永久凍土のユカ(マンモス)とルシールの息子・ジミヘンのシャツとホットドッグのケチャップと香車と川と橋とダイヤモンドとWoman(鈴木梨央)
海水温度の上昇が「地球温暖化」とは無関係ではないとなんとなく言った後で。
若者の車離れを危惧する車メーカーの「企業努力」の話を淡々とした後で。
放射能汚染水が何故漏水したのかの「原因特定」が進まないことについて疑問を呈した後で。
携帯端末機器の「新製品の性能」について楽しげに語る。
その直後に「シリア情勢」について深刻な顔をする。
我が国のニュースキャスターたちが皆、発狂しているように見えるのはキッドだけなのだろうか。
しかし、情報とは基本的にそういう統合失調症のような側面を持っている。
支離滅裂な情報を伝える仕事をする人々が支離滅裂に見えるのは仕方ないことなのかもしれない。
「だけどさ・・・」と彼らは言うだろう。「ラーメンの美味しそうに見える食べ方は考えられるけど・・・海水の放射能濃度の調べ方はわからないんですよねえ」と。
今夜は「高校の技術科の先生」に取材して「タンクから放射能がどのように漏れるか」を解説していた。
「溶接ならば漏れにくいと思うんですけど、接合部分がボルト留めだとパッキンが腐食して劣化するので漏れる可能性は大きくなるかもしれませんねえ」
いや・・・そういうレベルの問題なのか。
そこまで・・・馬鹿なのか。
しかし・・・社会が平均的にものを考えようとすれば・・・最高水準の話はできないのである。
だから・・・とにかく・・・なんだかわからないけれど・・・「Woman」は安心する。
最高水準的な何かがそこにあるからだ。最高水準の脚本。最高水準の演技。最高水準の演出。
その最高水準さ加減がすべて伝わらないとしても・・・最高水準的なものが存在すること自体が一つの救いなのである。
少なくともそこには目指すべき目標が示されているのだから。
で、『Woman・第9回』(日本テレビ20130828PM10~)脚本・坂元裕二、演出・水田伸生を見た。シングル・マザー青柳小春(住田萌乃→満島ひかり)は母親の紗千(田中裕子)の二度目の夫・健太郎(小林薫)の娘である異父妹・栞(荒川梨杏→二階堂ふみ)が亡き夫・青柳信(小栗旬)の死に関与していたことに激怒する。渾身の謝罪が受け入れられなかった栞はすべてを捨てる決心をして家を出る。最愛の栞に去られて絶望する紗千だったが小春が死に至る病に冒されていることを知り茫然とするのだった。
名人に香車を引いた男・将棋棋士・升田幸三(1918-1991年)は広島市でクリーニング店の丁稚奉公をしていたという。香車は将棋の駒の一つで、「香車を引く」とは香車抜きで戦うということ。名人と不利な条件で戦っても勝てるぐらい強いという話である。
クリーニング店で転倒した小春は負傷して出血してしまうのだった。
「生姜焼きにしようか、西京焼きにしようか迷ってるんすけど・・・西京焼きにはしゅうまいがついてるんす。だから・・・二人で別々に頼んで半分ずつシェアしたら・・・あら、小春さん、どうしたの」
シングルマザー仲間の蒲田由季(臼田あさ美)は驚愕するのだった。
「ごめん・・・お弁当の件は無理みたい・・・」
主治医の澤村医師(高橋一生)に入院を命じられる小春だった。
「とりあえず・・・感染症の兆候は出ていないし、発熱が収まったら退院できますよ・・・三日と言いたいけど二日は入院してください」
「そんな・・・困るんですけど・・・夕方になったら子供たちにご飯を作らないと・・・熱もないと思うんですけど」
「熱はありますよ・・・熱がないと死んでますし、死んだら一生、夕ご飯つくれませんよ」
無能であるがゆえに声をかけやすいナマケモノの健太郎に病院の公衆電話から電話する小春。
「ただの過労なんですけど・・・二日入院するので・・・子供たちのことをお願いします・・・あの子供たちには入院のことは秘密で・・・」
健太郎は小春の長女・望海(鈴木)と電話を替る。
「お母さん、どうしたの」
「ホットドッグ大食い大会があって・・・出場者千人の服がケチャップとマスタードだらけになっちゃったの・・・」
おそらく、自分の服を汚した血液と小説「スタンド・バイ・ミー/スティーヴン・キング」のゴードン気分で嘘をつく小春だった。
「お母さん、大丈夫・・・」
「うん、頑張って洗うから」
「・・・」
疑問を心にしまう望海だった。
怖くないよ
私はこわくない
あなたと一緒にいれば
ただそれだけでね
すべてを知ってしまった紗千は見舞いの荷物を用意する。
何も知らない健太郎は不平を言うのだった。
「ちょっと・・・荷物、重すぎないかな」
「・・・」
「わかりましたよ」
その荷物の中に文庫本の「升田幸三自伝・名人に香車を引いた男」が入っている。
読書と将棋が趣味の小春は喜ぶのだった。
健太郎をお使いに行かせて・・・紗千は望海と陸(髙橋來)を連れて横浜みなとみらい方面におでかけするのだった。メインは「パシフィコ横浜」での約三万九千年前の永久凍土の地層から2010年に発見された冷凍マンモス「ユカ」(推定年齢10歳のメス)の展示会である。
陸は大興奮して「ママのために持って帰りたい」と主張するが、望海に「それは窃盗だからダメ」と却下されて落胆するのだった。
観覧車好きの紗千は観覧車を見て「観覧車には乗らなくていいの」と望海に尋ねる。
「楽しいことが多過ぎると・・・何が楽しいのか、わからなくなるし・・・楽しいことが薄まるような気がして・・・もったいないから・・・今日は・・・冷凍マンモスのことだけ、考えていたいの・・・観覧車に乗りたかった?」
「あなたは・・・小春に似ているわねえ」
「そうなの?」
「ええ・・・小春もあなたみたいな子だったわ」
お母さんのお母さんである祖母と娘の娘である孫は微笑み合うのだった。
望海と陸を挟んで就寝する健太郎と紗千。
紗千は望海にねだられるままに子供時代の小春の話をする。
「小学一年生の時・・・小春は教科書を全部捨ててしまって・・・教科書は今まで読んだ本の中で一番つまらないと言ってね・・・それから世界のどこかにいる自分にそっくりな人間を捜しに行くって言ってね・・・」
「ママはダメだね・・・わがまますぎるね」
「どうなることかと思ったけど・・・あなたたちのママになったわ」
「・・・」
「心配することなかったのよね・・・素晴らしいママになったんだから」
陸と健太郎はすぐに眠りに落ちるのだった。
健太郎は幸せな男である。
健太郎の時代には許されたことが許されない時代に生きる男・生活福祉課生活保護担当職員の砂川良祐(三浦貴大)は病院で小春を見かける。
「あの人・・・どこか悪いの」と妻の研修医・藍子(谷村美月)に尋ねる良祐。
「そんな個人的事情を話せるわけないでしょう・・・」
「舜祐はどうしてる・・・」
「元気よ・・・今は母が面倒みてくれてるわ」
「ずっと・・・このままなのか」
「・・・」
「あのさ・・・子供には父親と母親の両方が必要だと思うんだけど」
「あなたって・・・そういう教科書的なことしか言えないのね。まるでお役人みたい」
「だって・・・役所勤めだから・・・」
妻に冷たい目で見られる良祐だった。
窓口業務に戻った良祐は生活保護の受給の打ち切りを市民に通告する。
「あの・・・この案件は審査を通ったのでは・・・」と上司に相談する良祐。
「ああ・・・花を買ってたという通報があったんだ」
「それは・・・老母の八十歳の誕生祝いだって・・・」
「だめなものはだめなんだよ」
「・・・私たちの仕事ってなんなんですかね」
「いい年して・・・何言ってんだ・・・」
良祐の中で鬱積していた不満が爆発した。
デスクに飾ってあった花瓶を取ると・・・上司のパソコンのキーボードに中身をぶちまけるのだった。
良祐にとってはじめての虚しい反抗だった。
小学生なら許されるが社会人では許されない行為だろうがなんだろうが知ったこっちゃない気持ちなのである。
憐れだ。
小さな庭では子供たちが花壇に如雨露(じょうろ)で水を撒いている。
出かける支度をする紗千に健太郎が問いかける。
「どこに行くの」
「病院に行ってきます」
「小春ちゃん、迎えはいらないって言ってたよ」
「ドナーになるための検査に行くんです」
「ドナーって・・・」
「小春は再生不良性貧血です。移植をしないと死にます」
「・・・」
「親子なら移植できる可能性が高いそうです」
「・・・」
「その検査です」
「・・・きっと、大丈夫だよ・・・そのために・・・小春ちゃん帰って来たんだから」
「でも・・・あの子はそれを嫌がってるわ」
「そんなことないさ・・・償いだよ・・・君はきっと・・・」
「そんなことでは・・・償えないんです」
「そうだ・・・しーちゃん、しーちゃんだってきっと・・・」
「・・・」
「ほら・・・あの子・・・信くんの好きな曲をさ・・・ずっと聴いてたんだ・・・しーちゃんだって君と小春ちゃんのことを家族だって・・・」
「栞が・・・栞が・・・栞がとりかえしのつかないことをしてしまったんです」
「え・・・」
「あの時・・・ホームで・・・ホームにいたんです・・・栞がきっかけを作ったんです」
「・・・」
「小春から信さんを奪ったのは・・・栞も同然なんですよ」
「そんな・・・そんな・・・そんなことって・・・そんなことってないだろう・・・」
紗千はこらえきれずにすべてを明かした。栞がいじめられていたこと。栞の歪んだ気持ちが小春の夫に敵意となって向けられたこと。栞が小春の夫に痴漢の容疑をかけたこと。その結果、小春の夫が轢死したこと。それを知った紗千がそのことを隠そうとしたこと。しかし、栞が小春に打ち明けたこと・・・。
健太郎は証拠を求めて・・・小春の夫のスケッチを見た。小春の夫の手のスケッチを見た。小春の夫の死の新聞記事を見た。
健太郎がその「死」さえ知らなかった小春の夫の「死」を抱えて生きて来た栞。
健太郎は・・・幼い栞のアルバムを開く。
ただ可愛い。ただただ可愛い我が子の写真を・・・。
だが・・・時代から取り残されたことを言いわけとして仕事をしない府抜けの父親に罪がないと言えるだろうか。
妻に甘え・・・依存してきたダメな男が・・・きれいごとだけの世界に生きる男が。
ずっとまともでなかった父親が娘にまともになれと言えるだろうか。
健太郎は己の罪の深さから目をそむける。
包容力のありすぎる紗千はその背中を優しくさするのだった。
藍子は・・・来院した小春の母親に希望の光を見出す。
紗千も祈るように結果を待つ。
しかし・・・「マッチしませんでした」・・・。
紗千は小春のドナーとしては適合しなかった。
紗千の骨髄で償いをする望は断たれたのだった。
こうなれば・・・残る希望は栞だけだったが・・・教養のない紗千と健太郎にはその可能性が思い浮かばないのだった。
世の中にはそういう常識のなさが蔓延しているものだ。彼らは誰かに教えてもらわなければ分らないのだ。
「親子」に可能性があれば「姉妹」にも可能性があることを。
もちろん・・・栞には理解できるだろう。しかし・・・もどかしいほどに・・・小春が死に至る病であることは栞に伝わらない。
逆に言えば・・・栞がドナーとして適合している可能性は高いだろう。
しかし・・・残酷な世界では肝心な情報が伝わらないことはままあることなのである。
あの日、千年に一度の津波について注意を促した研究者が一人もいなかったように。
その津波によって原子炉がメルトダウンを起こす可能性を強調した専門家が一人もいなかったように。
すべての悲劇を案じる報道関係者が一人もいなかったように・・・。
そこには神のみぞ知る世界があるのだった。
茫然として公園に佇む紗千を・・・娘と孫たちが発見する。
「お母さんのお母さん」と孫たちが手を振る。
退院した小春は子供たちと買い物に出かけていたらしい。
帰宅した子供たちは小春に絵日記を見せる。
「マンモスが最高だったの」
「最高だったの・・・船はどうだった」
「船じゃないよ・・・帆船だよ」
「そうか・・・帆船か・・・」
小春は紗千に礼を言った。
「あの・・・ありがとうございました・・・」
「いいのよ・・・」
紗千は自分の骨髄が娘の役に立たないことで胸がいっぱいだった。
「随分・・・買い物してきたのね」
「子供たちが・・・お父さんの食べたご飯を食べたいって・・・」
「分る・・・」
「豆ごはんと・・・・アサリの味噌汁・・・かれいの煮つけ・・・茄子とレンコンの煮物・・・キュウリとささみの酢のもの・・・」
「ザルがいるわね」
紗千は豆を剥く支度を始める。
夕暮れとともに揺れる紗千と小春の心。
卓袱台の前に座り・・・豆を剥き始める二人。
「あの・・・いつもの先生・・・いませんでした・・・」
「・・・」
「ごめんなさい・・・無理でした・・・」
「・・・」
「ごめんなさい・・・」
「やめてください」
「ごめんなさい」
「そういうの・・・いいですから・・・」
「ごめんなさい・・・丈夫な身体に産んであげられなくて・・・」
「・・・」
狭い廊下、狭い階段で望海が息を飲んだ。
「お風呂・・・火を見てこないと・・・」
「・・・」
「お風呂・・・入れます・・・」
「はい・・・望海・・・陸・・・お風呂に入りなさい・・・」
二階から気持ちを押し殺し元気に返事をする望海。
子供たちが浴場ではしゃぐ声に和む小春。
ひとつの希望が消えたことを静かに受け止める小春。
紗千は料理にとりかかっていた。
小春もかれいをさばく。
「上手ね」
「煮魚はあまり得意じゃなくて」
「そう」
「煮魚ってなんか年寄りっぽいじゃないですか」
「塩焼きは・・・若者なの」
「そうですね」
「南蛮漬けは・・・」
「いや・・・そんなの・・・適当に言ってるんで・・・」
「昔から変なことを言う子だったわ」
「・・・」
「台所に立っていると変なことばかり言ってきて」
「・・・」
「人が死んだらどうなるのとか」
「それは覚えています」
「私は仕方ないから星になるって適当なことを言って・・・」
「・・・」
「世界中のどこかにいるのかもしれないもう一人の自分に会いに行きたいとか言って・・・」
「黄色いエプロンをしてましたか」
「そうだったかもしれないわね・・・後はあやとりとか」
「あやとり・・・」
「そうよ・・・あやとりしながらまとわりついて・・・吊り橋とか・・・」
「あ・・・してました・・・吊り橋って・・・こうですかね」
見えない糸を取りはじめる小春。
その見えない糸を手繰る紗千。
「田圃・・・」
「からの川」
「からの・・・ダイヤモンド」
思わず微笑み合う二人。
「今、思うとあなたは面白い子だったんだわ・・・望海ちゃんを見ているとそう思う。私もあなたが望海ちゃんにしているように・・・すればよかったのかもしれないわねえ」
「・・・」
「・・・」
「今だったらなんて・・・答えるんですか・・・やっぱり星ですか」
「あなたは・・・絶対・・・そんなことにならない」
「私が子供の頃・・・世界中のどこかにいるのかもしれないもう一人の自分に会いに行きたいって言ってたって・・・それ・・・今・・・すごく思います。もう一人の自分が健康だったら私 その自分に こうタッチして子供達のこと預けたいです。健康な自分に代わってもらいたいです。 まぁ もう大人なのでそんな人いないの分かってますけど」
煮立てられるかれい。瞬間自動湯沸かしを挟んで対峙する二人。炊上がりつつある炊飯器の豆ごはん。
突然、小春は紗千を小突く。
「私ね」
「・・・」
「返事して・・・」
「なあに・・・」
「子供たちがいなかったら・・・別にいいやって・・・そう思っていたと思う」
「・・・」
「返事して・・・」
「うん・・・」
「私ね・・・許せないの」
「うん」
「許せないんだよ・・・あなたのこともあなたの娘のことも許せないんだよ」
「うん・・・うん・・・」
「それはねぇ一生許せないの・・・一生なのっ」
「・・・うん」
「そんな人たちに・・・頼らなきゃいけない・・・自分も許せない」
「うん」
「ねえ・・・」
「うん」
「ねえっ」
「うん」
「許せないんだよ」
「うん」
「・・・助けてよ」
「うん」
「お母さん・・・」
「うん」
「お母さん・・・お母さん・・・」
「・・・」
泣きじゃくる小春を抱きしめる紗千だった。
小春は母親に甘えた。
「私は絶対に星にはならない・・・でも・・・絶対なんてないんだよ・・・」
「・・・」
浴場から望海が母を呼ぶ。
「お母さん」
娘から母になった小春は水道で涙を洗い流す・・・。
「お母さん」
「はい・・・どうしたの・・・」
「お母さん・・・」
その背中を見つめる紗千。
鳴り響く豆ご飯の炊きあがりのチャイム。
夜はやってくるでしょう
あるのは暗闇を照らす月光だけになるでしょう
ひょっとしたら世界の最後が来るのかもしれない
でも私は泣きません
涙はこぼしません
あなたと一緒だから
いつも一緒だから
ねえ そうでしょう
いつもそばにいてくれるんでしょう
ずっと一緒にいてくれるんでしょう
健太郎は姪のマキ(柊瑠美)の部屋に身を寄せる栞を訪ねていた。
栞は黒衣を脱ぎ、ジミヘンの姿をあしらった赤いシャツを着ている。
健太郎は栞を散歩に連れ出した。
「お父さん・・・帽子が似合うね・・・」
川縁を歩き橋の欄干にもたれる栞。
栞を「死」に誘う場所は踏切から橋の上に変わったらしい。
「ここ・・・素敵でしょう・・・あっちは海に続いているの」
胸にジェームズ・マーシャル・ヘンドリックス(1942-1970年)をあしらった栞は夢見るようにつぶやく。
ジミヘンは母親ルシールが17歳の時の子供である。ルシールは享楽的な性格でジミヘンを置いて出奔し、まもなく死亡したと伝えられる。
ジミヘンは伝説のロック・ギタリストとなり、二十七歳の時に薬物中毒の果て、吐瀉物により窒息死した。
「いつもここに来るのかい」
「うん・・・毎日」
「他には・・・」
「テレビを見ている・・・温暖化で・・・住む場所がなくなって行くシロクマの話とか・・・かわいそうなの」
「これからどうするつもりなんだい」
「今までしなかったことをしたい・・・」
「どんなこと・・・」
「してないことばかりだもの・・・私、男の子とつきあったこともないし・・・四年間くらい何もしてなかったし・・・働いて・・・仕事をして・・・お金をもらったら・・・お父さんに帽子を勝ってげる」
「家に戻っておいで・・・」
「お姉ちゃんいるし・・・」
「だから・・・ちゃんと・・・謝罪しようと言っている」
「・・・」
愚かな健太郎には謝罪をして謝罪を受け入れられなかった栞の気持ちは想像がつかない。
さらに「生きたい」と思うのが当然だと考えるタイプには「死にたい」と常に考えるタイプの気持ちは理解不能なのだった。
健太郎はここから栞にずっと「死ね」と言い続けるのだが本人にはその自覚がないのである。
「お父さん・・・あの家は売るつもりだ・・・売ってお金に換えて・・・小春ちゃんに渡す。お父さんとさっちゃんとしーちゃんはアパートでも借りてみんなで働いて・・・」
栞と同様にずっと働いてこなかった健太郎には「お金を稼ぐ」ということが一大事なのである。
そういうことで謝罪が出来るかもしれないと考える愚かな父親を・・・笑わないで受け入れることは栞には難しかった。
「ふ・・・」
「なんで笑うの・・・お父さん、面白い話・・・何もしてないよ」
健太郎には娘の過ごした生と死の境界線にいる四年間が理解できないのだ。
「・・・」
「し~ちゃん、分かるか?(分っているなら死になさい)・・・お父さんの声、聴こえてるか?(聴こえているなら死になさい)・・・し~ちゃんのしたことはひとの命を・・・分かるか?・・・世の中で一番悪い人は自分のしたことを分かってない人だよ(だから死になさい)・・・お父さんも そうだった・・・何も分かってなかった・・・し~ちゃんがどこで 何をしていたのか何も分かってなかった。 分かったか?・・・命を奪ったんだよ? (だから死ぬしかないんだよ)・・・小さな 軽はずみな気持ちが誰かの大切な誰かにとって大切な命を奪ってしまったんだよ!(もう死ぬしかないんだ) 反省の仕方分かるか?(死ぬしかないだろう)後悔の仕方分かるか? (死ぬべきなんだよ)償いの仕方分かるか? (とにかくもう死になさい)・・・」
恐るべきピエロっぷりを発揮しながら・・・なんとか「死」から逃れようと歯を食いしばっている娘を死神のように追いかける健太郎。
そして、足を滑らせ、川に落下する健太郎だった。
健太郎のする健太郎だけが面白い話と同様にリアクションに困る栞だった。
「お父さん・・・って」
その夜・・・声を殺してむせび泣く望海。
「どうしたの」
「なんでもないの」
「なんでもないってことはないでしょう」
小春は涙のとまらない望海を抱き起こす。
「お母さん」
「はい」
「お母さん」
「なあに」
「病気なの・・・?」
「・・・」
暗い部屋で目の前が暗くなる小春。
陸は穏やかな寝息をたてている。
関連するキッドのブログ→第8話のレビュー
シナリオに沿ったレビューをお望みの方はコチラへ→くう様のWoman
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コメント
「サルがいるわね」
どこに?今週も猿か…
あ、ザルか。そうだよね(≧∇≦)ノ彡バンバン!
冗談で見間違えたんじゃないのがすごいでしょ。
あ~目もダメか。。。
栞がどうも憎めなくて、
小春目線ではなく紗千目線だからなのかと思ったり。
あの年頃で罪の意識を持ち続けるなんてないだろうと思うし、
自分がこうなったのは母親のせいだって、
思ったことあるし~って思ってたし。
>謝罪をして謝罪を受け入れられなかった栞の気持ち
なるほど~。
娘にあそこまで言えた健太郎に、
さすが父親だと思って見てたんですけど、
ダメな男、愚かな男って言われれば…
確かにそうですね~。ナマケモノなんだから。
小林薫さんってキャスティングが反則じゃん!
しーちゃんに「死になさい」連呼で、
笑ってしまうじゃん!
めちゃ泣けた回なのにぃ(笑)
「生きたい」人間と「死にたい」人間の、
それぞれの気持ちを見られる悪魔さん。
流石です。
そんなキッドさんも、
お母さんから生まれたんだもんね~(ノ*´▽)ノ
参った?(笑)
「お母さん!お母さん!お母さん!」
この言葉だけでもう(T_T)ダー
「お母ちゃん」ってすごいでしょ。
「ママ」じゃダメなんだもん。
「ビッグマミー」ならどうなんだ?ヾ(゚∇゚*)ナンデヤネン
投稿: mana | 2013年8月30日 (金) 16時44分
時々、エグザイルがエグイサルに見える年頃でございます。
かなりがばいのですな。
今日の東京は猛暑日ぶりかえし
冷やし中華また食べました~♪
・・・なのでございます。
水切りのためにザルを使いました。
栞はこのドラマの本当の主人公ですからな。
母ではなくWomanなのですから。
まあ、WomanだからMotherになるのか?
MotherになることでWomanなのか?
という問題もありますな。
小春と紗千という二人の女に挟まれて
いかにも善人ぶった健太郎なのですが・・・
キッドの常識から言いますと
完全なダメ男ですからな。
しかも自分のダメっぷりを棚にあげて
人の道を説くという・・・最悪のダメッぷりです。
おわかりのように・・・
Motherのハイエナと
Womanのナマケモノは
同じポジションですぞ~。
このドラマでダメ男の典型として描かれる
役所職員は・・・それでもお金稼いでますからなあ。
ナマケモノは仕事しないうえに家事もしません。
いわゆる「髪結いの亭主」なのですな。
まさに・・・紗千はだめんずウオーカーなのだ。
しかし・・・まあ、本人たちがよければそれでよしですな。
けれど・・・明らかにその歪は栞に押し寄せている。
しかも・・・芸術家をいわば・・・強制されているわけです。
これは・・・疲れますぞ。
さて・・・単純に
小春の命を救えるのは・・・
ドナーとして栞に適性があるのかどうかに
かかっている。
で・・・これがあるとすると・・・・
次は栞にドナーになる気があるかどうかですな。
もちろん・・・あるでしょう。
栞ほど他人の役に立ちたいと思っている人はいないでしょうからな。
まさにできれば命を捧げたいと思っているんだもん。
だから・・・すべての事情を知った健太郎が栞に伝えるべき言葉は・・・。
「小春ちゃんは死ぬかもしれない。でも、しーちゃんがドナーになれるかもしれない・・・すぐに検査を受けに病院に行こう」
だのに・・・自分の娘が「ひどいことしちゃった」というショックでうろたえて・・・
「死ね死ね死ね死ね死ね・・・」と言い続けると言うおバカ全開なのです。
あまりのバカぶりに
思わず神様が落とし穴ボタンを押して
落ちちゃったみたいでしたから~。
キッドは一同爆笑でしたぞ~。
そして・・・「お母さん」と聞いただけで
とめどなく流れる涙・・・。
まあ、「ビッグマミー」(書道初段)の
並々ならぬ書き順マスターぶりに
人を外見で判断してはいけないと肝に命じましたけどな~。
ちなみにキッドはもちろん「さのばびっち」なのでございますよ。
なにしろ・・・悪魔ですからなあ。
投稿: キッド | 2013年8月30日 (金) 18時02分
こんにちは。
読んでまた涙…冷静になれません。
この回見てMotherを見直し、
今まで見ていなかった「それでも生きていく」の
録画を後半だけ借りて見ての、
脚本家さんまつりで。
栞は表現の難しい役ですね。
父の説得がそう聞こえていたのかあ…
この世界でもう父の頭の中にしか
愛される自分が生きている場所が
ないと思う栞には罪のつぐないを説く言葉が
死刑宣告に聞こえたんでしょうか
うーん深いです
お役所だんな夫婦ってドラマの中で、
主人公一家がかなりお茶の間の一般人からは
離れた、特殊な関係になっているので、
一般の方々にとってより身近な例で、
夫婦・女性男性・母親父親論をとらえなおす
視点に振り戻すための役割なのでしょうか。
田中裕子さんすごいですね。
投稿: りんごあめ | 2013年8月30日 (金) 18時14分
紗千と小春の間の長い葛藤・・・。
愛する夫を失って「命」を投げ出したい小春。
しかし、それを許さない「子供たち」の存在。
そうでありながら風前の灯である命。
子供たちは「マンモス」の「死体」に無邪気に興奮する。
そこには複雑な「生」と「死」の駆け引きはありません。
しかし、残酷な世界の面白さには興奮できる。
「いきもの」たちはただ「命」をつなぐことで残酷な世界に存在して行く。
そして、「生きる喜び」を感じる。
もっともっとその喜びを味あわせてやりたいと考える小春。
ただ・・・「生かしたい」と願う紗千。
その微妙なズレがまた「命」の醍醐味なんですな。
それは大きな亀裂で二人を分けるわけですが
手を伸ばせばそこにお互いの「命」があるわけです。
奇妙なもつれから小さな間違いを起こし
大きな罪を背負ってしまった栞には
為す術はないという絶望がある。
なにしろ「失われた命」は戻らないわけですから。
お気楽な健太郎にはその「絶望」が分らないのですな。
なにしろ・・・健太郎こそは「偽善者」のシンボルなのです。
どんな事情があろうとも娘から母親を奪い・・・
その女を働かせて
安穏と生きて来た男なのでございますよ。
健太郎の「偽善的な笑顔」が完璧なので
お茶の間は完全に欺瞞されていますけれど
悪魔の目はごまかせないのですな。
なにしろ、同業者ですからなあ。
しかし・・・そのふざけた言動も
神の目からは逃れられないので
土手からドテッと落ちて
ボッチャーンとなるのですな。
まさに健太郎はいい年したお坊ちゃんなわけですから。
「三人で暮らそう」と健太郎が語るのは
自分が「善人でない証拠」になる小春母子から
目をそらそうとしている証拠なのでございます。
そしてお金の計算が出来ない証拠なのですな。
このままで・・・お金を稼ぐ方が稼げると・・・
計算できない男なのです。
とにかく・・・負債を清算したい気持ちで一杯なのですな。
自分が「罪人」であることに全く耐えようとしない姿勢なのでございます。
この造形があって・・・
それを表面上は隠しておく・・・。
この脚本の底知れぬ意図が渦巻くのですなあ。
まあ・・・人間なんてものは
それでも、生きていくのでございます。
お役所だんなは・・・
もう一人の健太郎なのでございます。
健太郎より愛想笑いが苦手なだけの同類項であり
健太郎の実像をあぶり出す仕掛けなのだと
悪魔は考えまする。
だから・・・小林薫もすごいのです。
投稿: キッド | 2013年8月30日 (金) 20時02分
二度もおじゃましてスミマセン
深い…深いです
諭す父親と娘という単純なことではなくて
栞の絶望がナマケモノさんにはわかってない
ものだったのですね
栞の気持ちはシロクマのように死にたい気持ちと
やってないことをやろうと思う生きる気持ちの
間にやじろべえのように立ってる状態でしょうか。
はあ…こんなふうに世の中や人が見えたら
どんなふうに見えるでしょう。
脚本家さんもキッドさんも私にとっては
同様にまだまだ到底手の届かないお空の高みなのでした。
投稿: りんごあめ | 2013年8月31日 (土) 19時53分
いえいえ、別にそういう裏が本当にあるのかどうかは
別の話ですぞ~。
あくまでキッドの妄想の話ですからねえ。
「解釈」というのは人それぞれでよろしいのですし
人の数だけあるのでございます。
娘のとりかえしのつかない不始末を
なんとかしようと
一生懸命の健太郎の誠意を
そのまま受け取ってもまったく問題ありませんからな。
ただ、悪魔にはそう見えるという話でございまする。
栞はまさか「痴漢冤罪」で
信が死んでしまうとは
思っていなかった・・・。
そういう意味では「想像力不足」だったわけですよね。
人間が引き起こしている「温暖化」という現象に
シロクマが為す術もなく追い詰められているというのは
その暗喩でしょうな。
栞はその罪を償うのに
「自殺」という「人生の放棄」があるのではないか
と考えているのは間違いないでしょう。
なにしろ・・・謝罪対象の遺族は
栞を殺したいくらいに憎んでいるのですから。
しかし・・・そう簡単には死ねない。
毎日、橋の上から川を見ながら
「飛び込んで死ねたらどんなに楽だろう」
と考えているわけです。
なにしろ・・・四年間・・・
何もできないくらい悶々としてるわけですからねえ。
少なくとも健太郎の言動には・・・
そういう娘の「苦悩」に対する「配慮」は
感じられないように思えます。
ふふふ・・・「想像していたのと違う」現実の
苦さは知らない方が幸せという考え方もございますぞ~。
ありのままも・・・裏の裏も同じだったりしますしねえ。
投稿: キッド | 2013年8月31日 (土) 21時37分