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2013年8月24日 (土)

夏の夜の戦慄~悪霊病棟(夏帆)

恐怖の原動力とは緊張と緩和である。

恐怖から逃れようとすればするほど緊張は高まっていく。

コップの中の水が滴によって増量し、表面張力によってこぼれ出す寸前までみなぎる時、恐怖はこれ以上なく高まっていく。

静から動へ転換するのと動から静へと転換するのは実は同じことである。

緊張が限界に達し、恐怖から逃走したものを新たな恐怖へと誘導することが恐怖の源泉となる。

逃走の果てに疲労し、力尽き、諦念したり、逃走経路が途絶え、行き止まったりと形は変わっても勢いは同じにしなければならない。

緊張の緩和は常に新しい緊張の始りなのである。

緊張感の継続のためにはその状況を明確にすることが大切である。

恐怖からの逃走中には距離感が非常に大切となる。

距離と速度と時間経過が明らかにされ、タイムリミットが限りなくゼロに近付くことが望ましい。

エレベーターの階数表示、廊下の長さ、出入り口の配置関係、存在を示す影や物音の高まり、心の声がつぶやきやささやきとなる時の案配、階段や通路の明暗、そうしたもののあらかじめの提示などが重要な要素となる。

それらはすべて綿密な計算によって行われなければならない。

逃走経路が明らかになってこそ、そこに緊張が生まれ、脱出の希望が途絶えるから絶望という緩和が訪れるのである。

戦慄はその緊張と緩和の節目に生じるのだ。

で、『病棟~第5号室』(TBSテレビ201308230058~)脚本・酒巻浩史(他)、演出・鶴田法男(他)を見た。正攻法の恐怖が「死」によるものだとすれば奇襲法は「不死」による恐怖である。「死」は恐怖の源泉であるが・・・「死」によって安寧を得られるという矛盾を抱えている。それを補うのが「不死」である。ただし、それは「邪悪な不死」であることが求められる場合が多い。もちろん、「神の不死」も倦怠による嫌悪感が生じるが、それはある意味で高等な思惟を要するものなのである。直接的な恐怖のために「邪悪な不死」が望ましい。「邪悪な不死」の恐ろしい所は死んでも苦しみが終わらないことである。

つまり、「死霊」の誕生である。

その古典として「ドラキュラ伯爵」を代表とする吸血鬼の群れがある。それは伝染病の恐怖にも似ている。吸血鬼の犠牲者は吸血鬼としておぞましい死後を生きなければならない。さらには「主」への奴隷的服従が精神的苦痛を高めるのである。

「死霊」の凶暴なるものが「ゾンビ」である。アンデッドでありながら・・・知性を失ってしまうというところがおぞましいわけで・・・さらにゾンビに捕食されることは生きたまま食われる恐怖と逃れてもゾンビによって噛まれればゾンビ化という二重の恐怖が約束されている。

「幽霊」はそれに比べれば優美と言えるだろう。そこには「復讐心」や「愛の執着」など、人間的な要素が残留する。

「怨霊」にとりつかれたものは・・・惑わされ、地獄への道連れとなったりするわけである。

これに対し、「妖怪」はある意味で最初から「不死」のものが「生」を得た状態である。

無機質の有機体化とも言える現象によって「もの」が化けるのである。

それぞれの「邪悪な不死者」はそれなりに恐ろしいが・・・あまり混在させると馬鹿馬鹿しくなったり、ユーモアを生じさせて、本来の恐怖からは遠のく。

ホラーコメディーである「天魔さんがゆく」はこの辺りを軽妙洒脱についてくるのだが・・・本格ホラーである「悪霊病棟」にはそういう路線は好ましくないのである。

「霊能力者」という存在はある意味でジョーカーなので扱いに注意が必要なのである。

「霊感」が強いから見える「幽霊」が誰にも見えるようになると「霊感」そのものが疑わしくなるからである。

その「力」の強弱のコントロールは意外に難しいのである。

一話完結的な構成による希求から時間を遡上することはよくあるテクニックだが・・・安易に使えば説明のための説明が過剰になる。この作品ではすでにアウトだと考える。どうやって死んで、どうやって幽霊化されたのかを説明されて・・・本当に恐怖を感じられますか。

一人暮らしを始めた尾神琉奈(夏帆)は二十四歳の看護師である。

かって事故死したクラスメート・サエコの幽霊を見たことがある。

幼い頃に母親を病死で失って以来、瑠奈は霊的現象を幻視する精神的な病にかかってしまったと父親はいい、彼女は精神科で治療を受ける。

それによって琉奈は「おそろしいもの」を見なくなったのである。

しかし・・・新しい勤務先の隈川病院では琉奈の周囲の人々が「おそろしいもの」を見るようになったのだった。

琉奈も旧病棟の最上階に誘導されて封印された隠し部屋に入って以来、院長の息子である隈川朝陽(大和田健介)と同じ悪夢を見るようになっていた。

さらに・・・琉奈の姿は入院患者の元カメラマン石川勲(高橋長英)の撮影田した写真に念写され心霊写真となってしまう。その直後に石川は容態が急変し死亡する。そして琉奈はその幽霊を目撃する。後輩ナースの鈴木彩香(川上ジュリア)は石川が琉奈に呪い殺されたのではないかと疑い始めるのだった。

琉奈の中学校以来の親友である坂井愛美(高田里穂)は三流のテレビ番組制作会社に勤務していた。丑寅プロダクションというその会社に所属する三流のディレクター・斑目和也(鈴木一真)は心霊番組で起死回生を狙っていた。

斑目は愛美に命じて「呪われた病院」と噂される隈川病院について琉奈から情報収集しようとするが・・・そういうことにナイーヴな琉奈は情緒が不安定になってしまう。

愛美は友情から・・・琉奈からの取材を諦めるが・・・斑目が石川を取材したことを知り、彩香が情報提供を申し出るのだった。

取材のためのインタビューに答えた彩香は怯えて泣きながら「あの人が病院に来てからおかしくなったんです・・・血だらけり女生徒の幽霊を見たり・・・心霊写真とか・・・石川さんはあの人に呪い殺されたのではないかと思うのです」と訴えるのだった。

常軌を逸した彩香の証言に愛美は不審を感じる。

そんな時、愛美の携帯電話には「久しぶり」とサエコからメールが着信する。

「琉奈・・・あなたに変なメール・・・届いてない」

「変なメール・・・」

「いいの・・・きっと悪戯か・・・なにかの勧誘ね・・・」

琉奈の精神状態を慮って通話を打ち切る愛美。

深夜の社屋で残業する愛美は編集中の取材素材に琉奈の顔が映り込んでいることに戦慄を感じる。

あわてて、編集中のパソコンの電源を落とす琉奈。しかし、電源は落ちず、「あの人がきてからおかしいんです」という彩香の言葉が繰り返される。

「呪い殺され」「殺され」「呪い」「のののの」「のろ」「のろい」「のろい」「のろい」

何事か・・・超自然現象が起こっていると感じた愛美は逃走を開始する。

社室を出た愛美はエレベータに向かうが・・・突然、停電が発生する。

しかし、エレベーターは動いている。

着信「今、三階(サエコ)」

着信「今、四階(サエコ)」

琉奈と愛美とサエコの関係は不明だが・・・とにかく死んだクラスメートの「霊」の存在を感じる愛美はパニックに襲われる。

何者かから逃れようと社室に戻って施錠する愛美。

しかし、何物かは扉をたたく。

「いや・・・・助けて・・・」

愛美は社室の奥へと逃げる。

しかし、行きどまりである。

「警察・・・」

社内電話をとりあげる愛美。

しかし、受話器から聞こえるのは女の声だった。

「なんで・・・逃げるのお」

「・・・サエコ」

バタリとドアが開く。

追い詰められた愛美は窓を開ける。

そこに・・・空中に浮かぶサエコの姿があった。

「ああああああああ」

絶叫する愛美。

一瞬後、愛美は路上に落下して衝撃音を響かせ、ほろ酔い加減の通行人を驚愕させる。

病院に救急車が到着し、運び込まれる急患が愛美と知った琉奈は我を失う。

ふと気がつけば・・・入口に血まみれの愛美が佇んでいた。

「愛美」

ふりむく愛美。滴り落ちる血と風に乱れる長い髪。

その背後から手が現れる。

愛美ははがいじめにされていた。

愛美を拘束しているのはサエコだった。

「やめて・・・愛美を連れて行かないで・・・」

あわてて駆け寄る琉奈。

しかし・・・愛美とサエコは闇に吸引されていく。

「愛美・・・」

琉奈は茫然と立ちすくむ。

母の死。霊能力。サエコの幽霊。琉奈の心霊写真現象。旧病棟の隠し部屋。共有される悪夢の中の黒い歯の女。石川のショック死。愛美の墜落死・・・。

猫背のナースは・・・人なのか・・・それとも・・・何か邪悪なものなのか。

愛美・・・早々と殺すには惜しい美少女でした。

主人公出番、少なすぎ・・・。

関連するキッドのブログ→第四話のレビュー

シナリオに沿ったレビューをお望みの方はコチラへ→くう様の悪霊病棟

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冴子、接近… 詳細レビューはφ(.. ) http://plaza.rakuten.co.jp/brook0316/diary/201308230003/ 【送料無料選択可!】Greed Greed Greed [通常盤] / Acid Black Cherry価格:1,050円(税込、送料別) [続きを読む]

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