のことは秘密で・・・」

健太郎は小春の長女・望海(鈴木)と電話を替る。

「お母さん、どうしたの」

「ホットドッグ大食い大会があって・・・出場者千人の服がケチャップとマスタードだらけになっちゃったの・・・」

おそらく、自分の服を汚した血液と小説「スタンド・バイ・ミー/スティーヴン・キング」のゴードン気分で嘘をつく小春だった。

「お母さん、大丈夫・・・」

「うん、頑張って洗うから」

「・・・」

疑問を心にしまう望海だった。

怖くないよ 

私はこわくない

あなたと一緒にいれば

ただそれだけでね

すべてを知ってしまった紗千は見舞いの荷物を用意する。

何も知らない健太郎は不平を言うのだった。

「ちょっと・・・荷物、重すぎないかな」

「・・・」

「わかりましたよ」

その荷物の中に文庫本の「升田幸三自伝・名人に香車を引いた男」が入っている。

読書と将棋が趣味の小春は喜ぶのだった。

健太郎をお使いに行かせて・・・紗千は望海と陸(髙橋來)を連れて横浜みなとみらい方面におでかけするのだった。メインは「パシフィコ横浜」での約三万九千年前の永久凍土の地層から2010年に発見された冷凍マンモス「ユカ」(推定年齢10歳のメス)の展示会である。

陸は大興奮して「ママのために持って帰りたい」と主張するが、望海に「それは窃盗だからダメ」と却下されて落胆するのだった。

観覧車好きの紗千は観覧車を見て「観覧車には乗らなくていいの」と望海に尋ねる。

「楽しいことが多過ぎると・・・何が楽しいのか、わからなくなるし・・・楽しいことが薄まるような気がして・・・もったいないから・・・今日は・・・冷凍マンモスのことだけ、考えていたいの・・・観覧車に乗りたかった?」

「あなたは・・・小春に似ているわねえ」

「そうなの?」

「ええ・・・小春もあなたみたいな子だったわ」

お母さんのお母さんである祖母と娘の娘である孫は微笑み合うのだった。

望海と陸を挟んで就寝する健太郎と紗千。

紗千は望海にねだられるままに子供時代の小春の話をする。

「小学一年生の時・・・小春は教科書を全部捨ててしまって・・・教科書は今まで読んだ本の中で一番つまらないと言ってね・・・それから世界のどこかにいる自分にそっくりな人間を捜しに行くって言ってね・・・」

「ママはダメだね・・・わがまますぎるね」

「どうなることかと思ったけど・・・あなたたちのママになったわ」

「・・・」

「心配することなかったのよね・・・素晴らしいママになったんだから」

陸と健太郎はすぐに眠りに落ちるのだった。

健太郎は幸せな男である。

健太郎の時代には許されたことが許されない時代に生きる男・生活福祉課生活保護担当職員の砂川良祐(三浦貴大)は病院で小春を見かける。

「あの人・・・どこか悪いの」と妻の研修医・藍子(谷村美月)に尋ねる良祐。

「そんな個人的事情を話せるわけないでしょう・・・」

「舜祐はどうしてる・・・」

「元気よ・・・今は母が面倒みてくれてるわ」

「ずっと・・・このままなのか」

「・・・」

「あのさ・・・子供には父親と母親の両方が必要だと思うんだけど」

「あなたって・・・そういう教科書的なことしか言えないのね。まるでお役人みたい」

「だって・・・役所勤めだから・・・」

妻に冷たい目で見られる良祐だった。

窓口業務に戻った良祐は生活保護の受給の打ち切りを市民に通告する。

「あの・・・この案件は審査を通ったのでは・・・」と上司に相談する良祐。

「ああ・・・花を買ってたという通報があったんだ」

「それは・・・老母の八十歳の誕生祝いだって・・・」

「だめなものはだめなんだよ」

「・・・私たちの仕事ってなんなんですかね」

「いい年して・・・何言ってんだ・・・」

良祐の中で鬱積していた不満が爆発した。

デスクに飾ってあった花瓶を取ると・・・上司のパソコンのキーボードに中身をぶちまけるのだった。

良祐にとってはじめての虚しい反抗だった。

小学生なら許されるが社会人では許されない行為だろうがなんだろうが知ったこっちゃない気持ちなのである。

憐れだ。

小さな庭では子供たちが花壇に如雨露(じょうろ)で水を撒いている。

出かける支度をする紗千に健太郎が問いかける。

「どこに行くの」

「病院に行ってきます」

「小春ちゃん、迎えはいらないって言ってたよ」

「ドナーになるための検査に行くんです」

「ドナーって・・・」

「小春は再生不良性貧血です。移植をしないと死にます」

「・・・」

「親子なら移植できる可能性が高いそうです」

「・・・」

「その検査です」

「・・・きっと、大丈夫だよ・・・そのために・・・小春ちゃん帰って来たんだから」

「でも・・・あの子はそれを嫌がってるわ」

「そんなことないさ・・・償いだよ・・・君はきっと・・・」

「そんなことでは・・・償えないんです」

「そうだ・・・しーちゃん、しーちゃんだってきっと・・・」

「・・・」

「ほら・・・あの子・・・信くんの好きな曲をさ・・・ずっと聴いてたんだ・・・しーちゃんだって君と小春ちゃんのことを家族だって・・・」

「栞が・・・栞が・・・栞がとりかえしのつかないことをしてしまったんです」

「え・・・」

「あの時・・・ホームで・・・ホームにいたんです・・・栞がきっかけを作ったんです」

「・・・」

「小春から信さんを奪ったのは・・・栞も同然なんですよ」

「そんな・・・そんな・・・そんなことって・・・そんなことってないだろう・・・」

紗千はこらえきれずにすべてを明かした。栞がいじめられていたこと。栞の歪んだ気持ちが小春の夫に敵意となって向けられたこと。栞が小春の夫に痴漢の容疑をかけたこと。その結果、小春の夫が轢死したこと。それを知った紗千がそのことを隠そうとしたこと。しかし、栞が小春に打ち明けたこと・・・。

健太郎は証拠を求めて・・・小春の夫のスケッチを見た。小春の夫の手のスケッチを見た。小春の夫の死の新聞記事を見た。

健太郎がその「死」さえ知らなかった小春の夫の「死」を抱えて生きて来た栞。

健太郎は・・・幼い栞のアルバムを開く。

ただ可愛い。ただただ可愛い我が子の写真を・・・。

だが・・・時代から取り残されたことを言いわけとして仕事をしない府抜けの父親に罪がないと言えるだろうか。

妻に甘え・・・依存してきたダメな男が・・・きれいごとだけの世界に生きる男が。

ずっとまともでなかった父親が娘にまともになれと言えるだろうか。

健太郎は己の罪の深さから目をそむける。

包容力のありすぎる紗千はその背中を優しくさするのだった。

藍子は・・・来院した小春の母親に希望の光を見出す。

紗千も祈るように結果を待つ。

しかし・・・「マッチしませんでした」・・・。

紗千は小春のドナーとしては適合しなかった。

紗千の骨髄で償いをする望は断たれたのだった。

こうなれば・・・残る希望は栞だけだったが・・・教養のない紗千と健太郎にはその可能性が思い浮かばないのだった。

世の中にはそういう常識のなさが蔓延しているものだ。彼らは誰かに教えてもらわなければ分らないのだ。

「親子」に可能性があれば「姉妹」にも可能性があることを。

もちろん・・・栞には理解できるだろう。しかし・・・もどかしいほどに・・・小春が死に至る病であることは栞に伝わらない。

逆に言えば・・・栞がドナーとして適合している可能性は高いだろう。

しかし・・・残酷な世界では肝心な情報が伝わらないことはままあることなのである。

あの日、千年に一度の津波について注意を促した研究者が一人もいなかったように。

その津波によって原子炉がメルトダウンを起こす可能性を強調した専門家が一人もいなかったように。

すべての悲劇を案じる報道関係者が一人もいなかったように・・・。

そこには神のみぞ知る世界があるのだった。

茫然として公園に佇む紗千を・・・娘と孫たちが発見する。

「お母さんのお母さん」と孫たちが手を振る。

退院した小春は子供たちと買い物に出かけていたらしい。

帰宅した子供たちは小春に絵日記を見せる。

「マンモスが最高だったの」

「最高だったの・・・船はどうだった」

「船じゃないよ・・・帆船だよ」

「そうか・・・帆船か・・・」

小春は紗千に礼を言った。

「あの・・・ありがとうございました・・・」

「いいのよ・・・」

紗千は自分の骨髄が娘の役に立たないことで胸がいっぱいだった。

「随分・・・買い物してきたのね」

「子供たちが・・・お父さんの食べたご飯を食べたいって・・・」

「分る・・・」

「豆ごはんと・・・・アサリの味噌汁・・・かれいの煮つけ・・・茄子とレンコンの煮物・・・キュウリとささみの酢のもの・・・」

「ザルがいるわね」

紗千は豆を剥く支度を始める。

夕暮れとともに揺れる紗千と小春の心。

卓袱台の前に座り・・・豆を剥き始める二人。

「あの・・・いつもの先生・・・いませんでした・・・」

「・・・」

「ごめんなさい・・・無理でした・・・」

「・・・」

「ごめんなさい・・・」

「やめてください」

「ごめんなさい」

「そういうの・・・いいですから・・・」

「ごめんなさい・・・丈夫な身体に産んであげられなくて・・・」

「・・・」

狭い廊下、狭い階段で望海が息を飲んだ。

「お風呂・・・火を見てこないと・・・」

「・・・」

「お風呂・・・入れます・・・」

「はい・・・望海・・・陸・・・お風呂に入りなさい・・・」

二階から気持ちを押し殺し元気に返事をする望海。

子供たちが浴場ではしゃぐ声に和む小春。

ひとつの希望が消えたことを静かに受け止める小春。

紗千は料理にとりかかっていた。

小春もかれいをさばく。

「上手ね」

「煮魚はあまり得意じゃなくて」

「そう」

「煮魚ってなんか年寄りっぽいじゃないですか」

「塩焼きは・・・若者なの」

「そうですね」

「南蛮漬けは・・・」

「いや・・・そんなの・・・適当に言ってるんで・・・」

「昔から変なことを言う子だったわ」

「・・・」

「台所に立っていると変なことばかり言ってきて」

「・・・」

「人が死んだらどうなるのとか」

「それは覚えています」

「私は仕方ないから星になるって適当なことを言って・・・」

「・・・」

「世界中のどこかにいるのかもしれないもう一人の自分に会いに行きたいとか言って・・・」

「黄色いエプロンをしてましたか」

「そうだったかもしれないわね・・・後はあやとりとか」

「あやとり・・・」

「そうよ・・・あやとりしながらまとわりついて・・・吊り橋とか・・・」

「あ・・・してました・・・吊り橋って・・・こうですかね」

見えない糸を取りはじめる小春。

その見えない糸を手繰る紗千。

「田圃・・・」

「からの川」

「からの・・・ダイヤモンド」

思わず微笑み合う二人。

「今、思うとあなたは面白い子だったんだわ・・・望海ちゃんを見ているとそう思う。私もあなたが望海ちゃんにしているように・・・すればよかったのかもしれないわねえ」

「・・・」

「・・・」

「今だったらなんて・・・答えるんですか・・・やっぱり星ですか」

「あなたは・・・絶対・・・そんなことにならない」

「私が子供の頃・・・世界中のどこかにいるのかもしれないもう一人の自分に会いに行きたいって言ってたって・・・それ・・・今・・・すごく思います。もう一人の自分が健康だったら私 その自分に こうタッチして子供達のこと預けたいです。健康な自分に代わってもらいたいです。 まぁ もう大人なのでそんな人いないの分かってますけど」

煮立てられるかれい。瞬間自動湯沸かしを挟んで対峙する二人。炊上がりつつある炊飯器の豆ごはん。

突然、小春は紗千を小突く。

「私ね」

「・・・」

「返事して・・・」

「なあに・・・」

「子供たちがいなかったら・・・別にいいやって・・・そう思っていたと思う」

「・・・」

「返事して・・・」

「うん・・・」

「私ね・・・許せないの」

「うん」

「許せないんだよ・・・あなたのこともあなたの娘のことも許せないんだよ」

「うん・・・うん・・・」

「それはねぇ一生許せないの・・・一生なのっ」

「・・・うん」

「そんな人たちに・・・頼らなきゃいけない・・・自分も許せない」

「うん」

「ねえ・・・」

「うん」

「ねえっ」

「うん」

「許せないんだよ」

「うん」

「・・・助けてよ」

「うん」

「お母さん・・・」

「うん」

「お母さん・・・お母さん・・・」

「・・・」

泣きじゃくる小春を抱きしめる紗千だった。

小春は母親に甘えた。

「私は絶対に星にはならない・・・でも・・・絶対なんてないんだよ・・・」

「・・・」

浴場から望海が母を呼ぶ。

「お母さん」

娘から母になった小春は水道で涙を洗い流す・・・。

「お母さん」

「はい・・・どうしたの・・・」

「お母さん・・・」

その背中を見つめる紗千。

鳴り響く豆ご飯の炊きあがりのチャイム。

夜はやってくるでしょう

あるのは暗闇を照らす月光だけになるでしょう

ひょっとしたら世界の最後が来るのかもしれない

でも私は泣きません

涙はこぼしません

あなたと一緒だから

いつも一緒だから

ねえ そうでしょう

いつもそばにいてくれるんでしょう

ずっと一緒にいてくれるんでしょう

健太郎は姪のマキ(柊瑠美)の部屋に身を寄せる栞を訪ねていた。

栞は黒衣を脱ぎ、ジミヘンの姿をあしらった赤いシャツを着ている。

健太郎は栞を散歩に連れ出した。

「お父さん・・・帽子が似合うね・・・」

川縁を歩き橋の欄干にもたれる栞。

栞を「死」に誘う場所は踏切から橋の上に変わったらしい。

「ここ・・・素敵でしょう・・・あっちは海に続いているの」

胸にジェームズ・マーシャル・ヘンドリックス(1942-1970年)をあしらった栞は夢見るようにつぶやく。

ジミヘンは母親ルシールが17歳の時の子供である。ルシールは享楽的な性格でジミヘンを置いて出奔し、まもなく死亡したと伝えられる。

ジミヘンは伝説のロック・ギタリストとなり、二十七歳の時に薬物中毒の果て、吐瀉物により窒息死した。

「いつもここに来るのかい」

「うん・・・毎日」

「他には・・・」

「テレビを見ている・・・温暖化で・・・住む場所がなくなって行くシロクマの話とか・・・かわいそうなの」

「これからどうするつもりなんだい」

「今までしなかったことをしたい・・・」

「どんなこと・・・」

「してないことばかりだもの・・・私、男の子とつきあったこともないし・・・四年間くらい何もしてなかったし・・・働いて・・・仕事をして・・・お金をもらったら・・・お父さんに帽子を勝ってげる」

「家に戻っておいで・・・」

「お姉ちゃんいるし・・・」

「だから・・・ちゃんと・・・謝罪しようと言っている」

「・・・」

愚かな健太郎には謝罪をして謝罪を受け入れられなかった栞の気持ちは想像がつかない。

さらに「生きたい」と思うのが当然だと考えるタイプには「死にたい」と常に考えるタイプの気持ちは理解不能なのだった。

健太郎はここから栞にずっと「死ね」と言い続けるのだが本人にはその自覚がないのである。

「お父さん・・・あの家は売るつもりだ・・・売ってお金に換えて・・・小春ちゃんに渡す。お父さんとさっちゃんとしーちゃんはアパートでも借りてみんなで働いて・・・」

栞と同様にずっと働いてこなかった健太郎には「お金を稼ぐ」ということが一大事なのである。

そういうことで謝罪が出来るかもしれないと考える愚かな父親を・・・笑わないで受け入れることは栞には難しかった。

「ふ・・・」

「なんで笑うの・・・お父さん、面白い話・・・何もしてないよ」

健太郎には娘の過ごした生と死の境界線にいる四年間が理解できないのだ。

「・・・」

「し~ちゃん、分かるか?(分っているなら死になさい)・・・お父さんの声、聴こえてるか?(聴こえているなら死になさい)・・・し~ちゃんのしたことはひとの命を・・・分かるか?・・・世の中で一番悪い人は自分のしたことを分かってない人だよ(だから死になさい)・・・お父さんも そうだった・・・何も分かってなかった・・・し~ちゃんがどこで 何をしていたのか何も分かってなかった。 分かったか?・・・命を奪ったんだよ? (だから死ぬしかないんだよ)・・・小さな 軽はずみな気持ちが誰かの大切な誰かにとって大切な命を奪ってしまったんだよ!(もう死ぬしかないんだ) 反省の仕方分かるか?(死ぬしかないだろう)後悔の仕方分かるか? (死ぬべきなんだよ)償いの仕方分かるか? (とにかくもう死になさい)・・・」

恐るべきピエロっぷりを発揮しながら・・・なんとか「死」から逃れようと歯を食いしばっている娘を死神のように追いかける健太郎。

そして、足を滑らせ、川に落下する健太郎だった。

健太郎のする健太郎だけが面白い話と同様にリアクションに困る栞だった。

「お父さん・・・って」

その夜・・・声を殺してむせび泣く望海。

「どうしたの」

「なんでもないの」

「なんでもないってことはないでしょう」

小春は涙のとまらない望海を抱き起こす。

「お母さん」

「はい」

「お母さん」

「なあに」

「病気なの・・・?」

「・・・」

暗い部屋で目の前が暗くなる小春。

陸は穏やかな寝息をたてている。

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2013年8月28日 (水)

第三の宇宙人と万華鏡と黒い幽霊と流星とスターマン(福士蒼汰)

月軌道の外側の戦闘だった。

漂流中の外惑星連盟義勇軍所属レイ中尉の周囲にはすでに母船の残骸すらない。

バッテリーと酸素残量を比較してみると・・・酸素残量の方が五時間ほど先につきることが判明したたために救難信号と通信機はオンにしたままである。

船外活動中に浮遊機雷に接触した改装商船型戦闘艦は万華鏡のように宇宙に散って行った。

もちろん、宙域に航路はなく、救助の可能性は限りなくゼロに近かった。

窒息死は苦しいという話だから最後は自決用のカプセルのお世話になればいい。

「レイ・・・そっちはどうだ」

「イワノフ・・・相変わらずだよ」

船体の反対側で作業中だったイワノフはレイとは逆方向に加速していた。

二人の距離は刻一刻と離れつつある。

「レイ・・・お前がうらやましいよ」

「イワノフ・・・」

イワノフは機雷の破片に直撃されて視力を失っていた。

「レイ・・・見えるかい・・・星空が・・・」

「ああ・・・見えるよ・・・太陽が・・・月が・・・銀河が・・・惑星が・・・」

「地球も見えるかい・・・」

「・・・見えるよ」

「そうか・・・レイ・・・お前は幸運な奴だよ・・・」

「イワノフ」

「・・・ザ・・・」

「イワノフ・・・」

イワノフは通信圏外に去って行った。

レイは星空を眺めた。他に見るものがなかったからだ。

確かにレイは幸せな男だった。イワノフより少しだけ。人間の幸せなんてそんなものなのだろう。

いつかはその眺めにうんざりするかもしれないが・・・それほどの時間はレイに残されていなかった。

で、『スターマン・この星の・第8回』(フジテレビ20130827PM1015~)脚本・岡田惠和、演出・堤幸彦を見た。小説「刺青の男/レイ・ブラッドベリ」(1951年)は連作短編集である。その中の一編に「万華鏡」がある。宇宙空間で事故にあった宇宙飛行士が地球に落ちて行く話である。印象的なエピローグの「サイポーグ009・地下帝国ヨミ編/石ノ森章太郎」(1965年)はおそらくその影響下にある。レイ・ブラッドベリ的な情緒と悪魔的感性にはかなりの隔たりがあるが・・・悪魔に少年時代があったとすればうっとりせずにはいられない展開が待っているのである。

この作品にはそういう「感傷的な部分」が満ちている。

人に優しくしたいと思わない人はいない・・・みたいな感じである。

まあ・・・ゾッとするわけである。

そういう世界で恋に恋するいい年したヒロインが乙女チックな言動を展開する。

まあ・・・ソゾーッとするわけである。

だが・・・そこがいい・・・と言う他ないのだった。

納豆に郷愁を感じるネバネバ星人(仮称)はプラズマ系ではなく、アメーバ系に軌道修正である。

刻んだネギを入れられるとかなり嫌な感じがするらしい。

安い整髪料をふりかけられた感じでもするのだろうか。

美代(吉行和子)の主治医である近所の医者(モト冬樹)は気分が優れなかった。

「医学的常識では考えられないこと」が起きたのである。

「でも」と美代は諭す。「医学だって万能じゃないでしょ」

「まあ・・・そうですけれどね」

星男/ネバネバ星人B(福士蒼汰)が「宇宙人」であることを受け入れた佐和子(広末涼子)は宇宙人の妻の先輩である重田/ネバネバ星人A(國村隼)の古女房(角替和枝)に教えを乞うのだった。

「肉体的には人間よりフレキシブルなのよ」

「首がグルグルですね」

「そうそう・・・まあ、慣れればどうってことないわ」

「ですね」

「それから反射神経や筋力は人間より発達してるみたい」

「ピョ~ンですよね」

「そうそう・・・でもね、年を取ると衰えるわよ」

「そうなんですか」

「それから・・・納豆が好きなの」

「ええっ・・・」

「つまり、関西系じゃないのよね」

「関西系じゃないんですね」

「そうそう・・・凄いヒーリング(治癒)能力があるけど・・・ほら、何しろ死体を復活させるくらいだから・・・でも使うとダメージ大きいみたいよ。私も病気治してもらったけど・・・向こうが瀕死になっちゃったから」

「瀕死ですか・・・」

「なんか・・・やたらと治癒したがるけど・・・止めないとだめよ・・・得るものがあれば必ず失うものがある・・・これは宇宙的な真理だから・・・」

「勉強になります」

一方でスナック「スター」では星男と重田がネバネバ星人の集いを開いていた。

しかし、超高速言語通信は見た目が同性愛者の密談みたいなので節(小池栄子)が教育的指導をする。

「あのさ・・・故郷のことは島で・・・乗り物は船で・・・アレ(宇宙)のことは海ってことで話しなさいよ」

「なるほど・・・」

「鳥ですか」

「鳥じゃなくて・・・島よ・・・小学生の漢字の書き取りミスかよっ」

「島からこっちにいつ来たんです」

「四十年になる・・・」

「そんなに・・・」

「ここにはどうして」

「島から海に出て・・・船が故障した」

「ほら・・・いい感じじゃない」

「同じです・・・島から海に出て・・・船が故障した」

「そうか」

「あなたは・・・島に帰りたいとは思わないのですか」

「この街はいいところだし・・・愛するものもいる・・・島には帰りたくない」

「・・・」

「君は・・・帰りたいのか」

「・・・わかりません」

「しかし・・・君にも愛する相手がいるだろう・・・」

「はい」

「だったら・・・中途半端な気持ちではダメだぞ」

「わかりました」

節は星男の中に「危ういもの」を見出すが・・・若い男なんてみんな「危ういもの」だとも思うのだった。

なんといっても・・・星男みたいな「拾いもの」が手に入るなら・・・文句は言えないという気がするのである。

だから・・・幽かな可能性を信じて、「宇宙交信器」をネット通販で購入する節なのです。

最近、時々、正蔵になっちゃうよね。

うっかりするとな。

納豆まぜて仲睦まじい重田夫妻。

居候の祥子(有村架純)は居心地が悪いのである。

(何かが間違っている気がする)のだった。

その疑惑は職場のスーパーマーケット「やまと」で爆発するのだった。

「私・・・わかったんです・・・」

「何が・・・」

祥子に追及されてうろたえる佐和子だった。

基本的にネコババしている佐和子は常に後ろめたいのだった。

「私を迎えにきたのは・・・重田さんじゃなくて星男さんだったんです」

「なんでよ」

「だって・・・年齢的に・・・年相応でしょう」

「どうして、そうなるのよ・・・大体、どうして、あなたはそんなに宇宙に行きたいの」

「さあ・・・とにかく・・・幼い頃からそうでしたから」

「変なの」

「変なのはそっちでしょう・・・宇宙に興味がないのに・・・宇宙人とつきあったりして」

「星男は宇宙人じゃありません」

「すりこみよ・・・たまたま、最初に佐和子さんにあって・・・人間を親だと思う鳥のひなみたいに」

「星男は鳥じゃありません」

しかし・・・図星なので・・・不安になる佐和子だった。

たまたま、拾ったものだからである。

(でも・・・それって運命ってことじゃない)と佐和子は乙女パワーを総動員して合理化に努めるのだった。

妖しい宇宙交信器が届き、さっそく起動する節。

すると・・・何故か・・・千客万来になる「スター」だった。

「宇宙人じゃなくて・・・客寄せマシーンだったのかよ」

しかし・・・祥子だけは微妙に違う反応をみせるのだった。

それは・・・星男や重田の反応と似ていたのだ。

スターにやってきた祥子に声をかける近所の医者。

「そういえば・・・君も一度死んだのに・・・蘇生した子だったな」

「それって・・・いつですか」

「かれこれ・・・十五年くらいか・・・すっかり忘れとった・・・考えてみれば・・・すでに経験済みだったんだな・・・」

祥子はピンときたのだった。

そして・・・自宅戻り、資料をチェックする。

十五年前にも「火球飛来事件」は起っていた。

(そうか・・・私が・・・宇宙人だったんだ)

祥子/ネバネバ星人Cは予想通り、記憶を再構築できなかった宇宙人なのである。

寄生した人体が幼すぎて宇宙人としての記憶を完全には保存できず・・・帰還の願望だけが残っていたのだった。

それにしても・・・三人の同種族らしい宇宙人たちはなぜ、ここに落ちてくるのだろう。

偶然にしては宇宙は広すぎるのである。

やはり・・・富士山麓には大いなる太古からの秘密が隠されているのだろうか。

危険を承知で佐和子の片頭痛を治癒する星男。

佐和子は後ろめたい気持ちと星男を失いたくない気持ちで切羽詰る。

「こわいの・・・あなたに愛されてなかったらどうしようとか・・・あなたがいなくなったらどうしようとか・・・余計なことばかり・・・ウジウジ考えちゃうの」

「考えすぎると・・・おかしくなっちゃうぞ」と誰かいってってくれ。

佐和子の乙女心の暴走に戸惑う星男。

両親の不和にいろいろと慣れている長男の大(大西流星)は子供ながら・・・母親のダメさと・・・幼さと・・・優しさが・・・心配になってくるのだった。

「女ってみんなそうなのかな・・・それとも母さんが特別バカなのかな・・・」

判断に迷う大なのです。

なんだかんだ・・・お前「梅ちゃん先生」も好きだったんだな。

まあ・・・話に起伏がなくてもなんか・・・まとまったような気分にさせるんだよな。

それが伝統文化のマジックだよな。

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2013年8月27日 (火)

人生の運命を変える写真を撮る男とリクルート眼鏡とADと元シェフととり残される男のSUMMER NUDE(山下智久)

えーと・・・海の家の店じまい前夜ってことは・・・夏、終りですよね~。

そうですか・・・。

しかし、今回はすごく落ち着いたいい回だったな。

基本的に・・・悪い人はでてこないからなあ。

すぐそこにあるが・・・往復するとなると結構遠い、東京とみさき市(フィクション)。

この距離感がもう少し、出るといいよなあ。

電車版とドライブ版の二回くらい往復して・・・。

「千葉って言っても外房だしさ、しかも南房総だしさ・・・」とか言うセリフがくりかえしあって・・・。

そこで・・・燻ってしまった若者たちの物語なのである。

昼はカフェで夜はバーの「港区」に集まる若者たち・・・以外はみんな、東京に行っちゃってるんだよねえ。

今回、主人公の・・・香澄(長澤まさみ)以前の動向が明らかになるのだが・・・やはり・・・謎が解けたというよりは今頃か・・・という気になってしまう。

高校球児でありながら・・・写真コンテストに応募していた主人公。

東京の写真専門学校におそらく二十歳頃までいた主人公。

おそらく母子家庭で母親が重篤な病になり、看病のために地元に戻り、写真館に就職。

母親を看取った後で香澄と出会った二十四歳・・・そして香澄が去ってからの三年。

その間に・・・学生時代の親友は・・・それなりの写真家になっていた。

だから・・・主人公の写真にはそれなりのこだわりがあった・・・という話なのである。

話としては悪くないけど・・・きっと・・・お茶の間はだからなんだよ・・・なんだよねえ。

一人・・・部屋で酒を飲む主人公の後ろ姿は・・・やはり・・・夏ばっぱだった。

このドラマは若き・・・夏ばっぱな男の物語だったんだなあ。

ウニを獲らないで、写真撮ってたんだな。

そこかっ。「あまちゃん」禁止と何度言ったら・・・。

それにしても・・・今週は・・・タカシ(勝地涼)強化週間なのか・・・。

で、『SUMMER NUDE・第8回』(フジテレビ20130826PM9~)脚本・金子茂樹、演出・石井祐介を見た。最愛の女・香澄に逃げられて以来、失意の日々を過ごしながら香澄の帰りを待ち続けた朝日(山下智久)・・・。しかし、みさき市の海辺の結婚式場で行われた結婚式で花婿(福士誠治)に逃げられた花嫁の夏希(香里奈)の写真を撮って以来、運命が変わりはじめる。香澄は別の男との結婚を報告するために帰ってくるし、10年間ずっと朝日に片思いだった波奈江(戸田恵梨香)には愛想を尽かされるという失恋のダブルパンチである。しかし・・・そのために朝日を好きになってしまったのでみさき市を去った夏希との間にはちょっと遠距離以外に障害はなくなってしまったのである。そして・・・暑かった2013年の夏も終わろうとしていた。

ここまで・・・朝日が運命を変えた人々。

香澄・・・潮風ビールのポスターのモデルとなり、自信を取り戻し、元カレとよりを戻す。

夏希・・・一人きりの花嫁姿の写真を贈られ、店長・勢津子(板谷由夏)の出産休暇の間に海の家「レストラン青山」の臨時店長になる。

男の子・・・夏の思い出の写真で難しい手術を克服する。

あおい(山本美月)・・・潮騒ビールのポスターのモデルとなりモデルとして第一歩を記す。

ヒカル(窪田正孝)・・・笑顔の履歴書用写真で就職が決まる。

食堂の女・・・お見合い写真で人生に対して前向きになる。

谷山一家・・・離婚の危機を朝日の家族写真で乗り切る。

波奈江・・・青春の思い出写真を撮ってもらい・・・長かった青春に区切りをつける。

これで分るように朝日はただシャッターを着るカメラマンではなくて・・・「写真」を「作品」にするためにいつも工夫をしている写真家であることが示されている。

キッドには大学時代の友人に著名な写真家がいるが・・・すごくオリジナリティーにあふれる写真を撮り、若くして大きな賞を受賞していたのに常に次の「被写体」に対しどのようにアプローチするかを真摯に考えていた姿勢があって感銘を受けたことがある。

「これをどう撮るか・・・すごく悩んでるんよ」なのである。

つまり・・・朝日は実は・・・世に棲む芸術家だったのである。

そういう朝日を知っている男がアプローチしてくる今回。

軽い気持ちで夏希の声が聴きたくなった朝日だが・・・夏希は新しい店の同僚たちと飲み会に行くために電話に出ない。

少し、淋しさを感じる朝日に・・・写真の専門学校時代の友人・ハジメ(大東駿介)から久しぶりの電話が入るのだった。

「どういう風のふきまわしだよ」

「風は基本、西から東へ吹くんだぜ」

「それは偏西風な」

「明日・・・そっちに行くよ・・・ヘリトンボにのってな」

「タケコプターでいいだろう」

翌日、予告通りに小南写真館にやって来たハジメ。

小南館長(斉木しげる)も顔と名前を知っている新進気鋭のカメラマンであるハジメは世界的なファッションブランドのポスターを撮影するカメラマンに日本人で初めて抜擢されたことを自慢しにきたのだった。有名フォトグラファーの来店にうっとりするアルバイトの麻美(中条あやみ)だった。

有名人来たるの報はみさき市を席巻し、カフェ「港区」には波奈江とタカシが集合する。

マスター(高橋克典)はさっそくサインをしてもらうのだった。

「そのカメラ・・・見たことある」

「ああ・・・これ、朝日とおそろいなんだ・・・っていうか、朝日は俺が真似して買ったって言ってるけどね」

「本当じゃん」

「朝日って凄い人と友達なんだね」

「いや・・・昔は朝日の方が全然凄かったんだけどね・・・俺なんか・・・真似してカメラ買っちゃうくらい・・・朝日のファンだったわけ」

「うわあ・・・売れた人は嫌味なくらい奥ゆかしいわあ」

「朝日もこのくらい謙虚にいけないとダメだぞ・・・」

「お前たち、なんだか・・・テレビ東京の深夜の脱力系ファンタジーに出てる人たちみたいだぞ」

「誰がムロツヨシじゃ」

「そんならあたしは木南晴夏かよっ」

「あ・・・そうそう・・・メレブとムラサキだ」

「へえ・・・ここってテレ東映るんだ」

「・・・外房なめんなよっ」

ハジメは朝日の家に泊まるのだった。

「お前まさか・・・」

「何言ってんだよ・・・下見だよ・・・今度、こっちでアイドルを撮るんだ」

「ものすごく安くあげる気だな」

「いや・・・スケジュールさ」

「沖縄に行くのと大して変わらないぜ・・・」

「・・・というのは口実でお前の顔が見たくてさ」

「お前・・・」

「朝日・・・約束忘れたわけじゃないだろう・・・渋谷駅前の看板を二人で埋めるって約束したじゃないか・・・俺、今度一枚目撮るんだぜ・・・」

「・・・」

「お母さんの看病でこっちへ戻るって言ったままだもんな・・・お母さんどうした」

「大分前に看取ったよ」

「そうか・・・それは残念だったな・・・でも・・・だったら・・・そろそろ、出てくればいいじゃないか・・・東京にさ」

「・・・」

逃げた女を三年待ってましたとは言えない朝日だった。

「昔・・・お前がくれた写メ・・・覚えているか」

「・・・」

「これだよ・・・」

それはホームセンターに置かれたピンク色のドア見本の写真だった。

「俺がアシスタントやってて・・・ドジふんで・・・集合時間に間に合わなくてさ・・・絶望してもう死ぬしかないと思って最後にお前に電話で愚痴ったら・・・お前がコレ送ってきたじゃん」

「ああ・・・どこでもドアか」

「この絶望的状況にドラえもんネタ送ってくるお前に・・・俺は脱力して・・・開き直ることができたよ・・・素直に謝ったらなんとか許してもらえた」

「ははは」

「いわば・・・今の俺があるのは・・・お前のおかげなわけ・・・」

「・・・」

「だから・・・こんな街でお前が燻っていると思うと・・・なんだかなあ・・・って思うんだ」

「こんな街ってひどいな」

「いい街だけどな」

「ああ・・・いい街なんだ」

翌日。ロケハンに出て海岸でタカシにあおいを紹介されるハジメ。

「この人、朝日の友達で有名なカメラマンなんだぜ」

「うわあ、すごおい感じは否めないね」

「モデルがしたいなら・・・いつでも声かけてよ」

さりげなく名刺を渡すハジメ。

「うわあ・・・家宝にしたい感じも否めないね」

「俺も名刺あげたよね」

「大事に使ってるよね」

「使ってんの?」

「今、タカシさんが座ってるテーブルの足の据わりが悪いので下敷きに・・・」

「うわあ」

「あ・・・今の鈴鹿スペシャルを飲んだアキですよね」

「見てるね~」

こうして・・・ハジメは様々な波紋を残して帰京した。

なんとなくもやもやした朝日は夏希に救いを求めるのだった。

「昨日、折り返しもらったのに・・・ごめんね」

「どうしたの」

「東京から友達がきてたんだ・・・」

「へえ」

「今、なにしてんの」

「洗濯したパンツをたたんでまあす」

「・・・」

「おい・・・どんな友達なの」

「専門学校時代の友達・・・ちょっと厳しいことを言われたよ」

「優しい言葉と厳しい言葉・・・どっちが暖かいかわからないからねえ」

「さすがは・・・厳しい言葉のプロだね」

「どんなプロだよ」

「昔、ビンクのドアの写真を送ったんだ」

「それ・・・何かの暗号?」

「ドラえもんだよ・・・そいつちょっと行き詰ってたから」

「どこでもドアか・・・あんたって・・・結構、笑わせるよね・・・花婿に逃げられた女に花嫁姿の写真を送ってくるとかさ・・・」

「・・・」

「私・・・あの写真、気に入ってるんだ・・・あんたのおかげで前を向くことができたっていうかさ・・・」

「・・・」

「あんたの写真にはきっとそういう力があるんだね」

「でも・・・逃げてるって言われちゃったよ」

「で・・・逃げてるの」

「さあ・・・どうかな」

夏の終りの近づく夜。なんだかんだぐだぐたと長電話する二人だった。

もう・・・それだけでなんとなく楽しかったら・・・恋だよねえ。

電話を終えた夏希は部屋を見回した。

そして・・・北海道土産の「ウィリアム・スミス・クラーク博士のミニチュア」と「懐中電灯」を発見するのだった。ミニチュア収集は「PRICELESS〜あるわけねぇだろ、んなもん!」の武将フィギュア収集の流れだな。

スモールライトで朝日が小さくなっちゃった~少年よ大志を抱け~なんちゃって

朝日への恋心を秘めた慰めと励ましの気持ちを写メで伝える夏希だった。

スモールライトはドラえもんのひみつ道具で光を当てた物体を縮小させる懐中電灯のようなものである。

「少年を大志を抱け」は札幌農学校のお雇い外国人クラーク博士の名言である。

好きな人のためにあれやこれやに熱中する人っているよね。

まあなあ・・・一人相撲だとこんなに哀しいものはないけどな。

しかし・・・朝日もノリノリで写メを送り返すのだった。

海岸でラジコンヘリを飛ばす少年を無断撮影したらしい・・・。

スネオ発見」なのであった。

単に「ドラえもん」ネタなだけである。

こうなったら、自分で入浴してセルフヌード撮って「キャー」しかないと思うのだが・・・そうはしない夏希だった。

まあ、とにかく・・・ドラえもん世代の脚本家が「大ヒット恋愛ドラマ自動シナリオワープロ」をおねだりしたくなった気持ちは伝わってくるよね。

そんなひみつ道具はないぞ。

さて・・・恋の道を一旦、おやすみした波奈江は朝日に履歴書用写真の撮影を依頼するまだった。

しかし、これはヒカル(窪田正孝)と同じ行動で・・・もちろん、波奈江はなんだかんだヒカルを追いかけはじめているのだった。

真夏の就職活動を始める波奈江。

とりあえずアパレル系を受けるのだった。

朝日マジックでとにかく書類審査は片っ端から通過するらしい。

しかし・・・25歳で初めての就職活動なのである。

「前のお仕事は・・・会社役員になってますが」

「父のお伴でお酒の相手をしたり、ゴルフにつきあったりしてました」

「・・・」

「あなたの一番のアピール・ポイントはなんですか」

「・・・」

もちろん、戸田恵梨香が来たらどこでもいつでもだれでもなんでもとりあえず合格にしちゃうだろうが・・・波奈江は面接官を困らせるのであった。

まったく、就職が決まらない波奈江である。

そんなこんなで・・・夏も終りかけているらしい。

おい・・・見たこともない夏はどうなったんだ。

見たこともない夏だから見たこともないっていうオチなんじゃ・・・。

ヒカルはドラマだか映画だかCMだかのADとして下積み修行をしていた。

「お前、声が小さいんだよ」

「すいません」

基本、この手の芸術系は基本が体育会系ノリなのである。

とにかく・・・忍耐力には自信のあるヒカルなのでなんとかしのいでいるらしい。

ロケ弁当を食べていると呑気な地元のマスターから電話が入るのだった。

「あのさ・・・恒例の海の家の店じまいパーティーあるんだけど・・・来れる」

「いやあ・・・今回はちょっと無理ですね」

「そうだよな・・・働き始めたばかりだもんな・・・」

「すみません」

「そうそう・・・波奈江もお前の真似して就職活動はじめたんだけど・・・全然採用にならないんだってさ」

ヒカルはマスターからの貴重な情報提供に感謝しつつ、さっそく波奈江にメールするのだった。

今まで内緒にしてたけど・・・今の仕事が決まるまで・・・三十社くらい・・・落ちてました

波奈江はヒカルの言葉に癒されるのだった。

しかし、弟の駿(佐藤勝利)は「二十五歳まで実務経験ないんだから・・・ある意味ニート扱いなんじゃね」と冷たいのだった。

なにしろ・・・駿は跡取り息子なので一番気楽なのだった。

しかし・・・波奈江がこのままだと骨肉の争いに発展することをうかつにも失念している駿なのです。

そんな波奈江にレストラン青山でアドバイスする勢津子とタカシ。

「アピールポイントとか言われても困るのよね」

「あなた・・・ゴルフとか将棋とかマージャンとか野球とか・・・いろいろと詳しいじゃない」

「おっさん相手だから」

「それを生かせば・・・」

「スナックのママとか・・・」

「あ、俺わかっちゃった。野球で言えば・・・ピッチャーが滑り止めに使うやつね」

「ロジン・バッグ・・・ロージンバッグ・・・ああ、老人ってこと」

「正解」

「介護かあ・・・」

「一見、堅実に見えて、実はブラックで・・・だけども誰かがやらなきゃならない仕事だよねえ」

「私にできるかな」

「とりあえず・・・老人の話相手は得意だよね」

「うん」

「私は向いてると思うな」

「わあ・・・予言されちゃった」

いや・・・体格的にはいろいろと無理そうなんですが・・・とお茶の間の多くが思う展開である。

だが・・・その気になった波奈江はおそらく介護福祉士の資格を取るための勉強を始めるのだった。

まあ・・・波奈江はそれ系の学校を卒業していないだろうから、受験には養成施設を修了するか・・・介護実務経験が三年以上もとめられるわけだが。

「店じまいパーティー」のお誘いは夏希にもある。

しかし・・・ローテーション的にその日は仕事を休めない夏希だった。

パーティーグッズを買いにきた朝日は思わずピンクのドアを「写メ」するのだった。

「どこでもドアがあったらねえ・・・」

そんな夏希をバーに誘うシェフの影山(中村俊介)・・・。

二人きりなので・・・交際申し込みかと・・・ざわめくお茶の間をよそに・・・影山は・・・。

「なにか・・・言い出しにくいことがあるんじゃないか」

上司として部下の心を読んでいたのだった。

一方・・・朝日は・・・写真専門誌の「コンテスト募集」をみながら決意を固めるのだった。

厳しい言葉に暖かさを感じることにしたのである。

「館長・・・僕は写真館をやめて・・・フリーになるつもりです」

「そうか・・・ついにその日が来たか・・・いつ、そう言われるのかと待ちくたびれたくらいだよ・・・早速、求人広告出さないとな」

ある意味、ドライな店長だった。

朝日はただ一人の事が気がかりだった。

「タカシ・・・一人にさせてごめん・・・俺が上京しても大丈夫か」

「ふふふ・・・これでみさき市の女の子はみんな俺のもんだな・・・」

「・・・」

思い残すことのなくなった朝日は夏希に決意のメールを書きはじめる・・・。

今回はこっちにこれないみたいだけど・・・俺がそっちにいくことになり・・・」

そこで着信がある。

送られてきたのは「波奈江の父の画像」だった。

ジャイアン発見・・・夏希

朝日の顔が喜びに輝くのだった。

波奈江の父の画像を送れるのは夏希がみさき市にいる証拠なのである。

朝日は夏の終りから逃げるように駆けだす。

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Sn008 ごっこガーデン。どこでもドアのある海の家セット。エリ「♪僕ら今~ はしゃぎすぎてる夏の子供さ~胸と胸~ からまる指~はまだでスーか~。待ち遠しくて思わず歌っちゃうのでス~。いよいよ、朝日の昇る時が来たのですよね~。秒読み長過ぎて脱力につぐ脱力、でもやはり奇跡の8回はやってきたのでしたね~。後は攻めて攻めて攻めまくるのだ~・・・ええーっ、一般家庭ではピンクのどこでもドアは標準装備ではないのですか~?・・・意外ですことねえ」じいや「まこ様~、かくかくしかじかですぞ~」まこまあ、大変・・・ってシズカちゃんごっこしてる場合でねえど~。まこ専用どこでもドアで広島さ帰りましゅ~みのむし見つけてこわそうの金魚回収してきました~」くうお兄さんなのか・・・前科一犯国籍ジャパンの夫だったりして・・・シャブリ今朝、あまちゃんで鈴鹿ひろ美が使っていたジューサーは薬師丸ひろ子さんの私物!・・・明日はタカシ出張かっ・・・ごめんしてけろ・・・ラジコンじゃなくてラジオ聴いてたのでありました~ikasama4結局、半沢直樹についてつぶやいてしまう夏mari偽物の青山や港区ではなくて・・・本物の東京へ・・・いよいよ動きだすのでしょうか?

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2013年8月26日 (月)

ますらおの涙を袖にしぼりつつ迷う心はただ君がためでごぜえやす(綾瀬はるか)

江藤新平は天保五年(1834年)の生まれで明治七年には40歳だった。

征韓論に敗れ、西郷隆盛らと下野した後に佐賀の士族を率いて佐賀の乱を起こす。

一方、陸軍少佐となった元斗南藩大参事・山川大蔵(浩)は弘化二年(1845年)の生まれで29歳である。

政府軍の熊本鎮台に所属していた山川少佐は佐賀の乱の鎮圧に参加し、名誉の負傷を負って陸軍中佐に昇進する。

賊軍として征伐されたものが政府軍として反乱軍を討ったのである。

明治維新の革命戦争は明治七年になってもまだ継続されていたと見ることもできる。

戦いに敗れた江藤新平は逃亡し、高知県で捕縛。斬首され首を晒されることになる。

「国の富強の元は国民の安堵にあり」と主張した江藤だったが・・・結局は反乱の首謀者の汚名を着ることになり・・・無念の気持ちを辞世にこめたと思われる。

結局、明治維新も血ぬられた歴史に過ぎないのである。

武士の時代の終焉を飲みこめないものたちの反乱は続く。

で、『八重の桜・第34回』(NHK総合20130825PM7~)作・山本むつみ、演出・加藤拓を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は王政復古を成し遂げた明治維新の立役者・桂小五郎こと木戸孝允の明治ヴァージョン描き下ろしイラスト大公開でございます。多重人格一同、襄じゃなかったジョーと申しました。まあ、明治七年をすっとばす凄い勢いで明治十年に向かっていますからねえ。あわてますよね。とにかく・・・八重たちの動向が分らないところはすっとばす姿勢らしいですな。なにはともあれ、マイペースでお願い申しあげます。

Yaeden034 明治七年(1874年)一月、赤坂喰違坂にて岩倉具視暗殺未遂事件発生。襲撃者は高知県士族。岩倉は負傷するが皇居の濠へ飛び込んで難を逃れる。流石である。岩倉は一ヶ月の療養生活に入る。二月、江藤新平らの佐賀の乱が勃発。徴兵令による国民軍が初めての反乱鎮圧行動を行う。内務卿大久保利通が実質的な指揮を執った。四月、江藤新平は処刑された。五月、西郷隆盛下野の後、新政府軍に残った弟の西郷従道が台湾出兵を強行する。「征韓論」に反対しておいて「台湾出兵」とはこれいかにと木戸孝允は出兵に反対して参議を辞して下野する。台湾は清国領土でありながら未開地であり、日本軍はいわば原住民と戦闘したのである。戦闘には勝利したが兵士のほとんどがマラリヤに罹患し、病死561名という惨憺たる結果を残す。清国との間には琉球(沖縄諸島)の帰属問題が横たわり、それは日清戦争の終結まで続いていく。米国新教の宣教団体であるアメリカン・ボードから宣教師として派遣された新島襄が横浜に到着した十一月、日本軍は未だ台湾を占拠中であり、十二月になって漸く撤兵が開始される。新島はアメリカンボードより、日本における神学校建設のための資金5000ドルを委託されており、ただちに候補地の選定に入った。新島は故郷・群馬県安中市などで布教活動を行いつつ、京都での開校を選択した。明治八年八月、大久保の懇願により木戸は参議に復職する。九月、朝鮮の江華島で朝鮮軍砲台と日本軍艦が武力衝突。この結果、朝鮮でも開国の機運が徐々に高まり始めるのだった。十一月、新島は同志社英学校を開校する。

科学忍者隊の新造潜水艦・伊号零は玄界灘を水上航行していた。

深夜なので・・・吸血鬼・坂本龍馬が甲板上に姿を見せる。

「ふう・・・やはり・・・海はええのう・・・どうじゃ、八重殿」

艦橋は狭く、さすがに八重も外の気に触れて爽快な気分を感じる。

「なにやら・・・おそろしゅうございます・・・まっ暗闇ではございませんか・・・」

「ふふふ・・・夜だから海面を見ればそうなる。天をあおぐのぜよ」

見上げれば満天の星が輝いていた。

「まあ・・・」

「まさに星ふる夜じゃき・・・」

「八重様・・・」

ハッチの下で姪の山本みね(三根梓)が注意を促す。

「なんじゃ・・・」

「三日月様が声を聞いたそうでございます」

「声を・・・」

三日月は新撰組隊士が京都の芸妓に産ませた娘だった。

年はまた若いが・・・遠耳の術の使い手だった。

生まれついての能力で普通人の何倍もの聴力を持っている。

おそらく、父方か母方のどちらかにあやかしの血が流れていたのだろう。

八重が訓練し、今ではくのいち部隊の耳となっているのだった。

「何者かが歌っておりまする」

「歌を・・・」

八重が耳を澄ます。

最初に龍馬が不快感を示した。吸血鬼の聴力も人並み外れているのである。

「こりゃ・・・いかん・・・讃美歌じゃがな・・・」

「讃美歌・・・」

「耶蘇教の聖なる歌じゃき」

「どうされたのです・・・」

「闇の血が騒ぐのじゃ・・・うう、おぞましいのお」

指示された方向を見た八重は闇の中に浮かぶ白い帆を発見する。

「♪Jesus loves me! This I know(知ってるよ神の愛を)~

For the Bible tells me so(聖書に書かれているからね)~

Little ones to Him belong(幼きものよ否めないね)~

They are weak, but He is strong~(人はかよわく神は強いね)」

誰かが讃美歌「主われを愛す」を口ずさんでいるのだった。

上陸用ボートに移った三人のくのいちは漂流中の小型ヨットに接近した。

「うわあ・・・こりゃ・・・海のゴーストかな」

叫んだのは小型ヨットに乗っている男だった。

「私たちは人間です・・・あなたはそこで何を・・・」

「長崎でヨット遊びとしゃれこんで気がついたら潮に流されて漂流してしまったのです」

「・・・ああ」

「ああって・・・」

「ヨットを操れるのですか」

「いや・・・まったく・・・」

「たわけものですか・・・」

「私は米国の宣教師です・・・」

「宣教師・・・」

「日本にありがたいイエスの教えを伝えにやってきました・・・」

「あなたは救いをもとめますか」

「もちろん」

「・・・やはり・・・たわけものですね・・・救助しますが・・・本船は・・・讃美歌禁止です」

「おや・・・なぜ・・・」

「もちろん・・・私たちは悪魔に使えるものたちだからです」

「ええっ」

米国CIA局員・新島襄とくのいち八重の運命の出会いだった。

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2013年8月25日 (日)

あまちゃん、二十一巻き目の土曜日(能年玲奈)

さて、いよいよ終盤戦である。

放送予定によれば最終回は9月28日(土)・・・。

つまり、第21週~第26週までの六週間であり、すでに今週が終わって、残り五週間になっている。

終盤から逆算すると、(21)(22)、(23)(24)、(25)(26)の序破急、もしくは(21)(22)(23)、(24)(25)(26)のフリオチでそれぞれを序破急で割ることが考えられる。

第21週はある意味でほとんど最終週と言ってもいいほどのクライマックスの連続だった。そういう意味ではここまでの全編を受けて一つの区切りがついたのである。

今週の終りに鈴鹿ひろ美(薬師丸ひろ子)がヒロインに「これまでのことは全部忘れましょう」とセリフで語っているほどなのである。

ヒロインと春子(小泉今日子)は再び、離れて暮らしている。ヒロインはアイドルとしての大勝負を自立して戦う。

春子と夏(宮本信子)は生と死の境界線上で完全に和解する。

そして、太巻(古田新太)とヒロインの間のもつれた糸は若き日の春子の幻影(有村架純)によって解かれる。

ヒロインと種市先輩(福士蒼汰)は事務所公認のカップルとなる。

そして、すべての人々の想いがつまった「潮騒のメモリー~母娘の島」がクランクインするのである。

ものすごいハッピーエンドなんだなあ。

もう・・・全部回収されちゃったんじゃないか・・・と思うほどである。

しかし・・・まだなんだな・・・これが・・・。

ユイちゃんは東京に行かなくていいのか・・・とか。

忠兵衛はいつ帰ってくるのか・・・とか。

種市、ストーブ、水口のヒロイン争奪戦・・・とか。

ヒロインのキス・シーンとか。

春子の影武者問題とか。

潮騒のメモリーズの復活とか。

ヒロインのデビュー映画はヒットするのか、いや公開されるのかとか、それよりも完成するのかどうかとか。

そして・・・あの日は残り何週でやってくるのかとか。

うわあ・・・盛り沢山じゃないかあ。

それにしても・・・花嫁・・・いや女優修行中のヒロインが読む資料の中に何故「筒井康隆全集」が積んであったのだ。「霊長類南へ」とか「幻想の未来」とか「東海道戦争」とか「脱走と追跡のサンバ」とか「国境線は遠かった」とかと関係する話なのかよっ・・・。なわけはないよな。

まあ・・・ループということでは足立ユイ(橋本愛)の人生は・・・「時をかける少女」であり、「ヒストレスヴィラからの脱出」であり、「国境線は遠かった」のかもしれないわけだが。

歌の練習のためにユイが「時をかける少女/原田知世」を歌ってから・・・時は流れたよね。あれは2009年の春。そして、今は2010年の秋。とても一年ちょっととは思えない。50年くらい経った気がするよねえ。

夏ばっぱの十代からヒロインの十代の終りまで半世紀の時が横たわっているからだよねえ。

ちゃんと・・・戦後史ものになっているんだなあ・・・これが。

ああ・・・後一ヶ月ちょっとで・・・「あまちゃん」のない朝が来るのかと思うと、世界の残酷さを肌で感じるよ。

で、『連続テレビ小説・あまちゃん・第21週』(NHK総合20130819AM8~)脚本・宮藤官九郎、演出・梶原登城を見た。芸能事務所・スリーJプロダクションの唯一のタレント・天野アキ(能年玲奈)は現場担当マネージャー・水口(松田龍平)とともにアイドル・スターへの道を目指す。そんな二人の前に因縁ある映画「潮騒のメモリー」のリメイクが発表され、鈴鹿ひろ美の意向で「ヒロインが募集されること」を知る。書類選考に合格したアキは第一次選考会へと向かう。しかし、その朝、祖母の夏が倒れたという知らせが大吉(杉本哲太)によってもたらされる。春子は北三陸へ・・・アキは上野へ・・・それぞれの想いを抱え母と娘はそれぞれの道を歩み出すのだった。

月曜日 あなた、私のもとから、突然消えたりしないでね(小泉今日子)

2010年9月・・・。天野アキは思い出深い上野アメ横の東京EDOシアターに向かう。正式に発表された2011年春公開の映画「潮騒のメモリー~母娘の島~」は鈴鹿ひろ美演じる母親と娘のダブル・ヒロインとなった。オーデイションに集まるたくさんのライバルたち。アメ横はカーニバルのような賑わいをみせる。

かって水口に荷物を落とされた階段でふと立ち止まるアキ。

「どうした・・・」

「やっぱり・・・怖えな」

臆したようなアキに正宗(尾美としのり)が励ますように問う。

「どうする・・・やめるか・・・」

「いや・・・おらにはばっぱがついてる」

マネージャーの水口は微笑む。

「よし・・・いこう」

ここは・・・かっての所属事務所・・・独立したいまとなっては敵地も同然なのである。

「控室はこちらです・・・オーディションは自己紹介とセリフ読みです」

誘導スタッフの示した待機場所で多くのオーディション参加者の中にいたオノデラちゃんこと小野寺薫子(優希美青)に声をかけられるアキ。

「オノデラちゃんも・・・一次からか」

「うん・・・リーダーや真奈ちゃんもいるよ」

GMT5の入間しおり(松岡茉優)や遠藤真奈(大野いと)も資料を睨んでセリフを暗記しているのだった。

「アキちゃん・・・がんばろうね」

「うん・・・オノデラちゃんもな」

ニコリと微笑むオノデラちゃんの可愛さに思わず萌えるアキだった。

「相変わらず・・・めんごいなあ・・・」

アキの受験番号は二百番台・・・。待機時間は長いのだった。

一方、気合いの最短コースで北三陸市にたどりつく春子。出迎えたのは大吉一人である。喫茶リアスには「店主急病のため当分休業します」の張り紙が貼られている。

春子は駄々をこねる子供のように病院へは向かわずに袖が浜の実家に戻るのだった。

「本当は・・・嘘なんでしょう」

しかし・・・天野家は無人だった。猫の子一匹いないのだった。

2008年の夏・・・大吉に「母、危篤」で呼びだされた時にはピンピンして海に潜っていた夏は・・・今度は本当に危篤らしい。

「はやく・・・病院連れてってよ」

「今は・・・行っても会えないぞ・・・パイパス手術中だ・・・そんなに難しい手術じゃないそうだけど・・・年も年だし・・・長くかかるしな・・・心臓だし・・・」

「いいから・・・早く」

おしゃべりブタ野郎は黙った。

病院で待つユイと海女クラブ・オールスターズ。

「みんな・・・ごめんね・・・世話かけちゃって」

「こんなことになるなんてな」と花巻(伊勢志摩)・・・。

「帰ってきて・・・元気に海に入ってたんだ・・・今は水温低いから用心しろよと言ってたのに週に四日も潜って」

「東京行って・・・思い残すことはねえっていってたからなあ」とかつ枝(木野花)・・・。

「だから・・・橋幸夫にあったのかな」とユイ。

「縁起でもねえこと言うな。最後まであきらめるな」と組合長(でんでん)・・・。

「ちょっと待って・・・橋幸夫・・・橋幸夫って何」

「だから・・・橋幸夫に会ったって喜んでました・・・あれ、春子さん知らないんですか」

「知らないよお・・・何よお、それえ」

「ごめん・・・春ちゃんには死んでも言うなって・・・夏ばっぱが」と大吉。

顔を見合わせる海女オールスターズ。

「昔、橋幸夫と歌ったんだって」と美寿々(美保純)・・・。

「んだんだ・・・おらもよく覚えてないけどな」と弥生(渡辺えり)・・・。

「写真あるよ」と勉(塩見三省)の撮った証拠写真を見せるユイ。

「なによお・・・これえ・・・夏さん・・・かわいい」

そこには橋幸夫と歌う若き日の夏の姿があった。

「知らなかったなあ・・・橋幸夫のファンだったなんて・・・私さ・・・嫌いだったんだ」

「・・・」

「海開きの日に必ずかかるでしょ・・・いつでも夢を・・・悪いけどいい年したおばさんたちがはしゃいで・・・何言ってんの・・・って感じだった」

「・・・」

「知ってたらさ・・・ちがってたよね・・・橋幸夫のファンなんだってさあ・・・ニヤニヤしちゃったよきっと・・・私、夏さんのこと何にも知らないな・・・何が好きなのかとか・・・家出する前だって口うるさい母親としか思ってなかったし」

「口数の少ない人だったから・・・」

「ちがうね・・・私が知ろうとしなかったんだ・・・いやだなあ・・・このまま逝かれたら・・・私、夏さんのこと・・・何も知らないままになっちゃうじゃん」

春子の言葉で自分の母・よしえ(八木亜希子)のことを思っているらしいユイ。

「夏さん・・・死んじゃ・・・やだよ・・・嫌だからね」

ふと・・・弥生が口ずさむ「いつでも夢を」・・・。

星よりひそかに 雨よりやさしく

あの娘はいつも歌ってる

「やめてよ・・・ここ・・・病院だよ」

しかし、歌い出す海女オールスターズ。

声がきこえる 淋しい胸に

涙に濡れたこの胸に

「さあ、ユイも歌え」

「ユイちゃん、無理だよ」

言っているいる お持ちなさいな

いつでも夢を いつでも夢を

「じぇじぇ・・・ユイちゃん・・・知ってるのかよっ」

その頃・・・アキは奈落の底でオーデイションの第一次審査に突入していた。

「天野アキです。尊敬する人は祖母と鈴鹿ひろ美さんです・・・潮騒のメモリーの鈴鹿ひろ美さんを見て女優になりたいと・・・」

「はい・・・そこまで・・・時間がないですから」と審査員の一人である鈴鹿。

同じ会場でGMTメンバーは鈴鹿ひろ美に初めて会った時のアキの興奮ぶりを思い出し・・・微笑む。

「それでは・・・セリフを呼んでもらいます」

次々とセリフを言う参加者たち。

「母ちゃん、親孝行できなくて、ごめんなさい」

星よりひそかに

「母ちゃん、親孝行できなくて、ごめんなさい」

雨よりやさしく

「母ちゃん、親孝行できなくて、ごめんなさい」

あの娘はいつも歌ってる

・・・そして、アキの順番が来た。去来する夏ばっぱの面影。母の後ろ姿。アキが生まれてからずっと一緒だった母。ずっとほぼ一人ぼっちだった祖母。ようやく・・・みんな一緒になれたのに・・・それなのに今は・・・。

万感の思いを込めて・・・渾身のセリフを叫ぶアキ。

「母ちゃん・・・親孝行できなくて・・・ごめんなさい・・・」

何かが憑依したアキ。

涙に濡れるオーディション会場。

GMT5のメンバーが、鈴鹿がそして審査委員長の太巻が目を瞠る。

その頃・・・看護師が眉をひそめる病院の待合室。

「あ・・・あれ・・・」

ユイの指さした先にはこわい顔のドクター(田中要次)が現れた。

二度とは会えない場所へ

ひとりで行かないと誓って

火曜日 GMT5、マンションに引っ越しましたよ(宮本信子)

「うるさいよ・・・・病院で歌っちゃだめだよ」とドクター。

「すみません・・・」とうなだれる海女オールスターズだった。

「まあ・・・手術は終わってたからててけどさ」

「先生・・・」とすがる目付の春子。

「成功でがんす・・・」

「やったー」と大騒ぎする一同だった。

春子はかつ枝と抱き合った。

ちなみに最年長の夏は66歳。かつ枝はそれより、二~三歳若くて・・・60代。橋幸夫のファンではなかったらしい。弥生はまだ五十代。美寿々はすでに五十代。春子が四十代中盤で・・・ユイが十代である。海女クラブには二十代、三十代、四十代が不足している。春子の同級生・安部ちゃん(片桐はいり)の抜けた穴は大きいんじゃないか。ちなみに花巻さんは春子と同年代である。

もちろん・・・ドラマ的な登場人物がこうだというだけで・・・実は海女さんも漁師たちも他にも一杯いるのである。漁師なんか組合長と忠兵衛で代表しているだけだからな。

ユイは早速、アキに電話をするのだった。

「夏さんの手術、無事に終了したよ」

「よかった・・・夏ばっぱが死ぬはずねえと思ってたけど」

「でも・・・夏さんはすごかったってお医者さんも言ってたよ・・・体力、あるよって」

「さすがは夏ばっぱだべ」

「アキちゃんはどうだったの・・・オーデイションだったんでしょう」

「わかんねえ・・・なんだかいっぱいいっぱいでよく覚えてねえんだ・・・結果がわかったら連絡すっぺ」

アキは安堵して無頼鮨の店内に戻る。カウンターには水口、正宗、そしてしおりと真奈が並んでいる。

「もう・・・帰るよ」と告げる水口。

「なして・・・せっかく、みんなと会えたのに」

しかし、帰宅を急ぐ水口の前には「板前」がいるのだった。

「とにかく・・・ここにいたら鈴鹿さんが来るでしょ」

「じゃ、マンションに来る」

「マンション・・・」

「実はGMT5はマンションに引越したんだよね。ワンルームだけどオートロックでバストイレ完備、システムキッチンで食器洗い機付、窓から作りかけの東京スカイツリーが見えるんだ」

「すげえ・・・おらの頃は四畳半に二段ベッドで床も入れて三人で寝てたのに」

「くやしいな・・・」と主旨を忘れる水口だった。

そこへ・・・ピンの仕事で不在だった喜屋武エレン(蔵下穂波)が沖縄からとんぼ帰りしてくるのだった。結局、キャンちゃんとベロニカ(斎藤アリーナ)は「潮騒のメモリー」は対象外らしい。小野寺が不在なのは高校生で母親と二人暮らしだからだろう。

「国際通りぶらり旅さ。これ、おみやげのシーサー」

「うわあ、キャンちゃん相変わらず何言ってるかわかんねえ」と相変わらず失礼なアキ。

「仕事大変そうだね」とお茶を濁す正宗。

「そうたいね・・・舞台もあるし、ソロ活動もあるし、レッスンもあるしで睡眠時間はがばくて四~五時間くさ」

「それなのに週刊誌に合コン三昧とか書かれちゃって」

口々に説明するしおりと真奈だった。

「アキはどうなの」

「九時間くらい寝てる」

「そうじゃなくてえ、彼氏よ彼氏」

緊張する種市、水口、正宗だった。

「あの、地元の先輩かしらね・・・しゃべると残念な感じの・・・」としおり。

「あの人は親友のお兄さんだってば」と言葉に詰まるアキ。

何故か苦笑いの水口。ちょっと気になる種市。睨みつける正宗。

凄いリアクション・ショーである。

「じゃあ・・・憧れの先輩、ズバリ、この人ばい」と種市を指さす真奈ちゃん。

「そんな、違うよ」とまんざらでもなく否定するアキ。

「ヒュ~ヒュ~」

好きです 先輩 覚えてますか?

朝礼で倒れた私

都会では 先輩 訛ってますか?

お寿司を「おすす」と言ってた私

唄い出す女子たちに「他のお客さんに迷惑ですから・・・」と制する種市を制する大将(ピエール瀧)・・・芸能人、特にGMT5には甘い店の方針らしい。

仕方なく山葵をおろしまくる種市。

「だめでしょ・・・男作って九時間寝てるアイドルなんてダメでしょ」と激昂する水口だった。

「じゃあ・・・水口はアーキーのこと、どう思ってるの・・・会社やめてアキの事務所に行くなんて恋愛感情なかったらできないことさ」と決めつけるキャンちゃん。

なぜか・・・反論できずにビールを呷る水口。

おや・・・水口・・・まさか・・・本当に・・・。

坂の多い港街の

フリで入った小さなスナック

お前のレコードがかかっていた

歌って奴は不思議なもんさ

昔を引きずる力がある

あの頃を思い出す

お前をはじめてみつけたのは

場末の小さなナイトクラブ

色あせたセーターの胸さえ

まだふくらんじゃいなった

そうさあん時には他人事だったのさ

俺には思いもつかない言葉だった

商品に手をだすな

そして・・・「ちょっと、若いの・・・顔貸して」と店外に種市を連れ出す水口。

「おお・・・アキを賭けて決闘か・・・」とついて行こうとする女子たちを制する正宗。

「男同士の話し合いだ・・・ここはそっとしておきましょう」

マサと化した正宗だった。

場末臭さの漂う無頼鮨の裏口。

いつも周囲に無関心なラーメンの屋台の横である。

「なにすんですかあ」と抵抗する種市。

しかし、突然、土下座する水口。

「お願いだ・・・あの子から手を引いてくれ」

「・・・そんな」

だが酔っている水口は感情の起伏が激しいのだ。

「で・・・どうなのよ」

「どうって」

「アキちゃんとさ・・・」

「付き合ってますけど」

「ふ・・・そんなことはわかってるんだよ・・・程度の問題だよ・・・どこまで・・・怒らないから言ってみな」

「いや・・・まだなにも・・・」

「まだってことはこれからやるってことじゃねえかっ」

「滅茶苦茶怒ってるじゃないすかあ」

「いいか・・・今、大事な時期なんだ・・・長期契約もある・・・今、君との交際が発覚したらどうなると思う・・・清純派アイドル天野アキ、一般男性と熱烈デートとか書かれて・・・契約は解除・・・違約金が発生。大損害なんだよ。なにしてくれちゃってんだよ・・・いっぱあんだんせい、おれ、るばあんさんせい」

「うわ・・・酒臭い・・・」

そこへ心配そうにやってくるアキ。

「大丈夫か」

「もう、話は終わったし、お勘定だね」

「勘定はすませたよ」と正宗。

「じゃ・・・タクシーを呼んでもらいましょう」

「二人とも酔ってるもんね」

二人が店に戻ると・・・残されたのはさかりのついたオスとメスの猿である。

「天野・・・おばあちゃん、よかったな」

「はい・・・」

「はいって・・・」

「先輩、水口さんに何言われたのかしらねえが・・・気にするな」

「でも・・・今は大事な時なんだろう」

「生きている限り大事じゃねえ時なんて゜ねえ・・・先輩とこうしているのも大事な時だ」

「アキ・・・」水口に釘をさされて逆にハートに火がついたらしい種市。

しかし、直接的なアレやコレやには抵抗があるアキだった。

「今はちょっと」

「じゃ、いつする」

「それは・・・いつか決めてから」

「じゃ、いつ決める」

「また、今度だ」

せめぎあう雌雄だった。

とにかく・・・周囲に丸聴こえの無防備カップルなのだった。

その頃・・・オフィス・ハートフルでは一次審査の選考会が行われていた。

「天野さんが残ってないじゃない」と鈴鹿。

「しおりと・・・真奈ははずそう・・・GMTは分散させないと」と誤魔化す太巻。

「天野さんは・・・」

「天野はなまってるからな」

「そこがいいんじゃないの」

「なまってるなら・・・小野寺は地元ですし・・・」と助け舟を出す河島(マギー)・・・。

「泳げるの・・・」

「足がつくところでビート板を使ってなら・・・」

「ダメじゃん」

「わかった・・・天野は残そう・・・まだ二次だしな・・・」

その他のプロデューサー(諏訪太郎)たちも同意する。

その頃、無頼鮨では居残ったGMTメンバーが鈴鹿と太巻の噂話をしていた。

「あの二人、付き合っていたらしいよ」

「つきあってた・・・」と話に割り込む大将。

「違うんですか」

「つきあってるでしょ・・・今でも・・・一緒に住んでるし・・・あれ・・・わかれちゃったの」

「じぇじぇじぇー」とGMTの三人とお茶の間がのけぞった瞬間、店内に仲睦まじく入ってくる太巻と鈴鹿。

「おつかれさまです」

「あ・・・しおりと真奈・・・落ちたから」

「ごめんなさいね・・・他の作品に出るんですって・・・」

「・・・」

「なんだ・・・そんなにショックだったか・・・」

「・・・」

北三陸の病院では大吉が夏が目を開いているのに驚く。

「春ちゃん・・・」

「あ・・・あれは寝てるのよ」

「そうなのか」

しかし、大吉に向かって舌を出す夏。

「春ちゃん・・・」

「お母さん・・・」

「やったー」

「目が覚めた~」

そこへドクターが登場する。

「うるさいよ・・・マスクしなさいよ」

「あ・・・」

夏は生還した。

そして・・・翌朝・・・スリーJプロダクションのファクシミリが作動する。

「アキ・・・来たぞ」と正宗。

水口を突き飛ばしてファクシミリを覗きこむアキ。

「第一次審査を通過したことを御報告します・・・やったあ、おら、うかったあ」

「おめでとうアキ・・・」

アキの頭をクシャクシャにして撫で、アキを抱きあげる正宗パパだった。

天野家の女たちに幸せが降り注ぎ始めたのだった。

ちょっとうらやましい水口だった。

ハグがしたい、ハグがしたい、ハグがしたいなのである。

しかし、商品に手を出してはいけないのだった。まあ、出す時は出すけどね~。

社内恋愛だもんねえ。

水曜日 恋する女は綺麗さ・・・一人のものにならないね地元サンバ(薬師丸ひろ子)

アイドルとの擬似恋愛で青春を謳歌することが正常なのかどうか微妙な世の中である。

ビジネスである以上、ファンと言う名の顧客を裏切るのはいけないことだと思うかもしれないが、それは売春的発想であるとも言える。自由恋愛で・・・たくさんの求愛者中から一人が幸運を射止めたと考えれば特に問題はない。しかし、それでは商売にならないという考え方もある。まあ。今に始ったことじゃなくてさ。ずーっとだと言えるよね。ずーっとそうだよね。

ストイックに芸を磨くことも素晴らしいが、あの姫川亜弓のように恋愛も芸の肥しと考える生き方もある。

それはタイトロープな生き方だが・・・それでこその色艶なのである。

男は抱いても溺れるな・・・なのだな。

実生活の恋の情熱と芝居の演技がクロスする・・・今週。

芸のためなら女房も捨てる。それがどうした文句があるかなんだな。

「夏さん、目が覚めたら第一声が・・・ウニ丼作るべだったよ」

春子は喜びをアキに語る。

「よがったな」

「アキもがんばったね・・・一次審査通過おめでとう」

「まだまだ、これからだ・・・ママはいつ帰ってくるの」

「そうだねえ・・・とにかく退院するまでは何があるかわからないから・・・一段落したら帰るよ」

「そっか・・・夏ばっぱによろしくな」

アキはママからの「今、しなければならないことをやりなさい」を胸に二次審査に挑むのだった。

そんな母娘の電話の会話を小耳にはさむ大吉と吉田(荒川良々)・・・。

「駅長・・・帰るっていってますよ・・・」

「いいんだ・・・俺は春ちゃんのことはきっぱりあきらめた」

「そんなこと言って・・・俺がこれまでなんで・・・独身貴族をきどっていたのか・・・わかんないんですか・・・駅長より先に幸せになっちゃいけねえと・・・こらえてきたのに」

「でも・・・結婚したよね。しかも・・・おめでただそうじゃねえか」

「出産祝いは現金でお願いします」

「吉田あああああ」

「うわあああああ」

喫茶リアスにやってきた大吉。

「なんの騒ぎよ」と春子。

「吉田くんの結婚指輪、線路に投げてやった」

「ひどおい」とカウンターの中のユイ。

「春ちゃん・・・東京に帰ってやれ・・・アキちゃんとマサには春ちゃんが必要だ」

「マサって・・・」

「こっちのことは心配するな」

「でも身内は私一人だしね・・・私、世話しまくって夏さんからありがとうって言ってもらいたいんだ」

「ありがとうって」

「言ってもらったことないのか」と保(吹越満)・・・。

「ちょっとなんかものをとったりして」

「おう・・・よ」

「お茶っ子いれてあげたら・・・」

「おおう」

「肩揉んでやったら・・・」

「お、おおう・・・」

「おっとせいみたい」とユイ。

「だから・・・今回はありがとうって言わせるまで帰らない」

「いらっしゃい・・・ご注文は」とユイ。

「え・・・だれか来たの」

スナックタイムだった。すっかり夏の仕事を受け継いでいるユイだった。ユイは夏のもう一人の孫なのである。

スナック梨明日に来客がある。

「あ・・・先生・・・」

足立夫妻だった。

「その節はどうも」と春子に頭を下げるよしえ。

「いえいえ・・・」

「ご注文は・・・」

「ビール・・・それとピザでももらおうかな」と功(平泉成)・・・。

「ええ・・・面倒くさいな」とスナックのママのようでもあり、娘のようでもあるユイ。

「私が手伝うわ」とよしえがカウンターに入る。

「ちょっと・・・入ってこないでよ」

「いいから、いいから・・・これね」

「それじゃなくてえ」

足立家にも季節外れの雪解けが始っている。

春子はなんとなく微笑むのだった。

「あったーっ」と叫んで帰還する吉田。

「奇跡的に枕木の上にありました」

「それ、本当に君のか」

「よるな、電車バカァ」

風が運ぶの春の便りを

あなたに会える 地元サンバ

春を喜ぶ子どもの声が

踊る輪の中あなた見つけた

地元サンバ 不思議なの

そして・・・緊迫する二次審査。

アキを落選させようと太巻の容赦ない質問が飛ぶ。

「東京都出身なの」

「はい・・・高校二年の夏に岩手に行って・・・」

「それなのになんでなまってんの・・・訛ってる方が個性的だとか誰かに言われてそうしてんの」

言ったのは太巻である。

「いじめられたってネットに書いてあったけど」

鈴鹿は沈黙を守り、助け舟はない。アキにとってアウェイ感の漲る状況である。

「いじめられる子は目立ってる子でおらは・・・地味で暗くて向上心も協調性も・・・あれ・・・なんだっけ・・・異物感じゃなくて・・・そうだ・・・存在感・・・存在感も個性も華もない子だったんでいじめられる値打ちもなかったんです」

そこで初めて鈴鹿が質問する。

「今は、どうですか・・・」

「今は・・・ちがいます・・・今は変わりました」

「はい・・・じゃあ、次に」と言いかけた太巻を鈴鹿が制する。

「どうして・・・」と先を促す鈴鹿。

「海女をやってる祖母のおかげです」

「どんな人なの」

「かっけえ人です。それから、歌の上手な母、初めて出来た親友、海女の先輩たち、地元のたくさんの人たち、東京へ出てきてからは仲間たち、たくさんの人のおかげで・・・おらは変わることができました」

「結構です・・・すみません、長くなって」

「あ・・・いや」

鈴鹿と太巻の間に微妙な空気が漂う。

審査会場の外では河島と水口が会話を交わす。

「長引いてますね」

「うん・・・意外だっただろう・・・二次まで残るなんて」

「やはり・・・鈴鹿さんが推してくれてるんですか」

「うん・・・最後は太巻さんの匙加減なんだけどさ・・・鈴鹿さんにはなんだかんだ・・・さからえないんだよね・・・おかしな関係だよ・・・あの二人は」

「・・・」

審査は実際の演技に移っていた。

「母ちゃん」とセリフを言うアキに演技指導を加える鈴鹿。

「もっと丁寧に」

「母ちゃん」

「丁寧にって言うのはゆっくりとじゃなくてよ・・・言葉に気持ちをこめて、だけど変な抑揚はつけないで」

「変な抑揚って何ですか」

「ごめん・・・あなた馬鹿だったわね・・・忘れてた」

身分をわきまえずムッとするアキだった。

「声の調子を上げたり下げたりしないで・・・私の真似をしてごらんなさい・・・母ちゃん・・・」

「母ちゃん」

その時、太巻に異変が起きた。

目の前のアキが・・・若き日の春子(有村架純)に見え始めたのだった。

「母ちゃん・・・親不幸ばかりして・・・ごめんなさい。でも、私はシンスケさんが好き・・・二人でこの島を出て行きます・・・」

走り去る春子に思わず・・・あの日を思い出す太巻。太巻の中で二十年もわだかまる感傷。

純喫茶アイドルで「ちょっと待って」と制止する太巻を振り向かず・・・「馬鹿にしないでよ」と失意の春子は去っていったのだ。

あれは・・・どっちのせいなんだ。

あっちの・・・それともこっちの・・・。

もちろん・・・それは・・・。

演技に熱中して走り去ったアキが戻ってくる。

アキの演技に満足して鈴鹿は横を伺い、茫然とする太巻に気がつく。

「どうしたの・・・」

「あ・・・いや・・・」

混乱する太巻。一瞬、鈴鹿までもが・・・若き日の鈴鹿ひろ美に見えたのだった。

表のアイドル・ひろ美と・・・裏の影武者・春子。

時空を超えた二人の女の間で呪縛された太巻だった。

こうして・・・二次審査は終わった。

出待ちをするファンたちにまったくスルーされるアキと水口。

「今日、お父さんは・・・」

「給料日なので稼ぎ時だから遅くなるって」

「あ、そう・・・俺は挨拶してくるけど・・・一人で帰れる」

「大丈夫です」

「じゃ・・・マスクして」

「はい・・・」

素直に水口の指示に従うアキだったが・・・オーディションで火照った身体はさかりのついたハートを焦がすのだった。

水口が屋内に消えたのを見計らって無頼鮨の裏口に向かうアキだった。

あの町この町 日が暮れて

ため息混じりの頬に ついこの手のばしたくなる

女はいつもミステリー

花の咲くのは これからなのに

蕾のままでいいわというの

地元地元地元サンバ

「先輩・・・」

「アキ・・・」

「今日ならいいよ・・・パパもママも家にいねえから・・・」

「え・・・」

盛りの付いた猫背のメス猿の行く手をさえぎるものはなし・・・なあのだあ。

まあ、スキャンダルに火がついて死して屍拾うものなしの場合もありますがああああっ。

木曜日 ヴァージン・ロードからの脱出(有村架純)

「・・・パパもママも家にいねえから」

「お・・・五分だけ・・まってけろ」

アキの大胆な誘いに前のめりで対応する種市だった。

フィクションとノンフィクションの間にはリフレインはつきものである。

早い話、「あまちゃん」を見ている間は我を忘れるのに15分たつと我に帰る。

これがすでにリフレインなのだ。

「あまちゃん」が最終回に向かっているように我に返った人々も人生の最後に向かって時間を経過していく。

そういう意味で「時をかける少女」のように同じ時間を繰り返すのは再放送を見るのと似ている。最初よりは新鮮さに欠けるが、最初より落ち着いて見ることが出来るのだ。そこには変えられない運命が待っている。

人は自由意志による選択の自由を持っていて不確定性原理の未来を切り開いて行っているような気がすめが・・・本当はそれも運命の為せる業にすぎないのかもしれない。

そういう疑惑を再放送は裏付ける。

その気持ちが反映するのが物語のループ構造である。

あるいはやりなおしだ。ほとんど書きあげた記事を保存する前にパソコンがフリーズしてすべての作業が無駄になった時の不条理感を誰もが感じる時代である。

そういう経験がない人は死ねばいいと呪いたいほどである。

そういう呪いが「ループ構造」に呪詛を持ち込む。

この物語では「ユイの上京阻止」が一つのわかりやすい「ループの呪い」で・・・そのシンボルが・・・「東京行きのバス」が実は「市内循環バス」だった事件だろう。

まさにグルグル回ってふりだしに戻ったユイ。

ユイは絶望もしくは絶望の予感を感じるしかなかったのだ。

北三陸に生まれたこと。修学旅行でお風呂で骨折。水口との脱出失敗。アキとの脱出失敗。父危篤で脱出失敗。母失踪で脱出失敗。母出現で脱出失敗。呪いは継続中である。

クドカンという神様の意地悪なのである。

一方でアキにもまた呪いはかけられる。

その一つが鈴鹿/春子のアイドル/影武者事件による太巻のジレンマによって生じた「アイドル妨害作戦」である。

母娘二代の悲願だが・・・デビューできそうでできないリフレインが延々と続いたわけである。

しかし、謎の幻視体である若き日の春子の介入によって・・・そのループは脱出の時を迎えようとしていた。

アキは春子に救いを求め、母娘合体して太巻の心の闇を照らしだす作業を行ったのである。

夏の娘であり、アキの母親である春子は娘/母親の二重の役割を往ったり来たりする。その象徴が北三陸駅と上野駅の往復なのである。

寿命という制約の中で今や、娘としての役割が終焉を迎えようとしている中で・・・春子は一つの脱出行に入っているのだった。

しかし、電話という文明の利器によって娘/母親の瞬間切り替えが可能になっているのである。

一方でアキの「フィジカル思春期の開始阻止」というループが存在する。

ユイが「東京に行けない」ように・・・アキは「身体は大人でも精神が子供」なのである。

ファン第一号のストーブが告白しても気持ちが開かれず、種市先輩を好きになっても種市先輩はユイが好き。せっかく両思いになっても恋愛禁止令が発動する。

もちろん、クドカンという神様が「アキ」に意地悪をしているのだ。

このループを複雑にしているのが・・・アキ/春子の恋愛相手の相似構造である。

アキ・・・初恋の人・・・種市先輩

春子・・・初恋の人・・・大吉先輩

アキ・・・ファン第一号・・・ストーブ

春子・・・ファン第一号・・・正宗

アキ・・・マネージャー・・・水口

春子・・・マネージャー・・・太巻

このように母子のお相手は対になっている。

これにアキの東京の母である鈴鹿ひろ美を加えると事態は一層複雑になる。

太巻は春子を裏切って鈴鹿ひろ美の愛人になるわけだが・・・水口はGMT5を裏切ってアキのマネージャーになるのだ。

さて・・・アキにまつわる三人の男性は・・・春子にそれぞれ評価されている。

ストーブは「いい人だけど・・・アキとの交際は認められない・・・安定してないから」

種市は「健全そうに見えるけどなにしてくれてんの」

水口は「アキのことかわいいなんてキモイ」

まあ、春子の言うことだからな。

一方で三人はユイとも密接に関係している。ストーブは実の兄。種市は元恋人。水口はユイからアキに乗り換えたのだ。

そういう意味で・・・最も関係が深いのは種市ということになる。

しかし、二人が結ばれるにはまだまだ紆余曲折があるだろう。なにしろ・・・先行系の大吉は別の男と結婚されたりしちゃうんだから。

ともかく・・・「アイドル」と「恋愛」というアキの二つの目標がしのぎを削る今週なのだった。

「・・・パパもママも家にいねえから」

「・・・パパもママも家にいねえから」

「・・・パパもママも家にいねえから」

「・・・パパもママも家にいねえから」

・・・繰り返すことでセリフに心が伴って行く・・・アキはこんなところで女優修行をしているのだった。

凶悪な母親・春子によって地味で暗くて向上心も協調性も存在感も個性も華もない 猫背のメスの猿の娘に育て上げられたアキだったが・・・その重圧の中で培われた潜在能力はユイの予言通りにアイドルとして開花しつつあるのだった。

太巻は鈴鹿ひろ美が・・・「知らないフリをしている影武者天野春子に対する罪滅ぼしをしている」というが・・・実際は鈴鹿ひろ美はアキのアイドルとしての潜在能力を見抜いているのである。それは野に放たれた途端に・・・マイナー番組で注目され、たちまち年間契約のイメージ・キャラクターに抜擢されるほどだった。そして・・・北鉄のユイとの対決では海女のアキとして・・・太巻・水口・ヒビキらのプロの評価するユイに勝利しているのである。鈴鹿ひろ美はアキの魅力の源泉である夏と邂逅することでそれを確信するに至ったのである。鈴鹿は自己プロデュース力に優れたアイドルの作り手なのであるから。

その鈴鹿にオーディションを通じて磨きをかけられたアキは輝き始めている。

だからその他のプロデューサーたちにもその光は見えだしたのだった。

「天野アキ・・・いいじゃないですか」

最終選考候補にアキを推す声は強くなり・・・もはや反対者は太巻一人となっていた。

「天野は・・・確かに・・・魅力的な存在だ。しかし・・・アイドル映画はアイドルの鮮烈なデビューによって記憶に刻印される。伊豆の踊子の山口百恵しかり、野菊の如き君なりきの松田聖子しかり・・・そしてここにおられる潮騒のメロディーの鈴鹿ひろ美さんしかりだ・・・」

「・・・」

太巻の演説に耳を傾ける、鈴鹿、河島、二人のプロデューサー、そして水口。

「しかし・・・天野春子はどうか・・・それは未知数だ・・・天野春子にはその力はないのではないか」

全員が茫然とするのだった。

「だからといって・・・その他の候補者も未知数です。しかし、小野寺薫子はどうか。何と言っても若さがある。天野春子は・・・いくつだったっけ」

「ええと・・・四十くらいじゃないかと」と河島。

「なに言ってんだ・・・天野春子は十八だろう・・・」

「天野アキは・・・そうですが」

「え・・・」

「ずーっと春子、春子って言っているわよ」と鈴鹿。「春子って誰よ」

ここで・・・「鈴鹿ひろ美は知っているのに知らない派」は万歳三唱するのであるが、キッドはあくまで「鈴鹿さんは自分に影武者がいるなんて疑ったこともない派」なので、おそらく鈴鹿は太巻の愛人として「昔の女の名前を口にすべらせた」太巻を軽く詰っただけだと考える。

ついに太巻は・・・「過去の亡霊に囚われた自分自身」に敗北を喫したのだった。

もう、腰が抜けてしまったのである。

「じゃ・・・天野アキは最終候補に残すという方向で・・・」

アキが知らないところでアイドルの階段を順調に上がっている頃・・・アキ本人は大人の階段をよじのぼろうとしているのだった。

好きな先輩と誰もいない部屋に二人なのである。

「天野・・・シャワー借りてもいいか」

「じぇ・・・」

「いや・・・俺、最近、汗をかくんで・・・シャワーを浴びないと気持ち悪いんだ」

アキも十八歳なので・・・「シャワー」=「大人の恋愛」であることは理解するのだった。

しかし、とっくに「大人の恋愛の覚悟をきめている」アキなので大胆発言で応ずるのである。

「いいよ・・・タオル出しとく・・・着替えは・・・」

「着替えは持ってる」

持ってるのかよっとお茶の間を絶叫させつつ、彼女の家の浴室に消える種市。

その時・・・春子/アキの母親から電話が入るのだった。

「何だママか」

「何だって何よ」

「何の用だ」

「留守電聴こうとしてたのよ」

「あ・・・そうか・・・とったらまずかったか・・・」

「もう、おそいけどね」

そこへ・・・種市が半裸体で引き返してくる。

「じぇ・・・」

「シャンプーとリンスどっちだ」

「ちゃんりんしゃん・・・じゃねえ・・・泡の立たない方がリンスだ」

「そうか」

「ちょっと・・・誰かいるの・・・」

「あ・・・あ・・・水口さん」

「そう・・・おつかれさま~」

「ママがおつかれさま~って」

「じゃあ・・・かけなおすから・・・おやすみ」

「おやすみ」

一難去ったアキだった。

超特急でシャワーを終える種市。

ビールのプルトップを引く音が響くほどの静寂である。

「なんか・・・話せよ」

「じゃあ・・・最近、お仕事はどうですか」

「じゃあって・・・」

「雑談て難しいな」

「最近は・・・卵焼きを焼いてんだ。じっくり炭火で四十五分かけて・・・時間をかけるから美味いんだ・・・だから最近は汗をすごくかくんだ」

そう言いながら・・・種市は一度立ってカーテンを開き、風を感じてからさりげなくアキの横に坐りなおすのだった。どんな手引書を呼んでいるんだよっ。

急速に縮まる二人の距離。

「なんだか・・・なつかしいな・・・こうやって二人で話したよな」

「北鉄の倉庫か・・・あん時、先輩はユイちゃんのことが好きだったんだな」

「あ」

自ら墓穴を掘る種市だった。

その時・・・どこにでも出現する若き日の春子の幻視体が社長の席にすわっているのを見るアキ。

見つめる春子。穴が開くように見つめる春子。凝視する春子。

「うわあ・・・」

パニックに陥るアキだった。アキにとって春子は神にも等しい上位自我であり、厳しい抑圧者なのだった。

そこへ・・・鳴りだす電話。

「なんで・・・出るのよ・・・」

「あ・・・ごめん」

「水口くんは」

「あ・・・今・・・トイレ」

「かけなおすから・・・今度は出ないでよ」

春子/アキの母親ならピンときても良い頃だが・・・今は春子/夏の娘モードが優勢なのである。

北三陸の天野家で春子は・・・入院中の夏のことについ・・・思いが飛ぶのだった。

一人で天野家にいれば・・・ずっとそこで一人で暮らしてきた夏の孤独が身に沁みるのである。

春子はたまらなくセンチメンタルな気分になってくるのだった。

その頃、アキは夏の言葉を思い出していた。

「色々考えるからだめなんだ・・・何にも考えずに飛び込め」

とにかく・・・お風呂に飛び込むことにするアキ。

「おらも・・・シャワーさ浴びてくる・・・先輩、おらの部屋で待ってていいど」

ゴクリと唾を飲み込む種市だった。

その時、電話が鳴り、春子の留守番電話のチェックが始る。

「あ、水口です・・・やりましたよ・・・最終選考に残りました・・・それで今日は事務所によらずに帰宅します」

「なんだって・・・」

素早く、春子/夏の娘から春子/アキの母親にチェンジした春子。

「あ・・・水口・・・今、どこ・・・」

「無頼鮨です・・・ちょっと気が大きくなって・・・自分に御褒美を」

「すぐに事務所に直行して」

「え」

「いいから早く・・・」

怖い母親が北三陸にいる安心感からシャワーを浴び終わったアキは・・・素足で種市の待っている自室に向かうのだった。

今や、盛りのついた猫背のメス猿はやる気満々なのだった。

アイアイ

アイアイ

おさるさんだよ

アイアイ

アイアイ

おさるさんだね

金曜日 アイドル甲子園、決戦は金曜日に(優希美青)

シャワーも浴びたし、ベッドのある部屋に二人きり。

もはや・・・やることをやるしかない二人なのである。

アイドルと一般男性の夢の一時。

しかし、がばい刑事、ミズタクとマサの捜査の手はそこまで迫っていたのだった。

「すぐに事務所に・・・」

「あの若造・・・どこですか」

「今日は九時であがったけど」

「なにしてくれちゃってるんだよ」

「すみません」

「あ、正宗さん、今、どこですか」

アイドルと一般男性の距離はもはやセンチメートルで測れる距離に・・・。

アイドルの覚悟は定まって・・・目も閉じるのだった。

しかし・・・一般男性が躊躇するのだった。

「うわあ・・・なんだか・・・だめだこりゃあ」

Am021 そんなバナナとだれもが思う展開なのだった。

「プールだと思えばいいんでねえか」

とほぼ意味不明の提案をするアキだった。

もうね、抱きついちゃうとか、ハダカになっちゃうとか・・・フンフンしちゃうとかでいいのよね。

案の定、「胸キュンのテーマ」に乗って空気排出のための首カクカクを始める種市だった。

案の定、「うぷっ」っと噴き出すアキだった。

「なして・・・笑う」

「だって・・・先輩、カクカクッて」

「あ・・・」

それでも気をとりなおして・・・アキの肩に手を置く種市。

案の定、空腹でお腹が鳴るアキだった。

案の定、恥ずかしいのだった。

突入前に警告で電話を入れる水口。

「もしもし・・・いるの・・・いるのにでないの」

ものすごい場面を直撃しないためのエチケットらしい。

「突入」

「靴があります」

「じゃ・・・いるんだな」

もはや・・・猟犬と化した二人の刑事・・・運転手とマネージャーだった。

「アキの部屋か」

「入るぞ・・・服着てるか・・・着てないなら待つけど」

「突破」

ベッドにはぬいぐるみがあるばかり・・・。

「あの野郎・・・」

「まだ遠くにはいってないはずだ」

アキと種市はキッチンにいて・・・卵焼きが完成したところであった。

「お母さんには・・・最終審査に備えてセリフあわせをしていたことにした」

「なんとか・・・納得してくれました」

「・・・」

「まったく・・・油断も隙もないな・・・一般男性さんよ・・・」

「先輩は悪くねえ・・・おらが連れ込んだ」

「アキ・・・」

「なるほど・・・アキちゃんにとって・・・種市くんがアイドルってことだね」

「まあ・・・そうかもしんね」

「その種市くんが他に恋人がいたら・・・どう思う」

「やんだ・・・そのたとえは・・・リアルすきでやだやだやだ」

「ユイちゃんで経験済みだもんねえ」

「水口さん・・・」

「でもさあ・・・アイドルが恋人作ったら・・・百万人のファンがそういう気持ちになるわけだよ」

「おれが・・・百万倍愛しますから」

「何言ってんの・・・論点ずれてるし・・・」

「おらは・・・アイドルである前に十八歳の女子だ・・・先輩を好きな気持ちに嘘はつけねえ」

「お父さんはどう思います」

「いや・・・二人を見てたら・・・春子さんとのなれそめを思い出しちゃって・・・」

「それ・・・論点ずれてますよね」と水口。

「聴きたいです」と種市。

「僕は春子さんのファン第一号だったんだ・・・でも・・・春子さんはアイドルになることを諦めて・・・故郷に帰ろうとしたんだよ・・・僕は言ったんだ・・・僕のために歌うことをやめないでくださいって・・・春子さんの歌を必要としている人はたくさんいるからって・・・」

「お父さん・・・かっこいいです」と感動して泣きだす水口。

「でも・・・先輩だっておらを励ましてくれた・・・一人ぼっちでつらいだろうが・・・負けんなって」

「いい子というじゃないか」

「でも、俺、口では百万倍とかいいながら・・・親の留守に部屋へあがりこんで」

「いいんだよ・・・言ってることもやってることも本当なんだよ」

春子を待っていると言いながら昔の同級生を部屋に連れ込んだ正宗だった。

「でも・・・俺は何もできねえ・・・卵焼きもさめちゃったし・・・」

「あ、ごめん、ごめん・・・食べよう」

「美味っ」とアキ。

「アキちゃん・・・」

「水口さんも立って喋ってねえで食べてみろ・・・」

「美味っ」と正宗。

水口はアホの子に説教しても無駄なことを思い出した。そして・・・何より口中には唾液が・・・。

「とにかく・・・しばらくは会うのは無頼鮨だけ・・・メールまでは認めるので大人しくしてくれ」

それだけ言うと・・・水口は卵焼きに手を伸ばすのだった。

実にぐだぐだな芸能事務所だった。

この夜が だんだん 待ち遠しくなる

はりつめた気持ち 後押しする

この夜を どんどん 好きになってくる

強大な力が生まれてる

とにかく・・・アキは「恋人と部屋で二人きり」という気持ちを手に入れたのだった。

そして・・・小野寺ちゃんとアキの一騎打ちによる最終オーディションが始る。

アキと小野寺ちゃんのスケールの違いは誰の目にも明らかだった。

太巻自身がそう感じていた。

奈落で結果発表を待つ二人。

「アキちゃんが受かるような気がする・・・」

「いやいや・・・小野寺ちゃんだべ・・・」

「本当・・・」

「ごめん・・・わかんねえ・・・でも・・・どっちが選ばれてもちょっとうれしいべ」

「ちょっとくやしいけどね」

「・・・」

「でも・・・国民投票の時とは違う・・・」

「んだな・・・あのときはおら・・・いなかったけど」

選考室では河島が意見を述べていた。

「結局・・・小野寺は泳げませんからね」

太巻は自嘲する。

「こんなことなら・・・書類審査で天野を落としておくべきだったよ。なんか・・・映画にちょっとでも出してやれば罪滅ぼしになるかと思ったんだよな。でも・・・小野寺より・・・天野で映画を撮ってみたい気持ちがどんどん大きくなってさ。商売人失格だよな。で・・・昨日、眠れなくてネットでウロウロしてたら・・・これを発見しちゃった・・・」

アキが初めてウニを獲った時の動画だった。

「やったあ・・・ウニとれたあ」

「おめでとう、アキちゃん」

「よかったなあ、アキちゃん」

「・・・これ見たら・・・もう胸がいっぱいになっちゃったよ・・・」

奈落で待つ二人に河島が結果を伝えにやってきた。

「・・・天野、太巻さんがお呼びだ・・・」

「おめでとう」とオノデラちゃん。

「ありがとう」とアキ。

握手を交わすアキとオノデラちゃん。

そして、アキは颯爽と奈落の階段を昇る。

オノデラちゃんはリーダーのしおりと同じ「一人で奈落にとり残される気持ち」を手に入れたのだった。

まあ、「純と愛」のヒロインを手に入れちゃったら「あまちゃん」のヒロインになれないってことがあるからね。

アキを出迎える太巻と鈴鹿。

「おめでとう」と握手を求める鈴鹿。

アキの手を両手で包みこむ鈴鹿だった。

あなたのこと どんどん 好きになってくる

これだけは 言わずにいられない

探してた答えは 易しい 照れくさい その手はあたたかい

二人を見つめる太巻は解脱した天使のような微笑みを浮かべる。

土曜日 十月はきっとたそがれの国・・・(橋本愛)

一日、二十四時間として九時間寝たら、残り十五時間。

朝、午前七時に起床して十二時間後は午後七時である。

夕食も食べ終わって・・・ベッドに入る午後十時まで・・・残り三時間・・・。

今はそんな時間である。それが全二十六週の第二十一週なのだ。

相変わらず、GMT5元メンバーのアキを華麗にスルーする出待ちのファンたちだった。

オーディション合格者のふわふわした足取りで黄昏のアメ横裏通り(フィクション)に彷徨い出たアキに駆け寄って抱きしめる水口だった。

商品に手を出すなという掟を突破する水口である。

種市よりも固くアキを抱きしめるのだった。

思わず、その背に手を添えるアキ。

基本的にアキにはその意味はわかりません。

「あの・・・」

「もうしばらくこのままで」

「・・・」

「よし・・・もう大丈夫だ」

水口はマネージャーとしての顔を取り戻し、無頼鮨にダッシュするのだった。

アキの腕をしっかり掴んで・・・。

一瞬、二人を見つめる店先掃除中の亀の湯の女将だった。

祝杯をあげる正宗と水口。

第一報をユイに伝えるアキ。

「おめでとう・・・今、勉さんしかいないんだあ」

「勉さんだって」

「よくやったな・・・水口」

「師匠・・・」

「水口さん・・・泣いちゃった」

「ふふふ」

「ママは・・・」

「大吉さんとか、海女クラブのみんなで病院にいってるよ」

「・・・夏ばっぱ・・・具合悪いのか」

「違う違う・・・違うよ・・・今日、夏さん、退院するの」

「じぇじぇじぇ・・・」

天野家に夏が生還する。

家には・・・おそらく「受験が恋人」のギャラで購入した介護用ベッドが届いている。

「受験が恋人」のポスターやうちわなどのグッズで染まる天野家だった。

夏の帰還を祝って盛りあがる北三陸オールスターズ。

「もしもし・・・」

アキからの電話をとりつぐ花巻。

「うっそおおおお」と驚愕する春子。

「みんな・・・アキうかったって・・・」

「うかったあ」

「アキが鈴鹿ひろ美とダブル主演で映画に出るのよ・・・アキが・・・」

「ええーっ」

「えれえこった」

「ストーブくん・・・さっそく・・・ホームページにアップだ」

「アキちゃん・・・おめでとう」

「ストーブさん」

その声に目を光らせる種市。しかし、抱きしめちゃったばかりの水口は余裕の表情を見せるのだった。

「なんだか・・・アキちゃんが遠くに行っちゃったみたいだ・・・だけど・・・俺の気持ちは変わらねえ・・・アキちゃん・・・好きだ」

「えー・・・何言ってるか・・・全然聞こえねえ・・・」

愛しい女の名を呼べど声は汽笛でかき消され・・・「望郷・ペペ・ル・モコ」(1937年フランス映画)からのいただきである。

「・・・おめでとうっ」

「ありがとうっ」

「みんな、アキちゃんが・・・ありがとうって・・・」

「万歳」

「アキ万歳」

「万歳」

そして・・・「潮騒のメモリー~母娘の島~」の脚本が完成した。

九月の終り・・・天野家では夏がそれを熟読する。

春子は縁側でうたた寝をしていた。

「あんれ・・・寝ちゃった」

「これ・・・なんだ・・・」

「何って・・・アキの出る映画のシナリオだよお」

「おお・・・そうか」

「ほら・・・ここ・・・鈴鹿ひろ美が鈴鹿ひろ美で・・・鈴鹿アキが天野アキってなってるでしょ・・・なんてったってダブル主演だから・・・」

「そうか・・・なかなかいい本だど」

「ええ・・・読んだの」

「まあな・・・」

その時、「いつでも夢を」に乗って漁協のアナウンスが町内放送のスピーカーから流れる。

「明日は・・・海女の口開けです・・・本気取りに参加する皆さんは明朝五時に・・・」

「本気取りかあ・・・海女になって本気取りしねえなんて・・・初めてだ」

「うそ・・・おととし・・・アキに譲ったじゃない・・・」

「あ・・・そうだったな・・・アキの奴・・・一個獲ったよなあ」

全身麻酔の後遺症で少し、認知症的な夏らしい。

「獲ったよねえ・・・お茶でも飲む」

「おう、ありがと」

「アキかあ・・・え・・・」

麦茶を入れる春子。

受け取った夏は「ありがとう」と確かに言った。

「・・・」

「どうした・・・」

「なんでもない・・・」

「ああ・・・潜りてえなあ・・・」

「来年は潜ってるよ・・・」

「どうだか・・・」

来年は・・・2011年なのだ。

初めて・・・脚本が牙をむいた瞬間である。

おそらく、天野家の漁業権はユイに渡されたのだろう。

九月末日、ユイはウニを四つ獲ったのだった。

ガッツポーズでファンに応えるユイ。

ウニはオークションにかけられ四万円でヒビキ一郎(村杉蝉之介)に競り落とされた。

晴れ晴れとしたユイの屈託のない笑顔。

アキとユイの完全なる立場逆転である。

その頃、アキはクランクインに向けての準備に入っていた。

「見つけてこわそう」の撮り貯めは怒涛の二十本撮りである。

「正解は金魚鉢でした」

「ぎょぎょぎょ~」

さかなクン(さかなクン)もびっくりだが・・・金魚殺しは「サマーヌード」とシンクロである。

これは・・・来週登場めぐる(深田恭子)の恋人(勝地涼)の余波か・・・。

芸能人の恋人は芸能人が王道だからな。

ストーブ、水口、種市まとめてぎゃふんもあり得るよな。

そして始るリハーサル。

「もっと・・・疲労困憊して港から鈴鹿家までは一里だから」と演技指導に熱が入る太巻監督。

「はい」とアキ。

「ちがう・・・四キロだからね・・・三千メートルよりもっとだよ・・・フラフラなんだよ・・・生まれたての小鹿のように膝なんかカクカクなんだよ」

「フラフラのカクカク・・・カクカク・・・カクカク・・・フラフラ」

「もっとカクカクで」

「カクカクのヨロヨロのモタモタのフラフラのカクカクで」

「カクカクしすぎ~。ぎゃははは・・・」と爆笑の病床の母親役の鈴鹿ひろ美だった。

その他にも、基礎訓練としてのヴォイストレーニング、発声練習、日本舞踊、花道、茶道、書道、ペン習字、料理、基礎資料の読みこみなど・・・ハードスケジュールの詰め込みが行われたのだった。

そして・・・十月のある日。

映画「潮騒のメモリー~母娘の島~」はクランクイン(撮影開始)の運びとなった。

「鈴鹿さん、アキです」

「アキ・・・どう・・・一人の女を演じるためにどれだけ・・・女優が頑張らなきゃいけないか・・・わかった」

「はい」

「それじゃ・・・これまでのことは全部忘れましょう」

「じぇ」

「全部リセットして・・・一から始めるの・・・それがお芝居・・・それが映画なのよ」

「じぇじぇじぇーっ」

もはや・・・十月は黄泉の国の予感である。

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2013年8月24日 (土)

夏の夜の戦慄~悪霊病棟(夏帆)

恐怖の原動力とは緊張と緩和である。

恐怖から逃れようとすればするほど緊張は高まっていく。

コップの中の水が滴によって増量し、表面張力によってこぼれ出す寸前までみなぎる時、恐怖はこれ以上なく高まっていく。

静から動へ転換するのと動から静へと転換するのは実は同じことである。

緊張が限界に達し、恐怖から逃走したものを新たな恐怖へと誘導することが恐怖の源泉となる。

逃走の果てに疲労し、力尽き、諦念したり、逃走経路が途絶え、行き止まったりと形は変わっても勢いは同じにしなければならない。

緊張の緩和は常に新しい緊張の始りなのである。

緊張感の継続のためにはその状況を明確にすることが大切である。

恐怖からの逃走中には距離感が非常に大切となる。

距離と速度と時間経過が明らかにされ、タイムリミットが限りなくゼロに近付くことが望ましい。

エレベーターの階数表示、廊下の長さ、出入り口の配置関係、存在を示す影や物音の高まり、心の声がつぶやきやささやきとなる時の案配、階段や通路の明暗、そうしたもののあらかじめの提示などが重要な要素となる。

それらはすべて綿密な計算によって行われなければならない。

逃走経路が明らかになってこそ、そこに緊張が生まれ、脱出の希望が途絶えるから絶望という緩和が訪れるのである。

戦慄はその緊張と緩和の節目に生じるのだ。

で、『病棟~第5号室』(TBSテレビ201308230058~)脚本・酒巻浩史(他)、演出・鶴田法男(他)を見た。正攻法の恐怖が「死」によるものだとすれば奇襲法は「不死」による恐怖である。「死」は恐怖の源泉であるが・・・「死」によって安寧を得られるという矛盾を抱えている。それを補うのが「不死」である。ただし、それは「邪悪な不死」であることが求められる場合が多い。もちろん、「神の不死」も倦怠による嫌悪感が生じるが、それはある意味で高等な思惟を要するものなのである。直接的な恐怖のために「邪悪な不死」が望ましい。「邪悪な不死」の恐ろしい所は死んでも苦しみが終わらないことである。

つまり、「死霊」の誕生である。

その古典として「ドラキュラ伯爵」を代表とする吸血鬼の群れがある。それは伝染病の恐怖にも似ている。吸血鬼の犠牲者は吸血鬼としておぞましい死後を生きなければならない。さらには「主」への奴隷的服従が精神的苦痛を高めるのである。

「死霊」の凶暴なるものが「ゾンビ」である。アンデッドでありながら・・・知性を失ってしまうというところがおぞましいわけで・・・さらにゾンビに捕食されることは生きたまま食われる恐怖と逃れてもゾンビによって噛まれればゾンビ化という二重の恐怖が約束されている。

「幽霊」はそれに比べれば優美と言えるだろう。そこには「復讐心」や「愛の執着」など、人間的な要素が残留する。

「怨霊」にとりつかれたものは・・・惑わされ、地獄への道連れとなったりするわけである。

これに対し、「妖怪」はある意味で最初から「不死」のものが「生」を得た状態である。

無機質の有機体化とも言える現象によって「もの」が化けるのである。

それぞれの「邪悪な不死者」はそれなりに恐ろしいが・・・あまり混在させると馬鹿馬鹿しくなったり、ユーモアを生じさせて、本来の恐怖からは遠のく。

ホラーコメディーである「天魔さんがゆく」はこの辺りを軽妙洒脱についてくるのだが・・・本格ホラーである「悪霊病棟」にはそういう路線は好ましくないのである。

「霊能力者」という存在はある意味でジョーカーなので扱いに注意が必要なのである。

「霊感」が強いから見える「幽霊」が誰にも見えるようになると「霊感」そのものが疑わしくなるからである。

その「力」の強弱のコントロールは意外に難しいのである。

一話完結的な構成による希求から時間を遡上することはよくあるテクニックだが・・・安易に使えば説明のための説明が過剰になる。この作品ではすでにアウトだと考える。どうやって死んで、どうやって幽霊化されたのかを説明されて・・・本当に恐怖を感じられますか。

一人暮らしを始めた尾神琉奈(夏帆)は二十四歳の看護師である。

かって事故死したクラスメート・サエコの幽霊を見たことがある。

幼い頃に母親を病死で失って以来、瑠奈は霊的現象を幻視する精神的な病にかかってしまったと父親はいい、彼女は精神科で治療を受ける。

それによって琉奈は「おそろしいもの」を見なくなったのである。

しかし・・・新しい勤務先の隈川病院では琉奈の周囲の人々が「おそろしいもの」を見るようになったのだった。

琉奈も旧病棟の最上階に誘導されて封印された隠し部屋に入って以来、院長の息子である隈川朝陽(大和田健介)と同じ悪夢を見るようになっていた。

さらに・・・琉奈の姿は入院患者の元カメラマン石川勲(高橋長英)の撮影田した写真に念写され心霊写真となってしまう。その直後に石川は容態が急変し死亡する。そして琉奈はその幽霊を目撃する。後輩ナースの鈴木彩香(川上ジュリア)は石川が琉奈に呪い殺されたのではないかと疑い始めるのだった。

琉奈の中学校以来の親友である坂井愛美(高田里穂)は三流のテレビ番組制作会社に勤務していた。丑寅プロダクションというその会社に所属する三流のディレクター・斑目和也(鈴木一真)は心霊番組で起死回生を狙っていた。

斑目は愛美に命じて「呪われた病院」と噂される隈川病院について琉奈から情報収集しようとするが・・・そういうことにナイーヴな琉奈は情緒が不安定になってしまう。

愛美は友情から・・・琉奈からの取材を諦めるが・・・斑目が石川を取材したことを知り、彩香が情報提供を申し出るのだった。

取材のためのインタビューに答えた彩香は怯えて泣きながら「あの人が病院に来てからおかしくなったんです・・・血だらけり女生徒の幽霊を見たり・・・心霊写真とか・・・石川さんはあの人に呪い殺されたのではないかと思うのです」と訴えるのだった。

常軌を逸した彩香の証言に愛美は不審を感じる。

そんな時、愛美の携帯電話には「久しぶり」とサエコからメールが着信する。

「琉奈・・・あなたに変なメール・・・届いてない」

「変なメール・・・」

「いいの・・・きっと悪戯か・・・なにかの勧誘ね・・・」

琉奈の精神状態を慮って通話を打ち切る愛美。

深夜の社屋で残業する愛美は編集中の取材素材に琉奈の顔が映り込んでいることに戦慄を感じる。

あわてて、編集中のパソコンの電源を落とす琉奈。しかし、電源は落ちず、「あの人がきてからおかしいんです」という彩香の言葉が繰り返される。

「呪い殺され」「殺され」「呪い」「のののの」「のろ」「のろい」「のろい」「のろい」

何事か・・・超自然現象が起こっていると感じた愛美は逃走を開始する。

社室を出た愛美はエレベータに向かうが・・・突然、停電が発生する。

しかし、エレベーターは動いている。

着信「今、三階(サエコ)」

着信「今、四階(サエコ)」

琉奈と愛美とサエコの関係は不明だが・・・とにかく死んだクラスメートの「霊」の存在を感じる愛美はパニックに襲われる。

何者かから逃れようと社室に戻って施錠する愛美。

しかし、何物かは扉をたたく。

「いや・・・・助けて・・・」

愛美は社室の奥へと逃げる。

しかし、行きどまりである。

「警察・・・」

社内電話をとりあげる愛美。

しかし、受話器から聞こえるのは女の声だった。

「なんで・・・逃げるのお」

「・・・サエコ」

バタリとドアが開く。

追い詰められた愛美は窓を開ける。

そこに・・・空中に浮かぶサエコの姿があった。

「ああああああああ」

絶叫する愛美。

一瞬後、愛美は路上に落下して衝撃音を響かせ、ほろ酔い加減の通行人を驚愕させる。

病院に救急車が到着し、運び込まれる急患が愛美と知った琉奈は我を失う。

ふと気がつけば・・・入口に血まみれの愛美が佇んでいた。

「愛美」

ふりむく愛美。滴り落ちる血と風に乱れる長い髪。

その背後から手が現れる。

愛美ははがいじめにされていた。

愛美を拘束しているのはサエコだった。

「やめて・・・愛美を連れて行かないで・・・」

あわてて駆け寄る琉奈。

しかし・・・愛美とサエコは闇に吸引されていく。

「愛美・・・」

琉奈は茫然と立ちすくむ。

母の死。霊能力。サエコの幽霊。琉奈の心霊写真現象。旧病棟の隠し部屋。共有される悪夢の中の黒い歯の女。石川のショック死。愛美の墜落死・・・。

猫背のナースは・・・人なのか・・・それとも・・・何か邪悪なものなのか。

愛美・・・早々と殺すには惜しい美少女でした。

主人公出番、少なすぎ・・・。

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2013年8月23日 (金)

子供の喧嘩に親が出てはいけない。(観月ありさ)

「山田くんと7人のキス」(がばい篇)の予定だったが・・・気がつけは「斉藤さん2」を忘れていたので処理しておく。

虜のキスを持つがばい魔女(大野いと)は眼鏡っ子魔女(美山加恋)とともに次回触れたいと思う。

今回はリーダー(松岡茉優)出産記念で・・・「斉藤さん2」の簡単なレビューにしておく。

がばいとかリーダーとか「あまちゃん」専用語を禁止します。

・・・人格統制局から発令がありました。

さて・・・実は「イエス・キリスト」である斉藤さんは・・・十字架にかけられた後、小学生の母親として転生しているわけである。

幼稚園児の母親なら許されたことが小学生の母親になるとかなり無理があるが・・・もちろん、無理を通すのが斉藤さんなのである。

さて・・・8月22日に藤圭子が死去した。昭和の頃、貧しい演歌歌手は東京の下町で流しで歌っていたものだ。

もちろん・・・最近では宇多田ヒカルの母親として知られていたことだろう。享年62である。三味線瞽女だった母親の竹山澄子(享年80)の死からわずか四年である。現在の処、飛び降り自殺とみられているらしい。

2010年、現在は活動休止中の後藤真希の母親が転落死している。

1999年には安室奈美恵の母親が義理の弟に殺害されると言う事件が起きている。

素晴らしい歌姫たちを生んだ母親たちの・・・早すぎる死は痛ましい。哀悼の意を表し冥福を祈るとともに・・・残された歌姫たちの末長い幸せを願いたい・・・。

その歌声に癒され生きて来たものとして。

で、『斉藤さん2・第1~6話』(日本テレビ20130713PM9~)原作・小田ゆうあ、脚本・土田英生(他)、演出・岩本仁志(他)である。前作は2008年であれから五年の歳月が流れたのだなあ。最初に言っておくがこの物語は荒唐無稽な話である。けして一般の主婦は真似しないでください。悠々自適の夫・単身赴任・亭主元気で留守がいい専業主婦の幻想でございます。斉藤さんみたいな生き方をすると現代社会では命がいくつあっても足りませんからなあ。

で、ジーザス・クライスト斉藤は前作ではイスカリオテのユダたる真野ちゃん(ミムラ)を相手に正義と真実の使徒として大活躍をするわけである。真野ちゃんとラクダの夫婦がいい味を出して・・・斉藤さんがローマ帝国追従的主婦の三上夫人(高島礼子)に果敢な戦いを挑む物語に深みを与えていた。

民主党政権下で斉藤さんが沈黙を守っていたのはおそらく単なる偶然ではないと思う。

さて・・・小学生四年生の母親となった斉藤さんのお相手は・・・山内摩耶(桐谷美玲)である。実年齢23歳だが・・・19歳で拓海(橋本涼)を生んだ設定でいきなりなんちゃって29歳なのである。なんでだよ・・・という気分は捨てがたい。真野ちゃんのらくだに対応して愛妻家の夫・弘高(田辺誠一)なのだ。何故か、すごく納得だ。

で・・・斉藤さんの息子・潤一(谷端奏人)の属する4年3組の保護者会を牛耳るリーダーが玉井夫人(南果歩)である。いわゆるひとつのモンスター・ペアレントでございます。

で・・・例によって・・・斉藤さんの正論が・・・玉井夫人の癪に障ってのすったもんだなのである。

で・・・「あまちゃん」のGMT5リーダー役の松岡茉優が演じる不良娘の前島冴は玉井夫人の親戚らしく、妊娠して学校を退学している。玉井夫人としてはそれが恥ずかしい感じなのだが・・・斉藤さんは「博愛精神」で頓着せず、冴の友人の不良娘・優里(早見あかり)ともどもハートをキャッチしてしまうことは言うまでもないのだった。

冴は立派に一児の母となります。

担任教師の小杉(瀬戸康史)は基本的には無能なのである。

また・・・斉藤さんには立花知佐子(酒井若菜)という強い味方も加わります。

ちなみにゲストとして第一話には真野ちゃんが登場しているが、今後、太巻ことこばと幼稚園の望月園長(古田新太)も登場するらしい。だから「あまちゃん」禁止だと何度言えば・・・。

15.5%↘13.1%↘10.6%↘10.5%↗11.0%↘*9.7%という視聴率がなんとかなるといいよね。

さて・・・斉藤さんの教えに素直に従った子供がいじめられる確率は100%だと思うが・・・案の定いじめられる潤一である。

しかし・・・いじめの原因は玉井夫人が斉藤さんに敵対していることに反応した息子の大和(玉元風海人)にあった。

つまり、親の喧嘩を子供が買ったのである。

いじめはエスカレートして・・・ついに暴力沙汰に発展する。

しかし、「子供の喧嘩を親が買ってはいけない」という斉藤さんルールがあるために・・・斉藤さんはあくまで傍観者に徹するのだった。

「もう学校に行きたくない」という子供におはぎを使って「それは許されない」という無言の圧力を加えるのみである。

やがて・・・潤一は斉藤さんのおはぎ力によって大和グループと立ち向かう決意を固めるのだった。

公園で潤一と決闘する大和。

それを草陰から見つめる斉藤さん。

「けして・・・子供の喧嘩に介入しない」斉藤さんなのである。

そして集団で暴行されて殴る蹴るをされた潤一は内臓破裂で即死するのだった。

もちろん・・・斉藤さん世界ではそんなことは起らず・・・大和は滑って転んで自滅するのだった。

息子がケガをさせられたと学校にクレームをつける玉井夫人。

呼びだされた斉藤さんはすべてを目撃していたので玉井夫人をスルーして・・・大和が嘘をついていることを・・・大和に訴えるのである。

そして・・・真野ちゃん代理の摩耶は・・・自分の息子の拓海を始め・・・味方の証言者をかきあつめ・・・大和を追い詰めるのだった。

「僕がいじめてました・・・」とついに白状する大和。

玉井夫人はギャフンなのである。

「あやまんなさいよ」と斉藤さん。

「ごめんなさいでした」と玉井夫人。

斉藤さんを讃えるサンバのリズムが鳴り響くのだった。

まあ・・・これでは視聴率は落ちるよね。しょうがないよねえ。

そもそも・・・キリストは復活しても・・・その行方は誰も知らないところがミソなんだからねえ。

関連するキッドのブログ→斉藤さん

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2013年8月22日 (木)

獣の母と置き手紙と浴衣と下駄とリンゴアメと水風船とベッドのスプリングと日傘と牛丼とコスモスとWoman(柊瑠美)

来たな・・・怒涛の映像ポエム攻撃が・・・。

もう、目に映るものすべてが意味深に見えてくるのである。

たとえば・・・今回・・・心を許せるらしい親戚もしくは知人女性・マキちゃんと栞が「初めての牛丼」を食べる。

栞(二階堂ふみ)というこのドラマで一番、世間の波風を受ける役柄と同席するのはマキ(柊瑠美)である。

「野ブタ。をプロデュース」のサイコな陰謀少女・蒼井かすみなあのだあ。

二階堂ふみと柊瑠美のツーショットはもはやそれだけで何かが濃いよね。

その二階堂ふみ演じる栞が・・・姉と母親の心情を思いやって・・・お茶の間は素直にはそう見ないのだが・・・家出を決意した夜・・・。

水風船を釣り上げた栞は陸に耳打ちをする。「あのね・・・」

水風船はゴムを指に留めてガチャガチャと鳴らして遊ぶ玩具である。子供の中ではその感触が一番好きだという子もいるだろう。

そして・・・おそらく・・・栞の言葉は・・・「しーちゃんのベッドでぴょんぴょんしていいよ」だったのである。

栞が家出した後で早速、ぴょんぴょんする陸。子供の中ではその感触が一番好きだという子もいるだろう。

子供をぬいぐるみのようにしか愛せない母親・紗千の大きなぬいぐるみである栞はガシャガシャとかぴょんぴょんを封じられた「いい子」だったのだ。

柊瑠美の登場で・・・またもやタイトルを逃した望海(鈴木梨央)だが・・・ここまで「ダリア」と関係していて今回は「コスモス」を口にする。

植杉家の茶の間で陸と並んでお絵かきをしているが・・・電話が鳴るとその手が止まる。

不測の事態に備えて待機モードに入っているのだ。

紗千が出て、「我孫子さんからの電話」だと健太郎に伝える。

その間、紗千はじっと電話を見つめる。

キッドの頭の中では「コスモス、ダリア」「コスモス、ダリア」「コスモス、ダリア」という古いギャグがリフレインする。

何事もないと確認してお絵かきを再開する望海・・・細かい、芸が細かいぞ~。

そして・・・ひたすらお絵かきを続ける陸のあどけなさが・・・効いてくるのである。

すげえな・・・おい・・・すげえよ・・・。

ちなみにコスモスは「宇宙」と言う名の花。花言葉は「乙女の真心」である。そして秋の桜なのである。

コスモスの風となりたるところかな(稲畑汀子・・・高濱虚子の孫娘)

みんな、風になりたいよね。なれるものならね。

踏切の前で佇む人は警報機の音にそそられたりするよねえ。

「完、完、完、完、完・・・」って鳴っているもんねえ。

で、『Woman・第8回』(日本テレビ20130814PM10~)脚本・坂元裕二、演出・水田伸生を見た。シングル・マザー青柳小春(満島ひかり)は亡き夫・青柳信(小栗旬)の遺書ならぬ遺書を手に入れる。信の小春に注がれる怒涛の真心。しかし、その夜、手紙を読んだ栞から「罪の告白」を受けて逆上する小春。愛するものを奪われた憤怒は殺意となって発露する。それを押しとどめる望海の存在。許されざるものとなった栞の心は途方に暮れる。植杉家を襲う異父姉妹の修羅場。そうとは知らず・・・紗千は家族のために・・・ケーキを買っていたのだった。

だれが頼んだわけじゃない

誰が望んだことじゃない

ただこうなっただけさ

夜の街で・・・家路を急ぐ紗千を待ち伏せる二度目の夫・健太郎(小林薫)・・・。家族が増えたので夫婦水入らずの時を過ごしたかったのである。

二人は夜のカフェ&バーに入り、若者にまぎれてトロピカル・ドリンクを注文する。

「よかった・・・と思ってる」

「何がよ・・・」

「しーちゃんも・・・最初は不安かもしれないけど・・・いつか落ち着くと思うんだ」

「あなたは・・・栞のことを知らないのよ・・・」

「・・・」

「それにもう・・・過ぎたことなの」

「・・・君がしーちゃんを生んだ夜のことを思い出す」

「あなたはナイターに夢中だったでしょ・・・」

「しーちゃんを抱いた君は・・・とても懐かしそうな目をしてた」

「・・・」

「あれは・・・小春ちゃんを生んだ時のことを思い出したんだろ・・・」

「・・・」

「しーちゃんも・・・小春ちゃんも・・・二人とも君の娘なんだよ」

「そうね」

紗千は抱えている秘密をなんとか抱えきれそうな気になった。

しかし、暗闇の中で栞は踏切の向こう側に佇んでいたのだった。

路面電車が通り過ぎるのももどかしく栞に駆け寄る両親。

「迎えにきてくれたのか」

「私、お姉ちゃんを怒らせちゃった・・・」

「なんだ・・・そんなことか・・・謝れば許してくれるよ」

「謝ったのよ・・・だから」

その一言ですべてを悟った紗千。

なぜ・・・黙っていてくれなかったのか・・・泣き笑いの表情で栞の手をとり・・・苦悶する紗千だった。

「お母さん・・・どうしたの」

「なんでもないのよ」

「お母さん・・・大丈夫」

「なんでもないの」

望海を抱きしめるしかない小春だった。

健太郎は風呂に入った。

紗千はケーキを用意した。

子供たちを寝かしつけ・・・小春は階下に降りた。

「甘いもの・・・だけど・・・食べる・・・ケーキを買って来たの」

「ご存じだったんですか」

「違うのよ・・・そうじゃないの・・・言葉が・・・足りなかっただけなの」

「はっきり聴きました・・・自分のせいで・・・そうなったって」

「言ったでしょ・・・私が梨を・・・梨なんかもたせたからって」

「私・・・誰がとか・・・誰かのせいでとか・・・思っていませんでしたから」

「私が悪いのよ」

「知ってたんですか」

「ごめんなさい」

「そんなの・・・」

「ごめんなさい・・・」

「いなくなっちゃったんですよ」

「ごめんなさい」

「いないんですよ」

「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい」

「無理です・・・」

「ごめんなさい」

すがりつく紗千を小春は振り払った。

二人のやり取りをじっと聴く栞。小さな家の狭い階段そして細い廊下。

底知れぬ闇がわだかまる。

小春は植杉家から出ていく決意を固めた。

しかし・・・朝食の席で子供たちは健太郎から祭りに誘われていた。

「お母さん・・・お神輿・・・担げるんだって・・・」

「お神輿・・・お神輿」

二人の子供の目は輝いている。

「でていく」とは言い出せなくなる小春。

「お母さん・・・東京音頭・・・知ってる」

「え」

「やっとおなあそれよいよい」

「やっとおなあそれよいよい」

踊り出す二人の子供たち。

「ねえ・・・お父さん・・・東京音頭好きだったかな」

「は」

「お父さん、どんな音楽が好きだった」

「家に来た時、なんか言ってたよな・・・」

「ビリーブとか・・・」

仰向く小春と俯く栞・・・。

その頃・・・砂川家では良祐(三浦貴大)が一人息子の舜祐(庵原匠悟)の朝の支度をしていた。

自分の手で着替える舜祐。

「偉いな・・・」

しかし、食卓に用意されているのはインスタント食品だった。

「パパ、今日は早く帰ってきて遊んでやるから・・・」

「やったあ」

お愛想を言う舜祐だった。

別居中の妻、砂川藍子(谷村美月)は何やら目算が立ったらしい。

クリーニング店の職場で小春はシングルマザー仲間の蒲田由季(臼田あさ美)に自分の病気のことを打ち明ける。

母親として子供たちを植杉家に預けるのが一番いいとは分っている。しかし、女として愛しい男を奪った仇と一緒に住むことは我慢ならないのである。

そのために・・・由季に頼る算段を付け始める小春。

しかし・・・夫の信は・・・小春と紗千の仲を結ぼうとしたのではなかったのか・・・と小春には思えない。

ただ・・・憎しみだけが昂進するのだ。

「いいっすよ・・・まかせてください・・・病気のこと・・・もっと早く言ってくれればいいのに・・・」

「子供たちにも内緒なの・・・」

「わかったっす・・・」

これが最善の道なのか・・・小春は唇をかみしめる。

仕事終りで病院に行き輸血処置を受ける小春。

「簡単には言えないけれど・・・本当は・・・仕事を休んで安静にしているべきなんですよ」と藍子は言う。

「ドナー登録をお薦めします・・・それに・・・移植の適性検査を御家族に・・・説明しづらいなら・・・僕が・・・」と名刺を差し出す澤村医師(高橋一生)・・・。

病院の食堂で座り込む小春。

一時的に・・・由季に面倒を見てもらうことは可能かもしれない。

しかし・・・もし・・・自分が死んだら・・・ずっと・・・それは無理だった。

そんなことは分っていた。

ホテルの客室係である紗千は黙々とベッドメイキングをする。

せっかく・・・家族がそろったのに・・・どうして私はこんなことになってしまうのだろう。

どうして・・・栞は口を閉ざしてくれなかったのだろう。

夫を殺されて我慢が出来る女なんていやしない。

それでも最初の夫の娘はこらえてくれないだろうか。

二番目の夫の娘のために我慢してくれないだろうか。

だって二人は姉妹じゃないか。

小春は栞のお姉ちゃんじゃないか。

私だったら・・・私だったら・・・とてもこらえきれないかもしれないが。

ああ・・・なんで・・・なんでこんなことになってしまうのだろう。

仕事を終えた帰り道・・・紗千は孫のために下駄を買う。

これは罪滅ぼしなのか・・・娘への追従なのか・・・孫が可愛いのか・・・紗千にはわからない。

そこで紗千は娘の昔のクラスメート(大平奈津美)に声をかけられる。

「まあ・・・ハルミちゃん」

「ハルナですよ・・・おばさん」

「まあ・・・」

紗千は気になっていることを聞いてみた。

「あの・・・その・・・昔のことだけど・・・栞はその・・・」

「いじめですか」

「・・・」

「いじめられていましたよ」

「・・・」

「私はもちろん・・・いじめませんでしたが・・・助けることもできなかった・・・こわかったから」

「・・・どうして・・・そんなことに・・・あの子が何か」

「何も・・・栞ちゃんはクラスで一番、いい子で・・・優しくて・・・可愛くて・・・だからでしょう。かわいいぬいぐるみのはらわたを割いて取り出したくなる人はどこにでもいるものですから・・・栞ちゃんは本当に可愛いぬいぐるみみたいに・・・毎日、いじめられていましたよ」

絶句するしかない紗千だった。

かわいい栞の苦しみを十六歳の娘の悲しみを全く知らなかった紗千。

その苦しみを知らなかったから歪んだ娘が犯した取り返しのつかない罪。

下駄では償えない。

下駄なんかでは償えない。

紗千は買ったばかりの下駄を捨てた。

何も知らない呑気なナマケモノの健太郎は・・・血のつながらない孫たちと・・・楽しく盆踊りの稽古に励む。

生まれたくて生まれてきたんじゃない

生み落とされたその始末に

涙なんかでごまかされるか

決意を秘めて・・・栞は健太郎に話しかける。

「私・・・家を出たいの・・・」

「どうしたんだい・・・急に・・・小春ちゃんと何があったか知らないけど・・・人と人はさ・・・時間をかけて・・・だんだんと」

「もう・・・起きてしまったことなの」

「なんだよ・・・さっちゃんも同じようなこと言ってさ・・・」

「マキちゃんのところへ行くの」

「マキちゃん・・・東京に出てきてるのか」

「一緒に住んでもいいって」

「一体・・・何があったんだい・・・」

「教えない・・・だって・・・私のこと・・・いい子だと思ってるの・・・もう、お父さんだけだもの」

いい子になりたかった。

いい子では生きていけなかった。

でも・・・いい子でいたことはいい思い出なのだ。

人を殺してしまった子は一生、いい子には戻れないのだから。

罪を償うこともできず、それでも生きていく栞なのだった。

祭りの前夜・・・それぞれの想いを抱えて・・・天麩羅を食べる六人だった。

紗千は小春を愛せなかった分、愛しすぎた栞を抱きしめる。

決意を秘めて栞は告げる。

「私・・・明日は浴衣を着る・・・お母さんも着てね」

「・・・」

小春は子供たちの幼い手を握る。

ふたりの母親の夜は更けていく。

祭りの日・・・子供たちは新品の祭り装束に身を固める。

子供みこしを担ぐ望海。

子供みこしを曳く陸。

先導する健太郎は満面の笑み。

普通の子供たちのように祭りを楽しむ子供たちに小春の心はほころぶ。

団扇を持つ手は踊る。

「わっしょい」

「わっしょい」

紗千と栞の母娘は浴衣を着て神輿を見守るのだった。

タイトロープの上の束の間の幸せ。

それが祭りなのである。

ばからしくてやってられない

りこうになれない口実に

友達になったふりをする

そして・・・祭りの夜。

小春は子供たちに一本の綿あめを買う余裕があった。

自分の子供に何かを与えられる喜び。

栞は釣りあげた水風船を甥に与えた。

自分が殺した男の子供にあげられるものが少なすぎる栞の哀しみ。

りんご飴の屋台はテーラー植杉の担当だった。

栞は健太郎を促して・・・祭りの光の中から去っていく。

最愛の娘が去ったことに気付かずに店番をする紗千。

そこに自分の娘が殺した男の妻と子供たちがやってくる。

それは・・・自分の娘と孫たちなのだ。

「りんご飴ください」と陸が言う。

「はい・・・自分たちでやってみる・・・」と問う紗千。

「わあ・・・いいの」と目を輝かせる望海。

水あめの中を二つの林檎が転がっていく。

はしゃぐ子供たち。その笑顔に・・・誘われて笑顔になっていく小春。

自分を捨てた母の優しい面影。自分の夫を殺した女の母親の優しい態度。どこにでもいる祖母と孫たちの光景。

祭りの魔法の光の中でそれは夢か幻のようだった。

愛されてるとは思わないよ

生きてることに腹たてて

死ぬこともできずに腹たてる

祭りの後の静けさの中・・・。

子供たちは興奮が収まらない・・・。

「幸せがとまらないよ・・・どこまで楽しくなるんだって感じ」

「一生で一番楽しかった・・・」

小春は子供たちの喜びに気持ちが弾んでいく。

小春の中で消えていく選択肢。

子供たちから幸せを奪うことはできないのだった。

許せなくても我慢するしかない。怨んでも笑うしかないのだ。

祭りの後片付けを終えて家に戻った紗千。

台所には健太郎がいる。

「なんですか・・・あなたは・・・片付けに参加しないで・・・栞は帰ってますか」

「しいちゃんはもう・・・いないよ」

「え」

「さっき、見送って来た」

「見送った」

「しいちゃんも・・・もう二十歳だよ」

「二十歳だから・・・何」

「独立したいっていうのを止めることはできないよ・・・さっちゃんはもう充分にしいちゃんを育てたんだ・・・子供がもういいって言ったら・・・旅立ちを見守るのも親の役目だろう」

「・・・」

紗千は栞の部屋を訪ねた。

そこには・・・。

いくばくかの荷物が消え・・・浴衣が畳んであった。

「残ったものはゴミなので・・・捨ててください」

置き手紙が残されていた。

娘がまた・・・去って行った。獣のような母親は我が子の香りを求めて寝床の匂いを嗅ぐ。

悄然とした紗千の元へ・・・小春は微笑んでやってきた。

「今日はありがとうございました・・・下駄だけじゃなくて・・・浴衣まで・・・子供たちを幸せにしていただいて・・・」

「・・・」

「あの・・・私・・・しばらく、仕事を休むかもしれません」

「・・・」

「私、病気になってしまって・・・そのことで・・・一緒に病院に行ってもらいたいんです」

「なんで・・・今、そんなこと言うの」

「あの子・・・栞、出て行っちゃったの・・・踏切で・・・線路を見てた・・・あの子の責任じゃない・・・みんな私が悪いのに・・・だって高校生だったのに・・・あの子が背中を押したわけじゃない・・・私が梨なんか渡したから・・・あの子を追い詰めて・・・あなたが背中をおして・・・あの子は出て行った・・・それなのに・・・なんであなたがいるの・・・私の育てた娘は栞なのに・・・あなたのことは捨てたのに・・・どうしてあなたがいるのよ」

狂乱した紗千は浴衣を着たまま風呂場の掃除を始めるのだった。

「どうして・・・どうしてなのよ。死ねばいいの。栞を殺して私も死ねば許してくれるの・・・警察でもなんでも行けばいいの。でも・・・殺したのは栞じゃない。どうすればいいの。どうすれば・・・許してくれるのよ」

「どうしようもありません。なにもありません。私は母親なんです。あの子たちが大きくなるまで生きていたいだけなんです。私たち・・・ここにいるしかないんです・・・お願いします」

どうしようもなく・・・紗千は小春にしがみついた。

「娘に・・・娘に・・・また捨てられちゃった」

小春は紗千の手を振りほどく。

紗千の手についた石鹸を拭う小春。

そして・・・母を残して子供たちの元へ戻っていく小春。

暗くて狭い風呂場で・・・うなだれる紗千。

その心に疑問がわき出す。

「病気って・・・何よ・・・」

小春は寝入った子供たちの匂いを獣の母のように嗅ぐのだった。

五人家族になった植杉家+青柳家。

健太郎は呑気に子供たちと朝食を食べる。

庭にはコスモスが咲いている。

朝食抜きで仕事に出る小春に紗千は声をかける。

「いってらっしゃい」

「いってきます」

洗濯物を干していた紗千は・・・小春の遺した名刺に気がついた。

「病気ってなによ」

紗千は名刺を頼りに病院を訪れる。

そして・・・「再生不良性貧血」が「死に至る病」であることを知るのだった。

子供たちは・・・おばの去った部屋を探索する。

陸は栞から許しを得ていた。

子供たちは・・・見知らぬ機械を発見する。

望海はそれを聞いた。亡き父親の愛した歌を。

いま未来の 扉を開けるとき

悲しみや 苦しみが

いつの日か 喜びに変わるだろう

もしも誰かが 君のそばで

泣き出しそうになった時は

だまって腕をとりながら

いっしょに歩いてくれるよね

病院を出た紗千は・・・日傘をさして茫然と歩きだす。

そして・・・日傘を閉じて走り出す。

死んじゃう。小春が死んじゃう。私の最初の娘が死んじゃう。

紗千は小春の職場にたどり着く。

病をおして働く娘の姿をそっと窺がう。

「小春・・・」言葉にならない声で紗千は愛しい娘の名前を呼んでみた。

藍子は託児所から舜祐を取り出した。

「今夜はカレーにするよ」

「わあい」

「お母さんが作るよ」

「わああい」

「息子さん、先ほどお母さんがお迎えに来ましたよ」

良祐は一人になった部屋に戻る。

食事の用意が出来ない男。

そういう風に育てられた男。

何が悪いのか分らない男。

とりかえしのつかない人生から・・・逃げ出した栞。

その顔は変わらぬ微笑みをたたえている。

栞の新たなる保護者となったらしいおそらく父方の親戚であるマキも微笑む。

「元気そうね」

「ふふ・・・だって・・・ようやく・・・すべてから・・・逃げて来たんだもの・・・ふふ」

栞は謎の微笑みを返す・・・。

「何かあったの・・・」

「何にも・・・」

こうして、二人の娘は役割を交代したのだった。

妹は荒野に佇み、姉は母親の愛の海で溺れるのだ。

関連するキッドのブログ→第7話のレビュー

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2013年8月21日 (水)

男の話を聞かない女とボディ・スナッチャー/スターマン(福士蒼汰)

宇宙人は異世界からの使者である。

そういう意味では閉鎖社会に漂着した異邦人的な側面を持つ。

田舎にやってきた都会者もそうだし、都会にやってきた田舎者もそうである。

寒い国からやってきたスパイや、列島に生息する半島人や大陸人もそうだ。

つまり、宇宙人とは外国人の一種なのである。

当然、「侵略者」という「顔」は宇宙人のモチーフとしては普遍的なものと言える。

ジャック・フィニイ(1911-1995)の代表作「盗まれた街」は人間そっくりの宇宙人がいつの間にか人間にとってかわっていくという話で「ボディ・スナッチャー/恐怖の街」として映画化され、このアイディアは数多くのヴァリエーションを生んでいる。

チャイナ・タウンやコリアン・タウンを楽しむ人もいれば、それを憎悪する人もいる。

それをどちらかが正しいとは言えない。いわば「弱肉強食」と「平和共存」の交錯する世界だからである。

「自由にさせれば生活圏は浸食される」し「迫害すれば地下組織化して暗躍される」・・・異邦人は厄介な存在である。

しかし、他者と関わるというのは基本的にそういうことだ。

このドラマのヒロインのように「自分に都合がよければ些少の事には目をつぶる」というのはある意味、重要な教えを含んでいると言える。

で、『スターマン・この星の・第7回』(フジテレビ20130820PM1015~)脚本・岡田惠和、演出・堤幸彦を見た。この物語に登場する女性たちは地球の男を忌み嫌っている。これはピンク・レディーの「UFO」(1977年)に影響されているのだろう。彼女たちは「地球の男に飽きたところ」なのである。このドラマの視聴率が低迷しているのはきっと「そんなことはない」からなのだろう。そうすることでしか、嫌われた地球の男の傷ついた心は癒されないのである。

その代表例がスーパーマーケットやまと勤務の安藤くん(山田裕貴)で・・・確かにうざい感じであるが・・・上司の前川(石井正則)ほどのうざさではないし・・・あんまりといえばあんまりな仕打ちである。

安藤くんにまったく好意を寄せない交際相手の臼井祥子(有村架純)はとにもかくにも地球から脱出したいと希求している女の子である。

現代の若手女優の中で最も「かわいい女」にこんな「嫌な女」を演じさせるのもどうかと思うが、それでもかわいいのだからしょうがないな。

さて・・・星男(福士蒼汰)が憑依タイプの宇宙生命体であり、アクシデントの遭難者であり、生前のタツヤの死体を廃物利用していることが判明した今回である。

その本体はアメーバ系でもプラズマ系でもなくなんとなく霊体に近いものであることが推測される。

ある意味で異次元生命体と言えるだろう。

少なくとも、この次元で活動する時に有機生命体を必要とするということは・・・地元(出身星域)でもなんらかの有機生命体を家畜として利用している可能性はある。

そういう意味では「彼ら」にとって「地球人」は「家畜」以外の何物でもないはずだが、独自にある程度の「知性」を有する場合、それを準人類とみなす「博愛の精神」を有する可能性はある。

また、悪魔が人間に憑依した時にも見られる現象だが、フレームが「人体」であるために人間らしい感情を持ってしまうことも考えられる。キッドも時々、人間になったような気がすることがあるからである。

「転校生」のような男女の意識混濁の場合、女性化した男性は・・・陰茎を喪失することによって挿入したいという気持ちを喪失する可能性があるということである。

もちろん・・・身体の一部を欠損した障害者のようにもはや存在しない四肢があるように感じる違和感も生じるだろう。

とにかく・・・宇宙人Bは「星男」になることで・・・もはや完全なる宇宙人Bではなくなってしまったのだった。

もう一人の宇宙人Aに至っては40年間という人間のライフサイクルではかなり長時間を過ごしたために一種の人間化がかなり進行している。

彼らの乗り物あるいは本体に似た隕石が火球として出現した時に・・・AとBには差異が生じるがそれは個性というよりは人間化してからの経験時間差と考えられる。

そういう意味では・・・死産する運命の嬰児に憑依した宇宙人が「祥子」の可能性は大いにある。

最初から「宇宙人」だった「地球人」が物凄い帰巣本能に支配されていてもおかしくないのである。

だが・・・地球人として過ごした時間は宇宙人Aよりは短いが、星男よりは遥かに長いのである。

その地球人に対する違和感は悲しいほどに深いものである。

悪魔も時々、人間であることが哀しくなるのでその気持ちは分かる。ただし、本来、悪魔には哀しい気持ちなどないのだが。

まあ、とにかく、祥子が宇宙人Cであるかどうかは今後の展開次第だろう。

宇宙人Aと連れ添った重田(國村隼)の古女房(角替和枝)はただの隕石落下事件に際し、重田が「宇宙への帰還」を拒んだことにすっかり機嫌をよくするのだった。

一方で・・・若い女である祥子のおしかけ同棲は大目に見るらしい。

この辺の人情の機微が微妙と言えば微妙である。

一方、嫉妬深い女である宇野佐和子(広末涼子)は星男が「宇宙への帰還の可能性」について動揺したことが根本的に許せない。

こういう女の情をかわいいと感じるか鬱陶しいと感じるかは男の性格と女の状態に左右される。

佐和子はギリギリアウトなのではないかとキッドは考える。

そういう態度は全盛期のアイドルにだけ許されると考えるべきだからである。

本当にいい年して嫉妬されると辟易するよね。

まあ、それはそれとして・・・祖母の美代(吉行和子)も、親友の節(小池栄子)もうらやむ拾いものをしたのだから・・・よしとする佐和子だった。

なにしろ・・・本体が大王イカでもイカ大王でも頓着しない恐るべき「女」たちなのである。

宇野家は河原にキャンプに出かけ・・・楽しい時を過ごすのである。

そこで・・・おそらく、佐和子には腫瘍があり、それが星男の治癒力と関係してくる前フリがなされるのだった。

地球人としての経験が浅い星男には故郷が忘れがたいものらしい・・・星を見つめる星男を見つめて佐和子はそれを悟り・・・またもや動揺するのだった。

自分に・・・キャッチ&リリースの精神があるかどうかを問われるからである。

もしも・・・星男たちの目的が地球侵略にあるとすれば・・・その手先になる覚悟も問われるところである。

異邦人のスパイたちにとって・・・それは常套手段だからだ。

ま、この話はそういう風には展開しないと思いますけれど。

なにしろ・・・人々は宇宙人の言葉をうのみにするばかりなので。

吐き気が してくる

あたまを かかえて 地下鉄 乗り込む

正しい生き方 正しい死に方って

いったい誰が知っているの 

いったい何が教えてくれるの

関連するキッドのブログ→第6話のレビュー

シナリオに沿ったレビューをお望みの方はコチラへ→くう様のスターマン・この星の恋

富士山麓に隕石落ち過ぎっと驚かない方はコチラへ→まこ様のスターマン・この星の恋

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2013年8月20日 (火)

割らない西瓜割りと夏の辛い鍋とイタリアンのヤキソバと追いかけない男のSUMMER NUDE(山下智久)

動かない男には冷たい時代だ・・・。

いや、動かない男はいつでも冷遇される。邪魔だもんな。

動かない恋愛ドラマはどうだろうか・・・スタートから第7回まで使って・・・誰も動かないのである。

いや、脚本家は言うだろう・・・主人公は最初からヒロインが好きだったと。

ただ、それに自分で気がついていないだけなんだと。

それに・・・去って行った女のことをずっと想っていたじゃないかと。

その想いの虚しさから目が覚めて、ずっと寄り添ってくれた女に目を移したじゃないかと。

しかし、その女から別れを切り出されても何もしない男なのである。

戻って来た女にも何もしない男なのである。

我慢強いというのかもしれない。

しかし、結局、いつまでたっても何もしない男だとも言えるんじゃないか。

そうじゃなくて・・・普通の男なんだよと言うのかもしれない。

休業の危機にある海の家の料理人をスカウトしたし、病気の子供に夏の思い出を作ってあげたし、幼馴染の家族の危機を救ったし、今回は年下の仲間を送りだしたり、結婚できない女に優しくしたりしてるじゃないかと・・・。

だから・・・恋愛ドラマなんだろ・・・。

見たこともない夏を見せてくれるんじゃなかったのか。

第7話まで・・・恋愛しない恋愛ドラマの主人公・・・そこか・・・そこなのか。

彼は動かない男。

津波が来てもじっとしている男。

そして・・・いつでも待っている男。

退屈で退屈で・・・いらいらしたりはしない男。

だけど・・・みんなといればはしゃぐ男。

片田舎には珍しくない男・・・。

こんな主人公でもなんとかヒトケタ回避を維持している山下智久万歳って言えばいいのか。

コマンドを選んでください。

なにもしない(一択)・・・。

もはや・・・ゲームとして成立してないよね。

で、『SUMMER NUDE・第7回』(フジテレビ20130819PM9~)脚本・金子茂樹、演出・宮木正悟を見た。三年間待ち続けた理想の女・香澄(長澤まさみ)は「前の彼氏とよりを戻して愛を育み今回結婚することになりました」と報告にやってきて、十年間待ち続けた波奈江(戸田恵梨香)の気持ちをリセットしてしまう。十年の恋から醒めてしまったのである。理屈に合わないとか謂うでは女心はつかめないのである。波奈江から訣別宣言をされた朝日(山下智久)は戸惑うが特にどうということもなく淡々と日々を過ごし始める。お茶の間はもう呆れる他は無いのだった。

その頃・・・友達の好きな人を好きになってしまって東京に戻った夏希(香里奈)はイタリアン・レストラン「Giallo Blu」(青と黄=パルマFCのクラブカラー・・・パルマはイタリア北部の都市である)に再就職していた。北部イタリアはフランスに近いためにバターや生クリームを使った料理が多く、南部イタリアのオリーブ・オイルやトマトを使ったいわゆるイタリアンよりもフレンチに近い感じがある。その味の近いに南部イタリア系で修行したらしい夏希は四苦八苦しているらしい。ちなみにシェフは影山(中村俊介)は当然北部イタリア系で、夏希は習い覚えた腕を発揮できないのだった。

まあ、そんなこともないだろうがな。そういうことにしておくよ。

一方、波奈江と交際するつもりだった朝日は「突然の別れ」を切りだされ、お茶の間は戸惑うのだが・・・本人はまったくさばさばとしているのだった。

「お前、それでいいのかよ」と親友のタカシ(勝地涼)は問いただす。

しかし、朝日は「俺が三年間もうじうじしていたからいけないんだ」と奇妙な弁明をするのだった。早い話が・・・波奈江のことは「愛していなかった」ということである。

「やはり・・・あれか・・・お前・・・おっぱい星人なのか」とタカシに追及してもらいたいくらいであるが・・・タカシは簡単に納得するのだった。

とにかく・・・「俺はお前と付き合う」と宣言したにも関わらず、波奈江が引くと、けして追いかけたりはしない朝日である。

「去るものは追わずか・・・夏ばっぱの精神だな」

「誰が朝ドラマのヒロインの祖母で北限の海女なんだよっ」という会話ももちろんない。

「谷山酒造」の「みさき潮風ビール」の看板はあおい(山本美月)をモデルにしたものにチェンジしていた。

いつの間にか、付き合いだしたらしい駿(佐藤勝利)と麻美(中条あやみ)のカップル。高校一年生と18歳のフリーターである。結構、スリリングな組み合わせだ。

看板前でデートしていた二人はあおいに頼まれ、記念撮影をするのだった。

なんだか・・・「夏の青春模様」を感じたのはこのシーンだけだったな。

一方、東京の制作会社に就職が決まったヒカル(窪田正孝)はまたしても鬱屈してしまった。

ずっと好きだった波奈江を朝日に託したのに・・・二人は破局・・・しかもふったのが波奈江の方なので朝日を責めることもできないのである。

「幸せにするって言ったじゃないですか」

「でも・・・ふられたの俺の方だしな」

「それでも・・・今度は追いかけてふりむかせるくらいあってもいいじゃないですか」

「いやあ・・・とてもそこまでは・・・っていうか、お前だってチャンス到来だろ」

「ま、そうなんですけどね」

ヒカルは激しく妄想して動揺するのである。

しかし・・・朝日の本題は「送別会やるから、絶対来いよ」なのだった。

「結局、みんなで飲みたいだけでしょ・・・俺はそういう田舎の青年団的なしがらみにサヨナラするんで・・・送別会なんていりません」と意地をみせるヒカルである。

(気の合った仲間と緩い感じでワイワイ騒ぐ)・・・それがそんなにいけないことなのか・・・と朝日は思うのである。

とにかく・・・このドラマにおける朝日は「それこそが人生の醍醐味と思う男」なのだ。

月9の主人公がそれでいいのか・・・と思うが・・・そうなんだから仕方ないよね。

しかし、朝日をふった波奈江は「それ以前の自分」をなかなか取り戻せないのだった。

「自分」のことがよくわからなくなってしまったらしい。

まあ、お茶の間にもよくわからないものな。

朝日に対して他人行儀な感じでしか振る舞えなくなってしまったのだった。

まあ・・・心の病だからな。

「よお」と朝日が挨拶しても・・・「おはこんにちこんばんわ」状態なのである。

仕方なく・・・親友の夏希に相談するために今週も上京するのである。

「なんだかギクシャクしちゃってさ」

「そうなんだ」

「敬語になっちゃうし・・・」

「まだ気があるんじゃないの」

「それはないの」

結局、朝日がフリーでいることを夏希に伝えるための段取り的上京なのである。

みさき市に戻って来た波奈江は喫茶店に格下げしたらしい「港区」で朝日と再会する。

「よお・・・」

「こにやばんいえい」

「どうした・・・」

「夏希にあってき・・・ました」

「なんで・・・敬語」

「夏希はレストランで働いています」

「なんで・・・語学教材風・・・まあ・・・それはいいとして・・・ヒカルの送別会にヒカルをさそってくれよ・・・俺が誘ってもダメなんで」

「・・・かしこまり・・・」

結局、波奈江に誘われれば・・・来るヒカルだった。

朝日は写真館に見合い写真を撮りに来た女(大久保佳代子)のことを思い出す。

そしてなんとなく・・・夏希に電話をかけるのだった。

「今日さ、結婚詐欺の被害者に会ってさ・・・なんとなく夏希のことを思い出した」

「私は・・・結婚詐欺にはあってないぜよ」

「新しい職場はどう・・・」

「それなりに大変よ・・・下っ端からやりなおしだし・・・」

「またまた・・・あのヤキソバが作れたら天下無敵でしょう」

「イタリアンなめんなよ・・・」

「そうかな・・・最高だと思うけど・・・」

夏希と話すと・・・何故か心が安らぐ朝日だった。

ひょっとすると・・・朝日には地元の人間を幸せにしなければいけない責任感みたいなものがあって・・・余所者にはそういうものがない分、気楽になれるのかもしれない。

なぜなら彼はじっとして動かない男なのである。

さっそく、ヒカルに電話する波奈江。

「何してた」

「テレビ見てた」

「何やってるの・・・」

「ATALUの劇場版のコマーシャル」

「もうやってんだ」

「堀北真希が踊る大捜査線のキョンキョンみたいなことになってるよ」

「梅ちゃんとあまちゃんが交差してんのね」

「梅ちゃん・・・昔、朝日に似ている人とドラマやってたよね」

「クロサギ?」

「いや・・・波奈江に似てる人が出てた方・・・」

「ああ・・・野ブタ。か・・・」

「なんか用?」

「あんたの送別会なんだから・・・出なさいよね」

「俺はそういうの卒業して、東京へいくんだ」

「だから、卒業式でしょ・・・」

「お前こそ・・・朝日先輩のことはいいのかよ」

「私もね・・・卒業するんだ」

「よく・・・わからないな」

「そういうエキセントリックな設定なのよ・・・奇をてらいすぎてすごく地味になっちゃってるのよ」

「・・・ありがちだよねえ」

おそらく日曜日なのだろう・・・。

甲子園が始っているのかどうかもわからない、月遅れのお盆が終わったのかどうかもわからない・・・夏の日曜日。

暑い時に暑いうどんを食べるというのは一種の奇をてらった暑気払いだが・・・定番といえば定番で、送別会に鍋を囲むのも定番と言えば定番である。昼間から鍋というのはちょっとスカシている。

そういうわけでベタなのか奇抜なのかよくわからない感じの送別会にヒカルはやってきた。

波奈江に誘われればやってくるヒカルにあおいは身の置き所がない感じなのである。

呼ばれていないのにやってくる駿と麻美。

このドラマは童貞と処女が多いわけだが・・・あえてわけると・・・。

経験済み→朝日、あおい

未経験→波奈江、タカシ、ヒカル

不明→駿、麻美

・・・ということになる。まあ、駿とか麻美とか何をやってもフレッシュでとてつもなく楽しい年頃なんだよなあ。なつかしいなあ。遥かなり20世紀、遠い遠い昭和だなあ。

「ロンバケ」とか「ビーチボーイ」とか「橋幸夫」とかまったく知らない世代が見れば楽しいドラマなのかもしれないなあ。

でも、それだと視聴率はとれなくて当然だよなあ。

・・・などと回想にふけっている間にも激辛鍋を食べ終わっても汗ひとつかかないリアリティーの欠如したメンバーたちは砂浜に出るのだった。

西瓜を食べてた 夏休み

水まきしたっけ 夏休み

ひまわり 夕立 せみの声

全員、水着ではない上に・・・ヒカルは長袖着用である。なんだ・・・日焼け対策か。

それとも刺青お断りですかーーーっ。

それとも改造されて金色のうろこが・・・いつの時代だよ。

前座のタカシが水没した後で・・・真打ヒカル登場である。

目隠しされたヒカルは・・・なんとなくはしゃぎ出す。

ベタだけど目隠しされたヒカルの目線はほしかったよな。

「右、右・・・」

「左、左・・・」

「前・・・前・・・」

微笑むヒカルの口元・・・。

「回れ右・・・」

「なんだよ・・・回れ右って」

「そこで、一歩下がる」

「なんだよ・・・一歩下がるって」

「いいからいいから・・・そこでしゃがむ」

「なんだよ・・・しゃがむって・・・落とし穴は勘弁してよ・・・あ」

思わず目隠しをとるヒカル。

そこにはヒカルの名前入りのディレクターズ・チェア(撮影時に監督が座る椅子)があった。

「・・・こういうのいいから・・・」

「いつか、映画を撮る時に・・・すわってくれよ」

「出世しても俺たちのこと忘れんなよ」

「あたし・・・死体の役とかなら友情出演してあげるよ」

「おれ・・・美人芸者とかに殺される役がいいな」

「地元の老舗の海苔屋の若旦那なら俺ね」

「私は入浴しても脱ぎません」

「どういうドラマなんだよ」

「ヒカル・・・頑張って行って来いよ・・・そんで・・・ダメだったらいつでも帰ってこい」

「プレッシャーかけといて・・・最初から期待してない風なのはどうなんですか」

「だってな・・・」

「だってねえ・・・」

浜日傘 ゆらゆら

すらりとのびた 長い足

蒼い夏が 駆けていく

女の子って やっぱりいいな

「だから・・・いやだったんだ・・・送別会なんて・・・」

泣きじゃくるヒカルだった。

帰り道・・・朝日と波奈江は仲良く肩を並べる。

「楽しかったなあ・・・やっぱり、朝日が仕切るとはずさないよね」

「お・・・もどったな」

「うん・・・私はさ・・・こうやって十年後も過ごしていたい・・・それだけなんだ・・・」

「波奈江・・・それは無理なんだよ」

「どうして・・・」

「もう・・・みんな子供じゃなくなるからさ・・・」

「だって・・・もう・・・私たち子供じゃないでしょ」

「なるほど・・・そういう考え方もあるよねえ」

大人にならない子供、子供のままの大人があふれるこの世界なのである。

ヒカルはあおいに別れ話を切り出した。

「ごめんね・・・君のことはどうしても愛せない」

「ひどいな・・・でも、最初からそうじゃないかって思ってたら別にいいよ」

「すまない・・・」

「そのセリフは止めて・・・死んじゃう可能性があるから・・・」

「俺はジャックじゃないよお」

笑顔で別れる二人。しかし、あおいは唇をかみしめるのだった。

涙があふれる 悲しい季節は

誰かに抱かれた夢を見る

泣きたい気持ちは言葉にできない

今もこの胸に夏は巡る

そんなあおいの気持ちは全く考えない波奈江はヒカルに電話をかけるのだった。

「あした・・・見送りに行こうか」

「いいよ・・・」

「遠慮しないでよ」

「俺は・・・ずっと・・・お前を言いわけにしてきたんだ」

「・・・」

「お前が好きだから・・・この街を出ていかないんだって・・・」

「・・・」

「でも・・・ただ・・・臆病で・・・都会に出るのがこわかったんだ・・・夢を追いかけない理由をお前のせいにしてたんだ」

「・・・」

「いってくるよ・・・波奈江」

「いってらっしゃい、ヒカル」

波奈江は・・・持ち駒が一つもなくなった棋士のような気分を味わった。

「なんだか・・・みんな大人になっちゃうな・・・」

「ま・・・遅いくらいだけどね」と港区のマスター(高橋克典)は思うのだった。

四十五歳でようやく父親になった男である。子供が成人したら六十五歳だぞ。

夏ばっぱは六十六歳で孫がもうすぐ二十歳だというのに・・・。

まあ・・・人生いろいろだけどな。

一生、子供の味を知らずに過ごす人もいるわけだしな。

この後・・・波奈江は就職活動に目覚めるらしい。社長令嬢は仕事ではないと気がついたのだった。いや、後継者は立派な仕事だけどね。

勢津子(板谷由夏)はめっきり予言をしなくなっていたのだった。

妊娠して出産して巫女属性はおこがましいからである。

夏希は・・・調子に乗ってスーパーに買い出しに行き、目玉焼き焼きそばを「まかない」で作って職場の人気を勝ちとるのだった。

ま・・・自腹なら・・・ひっこしそばみたいなもんだよな。

もちろん・・・「まかない」としては邪道である。

せめて・・・ソース焼きスパゲッティーなら・・・まずそうじゃねえか。

一方で朝日はマンションの女・・・ではなくて食堂の女の働く姿をお見合い写真とすることを提案する。

その後の女の行方は杳として知れない。

お互いが仕事に精を出す・・・二人の男と女。

機は熟したらしい・・・。

さりげなく夏希に電話をかける朝日。

しかし・・・夏希は・・・店長から飲み会に誘われていた。

鳴る電話・・・出ない電話。

奇をてらった「わり」にはこれ以上なくベタな「つづく」なのだった。

・・・暑かったけど、西瓜おいしかったね・・・夏なのだった。

関連するキッドのブログ→第6話のレビュー

Sn007 ごっこガーデン・残暑お見舞い西瓜大会会場。エリ熱中症続出の日本列島のファンの皆さん、H☆C水着写真集は西瓜付きで発売中でス~(絶対に問い合わせないでください)・・・。見たこともない夏第二段は・・・フリーになったところで・・・何気に夏希に電話する朝日・・・脱力でス~、二週連続脱力でス~。じいや~、スイカもっと切って~。ジュースにして~まこ重盛~・・・じゃなかった光くん、言っちゃったジョー。波奈江は明らかにターゲットを光くんにチェンジしている気配~。来週は波奈江衣装を確保せねばぼぎゃんでしゅ~・・・じいや、まこのお見合い写真はどうなってますか・・・なになに・・・二十歳になったらアラーキーが撮ってくれるのでしゅか~・・・こっぱずかしい感じになりそ・・・くう暑いけど・・・夏休みも終わりだね・・・最後は・・・ガッチャマンかあ・・・みのむし今夜はアレですよ・・・でもアレちゃんは来週かも・・・ルルルシャブリみなさん、すっかりサマーヌードのレビューしなくなっちゃったのでありましたーーーikasama4クーラー故障中、修理中熱中症発症、クーラー故障中ちーずおいたわしやmariただ今、取材中です・・・くすん、HD不調です・・・朝日のアドバイスで新しい職場にとけこめた夏希・・・そのためにややこしいことになったりしそうですね

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2013年8月19日 (月)

明治五年十二月二日の翌日は明治六年一月一日となったのでごぜえやす(綾瀬はるか)

元佐賀藩士の参議・大隈重信によれば・・・太陽暦(グレゴリオ暦)の導入は新政府の月給制度と財政逼迫に理由があったという。

すなわち、旧暦のままで明治六年になると閏月があるために・・・一年は十三ヶ月となる。

つまり・・・月給を十三回払わねばならなくなるのである。

そのために・・・一年十二ヶ月である太陽暦の導入は急務だったのだ。

こうして・・・西暦1973年と明治六年は完全に一致することになる。

日本の西洋化はこの時、一つの頂点に達したと言える。

これに先立ち、陰陽寮の陰陽頭・土御門晴雄は太陽暦の導入に異を唱えたために・・・その死の直後、明治三年、陰陽寮そのものが廃止されてしまう。ちなみに和宮付きの大奥女中・土御門藤子は晴雄の妹にあたる。

そうした地位をもたらすバックボーンが突然、排除されてしまったのである。

こうして・・・明治とともに陰陽師は消えたのだった。

近代国家の樹立を図る新政府の革命家たちは・・・かくの如く性急に事を進める。

その弊害は当然、露わとなり・・・時代に取り残された旧士族の鬱屈は西郷隆盛を「破裂弾の上で昼寝する」事態に追い込んでいくのだった。

で、『八重の桜・第33回』(NHK総合20130818PM7~)作・山本むつみ、脚本・吉澤智子、演出・一木正恵を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は見捨てられた京都の街の復興に取り組む清濁あわせ飲む男、牛肉大好き京都府大参事・槇村正直描き下ろしイラスト大公開でお得でございます。束の間の休息期を経てまたもや登場人物大虐殺モードが押し寄せているのですが・・・明治篇は結構登場しないまま殺されていく人物が大量発生しそうですな。さすがに西郷隆盛はあるでしょうが・・・江藤新平はどうなることやら・・・でございますなーーーっ。突然の脚本家登場もびっくり仰天でしたけど~。しかも「黒の女教師」とか「紅蓮女」の人だし~。それはそれとしてあくまでマイペースでお願い申しあげます。熱中症を再発しないようにご注意くださりませ~。

Yaeden033 明治六年(1873年)一月十日、徴兵令が施行される。これによって旧武士階級によって構成され、西郷隆盛が指揮をとる近衛兵団は無用の長物と化す。しかし、富国強兵のためには平民の徴兵化は避けて通れない道だった。士農工商の廃絶を進めながら士族軍隊を組織する西郷隆盛の矛盾が炸裂するのだった。二月、仇討禁止令布告。四月、日清修好条規が発効する。李氏朝鮮との国交問題を解決するために宗主国と国交を締結するというアクロバットだったが、それでもなお。朝鮮は門戸を開こうとはしなかった。そのために「征韓論」が台頭することになる。日本は清国との琉球問題、ロシアとの北方問題、英国との小笠原諸島問題という領土問題を抱えており、現代もほぼ似たような状況であることがなんとなく微笑ましい。ここから日本は1945年までひたすら領土を拡大して行き、ほとんどすべてを失うわけである。九月、岩倉使節団が帰朝。留守政府との間で軋轢が生じる。全国二十八支店を持つ商社・小野組が京都から神戸と東京へ転籍を求める。税収入の減収を恐れる京都府はこれを認可しなかった。ある意味で行政と司法が癒着している結果である。このことに三権分立主義者である司法卿・江藤新平が激怒する。しかし、十月、征韓論を巡る政変が起こり、薩摩の西郷隆盛、土佐の板垣退助らとともに佐賀の江藤新平も下野することになる。小野組事件は膠着状態になるが・・・批判を恐れた文部卿・木戸孝允は十二月、上京した大参事槇村正直を拘束、懲役100日もしくは贖罪金30円を命じ、漸く事態収拾の目途がつく。翌年、小野組の送籍は果たされることになるのだった。

八重は九条殿女紅場の出頭女となっていた。女紅とは女工のことでいわば女性のための職業訓練校である。出頭女とは女将のような存在である。

庶民を国家の歯車として使用するために能力を選抜して鍛錬する。これは新政府の基本的な方針であった。そのために様々な教育改革が試行錯誤されていた。女紅場も全国各地に作られていた。下層階級からの人材育成の中で、女性の能力向上は身分の上下を問わず急務だった。儒教的な男尊女卑の枠組は貴重な人材を埋没させる恐れがあるという発想である。ただし、それは人権的な立場ではなく、あくまで国力の向上を主眼とするものである。

そのために女紅場は戦災孤児から芸妓、そして武家の娘にいたるまで才能あるものが集められ教育を受けたのである。

京都の女紅場は後に京都府立第一女学校(現在の京都府立鴨沂高等学校)となる。

八重は名目上は織機の講師であったが・・・もちろん、実質は科学くのいちの中忍だった。

京都のくのいちは九条系藤原氏の歴代唐橋がすべている。

実質上のくのいちの上忍である最後の藤原長者・九条道孝の姉・英照皇太后が遷都によって東京に去ったために・・・八重は京都くのいちの長となっている。

そのために・・・京都くのいちは科学くのいちとして養成されることになったのである。

八重は会津くのいちを何人か呼び寄せるとともに・・・戦火に焼けた京都の街から孤児や舞子の中から才能あるものを九条河原町屋敷に集め、仕込みを開始したのであった。

科学忍者隊が英国諜報部と提携したために外国語教育は英語となり、基礎教養としての読み書きそろばん、そして女工としての技能習得、さらには忍びとしての訓練が幼い女たちに課せられたことは言うまでもない。

死霊と化した坂本龍馬の指導を受けた八重は・・・おそるべき女忍びの養成所を京都に出現させていたのだった。

「これがミシーンというものでがんす」

「ミシーン・・・」

「洋服を裁縫するのに便利なカラクリだ」

「洋服どすか」

「んだ・・・和服は戦いには不向きだ・・・戦のための装束は洋服に限る。わだしも洋服を着て会津の戦を戦いやした。これからは軍服の時代でがんす」

八重は見本として自分がモデルとなった数枚の写真を取り出す。

それは近代的忍び装束と言える野戦服だった。

「おかしな着物や」

「官軍さんはこんなの着てはった・・・」

「まずは下ばきから作ります」

「下ばき・・・」

「くのいちには必需品です。これを履けば月のさわりが来た時も、隠身の術が楽になるのでがんす」

「・・・ああ・・・」

女たちはその仕組みを即座に理解した。

「和服の時もはきますか」

「それは無粋というものもおるのでがんす」

仕込みを初めて一年、八重は幼い女たちの中から五人のくのいちを選抜した。

元新撰組隊士が京都の芸子に産ませた女、鳥羽伏見の戦いで親を失った女、会津の百姓の娘、河原乞食の娘、尼寺にひきとられていた流れものの子であった。

「これから・・・そなたたちのコードネームは・・・月の輪、三日月、新月、水月、そして月光じゃ・・・」

「・・・」

「これから・・・大和の国は見たこともない戦の時代に入っていく。その中で・・・民草が幸せに生きていくのは難しいものとなるじゃろう」

「・・・」

「わだしたちは・・・みな、戦で親兄弟を失ったものじゃ・・・それを悔いても始らぬ・・・」

「・・・」

「どうあっても戦はなくならねえ・・・ならばどうする・・・」

「戦に負けぬことでございます」と月の輪が言った。

「そうじゃ・・・そのために・・・お国は艱難辛苦を乗り越えねばなんねえ・・・わだすはその手助けがしてえ・・・みんなにはその力になっでもらいてえ・・・ええがな」

「はい・・・」・・・若きくのいちたちは決意をみなぎらせるのだった。

「よし・・・まずは・・・しのび短筒の撃ち方からじゃ・・・これはコルト・ドラグーンという拳銃をわだしがくのいち用に改造したものでがす」

八重は黒く塗った拳銃を取り出した。

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2013年8月18日 (日)

あまちゃん、二十重ね目の土曜日(宮本信子)

さて・・・ついに第二十週である。

複雑な時間軸が展開するこのドラマ。

ヒロインの登場は2008年夏であったが・・・。

ヒロインの母が上京した1984年に遡り・・・さらにはヒロインの祖母が海女になった1960年代に遡る。

ちなみに・・・北三陸市で「橋幸夫ショー」の行われた1964年(昭和39年)にはヒロインの祖母は19歳ながら・・・人妻である。すでに天野忠兵衛と結婚して天野夏になっているのだ。

つまり・・・「道ならぬ恋」に溺れたのである。

そして・・・1966年にヒロインの母が誕生するのだった。

ヒロインの母のずば抜けた歌の才能は・・・。

まあ・・・そういう野暮なことを問わないのが田舎のルールだったりするわけである。

港々に女ありの・・・古き良き時代よ。

タレントが地方で女をたらして・・・堕ちた偶像になったりするのは・・・吉田拓郎あたりから・・・くらいかあ。

今じゃ、下手すれば逮捕されちゃうからな。

さて・・・下衆な話はさておき・・・。

第二十週は五週ずつで割ると1~5週(起)、6~10週(承)、11~15週(転)、16~20週(結)ということで結の締めにあたる。6話ずつで120話となる。十二分割でも還暦を折り返して元に戻る計算である。

つまり・・・まさに話は一巡したのである。「祖母危篤」で始った話は・・・再び「祖母危篤」に戻ってきたのだった。

そしてそれは「嘘から出た誠」を実でいくのだった。

そのために今週は特異な構成になっている。(月)(火)はヒロインの祖母の秘話でフリオチが構成され、(水)(木)はヒロインの親友の問題解決のフリオチ、(金)(土)は終盤の新展開へのフリとここまでの壮大なオチという2x3の序破急の構成になっている。

構成の基本は分割であるが・・・ここまで複雑な構成のテキストは前代未聞なのである。

ひょっとしたら・・・クドカンは「あまちゃん」を書くために生まれてきたのではないか・・・と妄想するほどだ。

五回目の起承転結のサブタイトルは次の通り。

第17週「おら、悲しみがとまらねぇ

第18週「おら、地元に帰ろう!?

第19週「おらのハート、再点火

第20週「おらのばっぱ、恋の珍道中」

波乱に満ちたアキの青春、十八歳の日々はまもなく終ろうとしている。アキはもはや社会人なのである。

夏が終われば秋にはアキは十九歳。そして・・・2011年、アキが二十歳になる頃には・・・。

で、『連続テレビ小説・あまちゃん・第20週』(NHK総合20130805AM8~)脚本・宮藤官九郎、演出・桑野智宏を見た。2010年夏、娘・天野アキ(能年玲奈)をトップアイドルにすることに目覚めた春子(有村架純→小泉今日子)は娘のための芸能事務所・スリーJプロダクションを立ち上げる。アキの現場担当マネージャー・水口(松田龍平)はアキの売り込みに成功し、アキは漸く、GMT5からの中退のショックを乗り越え、同時に初恋の人・種市(福士蒼汰)と交際を開始するのだった。仕事と恋愛の両立というアイドルとしては掟破りの展開に全国のお茶の間を阿鼻叫喚に巻き込みつつ・・・物語は急展開を迎えるのだった。祖母・夏(宮本信子)の「六十六歳で初めての上京物語」がスタートするのである。

月曜日 星よりひそかに・・・雨よりやさしく・・・(徳永えり)

八月の月遅れのお盆の頃・・・雨にぬれた上野駅前大歩道橋に夏とお伴の大吉(杉本哲太)が到着したのだった。春子から母・よしえ(八木亜希子)が東京にいると知らされたユイ(橋本愛)はまたしても東京行きを断念したのだった。

さすがに長旅で疲れた感じの夏ばっぱを出迎えたアキと父親の正宗(尾美としのり)は早速、タクシーで世田谷の黒川家ことスリーJプロダクションに向かうのだった。

「いやいやいや、大したもんだべ・・・スケバンの春子が東京の世田谷の一等地に・・・こんな物件を持ってなあ・・・正宗さん・・・ありがとうごぜえやす」

未だに本当に離婚したのかも定かではない正宗と春子だが・・・仮に離婚したとすると・・・マンションの名義は春子で・・・ローンの返済は正宗という恐ろしい事態さえ想像できる言動である。

しかし・・・正宗の宿敵、大吉は・・・。

「ここが正宗と春子の愛の巣か・・・ローンなんぼのこってんの・・・」

「まだ十年なんで利息払ってるところですが・・・一応三十年ローンで」

「じぇじぇじぇ・・・後二十年かあ・・・ゴールは遥か彼方・・・南無阿弥陀仏」

「すまねえな・・・田舎者はやっかみが強くていけねえ・・・大吉も悪気はねえんだ」

夏がフォローするのも構わず大吉は駄々をこねるのだった。

「悪気だけだ・・・悪気の超特急だ・・・」

夏、春子、アキ、正宗は・・・血縁ある家族である。この「お客様」を苦笑しながらもてなすしかないのだった。

とにかく・・・夏は居住まいを正して土産のゆべしと海女の手ぬぐい一本目を正宗に渡し、正宗はありがたく受け取るのである。

その頃、お盆休みの北三陸地方。暇を持て余した海女さんたちは・・・喫茶リアスで・・・ミサンガを編むのだった。その中には何故か・・・磯野先生(皆川猿時)や観光協会の保(吹越満)も混じっている。

「今頃、夏ばっばさ・・・東京に着いたべ」とかつ枝(木野花)・・・。

「なして・・・ユイちゃんは東京さ、行かなかったんだ・・・」と事情を知らない保が余計なことを言う。

「んだんだ」と追従する弥生(渡辺えり)・・・。

「お店もあるし・・・お父さんの事も心配だし・・・」と言葉を選ぶユイ。

しかし、弥生の夫・あつし(菅原大吉)は「足立先生なら元気で昨日もカラオケでALFEEなんか歌ってたけどな」と追及する。

「お店だって・・・おらたちにまかせてくれればいいのに・・・どうせお盆休みでこんな感じだべ」と美寿々(美保純)も探りを入れる。

みんな・・・なんとなく・・・察しているのである。

「行きたくねえって言ってんだから・・・そっとしといてやれや・・・」

ヒロシ(小池徹平)とユイの姉妹の会話を聞いてしまった勉さん(塩見三省)は優しく話題を打ち切るのだった。

春子を残し、外出した夏一行が最初に訪れたのは・・・原宿の純喫茶「アイドル」だった。

待っていたのは安部ちゃん(片桐はいり)である。

手を取り合って再会を喜び合う二人。

夏は安部ちゃんのまめぶ振興のその後を聞く。

「さっぱりだ・・・B級グルメコンテストでは二年連続で横手焼きそば(秋田県)に負けたし・・・アキちゃんに・・・せっかくテレビでとりあげてもらったのに・・・三又又三は箸もつけなかった・・・」

「ハシ・・・」と何故かギクリとする夏ばっぱだった。

「私は嫌いじゃありませんよ」とすっかり・・・春子ファミリーの一員になってるらしいマスターの甲斐さん(松尾スズキ)が口を挟む・・・。

「甘いだんごさえ・・・除ければけんちん汁・・・だんごは冷やしてスイーツ」

「こちらさんは・・・」

「マスターの甲斐さん、おら、仕事ねえ時はここでウエイトレスさしてるだ」

「春ちゃんが若い頃にもここで働いてんだって」

「そりゃ・・・まあ・・・母子二代でお世話になって」と二本目の海女の手ぬぐいを贈る夏ばっぱだった。

天野家にも礼儀正しい人がいたのか・・・と感動する甲斐さんだった。

そして・・・翌日・・・安部ちゃんがたてたスケジュールで東京観光をする夏御一行様。

そのハードなこと・・・。

東京都庁、新宿御苑、国会議事堂、皇居、銀座、歌舞伎座、スカイツリー、お台場、デイズニーランド、幕張メッセ、八景島パラダイス、浅草、上野、アメ横・・・なんか混じってるぞ。

とにかく・・・そんなの無理なハードスケジュールで無頼鮨についた時は一同疲労困憊である。

しかし・・・さすがは夏ばっぱ・・・脅威の回復力で若者たちを「だらしねえ」と一喝するのだった。

そして「明日は・・・アキと別行動だ」と宣言するのだった。

「どっか・・・行きたいところがあんだべか」と問うアキ。

「実は・・・おらが東京にきた目的はただ一つ・・・逢いてえ男がいるのさ」

「じぇじぇじぇ・・・」

「春子には内緒だぞ・・・」

思わず耳をふさぐ大吉と正宗だった。

「内緒にできる自信がないので聞かねえことにする・・・」

「僕もです・・・」

「どうして・・・ママには内緒なんだ」

「そりゃ・・・おめえ・・・人妻の道ならぬ恋だからな・・・娘が聞いたら気い悪くするべ」

「じぇじぇじぇ」

「誰なんですか」と安部ちゃん・・・。

「ここだけの話だど・・・ユキオだ・・・」

同じ頃・・・リアスでも同じ話゛展開していた。

「ユキオって誰だ」

「鳩山・・・」

「青島・・・」

「大物だな・・・」

勝手な推測が飛び交う中・・・勉さんは磨いていた琥珀を取り落とす。

和田勉と一字違いの小田勉はタイムマシンに乗って昭和39年の北三陸にタイムトラベルするのだった。カルビーがかっぱえびせんをロッテがガーナチョコレート発売したその年・・・東海道新幹線が開業し、東京オリンピックが開催され、シンザンが三冠馬となって日本は希望に満ちていた。そして北三陸市の体育館では橋幸夫ショーの興行がうたれたのだった。

会場にかけつける当時十七歳の高校生だった勉さん(斎藤嘉樹)・・・会場では司会(マキタスポーツ)が芦屋雁之助が「特製ヱスビーカレー」のCMで流行させた「インド人もびっくり」というフレーズでそこそこ笑いを取っていた。

ステージに立つのは輝く白い衣装の二十歳の橋幸夫(清水良太郎)である。

「それでは・・・ここで・・・市民を代表して海女のなっちゃんから・・・花束の贈呈です」

緊張した面持ちで登場した花束を抱えた十九歳の夏(徳永えり)・・・ヤング春子(有村架純)に続いて驚くべきキャスティング力である。もう、夏ばっぱの若い頃はこうだったとしか思えないのだった。

「お嫁さんにしたいくらい・・・かわいい人ですね」と話す橋幸夫。

思わず頬を染める夏だった。

「次の歌は吉永小百合ちゃんと歌った歌ですが・・・今日はなっちゃんと歌いたいと思います」

「え・・・私・・・」と驚く夏。

生バンドの演奏が始り・・・橋幸夫は優しく夏をリードするのだった。

あの娘はいつも歌ってる

声がきこえる 淋しい胸に

涙に濡れたこの胸に

言っているいる お持ちなさいな

いつでも夢を いつでも夢を

その姿は勉さんの脳裏にありありと蘇る。

「夏さんは・・・それからしばらく北三陸のアイドルだった・・・」

「凄い・・・夏ばっぱが北三陸の元祖アイドルだったんだ」と感心するユイだった。

天野家女三代アイドルの道・・・。

親友のアキにアイドルの資質ありと見抜いたユイの目に狂いなしなのである。

その頃・・・無頼鮨では・・・。

「海女として地道に生きて来たおらのただ一度の道ならぬ恋だ・・・」

「その反動で春子さんは派手好きな娘に・・・」

「橋幸夫って誰・・・」

と血は争えないアキと正宗の父娘だった。

「でも・・・さすがに橋幸夫に会うのはハードルが高いべ・・・」と誰もが思ったその瞬間。

入ってきた客を見て「じぇじぇじぇ」と叫ぶ大吉なのだった・・・。

火曜日 はかない涙を・・・うれしい涙に・・・(薬師丸ひろ子)

無頼鮨に入店したのはもちろん・・・鈴鹿ひろ美(薬師丸ひろ子)である。

「なんだ・・・鈴鹿さんかあ」とアキ。

「なんで・・・いきなりガッカリされなきゃいけないの」と鈴鹿。

「だって・・・この流れだとユキオじゃねえかって思うべ」

「流れってなによ・・・ユキオって誰よ」

「この人・・・おらのばあちゃん・・・」

「まあ・・・」

「孫が大変お世話になりまして・・・ありがとうごぜえやす」

「こちらこそ・・・お噂はかねがねアキちゃんから・・・現役で海女をなさっているそうですね」

「そうでがす・・・」

「まあまあ・・・ビールでいいか」とアキ。どうやらアキは・・・すっかり天狗になっているらしい。

しかし・・・鈴鹿は衝立から顔をのぞかせた大吉に警戒心を抱くのだった。

「二回目ですよね」

「それが・・・何か」

「二回も会うなんて運命でないべか」

「私の行きつけの店に・・・あなたが二回来ただけです・・・あ、電話しないで」

「いやいや・・・声を聞かさねえと・・・田舎者は信用しねえから」

「田舎者とはしゃべりませんっ」

蒼ざめる田舎者一同・・・。

「いえ・・・そういう意味じゃなくて・・・おほほほ」

「あははは」と応ずる田舎者ではないらしい正宗だった。

アキは完全に田舎者組らしい。

「しかし・・・どうしたら・・・橋幸夫に会えるべ」

「幸夫って・・・橋幸夫さん」

「いいから・・・鈴鹿さんは田舎者の中に入ってくるなって・・・」

「あの・・・橋さんを御存じなのですか・・・」と身を乗り出す夏ばっぱ。

「46年前に一度会っただけなんだと・・・」

「まあ・・・ロマンチックね・・・橋さんとは映画で共演したことがあります」

「じぇ」

「潮騒のメモリーでね」

「じぇ・・・橋幸夫って俳優さんだったのか・・・」

「主に歌手の方よ・・・」

正宗がタブレットを操作すると映画「潮騒のメモリー」には確かに配役に「橋幸夫(友情出演)」と記されている。

「すんげえ・・・橋幸夫と鈴鹿さんは友達なのか。じゃ、友達の友達は友達ってことでおらと橋幸夫も友達かあ」

アキと自分が友達ということは否定しないで・・・友情出演について説明するのだった。

「本来なら主演するような大物俳優に脇役で出てもらう場合、特別出演っていうことでお願いするの。さらに予算の関係で・・・それなりの出演料を用意できない場合、友情に免じて笑ってくださいということで友情出演をお願いするわけ。この場合、お願いするのは出演者とは限らないのよ。監督とか、プロデューサーとかね」

「・・・」説明されてもよくわからないアキだった。

「でもね・・・私、大失敗しちゃったのよ。潮騒のメモリーには他にも由紀さおりさんも出ていただいているんだけど・・・初日の舞台挨拶で・・・新人なので私が先に出て、お二方を呼びこむ段取りで・・・まず由紀さん・・・それから橋さんを呼び込もうとして・・・緊張のあまり・・・私としたことが・・・ゆきはしおさんですって・・・それ以来・・・橋さんとは疎遠になっちゃって」

「なんだよっ」と大女優をののしるアキだった。

完全なる天狗である。

しかし・・・鈴鹿は・・・「便乗して昔のことを詫びる」と言う理由で・・・夏と橋幸夫を合わせるセッティングをしてくれるのだ。

このあふれんばかりの鈴鹿の好意にお茶の間の好感度が鰻登りであることは間違いない。

御対面を翌日に控えてウニ二千個を数えてなお眠れぬ夏ばっぱ。

「なんで・・・そんなに興奮してるんだ」とアキ。

「だって・・・もし・・・明日ナニかあったらと思うと」

「66歳と67歳でなんか・・・あんのか」

「おめこそ・・・どうなんだ」

「え・・・」

「種市くんとだよ・・・」

「じぇ・・・」

「店でアイコンタクトさ・・・とってたべ・・・ばっぱにはお見通しだ・・・」

「じぇじぇ・・・ママには内緒にしてけろ・・・」

「どうするべ・・・い・・・・・・いわねえ」

安堵するアキだった。

そして・・・当日。ウニの意匠の和服を着て精一杯めかしこむ夏ばっぱ。

「どうしたの・・・また歌舞伎?」と不審げな春子を残し、アキと夏は出発する。

鈴鹿と合流した三人は歌番組の収録終りで橋幸夫(橋幸夫)をキャッチするのだった。

「あれが・・・ユキハシオ」

「橋幸夫よ」

早速・・・橋幸夫に挨拶する鈴鹿。

「ああ・・・わざわざ電話してくれた・・・女優の」

「鈴鹿ひろ美でございます」

「見てるよ・・・鈴鹿御膳」

「ありがとうございます」

「はじめまして」

「あの・・・はじめてじゃないんですよ・・・潮騒のメモリーという映画で御一緒していただきました」

「ああ・・・潮騒のメロディー」

「・・・メモリー」

かみ合わない二人をよそに尻ごみして逃げ出す夏を追いかけるアキ。

「なんで逃げるんだ」

「一目会えたから・・・おら満足だ・・・もう帰る」

騒ぎを聞きつけて近寄る鈴鹿と橋幸夫。

「あれ・・・なっちゃんじゃないか・・・」

「じぇっ・・・」と口をそろえるアキと鈴鹿だった。

「海女のなっちゃんだろう・・・昔、体育館で一緒に歌ったよね」

「はい・・・」

「そうか・・・変わらないねえ・・・」

「そんな・・・橋さんこそ・・・」

「覚えてたのか・・・」とアキ。

「この子は誰?」

「孫です」

「えーっ・・・なっちゃんのお孫さん・・・そうかあ・・・なっちゃんにねえ・・・お孫さんかあ・・・お孫さんだってさ・・・鈴木さん」

「鈴鹿です」

「そうか・・・なっちゃん・・・この後は何か予定あるの・・・」

「・・・」

なんと・・・橋幸夫は夏のために無頼鮨で一席設けてくれたのだった。

大物歌手の初来店に色紙片手でお座敷に上がり込む大将(ピエール瀧)だった。

そして・・・流れ出す「いつでも夢を」のイントロ・・・。

時を越えて・・・橋幸夫は夏とデュエットするのだった。

歩いて歩いて悲しい夜更けも

あの娘の声は流れてくる

言っているいる お持ちなさいな

いつでも夢を いつでも夢を

はかない涙を うれしい涙に

あの娘はかえる 歌声で

こうして半世紀近い歳月を越えて夏の青春は蘇ったのだった。

宴の後で二人きりになった夏と鈴鹿。

袱紗から海女の手ぬぐい三本目を取り出す夏。

「つまらないものですが・・・」

「まあ・・・」

「鈴鹿さん・・・どうなんでしょうか。私には・・・孫が・・・東京で・・・芸能界でやっていけるとはとても思えないんです。あの子はたった一個のウニを取るのに三ヶ月もかかるような子なんで・・・」

「芸能界は・・・海の中とは違いますから・・・」

「・・・今後ともアキのこと・・・よろしくお願い申し上げます」

「・・・こちらこそ・・・」

正座して頭を下げあう二人だった。

酔って帰った二人を出迎える風呂上がりの春子。

「どうしたの・・・二人とも・・・まあ、夏さん酔ってるの」

「東京さも・・・捨てたもんんじゃねえな」

「なによ・・・御機嫌ね」

「内緒だ」

「んだ・・・内緒だ」

「なによお・・・」

すっかりご機嫌な二人に呆れつつ・・・思わず微笑む春子だった。

水曜日 なっちゃんユキオその愛その裏で(橋本愛)

アキと夏が「恋の大作戦」を展開している頃・・・。

男たちと女たちは友情を育んでいたのだった。

春子を巡る恋のライバルである・・・東京の男・正宗と北三陸の男・大吉。

二人は男たちの旅路の果てに純喫茶「アイドル」にたどり着いていた。

ちなみに・・・純喫茶「アイドル」はちらほら客がいるようなっている。

もちろん・・・幸運の女神アキが客を呼び込んでいるのである。

それを何と呼ぶかは人それぞれであろう。オーラとか、カリスマ性とか、アイドル力とか・・・とにかく・・・そういう輝きは確かに存在するし・・・それは努力の結晶だけではけして得られないファンタスティックなものなのである。

それは夏にもあり、アキにもある。そしてもちろん、春子にもある。

春子のチャームにかかった二人の男は水面下で暗闘を繰り広げているまだった。

「正宗さん・・・いや、正宗くん・・・いやさ・・・正宗。今日は朝から・・・いろいろと案内してくれてありがとう」

「いえ・・・どういうところがいいのか・・・よくわからなくて」

「いや・・・井の頭公園、スーパー銭湯、駒沢公園、スーパー銭湯、代々木公園、スーパー銭湯、日比谷公園、スーパー銭湯、上野公園、スーパー銭湯・・・東京には公園とスーパー銭湯が星の数ほどあることが分って・・・勉強になった・・・」

「そうですか」

「テレビで見たラーメン屋行きたいって言ったら検索して捜してくれて、行列が出来てたらさっと抜け道さ入って上野の美術館のエジプト展で時間つぶしてくれておかけでラーメンを並ばずに食べられたしツタンカーメンも見れた。勉さんと太巻さんと三人でコマーシャルに出るような抜け目のなさだべ。ヤング春ちゃんの紅茶とか洗顔料とか起用相次ぐのは好感度抜群だからか。おらも貢献はしてるが・・・やはりおしゃべり負け犬野郎のイメージがクライアントの心をつかまねえのかな」

「いや・・・これからでしょう」

「そうだべか・・・」

「ええ・・・見る人は見てるでしょうから」

「・・・参ったな」

「はい?」

「その奥ゆかしさに脱帽だ・・・都会の道を知り尽くしたポップでスタイリッシュなアーバンライフ的なかっこよさ・・・それに引き換え・・・俺は敷かれたレールの上をダイヤ通りに走らせるだけの運転士だ・・・客は代わり映えのしねえ鉄道おタクと病人臭い老人たちだしな」

「大吉さん・・・言葉が過ぎてるよ」

「途中でラーメンなんてもっての他だ・・・抜け道ねえ、回り道ねえ、上りと下りのリフレイン。ブレーキかけて急停車、景色を眺めて一服が、精一杯の理由なき反抗だ。ああ、いつの日か大空駆け巡りてえと思えども、今、この時に大都会を縦横無尽に切り裂くあんたとは月とスッポンだ・・・格が違いすぎる」

「そりゃ・・・タクシーの運転手と電車の運転士は違いますから・・・」

「電車じゃねえ。古の国鉄だって電車と呼べるのは都心さ走る国電だけだべ。後はみんな汽車だ。北鉄だって電車じゃねえ。車両にパンタグラフついてっか?・・・線路の上に電線あるか・・・」

「ああ・・・そう言えば・・・」

「ディーゼルなのよ・・・ディーゼル機関車なのよ・・・早い話がレールの上を走るバスのようなものなのさ」

「・・・」

「第三セクター敗れたり・・・モータリゼーションの完全勝利だべ・・・」

「はあ・・・」

「おら・・・潔く身を引く・・・マサよ・・・春ちゃんのこと・・・よろしくな・・・」

「・・・よかった・・・」

立ち上がった正宗は手袋を脱ぐ。そして隠し持った特殊警棒を抜き置き、腹からは刃物対策の雑誌を取り出し、そしてチェーンにメリケンサックを・・・。

次々と自主的に武装解除するのだった。

「ひょっとしたら・・・決着をつけるために・・・最悪、決闘かなと思ったんで・・・」

「ひょっとして・・・だから・・・公園に・・・」

「公園にいる間ずっと手に汗握ってたんで・・・ひと汗流しにスーパー銭湯に・・・」

「うほっ」

「いや・・・大吉さんが話の分る人でよかった・・・血を見ることもなく・・・」

二人の会話に恐怖を感じて立ちすくむ甲斐さんだった。

一方で春子は・・・娘の親友の母と会っていたのだった。

二人は潮騒のメモリーズのママ友なのである。

忘れられぬ ああ 夏の日よ

振り返れば風の中で

神様が佇むこの街

夏の思い出を胸に帰郷する夏と傷心の大吉。

しかし・・・大吉は潔く春子に別れを告げる。

「春ちゃん・・・正宗くんは本物の男だ・・・幸せにしてもらえ・・・」

「うん・・・」

照れくさくて視線を彷徨わせる春子。

何と言っても・・・大吉は春子の初恋の人なのである。

褒められたり、愛情をしめされたりされると身の置き所がなくなる。

春子はアキの母親なのだった。

「さ・・・帰るべ」と夏。

「ちょっと待って・・・持って帰ってもらいたいものがあるんだけど・・・」と春子。

黒川家のチャイムがなり・・・よしえがやってくる。

「あらま・・・足立先生の奥さんでねえか・・・」

「お説教とかは勘弁してね・・・私がもうしちゃったから」

「それで・・・帰る覚悟が出来てるのか」

頷くよしえだった。

「そんなら・・・持って帰るしかないべ・・・」

すべてを飲みこんで春子からお土産を受け取る夏だった。

夏は春子の母親なのである。

アキは黙って大人たちのやりとりを見つめるのだった。

上野で夏を見送ったアキはその足で無頼鮨を訪ねる。

「なんだ・・・写真って・・・」

「付き合ってるのに写真を持ってないのはおかしいべ・・・」

「そっか・・・」

「もっと面白い顔してけろ・・・」

「面白い顔って・・・」

「うん・・・まあまあだな・・・」

「ユイも大変だな・・・」

「でも・・・家族のことだ・・・自分でのりきるしかないべ・・・」

「うん・・・そうだな」

ユイの家族のことも・・・アキの家族のことも・・・ずっと見守って来た種市なのである。

失踪からおよそ・・・一年。

八月下旬のある日・・・足立よしえは北三陸市に帰って来た。

待ちかまえる・・・最強の北三陸軍団。

夏と大吉とよしえを吉田(荒川良々)が出迎える。

「ユイちゃんには内緒にしておいた・・・足立先生とストーブくんはリハリビ中だ・・・でも、みんなには知らせちゃった」

「馬鹿・・・なんで・・・そんな」と大吉。

「構わねえ・・・どうせ・・・知られることだ・・・あんたも覚悟がおありでしょう」と夏。

頷くしかない・・・よしえだった。

スナック「梨明日」準備中のユイはひょっとすると予感はしていたかもしれない・・・それでも夏がよしえを招きいれた時、やはり、不意打ちを食らったようにうろたえてしまうのだった。

「え・・・・えぇぇぇえ・・・何これ・・・・何これ・・・・こういうの困るんですけど・・・リアクションできないー・・・こんなのー・・・分んない分んない分んない・・・え・・・ええ・・・なんでだまってんの・・・」

「ごめんなさい」

「ごめんなさいじゃないよ・・・何、何、何、帰ってきてんのよ・・・今さら、いまさらってえか、いまさらだよな・・・本当・・・はあはは・・・帰って来たんだ・・・あはあははは・・・だめだ・・・笑える・・・」

アキに「ママは帰って来ない」と言われて「帰ってくるよ」と泣いたユイ。

様々な思いが交錯して・・・思わずカウンターに逃げ込むのだった。

そこはアバズレの定位置なのだ。

田舎者たちは腫れものをさわるようによしえを遇した。

「ここあいてるよ」

「すわれば」

「とにかくさ・・・」

「うるさい・・・」とキレるユイだった。

「気を使わないでいいですよ・・・知ってるんだから・・・皆さんがあの人の事、陰でさんざんこきおろしてること・・・夫と子供と見捨てて、とっとと田舎から出て行った、見かけによらずあこぎでしたたかでひどい女だってさ・・・言ってんだよ・・・みんなして・・・言い返せやしないよ・・・だってその通りなんだもの」

「・・・」

「今だってさ・・・思ってるさ・・・今更ジローだよ・・・何がごめんねジローだよ・・・どのつらさげて帰って来たんだって・・・本当だよ・・・よくもまあ帰ってこれたもんだよね」

「ごめんなさい・・・」

「ごめんなさいで・・・すむわけないじゃん・・・私・・・あんたのせいで高校やめたんだよ・・・あんたが逃げ出したから・・・なにもかもあきらめたんだ」

そこへ・・・足立功(平泉成)とストーブがやってきた。

「それぐらいにしなさい・・・もういいだろ・・・母さん、責めてもしょうがないじゃないか」

功はいざとなったらいつでも子供より妻を優先する男である。

ユイはいたたまれず・・・店を飛び出した。

ユイの気持ちを組んでストーブが毒づいた。

「何しに帰って来たの」

「黙れ・・・しゃべるな」

あくまで子供よりも妻の気持ち最優先の男なのである。

「黙んねえよ・・・だって全部、母さんのせいじゃないか」

「皆さんの前だ・・・これ以上の醜態は・・・」

妻に逃げられた男ほど・・・みじめなものはない。

それでも・・・町の名士として・・・守るべき対面がある功だった。

夏はそういう男が・・・よしえを籠の鳥にしていたことをしっていた。

面子と真心はちがうのだ。

「先生・・・遠慮はいらねえ・・・存分におやりなさい・・・どうせ・・・ここにいるもんにとっては・・・所詮は他人事ですから」

夏の気迫に言葉を失う・・・功とストーブだった。

スナックから飛び出たものの・・・駅の構内のベンチに座るユイだった。

その時、アキから着信がある。

送られてきた画像は・・・「昔の恋人、種市の変顔」・・・。

続いて、種市先輩から着信がある。

送られてきた画像は・・・「無二の親友、アキの変顔」・・・。

クスクスと・・・笑いだすユイ。

そこには確かに真心の温もりがあったから。

木曜日 夏の終りの夜、夢の旅路の果て(能年玲奈)

上野、アメ横、東京EDOシアター前のアキと種市。

ユイに励ましの写メを送った二人だった。

「返信来ないな」

「そんな余裕ないべ・・・修羅場だべ」

しかし・・・ユイは鼻毛ぴょ~んの変顔をアキに・・・種市にはブサイクチューの変顔を送ってくるのだった。

「ユイちゃん・・・さすがだべ・・・」

いろいろとあった二人だった。

アキにとっては十七歳の初恋の人である。

一つ年上の種市は上京して春から冬までユイと遠距離恋愛をしていた。

そして十八歳の夏・・・二人は交際を始めたのだった。

「おらたち・・・付き合ってるのに逢えばユイの話ばかりしてるな」

「しょうがないべ・・・おらも先輩も・・・ユイちゃんがアイドルだからな」

「そうか・・・ユイは自分たちのアイドルか・・・」

ユイのメール。

「アキちゃん、逆回転してよ・・・(TjjjT)」

アキだけの特殊能力でも人生は逆回転できないのだった。

覆水盆に返らずなのである。

北三陸市。スナック「梨明日」・・・。

逃げた女房を前に亭主と息子は地元の人々に囲まれていた。

「許してなんかもらえない・・・人生は逆回転できないって春子さんに言われました」

「そりゃ・・・春子にしか言えねえ言葉だな・・・なんだかんだ・・・ユイちゃんの面倒見て来たのは春子だから・・・」

「信じられませんでした・・・あの子がそんなに弱くて・・・学校までやめちゃうなんて・・・みなさんのおかげで何とか立ち直って・・・スナックで働いたり・・・今では海女になってるなんて・・・」

「写真あるよ」と弥生の夫・あつしは「眉毛薄目・茶髪・脱色メッシュのユイ」の写真を見せるのだった。

百聞は一見に如かずで・・・打ちのめされるよしえだった。

「だが、帰って来たんだな」と出戻りのシングルマザー花巻珠子(伊勢志摩)が訊く。

「口惜しかったんです・・・」

「口惜しかったって・・・」

「うらやましかったんです・・・あの子は弱い所をみせたんですよね・・・私にもみせなかったのに・・・私も弱い自分をさらけだせたら・・・どんなに楽だろうって・・・」

「・・・」

「主人が倒れた時・・・このまま一人になったらどうしようって・・・子供たちもみんな出て行って・・・私一人になったら・・・って・・・今さら、じぇじぇじぇとか言えないし」

「そんで・・・捨てられる前に捨てたのか・・・一人かけおちだな」と美寿々(美保純)・・・。

「でも・・・淋しくなって・・・夫や子供たちにどうしても・・・逢いたくなって・・・ごめんなさい・・・身勝手なことはわかってます・・・元に戻ろうなんて思ってません。だって・・・私は・・・取り返しのつかないことをしてしまったから・・・」

「・・・」

「でも・・・もう一度・・・みんなと暮らしたいんです・・・どうか、家に置いてくれませんか」

「みんな・・・変わったんだよ。私も元の身体じゃないし・・・ヒロシもユイも昔のユイじゃない・・・だけどな・・・ヒロシには悪いけど・・・父さん・・・よしえが好きなんだ・・・よしえが戻ってくれたら・・・それでいいんだよ」

「親父にそう言われたら・・・どうしようもないな」

「すまん」

「あなた・・・」

「先生の奥さんも・・・逃げて帰って来たんだから・・・もう立派な田舎者だべ」

賛同する田舎者たち。

涙にくれる・・・足立一家だった。

「よし、手始めにおらのこと・・・眼鏡会計婆って言ってみろ」

「眼鏡会計・・・眼鏡婆」

「眼鏡ダブルかよ・・・」

こうして・・・出戻りの儀式は終わったのだった。

「あれ・・・夏ばっぱは・・・」と陰の女村長を捜す一同だった。

天野家。

上京中の大荷物をユイに持たせて帰宅する夏だった。

「すまねえな・・・」

「さすけねえよ」

「ああ・・・身体がしんどい」

「おつかれさまでした」

夏はゴロリと横になる。長旅の果てに修羅場をおさめて夏の体力も限界に来ていた。

ユイはアキ御愛用の乳酸飲料を冷蔵庫から取り出して喉をうるおすのだった。

海女の夏ばっぱと新人海女のユイなのである。

春子が上京して以来・・・娘のいない母と母のいない娘は仲良くやっているのだった。

「ユイちゃん・・・お母さんと仲良くできそうか・・・」

「わかんない・・・でも・・・今日、お母さんを見た時・・・抱きつきそうになった・・・抱きつかないけどね」

「そうか・・・」

ユイの答えに満足して・・・夏は目を開いたまま、いつもの眠りに落ちていた。

「それより・・・夏ばっぱ・・・橋幸夫の他には誰かに会わなかったの・・・お台場とか、原宿とか行ったんでしょ・・・表と裏はやっぱり違うの・・・ねえ・・・夏ばっぱ・・・夏ばっぱっ」

夏の半眼開き睡眠に驚くユイだった。

あわてて・・・ユイはアキに電話した。

「大丈夫だ・・・寝てるだけだ」

「じぇ・・・これで・・・」

「お母さんに会ったか・・・」

「うん・・・」

「よかった・・・足立家再結成だな」

「解散して・・・休止中のバンドじゃないんだから・・・」

「でも・・・そしたら・・・潮騒のメモリーズも再結成できるべ」

「そんなの・・・無理だよ」

「なして・・・」

「私・・・来年、二十歳だもん」

「そんなの関係ねえべ・・・二十歳だろうが、三十路だろうが・・・四十になって迷子だろうが・・・ユイちゃんはおらにとっていつでもアイドルだ・・・」

「・・・アキちゃん・・・いつも・・・ありがとうね」

北三陸市の夜に虫の音が響く。

潮騒のメモリー 私はギター

Aマイナーのアルベジオ 優しく

来てよ その火を 飛び越えて

夜空に書いた アイム ソーリー

来てよ その川 乗り越えて

三途の川の マーメード

友達少ない マーメイド

マーメード 好きよ 嫌いよ

2010年の夏が終わっていく・・・。

はたして・・・潮騒のメモリーズが再びステージに立つ日が来るのだろうか。

誰もが・・・この世界の神に祈るのだった。

しかし・・・本編はクランクアップしているのです。

金曜日 一二サンバ・スプリングサンバ・地元・地元・地元サンバ・カーニバル(斎藤アリーナ)

2010年9月、天野アキの人気に火がつこうとしていた。

女優・鈴鹿ひろみも出演したトークショー、「パークスタジオ」に出演するまでになっていたのである。

袖が浜の海女のアイドルアキちゃん、北三陸市の潮騒のメモリーズのアキちゃん、岩手県出身のGMT5のアキちゃん、見つけてこわそうの逆回転のアキちゃん、受験が恋人のマスコット・アキちゃん・・・一部、素晴らしいインターネットの世界では先物買いのおタクたちがアキの評価を高めていたのであった。

社長の春子が大人しくロムっている間は順風満帆のスリーJプロダクションだった。

一方、オフィス・ハートフルの会議室には暗雲が立ち込めていた。

GMT5の新曲「地元サンバ」がオリコンのようなヒットチャートで7位発進と・・・早くも人気に陰りが出始めたのだった。

「どうして・・・首位をとれなかったと思う」とプロデューサーの太巻(古田新太)は部下たちに問う。

「やはり・・・私がセンターとるのが早すぎた感は否めないね」と答えたのはGMT5の新メンバー・ベロニカ(斉藤アリーナ)だった。山梨県とブラジル人のハーフであるベロニカを前面に押し出してのサンバらしい。

「やはり・・・マニアックな方向に走り過ぎた観も否めないね」と分析するベロニカを退場させるチーフ・マネージャーの河島(マギー)だった。

「理性的かつ陽気じゃないブラジル人か・・・」

ふと目を落とした太巻の目に飛び込むウイークリー・オリコンのような雑誌の「天野アキ特集」・・・。

「とにかく・・・GMTもアメ女も・・・過渡期に来ている勘は否めないね」とベロニカに染まる太巻だった。ベロニカには何か太いものがあるらしかった。

「そこで・・・ひとつのピリオドを打ちたいと考えました・・・映画制作です」

太巻は・・・アイドルたちの生き残りを賭けた「太巻映画祭」の開催を提案するのだった。

そんな事とは露知らず・・・生放送の「パークスタジオ」のテレビ局のスタジオ入りした天野アキと水口。正宗は送迎の間の本番中は個人タクシーを営業するのだった。ローンを返済するためである。

Am020 オリコンのようなものの天野アキ特集をチェックしていた水口はふと・・・アキの表情に目を止める。そしてよせばいいのに・・・本番前のアキに疑問をぶつけるのだった。

「天野・・・まさか、彼氏ができたんじゃないだろうな・・・」

「じぇ・・・」

「え・・・できたのかよ」

「本番で~す。天野アキさん、お願いしま~す」

カメラの前に立ったアキは例によって司会者(中田有紀)の言葉も耳に入らない猫背の妄想猿と化すのだった。

「アキちゃんは・・・高校生の時に海女さんとしてウニを取ってたんですてねえ・・・そこで、今日は当時の海女さんの衣装を着てもらいました・・・久しぶりに着てみてどうですか・・・・・・アキちゃん・・・アキちゃん・・・」

(なんでだべ・・・いつバレたんだべ・・・おらと先輩が付き合いだしたのは・・・シアターの前だった・・・あん時か・・・まさか・・・裏口から・・・水口が・・・こっそりのぞいたいたのか・・・そしてニヤニヤ悪い探偵のように笑っていたのか・・・そして、おらと先輩を今日まで泳がしていたのか・・・なんてこった・・・そうとも知らず・・・おらは生簀にいれられて食べられるのを待つ魚介類のように・・・泳がされていたのか・・・まずい・・・受験が恋人のおらに彼氏がいるのは絶対ゆるされねえ・・・契約不履行になったら・・・ママにはたかれる・・・)

「アキちゃん・・・」

「あ・・・あの・・・こ、恋人がお仕事です」

「え・・・」

「あ・・・間違えました・・・お仕事は恋人です」

テレビの前で春子は「バカ」かとのけぞるのだった。

素晴らしいインターネットの世界では・・・。

【姉さんのパークスタジオ・ゲスト天野アキ★1】

123:名無しの姉さん

恋人が・・・仕事?キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!

124:名無しの姉さん

ええええええ

125:名無しの姉さん

アホの子・・・(ノ∀`)アチャー

126:名無しの姉さん

ちょwww

127:名無しの姉さん

恋人とどんなお仕事する気だお?

128:名無しの姉さん

天野アキか・・・俺が注目したからにはかならずそこそこ問題発生になるアイドルだ

他に・・・スキャンダル三連発・有馬めぐ、主演舞台が忙しくてフェイド・アウトの高幡アリサ、忍者居酒屋に消えた宮下アユミ、影武者Bの成田りななどがいる

129:名無しの姉さん

恋人発覚(・∀・)

130:名無しの姉さん

こんな時も

いじらしく

びんびんな

ときめきのなま

131:名無しの姉さん

天野さん、恋人いましたよ

132:名無しの姉さん

この早さなら言える・・・お相手はさかなクンさん

133:名無しの姉さん

アキちゃん・・・恋人いるってよ

なんとか収録を終えたアキを純喫茶「アイドル」で説教する水口だった。

「仕事が恋人・・・でしょ」

「・・・」

「この写真を見て・・・昔の太巻さんの言葉を思い出したんだ・・・口元が緩んで・・・目の焦点があわなくなったり、瞳孔が開いたりしているタレントはあぶない・・・恋人が出来た証拠だって・・・」

どんなチェック・ポイントなんだと叫ぶお茶の間、しかし激しく同意する甲斐さんだった。

「相手は誰なんだ・・・いつからつきあってる」

「うえええん」

「いちいち泣くなっ」

「だって・・・ママにたたかれる・・・」

「知るかっ」

「・・・」

「じゃ・・・一つだけ答えてくれ・・・」

「板前か・・・板前ではないか・・・」

「じぇじぇじぇ・・・」

「板前かっ」

素晴らしい動画サイトでは・・・。

現役力士の高見盛が「恋人がお仕事です」とアキのセリフに吹き替えられてインタビューに答える動画などがアップされているのだった。

その頃・・・無頼鮨では・・・素早く企画を立ち上げた太巻が鈴鹿を口説いていた。

「太巻映画祭・・・」

「アメ女もGMTも余命一年と見て・・・生き残りが予想されるメンバー十人を逆算して・・・主演映画を十本作ります」

「土足で踏み込むわねえ」

「いつだって必死ですから」

「十人も生き残れるの」

「ま、ほとんどはこけるでしょう・・・しかし、私にも美学がありますから」

「華々しくこけるのね」

「私自身も一本、監督したいと思っています」

「・・・」

「潮騒のメモリーのリメイクで・・・」

「それは・・・さすがに無理よ・・・私が17歳の役なんて・・・」

「・・・図々しい」

「・・・冗談よ・・・どうせ、母親役でしょう」

「そうです・・・主演は・・・この子です」

登場したのは白タイツも初々しい宮城県出身のオノデラちゃんこと小野寺薫子(優希美青)だった。

「鈴鹿島の海女ひろみ役です」

「ああ・・・確か舞台は宮城県ですものね・・・」

「宮城県の名物と言えば・・・」とオノデラちゃん。

「ずんだずん・・・結構です」と乗りかけてやめる鈴鹿だった。

「それで・・・主題歌はどうするの・・・今度は誰に歌わせるの」

「それは・・・」と言葉を濁す太巻。

ここで・・・「鈴鹿は影武者の存在を知っている」派は「やはり」と思うのだが、キッドはあくまで鈴鹿さんは知らない派である。ここでは「鈴鹿ひろ美」ではないのかという問いかけを鈴鹿はしているだけなのだ。

「わかったわ・・・出演してもいい・・・ただし、条件が一つあります」

「・・・」

「主演女優は・・・オーディションで選ぶこと・・・決めるのは私」

「私じゃだめですか・・・」

「あなたもオーディションを受けなさい」

蒼ざめるく太巻だった。

聞き耳を立てていた種市は早速、アキに電話をするのだった。

事務所に戻ったアキは春子と水口の目の前で着信を受ける。

「どうしたの・・・早くでなさいよ・・・」

母親とマネージャーの目の前で秘密の恋人の電話に出るアキ。

「アキ、出ま~す・・・はい、もしもし、天野ですう」

右舷の弾幕は薄いのだった。

土曜日 いつも誰かがウソをついているんだぜ(小泉今日子)

「潮騒のメモリーがリメイクされるってよ」

「じぇ・・・じぇじぇ・・・じぇじぇじぇ・・・潮騒のメモリーがリメイクされるって・・・」

「なんですって・・・」

「だども・・・潮騒のメモリーのこと・・・よく覚えていたな」

「そりゃ・・つきあってる彼女の一番好きな映画だもの・・・」

「うへへ」

「ちょっと・・・あんた・・・誰と話してるのよ・・・ちょっと、電話貸しなさいよ」

「じぇ・・・」

「もしもし・・・あんだ・・・誰・・・」

「・・・種市です」

「あはん、南部ダイバーかあ・・・」

アキはママには絶対ウソがつけないのだ・・・そういう風に育てられているのだ。

そして・・・それはアキの生き方・・・そのものなのだった。

このドラマの根底に流れる春子の鈴鹿ひろ美影武者ライフ。

それは・・・「嘘」そのものである。

日本全国に流れていた歌声が鈴鹿ひろ美ではなく天野春子だったという本当のことを隠した嘘・・・。

その嘘をついているのは誰か・・・これが一つの主題なのである。

首謀者は太巻。

だが・・・春子は実は嘘の共犯者である。

そして・・・鈴鹿ひろ美は・・・はたして・・・共犯者なのか・・・それとも無実の人なのか。

たった一つの本当のことは・・・大いなる「謎」を含んでいるのである。

一方、アキは「ウソのつけない女の子」なのである。

その一つの象徴が・・・「安部ちゃんの影武者事件」だった。

海女見習いになったけれどウニが獲れないアキのために安部ちゃんが海の中で渡してくれるウニ。

祖母の夏は「観光海女として・・・アイドルのアキは・・・ウニを獲ったことにしろ」とアキに教える。

それは「夢」を売る仕事だから。

しかし、アキはそれを「夢」とは思えず「嘘」だと思う。

だから、アキは「本当は安部ちゃんがとった」と観光客にばらしてしまうのだった。

海女たちの面目は丸つぶれ・・・観光客はガッカリである。

しかし・・・だから・・・安部ちゃんは・・・海女たちは・・・夏ばっぱさえ・・・アキを好きになってしまったのである。

世界がアキを愛し始めたのはまさにこの時だっただろう。

ああ 月の夜は ああ 夢になれよ

裏切られた 思い出も

口に出せば わらいごと

好きよ 好きよ 嘘つきは

しかし、「夢」という「嘘」がなければ生きていけない人はいるのだ。

アキもまた・・・秘密の恋人を抱えて・・・大人の階段を昇りはじめる。

嘘つきの母、嘘つきの世界と戦うために・・・。

「で・・・それって・・・誰、発信なの・・・太巻?・・・それとも鈴鹿ひろ美?」

「ずぶんも・・・断片的にしか・・・」

「歌は・・・主題歌は・・・誰が歌うの?」

「鈴鹿さんもそれを気にしてました・・・」

「そりゃそうでしょうよ・・・で・・・主演はだれなの」

「お・・・お・・・お・・・おお」

「なんですってえ・・・」

「おっ」

「おっとせいかっ」

「オーディションっす」

「オーディション・・・」

「潮騒のメモリー」リメイク決定。主演オーディション開催の知らせは「特別コース・シースルーコンパニオン(特別料金)の妖しい温泉宿」の広告が掲載されるスポーツ新聞によって北三陸市の喫茶「リアス」にも届くのだった。

「ユイちゃんも応募すればいいべ」と大吉。

「私なんかが応募したら・・・頑張ってるアキちゃんに失礼だもの」

「おや・・・合格前提ですね」と吉田。

「出てよ~オーディションのりこえて~」と保。

「駄目よ~刺青お断り~」と吉田。

「ユイちゃんの潮騒のメモリー・・・見てみてえなあ」

「無理なものは無理です」

「こういう時は・・・兄貴が勝手に応募しちゃうパターンでねえか」

「履歴書買いにいきます」とストーブ。

「やめてよね」と釘をさすユイだった。

和やかな北三陸の昼下がりだった。

一方、暗雲漂う純喫茶「アイドル」・・・。

太巻の先兵・・・河島が水口を呼びだしていた。

「うちの天野も一応、応募してます・・・」

「応募総数、主催者側発表、二万通、実際は二千通だけどね」

「まあ・・・経緯から考えて出来レースですよね・・・小野寺で決まりなんでしょう・・・」

「いや・・・それがさ・・・小野寺ちゃん・・・泳げないんだ・・・それで相談なんだけどさ・・・水の中だけ・・・天野っていうのはダメかな・・・」

「なんですか・・・どんな冗談ですか・・・うちの天野は一応・・・表舞台に立っているんですよ・・・そんなメリットのない話・・・馬鹿にしないでよ・・・」

「いや・・・これは折衷案なんだよ」

「たとえば主演はそっち・・・主題歌はうちとかならともかく・・・そっちの歩み寄りゼロじゃないですか・・・」

憤然と席を立つ・・・水口。

しかし、そこへ太巻が現れる。

久しぶりの再会に喜ぶ甲斐さん。

だが・・・太巻は本題に入るのだった。

「潮騒のメモリーは特別なんだよ・・・俺としても絶対失敗したくない・・・小野寺主演でやりたいんだ・・・とにかく俺にとっても鈴鹿さんにとっても特別な作品だから・・・」

「天野春子にとってもでしょう・・・」

「だまれ・・・痛々しいんだよ」

「・・・」

「鈴鹿さんが天野に優しくしているのを見ると・・・罪滅ぼししてるとしか思えない」

「だって・・・鈴鹿さんは御存じないでしょ・・・」

「俺の前では・・・そういうことになっている・・・しかし、ありえないだろう・・・自分が歌ってるかどうかわからないなんてこと・・・鈴鹿さんは俺の嘘にずっと付き合ってるんだ・・・だから・・・自分も悪い事をしたと思ってるんだよ・・・悪いのは俺だけなのにさ」

ここで「鈴鹿ひろ美は知っている派」は万歳三唱をするのだが・・・あくまで太巻がそう言っているという話である。

逆に言えば・・・首謀者は太巻ではなくて鈴鹿ひろ美だったという線もあるのだが・・・あくまでキッドは「鈴鹿さんの無実を信じる派」なのだった。

いつの間にか・・・論理をすりかえて・・・「鈴鹿さんのために天野ではなくて小野寺」という話に持って行く太巻である。

「だから・・・天野にはオーディションを受けさせる・・・しかし、あくまで小野寺のシャドウとしてだ・・・ということで・・・天野春子・・・天野母子を説得してみてくれ・・・」

「・・・」

「おたくの事務所に対して悪意はない・・・悪いようにはしないから・・・」

釈然としない水口。

太巻と河島が去った後で・・・甲斐さんは呟く。

「悪いようにはしないか・・・昔、聴いた言葉だな・・・そうか・・・太巻が春ちゃんにそう言ってたっけ・・・でもさ・・・悪いようにしないからって、悪いやつのセリフだよね」

甲斐さん65歳・・・アイドルの歴史をそっと見守り続けた男だった。

ただし、オノデラちゃん推しである。

そして・・・スリーJプロダクションに届く「書類審査合格の通知」・・・。

アキは無邪気に懐かしのウルトラマン・スプーン・マイクで「潮騒のメモリー」を口ずさむのだった。

そして、スナック「梨明日」のユイちゃんに報告である。

大逆転でオーディション会場に現れる一般応募の足立ユイの目もなくはないが・・・アキの合格の報告を喜んで受け入れるユイだった。

「がんばって・・・アキちゃん」

「それと・・・夏ばっぱ・・・そっちさいねえか」

「今日はお休みだよ」

「じゃ、おらが明日、朝一番で知らせるべ」と大吉。

一部お茶の間が「うわあ」と叫びました。

これは・・・明らかに由緒正しいフラグ・・・。

九月十二日・・・オーディション当日。

ウニ丼を取りに来た大吉は猫に導かれ・・・作業場に倒れている夏を発見する。

「いいか、アキ、面白いこと言う必要ないんだぞ・・・お前はそのままで面白いんだから」

世田谷り黒川家で的確すぎるアドバイスを正宗がした瞬間。

大吉からのメールが届く。

記念すべき第一回と同じだが・・・第百二十回はシンプルな深刻さが匂うのだ。

「お母さん倒れた!( ‘ jjj ’ )/」

「悪い冗談ね・・・大吉さんたら・・・」

しかし・・・電話が鳴りだすのだった。

「嘘じゃねえ・・・本当だ・・・夏さんの意識がなくって・・・」

あわただしい救急隊員の気配。かつ枝(木野花)の声もする。

かつ枝はこのドラマで唯一死亡している克也(小林優斗)の母親である。

「春ちゃん、聞いてるか・・・大変だ」

立ちすくむ黒川家の三人だった・・・。

夜露まじりの 酒に浮かれて

嘘がつけたら すてきだわ

そうよあたしは 空で生まれて

雲に抱かれて 夢を見た

ああ・・・船を出すなら九月かよ・・・。

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2013年8月17日 (土)

波風をたてるということのリミット(桜庭ななみ)

「プラトーン」「7月4日に生まれて」の監督で知られるオリバー・ストーンが来日して・・・物議を醸している。

ちなみに彼の三度目の妻は韓国人である。

薬物所持と飲酒運転で逮捕歴があり、ベトナム帰還兵である彼は・・・米国の反共和党主義者であると言えるだろう。

だが、日米同盟にケチをつけ、韓国や中国に肩入れして、沖縄の一部市民を扇動するような真似は慎んでもらいたいと思う。

日本的信条はすべて「穏便に」が基本だからである。

エジプトを見よ・・・「正義」を振りかざして「正論」を吐くことの愚かさが露呈しているのである。

「日本」は「敗戦国」である。

「敗戦」したがゆえにあらゆる「屈辱」に耐えて「今日」の「繁栄」を築いたのである。

その「忍耐」を侮辱する権利は誰にもないだろう。

最近、「歴史を学ぶ」という言葉を耳にする。

しかし、多くの「歴史」が「勝者に都合のいいもの」であることはあまり語られない。

サザンオールスターズもオリバーくんもエンターティナーとしては一流であるが・・・歴史家でも政治家でもないのだった。

一般の人々はそれを忘れてはならないと考える。

米国は常に「テロの脅威」に晒されている。

それは彼が世界的な強者だからである。

日本にも・・・そういう「芽」はいくつも芽吹いている。

格差社会である以上、当然だ。

しかし・・・だからと言って「怒り」を「他者」に向けることは「愚か者」のすること。

それが・・・日本が共有する「諦念」の素晴らしさなのだ。オリバーくんには「そこ」を感じてもらいたいと祈るのである。

そして・・・東アジアの「民」を苦しめている諸々の国家の存在について・・・もう少し理解を深めてから口を開くがいい。

まず、自分の妻が竹島を武力で不法占拠している国家の一員であることから考察しろよ。

ドラマ24・リミット第1話~6話』(201307130012~)原作・すえのぶけいこ、脚本・清水友佳子(他)、演出・塚原あゆ子(他)を見た。本来は「悪霊病棟」の日であるが・・・世界陸上で放送休止なので変則的谷間が発生しているのである。「モテキ」でおなじみの新井浩文が三度の離婚経験者なのに謎の食べる女に魅せられて四度目の結婚を考える中、冴えない男である「彼」が・・・自分を振り向かないので立腹した石橋杏奈が「彼」を追いかけるというドラマ「たべるダケ」も楽しみだが・・・とにかく・・・最初の妻(霧島れいか)、その娘(葵わかな)、二番目の妻(井上和香)、三番目の妻でキャバ嬢(安田美沙子)というだけでかなり笑えるのである・・・だが・・・おそらく・・・うってつけの主人公であるシズル(後藤まりこ)だけが・・・少しひっかかる・・・(後藤・・・真希)だったらいいのになあ・・・とつい思うからである。今や、キッドの妄想上の永遠のライバル上戸彩は高みにある。せめて・・・ここに後藤真希がいてもいいじゃないか・・・とモヤモヤしてしまうのだった。どんだけ個人的感情だよ・・・しかも妄想根拠だからな・・・しかし、もう一つのべつの世界では「後藤ま・・・りこ」ではなく・・・「後藤・・・真希」がシズルを演じている・・・そんな気がしてならないのだった。

そういうことで・・・「リミット」です。

格差社会の是正という絵空事を断行しようとして無惨にも失敗した2010年代前半の日本。

世界的不況下の中で「平等」を目指した結果、混乱が生じ、混乱は暗闇を生み出していた。

理念なき合理化を追求しすぎてブラック企業と化した観光バス会社「神奈川観光バス」を「学校行事のキャンプ」の乗り物として採用した神奈川県立陽乃高校2年4組一同は・・・超過勤務で疲弊した運転手によってキャンプ場(山梨県)へのルートを大きく外れ静岡県内山中の崖下の深き森の中へ転落・・・。担任の竹田先生(森谷ふみ)を始めほとんどの生徒が即死したのであった。

生き残った生徒は・・・以下のものたち。

コンノ(桜庭ななみ)・・・中学時代にいじめられた経験があり、いじめられないように・・・クラスの女王的存在さくら(高田里穂)にとりいっていた。ただし、家庭的にはそこそこ恵まれていたために・・・中途半端な正義感と中途半端な優しさを持っている。

カミヤ(土屋太鳳)・・・両親を亡くし幼い弟妹の面倒を見るお姉さんキャラクター。残された家族の元に戻るために「絶対に生きて帰る」信念でサバイバル生活をリードする。

ハル(工藤綾乃)・・・さくらに対するナンバー・ツーの座をコンノに奪われたことに嫉妬しているいじめっ子の一人。過食症という心の病の持ち主だが・・・さくらが即死したことで自分をさらに見失う。

モリコ(山下リオ)・・・家庭では父親から虐待を受け、クラスではさくらやハルたちにいじめられて心が完全にねじくれ曲がった薄い本の作者。除草用の鎌で武装し、サバイバル生活の女王を目指す。

ヒナタ(鈴木勝大)・・・唯一の男子生存者。合流してからは優しい側面を見せるが・・・どこか暗鬱な表情も見せるのだった。

ウスイ(増田有華)・・・怯える小動物のようなキャラクター。負傷したためにサバイバル生活の戦力外となり、モリコに奴隷として指名される。怯えるあまりにモリコの鎌を持って逃走。モリコの独裁政権に終止符を打つ。

消息を絶ったウスイを捜索するために・・・全員が捜索に出たため・・・火の番が不在となった仮住まいの洞窟で火災が発生・・・せっかくカミヤが確保した食料は燃え尽きてしまう。

モリコは完全に孤立するが・・・ヒナタのアドバイスによって・・・コンノ、カミヤ、ハルは団結力を築きつつあった。

しかし・・・ウスイは何者かに殺害された死体となって発見されるのだった。

果たして・・・ウスイを殺したのは誰か・・・サバイバル生活も後半戦に突入である。

一方で、残されたろくでもない学校の校長(大石吾朗)は責任逃れの画策に従事し、最初に連絡ミスを犯した副担任(窪田正孝)はカミヤが発したバスの消息についてのヒントにまったく気がつかない。ろくでもないバス会社は責任逃れの工作に終始し、ろくでもない新聞記者であるコンノの姉(滝裕可里)は妹の安否よりも特ダネ確保に全力を尽くす。ろくでもないモリコの父親は損害賠償請求を開始する。ろくでもないコンノの父親(渡辺いっけい)はただ手をこまねくのだった。

どうなる・・・生存者たち・・・。

がんばれ・・・カミヤと誰もが思う今日この頃である。

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2013年8月16日 (金)

山田くん(山本裕典)と7人の魔女はとりあえずキスします(西内まりや)

谷間なのであるが・・・ひょっとすると来週もまたこの作品になってしまうかもしれない。

女流による少年漫画という一つのジャンルのようなものはなかなかに興味深いからである。

高校入試」を生んだこの枠に・・・「ヤンキー君とメガネちゃん」の原作者の学園ファンタジーの登場なのだ。

その少女漫画のような少年漫画は最初から「変な感じ」があって・・・ある意味、味わい深いのである。

みんな!エスパーだよ!」という革命的作品の後ではやや・・・薄目だが・・・物語性は申し分なく、楽しい作品始りました・・・と言えます。

とりあえず・・・西内まりや(19)はキスもパンチラも辞さない体当たり演技を展開します。

主人公を筆頭に山本裕典(25)、小林涼子(23)、徳山秀典(31)、足立梨花(20)たち、なんちゃって高校生大量発生も見どころでございます。

で、『山田くんと7人の魔女・第1回』(フジテレビ201308102310~)原作・古河美希、脚本・小川真、演出・星護を見た。サッカー東アジアカップ2013などに押し出されて変則スタートである。タイトルは山田くんだが・・・ドラマの主人公は白石うらら(西内まりや)である。序盤は映画「転校生」的な男女人格交換ネタで始るが・・・それが魔法と言うよりは超能力的な特殊能力の一種という発展をしていくのである。本格的な魔法譚になっていくのかどうかは不明だが・・・呪力の影響はなんとなく感じられるのです。・・・と悪魔が申しています。

ただし、今の処「エコエコアザラク」などの呪文系はございません。

どこぞの世界のどこぞの町にある私立・朱咲高校では学園きっての優等生・うららと学園一のバカ・山田くんがキスをしている。

この成績学年1位と最下位の異色の組み合わせの過去を知るために、海女のアキちゃんが特殊能力・逆回転を使うのであるが・・・もちろん、能年玲奈は友情出演しないのである・・・あくまでこの記事はすべてキッドの妄想だからである・・・久しぶりにお断りをしました・・・そしてその時間的遡上もかなりイージーな感じで・・・ちょっと笑えるのだった。

山田くんは「ヤンキー君とメガネちゃん」の登場人物たちと同様に元ヤンキーである。高校ではヤンキー生活と縁を切るためにそこそこ名門校に入学したのだが・・・ギリギリの学力だったために・・・たちまち落ちこぼれてしまったのだった。

っていうか・・・「Bus」をブスって読んじゃう学力で入学できる高校って本当に名門校なのか。

一方で・・・うららは全科目100点という学力の持ち主だった。

ふたりはまったく接点がなかったわけだが・・・階段で山田くんが足を踏み外し・・・二人で抱き合って転落すると・・・山田くんがうららでうららが山田くんで・・・的に人格交換現象が発生してしまうのだった。

保健室で目を覚ました山田くんはうららになっているとは気付かずに男子トイレで小用をたそうとする。

うらら(山田くん)にのけぞる男子生徒たち。

うらら(山田くん)はズボンのジッパーを下げようとして・・・そこにスカートがあるのを発見する。

さらに取り出すべき陰茎が消失していることに驚くのだった。

うらら(山田くん)は制服の上から手ブラ、立って股間片手自慰のポーズをへて鏡で自分が外見上はうららになっていることを発見する。変顔をしても美少女なのだった。

二人ともモンキー系の顔立ちなので変換が妙に効くのである。

あわてて・・・教室に行くと・・・山田くん(うらら)は何事もなかったように数学の授業を受け、難解な数式をスラスラと回答中であった。

バカの山田くん(うらら)の変貌に驚く・・・クラス一同だったが・・・そこに優等生のうらら(山田くん)が乱入してきて、山田くん(うらら)の腕をつかみ、教室の外に引きずり出したためにさらに驚くのだった。

「やめてよ・・・授業中なのよ」

「そんな場合かよ・・・おれがお前でお前がおれになっているんだぜ」

「とにかく・・・放課後まで待ってよ・・・」

「お前・・・どんだけ・・・授業が好きなんだ・・・」

「それはバカにはわかるまい・・・」

「・・・」

頭に来たうらら(山田くん)はせっかくなので・・・女子トイレにこもり・・・うららの身体を自給自足的に堪能することにしたのだった。後に判明するが山田くんは童貞なので・・・立体的なバストを見下ろすだけで大興奮なのであるが・・・その他にもいろいろとナニをアレした模様である。

「WXYキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!! 」

個室の中で一人騒ぐうらら(山田くん)を他の女子生徒は「十日間くらい便秘」と憶測するのだった。

満足して校内をうろつくうらら(山田くん)を呼びとめる・・・佐々木さん(足立梨花)と仲間たち。足立梨花である以上、佐々木さんはいじめっ子であり、仲間たちはいじめっ子軍団である。

「捜したわよ・・・一緒にランチ食べましょうよ」

しかし・・・うららのお弁当は中身がシャッフルされてグチャグチャなのであ。

だが・・・うらら(山田くん)なので美味しくいただくのだった。

なんとなく拍子抜けした佐々木さんたちの様子に・・・元ヤンキーであるうらら(山田くん)はピンとくるのだった。

試しにうららのロッカーを開けてみると・・・お約束の「死ね」「ブス」「お前の席ねえから」的落書き満載なのである。

屋上に山田くん(うらら)を呼び出すうらら(山田くん)・・・。

「お前・・・いじめられてるじゃないか」

「いいのよ・・・別に・・・私は一人の方が勉強に集中できるし・・・」

「そんなの・・・俺はいやだね」

「余計なことしないでよ」

ちなみに交換した人格は肉体を元の肉体並に使用できるらしい。あるいは・・・外見はそう見えるが実際は変わっていない可能性もある。

とにかく・・・佐々木さんたちにお仕置きする気満々のうらら(山田くん)だった。

そうとは知らない佐々木さんは校舎裏でうららをリンチしようとするのだった。

「うららのくせに生意気なのよ」

「やられたらやりかえす・・・それが万国共通の基本ルールなんだぜ」

「なによ」

佐々木さんに殴りかかるうらら(山田くん)を止めに入った山田くん(うらら)はパンチ直撃でぶっ飛ばされ、宙を舞うのだった。

うららパンチの破壊力に恐怖を感じた佐々木さんたちは逃げ出すのだった。

「寸止めするつもりだったのに・・・大丈夫か・・・」

「・・・」

「これで・・・あいつらもイジメをやめるんじゃないかな」

「・・・」

「ところで・・・これからどうするんだ・・・」

「もう一度、抱き合って階段から落ちたら・・・戻るんじゃないかしら」

「その手があったか・・・」

しかし・・・三回落ちても元に戻らないのだった。

漫画なので抜群の回復力で立ち直る二人。

「だめじゃないか」

「実は・・・あの時・・・私たち空中でキスしたの」

「あ・・・」

「それを試してみないと・・・」

「え・・・」

そういうことにはうとい・・・うらら(山田くん)だった。

しかし・・・山田くん(うらら)は積極的に・・・キスをするのだった。

たちまち・・・人格が交換する二人。

「キスすると・・・入れ替わるみたいね」

うらら(うらら)は淡々と言うのだった。

しかし・・・山田くん(山田くん)は初めてのチュウにうっとりなのだった。

だが・・・原作が少年マンガだけにうららもまた・・・そこはかとない好意を山田くんに感じるのだった。

翌日・・・すべての教科で赤点を取った山田くんは追試を受けることになる。

このままでは留年は確定なのだった。

「あのさ・・・俺の代わりに追試受けてくれないか」

「あなたには・・・借りがあるから・・・いいわよ」

「身代わり受験なんてあなたのためにもよくないわ」などと固い事は言わないうららだった。

「でも・・・授業にはちゃんと出てね」

「わかった」

たちまち・・・入れ替わるうららと山田くん。

山田くん(うらら)は追試会場に・・・。

結局・・・うららは試験が受けたかっただけなのかもしれないな。

そして・・・うらら(山田くん)は女子更衣室に・・・体育の授業だったのである。

(うっひょおおおお・・・なんておいしい展開なんだ・・・女子の着替え・・・女子の着替え)

しかし、山田くんの期待に反して女子は素肌を見せない必殺の着替え術を持っているのだった。

制服から体操着に露出なしでチェンジなのである。

ガッカリしつつ・・・着替えを始めるうらら(山田くん)にクラスメートが注意する。

「窓から離れて着替えないと・・・覗かれるわよ。最近・・・山田くんが盗撮してるって噂がたってるし・・・」

「どんな・・・噂なんだよっ」と驚くうらら(山田くん)・・・。

その時、盗撮犯人がうららの下着姿を撮影しているのに気がつくクラスメートたち。

「大変」と騒ぐ女生徒たち。

しかし、うらら(山田くん)は窓から飛び出して犯人を追跡するのだった。

植えこみで「作品」を鑑賞する盗撮グループ。

「うわあ・・・うららちゃんの下着姿ゲットかよ」

「これは高く売れますよ~」

「お前ら・・・何やってんの・・・」

「うららちゃん」

「とにかく・・・携帯よこせや」

「なにかな・・・盗撮犯人なら山田くんだと思うよ」

「お前らか・・・変な噂流してんのは・・・残念だったな・・・山田は今・・・追試中なんだよ」

「・・・」

男相手に遠慮はいらないので必殺の回し蹴りで盗撮犯一味を瞬殺するうらら(山田くん)・・・。男たちはべつの意味でも昇天したのだった。

駆けつけた女生徒たちは盗撮魔を退治したうらら(山田くん)を誉めたたえるのだった。

いつしか・・・うららはクラスの人気者になっていたのである。

うららがすべての科目で99点を獲得してくれたので・・・留年を免れた山田くんだった。

その頃・・・お約束の現実にはありえないほどの学園内権力を掌握するマンガ的生徒会では・・・うららが議題にあがっていた。

進路指導でうららが進学希望でないことが判明し・・・東大合格も可能なうららに進学させることが重要な案件として浮上したのだった。

東大合格率は名門校のステータス向上にはかかせないのである。

十年くらい・・・生徒会長をしていそうな山崎(徳山秀典)は「この件は早く解決してもらいたいねえ」と部下たちを見まわす。

山崎の秘書の飛鳥美琴(小林涼子)と生徒会副会長の小田切寧々(大野いと)という強力な女生徒もいるわけだが・・・名乗りを上げるのは次期生徒会長候補の宮村虎之介(井出卓也)だった。

超常現象研究部の幹部でもある虎之介は・・・たちまち・・・山田くんとうららが入れ替わっている秘密を嗅ぎつけるのだった。

このスピーディーな展開、「スターマン」にも見習ってほしい。

うらら(山田くん)を問いつめ・・・「うららの進路変更」に協力を仰ぐ虎之介・・・。

「そのために・・・うららさんの身体に異常がないか・・・チェックする必要があります」

少年漫画的にうれしい展開で・・・虎之介に脱がされかかるうらら(山田くん)・・・。

しかし、山田くん(うらら)によって当然阻止されるのである。

「こめん・・・バレちゃった・・・」

「仕方ないわ・・・馬鹿だもの」

「・・・」

「君はどうして進学しないんだ」

「進路指導の時は・・・学校が楽しくなかったから・・・一人でも勉強はできるし・・・でも・・・今は・・・学校にも楽しいことがあるとわかったし・・・進学してもいいと思っている」

「あらら・・・」

こうして・・・任務をクリアした虎之介は二人を超常現象研究部にスカウトするのだった。

「実は・・・この学校には・・・魔女伝説の書があるんだ・・・」

「なんだそりゃ・・・」

「魔女の能力の一つに入れ替わりがある」

「私が魔女だってこと・・・」

「そうだ・・・それを確かめるためにもボクとキスしてくれたまえ」と虎之介。

「それは・・・イヤ」

「仕方ない・・・それじゃ・・・山田くん」

「なんで俺だよ・・・俺は男だよ」

「悪魔に使われる人間のことを魔女っていうんだよ・・・男の魔女だって普通にいるのさ」

不意をつかれて山田くんは虎之介に唇を奪われてしまうのだった。

たちまち、入れ替わる山田くん(虎之介)と虎之介(山田くん)・・・。

「凄いぞ・・・山田くん・・・君は魔女だ・・・」

「俺が・・・魔女・・・そんなバナナ」

「・・・目覚めたのね・・・」と呟くうららだった。

こうして・・・山田くんはキスをすると相手と人格を交換できる能力を持っていることが判明する。

しかし・・・そこにはまだ秘密が隠されている模様。

うららもファーストキスだったと申告するが真偽は定かではない・・・。

「他にはどんな伝説の能力があるのかな・・・」

「たとえば・・・ここ」

虎之介は「魔女の書」の「虜」の文字を指す。

「ふうん・・・なんて読むの?」と山田くん。

「とりこだよ!」と口をそろえるうららと虎之介だった。

こうして学園に潜む七人の魔女を求めて・・・山田くんとうららの冒険が始ったのだった。

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2013年8月15日 (木)

大菩薩峠と三色団子と豆ご飯と亡き夫からの手紙とBELIEVEとWoman(神野三鈴)

大菩薩峠の菩薩は八幡大菩薩とも観世音菩薩とも言われる。

観世音菩薩は本来、男性であったと言われるが、インドから中国へ伝播する過程で女性化したとも言われる。

また、本来は古代の女神アナーヒターやラクシュミーさらにはサラスヴァティーの化身だったとも言われる。

つまり、弁天様と観音様は同じ起源の女神だったというわけである。

どちらにしろ・・・観世音菩薩の庶民救済の慈悲は母親の慈愛を連想させるわけであり、仏教における聖母的な役割を担わされたと言えるだろう。

西遊記では父性的な釈迦に対して観音は母性的な役割を果たしている。三蔵法師に孫悟空を制御する術を教えるのは老婆に変装した観音である。

このドラマにおける大菩薩峠は無慈悲な母親を理想の母親として思い焦れる憐れな少年に観音様として佇んでいると思われる。

で、『Woman・第7回』(日本テレビ20130814PM10~)脚本・坂元裕二、演出・水田伸生を見た。シングル・マザー青柳小春(満島ひかり)の亡き夫・青柳信(小栗旬)の母親を演ずるのは神野三鈴である。「Dr.コトー診療所2006」でも鬱屈した母親を演じていた。「東野圭吾ミステリーズ・第8回・小さな故意の物語」では大野拓朗演ずるサッカー少年の母親役だった。テレビドラマに登場すればそれなりに印象を残す女優なのである。今回は男を愛する女と子供を愛する母の揺らめきを充分に感じさせたと考える。

小春と長女・望海(鈴木梨央)と長男・陸(髙橋來)の三人は生前の信の忘れものである手紙を受け取りに鉄道とバスを乗り継ぎ、大菩薩峠の登山口のある小菅村にやってきた。

「本当に・・・ここでお父さん生まれたの・・・ここは田舎すぎて人間はすめないよ」

「お父さんは・・・子供の時、猿だったのよ・・・」

「うそ・・・本当じゃないよね」

「ふふふ」

大菩薩峠の土産物屋主人(すわ親治)は子供たちに三色団子をふるまった。

「彼はここで手紙を書いたんだが・・・帰りのバスに乗り遅れそうになって・・・あわてて・・・せっかく書いた手紙を忘れた・・・取りにこないので・・・捨てようと思ったんだが・・・悪いけどちょっと中身を読んで・・・捨てるに捨てられなくなってしまった・・・子供たちには内緒で・・・一人で読んだ方がいいかもしれないね」

そう言うと男は鼻歌を歌いながら去っていた。

「・・・あなたがいれば・・・わたしはさしば・・・つらくはないわ・・・この東京砂漠・・・」

鮮やかな緑に囲まれたテーブルで小春はなつかしい信の文字を見た。

「小春へ。僕は嘘をつきました。仕事に行かないで・・・故郷にやってきたのです。急にあの人に会いたくなってしまったのでした。僕が小春と望海と生まれてくる陸という家族と暮らしていることをあの人にどうしても伝えたい。なぜか、そう思ってしまったのです。嘘をついたことを言いにくいので手紙を書くことにしたのです。

僕のお母ちゃんのことを君には話さなかった。

僕のお母ちゃんはとてもきれいな人でした。

多くの子供と同じように僕はお母ちゃんが大好きでした。

僕が八歳になった時、お母ちゃんは僕より好きな人と暮らすために家を出て行きました。

それから十歳頃まで僕は一人で暮らしました。

お母ちゃんからは現金書留でお金が送られてきました。

お母ちゃんがいなくなったこと・・・僕が一人で暮らしていることは絶対に秘密にしなければなりません。

そうでないと・・・お母ちゃんが警察に捕まり、二度と会えなくなるとお母ちゃんに言われたからです。

僕はお金が送られてくると食べ物を買うお金や学校で使うお金、ガスや電気や水道料金などに小分けしました。

一人で暮らすのは毎日が冒険みたいで楽しかった。

自分で髪を切ったし、洗濯もしたし、お風呂にも入りました。

清潔にしていないと・・・周囲の大人たちにおかしな眼でみられると思ったからです。

お母ちゃんに会えるのを楽しみにして・・・僕は日々の暮らしを送って行きました。

やがて・・・お金が送られてくるのが遅れるようになったのです。

足はどんどん大きくなるのに新しい靴が買えません。体はどんどん大きくなるのに新しい服が買えません。お米を買うお金がなくなり、公共料金を払うお金がなくなり、洗濯も洗顔も川でするようになりました。そうなれば・・・僕はどんどん不潔になっていき、世間の目をごまかすのは難しくなったのです。

結局、僕は警察に取り調べられ、施設送りになったのです。

そんな僕に優しくしてくれたのは現金書留を届けにきた郵便屋さん(田中要次)でした。

いろいろと面倒を見てくれたのです。

僕にとってはお父ちゃんのような人でした。

今、郵便屋さんは身体をこわして入院中です。

君と結婚したことをその人にも報告しました。

その人は僕の頭をはたいて喜んでくれました。

結局、僕はお母ちゃんから離れました。

しかし・・・どこに住んでいるかは知っていたのです。

お母ちゃんは故郷に戻ってきていました。

郵便屋さんはお母ちゃんが「ファーストフード店」で働いていることを教えてくれました。

お母ちゃん相変わらず綺麗で四十代とは思えないくらいミニスカートの制服が似合っていました。

ご注文は・・・と聞かれたのでコーヒーのSサイズを注文しました。

お母ちゃんは料金の二百円を受けとると部屋の鍵を取り出して声を低めて・・・家で待っているようにと僕に告げました。

僕はお母ちゃんが僕に気がついたのがうれしくてスキップしてお母ちゃんの家に向かいました。

お母ちゃんの家に花瓶がなかったことを思い出し、ガラスの花瓶を一つ買いました。

しかし・・・花瓶ぐらいではお母ちゃんは喜びませんでした。

地デジのテレビが欲しいというのです。

ほら・・・なんか・・・世の中が騒いでいる新しいものらしいです。

お母ちゃんが貯金はないのかと聞くのでないと答えました。

とにかく・・・僕は結婚して新しい家族ができたことをお母ちゃんに告げました。

お母ちゃんは結婚したなら保険に入っているはずだ・・・解約すればお金になるだろうと言いました。

僕は保険に入っていないと正直に言いました。

君が入るように言わないのかというので・・・言われたことがないというとお母ちゃんは呆れた顔で不貞寝してしまったのです。

ふと・・・窓辺を見るとオレンジ色のマフラーが目にとまりました。

それはお母ちゃんが夜なべをして編んでくれた手編みのマフラーでした。

一人で暮らしている頃、僕はいつもそのマフラーと寝ていたのです。

お母ちゃんはそれをまるで僕のように飾っていたのでした。

僕はそのマフラーを手にとって・・・花瓶の代わりにこれをもらっていくといいました。

それから僕はお母ちゃんの前で正座をしました。

お母ちゃん・・・僕は幸せだったんだ。

一人でいても・・・お母ちゃんからお金が届くのが楽しみだった。

お母ちゃんが幸せなら僕も幸せだから。

警察にいろいろ聞かれた時もお母ちゃんのことだけが心配だった。

大人たちは可哀相だとか・・・不幸だとか・・・いろいろ言ったけど・・・僕は一度もそんな風には思わなかった。

毎日がとても楽しかったんだよ。

すると突然、お母ちゃんが呻いたのです。

子供に生命保険をかけるような母親の子供に生まれて幸せだと思うなんてお前は本当に馬鹿だねえ。

お母ちゃんはただ泣いていました。

僕はなんとか新しいテレビをお母ちゃんに買ってあげたいと思っています。

自分の家にテレビがないのにおかしいかな。

それから・・・僕は思ったのです・・・これから・・・君のお母さんの家に行って結婚の報告をしようって。そして・・・君とお母さんが逢えるようにお願いしてみようと思います。

きっと君もお母さんに会いたいんじゃないかな。

お母さんも君に会いたいんじゃないかな。

きっと何もかもが上手く行く。

そう思うと僕はとても楽しい気持ちになりました。

僕は望海が・・・幼稚園の卒園式で「BELIEVE」を歌うのが今から凄く楽しみなんだ。

世界中の 希望のせて

この地球は まわってる

信じてる

いま未来の 扉を開けるとき

僕は君のお母さんに会うのがとても楽しみです・・・信より」

小春は知りたかった。

夫が・・・植杉の家でどんな時間を過ごしたのか。

それは夫にとって幸せな時間だったのか・・・。

小春は電話で紗千(田中裕子)に訪ねた。

「夫は何かを食べましたか」

「たいしたものは出さなかった・・・」

「・・・」

「グリーンピースの豆ご飯と・・・アサリの味噌汁・・・かれいの煮つけ・・・茄子とレンコンの煮物・・・キュウリとささみの酢のもの・・・それから食後に梨をむいたの・・・」

その時、娘の夫が「やせているけど凄く丈夫だ」と娘について語った時、どんなに安堵したか・・・「意地をはっているけど本当はお母さんに会いたがっている」と言われてどんなに嬉しかったかを・・・小春に告げられず・・・言いたい言葉を飲みこむ紗千だった。

母の想いを知らないまま小春は夫が最後に食べたものを・・・子供たちと一緒に食べようと小春は思った。

夫の最後の幸いを・・・分かち合うために・・・。

紗千は夜勤のために・・・青柳一家の帰宅前に家を出た。

小春が帰宅すると・・・そこにはグリーンピースの豆ご飯、アサリの味噌汁、かれいの煮つけ、茄子とレンコンの煮物、キュウリとささみの酢のものが用意されていた。

小春は・・・憎んでいる母親の向こうに愛しい男の温もりを感じるのだった。

もしも誰かが 君のそばで

泣き出しそうになった時は

だまって腕をとりながら

いっしょに歩いてくれるよね

小春が食事を温めている間に栞(二階堂ふみ)は漢字の読めない子供たちと信の最後の手紙を読んだ。

栞は涙が止まらなくなるのだった。

たとえば君が 傷ついて

くじけそうに なった時は

かならずぼくが そばにいて

ささえてあげるよ その肩を

栞は裁かれる時が来たことを悟ったのだ。

秘密を抱えたまま・・・生きていける強さを持たない栞だったから。

しかし・・・素晴らしい人に汚名を着せたままでは生きてはいけなかったから。

栞はその罪の恐ろしさに震えた。

強さも弱さも自由意志とは無関係だという諦念。甘やかされ虐げられた一人の愚かな女。

生きているのも死ぬのも怖い弱き人。

子供を寝かしつけ・・・薬を飲むために台所にやってきた小春を栞は待っていた。

「私・・・お姉ちゃんと仲良くしたい・・・この家にずっといるんでしょ・・・」

「そうしたいと思っています」

小春はうっかり・・・器を落とし、割れた破片で足を切ってしまう。

流れ出す・・・再生不良性貧血の止血力の低下した血液。

栞は救急セットを取り出す。

「ずっと・・・いてほしい・・・本当はお母さんはそれを願っている」

「植杉さんが・・・」

「・・・お母さんでしょ・・・自分が梨を渡したせいで・・・あの人が死んだなんて嘘を言って」

「死んでません・・・彼はただ生きたんです」

「本当は私なの・・・私が痴漢だって嘘をついた・・・」

「え・・・」

「お兄さんはいい人だった・・・私を心配してくれた」

「なんで・・・そんな・・・」

「私がお兄さんを死なせたのです・・・そういう風に育てられたから・・・」

「なんでよ」

小春の中で絶望と憎悪が同時に爆発した。

紗千の作った手料理を振り払い・・・栞の上に馬乗りになる。

「なんでよ」

「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい」

「なんでなのよ」

小春の中で憤怒が殺意へと変わろうとした時・・・望海がやってきた。

「お母さん・・・なにしてるの」

「来ないで・・・裸足で来ないで・・・危ないから・・・来ちゃだめっ・・・」

その頃、仕事を終えた紗千は家族六人分のケーキを購入しているところだった。

闇の中で女たちは幸と不幸を感じる。

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2013年8月14日 (水)

嘆きのアステロイドよりの使者スターマン(福士蒼汰)は星の王子様(広末涼子)

人間に憑依するアメーバ生命体型宇宙人の登場する傑作SF「20億の針/ハル・クレメント」はジュブナイルとして「偕成社のSF(科学小説)名作シリーズ」の第8巻の「姿なき宇宙人」となっている。

これに次いで第9巻は「宇宙からのSOS/マレイ・ラインスター」である。この原作である「The Wailing Asteroid / Murray Leinster(嘆きの小惑星」)は水木しげるのコミック「地獄」及び「コロポックルの枕」と類似していると言われる。

そもそもタイトルの「嘆きの小惑星」は・・・ローマ軍によって鎮圧されたユダヤの反乱によってエルサレムが炎上し、神殿が破壊され、残った西壁を「嘆きの壁」と呼ぶ故事を連想させる。

入手が比較的、簡単な「コロポックルの枕/水木しげる」は非常に恐ろしい宇宙人とのコンタクトの話である。

古代遺跡から発見された枕のようなものは実は滅亡した古代地球人の記憶伝達装置であった。

夢として体験できる「古代地球人の絶望的な歴史」・・・。

かって、地球に繁栄した人類は「鬼」のような宇宙人の家畜だったのである。

地球人が地に満ちると宇宙から圧倒的な軍事力を持つ「鬼」たちが現れて地球人は「食料」として収穫されるのである。

なす術もなく、どんどん食われていく人類。

もちろん・・・「コロポックルの枕」は最近の日曜の夜のお楽しみである「進撃の巨人」の原点とも言えるわけだ。

とにかく細々と生き残った人類は最後にこの記録を残したのだった。

そして・・・宇宙空間に残された地球を「地獄」に変貌させる「鬼」の襲来警報が再び鳴り響く。

新たなる収穫が始まろうとしているわけである。

スターマンがこのための先兵だったら・・・血沸き肉踊るスペクタクルが展開されるわけだが・・・。

おそらく・・・スターマンは孤独な遭難者なのだろう・・・と思われる。

だから・・・星男は「星の王子様」というより・・・人魚姫の助けた王子のポジションなんだな。

王子は・・・陸には帰らず・・・半魚人に変身して・・・人魚の国で幸せに暮らしました・・・みたいな。

で、『スターマン・この星の・第6回』(フジテレビ20130813PM10~)脚本・岡田惠和、演出・白石達也を見た。当然のことだが・・・スターマン飛来の発光体現象はドラマ「MM9-MONSTER MAGNITUDE」(2010年)でおなじみの気象庁特異生物部対策課、通称・気特対の守備範囲であり、現地には気特対機動班の朏万里(尾野真千子)や藤澤さくら(石橋杏奈)が出動して定点観測の任務についていると思われる。おそらく・・・福島原発事故の放射能分布の測定などと言ったカムフラージュをしながら、宇宙人の出現を探索しているのである。

「スーパーマーケットやまとの重田って何者なんですか」

「古い記録によると・・・宇宙人らしい・・・ただし無害と認定されて放置されているらしい」

「ええーっ・・・宇宙人を放置しているんですか」

「予算と人員に限度がある以上・・・しょうがないだろう・・・不法滞在の外国人をいちいちマークできるかってえの」

「そういうレベルの問題ですか」

「とにかく・・・どうやら・・・新着の方は実体化直前らしい・・・」

「それにしても明らかに人間離れした行動を目にしているのに・・・あの佐和子っておばさん・・・どこまで呑気なんですかね」

「一般人なんて・・・そんなもんだろう・・・」

「で・・・どうなるんですかね」

「重田と同種の宇宙人なら・・・しばらく監視して・・・問題行動がないようなら・・・重田と同様に放置だな・・・」

「同種族が合同する危険性はないのですか・・・」

「とにかく・・・重田が40年も無事故・無違反なんで・・・摘発の必要なしという・・・班長の判断なんだよ・・・」

「ランチの買い出しに行きますけど・・・どうします」

「おにぎり・・・梅としゃけとこんぶで・・・」

「了解・・・」

気特対の機動車両を出たさくらは徒歩で国道沿いのコンビニに向かうのだった。

星男は佐和の子供たちと近所の草野球場で朝の特訓をしていた。

次男の宇野秀(黒田博之)の守備力の強化が目標である。

生前は野球少年だったらしい星男は鬼のノックを繰り広げるのだった。

「こら・・・目えつぶるな・・・球をしっかり見ろ」

「身体でとめろ」と長男の宇野大(大西流星)も檄を飛ばすのだった。

星男を信頼する秀は懸命にキャッチしようと球を追うのだった。

三男の宇野俊(五十嵐陽向)は健気にも外野で球拾いをする。

どう見ても仲良し父子である。

盗聴器と監視カメラでモニターする万里はのどかな光景に思わず居眠りしそうになっていた。

その時、イレギュラーした打球が幼い俊を襲う。

大惨事発生と思いきや、星男は超加速能力で打球をキャッチするのだった。

「すげえ・・・」と叫ぶ万里だった。

しかし・・・子供たちはすでに星男の能力を既知のものなので和やかに微笑み合う。

次に星男は俊が踏みつぶした蟻を超能力で蘇生させたりするのであった。

「・・・」と観測者の万里は絶句していた。しかし・・・資料的にそのような能力が重田型異星人にあることは判明しているために・・・上司の判断を仰ぐような事態ではないのである。

しかし・・・星男の覚醒の時期は迫っており・・・そのことを本人は察知しているようだった。

「俺の中の何かが・・・何かしようとしている・・・お前、俺をどうする気だ」

帰宅した星男が洗面所でつぶやくのを耳にする佐和子(広末涼子)は・・・不思議に感じつつも気にとめないのだった。

佐和子が出勤した後・・・星男は洗濯ものを干しながら佐和子の祖母の美代(吉行和子)に話しかける。

「自分の寿命は尽きようとしているみたいです」

「まあ・・・北斗の拳みたいね・・・そういうことは・・・佐和子に直接言いなさい」

「・・・」

なんでも知っている美代だが・・・星男の寿命がそんなに早く尽きるとは予想していなかったと思われる。

一方、重田が宇宙人の正体を目撃してしまった臼井祥子(有村架純)の口封じのためにキスをしたことにより・・・微妙な空気が生じていた。

安藤くん(山田裕貴)は嫉妬に身悶えし、祥子は重田を自分を宇宙に連れてってくれる宇宙人だと妄信し、重田は困惑し、佐和子は三角関係を疑うのだった。

「僕はそういう関係は認めない・・・」という安藤くん。

「いや・・・そういう関係ではない」と愛妻家の宇宙人重田は弁明する。

しかし、祥子は「安藤くん・・・うっざい・・・」と吐き捨てるのだった。

もう、宇宙への道が開かれて祥子はウキウキしているのである。

お尻をフリフリなのである。

ワクワクドキドキなのである。

とにかく・・・祥子は地球と言う下等な惑星が嫌で嫌で仕方ないのだった。

「それは・・・言いすぎじゃないの」と見当違いの意見をする佐和子だった。

下世話な好奇心から重田をスナックスターに誘う佐和子は「もし・・・星男くんに何かが起こったら・・・私に連絡してくれ」と頼まれるのだった。

俊を保育園に迎えに行った佐和子は・・・星男が先着しているのに気が付き・・・胸が熱くなる。

しかし・・・星男から・・・「自分の中の何かが・・・自分を消し去ってしまうだろう」と聞かされて・・・自分を捨てるための嘘だと決めつけて・・・星男を殴り倒すのだった。

しかし・・・直後に意識を失い転倒する星男。

「そんなに・・・強く殴ってないのに・・・」と動顛する佐和子だった。

節(小池栄子)もかけつけ、近所の医者(モト冬樹)が例によって往診に来るが・・・星男はすでに死亡していた。

「嘘・・・」と佐和子が自分の拳を見つめた時・・・重田がやってくる。

「大丈夫だ・・・彼は死んでいるが・・・もうすぐ息を吹き返す・・・君の星の王子様として・・・」

「・・・」

重田の予言通り・・・星男は目覚める。

しかし、その身体は浮揚し、首は360度回転するのだった。

「佐和子」と微笑みかける星男(完全体)・・・。

はたして・・・佐和子はこの怪物を愛することができるのだろうか・・・と普通は考えるところだが・・・愛するに決まってるよね・・・佐和子の場合。

モニターを見ながら気特対機動班の二人はカップラーメンを食べていた。

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2013年8月13日 (火)

待っていると追いかけるが同じコマンド(長澤まさみ)のSUMMER NUDE(山下智久)

あらゆるドラマはあらゆるコンシューマ・ゲームに影響されている。

恋愛ドラマもまた恋愛ゲームからの影響から逃げられない。

恋愛ゲームの中で恋愛アドベンチャーと恋愛シミュレーションの差別化は難しくなっているのかもしれない。

しかし、どちらもコマンドの選択は重要な要素である。

で、もしも「追いかける」と「待っている」が同じ結果のコマンド(選択し決定し指令すること)のゲームがあったとしたら・・・それは「大傑作」か「クソゲー」かのどっちかであろう。

もちろん・・・「恋の狩人」にとって・・・それは同じだからである。

「獲物」を追跡して仕留めるのも・・・「罠」を仕掛けて待つのも「狩り」だから・・・。

しかし、「追いかける」のも「待っている」のも「何もしない」のも同じだとしたら・・・。

何を選んでも結果は同じで・・・。

そんなゲームが楽しいのかどうか・・・微妙である。

この脚本家には・・・時々、そういう虚無的な態度を感じることがある。

皆さんはどうですか?

で、『SUMMER NUDE・第6回』(フジテレビ20130812PM9~)脚本・金子茂樹、演出・石井祐介を見た。花火の夜に帰って来た香澄(長澤まさみ)・・・。朝日(山下智久)は驚くが・・・それよりも波奈江(戸田恵梨香)の動揺が激しいのだった。一方で朝日の恋心が苦しくてみさき市から逃げ出す決意を固める夏希(香里奈)・・・両思いになることを決して許さないこの世界の神の「恋愛がバトルなんていやだ」的ルールは・・・主人公の心を弄び続けるのだった。恐ろしい・・・急にみんないなくなっちゃったルートに突入するらしい。

「突然、香澄が帰ってきて・・・スコールに遭ったように街の空気は変わってしまった。みたこともない夏がすぐそこまで迫っていた・・・」

少なくとも・・・このナレーションはふざけているとしか思えないよねえ。

だって・・・第6回冒頭だぜ・・・オンエア八月第二週だぜ・・・。

夏はとっくに始ってたんじゃないんですかあああああっ。

もう・・・夏の終りを予感させる季節じゃないんですかああああああっ。

まあ・・・暑いけどね。四万十川は日本最高気温41度達成したけどね~。

豹変するのか・・・みんなリセットされて・・・豹変するのですかあっ。

それはそれで笑いますけどね~。

さて・・・気分を出して・・・もう一度。

夜空を染める花火。

幸せの絶頂を迎える波奈江・・・。

そこに・・・突然、現れた逆光のシルエットも生々しい朝日の女神・香澄。

無言で去っていく香澄。

逃げ出す波奈江。

取り残された朝日は・・・「波奈江を呼びとめる」を選択。

しかし・・・「手をつなぐ」も「抱きしめる」も「愛してると囁く」も選択せずに・・・「並んで歩く」だけなのである。

波奈江の不安は頂点に達し・・・。

「香澄を追いかけて・・・じゃないと・・・私、心の病気になってしまいそう」

まあ。一人の男を十年、片思いすることがすでにビョーキという考え方もある。

「わかった・・・」

そこで「何がわかったんだ」とお茶の間を絶叫させつつ、香澄捜索モードに突入する朝日。

しかし・・・くのいちである香澄はそんなに簡単に捕まらないのだった。

波奈江は金魚をキャッチ&リリースである。

これは・・・ある意味、象徴的な出来事で・・・すでに発狂している波奈江はすべてをキャッチ&リリースしていきます。

その姿を目撃した・・・あおい(山本美月)とデート中のヒカル(窪田正孝)は暗い瞳を輝かせるのだった。

結局・・・香澄を再発見できなかった・・・朝日は香澄に電話をする。

「結局、みつからなかったよ」

「そう・・・」

そして・・・夏の花火は消え去った。

「みたこともない夏がすぐそこまで迫っていた・・・」

だから・・・夏はとっくに始ってますから・・・。今まではそんなに「よくある夏」だったのですか・・・とスタッフ一同に誰もが問いたいエレーンである。

「香澄ちゃん、みさきに帰って来たってよ」

「香澄ちゃん、花火見てたってよ」

「香澄ちゃん、これがほんまに乳かえるやおまへんか~」

「それ、あまちゃんでもやってるから」

「やはり・・・存在感、大きすぎて・・・ある意味、ドラマを壊しちゃってるよねえ」

「でも・・・戸田恵梨香が太刀打ちできない感じは凄く伝わってるんじゃないの」

「乳がか」

「乳がだ」

たちまち・・・みさき市は乳じゃなくて香澄が姿を見せた話題で沸騰する。

タカシ(勝地涼)はあわてて朝日を訪ねる。

「おい・・・香澄ちゃんが・・・」

「昨日・・・見た」

「あ・・・そう・・・で・・・」

「追いかけたが見つからなかった・・・」

「あ・・・そう・・・そういえば、夏希ちゃん、レストラン青山やめて、東京帰るってさ」

「なんだって・・・」

「そこは驚くのかよ」

「理由は・・・」

「勢津子さんが復帰するからだろう」

「・・・」

「今夜、港区で送別会だってよ」

夏希は勢津子(板谷由夏)に挨拶に訪れていた。

「私はさ・・・もう少し、夏希ちゃんにいてもらいたいんだけどね」

「すみません」

「そうそう・・・聞いた・・・香澄ちゃんが帰って来たらしいよ」

「え・・・あの看板の人がですか・・・」

「・・・うん」

夏希はあわてて波奈江を訪ねる。

「・・・どうした・・・」

「うん・・・なんだか・・・お腹が痛くなっちゃって・・・」

「胸でしょ・・・」

「私・・・勝てる気がしないの・・・」

「そんなことないよ・・・あいつは・・・もう・・・波奈江の彼氏だよ・・・」

「ありがとう・・・やっぱり、夏希は頼りになるよね・・・どうしても行っちゃうの・・・」

「うん」

「なんで・・・ずっといればいいのに」

(あんたの彼氏を好きになっちゃったからだよ)とは言えない夏希だった。

波奈江のことを諦めて、あおいとつきあい、就職しようと決意したヒカル。

しかし・・・香澄が姿を見せたことで・・・心が揺れる。

動揺しながらヒカルは東京へ就職のための面接試験を受けに出発するのだった。

就職先は何やら映像制作の会社らしい。

ヒカルとタカシは一応、朝日の二面性の象徴となっている。

ヒカルは芸術系で、タカシは体育会系なのである。

カメラマンとなった朝日をある意味でヒカルは追従しているのだ。

一方で明るく、礼儀正しいタカシは朝日にもそういう一面があることを物語る。

香澄と交際した一年間とその後の三年間で朝日のタカシ的な側面は薄れてしまったのだ。

そういう朝日の元へ「夢の女」である香澄から連絡が入る。

「話したいことがあるから・・・今日、あってくれない」

「じゃ・・・看板のところで・・・」

朝日はそのことを波奈江に報告する。

「今日、香澄と会うことになった・・・でも何も心配するなよ」

「・・・うん」

心配するな・・・と言われたら心配になるのだ。

波奈江の心の病は爆発寸前なのである。

波奈江は朝日を追いかけていた。それは待って待って待ち続けることだった。

そして・・・ついに獲物が罠に足を踏み入れた瞬間、別の狩人が猟銃を撃つ・・・。

そんな気分なのである。

(飛び道具相手じゃ勝てない)と・・・波奈江は俯くのだった。

そうやって十年間も暮らしてきたのである。

おかしくならない方がおかしいのだった。

夏希は勢津子とともにレストラン青山に立った。

結局、特に二人の料理対決があるでもなく・・・海の家は海の家だったらしい。

ジャンバラヤが出てきてもそれがとうした・・・なのである。

隣の海の家のウエイトレスであるあおいは夏希に不安を打ち明ける。

「彼が東京に就職活動に行ってるのね」

「そうなんだ・・・就職決まったら東京に住むのかな・・・」

「遠距離恋愛になってしまうかもね」

「あんた・・・モデル志望なんだから・・・一緒に東京行けばいいじゃない・・・この町にいたら・・・一生、モデルにはなれないと思うよ」

「そうかもね」

写真館で家族写真を撮るルーティン・ワークをこなしながら・・・朝日の心はゆれる。

「どうするのさ」

「なにを」

「香澄がやりなおしたいっていったら」

「ばかな・・・俺には波奈江がいるじゃないか」

「三年も待っていたのに」

「波奈江は十年待っていてくれた」

「別にお前が頼んだことじゃないだろう・・・」

「・・・」

「お前がまっていたのはさ・・・」

「そんな・・・ひどいことはできない」

「そうなのかな・・・それは本当にひどいことなのかな」

「好きでもない女と・・・妥協して付き合うのと・・・どっちがひどい・・・」

「俺は・・・波奈江が・・・好きなんだよ・・・今は」

「本当か・・・それは本当か」

しかし・・・朝日の苦悶は杞憂だった。香澄と待ち合わせする時はいつでもそうだったように・・・早めに来ている朝日。

「相変わらず・・・早いのね」

「・・・」

「私・・・結婚するんだ・・・」

「・・・」

「それは・・・どうしても伝えないといけないかなって・・・思って」

「・・・」

「私・・・四年前、恋人と別れてこの町に来たの。それで・・・あなたと出会って・・・優しくされて・・・付き合って・・・本当に癒された・・・でも一年後に・・・昔の恋人からやり直したいって言われて・・・どうしてもノーと言えなかったの。あなたに・・・そのことを言うこともできなかった。あなたを傷つけるのがこわかったし・・・自分が傷つくのもいやだった。だって・・・ひどいことをしたんだもの・・・本当に・・・ごめんなさい」

「・・・結婚おめでとう・・・幸せになってください」

「・・・ありがとう」

もちろん・・・結婚するって本当ですかという疑問は付きまとうのだが・・・面倒くさいので邪推するのはやめておきます。とにかく・・・香澄が普通の仕方ない女だったということで話をすすめないと・・・どうにもこうにもだからである。なんていうか・・・「気をもたせるの」と「興味を引く」の使い方が間違っている脚本家なんだよな。

こうして・・・朝日は完全な形で失恋したのである。

もちろん・・・結婚式に招待されて・・・二人が新婚旅行に旅立つまではハレルヤ・チャンスはあるわけだが・・・それはもう別の話だからな。

とにかく・・・恰好悪い振られ方をした朝日は・・・そのことを波奈江に伝えようとするのだが・・・。

完全に精神が崩壊した波奈江は電話に出ないのだった。

(なぐさめてもらいたい・・・なぐさめてもらわなきゃ・・・いつものようにヒカルに・・・愚痴を聞いてもらわなきゃ・・・こうなることはわかってたんだから)

波奈江はヒカルに電話して東京で会うことを求め、ヒカルはあっさり了承するのだった。

基本的に波奈江はわがままな田舎のお嬢様で・・・十年間片思いしている自分に酔っているだけだったらしい。

何度、電話しても出ない波奈江に少し、不安になる朝日だった。

あれだけ世話になった波奈江も・・・あおいが来ているのにヒカルも来ない・・・夏希の送別会。

朝日は遅れて到着する。

「ようやく・・・きたわね」

「来ないと何言われるか・・・わかりませんから」

そもそも・・・朝日が招聘した女である。朝日の不実が匂い立つ。

一方で・・・まったく相手にされないのに・・・律義に送別会で幹事を務めるタカシ。

「必ず・・・東京に遊びに行くっす」

「皆さんで来てくださいねえ」

「あらら・・・タカシ・・・ふられちゃったよ」

「え・・・いつどこで誰がふられたんすか」

一同爆笑の「港区」だった。ま、笑えないけどね。

「ねえ・・・香澄って人・・・帰って来たんでしょ」と問わずにはいられない夏希。

「結婚するって・・・報告にね」

「あ・・・そうなんだ・・・そのこと波奈江には伝えたの・・・」

「ずっと電話しているのに・・・つながらなくてさ・・・」

「ふうん」

香澄は消えた。波奈江は幸せになれる。それで・・・いい。

みさき市を去る決意をあらためて固める夏希だった。

その頃・・・波奈江はヒカルと東京で飲んでいた。

当然、二人は寝てしまう展開だが・・・波奈江は処女だし、終電も早いので・・・そうはならないようだった。

いや・・・タクシーで国道沿いのラブホテルにしけこんだ可能性も・・・ま、どっちでもいいか。

要するに・・・小中学生向きの内容を・・・アラサー男女がやっている無理が露呈しています。

だけど・・・帝国的には「SUMMER NUDE'13/山下智久」が「潮騒のメモリー/天野春子(小泉今日子)」を抑えて週間トップだったからそれでいいのかもしれない。

クドカンと帝国は無縁ではない。ただし、山下智久はいきなり殺されています。

「まこと」や「ぶっさん」でキャラを確立する必要がない美少年だったので冒険する必要がなかったと言えるのですな。

クドカンは「あまちゃん」以後ではステータスが変わってくるので・・・いつか「山下智久&クドカン」の実現を望みたいと考える。

このドラマは「木更津キャッツアイ」と相似するところの多いドラマなのだが・・・主人公が野球部出身、地元から出られない、地元が千葉県、幼馴染に片思いされているが相手にしない、友達や仲間からなんとなく一目置かれている、流れものに弱い・・・などである。しかし・・・地元でありながら・・・主人公の家族について・・・全く語られない・・・やる時はやるという設定なのにその気配がない・・・などといろいろと気になる点が多いのだった。その隠された部分が後半語られるのかもしれないが・・・気をもたせまくった「夢の女」が単に昔の男とヨリを戻しただけだった・・・みたいに残念な感じしかないのが残念なここまでなので、あまり期待できないのだった。

しかし・・・今回も後半は・・・それなりに見せるのだった。

ようやく・・・波奈江と連絡がとれる朝日。

「香澄と会って話をしたよ・・・明日会えないかな・・・話したいことがあるから」

「・・・わかった」

なんで・・・香澄が結婚するって言わないんだとお茶の間を絶句させつつ・・・仕事を理由に夏希の見送りに来ない朝日だった。

タカシはみさき駅に来た。

「これ・・・うちの会社の海苔のつめあわせ・・・電車の中でたべて」

「ありがとう・・・電車の中では食べないですけど」

「最後まで・・・敬語かよ・・・」

「・・・」

「元気でね・・・いつでも遊びに来て・・・」

「・・・はい」

「あと・・・味付け海苔はギリギリ電車の中で食べられると思うんだけど」

「パリパリっと」

「そう・・・パリパリっと」

「・・・無理ですよお」

海苔のセットを見ながら微笑んでホームに下りる夏希。

そこには・・・帰京する香澄が佇んでいる。

「あの・・・看板の写真の人ですよね」

「・・・はい」

「私・・・レストラン青山で昨日まで働いてたんです・・・」

「そうですか」

「結婚なさるんですって・・・」

「ええ」

「・・・」

「友達が・・・あの看板に私が写ってるって偶然見かけて・・・」

「はあ・・・」

「けじめをつけなくちゃって思ってきたんですけど・・・看板は空でした・・・私の勘違いだったみたい」

「そんなことないですよ・・・彼はあなたとの約束守って三年間、毎朝、看板に挨拶してたみたいですし」

「・・・」

「先週まで看板にあなた写ってたし」

「・・・」

「三年間、48時間のレンタル料金を払い続けて・・・」

「・・・」

「ずっと・・・あなたを待っていたみたいですよ・・・あいつ」

「・・・私、彼には本当にいくら感謝してもたりないくらい・・・でも、そういう相手にひどいことをする女なんですよ・・・でもね・・・時々、思います・・・あのまま、街にいたら・・・それはそれで幸せだったのかもしれないって・・・」

「・・・」

電車がやってきて・・・香澄は去って行った。

一緒の電車には乗れなかった夏希。

思いは乱れるのだった。

目を伏せて その髪の毛で その唇で

いつかの誰かの感触を君は思い出してる

米田春夫(千葉雄大)と石狩清子(橋本奈々未)のセンスのかけらもない浜辺の花嫁花婿の入場や、谷山駿(佐藤勝利)と一瀬麻美(中条あやみ)が余っていることは割愛して・・・浜辺での朝日と波奈江の愁嘆場である・・・。

「珍しく早いのね」

「そうかな・・・」

これは波奈江が待たされ続け、朝日が待たせ続けていたということである。

つまり・・・朝日の中で波奈江はランクアップしているわけだが・・・そういうことも波奈江の心を乱すのだった。今さらだからだし・・・別離を切りだされるかもと身構えるからだ。

しかし・・・波奈江の心情はそういう限界点をついに越えたらしい。

「あのさ・・・」

「私・・・朝日にはとても感謝してる・・・今年の夏は写真を撮ってもらえたし、ギュッてしてもらえたし・・・一緒に花火もみられたし・・・」

「そんなこと・・・これからいくらでも・・・」

「私にとっては・・・凄いことだった・・・十年待った甲斐があったっていうか・・・」

「・・・」

「だから・・・もう・・・朝日のことはあきらめます」

「え・・・」

「最後くらい・・・自分で決めさせて・・・」

「何を言ってるのか・・・意味が分らない」

どうやら・・・これが「見たことのない夏」らしい。

ええっ・・・本当にそうなの?

ものすごく・・・既視感(デジャヴ)っていうか・・・ありふれた夏なんじゃ・・・。

いやいやいやいや・・・これからが夏本番だべ・・・残暑だけどな。

とにかく・・・何を選択しても恋愛ターゲットに「さようなら」と言われるクソゲーのやりきれなさは堪能できました。波奈江が片思いに疲れ果てたのか・・・妥協して付き合ってもらうのが嫌なのか・・・自分では朝日を幸せにできないと思い定めたのか・・・そういう気持ちさえ何一つ伝わって来ないんだから・・・困ったもんだよね。

まあ・・・そういうなげやりでおまかせの恋愛ドラマがあってもいいけど・・・もっとベタで楽しませてもらいたい今日この頃なのでございます。

関連するキッドのブログ→第5話のレビュー

Sn006 ごっこガーデン。みたことのない夏の海リセット・セット。エリきゃああああああああっ、波奈江自爆コースでス~。その手があったかあ・・・ですけれど、こりゃ、もう反則ですわよね~。どうしましょ・・・ここはひとまず・・・夏希にチェンジ・・・それとも・・・朝日は猛然と波奈江追っかけモードに入るのかしら・・・それともまた待つだけモードなのかしら・・・読めないのでス~。読めなさすぎなのでス~まこぼぎゃああああああんでしたね。とりあえず・・・来週のサマヌーの後はあまちゃん/うっちゃんをうっかり忘れないように~なあのだあじょーくう葉ちゃんコントまでが私のサマヌー・・・一応香澄の結婚とリンクしているネタなのかしらね~・・・ここだけはクーラー効いてる感じだよね~みのむし寒いのね・・・うっかり用心助けあいシャブリ「夏希が乗った電車の車掌がちゃんと停車位置指さし確認してました~ikasama4お盆ですなちーずお盆ですねえmari・・・皆さん、残暑お見舞い申し上げます。朝日がふられたのはまあ・・・当然と言えば当然ですよね・・・しかし・・・波奈江も掌返し過ぎ・・・釣った魚に餌やらないタイプなのでしょうか・・・

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2013年8月12日 (月)

明治五年、八重二十七歳、時栄十九歳、みね十歳、捨松十二歳でごぜえやす(綾瀬はるか)

大河ドラマで役の年齢と役者の年齢について記述するのはある意味、無粋である。

しかし・・・山川捨松十二歳を・・・水原希子二十二歳がそれなりに演じていたことは記しておく。

それにしても・・・小学生を単身渡米させるとは・・・奴隷売買じゃないのか。

岩倉使節団には捨松の兄・山川健次郎が留学生として随行している。

また・・・後に捨松の夫となる大山弥助はスイスのジュネーヴに留学している。

新島襄を登場させるついでに捨松も描くという展開だが・・・いささか乱暴な話だと思う。

ここからは・・・ある意味、どんな大河になるのか・・・まったく未知数と言える。

少し・・・不安を感じさせるよねえ。

岩倉使節団の大久保に留守を守る西郷は手紙を書いている。

「米国は使節団を歓待していると聞きますが、英国との関係はどうなるでしょうか。米英の仲は険悪とも聞いているので日英の仲に影響が出ぬかと心配しております。ドイツは勝ち戦(1870年~71年の普仏戦争)で勢いに乗っているようです。もちろん・・・これは横浜あたりのドイツ人がそうだということで本国ではどうなのかは窺い知る由もないのですが・・・ドイツ人が調子に乗っているというのは間違いないと思います。ロシアはどうでしょうか。ドイツとロシアの間には不穏なものがあると思われます。とにかくこちらは何事もなく平穏です。手持無沙汰なくらいです・・・」

西郷が日本で暇を持て余している感じは大久保に伝わったと考える。

で、『八重の桜・第32回』(NHK総合20130811PM7~)作・山本むつみ、演出・一木正恵を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回はイラスト公開はお盆休みでございます。ここまで公開に次ぐ公開お疲れ様でございました。後半戦に向けて期待も高まりますが・・・あくまでマイペースでお願いします。画伯のやる気が失われるような駄作大河にならないことを祈るばかりです。殺人マシーンと化したヒロインがどんな戦後の人生を送るのか・・・楽しみでもございますねえ。まあ、大日本帝国は今後も戦争に次ぐ戦争を展開するわけですが・・・。

Yaeden032 明治四年四月(1871年5月)、普仏戦争はフランフルト講和条約の締結で終戦となる。フランスは敗北し、ドイツが世界最強の陸軍によって欧州に台頭することになる。十一月、岩倉使節団と称される岩倉具視ら107名が欧米派遣の途に就く。横浜港より太平洋を横断、サンフランシスコに上陸後、アメリカ大陸を横断、ワシントンD.C.に到着。明治五年夏まで米国に滞在する。その陣容は特命全権大使・岩倉以下、木戸孝允(長州)、大久保利通(薩摩)、伊藤博文(長州)、田中光顕(土佐)、山田顕義(長州)、村田新八(薩摩)など多様な顔ぶれであった。この中に留学生・山川捨松や通訳随員の新島襄が含まれていたのである。その後、使節団は大西洋を横断し、イギリス、フランス、ドイツ、ロシアなどを歴訪し、地中海からスエズ運河を通過、アジアの列強植民地を訪問しつつ、明治六年(1873年)九月に横浜港に寄港する。その間、留守政府では朝鮮出兵を巡る「征韓論」が政治的課題となって政争の様相を呈するのだった。そうした中央から離れ、京都の山本覚馬は明治五年、内国勧業博覧会を開催したりするのだった。この頃、兄の指示によって八重は京都女紅場(後の府立第一高女)の権舎長に就任する。八重の戦後が本格的に幕をあけたのである。

夏の暗き森。京都西北の鞍馬山中を覚馬を背負った八重が走る。

十年ぶりに再会した兄の変わり果てた姿・・・そして背中に乗る身の軽さが・・・八重の心を突く。

(あんつぁま・・・おいたわしい・・・)

「八重・・・あの岩が目印だ・・・裏手の獣道さ・・・分け入れ」

「あい・・・」

「あいではない・・・はいだ」

「はい・・・」

日本語には「イエス」と「ノー」がないと覚馬は言う。英語の基礎を教えながら・・・八重に覚馬は「はい」と「いいえ」をまず覚えさせた。

「風林火山の教えがありながら・・・まんず、会津はスピードが足りねえがった」

「スピード・・・」

「速さだ・・・風の如く速く・・・意志さ伝達せねばなんねえ」

「・・・」

「止まれ」

「はい」

「その木に鎖がある。それさ・・・引け」

八重が鎖を手繰るとどこかでカラクリの音がする。

次の瞬間、草木が跳ね上がり地下通路の入り口が出現する。

「梯子さ・・・降りろ・・・」

八重は片手で覚馬を支えながら地下へと降りて行く。

足元に人の気配があった。

頭上で扉が閉じる。

しかし・・・周囲は穴の中とは思えない明るさで満たされていた。

「八重よ・・・これが文明というものだ」

「・・・」

穴の中には一人の洋服を着た男が立っていた。

髪は伸び放題で後ろで束ねている。

足元は革製のブーツだった。

夏の暑さが嘘のようなひんやりとした地下室の中で男は微笑んだ。

「ようこそ・・・科学忍者隊第三研究室へ・・・」

「この人が・・・土佐の坂本龍馬様だ」

「・・・」

「ふふふ・・・それは昔のこと・・・今はドラグーン・アケチを名乗っ取る・・・なにしろ・・・わしは大英帝国の間諜じゃきに」

「イエイエ・・・ソレハ・・・違イマス」

アケチこと龍馬の背後から英国人・アーネスト・サトウが現れた。

「アナタハ・・・アクマデ・・・ニホンノサムライ・・・」

アーネスト・サトウは別の名をジェームズ・ボンド。コード・ネームは007である。

殺人許可証を持つ男だった。

「龍馬・・・アケチ様は・・・西洋の妖怪の呪いによって・・・不死身の身体となったのだ・・・」

「不死身・・・」

「いや・・・不死といっても日の光を浴びたら蒸発してしまうがの」

「蒸発・・・」

「塵となって消え果てるんじゃ」

「まさか・・・」

「それに・・・この地下室からは出られん・・・出ればたちまち・・・宿主であるドラキュラ伯爵の支配下に入ってしまう」

八重には理解不能のことだったが・・・フランスの闇を支配するドラキュラ伯爵の配下・・・ロシェの血を受けた龍馬は・・・その支配力には抗することができない身体なのである。

しかし、英国では吸血鬼学が発達し、霊的結界を構築することに成功していた。

英国は狼男たちの帝国だからである。

ロンドンの狼男の一人、サトウは科学忍者隊と提携を結び・・・この地下に対吸血鬼結界を構築したのだった。

「まさに・・・籠の鳥じゃ・・・」とアケチは苦笑した。

「対吸血鬼結界潜水艦ノーチラスの完成までの辛抱です」と覚馬は宥める。

「待ち遠しいのう・・・」とアケチは遠くを見る。

「八重よ・・・」

「はい」

「お前はここでアケチ様の手足となって・・・科学忍術を極めるのだ・・・」

「科学忍術を・・・」

「そうだ・・・イングリッシュを学び・・・世界の法を学び・・・世界の神秘を知り・・・そして・・・京都に新しき魔都を建設する・・・」

「魔都・・・」

「そうだ・・・その名はアイヅランドじゃ」

「アイヅランド・・・会津の国ですか・・・」

「そうじゃ・・・まずは・・・俺が開発した・・・新火薬の調合を完成させることから始める」

「オー・・・山本ノ火薬・・・ワンダフル」とサトウが眼を輝かせた。

八重は・・・異人や・・・土佐の妖人と語りあう覚馬を自分の兄とは別の人間のように感じ始めていた。

「八重よ・・・」

「はい」

「戦は終わることがない・・・」

「・・・」

「ひと時の平和を守るためには・・・軍備を極めねばならん・・・わかるな」

「はい・・・」

軍備を疎かにした会津がどうなったか・・・八重ほど身に沁みて知るものはいなかったといえるだろう。

八重は周囲を見渡した。

妖しい光の中でなにやら見慣れぬカラクリが所狭しと置かれている。

「これが・・・ラボというものですか」

「そうだ・・・新しい国の礎だ・・・」

覚馬は光を失った眼で遠い未来を見ているかのようだった。

そして・・・この時、科学くのいち八重が誕生したのだった。

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2013年8月11日 (日)

あまちゃん、十九発目の土曜日(能年玲奈)

一週間が早すぎるっ。

加齢とともに時の流れを早く感じる意識の現象はよく知られることだが・・・。

そういう問題じゃないよな。

明らかに「あまちゃん」に支配された「内的宇宙」が「収縮」に転じて加速しているのである。

どう考えても・・・二、三時間前に「先週の記事」を書き終えた気がしてならない。

だが、その間に一週間は確実に経過しているのだ。

八月の第二週はものすごい猛暑となって・・・例によって各地で人間の平熱を突破し、局地的には大雨を降らしたりして、原爆にちなんだ黙祷の日々があって、いくつかのスキャンダル、いくつかの読書、いくつかのガチャガチャもあったはずだが・・・しかし、数時間前に「来週は・・・世界陸上の女子マラソンかあ・・・」と感慨にふけったはずなのに・・・もう、世界陸上の女子マラソンで福士も野口も木崎も走ってます。走っちゃってます。しかも福士は笑いながら銅メダルを獲得しちゃってます。

おかしいよね。一週間、どこへ行っちゃったのかな。

この分だと・・・明日、目が覚めたら来週の土曜日になってたりして、次の日には夏が終わってたりして・・・怒涛のように・・・時が世界の果てに流れ込んでいくのじゃないか。

そんな恐怖を今、感じています。

さて・・・第19週はすべてが「やりなおし」を開始するのである。

その中でもしつこく挿入されるのがヒロインの「恋」の再点火であることは言うまでもない。

朝ドラマのヒロインとして「職業的挫折」から始るのに・・・一週間で「業界の頂点」まで登りつめるというダイナミックな展開をしながら・・・ヒロインの関心事は「初恋の結実」に尽きているというある意味、お茶の間の皆さんを震撼させる推移である。

しかし・・・クドカンのドラマで描かれる「恋」は大体こんな感じである。

ふりかえってみよう。

「池袋ウエストゲートパーク」・・・主人公の恋の相手は二重人格のコケシであり、最初から殺人鬼なのだった。

「木更津キャッツアイ」・・・主人公の恋の相手は爆弾魔のマドンナ先生だったり、アホの子のモー子だったり、ローラースケートをはいたコールガールだったりである。

「ぼくの魔法使い」・・・時々、古田新太になるバカップル。

「マンハッタンラブストーリー」・・・昼メロに夢中のタクシードライバーのくんずほぐれつである。

「タイガー&ドラゴン」・・・主人公の恋の相手は来るものをこばまない浮気者だ。

「未来講師めぐる」・・・恋人の未来の姿にあからさまに幻滅する深キョン。

「流星の絆」・・・兄と妹だ。

「11人もいる」・・・太ったヤンキーと真面目な少年が豆腐屋の娘を奪い合うのだった。

もう・・・ろくなもんじゃねえですから。

ラブコメとはおかしな人が恋するからこそラブコメなのである。

仕事そっちのけで恋に溺れるヒロインに万歳三唱するしかないのだ~。

で、『連続テレビ小説・あまちゃん・第19週』(NHK総合20130805AM8~)脚本・宮藤官九郎、演出・吉田照幸を見た。大女優・鈴鹿ひろ美(薬師丸ひろ子)の影武者として不本意な青春を過ごした天野春子(有村架純→小泉今日子)の娘・アキ(能年玲奈)は2009年、アイドルを目指して上京する。紆余曲折の末、GMT5の一員としてデビュー寸前となった2010年、春。秘密を守ろうとする芸能プロデューサー太巻こと荒巻太一(古田新太)の策略に激怒した春子によってGMT5のメンバーからの脱退ほ余儀なくされるアキ。しかし、娘をトップアイドルにすることに目覚めた春子は娘のための芸能事務所・スリーJプロダクションをアキの父親である黒川正宗(尾美としのり)と立ち上げるのだった。今、立ちはだかるアイドル界の帝王・太巻に天野母娘は敢然と反撃の狼煙を・・・。

月曜日 絶対あきらめないものだけが勝つ世界なんだもん(小泉今日子)

会社に関する法律は常に変動してきた。現在は2005年に成立した会社法が日本の会社設立の基本である。かっては株式会社の最低資本金額が1000万円の時代もあった。要するに既得権益を守るための新規参入への障壁があったのである。規制緩和の波に乗って・・・これが撤廃されたわけである。現在では資本金1円で会社を設立することが可能なのである。

だから・・・自宅を事務所、家族を社員とする会社のようなものでもしかるべき手続きを取れば社会的に有効な「会社」は設立できる時代なのだった。

設立資金として黒川正宗の貯金が・・・春子が座るための社長の椅子を買うことにほとんど費やされたことは言うまでもないだろう。

そして・・・スリーJプロダクションのホーム・ページが正宗によって立ちあげられたのであった。

以上である。もちろん、仕事はまだない。

日曜日は「ウニ丼」を食べてもいいが。平日の昼間は出前を基本として、キッチンで作っていいのはラーメンまで・・・アキが純喫茶「アイドル」でウエイトレスのアルバイトをするのは「営業」、正宗がタクシー勤務するのは「外回り」で春子のことは「社長」と呼ばなければならない。それがスリーJプロダクションの社則なのであった。

つまり、春子社長がルールなのだった。

ああ・・・懐かしい社長ごっこの世界。しかし、弱小芸能プロダクションは皆、ここから始るのである。そして、一発当たれば自社ビルが建つのだった。それが芸能界なのだから。

所属タレント・天野アキの最初の仕事は・・・北三陸駅の副駅長・吉田正義(荒川良々)と北三陸市観光協会の職員・栗原しおり(安藤玉恵)の結婚式で披露される「ビデオ・レター」だった。御祝儀でノーギャラ受注である。

「まさよしさん、しおりさん、おめでとうございます」

「もっと笑って・・・アイドルでしょう」

「本来なら式場でお祝いしたかったのですが・・・」

「そこはすまなそうにでしょう」

ホーム・ビデオを回す撮影・演出の春子のアキに対するコメント指導は的確だった。

おそらく・・・25年間、スターになった時にこの手のメッセージをどうするか・・・春子はずっとシミュレーションしてきたのである。

そのような春子の潜在能力は計り知れないのだ。

すべてはアイドルになった時のために・・・なのだった。

それはそれとして・・・衝撃の展開の北三陸市の喫茶「リアス」・・・。

ストーブこと足立ヒロシ(小池徹平)は涙ふくハンカチもない失恋レストランの涙味のチャーハンを食べ終わると、勉さん(塩見三省)から300円の琥珀を釣りは要らないよ的な千円札で購入すると「お祝いだ・・・」としおりに手渡してヒロシのテーマのようなものにのって去っていくのだった。

「捨てちまえ」と獣のような眼光でしおりに命ずる吉田だった。

地方都市の青年たちの間ではよく見られる光景らしい。

大吉(杉本哲太)は春子の営業口調が気に入らないのだが・・・それはもちろん、電話の向こうの一家団欒に激しく嫉妬しているからだった。

「春子め・・・ギスギスしやがって・・・」

虚しく春子の名を呼び捨てる大吉。

「まあ・・・ずっとギスギスしていた女が一時、優しくなって・・・またギスギスに戻っただけだけどな」

保(吹越満)はもっともなことを言うのだった。

袖が浦漁協の組合長(でんでん)たち一同はなんとなく同意する。

しかし・・・アイドル天野春子のデビューについて熟慮を重ねて来た春子は娘のために次の一手を打つのだった。

現場マネージャーの公募である。

これは賃金が発生するために労働基準法的に問題が発生する行為である。

資本金に最低の制約はないが、賃金には最低の制約があるのだ。

しかし、決意した春子の前進を何人たりとも阻むことはできないのだ。黒川の個人タクシー収入とアキのアルバイト料を給与に回し、泥水をすすってでも・・・アキをアイドルとしてデビューさせるために必要な人材は確保しなければならないのだ。

そして・・・こんな事務所に一流大学の卒業生が多数応募する2010年の日本なのだった。

純喫茶「アイドル」で面接する春子。

もはや・・・純喫茶「アイドル」はスリーJプロダクションの応接室と化したのである。

マスターの甲斐さん(松尾スズキ)には拒否権はないらしい。

面接が終了し・・・「みんな覇気がない」と最近の若者批判をする春子。

そこにやって来た水口(松田龍平)だった。

おりしもテレビからは「地元へ帰ろう/GMT5」のプロモーションビデオが流れ出す。

「明石家サンタ」の愛好者で「八木さん、ファンです」の人たちはそのビデオのナレーションに聞き覚えのある声を見出すのだった。

「いわてけん~」と掛け声が残っているのにも関わらずアキのパートはベロニカ(斉藤アリーナ)に変わっている。

「ベロニカ、熱いよね~。山梨とブラジルのハーフなんだって・・・地元の概念を革新したよね」

甲斐さんは新メンバーのチェックに余念がない。

しかし・・・アキはテレビから流れる加工された自分の歌声に今さらながらショックを受けるのだった。

春子に強要された如きの「へんな声」だからではなく・・・自分がそこにいないことにである。

リーダーのしおり(松岡茉優)、真奈ちゃん(大野いと)、キャンちゃん(蔵下穂波)、オノデラちゃん(優希美青)とデビューするはずだった・・・自分に執着を感じるアキ。

春子はそれを察知したのか・・・スポットCMにいちゃもんをつけ始めるのだった。

「まったく・・・こんなに宣伝しちゃって・・・いくらお金がかかるのかしらね・・・一万枚売らないと解散なんでしょう・・・マネージャーがこんなところで油売っていいの・・・」

「目標は十万枚になりました・・・太巻さんが乗り出してきて・・・僕は用済みです」

「・・・」

「このままじゃ・・・悔しいんで・・・僕をアキちゃんのマネージャーとして雇ってください・・・太巻さんを見返してやりたいんです」

「そんなの・・・だめよ・・・それじゃ・・・ウチがあんたを引きぬいたみたいじゃない。あんな器の小さい男にそんなことしたら・・・どんな仕返しされるかわかったもんじゃない」

(ママが一番・・・しでかしてるけどな)と心で思うアキだった。

「わかりました・・・」

美大出身のバンドマン水口は履歴書を置くと携帯電話を取り出す。

「自分なりにけじめをつけます」

「ちょっとやめてよ・・・」

電話の相手を太巻だと予測した春子。しかし・・・水口が電話したのはユイ(橋本愛)だった。

「ユイちゃん・・・すまない・・・君を太巻さんに引きあわせる約束は果たせなくなった。僕は春子さんの会社でアキちゃんのマネージャーをすることにした」

「そんな・・・私はとっくにあきらめましたから・・・アキちゃんのことよろしくお願いします」

「僕はあきらめないよ。いつか・・・ユイちゃんを東京に呼んで・・・潮騒のメモリーズでお座敷列車を走らせる。夢の電車は満員電車でお祭り電車で夢見る旅路へ東へ西へ・・・ユイちゃんもアキちゃんも立派なアイドルにしてみせる」

熱く語る水口に心揺れる春子。おそらくユイもまた痺れたことだろう。

春子とユイはある意味、一心同体なのである。

こんなマネージャーが自分も欲しかったのだった。

「合格、合格よ~」

こうして・・・完全歩合制らしい・・・スリーJプロダクションの現場担当マネージャーが誕生したのだった。

早速、アキを連れてテレビ局への挨拶回りを始める水口。

「あれ・・・君は太巻さんとこの・・・」

「今はこちらでこの子の担当をしております」

「よろすくおねがいすます」

「なまってるね」

「岩手県出身なんで東北出身者の役とかありましたら・・・」

「さっき・・・宮城の娘が来たな」

テレピ局員の視線の先に営業挨拶回り中の「アメ女」チーフマネージャー・河島(マギー)とオノデラちゃんを発見する二人。

あわてて物陰に身をひそめるのだった。

「何・・・こそこそ・・・してるのよ・・・」

背後からかわいいコックさんスタイルの鈴鹿ひろ美(薬師丸ひろ子)が現れて先制攻撃だ。

「じぇじぇっ」

「独立したんだってね・・・まあ、太巻さんのところで鳴かず飛ばずでいるより・・・マシかもね・・・最初は苦労するでしょうけど・・・私もそうだったわよ」

「・・・」

「天野さん、いつか・・・一緒にお芝居しましょうね」

初対面のアキがそうしたように手を差し出す鈴鹿。

「はい・・・」

固い握手をする二人だった。

「絶対よ・・・」

「じぇったい・・・」

鈴鹿は何故か・・・アキが大好きなのである。

それは・・・アキが天性の朝ドラマヒロインだからなのだった。

鈴鹿を見送った二人は・・・気が抜けて・・・河島とオノデラちゃんとバッタリ遭遇・・・。

「あ」

「あ」

「あ」

「あ」

やはり・・・アキの当面のライバルはオノデラちゃんなのか。

だっていろいろとかぶってるもんね。

しかし・・・激突はまだ先らしい。

火曜日 アキを迷わせるあんぱんち様も濡れるシアター(橋本愛)

春だか初夏だが梅雨だかわからない季節を越えて・・・海開き直前・・・そして七月四日GMT祭りである。

スリーJプロダクション設立が五月の下旬。水口がマネージャーとして雇用されてからおよそ一ヶ月で六月の下旬となったのだった。

水口とアキの必死の営業活動にも関わらず・・・アキのアイドルとしてのお仕事は一向に再開しないのである。

その理由は・・・。

「ドラマなんですけど・・・セリフはないですが・・・」

「セリフのない役なんてやらせられないわよ」

「バラエティーでグルメリポートなんですけど」

「なんでも食べますって・・・どんなゲテモノ食べさせられるかわからない・・・そんなのヨゴレの仕事でしょ」

「深夜番組のアシスタント・・・」

「売れないお笑い相手にアキのステータス下げてどうするの・・・」

社長の目標設定が高すぎて・・・予選敗退の連続なのである。

「グラビア~?・・・水着・・・」

肌の露出となると・・・急に娘のママとパパになる春子と正宗。

ほとんど無名のアイドルが・・・そんなに仕事を選んでいたら・・・決まるものも決まらないのだった。

正宗が青椒肉絲を作ってくれる春子と違い・・・水口は餓死寸前に追い込まれていた。

その頃・・・海開き直前の北三陸市では「海女のユイちゃんお披露目」イベントが開催されていた。黒髪の美少女になったユイちゃんは・・・ふっきれて・・・はるばる遠征してきたユイちゃん推しのヒビキ一郎(村杉蝉之介)の要求に応えて、頭にウニを乗せるパフォーマンスもしてニッコリとスマイルをサービスするのである。

「春ちゃんやアキちゃんがいなくても・・・北三陸にはユイちゃんがいます・・・黒い交際とも縁を切り・・・生まれ変わった海女のユイちゃん、まもなく海女デビューです」

大吉はギリギリのPRをまくしたてるのだった。

「やっぱり・・・ユイちゃんは黒髪だよね」

純喫茶「アイドル」に報告にやってきたヒビキ。

「ほら・・・これなんか・・・ベスト・ショットだろ」

「ユイちゃんはすべてがベストショットだ」

ユイの話題だけに全否定はできないが・・・さすがに無為の日々はアキの心を荒ませていた。

「なんだよ・・・干されて・・・落ち込んでると思ったから・・・励ましにきてやったのに」

嫌味なヒビキのタブレットをたたき落とす甲斐さん。

「なにすんだよ・・・じじい・・・弁償だ」

「アイドル評論家のヒビキさんですね・・・お書きになったものを拝読していますよ」

「そうですか・・・ありがとう」

「面白いとは言ってませんがね・・・」

二人のアイドルおタクは近親憎悪にも似た火花を散らせるのだった。

「あれ・・・アキちゃん」

甲斐さんは切れたミサンガを発見する。

「これで・・・いよいよ・・・おらの初仕事が・・・」と期待するアキ。

しかし・・・営業からもどった水口は成果がなかったために焼けになって持ち込みの缶コーヒーを呷るのだった。

そんな水口にヒビキは「GMT祭り」の話題をもちかける。

「行くわけないでしょう」と水口もヒビキのタブレットを叩き落とすのだった。

「GMT祭りってなんだ・・・」とアキ。

「地元に帰ろう十万枚突破記念のファン感謝イベントだよ・・・」とヒビキ。

「なんで・・・おらは呼ばれなかったんだ・・・」

「来づらいとおもったんじゃないかな・・・」と言葉を濁す水口。

「そうか・・・気ぃ遣わせちゃったか・・・」と悟るアキだった。

現実世界のヒットチャートでは「「SUMMER NUDE'13/山下智久」と「潮騒のメモリー/天野春子(小泉今日子)」がトップを競い合っているが「あまちゃん」の世界では「地元に帰ろう/GMT5」がぶっちぎっているのだった。

しかし・・・知ってしまった以上・・・行かずにはいられないアキだった。

奈落から抜け出たかっての仲間たちは表舞台で輝いていた。

毎度おなじみあんぱんち様もエキストラ参加したGMT祭りは今のアキには眩しすぎる世界だった。

「海はないけど夢はある」・・・ついに夢をかなえた赤いリーダー。

「ずんだずんだ~」が完成したピンクのオノデラちゃん。

「がばいがばいよ~」とイエローの真奈ちゃん。

「キャンちゃんはあまり変わってねえな」とアキに言われる紫のキャンちゃん。

そして・・・アキが着るはずだったブルーのコスチュームで決めるベロニカ。

「父ハ山梨ナノネ。母ハブラジルナノネ。 自分ハベロニカナノネ。好物ハ塩辛ナノネ。13歳ナノネ」

「中退したアキちゃんに変わって加入したベロニカちゃんでしたっ。それでは・・・聞いてください・・・私たちのデビュー曲・・・地元に帰ろう・・・」

(中退か・・・おらが歌うはずだったのに・・・)

大盛況の会場に・・・落ち込むアキと水口だった。

「すげえな・・・みんな」

「遠くに行っちゃったみたいだな」

蘇る苦難の日々。初めての路上ライブでの・・・閑散とした空気。

そして・・・今、花開いた仲間たち。しかし・・・そこにいない二人なのである。

水口は太巻に挨拶に行くが法被を着て陣頭指揮をとる太巻は水口を完全に無視するのだった。

アキの存在に気がつく真奈ちゃん。リーダーがアキの処へやってくる。

「無頼鮨で待っててね・・・」というリーダー。

アキと水口は無頼鮨に行くが・・・経済的な問題から・・・何も注文できないのだった。

「遅いな・・・みんな」

「ショックだったかい」

「ショックがないと言えばうそになる」

「本当は・・・あそこで歌ってたのは天野だったのに・・・しかも・・・それは天野のせいじゃなくて」

「ママのせいじゃない・・・でも・・・みんなと一緒に歌いたかったな」

アキは必死に落ち込む気持ちと戦っていた。

その頃・・・奈落では太巻が参加しての反省会が行われていた。

太巻も本気でGMT5を売ろうとしているのである。もちろん・・・それは春子に対する意地の為せる業なのであった。

「カチューシャだっけ」

「カチャーシーさ」

「なんでもいい・・・メリハリがないし長すぎる・・・奈落に戻りたいか」

「えい・・・えい・・・」

「どっちなんだ・・・いいのか、いやなのか」

「いーやーさーさー」

「ばってん・・・」

「なんだよ」

「笑いはとれてたばい」

「笑ったよ・・・俺がなっ」

真剣なやり取りに出前を持ってきた種市(福士蒼汰)は息を飲むのだった。

一方、アキは一人で帰ることを決意する。

「おら・・・やっぱり・・・帰る、今のおらじゃ・・・みんなにあわせる顔がねえ」

「じゃ・・・俺も」

「水口さんは・・・残って・・・みんなを誉めてやってけろ」

「・・・」

店を出たアキは出前から戻ってきた種市と遭遇するのだった。

港の街によく似た女がいて

Shyなメロディ 口ずさむよ

通り過ぎりゃいいものを

あの頃の Romance 忘れず

「天野・・・」

「なんだべ・・・」

「ここがふんばりどころだぞ」

「・・・」

「一人ぼっちでつらいだろうけどあきらめちゃだめだ」

白い鴎か 波しぶき

若い血潮が 躍るのさ

カップかぶれば 魚の仲間

俺は海の底 南部のダイバー

「なんで・・・そんだなことを・・・」

「わがんね・・・ただ・・・天野が海の底にいる時・・・空気さ送れるのは俺だけだと思う」

アキは突然、思いこんだ。

切れたのは種市先輩のミサンガだと・・・。

そして・・・とっくに消えたと思っていた恋の導火線がパチパチと火花をたてる音を聞いた。

好きです 先輩 覚えてますか?

もちろん・・・アキが失恋後もいつでもいつの時でもずっとずっと種市先輩を好きでいたことは分かる人には分るのである。それは再会した時や、二人の間にユイが絡んだときや・・・アキのいつものストーブに対する態度で明らかなのだった。

水曜日 口惜しくて口惜しくて今夜は泣くと思います・・・(優希美青)

はがきをもらって勝ったと思ったアキ。再会してまだ好きだと思われていたら嫌だと思ったアキ。カップルだと思われなくて悔しかったアキ。ユイのことを訊ねる先輩にむかついたアキ。忘れていたわけではありません。ずっとずっと好きだったけど我慢していたアキなのでした。

アキはいつでもトモダチが欲しかったし、いつでも彼氏が欲しかった。そしてキラキラした自分も欲しかった。ついでにちやほやもされたかった。ごく普通のアホの子なのです。

仲間はみんなきれいになった。仲間はみんな輝いていた。あんなに一緒だったのに。風呂なしトイレ共同で励まし合ってきたのに。気がつけば一人。自分だけが取り残されて。みんなは愛されて。愛されて素敵になって。うらやましくてうらやましくて。今夜は泣くと思います。うやましくてうらやましくてうらやましくてうらやましくて・・・そんな夜にやさしい言葉をかけてくれた先輩。

アキはすべてを忘れた。ユイのことも忘れた。仲間のことも忘れた。ママのことも忘れた。目の前の先輩しか見えなくなった。

いやいや・・・アメ女は恋愛御法度だべ・・・いやいや・・・もうアメ女の奈落でもGMTでもないべ。アキは単なる日本国国民だ。国の法律には恋愛禁止の四文字なんかありゃしねえ。

恋愛開国ぜよ・・・日本の夜明けぜよ・・・坂本龍馬ぜよ。

都会では 先輩 訛ってますか?

お寿司を「おすす」と言ってた私

好きよ 先輩

好きよ 先輩

好きよ 先輩

「先輩、おらと付き合ってけろ」

「よし・・・つきあうべ」

種市はキスモード(1回目)に突入・・・。

「やんだ・・・」

「え・・・」

「いま・・・おらは海の底で・・・正常な判断力を欠いている・・・」

海の底とは・・・気持ちが沈んでいる・・・の意味である。

「そうか・・・だけど・・・ずぶんの気持ちは変わらねえ・・・天野が好きだ」

「・・・じぇーっ・・・そんな・・・先輩は・・・ユイちゃんと」

「ユイとは別れた・・・」

「じぇ・・・いつ?」

「正月だ・・・」

「じぇじぇ・・・そんな前から・・・」

半年前である。

「もっとも・・・ずぶんが天野のことを気になりはじめたのはずぶんが海の底にいた時だ」

海の底とは・・・種市が高所恐怖症のために失職していた頃・・・一年前である。

その時、アキに叱咤激励された種市は天野に魅了されたらしい。

「じぇじぇ・・・すんげえ前じゃん・・・どうして・・・もっと早く言わねえんだよ」

方言、標準語、横浜不良言葉が入り乱れるアキだった。

「恋愛御法度だったから・・・」

アホの子に訪れる愛の津波である。

「・・・先輩もおらのことを・・・やっぱり付き合ってけろ」

「そうか・・・」

種市はキスモード(2回目)に突入・・・。

「アキちゃん・・・」

ふりかえるとオノデラちゃんだった。

東北方言のライバル・・・GMTの出世頭・・・二段ベッドをわけあった・・・年下の先輩・・・泣き虫の妹分・・・オノデラちゃんの出現に・・・沸騰するアキの脳髄。

(会いたかった・・・逢いたくなかった・・・恋愛御法度・・・非常にがばい)

「先輩・・・また・・・今度・・・」

逃げ出すアキ。

「あ・・・アキちゃん・・・待って」

追いかけるオノデラちゃん。割って入るはGMT5オノデラちゃん推し追っかけ軍団。

ファンに取り囲まれたオノデラちゃんを・・・そっと見つめるアキ。

瞳に燃えあがるアキのドス黒い嫉妬の炎。

帰宅したアキを水口と電話中の春子が迎える。

「あ・・・いま、帰って来た・・・心配かけてごめんねえ・・・じゃ、おつかれ~」

無言で自室に戻るアキ。

「どうだった・・・」

「べつに・・・」

「べつにって・・・」

無頼鮨ではオノデラちゃん以外のメンバーと鮨を囲む水口。

「アキちゃん・・・どうして帰っちゃったんだろう」

「今、みんなと会って・・・いつものように笑ってしまったら・・・くやしさが薄れるって思ったんじゃないかな」

「・・・」

「みんな・・・見捨ててすまん・・・そして・・・立派になったな・・・おめでとう」

照れるメンバーたち。

「でも・・・俺もアキちゃんもこのままじゃ・・・終らない・・・きっとみんなを見返してみせるよ」

「水口ちばれ~」とエールを送るキャンちゃん。

「お店だから・・・おさえて」とたしなめるリーダー。

お勘定タイムで水口の懐具合を読むもっともつきあいの短いベロニカ。

「水口は二千円でいいよ・・・みんなは五千円通しで・・・」

恐るべき13歳だった。そしてちょっと羽振りの良くなったGMTだった。

「ソーリー」と謝する水口だった。

きみの全てに泣きたくなる

もしもきみに逢わなければ

違う生き方 ぼくは選んでいた

あの日の夢を生きているかい

アキは不貞寝体制に入っていた。

春子はお尻をペチペチして起こす。

「後悔してるの・・・」

「してるさ・・・おらが・・・あそこでみんなと歌っていたかもしれないのに・・・」

「バカね・・・ママがちゃんと仕事とってくるわよ」

「そういう問題じゃねえ」

アキは走り出す。

残された春子はアキのヘッドホンを取り上げる流れ出すメロディーは・・・。

第二ボタンは 捨てました

腹いせに

アキの中で荒れ狂う本音。

ママのせいじゃねえ・・・って・・・・ママのせいだべ・・・全部ママがキレたせいじゃねえか・・・ママのせいでおら・・・やめたくないのに・・・やめたんだ・・・。

アキの脳裏に蘇るユイの姿。

「アイドルになりたーい」

北三陸のトンネルに叫んでいた・・・あの日のユイのように。

アキも・・・第三京浜風のトンネルに叫ぶのだった。

「おらも・・・アイドルになりてええええええええどおおおお」

春子はその叫びをキャッチした。

その時が来たのだった。春子は封印してきた過去の秘事をついに押入れから発掘する。

「それは・・・」と正宗。

「黒川さんの・・・手帳よ」

春子は水口を呼び出した。

「過去と未来を照合するよ」

「こ・・・これは・・・」

「潮騒のメモリーのチーフディレクターの柏木誠司・・・」

「ミレニアムレコードの柏木さんか・・・今、制作本部長です・・・」

「そう・・・こっちは・・・」

「関東テレビの馬場さんか・・・確かドラマ番組部のプロデューサーですね」

「じゃ・・・この人」

「うわ・・・毎朝テレビの桂さんか・・・エンタメ部のチーフ・プロデューサーやられてます」

「ふ・・・みんな出世してるじゃん・・・借りを取り立てるわよ・・・利子つけて・・・倍返しで」

こうして・・・昔の悪事仲間を呼び出して・・・若き日に使い捨てられた春子の復讐劇が始るのだった。

「大女優の声の影武者」という春子の過去は・・・出世した男たちにそれなりに効果を発するのだった。

「まだ・・・業界にいたんですか」とすっかり禿げ上がった柏木(八十田勇一)・・・。

「娘が・・・デビューしたいって言い出しまして・・・」

「歌唱力はどうなの」

「そんなの・・・誰かに歌わせればいいじゃないですかあ」

「もう・・・冗談きついなあ・・・」

「私のね・・・叶えられなかった夢をね・・・この子に託してみたいの・・・」

と涙ぐみ、舌を出す春子。

出世した男たちはそれなりの誠意を見せるしかないのだった。

NYBSテレビ 金曜時代劇 ひよどり坂の武士 第4話

教育テレビ  見つけてこわそう

帝都テレビ  特急『三陸』完全犯罪

関東テレビ  下町内科医・一本木町 ~無頼派先生の診療日記~

NYBSテレビ お国自慢だよ 全員集合!

買売テレビ  湯めぐり味めぐり

毎朝テレビ  ハケンの花道 SPECIALⅡ「うちら、怒ってますけん」

毎朝テレビ  着信無し3 ~泥沼圏外の悲劇~

毎朝テレビ  世界まるごと クイズ・ハンター

探偵物語風なBGMを背負って薄汚ないシンデレラは娘のために・・・たくさんの仕事を略奪したのだった。

しかし・・・春子のやり口に・・・というより・・・GMT5を辞めさせられたことを根に持っているアキは・・・。

「おら・・・やりたくねえ」

「なんですってえ・・・」

「これは・・・おらの実力でなくて・・・みんなママのコネだ・・・こんなんで仕事してたら・・・おら天狗になっちまう」

「でもね・・・アキちゃん・・・仕事というのは基本的にコネクションが・・・」

「まあ・・・聞こうよ・・・アキの言い分を・・・」

「だから・・・おら・・・ズルはしたくねえんだ」

「ズルじゃないわよおおおお」

台本でアキをひっぱたく春子。

「うえええん」と泣きだすアキだった。

唖然とする水口と正宗。

いつものアキと春子に安堵する一部愛好家の皆さまだった。

そして・・・「おやつあげないわよお」を思い出すキッドだった。・・・「魔法使いサリー」のよっちゃんか・・・。

木曜日 今はまだうまく飛べない君もいつか届かない場所があることを知るだろう(さかなクン)

食べたかったケーキが腐りかけなので捨てられてしまい・・・新しいお菓子を母親が用意してくれたのに捨てられたケーキのことで頭が一杯の幼女のようなアキだった。

「うえええん」

「なに・・・贅沢なこと言ってるのよ・・・ただの専業主婦がない知恵しぼってかき集めたお仕事なのよ。贅沢言ってないでやりなさいよ。おらズルはしたくねえ・・・なんの努力もしねえでドラマだのバラエティーショーだのに出たら天狗になるうって・・・天狗になったらたいしたもんなのよ・・・むしろ・・・天狗になってみなさいよ」

「でたくねえものはでたくねえ・・・」

「やめなさい・・・」と大きな声で制する正宗。

そして・・・お湯が沸いたのだった。

消える飛行機雲

僕たちは見送った

眩しくて逃げた

いつだって弱くて

楽しげなタイトルバックを挟んで続くホームドラマのような芸能プロダクションの内紛。

「僕は・・・芸能界とは無縁の個人タクシーの運転手だ・・・お客さんとしてみのもんたやおかっぱのガタイのいい良き匂いのどんだけ~のおねえのIKKOだったかヒムコだったかはのせたことあるけど・・・くわしいことはわからない・・・しかし・・・家族がギスギスするのはいやなんだ・・・」

「お湯わいてます」

「はい・・・」

「あんた・・・まだ根にもってるの・・・私がキレたせいで・・・事務所首になったって」

「・・・」

「あんなの・・・一時のことよ・・・若気の至りよ・・・あんな風に・・・毎年、何十人も才能あるのかないのかわかんない若い娘をステージにあげて・・・十年後・・・生き残ってるのなんて・・・一人か二人よ・・・それなら最初から一人でいいじゃない」

「そんなの・・・分ってる・・・でも・・・おら・・・どうしても・・・思っちまう・・・もし・・・あのまま・・・事務所にいたら・・・みんなとデビューしてたのにって・・・」

「それじゃ・・・ユイちゃんのことはどうなんだ」と口を開く水口。

「・・・」

「もし・・・あんなことにならなくて・・・一緒に東京に来てたら・・・二人はデビューできたのか」

「そんなの決まってるべ・・・」

「でも・・・もう一年だ・・・結局、アキちゃんも・・・ユイちゃんもデビューできてないだろう・・・もしも・・・とか・・・だれかのせいだとか・・・そんなこと言ってたら・・・何もかわらない・・・僕もアキちゃんも・・・そんなこと言ってられないだろう・・・切羽詰ってるんだから」

「あれから・・・一年か・・・」

ホームで見送ってくれた春子。

「あんたは・・・すごいかもしれないよ」と励ましてくれた春子。

「いくからね・・・じぇったい・・・いくからね・・・待っててね」と泣きじゃくったユイ。

春子とアキは過ぎ去った時間の重さを受け止める。

正宗は一年前にほんの少し交際した同窓生との情事を思い出してニヤニヤするのだった。

テレパシーがなくて幸いである。

その時、タイマーが鳴り、正宗はマイペースでラーメンを食べ始めるのだった。

それは正宗の遺伝子がアキに確実に受け継がれていることを示しているのだった。

このドラマには出生の秘密とかはありません宣言である。

春子はアキの頭をくしゃくしゃっとしてから撫でつける。

たちまち、機嫌が直るアホの子だった。

アホの娘とアホの母を調和させる潮騒のメモリーの旋律・・・。

「無理にしなくてもいいけど・・・ここから一個だけ・・・できそうなの選んで・・・それをやりなさい・・・ママができるのはここまで・・・後はアキが自分の力でなんとかしなさい・・・」

「じゃ・・・これかな」

アキが選んだのは教育テレビ「見つけてこわそう」(司会)さかなクンの台本だった。

「あ・・・それ・・・僕です・・・大した仕事じゃないけど・・・まぜておきました」

過去の不祥事にまつわる仕事ではなくて・・・水口の正当な営業力の仕事を偶然選択するアキ。

つまり・・・天性の才能とか・・・運も実力のうちとか・・・ひきのよさ・・・とかいう人知を超えたアレなのだった。

あの空を回る 風車の羽根たちは

いつまでも同じ 夢見る

届かない場所を ずっと見つめてる

願いを秘めた 鳥の夢を

そして・・・おそらく夏休み特別編成で・・・7月16日を皮切りに何度もリピート再放送される教育番組はアキを子供たちのアイドルに押し上げるのだった。

「最近の幼児番組はアバンギャルド(前衛的)だからアキにあっているかも」という正宗の洞察力もなかなかに慧眼なのだった。

「ものをこわすことによって逆説的にものの大切さを教える」というコンセプトは破壊衝動に満ちた子供たちの心をわしづかみにしたのだった。

「さかなクンです」

「海女のアキちゃんです」

「今日は何を壊すの」

「ずてんしゃをこわします」

「自転車だね・・・なまってるね」

「じぇじぇ」

「ぎょぎょ」

「ずてんしゃがないのでこの壺でいいかどうか・・・おじいちゃんに聞いてみよう」

「見じいちゃん、どうかな・・・」

「いいよ~」

「やった~」

喫茶リアスでは可愛いお嬢様スタイルに戻ったユイが笑顔でアキを見守るのだった。

「うっける~・・・このキャラクター、アキちゃんにぴったりだよね」

ユイの明るさに・・・顔を綻ばせる夏(宮本信子)だった。

「そうだ・・・ユイちゃん・・・おらと東京さ・・・いかねえか」

「え」

「どうした・・・夏さん・・・急にそんなことと」と美寿々(美保純)・・・。

「今までは春子と絶縁状態だったけど・・・今はアキもいるしな・・・思い切って東京に行ってみようと思ったんだ」

「でも・・・私・・・東京に行ったことないよ」

「じぇじぇじぇ・・・修学旅行は・・・」

「ジャイアント馬場みたいにお風呂で転んで骨折していけなかった」

「じぇじぇじぇ」

「じゃ・・・俺が連れていく」と大吉。

吉田と手を絡ませてラブラブモードの吉田しおりが「空気読めよ」と言うのだった。

ユイを東京に連れていくのが夏の主題だったのである。

壺は粉々に砕けるが・・・アキの超能力「逆回転」で元通りになるのだった。

「じぇじえじぇ」

「ギョギョギョ」

「おおーっ」と甲斐さんは素直に驚く。

純喫茶アイドルでアキはユイから「上京の知らせ」を聞き・・・歓喜する。

誰もが・・・今度こそ・・・良かったと胸をなでおろした木曜日だったのだ。

しかし・・・裸のテレポーター・・・ではなくて・・・CMプランナー(深水元基)がアキの運命を大きく変えるために来店していたのだった。

「神業ゼミナールのイメージキャラクターとしてアキちゃんが候補にあがってまして・・・クライアント(広告主)も乗り気なんです・・・みつけてこわそうのアキちゃんが人気だからです」

しかし・・・その時、アキはユイによって喚起された種市先輩との恋愛問題について妄想を巡らせていたのだった。

(結局・・・おらと先輩は交際中なのか・・・交際寸前なのか・・・)

「ちょっと、アキ、話聞いてるの」と春子。

「じぇんじぇん・・・聞いてませんでした」

「いい・・・恋愛御法度よ」

「じぇ・・・」

「なにしろ・・・キャッチ・コピーが受験が恋人ですもんね・・・」と水口。

「ええ・・・スキャンダルがあると契約破棄になる場合も・・・」と着衣のプランナー。

「大丈夫です・・・うちの子・・・そういう点はまだまだ小学生レベルですから」

「じぇじぇ・・・」

鎖国である。

こうして・・・アキは不純な心を抱えたままアイドルの階段をまた一歩昇るのだった。

マメりんや・・・アユミの例を目の前で見ながら・・・まさか・・・恋愛を我慢できないってことはないよね・・・と良識ある人は思うのだったが・・・。

そんな常識が通用するくらいならいい大人が子分を連れて出版社に殴りこんだりしないのだ。

消える飛行機雲

追いかけて

追いかけて

いつの間にか2010年の七月が通り過ぎていく。

金曜日 祈るようにまぶた閉じたときに世界はただ闇の底に消えるだろう(薬師丸ひろ子)

「ずぶんは天野が好きだ」と種市先輩に告白されたアキ。

「見つけてこわそう」がきっかけとなり「神業ゼミナール」のイメージ・キャラクター(一年契約)を受注したアキ。

欲求不満解消とアイドルのお仕事の間で究極の選択を迫られるアキだった。

アイドルになりたかった人、アイドルになりたい人が・・・そんなバナナと首をかしげる展開である。

しかし・・・それだけのパワーを秘めているからこそ・・・一般人の思案の外で行動するのがスーパーアイドルというものなあのだあ。

雑誌に新聞の一面に天野アキの顔はあふれ・・・乳酸飲料にキシリトール製品にタイアップの波は広がり、うちわにクリアファイル、テレビをつければ「見つけてこわそう」の午後の再放送。太巻の御機嫌を窺がう河島がアメリカのコメディアンのようにキリキリ舞い・・・。ポケットティッシュの天野アキに力尽きるご時勢だった。

「なんじゃあ・・・こりゃあ」

駅前の巨大看板(都心版)に見下ろされ、海女のアキちゃんにガッチリハートをつかまれた子供たちに取り囲まれて戸惑うアキ。

そして・・・神業ゼミナールのポケットティッシュはユイの失踪ママこと・・・足立よしえ(八木亜希子)にも手渡されるのだった。

抱きしめてた運命のあなたは

季節に咲く まるではかない花

希望のにおいを胸に残して

散り急ぐ あざやかな姿で

開店前の無頼鮨に現れたマスクにサングラスの天野アキ。

待ち合わせた鈴鹿ひろ美は呆れるのだった。

Am019 「なによ・・・まるで芸能人みたいじゃない」

「・・・一応・・・芸能人でがんす」

「アキちゃん・・・ひらめの美味しいのが入ってるよ」

「じゃ、ウニで」

「私、カッパね」

「・・・」

「すごいじゃない・・・電車の車内吊りが天野さんだらけよ」

「電車に乗ってるの」

「そうよ・・・運転手に行き先を言わなくても渋谷から上野まで来れるなんて凄いよね」

「・・・」

「オファーすごいんでしょ」

「でも・・・ドラマは断ってます」

「あら・・・なんで・・・NG40回出したから・・・」

「それもあるけど・・・ママが主役以外はやらせないって・・・」

「まあ」

「主役じゃないと下手なのがばれるって・・・主役ならまわりが助けてくれるからって・・・だからアイドルは主役デビューだと・・・」

「私だって・・・主役デビューだけど・・・新横浜映画祭で新人賞もらってますよ・・・ちょっと春子さんを呼んできなさいよ・・・きっちりそこんところはっきりさせないと」

「やめといた方がいいぞ・・・ママ、毒しか吐かねえから」

「あら・・・そう」

「バラエティーに出れば出たで・・・品川にひろってもらったかとか、庄司の筋肉見せてもらったかとか、有吉に仇名つけてもらったかとか、竹山に切れてもらったかとか・・・うるせえのなんのって・・・前へ前へ出ようとする芸能人が集まってるところで・・・おらに何ができるっちゅうだ・・・」

「天野さん・・・落ち着いて・・・」

「先輩・・・出前いかねえのか」

「開店前だから・・・」

何事か察した鈴鹿も・・・。

「開店前でもなんとなく・・・行きなさいよ」

「はあ・・・」

仕方なく外出する種市だった。

「ここからが・・・本題だ・・・」

「じぇじぇ」

「おら・・・欲求不満なんだ・・・どうすべえ・・・」

「よっ・・・欲求なんですって・・・」

「GMT5をクビになって晴れてフリーとなったおらは種市先輩に告白・・・そしたら種市先輩もおらのことが好きだと」

「あらあら・・・」と身を乗り出す鈴鹿。トモダチなのかっ。

「両思いだったんだ・・・そしたら・・・でっけえ仕事さ来て・・・彼氏作っちゃなんねえって・・・そんなこと言われても欲望の特急列車はノンストップだ・・・盛りのついた猫背の雌の猿は欲求不満なんだあ」

「あのね・・・まず・・・欲求不満とか欲望爆発とかやめなさい・・・誤解を招くから」

「じゃ・・・なんて・・・」

「恋愛でいいんじゃない・・・」

「あ・・・ああ」

「天野さんはどうしたいの・・・」

「さあ・・・わかんねえ・・・」

「大将はどうすればいいと・・・」

姿を消した大将だった。

「まあ・・・付き合っちゃえば・・・」

「付き合うって・・・鈴鹿さん・・・男と付き合ったことあんのか」

「あるわよ・・・太巻くんと」

「あ・・・忘れてた」

忘れられた男・太巻は淡々とGMT5を作りこんでいた。春子の言葉が応えているらしい。

「どうせならって・・・二人で独立しちゃったのよ・・・ま、一年も続かなかったけどね」

「・・・」

「恋愛か仕事かなんて・・・選べるわけないでしょ・・・私なら両方えらぶわよ」

「・・・」

「ばれなきゃいいのよ・・・適当におやんなさい・・・ま、ママには内緒でね」

「・・・」

そこへ・・・種市が帰ってくる。

「いろいろと・・・ごちそうさま」と華やかに去る鈴鹿だった。

無頼鮨の二人・・・。

「あの・・・この前の話ですけど・・・前向きに検討して・・・お願いすることになりました」

「え・・・あ・・・ずぶんでいいのか」

「お願いします」

「じゃ・・・」

種市はキスモード(3回目)に突入・・・。

「やんだ・・・」

「あ・・・ごめん・・・早すぎたか・・・」

「いや・・・おらももうすぐ二十歳だ・・・遅すぎるくれえだ・・・ただ一年間はママに内緒にしてけろ」

ママしかこわいものがないアキなのである。

覚悟を決めて・・・目を閉じるアキ。

種市はキスモード(4回目)に突入・・・。たちまち鳴りだすアキの携帯電話。

「はい・・・もしもし・・・」

「う・・・あ・・・ううう」と悶える種市だった。

私に還りなさい 記憶をたどり

命の行方を問いかけるように

めぐり逢うため 

奇跡は起こるよ 何度でも

「じぇじぇ・・・」

アキは種市を置き去りにして純喫茶アイドルへと向かう。

そこでは春子とよしえが待っていた。

土曜日 これがほんまの帰るやおまへんかあ(八木亜希子)

アキが純喫茶アイドルに到着した頃・・・。

スナック梨明日では・・・夏とユイと勉さんが・・・八月の夜を過ごしていた。

「東京のおみやげ・・・何がいい」とユイ。

「じぇ・・・俺に?」と勉さん。

「五百円までだど」と夏。

そこへ足立功(平泉成)とヒロシの父子が入店する。

「腹減ったなあ・・・ウニ丼ないの」とヒロシ。

「もう・・・終り・・・オムライスならすぐできるよ」

「じゃ・・・それで・・・」

漸く落ち着いた足立一家なのだった。

そして・・・勘のいいお茶の間は気がつく。ああ・・・これは・・・ユイの東京行きは・・・。

修学旅行。水口との脱出。アキとの長距離バス。父危篤。母失踪。またしてもまたしても。

静かなる対決の時を迎える純喫茶アイドル。

何も知らない方が 幸せと言うけど

君の姿は僕に似ている

靜かに泣いてるように胸に響く

「ポケットティッシュのアキを見て・・・神業ゼミナールに連絡したんだって・・・」と春子。

「こういうことって・・・増えるかもね・・・会ったこともない親戚とか・・・話したこともない友達とかどんどん来るかもね・・・」

あえて・・・甘い顔を見せない春子。しかし・・・それは娘の親友の母親で・・・田舎で知り合った友達に対する態度でもある。

アキはただ・・・親友を傷つけた母親に子供っぽい怒りを感じそれを抑えているようだ。

「とにかく・・・連絡はしないとね・・・みんな心配しているし・・・警察にも・・・なにしろ、捜索願い出ているんで・・・」

「それは・・・」

「ストーブさんは・・・知ってるだ・・・去年の暮に・・・おらが見かけたこと・・・話したから」

「えー、なんで黙ってたのよ」

「それは・・・一人でなかったから・・・男の人と一緒だったから・・・」

「・・・」

「ストーブさんには男と一緒だったって言った・・・だから警察には連絡しないでいいべ」

「一体・・・どうして・・・」と春子は探りを入れる。

「夫が倒れて・・・不安になったんです・・・このまま・・・一人ぼっちになったらどうしようって・・・それでようやく回復の兆しが見えて・・・ほっとして・・・最初はちょっと遠出をするつもりでした」

「サイフだけもって・・・」

「だけど・・・とまらない汽車がどんどん遠くへ・・・二、三日たったら帰りたくなると思ってました。気がついたら東京にいて・・・昔の上司から仕事を紹介してもらったりして・・・あ・・・アキちゃんが見たのはきっとその人だと思います。・・・あ・・・あれも私のナレーション」

流れ出すGMT5のプロモーションビデオ・・・どんだけ長期間スポット流してんだ。もう五週間くらい経ってるだろう。

「じぇんじぇん気がつかなかった・・・」とアキ。

「私もじぇんじぇん・・・」と甲斐さん。

「それだけでは食べていけないので・・・コンビニとかでバイトして・・・久しぶりにっていうか・・・生まれて初めて一人暮らしをして・・・自分と向き合って・・・なんだか・・・楽しかったんです」

春子は慎重に・・・よしえの本音に迫りだす。

「それで・・・一年たって・・・今はどんな・・・心境なのかしら・・・」

「こんなこと・・・許されないってわかってます・・・でも・・・夫や・・・子供たちに会いたい・・・淋しくて」

春子はよしえの「今」を察知した。

それは難しい状況だった。

友達として・・・甘い事は言えなかった。

どうしても楽じゃない道を選んでる

こんな風にしか生きれない

君の速さは僕に似ている

笑ってうなずいてくれるだろう 君なら

「でも・・・それは無理よね・・・だって人生は逆回転できないもの」

「・・・」

「壊れたものは・・・元にはもどらないの」

「・・・」

「でも・・・みんな心配してるから・・・とにかく連絡だけはしようよ・・・」

「はい」

「アキ・・・お願い」

アキはヒロシに電話した。

スナック「梨明日」は夏とユイの東京観光壮行会で盛り上がっていた。

大吉は「ゴーストバスターズ」を叫ぶ。

「あのな・・・いい話と悪い話・・・どっちが好きだ」

「アキちゃん・・・悪い話が好きな人はあまりいないんじゃ・・・」

「そうだな・・・じゃ、おらにとってはいい話だが・・・ストーブさんには悪い話かもしれないことから」

「・・・」

「おら・・・種市先輩とつきあうことになった」

おいおい・・・その話、今、必要なのかとお茶の間が失神した瞬間だった。

しかし・・・アキとしては・・・精一杯、話を和らげたつもりだと推定する。

「なんじゃあ・・・そりゃあ・・・」

「で・・・いい話だか悪い話だが・・・わがんねえが・・・今・・・ユイちゃんのママとおらのママが一緒にいて話をしてるとこだ・・・」

「じぇじぇじぇ・・・」

「母出現」の話は・・・ヒロシからユイへと伝わった。

「自分を捨てた母親に会うのが怖い」とユイは東京行きを断念したのだった。

春子はよしえに・・・その後のユイの人生について話していた。

「知らないでしょう・・・ユイちゃん、高校辞めちゃったこと・・・」

「・・・」

「知らないでしょう・・・悪い仲間と付き合って悪い噂をたてられたこと・・・」

「・・・」

「知らないでしょう・・・田舎のみんなが・・・ハラハラしながら・・・ユイちゃんを見守っていたこと」

「・・・」

「知らないでしょう・・・ユイちゃんがスナックで働いていること」

「・・・」

「知らないでしょう・・・ユイちゃんがこの夏から海女になること」

「・・・ごめんなさい」

「あやまんなくったっていいよ・・・私だって家出組だしさ・・・なにしろ・・・和解するまでに二十五年かかってるし・・・」

「・・・」

「でもさ・・・先輩として・・・一言だけ言わせてね・・・田舎を・・・なめんなよ」

そのあまりの意味不明な言動にお茶の間は卒倒したのだった。

もちろん・・・田舎ものたちの・・・どす黒くあつかましくいやになるくらいださい「温もり」について示唆したものと思われる。

夜更けのアキとユイの電話。

「ごめんね・・・会えなくなって」

「気にしなくていいよ」

「こわくなるよ・・・もう東京には一生いけないって思う」

「そんなことはないべ」

「だって・・・夏ばっぱが・・・初めて東京行くって時でさえ・・・」

「・・・」

「もう・・・行けないって思った方が気が楽だよ」

「必ず・・・来れるよ・・・盛岡から二時間半だ」

「近くて・・・遠いよ・・・近いけど・・・遠い」

「・・・」

さすがに・・・種市との交際のことをユイには言えないアキなのです。

君の姿は僕に似ている

同じ世界を見てる君がいる事で

僕は生かされてる

そして・・・大吉とともに夏は東京にやってきた。

東京に夏、春子、アキが勢ぞろいして・・・お盆祭りが始るらしい・・・。

来週はもっと一週間が短い予感がします。

だって後、五分で月曜日なんだもの。

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2013年8月10日 (土)

夏の夜の悪寒~悪霊病連(夏帆)

恐怖の形態とは気配と出現である。

優れた恐怖は存在を隠すことによって形成され、存在を示すことによって完成される。

存在を示すことによって恐怖が生まれないことを劣とし、存在を隠すことによって恐怖が生まれることを優とする。

存在を示すことによって恐怖が生まれるためには充分な恐怖の形成が必要である。

存在を示すことによって恐怖が生まれないのは恐怖の形成が不足しているためである。

存在を示すことによって恐怖が生まれない以上、存在を隠し続けることが恐怖には不可欠である。

存在を隠す暗闇、物陰、扉の向こう側、窓の外、遮断された空間、いわくありげな物品、場合によっては白昼が恐怖の源泉となる。

充分に恐怖の形成が行われた時、存在を示すことは突然、嵐のように行われる必要がある。

充分に恐怖が形成されているにも関わらず、まるで恐怖など存在しなかったように存在する恐怖こそが・・・真の恐怖と言える。

そのためには綿密な計算と計画が必要となるが、計算と計画があったことは絶対に秘匿されなければならない。

思いもよらず、人は恐怖するからである。

で、『病棟~第4号室』(TBSテレビ201308090058~)脚本・酒巻浩史(他)、演出・竹園元を見た。このドラマに弱点があるとすれば・・・それは主人公を演じる夏帆以外が無名すぎるということであろう。もう少し・・・なんとかならなかったのか。このために恐ろしい展開が進行しつつある。つまり、恐怖を与えるものが恐怖を与えられるものになるのではないかという事態である。最も恐ろしいのが人間である以上、もっとも恐ろしいのは自分自身であるという哲学的考察も可能であるが、エンターティメントとしては失敗する可能性が高い。

ドラキュラ自身を襲うドラキュラなどという超現実的展開は難解すぎるのである。

「リング」で考えてみよう。貞子の呪いが貞子にかけられたとすると・・・一体、観客は何を怖がればいいのだ。

貞子が全人類を呪う存在であればこそ・・・登場人物は絶対に逃れられない恐怖を味わうのである。

さらに言えば「リング」が続編が作られる度に怖くなくなっていくのは・・・貞子が呪っているのは貞子にすぎないという・・・事実が解明されてしまうからである。

このままでは・・・この作品はホラーではなく・・・ヒロイック・ファンタジーになってしまうのではないかと危惧するのだな。

今の処・・・妖怪「黒い歯」は看護師の尾神琉奈(夏帆)である可能性が高い。

百歩譲って・・・琉奈は黒い歯と対峙する存在である。

そのために・・・観客は・・・名も知らぬ人々が恐怖を感じる過程を漠然と見せられることになる。

さらには・・・看護婦・鈴木彩香(川上ジュリア)とか、主任看護師の木藤純子(森脇英理子)とか、患者のテヒ(Lizzy)とか、主人公の親友の坂井愛美(高田里穂)とかが「怪奇」について考察したり、捜査したりする退屈なシーンに付き合わなければならないのである。

映画「リング」ならば・・・松島菜々子や真田広之や中谷美紀の役所である。

冷たいことを言うようだが・・・ね、かなり無理があるでしょう。

しかし・・・まあ・・・名もなき人々が与えられた仕事でベストを尽くせば・・・それなりに恐怖は生まれるかもしれない。

とにかく・・・猫背看護師・琉奈は・・・怪奇コミック的な不気味さは醸しだしていると考える。今の処・・・それしか見どころがないわけだが。ある意味、不憫だ。

イメージとしては・・・隈川病院はもっと巨大な病院でないと・・・恐怖は生じないだろう。

この病院の100人くらいのナースが全員、呪い殺されるかもしれない・・・ぐらいでないと最初の戦慄がないのである。

ま・・・好みの問題で・・・こういう場末のちまちました所で生じる恐怖が好きな人はそれでいいのかもしれないのだ。

琉奈は・・・危篤に陥った元カメラマンの石川勲(高橋長英)の幽霊を見る。

女体に対する興味を死ぬまで失わない、ある意味、薄気味悪い男を高橋長英は見事に演じていた。この薄気味悪さを看護師たちが感じないのが残念なのである。

患者に真摯に接する普通のナースである鈴木は茫然と霊安室(死体置き場)へ搬送される石川の遺体を見送る。

その横で・・・自分の見てしまったものを確認せずにはいられない琉奈は言ってはいけない言葉を口にする。

「あの・・・みつこさん・・・って誰ですか」

「石川さんの亡くなった・・・奥様の名前だと思うけど・・・どうして・・・」

「いえ・・・石川さんが・・・亡くなる直前に呟いていたので・・・」

「え・・・私には聴こえなかったけど・・・」

「あ・・・そうですか・・・すみません・・・変なこと言って・・・」

「変なことって・・・」

「あなたたち・・・業務にもどりなさい・・・」

主任看護師の木藤はお決まりのセリフを口にするのだった。

精神失調の気配がある琉奈はすでに角度45度のお辞儀ラインを越えて猫背病を発症している。

そんな琉奈を木藤や・・・鈴木は不気味に感じ始める。

投薬の仕分け中の琉奈はチェック・ミスをする。

「あなた・・・前の病院でも・・・そんなだったの・・・鈴木さんでもしないようなミスをして・・・」

琉奈のミスを指摘する木藤の口調は叱責の度合いを増していく。

そして琉奈の猫背は角度六十度を超えるのだった。

やがて・・・琉奈の担当する女性患者からナースコールがあり・・・琉奈を他の看護婦と交代するように求められる木藤。

「彼女なりに・・・真摯に看護に当たっているのですが」

「いやなのよ・・・あの子、なんだか・・・暗くて・・・気分が悪くなるの」

部屋の外でそれを聞いた琉奈はついに角度九十度の猫背になるのだった。

もはや・・・病院のせむし女(「ノートルダムのせむし男/ヴィクトル・ユーゴー」より)である。

最近はなぜか・・・せむし男が出てきて世間知らずのお嬢様に「醜いせむしのくせに」などと罵倒されたりするテレビドラマはみかけないのだった。・・・できるかっ。

それに反逆する姿勢の夏帆は素晴らしい演技プラン披露しているわけである。

・・・そこには気がつかないフリをしておけばいいものを。

いや・・・たぶん・・・世界でキッドしか言わないだろうからな・・・ここは言っとく。

ナイトシフトの研修医・・・隈川朝陽(大和田健介)は病院の廊下で不気味な音を聞いた。

「お・・・おお・・・おおん」

悪寒に襲われながら・・・正体を確かめずにはいられない防御的な心理で音源を捜す・・・朝陽・・・。

(まさか・・・地下の霊安室か・・・)

しかし・・・それは備品室だった。

「おおん・・・おおん・・・おおおおん」

恐る恐る扉を開いた朝陽は泣き濡れる白衣の天使・琉奈を発見するのだった。

「君は・・・何してんだ・・・」

「先生・・・えっ・・・私・・・駄目なんです・・・ええっ・・・この病院にきてから・・・」

「まだ・・・赴任したばかりじゃないか」

「えっ・・・ええっ・・・えっ・・・見えたんです・・・石川さんが・・・なくなって」

「ああ・・・石川さんは残念だったな・・・でもここは病院だもの・・・」

「え・・・ええ・・・」

「しっかりしたまえ」

朝陽は琉奈にハンカチを差し出した。

琉奈は他人から優しくしてもらったことがないので・・・朝日の好意がうれしかった。

そのために少し、気が紛れたのである。猫背の角度は七十五度まで回復したのだった。

性交渉はおろか・・・父親や患者以外の男性と話した経験もない琉奈はすでに恋心を朝陽に抱いていた。

そのために翌日は眠れなくなり、体調不良のためにシフトチェンジをしたのだった。

「私・・・病院を辞めたい・・・また幽霊が見えるようになっちゃって・・・それから好きな人ができたの・・・」

父親の辰男(嶋田久作)に電話で相談をしようとして・・・会話を妄想している琉奈に・・・親友の坂井愛美(高田里穂)からの着信がある。

「あのさ・・・私の携帯に・・・変なメールが来るの」

「・・・」

「発信者はさえこなんだけど・・・さえこなんて・・・知り合い・・・中学の時に死んじゃったさえこ以外にいないし・・・あんたのとこには来てない?」

「ないよ・・・」

「そう・・・あの・・・なんか・・・変なことはおこってない?」

「へん・・・なって」

禁断の領域に踏み込まれて変調する琉奈。

愛美は察知して会話を打ち切る。

「あ・・・いいの・・・じゃあ・・・またね」

琉奈の猫背はゆらゆらと揺らぐ・・・。

琉奈が不在のナースセンターで鈴木はついに・・・木藤に琉奈についての違和感を訴えるのだった。

「あの人が来てから・・・病院はおかしくなったんです」

「何を言ってるの・・・」

「私・・・血まみれの女の子を見たし・・・石川さんも心霊写真を撮ったし・・・患者さんも・・・階段で血まみれの男の子を見たって・・・」

「馬鹿なことを言わないで・・・」

「でも・・・私・・・もう・・・こわくて・・・」

「ちょっと来なさい・・・」

しかし、階段で・・・木藤もジャージ姿で佇む幽霊を目撃してしまうのだった。

「そんな・・・」

ジャージには「若月高校」というネームが入っていた。

思わず・・・「幽霊・・・若月高校」で検索する木藤。

たちまち「若月高校・・・階段の幽霊・・・転落死した男子生徒がジャージ姿で階段に立っている・・・」という記事がヒットする。

「そんな・・・馬鹿な・・・」

しかし、木藤は思い出していた・・・琉奈の経歴を・・・琉奈は都立若月高校の卒業生だった。

「いやだ・・・」

木藤は背筋がぞくぞくするのを止められない。

ナイトシフトとなり・・・出勤する琉奈。

病院前で・・・朝日と遭遇する。

うろたえて、前髪を上げたり下ろしたりする琉奈だった。

しかし、猫背八十度でなんとか・・・ハンカチを返すことができた。

「あの・・・先生・・・私・・・心療内科に通ってたんです」

「え・・・」

「でも・・・すっかりよくなって・・・だけど・・・この病院の旧病棟の最上階に行ってから・・・変な夢を見るようになって・・・」

「最上階・・・」

父親が何かを隠している最上階・・・。朝日は関心を抱く。

「先生も変な夢を見るっていったでしょう」

「ああ・・・」

「白い着物をきた女の人が口を開くと黒い歯をしているのではありませんか・・・」

「え・・・どうして・・・それを」

「私もみたんです・・・これって運命ですか・・・それに私・・・・石川さんの幽霊を見たんです」

「え・・・」

「ずっとずっと見なかったから・・・病気は治ったと思ったのに・・・」

「なんだって・・・」

「でも・・・病気じゃないのかも・・・幽霊はいるのかもしれない」

「何を言ってるんだ」

その時、救急車が到着する。

搬送されてきたのは愛美だった。

「ビルから転落した模様・・・」

「坂井さん・・・わかりますかあ」

救急隊員たちの言葉が琉奈の耳に飛び込む。

「うそ・・・うそ・・・」

琉奈は見た。

血まみれの愛美が自分を見つめて佇んでいる姿を・・・。

最初の犠牲者は・・・愛美かよ・・・。

鈴木でよかったんじゃないか。主人公と顔立ちが似ていて紛らわしいから。

とにかく・・・今の処・・・まったくホラーじゃないよね。

関連するキッドのブログ→第3話のレビュー

シナリオに沿ったレビューをお望みの方はコチラへ→くう様の悪霊病棟

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2013年8月 9日 (金)

仮面ティーチャー(藤ヶ谷太輔)は女教師(大政絢)、教え子(竹富聖花)、犠牲者の妹(山本舞香)に囲まれて。

女子大生年代の1991年2月生まれで22歳の大政絢。

女子高生年代の1995年3月生まれで18歳の竹富聖花。

女子中学生年代の1997年生まれで15歳の山本舞香。

各世代を代表する美少女をそろえた鉄壁の布陣である。

しかし、主人公が相手にするのは善悪の区別がつかないおバカな男子高校生なのである。

「GTO」の作者が「仮面ライダー」と「ビッグマグナム 黒岩先生/新田たつお」を合成したような原作を書き、日本テレビならではの適当さでアレンジした・・・近未来学園ファンタジーなのであった。

暴力につぐ暴力なので深夜にこっそりやっています。

で、『仮面ティーチャー・第1回~4回』(日本テレビ201307070050~)原作・藤沢とおる、脚本・山岡潤平、演出・本田隆一(他)を見た。暴力の定義は難しい。その効果を考えると、肉体的苦痛や、精神的苦痛などといったカテゴリが存在する。当然、肉体的暴力や精神的暴力が考慮されるが・・・そもそも・・・苦痛というものが肉体的なものなのか・・・精神的なものなのか・・・という問題も生じるのである。しかし、ここでは暴力とは「体罰」とか「喧嘩」とか「袋だたき」とか・・・そういう感じのものである。当然、殺傷力は生じるが・・・そこは必ず半殺しで済むことになっているお約束で・・・いわばプロレス的暴力と呼ぶにふさわしい。「体罰」が全面的に禁止されたことにより、無法状態と化した教育現場を修正するために生徒更生のための暴力を許可された仮面ティーチャー法が施行。言うことをきかない生徒を暴力で鎮圧する社会が誕生した世界である。ま・・・マンガですから。

暴力的生徒に支配され、無法地帯と化した私立華空学院高校の校長・菅原健太郎(志賀廣太郎)は教育省に仮面ティーチャー派遣を要請する。

教育更生プログラムである「仮面ティーチャー法」を施策し、実行する教育省学校政策局局長の飯倉塁(斎藤工)は仮面ティーチャー・荒木剛太(藤ヶ谷太輔)の派遣を決定する。

優秀な仮面ティーチャーだった荒木剛太は過去に生徒矯正中に転落事故による生徒死亡のケースを発生させていた。そのために「生徒への鉄拳制裁を封印した」・・・はぐれ仮面ティーチャーだったのである。

しかし、飯倉はなんらかの意図を持って仮面ティーチャー・荒木剛太を現場に再投入したのだった。

「暴力では生徒は救えない・・・」と期する荒木剛太は正体を隠し、私立華空学院高校に赴任するのだった。

その正体を知るのは校長の他は荒木剛太が殺した生徒の父親の小林十兵衛(六平直政)だけである。彼は息子を殺した荒木剛太を許しただけでなく、剛太行きつけのカフェのマスターとして悩める剛太にアドバイスするバカのつくほどの好人物なのだった。店の手伝いをする娘の佐恵子(山本舞香)も剛太を兄の仇とは知らぬままに慕うようになっていくのだった。

山本舞香は「幽かな彼女」からここである。

「大学で心理学を学びました」が口癖の英語教師が市村美樹(大政絢)である。教職課程で教育心理学はみんな習うよね。熱血教師を目指していたが無法状態の学校現場に戸惑いを感じていたところ・・・仮面ティーチャーに希望を見出す。荒木剛太とともに真の教育とは何かを模索するのだった。

大政絢は「ヤマトナデシコ七変化」でヒロインを演じて以来、脇役街道&深夜のマドンナ便まっしぐらだな。コージャスすぎるのか。

軟弱な教師を装う荒木剛太になんとなく萌えて応援する女子生徒・近藤加奈子(竹富聖花)はクラスメートの秘密をこっそり教えてくれるのだった。

竹富聖花は「黒の女教師」にも出演していたが女教師たちが「課外授業」をする話だった・・・。仮面ティーチャーの番組キャッチ・コピーは「さぁ、課外授業を始めよう」なのだった。みんな・・・課外授業が好きなのか。それとも単に安易なのか。

さて・・・生徒を殺害してしまった悔悟の気持ちから・・・暴力を封印した荒木剛太は基本的に暴力的生徒たちの餌食である。

殴られて蹴られて時には電撃を浴び、凶器で血まみれとなる。

昭和の時代、少年漫画「伊賀の影丸」でとらえられた美少年忍者・影丸が逆さ吊りで拷問されて苦悶するのをひっそりとうっとりと眺めていた女子児童の発生以来、水面下で生息する美少年/美青年の苦悶の顔スキーのみなさんが狂喜乱舞の世界の展開でございます。

しかし、最後は仮面ティーチャーに変身してのバイオレンスの爆発はお約束なのである。

それでも・・・極力、生徒への鉄拳制裁は控えるのが荒木剛太の生きる道なのだった。

つまり、できるだけ無抵抗主義である。絵空事過ぎてちゃんちゃらおかしいぞ。

だが、金にものをいわせて暴力生徒を支配するマネーマン・ボン尾上(京本大我)、短気で手下のマッドマックスたちも恐れるマッドマン・コータロー(前田公輝)たちを次々と改心させる荒木剛太なのだった。

コータローは剛太に感化されて、無抵抗主義となり、毎日、半殺しにされるが・・・恩を受けた子分たちが助けることによって・・・友情の味を知るのだった。

荒木剛太が愛するドラマ内ドラマ「3年C組金髪先生」では金髪(塚田僚一)が「拳は人を殴ることもできるが握手もできることを忘れるな」と叫ぶのだった。

暴力生徒の一人、アイスマン・リョータ(栁俊太郎)は冷酷な存在だった。

しかし、加奈子たちからの情報により・・・彼が父親からの幼児虐待の犠牲者だと言うことがわかる。

そんな、ある日、電撃警棒を使って大人狩りをするリョータを市村が目撃する。

事情を知ってますます・・・リョータを暴力的に制裁できなくなる剛太。

しかし、もう一人の仮面ティーチャーが現れるのだった。

黒いヘルメットの仮面ティーチャー(黒)は容赦なくリョータを叩きのめす。

圧倒的な暴力で幼児退行現象を起こしたリョータは過度に従順な二重人格を発症するのだった。

そこへ・・・大人狩りの犠牲者だったチンピラ軍団が殴りこみに来て・・・リョータを拉致してしまう。

素顔のままでかけつけた剛太は身を呈して暴力からリョータを守るのだった。

「生徒を守るのが教師の仕事だ・・・」

苦痛に耐えて叫ぶ剛太だった。

そして・・・変身した仮面ティーチャーはチンピラ軍団を殲滅するのだった。

そこへ・・・現れた仮面ティーチャー(黒)・・・。

「腕はおとろえていないようだな・・・なぜ、君は生徒を暴力で制しないのか」

「暴力で教育はできない・・・」

「その甘さが・・・いつか命取りになるぞ・・・」

本当にそうだと考えます。

暴力を否定し続ければいつか、竹やりで原爆と戦うことになるわけですから。

暴力を笑うものは暴力に泣くのです。

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2013年8月 8日 (木)

海の水と美しい空と山の水と夜の河の淵とWoman(臼田あさ美)

闇の中の地球は大循環を行っている。

太陽熱によって海水は昇天し雲海となり降雨して山の水となり流水して川となる。

その川の辺で人間は生きている。

水が海に帰るように・・・人の命もまた塵となっていく。

人の中には血が流れ、血は母から子へと流れていく。

姉と妹に流れる分岐した血液の流れ。

唱和される悔恨と慙愧の祈り。

それを残照が穏やかに包み込む。

祭囃子が通り過ぎていく。

祭囃子の前を通り過ぎていく。

祭囃子が途絶えて、また息を吹き返す。

三万分は五百時間。五百時間はおよそ三週間である。

水を得て種が目覚めるまどろみの時間・・・。

で、『Woman・第6回』(日本テレビ20130807PM10~)脚本・坂元裕二、演出・水田伸生を見た。再生不良性貧血を発症してしまったシングル・マザー青柳小春(満島ひかり)は長女・望海(鈴木梨央)と長男・陸(髙橋來)を守るために担当医の澤村(高橋一生)と研修医の砂川藍子(谷村美月)に励まされ、病気と闘う決意をする。しかし、その決意は・・・母親としての自分、娘としての自分、女としての自分の間で揺れ動く。幼い頃に離別した母親の植杉紗千(田中裕子)と再婚相手の健太郎(小林薫)だけが頼れる親族だが・・・そこには亡夫・青柳信(小栗旬)の死に深く関与している異父妹の栞(二階堂ふみ)も暮らしているのだった。栞もまた秘密を抱えて暗い闇の中を彷徨っていた・・・。

鬼子母神はインドの夜叉(鬼神の一種)毘沙門天の配下・バンチーカの妻・ハーリティーである。子供を食う夜叉であったのでシッダルタ(釈迦)はハーリティーの愛児・ピンガーラを拉致監禁してハーリティーに子を失う母の悲しみを悟らせたという。乱暴な話だが、それで改心するハーリティーも純情可憐である。以来、懐妊、安産、育児の守護神として祀られてきたのである。テロリストとして目的のためには手段を選ばないシッダルタの面目躍如のエピソードとも言える。

日本では蜀山人の洒落「恐れ入りやの鬼子母神」で知られる東京台東区の真源寺が有名だが、鬼子母神信仰はあまねく広がっている。ドラマでは都電荒川線沿線の法明寺鬼子母神堂周辺の鬼子母神通り商店街の夏祭りが描かれる。都電荒川線の各停留所は徒歩数分の距離にある。雑司ヶ谷停留場(豊島区南池袋)と鬼子母神前停留所(豊島区雑司ヶ谷)は隣り合わせである。

夏祭りのために法被を捜していた健太郎は重なりあった荷物の中から忘れ去られていた紙袋を見出す。

それは四年前に信が植杉家に忘れていったものだった。

中には鮮やかなオレンジ・イエローのマフラーが入っていた。

一方、治療を開始した小春は澤村や藍子から治療についてのアドバイスを受ける。

「投薬や輸血では対応できなくなった場合に備えて・・・骨髄移植のドナーを捜しておく必要があります・・・適合する親族がいないかどうか・・・検査しておくことを推奨します」

「・・・」

「私は妻を・・・あなたと同じ病気で亡くしています」

「・・・」

「妻をどんなに愛していも僕は移植に適合しませんでした・・逆に憎んでいても適合するものは適合します」

「・・・」

「お子さんのために・・・病気に向き合うとおっしゃいましたよね」

澤村の理詰めの説得に揺らぐ小春。

「お子さんには・・・話しましたか」

「言えません」

「いつまでも・・・今の生活を続けられる保証はありませんよ。入院の必要も生じるかもしれません」

「・・・」

「もしも・・・あなたが倒れた時に・・・その場にお子さんしかいなくて・・・とりかえしのつかないことになったら・・・誰が一番傷つくか・・・考えてみてください」

「・・・」

藍子の容赦のない言葉に小春は恐怖を感じるのだった。

ある朝、目覚めた陸は母親の姿がないことに気がつく。あわてて姉の望海を起こす陸。

「お姉ちゃん・・・お母さんがいないの・・・」

「・・・」

室内で母の不在を確認した望海はドアを開き、アパートの通路の手すりにもたれて空を見上げる母を発見する。

「お母さん・・・何してるの」

「見てるの・・・空がきれいだから」

「えええ・・・いつもと同じだよ」

「そうかなあ」

小春は決心して・・・子供たちを連れ・・・雑司ヶ谷の植杉家に向かうのだった。

秘密を共有する母・紗千と栞・・・紗千は栞に「小春一家との絶縁」を誓っていた。

それを知らぬ健太郎は喜んで小春たちを迎える。

「何しに来たの」と冷たい視線を送る紗千。

「お願いがあってきました・・・私と子供たちをこの家に住まわせてください」

「・・・」

「更新料が払えないので・・・アパートに住めなくなってしまうのです」

「・・・厚かましい・・・」

「家賃をお支払いします・・・一部屋お借りしたいのです」

「余分な部屋はないわ・・・」

「お願いします」

「更新料を立て替えるわ・・・それでいいでしょう」

「・・・一緒に住みたいのです」

「なんの権利があって・・・」

「クーラーを買ってくださろうと・・・」

「私にできるのは・・・お金のことだけよ」

「お願いします」

「家族でもないのに・・・」

「家族です」

親子丼を注文する健太郎。

「食べるの」

「いただきます」

「あなた・・・図々しいわね・・・この間と違うじゃない」

「・・・」

「私を母親だと思っていないくせに・・・」

「あなたを母親だと思っています」

「嘘・・・なんでそんな嘘をつくの・・・理由があるんでしょう・・・おかしいわ」

「おかしいのは紗千さんじゃないか・・・・母親と娘が一緒に住んでなぜ悪いんだ・・・この20年間・・・ずっと望んできたことじゃないか」

「・・・」

「・・・」

「私・・・お姉さんと住みたいな・・・ね、いいでしょう・・・だって・・・お姉さん、結婚相手の人が死んじゃって可愛そうじゃない」

栞が現れて結論を出すのだった。

栞の真意を測りかねる紗千。

無邪気に喜ぶ健太郎。

安堵する小春。

こうして・・・植杉一家と青柳一家は合流することになった。

紗千は条件を出した。

「あなたの・・・亡くなった御主人・・・信さんの持ち物は持ち込まないでください・・・」

「・・・写真もですか」

「そう・・・」

紗千がなぜ・・・そんな条件を出したのか訝しく感じる小春だったが・・・とにかく・・・子供たちのために・・・同居は必要だった。だから、同意する他はなかったのである。

引っ越しの手伝いにきてくれたシングルマザー友達の蒲田由季(臼田あさ美)に信の形見の品を預ける小春。

「なんだか・・・友達の彼とデートするみたい・・・」

「なんですか・・・それ」

「彼をお預かりします・・・お持ち帰りです・・・みたいな」

「やめてよ・・・やはり・・・他の人に預けることにするわ・・・」

「冗談ですよ・・・大事にしますから」

「大事にって・・・」

「いやだ・・・大切にするってことですよ」

「やだ・・・やっぱり・・・預けるのやめた」

「もう・・・」

そこへ通りかかる砂川良祐(三浦貴大)と舜祐(庵原匠悟)の父子。

「お引っ越しですか・・・」

「実家へ・・・おでかけですか」

「息子とスタンプラリーに・・・」

「便通はありますか」

「あります・・・青柳さんのおかげです」

二人のやりとりに妄想が膨らむ由季だった。

「なんの・・・話」

「浣腸しますか・・・」

「ええーっ・・・」

「ふふふ」

本当に仲のいい二人だった。なぜなら・・・二人はシングルマザー戦争を戦う戦友だったからである。

引っ越してきた日・・・青柳家と植杉家は別々にカレーを作り、別々に食卓を囲んだ。

「なんで・・・別々に作るんですか・・・小春さんちのカレー、具が少なかったな・・・福神漬けもラッキョウもなかったし・・・」

「・・・」

不満そうな健太郎は無視する紗千だった。

無為の日々を送る栞は部屋に引き籠り、食欲もなかった。

「一緒に食べればいいのに・・・」とナマケモノこと健太郎を気にいっている望海も不満を口にする。

「お庭が気にいった・・・?」

「今、迷ってるの・・・お庭を好きになると・・・出ていくときに・・・淋しいでしょう」

「・・・」

小春は言葉に詰まる。未来に広がる暗闇から目をそらす。

子供たちを寝かしつけた小春は薬を飲むために台所に立つ。

背後に人の気配を感じ・・・薬を隠す小春。

暗がりに栞が立っていた。

「ごめんなさい・・・何か探してました・・・私、コンタクトしてなくて・・・お姉さんだと分らなくて」

「いえ・・・水・・・飲んでただけです」

「あ・・・」

「なにか・・・とりましょうか」

「じゃ・・・」

「え・・・」

「これ・・・」

と籠に入ったチョコレートを取る栞。

「・・・食べますか」

「じゃ・・・」

小春の掌にチョコレートを落そうとしてこぼす栞。

「ごめんなさい」「ごめんなさい」

「今・・・声あいましたよね」

「え」

「ごめんなさい」「ごめんなさい」

「ふふふ」

床に落ちたチョコレートを拾って食べる二人。

「お母さんがいたら・・・怒られるわ」

「そうですか・・・チョコすきなんですか」

「はい・・・落ち着くんです・・・怖い夢を見た後とか」

「こわい夢を見てたんですか」

「ええ・・・淵を・・・夜の河の淵を一人で歩いているんです」

「・・・」

「落ちたら死んじゃう・・・こわい・・・夢」

そこへ紗千がやってくる。

「何をしているの」

チョコを拾って食べる栞。

「これっ・・・やめなさい」

顔を見合わせて微笑み合う姉妹。

「おやすみなさい・・・」

二人になると紗千を恐る恐る聞く。

「何を話していたの」

「いえ・・・たいしたことはなにも・・・」

「あの子とは話さないようにしてください」

「・・・わかりました」

紗千の要求の真意が分らない小春。しかし・・・小春は思う。

昔から・・・この人の心はわからないのだ・・・と。

翌朝、早起きした子供たちと健太郎は庭に花の種を植えていた。

「これで後は待つだけ・・・」

「何分・・・?」と陸。

「ラーメンじゃないからね・・・三万分くらいかな」

「じゃ・・・数えて・・・」

「え」

紗千は出勤する。続いて小春が出勤する。

健太郎は信の忘れものを小春に手渡す。

小春には見覚えのないものだった。

紗千は停留所に向かう。小春も停留所へ向かう。

娘の足は老いた母よりも少し早いのだった。

栞も起き出して・・・四人は夏の川辺へと散歩にでる。

健太郎は居眠りをする。

陸の帽子が飛ぶ。水辺近くに飛んだ帽子を拾おうとする望海。

「あぶない・・・」

栞は叫んで姪を制し帽子を拾いに土手を降りるのだった。

「ありがとう・・・」

「・・・」

小春は病院で輸血の処置を受けていた。

「スタンプラリー?」と夫と息子の話を聞いて思わず顔を綻ばせる藍子。

「実家で暮らし始めたんですね・・・適合の検査は?」と澤村。

「嘘をついているんです・・・家族だと思っていないのに・・・家族って言って・・・母親だと思っていないのに母親だと言って・・・無料の託児所だと思ってるんです」

頑なな患者の心に踏み込むのを控える二人の意志だった。

患者と医師も少しずつ歩み寄るしかないのだった。

熱気にあふれるクリーニング工場。

由季もまた働きだしていた。

「さしでがましいかもしれませんけど・・・」昼休みに小春に声をかける由季。

「あの事故のこと・・・調べてどうなるものでもないって言ってたでしょう・・・でも・・・この間・・・信さんのこと・・・検索してみたんですよ」

素晴らしいインターネットの世界ではとりとめないニュースも記録されていくのだった。

「こういうの・・・残るんですよね・・・望海ちゃんが大きくなって・・・こういうの見たら・・・傷つかないかと・・・心配になって・・・」

小春は・・・由季の言葉に心の中で同意した。

そういえば・・・と信の忘れものを取り出した小春。

紙袋に記された・・・山梨県のロッヂ長兵衛に電話をしてみる小春だった。

一番に帰宅したのは・・・小春だった。

夕暮れの中で夕餉の支度をする小春。

二番目に帰宅した紗千は風でテーブルから落ちたメモを拾いあげる。

「ナマケモノさんを連れて遊びにいってきます」という絵入りのメモに幽かに微笑む紗千。

その時、小春はお玉を落とす。

「あ・・・ごめんなさい」

「いえ」

お玉を拾おうとした小春はそのまま失神してしまう。

あわてふためく紗千だった。

紗千は小春を布団に寝かせ・・・お粥を作った。

眠っている小春におずおずと手を伸ばす紗千。

ふと目覚める小春。あわてた紗千はおかゆの鍋を傾ける。

片付けようとする紗千。

「あ・・・食べます・・・作ってくれたんですよね」

「でも」

「平気です・・・いただきます」

「そんなに気をつかわなくていいのよ・・・」

「外食するときだって・・・いただきますって言いますから」

「そう・・・具合はいいの」

「あ・・・ただの貧血ですから・・・大丈夫です」

「そうなの・・・」

「あのね・・・平気そうな顔してるって思ってるかもしれないけど・・・私はね・・・あなたを捨てたことを許されようとは思ってないの・・・」

「でも・・・それは・・・私も父のしたことを・・・本当だとしたら・・・知らなくて・・・」

「小さなことよ・・・そんなことは・・・母親が娘を捨てることに比べたら・・・なんでもないことよ・・・あなた・・・自分の子供たちを捨てられる・・・」

「・・・」

「私は・・・それをしたのよ・・・それができたの・・・」

「・・・」

「信さんには親はいないの・・・」

「私も信さんも・・・親のことには口が重くて・・・」

「エベレストに昇ったんでしょ」

「その帰り道で・・・私たち知り合ったんです」

「まあ・・・そうなの」

「その時も・・・キャラメルをくれて・・・そう・・・あの人・・・キャラメルがお母さんの味だって言ったことがあります」

「・・・」

「いなくなるなんて思わないから・・・話してないことはたくさんあって・・・あの日のことだって」

「ごめんなさい・・・」

「え」

「私が梨なんてあげなければ・・・そんなことにはならなかったのに・・・ごめんなさい」

「やめてください・・・そんなのいりません。違うんです。違います。そんな風に・・・あの人のことを・・・終ったみたいに・・・簡単に終わらせないでください・・・」

「親子でも相性の悪いってことがあるものね・・・私たちは昔、母と娘だったけど・・・今はお互いが一番大事だとは思っていない」

「別々の・・・二人の母親ですものね・・・」

夕暮れの街に鳴り響く・・・ドボルザークの「家路」・・・。

響きわたる 鐘の音に

小屋に帰る 羊たち

夕日落ちた ふるさとの

道に立てば なつかしく

ひとつひとつ 思い出の

草よ 花よ 過ぎし日よ

過ぎし日よ

帰宅する健太郎と・・・子供たち・・・そして栞。

「あのね・・・陸の帽子を拾ってもらったの・・・」

「ありがとうございます」

「・・・」

無言で二階に歩み去る栞。

その時、小春の携帯電話にロッヂ長兵衛からの着信がある。

「そこに・・・青柳信さんはおられますか」

「あの・・・」

「奥さんあての手紙を・・・四年前から預かっているんだが・・・」

「え・・・」

四年前・・・植杉家を訪問する前に・・・信は山梨県の生まれ故郷を訪ねていたのだった。

信の足取りを追って青柳家の三人は山梨県猿橋行きの列車に乗り込む。

「お父さんの生まれ故郷って・・・海なの・・・山なの・・・」と望海。

「山よ・・・」

「えへへ・・・なんだか照れる・・・」

「どうして・・・」

「だって、お父さんと旅行に行くみたいなんだもの」

「ふふふ・・・そうかあ・・・そうだねえ」

亡き夫の・・・亡き父の・・・面影を求めて・・・母子を乗せた列車は夏の光の中を走るのだった。

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2013年8月 7日 (水)

三つの夢が統合される時、スターマン覚醒!(福士蒼汰)

ミスター・グッド・バーを求めて・・・女たちは旅をする。

そういう女は鳥なのである。バーがとまり木なのだからそういうことになるのだ。

鳥の生活は過酷である。

その過酷な生活の中で一瞬でも翼を休めたい・・・そのための憩いの場なのである。

だから・・・男は頑丈で無口でいいのだった。

鳥のような女と手頃な枝のような男はそれなりに上手く行くのだった。

しかし、鳥はいつしか飛び立っていくことは言うまでもない。

男と女の区別のつきにくい世界では・・・男が鳥で女がとまり木でもおかしくないのだった。

今や、女はとまり木になりたいのかもしれない。

そういう願望が「いかにも鳥の半沢直樹」の大人気に・・・と邪推する今日この頃である。

しかし・・・そういう意味では「スターマン」もまったく同じ話なのである。

だが・・・いくらイケメンでも正体不明ではとまり木としても落ち着かない・・・やはり、外ではどんだけ苦労しているかしらないが・・・一流銀行員として稼いでくる・・・しかも帰巣本能の強い鳥が理想なのだろう。

まあ・・・それは結局、青い鳥なんですがね。

で、『スターマン・この星の・第5回』(フジテレビ20130806PM10~)脚本・岡田惠和、演出・鈴木浩介を見た。10.5%↘*9.6%↘*8.5%↘*8.2%・・・視聴率が見事に流れ星の如くである。若手期待の星のカード・福士蒼汰、有村架純の男女二枚を使って、一流脚本家と一流演出家を起用して・・・この数字である。本当に魔物だよなあ。ただ・・・物語と・・・雰囲気がなんとなくピンとこない・・・というお茶の間の気分は分かる。っていうか・・・SFだからか・・・そうなのか。直近の類似作品である「シェアハウスの恋人」が大島弓子の哲学的なファンタジーを連想させるなら・・・こちらは萩尾望都のSFアドベンチャーなのかと思っていたのだが・・・そうはならなかったのだった。

萩尾望都には火の玉宇宙人ものとして「海のアリア」(1989-91)がある。

少年少女たちの葛藤と・・・楽器生命体を捜しに来た異星人音楽家の執念が楽器生命体が憑依してしまった人間を中心に美しい物語を紡いでいくのである。

まあ、ある意味、かなりのニュアンスを感じさせるのだが・・・基本、三十女の夢物語なのでもう一つ・・・男女を問わずにうっとり・・・はさせないのだった。

そして・・・物語の最初にはかなり明確だったと思われた宇宙人の存在が・・・回を追うごとに曖昧になっていくのである。

一体、宇宙人は何しに来たんだよ。

それは・・・ともかく・・・自殺したタツヤの記憶が修復されたらしい星男(福士蒼汰)は記憶喪失中に上書きされた「星男としての記憶」を喪失し・・・自殺直後のボート上からスーパーマーケットやまとのお惣菜調理室に転移した感じになり、混乱するのだった。

佐和子(広沢涼子)はせっかくの「理想の王子様」が・・・粗暴な若者に変貌したことに落胆をかくせない。

しかし、直後にタツヤ的星男は意識を失い、どうやら・・・星男と同系統の憑依型宇宙人に40年前に憑依された重田信三(國村隼)によって宇野家まで送り届けられるのだった。

さっそく、近所の医者(モト冬樹)が往診に来るが・・・タツヤ的星男の容態はさっぱりわからないのだった。

「わからなくて・・・当然だ・・・彼は私の仲間だからだ」

仲間=男色愛好家と誤解している佐和は「違います」と勘違いコントを繰り広げる。

大人気ないとは思うが、いくらバカ設定とはいえ・・・超人として明らかに異常な星男の正体を知っているらしい重田に佐和が気がつかないのは・・・ちょっとね。

「大丈夫だ・・・彼はもうすぐ目覚める・・・本当の覚醒はまだ先だがな」

いかにも「本当の目覚め」ってなんだよと誰かに突っ込んでもらいたいところだが・・・大物で直観力に優れた美代(吉行和子)も沈黙を守るのだった。

やがて・・・目覚めた星男は・・・佐和子の期待に反してタツヤ的星男だった。

タツヤに説明を求められて・・・タツヤの恋人ミチルにしたように一から説明する佐和子。

「そんな・・・馬鹿な・・・」とますます混乱するタツヤ的星男だった。

しかし・・・美代から「あの男は・・・悪ぶった小物で・・・本当の悪じゃない」とアドバイスされた佐和子はタツヤ的星男の再教育に乗り出すのだった。

なにしろ・・・外見優先で中身は二の次の佐和子なのだった。

例によってスナックスターを巻きこんでいったりきたりの件があって・・・。

結局・・・タツヤ的星男を星男的タツヤにまで調整することに成功する佐和子だった。

実は・・・タツヤは・・・自殺後・・・夢として星男としての生活を体験していたのだった。

この後付け感・・・たまりませんな。

ついでに・・・高校野球の県大会の優勝経験者で・・・家庭の味を全く知らないというタツヤの人生・・・かなり・・・無理矢理感がございます。

逆境に耐えてそこまで精進した人間が札付きにはなかなかなりませんよねえ。

ともかく・・・ふたたび・・・星男は佐和子の手中に収まったのである。

一方で・・・宇宙人に誘拐されることを心の底から願う・・・おかしな女・臼井祥子(有村架純)は恋人もどきの安藤くん(山田裕貴)を拒絶して重傷を負わせた後で・・・ターゲットを重田に切り替えるのだった。

祥子の㊙ノートによれば「宇宙人は痛みを感じない」のである。

早速、休憩中の重田をモップで殴ってみようとする祥子。

もう・・・病院に行った方がいいレベルなのだ。

しかし、宇宙人的レーダーで危険を察知した重田は攻撃を回避すると同時に頭部180度回転の悪霊技を披露するのだった。

「ええっ」

「あ・・・これは・・・違うんだ」

「ひええ・・・」

逃げる祥子・・・追う重田。

パニックに陥った重田は・・・佐和子と安藤くんの面前で・・・祥子にセクハラというよりは暴行レベルの口封じのキスを強要するのだった。

「これは・・・あの・・・違うんだ」

通報だ。これは普通通報だよね。まあ・・・ちょっとね。

っていうか・・・重田は星男が自分を迎えに来た同胞と確信しているようだが・・・完全に同化すると・・・星男も首がグルグル回るタイプになるのかよっ・・・。

まあ・・・これはこれでいいとしか・・・言いようはないが・・・もう少しね・・・なんとかね・・・ならなかったのかと思う第五回なのだった。

だから・・・言っただろう・・・期待するとロクなことはないってさ。

鳥が逃げたわ

今日の明け方

一度も私に振り向かないで

どこかの町へ

だまってみてたわ

しょうがないもの

そうだよね・・・そうなんだよねえ。赤い鳥逃げたら捜しても無駄なんだもんね。

そして・・・星男とタツヤを統合する第三の人格・・・宇宙生命体の覚醒は近いらしい。

どうか・・・地球侵略の先兵でありますように・・・。宇宙戦争が始りますように。星に祈るキッドだった。・・・そんなわけあるかっ・・・ボケッ。

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2013年8月 6日 (火)

最後の花火が消えた瞬間、閃く恋(香里奈)のSUMMER NUDE(山下智久)

彼女(戸田恵梨香)と一緒に歩いて行こうと決めた瞬間、元カノ(長澤まさみ)が帰って来ちゃって、もう一人の彼女は片思い炸裂!

まさに・・・もててもてて困っちゃう山Pなのである。

とりあえず、男子は全員、山Pになりきることが大切である。

妄想上は誰でも山Pになれるのだ~。

一方、女子は選択が難しい。

基本は登場する全員になりきることだが・・・かなりの妄想力が要求される。

ここはギャンブルで・・・誰かを一点買いするか・・・あるいはレースの展開によって馬を乗り換えるか・・・そういう自分にあった妄想が必要な方もいるだろう。

今週までは波奈江で・・・来週は一瞬、香澄で・・・後半、一挙に夏希というのが手堅い所だな。

しかし、あくまで波奈江で貫いて散るのも華・・・というやまとなでしこスタイルを貫くのも女の道かもしれない。

♪みさき ふるさと こいのまち 夏はいつでも五割増し 恋の年貢の納め時~でございます。

で、『SUMMER NUDE・第5回』(フジテレビ20130805PM9~)脚本・金子茂樹、演出・金井紘を見た。生まれてはじめて月9を見るような、夢見る頃の人々はさておき、夢見る頃は過ぎちゃったけどさ・・・と言う人はそれなりに感慨深い展開だったよなあ・・・。まずは波奈江(戸田恵梨香)のパパ・谷山和泉(渡辺哲)の登場である。「池袋ウエストゲートパーク」(2000年)の安藤テツことキングのパパである。13年の時を経て・・・彼女のパパとして復活してきたのだった。「波奈江のおじさん」ならともかく、「彼女のパパ」としてはいろいろと恐ろしい感じがいいのだな。一方、波奈江と朝日(山下智久)だと・・・やはり「野ブタ。をプロデュース」(2005年)が思い出される。マドンナのまり子と・・・だっちゃが口癖のまり子の擬装彼氏の親友の彰・・・高校二年生だった二人が今や、先輩と後輩となり・・・交際寸前まで来たのである。「コード・ブルー」(2008年)ではライバルの域を出ることがなかったのにである。今回はいいところにまで来ているのだな。しかし・・・最後の最後で「ドラゴン桜」「プロポーズ大作戦」でお相手として実績を積み重ねている香澄(長澤まさみ)登場なのである。ああ・・・勝利の女神は逃げていくのか・・・。最近は疎遠だが・・・「野ブタ」「クロサギ」で恋のお相手としておなじみの堀北真希とならぶ強敵なんだなあ。一方で映画「あしたのジョー」で再会し、遡れば「カバチタレ!」(2001年)、「ロング・ラブレター~漂流教室~」(2002年)と昔馴染みの夏希(香里奈)が虎視眈々と機会を待っているのである。「カバチ」では結婚まで決めている二人なのだ~。ある意味、前世で約束している二人・・・長澤まさみと・・・香里奈に挟まれて・・・戸田恵梨香の修羅の道は続くのである・・・何の話なんだよ・・・。

しかし・・・ともかく・・・。夏の夜・・・。香澄のことは忘れると言った朝日に抱かれて蝶になった波奈江だった。しかし、チューはまだらしい。

にんまりニヤニヤだが・・・「それで彼の家に行くとか、自分ちに連れ込むとか、ホテルにしけこむとかしたわけ~?」と助っ人外国人的トモダチの夏希に問われて・・・少し、困惑する波奈江だった。高校以来・・・ずっと片思いで・・・基本的にヴァージンの波奈江にはハードル高すぎる話題なのであった。

しかし・・・彼女で同棲中だった香澄や・・・婚約者のいた夏希と違って・・・ヴァージンというのはそれなりに有効な武器なのである。だが・・・波奈江はまだその有効な使い方を知らないのである。もっとも・・・有効な使い方を知る頃にはたいていの女子はヴァージンではなくなっています。・・・やったやらないの話はそこまでだっ。

躊躇する波奈江にたたみこむ夏希。

「少しは・・・ヒカルくんを見習いなさいよ」

「ヒカル?」

「帰国子女のあの子と付き合い出したらしいよ」

「え」

自分に告白して玉砕したばかりなのに・・・展開早すぎるだろうと波奈江は思うのだった。

しかし、眼鏡をかけて文庫本を読む男ヒカル(窪田正孝)は・・・確かにモデル志望の帰国子女・あおい(山本美月)は親密な交際しているのだった。

カフェ&バー「港区」の店長・賢二(高橋克典)も驚きの展開だった。

「恋をするのなんか十秒あれば充分でしょ」

「・・・さすがは帰国子女」

「なんか・・・好きな彼女がいたみたいだけど相手のことなんかどうでもいいし」

「・・・さすがは帰国子女」

「カモン、ベイビーよ」

「・・・さすがは帰国子女」

店長の心の帰国子女のイメージって・・・。かなり、問題あるレベルだよね。

ヒカルは小南写真館に履歴書のための写真撮影にやって来た。

「就職するんだ」

「・・・」

「そんな仏頂面で面接受けたら落ちるよ」

「なんとかしてくださいよ」

「昨日、深夜の天魔さんがゆくで川口春奈がじぇじぇっと言ってた」

「幽霊を見てじぇじぇじぇ~って叫んでましたね」

「その後いっそんだからニヤニヤするよね」

「ニヤニヤしますよね~」

「・・・いい顔だ」

「ニヤニヤで就職試験の面接、合格しますかね」

「そりゃ・・・微妙だよな」

「波奈江のこと・・・なんとかしてくれるんでしょうね」

「・・・するよ・・・まだしてないけどね」

「じぇっ」

「・・・いい顔だ」

「ちょっと嫌な感じの驚きの表情で就職できますか」

「ちょっと無理かな」

「波奈江のこと・・・泣かせないでくださいよ」

「・・・いい顔だ」

「真剣さが伝わりましたか」

「うん・・・合格できるかもな」

「波奈江のことは・・・」

「するってばさ」

複雑な気持ちになるヒカルだった。

海の家「レストラン青山」では水着姿の女の子たちに混じって下品な親父がクダまいていた。

「地まわりの方ですか」

「誰がヤクザじゃ・・・」

「いや・・・やはり、笹川の繁蔵とか・・・飯岡の助五郎とかの流れで」

「誰が天保水滸伝じゃ・・・」

「なんなんですか・・・ショバ代請求ですか」

「あんた・・・この土地の人間じゃないな・・・勢津子はどうしたっ・・・」

「・・・」

「あんたの作った冷やし中華・・・イタリアンな感じがする」

「・・・」

「おしゃれすぎんだよっ」

「どうしたの・・・」と顔を出す朝日。

「ヤクザが来て、因縁つけて・・・ステテコ脱ごうとするのよ」

「あ・・・あれ・・・波奈江の・・・お父さんだ」

「じぇじぇっ」

流れで朝日と夏希は酔い潰れた和泉を「港区」に運び込むのだった。

波奈江のお迎え待ちである。

心に葛藤をかかえながら・・・朝日にからむ・・・夏希。

「波奈江にちゃんと交際申し込みなさいよ」

「今さらな感じがしてね・・・もうすぐ花火大会だし」

「花火大会関係ねえだろが」

「・・・いや・・・」と口を挟む賢二。「この街では花火大会に告白すると幸せになれるって伝説があってね」

「なんだ・・・それ・・・どんなエロゲだよ」

「せめて恋愛シミュレーシヲンでおねがいします」

「じゃ・・・花火の日にするんだな」

「しっ・・・」と和泉を伺う朝日だった。

突然・・・起きあがる和泉。

「おい・・・朝日・・・」

「はいっ」

「あの看板・・・本当に外していいのか」

「お願いします」

そこへ・・・和泉を迎えに来る波奈江。

「私のテリトリーに侵入すんな」と父親を叱りながら回収するのだった。

「・・・で、どうなのよ」と話を蒸し返す夏希。

「そっちこそ・・・そろそろ・・・新しい恋を捜してもいいんじゃないの」

「あたしは・・・まだ・・・あんたみたいに三年も引きずる気はないけどね」

「じぇじぇっ」

「とにかく・・・あんたにだけはいわれたくないね」

それは・・・同じ終った恋を引きずるタイプだからか・・・それとも・・・もう好きになっちゃってるからか。もちろん、月9である以上、後者です。

ストレートで50点狙えるほど確実だと思われ・・・。

読み捨てられたページのようにめくりとられて撤去される大看板の香澄だった。

「こんどのミスみさきコンテストの優勝者で・・・新しい看板を作ってくれ」と和泉は朝日に命ずるのだった。

看板を見上げる和泉。

その後ろ姿を見つめる肩を並べた朝日と波奈江。

その背後で通りかかった夏希は複雑な感情を抱くのだった。

おっと・・・ミスコンスルーで優勝者はあおいである。

しかし・・・さすがにあおいはそれなりに存在感を示すのだった。

まあ、そういう意図のキャスティングだからな。っていうか・・・あおいに慣れたな。お前。

輝く微笑みで朝日の被写体になる潮風ビールの女・あおいなのである。

これは・・・香澄を越えたのではないかっ。

掌返しすぎだろがっ。

朝日の仕事ぶりに軽く嫉妬する館長の小南(斉木しげる)だった。

「なんでだよ」

「いい男に見つめられて女は輝くからですよ」と忌憚のない意見を述べるアルバイトの麻美(中条あやみ)だった。

「ヒカルと付き合ってるんだって」とモデルに声をかける朝日。

「今さら、誘惑してもおそいですよ」

「いいね・・・その勝ち誇った感じ・・・お薦め~って感じ」

「そうでしょう・・・男が追いかけてもよし・・・女が追いかけてもよしの時代ですよ」

「草食男子は肉食女子が食わないと世の中まわらないかもね」

「なのね~由緒正しい食物連鎖なのね~」

「お・・・ペロニカ・・・とりいれたね」

「早いもん勝ちですよ」

「流行り出したら次に・・・か」

「そうなのね~、転石苔生さずなのね~」

「う~ん、ビールが美味しそうだっ」

「おい・・・朝日」とスポンサーの和泉が口を挟む。

「はい・・・」

「今年の家族写真・・・お前に頼むわ」

「え・・・」

「なんでだよっ」と唇をかみしめる館長だった。

波奈江の弟・駿(佐藤勝利)から事情を聴取する朝日。

「ああ・・・あれなんすよ・・・親父とおふくろ・・・喧嘩中なんす・・・なんか・・・親父がイルカみたっていって・・・おふくろがそんなのいるかっていって・・・信じないのか信じられるかで喧嘩になって・・・お互いに口もきかない状態に突入すっ・・・だから館長じゃなくて・・・朝日さんに頼んだんじゃないっすか・・・朝日さん、おふくろに気に入られてるし・・・」

「なんだ・・・いるかなんて・・・日本中どこにだっているじゃないか」

「そうですよね・・・沖縄から北海道までどこにだっているし、千葉県だって・・・いるか追い込み漁の許可出てるし、取れたら龍田揚げにして食べちゃいますよね」

「その話・・・シーシェパードとか動物愛護バカとかを刺激するんじゃないか」

「だから・・・あれっすかね・・・みさき市はイルカいない設定なんじゃないすか」

「なるほど」

娘の波奈江と夏希を相手に愚痴る和泉。

「俺は見たんだ・・・イルカを見た」

「錯覚ではなくて」

「みたんだよ・・・まったくよそもんはこれだから・・・」

「・・・」

「あ・・・今の夏希ちゃんのことじゃないよ」

「え」

「うちのママ・・・この街の出身者じゃないのよ・・・嫁いできて二十五年だってのに・・・未だによそ者あつかいなんだよね」

「なんじゃ・・・そりゃ」

朝日は問題を解決するためにイルカの存在を証明する写真を撮りに海にやって来たのだった。

「太平洋岸ならどこにだっているかはいるのにいないって設定だから撮るのは難しいけどいるかが迷い込んできたって設定ならいるかもしれない・・・」と思う朝日だった。

海岸で偶然、その姿を目撃する夏希。

「つまり・・・イルカの写真を撮って・・・奥さんを納得させようってわけ」

「そう・・・」

「でもさ・・・私はあの人、苦手だな・・・いるかなんていたっていなくたってどっちでもいいしさ」

「まあ・・・そうなんだけど・・・二十五年かかさずにとってる家族写真なんで・・・ある意味、今年で途切れさせるわけにはいかないわけ・・・依頼された方としては」

「そういうのって・・・止め時が難しいよね・・・もうなんていうか・・・惰性っていうか」

「ださいっていうか」

「それを言っちゃあ・・・おしまいだろう」

「だよね」

どちらかと言えば律義と惰性は相性がいいので・・・ひきずるタイプの二人は心が通じ合うのだった。

千葉県出身の脚本家だが・・・米田春夫(千葉雄大)と石狩清子(橋本奈々未)のコントには新潟県出身のコミック作家・小林まことの『1・2の三四郎』へのオマージュが窺がわれる。

ストーリーとは無縁のカップルがイチャイチャしているとそれを幼稚園児が輪になって観察しているといった息抜きの挿入である。

ミスコンのスルーに続いて盆踊り大会は「みさき音頭」の作詞家が脱税で逮捕の余波を受けて自粛という展開である。

「今年の盆踊り大会は夢となって消えました・・・清子さん」

「春夫さん・・・私の心から・・・どうしてもあなたが消えません」

「清子さん・・・」

「春夫さん・・・」

海岸で若い二人が盆踊りをする物語である。湘南が憎くて憎くて仕方ないのだな。

花火大会用の浴衣を選び終わった波奈江はヒカルと遭遇する。

「彼女ができたんだってね・・・おめでとう」

「・・・ありがとう」

「ま、びっくりしたけどね」

「だから・・・今年の花火大会はつきあえないからね」

「ああ」

「毎年、恒例の告白されなくて泣きました大会にさ」

「縁起でもない・・・今年は大丈夫」

「そうか・・・」

「うん」

唇をかみしめるヒカルだった。

波奈江は夏希に「谷山家の歴史」とも言うべき、恒例の家族写真25年分を見せるのだった。

「さすがに・・・二十五年は長いわ・・・」

「潮風ビールの名前ってママが朝子だからなんだ・・・」

「潮のとこ・・・」

「うん・・・風にのって水辺に朝子がやってきたって・・・」

「さんずいのとこが海か~・・・ロマンチック~って言えばいいの?」

「そういうことにしてよ~」

「朝鮮って書いて、フレッシュモーニングって感じ~」

「鮮やかって・・・魚と羊でもう一つ鮮やかさがないよね~」

「だよね~」

「新鮮って・・・字面的には臭みがあるよね~」

「そうだよね~」

・・・いい加減にしとけよ。

結局、夏希は・・・伝統の家族写真を撮ることに重みを感じている朝日を「いいなあ」と思っているようだ。

「来年は・・・この中にあいつがいるのかもねえ」

「えへへ」

夏希は歪んでいく自分を意識するのだった。

レストラン青山に来て冷やし中華を食べる和泉だった。

「ほら・・・東京だとかだとさ・・・喫茶店が突然、冷やしスパゲッティーとか始めちゃうだろう」

「まあ・・・あるかもしれませんけど」

「そういうのもいいなあ・・・って思う時があるんだよな」

「なんじゃ・・・そりゃ」

「人間、ないものねだりだもの」

「まあ、ちょっと恥ずかしい感じもしますけどね」

「恥ずかしいなんて・・・臆病者の言いわけだよ・・・人間、やりたくなったらやればいいのさ」

「はあ」

「海を見ろよ・・・恥じらいなんかどこにもないだろ」

「・・・」

「だからさ・・・人間は海を見たら素直になっちゃう生き物なんだよ」

「それは・・・セリフとしてかなり恥ずかしいわっ」

「やはり・・・みさき市にはイルカはいないという設定はどうにもならないかもなあ」

「本音ですかっ」

しかし・・・和泉に影響されて・・・ついついおにぎり作って海岸に出かけてしまう夏希だった。

いいよね・・・こっそりおにぎり作って逢いにいったって・・・波奈江を裏切ったことにならないよね。

いいえ、夏希さん、完全なる裏切り行為です。

しかし、お茶の間の声には耳を貸さないのが月9りヒロインの意地なのである。

「イルカいないみたいね」

「設定だからしょうがないかな」

「イルカって超音波で会話してるんだってね」

「・・・」

「なによ・・・」

「心でイルカに呼び掛けてみた」

「それ・・・超音波でなくてテレパシーだから」

「でも・・・テレパシーでも通じるかも・・・ちょっと俺になんか送ってみて・・・」

「え~」

「いいから・・・」

(好き)

「え・・・」

「え・・・」

「す・・・西瓜じゃなくてスイカだよ」

「朝あまかっ・・・見てから来たのかっ」

「あ・・・」と何かを発見する朝日。

それは・・・イルカを発見しようと・・・望遠レンズを向ける和泉の妻の朝子だった。

朝日は朝子の姿を撮影した。

「おばさんは・・・おじさんのために・・・イルカ捜してたんです・・・健気でしょう」

「朝子・・・」

たちまち仲直りする老いた夫婦だった。

馬鹿馬鹿しいと思いながら・・・夏希はこの街が・・・この街の人々が・・・そして朝日がどんどん好きになっていくのだった。

この街が大好きよ 

のんびりしてるから

魚も安くて新鮮

夏希は波奈江から呼び出され・・・浴衣をプレゼントされるのだった。

「・・・ありがとう」

「御礼を言うのはこっちだよ・・・私ね・・・花火大会の前の日を・・・こんな幸せな気持ちで迎えられる・・・十年ぶりだからね・・・みんな、夏希のおかげだもん。私さ・・・トモダチって昔からずっといるものって思ってたけど・・・今は・・・夏希が一番のトモダチだよ・・・助っ人外国人の域をはるかに越えてるよ」

夏希の胸はチクチクと痛むのだった。

朝日は谷山家の家族写真を撮った後で・・・和泉にちょっとしたお願いをするのだった。

そして・・・花火大会の当日。

朝日に波奈江、ヒカルにあおい、そして、タカシ(勝地涼)と・・・夏希が連れだって浴衣姿で会場入りするのだった。

ここでは・・・「メッセージ・サービス」がなにがしかの寄付金によって可能となるシステムがあるらしい。

「続いては桐畑鮮魚店提供の朝やけこやけだ大漁だ大羽いわしの大漁だ浜は祭りのようだけど海の中では何万のイワシのとむらいするだろう波のように揺れて今宵真夏の海辺でからまるように女流詩人の哀歌の乱れ射ちでございます・・・」

やんややんやの見物客だった。夜空を彩る花火と熱気と火薬の匂い・・・。

「さすがは文学青年の親父だよな・・・」

俯くヒカルだった。

「続きまして・・・谷山酒造提供・・・。夏希さんな感謝をこめて贈る花火です。いつもおいしい料理をありがとう。この町にきてくれて本当にありがとう。夏の希望と書いて夏希さん・・・あなたはまさにこの町の夏に・・・そしてぼくたちに希望をあたえてくれました。あなたの幸せを心から祈っております・・・レストラン青山ファンクラブ一同より。ヤキソバおいしいですよねえ」

盛大に上がる花火を見上げる夏希。

その横でそっと囁くタカシ。

「今回は・・・さあ・・・朝日の仕切りなんだ・・・ボクだったらもっと・・・ぐっとくる言葉を捧げたのに・・・ごめんね・・・夏希ちゃん」

自爆するタカシだった。

ふりかえった夏希は精一杯の虚勢を張るのだった。

「ほら・・・今夜は特別な伝説の日でしょ・・・行った、行った、行ってみんなで幸せになっちゃいなさい」

ヒカルとあおいが消え・・・朝日と波奈江が消える。

「さあ・・・ぼくらも行こうか」とタカシがふりかえると・・・消えている夏希だった。

「そげなーーーーーーっ」

勢津子と賢二夫妻は・・・家で花火見物をしていた。

そこへ夏希がやってくる。

「あの・・・私・・・この町が好きになっちゃいました。この町の人たちはみんないい人で・・・どんどん好きになっちゃって・・・苦しいんです・・・だから・・・私・・・東京に帰ります」

「夏希ちゃん・・・」

泣きだした夏希を茫然と見つめる夫婦だった。

夜風に吹かれて金魚すくいで獲った金魚の袋が揺れている。

波奈江の胸は期待で高鳴り、お腹が痛くなる勢いである。

海岸はカップルであふれているのでいつしか二人は「香澄のいなくなったあの場所」へ来ていた。

5秒に一度だけ照らす

灯台のピンスポットライト

小さな肩

神様にもバレないよ 地球の裏側で

「波奈江・・・」

「はい」

「あのさ・・・」

「うん」

「おれと・・・しあ・・・・・・・わっ」

「え・・・」

幽霊のように姿を見せる香澄だった。

そして・・・金魚の袋はビシャリと弾ける。

金魚A「わーいっ・・・絶叫マシーンだね~」

金魚B「・・・」

その時、お茶の間では金魚愛好バカが受話器にそっと手を伸ばして・・・。

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Sn005 ごっこガーデン。田舎の七夕直前縁日経由うなぎ御膳付き花火の夕べセット。エリきゃあああああああ、私たちこれからいいところ~で据え膳食わさぬ月9の嵐でス~。しかし、寸止め上等の愛の言霊、落花狼藉、衣装チェンジの用意万端なのですね~。じいや、衣装早変わりの時間の時間ですよーーーっ・・・でもね・・・でもね・・・波奈江じゃどうしてもダメなのかしら・・・はっ・・・一周回って再逆転の目も・・・まこち・・・香澄め~、日本には星の数ほど花火大会があるのに・・・なぜここへ・・・隅田川花火大会中止の余波てしゅか~、波奈江~、アタック遅すぎだジョー、押し倒すチャンスは何度もあったべ・・・とにかくモテル男はワルよの~・・・いや、そうでなくって金魚レスキュー隊緊急出動でしゅ~。一匹残らず回収・・・間に合わなかったらまこかま工場へ搬送~くう夏は盆踊りだっちゅうの・・・納涼なのに汗だらだらが・・・納得できねーーー香澄の登場は天魔さんなら気絶レベルっすikasama4夏ですな・・・黙祷の季節ですねえシャブリあ~ ドコモCMの石原さとみちゃんのスマホは松坂桃李くんか。一瞬わからなかったみのむしミス北鉄ほどにもなかったミスみさき海岸の所要時間・・・ふっmari・・・香澄すごいタイミングの登場ですね・・・とりあえず・・・夏希がやはり最後に笑うのかな・・・と

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2013年8月 5日 (月)

米俵一俵一円の時代、兄様は新門辰五郎の屋敷を三十六円で購入したのでごぜえやす(綾瀬はるか)

幕末、米の値段は急騰したが・・・維新後数年で半値となり・・・その後、インフレーションが進み、明治四年には一円前後だったものが明治四十年には四円ほどになっている。

京都府知事の顧問となった数馬の月給は45円だった。

単純計算で年収540円とすると米俵一俵1円なら540俵である。

一俵およそ一石でおよそ五百石・・・これは年間500人を養える計算になる。

ちなみに・・・会津藩では家老級で千石だったので・・・その半分とはいえ・・・五~十人扶持程度の家禄だったと思われる山本覚馬としては大出世なのだった。

京都の百坪の邸宅に住む覚馬・時栄の山本夫妻を・・・貧しい米沢藩士の家に間借りしていた佐久、八重、みねがどのような目で見たのか・・・いろいろと妄想が膨らむところである。

しかし・・・八重としては処刑されていたと思っていた兄が生きており、盲目で足萎えの身体障害者となりつつも大出世していたことは・・・痛快だったに違いない。

長い悪夢から覚めたような気がしただろう。

兄が若い後妻を迎えていたことなど・・・なにほどのことであっただろうと邪推するのだった。

とにかく・・・これで・・・飢えなくて済みそうだ・・・と思ったことは確実だと推量する。

で、『八重の桜・第31回』(NHK総合20130804PM7~)作・山本むつみ、演出・佐々木善春を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は維新前後の元会津藩軍事取調役・現京都府知事顧問・山本覚馬の二大描き下ろしイラスト付きでお得でございます。散切り頭を叩いてみれば文明開化の音がして子宝にも恵まれ・・・いろいろと忸怩たる思いもありながら現代の皆さんに批判される・・・男の中の男ここにありでございますね。江戸から明治へ・・・次々とイメージ・チェンジする登場人物たち、そして成長して大人になる登場人物たち・・・さらには新たなる登場人物たち・・・あくまでマイペースでお願い申しあげます。

Yaeden031 明治四年(1871年)頃、日本の総人口はおよそ三千万人であり士族は百万人ほどいたという。明治二年の十津川郷士による参与・横井小楠暗殺、元長州藩士らによる事実上の陸軍総裁・大村益次郎についで明治四年一月、参議・広沢真臣が暗殺される。犯人も黒幕も未だに不明であるが・・・未だ明治新政府の要人でさえたやすく殺される時代であった。二月、後の国軍の発祥の元となる御親兵が正式に発足する。西郷隆盛の指揮下に薩摩藩、土佐藩、長州藩がそれぞれに兵力を出すという形式だった。この兵力を維持する財源が新政府になかったことが各方面に波紋を投げかける。それは新政府に地方行政組織と税制の改革を促したのである。七月、新政府は廃藩置県を開始し、八月、散髪脱刀令を布告する。斗南藩から斗南県となった旧会津藩一党の広沢富次郎小参事は周辺諸県との合併を画策し、九月には弘前(青森)県が誕生する。旧藩主は上京し、藩士たちは徐々に離散して行った。実質的な会津藩の解体・消滅であった。十月、米沢藩を出発した山本佐久、八重、みねは十二月、京都に到着する。激動する時代の中、川崎尚之助は米の調達のための取引中にオランダ商人から契約不履行の訴訟を起こされ東京で裁判沙汰となっていた。事情を知った八重は離縁に応じることになる。藩その物が解体され・・・尚之助は罪を一心に引受けることになったのである。川崎を見捨てる結果になった元の斗南藩大参事・山川浩は陸軍に出仕した。政治家としては無能であったが軍人として有能であったために浩は出世する。

京都の山本覚馬に召集された八重は母・佐久、姪のみねとともに出発することになった。

覚馬の妻であるうらは旧姓の樋口うらに戻り、八重の育てた会津くのいちの指揮をとることになる。本来、樋口家は信濃忍び越後忍びの末裔である。斗南県から大量に流出する士族一家の糊口をしのぐためにも会津の情報組織は存続させなければならなかった。

高木の時尾、日向の雪などはみなうらの配下となる。

八重たちは迎えの知らせをもたらした大奥くのいちの滝壺とともに・・・米沢城下を出発、南下して旧会津領に入るとうらと別れる。

雪の季節に追われるように陸奥を南へ南へと急いだ。明治二年に新政府は関所を廃止した。通行手形は無用のものとなっている。

女とは言え、四人はくのいちである。

およそ一週間で東京に到着する。

八重は東京という町を初めて見た。そこには想像を越えた不可思議な光景が広がっていた。

「今日は何かの祭りだべか・・・」とみねがつぶやく。

日光街道の千住で船に乗り、隅田川を下って両国にやってきた一行だった。

江戸の忍びである滝壺は笑顔を見せて言う。「これが・・・お江戸・・・今は東京府なる名前ですが八百八町のいつもの姿でございますよ」

みねは街を行く人の多さに目を丸くしていた。

滝壺は屋敷の一つに一行を案内する。

「こちらは・・・大奥くのいちの中忍・・・お芳様のお屋敷でございます」

「お芳様・・・」

お芳は江戸の侠客・新門辰五郎の娘で徳川慶喜の妾の一人だった。実際は篤姫の配下である。今は東京のくのいち頭となっている。

屋敷内には湯殿があり・・・四人は旅の垢を落とす。

「まるで・・・御殿のようだねえ」と八重の母・佐久は呟いた。

夕餉の席にはお芳自身と一人の初老の男が現れた。

「こちらは・・・勝様と申されまする」とお芳は男を紹介する。

「勝海舟先生ですか・・・」

「お・・・知ってるのかい」

「兄からお名前を伺ってごぜえやす」

「そうかい・・・覚馬とは兄弟弟子だがね・・・会津の方々には誠に苦労をかけて申し訳なかった・・・幕臣を代表して詫びるよ・・・この通りだ・・・」

「・・・」

「倅は京で何をしておるんでごぜえましょうか」と佐久がおずおずと聞く。

「ああ・・・京都のおえらいさんたちの・・・指南役みてえなもんだな」

「・・・」

「なにしろ・・・薩長の連中は下賤の者が多くて・・・学がないのさ・・・だから・・・覚馬が知恵を貸しているってことだ・・・覚馬は・・・この人の親父の京都の家屋敷をもらいうけて住んでるよ。なにしろ・・・この人の親父は江戸一番の親分さんだからね・・・あっちこっちにお屋敷があるってえお大臣だからな」

お芳は伝法な勝の言葉を面白がるような表情で聞いている。

「みちのくから・・・ここまでは・・・大変だったろうが・・・ここからは科学忍者隊の輸送船で海路を大阪まで送り届ける手はずになっている・・・」

「・・・」

「まあ、しばらくは江戸見物でもするといいや」

「あの・・・川崎の・・・夫についてお聞きおよびではないでしょうか」と八重は聞いた。

「ああ・・・あんたの旦那は今・・・獄舎だ・・・」

「獄に・・・」

「なにしろ・・・毛唐がらみなんで・・・なんともならねえ・・・訴訟費用もバカにならねえからな・・・」

「・・・」

「会津の罪を一身に背負った格好だ・・・泣かせるじゃねえか・・・」

「・・・」

「どうする・・・逢って行くか」

「いえ・・・離縁状が届いておりますれば・・・従うばかりでごぜえやす・・・けんども・・・事情が分って胸のつかえがおりやした・・・」

「そうかい・・・あんた・・・鶴ヶ城では大層な腕前を披露したそうだが・・・これからは・・・砲術も富国強兵の一環だ・・・そのためには学問しなくちゃいけねえよ」

「富国強兵・・・」

「そうさ・・・維新の大騒ぎも結局は・・・それがためさ・・・」

「毛唐どもと一戦交えるのですか・・・」

「いずれはな・・・しかし・・・今はとにかく臥薪嘗胆だ・・・ま、覚馬に逢えば分るだろうよ・・・」

数日後・・・一行は蒸気船で品川沖を出発した。

「これが・・・クロフネか・・・」

八重は時代が移り行くのをこの時、肌で感じたのだった。

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2013年8月 4日 (日)

あまちゃん、十八景目の土曜日(能年玲奈)

前週で100回を通過し、今回は108回というなんだか煩悩に満ちた話数を越えていく「あまちゃん」である。

今週は・・・ヒロインがもはや「あまちゃん」ではないとも言える大人の顔を随所で見せ始める。

一方で・・・ヒロインの母親はまだまだ「あまちゃん」街道まっしぐらなのであった。

そもそも・・・「アイドル」をめぐる物語である。「アイドル」とは何かは・・・人それぞれでちがうだろう。

しかし、それは「夢中になるほど可愛いもの」に違いない。

そもそもヒロインは祖母にとって「夢中になるほど可愛い孫」なのであった。

なぜ、それほどに可愛いのかといえば・・・「アホ」だからだろう。

ただでさえ可愛い「アホ」が何かに一生懸命になったりすれば・・・底知れぬ可愛さが発生するのだった。

ヒロインは夢中になる。祖母のような「海女」になって「ウニ」をとることに。先輩のような「ダイバー」になって「恋」をすることを。親友のような「アイドル」になって「拍手」を得ることを。母親のような「歌手」になって「感動」を与えることを。大女優のような「スター」になって「演技」をすることを。

物凄い逆境も用意されるが「一日眠ればケロリのアホ」のパワーですべてを乗り越えていく。

その「アホさ」に周囲の人間はなんとなく和むのである。

一方で・・・ヒロインの母親は「屈辱は絶対に忘れない」し「必ずや不義には復讐で応える」・・・「正義と真実の人」なのであった。

相手が誰だろうと・・・自分にも非があろうと・・・お構いなしなのである。

二十五年前に・・・庇ってくれなかった母親を二十五年間怨み続け・・・ついに「謝罪」に追い込むまで・・・絶対に許さなかったのである。

だから・・・実は・・・共犯者である男の「甘い言葉に踊らされて・・・自分の夢を壊してしまったこと」も絶対許さないのだ。

彼が「謝罪」するまで彼女の戦いは終わらないのだった。

もちろん・・・それは二十年前に夢をあきらめた自分自身への復讐戦でもある。

そして・・・ヒロインは頭を撫でられつつ・・・母親の指さす天の明星を見上げる。

「夜空に輝くあのアイドルの星になるのよ・・・」

「バル・・・」ではなくてこの夏は「ゴーッ」と叫ぶヒロインだった。

「ドキドキできにゃぁ~い」が「ドキドキできね~い」に聴こえる人はあまちゃんシンドロームの疑いがあります。

で、『連続テレビ小説・あまちゃん・第18週』(NHK総合20130729AM8~)脚本・宮藤官九郎、演出・井上剛を見た。アイドル歌手を目指していた天野春子(有村架純→小泉今日子)は元ダンサーで芸能プロダクション社員の荒巻太一(古田新太)と出会い、アイドル女優・鈴鹿ひろ美(薬師丸ひろ子)の声の影武者として起用され、飼い殺しにされてしまう。1989年、夢破れ帰郷しようとした春子はタクシー・ドライバーの黒川正宗(森岡龍→尾美としのり)と出会い、結婚し、アキ(能年玲奈)が生まれる。2008年、祖母の夏(宮本信子)に憧れて海女になったアキは紆余曲折の末、アイドルを目指して上京。運命の悪戯で鈴鹿の付け人となり、アイドルの奈落で修行を続けるが・・・太巻と仇名される芸能プロデューサーとなった荒巻は「鈴鹿ひろ美伝説」を死守するために・・・過去を知るアキを抹殺するための謀略をつくし・・・ついにアキに二度目の解雇を通告するのだった。過去の経緯から荒巻の些少の罪滅ぼし的恩返しが娘に与えられるはずと信じていた春子はまたもや裏切られた怒りに燃えて二度目の上京をするのである。

月曜日 ゴジラVSモスラ~史上最強のママ(薬師丸ひろ子)

2010年春、春子は「付き人をやめて田舎に帰るアキを労う会」会場の上野・無頼鮨に上陸した。過去の秘密を知る一人であるマネージャーの水口(松田龍平)は殺気を感じ、カウンターに避難する。ただならぬ空気に大将の梅頭(ピエール瀧)は鮨を握り損ない、見習い店員の種市(福士蒼汰)は看板を灯を消すのだった。ただ一人・・・なぜか自分に影武者がいたことはおろか・・・自分が音痴であることにもまったく気がついていないらしい鈴鹿ひろ美は「モンスターペアレント」が「クレーム」をつけに来たと断定し、緊急連絡のために携帯電話を操作するのだった。

「おらのママだ・・・」と紹介するアキ。

「はじめまして」と鈴鹿ひろ美は愛想笑いをするのだった。

「・・・はじめまして・・・アキの母親の天野春子です」と殺気立つ春子。

春子にとって鈴鹿ひろ美は自分の分身のような存在であるが・・・鈴鹿にとって春子は単なる付き人の母親なのである。

春子は鈴鹿ひろ美が影武者の存在に全く気がついていないことに半信半疑であるらしいが・・・基本的に「アイドル」ファンの「夢」を壊さないという「仁義」はわきまえている。だからこそ・・・二十年以上も秘密を厳守してきたのである。

しかし・・・そのことを「お願い」したのが太巻である以上、太巻はある程度、恩義を感じているはずだ・・・と春子は考えていた。ところが・・・太巻は陰湿にも娘に意地悪をして芸能界から追い出そうとしているらしい。それに気がつくと春子は憤怒で全身から殺気を放ち、太巻憎けりゃ鈴鹿まで憎いモードに突入したのだった。

その殺気を「娘が解雇されて逆上した単なる田舎のスナックのママ」と感じているらしい鈴鹿だった。

「挨拶が遅れてすみません」

「いいえ・・・遠いのでしょう」

遠いと言われれば東京に憧れた昔が疼く春子である。

「いえ・・・盛岡から新幹線で二時間半ですから」と盛岡までの数時間を省略する春子だった。

「あら・・・そうですか・・・」

すでに焼酎を一本半空けているらしい鈴鹿に対抗するためにビールを連打する春子。

「ご存じかと思ってました・・・静御前は岩手県が舞台のお話でしたでしょう」

「でも・・・撮影は京都だったんです」

一般人対芸能人の図式で火花散る両者。

アキは恐怖で身が竦むのだった。アキには母の怨念が痛いほどわかっているが・・・鈴鹿も憧れの女優でありすでに寿司の恩を受けている相手なのである。アキにとっても「秘密」は厳守されるべきものだった。

鈴鹿はお愛想なのか・・・聞きなれた自分の「歌声」を春子の声に感じたのか・・・。

「あら・・・お母様・・・私と声が似てますね」と言い出す。

蒼白となるアキ。

「そんなことはないと思いますが・・・」と怒気を孕む春子。

「ほら・・・自分の声は自分ではわからないって言うでしょう。きっと録音するとわかるはずだわ・・・私の声にそっくりだもの」

つまり・・・鈴鹿は録音された自分の声が「春子の声」ではなく自分の声だと言っているわけである。相当にややこしいが・・・鈴鹿に裏がないとすれば・・・なんて正直な感想なのか・・・なのだった。

(そりゃ・・・あたしの声だからさ)と喉元まで出かかる春子の内心を察知してアキと水口は汗まみれになるのだった。

春子はアキに視線を転じる。

「どうなの・・・アキ・・・ちゃんとやってるの・・・」

「やってましたよ・・・もちろん・・・立派に・・・天野さんがいないと迷惑メールの拒否の仕方も分らなくて困るのよね」

大女優は付き人アキの有能さをお世辞混じりで語るのだが・・・。

「そんなこと・・・誉められてもうれしくないんですよ・・・付き人としてではなくアイドルとしてどうなのかってことです」と怒りに火を注がれる春子なのだった。

「・・・自分の娘は可愛いものでしょうしねえ」と些少の羨望を交えて応じる鈴鹿。

「でも・・・少し・・・安心していた部分もあって・・・鈴鹿さんが・・・アキの親代わりじゃないけど・・・」

春子にとって・・・鈴鹿は自分の分身なのである。

しかし・・・あくまで・・・基本は縁もゆかりもない赤の他人らしい鈴鹿。

「親・・・親代わり」

「いえ・・・じゃないけど」

「なんでえ・・・私が・・・天野さんの親・・・何の因果で・・・」という鈴鹿は些少なりともアキを可愛く感じていることに付け込まれないようにしているのである。

「じゃないけどって・・・いいましたよね」と鈴鹿の怒りを測りかねて防御姿勢となる春子。

「過剰な期待をされても困るんです・・・あなたがそうだとは言わないけれど・・・厚かましいのよね・・・ステージママって・・・」

おそらく・・・過去の付き人の両親に悪質な寄りかかりをされたらしい鈴鹿だった。

「ステージママ・・・私が・・・アキの・・・ステージママ」

「いえ・・・あなたがそうだとは言いませんけど」

「ステージママー」

「だから・・・あなたは違うのよ・・・」

鈴鹿と春子の激突に割って入るアキ。

「やめてけろ、ママ・・・鈴鹿さんとおらは確かに・・・親子ではねえ・・・なんつうか・・・トモダチっつうか・・・」

「トモダチっ・・・私のこと・・・トモダチって思ってたの・・・だすからタメ口なの」

「いやいやいや・・・つうかって言ったべ・・・トモダチつうかって」

「だったら・・・トモダチなんだったら・・・たまにはお寿司おごってよ・・・ワリカンにしてよ~」

寿司の大皿を振りまわす鈴鹿から危険を感じた春子は大皿を奪取しつつ会話を遡る。

「つうか・・・やめるって・・・やめられたら困るっておっしゃいましたよね・・・アキ、あんた付き人辞めちゃうの」

「そうですよ・・・だからこうして・・・お別れ会を」

「太巻にクビにされたら・・・こっちも・・・お払い箱なわけ・・・」と水口に矛先を変える春子。

「ええ・・・その太巻さんが紹介して・・・御指導いただいておりましたので・・・」と逃げ腰になる水口。

「あら・・・彼のこと・・・ご存じ・・・」と興味を示す鈴鹿。

「知ってますともっ」

春子は仁王立ちとなるのだった。

しかし・・・気を鎮めて座りなおすのだった。

「有名人ですものね・・・」と過去については触れずに話す春子。「本も読みましたよ・・・太いものには巻かれろとか続・太いものには巻かれろとか細いものには巻かれないとか巻かれて太くなれとか・・・自慢話だけでしたね」

「うふ・・・」とその点には共感の笑いを示す鈴鹿だった。

「虫が知らせるっていうか・・・娘に電話したんですよ・・・そしたら・・・娘が泣いてたんです」

「・・・」

「帰りたいって言うんですよ」

「帰ってらっしゃいとおっしゃらなかったの・・・」

「私は・・・ある人の些細な一言がどうしても許せなくて・・・結果的に歌手の道を諦めるしかなくなったんですよ・・・ほんの小さな一言だったんですけどね」

「そういうことって・・・分るわ・・・そして・・・あなたはその傷を今でも抱えて・・・後悔していらっしゃるのね」

「いえ・・・全然・・・後悔なんてしてません」

「ミステリーね」

「むしろ・・・あそこで諦めたからこそ・・・結婚できたし・・・アキもあまれたんです・・・むしろ・・・あなたには感謝してます・・・」

「え・・・私」・・・裏がないのだとしたら・・・春子の言動が意味不明で心底、茫然となる鈴鹿らしい。

口がすべったと春子が思った瞬間、水口は逃走しようとして、アキはパニックに陥るのだった。

「うわああああああああああ、うわっ」

突然、立ち上がり絶叫するアキに驚く鈴鹿ひろ美。

「なによ」

「すいません・・・なんか・・・叫ばずにはいられませんでした」

「やめてよ・・・ここではいいけど現場でそんなことしたら大変よ」・・・と親が子をたしなめるようにピシャリとアキの手を叩く鈴鹿だった。

「え・・・と・・・何の話だったかしら」と鈴鹿。

「電話したんですよね」と話を巻き戻して途中をカットする水口だった。

「そうそう・・・あきらめるなって言いました」

「あなたは後悔しなかったのに」

「ええ」

「娘にはあきらめるなって」

「娘があきらめたら・・・私が後悔するんです・・・」

「お母様が・・・」

「はい・・・この子はすごいんです・・・少なくとも私とは全然違う・・・親バカでごめんなさいなんですが・・・あたしのようにどんなに歌が上手でも鈴鹿さんのようにどんなにお芝居が上手くても・・・それだけじゃアイドルにはなれないんでしょう・・・何か・・・こう・・・なれなかった私にはわからない・・・何か特別なものがあるわけでしょう」

「うわいっ」

「どうしたの、天野さん」

「誉められなれてねえもんで」

「少なくとも・・・アキは田舎ではアイドルでした・・・みんながアキがいるだけで楽しくなって・・・アキがいるだけで町が復興したんです・・・ただいるだけでそれができるって・・・アイドルってことじゃないですか・・・」

「そうね・・・」と静かに応じる鈴鹿。

「そうねって・・・無理に分ってもらわなくても結構ですけど」

「確かに・・・あなたの娘さんは・・・一緒にいて楽しいし・・・度胸もあるし・・・お顔だって・・・可愛いし」

「うわい」

「こんなだけど・・・アイドルの素質はあるかもしれません・・・でもね・・・お母さん・・・そんな子は五万といるんです。原石なんてゴロゴロ転がってる・・・そんな中で磨いて光るのはたった一個なんです・・・五万人のアイドルの卵がいてアイドルになれるのは一人ってことですよ・・・」

鈴鹿ひろ美は春子を諭すようにひとさし指をたてるのだった。

春子が中指をたてようかどうか迷った瞬間・・・。

店内に太巻が登場する。

その顔は鈴鹿に向けられている。

「じぇじぇじぇじぇじぇ」と叫ぶアキ。

「私が・・・呼んだの」と鈴鹿。

「はじめまして・・・天野アキの母親です」

春子の存在に気がついた太巻は・・・震える指先を腋の下に差し込んで押さえるポーズを作るのだった。

太巻は不意打ちを食らって動揺しているのだった。

因縁の遺恨合戦の開幕である。

もちろん・・・若い春子を影武者にしてしまった罪は太巻にあるが・・・太巻にも言い分はあるのである。太巻だってダンサーにはなれなかったし、春子がアイドルになれなかったことは責められても仕方ない・・・なにより・・・春子は共犯者であり・・・途中で悪事を投げ出した裏切り者でもあるのだから。

火曜日 三大怪獣史上最大の前哨戦~限りなく凶悪なママ(小泉今日子)

二十年前の決裂から今まで太巻に悔悟の日々がなかったとは断言できない太巻だった。

「荒巻です・・・太巻です・・・太一です」という自己紹介にも動揺があふれている。

その動揺は無頼鮨の大将にも伝播し、寿司は裏返しで皿に盛られるのだった。

お茶の間および・・・春子の猜疑の視線はともかく・・・大女優・鈴鹿ひろ美は窓に腰掛け、太巻の背後に陣取って・・・アキの母親には警戒心を持ちつつ、アキに対しては最大限の好意を示すのだった。

「どうして・・・クビなの・・・重大なペナルティーってなによ・・・天野さん、何やらかしたのよ・・・まさか・・・男じゃないでしょうね・・・やだあ・・・種市くん、天野さんがJリーガーとぉ」

暴走する鈴鹿を制止するように言葉を選ぶ太巻だった。

「私の・・・やり方に立てついたんです・・・事務所の方針に逆らったんですよ・・・事務所が売れないと判断したことを・・・やってみないとわからないから撤回しろですよ」

「なによ・・・そんなこと・・・ちゃん・・・ちゃらおかしい・・・売れるか売れないかなんて売ってみなくちゃ分らないでしょう・・・なによ・・・そんなに守りに入っちゃったわけ・・・太巻きさん・・・変わったわねえ・・・やりたいことをやりたいって言っただけで・・・クビなんてありえないわあ」

春子は鈴鹿が代弁者となっていることに半信半疑である。

春子にとって鈴鹿は分身であり・・・自分の声を奪った宿敵でもある。

たやすく・・・心は許せない。

それにしても・・・春子はなぜ、太巻に対して過去の罪を問わないかと訝るお茶の間もあるだろう。

しかし・・・春子は鈴鹿ひろ美を単に怨んでいるわけではない・・・ある意味では鈴鹿ひろ美の成功は春子の青春そのものであり・・・それを壊したり、汚したりしたくない気持ちも春子にあると思う他ないのだった。

「将来性のある子なら・・・耳を貸しますよ・・・しかし・・・娘さんは未知数だ・・・一度は解雇宣告を受けて繰り上げ当選で残った・・・いわばポンコツだ・・・GMTはポンコツとガラクタしかいない・・・そういう子たちの発言をまともに取りあげていたらビジネスにはならないんですよ」

「何だとこらっ」と気色ばむ春子。

しかし、それを制して笑う鈴鹿。

「ふふふ・・・確かにポンコツよね・・・NGも40回出すし・・・だけど地元じゃ凄い人気だって言うじゃない・・・まあ、お母さんの話ですけど」

「いえ・・・そんな・・・」と恐縮する春子。

「ふ・・・知ってますよ・・・二人で潮騒のメモリーを歌ってた・・・でも、欲しいのはもう一人の方だったんです・・・」

春子の娘と知るまでは明らかにそうではなかった太巻である。

「でも・・・水口さんは・・・ユイちゃんよりアキの方が有望だっておっしゃってましたけど」

「なに・・・」と水口を睨む太巻。

「いえ・・・二人ともです・・・二人とも有望だと思います」と逃げる水口。

「とにかく・・・娘さんの解雇は決定事項ですから・・・そもそもGMTそのものが・・・」

「天野さんをクビにするなら・・・私も辞めますから」と爆弾宣言をする鈴鹿だった。

「やめるって・・・あんた・・・もうとっくにうちの所属じゃないでしょう」

「女優よ・・・女優を辞めるのよ」

それがどんなダメージを太巻に与えるのか定かではないが・・・これだけは明確なのである。

アイドル女優・鈴鹿ひろ美の存在は・・・。

太巻にとっても・・・春子にとっても・・・アキにとっても犯してはならない聖域なのである。

「やめろっていっても・・・やめないくせに」と俯く太巻。

「なああああに?」

「わかりました・・・天野の解雇は撤回します」

「やった・・・」と素直に喜ぶアキ。

それを睨む太巻。

すべては・・・予知夢能力者・天野秋の・・・予知した通りなのだった。

春子と鈴鹿の対決の後で春子は笑い・・・そして鈴鹿は天野春子の荷物で生じた段差にけっ躓いて転ぶ宿命なのだった。

「痛い~」

「大丈夫ですか・・・」

お土産を持った酔っ払いのように・・・去っていく鈴鹿ひろ美だった。

それを送りに出る太巻に春子は一言告げるのだった。

「逃げんの・・・」

「話があるなら事務所までお越しください」

本題は完全防音の密室でなければできない相談なのである。

それは・・・春子も同じであったはずだが・・・春子の中で眠っていた凶悪な何かが目覚めていたのだった。

娘のピンチを救いにきただけのはずだったのに・・・太巻の姿を見た途端・・・古い傷口が開いてしまったようだった。

なにもかも・・・滅茶苦茶にしてやりたい。

春子は思わないでもないのだった。

しかし・・・その狂暴な何かは・・・元夫の正宗(尾美としのり)の顔を見ることで何故か鎮まるのである。

正宗はお見合いチャットをお楽しみ中だったのだが・・・春子の突然の来訪を心の底から歓迎するのだった。

「ただいま」

「おかえり・・・」

「鍵が昔のままでよかった」

「君が戻ってくるのを待ってたんだ・・・」

「チャットしながら・・・」

「あれはこれこれはあれだろう」

「だれよ・・・このブス」

「一体・・・どうしたんだ・・・」

「面倒だから再放送でチェックしてよ・・・なに・・・このカーテン・・・独身貴族?」

「独身だよっ」

その頃・・・スナック「梨明日」で大吉(杉本哲太)が泣いている。

カウンターではユイ(橋本愛)が何故か膝を抱えてニヤニヤしているのであった。

「ユイちゃん・・・歌ってけろ・・・おらのために・・・1984年のヒット曲を・・・」

「わかった・・・」と応じるユイ。

流れ出すイントロは・・・「悲しみがとまらない/杏里」・・・。

しかし・・・歌い出すのは弥生(渡辺えり)のお約束の展開あって・・・。

ともかく・・・順調に明るさを取り戻しているユイらしい。

世田谷の黒川家では・・・すっかりくつろぐ春子とアキだった。

「さっきの鈴鹿さん・・・なんか・・・夏ばっぱみてえだった・・・」

「どうかな・・・」

「似てるよ・・・鈴鹿さんと・・・夏ばっぱは・・」

「とにかく・・・あの人のおかげで解雇処分を取り消してもらえたんだから・・・感謝しないとね・・・」

おそらく・・・アキにとって・・・鈴鹿ひろ美は・・・「潮騒のメモリー」の海女なのである。

そのイメージが海女の夏ぱっぱと強く結びついているに違いない。

そしてそれは春子の「歌」によって増幅されているのだった。

アキが母親の秘密を守るのは・・・鈴鹿ひろ美がアキにとって「特別な存在」だからなのである。

一方で春子は・・・鈴鹿ひろ美に畏敬の念を抱きつつ・・・しかし、太巻がこのまま引き下がるとは思えない予感を抱くのだった。

「アキ・・・しっかりなさいよ」

「うん・・・おら・・・反省して・・・しばらく大人しくしてるだ」

「何言ってんの・・・そんなのダメよ・・・あんたはあんたのままでのびのびやりなさい・・・そのためにママが来たんだから・・・今回だってあんたは何一つ悪くない・・・みんな太巻の意地悪のせいなんだからね」

「なに・・・それ・・・」と口を挟む正宗。

「うるさいわね・・・なんでも説明しなきゃいけないの・・・かまってもらって当然っていう態度、あなたって根っからの一人っ子よね・・・なんかイライラするわ~」

「君だって一人っ子だろう」

「おらも一人っ子だ・・・」

一人っ子家族は・・・なんだか・・・悟ったように和むのだった。

翌朝・・・正宗はアキを奈落に送り届けるのだった。

「みんな・・・おら・・・帰って来ただ」

「アキ・・・」

「よかった・・・」

しかし・・・リーダーのしおり(松岡茉優)は見慣れぬ女の登場に警戒するのだった。

「あれは・・・新メンバー」と真奈(大野いと)・・・。

「・・・」警戒するオノデラちゃん(優希美青)・・・。

「あ・・・」と気がつくキャンちゃん(蔵下穂波)・・・。

「あれは・・・おらのママだ・・・」と紹介するアキ。

ホッとするGMT5・・・。

しかし・・・大きく飾られた太巻の写真をじっと睨みつけ春子は決意を秘めてふりかえる。

「何やってんの・・・レッスンでしょう」

春子にとって・・・自分のたどり着けなかったアイドルへと通じる道がある・・・この奈落は天国のようなものだったのだ。

五万人に一人の険しい道がその先に待っているとしても・・・。

水曜日 ゴジラがモスラを背中に青白い火を吐く摩天楼ブルース(優希美青)

四月なのか・・・五月なのか・・・定かではない春の中・・・春子はまだ見ぬ景色を求めて、着実な歩みを進めていた。

太巻は春子の真意を測りかねていた。

ダンサー崩れでありながら必死に芸能界にしがみつき・・・プロデューサーとして現在の地位まで上り詰めた太巻。二十年の間にどれだけの辛酸をなめたことだろう。勝利と敗北は・・・背中合わせである。音痴な担当アイドルのためには影武者さえ用意した太巻である。その影武者がたとえ・・・素晴らしい才能の持ち主だったとしても・・・使い捨てることを厭わない男。最初の成功を汚れた手段で獲得した男。だからこそ・・・鈴鹿ひろ美は彼にとって聖域だった。それからどれだけのアイドルを生み出し、どれだけの夢破れた少女たちを葬ってきたことか。その苦みを春子は知らない。汚れちまった太巻に今日も春子がまとわりつくのである。

「あの・・・東北のステージママはまだいるのか」

「はい・・・」と応える水口。

「最近では・・・他のメンバーにまで口出ししてるっていうじゃないか・・・」

「指導が適切なんで助かってます・・・なにしろ・・・売上総計100万枚超の影武者なんで・・・」

「おい・・・調子に乗せると・・・雑誌の取材に立ち会わせろとか・・・衣装を作れとか言い出すぞ」

「・・・もう言われました」

新しい衣装に身を包み、社長室になだれ込むGMT5・・・その可愛さは爆発寸前なのだった。

「社長ーっ・・・ありがとう・・・」

「うふふ・・・よかったね」とひきつった笑みを浮かべる太巻。

「アー写ってなんですか」

「アーティスト写真だよ」

「おらたち・・・アーティストだってえ」

「えへへへへへへ」

「わ~い」

嵐のように去っていくGMT5だった。

「これ・・・請求書です」と衣装代12万円を提示する水口。

「あの・・・薄汚いシンデレラの娘めえ」(1985年の小泉今日子初主演ドラマ「少女に何か起ったか」(増村保造・監督・脚本)の登場人物・川村刑事(石立鉄男)のセリフの引用、七月三十一日は彼の誕生日だった・・・)とサイフから現金を取り出す太巻。その瞳に過去が去来する。

嘘の苦手な女は罪だね

傷つくことだけ上手くなるから

摩天楼ブルース

Oh Baby Baby Blue

アーティスト写真の撮影担当はヒビキ一郎(村杉蝉之介)である。

GMT5にジャンプしてパンチラを要求するヒビキだった。

「みんな!エスパーだよ!のボックス販売も決まったんだ・・・時代はパンチラだっ・・・」

「それは三年後の出来事なのでは」

「オノデラちゃん・・・君・・・いくつ」

「15歳です」

「俺は・・・48歳だ・・・俺の気持ちに負けるな」

「はい・・・」

「GMT」

「5」

「よし・・・ナイスショット」

珍しく撮影に立ち会う太巻・・・。春子の真意を測りかねてストレスがたまっているのであった。

「こうなりゃ・・・思い出作りだな・・・デビューさせて・・・深夜の歌番組に一回くらい出せば・・・あの女も納得してくれるかもしれん・・・」

「はあ・・・」と応える水口。

「そうだ・・・一万枚売れなかったら解散させるってことにしよう」

「え」

「売れるもよし・・・売れなくてもよしだ・・・うふふ・・・」

あくまでもビシネスに徹しようとする太巻だが・・・その本音は不明である。

アキの魅力を感じながら・・・それを否定したい気持ちが懊悩として表われる演技であるようだ。

太巻の中にも眠っている何かがあるのである。

それは・・・最初の録音で春子の才能に感じた若き日の自分なのか。

それとも・・・鈴鹿ひろ美のアルバム収録を拒否した若き日の春子への怨みなのか。

長い歳月はそれらの感情を圧縮し・・・太巻自身にも分らないのかもしれない。

夢のようなGMT5のステッカーを持って純喫茶「アイドル」にやってきたアキ。

しかし、マスターの甲斐さん(松尾スズキ)の表情は冴えない。

「じゃ・・・」と立ち去ろうとするアキ。

「ちょっと・・・待ってよ・・・あの人たち・・・どうするの・・・さっきから30分も沈黙していて・・・変なムードなんで・・・吐きそうなんだけど」

テーブル席には・・・春子と正宗と大吉と安部ちゃん(片桐はいり)が着席していた。

「なんで・・・来たのよ」

「北鉄で・・・」

「そうじゃなくて・・・何しにきたの」

「それゃ・・・春子を連れ戻すためだっぺ」

「春子・・・」

「・・・」

「俺たちバツイチ同士だ・・・問題ないべ」

「それだったら・・・俺と安部ちゃんだって結婚・・・しないけど」

「あらん」

「じゃ・・・皆さん・・・ごゆっくり」と鈴鹿ひろ美のものまね笑顔その1をして立ち去るアキだった。しかし、大将の小林薫のものまねのものまねのようにも見えるのだった。

「とにかく・・・言ったでしょう・・・アキを応援するために・・・側にいたいの・・・あの子に私の見れなかった景色を見せたいの」

「いつ・・・帰るんだ」

「さあ・・・二~三ヶ月か・・・」

「俺には・・・二~三年って」

「そんなにか・・・」

「とにかく・・・・私には・・・やり残したことがあるのよ・・・」

「わからねえ・・・」

「マスター・・・何とか言ってよ・・・」

「オノデラちゃん・・・立ち位置変わったよね」

「・・・」

「春ちゃんが・・・やり残したことってなんだろうね」

「それは・・・」

春子は口にはしないが・・・アキにはそれが・・・自分がアイドルとしてデビューすることだと思っていた。そして・・・それをプレッシャーとして感じていた。

しかし・・・春子の目標はそんなものではないだろう。ミリオンセラー。武道館公演。紅白歌合戦出場・・・それかせ最低でも譲れない一線なのだろう。

春子は見果てぬ夢を見ているのだった。

春子にとってはそれほどまでにアイドルは聖域だった。だから鈴鹿ひろ美の聖域を犯すようなことはしない。なぜそれが太巻には分らないのか・・・春子には疑問だった。

失意の大吉は安部ちゃんと無頼鮨のカウンターについていた。

「私も・・・疲れちゃったべ・・・まめぶに対する都会っ子の警戒心は半端じゃねえ・・・まさか・・・ケバブに負けるとは思わなかったし・・・今年の夏は北三陸に戻って久しぶりに潜りてえ・・・」

「帰ってくればいいべ・・・でも、別々に帰ろう」

「なして・・・」

「だって・・・春子さ連れて帰るってブティック今野でスーツ新調してきたのに・・・連れ帰ったのが安部ちゃんじゃ・・・まるで豆腐を買いに行って電池買って帰るみたいだべ・・・」

「・・・」

「ああ・・・もう深夜バスの時間だ・・・お勘定してけろ」

「もう・・・いただいてます」と応じる種市。

そこへ・・・アキが到着する。

「なんだ・・・大吉さん・・・まだいたのか・・・鈴鹿さん、遅くなってごめんしてけろ」

「いいのよ・・・私も今ついたところだから」

「じぇじぇじぇ・・・鈴鹿さん・・・ファンです」と田舎者丸出しで握手を求める大吉だった。

その図々しさに顔をしかめつつ笑う鈴鹿ひろ美だった。

さらに・・・大吉は北三陸の男たちに鈴鹿ひろ美との同席を自慢するのだった。

スナック梨明日のカウンターには吉田(荒川良々)が入り・・・菅原(吹越満)、いっそん(皆川猿時)、組合長(でんでん)、あつし(菅原大吉)ら男だらけの悪酔い大会が開催中だった。

「そんなこと言ってウソだべ」

「本人出してみろ」

「おらはファンクラブのひろ美ッコクラブさ入会してたから一発でわかる」

「本人なら潮騒のメモリー歌え」

「愛のメモリーさ歌え」

「愛のメモリーは大島渚だべ」

「そりゃ愛のコリーダだべ」

「愛のお・・・あま・・・」

田舎者の醜悪さが極まるのだった。ある意味、自虐の詩だった。

本当は東京生まれのアキはさすがに申し訳なく思いあたふたするのだった。

無言であたふたするだけで可愛いなんてもはや神がかっている。

春子は黒川家に居候の身となったがアキは寮での暮らしを続けていた。

仲間たちと過ごすことを何よりも大切に思っているアキなのだった。

アキにとってはすべてが思い出作りなのである。

朝食時に水口は・・・太巻からのメッセージをGMT5に伝える。

「まさか・・・解散じゃないでしょうね」と冗談めかして・・・マジで怯えるリーダー。

「もしかして・・・アキちゃん、またなんか」とのる真奈。

「おら・・・なにもしてねえ」とアキ。

「みんなのデビューが決まりました」

「わーい」と狂喜乱舞するGMT5だった。

喜びにわくメンバーに「ただし・・・1万枚売れなかったら解散」を伝言できない水口なのである。

嘘のつけない男は哀しい

サヨナラ言えずに愛をつぶやく

摩天楼ブルース

Oh Baby Baby Blue

少女たちの春はゆっくりと確実に過ぎていくのだった。

木曜日 地元に帰ろうって言ってみたかったな(橋本愛)

テレビでは太巻が・・・「GMT5のデビュー曲、地元に帰ろう・・・の発売が決定しました・・・発売一週間で一万枚売れなかったら・・・解散・・・彼女たちは地元に帰ります」・・・と語り、驚くアキの画像が放送されていた。朝の情報番組の芸能フラッシュらしい。

アキは自宅に報告に来ていたらしい。

「馬鹿馬鹿しい・・・アメ女のデビューの時と同じ手法じゃない・・・同情買って売ろうって作戦・・・こんなの茶番だわ・・・アキ、間違っても土下座なんかしないでよ」

いざとなったら土下座をしようと考えていたらしいアキは挙動不審になるのだった。

しかし・・・すでに・・・テレビの芸能ニュースで娘のデビューが報じられていることがうれしい春子なのでした。

そして・・・レコーディング当日がやってきた。

「今日は・・・お母さん来てないよな」と聞くも愚かな質問をする水口。

「あ・・・呼んだらまずかったですか・・・」とアキ。

春子はすでにスタジオでマイクチェックをしているのだった。

「あ、あ、あ~・・・じゃ、そろそろ・・・いってみようか・・・みんな、入って~」

茫然とする水口だった。

そして・・・調整卓にレコーディング・ディレクターの如くすわる春子。

「ちょっと・・・太巻はどうしたのよ」

「今日はアメ女が群馬でコンサートしてまして」とチーフ・マネージャーの河島(マギー)・・・。

「今、こっちへ向かってます」と水口。

「じゃ・・・始めちゃっていいのね」と春子。

消しゴム付き鉛筆で指示マイクをオンにするいかにもな手際である。

「じゃ・・・軽く録ってみようか」

歌い出しはオノデラちゃんである。

地元に帰ろう

続いて真奈。

地元で会おう

そしてリーダー。

あなたの故郷 私の地元

さらに・・・キャンちゃん。

地元 地元

ついに・・・アキ

地元に帰ろう

GMT5は夢にまでみたデビューに王手をかけたのだった。

レコーディングは順調に進む。

なんだかんだ・・・一年近くレッスンをしてきたメンバーなのだった。

しかし・・・アキはやはり・・・NGを出すのだった。

「私の~のメロディー全然違うから・・・ちょっと歌ってみて」

「私の↗」

「ほら・・・違うでしょ」

「私の↗」

「それじゃ・・・お墓の前で泣く奴になっちゃうじゃん」

「天野のお母さんって音楽畑の人だったのか」と河島。

一瞬躊躇して「いえ・・・スナックのママです」と応える水口。

「ああ・・・そうだよね」

「の↘」

「の↘」

「そうそう・・・できるじゃない」

「私の↗」

「お墓の前で泣かないでくださいって・・・わざとなの」

結局、「の↘」だけで30回NGを出したアキだった。

レコーディング終了後、早速、ラーメンの屋台前で電話して夏に愚痴るアキだった。

「それは・・・災難だったな」

「笑いごとじゃないべ・・・厳しすぎるべ」

「春子はどうした」

「パパが迎えさ来て、家に帰った」

「そうか・・・二人は上手くやってんのか」

「ヨリを戻さねえとか言ってる割に仲良しだ」

「夫婦のことは親でも子でもわかんねえからな」

聞き耳を立てる大吉だった。

「そっちは変わりねえか・・・」

「うん・・・あるな・・・ユイちゃんさ・・・変わるべ」

「なじょした・・・ユイちゃん・・・」

「私ね・・・今年の夏は海女さんやることにしたの」

「じぇじぇじぇ」

聞き耳を立てる種市だった。

アキの後輩たちも頑張っていたがカリスマ性にかけると海女たちが話しているとユイが乗ってきたのだという。すでに・・・ユイのポスターも完成し、早くも盗まれているらしい。美寿々(美保純)やかつ枝(木野花)が口々に説明する。

「どうだ・・・アキ・・・ジェラシーを感じるか」と弥生。

「ユイちゃん・・・無理してねえか」

「無理してないと言えばウソになるけど・・・少しは無理しないと変われないから」

電話を変わってほしそうな種市に意地悪をするアキだった。

「うん・・・お互いにがんばろう・・・」

漸く電話を変わるが相手もいっそんに変わっていた。

「じぇ」

「こら、種市」

意地の悪い笑みを浮かべるちょっと腹黒いアキだった。

やはり・・・種市とユイについてはまだまだ怨むところがあるらしい。そこは母親譲りなのだった。

レコーディングが終わり・・・無頼鮨でGMT5だけのお祝いをする五人。

そこへ・・・アユミ(山下リオ)もかけつけるのだった。

アユミは妊娠五カ月だった。国民投票の頃には妊娠していたという話から・・・今はまだ四月らしい。この辺・・・かなりルーズに時は流れている。

高校生のオノデラちゃんは・・・「赤ちゃんと一緒にコンサートに来てくれたらうれしいね」と初々しく語る。

「それまでに解散してたりして」とキャンちゃん。

「そんなことないよ・・・ずっとずっと一緒だべ」とむきになるオノデラちゃんだった。

アキはそういう時間を噛みしめて・・・不思議な気持ちになる。アユミさんはもうすぐママになる。アイドルになりたかったユイちゃんが海女になる。海女だったアキがアイドルになろうとしている。思えばおかしなことばかりなのである。

真奈は追加注文をする。

アキはお勘定が心配になる。

しかし大将は「出世払いでいいよ」と微笑むのだった。

アキは鈴鹿ひろ美のものまねその2で感謝の気持ちを伝えるのだった。

お茶の間の半分はその可愛さにゲル化したのである。

しかし・・・その頃・・・密着取材番組「プロダクトA」のスタッフを引き連れた太巻がスタジオに入る。

「週刊時代」の壇蜜のような素人女性(小蜜こと副島美咲)の袋とじを開きながら・・・「地元に帰ろう」を聞き流す太巻。

「どうでしょう」と水口。

「普通だな」

「普通と申しますと」と河島。

「よくもなければ悪くもない・・・これじゃユーザーは金ださないぜえ・・・意外とクレバーなんだせ」と2010年の流行に乗ってワイルドに決める太巻だった。

「じゃ・・・メンバーをもう一度集めて」

「そんな時間ないよ・・・最終で上海に行くんだから・・・ここからが太巻マジックだ・・・」

太巻は何やら音源の加工処理を始めるのだった。

翌朝・・・黒川家に届くバイク便の「地元に帰ろう」の完成版。

喜び勇んで視聴した春子の顔は曇り、注いでいたコーヒーはあふれだす。

「なんじゃ・・・こりゃ・・・」

お寿司を「おすす」と言ってた私

第二ボタンは 捨てました

腹いせに

・・・おそらく太巻がよかれと思ってした何かが春子の逆鱗に触れたらしい・・・。

結局・・・二人のボタンはかけ違う宿命なのだろうか・・・。

金曜日 メカゴジラVSモスラ 奈落の大決闘 史上最悪のママ(大野いと)

「新しいアイドル・グループが誕生しようとしていた・・・その名はGMT5・・・天才プロデューサーは彼女たちに生命を吹き込んでいた」とナレーター(田口トモロオ)が語る密着型ドキュメンタリー「プロダクトA」・・・。

太巻が成功した音楽プロデューサーならば、春子は栄光なき天才アイドル歌手だったと言えよう。

二人は水と油である。太巻がキー(音程)をあえて外せば、春子は正しいキーを求める。

太巻が地元感を求めれば、春子はキャンちゃんの沖縄感を強制しようとする。

どちらが正しいという問題ではない。意外を求めれば普通にたどり着き、普通を求めても意外でしかないのが世界というものだ。

ただ一つ違うのは太巻はそのことを認識しているが、春子はそのことを認識しない。

なぜなら・・・春子は天才とは紙一重のアレだからである。

だからこそ・・・太巻は春子に負い目を感じる。

春子が「秘密の暴露」をするのではないか・・・と怯えながら・・・結局は「地元に帰ろう/GMT5」を売る努力をしてしまうのである。

素朴な素材を加工して奇妙な味わいを生み出す。太巻にとってはそれはプロとして当然のことであった。

しかし、そういう理屈はアレの人には一切通じないのが普通である。

2010年の春子の本心は自分がアイドル歌手になりたいのである。

アイドル歌手になってちやほやされたいし、娘がヌードになるなら自分もヌードになる覚悟なのである。

しかし・・・もはや自分がアイドルとしては年齢制限を越えている自覚はあるらしい。

だから・・・激しく燃える嫉妬心を抑えながら自分の娘を晴れの舞台に立たせたいと妥協しているのである。

そこまで・・・妥協しているのに「娘の声を加工処理するとは何事なんだ」・・・もはや、春子の1989年~2010年に降り積もった怨念を制御することは本人にもできないのだった。

「君は沖縄だろ」

「佐賀です」と真奈ちゃん。

「佐賀だろ・・・佐賀感をもっと出して・・・地元のパッションを感じさせて・・・」

GMT5のダンスを磨きあげる太巻にはもはや陰謀の色はない。

Am018 そこへ・・・あの日から時間の止まった春子が乱入してくるのだった。

「これ・・・取り直してよ」

「なんで・・・」

「こんなの誰が歌っても同じじゃない」

「君はパピヨンとかPerfumeとか全否定するのか」

「しないわよ・・・ただ嫌いなだけ」

「慈善事業じゃないんだ・・・これはビジネスなんだ」

「歌い手の意志を尊重しなさいよ・・・」

「最終的に判断するのは私だ・・・そういえうシステムだ」

「アキはどう思ったの」

「おらは・・・ちょっとへんだなって」

「ほら・・・へんだって言ってるじゃないの」

「だけど・・・みんなはかっこいいって近未来的だなって」

「・・・あっそう・・・これがいいって思う人もいるんだ・・・ああ、そうなんだ・・・でも・・・ライブはどうすんの・・・得意の口パク」

「・・・」

「うちの娘を鈴鹿ひろみと一緒にしないでよ」

「ざわざわ・・・」

「止めろっ・・・いいか・・・ここは絶対に使うな・・・絶対にだぞ・・・大人しくしてればつけあがりやがって・・・このアマ・・・素人が神聖な現場にズカズカあがりこんで・・・なにしてくれてんねん。いいか・・・GMT5は企画倒れだ・・・このままじゃ・・・ビジネスにならへんのや。そうやさかい・・・こっちは出来る限りのことしてんのやで・・・なんで・・・君は・・・僕のやることを邪魔ばかりするんだ・・・」

太巻の中で・・・春子の凶悪さが増幅する。

「それは・・・こっちのセリフよ・・・なんで・・・あんたはそんなに器が小さいの」

太巻は春子の憎悪の中に一片の悲しみを見出す。

それは・・・太巻のピュアなハートを激しく揺さぶるのだった。

初めて・・・天才アイドルの歌声を聞いた・・・あの時の感動。

そして・・・それを利用して踏み台にしてのし上がった自分の現在。

太巻は一瞬・・・言葉を失うのだった。

「普通に歌って普通に売れるものを作りなさいよ」

春子はすべてを破壊する呪詛の言葉を吐きつつ・・・アキの手をとるのだった。

「アキ・・・帰るわよ」

立ちつくす・・・太巻。

(これでいいのか・・・なにもかもぶちこわして・・・気がすむのか)

シアターの出口でようやく春子の手を振り切るアキ。

「離してけろ・・・」

「アキ・・・」

茫然と娘を見返す春子。

春子は誰かに追いかけてほしかった。しかし、プロの世界の基本は「去るものは追わず、来るものは拒まず」なのである。

夏もそうだし、鈴鹿もそうだし・・・太巻もそうなのだった。

しかし・・・春子は常に嘘でもいいから追いかけてほしい女なのだった。

「ママの気持ちは分かる。でも・・・これは・・・おらの問題だ。これでもおらは・・・一生懸命・・・みんなと頑張ってきたんだ・・・それを簡単に捨てることはできねえ・・・少し、考えさせてけろ・・・」

春子は・・・混乱して・・・娘を縋りつく眼で見る。

背後には水口とGMT5のメンバーが追いかけてきていた。

だが・・・春子に微笑み返すアキ。

「わかった・・・どうしてもダメなんだな」

「ごめん・・・アキ・・・あなたが私の娘じゃなかったら・・・これはこれでいいのかもしれないけど」

「いいよ・・・だって・・・みんなと出会う前からおらはママの娘だべ」

「アキ・・・」

アキはふりかえり仲間たちに別れを告げる。

「アキ」と叫ぶ真奈ちゃん。

「ずっと一緒にやるって約束したばかりじゃない」とオノデラちゃん。

「すまねえ・・・だどもおらは42位の繰り上げ当選だ・・・代わりはきっといるべ・・・」

「あたしは41位の繰り上げだけどね」とリーダー。

キャンちゃんも何か言いたいが言葉にならないのだった。

「水口さん・・・おらは今度こそ・・・本当にやめるだ・・・でも、太巻さんにつたえてけろ・・・GMTを見捨てないでデビューさせてけろって・・・」

土下座をするアキだった。

その肩に手をおく水口・・・。

「わかった・・・わかったから・・・」

「絶対だぞ」

立ち上がり、踵を返したアキはふと立ち止まると自分のネームプレートを静かに外しておくのだった。

母と娘は上野の地を後にする。

「このままじゃ終わらないからね・・・アキを絶対アイドルにしてやるからね・・・アキをクビにしたことをあいつに絶対後悔させてやる」

(クビじゃなくて・・・自分でやめちゃったんだけどな・・・)という言葉を飲みこむアキだった。

興奮している春子に何を言っても無駄だと悟っているからである。

しかし・・・水口は高揚感に支配されていた。

プロのビジネスマンは終ったことを振り返らない。すでに・・・アキの抜けた穴を埋める素材の選考を開始している太巻。

「お前も・・・手伝え・・・天野の代わりを早急に・・・佐賀牛と仙台牛がいるからついでに三重県の松坂牛を・・・」

「いません・・・天野の代わりなんていません」

叛旗を翻した水口を睨みあげる太巻・・・。

馬鹿にしないでよ そっちのせいよ

ちょっと待って Play Back, Play Back

そして・・・すべてはリセットされるのだった。

土曜日 マジンガーZVSモスラ+タクシードライバー~新たなる旅立ち(中田有紀)

原宿の純喫茶「アイドル」ではアキがアルバイトを始めていた。

テレビでは司会者(中田有紀)の質問に鈴鹿ひろ美が答えていた。

「ええ・・・付き人の子がやめちゃって・・・西瓜のチャージもできなくて」

「かわいいねえ・・・鈴鹿ひろ美さんは・・・スイカの発音が西瓜だし」とマスターの甲斐さん。

「原宿か・・・なつかしいよな」とただ一人の客である水口はコーヒーをすする。

「バンドやってた頃・・・明治通り沿いのライブハウスに出たこともあった」

「バンドやってたのか・・・」仕方なく、水口の相手をするアキだった。

「うん・・・バースデイ・オブ・エレファントっていう・・・」

「象の誕生日か」

「うん・・・チバユウスケがあーだこーだで・・・THEE MICHELLE GUN ELEPHANTってバンドがなんたらかんたらで・・・The Birthdayを結成して云々・・・」

(退屈だ・・・)とアキは思う。(せめて普通のお客さんが来てほしい)と願うのだった。

「で・・・太巻さんに拾われて・・・GMTの立ち上げのリーダーに抜擢されて・・・」

「おらの伝言・・・ちゃんと伝えてくれたか」

「うん・・・」

あの時、「アキの残留」を主張した水口。「アキがいなければGMT5は絶対に成立しない。そんなこともわからんようになったのか」とネクタイをつかませない距離を保持しつつ逃げ腰で太巻に挑戦した水口。しかし、太巻は「絶対だな・・・よし、わかった・・・売ったろやないかい。一万と言わず・・・十万売ったる。十倍返しやっ。目にものみせてくれるわっ」と啖呵をきったのだった。

「だから・・・結局・・・GMT5はデビューできます・・・予算の関係でアキちゃんの声はそのまま残るけど・・・ごめんね・・・ロボットみたいな声で・・・」

「声だけか・・・ママと同じだな・・・」

「本当にすまない」

「いろいろあって・・・楽しかったな」

「結局、俺は干されちゃったけど」

「なら・・・琥珀でも掘りに行くか・・・勉さんに電話するべ」

「いや・・・そういえば・・・ユイちゃんはどうしてるの」

「ユイちゃんは夏に海女ちゃんになるって」

「じぇっ」

「いいなあ・・・おらも潜りてえ・・・」

「潜ればいいじゃない」

「いや・・・やめとくべ・・・ユイちゃんが・・・一人でがんばってるのに・・・邪魔はできない。おらもママを信じてもう少しこっちでがんばらねえと」

「なれるよ・・・アキちゃんはきっとアイドルになれる。っていうか、もうアイドルだよ。アキちゃんがいると自然と人が集まってきて・・・みんな笑顔になって・・・アキちゃんにはアイドルの素質っていうか・・・才能がある証拠だよ・・・いつでもどこでも何をやってもアキちゃんはアイドルなんだよ・・・」

熱く語る水口だったが・・・甲斐さんはアキがとっくに電話中で話を聞いていたのに気がついていた。

「うんうん・・・ちょっと待って・・・変わるから・・・」

「ユイちゃん?」

「勉さんだ・・・」

「・・・悩んでるんだってな・・・来いよ・・・琥珀が待ってるぞ。たとえ俺が死んでも琥珀は悠久の時の流れを越えてお前を待ってる。すぐ来い・・・深夜バスで来い・・・」

電話の向こうではすっかり明るくなったユイが交替を要求していた。

「もしもし・・・」

「ユイちゃん・・・」

「アキちゃんに替って・・・」

水口は素直にアキに携帯電話を返した。

「ユイちゃん」

「アキちゃん・・・今ね・・・プールで練習してきた・・・まだ1分潜れないけど・・・磯野先生に褒められた・・・」

「そうかあ・・・おらも負けてらんねえなあ」

「大丈夫・・・アキちゃんは必ずアイドルになるよ。っていうか、もうアイドルだよ。アキちゃんがいると自然と人が集まってきて・・・みんな笑顔になって・・・アキちゃんにはアイドルの素質っていうか・・・才能がある証拠だよ・・・いつでもどこでも何をやってもアキちゃんはアイドルなんだよ・・・」

「うひい」

ユイちゃんの言葉はアキを泣かせるのだった。

「私が言うんだから間違いないよ」

「ありがとう・・・ありがとう・・・ユイちゃん」

二人の友情パワーは完全に復活したらしい。

「アキを必ずアイドルにする」と誓った・・・春子は家事をしていた。

雛鳥の巣立ちを前に警戒心をあらわにした親鳥のように殺気だったことも忘れて・・・日常に流されている春子。

食卓で春子はサヤエンドウの筋をとっている。

ソファでアキはタブレットを操作している。

その隣で正宗はパソコンを操作している。

静かな生活・・・。

静寂のマイホーム。

その時、床に落ちたサヤエンドウが音をたてた。

「えええええええ・・・・やばいやばい・・・なにやてるの・・・私・・・家事やってる場合じゃないじゃん。なにこれ・・・亜空間なの・・・2008年から2010年は消えちゃったの・・・ふりだしにもどっちゃったの・・・アキ・・・あんた何してんのよ・・・アイドルになるんじゃなかったの・・・」

しかし・・・アキはピアノモードで音感の一人レッスンをしていたのだった。

「アキ・・・」

「私の↘」

「偉いね・・・アキ・・・がんばってるね」

思わず、アキの頭を撫でる春子だった。

「あなたは何をしてんのよ」

正宗は・・・アキのプロフィール入りプロマイドを作っていた。

「あまちゃんですが・・・お仕事ください・・・東京都出身・・・特技・東北弁、ヘルメット潜水・・・」

「なによ・・・これ」

「タクシーの後部座席のポケットに入れて宣伝にしようかと・・・」

「なによ・・・もう・・・私に相談してよ・・・」

春子の心に爽やかな風が吹いてきた。

「わかった・・・」

「・・・」

「やろう・・・会社作っちゃおう・・・」

「・・・」

「所属タレント・天野アキ・・・社長は私の芸能プロダクションよ」

「僕は・・・」

「運転手に決まってるでしょ」

「まあ・・・そうだね」

こうして・・・(・jjj・)/ でおなじみ・・・スリーJプロダクションが設立され発足したのだった。

2006年、会社法が施行され・・・最低資本金制度は廃され・・・会社が作りやすい時代に突入していたのである。

ドラマはラストスパートに入りました。

曲は・・・どうすんだ。「潮騒のメモリー」「暦の上ではディセンバー」「地元に帰ろう」に続く四曲目があるのか。いや・・・ひょっとして五曲目も。

か、稼ぐなあ。そして、紅白はあまちゃんオールスターズなのか。

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2013年8月 3日 (土)

夏の夜の焦燥~悪霊病棟(夏帆)

恐怖の存在理由とは生死である。

生存から死亡への過程に恐怖は存在する。

優れた恐怖とは人類を存続させるものであり、人類を滅亡させる恐怖は劣っている。

優れた恐怖とは死者を存続させるものであり、死者を埋葬する恐怖は劣っている。

優れた恐怖とは悪霊を存続させるものであり、悪霊を封印する恐怖は劣っている。

優れた恐怖とは個人を存続させるものであり、個人を殺戮する恐怖は劣っている。

殺戮に次ぐ殺戮は真の恐怖ではなく、殺戮なくしての恐怖こそが望ましく、殺戮したりしなかったりは次善の恐怖なのだ。

恐怖失くして恐怖在るは恐怖の恐怖である。

恐怖を得るために死を与えるのは最後の手段であり、第三者の死によって恐怖を匂わせたり、死の選択こそが恐怖の克服であると誘導するのは邪悪な恐怖である。

「生きていてよかった」と錯覚するほどの恐怖は恐怖する時と場所、恐怖の方向性の同調、生と死の可能性の均等、予想外の出現、光と闇の超越を知悉することによって形成させる。

生を知り、死を知れば必ず恐怖があり、死を知らずしても生を知れば恐怖はあったりなかったりする。生も知らず死も知らなければ恐怖は無理なのだ。

で、『病棟~第3号室』(TBSテレビ201308020058~)脚本・酒巻浩史(他)、演出・竹園元を見た。このドラマの主題は「黒い歯」である。「黒い歯」を恐怖の主題とするためには「黒い歯」を吟味する必要があるのは言うまでもない。古典としての「黒い歯」が「お歯黒」であることは前回、述べた。これに準拠したものとして「おは、グロ」のようなものもあるが・・・つまり朝早くからグロテスクなのであるが・・・だじゃれだろ・・・日常の中に潜む「黒い歯」について考察しておきたい。

つまり・・・。

限定先着メニューはイカスミのスパゲッティ

・・・ということである。誰がイカ娘の話をしろと・・・。イタリア料理店、あるいはパスタの店で通り魔事件が起きて・・・死体が黒い歯」をしているというような話である。その死体が死霊と化せば黒い歯の恐怖はそれなりに発生するだろう。

お葬式の夜は、黒いテーブルで、黒い夕餉。

ほらキャビアと黒パンと黒ビール、

焦がしバターをかけたトリフと黒いキノコ、

イカ墨のリゾットと珈琲とチョコレート。

・・・と「告別式/夏木マリ」も歌っており・・・黒い歯は黒い食べ物や飲み物と密接な関係があることは明白なのである。

そういうものを好んで食べる人間がすでに恐ろしいという考え方もあります・・・。

隈川病院の入院患者・石川勲(高橋長英)の容態が急変する。

心拍が停止し、生と死の境界線で解体して行く石川の記憶領域はパノラマ視現象が生じている。

集積された情報の再生処理と崩壊・・・。

生まれてから死ぬまでの石川の記憶は死の二週間前で何者かにピックアップされるのだった。

それは看護師の尾神琉奈(夏帆)が隈川病院に勤務し始めた翌日のことである。

石川は田中という入院患者の退院祝いという理由でお気に入りの看護婦・鈴木彩香(川上ジュリア)を写真撮影していた。

亡き妻に似ていると彩香を亡き妻に贈られたというカメラで撮影する石川は元・写真家であり、写真家である以上・・・どこか変態の匂いがする。

入院患者たちとの集合写真の後で「彩香ちゃんだけの写真を撮りたい」と言い出すあたり、嫉妬したその他の患者が「気をつけないとヌードを撮りたいとか言い出すぞ」というのはひやかしでもなんでもなく、本質なのである。しかし、全裸写真が変態的であるというのは良識の問題に過ぎない。良識などというものが悪しきものであることは言うまでもない。

石川は白衣の天使を撮りながら、冷静に彩香の裸体を推測している。

「・・・お薬の時間ですよ」

その視線が「声」によって背後に移る。

そこには見慣れぬ被写体である琉奈の姿がある。他の患者に話しかけている白衣の天使。

「あれ・・・新人さんかな」

「ああ・・・尾神さん・・・昨日、着任したんですけど・・・看護師としては私より二年先輩なんですよ」

「そう・・・惜しいな」

「え」

「眼鏡をとって・・・姿勢を正して・・・それなりの化粧をすれば・・・すごくいい被写体になるのに」

「・・・」

(薄気味悪い)と感じながら彩香は石川の言葉を聞き流す。

・・・病人で・・・老人で・・・元カメラマンなんて・・・気色の悪い存在だが・・・そういうことを気味悪がっていては看護師などやってはいられないのだ。

薄気味悪い存在を憐れむことで成立する職業なのである。

石川は女を裸にする視線で猫背の白衣の天使を見つめる。

その夜、病棟の一階にある自動販売機で石川はお気に入りのコーヒーを購入する。

そこにナイト・シフトの琉奈が通りかかる。

「・・・号室の石川さん?」

職務な忠実な琉奈は初日に入院患者の氏名を頭に入れていた。

(頭もいいんだな・・・)と考えながら石川は琉奈の白衣の下の巨乳を観察する。

「ここのコーヒーがお気に入りでね」

「あまり、夜更かしはだめですよ」

微笑む琉奈に(こりゃ・・・眼鏡を外したらかなりの美人だぞ)と石川は眼鏡っ子ファンの気持ちを踏みにじる思考を続けるのだった。

琉奈の裸体を脳裏に描きながら病室に戻った石川は軽く編集した写真をプリントアウトする。

(琉奈もいいが・・・彩香も悪くない)・・・石川の空想は彩香の裸体へと移っていく。

翌日・・・写真を彩香に披露する石川。

「わあ・・・さすがですねえ」とお世辞を言う彩香の顔が曇る。

「うん・・・どうした?」

「これ・・・なんですかね」

彩香オンリーの写真に白いもやのようなものが映りこんでいた。

(こんなもの・・・昨日の夜はなかったはずだが・・・)

「私としたことが・・・光の加減で・・・初歩的なミスをするとは・・・」

不審そうな彩香を笑って誤魔化す石川だった。

その夜・・・もう一度写真を確認した石川は白いもやがより鮮明な映像となっていることに驚愕する。

それは・・・琉奈に似た女の顔だった。

「俺は・・・また・・・おかしなものを撮っちまったのか」

恐怖によって尿意を感じた石川がナースコールをすると・・・やってきたのは琉奈だった。

石川は恐ろしさに襲われ、琉奈の看護を拒絶するのだった。

「他の人を呼んでくれ・・・あんたでなければ誰でもいいから」

理由もなく患者から拒絶された琉奈はこの日から精神的な不調を感じることになる。

猫背はますますひどくなっていく。

翌日、彩香に他の患者が見たがっていると言われた石川は件の写真をそっと抜きとってその他の写真を渡す。

石川は明らかに「心霊写真」と化したそれを引きちぎり、窓から投げ捨てるのだった。

そんなある日、丑寅プロダクションというテレビ番組の制作会社に所属するディレクター・斑目和也(鈴木一真)が病院の食堂で石川に取材を申し込む。

「・・・以前、あなたの写真が掲載された地元の雑誌が発行後に回収されたことがありますね・・・あなたの撮った写真に何か問題があったとか・・・」

「・・・」

「その雑誌は処分されて入手困難なのです・・・あなたは一体、何を撮ったのです」

「その写真は・・・妻から贈られたこのカメラで撮ったものだ・・・夏の暑い昼下がりだった・・・散策しながら気の向くままにシャッターを切った。そのうちに・・・ここの旧病棟・・・その頃は完成したばかりで真新しい建物だったがね・・・これが目にとまってファインダーを覗いた。二、三枚撮ったところで・・・妙なことに気がついたんだ。さっきまでの暑さがウソみたいに消えて、空気は冷え冷えとしていた。うるさいくらいに鳴いていた蝉の声も途絶えて・・・異様な静寂に包まれている。その時、病棟の方から風に乗って妙な声が聞こえてきたのだ・・・思わず、俺はその方向にズームアップした・・・そして耳元で声を聞いたんだ」

「声・・・?」

「くうろおいいはあ」

「なんですか・・・それは」

「わからん」

次の瞬間、石川は気絶してしまったらしい。

「気がつくと・・・物凄い暑さを感じた。俺は路上に倒れていたんだ・・・。そして、その日撮った写真を現像して見ると・・・旧病棟の最上階に白い着物を着た女が写っていた」

「女・・・ですか」

「雑誌に写真が掲載された後、気になってもう一度調べてみようと思った・・・ところがネガもプリントもいくら捜しても見つからない。なぜか・・・消えてしまったんだよ」

「消えた・・・」

「ああ・・・写真が・・・馬鹿馬鹿しいが・・・いわゆる心霊写真が・・・生きているみたいに自分で姿を消したのさ」

石川は笑顔を作ろうとしたが上手くいかずに頬を強張らせた。

石川は真夜中に無性にコーヒーが飲みたくなった。

廊下で不気味なものを見た。

暗がりの中の猫背の女。

琉奈だった。

心霊写真の女・・・そう思うとたまらず石川は逃げるように病室に戻る。

ベッドの上に一葉の写真があった。

破り捨てたはずの彩香と琉奈の不気味なツーショット写真である。

恐慌に陥りかけた石川はその写真を引きちぎり、トイレに流した。

焦燥感に苛まれながらベッドを見る。そこに件の写真は舞い戻っていた。

石川は這いずりながらそこから逃げようとした・・・その目の前の床に件の写真がある。

「うわ」と石川は叫んだ。

心臓の鼓動は跳ね上がった・・・石川はベッドにすがりつき、ナースコールのスイッチを押す。目の前に件の写真があった・・・。

石川は眩暈を感じた。

そして・・・石川は生と死の境界線を越える。

死霊となった石川は救命処置を受ける自分の死体を見た。

誰かが自分を呼んでいる。懐かしい声だ・・・。

「みつこ・・・」

石川は亡き妻の姿を見て廊下を歩きだす。

「なんだ・・・そんなところにいたのか」

去っていくその姿を琉奈は見つめている。

病室には嫉妬深い黒いカメラが残されていた。

独立したエピソードとしては「サイコ」でおなじみロバート・ブロック(1917-1994)の短編ホラー「ささやかな愛を」に類するものと解釈可能である。

イカスミ・タコスミ・イカスミ・タコスミ

イカスミ・タコスミ・イカスミ・・・・・・・

「イカスミダ、タコスミダ/影山ヒロノブ」はクイズ番組「なんでもQ」シリーズ「むしまるQ」(NHK教育1995-2004)の挿入曲。番組には声優として80年代後半のアイドル小川範子も参加していた。

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2013年8月 2日 (金)

名もなき毒の序章・誰か Somebody篇クライマックス直前なのです!(深田恭子)

・・・谷間なのです。

かなりの変則構成で展開する「杉村三郎シリーズ/宮部みゆき」のドラマ化である。

この「枠」は一種独特のだささを持っていて・・・多くの原作は殺されてださくなってしまうのだが・・・今回は「夜行観覧車」の演出家・塚原あゆ子・山本剛義や・・・金子文紀なども参加して・・・それなりに重厚な仕上がりになっている。

杉村三郎シリーズは大企業の経営者一族の娘婿となったが、野心はまるでないマイホーム・パパの素人探偵ものである。

で、第1話~5話までがシリーズ第1作の「誰か Somebody」を原作としている。

杉村三郎のプロフィールを描きながら・・・会長の私設運転手の事故死と残された遺児姉妹との杉村の交流を描いていくのである。

この姉妹を演じるのが・・・深田恭子と南沢奈央なのである。

さらに・・・三郎の職場にはアルバイトの岡本玲がいる。

ついでに三郎の病弱でお嬢様な妻が国仲涼子なのだ。

展開としては・・・三郎を三人の女たちが激しく誘惑する・・・でもおかしくないのだが・・・まったくそういうことはないのだった。

しかも・・・第5話が終わると・・・この三人は去って行ってしまうと思われる。

第6話からのシリーズ第二作は真矢みき・杉咲花・江口のりこというトリオにバンタッチなのである。

つまり、これだけは言いたいのだ・・・深田恭子・南沢奈央・岡本玲からの真矢みき・杉咲花・江口のりこは落差激しすぎるだろう・・・と。

で、『月曜ミステリーシアター・名もなき毒・第1~4話』(TBSテレビ20130708PM8~)原作・宮部みゆき、脚本・神山由美子、演出・塚原あゆ子(他)を見た。脚本家は「大奥〜誕生[有功・家光篇]」からここである。これには未亡人役で南沢奈央が出演している。南沢奈央といえば「栞と紙魚子の事件簿」で前田敦子とダブル主演していた頃から強烈な個性を発散していて最近では「高校入試」でも重要な脇役としていい味を出しているのであった。今回もちょっとエキセントリックな妹役である。そして・・・その姉を演じるのが深田恭子なのである。エキセントリックということでは一歩も引かないのだった。深田恭子といえば「彼女が死んじゃった。」といったシリアスな路線の他に、映画「ヤッターマン」のドロンジョ役のように超コミカルな役所があり・・・さらにクドカンで「未来講師めぐる」という一つの完成形にも到達している。今回はちょっとナーバスな姉役をサラリと演じていて乙なのであった。

まあ・・・なんていうか・・・ちょっとドロッとしたこの姉妹を見てるだけでも楽しいドラマと言えます。

杉村三郎(小泉孝太郎)は父・真一(野添義弘)、母・正子(木野花) から生まれた生粋の庶民だった。あおぞら書房児童書編集者として平凡な日常を送っていたのだが映画館で偶然、菜穂子(国仲涼子)と知りあい恋をして転機を迎える。菜穂子はウルトラスーパーデラックスお嬢様だったのである。

出世などの野心が全くない三郎は・・・今多コンツェルンのグループ広報室 社内報「あおぞら」編集部 に勤務することという菜穂子の父親で今多コンツェルン会長の今多嘉親(平幹二朗)の条件を受諾し、菜穂子を妻とする。

長女・桃子(矢崎由紗)にも恵まれ、幸福な家庭を築いたのである。

そんなある日・・・貧富の差の激しい結婚にいろいろと軋轢があった中・・・唯一、「おめでとうございます」とシンプルに祝福してくれた心の恩人で・・・会長の私設運転手だった梶田信夫が自転車でひき逃げされて死んでしまう。

三郎は会長の特命を受けて・・・残された二人の「父親についての本を出したい」という希望に沿うために相談に乗るのだった。

しかし・・・「本を出してひき逃げ犯人の良心に訴えたい」と積極的な妹の梨子(南沢奈央)に対して、結婚を間近に控えている姉の聡美(深田恭子)は何故か消極的である。

妹は美人で聡明な姉に嫉妬していて、姉は両親の貧窮時代を知らない妹を羨望していたのだった。

「私・・・小さい頃に・・・誘拐されたことがあるんです・・・父は何か犯罪に巻き込まれていたようでした・・・もしかしたら・・・父は殺されたのではないかと思うのです」という聡美の言葉を半信半疑で受け止める三郎だった。

しかし、勤務先の学生アルバイトである遥(岡本玲)の協力で情報を求めるビラを配っていた三郎自身が自転車にひかれるという事故が発生し・・・姉妹の父親の昔の勤務先であるトモノ玩具の社長・友野栄次郎(織本順吉)などから事情を聴取するうちに・・・野瀬祐子(伊藤かずえ)という謎の女が浮上してくるのである。

そして・・・何故か、聡美の婚約者・浜田利和(高橋光臣)の携帯電話の着信音は梨子とおそろいなのだった。

聡美、梨子、さらには遥と・・・三郎の周囲に美女がとりまき・・・行きつけの喫茶店・「睡蓮」のマスター・水田(本田博太郎)はニヤニヤするのだが・・・品行方正で小心者の三郎はまったく道を踏み外さないのである。

やがて・・・「ひき逃げ事件」から手をひけと梨子に脅迫電話がかかってくるのだった。

一方で・・・三郎はついに野瀬祐子から電話を受ける。

会長の愛した運転手の過去がいよいよ明らかになろうとしていた。

ちょいとお待ちよ 車屋さん

お前見込んで

たのみがござんす この手紙

内緒で渡して 内緒で返事が

内緒で来るように

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TOKYOエアポート〜東京空港管制保安部〜

宮部みゆきミステリー パーフェクト・ブルー

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2013年8月 1日 (木)

黄色いダリアと清潔なコップと薄切りバームクーヘンと捨てられた薬とWoman(谷村美月)

完全なる教科書の話である。

「完全なる子育ての手引き」で子供を育てた母親。

平凡な息子は平凡な職につき、有能な花嫁を獲得するが自分でコップを洗うことのできない男に育つ。

「不治の病の治し方」で患者に接したい医師。そんなものはないので最後は医師ではなくなってしまう。

「完全なる夫の調教読本」を構想中の別居中の妻。その他にも「指導医に気に入られる研修医の秘訣」も読んでいるが「子供のストレスと上手につきあいたい」は棚上げ中である。

「自分に優しい娘の作り方」を捜している母親は結局、何が一番大切なのかをいつも見失っている。

「折れたダリアの蘇生法」は未発表なのだった。

「お金がなくても優しくなれるテクニック」を読破した男は常に限界を感じているのだった。

「浮気されない子連れ女の人生読本」なんてものに掲載されている必殺技は信じるに値しない。

「診療時間厳守のエキスパート」を読むと人間性が疑われる。

「いつまでも子供でいられる夢のテキスト」は品切れなのだ。

「一生楽しめる一冊」は見果てぬ夢である。

本棚にはない本を妄想するのは楽しいなあ。

ダリア(天竺牡丹)の花言葉は・・・基本的には「栄華」「華麗」「威厳」というゴージャスな感じと・・・「不安定」「移り気」という栄枯盛衰のニュアンスを含む。

ダリアを愛したフランス貴族階級の栄光と没落がその背景にある。

白いダリアは「色」を失って・・・「感謝」とか「豊かな愛情」が残る人生の美しい側面を示す。

そして黄色いダリアは・・・色あせぬ「栄華」、したたかな「優美」を主張する特別な花なのだ。

で、『Woman・第5回』(日本テレビ20130731PM10~)脚本・坂元裕二、演出・相沢淳を見た。シングル・マザー青柳小春(満島ひかり)は長女・望海(鈴木梨央)と長男・陸(髙橋來)と三人暮らし。しかし、再生不良性貧血を発症してしまう。幼い頃に離別した母親の植杉紗千(田中裕子)と再婚相手の健太郎(小林薫)という親族はいるが、異父妹の栞(二階堂ふみ)が実は小春の亡夫・青柳信(小栗旬)の死に深く関与していたことを小春はまだ知らないのだった・・・。

大きい方をお食べ・・・と食物を差し出す大島弓子風の擬似親キャラクターは哀愁あふれるが・・・与えられる方は罪悪感とともに「経済的努力不足」を即物的に感じたりもするものだ。そのやるせなさがそのままドラマになっています。

青柳一家はワクワクしていた。

電気店から・・・クーラーが配達され・・・設置工事が行われるのである。

壁にとりついた作業員。

搬入される新品のクーラー本体。

やがて・・・子供たちはハンド・リモート・コントローラーを手にしてはしゃぐだろう。

「ナマケモノさん・・・クーラーどうしたのかな・・・拾ったのかな」

空想的で現実的な長女の望海のおしゃべりは止まらない。

が・・・しかし・・・けれども・・・。

「壁の強度が不足していて・・・クーラー設置できません」

作業員はどんなにか申し訳なかったろうか・・・。

仕方なく・・・健太郎に電話する小春だった。

「あの・・・せっかくの御厚意だったんですけど・・・」

「いや・・・僕じゃないよ・・・僕にはクーラーなんて無理だもの・・・それ・・・紗千さんなんじゃないかな・・・」

「・・・」

「口では冷たいこと言うけど・・・やはり・・・親子なんだよ・・・だから・・・また顔を出してくださいよ」

「・・・」

しかし・・・健太郎の希望的観測とは別に・・・栞が伸の「死」に関与していると知った紗千の気持ちはまた大きく変化していたのだった。

姉の夫を殺した娘と・・・妹に夫を殺された娘・・・二人は分断するしかないと思い定める紗千だった。紗千は頑なで融通の利かない思い込みの激しい愚かな女だからである。結果として偏愛する栞をさらにスポイルすることになるのだった。

そして・・・栞はそんな母親の過剰な愛で溺れるしか能のない娘なのである。

ぬかよろこびには慣れている青柳一家であった。

扇風機があればなんとかやっていける・・・クーラーなんて夢のまた夢だからである。

しかし・・・小春の病状は深刻だった。

「青柳さんはステージ3です・・・骨髄移植のドナーが見つかればすぐにでも移植を行うべき重症と言えるステージです」

「免疫抑制剤を服用していただきます」

「出血すると止まらなくなることがあるのでケガには気をつけてください」

「・・・」

「御家族ともよく相談なされてください」

医師の澤村(高橋一生)と研修医の砂川藍子(谷村美月)はマニュアル通りに患者の小春に告げるのだった。

しかし、小春は患者としてのテキストを持ってはいない。

「あの・・・私・・・最近、ずっと体調いいんですけど・・・」

「・・・」

病状を受け入れられない患者には過度に対応しないというマニュアルに沿って・・・沈黙する二人の医師だった。

かってのシングル・マザー仲間で再婚した蒲田由季(臼田あさ美)からバーベキューに招待された青柳一家。しかし、会場は近所の公園である。

自分の病状について相談しかけた小春だが、先手を取って由季から悩みを相談されてしまう。

「私・・・離婚したんだ・・・浮気されて・・・不幸ってなんでよりついてくるのかしらね。・・・ま、車と慰謝料はもらったけどね」

たくましく生きる由季も泣かずにはいられないらしい。

今が不幸な由季の前で「死ぬかもしれない」が「まだ死んでいない」自分の不幸を口にするのが憚られる小春なのである。

その帰り道、泣いている託児所友達の舜祐(庵原匠悟)を発見する陸。

父親の砂川良祐(三浦貴大)は困惑するばかりだった。

舜祐は母親・藍子の不在によるストレスから便秘気味になっていた。

「浣腸するしかありません」

「浣腸ですか」

「とりあえず・・・家に」

なんとか・・・便通のあった舜祐だった。

拍手喝采する青柳姉弟だった。

他人の家で息子の便を始末する・・・屈辱感を感じながら去っていく砂川父子だった。

バーベキュー会場で望海がうっかり折ってしまったダリアを持ち帰った小春。

コップに一輪ざしにするのだった。

「ダリア治るかな・・・」

「大丈夫よ」と根拠なく話す小春だった。

夢の中で小春は亡き夫と交際中の時間に遡上する。

「プールの掃除大変ですね」

「夜までに終えて二万円・・・今夜は焼き肉デートです」

「私も手伝います」

「泡ですべって遊ばないでくださいね」

「もう遊んでますよ」

「さようならの語源って左様ならばなんですよね。つまり・・・そういうことなんで・・・ということで・・・じゃあ・・・ってことなんですよ・・・じゃあ、さよならって・・・じゃあじゃあって感じなんですよ」

「はいはい、さようですか」

「さようなら・・・また今度ねって・・・友達同士では言いますけど・・・家族は言わないですよね・・・家族はいってきますでいってらっしゃいでただいまでおかえりですよね・・・僕は小春さんとそういう関係になりたいんです」

「さよなら・・・は最後に言うじゃないですか」

「最後もいってらっしゃいでお願いします」

「じゃ・・・ただいまって言ってくださいよ」

目がさめれば・・・陽は高く昇っていた。

通院の時間もとっくに過ぎて出社の時間が迫っていた。

朝食は望海が陸に食べさせ終わっていた。

倦怠感が病魔の存在を小春に囁きかける。

「私・・・今日・・・仕事休もうかな」

「どうしてえ」

「それは・・・望海と陸と一緒にいたいからです」

「じゃ、いいですよお」

「じゃ、なにしたい」

「僕、グルグルまわりたい」

「じゃ、まわろう」

手をつないで部屋の中をグルグルまわりだす三人。

もはや現実は楽しい悪夢と化しているのだった。

そこへ・・・また砂川父子がやってくるのだった。

「すみません・・・また便通が・・・」

「浣腸ですね・・・」

「私・・・仕事があるんで・・・お願いします」

しかし・・・良祐はその足で藍子に会いに行く。

「君がいないストレスで・・・舜祐はお腹がパンパンなんだよ・・・可哀相だと思わないわけ」

だが、藍子は涙で応じるのだった。

「そんな話を聞かされて・・・私が25年間努力した結果を投げ出してただの母親になるしかないと思うと思う?」

「僕が何をしたってんだよ」

「何も・・・あなたは優しかったわよ・・・私が具合が悪い時に・・・じゃ、僕は外でなんか食べてくるよという優しさにあふれていた。それで私はあなたに一点借りなわけ? 自分と息子の分の食事を用意するだけで済んだことに感謝しなければいけないわけ。あなたと暮らしていると・・・薄汚れたコップで水を飲んでいるような気分になるわけ」

良祐は唖然とする。そして思うのだった。

(僕の母親なら絶対そんなことは言わないのに・・・なんなんだよ・・・なんなんだよ)

藍子は青柳家にバームクーヘンを手土産にやってきた。

そして母親としても医師としても慣れた手つきで浣腸するのだった。

拍手喝采する青柳姉弟でした。

「すみませんが・・・この子の父親が来るまで預かってもらえますか」

「いいですけど・・・お仕事が終わるまで預かりますから・・・迎えに来てあげてください」

「・・・いってきます」

「いってらっしゃい」

去っていく藍子を母親として追う小春。

「あの・・・」

しかし、藍子は医師としてふりかえる。

「どうして・・・診療にみえなかったのですか」

「すみません」

「命にかかわるんですよ」

「・・・」

「薬は飲まれていますか」

「子供たちに見つかりそうになって捨てちゃいました」

「いずれ・・・入院することになりますよ」

「入院ししません」

「それだと・・・子供たちはあなたがいなくなった時どうすればいいんでしょうね」

「・・・」

その夜、良祐は手土産のバームクーヘンをもって舜祐を迎えに来た。

「似たもの夫婦だねえ」

「そうだねえ」

「お母さんの分はいつも倒れちゃうね」

「そうだねえ」

「ウフフ」

「ウフフ」

大量のバームクーヘンで幸せな青柳一家だった。

(母のバームクーヘンも薄切りだった)

ふと蘇る紗千の記憶。クーラーを贈ってくれようとした母。

母に頼ってみようかと思う小春だった。

その時、脱力感と眩暈が小春を襲う。

「お母さん」

横倒しになりながら・・・必死に手を持ち上げる小春。

倒れたんじゃなくて・・・これは畳の上でクロールなのだと嘯く小春。

「なんだ・・・泳いでるのかあ」

「ボクも泳ぐ」

「じゃ・・・私も」

畳の上での水泳大会にポロリはないが涙はポロリとこぼれそうである。

しかし・・・栞のために心を鬼にした紗千は藁にもすがる思いできた小春を一瞥もしないのだった。

帰宅した小春の胸は重苦しいものでみたされる。

しかし・・・望海のおしゃべりはとまらない。

「お母さんのお母さん・・・なんで怒ってたのかな」

「さあ・・・なんでだろう」

「お母さん・・・哀しかった」

「そんなことはないよ」

「哀しかったら話してね・・・我慢しないでね」

「ありがとう」

「私ね・・・掃除機のヒューってコードがひっこむボタンがね好きなの」

「そうなの」

「ひゅーってするでしょ」

「ひゅーってするね」

「お母さんは何が好き・・・」

「寄り道するのが好きだな」

「私も・・・知らない道ってこわいけど楽しいよね」

「そうだね」

由季が子供たちをプールに連れて行った日。

夕飯のための買い物を終えた小春は一人トイレで泣いた。

(子供たちが幽霊になったみたい)

(私が幽霊になったみたい)

(いやだ・・・それだけはいやだ)

小春は病院に向かう。

診療時間は終っていたが澤村がいた。

廊下で小春は声をかけた。

「あの・・・」

「どうしました・・・」

様子に気が付いた看護師たちがマニュアル通りに注意する。

「あの・・・診療時間は過ぎていますので・・・」

「あ・・・大丈夫だから・・・これ約束してますから」

「あの・・・歯を磨くと出血します」

「うん」

「一日に何回か眩暈がします」

「はい」

「内出血の痣がずっと消えません」

「うん」

「時々、立っていられなくなります」

「そうでしょうね」

「私・・・死ねません・・・死ぬのはダメなんです・・・絶対ダメなんです・・・子供がいます・・・七歳と四歳です・・・夫は四年前に死にました・・・私がいなくなったら・・・あの子たちは二人だけになってしまいます・・・だから絶対だめなんです・・・死ぬのはダメなんです・・・私は死ねないんです・・・すみません・・・約束してないのに・・・」

小春は泣いた。

澤村は微笑んだ。

「死にたくないという気持ちを忘れないでくださいね。それはどんな薬より・・・どんな治療より・・・病気を治す力になりますから・・・その気持ちがあれば治らない病気はないのです・・・僕は全力で治療します。あなたは生きるために全力を尽くして下さい・・・いいですね・・・青柳さん・・・」

「はい・・・はい・・・はい」

そして、そらまめにそっくりな男が夜の闇に消えていく。

やみに燃えし かがり火は

炎今は 鎮まりて

眠れ安く いこえよと

さそうごとく 消えゆけば

安きみてに 守られて

いざや 楽しき 夢を見ん

夢を見ん

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