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2013年8月 3日 (土)

夏の夜の焦燥~悪霊病棟(夏帆)

恐怖の存在理由とは生死である。

生存から死亡への過程に恐怖は存在する。

優れた恐怖とは人類を存続させるものであり、人類を滅亡させる恐怖は劣っている。

優れた恐怖とは死者を存続させるものであり、死者を埋葬する恐怖は劣っている。

優れた恐怖とは悪霊を存続させるものであり、悪霊を封印する恐怖は劣っている。

優れた恐怖とは個人を存続させるものであり、個人を殺戮する恐怖は劣っている。

殺戮に次ぐ殺戮は真の恐怖ではなく、殺戮なくしての恐怖こそが望ましく、殺戮したりしなかったりは次善の恐怖なのだ。

恐怖失くして恐怖在るは恐怖の恐怖である。

恐怖を得るために死を与えるのは最後の手段であり、第三者の死によって恐怖を匂わせたり、死の選択こそが恐怖の克服であると誘導するのは邪悪な恐怖である。

「生きていてよかった」と錯覚するほどの恐怖は恐怖する時と場所、恐怖の方向性の同調、生と死の可能性の均等、予想外の出現、光と闇の超越を知悉することによって形成させる。

生を知り、死を知れば必ず恐怖があり、死を知らずしても生を知れば恐怖はあったりなかったりする。生も知らず死も知らなければ恐怖は無理なのだ。

で、『病棟~第3号室』(TBSテレビ201308020058~)脚本・酒巻浩史(他)、演出・竹園元を見た。このドラマの主題は「黒い歯」である。「黒い歯」を恐怖の主題とするためには「黒い歯」を吟味する必要があるのは言うまでもない。古典としての「黒い歯」が「お歯黒」であることは前回、述べた。これに準拠したものとして「おは、グロ」のようなものもあるが・・・つまり朝早くからグロテスクなのであるが・・・だじゃれだろ・・・日常の中に潜む「黒い歯」について考察しておきたい。

つまり・・・。

限定先着メニューはイカスミのスパゲッティ

・・・ということである。誰がイカ娘の話をしろと・・・。イタリア料理店、あるいはパスタの店で通り魔事件が起きて・・・死体が黒い歯」をしているというような話である。その死体が死霊と化せば黒い歯の恐怖はそれなりに発生するだろう。

お葬式の夜は、黒いテーブルで、黒い夕餉。

ほらキャビアと黒パンと黒ビール、

焦がしバターをかけたトリフと黒いキノコ、

イカ墨のリゾットと珈琲とチョコレート。

・・・と「告別式/夏木マリ」も歌っており・・・黒い歯は黒い食べ物や飲み物と密接な関係があることは明白なのである。

そういうものを好んで食べる人間がすでに恐ろしいという考え方もあります・・・。

隈川病院の入院患者・石川勲(高橋長英)の容態が急変する。

心拍が停止し、生と死の境界線で解体して行く石川の記憶領域はパノラマ視現象が生じている。

集積された情報の再生処理と崩壊・・・。

生まれてから死ぬまでの石川の記憶は死の二週間前で何者かにピックアップされるのだった。

それは看護師の尾神琉奈(夏帆)が隈川病院に勤務し始めた翌日のことである。

石川は田中という入院患者の退院祝いという理由でお気に入りの看護婦・鈴木彩香(川上ジュリア)を写真撮影していた。

亡き妻に似ていると彩香を亡き妻に贈られたというカメラで撮影する石川は元・写真家であり、写真家である以上・・・どこか変態の匂いがする。

入院患者たちとの集合写真の後で「彩香ちゃんだけの写真を撮りたい」と言い出すあたり、嫉妬したその他の患者が「気をつけないとヌードを撮りたいとか言い出すぞ」というのはひやかしでもなんでもなく、本質なのである。しかし、全裸写真が変態的であるというのは良識の問題に過ぎない。良識などというものが悪しきものであることは言うまでもない。

石川は白衣の天使を撮りながら、冷静に彩香の裸体を推測している。

「・・・お薬の時間ですよ」

その視線が「声」によって背後に移る。

そこには見慣れぬ被写体である琉奈の姿がある。他の患者に話しかけている白衣の天使。

「あれ・・・新人さんかな」

「ああ・・・尾神さん・・・昨日、着任したんですけど・・・看護師としては私より二年先輩なんですよ」

「そう・・・惜しいな」

「え」

「眼鏡をとって・・・姿勢を正して・・・それなりの化粧をすれば・・・すごくいい被写体になるのに」

「・・・」

(薄気味悪い)と感じながら彩香は石川の言葉を聞き流す。

・・・病人で・・・老人で・・・元カメラマンなんて・・・気色の悪い存在だが・・・そういうことを気味悪がっていては看護師などやってはいられないのだ。

薄気味悪い存在を憐れむことで成立する職業なのである。

石川は女を裸にする視線で猫背の白衣の天使を見つめる。

その夜、病棟の一階にある自動販売機で石川はお気に入りのコーヒーを購入する。

そこにナイト・シフトの琉奈が通りかかる。

「・・・号室の石川さん?」

職務な忠実な琉奈は初日に入院患者の氏名を頭に入れていた。

(頭もいいんだな・・・)と考えながら石川は琉奈の白衣の下の巨乳を観察する。

「ここのコーヒーがお気に入りでね」

「あまり、夜更かしはだめですよ」

微笑む琉奈に(こりゃ・・・眼鏡を外したらかなりの美人だぞ)と石川は眼鏡っ子ファンの気持ちを踏みにじる思考を続けるのだった。

琉奈の裸体を脳裏に描きながら病室に戻った石川は軽く編集した写真をプリントアウトする。

(琉奈もいいが・・・彩香も悪くない)・・・石川の空想は彩香の裸体へと移っていく。

翌日・・・写真を彩香に披露する石川。

「わあ・・・さすがですねえ」とお世辞を言う彩香の顔が曇る。

「うん・・・どうした?」

「これ・・・なんですかね」

彩香オンリーの写真に白いもやのようなものが映りこんでいた。

(こんなもの・・・昨日の夜はなかったはずだが・・・)

「私としたことが・・・光の加減で・・・初歩的なミスをするとは・・・」

不審そうな彩香を笑って誤魔化す石川だった。

その夜・・・もう一度写真を確認した石川は白いもやがより鮮明な映像となっていることに驚愕する。

それは・・・琉奈に似た女の顔だった。

「俺は・・・また・・・おかしなものを撮っちまったのか」

恐怖によって尿意を感じた石川がナースコールをすると・・・やってきたのは琉奈だった。

石川は恐ろしさに襲われ、琉奈の看護を拒絶するのだった。

「他の人を呼んでくれ・・・あんたでなければ誰でもいいから」

理由もなく患者から拒絶された琉奈はこの日から精神的な不調を感じることになる。

猫背はますますひどくなっていく。

翌日、彩香に他の患者が見たがっていると言われた石川は件の写真をそっと抜きとってその他の写真を渡す。

石川は明らかに「心霊写真」と化したそれを引きちぎり、窓から投げ捨てるのだった。

そんなある日、丑寅プロダクションというテレビ番組の制作会社に所属するディレクター・斑目和也(鈴木一真)が病院の食堂で石川に取材を申し込む。

「・・・以前、あなたの写真が掲載された地元の雑誌が発行後に回収されたことがありますね・・・あなたの撮った写真に何か問題があったとか・・・」

「・・・」

「その雑誌は処分されて入手困難なのです・・・あなたは一体、何を撮ったのです」

「その写真は・・・妻から贈られたこのカメラで撮ったものだ・・・夏の暑い昼下がりだった・・・散策しながら気の向くままにシャッターを切った。そのうちに・・・ここの旧病棟・・・その頃は完成したばかりで真新しい建物だったがね・・・これが目にとまってファインダーを覗いた。二、三枚撮ったところで・・・妙なことに気がついたんだ。さっきまでの暑さがウソみたいに消えて、空気は冷え冷えとしていた。うるさいくらいに鳴いていた蝉の声も途絶えて・・・異様な静寂に包まれている。その時、病棟の方から風に乗って妙な声が聞こえてきたのだ・・・思わず、俺はその方向にズームアップした・・・そして耳元で声を聞いたんだ」

「声・・・?」

「くうろおいいはあ」

「なんですか・・・それは」

「わからん」

次の瞬間、石川は気絶してしまったらしい。

「気がつくと・・・物凄い暑さを感じた。俺は路上に倒れていたんだ・・・。そして、その日撮った写真を現像して見ると・・・旧病棟の最上階に白い着物を着た女が写っていた」

「女・・・ですか」

「雑誌に写真が掲載された後、気になってもう一度調べてみようと思った・・・ところがネガもプリントもいくら捜しても見つからない。なぜか・・・消えてしまったんだよ」

「消えた・・・」

「ああ・・・写真が・・・馬鹿馬鹿しいが・・・いわゆる心霊写真が・・・生きているみたいに自分で姿を消したのさ」

石川は笑顔を作ろうとしたが上手くいかずに頬を強張らせた。

石川は真夜中に無性にコーヒーが飲みたくなった。

廊下で不気味なものを見た。

暗がりの中の猫背の女。

琉奈だった。

心霊写真の女・・・そう思うとたまらず石川は逃げるように病室に戻る。

ベッドの上に一葉の写真があった。

破り捨てたはずの彩香と琉奈の不気味なツーショット写真である。

恐慌に陥りかけた石川はその写真を引きちぎり、トイレに流した。

焦燥感に苛まれながらベッドを見る。そこに件の写真は舞い戻っていた。

石川は這いずりながらそこから逃げようとした・・・その目の前の床に件の写真がある。

「うわ」と石川は叫んだ。

心臓の鼓動は跳ね上がった・・・石川はベッドにすがりつき、ナースコールのスイッチを押す。目の前に件の写真があった・・・。

石川は眩暈を感じた。

そして・・・石川は生と死の境界線を越える。

死霊となった石川は救命処置を受ける自分の死体を見た。

誰かが自分を呼んでいる。懐かしい声だ・・・。

「みつこ・・・」

石川は亡き妻の姿を見て廊下を歩きだす。

「なんだ・・・そんなところにいたのか」

去っていくその姿を琉奈は見つめている。

病室には嫉妬深い黒いカメラが残されていた。

独立したエピソードとしては「サイコ」でおなじみロバート・ブロック(1917-1994)の短編ホラー「ささやかな愛を」に類するものと解釈可能である。

イカスミ・タコスミ・イカスミ・タコスミ

イカスミ・タコスミ・イカスミ・・・・・・・

「イカスミダ、タコスミダ/影山ヒロノブ」はクイズ番組「なんでもQ」シリーズ「むしまるQ」(NHK教育1995-2004)の挿入曲。番組には声優として80年代後半のアイドル小川範子も参加していた。

関連するキッドのブログ→第2話のレビュー

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