夏の夜の悲鳴~悪霊病棟(夏帆)
恐怖には虚実がある。虚とは生きているものの恐怖であり、実とは死んでいるものの恐怖である。
「生」とは空虚なものであり、「死」こそが現実なのである。
人間が「死」を知らずに「生」を感じている時には恐怖は予感に過ぎない。
「死」を知った瞬間に恐怖は生じ、「生」が終わる時に恐怖は最高潮に達する。
油断とは「死すべき運命」を忘却することであり、恐怖なき死の直前を意味する。
「生」とは「死」と「死」の間の空虚な幻想に過ぎず、「死」こそが充満した現実であると知ることが恐怖に味わいをもたらす。
優れた恐怖は「死」を忘れた瞬間に「死」を想起させ、さらに「安堵」や「安寧」こそが「死」に直結していることを連想させるものである。
「死」から逃れたと錯覚した瞬間の「死」、「生」を失ったことを認識しない「死」は神がかった恐怖と言える。
さらに「死」と思ったものが「生」であったときに感じる恐怖こそが恐怖の大王となる。
臨終を迎えたものが地獄で覚醒した時の恐怖は想像するだけで恐怖なのである。
で、『悪霊病棟~第6号室』(TBSテレビ201308300058~)脚本・鈴木謙一(他)、演出・内藤瑛亮を見た。尾神琉奈(夏帆)と坂井愛美(高田里穂)の同級生で、中学時代に事故死し、愛美を霊界のような場所に引きずり込んだのは楠山冴子(田中明)である。田中明は「美少女戦士セーラームーン」で北川景子の、「富豪刑事デラックス」で深田恭子の、「野ブタ。をプロデュース」で柊瑠美の、「猟奇的な彼女」で松下奈緒の、それぞれ幼少役を務めたバリバリの子役キャリアである。やや、キャスティングが迫力不足のこのドラマにあってさすがにオーラを放っているのだった。
ここまで・・・キッドがちょっと怖いと思ったのはすべて「サエコ」がらみである。
今回、尾神琉奈の対角線上に後輩ナースの鈴木彩香(川上ジュリアが配置されていることがわかるのだが・・・ドラマとしては危惧した通りに通行人Aが重要な役だったという違和感が否めない。大抜擢すぎるのである。
比較することに何の意味もないが「みんな、エスパーだよ!」の真野恵里菜くらいのネーム・バリューが欲しかったよねえ。
もちろん・・・川上ジュリアには何の罪もないのである。まして、これがドラマデビュー作で・・・舞台女優としてはキャリアを積んでいるが・・・ここから素晴らしい女優になっていく可能性は充分にある。
だが、一つのエンターティメントとしてこのドラマを語る時に1993年度生まれならば草刈麻有、志田未来、能年玲奈、小池里菜、菅野莉央、水沢奈子、大野未来、宮崎香蓮、小島藤子、西内まりや、武井咲、川島海荷、渡辺麻友などがいるわけである。・・・みんな引受けなさそうだぞ。
今回、三鷹亮子(菊井亜希)がこわがり役なのだが・・・川上ジュリアはここのポジションがよかったと思う。
じゃ、菊井亜希の立場はどうなるんだよ・・・お前、何様なんだよっ。
ただのお茶の間の悪魔でございます。
サエコの霊(フェイクの可能性あり)によって転落死に導かれた琉奈の親友・愛美は隈川病院で死亡が確認される。
「友達の・・・愛美がいるから・・・ここに来たのに・・・この街で働こうと思ったのに・・・私のせいで・・・愛美が・・・あんなことに・・・」
夜更けの病院の待合室で蹲り、呟き続ける琉奈を主任看護師の木藤純子(森脇英理子)はもてあますのだった。鈴木彩香の誘導によって・・・純子も琉奈を不気味な存在として意識し始めている。
「とにかく・・・ここでは・・・」
「仮眠室にでも・・・」と病院後継者の研修医・・・隈川朝陽(大和田健介)は琉奈を抱え起こそうとする。
しかし、琉奈は「ここは・・・いや」と小学生のように駄々をこねるのだった。
「俺が・・・自宅に送る・・・」と当直医としては問題発言の朝陽だった。
ものすごく・・・説明不足だが・・・いつの間にか、朝陽は猫背のナース琉奈に「ただならぬ好意」を寄せているらしい。もう、巨乳好きだからと脳内補完するしかない展開である。
琉奈の自宅で・・・足腰立たない琉奈を抱いてベッドまで運んだ朝陽は足をもつれさせ、もう少しで琉奈の胸に顔を埋めそうになるのだった。
しかし、さすがにそのまま、男と女の関係になるのは自制する朝陽だった。
「もう・・・大丈夫です・・・」
「君は・・・何も悪くないと思う・・・充分、休養をとったら・・・病院に復帰してください」
「・・・」
そこはかとなく・・・琉奈も朝陽に好意を感じるのだった。
勤務中に・・・心霊番組で起死回生を狙っている丑寅プロダクションの三流のディレクター・斑目和也(鈴木一真)から呼び出され、明らかに問題行動と思われる外出をする朝陽である。
斑目は「自殺するのに首吊ではなくて飛びおりるなんておかしい」と自殺マニアとして奇妙な発言をして・・・朝陽の警戒心を誘う。
「何か・・・私に見せたいものがあるとか・・・」
斑目は鈴木彩香のインタビュー動画に移る「琉奈にそっくりな影」を示すのだった。
「何の悪戯ですか・・・」
「悪戯じありません・・・何の細工もしてません・・・坂井愛美は死の直前に・・・この動画を見ていたのです」
「だから・・・なんだと言うんです」
「隈川病院を取材させてください・・・さもなくば・・・この動画をネットに流します」
「脅迫ですか・・・」
「いや・・・私はただ・・・部下が何故、自殺なんかしたのか・・・真相を知りたいだけです・・・彼女には自殺する理由なんてなかった」
「自殺なんて・・・理由があるからするとは限りませんよ」
「じゃあ・・・あなたは・・・この奇妙な影をなんだと思いますか・・・」
「それは・・・」
隈川病院の怪異と・・・旧病棟最上階の謎を知る朝陽の好奇心は疼くのだった。
その頃、琉奈がかって幻視した・・・トイレで首を吊った黒人女性の幽霊が・・・ナースの一人・三鷹亮子を襲うのだった。
「わ・・・わたし・・・早退させてもらいます」
「どうしたの・・・」
「六階に出てた幽霊が・・・四階まで降りて来たんです・・・もう・・・私・・・我慢の限界なんです」
「何、言ってるの」
「お世話になりました」
三鷹は白衣のまま、病院を抜け出した。
看護師たちの目は・・・出勤してきた琉奈に注がれる。
化け物を見る目に耐えかねる琉奈。
そこで・・・朝陽から呼び出しを受ける琉奈だった。もう・・・この病院の勤務体制、崩壊してるよね。
そして・・・何も説明せずに・・・琉奈に映像を見せる朝陽なのである。
「なんなの・・・なんのつもりなの」
「・・・」
「こんなものを・・・私に見せて・・・ひどい・・・私のせいじゃないって・・・言ってくれたのに・・・先生を信じたのに・・・先生は医者かもしれないけど・・・人間じゃない」
「ひどいな・・・」
逃げ出そうとする琉奈を抱きとめる朝陽。
「君のことを信じてる・・・君には不思議な力があるだろう・・・医師としては失格かもしれないが・・・そういうことがあるってことを・・・僕は信じたんだ・・・だから・・・君も・・・その力と向き合ってほしい・・・」
「・・・どうしろって言うんです・・・」
「とにかく・・・この動画を見て・・・何か思い当ることがないか・・・考えてみてくれ・・・あるいは・・・僕たちには分らない何かを・・・君なら感じられるかもしれない」
「・・・わかりました・・・もう一度、先生を信じてみます」
「・・・」
斑目が撮影者として立ち会い、再び、動画を見始める琉奈。
すると・・・室内の電圧に変化が生じ、不気味な振動で物品が音を立てる。
「ポルターガイスト現象・・・」と息を飲む斑目。
「うわあああああああ」と突然、のけぞる琉奈。
「どうしたんだ・・・」と琉奈を抱きしめる朝陽。
「キヌ・・・」
「キヌってなんだ・・・それが・・・君に憑依しているのか」と斑目。
「私じゃない・・・」
「君じゃあない・・・じゃ・・・誰なんだ・・・」と朝陽。
「す・・・ず・・・き・・・あや・・・か」
「なんだって・・・」
顔を見合わせる斑目と朝陽だった。
二人が見ている怪異が・・・心霊動画だけだからなあ・・・ちょっと弱いんだよな。
まあ・・・今回は・・・許容範囲か・・・。
・・・だから、何様なんだよっ。
海女漁と悪霊は一字違いで大違い。
なんだって?
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