あまちゃん、二十重ね目の土曜日(宮本信子)
さて・・・ついに第二十週である。
複雑な時間軸が展開するこのドラマ。
ヒロインの登場は2008年夏であったが・・・。
ヒロインの母が上京した1984年に遡り・・・さらにはヒロインの祖母が海女になった1960年代に遡る。
ちなみに・・・北三陸市で「橋幸夫ショー」の行われた1964年(昭和39年)にはヒロインの祖母は19歳ながら・・・人妻である。すでに天野忠兵衛と結婚して天野夏になっているのだ。
つまり・・・「道ならぬ恋」に溺れたのである。
そして・・・1966年にヒロインの母が誕生するのだった。
ヒロインの母のずば抜けた歌の才能は・・・。
まあ・・・そういう野暮なことを問わないのが田舎のルールだったりするわけである。
港々に女ありの・・・古き良き時代よ。
タレントが地方で女をたらして・・・堕ちた偶像になったりするのは・・・吉田拓郎あたりから・・・くらいかあ。
今じゃ、下手すれば逮捕されちゃうからな。
さて・・・下衆な話はさておき・・・。
第二十週は五週ずつで割ると1~5週(起)、6~10週(承)、11~15週(転)、16~20週(結)ということで結の締めにあたる。6話ずつで120話となる。十二分割でも還暦を折り返して元に戻る計算である。
つまり・・・まさに話は一巡したのである。「祖母危篤」で始った話は・・・再び「祖母危篤」に戻ってきたのだった。
そしてそれは「嘘から出た誠」を実でいくのだった。
そのために今週は特異な構成になっている。(月)(火)はヒロインの祖母の秘話でフリオチが構成され、(水)(木)はヒロインの親友の問題解決のフリオチ、(金)(土)は終盤の新展開へのフリとここまでの壮大なオチという2x3の序破急の構成になっている。
構成の基本は分割であるが・・・ここまで複雑な構成のテキストは前代未聞なのである。
ひょっとしたら・・・クドカンは「あまちゃん」を書くために生まれてきたのではないか・・・と妄想するほどだ。
五回目の起承転結のサブタイトルは次の通り。
第17週「おら、悲しみがとまらねぇ」
第18週「おら、地元に帰ろう!?」
第19週「おらのハート、再点火」
第20週「おらのばっぱ、恋の珍道中」
波乱に満ちたアキの青春、十八歳の日々はまもなく終ろうとしている。アキはもはや社会人なのである。
夏が終われば秋にはアキは十九歳。そして・・・2011年、アキが二十歳になる頃には・・・。
で、『連続テレビ小説・あまちゃん・第20週』(NHK総合20130805AM8~)脚本・宮藤官九郎、演出・桑野智宏を見た。2010年夏、娘・天野アキ(能年玲奈)をトップアイドルにすることに目覚めた春子(有村架純→小泉今日子)は娘のための芸能事務所・スリーJプロダクションを立ち上げる。アキの現場担当マネージャー・水口(松田龍平)はアキの売り込みに成功し、アキは漸く、GMT5からの中退のショックを乗り越え、同時に初恋の人・種市(福士蒼汰)と交際を開始するのだった。仕事と恋愛の両立というアイドルとしては掟破りの展開に全国のお茶の間を阿鼻叫喚に巻き込みつつ・・・物語は急展開を迎えるのだった。祖母・夏(宮本信子)の「六十六歳で初めての上京物語」がスタートするのである。
月曜日 星よりひそかに・・・雨よりやさしく・・・(徳永えり)
八月の月遅れのお盆の頃・・・雨にぬれた上野駅前大歩道橋に夏とお伴の大吉(杉本哲太)が到着したのだった。春子から母・よしえ(八木亜希子)が東京にいると知らされたユイ(橋本愛)はまたしても東京行きを断念したのだった。
さすがに長旅で疲れた感じの夏ばっぱを出迎えたアキと父親の正宗(尾美としのり)は早速、タクシーで世田谷の黒川家ことスリーJプロダクションに向かうのだった。
「いやいやいや、大したもんだべ・・・スケバンの春子が東京の世田谷の一等地に・・・こんな物件を持ってなあ・・・正宗さん・・・ありがとうごぜえやす」
未だに本当に離婚したのかも定かではない正宗と春子だが・・・仮に離婚したとすると・・・マンションの名義は春子で・・・ローンの返済は正宗という恐ろしい事態さえ想像できる言動である。
しかし・・・正宗の宿敵、大吉は・・・。
「ここが正宗と春子の愛の巣か・・・ローンなんぼのこってんの・・・」
「まだ十年なんで利息払ってるところですが・・・一応三十年ローンで」
「じぇじぇじぇ・・・後二十年かあ・・・ゴールは遥か彼方・・・南無阿弥陀仏」
「すまねえな・・・田舎者はやっかみが強くていけねえ・・・大吉も悪気はねえんだ」
夏がフォローするのも構わず大吉は駄々をこねるのだった。
「悪気だけだ・・・悪気の超特急だ・・・」
夏、春子、アキ、正宗は・・・血縁ある家族である。この「お客様」を苦笑しながらもてなすしかないのだった。
とにかく・・・夏は居住まいを正して土産のゆべしと海女の手ぬぐい一本目を正宗に渡し、正宗はありがたく受け取るのである。
その頃、お盆休みの北三陸地方。暇を持て余した海女さんたちは・・・喫茶リアスで・・・ミサンガを編むのだった。その中には何故か・・・磯野先生(皆川猿時)や観光協会の保(吹越満)も混じっている。
「今頃、夏ばっばさ・・・東京に着いたべ」とかつ枝(木野花)・・・。
「なして・・・ユイちゃんは東京さ、行かなかったんだ・・・」と事情を知らない保が余計なことを言う。
「んだんだ」と追従する弥生(渡辺えり)・・・。
「お店もあるし・・・お父さんの事も心配だし・・・」と言葉を選ぶユイ。
しかし、弥生の夫・あつし(菅原大吉)は「足立先生なら元気で昨日もカラオケでALFEEなんか歌ってたけどな」と追及する。
「お店だって・・・おらたちにまかせてくれればいいのに・・・どうせお盆休みでこんな感じだべ」と美寿々(美保純)も探りを入れる。
みんな・・・なんとなく・・・察しているのである。
「行きたくねえって言ってんだから・・・そっとしといてやれや・・・」
ヒロシ(小池徹平)とユイの姉妹の会話を聞いてしまった勉さん(塩見三省)は優しく話題を打ち切るのだった。
春子を残し、外出した夏一行が最初に訪れたのは・・・原宿の純喫茶「アイドル」だった。
待っていたのは安部ちゃん(片桐はいり)である。
手を取り合って再会を喜び合う二人。
夏は安部ちゃんのまめぶ振興のその後を聞く。
「さっぱりだ・・・B級グルメコンテストでは二年連続で横手焼きそば(秋田県)に負けたし・・・アキちゃんに・・・せっかくテレビでとりあげてもらったのに・・・三又又三は箸もつけなかった・・・」
「ハシ・・・」と何故かギクリとする夏ばっぱだった。
「私は嫌いじゃありませんよ」とすっかり・・・春子ファミリーの一員になってるらしいマスターの甲斐さん(松尾スズキ)が口を挟む・・・。
「甘いだんごさえ・・・除ければけんちん汁・・・だんごは冷やしてスイーツ」
「こちらさんは・・・」
「マスターの甲斐さん、おら、仕事ねえ時はここでウエイトレスさしてるだ」
「春ちゃんが若い頃にもここで働いてんだって」
「そりゃ・・・まあ・・・母子二代でお世話になって」と二本目の海女の手ぬぐいを贈る夏ばっぱだった。
天野家にも礼儀正しい人がいたのか・・・と感動する甲斐さんだった。
そして・・・翌日・・・安部ちゃんがたてたスケジュールで東京観光をする夏御一行様。
そのハードなこと・・・。
東京都庁、新宿御苑、国会議事堂、皇居、銀座、歌舞伎座、スカイツリー、お台場、デイズニーランド、幕張メッセ、八景島パラダイス、浅草、上野、アメ横・・・なんか混じってるぞ。
とにかく・・・そんなの無理なハードスケジュールで無頼鮨についた時は一同疲労困憊である。
しかし・・・さすがは夏ばっぱ・・・脅威の回復力で若者たちを「だらしねえ」と一喝するのだった。
そして「明日は・・・アキと別行動だ」と宣言するのだった。
「どっか・・・行きたいところがあんだべか」と問うアキ。
「実は・・・おらが東京にきた目的はただ一つ・・・逢いてえ男がいるのさ」
「じぇじぇじぇ・・・」
「春子には内緒だぞ・・・」
思わず耳をふさぐ大吉と正宗だった。
「内緒にできる自信がないので聞かねえことにする・・・」
「僕もです・・・」
「どうして・・・ママには内緒なんだ」
「そりゃ・・・おめえ・・・人妻の道ならぬ恋だからな・・・娘が聞いたら気い悪くするべ」
「じぇじぇじぇ」
「誰なんですか」と安部ちゃん・・・。
「ここだけの話だど・・・ユキオだ・・・」
同じ頃・・・リアスでも同じ話゛展開していた。
「ユキオって誰だ」
「鳩山・・・」
「青島・・・」
「大物だな・・・」
勝手な推測が飛び交う中・・・勉さんは磨いていた琥珀を取り落とす。
和田勉と一字違いの小田勉はタイムマシンに乗って昭和39年の北三陸にタイムトラベルするのだった。カルビーがかっぱえびせんをロッテがガーナチョコレート発売したその年・・・東海道新幹線が開業し、東京オリンピックが開催され、シンザンが三冠馬となって日本は希望に満ちていた。そして北三陸市の体育館では橋幸夫ショーの興行がうたれたのだった。
会場にかけつける当時十七歳の高校生だった勉さん(斎藤嘉樹)・・・会場では司会(マキタスポーツ)が芦屋雁之助が「特製ヱスビーカレー」のCMで流行させた「インド人もびっくり」というフレーズでそこそこ笑いを取っていた。
ステージに立つのは輝く白い衣装の二十歳の橋幸夫(清水良太郎)である。
「それでは・・・ここで・・・市民を代表して海女のなっちゃんから・・・花束の贈呈です」
緊張した面持ちで登場した花束を抱えた十九歳の夏(徳永えり)・・・ヤング春子(有村架純)に続いて驚くべきキャスティング力である。もう、夏ばっぱの若い頃はこうだったとしか思えないのだった。
「お嫁さんにしたいくらい・・・かわいい人ですね」と話す橋幸夫。
思わず頬を染める夏だった。
「次の歌は吉永小百合ちゃんと歌った歌ですが・・・今日はなっちゃんと歌いたいと思います」
「え・・・私・・・」と驚く夏。
生バンドの演奏が始り・・・橋幸夫は優しく夏をリードするのだった。
あの娘はいつも歌ってる
声がきこえる 淋しい胸に
涙に濡れたこの胸に
言っているいる お持ちなさいな
いつでも夢を いつでも夢を
その姿は勉さんの脳裏にありありと蘇る。
「夏さんは・・・それからしばらく北三陸のアイドルだった・・・」
「凄い・・・夏ばっぱが北三陸の元祖アイドルだったんだ」と感心するユイだった。
天野家女三代アイドルの道・・・。
親友のアキにアイドルの資質ありと見抜いたユイの目に狂いなしなのである。
その頃・・・無頼鮨では・・・。
「海女として地道に生きて来たおらのただ一度の道ならぬ恋だ・・・」
「その反動で春子さんは派手好きな娘に・・・」
「橋幸夫って誰・・・」
と血は争えないアキと正宗の父娘だった。
「でも・・・さすがに橋幸夫に会うのはハードルが高いべ・・・」と誰もが思ったその瞬間。
入ってきた客を見て「じぇじぇじぇ」と叫ぶ大吉なのだった・・・。
火曜日 はかない涙を・・・うれしい涙に・・・(薬師丸ひろ子)
無頼鮨に入店したのはもちろん・・・鈴鹿ひろ美(薬師丸ひろ子)である。
「なんだ・・・鈴鹿さんかあ」とアキ。
「なんで・・・いきなりガッカリされなきゃいけないの」と鈴鹿。
「だって・・・この流れだとユキオじゃねえかって思うべ」
「流れってなによ・・・ユキオって誰よ」
「この人・・・おらのばあちゃん・・・」
「まあ・・・」
「孫が大変お世話になりまして・・・ありがとうごぜえやす」
「こちらこそ・・・お噂はかねがねアキちゃんから・・・現役で海女をなさっているそうですね」
「そうでがす・・・」
「まあまあ・・・ビールでいいか」とアキ。どうやらアキは・・・すっかり天狗になっているらしい。
しかし・・・鈴鹿は衝立から顔をのぞかせた大吉に警戒心を抱くのだった。
「二回目ですよね」
「それが・・・何か」
「二回も会うなんて運命でないべか」
「私の行きつけの店に・・・あなたが二回来ただけです・・・あ、電話しないで」
「いやいや・・・声を聞かさねえと・・・田舎者は信用しねえから」
「田舎者とはしゃべりませんっ」
蒼ざめる田舎者一同・・・。
「いえ・・・そういう意味じゃなくて・・・おほほほ」
「あははは」と応ずる田舎者ではないらしい正宗だった。
アキは完全に田舎者組らしい。
「しかし・・・どうしたら・・・橋幸夫に会えるべ」
「幸夫って・・・橋幸夫さん」
「いいから・・・鈴鹿さんは田舎者の中に入ってくるなって・・・」
「あの・・・橋さんを御存じなのですか・・・」と身を乗り出す夏ばっぱ。
「46年前に一度会っただけなんだと・・・」
「まあ・・・ロマンチックね・・・橋さんとは映画で共演したことがあります」
「じぇ」
「潮騒のメモリーでね」
「じぇ・・・橋幸夫って俳優さんだったのか・・・」
「主に歌手の方よ・・・」
正宗がタブレットを操作すると映画「潮騒のメモリー」には確かに配役に「橋幸夫(友情出演)」と記されている。
「すんげえ・・・橋幸夫と鈴鹿さんは友達なのか。じゃ、友達の友達は友達ってことでおらと橋幸夫も友達かあ」
アキと自分が友達ということは否定しないで・・・友情出演について説明するのだった。
「本来なら主演するような大物俳優に脇役で出てもらう場合、特別出演っていうことでお願いするの。さらに予算の関係で・・・それなりの出演料を用意できない場合、友情に免じて笑ってくださいということで友情出演をお願いするわけ。この場合、お願いするのは出演者とは限らないのよ。監督とか、プロデューサーとかね」
「・・・」説明されてもよくわからないアキだった。
「でもね・・・私、大失敗しちゃったのよ。潮騒のメモリーには他にも由紀さおりさんも出ていただいているんだけど・・・初日の舞台挨拶で・・・新人なので私が先に出て、お二方を呼びこむ段取りで・・・まず由紀さん・・・それから橋さんを呼び込もうとして・・・緊張のあまり・・・私としたことが・・・ゆきはしおさんですって・・・それ以来・・・橋さんとは疎遠になっちゃって」
「なんだよっ」と大女優をののしるアキだった。
完全なる天狗である。
しかし・・・鈴鹿は・・・「便乗して昔のことを詫びる」と言う理由で・・・夏と橋幸夫を合わせるセッティングをしてくれるのだ。
このあふれんばかりの鈴鹿の好意にお茶の間の好感度が鰻登りであることは間違いない。
御対面を翌日に控えてウニ二千個を数えてなお眠れぬ夏ばっぱ。
「なんで・・・そんなに興奮してるんだ」とアキ。
「だって・・・もし・・・明日ナニかあったらと思うと」
「66歳と67歳でなんか・・・あんのか」
「おめこそ・・・どうなんだ」
「え・・・」
「種市くんとだよ・・・」
「じぇ・・・」
「店でアイコンタクトさ・・・とってたべ・・・ばっぱにはお見通しだ・・・」
「じぇじぇ・・・ママには内緒にしてけろ・・・」
「どうするべ・・・い・・・・・・いわねえ」
安堵するアキだった。
そして・・・当日。ウニの意匠の和服を着て精一杯めかしこむ夏ばっぱ。
「どうしたの・・・また歌舞伎?」と不審げな春子を残し、アキと夏は出発する。
鈴鹿と合流した三人は歌番組の収録終りで橋幸夫(橋幸夫)をキャッチするのだった。
「あれが・・・ユキハシオ」
「橋幸夫よ」
早速・・・橋幸夫に挨拶する鈴鹿。
「ああ・・・わざわざ電話してくれた・・・女優の」
「鈴鹿ひろ美でございます」
「見てるよ・・・鈴鹿御膳」
「ありがとうございます」
「はじめまして」
「あの・・・はじめてじゃないんですよ・・・潮騒のメモリーという映画で御一緒していただきました」
「ああ・・・潮騒のメロディー」
「・・・メモリー」
かみ合わない二人をよそに尻ごみして逃げ出す夏を追いかけるアキ。
「なんで逃げるんだ」
「一目会えたから・・・おら満足だ・・・もう帰る」
騒ぎを聞きつけて近寄る鈴鹿と橋幸夫。
「あれ・・・なっちゃんじゃないか・・・」
「じぇっ・・・」と口をそろえるアキと鈴鹿だった。
「海女のなっちゃんだろう・・・昔、体育館で一緒に歌ったよね」
「はい・・・」
「そうか・・・変わらないねえ・・・」
「そんな・・・橋さんこそ・・・」
「覚えてたのか・・・」とアキ。
「この子は誰?」
「孫です」
「えーっ・・・なっちゃんのお孫さん・・・そうかあ・・・なっちゃんにねえ・・・お孫さんかあ・・・お孫さんだってさ・・・鈴木さん」
「鈴鹿です」
「そうか・・・なっちゃん・・・この後は何か予定あるの・・・」
「・・・」
なんと・・・橋幸夫は夏のために無頼鮨で一席設けてくれたのだった。
大物歌手の初来店に色紙片手でお座敷に上がり込む大将(ピエール瀧)だった。
そして・・・流れ出す「いつでも夢を」のイントロ・・・。
時を越えて・・・橋幸夫は夏とデュエットするのだった。
歩いて歩いて悲しい夜更けも
あの娘の声は流れてくる
言っているいる お持ちなさいな
いつでも夢を いつでも夢を
はかない涙を うれしい涙に
あの娘はかえる 歌声で
こうして半世紀近い歳月を越えて夏の青春は蘇ったのだった。
宴の後で二人きりになった夏と鈴鹿。
袱紗から海女の手ぬぐい三本目を取り出す夏。
「つまらないものですが・・・」
「まあ・・・」
「鈴鹿さん・・・どうなんでしょうか。私には・・・孫が・・・東京で・・・芸能界でやっていけるとはとても思えないんです。あの子はたった一個のウニを取るのに三ヶ月もかかるような子なんで・・・」
「芸能界は・・・海の中とは違いますから・・・」
「・・・今後ともアキのこと・・・よろしくお願い申し上げます」
「・・・こちらこそ・・・」
正座して頭を下げあう二人だった。
酔って帰った二人を出迎える風呂上がりの春子。
「どうしたの・・・二人とも・・・まあ、夏さん酔ってるの」
「東京さも・・・捨てたもんんじゃねえな」
「なによ・・・御機嫌ね」
「内緒だ」
「んだ・・・内緒だ」
「なによお・・・」
すっかりご機嫌な二人に呆れつつ・・・思わず微笑む春子だった。
水曜日 なっちゃんユキオその愛その裏で(橋本愛)
アキと夏が「恋の大作戦」を展開している頃・・・。
男たちと女たちは友情を育んでいたのだった。
春子を巡る恋のライバルである・・・東京の男・正宗と北三陸の男・大吉。
二人は男たちの旅路の果てに純喫茶「アイドル」にたどり着いていた。
ちなみに・・・純喫茶「アイドル」はちらほら客がいるようなっている。
もちろん・・・幸運の女神アキが客を呼び込んでいるのである。
それを何と呼ぶかは人それぞれであろう。オーラとか、カリスマ性とか、アイドル力とか・・・とにかく・・・そういう輝きは確かに存在するし・・・それは努力の結晶だけではけして得られないファンタスティックなものなのである。
それは夏にもあり、アキにもある。そしてもちろん、春子にもある。
春子のチャームにかかった二人の男は水面下で暗闘を繰り広げているまだった。
「正宗さん・・・いや、正宗くん・・・いやさ・・・正宗。今日は朝から・・・いろいろと案内してくれてありがとう」
「いえ・・・どういうところがいいのか・・・よくわからなくて」
「いや・・・井の頭公園、スーパー銭湯、駒沢公園、スーパー銭湯、代々木公園、スーパー銭湯、日比谷公園、スーパー銭湯、上野公園、スーパー銭湯・・・東京には公園とスーパー銭湯が星の数ほどあることが分って・・・勉強になった・・・」
「そうですか」
「テレビで見たラーメン屋行きたいって言ったら検索して捜してくれて、行列が出来てたらさっと抜け道さ入って上野の美術館のエジプト展で時間つぶしてくれておかけでラーメンを並ばずに食べられたしツタンカーメンも見れた。勉さんと太巻さんと三人でコマーシャルに出るような抜け目のなさだべ。ヤング春ちゃんの紅茶とか洗顔料とか起用相次ぐのは好感度抜群だからか。おらも貢献はしてるが・・・やはりおしゃべり負け犬野郎のイメージがクライアントの心をつかまねえのかな」
「いや・・・これからでしょう」
「そうだべか・・・」
「ええ・・・見る人は見てるでしょうから」
「・・・参ったな」
「はい?」
「その奥ゆかしさに脱帽だ・・・都会の道を知り尽くしたポップでスタイリッシュなアーバンライフ的なかっこよさ・・・それに引き換え・・・俺は敷かれたレールの上をダイヤ通りに走らせるだけの運転士だ・・・客は代わり映えのしねえ鉄道おタクと病人臭い老人たちだしな」
「大吉さん・・・言葉が過ぎてるよ」
「途中でラーメンなんてもっての他だ・・・抜け道ねえ、回り道ねえ、上りと下りのリフレイン。ブレーキかけて急停車、景色を眺めて一服が、精一杯の理由なき反抗だ。ああ、いつの日か大空駆け巡りてえと思えども、今、この時に大都会を縦横無尽に切り裂くあんたとは月とスッポンだ・・・格が違いすぎる」
「そりゃ・・・タクシーの運転手と電車の運転士は違いますから・・・」
「電車じゃねえ。古の国鉄だって電車と呼べるのは都心さ走る国電だけだべ。後はみんな汽車だ。北鉄だって電車じゃねえ。車両にパンタグラフついてっか?・・・線路の上に電線あるか・・・」
「ああ・・・そう言えば・・・」
「ディーゼルなのよ・・・ディーゼル機関車なのよ・・・早い話がレールの上を走るバスのようなものなのさ」
「・・・」
「第三セクター敗れたり・・・モータリゼーションの完全勝利だべ・・・」
「はあ・・・」
「おら・・・潔く身を引く・・・マサよ・・・春ちゃんのこと・・・よろしくな・・・」
「・・・よかった・・・」
立ち上がった正宗は手袋を脱ぐ。そして隠し持った特殊警棒を抜き置き、腹からは刃物対策の雑誌を取り出し、そしてチェーンにメリケンサックを・・・。
次々と自主的に武装解除するのだった。
「ひょっとしたら・・・決着をつけるために・・・最悪、決闘かなと思ったんで・・・」
「ひょっとして・・・だから・・・公園に・・・」
「公園にいる間ずっと手に汗握ってたんで・・・ひと汗流しにスーパー銭湯に・・・」
「うほっ」
「いや・・・大吉さんが話の分る人でよかった・・・血を見ることもなく・・・」
二人の会話に恐怖を感じて立ちすくむ甲斐さんだった。
一方で春子は・・・娘の親友の母と会っていたのだった。
二人は潮騒のメモリーズのママ友なのである。
忘れられぬ ああ 夏の日よ
振り返れば風の中で
神様が佇むこの街
夏の思い出を胸に帰郷する夏と傷心の大吉。
しかし・・・大吉は潔く春子に別れを告げる。
「春ちゃん・・・正宗くんは本物の男だ・・・幸せにしてもらえ・・・」
「うん・・・」
照れくさくて視線を彷徨わせる春子。
何と言っても・・・大吉は春子の初恋の人なのである。
褒められたり、愛情をしめされたりされると身の置き所がなくなる。
春子はアキの母親なのだった。
「さ・・・帰るべ」と夏。
「ちょっと待って・・・持って帰ってもらいたいものがあるんだけど・・・」と春子。
黒川家のチャイムがなり・・・よしえがやってくる。
「あらま・・・足立先生の奥さんでねえか・・・」
「お説教とかは勘弁してね・・・私がもうしちゃったから」
「それで・・・帰る覚悟が出来てるのか」
頷くよしえだった。
「そんなら・・・持って帰るしかないべ・・・」
すべてを飲みこんで春子からお土産を受け取る夏だった。
夏は春子の母親なのである。
アキは黙って大人たちのやりとりを見つめるのだった。
上野で夏を見送ったアキはその足で無頼鮨を訪ねる。
「なんだ・・・写真って・・・」
「付き合ってるのに写真を持ってないのはおかしいべ・・・」
「そっか・・・」
「もっと面白い顔してけろ・・・」
「面白い顔って・・・」
「うん・・・まあまあだな・・・」
「ユイも大変だな・・・」
「でも・・・家族のことだ・・・自分でのりきるしかないべ・・・」
「うん・・・そうだな」
ユイの家族のことも・・・アキの家族のことも・・・ずっと見守って来た種市なのである。
失踪からおよそ・・・一年。
八月下旬のある日・・・足立よしえは北三陸市に帰って来た。
待ちかまえる・・・最強の北三陸軍団。
夏と大吉とよしえを吉田(荒川良々)が出迎える。
「ユイちゃんには内緒にしておいた・・・足立先生とストーブくんはリハリビ中だ・・・でも、みんなには知らせちゃった」
「馬鹿・・・なんで・・・そんな」と大吉。
「構わねえ・・・どうせ・・・知られることだ・・・あんたも覚悟がおありでしょう」と夏。
頷くしかない・・・よしえだった。
スナック「梨明日」準備中のユイはひょっとすると予感はしていたかもしれない・・・それでも夏がよしえを招きいれた時、やはり、不意打ちを食らったようにうろたえてしまうのだった。
「え・・・・えぇぇぇえ・・・何これ・・・・何これ・・・・こういうの困るんですけど・・・リアクションできないー・・・こんなのー・・・分んない分んない分んない・・・え・・・ええ・・・なんでだまってんの・・・」
「ごめんなさい」
「ごめんなさいじゃないよ・・・何、何、何、帰ってきてんのよ・・・今さら、いまさらってえか、いまさらだよな・・・本当・・・はあはは・・・帰って来たんだ・・・あはあははは・・・だめだ・・・笑える・・・」
アキに「ママは帰って来ない」と言われて「帰ってくるよ」と泣いたユイ。
様々な思いが交錯して・・・思わずカウンターに逃げ込むのだった。
そこはアバズレの定位置なのだ。
田舎者たちは腫れものをさわるようによしえを遇した。
「ここあいてるよ」
「すわれば」
「とにかくさ・・・」
「うるさい・・・」とキレるユイだった。
「気を使わないでいいですよ・・・知ってるんだから・・・皆さんがあの人の事、陰でさんざんこきおろしてること・・・夫と子供と見捨てて、とっとと田舎から出て行った、見かけによらずあこぎでしたたかでひどい女だってさ・・・言ってんだよ・・・みんなして・・・言い返せやしないよ・・・だってその通りなんだもの」
「・・・」
「今だってさ・・・思ってるさ・・・今更ジローだよ・・・何がごめんねジローだよ・・・どのつらさげて帰って来たんだって・・・本当だよ・・・よくもまあ帰ってこれたもんだよね」
「ごめんなさい・・・」
「ごめんなさいで・・・すむわけないじゃん・・・私・・・あんたのせいで高校やめたんだよ・・・あんたが逃げ出したから・・・なにもかもあきらめたんだ」
そこへ・・・足立功(平泉成)とストーブがやってきた。
「それぐらいにしなさい・・・もういいだろ・・・母さん、責めてもしょうがないじゃないか」
功はいざとなったらいつでも子供より妻を優先する男である。
ユイはいたたまれず・・・店を飛び出した。
ユイの気持ちを組んでストーブが毒づいた。
「何しに帰って来たの」
「黙れ・・・しゃべるな」
あくまで子供よりも妻の気持ち最優先の男なのである。
「黙んねえよ・・・だって全部、母さんのせいじゃないか」
「皆さんの前だ・・・これ以上の醜態は・・・」
妻に逃げられた男ほど・・・みじめなものはない。
それでも・・・町の名士として・・・守るべき対面がある功だった。
夏はそういう男が・・・よしえを籠の鳥にしていたことをしっていた。
面子と真心はちがうのだ。
「先生・・・遠慮はいらねえ・・・存分におやりなさい・・・どうせ・・・ここにいるもんにとっては・・・所詮は他人事ですから」
夏の気迫に言葉を失う・・・功とストーブだった。
スナックから飛び出たものの・・・駅の構内のベンチに座るユイだった。
その時、アキから着信がある。
送られてきた画像は・・・「昔の恋人、種市の変顔」・・・。
続いて、種市先輩から着信がある。
送られてきた画像は・・・「無二の親友、アキの変顔」・・・。
クスクスと・・・笑いだすユイ。
そこには確かに真心の温もりがあったから。
木曜日 夏の終りの夜、夢の旅路の果て(能年玲奈)
上野、アメ横、東京EDOシアター前のアキと種市。
ユイに励ましの写メを送った二人だった。
「返信来ないな」
「そんな余裕ないべ・・・修羅場だべ」
しかし・・・ユイは鼻毛ぴょ~んの変顔をアキに・・・種市にはブサイクチューの変顔を送ってくるのだった。
「ユイちゃん・・・さすがだべ・・・」
いろいろとあった二人だった。
アキにとっては十七歳の初恋の人である。
一つ年上の種市は上京して春から冬までユイと遠距離恋愛をしていた。
そして十八歳の夏・・・二人は交際を始めたのだった。
「おらたち・・・付き合ってるのに逢えばユイの話ばかりしてるな」
「しょうがないべ・・・おらも先輩も・・・ユイちゃんがアイドルだからな」
「そうか・・・ユイは自分たちのアイドルか・・・」
ユイのメール。
「アキちゃん、逆回転してよ・・・(TjjjT)」
アキだけの特殊能力でも人生は逆回転できないのだった。
覆水盆に返らずなのである。
北三陸市。スナック「梨明日」・・・。
逃げた女房を前に亭主と息子は地元の人々に囲まれていた。
「許してなんかもらえない・・・人生は逆回転できないって春子さんに言われました」
「そりゃ・・・春子にしか言えねえ言葉だな・・・なんだかんだ・・・ユイちゃんの面倒見て来たのは春子だから・・・」
「信じられませんでした・・・あの子がそんなに弱くて・・・学校までやめちゃうなんて・・・みなさんのおかげで何とか立ち直って・・・スナックで働いたり・・・今では海女になってるなんて・・・」
「写真あるよ」と弥生の夫・あつしは「眉毛薄目・茶髪・脱色メッシュのユイ」の写真を見せるのだった。
百聞は一見に如かずで・・・打ちのめされるよしえだった。
「だが、帰って来たんだな」と出戻りのシングルマザー花巻珠子(伊勢志摩)が訊く。
「口惜しかったんです・・・」
「口惜しかったって・・・」
「うらやましかったんです・・・あの子は弱い所をみせたんですよね・・・私にもみせなかったのに・・・私も弱い自分をさらけだせたら・・・どんなに楽だろうって・・・」
「・・・」
「主人が倒れた時・・・このまま一人になったらどうしようって・・・子供たちもみんな出て行って・・・私一人になったら・・・って・・・今さら、じぇじぇじぇとか言えないし」
「そんで・・・捨てられる前に捨てたのか・・・一人かけおちだな」と美寿々(美保純)・・・。
「でも・・・淋しくなって・・・夫や子供たちにどうしても・・・逢いたくなって・・・ごめんなさい・・・身勝手なことはわかってます・・・元に戻ろうなんて思ってません。だって・・・私は・・・取り返しのつかないことをしてしまったから・・・」
「・・・」
「でも・・・もう一度・・・みんなと暮らしたいんです・・・どうか、家に置いてくれませんか」
「みんな・・・変わったんだよ。私も元の身体じゃないし・・・ヒロシもユイも昔のユイじゃない・・・だけどな・・・ヒロシには悪いけど・・・父さん・・・よしえが好きなんだ・・・よしえが戻ってくれたら・・・それでいいんだよ」
「親父にそう言われたら・・・どうしようもないな」
「すまん」
「あなた・・・」
「先生の奥さんも・・・逃げて帰って来たんだから・・・もう立派な田舎者だべ」
賛同する田舎者たち。
涙にくれる・・・足立一家だった。
「よし、手始めにおらのこと・・・眼鏡会計婆って言ってみろ」
「眼鏡会計・・・眼鏡婆」
「眼鏡ダブルかよ・・・」
こうして・・・出戻りの儀式は終わったのだった。
「あれ・・・夏ばっぱは・・・」と陰の女村長を捜す一同だった。
天野家。
上京中の大荷物をユイに持たせて帰宅する夏だった。
「すまねえな・・・」
「さすけねえよ」
「ああ・・・身体がしんどい」
「おつかれさまでした」
夏はゴロリと横になる。長旅の果てに修羅場をおさめて夏の体力も限界に来ていた。
ユイはアキ御愛用の乳酸飲料を冷蔵庫から取り出して喉をうるおすのだった。
海女の夏ばっぱと新人海女のユイなのである。
春子が上京して以来・・・娘のいない母と母のいない娘は仲良くやっているのだった。
「ユイちゃん・・・お母さんと仲良くできそうか・・・」
「わかんない・・・でも・・・今日、お母さんを見た時・・・抱きつきそうになった・・・抱きつかないけどね」
「そうか・・・」
ユイの答えに満足して・・・夏は目を開いたまま、いつもの眠りに落ちていた。
「それより・・・夏ばっぱ・・・橋幸夫の他には誰かに会わなかったの・・・お台場とか、原宿とか行ったんでしょ・・・表と裏はやっぱり違うの・・・ねえ・・・夏ばっぱ・・・夏ばっぱっ」
夏の半眼開き睡眠に驚くユイだった。
あわてて・・・ユイはアキに電話した。
「大丈夫だ・・・寝てるだけだ」
「じぇ・・・これで・・・」
「お母さんに会ったか・・・」
「うん・・・」
「よかった・・・足立家再結成だな」
「解散して・・・休止中のバンドじゃないんだから・・・」
「でも・・・そしたら・・・潮騒のメモリーズも再結成できるべ」
「そんなの・・・無理だよ」
「なして・・・」
「私・・・来年、二十歳だもん」
「そんなの関係ねえべ・・・二十歳だろうが、三十路だろうが・・・四十になって迷子だろうが・・・ユイちゃんはおらにとっていつでもアイドルだ・・・」
「・・・アキちゃん・・・いつも・・・ありがとうね」
北三陸市の夜に虫の音が響く。
潮騒のメモリー 私はギター
Aマイナーのアルベジオ 優しく
来てよ その火を 飛び越えて
夜空に書いた アイム ソーリー
来てよ その川 乗り越えて
三途の川の マーメード
友達少ない マーメイド
マーメード 好きよ 嫌いよ
2010年の夏が終わっていく・・・。
はたして・・・潮騒のメモリーズが再びステージに立つ日が来るのだろうか。
誰もが・・・この世界の神に祈るのだった。
しかし・・・本編はクランクアップしているのです。
金曜日 一二サンバ・スプリングサンバ・地元・地元・地元サンバ・カーニバル(斎藤アリーナ)
2010年9月、天野アキの人気に火がつこうとしていた。
女優・鈴鹿ひろみも出演したトークショー、「パークスタジオ」に出演するまでになっていたのである。
袖が浜の海女のアイドルアキちゃん、北三陸市の潮騒のメモリーズのアキちゃん、岩手県出身のGMT5のアキちゃん、見つけてこわそうの逆回転のアキちゃん、受験が恋人のマスコット・アキちゃん・・・一部、素晴らしいインターネットの世界では先物買いのおタクたちがアキの評価を高めていたのであった。
社長の春子が大人しくロムっている間は順風満帆のスリーJプロダクションだった。
一方、オフィス・ハートフルの会議室には暗雲が立ち込めていた。
GMT5の新曲「地元サンバ」がオリコンのようなヒットチャートで7位発進と・・・早くも人気に陰りが出始めたのだった。
「どうして・・・首位をとれなかったと思う」とプロデューサーの太巻(古田新太)は部下たちに問う。
「やはり・・・私がセンターとるのが早すぎた感は否めないね」と答えたのはGMT5の新メンバー・ベロニカ(斉藤アリーナ)だった。山梨県とブラジル人のハーフであるベロニカを前面に押し出してのサンバらしい。
「やはり・・・マニアックな方向に走り過ぎた観も否めないね」と分析するベロニカを退場させるチーフ・マネージャーの河島(マギー)だった。
「理性的かつ陽気じゃないブラジル人か・・・」
ふと目を落とした太巻の目に飛び込むウイークリー・オリコンのような雑誌の「天野アキ特集」・・・。
「とにかく・・・GMTもアメ女も・・・過渡期に来ている勘は否めないね」とベロニカに染まる太巻だった。ベロニカには何か太いものがあるらしかった。
「そこで・・・ひとつのピリオドを打ちたいと考えました・・・映画制作です」
太巻は・・・アイドルたちの生き残りを賭けた「太巻映画祭」の開催を提案するのだった。
そんな事とは露知らず・・・生放送の「パークスタジオ」のテレビ局のスタジオ入りした天野アキと水口。正宗は送迎の間の本番中は個人タクシーを営業するのだった。ローンを返済するためである。
オリコンのようなものの天野アキ特集をチェックしていた水口はふと・・・アキの表情に目を止める。そしてよせばいいのに・・・本番前のアキに疑問をぶつけるのだった。
「天野・・・まさか、彼氏ができたんじゃないだろうな・・・」
「じぇ・・・」
「え・・・できたのかよ」
「本番で~す。天野アキさん、お願いしま~す」
カメラの前に立ったアキは例によって司会者(中田有紀)の言葉も耳に入らない猫背の妄想猿と化すのだった。
「アキちゃんは・・・高校生の時に海女さんとしてウニを取ってたんですてねえ・・・そこで、今日は当時の海女さんの衣装を着てもらいました・・・久しぶりに着てみてどうですか・・・・・・アキちゃん・・・アキちゃん・・・」
(なんでだべ・・・いつバレたんだべ・・・おらと先輩が付き合いだしたのは・・・シアターの前だった・・・あん時か・・・まさか・・・裏口から・・・水口が・・・こっそりのぞいたいたのか・・・そしてニヤニヤ悪い探偵のように笑っていたのか・・・そして、おらと先輩を今日まで泳がしていたのか・・・なんてこった・・・そうとも知らず・・・おらは生簀にいれられて食べられるのを待つ魚介類のように・・・泳がされていたのか・・・まずい・・・受験が恋人のおらに彼氏がいるのは絶対ゆるされねえ・・・契約不履行になったら・・・ママにはたかれる・・・)
「アキちゃん・・・」
「あ・・・あの・・・こ、恋人がお仕事です」
「え・・・」
「あ・・・間違えました・・・お仕事は恋人です」
テレビの前で春子は「バカ」かとのけぞるのだった。
素晴らしいインターネットの世界では・・・。
【姉さんのパークスタジオ・ゲスト天野アキ★1】
123:名無しの姉さん
恋人が・・・仕事?キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!
124:名無しの姉さん
ええええええ
125:名無しの姉さん
アホの子・・・(ノ∀`)アチャー
126:名無しの姉さん
ちょwww
127:名無しの姉さん
恋人とどんなお仕事する気だお?
128:名無しの姉さん
天野アキか・・・俺が注目したからにはかならずそこそこ問題発生になるアイドルだ
他に・・・スキャンダル三連発・有馬めぐ、主演舞台が忙しくてフェイド・アウトの高幡アリサ、忍者居酒屋に消えた宮下アユミ、影武者Bの成田りななどがいる
129:名無しの姉さん
恋人発覚(・∀・)
130:名無しの姉さん
こんな時も
いじらしく
びんびんな
ときめきのなま
131:名無しの姉さん
天野さん、恋人いましたよ
132:名無しの姉さん
この早さなら言える・・・お相手はさかなクンさん
133:名無しの姉さん
アキちゃん・・・恋人いるってよ
なんとか収録を終えたアキを純喫茶「アイドル」で説教する水口だった。
「仕事が恋人・・・でしょ」
「・・・」
「この写真を見て・・・昔の太巻さんの言葉を思い出したんだ・・・口元が緩んで・・・目の焦点があわなくなったり、瞳孔が開いたりしているタレントはあぶない・・・恋人が出来た証拠だって・・・」
どんなチェック・ポイントなんだと叫ぶお茶の間、しかし激しく同意する甲斐さんだった。
「相手は誰なんだ・・・いつからつきあってる」
「うえええん」
「いちいち泣くなっ」
「だって・・・ママにたたかれる・・・」
「知るかっ」
「・・・」
「じゃ・・・一つだけ答えてくれ・・・」
「板前か・・・板前ではないか・・・」
「じぇじぇじぇ・・・」
「板前かっ」
素晴らしい動画サイトでは・・・。
現役力士の高見盛が「恋人がお仕事です」とアキのセリフに吹き替えられてインタビューに答える動画などがアップされているのだった。
その頃・・・無頼鮨では・・・素早く企画を立ち上げた太巻が鈴鹿を口説いていた。
「太巻映画祭・・・」
「アメ女もGMTも余命一年と見て・・・生き残りが予想されるメンバー十人を逆算して・・・主演映画を十本作ります」
「土足で踏み込むわねえ」
「いつだって必死ですから」
「十人も生き残れるの」
「ま、ほとんどはこけるでしょう・・・しかし、私にも美学がありますから」
「華々しくこけるのね」
「私自身も一本、監督したいと思っています」
「・・・」
「潮騒のメモリーのリメイクで・・・」
「それは・・・さすがに無理よ・・・私が17歳の役なんて・・・」
「・・・図々しい」
「・・・冗談よ・・・どうせ、母親役でしょう」
「そうです・・・主演は・・・この子です」
登場したのは白タイツも初々しい宮城県出身のオノデラちゃんこと小野寺薫子(優希美青)だった。
「鈴鹿島の海女ひろみ役です」
「ああ・・・確か舞台は宮城県ですものね・・・」
「宮城県の名物と言えば・・・」とオノデラちゃん。
「ずんだずん・・・結構です」と乗りかけてやめる鈴鹿だった。
「それで・・・主題歌はどうするの・・・今度は誰に歌わせるの」
「それは・・・」と言葉を濁す太巻。
ここで・・・「鈴鹿は影武者の存在を知っている」派は「やはり」と思うのだが、キッドはあくまで鈴鹿さんは知らない派である。ここでは「鈴鹿ひろ美」ではないのかという問いかけを鈴鹿はしているだけなのだ。
「わかったわ・・・出演してもいい・・・ただし、条件が一つあります」
「・・・」
「主演女優は・・・オーディションで選ぶこと・・・決めるのは私」
「私じゃだめですか・・・」
「あなたもオーディションを受けなさい」
蒼ざめるく太巻だった。
聞き耳を立てていた種市は早速、アキに電話をするのだった。
事務所に戻ったアキは春子と水口の目の前で着信を受ける。
「どうしたの・・・早くでなさいよ・・・」
母親とマネージャーの目の前で秘密の恋人の電話に出るアキ。
「アキ、出ま~す・・・はい、もしもし、天野ですう」
右舷の弾幕は薄いのだった。
土曜日 いつも誰かがウソをついているんだぜ(小泉今日子)
「潮騒のメモリーがリメイクされるってよ」
「じぇ・・・じぇじぇ・・・じぇじぇじぇ・・・潮騒のメモリーがリメイクされるって・・・」
「なんですって・・・」
「だども・・・潮騒のメモリーのこと・・・よく覚えていたな」
「そりゃ・・つきあってる彼女の一番好きな映画だもの・・・」
「うへへ」
「ちょっと・・・あんた・・・誰と話してるのよ・・・ちょっと、電話貸しなさいよ」
「じぇ・・・」
「もしもし・・・あんだ・・・誰・・・」
「・・・種市です」
「あはん、南部ダイバーかあ・・・」
アキはママには絶対ウソがつけないのだ・・・そういう風に育てられているのだ。
そして・・・それはアキの生き方・・・そのものなのだった。
このドラマの根底に流れる春子の鈴鹿ひろ美影武者ライフ。
それは・・・「嘘」そのものである。
日本全国に流れていた歌声が鈴鹿ひろ美ではなく天野春子だったという本当のことを隠した嘘・・・。
その嘘をついているのは誰か・・・これが一つの主題なのである。
首謀者は太巻。
だが・・・春子は実は嘘の共犯者である。
そして・・・鈴鹿ひろ美は・・・はたして・・・共犯者なのか・・・それとも無実の人なのか。
たった一つの本当のことは・・・大いなる「謎」を含んでいるのである。
一方、アキは「ウソのつけない女の子」なのである。
その一つの象徴が・・・「安部ちゃんの影武者事件」だった。
海女見習いになったけれどウニが獲れないアキのために安部ちゃんが海の中で渡してくれるウニ。
祖母の夏は「観光海女として・・・アイドルのアキは・・・ウニを獲ったことにしろ」とアキに教える。
それは「夢」を売る仕事だから。
しかし、アキはそれを「夢」とは思えず「嘘」だと思う。
だから、アキは「本当は安部ちゃんがとった」と観光客にばらしてしまうのだった。
海女たちの面目は丸つぶれ・・・観光客はガッカリである。
しかし・・・だから・・・安部ちゃんは・・・海女たちは・・・夏ばっぱさえ・・・アキを好きになってしまったのである。
世界がアキを愛し始めたのはまさにこの時だっただろう。
ああ 月の夜は ああ 夢になれよ
裏切られた 思い出も
口に出せば わらいごと
好きよ 好きよ 嘘つきは
しかし、「夢」という「嘘」がなければ生きていけない人はいるのだ。
アキもまた・・・秘密の恋人を抱えて・・・大人の階段を昇りはじめる。
嘘つきの母、嘘つきの世界と戦うために・・・。
「で・・・それって・・・誰、発信なの・・・太巻?・・・それとも鈴鹿ひろ美?」
「ずぶんも・・・断片的にしか・・・」
「歌は・・・主題歌は・・・誰が歌うの?」
「鈴鹿さんもそれを気にしてました・・・」
「そりゃそうでしょうよ・・・で・・・主演はだれなの」
「お・・・お・・・お・・・おお」
「なんですってえ・・・」
「おっ」
「おっとせいかっ」
「オーディションっす」
「オーディション・・・」
「潮騒のメモリー」リメイク決定。主演オーディション開催の知らせは「特別コース・シースルーコンパニオン(特別料金)の妖しい温泉宿」の広告が掲載されるスポーツ新聞によって北三陸市の喫茶「リアス」にも届くのだった。
「ユイちゃんも応募すればいいべ」と大吉。
「私なんかが応募したら・・・頑張ってるアキちゃんに失礼だもの」
「おや・・・合格前提ですね」と吉田。
「出てよ~オーディションのりこえて~」と保。
「駄目よ~刺青お断り~」と吉田。
「ユイちゃんの潮騒のメモリー・・・見てみてえなあ」
「無理なものは無理です」
「こういう時は・・・兄貴が勝手に応募しちゃうパターンでねえか」
「履歴書買いにいきます」とストーブ。
「やめてよね」と釘をさすユイだった。
和やかな北三陸の昼下がりだった。
一方、暗雲漂う純喫茶「アイドル」・・・。
太巻の先兵・・・河島が水口を呼びだしていた。
「うちの天野も一応、応募してます・・・」
「応募総数、主催者側発表、二万通、実際は二千通だけどね」
「まあ・・・経緯から考えて出来レースですよね・・・小野寺で決まりなんでしょう・・・」
「いや・・・それがさ・・・小野寺ちゃん・・・泳げないんだ・・・それで相談なんだけどさ・・・水の中だけ・・・天野っていうのはダメかな・・・」
「なんですか・・・どんな冗談ですか・・・うちの天野は一応・・・表舞台に立っているんですよ・・・そんなメリットのない話・・・馬鹿にしないでよ・・・」
「いや・・・これは折衷案なんだよ」
「たとえば主演はそっち・・・主題歌はうちとかならともかく・・・そっちの歩み寄りゼロじゃないですか・・・」
憤然と席を立つ・・・水口。
しかし、そこへ太巻が現れる。
久しぶりの再会に喜ぶ甲斐さん。
だが・・・太巻は本題に入るのだった。
「潮騒のメモリーは特別なんだよ・・・俺としても絶対失敗したくない・・・小野寺主演でやりたいんだ・・・とにかく俺にとっても鈴鹿さんにとっても特別な作品だから・・・」
「天野春子にとってもでしょう・・・」
「だまれ・・・痛々しいんだよ」
「・・・」
「鈴鹿さんが天野に優しくしているのを見ると・・・罪滅ぼししてるとしか思えない」
「だって・・・鈴鹿さんは御存じないでしょ・・・」
「俺の前では・・・そういうことになっている・・・しかし、ありえないだろう・・・自分が歌ってるかどうかわからないなんてこと・・・鈴鹿さんは俺の嘘にずっと付き合ってるんだ・・・だから・・・自分も悪い事をしたと思ってるんだよ・・・悪いのは俺だけなのにさ」
ここで「鈴鹿ひろ美は知っている派」は万歳三唱をするのだが・・・あくまで太巻がそう言っているという話である。
逆に言えば・・・首謀者は太巻ではなくて鈴鹿ひろ美だったという線もあるのだが・・・あくまでキッドは「鈴鹿さんの無実を信じる派」なのだった。
いつの間にか・・・論理をすりかえて・・・「鈴鹿さんのために天野ではなくて小野寺」という話に持って行く太巻である。
「だから・・・天野にはオーディションを受けさせる・・・しかし、あくまで小野寺のシャドウとしてだ・・・ということで・・・天野春子・・・天野母子を説得してみてくれ・・・」
「・・・」
「おたくの事務所に対して悪意はない・・・悪いようにはしないから・・・」
釈然としない水口。
太巻と河島が去った後で・・・甲斐さんは呟く。
「悪いようにはしないか・・・昔、聴いた言葉だな・・・そうか・・・太巻が春ちゃんにそう言ってたっけ・・・でもさ・・・悪いようにしないからって、悪いやつのセリフだよね」
甲斐さん65歳・・・アイドルの歴史をそっと見守り続けた男だった。
ただし、オノデラちゃん推しである。
そして・・・スリーJプロダクションに届く「書類審査合格の通知」・・・。
アキは無邪気に懐かしのウルトラマン・スプーン・マイクで「潮騒のメモリー」を口ずさむのだった。
そして、スナック「梨明日」のユイちゃんに報告である。
大逆転でオーディション会場に現れる一般応募の足立ユイの目もなくはないが・・・アキの合格の報告を喜んで受け入れるユイだった。
「がんばって・・・アキちゃん」
「それと・・・夏ばっぱ・・・そっちさいねえか」
「今日はお休みだよ」
「じゃ、おらが明日、朝一番で知らせるべ」と大吉。
一部お茶の間が「うわあ」と叫びました。
これは・・・明らかに由緒正しいフラグ・・・。
九月十二日・・・オーディション当日。
ウニ丼を取りに来た大吉は猫に導かれ・・・作業場に倒れている夏を発見する。
「いいか、アキ、面白いこと言う必要ないんだぞ・・・お前はそのままで面白いんだから」
世田谷り黒川家で的確すぎるアドバイスを正宗がした瞬間。
大吉からのメールが届く。
記念すべき第一回と同じだが・・・第百二十回はシンプルな深刻さが匂うのだ。
「お母さん倒れた!( ‘ jjj ’ )/」
「悪い冗談ね・・・大吉さんたら・・・」
しかし・・・電話が鳴りだすのだった。
「嘘じゃねえ・・・本当だ・・・夏さんの意識がなくって・・・」
あわただしい救急隊員の気配。かつ枝(木野花)の声もする。
かつ枝はこのドラマで唯一死亡している克也(小林優斗)の母親である。
「春ちゃん、聞いてるか・・・大変だ」
立ちすくむ黒川家の三人だった・・・。
夜露まじりの 酒に浮かれて
嘘がつけたら すてきだわ
そうよあたしは 空で生まれて
雲に抱かれて 夢を見た
ああ・・・船を出すなら九月かよ・・・。
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コメント
>ヤング春子(有村架純)に続いて驚くべきキャスティング力である。もう、夏ばっぱの若い頃はこうだったとしか思えないのだった。
ファンかどうかは別にしても、再度激しく同意(死語)です。梅ちゃん先生のときより表情も若く見えるし忠兵衛さんが惚れるのも納得だわー。夏さんの胸みた観光客がいたら殺したくなる(?)のも納得だわー。
(観ていて不自然だと感じた、「春子に絶対言えない」理由は…ガクガクブルブル)
そしてどうも…テレビ局内で夏ばっぱが「はいっ!」と嬉し恥ずかし答えた声だけは徳永えり嬢の声があてられていたように思うのです(私の絶対徳永えり音感によれば)。
で、橋幸夫の株は上がったわー。ラストに向けて「いつでも夢を」が作品の最終テーマを担うんだなぁとも思っています。
そして、衣装スーパーバイザーさんはたまたま私物でウニ柄の付け下げ(?)と海産物の帯を持っていたという話なのですが、私はそのたまたまは信じていません。きっと、「こんなこともあろうかと」と、番組への自分の起用が決まったときから探しまくっていたに違いない(そして実際、ぴたりとハマった)。名作は、そういう不思議なパワーで成り立つと思っています。
投稿: 幻灯機 | 2013年8月18日 (日) 06時00分
✪マジックランタン✪~幻灯機様、いらっしゃいませ~✪マジックランタン✪
とにかく歯並びとか・・・絶対的な容姿が
似ているわけですが
表情の作り方などを
かなり研究している様子がありますな。
おそらく・・・相互で研究している。
構図は新旧橋幸夫と歌うだけですから
時の流れを越えるように
相互作用があったとしか思えない完成度でございました。
まあ・・・性的魅力に関しては
人それぞれでございますからな。
上半身露出の若夏を
妄想するだけで
サモンと聞いただけで
になるかどうかは秘しておきまする。
ふふふ・・・ファンの妄想とめどなしで
ございますね。
まあ、橋幸夫はものすごく
お得な特別出演でしたなあ。
橋幸夫は出るが
吉永小百合は出ない・・・
それが大人の世界でございますけれど~。
「いつでも夢を」は
ものすごく主題っぽい歌詞であることは
間違いないですな。
そういう歌っ子を
主人公が歌いてえって
言っちゃってますからな。
ウニの着物は神秘的でしたな。
ちょっと着崩して
やぼったくなってるところが
また乙でございました。
Tシャツ夏ばっぱも
一部愛好家の頬を赤らめさせたことでございましょう。
まあ。キッドの場合は今週は
ベロニカ一点だったことは否めませんぞ。
ダイアナ~、万歳っ。
投稿: キッド | 2013年8月18日 (日) 22時27分