前週で100回を通過し、今回は108回というなんだか煩悩に満ちた話数を越えていく「あまちゃん」である。
今週は・・・ヒロインがもはや「あまちゃん」ではないとも言える大人の顔を随所で見せ始める。
一方で・・・ヒロインの母親はまだまだ「あまちゃん」街道まっしぐらなのであった。
そもそも・・・「アイドル」をめぐる物語である。「アイドル」とは何かは・・・人それぞれでちがうだろう。
しかし、それは「夢中になるほど可愛いもの」に違いない。
そもそもヒロインは祖母にとって「夢中になるほど可愛い孫」なのであった。
なぜ、それほどに可愛いのかといえば・・・「アホ」だからだろう。
ただでさえ可愛い「アホ」が何かに一生懸命になったりすれば・・・底知れぬ可愛さが発生するのだった。
ヒロインは夢中になる。祖母のような「海女」になって「ウニ」をとることに。先輩のような「ダイバー」になって「恋」をすることを。親友のような「アイドル」になって「拍手」を得ることを。母親のような「歌手」になって「感動」を与えることを。大女優のような「スター」になって「演技」をすることを。
物凄い逆境も用意されるが「一日眠ればケロリのアホ」のパワーですべてを乗り越えていく。
その「アホさ」に周囲の人間はなんとなく和むのである。
一方で・・・ヒロインの母親は「屈辱は絶対に忘れない」し「必ずや不義には復讐で応える」・・・「正義と真実の人」なのであった。
相手が誰だろうと・・・自分にも非があろうと・・・お構いなしなのである。
二十五年前に・・・庇ってくれなかった母親を二十五年間怨み続け・・・ついに「謝罪」に追い込むまで・・・絶対に許さなかったのである。
だから・・・実は・・・共犯者である男の「甘い言葉に踊らされて・・・自分の夢を壊してしまったこと」も絶対許さないのだ。
彼が「謝罪」するまで彼女の戦いは終わらないのだった。
もちろん・・・それは二十年前に夢をあきらめた自分自身への復讐戦でもある。
そして・・・ヒロインは頭を撫でられつつ・・・母親の指さす天の明星を見上げる。
「夜空に輝くあのアイドルの星になるのよ・・・」
「バル・・・」ではなくてこの夏は「ゴーッ」と叫ぶヒロインだった。
「ドキドキできにゃぁ~い」が「ドキドキできね~い」に聴こえる人はあまちゃんシンドロームの疑いがあります。
で、『連続テレビ小説・あまちゃん・第18週』(NHK総合20130729AM8~)脚本・宮藤官九郎、演出・井上剛を見た。アイドル歌手を目指していた天野春子(有村架純→小泉今日子)は元ダンサーで芸能プロダクション社員の荒巻太一(古田新太)と出会い、アイドル女優・鈴鹿ひろ美(薬師丸ひろ子)の声の影武者として起用され、飼い殺しにされてしまう。1989年、夢破れ帰郷しようとした春子はタクシー・ドライバーの黒川正宗(森岡龍→尾美としのり)と出会い、結婚し、アキ(能年玲奈)が生まれる。2008年、祖母の夏(宮本信子)に憧れて海女になったアキは紆余曲折の末、アイドルを目指して上京。運命の悪戯で鈴鹿の付け人となり、アイドルの奈落で修行を続けるが・・・太巻と仇名される芸能プロデューサーとなった荒巻は「鈴鹿ひろ美伝説」を死守するために・・・過去を知るアキを抹殺するための謀略をつくし・・・ついにアキに二度目の解雇を通告するのだった。過去の経緯から荒巻の些少の罪滅ぼし的恩返しが娘に与えられるはずと信じていた春子はまたもや裏切られた怒りに燃えて二度目の上京をするのである。
月曜日 ゴジラVSモスラ~史上最強のママ(薬師丸ひろ子)
2010年春、春子は「付き人をやめて田舎に帰るアキを労う会」会場の上野・無頼鮨に上陸した。過去の秘密を知る一人であるマネージャーの水口(松田龍平)は殺気を感じ、カウンターに避難する。ただならぬ空気に大将の梅頭(ピエール瀧)は鮨を握り損ない、見習い店員の種市(福士蒼汰)は看板を灯を消すのだった。ただ一人・・・なぜか自分に影武者がいたことはおろか・・・自分が音痴であることにもまったく気がついていないらしい鈴鹿ひろ美は「モンスターペアレント」が「クレーム」をつけに来たと断定し、緊急連絡のために携帯電話を操作するのだった。
「おらのママだ・・・」と紹介するアキ。
「はじめまして」と鈴鹿ひろ美は愛想笑いをするのだった。
「・・・はじめまして・・・アキの母親の天野春子です」と殺気立つ春子。
春子にとって鈴鹿ひろ美は自分の分身のような存在であるが・・・鈴鹿にとって春子は単なる付き人の母親なのである。
春子は鈴鹿ひろ美が影武者の存在に全く気がついていないことに半信半疑であるらしいが・・・基本的に「アイドル」ファンの「夢」を壊さないという「仁義」はわきまえている。だからこそ・・・二十年以上も秘密を厳守してきたのである。
しかし・・・そのことを「お願い」したのが太巻である以上、太巻はある程度、恩義を感じているはずだ・・・と春子は考えていた。ところが・・・太巻は陰湿にも娘に意地悪をして芸能界から追い出そうとしているらしい。それに気がつくと春子は憤怒で全身から殺気を放ち、太巻憎けりゃ鈴鹿まで憎いモードに突入したのだった。
その殺気を「娘が解雇されて逆上した単なる田舎のスナックのママ」と感じているらしい鈴鹿だった。
「挨拶が遅れてすみません」
「いいえ・・・遠いのでしょう」
遠いと言われれば東京に憧れた昔が疼く春子である。
「いえ・・・盛岡から新幹線で二時間半ですから」と盛岡までの数時間を省略する春子だった。
「あら・・・そうですか・・・」
すでに焼酎を一本半空けているらしい鈴鹿に対抗するためにビールを連打する春子。
「ご存じかと思ってました・・・静御前は岩手県が舞台のお話でしたでしょう」
「でも・・・撮影は京都だったんです」
一般人対芸能人の図式で火花散る両者。
アキは恐怖で身が竦むのだった。アキには母の怨念が痛いほどわかっているが・・・鈴鹿も憧れの女優でありすでに寿司の恩を受けている相手なのである。アキにとっても「秘密」は厳守されるべきものだった。
鈴鹿はお愛想なのか・・・聞きなれた自分の「歌声」を春子の声に感じたのか・・・。
「あら・・・お母様・・・私と声が似てますね」と言い出す。
蒼白となるアキ。
「そんなことはないと思いますが・・・」と怒気を孕む春子。
「ほら・・・自分の声は自分ではわからないって言うでしょう。きっと録音するとわかるはずだわ・・・私の声にそっくりだもの」
つまり・・・鈴鹿は録音された自分の声が「春子の声」ではなく自分の声だと言っているわけである。相当にややこしいが・・・鈴鹿に裏がないとすれば・・・なんて正直な感想なのか・・・なのだった。
(そりゃ・・・あたしの声だからさ)と喉元まで出かかる春子の内心を察知してアキと水口は汗まみれになるのだった。
春子はアキに視線を転じる。
「どうなの・・・アキ・・・ちゃんとやってるの・・・」
「やってましたよ・・・もちろん・・・立派に・・・天野さんがいないと迷惑メールの拒否の仕方も分らなくて困るのよね」
大女優は付き人アキの有能さをお世辞混じりで語るのだが・・・。
「そんなこと・・・誉められてもうれしくないんですよ・・・付き人としてではなくアイドルとしてどうなのかってことです」と怒りに火を注がれる春子なのだった。
「・・・自分の娘は可愛いものでしょうしねえ」と些少の羨望を交えて応じる鈴鹿。
「でも・・・少し・・・安心していた部分もあって・・・鈴鹿さんが・・・アキの親代わりじゃないけど・・・」
春子にとって・・・鈴鹿は自分の分身なのである。
しかし・・・あくまで・・・基本は縁もゆかりもない赤の他人らしい鈴鹿。
「親・・・親代わり」
「いえ・・・じゃないけど」
「なんでえ・・・私が・・・天野さんの親・・・何の因果で・・・」という鈴鹿は些少なりともアキを可愛く感じていることに付け込まれないようにしているのである。
「じゃないけどって・・・いいましたよね」と鈴鹿の怒りを測りかねて防御姿勢となる春子。
「過剰な期待をされても困るんです・・・あなたがそうだとは言わないけれど・・・厚かましいのよね・・・ステージママって・・・」
おそらく・・・過去の付き人の両親に悪質な寄りかかりをされたらしい鈴鹿だった。
「ステージママ・・・私が・・・アキの・・・ステージママ」
「いえ・・・あなたがそうだとは言いませんけど」
「ステージママー」
「だから・・・あなたは違うのよ・・・」
鈴鹿と春子の激突に割って入るアキ。
「やめてけろ、ママ・・・鈴鹿さんとおらは確かに・・・親子ではねえ・・・なんつうか・・・トモダチっつうか・・・」
「トモダチっ・・・私のこと・・・トモダチって思ってたの・・・だすからタメ口なの」
「いやいやいや・・・つうかって言ったべ・・・トモダチつうかって」
「だったら・・・トモダチなんだったら・・・たまにはお寿司おごってよ・・・ワリカンにしてよ~」
寿司の大皿を振りまわす鈴鹿から危険を感じた春子は大皿を奪取しつつ会話を遡る。
「つうか・・・やめるって・・・やめられたら困るっておっしゃいましたよね・・・アキ、あんた付き人辞めちゃうの」
「そうですよ・・・だからこうして・・・お別れ会を」
「太巻にクビにされたら・・・こっちも・・・お払い箱なわけ・・・」と水口に矛先を変える春子。
「ええ・・・その太巻さんが紹介して・・・御指導いただいておりましたので・・・」と逃げ腰になる水口。
「あら・・・彼のこと・・・ご存じ・・・」と興味を示す鈴鹿。
「知ってますともっ」
春子は仁王立ちとなるのだった。
しかし・・・気を鎮めて座りなおすのだった。
「有名人ですものね・・・」と過去については触れずに話す春子。「本も読みましたよ・・・太いものには巻かれろとか続・太いものには巻かれろとか細いものには巻かれないとか巻かれて太くなれとか・・・自慢話だけでしたね」
「うふ・・・」とその点には共感の笑いを示す鈴鹿だった。
「虫が知らせるっていうか・・・娘に電話したんですよ・・・そしたら・・・娘が泣いてたんです」
「・・・」
「帰りたいって言うんですよ」
「帰ってらっしゃいとおっしゃらなかったの・・・」
「私は・・・ある人の些細な一言がどうしても許せなくて・・・結果的に歌手の道を諦めるしかなくなったんですよ・・・ほんの小さな一言だったんですけどね」
「そういうことって・・・分るわ・・・そして・・・あなたはその傷を今でも抱えて・・・後悔していらっしゃるのね」
「いえ・・・全然・・・後悔なんてしてません」
「ミステリーね」
「むしろ・・・あそこで諦めたからこそ・・・結婚できたし・・・アキもあまれたんです・・・むしろ・・・あなたには感謝してます・・・」
「え・・・私」・・・裏がないのだとしたら・・・春子の言動が意味不明で心底、茫然となる鈴鹿らしい。
口がすべったと春子が思った瞬間、水口は逃走しようとして、アキはパニックに陥るのだった。
「うわああああああああああ、うわっ」
突然、立ち上がり絶叫するアキに驚く鈴鹿ひろ美。
「なによ」
「すいません・・・なんか・・・叫ばずにはいられませんでした」
「やめてよ・・・ここではいいけど現場でそんなことしたら大変よ」・・・と親が子をたしなめるようにピシャリとアキの手を叩く鈴鹿だった。
「え・・・と・・・何の話だったかしら」と鈴鹿。
「電話したんですよね」と話を巻き戻して途中をカットする水口だった。
「そうそう・・・あきらめるなって言いました」
「あなたは後悔しなかったのに」
「ええ」
「娘にはあきらめるなって」
「娘があきらめたら・・・私が後悔するんです・・・」
「お母様が・・・」
「はい・・・この子はすごいんです・・・少なくとも私とは全然違う・・・親バカでごめんなさいなんですが・・・あたしのようにどんなに歌が上手でも鈴鹿さんのようにどんなにお芝居が上手くても・・・それだけじゃアイドルにはなれないんでしょう・・・何か・・・こう・・・なれなかった私にはわからない・・・何か特別なものがあるわけでしょう」
「うわいっ」
「どうしたの、天野さん」
「誉められなれてねえもんで」
「少なくとも・・・アキは田舎ではアイドルでした・・・みんながアキがいるだけで楽しくなって・・・アキがいるだけで町が復興したんです・・・ただいるだけでそれができるって・・・アイドルってことじゃないですか・・・」
「そうね・・・」と静かに応じる鈴鹿。
「そうねって・・・無理に分ってもらわなくても結構ですけど」
「確かに・・・あなたの娘さんは・・・一緒にいて楽しいし・・・度胸もあるし・・・お顔だって・・・可愛いし」
「うわい」
「こんなだけど・・・アイドルの素質はあるかもしれません・・・でもね・・・お母さん・・・そんな子は五万といるんです。原石なんてゴロゴロ転がってる・・・そんな中で磨いて光るのはたった一個なんです・・・五万人のアイドルの卵がいてアイドルになれるのは一人ってことですよ・・・」
鈴鹿ひろ美は春子を諭すようにひとさし指をたてるのだった。
春子が中指をたてようかどうか迷った瞬間・・・。
店内に太巻が登場する。
その顔は鈴鹿に向けられている。
「じぇじぇじぇじぇじぇ」と叫ぶアキ。
「私が・・・呼んだの」と鈴鹿。
「はじめまして・・・天野アキの母親です」
春子の存在に気がついた太巻は・・・震える指先を腋の下に差し込んで押さえるポーズを作るのだった。
太巻は不意打ちを食らって動揺しているのだった。
因縁の遺恨合戦の開幕である。
もちろん・・・若い春子を影武者にしてしまった罪は太巻にあるが・・・太巻にも言い分はあるのである。太巻だってダンサーにはなれなかったし、春子がアイドルになれなかったことは責められても仕方ない・・・なにより・・・春子は共犯者であり・・・途中で悪事を投げ出した裏切り者でもあるのだから。
火曜日 三大怪獣史上最大の前哨戦~限りなく凶悪なママ(小泉今日子)
二十年前の決裂から今まで太巻に悔悟の日々がなかったとは断言できない太巻だった。
「荒巻です・・・太巻です・・・太一です」という自己紹介にも動揺があふれている。
その動揺は無頼鮨の大将にも伝播し、寿司は裏返しで皿に盛られるのだった。
お茶の間および・・・春子の猜疑の視線はともかく・・・大女優・鈴鹿ひろ美は窓に腰掛け、太巻の背後に陣取って・・・アキの母親には警戒心を持ちつつ、アキに対しては最大限の好意を示すのだった。
「どうして・・・クビなの・・・重大なペナルティーってなによ・・・天野さん、何やらかしたのよ・・・まさか・・・男じゃないでしょうね・・・やだあ・・・種市くん、天野さんがJリーガーとぉ」
暴走する鈴鹿を制止するように言葉を選ぶ太巻だった。
「私の・・・やり方に立てついたんです・・・事務所の方針に逆らったんですよ・・・事務所が売れないと判断したことを・・・やってみないとわからないから撤回しろですよ」
「なによ・・・そんなこと・・・ちゃん・・・ちゃらおかしい・・・売れるか売れないかなんて売ってみなくちゃ分らないでしょう・・・なによ・・・そんなに守りに入っちゃったわけ・・・太巻きさん・・・変わったわねえ・・・やりたいことをやりたいって言っただけで・・・クビなんてありえないわあ」
春子は鈴鹿が代弁者となっていることに半信半疑である。
春子にとって鈴鹿は分身であり・・・自分の声を奪った宿敵でもある。
たやすく・・・心は許せない。
それにしても・・・春子はなぜ、太巻に対して過去の罪を問わないかと訝るお茶の間もあるだろう。
しかし・・・春子は鈴鹿ひろ美を単に怨んでいるわけではない・・・ある意味では鈴鹿ひろ美の成功は春子の青春そのものであり・・・それを壊したり、汚したりしたくない気持ちも春子にあると思う他ないのだった。
「将来性のある子なら・・・耳を貸しますよ・・・しかし・・・娘さんは未知数だ・・・一度は解雇宣告を受けて繰り上げ当選で残った・・・いわばポンコツだ・・・GMTはポンコツとガラクタしかいない・・・そういう子たちの発言をまともに取りあげていたらビジネスにはならないんですよ」
「何だとこらっ」と気色ばむ春子。
しかし、それを制して笑う鈴鹿。
「ふふふ・・・確かにポンコツよね・・・NGも40回出すし・・・だけど地元じゃ凄い人気だって言うじゃない・・・まあ、お母さんの話ですけど」
「いえ・・・そんな・・・」と恐縮する春子。
「ふ・・・知ってますよ・・・二人で潮騒のメモリーを歌ってた・・・でも、欲しいのはもう一人の方だったんです・・・」
春子の娘と知るまでは明らかにそうではなかった太巻である。
「でも・・・水口さんは・・・ユイちゃんよりアキの方が有望だっておっしゃってましたけど」
「なに・・・」と水口を睨む太巻。
「いえ・・・二人ともです・・・二人とも有望だと思います」と逃げる水口。
「とにかく・・・娘さんの解雇は決定事項ですから・・・そもそもGMTそのものが・・・」
「天野さんをクビにするなら・・・私も辞めますから」と爆弾宣言をする鈴鹿だった。
「やめるって・・・あんた・・・もうとっくにうちの所属じゃないでしょう」
「女優よ・・・女優を辞めるのよ」
それがどんなダメージを太巻に与えるのか定かではないが・・・これだけは明確なのである。
アイドル女優・鈴鹿ひろ美の存在は・・・。
太巻にとっても・・・春子にとっても・・・アキにとっても犯してはならない聖域なのである。
「やめろっていっても・・・やめないくせに」と俯く太巻。
「なああああに?」
「わかりました・・・天野の解雇は撤回します」
「やった・・・」と素直に喜ぶアキ。
それを睨む太巻。
すべては・・・予知夢能力者・天野秋の・・・予知した通りなのだった。
春子と鈴鹿の対決の後で春子は笑い・・・そして鈴鹿は天野春子の荷物で生じた段差にけっ躓いて転ぶ宿命なのだった。
「痛い~」
「大丈夫ですか・・・」
お土産を持った酔っ払いのように・・・去っていく鈴鹿ひろ美だった。
それを送りに出る太巻に春子は一言告げるのだった。
「逃げんの・・・」
「話があるなら事務所までお越しください」
本題は完全防音の密室でなければできない相談なのである。
それは・・・春子も同じであったはずだが・・・春子の中で眠っていた凶悪な何かが目覚めていたのだった。
娘のピンチを救いにきただけのはずだったのに・・・太巻の姿を見た途端・・・古い傷口が開いてしまったようだった。
なにもかも・・・滅茶苦茶にしてやりたい。
春子は思わないでもないのだった。
しかし・・・その狂暴な何かは・・・元夫の正宗(尾美としのり)の顔を見ることで何故か鎮まるのである。
正宗はお見合いチャットをお楽しみ中だったのだが・・・春子の突然の来訪を心の底から歓迎するのだった。
「ただいま」
「おかえり・・・」
「鍵が昔のままでよかった」
「君が戻ってくるのを待ってたんだ・・・」
「チャットしながら・・・」
「あれはこれこれはあれだろう」
「だれよ・・・このブス」
「一体・・・どうしたんだ・・・」
「面倒だから再放送でチェックしてよ・・・なに・・・このカーテン・・・独身貴族?」
「独身だよっ」
その頃・・・スナック「梨明日」で大吉(杉本哲太)が泣いている。
カウンターではユイ(橋本愛)が何故か膝を抱えてニヤニヤしているのであった。
「ユイちゃん・・・歌ってけろ・・・おらのために・・・1984年のヒット曲を・・・」
「わかった・・・」と応じるユイ。
流れ出すイントロは・・・「悲しみがとまらない/杏里」・・・。
しかし・・・歌い出すのは弥生(渡辺えり)のお約束の展開あって・・・。
ともかく・・・順調に明るさを取り戻しているユイらしい。
世田谷の黒川家では・・・すっかりくつろぐ春子とアキだった。
「さっきの鈴鹿さん・・・なんか・・・夏ばっぱみてえだった・・・」
「どうかな・・・」
「似てるよ・・・鈴鹿さんと・・・夏ばっぱは・・」
「とにかく・・・あの人のおかげで解雇処分を取り消してもらえたんだから・・・感謝しないとね・・・」
おそらく・・・アキにとって・・・鈴鹿ひろ美は・・・「潮騒のメモリー」の海女なのである。
そのイメージが海女の夏ぱっぱと強く結びついているに違いない。
そしてそれは春子の「歌」によって増幅されているのだった。
アキが母親の秘密を守るのは・・・鈴鹿ひろ美がアキにとって「特別な存在」だからなのである。
一方で春子は・・・鈴鹿ひろ美に畏敬の念を抱きつつ・・・しかし、太巻がこのまま引き下がるとは思えない予感を抱くのだった。
「アキ・・・しっかりなさいよ」
「うん・・・おら・・・反省して・・・しばらく大人しくしてるだ」
「何言ってんの・・・そんなのダメよ・・・あんたはあんたのままでのびのびやりなさい・・・そのためにママが来たんだから・・・今回だってあんたは何一つ悪くない・・・みんな太巻の意地悪のせいなんだからね」
「なに・・・それ・・・」と口を挟む正宗。
「うるさいわね・・・なんでも説明しなきゃいけないの・・・かまってもらって当然っていう態度、あなたって根っからの一人っ子よね・・・なんかイライラするわ~」
「君だって一人っ子だろう」
「おらも一人っ子だ・・・」
一人っ子家族は・・・なんだか・・・悟ったように和むのだった。
翌朝・・・正宗はアキを奈落に送り届けるのだった。
「みんな・・・おら・・・帰って来ただ」
「アキ・・・」
「よかった・・・」
しかし・・・リーダーのしおり(松岡茉優)は見慣れぬ女の登場に警戒するのだった。
「あれは・・・新メンバー」と真奈(大野いと)・・・。
「・・・」警戒するオノデラちゃん(優希美青)・・・。
「あ・・・」と気がつくキャンちゃん(蔵下穂波)・・・。
「あれは・・・おらのママだ・・・」と紹介するアキ。
ホッとするGMT5・・・。
しかし・・・大きく飾られた太巻の写真をじっと睨みつけ春子は決意を秘めてふりかえる。
「何やってんの・・・レッスンでしょう」
春子にとって・・・自分のたどり着けなかったアイドルへと通じる道がある・・・この奈落は天国のようなものだったのだ。
五万人に一人の険しい道がその先に待っているとしても・・・。
水曜日 ゴジラがモスラを背中に青白い火を吐く摩天楼ブルース(優希美青)
四月なのか・・・五月なのか・・・定かではない春の中・・・春子はまだ見ぬ景色を求めて、着実な歩みを進めていた。
太巻は春子の真意を測りかねていた。
ダンサー崩れでありながら必死に芸能界にしがみつき・・・プロデューサーとして現在の地位まで上り詰めた太巻。二十年の間にどれだけの辛酸をなめたことだろう。勝利と敗北は・・・背中合わせである。音痴な担当アイドルのためには影武者さえ用意した太巻である。その影武者がたとえ・・・素晴らしい才能の持ち主だったとしても・・・使い捨てることを厭わない男。最初の成功を汚れた手段で獲得した男。だからこそ・・・鈴鹿ひろ美は彼にとって聖域だった。それからどれだけのアイドルを生み出し、どれだけの夢破れた少女たちを葬ってきたことか。その苦みを春子は知らない。汚れちまった太巻に今日も春子がまとわりつくのである。
「あの・・・東北のステージママはまだいるのか」
「はい・・・」と応える水口。
「最近では・・・他のメンバーにまで口出ししてるっていうじゃないか・・・」
「指導が適切なんで助かってます・・・なにしろ・・・売上総計100万枚超の影武者なんで・・・」
「おい・・・調子に乗せると・・・雑誌の取材に立ち会わせろとか・・・衣装を作れとか言い出すぞ」
「・・・もう言われました」
新しい衣装に身を包み、社長室になだれ込むGMT5・・・その可愛さは爆発寸前なのだった。
「社長ーっ・・・ありがとう・・・」
「うふふ・・・よかったね」とひきつった笑みを浮かべる太巻。
「アー写ってなんですか」
「アーティスト写真だよ」
「おらたち・・・アーティストだってえ」
「えへへへへへへ」
「わ~い」
嵐のように去っていくGMT5だった。
「これ・・・請求書です」と衣装代12万円を提示する水口。
「あの・・・薄汚いシンデレラの娘めえ」(1985年の小泉今日子初主演ドラマ「少女に何か起ったか」(増村保造・監督・脚本)の登場人物・川村刑事(石立鉄男)のセリフの引用、七月三十一日は彼の誕生日だった・・・)とサイフから現金を取り出す太巻。その瞳に過去が去来する。
嘘の苦手な女は罪だね
傷つくことだけ上手くなるから
摩天楼ブルース
Oh Baby Baby Blue
アーティスト写真の撮影担当はヒビキ一郎(村杉蝉之介)である。
GMT5にジャンプしてパンチラを要求するヒビキだった。
「みんな!エスパーだよ!のボックス販売も決まったんだ・・・時代はパンチラだっ・・・」
「それは三年後の出来事なのでは」
「オノデラちゃん・・・君・・・いくつ」
「15歳です」
「俺は・・・48歳だ・・・俺の気持ちに負けるな」
「はい・・・」
「GMT」
「5」
「よし・・・ナイスショット」
珍しく撮影に立ち会う太巻・・・。春子の真意を測りかねてストレスがたまっているのであった。
「こうなりゃ・・・思い出作りだな・・・デビューさせて・・・深夜の歌番組に一回くらい出せば・・・あの女も納得してくれるかもしれん・・・」
「はあ・・・」と応える水口。
「そうだ・・・一万枚売れなかったら解散させるってことにしよう」
「え」
「売れるもよし・・・売れなくてもよしだ・・・うふふ・・・」
あくまでもビシネスに徹しようとする太巻だが・・・その本音は不明である。
アキの魅力を感じながら・・・それを否定したい気持ちが懊悩として表われる演技であるようだ。
太巻の中にも眠っている何かがあるのである。
それは・・・最初の録音で春子の才能に感じた若き日の自分なのか。
それとも・・・鈴鹿ひろ美のアルバム収録を拒否した若き日の春子への怨みなのか。
長い歳月はそれらの感情を圧縮し・・・太巻自身にも分らないのかもしれない。
夢のようなGMT5のステッカーを持って純喫茶「アイドル」にやってきたアキ。
しかし、マスターの甲斐さん(松尾スズキ)の表情は冴えない。
「じゃ・・・」と立ち去ろうとするアキ。
「ちょっと・・・待ってよ・・・あの人たち・・・どうするの・・・さっきから30分も沈黙していて・・・変なムードなんで・・・吐きそうなんだけど」
テーブル席には・・・春子と正宗と大吉と安部ちゃん(片桐はいり)が着席していた。
「なんで・・・来たのよ」
「北鉄で・・・」
「そうじゃなくて・・・何しにきたの」
「それゃ・・・春子を連れ戻すためだっぺ」
「春子・・・」
「・・・」
「俺たちバツイチ同士だ・・・問題ないべ」
「それだったら・・・俺と安部ちゃんだって結婚・・・しないけど」
「あらん」
「じゃ・・・皆さん・・・ごゆっくり」と鈴鹿ひろ美のものまね笑顔その1をして立ち去るアキだった。しかし、大将の小林薫のものまねのものまねのようにも見えるのだった。
「とにかく・・・言ったでしょう・・・アキを応援するために・・・側にいたいの・・・あの子に私の見れなかった景色を見せたいの」
「いつ・・・帰るんだ」
「さあ・・・二~三ヶ月か・・・」
「俺には・・・二~三年って」
「そんなにか・・・」
「とにかく・・・・私には・・・やり残したことがあるのよ・・・」
「わからねえ・・・」
「マスター・・・何とか言ってよ・・・」
「オノデラちゃん・・・立ち位置変わったよね」
「・・・」
「春ちゃんが・・・やり残したことってなんだろうね」
「それは・・・」
春子は口にはしないが・・・アキにはそれが・・・自分がアイドルとしてデビューすることだと思っていた。そして・・・それをプレッシャーとして感じていた。
しかし・・・春子の目標はそんなものではないだろう。ミリオンセラー。武道館公演。紅白歌合戦出場・・・それかせ最低でも譲れない一線なのだろう。
春子は見果てぬ夢を見ているのだった。
春子にとってはそれほどまでにアイドルは聖域だった。だから鈴鹿ひろ美の聖域を犯すようなことはしない。なぜそれが太巻には分らないのか・・・春子には疑問だった。
失意の大吉は安部ちゃんと無頼鮨のカウンターについていた。
「私も・・・疲れちゃったべ・・・まめぶに対する都会っ子の警戒心は半端じゃねえ・・・まさか・・・ケバブに負けるとは思わなかったし・・・今年の夏は北三陸に戻って久しぶりに潜りてえ・・・」
「帰ってくればいいべ・・・でも、別々に帰ろう」
「なして・・・」
「だって・・・春子さ連れて帰るってブティック今野でスーツ新調してきたのに・・・連れ帰ったのが安部ちゃんじゃ・・・まるで豆腐を買いに行って電池買って帰るみたいだべ・・・」
「・・・」
「ああ・・・もう深夜バスの時間だ・・・お勘定してけろ」
「もう・・・いただいてます」と応じる種市。
そこへ・・・アキが到着する。
「なんだ・・・大吉さん・・・まだいたのか・・・鈴鹿さん、遅くなってごめんしてけろ」
「いいのよ・・・私も今ついたところだから」
「じぇじぇじぇ・・・鈴鹿さん・・・ファンです」と田舎者丸出しで握手を求める大吉だった。
その図々しさに顔をしかめつつ笑う鈴鹿ひろ美だった。
さらに・・・大吉は北三陸の男たちに鈴鹿ひろ美との同席を自慢するのだった。
スナック梨明日のカウンターには吉田(荒川良々)が入り・・・菅原(吹越満)、いっそん(皆川猿時)、組合長(でんでん)、あつし(菅原大吉)ら男だらけの悪酔い大会が開催中だった。
「そんなこと言ってウソだべ」
「本人出してみろ」
「おらはファンクラブのひろ美ッコクラブさ入会してたから一発でわかる」
「本人なら潮騒のメモリー歌え」
「愛のメモリーさ歌え」
「愛のメモリーは大島渚だべ」
「そりゃ愛のコリーダだべ」
「愛のお・・・あま・・・」
田舎者の醜悪さが極まるのだった。ある意味、自虐の詩だった。
本当は東京生まれのアキはさすがに申し訳なく思いあたふたするのだった。
無言であたふたするだけで可愛いなんてもはや神がかっている。
春子は黒川家に居候の身となったがアキは寮での暮らしを続けていた。
仲間たちと過ごすことを何よりも大切に思っているアキなのだった。
アキにとってはすべてが思い出作りなのである。
朝食時に水口は・・・太巻からのメッセージをGMT5に伝える。
「まさか・・・解散じゃないでしょうね」と冗談めかして・・・マジで怯えるリーダー。
「もしかして・・・アキちゃん、またなんか」とのる真奈。
「おら・・・なにもしてねえ」とアキ。
「みんなのデビューが決まりました」
「わーい」と狂喜乱舞するGMT5だった。
喜びにわくメンバーに「ただし・・・1万枚売れなかったら解散」を伝言できない水口なのである。
嘘のつけない男は哀しい
サヨナラ言えずに愛をつぶやく
摩天楼ブルース
Oh Baby Baby Blue
少女たちの春はゆっくりと確実に過ぎていくのだった。
木曜日 地元に帰ろうって言ってみたかったな(橋本愛)
テレビでは太巻が・・・「GMT5のデビュー曲、地元に帰ろう・・・の発売が決定しました・・・発売一週間で一万枚売れなかったら・・・解散・・・彼女たちは地元に帰ります」・・・と語り、驚くアキの画像が放送されていた。朝の情報番組の芸能フラッシュらしい。
アキは自宅に報告に来ていたらしい。
「馬鹿馬鹿しい・・・アメ女のデビューの時と同じ手法じゃない・・・同情買って売ろうって作戦・・・こんなの茶番だわ・・・アキ、間違っても土下座なんかしないでよ」
いざとなったら土下座をしようと考えていたらしいアキは挙動不審になるのだった。
しかし・・・すでに・・・テレビの芸能ニュースで娘のデビューが報じられていることがうれしい春子なのでした。
そして・・・レコーディング当日がやってきた。
「今日は・・・お母さん来てないよな」と聞くも愚かな質問をする水口。
「あ・・・呼んだらまずかったですか・・・」とアキ。
春子はすでにスタジオでマイクチェックをしているのだった。
「あ、あ、あ~・・・じゃ、そろそろ・・・いってみようか・・・みんな、入って~」
茫然とする水口だった。
そして・・・調整卓にレコーディング・ディレクターの如くすわる春子。
「ちょっと・・・太巻はどうしたのよ」
「今日はアメ女が群馬でコンサートしてまして」とチーフ・マネージャーの河島(マギー)・・・。
「今、こっちへ向かってます」と水口。
「じゃ・・・始めちゃっていいのね」と春子。
消しゴム付き鉛筆で指示マイクをオンにするいかにもな手際である。
「じゃ・・・軽く録ってみようか」
歌い出しはオノデラちゃんである。
地元に帰ろう
続いて真奈。
地元で会おう
そしてリーダー。
あなたの故郷 私の地元
さらに・・・キャンちゃん。
地元 地元
ついに・・・アキ
地元に帰ろう
GMT5は夢にまでみたデビューに王手をかけたのだった。
レコーディングは順調に進む。
なんだかんだ・・・一年近くレッスンをしてきたメンバーなのだった。
しかし・・・アキはやはり・・・NGを出すのだった。
「私の~のメロディー全然違うから・・・ちょっと歌ってみて」
「私の↗」
「ほら・・・違うでしょ」
「私の↗」
「それじゃ・・・お墓の前で泣く奴になっちゃうじゃん」
「天野のお母さんって音楽畑の人だったのか」と河島。
一瞬躊躇して「いえ・・・スナックのママです」と応える水口。
「ああ・・・そうだよね」
「の↘」
「の↘」
「そうそう・・・できるじゃない」
「私の↗」
「お墓の前で泣かないでくださいって・・・わざとなの」
結局、「の↘」だけで30回NGを出したアキだった。
レコーディング終了後、早速、ラーメンの屋台前で電話して夏に愚痴るアキだった。
「それは・・・災難だったな」
「笑いごとじゃないべ・・・厳しすぎるべ」
「春子はどうした」
「パパが迎えさ来て、家に帰った」
「そうか・・・二人は上手くやってんのか」
「ヨリを戻さねえとか言ってる割に仲良しだ」
「夫婦のことは親でも子でもわかんねえからな」
聞き耳を立てる大吉だった。
「そっちは変わりねえか・・・」
「うん・・・あるな・・・ユイちゃんさ・・・変わるべ」
「なじょした・・・ユイちゃん・・・」
「私ね・・・今年の夏は海女さんやることにしたの」
「じぇじぇじぇ」
聞き耳を立てる種市だった。
アキの後輩たちも頑張っていたがカリスマ性にかけると海女たちが話しているとユイが乗ってきたのだという。すでに・・・ユイのポスターも完成し、早くも盗まれているらしい。美寿々(美保純)やかつ枝(木野花)が口々に説明する。
「どうだ・・・アキ・・・ジェラシーを感じるか」と弥生。
「ユイちゃん・・・無理してねえか」
「無理してないと言えばウソになるけど・・・少しは無理しないと変われないから」
電話を変わってほしそうな種市に意地悪をするアキだった。
「うん・・・お互いにがんばろう・・・」
漸く電話を変わるが相手もいっそんに変わっていた。
「じぇ」
「こら、種市」
意地の悪い笑みを浮かべるちょっと腹黒いアキだった。
やはり・・・種市とユイについてはまだまだ怨むところがあるらしい。そこは母親譲りなのだった。
レコーディングが終わり・・・無頼鮨でGMT5だけのお祝いをする五人。
そこへ・・・アユミ(山下リオ)もかけつけるのだった。
アユミは妊娠五カ月だった。国民投票の頃には妊娠していたという話から・・・今はまだ四月らしい。この辺・・・かなりルーズに時は流れている。
高校生のオノデラちゃんは・・・「赤ちゃんと一緒にコンサートに来てくれたらうれしいね」と初々しく語る。
「それまでに解散してたりして」とキャンちゃん。
「そんなことないよ・・・ずっとずっと一緒だべ」とむきになるオノデラちゃんだった。
アキはそういう時間を噛みしめて・・・不思議な気持ちになる。アユミさんはもうすぐママになる。アイドルになりたかったユイちゃんが海女になる。海女だったアキがアイドルになろうとしている。思えばおかしなことばかりなのである。
真奈は追加注文をする。
アキはお勘定が心配になる。
しかし大将は「出世払いでいいよ」と微笑むのだった。
アキは鈴鹿ひろ美のものまねその2で感謝の気持ちを伝えるのだった。
お茶の間の半分はその可愛さにゲル化したのである。
しかし・・・その頃・・・密着取材番組「プロダクトA」のスタッフを引き連れた太巻がスタジオに入る。
「週刊時代」の壇蜜のような素人女性(小蜜こと副島美咲)の袋とじを開きながら・・・「地元に帰ろう」を聞き流す太巻。
「どうでしょう」と水口。
「普通だな」
「普通と申しますと」と河島。
「よくもなければ悪くもない・・・これじゃユーザーは金ださないぜえ・・・意外とクレバーなんだせ」と2010年の流行に乗ってワイルドに決める太巻だった。
「じゃ・・・メンバーをもう一度集めて」
「そんな時間ないよ・・・最終で上海に行くんだから・・・ここからが太巻マジックだ・・・」
太巻は何やら音源の加工処理を始めるのだった。
翌朝・・・黒川家に届くバイク便の「地元に帰ろう」の完成版。
喜び勇んで視聴した春子の顔は曇り、注いでいたコーヒーはあふれだす。
「なんじゃ・・・こりゃ・・・」
お寿司を「おすす」と言ってた私
第二ボタンは 捨てました
腹いせに
・・・おそらく太巻がよかれと思ってした何かが春子の逆鱗に触れたらしい・・・。
結局・・・二人のボタンはかけ違う宿命なのだろうか・・・。
金曜日 メカゴジラVSモスラ 奈落の大決闘 史上最悪のママ(大野いと)
「新しいアイドル・グループが誕生しようとしていた・・・その名はGMT5・・・天才プロデューサーは彼女たちに生命を吹き込んでいた」とナレーター(田口トモロオ)が語る密着型ドキュメンタリー「プロダクトA」・・・。
太巻が成功した音楽プロデューサーならば、春子は栄光なき天才アイドル歌手だったと言えよう。
二人は水と油である。太巻がキー(音程)をあえて外せば、春子は正しいキーを求める。
太巻が地元感を求めれば、春子はキャンちゃんの沖縄感を強制しようとする。
どちらが正しいという問題ではない。意外を求めれば普通にたどり着き、普通を求めても意外でしかないのが世界というものだ。
ただ一つ違うのは太巻はそのことを認識しているが、春子はそのことを認識しない。
なぜなら・・・春子は天才とは紙一重のアレだからである。
だからこそ・・・太巻は春子に負い目を感じる。
春子が「秘密の暴露」をするのではないか・・・と怯えながら・・・結局は「地元に帰ろう/GMT5」を売る努力をしてしまうのである。
素朴な素材を加工して奇妙な味わいを生み出す。太巻にとってはそれはプロとして当然のことであった。
しかし、そういう理屈はアレの人には一切通じないのが普通である。
2010年の春子の本心は自分がアイドル歌手になりたいのである。
アイドル歌手になってちやほやされたいし、娘がヌードになるなら自分もヌードになる覚悟なのである。
しかし・・・もはや自分がアイドルとしては年齢制限を越えている自覚はあるらしい。
だから・・・激しく燃える嫉妬心を抑えながら自分の娘を晴れの舞台に立たせたいと妥協しているのである。
そこまで・・・妥協しているのに「娘の声を加工処理するとは何事なんだ」・・・もはや、春子の1989年~2010年に降り積もった怨念を制御することは本人にもできないのだった。
「君は沖縄だろ」
「佐賀です」と真奈ちゃん。
「佐賀だろ・・・佐賀感をもっと出して・・・地元のパッションを感じさせて・・・」
GMT5のダンスを磨きあげる太巻にはもはや陰謀の色はない。
そこへ・・・あの日から時間の止まった春子が乱入してくるのだった。
「これ・・・取り直してよ」
「なんで・・・」
「こんなの誰が歌っても同じじゃない」
「君はパピヨンとかPerfumeとか全否定するのか」
「しないわよ・・・ただ嫌いなだけ」
「慈善事業じゃないんだ・・・これはビジネスなんだ」
「歌い手の意志を尊重しなさいよ・・・」
「最終的に判断するのは私だ・・・そういえうシステムだ」
「アキはどう思ったの」
「おらは・・・ちょっとへんだなって」
「ほら・・・へんだって言ってるじゃないの」
「だけど・・・みんなはかっこいいって近未来的だなって」
「・・・あっそう・・・これがいいって思う人もいるんだ・・・ああ、そうなんだ・・・でも・・・ライブはどうすんの・・・得意の口パク」
「・・・」
「うちの娘を鈴鹿ひろみと一緒にしないでよ」
「ざわざわ・・・」
「止めろっ・・・いいか・・・ここは絶対に使うな・・・絶対にだぞ・・・大人しくしてればつけあがりやがって・・・このアマ・・・素人が神聖な現場にズカズカあがりこんで・・・なにしてくれてんねん。いいか・・・GMT5は企画倒れだ・・・このままじゃ・・・ビジネスにならへんのや。そうやさかい・・・こっちは出来る限りのことしてんのやで・・・なんで・・・君は・・・僕のやることを邪魔ばかりするんだ・・・」
太巻の中で・・・春子の凶悪さが増幅する。
「それは・・・こっちのセリフよ・・・なんで・・・あんたはそんなに器が小さいの」
太巻は春子の憎悪の中に一片の悲しみを見出す。
それは・・・太巻のピュアなハートを激しく揺さぶるのだった。
初めて・・・天才アイドルの歌声を聞いた・・・あの時の感動。
そして・・・それを利用して踏み台にしてのし上がった自分の現在。
太巻は一瞬・・・言葉を失うのだった。
「普通に歌って普通に売れるものを作りなさいよ」
春子はすべてを破壊する呪詛の言葉を吐きつつ・・・アキの手をとるのだった。
「アキ・・・帰るわよ」
立ちつくす・・・太巻。
(これでいいのか・・・なにもかもぶちこわして・・・気がすむのか)
シアターの出口でようやく春子の手を振り切るアキ。
「離してけろ・・・」
「アキ・・・」
茫然と娘を見返す春子。
春子は誰かに追いかけてほしかった。しかし、プロの世界の基本は「去るものは追わず、来るものは拒まず」なのである。
夏もそうだし、鈴鹿もそうだし・・・太巻もそうなのだった。
しかし・・・春子は常に嘘でもいいから追いかけてほしい女なのだった。
「ママの気持ちは分かる。でも・・・これは・・・おらの問題だ。これでもおらは・・・一生懸命・・・みんなと頑張ってきたんだ・・・それを簡単に捨てることはできねえ・・・少し、考えさせてけろ・・・」
春子は・・・混乱して・・・娘を縋りつく眼で見る。
背後には水口とGMT5のメンバーが追いかけてきていた。
だが・・・春子に微笑み返すアキ。
「わかった・・・どうしてもダメなんだな」
「ごめん・・・アキ・・・あなたが私の娘じゃなかったら・・・これはこれでいいのかもしれないけど」
「いいよ・・・だって・・・みんなと出会う前からおらはママの娘だべ」
「アキ・・・」
アキはふりかえり仲間たちに別れを告げる。
「アキ」と叫ぶ真奈ちゃん。
「ずっと一緒にやるって約束したばかりじゃない」とオノデラちゃん。
「すまねえ・・・だどもおらは42位の繰り上げ当選だ・・・代わりはきっといるべ・・・」
「あたしは41位の繰り上げだけどね」とリーダー。
キャンちゃんも何か言いたいが言葉にならないのだった。
「水口さん・・・おらは今度こそ・・・本当にやめるだ・・・でも、太巻さんにつたえてけろ・・・GMTを見捨てないでデビューさせてけろって・・・」
土下座をするアキだった。
その肩に手をおく水口・・・。
「わかった・・・わかったから・・・」
「絶対だぞ」
立ち上がり、踵を返したアキはふと立ち止まると自分のネームプレートを静かに外しておくのだった。
母と娘は上野の地を後にする。
「このままじゃ終わらないからね・・・アキを絶対アイドルにしてやるからね・・・アキをクビにしたことをあいつに絶対後悔させてやる」
(クビじゃなくて・・・自分でやめちゃったんだけどな・・・)という言葉を飲みこむアキだった。
興奮している春子に何を言っても無駄だと悟っているからである。
しかし・・・水口は高揚感に支配されていた。
プロのビジネスマンは終ったことを振り返らない。すでに・・・アキの抜けた穴を埋める素材の選考を開始している太巻。
「お前も・・・手伝え・・・天野の代わりを早急に・・・佐賀牛と仙台牛がいるからついでに三重県の松坂牛を・・・」
「いません・・・天野の代わりなんていません」
叛旗を翻した水口を睨みあげる太巻・・・。
馬鹿にしないでよ そっちのせいよ
ちょっと待って Play Back, Play Back
そして・・・すべてはリセットされるのだった。
土曜日 マジンガーZVSモスラ+タクシードライバー~新たなる旅立ち(中田有紀)
原宿の純喫茶「アイドル」ではアキがアルバイトを始めていた。
テレビでは司会者(中田有紀)の質問に鈴鹿ひろ美が答えていた。
「ええ・・・付き人の子がやめちゃって・・・西瓜のチャージもできなくて」
「かわいいねえ・・・鈴鹿ひろ美さんは・・・スイカの発音が西瓜だし」とマスターの甲斐さん。
「原宿か・・・なつかしいよな」とただ一人の客である水口はコーヒーをすする。
「バンドやってた頃・・・明治通り沿いのライブハウスに出たこともあった」
「バンドやってたのか・・・」仕方なく、水口の相手をするアキだった。
「うん・・・バースデイ・オブ・エレファントっていう・・・」
「象の誕生日か」
「うん・・・チバユウスケがあーだこーだで・・・THEE MICHELLE GUN ELEPHANTってバンドがなんたらかんたらで・・・The Birthdayを結成して云々・・・」
(退屈だ・・・)とアキは思う。(せめて普通のお客さんが来てほしい)と願うのだった。
「で・・・太巻さんに拾われて・・・GMTの立ち上げのリーダーに抜擢されて・・・」
「おらの伝言・・・ちゃんと伝えてくれたか」
「うん・・・」
あの時、「アキの残留」を主張した水口。「アキがいなければGMT5は絶対に成立しない。そんなこともわからんようになったのか」とネクタイをつかませない距離を保持しつつ逃げ腰で太巻に挑戦した水口。しかし、太巻は「絶対だな・・・よし、わかった・・・売ったろやないかい。一万と言わず・・・十万売ったる。十倍返しやっ。目にものみせてくれるわっ」と啖呵をきったのだった。
「だから・・・結局・・・GMT5はデビューできます・・・予算の関係でアキちゃんの声はそのまま残るけど・・・ごめんね・・・ロボットみたいな声で・・・」
「声だけか・・・ママと同じだな・・・」
「本当にすまない」
「いろいろあって・・・楽しかったな」
「結局、俺は干されちゃったけど」
「なら・・・琥珀でも掘りに行くか・・・勉さんに電話するべ」
「いや・・・そういえば・・・ユイちゃんはどうしてるの」
「ユイちゃんは夏に海女ちゃんになるって」
「じぇっ」
「いいなあ・・・おらも潜りてえ・・・」
「潜ればいいじゃない」
「いや・・・やめとくべ・・・ユイちゃんが・・・一人でがんばってるのに・・・邪魔はできない。おらもママを信じてもう少しこっちでがんばらねえと」
「なれるよ・・・アキちゃんはきっとアイドルになれる。っていうか、もうアイドルだよ。アキちゃんがいると自然と人が集まってきて・・・みんな笑顔になって・・・アキちゃんにはアイドルの素質っていうか・・・才能がある証拠だよ・・・いつでもどこでも何をやってもアキちゃんはアイドルなんだよ・・・」
熱く語る水口だったが・・・甲斐さんはアキがとっくに電話中で話を聞いていたのに気がついていた。
「うんうん・・・ちょっと待って・・・変わるから・・・」
「ユイちゃん?」
「勉さんだ・・・」
「・・・悩んでるんだってな・・・来いよ・・・琥珀が待ってるぞ。たとえ俺が死んでも琥珀は悠久の時の流れを越えてお前を待ってる。すぐ来い・・・深夜バスで来い・・・」
電話の向こうではすっかり明るくなったユイが交替を要求していた。
「もしもし・・・」
「ユイちゃん・・・」
「アキちゃんに替って・・・」
水口は素直にアキに携帯電話を返した。
「ユイちゃん」
「アキちゃん・・・今ね・・・プールで練習してきた・・・まだ1分潜れないけど・・・磯野先生に褒められた・・・」
「そうかあ・・・おらも負けてらんねえなあ」
「大丈夫・・・アキちゃんは必ずアイドルになるよ。っていうか、もうアイドルだよ。アキちゃんがいると自然と人が集まってきて・・・みんな笑顔になって・・・アキちゃんにはアイドルの素質っていうか・・・才能がある証拠だよ・・・いつでもどこでも何をやってもアキちゃんはアイドルなんだよ・・・」
「うひい」
ユイちゃんの言葉はアキを泣かせるのだった。
「私が言うんだから間違いないよ」
「ありがとう・・・ありがとう・・・ユイちゃん」
二人の友情パワーは完全に復活したらしい。
「アキを必ずアイドルにする」と誓った・・・春子は家事をしていた。
雛鳥の巣立ちを前に警戒心をあらわにした親鳥のように殺気だったことも忘れて・・・日常に流されている春子。
食卓で春子はサヤエンドウの筋をとっている。
ソファでアキはタブレットを操作している。
その隣で正宗はパソコンを操作している。
静かな生活・・・。
静寂のマイホーム。
その時、床に落ちたサヤエンドウが音をたてた。
「えええええええ・・・・やばいやばい・・・なにやてるの・・・私・・・家事やってる場合じゃないじゃん。なにこれ・・・亜空間なの・・・2008年から2010年は消えちゃったの・・・ふりだしにもどっちゃったの・・・アキ・・・あんた何してんのよ・・・アイドルになるんじゃなかったの・・・」
しかし・・・アキはピアノモードで音感の一人レッスンをしていたのだった。
「アキ・・・」
「私の↘」
「偉いね・・・アキ・・・がんばってるね」
思わず、アキの頭を撫でる春子だった。
「あなたは何をしてんのよ」
正宗は・・・アキのプロフィール入りプロマイドを作っていた。
「あまちゃんですが・・・お仕事ください・・・東京都出身・・・特技・東北弁、ヘルメット潜水・・・」
「なによ・・・これ」
「タクシーの後部座席のポケットに入れて宣伝にしようかと・・・」
「なによ・・・もう・・・私に相談してよ・・・」
春子の心に爽やかな風が吹いてきた。
「わかった・・・」
「・・・」
「やろう・・・会社作っちゃおう・・・」
「・・・」
「所属タレント・天野アキ・・・社長は私の芸能プロダクションよ」
「僕は・・・」
「運転手に決まってるでしょ」
「まあ・・・そうだね」
こうして・・・(・jjj・)/ でおなじみ・・・スリーJプロダクションが設立され発足したのだった。
2006年、会社法が施行され・・・最低資本金制度は廃され・・・会社が作りやすい時代に突入していたのである。
ドラマはラストスパートに入りました。
曲は・・・どうすんだ。「潮騒のメモリー」「暦の上ではディセンバー」「地元に帰ろう」に続く四曲目があるのか。いや・・・ひょっとして五曲目も。
か、稼ぐなあ。そして、紅白はあまちゃんオールスターズなのか。
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