明治五年十二月二日の翌日は明治六年一月一日となったのでごぜえやす(綾瀬はるか)
元佐賀藩士の参議・大隈重信によれば・・・太陽暦(グレゴリオ暦)の導入は新政府の月給制度と財政逼迫に理由があったという。
すなわち、旧暦のままで明治六年になると閏月があるために・・・一年は十三ヶ月となる。
つまり・・・月給を十三回払わねばならなくなるのである。
そのために・・・一年十二ヶ月である太陽暦の導入は急務だったのだ。
こうして・・・西暦1973年と明治六年は完全に一致することになる。
日本の西洋化はこの時、一つの頂点に達したと言える。
これに先立ち、陰陽寮の陰陽頭・土御門晴雄は太陽暦の導入に異を唱えたために・・・その死の直後、明治三年、陰陽寮そのものが廃止されてしまう。ちなみに和宮付きの大奥女中・土御門藤子は晴雄の妹にあたる。
そうした地位をもたらすバックボーンが突然、排除されてしまったのである。
こうして・・・明治とともに陰陽師は消えたのだった。
近代国家の樹立を図る新政府の革命家たちは・・・かくの如く性急に事を進める。
その弊害は当然、露わとなり・・・時代に取り残された旧士族の鬱屈は西郷隆盛を「破裂弾の上で昼寝する」事態に追い込んでいくのだった。
で、『八重の桜・第33回』(NHK総合20130818PM7~)作・山本むつみ、脚本・吉澤智子、演出・一木正恵を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は見捨てられた京都の街の復興に取り組む清濁あわせ飲む男、牛肉大好き京都府大参事・槇村正直描き下ろしイラスト大公開でお得でございます。束の間の休息期を経てまたもや登場人物大虐殺モードが押し寄せているのですが・・・明治篇は結構登場しないまま殺されていく人物が大量発生しそうですな。さすがに西郷隆盛はあるでしょうが・・・江藤新平はどうなることやら・・・でございますなーーーっ。突然の脚本家登場もびっくり仰天でしたけど~。しかも「黒の女教師」とか「紅蓮女」の人だし~。それはそれとしてあくまでマイペースでお願い申しあげます。熱中症を再発しないようにご注意くださりませ~。
明治六年(1873年)一月十日、徴兵令が施行される。これによって旧武士階級によって構成され、西郷隆盛が指揮をとる近衛兵団は無用の長物と化す。しかし、富国強兵のためには平民の徴兵化は避けて通れない道だった。士農工商の廃絶を進めながら士族軍隊を組織する西郷隆盛の矛盾が炸裂するのだった。二月、仇討禁止令布告。四月、日清修好条規が発効する。李氏朝鮮との国交問題を解決するために宗主国と国交を締結するというアクロバットだったが、それでもなお。朝鮮は門戸を開こうとはしなかった。そのために「征韓論」が台頭することになる。日本は清国との琉球問題、ロシアとの北方問題、英国との小笠原諸島問題という領土問題を抱えており、現代もほぼ似たような状況であることがなんとなく微笑ましい。ここから日本は1945年までひたすら領土を拡大して行き、ほとんどすべてを失うわけである。九月、岩倉使節団が帰朝。留守政府との間で軋轢が生じる。全国二十八支店を持つ商社・小野組が京都から神戸と東京へ転籍を求める。税収入の減収を恐れる京都府はこれを認可しなかった。ある意味で行政と司法が癒着している結果である。このことに三権分立主義者である司法卿・江藤新平が激怒する。しかし、十月、征韓論を巡る政変が起こり、薩摩の西郷隆盛、土佐の板垣退助らとともに佐賀の江藤新平も下野することになる。小野組事件は膠着状態になるが・・・批判を恐れた文部卿・木戸孝允は十二月、上京した大参事槇村正直を拘束、懲役100日もしくは贖罪金30円を命じ、漸く事態収拾の目途がつく。翌年、小野組の送籍は果たされることになるのだった。
八重は九条殿女紅場の出頭女となっていた。女紅とは女工のことでいわば女性のための職業訓練校である。出頭女とは女将のような存在である。
庶民を国家の歯車として使用するために能力を選抜して鍛錬する。これは新政府の基本的な方針であった。そのために様々な教育改革が試行錯誤されていた。女紅場も全国各地に作られていた。下層階級からの人材育成の中で、女性の能力向上は身分の上下を問わず急務だった。儒教的な男尊女卑の枠組は貴重な人材を埋没させる恐れがあるという発想である。ただし、それは人権的な立場ではなく、あくまで国力の向上を主眼とするものである。
そのために女紅場は戦災孤児から芸妓、そして武家の娘にいたるまで才能あるものが集められ教育を受けたのである。
京都の女紅場は後に京都府立第一女学校(現在の京都府立鴨沂高等学校)となる。
八重は名目上は織機の講師であったが・・・もちろん、実質は科学くのいちの中忍だった。
京都のくのいちは九条系藤原氏の歴代唐橋がすべている。
実質上のくのいちの上忍である最後の藤原長者・九条道孝の姉・英照皇太后が遷都によって東京に去ったために・・・八重は京都くのいちの長となっている。
そのために・・・京都くのいちは科学くのいちとして養成されることになったのである。
八重は会津くのいちを何人か呼び寄せるとともに・・・戦火に焼けた京都の街から孤児や舞子の中から才能あるものを九条河原町屋敷に集め、仕込みを開始したのであった。
科学忍者隊が英国諜報部と提携したために外国語教育は英語となり、基礎教養としての読み書きそろばん、そして女工としての技能習得、さらには忍びとしての訓練が幼い女たちに課せられたことは言うまでもない。
死霊と化した坂本龍馬の指導を受けた八重は・・・おそるべき女忍びの養成所を京都に出現させていたのだった。
「これがミシーンというものでがんす」
「ミシーン・・・」
「洋服を裁縫するのに便利なカラクリだ」
「洋服どすか」
「んだ・・・和服は戦いには不向きだ・・・戦のための装束は洋服に限る。わだしも洋服を着て会津の戦を戦いやした。これからは軍服の時代でがんす」
八重は見本として自分がモデルとなった数枚の写真を取り出す。
それは近代的忍び装束と言える野戦服だった。
「おかしな着物や」
「官軍さんはこんなの着てはった・・・」
「まずは下ばきから作ります」
「下ばき・・・」
「くのいちには必需品です。これを履けば月のさわりが来た時も、隠身の術が楽になるのでがんす」
「・・・ああ・・・」
女たちはその仕組みを即座に理解した。
「和服の時もはきますか」
「それは無粋というものもおるのでがんす」
仕込みを初めて一年、八重は幼い女たちの中から五人のくのいちを選抜した。
元新撰組隊士が京都の芸子に産ませた女、鳥羽伏見の戦いで親を失った女、会津の百姓の娘、河原乞食の娘、尼寺にひきとられていた流れものの子であった。
「これから・・・そなたたちのコードネームは・・・月の輪、三日月、新月、水月、そして月光じゃ・・・」
「・・・」
「これから・・・大和の国は見たこともない戦の時代に入っていく。その中で・・・民草が幸せに生きていくのは難しいものとなるじゃろう」
「・・・」
「わだしたちは・・・みな、戦で親兄弟を失ったものじゃ・・・それを悔いても始らぬ・・・」
「・・・」
「どうあっても戦はなくならねえ・・・ならばどうする・・・」
「戦に負けぬことでございます」と月の輪が言った。
「そうじゃ・・・そのために・・・お国は艱難辛苦を乗り越えねばなんねえ・・・わだすはその手助けがしてえ・・・みんなにはその力になっでもらいてえ・・・ええがな」
「はい・・・」・・・若きくのいちたちは決意をみなぎらせるのだった。
「よし・・・まずは・・・しのび短筒の撃ち方からじゃ・・・これはコルト・ドラグーンという拳銃をわだしがくのいち用に改造したものでがす」
八重は黒く塗った拳銃を取り出した。
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