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2013年9月30日 (月)

ごわすごわすごわす(大後寿々花)だしだしだしでごぜえやす(綾瀬はるか)

やや唐突に架空の登場人物ゲスト・小松リツ(大後寿々花)登場である。

薩摩藩の小松と言えば、小松帯刀の一族を連想するわけであり、当然、平重盛の末裔ということになる。

映画「おっぱいバレー」での綾瀬はるかの少女時代を演じたセクシーボイス・ニコは意外にも大河初登場なのである。

去年あたり、姫の一人を演じていてもよかったよな。

すでに三十路を越えた八重であるので永遠の中学生の演じるリツは母子のように見える。

西南戦争終結直後のエピソード挿入としてはほぼ意味不明だが・・・とにかく「罪を憎んで人を憎まず」という不文律が主題なのかもしれない。

孔子も「裁かれるのは悪であり、罪人に罪はない」と宣っており、イエスもヨハネの福音書で「罪なきものがいれば罪人を石で打て」と人が人を裁くことを否定している。

つまり、洋の東西を問わない、犯罪者擁護のきれいごとである。

心なき人は常に「ごめんですんだら警察はいらねえ」を座右の銘にしていることは言うまでもない。

しかし・・・綾瀬はるかと大後寿々花の豪華共演に罪はないのである。

で、『八重の桜・第39回』(NHK総合20130929PM8~)作・山本むつみ、脚本・三浦有為子、演出・一木正恵を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は待望の「あまちゃん」の主役最終選考で能年玲奈に敗れた三根梓(21)の演じる山本覚馬の次女(長女は早世)で後の横井小楠の長男・伊勢時雄の妻となる山本みねの華麗なる描き下ろしでお得でございます。山本一族も残るは山本久栄を残すのみですな。コンプリートしていただきたいところですが・・・あくまでマイペースでお願いします。まあ、久栄が徳富蘆花と恋に落ちる年頃待ちですかな・・・後、数年かかりますねえ。しかし・・・そんなことを描いていて・・・大河ドラマとして・・・成立するのか疑問ですけれど~。もう完全にタイガー、タイガー、じれっタイガーになってます。もはや朝ドラマじゃないでしょうかね・・・これ。

Yaeden039 明治十年(1878年)九月、西南戦争は終結し、明治維新における長い国内統一戦争はついに終結する。これより大日本帝国は富国強兵の道を邁進し、日清戦争(1894~5)、日露戦争(1904~5)に備えることになる。どちらの戦争も朝鮮半島の権益を巡る戦争であり、征韓論の決着は明治四十三年(1910年)の日韓併合まで先送りされることになるのだった。しかし、長州閥と薩摩閥の暗闘は続き、明治十一年(1878年)に大久保利通が暗殺されることになる。明治八年に京都府知事となっている槇村正直は明治十年、山本覚馬の顧問の任を解く。明治十一年府県会規則が発布され京都府会が成立すると、明治十二年の初の府議会議員選挙に山本覚馬は立候補し、槇村と覚馬は知事と議員として対立することになる。明治十年には後にみねと婚姻する伊勢時雄が同志社英学校に入学。時雄は明治二年に暗殺された横井時存(小楠)の長男であり、北条平氏として時の諱を継いでいる。熊本バンドの一員であり、十津川郷士小楠暗殺の理由とされる「日本キリスト教化計画」の噂がまんざらでもなかったことが窺われる。熊本県は西南戦争の戦場と化し、その後、中央政府指導の県政が始っている。旧熊本士族の同志社入学は一種の疎開や亡命の意味があったと思われる。徳富蘇峰・徳富蘆花の兄弟は共に同志社で学ぶが・・・やがてその理想主義は理想主義ゆえに分裂することになる。徳富蘇峰は日清戦争後の三国干渉により・・・「力なき正義を虚しいもの」と考え、ナショナリズムの道へ突き進むのである。ロシアの文豪貴族トルストイによる原始キリスト教信者となった徳富蘆花にはそれが堕落と感じられたのだった。しかし、それはまだ先の話である。とにかく・・・大日本帝国には十数年に及ぶ平和が訪れたのだった。

東京よりの使者が新築されたばかりの新島邸にやってきた。新島邸は最初の同志社英学校の地に建てられている。旧新撰組の土木工兵と会津小鉄の指揮する戦闘工兵隊が地下に要塞を構築していた。実質的な科学忍者隊の京都支部である。

東京では天璋院篤姫が健在であり、明治十年九月二日、静寛院宮(和宮)が病死したためにくのいち総本家・一条姫の後継に復帰している。すでに東京・京都間には電信が引かれていたが、暗号解読を恐れて篤姫は科学忍者隊くのいちの仲野を派遣したのである。

「箱根では野生の人狼が大量発生したそうでがんすね」

地下の応接室で英国茶をカップに注ぎながら八重が問う。

「不埒な英国の不良狼が百姓娘に種付けしまくったのです」

「宮様は・・・そんでお亡くなりになったのでごぜえやすか」

「宮様は・・・人狼たちを憐れに想い、共に殉じた由にございます・・・」

「なんとまあ・・・お優しいことでごぜえますなあ」

「この度は・・・篤姫様より、くのいちを一人預かって参りました」

「あの・・・女子か・・・」

「元は大阪の生まれで、小松帯刀様とくのいちお琴との間に生まれた娘でございます」

「なるほど・・・お琴様の亡き後、篤姫様がご養母となられた鈴姫様でごぜえやすな」

「篤姫様より・・・一応の仕込みは終わった故に鉄砲を仕込んでもらいたいということでございます」

「しかし・・・薩摩の姫を会津の私が仕込むとは時代が代わったのでがすなあ」

「手加減無用とのことでございました」

「承知しやした」

「それから・・・これは坂本、いえ・・・明智様にお届けくださいませ」

「龍馬様に・・・なんでごぜえやすか」

「西郷様の心臓でございます」

「なんと・・・」

「鼓動が今なお・・・止まらないのでございます」

「・・・やはり、火炎魔神はただのお人ではござらぬのでがすなあ」

「研究材料にせよとのことでございます」

「さすが篤姫様は・・・しのびのなかのしのびだし・・・」

西郷の心臓は鞍馬山に届けられ、人造人間の研究が開始された。

小松の鈴姫は同志社女学校の生徒となり、地下訓練場で八重に鉄砲忍びの手ほどきを受けた。

「篤姫様が申されるには吸血鬼にも銀弾丸は有効やとか・・・」

「効くことは効くのですが・・・聖水弾丸には及びませぬ。ただ・・・聖水弾丸は調合が難しゅうございます。リボルバーが何故、六連発か、ご存知でございやしょうか」

「はて・・・」

「十字射ちで聖なる銃痕を刻むためでがんす。横二発、縦四発で身体に十字架を刻めばヴァンパイヤは消滅すんのだし」

「速射、全弾命中が肝心なのですね」

「左様でごぜえやす」

八重は見本を示した。

標的には一瞬で十字架が刻まれる。

「お見事でございます・・・さすがは・・・会津の八重様・・・」

「さあ、撃って撃って撃つばかりが修練でがす」

「はい」

鈴姫はリボルバーを取ると訓練を開始する。

速射力は八重に及ばないが、全弾命中だった。

「お見事・・・」

「一刻も早く・・・腕を磨かねばなりませぬ・・・」

「なぜでございますか・・・」

「北海道に吸血鬼が増加しつつあるのです」

「北海道に・・・」

「旧幕府の方が持ち込まれたものと思われます」

「・・・」

「西南戦争の後は・・・北海道で吸血鬼戦争が開始されるのです」

「それで・・・陸軍に特殊部隊が設けられたのだなし・・・」

「さすがは・・・八重様、お耳が早い。新撰組の狼男や、薩摩のくぐり衆の生き残りなども参集されているそうです。もしもの場合は京都の科学忍者隊への出動要請があるかもしれません」

「それほどにか・・・」

「千をはるかにこえる吸血鬼が発生しているとか」

「恐ろしいことでがんす」

鎖国が解かれて十余年・・・。

神州には異国の魔族が大量に流入しているのである。

文明開化の御代に新たなる闇の戦いが開始されていたのだった。

関連するキッドのブログ→第38話のレビュー

篤姫伝→明治の篤姫

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2013年9月29日 (日)

あまちゃん、最後の木曜日、金曜日、そして土曜日(能年玲奈)

フィクションとノンフィクションの間で人は現実を思い夢を見る。

嘘っぽい現実もあればリアルに感じる夢もある。

そのちょうどいい感じの「ツボ」にちょうどいい感じの「刺激」を受けて・・・夢見心地の半年だった。

そして・・・感じる・・・すべてのものが終わるという現実。

痺れます。

視聴率を分析すれば・・・朝ドラマのレギュラーが15%ぐらいでクドカンが5%くらい。

あわせて20%なのかもしれないが・・・それをはるかに超えた超絶的な高みがあったような気がする。

もう一度、舞台装置を振り返ってみよう。

物語の発端となる北三陸市(フィクション)はモデルが久慈市だと言われる。

久慈市は岩手県北部の町である。ここは北へ向かう八戸線の終着駅でもある。南に向かって伸びるのが三陸鉄道北リアス線である。本来それは野田、田野畑を経由して宮古にと続いて行く。

北三陸市から発着するのは北三陸鉄道リアス線(フィクション)である。

内陸部の国道45号線に沿った北リアス線と違って北鉄は海沿いの国道268号線に沿って走る幻の路線なのだ。

だから・・・袖が浜(フィクション)のモデルとされる小袖海岸は鉄道の沿線ではないのである。

北三陸から天野家のある袖が浜を経由した北鉄は足立家のある畑野駅(フィクション)に着く。

現実の陸中野田や、田野畑をあいまいに表現しているわけだが・・・観光協会のジオラマを見る限り、位置的には野田っぽい。どちらかと言えば山側に開かれた山村だが・・・当然、海にも面している。

ちょうど、久慈川と宇部川に挟まれた山間部が現実の北リアス線の描く半円と幻の北鉄の描く半円を合わせて一つの小さな円環状の閉鎖空間を作っていることになる。

それが・・・主人公アキの親友であり、アキにとってのヒロインであるユイの「世界」なのである。

この幻の世界は現実の世界と同じように2011年3月に東日本大震災に被災する。

しかし、それはあくまでフィクションの出来事なのである。

一方でユイは遥か南西の地にある「東京」という理想郷を夢見ている。

そこには北三陸にとっては夢でしかない大芸能界があり、禁断のネズミさえもが自由に描けるユートピアが広がっているのだ。

紆余曲折あって・・・東京出身であるアキはユイを「北三陸」に残し、フィクションである「東京」へ冒険の旅に出る。

そこで・・・アキは自分の「出生の秘密」を知ることになるのだ。

しかし・・・「東京」(フィクション)はいたってせまい世界である。

上野駅、アメ横の東京EDOシアターと無頼鮨、谷中のハートフル女子寮、アキの通学した二つの高校、世田谷の黒川家のあるマンション、アキの苦手ないじめっ子のいる路上、原宿の純喫茶アイドル、表参道、そしてテレビ局とスタジオ、神田川にかかる橋周辺、そして黒川タクシーの車内。

何と言う部分的な東京だろうか。だが・・・そこには確かにリアルな東京が存在するのだった。

基本的には世田谷のマンションから原宿のアイドルに行って、地下鉄で上野周辺へ。

これだけしかないのにそこには東京のすべてがあるように思えてくるのだった。

しかも・・・1960年代から2012年まで時空を越えて・・・幻の北三陸と幻の東京は結ばれているのである。

なんという明確なフィクションの舞台装置であることか。

しかも・・・この世界は忠兵衛というアキの祖父によって全世界とリンクしているのである。

北三陸の小さな世界と東京の狭い世界を主人公が往ったり来たりするだけで・・・人生が100年あったとしてもその1/200を確実に奪っていた「あまちゃん」の物凄さに思わず「ルパン三世・・・」とつぶやきたい今日この頃である。

そして・・・今、「あまちゃん」後の世界が始るのだった。

で、『連続テレビ小説・あまちゃん・最終週・後半』(NHK総合20130926AM8~)脚本・宮藤官九郎、演出・井上剛を見た。2012年6月30日、岩手県袖が浜の海女カフェで振袖姿の鈴鹿ひろ美(薬師丸ひろ子)は「音痴」を感じさせない歌声で「潮騒のメモリー」を熱唱し、夏(宮本信子)、春子(小泉今日子)、アキ(能年玲奈)と続く北三陸マーメイド三代に敬意を表するのだった。鈴鹿ひろ美が歌ったら恐ろしいことが起ると危惧していた春子とアキ、太巻(古田新太)、水口(松田龍平)、そしてユイ(橋本愛)は安堵するとともに・・・奇跡が起きた感動にひたるのだった。その奇跡は・・・プログラムの残り九曲の間も続き・・・観客たちは鈴鹿ひろ美のスターとしての輝きに魅了されるのである。その頃、忠兵衛(蟹江敬三)は正宗(尾美としのり)の制止を振り切って一人旅立つのだった。

月曜日 常夏色の風追いかけてあなたをつかまえて生きるの(小泉今日子)

マーメイドたちは・・・それぞれの王子を求めて・・・生きる。夏は橋幸夫への憧れを胸に秘め忠兵衛を待ちながら海に生きる。春子は華やかな世界を求めて海を捨て夢破れてタクシー王子に出会う。アキは東京を捨てマーメイドになって種市先輩(福士蒼汰)を追いかけて東京でアイドルになりマーメイドの世界のプリンス・ユイを救うために海に帰還する。

秘密を知りながら一人だけ・・・鈴鹿ひろ美の歌を聞きそこなった正宗は・・・人々の賛美の声を聞き・・・きっと、影武者の春子が歌ったのだと誤解するのだった。

正宗は忠兵衛との会話を思い出す。

「せっかく帰って来たのに・・・ちっとも構ってくれないから・・・おら、漁に出る」

「なにも今日じゃなくても」

「今日、宮古から船が出るんだ」

「お父さん・・・一分だけ・・・僕に時間をください・・・僕たち、再婚してやり直します。・・・お騒がせしました・・・あ、時間、余っちゃった」

「そうか・・・正宗くん、君も苦労するな・・・なにしろ・・・春子は夏さんのDNAと俺のDNAのブレンドだからな・・・」

「・・・」

「とにかく・・・船旅も一度目より二度目の方が危険だっていう・・・油断するなよ」

「それは・・・ハチに刺されて危ないのは一度目より二度目ってことですよね」

「うんうん・・・結婚生活はアナフィラキシー・ショックにご用心だべ」

「お父さん・・・」

アンコールに応えた鈴鹿は・・・「実は私の事務所の社長は・・・この街の出身なんです・・・そしてその人の娘が・・・皆さんもご存じの海女のアキちゃんです。そして・・・その親友が北鉄のミス・・・ユイちゃんです。そうです・・・潮騒のメモリーズです」

呼びこまれて歓声に応えるアキとユイ。

「私は・・・以前から・・・歌には苦手意識があり・・・長い間、歌を封印してきたのですが・・・彼女たちに出会い・・・そして未曽有の震災によって意識が変わって・・・自分自身の声で皆さまと触れ合いたいと願い・・・今日の日を迎えることができたのです。改めて・・・御礼を申し上げます。皆さん・・・どうもありがとう・・・」

盛大な拍手が送られる。

観客の背後で肩を並べるのは・・・春子と太巻だった。

「よくも・・・あの人を・・・ここまで・・・仕上げたもんだな」と感謝の意を示す太巻。

「さあ・・・」と首をかしげる春子。

春子の中ではなんなら二時間サスペンスだってやりますよ的な名探偵が覚醒しかけているのだった。

ここまで・・・鈴鹿を巡るミステリは・・・もっぱら・・・鈴鹿が「影武者の存在」を知ったのはいつなのか・・・だったのだ。

音痴ゆえに・・・太巻に知らされるまで知らなかった派とさすがにいくらなんでも・・・薄々気がついていた派がそれぞれの疑惑を深めていたわけである。

しかし、ここで春子は身の毛もよだつ第三の疑惑を提示するのだった。

「わざとかもね・・・」

「わざとって・・・わざと上手くは歌えないだろう・・・絶対無理音感なんだから・・・」

「わざと移ろいやすい音程を演じて立ってことよ・・・考えたくもないけどね」

「どういうこと・・・」

「彼女・・・最初から女優志望だったでしょ・・・」

「うん」

「だけど・・・事務所は鈴鹿ひろ美を歌手デビューさせようとした」

「うん」

「駆けだしの彼女にはその方針には逆らえない」

「うん・・・え・・・まさか」

「わざと・・・下手に歌ったのよ」

「・・・」

「ところが・・・事務所っていうか・・・あんたが私を影武者に起用した」

鈴鹿ひろ美と天野春子がスタジオの片隅ですれ違った日。

「・・・そんな」

「彼女・・・驚いたでしょうね・・・」

「・・・いや・・・いくらなんでも」

「潮騒のメモリーはヒットして・・・第二弾、第三弾、さらにはアルバムの話も出る」

「・・・う」

「そこで・・・今度は・・・テレビに出て・・・音痴を披露しようとした」

「・・・」

「だけど・・・そこでも影武者が・・・彼女は困り果てたんじゃないかしら・・・」

「・・・」

「でも・・・私が逃げ出して・・・歌手・鈴鹿ひろ美は封印されてしまう」

「そんなあ・・・春子さん・・・それは考え過ぎだよ」

「とにかく・・・影武者になったために・・・アイドルになれなかった誰かの存在を知った時・・・あの人の心はさぞや・・・痛んだろうねえ」

「・・・まさか」

「アキが・・・影武者の娘だと知った時・・・どんなにか・・・驚いたことか」

「・・・」

「そして・・・自分が歌を歌いたいと思った時にどれほど後悔したことか・・・」

「・・・」

「でも・・・いまとなっては真相なんて・・・どうでもいい気がする。私はアキという最愛の娘を得たし・・・その娘が・・・私の歌や・・・女優・鈴鹿ひろ美を愛してくれた・・・そして・・・みんなで協力して・・・音痴の・・・歌を忘れた歌姫の・・・彷徨いやすい音程を・・・失われた歌声を取り戻すことができた・・・人魚姫は幸せになったのよ・・・めでたし・・・めでたし・・・なにしろ・・・事務所の社長としては所属している大スターがディナー・ショーをこなせるなんて美味しすぎる話だから」

「は、春子さん・・・」

「とにかく・・・ただ一つ言えることは・・・鈴鹿ひろ美はプロフェッショナルだってこと」

春子の推理が正しければ・・・関係者一同は手玉にとられまくりだし・・・栗原しおり(安藤玉恵)と吉田くん(荒川良々)の愛児・さおりちゃんは魔性の女優の洗礼を受けたことになるのだった。

なにしろ・・・すべては・・・「みんなのおかげで奇跡的に音痴が治っちゃったんですけど大作戦」の一環だったことになるわけだから。

鈴鹿ひろ美・・・底知れない女なのである。

奇跡が起ったにせよ・・・深遠なお芝居の閉幕だったにせよ・・・こうして歌える女優・鈴鹿ひろ美は北三陸の地で復活したのだ。

その頃、会場から姿を消していた夏を・・・裏方中の裏方で部外者で蚊帳の外の正宗がキャッチしたのだった。

「ああ・・・正宗さん・・・忠兵衛さんを見なかったか・・・」

「・・・一緒に探しましょう」

「うん・・・ひょっとしたら浜かもしんねえ・・・」

しかし・・・夏は正宗の表情から一瞬で事態を悟っていた。

それでも岸壁に向かう二人。

夏の胸に鈴鹿ひろ美の歌声が去来する。

置いていくのね さよならも言わずに

再び会うための 約束もしないで

北へ行くのね ここも北なのに

寒さこらえて 波止場で待つわ

一方、夕暮れの海女カフェでは・・・合同結婚式の準備が進んでいた。

アキ、春子、夏のナレーションが激しく交錯する最終回につぐ最終回である。

控室に飾られたウエディングドレスについて・・・弥生(渡辺えり)から意見を求められる春子。

「どうだ・・・これ」

「うん・・・鈴鹿さんの年齢にしてはちょっと派手かもね」

「いや・・・鈴鹿さんのはこっちだ・・・」

「え・・・安部ちゃんのにしては・・・ちょっと丈が短いんじゃないの」

「春子ちゃん、私は文金高島田なのよ」

「じゃ・・・これ・・・誰の」

「おめのだ」

「じぇっ」

「どうせ、やるんなら二組も三組も同じだべって思っておらが発注したんだ・・・マサのタキシードもな」と大吉(杉本哲太)・・・。

「やだやだ・・・やんないわよ」

「おめ・・・夏さんに花嫁衣装見せて親孝行しろ」と眼鏡会計婆(木野花)・・・。

「いやいやいや・・・今更・・・」

そこへ夏と正宗がやってくる。

夏の気落ちした表情に気がつく春子。

「どうしたの・・・なんかあった・・・?」

「忠兵衛さんがいっちまった」

「ごめん・・・おとめできたらよかったんですけど」と恐縮する正宗。

「気にしないでけろ・・・いくなってもいく。いけっていってもいく。そういう人だから」

「とにかく・・・夏さん、店で一休みしてけろ」と気を使ってかつ枝が夏を連れ去るのだった。

そこへ今度はアキとユイが到着する。

「ママ・・・明日のお座敷列車の練習、見てけろっ」

春子は夏に花嫁衣装を披露する気になっていた。

「ねえ・・・アキはママのウェディングドレス姿なんて見たくないわよねえ・・・?」

「おら・・・見てえ・・・」

「でも・・・ユイちゃんは見たくないよねえ?」

「・・・見てえ」

囃したてる一同だった。

こうして・・・三組の合同結婚式が始った。

鈴鹿・太巻ペア、大吉・安部ちゃんペア、そして春子・正宗ペアの登場で夏は驚くのだった。

大吉は心乱れるのだった。

ちなみに杉本哲太は・・・岩崎良美をデートに誘い、付添でついてきた神津はづきを妻にしたとまことしやかにささやかれる男である。

安部ちゃんは大吉の醜態をひたすら謝罪するのだった。最前列で顔をしかめているのが大吉の母(星野晶子)である。

そして・・・牧師代わりの立会人は勉さん(塩見三省)が勤めるのだった。

大人の事情で大人の誓いのキスは割愛されるのだった。

指輪はウニではなくて・・・琥珀だった。

とにかく・・・薄笑いを浮かべる六人の中年男女をアキは心から祝福するしかないのだった。怒涛だ・・・怒涛のトリプル・ハッピーエンドだ。

火曜日 私はひとり爪など切りながらなぜだか重いためいきついている(宮本信子)

結婚式は滞りなく終わり、結婚披露宴が始るのだった。

大吉の醜態に大吉の母はめでたい酒が進み、酔いつぶれて介抱される次第である。

しかし・・・とにかくいっそん(皆川猿時)は南部ダイバー。

♪白い鴎か 波しぶき・・・(以下略)

そして・・・ずっとタキシードの下で鳩の鳴き声がする足立先生(平泉成)のマジック。

続いて・・・種市の南部ダイバー。

♪白い鴎か・・・(以下略)

メイクだのなんだの膨大な準備期間を経て一瞬で消えさる弥生、美寿々(美保純)、かつ枝のPerfume。

例によって肩を脱臼するヒビキ(村杉蝉之介)・・・もう、芸名ヒビキ一郎にしちゃいなよ。

そして・・・いっそん、種市にアキも加わり南部ダイバーにつぐ南部ダイバー。

♪白(以下略)

最後まで馬鹿みてえな展開にも手を抜かない一同だった。

そして・・・花束贈呈・・・。

どうやら太巻・鈴鹿ペアの関係者はゼロで、安部ちゃんは天涯孤独、大吉の母親泥酔で・・・三組の花束は夏がまとめて受け取るのだった。

そのまま・・・夏に挨拶をおねだりする保(吹越満)だった。

「一言・・・お願いします・・・花嫁の御母堂であり、海女クラブの会長・・・天野夏様よりお言葉を頂戴いたします」

「・・・初代・・・マーメイドでがす・・・鈴鹿さん・・・こんな田舎にわざわざ来てくれてどうもあんがとうごぜえます。おかげさまで・・・ずっとずっと何十年も前から夢にまで見た娘の花嫁衣装さ・・・見ることができました・・・まあ・・・皆さん、どうか・・・おかけになって・・・まんず・・・みんな年も年だから・・・大吉、今度こそ・・・安部ちゃんを幸せにしろ・・・そうでねえと・・・おら・・・金輪際、北鉄さのんねえぞ・・・太巻さん・・・あんたみてえな金持ちが金を出すのはええことだ・・・あんたが金を出せば・・・おらたちは元気出すぞ・・・本当に今日はおめでとうございます。こんな珍しいものできれば忠兵衛さんにも見せたがったが・・・欲を言えばキリがねうからな。さて・・・皆さん・・・明日は海開き、そんで北鉄の開通式だ。去年はウニさいなかったが・・・今年はリベンジすんべと思います。そして・・・一段落したら・・・私は・・・これは毎年言ってることですが・・・引退したいと思ってます。これからは若いものの時代だ・・・老兵はただ消え去るのみとマッカーサー元帥もおっしゃってました・・・どうか去るものは追わないでください・・・本日は・・・みんなしておらの夢さかなえてくれて・・・本当にありがとう」

「夏ばっぱ・・・」

「なんだ・・・アキ・・・」

「いや・・・返事するとは思わなかった」

アホの子に一同爆笑なのであった。

そして・・・お約束の記念撮影。

ふと・・・アキが気がついたのは。

「あれ・・・水口さん、どした」

「そういえば・・・見ないね」とユイ。

「いても気付かねえのに・・・いないと意外と気付くもんだな」

「そうだねえ」

その頃・・・冠婚葬祭に全く興味がない・・・ゆとりを代表する男、水口は琥珀の採掘に熱中して・・・あらぬものを発見してしまうのだった。恐ろしいほど引きの強い男なのだった。

そして、漸く・・・前夜祭の夜が来た。夏の日は長いのである。

新郎たちはスナック梨明日で・・・琥珀の指輪を見せあうのだった。ちょっと気に入ったらしい。

一方、春子の部屋でくつろぐ鈴鹿は・・・突然の闖入者に驚く。

それはビール片手の春子だった。

「なんで・・・鈴鹿さんが・・・ここに」

「ずっと・・・お借りしてたんです・・・春子さんこそ」

「ここ・・・私の部屋ですから」

「ああ・・・そうだったわね」

ベッドに並ぶ・・・大女優と・・・アイドルになれなかった女。

しかし・・・ふたりは昔からの親友同士のようである。

「ここ・・・なつかしいよね」

「でしょ・・・これなんかどうです・・・渋谷哲平・・・」

「もってる・・・もってる」

「じゃ・・・太川陽介でどうだ」

「Lui-Lui」

「Lui-Lui」

「Cry Cry Cry」

「ヨーヨー」

「うふふ・・・」

「鈴鹿さん・・・今日は楽しかったですか」

「ええ・・・とっても」

「すっきりしましたか」

「もちろん・・・あなたはどうかしら・・・」

「すっきりしましたよ・・・」

「そう・・・それはよかったわ・・・」

アキとユイは北三陸の駅舎にいる。

ユイはアキにパピーのペットボトルを買ってあげるのだった。

「鈴鹿さんすごかったねえ」

「んだねえ・・・」

「鈴鹿さんと春子さん・・・いろいろあったんだねえ」

「影武者問題か・・・」

ついに落ち武者から影武者に転身したアキ。やはり・・・ユイちゃんの言葉はアキにとって絶対らしい。

「どっちも・・・つらかったろうけど・・・私は鈴鹿さんが一番つらかった気がする」

「なんで・・・?」

「なんとなく・・・」

春子と同じ魂を持つユイにも第三の疑惑が膨らんでいるらしい。

「明日・・・全国中継が入るんだって・・・どうしよう」

「んだ・・・ママから聞いたぞ」

「そうだよねえ・・・アキちゃんは平気だよね」

「んだ・・・なんてったって・・・ユイちゃんと一緒だからな」

「・・・」

「訛ってる方だけじゃ潮騒のメモリーズって言えねえもんな。もちろん、可愛い方だけでもな・・・二人でやるの・・・いつ以来だ」

「三年前だよ・・・」

「もう・・・三年か・・・長いような・・・あっという間だったような」

「私には・・・長かったよ」

「・・・」

二人はそれぞれの来た道を振り返った。

そして・・・再び出会った二人なのである。

そんな二人のために・・・「潮騒のメモリーズ第二章」の看板を描く勉さんと栗原ちゃん。

そして・・・種市とストーブ。

熱心に口の部分を描く種市が・・・アキちゃんにチューしているように見えるストーブだった。

「アキちゃんばっかり描かないでよ」

「そんな・・・平等に描いてます」

「ほらほら・・・二人とも・・・早くしないと朝になっちゃいますよ」

人妻となり・・・一児の母となった栗原ちゃんは二人のイケメンを軽くあしらうのだった。

季節は巡り、時は過ぎ去って行く。よろしく哀愁なのである。

長い一日が終り・・・開眼したまま眠りに落ちるアキ。

そして・・・2012年7月1日の朝がやってきた。

春子に起こされるアキ。

有線放送のアナウンスが響く。

「あれ・・・この声・・・」

「びっくりした・・・?」

「サプライズだべ・・・」

微笑みながら猫のカツエに別れを告げる春子だった。

「ママ、もう言っちゃうの・・・せめて、海開きと開通式・・・見ていけばいいのに」

「ふふふ・・・なんだかんだ思い出しちゃうからね・・・私は私のするべきことをするまでよ・・・」

「そっか・・・」

「あんたも・・・がんばんなよ」

「うん」

放送室の前にかぶりつきになる海女たち。

「・・・午前七時からは海女カフェ前で恒例の安全祈願の御祈祷があります。海女の皆さんは遅れずに集合してください」

「鈴鹿さん・・・僕らも七時の新幹線に乗らないと・・・」

「・・・くりかえします」

ノリノリの鈴鹿ひろ美だった。鈴鹿にとって世界は舞台。演じることが人生なのである。

アキは海女の装束に着替えた。

眼前に広がる袖が浜の海。

まっかに燃えた 太陽だから

真夏の海は 恋の季節なの

渚をはしる ふたりの髪に

せつなくなびく 甘い潮風よ

アキは何かすごくいいフィーリングを感じるのだった。

アキは今、無敵なのだった。

土曜日 呼吸を止めて誰も愛さなければ淋しさなんて知らずに過ぎて行く(橋本愛)

北三陸駅に人が殺到する。

大吉は思い出す。春子が去って行った1984年の夏の日。北三陸鉄道が開通した日。

それを上回る人出なのである。

「これはドッキリカメラじゃないよな」

「こんだけ・・・人が集まったらドッキリカメラでもいいですよ」と吉田君。

Am026 その時・・・あの日の春子のように階段を人ごみを分けて降りてくるものがいる・・・正宗だった。

「あの・・・春子さんを知りませんか」

「鈴鹿さんと一緒に七時の新幹線で・・・出発したぞ」

「ええーっ・・・どうして教えてくれなかったんです」

「いやあ・・・特に頼まれなかったから・・・」

「ふふふ・・・再婚しても蚊帳の外ですね」と最後までちょっと意地悪な吉田君だった。

そうこうするうちにも人の群れはどんどん増えていくのだった。

足立市長の挨拶が終わり、紹介されて登場する永遠のミス北鉄・ユイちゃん。テープカットのために車両先頭に向かいかけたその時。

群衆におされた正宗が転倒し、ホームで将棋倒しになるスーツを着たすとーぶなどのメンバーたち。最後にユイがくす玉のヒモにすがると・・・くす玉が割れて、なし崩し的にセレモニーは進行するのだった。

春子・正宗リレーによるくりかえしのギャグである。長い長いコントだったなあ。

「バンザーイ」と叫ぶしかない正宗に見送られ・・・ユイを乗せた開通式記念列車は走り出すのだった。地元の高校生たちがテーマ曲を奏でるからである。

やがて・・・フィクションの北鉄は・・・フィクションの袖が浜を通過していくのだった。

「アキちゃ~ん」

「ユイちゃ~ん」

朝ドラ史上最高の主人公とヒロインのエール交換である。

北鉄のユイちゃんの乗る北鉄が満員御礼なのを見て、海女のアキちゃんも発奮するのだった。

もちろん、夏ばっぱが発破をかけるのだ。

「がんばんねえどなんねえぞ」

「わかっだあ、おら、がんばんべえ」

そして・・・観光海女の初潜りが開始される。

夏ばっぱが陸で見守る中、堂々としてちょっと可愛い潜水ぶりを見せるアキ。

浮上したアキの手にはウニが握られている。

「どうだあ」

「最高だあ」

喜びに沸く大観衆だった。

借金を背負った海女カフェだが・・・銭となるウニは海の中でうなっているのである。

夏は商売繁盛に目が眩む思いがするのだった。

観光協会の看板も完全復活し、ジオラマの復興も終っていた。

不思議な小宇宙を軽快に走る北鉄のミニチュア。

観光客をカウントする保も計測を断念するほどの盛況である。

そして・・・勉さんの琥珀洞窟も観光名所として行き場を失くした観光客から一時間五百円の入場料をまきあげていたのだった。

そして・・・客の小学生はまたまたあらぬものを発見してしまうのだった。

あわてて、満員御礼の喫茶リアスに駆けつける勉さん。

「大変だ」

「今、僕・・・焼うどん待ってるんです」

「これをみろ・・・」

「動物の糞かな」と足立市長。

妻のよしえ(八木亜希子)はカウンター内で注文に次ぐ注文をさばいているのだった。

「八千五百万年前の恐竜の化石です・・・琥珀なんかよりずっと凄いんです」

「あ・・・琥珀なんかって言っちゃったよお」と吉田君。

「じゃ・・・これも・・・そうかな・・・箸置きにピッタリなんですけど」

「じぇじぇじぇ・・・ああ・・・なんだ・・・発見者は俺ってことにはなんないかな」

と勉さんも北三陸のドス黒い大人たちの仲間入りを果たすのだった。

「それは・・・ちょっと・・・みんな・・・話、聞いてたし・・・」

と水口もそれなりに抜け目なく振る舞うのだった。

「お待たせ~」と飛び込んでくる海女のアキから潮騒のメモリーズに衣装チェンジしたアキ。

水口が待ちに待ったお座敷列車・・・復活の時。たたみかける最終回なのである。

開通式で海開きで恐竜の骨発見で・・・お座敷列車なんだぜ・・・。

しかし、またもや蚊帳の外の正宗だった。

「予約はずっと一杯なんだよ・・・マサ」と告げる大吉。

「そんなあ・・・」

そんな正宗に差し出される一枚のチケット。

「のんなよ」とヒビキ。

「いいんですか・・・」

「俺は明日のチケットもあるし・・・それにあんた・・・潮騒のメモリーズの生みの親だしね」

「いや・・・出産はしてないですけどね」

「出発進行~」

ヒビキは外の絵を抑える必要もあったのだった。

アイドルの実の親とのコネクションを構築するのも嫌いじゃないヒビキだった。

そして・・・待ちに待った潮騒のメモリーズ完全復活である。っていうか、潮騒のメモリーズゼェット・・・。

すれちがいや まわり道を

あと何回過ぎたら

2人はふれあうの

お願い

二人のパワーは今、全開で解き放たれるのだった。

そして・・・海までも輝きを増すのである。

今、北三陸の幸せな夏が始ったのだ。

来てよ その川 乗り越えて

三途の川の マーメード

友達少ない マーメイド

マーメード 好きよ 嫌いよ

ニュースに乗った二人の画像は・・・北の果て、ベーリング海で一攫千金を狙う忠兵衛の元にも届く。

「孫じゃ・・・これがおらの孫じゃ」

そして、甲斐さん(松尾スズキ)も最後に一言。

「失礼しましたあ・・・」

ちなみに純喫茶「アイドル」の新ウエイトレス(上住マリア)は「潮騒のメモリー」カラオケ動画の人である。

そして・・・翌日の新聞の一面は・・・水口と少年の恐竜発見のニュースがトップを飾るのだった。・・・おいっ。

フィナーレである。

何度目かのお座敷列車公演を終えて畑野駅で撤収中のアキとユイ。

「今日は・・・一回間違えちまった」

「あたしも・・・ダメダメだった」

「でも・・・おらたちには明日も明後日もあるからな・・・がんばんべ」

「来年もね」

「そうだ・・・来年には北鉄も全線開通して・・・東京さつながるべ」

アキは畑野駅の先をホームから覗く。

するとユイがその肩をつかむのだった。

「行ってみようか・・・未来へ」

「じぇじぇじぇ」

一般の女子高生は絶対に真似して画像をアップしないでくださいという誰かの余計なお世話がこだまする中・・・。

二人のフィクションのアイドルは・・・未来へと続くトンネルの中へ入って行く。

ユイが歌う。

アキが歌う。

春子が歌う。

鈴鹿ひろ美が赤いドレスで歌う「潮騒のメモリー」が響く中・・・。

アキとユイは嬌声をあげてシルエットとなり・・・光の中へ消えていく。

アキが一人で疾走した堤防を二人は駆け抜けていく。

そして・・・灯台の下へ。

しかし・・・二人は海に飛び込んだりはしない。二十歳を過ぎて成人式も終えているからである。

それでも・・・二人は歌い踊り続けるだろう・・・共に白髪が生えるまで。

ユイの予言は絶対だからである。

ただ・・・登場人物たちがふざけながら走るだけで涙で前がみえなくなる。

これがドラマだ。

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あんぱんち様の「じぇじぇじぇ展」渾身レポート

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2013年9月28日 (土)

夏の夜の虚脱~悪霊病棟(夏帆)

恐怖とは禁断の地への旅路である。

人々は神秘を求めて、「あかずの間」や「立ち入り禁止地域」、そして「封印された土地」へと一歩を踏み出す。

深海や宇宙など人体の生存を拒む場所にさえ進んで出ていく。

太陽光の届かぬ海底でケーブルが切れた時、真空の軌道上で生命維持装置に不具合が生じた時、人はひとつの疑問に気が付く。

「なぜ・・・自分は・・・わざわざ・・・ここにいるのか」と。

もちろん、それは愚か者だからなのだが・・・それでも人々は恐怖を求めて止まぬのである。

人は恐怖するために生きていると言っても過言ではない。

聖人が賢くも「君子、危うきに近寄らず」などと宣うても無駄なのだ。

凶悪な殺人鬼に追い詰められた少女が・・・九死に一生を得る。

しかし、その時、どこかで絶叫が沸き起こる。

信じられないことだが、せっかく助かった少女はふらふらと立ち上がり・・・その声のする方に歩きはじめるのだ。

それを馬鹿馬鹿しいと断じることはたやすい。

けれども・・・一度、恐怖の味を覚えたものには分かるはずだ。

そうせずにはいられない・・・魅力がそこにあることを。

すべての人間は・・・恐怖から逃れることはできないのである。

人はそれを我慢できない生き物なのだから。

で、『病棟~第10号室(全十話)』(TBSテレビ201309200058~)脚本・鈴木謙一(他)、演出・鶴田法男を見た。一部資料によると・・・麿赤兒の肖像画は宮守元吉のものらしい。つまり・・・隈川病院の創始者として飾られているわけか。しかし・・・元吉を殺して病院を乗っ取った隈川信兵衛が・・・そんなことをしたのは・・・悪事を隠すためなのか。だが・・・どう考えても麿赤兒の凶悪な顔は・・・隈川信兵衛に思えて仕方ない。とにかく・・・そういう些細な点の描写の甘さが際立つドラマなんだなあ。

最後に院長の隈川圭太(春田純一)が「こわい肖像画」を外すのだが・・・父である「悪の権化・信兵衛」の否定でないとすると・・・「元吉」への謝罪が済んだようなニュアンスが生じるのである。そこもなんだか・・・釈然としない。

そういう・・・数々の本題ではない気持ちの悪さがあるわけだが・・・そういうあれやこれやは無視して・・・とりあえずの物語の決着を見届けることにする。

衛星画像に異変が生じていた。

あるはずのない低気圧が生じ・・・名もなき地方都市の上空が暗雲で覆われてしまったのである。

人知を超えた異常気象に観察者は蒼ざめるのだった。

旧病棟周辺に凄まじい風が渦巻いている。

その風は氷のような冷たさを伴っている。

「いま・・・夏だよな・・・」と三流ディレクターの斑目(鈴木一真)と震える声で言った。

「え、なんか言いましたか?」と立っているのが難しいほどの風の中で研修医の朝陽(大和田健介)は叫ぶ。

「恐ろしいほどの霊力が旧病棟に溜まっているのです」と赤の祓い師・尾神琉奈(夏帆)が風圧を避けようと猫背をさらに曲げて囁く。

「え・・・なんだって?」と朝陽。

「主任が・・・一人で・・・旧病棟の中に入ったきりだ」と院長が誰にともなく呟く。

霊聴力が発現している琉奈はその言葉を聞き逃さない。

「私が・・・助けます」と呟くと琉奈は旧病棟に歩み去るのだった。

「お父さん・・・新病棟がパニックになっています・・・ここは僕にまかせて・・・戻ってください」

「馬鹿な・・・お前が狙われているんだぞ」

「だから・・・行くんです・・・キヌは・・・隈川の血を求めているのだから・・・」

「朝陽・・・」

朝陽は琉奈の後を追った。

あわてて、ハンディ・カメラを持った斑目も走り出す。

風の中に取り残された院長は踵を返すと・・・新病棟に向かうのだった。

旧病棟の扉の中は無風だった。しかし、漆黒の闇に覆われている。

「琉奈・・・」

「なんだ・・・これは・・・真っ暗じゃないか・・・」

「普通の暗闇じゃないですね・・・全く何も見えない」

「ちょっと待て・・・」

斑目はカメラに付属している照明のスイッチをオンにする。

そのライトに照らされた部分だけが視界となるのだった。

「壁を照らしてください・・・照明のスイッチが・・・」

しかし、電灯の電源は切れているらしい。壁のスイッチを試した斑目が首をふる。

斑目は自分で自分を照らしているのだった。

「だめだ・・・うらめしや」

「小学生みたいなことはやめてください・・・階段の方で足音がします・・・」

「よし・・・行こう・・・」

「足元を照らしてください」

二人は玄関ホールを横切って行く。

霊視力により、呪力による擬似暗黒をものともせず琉奈は二階にたどり着いていた。

しかし、二階の通路には亡霊たちが集っている。

床には臨終の時を迎えたままの患者たちの霊魂が死んだ魚の群れのように横たわっている。

「ごめんなさい」

琉奈は母親の遺品である聖なる祓い具をかざして念ずる。

呪術師としての教養のない琉奈には適当な言葉が思いつかないのだった。

「き・・・消えてください」

しかし、無尽蔵ともいえる祓い力の通路となった琉奈にはそれで充分だった。言の葉による集中力により・・・聖なる力が発動するのだった。

邪悪な霊キヌによって編まれた呪いの縄は一瞬で解かれ、肉眼で見えるほどに濃厚だった生の名残は爆散する。

力なき死者たちの魂は単なる部品としての役目を終え、この世から消失してしまうのだった。

幽かな未練の呻きが残響する中を琉奈は進む。

霊嗅覚が発動し、木藤主任(森脇英理子)の匂いを捉えている琉奈だった。

主任は内科の診療室への通路に倒れていた。

「主任・・・」

その前に・・・転落死した血まみれの坂井愛美(高田里穂)が立っている。

「琉奈・・・あんたのせいで・・・私は呪い殺された・・・」

「愛美・・・」

「琉奈・・・責任とってよ・・・死んでよ」

「・・・」

「琉奈・・・琉奈のせいじゃないよ・・・」

坂井愛美の顔が歪む。その背中にセーラー服の少女・・・楠山冴子(田中明)がしがみついている。

「琉奈ほどじゃないけれど・・・あたしにも霊を見る力があった・・・転校してきて・・・琉奈と出会って・・・同じ力を持っている人がいて・・・うれしかった・・・」

「くそう・・・はなせえ・・・さえこお」と愛美が苦悶の声を上げる。

「愛美はね・・・あたしにに琉奈を獲られたって・・・焼きもちを焼いたんだ・・・そして・・・あの日・・・私を車道に突き飛ばしたの・・・」

「う・・・うおう・・・えおおおう」

「あたしは・・・それを伝えたくて・・・教室まで言ったけど・・・言葉にはならなかった」

「あああああああああ」

「それから・・・ずっと・・・愛美と琉奈の側にいたの・・・でも・・・琉奈の力の影響でこの病院の呪力が高まって・・・愛美にも・・・あたしが見えるようになった」

「うあうああああうああああああああ」

「愛美は・・・あたしを見て・・・自分の罪に怯えたのよ・・・」

「冴子・・・愛美・・・」

「愛美はあたしが・・・連れていく・・・あの世の扉を開いて・・・あなたなら・・・できる」

「でも・・・」

「このままだと・・・あたしも愛美もあの邪悪な霊にとりこまれてしまう・・・から」

「・・・開け」

琉奈が念じると虚空に穴が開いた。

「琉奈・・・がんばって」

愛美だったものをかかえて冴子だったものは収縮して消えた。

「・・・冴子」

「琉奈」で背後で追いついた朝陽が声をかける。

「先生・・・ここに主任が・・・」

「木藤くんが・・・」

あわてて・・・駆け寄る朝陽。斑目がライトで朝陽を照らす。

朝陽は主任の脈をとる。

「大丈夫・・・失神しているだけだ・・・」

「おあうっ・・・」と斑目が叫ぶ。

振り返った琉奈は斑目の背後から斑目の首をしめる魔物の姿を見た。

その首にはロープが巻きついていた。

「おまえか・・・おまえが・・・あたいをやったのか」

それはプロレスラーのような巨体を持つ黒人だった。

女装をしていたが・・・生前は男だったことが・・・琉奈には霊感で分かる。

琉奈は聖なる祓い具をナイフのように握りなおした。

斑目に駆け寄ると背後のモンスターのわき腹に祓い具を突き立てる。

「手をお放し・・・」

「うじょおおおおっ」とモンスターが叫ぶ。

モンスターは横ざまにとんで壁に当たって砕ける。

その刹那、残留したゲイの黒人の生前の記憶が・・・琉奈に流れ込んできた。

(あたいは)(ミシェル)(天使の名をいただいたのに)(男が好きになって)(てあたりしだいに)(横須賀あたりで)(遊んでいればよかった)(あんたの親父に)(惚れちまって)(叶わぬ恋だと)(首を吊った)(それをあんたに見られた)(あんたに見られた)(あんたに見られた)(ひいいいいいい・・・・ひいいいい・・・ひい・・・・)

琉奈はミシェルの記憶の美化された父親のビジョンに思わず噴き出しそうになった。

咳こんだ斑目はあわてて立ち上がる。

再び照らされたライトの中で主任が息を吹き返していた。

「一度・・・戻りましょう・・・」と斑目が提案する。

「い、いえ・・・ゆ、猶予がありません・・・あ、あなたたちは引き返してください」と琉奈は毅然と言う。霊との戦いがもたらす悲壮が琉奈を逆に高揚させていた。

「琉奈・・・あいつは・・・君の力を狙っているんだ」

「大丈夫です」

琉奈は聖なる祓い具を自分の口に突っ込んだ。

「ぬ・・け・・・ろお」

一般人にも分かるほどの閃光がほとばしる。

琉奈は口を開き、牙を吐き飛ばした。

音を立てて転がる黒い牙。

「琉奈・・・」

「よし・・・この人は俺が外につれていく。この人が持ってた懐中電灯がつくし・・・」と斑目がスイッチをカチカチ鳴らしながら言う。「あんたは・・・カメラのライトを持って行け・・・」

「せ、先生も一緒に・・・お、お二人と外へ」

「いやだ・・・琉奈・・・キヌの夢は俺も見ている・・・俺にもきっと役割があるはずだ」

「・・・わ・・・わかりました」

階段まで戻った四人は二手に分れる。斑目と主任は階下へ・・・。琉奈と朝陽は階上へ。

「下は大丈夫だよな」

「霊は・・・隠し部屋に集められています」

「・・・健闘を祈るよ・・・」

琉奈はすでに階段を昇りはじめていた。

あわてて追いかける朝陽。

三階には首吊死体の群れが揺れている。

琉奈は祓い具をかざした。

「き、消えなさい」

琉奈が一歩進むごとに奇妙な果実は消えていった。

最上階・・・。

「ええっ・・・あそこに扉なんか・・・なかったのに」

「あ、あれが・・・か、隠し部屋です」

部屋の前にはジャージを着た男子生徒が立っていた。

「ど、どうしたの・・・」

「好きだったアイドルが・・・いきなり結婚してさ・・・生きているのが嫌んなっちゃった・・・お姉ちゃん・・・かわいいね」

「き、消えろ」

扉の向こうには虚無が広がっていた。

「うわ・・・こんなにこの部屋が広いはずはない」

「い、異空間と連結しているのです・・・む、昔、読んだオカルト雑誌に書いてありました」

「あ・・・あれは」

「部屋の奥に白装束の女が背を向けて屈んでいた」と思わずナレーション風に呟く朝陽。

「あ・・・あなたが・・・キ、キヌさんですか」

振り向いた女は妖艶な姿をしていた。朝陽は一目見て・・・キヌ(桜井ユキ)の虜になっている。

朝陽はふらふらとキヌの方へと歩き出す。

「せ、先生・・・」

琉奈の気持ちが一瞬乱れる。

邪悪な霊はその機会を逃さなかった。

琉奈の手から祓い具が打ち払われる。邪気が矢となって祓い具を破壊したのだった。

祓い具は粉みじんになって砕けていた。

「すべてを凍てつかす絶対零度じゃ・・・」

キヌの想念が・・・琉奈の心をかすめていく。

(あの男)(夫を殺したあの男)(この男の血筋のものだ)(夫の仇)(呪ってやった)(黒い歯の病で)(まさか・・・我が子まで呪い殺すことになるとは)(なにもかもあの男のせいだ)(うらみはらさでおくものか)

「そ・・・その人は・・・と、とっくに死んでいるわよ」

「我が血筋が絶え果てて・・・あの男の血筋が生き永らえる・・・そんなことは許さぬぞ」

「や・・・やめて・・・朝陽さんに手は出さないで」

催眠術にかかったように進む朝陽の前でキヌは黒い歯を剥き出しにした。

その間に身を投げる琉奈。

「あ・・・あう・・・」

背中に激痛が走る・・・キヌが琉奈の背中にむしゃぶりついているのだった。

「お、お母さん」・・・幼子のように思わず助けを求める琉奈。

琉奈の念があの世とこの世の境界線にいるキヌを通じてあの世に届いたことは言うまでもない。

「おおう」

琉奈は痛みが和らいだことを知り、背後を振り返る。

絹は背後から赤い衣装を着た女にからめとられていた。

暗闇の中で琉奈の瞳が金色に光る。

呼応するように金色に光る亡き母(三輪ひとみ)の瞳。

「お、お母さん・・・」

亡き母は微笑むと邪霊を拘束したまま・・・異界へと帰還していくのだった。

「おかあさあん・・・」

泣き濡れる琉奈は精根尽きて気を失う。

同時に正気に戻る朝陽。三方に窓のない小部屋の開かれた扉から光が差し込んでいた。

腕の中には眠りこんだ琉奈がいる。

朝陽は琉奈を抱きあげると部屋を出る。

東を向いた窓から朝日が射し込んでいた。

それから・・・一ヶ月・・・「幽霊病院」と噂の立った隈川病院は経営が破たんし・・・閉鎖を余儀なくされた。

斑目は「隈川病院!恐怖の終焉!!」という作品で小銭を稼いだ。

病院のスタッフたちは・・・隈川父子を始め・・・それぞれに転職して行った。

そして・・・昼間は白衣の天使、夜は紅の祓魔師という二つの顔を持つエクソシスト&ナース尾神琉奈が誕生したのである。

この世に彷徨う邪悪な霊と病に苦しむ患者さんのために昼夜を問わず琉奈は働く。

琉奈が過労死しないことを願うように黒猫はにゃあと鳴いた。

ちなみに三輪ひとみと言えば・・・映画「エコエコアザラクIII -MISA THE DARK ANGEL-」(1998年)の生けにえにされる少女・水島真実役でおなじみである。時は流れるのだった。三部作の中では一番完成度が低いが佐伯日菜子の黒井ミサは抜群である。

関連するキッドのブログ→第9話のレビュー

シナリオに沿ったレビューをお望みの方はこちらへ→くう様の悪霊病棟

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2013年9月27日 (金)

キスしたら友達でなくなる魔女(川村ゆきえ)なんちゃってにもほどがある(中別府葵)お前もな(トリンドル玲奈)

整理しよう。

高校三年生、徳山秀典(31)、小林涼子(23)、中別府葵(23)、川村ゆきえ(27)・・・。

高校二年生、山本裕典(25)、西内まりや(19)、小島藤子(19)、トリンドル玲奈(21)・・・。

ここまで・・・全員、なんちゃってである。

大野いと(18)、松井愛利(16)、美山加恋(16)の出番がないと・・・なんだか妖しい世界に紛れ込んでる気がするのはキッドだけですかああああああっ。

そして・・・原作とはまったく違うアレンジがなされているこのドラマ。なぜか・・・西園寺リカ(川村)のノーパン設定だけはそのままなのである。譲れない一線なのか・・・そしてだから・・・このキャスティングなのか。

芸能界・・・そこはそれなりに厳しく・・・ちょっとおバカな世界・・・。

で、『山田くんと7人の魔女・第7回』(フジテレビ201309212310~)原作・古河美希、脚本・小川真、演出・高丸雅隆を見た。主題歌はAKB48卒業後の前田敦子の最初のシングル「タイムマシンなんていらない」なのであるが・・・このままだとサービス出演はなさそうである。大野いととの「エンプラ姉妹」出演がみたかったな。それなりに無理をしたキャラもいいが・・・地味で暗い持ち味を生かした役がたまにはみたいよね。「栞と紙魚子の怪奇事件簿」の紙魚子は最高だったよなあ。

さて・・・いよいよ、六人の魔女が明らかになった上での今回。

超常現象研究部の伊藤雅(トリンドル玲奈)が唐突に言い出した宮村虎之介(井出卓也)の二重スパイ疑惑の解明はあっさりと終る。

基本的に山田くん(山本裕典)をおとしめても・・・虎之介にはなんのメリットもないのである。エピソードとしてかなり無理があるのだな。

来週が最終回だとすれば・・・今回はすべて前フリということになるのだろう。

今回、判明したことは「七人の魔女を揃えるとどんな願いも叶う」という「お宝」の開示である。

これは・・・最初にふるべきことじゃないか。

少なくとも・・・小学生の妄想的超高校・朱咲高校生徒会の会長・山崎(徳山秀典)の目的は・・・この「お宝」の入手にあったわけである。

そのために・・・不完全な「魔女伝説ノート・前巻」を超常現象研究部に配置して・・・山田くんたちに捜索させていたという趣向である。

しかし、飼い犬の宮村が山田くんたちと友情を深め過ぎたために・・・離間策として「捏造写真の犯人」を宮村に仕立てたのではないか・・・ということ。

そうなると噂の発信源である伊藤雅は当然、二重スパイなのだが・・・そういう展開はないらしい。

しかし・・・疑惑の解消の過程で・・・宮村の秘密が明らかになる。

それは「第七の魔女」の能力と関係する。それは「キスした相手から魔女に関する記憶を抹消する記憶操作」の能力だった。

実は・・・宮村の姉で現在、高校三年の宮村レオナ(中別府葵) は好奇心から魔女について調べている内に「記憶」を消されてしまったのだった。

宮村が・・・山田くんたちに近づいたのは・・・姉のレオナの失われた記憶を取り戻すためだった。

山田くんが・・・未来予知によって次の生徒会長・猪瀬(永江祐貴)がうらら(西内まりや)を奴隷的な秘書にしてしまうことを知り、その阻止をしたいと願っていることを知った宮村はあらためて共闘を誓うのだった。

この未来改変は次回のお楽しみである。

その頃・・・うららは第七の魔女・西園寺リカ(川村ゆきえ)からコンタクトを受けていた。

何故かいつもノーパンのリカは・・・風の強い場所が苦手な高校三年生なのだ・・・ものすごく意味不明で不気味な設定だな・・・。

たちまち・・・超常現象研究部に捕獲されてしまうリカ。

実は・・・リカはレオナの友達だったのだ。

例のノートを発見したレオナは試しにリカとキスをして・・・記憶を喪失してしまったのである。

「私だってショックだったんだ・・・友達に忘れられて・・・だから、この能力を消す方法を捜していたんだよ」

リカはノートの切れはしを部室に隠していた。

そこには「望みの叶え方は・・・下巻に」と記されていたのだった。

「結局・・・下巻を入手するしかないのか・・・」

しかし・・・下巻は何者かによって部室に届けられたのだった。

それは・・・第三の生徒会長候補の出現に苛立つ・・・小田切寧々(大野いと)の仕業か・・・それとも会長・山崎の冷たい甘えん坊性格を何とかしたい秘書・飛鳥美琴(小林涼子)の悪戯なのか・・・それとも山崎会長の深謀遠慮なのか・・・。

すべては来週の話である。

今回のサービスは・・・レオナとリカのキスと・・・リカの妄想パンチラシーン・・・ものすごく一部限定的サービスだと思うぞ。

来週は・・・もう少し頑張ってもらいたい。

まあ・・・とにかく・・・少なくとも七人の魔女は結集するわけだが。

関連するキッドのブログ→第6話のレビュー

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2013年9月25日 (水)

気がつけばからっぽで何もない俺のはじまりの歌(松本潤)

本当は「あまちゃん、最後の月曜日」「あまちゃん、最後の火曜日」・・・というラインで谷間のフィナーレを構成したかったのだが・・・お彼岸のあれやこれやに押されて・・・気が付くと二夜連続の帝国スペシャルである。

しかも・・・現在もかなり押されている。

ここは気の向くままの妄想で凌ぐ必要を感じています。

南方海上を台風通過中だしな・・・関係あるのかよ。

あるよ・・・気圧とかさ。

それにしても・・・人生に迷う地方出身の若手カメラマンが主人公って・・・つてこの間までアレだったよな。

いや・・・ヒロインがいきなり合唱部の先生って・・・いつ、児童が屋上から降ってくるのか気が気でなかったぞ。

いやいやいや・・・2000年10月16日生まれの八木優希(12)と18日生まれの鏑木海智(12)のコンビネーションが抜群すぎるだろう・・・。

そこかよっ。

で、『Nコン80回記念 特集ドラマ はじまりの歌』(NHK総合20130923PM0730~)作・荒井修子、演出・笠浦友愛を見た。「モップガール」の脚本家もこの辺りですっかりお茶を濁しているのだった。しかし・・・そこそこ変態な部分は醸しだしています。雑誌の下請けカメラマンが発注を受けて取材に出かけ、そこがたまたま故郷で・・・なんだかんだ単独で長期取材を行うという・・・ものすごいぐだぐだな展開がベースで・・・ある意味ファンタジーだしねえ。必要経費の清算はどうすんだ・・・これ的な・・・。まあ・・・発注元の出版社がすでにブラック企業なのか・・・。

編集者の宮田悦郎(山寺宏一)に依頼され・・・故郷の萩の「写真」を撮影しにきたおそらくフリーのカメラマン・中原航(大嶋康太→松本潤)・・・。子供の頃からちゃらんぽらんでいきあったりばったりの性格で・・・なんとなく東京に出て・・・なんとなくカメラマンのアシスタントになり・・・なんとなくカメラマンになっちゃったのである。しかし・・・プロの仕事はそれでは成り立たないのが現実だ。有望な新人がテリトリーに現れてプレッシャーを感じる日々。故郷の「萩」になんの魅力も感じない航だったが・・・命じられるままに・・・帰郷したのであった。

故郷には元漁師で現在は渡し船の船頭をしている父親の弘(國村隼)、出戻りで一児の母である姉の美波(大出菜々子→戸田菜穂)、その息子の蒼太(鏑木海智)がいる。航の部屋は蒼太の部屋と化していた。

とにかく「萩」の写真を撮りはじめた航・・・。しかし・・・故郷に何の魅力も見出すことができないのだった。

結局・・・観光名所の点描である。

見知らぬ町を彷徨うように故郷を漂った航は・・・母校である小学校にたどり着く。

そこで・・・子供たちの歌声に誘われ音楽室を訪れた航は・・・幼馴染で上京するまでの恋人だった井町夏香(松浦愛弓→榮倉奈々)に再会する。

かって、航は故郷を捨てるように夏香も捨てたのだった。

母校で夏香は教師となり・・・合唱部を指導していた。

航も夏香も小学校の頃は合唱部に所属していたのだった。

母親を亡くしてしずんでいた航を無理矢理、合唱部に入部させたのは夏香だった。

表面上は屈託なく再会を喜んだ夏香は航にピアノの伴奏をするように求める。

航はピアノが弾けるカメラマンなのである。やがて航は仕事の合間にピアノ伴奏のボランティアをする羽目となる・・・どんだけ・・・ルーズなスケジュールなんだよっ。

夏香の悩みは校長から・・・部員が十人揃わないと・・・合唱コンクールへの出場を許可しないと言われていることである。

航は・・・蒼太が合唱部の練習を盗み見していることに気が付く。お目当ては美少女の山根まりか(八木優希)らしい。

航はまりかを餌に蒼太を釣り上げ・・・さらにまりか目当ての男子児童を三人捕獲するのだった。

悩みを解決してくれた航に・・・夏香は少し心を許すのだった。捨てられて未だに未練があるのだから怨みがないわけではなかったのである。

夏香に誘われ・・・昔の仲間たちと再会する航。

陶芸家の藤田青爾(石田卓也)は同級生の芽衣子(徳永えり)と結婚し、稼業を継いでいたし、悪友の阿武栄介(尾上寛之)も同様だった。もちろん・・・栄介は夏香を狙っているので心中は穏やかでないはずだがおくびにも出さない。時間がないからである。

合唱部の子供たちと触れ合ううちに・・・いつしか心が解かれていく航。

そんな折・・・東京に送った「荻の写真」の評価は芳しくなく、再撮影を命じられるのだった。

「なんだか・・・何一つ感じるものがないんだよな」という編集者。

そんな・・・芸術的な問題なのか・・・などと疑問を感じてはいけない。時間がないのである。

開き直った航は・・・気の向くままに撮りたい写真を撮るのだった。

市場で働く姉。友人たちの職場。そして合唱部の子供たち。

なんだか・・・楽しくなってくる航。

恩師である神谷ミキ(由紀さおり)先生に再会した航は・・・ミキ先生の中に亡くした母親を感じていたことを思い出すのであった。

吉田松陰教に支配され、親や国のために死ぬのが当たり前の「荻」の風土に異和感を感じていた航だったが・・・世間の風当たりの強さを感じて故郷の生温さを求め始めたらしい。

航の心のままの写真を編集者は高く評価したが・・・「荻」の特集そのものが没になり・・・航の仕事そのものがキャンセルされたことを何の情感もなく告げるのだった。

激しい喪失感に襲われる航を子供たちの歌声と・・・夏香の温もりが癒していく。

もう・・・カメラマンなんかやめて・・・小学校の先生になろう・・・と航は心に決めるのだった。

花火の夜。

よりを戻そうと航が伸ばした手を振り払う夏香。

しかし、微笑んだ夏香は自分から航の手を握る。

「なんだよ・・・」

「おあいこでしょう」

夕暮れ迫る空に 雲の汽車見つけた

なつかし匂いの町に 帰りたくなる

僕の ふるさと ここは ふるさと

里心がついた航は父親に言う。

「俺・・・この街に帰って来たいんだけど・・・」

「いいよ」

「また・・・出ていきたくなるかもしれないけど」

「いいよ」

「親思う心に勝る親心かよ」

「そうだよ」

長州・・・そこはある意味・・・亜空間なんだな。

そんな不思議なゾーンで松本潤も榮倉奈々もいい味だしてます。

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2013年9月24日 (火)

悪い美女(武井咲)VS若き金田一耕助の肖像(山下智久)

本格ミステリである。

誤解があるかもしれないがどんな馬鹿馬鹿しいトリックでも犯罪にトリックがからんだものを本格ミステリと呼ぶのである。

さらに言えば「事件の真相」が明らかになる前にすべての手掛かりが作品内で提示されることも本格ミステリの条件と言える。

だから・・・本格ミステリでは謎解きであっと驚かせてはいけないのだ。

それでも本格ミステリであっと驚いてしまう人はいる。

それはその人が・・・バカだからである。

もっとも・・・本格ミステリの「代名詞」といえる「密室殺人のトリック」などは基本的に馬鹿馬鹿しいものだ。

そもそも・・・本格ミステリとはそういう馬鹿馬鹿しさを楽しむものだからである。

谷間だと思うと・・・言いたい放題だな。

で、『金田一耕助VS明智小五郎』(フジテレビ20130923PM9~)原作・芦辺拓、脚本・池上純哉、演出・澤田鎌作を見た。二人の名探偵がいる。オリジナルの「金田一耕助」シリーズの原作者は横溝正史(1902~81)、「明智小五郎」シリーズの原作者は江戸川乱歩(1894~1965)であり、二人とも故人である。だから、この作品は伝説の名探偵二人を共演させるいわばお遊びの作品なのである。ちなみにテレビ朝日が「明智小五郎VS金田一耕助」(2005年)というお遊びをやっているが、こちらの原作の「金田一耕助VS明智小五郎/芦辺拓」(2004年)の方が先行している。まあ・・・そういうお遊び自体が悪趣味だと思うが遊びなんて基本的に悪趣味なものですからねえ。

ちなみに・・・オリジナルの金田一耕助は昭和二十年代に登場して以来ずっと三十代半ばの年頃なのである。名探偵は年をとらない場合が多いのだな。だから、昭和十年代に二十代の金田一耕助が存在する設定はオリジナルに忠実で微笑ましいのだった。ただし、オリジナルの金田一は昭和三十年代になっても三十代半ばなので昭和二十年に二十代の金田一が存在してもなんの問題もないのがフィクションの醍醐味である。

ついでに明智小五郎は大正13年(1924年)に二十代半ばだったので・・・昭和十年(1935)には三十代半ばになっている。

その年齢差はおよそ十歳なのである。

だから・・・山下智久(28)と伊藤英明(38)はなかなかにリアルなキャスディングなあのだあ。

昭和十年の東京・・・正木玉緒(鈴木梨央)の母親が営む下宿に「探偵事務所」の看板を掲げる金田一耕助(山下智久)は米国帰りの若者である。サンフランシスコで日本人殺人事件を解決して新聞に乗ったこともあるが・・・ほぼ無名と言っていい。後に「八つ墓村」事件や「犬神家の一族」事件を解決する名探偵になるとは誰も予想していなかったのである。ただ、甘いマスクをしているので幼女の玉緒もついうっとりてしまうのだった。

「寝てばっかりいないで・・・仕事なさいな」

「大家さんのお譲さん・・・家賃はもう少しまってください」

「私に頼んだって無駄ですよ・・・母はお金に五月蠅い人なんですもの」

「・・・」

その時、借金で購入した分不相応な電話が鳴り・・・事件が舞い込むのだった。

「金田一さん・・・事件ですって」

「やった」

こうして・・・金田一は大阪の町に出張するのだった。

金田一を呼び寄せた依頼者は大阪の薬問屋・本家トキ屋拘蛟龍堂の女主人・善池初恵(武井咲)である。初恵の美貌に一瞬で魂を奪われる金田一だった。

しかし・・・赤い暖簾の本家トキ屋拘蛟龍堂の向かい側には青い暖簾の元祖トキ屋拘蛟龍堂が色違いのモンスターのように店を構えていたのである。

「こ・・・これは・・・」

「ちょっと長くなりますがよろしいやろか」

「はい」

「トキ屋拘蛟龍堂はもともと鴇屋万右衛門が一代で起こした薬問屋でした。万病に効くと言う越歴丸を開発して全国的にも有名になったのです。ところが越歴丸の秘伝を伝えた二人の弟子の仲が険悪なものになりまして、万右衛門の死後、私の父の善池家の本家トキ屋拘蛟龍堂とお向かいの丸部家の元祖トキ屋拘蛟龍堂との二家に分れてしまったのです。それ以来ずっとお向かいとは商売仇というわけです。そんなこんなで私の兄・喜一郎(遠藤要)と・・・私の許嫁だった丸部長彦(忍成修吾)の代になりまして・・・」

「許嫁・・・」と絶望する金田一。

「はい・・・しかし、両家には因縁があり、長彦さんの祖母のトモ様(草村礼子)の反対でこの婚約は破談になったのです」

「それは・・・なんとも・・・」と喜ぶ金田一。

「それが二年前のことでした・・・妹の縁談が壊れたことに腹を立てた兄の喜一郎がお向いにのりこんだのです。そして喧嘩となって・・・長彦さんが顔に硫酸を浴びて大火傷を負うという事件になってしまったのです。その場から兄は逐電し未だに行方知れず・・・そして、長彦さんは二目と見られぬ姿となって頭巾をかぶり・・・家に閉じこもったままとなりました」

「なるほど・・・それで今はあなたが薬を・・・」

「はい・・・私も本家トキ屋拘蛟龍堂の娘として秘伝を伝授されていましたので・・・兄に変わって調合をしています」

「大体わかりました・・・それで・・・依頼というのは・・・」

「実は・・・最近、何者かが私を尾行しているようなのです」

「それは大変だ」

すでに初恵との結婚生活を考え始めた金田一にとってそれは実に憎むべき犯罪であるように思われたのであった。

しかし・・・この時・・・初恵が重大な隠し事をしていることは言うまでもないのだった。

金田一は行方不明の喜一郎の身を案じる母親の芙佐子(朝加真由美)に紹介された後で使用人の音吉(柄本時生)に部屋へと案内される。

いかにも東京人の伊達男に反感を持っているような音吉。

「なんか・・・怒ってる」

「そないなことおまへん」

「母親がいるのに娘が女主人なんて大変だよね」

「実の娘じゃありまへん・・・お嬢はんは妾腹ですさかい」

「え・・・」

「あ・・・今のは聞かなかったことにしておくれやす。とにかく・・・越歴丸を調合できるのはお嬢はんだけやから・・・」

「なるほど・・・」

その時、音吉が異変に気が付く。

窓の外の向かいの家・・・元祖トキ屋拘蛟龍堂に賊が侵入・・・一味の一人、手に痣のある男が黒頭巾の長彦を誘拐しようとしていたのだった。

あわてて、飛び出した金田一だったが、一足遅く、賊たちは幌付きトラックに乗って逃走してしまう。

手掛かりを求めて、店内に戻った金田一は・・・長彦の調合室で奇妙な拘束具と石を来るんだ文を発見する。そこには「金は用意できた」という謎の文句が書かれていた・・・。

「警察に電話がつながらない」と初恵に告げられた金田一はフットワーク軽く夜道に走り出るのだった。

やがて・・・浅原警部(益岡徹)らを連れて金田一は戻ってくる。

そして・・・番頭の福助(マギー)を始めとした元祖トキ屋拘蛟龍堂の従業員一同が土間で縛りあげられているのを発見するのだった。幸い、心臓病でふせっている階上のトモは無事であった。

こうして・・・丸部長彦誘拐事件が発生したのだった。

金田一はトラックは「北へ走り去った」と証言する。

早速、捜索が開始されるが賊が発見されることはなかった。

翌日、事件は新聞によって大々的に報道される。

その記事に目を止めたものがあった。

満州帰りの名探偵・明智小五郎(伊藤英明)である。

東京に戻ろうと下関に到着した明智は事件に興味を持ち・・・大阪に寄り道することを決意したのだった。そして・・・新聞記者に変装し・・・十歳も年下の探偵・金田一に接近する。その目論見は・・・。

やがて・・・北ではなく南の河原で・・・焼けただれた死体が見つかるのだった。

こうして事件は誘拐事件から・・・殺人事件へと発展するのだった。

金田一は謎の文の文言から奇想天外な推理を繰り広げるのだった。

「二年前・・・逃げたのは・・・喜一郎ではなくて・・・長彦だった」と言い出すのである。「そして喜一郎は・・・拘束され、越歴丸を作らせ続けられていたのです。しかし・・・手紙を使って脱出しようとしていたのではないか・・・つまり、第三の協力者がいたのです・・・」

やがて・・・手に痣のある男が逮捕される。男は新興の薬屋だった。

「喜一郎は脱出に成功したものの・・・秘薬・越歴丸の調合についての情報を求められ・・・拒否したために・・・殺されたのです」

しかし・・・検死の結果・・・死体は・・・長彦のものであることが判明する。

「素晴らしい想像力でしたが・・・事実には勝てませんな」と新聞記者に慰められる金田一だった。

しかし・・・調査費用の着手金で懐の温かくなった金田一は呑気にうどんを食べにいくのだった。

うどん屋の女将(濱田マリ)は「最近、本家の客が元祖に流れているという噂がありますよ・・・なんでも・・・本家の越歴丸があまり効かなくなってるらしいのよ」という貴重な情報を漏らすがうどんがあまりに美味しく、聞き逃す金田一だった。

東京の玉緒は電話で金田一に注意を促す。「あんた・・・また悪い女にひっかかってるんじゃないでしょうね」

「何言ってんだ・・・僕は今、運命の人に出会ってる際中だっていうのに・・・」

「あら・・・もう・・・どっぷりじゃないの・・・困ったお人だよ」

まあ・・・基本的に・・・金田一の関わる事件の犯人は女と相場が決まっているわけだが・・・ようやく頭をかきむしりはじめたばかりの金田一本人にその自覚はないのだった。

その上・・・若き日の金田一は考えあぐねるとゴロゴロと転がる癖があったらしい。

これは藤木直人(プロポーズ大作戦)を間に挟んだ綾瀬はるか(ホタルノヒカリ)からの伝染なのだろう。・・・()つけてもほとんど意味不明だぞ。

やがて・・・第二の首なし死体が発見され・・・さらに・・・福助が毒殺されて・・・金田一の妄想には拍車がかかるのだった。

「わかった・・・誘拐犯は・・・喜一郎だ・・・逃亡生活に疲れた・・・喜一郎は戻ってきて・・・番頭の福助拘束されて酷使されている長彦を救い出し謝罪しようとしたんだ。しかし・・・長彦の怨みは深く・・・喜一郎に挑んで返り討ちにあってしまったのです・・・一方で越歴丸の作り手を失った福助は・・・喜一郎を捜し出し・・・秘伝を聞きだそうとした。しかし、喜一郎に拒絶されて、逆上した福助は喜一郎を殺害・・・我にかえって罪をくやみ・・・覚悟の自殺をしたのです」

「みんな逆上しすぎですな・・・しかし、そうなると・・・伝承者は彼女一人ということになりますね」と必死にヒントを出す新聞記者に化けた先輩名探偵・・・。

しかし・・・金田一は・・・。

「実の兄が殺人犯だったなんて・・・哀しい事実を彼女に伝えるなんて・・・僕にはできない・・・僕は東京に帰ります」

「なんて・・・純情なんだ・・・」と新聞記者はうっとりするのだった。

翌日・・・。

金田一はお約束で関係者一同を集めるのだった。

「この事件の犯人は・・・ここにいる全員です」と宣言する金田一。

「え・・・昨日と言っていることが違う」と驚く浅原警部。

「しかし・・・主犯はあなただ・・・初恵さん」と告げる金田一だった。

「・・・私が・・・」

「あなたは・・・妾腹の出身だ・・・だから妾の子として蔑まれ・・・怨みが積っていた。そして二年前の事件が起こった。喜一郎さんが失踪したのをいいことに・・・あなたは伝授されてもいない秘薬を作りはじめた。つまり偽薬です。しかし・・・やがて世間は効かない薬に気がついて・・・本家から元祖へと乗り換え始めた。あせったあなたは・・・色仕掛けで福助をたらしこみ・・・一緒に二つの店をのっとろうともちかけた・・・そして・・・かっての許嫁の長彦を痣のある男に誘拐させ・・・秘伝を聞きだすと・・・無惨に殺したのです。それから・・・あなたは私を呼んで一芝居打ったんだ。純情な探偵をたぶらかすなんてあなたにはさぞや簡単なことだったのでしょう・・・すでに・・・死んでいる長彦を誘拐したように見せかけて・・・死体を焼いて死亡時刻を曖昧にしたのですよね・・・。しかし・・・厄介なのは・・・寝たきりの長彦の祖母だった。そこであなたは・・・元祖と本家の看板を入れ替えて・・・私を迎えた。寝たきりのトモに気がつかれぬようにするために・・・誘拐騒ぎは・・・元祖ではなく本家の店内で起ったのです。そして・・・私が警察を呼びに行っているうちに・・・再び看板を入れ替えた。私はそのために北と南の区別がつかない男になってしまったのです。すべては丸くおさまるはずだったのに・・・偶然にも喜一郎さんが戻ってきてしまった・・・妹思いの彼は・・・様子を探るために福助を呼び出し・・・殺害されてしまったのです。福助にとっては喜一郎は邪魔な存在だったからです。あなたは・・・長彦のレシピで越歴丸を調合し・・・福助に飲ませてみた。すると・・・福助は中毒死してしまう。つまり・・・長彦は嘘のレシピで・・・復讐したわけです。こうして・・・越歴丸を作れるものは誰もいなくなったのです」

「ふふ・・・いい気なもんやね・・・探偵なんてものは・・・人の書いた筋書きをただおっかけて・・・勝った気になってはる・・・うちがどんな思いで手を汚したかなんて分りゃしまへんやろ・・・うちはただ・・・幸せになりたかっただけやのに」

「あ・・・」

「しまった」と叫んだのは東京の金田一だった。

新聞には・・・金田一が事件を解決していたことが書かれていた。

そして・・・初恵が偽の越歴丸を飲んで服毒自殺したことが・・・。

「なんで・・・思いつかなかったのか」と自責の念にかられる金田一。「それにしても・・・こいつ誰なんだよ」と新聞に掲載されたもう一人の自分を見つめる金田一だった。

夕闇の帝都。

「お風呂屋さんに行っといで・・・あんた匂うよ」と世話女房気取りの幼女・玉緒に追い出された金田一。

ふと・・・件の新聞記者にすれ違う。

妻の文代(吉田羊)と助手の小林少年(羽生田拳武)を連れた名探偵明智小五郎である。

BGMは哀愁ある金田一シリーズのものからパンチの効いた明智シリーズのそれへとチェンジするのだった。

「あ・・・あなたは・・・」

「君もよくやったよ・・・十年もすればきっと名探偵の仲間入りだ・・・」

「ま・・・まさか・・・」

去って行く三人を見送る金田一青年。

「あれが・・・変装の名手・・・明智小五郎先生か・・・」

憧れの名探偵に邂逅して・・・茫然とする金田一だった。

とにかく・・・この時、事件は解決するが真犯人にやたらと自殺されてしまう金田一耕助の探偵人生の幕があがったのだ。

そして・・・日本は長く続く戦争の時代へと突入する。

(今さらですが・・・記事内容が妄想であることをお断りしておきます)

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2013年9月23日 (月)

敬天愛人でごぜえやす(綾瀬はるか)

日本における最後の英雄は西郷隆盛であると言えるだろう。

その後にも、軍人で言えば日露戦争における日本海海戦の勝者・東郷元帥や、太平洋戦争における悲運の連合艦隊司令長官・山本元帥、数々のスポーツ選手や、文化人もいるが・・・真の英雄と呼べるものはいない。

西郷隆盛の最後の戦争は西南戦争であった。地理的に「西南」をイメージするものも多いだろうが、これは西郷南洲の略称と考えるべきだろう。つまり、西南戦争とは政府軍と戦った西郷南洲軍の戦いなのである。「平将門の乱」と同じことで・・・西郷が英雄である証拠と言える。

西郷隆盛の死によって日本の英雄史は幕を閉じたのである。

その人柄を示し、最も有名な言葉が座右の銘である「敬天愛人」であることは言うまでもない。

ただし、このドラマにおいては・・・英雄・西郷隆盛が・・・前回、新島襄が語る「マタイの福音書・第22章」から引用する「第一に神を愛し、第二に汝を愛するように汝の隣人を愛せ」の語り部ナザレのイエスと対になっていることを指摘しておく。

西郷の「敬天愛人」は「天を敬い人を愛す」という意味だが、解題すれば「天は我をも他人をも同じように愛する。天を敬うということは天がするように我を愛するように他人を愛することである」という意味になる。

つまり、「汝の隣人を愛せ」と「敬天愛人」はほぼ同じ意味なのである。

幕末の薩摩に登場し、倒幕・維新という革命を指導した英雄は、最後は賊軍の将として人生を終える。

その男が二千年前の宗教改革者で反乱者として十字架にかけられたイエス・キリストと同じ趣旨の名言を残しているというのがなかなかに面白いのである。

つまり・・・「汝の隣人を愛せよ」などという幻想を実践すれば・・・碌な死に方はしないということである。

で、『八重の桜・第38回』(NHK総合20130922PM8~)作・山本むつみ、演出・加藤拓を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は戦争によってインフレを引き起こし、資本家を誕生させ、国費不足から国有鉄道を断念させ、何人かの日本の鉄道王を誕生させた稀代の英雄・西郷隆盛と、その大親友で幕末・維新期の最高の政治家・大久保利通の二大描き下ろしイラスト大公開でお得でございます。これにわって維新の三傑・木戸孝允・大久保・西郷のスリーカード達成でございますねえ。木戸の智、大久保の気、西郷の愛・・・それぞれの特徴的なムードが醸しだされる傑作でございますなあ。今回は伊藤博文(加藤虎ノ介)の登場で四草・井上聞多・西光一同大興奮でしたぞ~。しかし、あくまでマイペースでお願いします。

Yaeden038 明治9年(1876年)11月、新島八重と米国人宣教師・アリス・スタークウェザーは京都・藤原北家柳原家(明治六年に明治天皇の権典侍となり大正天皇の生母となる柳原愛子の生家)邸にて同志社女学校を開校する。柳原邸はアリスら宣教師たちの住居としてすでに使用されていた。明治10年1月29日、西郷隆盛の私学校生徒が明治政府が鹿児島県から搬出しようとしていた弾薬を掠奪するという事件が発生する。2月6日、私学校は薩摩本営と改称され、各地から不平士族が集結、部隊が編成される。15日に西郷軍は上京を目標に熊本方面への進軍を開始する。19日、新政府は「鹿児島県逆徒征討の詔」を発する。21日、西郷軍半数一万四千人は熊本城の包囲攻城を開始。熊本城守備の官軍司令官は谷干城だった。すでに電信による通信連絡を実用化していた大日本帝国陸軍はただちに九州に兵力を展開する。3月1日、熊本へと南下する陸軍を撃破するために出動した西郷軍別働隊は田原坂で一ヶ月に及ぶ激戦を展開する。警視庁選抜の警視隊も官軍として参戦し、元会津藩士の一等大警部佐川官兵衛は18日に阿蘇山麓で被弾戦死する。その後、旧薩摩藩士の抜刀攻撃に対応するために抜刀隊が組織される。19日に大日本帝国海軍による八代上陸作戦が行われ、西郷軍は前後に敵を受けることになる。4月13日、熊本城に官軍が到着。西郷軍の熊本城攻略失敗が決定的となる。30日、西郷軍は人吉に後退。5月、西郷軍は宮崎に本営を移し、再び北上を開始する。26日、京都において木戸孝允病死。西郷軍は延岡で政府軍と激突、再び後退を余儀なくされる。これより、8月まで宮崎各地で激戦が繰り広げられるが・・・続々と戦力が増強される政府軍に対し、西郷軍は消耗し、8月16日、ついに解軍する。残兵を率いた西郷は鹿児島へと敗走。官軍はこれを追撃する。9月1日、西郷軍は鹿児島県城山を占拠し、最後の抵抗を継続する。9月24日、政府軍の総攻撃中に西郷は被弾し、自刃した。明治11年(1878年)5月14日、東京にて西南戦争を指揮した大久保利通は旧士族によって暗殺された。維新の三傑は揃って姿を消したのである。

昼間はまだ夏の名残りの暑さが残っていたが夕暮れには秋を思わせる風が吹いている。

伏見の宿の鴎屋は幕末からある旅館だった。主人はかもめの半次郎という侠客あがりの親分である。四十になるかならぬかの年齢だが・・・修羅場をくぐったものだけが持つ貫禄を備えている。

新撰組時代の縁を頼って近在の農家に親戚の娘を装って逗留している科学忍者隊のくのいち三日月はその男を監視していた。

疑いが深まったのは大阪から京街道に数人の男たちが現れて鷗屋に宿泊したことである。

男たちは何れも士族くずれであることが明白だった。

そして・・・薩摩訛りがあった。

夜の闇の中に十人の男たちが洋装で集合した時、疑いは確信に変わった。

淀川に仕掛けられた水力発電機によって電力を得た三日月は無線電信を発信した。

「ワレ クグリシュウヲ ハッケンセリ」

電文を受け取った八重はただちに科学忍者隊月光くのいち衆に出動を命じたのだった。

男たちは竹田街道を使い、京へと向かっている。

薩摩くぐり衆による京都要人襲撃計画は探知されたのである。

京都御所には明治天皇が行幸中であり、西南戦争を指揮する司令官である大久保利通も駐留中である。

月光くのいち衆は狙われているのが誰にせよ、武装集団の入京は阻止する任務を帯びている。

くぐり衆と月光くのいちは竹田村周辺で遭遇した。

仕掛けたのは八重である。問答無用の狙撃が先頭の男を射殺する。

男たちは散開し、八重の発砲した場所に銃弾を撃ち込んできた。

しかし、すでに八重はその場を去っている。

男たちは新型のスナイドル銃で武装していた。薩摩の鉄砲忍びである。

闇の中に銃声が木霊する。

しかし、待ち伏せにより、地の利を占めていたのはくのいちたちだった。

遮蔽物を持たない鉄砲忍びたちは一人、また一人と狙い撃ちされていった。

「ははははは」と突然笑うものがあった。

「おいどんらを待ち伏せするものがあるとは・・・思いもかけんこと。じゃっどん・・・一体、おはんらは何者でごわすか」

「薩摩の中村半次郎様とお見受け申しましてごぜえやす」

「お、女子か・・・」

「双子の兄、桐野利秋の命を受けての・・・大久保様暗殺・・・残念ながら見逃すわけには参りませぬ」

「ふ・・・そこまで見抜かれて・・・しかも女子に足止めされるとはのう・・・」

「もはや・・・九州の戦の雌雄は決したと存じやすが・・・」

「いかにも・・・そこが・・・武士の哀しいところでごわそう」

「・・・世を忍び・・・大人しゅう・・・宿屋の主として生きていけませなんだか・・・」

「ふふふ・・・冥土の土産じゃ・・・女・・・名を名乗れ参らせい・・・」

「会津の八重・・・」

同時に銃声が鳴り響く。

八重の黒頭巾を弾丸がかすめていった。

月の輪と八重の十字射撃を浴びて半次郎は即死した。

八重はホイッスルを吹いた。

くのいちたちは去り・・・野辺には十の死体が残される。

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2013年9月22日 (日)

あまちゃん、二十五組目の土曜日(能年玲奈)

まあ、いろいろな意見もあるだろうが・・・何十年も毎日のようにドラマを見てきて・・・ドラマが好きで好きでたまらない人間にとって・・・「あまちゃん」は何十年に一度あるかどうかわからない傑作に間違いないと思う。

「人間」が描かれ、「人生」が描かれ、「人情」が描かれた未曽有のドラマといってもさしつかえないだろう。

1000年に一度の地震の後で・・・まだ癒えぬ傷跡を抱えている人も多いだろうし、1000年後も続く汚染の中で不安を抱える人も少なくないはずである。

そういう心の憂さをこのドラマは・・・少なくともキッドにとっては見事に晴らしている。

残り一週間、無事に見終わるまでは死ねない。世界も滅亡しないでほしいと願うのである。

もちろん、次の瞬間には一万年に一度の地震が襲来するかもしれないが・・・それはそれで面白いのである。

今週は「橋本愛の週」と言ってもさしつかないが・・・この期に及んでは主人公に敬意を表したい。

すごいドラマはすごい脚本家抜きでは成立しないが・・・すごいヒロイン抜きでも成立しない。

最終週の予告編を見る限り・・・そこには「幸せになれるテレビ」が確実に展開されていると思う。

それを予感させるドラマなんて・・・滅多に見られるものではないのである。

来週の今頃、キッドはきっと思っている。ああ・・・良い夢だった・・・現実に無事に帰還できるかどうかは別としても。

ドラマは「北三陸篇」「東京編」「復興編」の三部作の様相を呈している。およそ、三、二、一のリズムで仕切られた序破急の展開である。

はりめぐらせた伏線が怒涛のように回収され、急流となって流れ込む毎日が最終回の連続である。

そして・・・その急流を・・・突き抜けた可愛さで泳ぐヒロイン。

君よ、君こそが・・・まさに三途の川のマーメイドなのです。

で、『連続テレビ小説・あまちゃん・第25週』(NHK総合20130916AM8~)脚本・宮藤官九郎、演出・西村武五郎を見た。2011年3月11日、東日本大震災後の世界へと変転した日本。被災地のユイ(橋本愛)からの「「帰ってきてよ」という救助要請に応えて東京から北三陸に戻るアキ(能年玲奈)・・・。2011年、アキの十代最後の夏は・・・嫌っていた故郷の壊滅を目撃し、心を閉ざしたユイのレスキューに捧げられる。しかし、根こそぎ津波で攫われた北三陸の傷跡は深い。ユイと出会った北鉄も流され、ユイと歌った海女カフェも流されていた。そして・・・袖が浜の海からはウニも姿を消していたのである。だが「復興祈願の海女のミサンガ」を掲げ「北鉄と海女カフェ」の復興を目標に掲げたアキは全土を覆う心の闇の迷宮からの脱出を目指す。アキの苦難を知り、東京からは恋人の種市(福士蒼汰)が駆けつけ南部ダイバーの魂を蘇らせる。希望の兆しを感じるアキの前に・・・また一人、力強い味方が舞い降りるのだった。ストーブ(小池徹平)、種市、水口(松田龍平)というアキに忠誠を捧げる三銃士の揃い踏みなのだ。

月曜日 海はいつになく涙いろで哀しみたたえているのです(橋本愛)

2011年8月。袖が浜、天野家の囲炉裏端に水口が帰って来た。

故郷に帰ったようにくつろぐ水口の前に「海女のミサンガ」を届けにきたユイ。

「どうしているの・・・?」

「どうしても・・・あきらめきれなかったんだ・・・キミとアキちゃんの潮騒のメモリーズが・・・」

「私は・・・やりません」

逆上したユイは神聖な漁師の網で編まれた「海女のミサンガ」を水口に投げつけて脱兎のごとく逃げ出すのだった。

「この野郎・・・漁師の魂を・・・」と思わず・・・もう一人の我が孫を叱る夏ばっぱ(宮本信子)声もすべての現実から逃避中のユイには届かない。

アキと水口はユイを追いかけて夜の北三陸を走るのだった。

恋人もいないのに薔薇の花束抱いて

これからいったいどこへ行くの

風はいつになく意地悪そうに

つらい質問するのです

とりあえず・・・スナック「梨明日」で帰還の挨拶をする水口。

大吉(杉本哲太)、吉田(荒川良々)の北鉄コンビ、保(吹越満)とストーブの観光協会コンビは生温かくミズタクこと水口を歓迎する。

「それにしても・・・仕事を辞めて・・・北三陸に来るなんて・・・思い切りましたね」

「いえ・・・社長の配慮で・・・北三陸支店長に就任しました」

「支店長・・・」

「あ・・・支社長でした・・・」

「倍返しって言い出すのかと思いましたよ」

「まあ・・・給料は歩合制で・・・事務所はこの店ということで・・・アキちゃんとユイちゃんの仕事のない時は勉さんのお世話になろうと思ってます」

「勉さんが・・・裏切り者のあんたを許すかどうか・・・」とドスをきかせてみる吉田くんだった。

「はい・・・でも琥珀がボクを呼んでいるんです」

「私も呼んでたわ」と早くもスナック恋愛モードで水口に迫るカウンターの美寿々(美保純)・・・バングラデシュ人の恋人カマール(アベディン)はどうした・・・まさか・・・波に・・・。

「ところで・・・春子さんが再婚するって本当か・・・?」と大吉。

「ええ・・・たぶん・・・きっと」

「そうか・・・マサが幸せになるならそれでいい・・・俺もこの際・・・新しい恋を捜すべ」

そこへ・・・タイミング良く安部ちゃん(片桐はいり)がやってくるのだった。

見つめ合う大吉と安部ちゃん。

「いやいやいやいや」と合いの手を入れる一同だった。

アキとユイは夜の北鉄車庫を散策していた。

ほぼ休業状態の北鉄の多くの車両が眠りについている。

「ねえ・・・ここに来たことある・・・?」とユイが問う。

「お座敷列車の時に・・・種市先輩と・・・」

「ああ・・・潮騒ごっこをしてたき火をアキちゃんが飛び越えようとした時ね」

「えへへ・・・」

「でも・・・映画では逆だったんでしょ」

「相手は前髪スネ男だったけどな」

「凄いよね・・・人気のアーティストと共演なんて・・・アキちゃん、夢を叶えてるよ」

微笑むユイ。

「・・・」

「アキちゃんと友達でよかった・・・」

「・・・」

「これからも仲良くしてね・・・」

アキはユイの「重さ」にたじろいだ。微笑んでいるが・・・心から笑っているわけではない。そういうプレッシャーがひしひしと感じられるのである。

消されたネズミのマークが目印のお座敷列車を発見して話題を変えるアキ。

「お座敷列車・・・懐かしいな・・・おら、やっぱり北鉄はめんごいと思う。ユイちゃんと初めて会ったのも北鉄だったし・・・それから二人でウニを売りまくったり・・・」

「駅で喧嘩したよね」

「ああ・・・おらがのんびりしてるんで・・・ユイちゃんに叱られた時な・・・」

「あん時は・・・どなりつけちゃってごめんね・・・結局、私にとっての青春の1ページになっちゃったけど・・・」

ユイはアキに重すぎるプレッシャーをかけつつ、お座敷列車の奥に眠る奇跡の車両に誘導する。

「これ・・・私がトンネルの中で立ち往生した時に乗ってた車両・・・」

最高の重圧襲来である。

「こわくて・・・しばらく乗れなくなっちゃった・・・今はもう平気だけどね・・・」

ユイはその日の自分をアキに見せつけるように奇跡の車両に乗り込んでいく。

全国から寄せられた千羽鶴が飾られた薄暗い車両。

アキはおそるおそる・・・怖い車内に入って行く。

リアスでは・・・限りなくウーロン茶に近いウーロンハイを飲みながら大吉は水口にあの日のことを語っていた。

「あの時・・・ユイちゃんは・・・心を失くしちまったような目をしてた・・・絶望ってものを絵にかいたようだった。だから・・・ユイちゃんを・・・晴れ舞台に引き戻すのは簡単なことじゃねえぞ・・・」

「・・・」

「あの・・・ヌメっとした爬虫類顔のテレビ局のディレクターが口説いてもダメだったもんな」と吉田。

「それでも・・・やるってんなら・・・観光協会は全面協力を惜しまないよ」と保。

「兄としても・・・できるだけ・・・説得してみます」とストーブ。

「その一部始終をヌメ~っと撮影させてもらいたいですねえ」

いつの間にか水口の席にはカメラを回しつつ「岩手こっちゃこいテレビ」のディレクター池田(野間口徹)がヌメヌメ~っと着席しているのだった。

暗闇の車両では・・・ユイが心を揺らして饒舌になっていた。

「ねえ・・・地震の話より・・・芸能界の話を聞かせてよ・・・スナックの話題になるような下衆いやつ・・・アキちゃん、芸能界のこと、ちっとも話してくれないんだもん」

「ごめんな・・・聞きたくねえかと思って」

「じ・・・地震の前はね・・・ア、アキちゃんがテレビに出ると消してた」

嘘である。少なくとも「おめでた弁護士」や「見つけてこわそう」を見つめていたユイなのだ。何故そんな嘘をつくのかユイにも分らない。しかし、おそらくユイは自分の本心が怖いのだろう。

「し、潮騒のメモリーも一回も聴いていないし、え、映画も一回も見ていない」

これも嘘だろう。ユイは映画の場面さえ知っていたのだ。GMTなんて興味がないといいながら歌詞を暗記していたユイなのである。

「ごめんね・・・口惜しかったし・・・アキちゃんに嫉妬している自分も嫌いだった・・・周囲の人は私に気を遣ってたかも・・・でも・・・今はもう口惜しくないし・・・みんなも私に気を遣わないし・・・口惜しいとか嫉妬とか・・・そういう感情って元気がある証拠なのかもね・・・」

そして・・・微笑むユイ。口調は話の内容とは別に奇妙に明るいのだった。

ユイの中で・・・激しい葛藤が繰り広げられていのを感じるアキ。

その重圧がのしかかり身動きが出来ない。

そんなアキの手を取るユイ。

「ごめんね・・・もう帰ろう」

ユイに引きずられてようやく歩き出すアキだった。

奇跡の列車には・・・ユイを呪詛する怨霊が籠っているようだった。

スナック「梨明日」ではカラオケの潮騒のメロディーが流れていた。

歌の途中で口ごもる吉田くん。

「なつかしいなあ・・・今でも夢に見るよ・・・あの賑わい」

「・・・」

「もう・・・あんな日々は二度とないんでしょうねえ」

「・・・何もかもが懐か・・・」と言いかけてアルコールに負け、ナーバス・ブレイク・ダウンする大吉。

そこへ乱入したアキは吉田くんのマイクを取り上げるのだった。

「懐かしんでる場合でねえべっ。あんなもんじゃねえ。今のおらとユイちゃんが本気だしたらあんなもんじゃねえよ・・・こんばんは、海女のアキでがす。おらのユイちゃんはあんなもんじゃねえんだよ。コノヤロー、おらのユイちゃんは昔はもっと自己中心的で腹黒だったべ・・・震災からこっち何を言っても作り笑いでよ、コノヤロー、頷くばかりで何も返ってこねえ。なんか、そういうことわざあるべ・・・バカヤローおめえ、暖簾に・・・暖簾に・・・押し鮨みてえなっ」

そこで大吉を介抱していた安部ちゃんがすっくと立ち上がり・・・。

「腕押し・・・暖簾に腕押しだよ・・・アキちゃん」

言葉の間違いを指摘された時のかわいいむずがり顔を披露しながら・・・マイク・パフォーマンスを仕上げにかかるアキだった・・・。

「やるよお・・・おらあ・・・お座敷列車、ユイちゃんがやらなくても安部ちゃんと二人でもやるよお」

「いやいやいやいやいけと即座に合いの手入れる一同。

「否定するのが早すぎるべ」と不満を漏らす安部ちゃんだった。

「コノヤロー。バカヤロー。試合を見に来てくれたお客さんにとっては懐かしい思い出かもしなねえが・・・おらにとっては大事なスタートラインだ・・・海女カフェ復活に向けての大事なチャンスだ・・・真剣にやってもらわないと困るんだあっ」

その時、記憶が蘇るアキ。

お座敷列車直前・・・恋の話にのぼせあがるアキにユイは叫んだ。

「アキちゃんにとっては思い出作りかもしれないけど、私にとっては大切なスタートラインなの。真剣にやってよ」

ユイちゃん・・・ユイちゃん・・・おらのユイちゃん。

アキはあの日のユイちゃんが痛切に恋しいのだった。

一方・・・小田こはく工房を尋ねた水口。

夜道を勉さん(塩見三省)はラジカセで「地元に帰ろう/GMT5」を聞きながらやってくる。

「あの・・・勉さん・・・俺・・・恥ずかしながら帰ってきました・・・」

「うるせえ・・・口動かさないで手を動かせ・・・お前の道具は小屋の中だ」

「・・・」

小屋の中に・・・「水口用」と書かれた札と採掘道具一式。

思わず、眼鏡が曇る水口だった。

「ついてこい・・・」

「はい・・・」

琥珀道師弟の復活だった。

空はいつになく 青く澄んで

思わず泣きたく なるのです

そんなある日・・・。

猫のかつえに・・・いや・・・夏ばっぱにかかる一本の電話。

「はい・・・もうすこし・・・ゆっくり・・・しゃべってけろ・・・デージといわれてもなんのことやら」

「で~じ」に反応するアキだった。

「キャンちゃん?」

「ア~キ~・・・夏ばっぱあの家、忘れたさ~、海女カフェも滅茶苦茶さ~」

「海女カフェにいるのけ?」

「あ・・・天野、おれおれ・・・宮古でチャリティー・イベントがあってさ・・・みんなが天野の実家が近所だっていうからさ」

「あ・・・ちっちゃい方の河島さん・・・」

ハートフルには大きい方の河島(マギー)はいない。

「なまってる方」連発で傷ついたアキが密かに考えていた復讐のフレーズなのである。

大きい方が水口、小さい方が河島の意味である。

可愛い方のユイ、訛ってる方のアキに対応していることは言うまでもない。

なにしろ「いくらおらでも傷ついた」のである。

執念深いのはもちろん・・・春子の遺伝子のなせる技なのだ。

アキからの緊急連絡を受ける吉田くん。

「GHQが来るそうです」

「何・・・連合国軍最高司令官総司令部General Headquarters, the Supreme Commander for the Allied Powers(=日本占領軍)がっ」と大吉。

「GMT・・・」と喫茶リアスのユイ。

まもなく・・・到着するサングラスのマッカーサー司令官ではなくて・・・GMT5リーダーの入間しおり(松岡茉優)・・・。

現役アイドル=有名な芸能人の登場に北三陸市の市民は血液が沸騰するのだった。

もちろん・・・ユイも例外ではない。

火曜日 ほらほらもうすぐこの弓があなたにあなたに命中よ(松岡茉優)

たとえば月曜日は・・・天野家で始り、ユイと水口は「あれ・・・髪の毛どうした」以来の一年半ぶりの再会を果たす。アキはユイと北鉄車庫へ。水口はスナック梨明日へと向かう。水口は北三陸の主要人物たち。北鉄と観光協会、海女の美寿々と再会を果たして勉さんの工房へ。その後、アキはユイへの鬱憤をスナック梨明日で晴らす。そして翌日、喜屋武エレン(蔵下穂波)が海女カフェに現れる・・・という流れである。

この中で・・・ユイが水口との再会で心が揺さぶられ・・・アキに対して被り続けた微笑みの仮面が綻びはじめていく過程が丹念に描かれているのである。一方で・・・ユイを揺さぶった水口は深追いせずに琥珀の恩師である勉の元へと急ぐ。そして、アキはユイに対する苛立ちをついに爆発させる。しかし、それを直接ぶつけることのできない自分に限界を感じるのである。そして・・・最後に最終兵器である現役アイドルの登場なのである。

この計算されつくしたシナリオ・・・そして計算を感じさせないよどみない演出。

この一点だけでも充分に見ごたえがあるのだなあ。

そして・・・今回は・・・「東京での密談」以外は・・・喫茶「リアス」とスナック「梨明日」の昼と夜だけで・・・震災後のアキのユイに対するアプローチがついに決着するのである。

さらにはアキの単独上京以来の流れの終着点でもある。そして、それは二人のアイドル物語の途中駅でもあるのだ。上りの東海道新幹線なら新横浜である。終点・東京は目前なのだな。

地元系アイドル「GMT5」が北三陸にやって来た。

認知のドーパミンの大量放出によって脳内快感による多幸感に興奮が収まらない北三陸市の人々。

アキにとってそれは・・・東京で初めて鈴鹿ひろ美に会った時のことを思い出させる。

田舎の人々にとって「テレビに出ている人」は「神」に等しいのである。

ユイもまた衝撃を感じていた。アキがテレビに出て再び戻って来た時にも衝撃はあったのだが・・・それよりも「現役アイドル」を「生」で見た衝撃ははるかに大きかったのである。ユイは自己防衛のための仮面を必死に手で押さえている状態である。そうでなければ熱狂してしまうのだ。

「さすがは・・・現役アイドルだな・・・」

アキは東京の同志たちの人気ぶりを我がことのように感じるのだった。

アキの知人であるという特権で・・・喫茶「リアス」でGMT5とお近づきになる北鉄コンビと観光協会コンビ。さらに・・・いっそん(皆川猿時)である。

おもてなしの気持ちでアキが「ウニ丼食ってけろ」と言うのを制して、「自己紹介の芸」をおねだりするのだった。

河島が制するのを小野寺ちゃん(優希美青)が「アキちゃんの地元だからよかんべ」とサービス精神を発揮する。

やんやと盛り上がるKSR(北三陸)5だった。

ずんだ推しのいっそんが「ずんだずんだ」と盛り上がれば、真奈ちゃん(大野いと)推しのストーブは「福岡」に対して「佐賀だろう」とつっこむ。大吉さんも調子に乗ってキャンちゃんの「ゴ~ヤ~」に「チャンプルー」と応じる始末である。

「何か? ベロニカ」で決めるGMT5だった。

「天野、紹介してくれよ・・・訛ってない方・・・」

「ああ、ユイちゃんか・・・」

アキがユイを紹介するとユイの緊張は限界に達するのだった。

一目でわかるユイの抜群のアイドル性に茫然とする河島とGMT5・・・。

「私・・・買い物があるんで・・・」

耐えきれず店外に逃走するユイだった。

「がばいね~」と真奈ちゃん。

「アイドルとしての素質の差が歴然としているのは否めないね~」とベロニカ(斎藤アリーナ)・・・。

「でも、ちょっと影があるよね」と強烈なライバル意識がもたげるリーダー。

「ちょっと、人見知りしてるんだ・・・話してみると意外と面白くて、そのギャップがいいんだぞ」と親友を庇いつつ分析する油断のならないアキだった。

「あの子がいたらセンターだべな」と小野寺ちゃん。

アイドルたちの的確なユイに対する評価が自分のことのようにうれしいアキだった。

そこへ・・・新たに弥生(渡辺えり)とあつし(菅原大吉)のブティック今野夫妻がやってくる。

「残念だったな・・・今、自己紹介終ったとこだ」

「そかんあ・・・もう一回やってけろ」

遠慮を知らない田舎者なのである。

さらに花巻鈴(小島一華)と琴(吉村美輝)の姉妹を連れて来た眼鏡会計婆かつ枝(木野花)・・・。

「子供たちのために・・・もう一回やってけろ」

あくまであつかましい田舎者なのだ。

アキも加わって「GMT6」となり盛り上がる一同。

アキが向こう側に行ってしまい気絶しそうになるユイ。

「あの・・・そろそろ追加注文いいですか・・・一応喫茶&スナックなので・・・」

「・・・」

リーダーはなんとなく・・・ユイとの火花を飛ばし始めるのだった。

そこへ・・・種市が登場。

GMT5のボルテージが上昇。

「種市、元気、どうしてるの~」

「今日は瓦礫撤去だ」

「なんだ・・・種市・・・知り合いなのか・・・」と嫉妬するいっそんである。

「違うよ~、アキとのことだよ~、つきあってるんでしょ~」

種市の前に立ちはだかるユイ。アキと種市をからかっていいのは・・・親友の自分だけなのだという最後の砦なのだった。

「ご注文、お願いします」

「じゃあ・・・コーラ5」と余裕を見せるリーダーだった。

「チッ」とついに舌打ちするユイに異常を感じるリーダー。

しかし、初対面ではあるけれど・・・GMT5は・・・アキを通じて・・・ユイの「事情」をそれとなく知っているので・・・そこには「友達の友達」に寄せる「気持ち」が介在しているのである。

なぜ・・・アキがここにいるのかを・・・リーダーは特に察しているのだった。

だが・・・そうとは知らないユイはあくまでスナックの従業員として振る舞うのだった。

「あの・・・カラオケあるんすけど・・・歌います?」

「いや・・・それは」と一応釘をさす河島。

しかし、GMT5は・・・アキと一緒に歌うことを望むのだった。

彼女たちは地元系アイドルの名に誇りを持っているのだ。

地元の人々にサービスしてナンボなのである。

夢を作って

ガラスの箱にしまっておくよな

いつでも内気な女の子じゃありません

おしゃれで陽気で茶目気で

いつでも誰かに恋してる

そして、GMT6の歌声はユイのハートを撃ち抜くのだった。

つまり、冷凍食品のユイは電子レンジでチンされてしまったのである。

移動日でのプライベートな時間を過ごしたGMT5は嵐のように去って行く。

「あの・・・可愛い方の子にもよろしくね」とリーダー。

「ユイちゃんか・・・」

「うん、いつでも勝負を受けて立つわよ・・・アイドルとしてね」

「・・・ありがとな」

アキは仲間たちの友情に胸が熱くなるのだった。

GMT5が東北チャリティー・ツアーをしているように・・・東京ではチャリティーソングの企画を巡って・・・鈴鹿ひろ美(薬師丸ひろ子)の所属事務所社長・天野春子(小泉今日子)と鈴鹿ひろ美の実の夫・太巻(古田新太)が意見を交換しているのだった。

「総勢八十人によるチャリティーソングなんだ。『さくら/森山直太郎』をみんなで歌うという・・・」

「歌わせる気・・・」

「チャリティーだから・・・オファーを断りにくい・・・」

「だからって・・・」

「まあ・・・さくら・・・さくらの一行なんですけどね」

「一行だって・・・ぶちこわすわよ・・・歌そのものを」

「まあ・・・そうなんですけどね・・・前が森久美子で後がセリーヌ・ディオンだし」

「ものすごく・・・音痴が際立つじゃないの・・・」

「だから・・・こっそり断ります」

「よかった・・・」

「でもね・・・彼女・・・最近、歌うことにこだわってるんですよ」

「・・・」

「あの音痴様々、以来ね」

「えーっ、私のせい?」

「口の堅いボイストレーナー紹介しろって・・・うるさくて」

「・・・」

鈴鹿ひろ美の「チャリティーソング参加」が闇に葬られた頃、スナック「梨明日」では宴の後片づけが始っている。

皿を猛烈な勢いで洗うユイ。

周囲を囲むのは夏ばっぱとストーブとアキだった。

そこへ・・・琥珀の勉さんと水口がやってくる。

「えーっ・・・GMT5来てたの・・・」と残念がる勉さん。

「河島さんも来てたんだ」と水口。

「河島さん・・・ユイちゃんにボーッとなってたぞ」とアキ。

「さすがは・・・ユイちゃん」と水口は誘いかける。

「別に・・・っていうかさ・・・あの子たち、あのレベルでテレビとかさ、笑える。あの小野寺って子も・・・思ってたよりも普通っていうか、何か若いだけっていうか、若いから可愛いっていうか、来年どうすんのって感じだし、リーダー性格悪そうだし、真奈ちゃんは所詮、がばいだけだし、沖縄の子はキャラ系だし、ベロニカは狙いすぎてて、トリンドルもローラもいるし枠的につらいっしょ・・・ずば抜けてかわいい子、いないでしょ・・・ずばぬけて歌が上手い子もいないし、踊りは上手いっていうより下手だし、アイドルとしては限りなくCに近いB級・・・地元に帰ろう・・・って、お前らが田舎に帰れよって感じだし・・・」

「あのな・・・ユイちゃん・・・一応、みんなおらの友達なんだども」

「友達い? あ、ああ~そうだよね。ごめん、ごめん。でもさ・・・トモダチだからっていきなり押しかけてきて大騒ぎして、素人レベルの歌聞かされたって、興味のない人間には・・・この上なく迷惑だし、リーダー性格悪いの丸出しだしさ・・・アキちゃんが・・・GMTに残ってれば余裕でセンターとれちゃうし・・・」

走り出したら止まらない上にフルスロットルのユイにアキは何かを感じて水口を見る。

眉を動かして同感の意を伝える水口。

夏ばっぱもまた・・・潮時を感じてアキに無言で合図を送る。

ストーブでさえも・・・ユイから立ち上る解凍の湯気に気が付くのだった。

誰もが・・・喜びの予感を感じているのだった。

アキはカウンターに入ってユイとの距離をつめる。

「じゃあ・・・ユイちゃんだったら・・・?」

「・・・私・・・私はいいよ・・・もうそういうのは・・・で、でもさ・・・あんなんでアイドルとかいってチャホヤされるなら・・・潮騒のメモリーズの方が何倍も可能性あると思うけどね」

「じゃあ・・・やろうよお」

「え・・・やんないけど・・・やんないよ・・・お店もあるしさ・・・やんないけど・・・でもさ」

「なんだよっ・・・さっきから・・・でもさ、でもさって・・・やりてえの?・・・やりたくねえの?」

「やりたいよっ」

「・・・」

「やんないよ・・・やりたいよ・・・でもやんないよ」

「やりなよ」と水口。

「やんない」

「やればええのに」と夏ばっぱ。

「やんないよっ」

「やれよっ」とヒロシ。

「やるよっ」

「やったあああああああっ」と勉さん。

「・・・・・・・・・」

笑顔に包まれたユイは唇を結ぶ。

そしてカウンターの引き出しから何やらノートを取り出すのだった。

「え・・・え・・・何・・・潮騒のメモリーズ現象って・・・」

「再結成からお座敷列車までのストーリーをまとめたの・・・読んどいて・・・」

恐ろしいことにその冒頭には・・・。

潮騒のメモリーズ現象~第二章

☆潮騒のメモリーズ再結成!!

2011年8月17日

アキちゃんの強い呼びかけにより

潮騒のメモリーズ再結成決定!

お兄ちゃん、勉さんも大喜び☆

・・・と記されているのだった。

すべては・・・ユイの計画通りだったのである。ユイ・・・恐ろしい子。

「ユイちゃん・・・」

「ごめん・・・私ずっとずっとずっと嘘ついてた。全然あきらめきれてないし・・・ふっきれてないし、あきらめようとかふっきろうとか・・・わらってごまかしたり・・・ものわかりいいふりしたり・・・なげやりになったり・・・なげだしたり・・・滅茶苦茶したり・・・無理したり・・・でも・・・GMTの歌聴いてたら・・・なんだかイライラしちやった・・・自分自身に腹が立って・・・何だよ・・・同い年なのに・・・何やってんの私って・・・ビールケース運んでミサンガ編んでどうすんだって・・・アイドルになりたいのっ・・・アイドルにならないでどうすんだってえ・・・・いつも面倒くさくて・・・本当にごめんね」

ユイは・・・すべてを告白して・・・さらけだした。

アキは天にものぼる気持ちがする。

「お帰り」

「・・・」

「面倒くさいユイちゃん、お帰り」

手を差し出すアキ。

ユイは唇をかみしめて不敵に笑う。

「ただいまっ」

アキとユイは握手を交わした。

トンネルを抜けると腹黒くて自己中心的でうっとりするほどかわいいユイが立っていたのである。

そして・・・「現象」的には2011年秋祭りで・・・ユイは焼きそばの売上最高記録を樹立するらしい・・・。まあ・・・きっとそこはスルーなんだろうなあ。

水曜日 今日もひとりたたずめば肩をポンと叩かれて涙拭けって優しい声(小池徹平)

さあ・・・加速です。

2011年8月から2012年2月に時は流れます。

ここは現象的妄想で補完します。

9月上旬に秋祭りがあり、ここでユイちゃんがミス北鉄に再選されます。毎年、行われていれば2008年、2009年、2010年に続いて四年連続のミス北鉄。

アキは復興祈願・焼きそばで売上新記録を樹立。

9月下旬に本気取りがあり、海女のアキちゃん、海女のユイちゃんのW海女ちゃんで数少ないウニ争奪戦。おそらくアキ・ユイ対決は出来レースの引き分けで・・・うにオークションでは万札が乱れ飛びます。

9月~11月にユイの誕生日があり、ユイが二十歳になる前に「潮騒のメモリーズ」再結成イベントが公民館で開かれ、岩手こっちゃこいテレビが生中継。

潮騒のメモリーズが岩手県内の復興の様子を伝える「がんばっぺ岩手」のレギュラー番組が岩手こっちゃこいテレビに編成される。

11月、アキの誕生日に「潮騒のバースデーメモリーズ・パーティー」が開催され、地酒復興イベントが開催。ユイが泥酔。

12月、「潮騒のメモリーズのクリスマス」でアキサンタ、ユイサンタが被災地の子供たちにクリスマスプレゼント。

2012年1月、「潮騒のメモリーズ復興祈願おせちセット」が全国向けに発売される。うに入りまめぶ汁付きでそこそこ人気となる。

汗にまみれた胸がとても眩しかったのよ

また逢う日もあるだろうと白い歯みせ笑ってた

そして・・・2012年2月・・・。

足立功(平泉成)が北三陸市長選に立候補。

司会は愛妻よしえ(八木亜希子)・・・そして強力なサポーターとして「潮騒のメモリーズ」が選挙をバックアップするのだった。

県議としての実績、復興へのビジョン、そして観光海女であり、地元系アイドルでもある潮騒のメモリーズに加えて・・・必殺術を繰り出す足立先生。

「なんでもかんでも・・・自粛すればいいってもなじゃないんですよ」

「んだんだんだーっ」と音頭をとるアキなのだった。

「震災から間もなく1年です。なぜ、復興はおくれているのか。本当に必要な人に・・・本当に必要なものが届いているのか。そうでないとすれば、それは政治の責任です」

「んだんだんだ」

「畑野村は根こそぎもっていかれました。それから、一年、国や県が何をしてくれましたか。海女カフェは波に消えました。北鉄は未だに一区間運転です。何もかもが遅すぎるのです」

「んだんだんだ」

「北鉄も、北の海女も、北三陸の誇りです。重要な観光資源です。これをとりもどさなければ地元に銭は落ちません」

「んだんだんだ」

「いまこそ・・・北三陸市民は自ら立たなければなりません。立てよ、北三陸」

「んだんだんだ」

「どうか・・・皆さん・・・来るべき市長選挙には足立功をよろしくお願いします」

ついに土下座する足立先生。人々はその神々しい姿にひれ伏すのだった。

「ジーク、アダチ」

土下座の帝王・足立功当選確実である。

こうして、よしえは市長夫人に、ストーブは市長の息子に、ユイは市長の娘にジョブ・チェンジするのだった。

祝賀会で・・・ユイは案じる。

「市長の娘で地元系アイドルって・・・無駄にセレブ感が醸し出ちゃわないかな」

「元々、それほど親しみやすいキャラでねえから大丈夫だ」と断定するアキ。

「・・・だよね~」

成人した二人はそれなりに初々しいドス黒さを漂わせるのだった。

スナック「梨明日」店外では・・・市長の息子が「お勉強スポット」でビールを飲んでいた。

それに気が付くアキ。

「どうした・・・ストーブさん・・・一人たそがれて・・・」

「いや・・・ちょっと風なあたろうって思っただけで」

「気をつけてください。ストーブさんは自分が思ってる三倍の負のオーラ醸しだしてますから・・・その顔でホームに佇んだら、みんな人身事故を予感するべ」

「気をつけるよ・・・それより、アキちゃん、今回はありがとう」

「いやいや・・・礼なんかいらねえぞ・・・おら、一票入れただけだ」

「親父もだけど・・・ユイのこと・・・」

「それこそ・・・礼には及ばねえ・・・親友だもの・・・それにおらの最終目標は海女カフェの復活だ・・・なんてったって海女カフェはユイちゃんが歌って踊るためのステージだぞ。肝心のユイちゃんが歌って踊る気になんねえんじゃ・・・海女カフェ建ててもしゃあねえもんな」

「そうか・・・ってあれ・・・アキちゃん、選挙権あったっけ」

「おら、二十歳だぞ・・・選挙権は国民の義務だ」

「・・・け、権利だけどね・・・そうか・・・アキちゃんがここに来た時って・・・いくつだったけ」

「高校二年の夏だから・・・16歳だ」

2008年の夏。ストーブが正真正銘のストーブだった頃・・・。アキはまだ16・・・歳だった。

2009年の秋、東京に旅立ったアキは17歳。

2010年の夏、デビューに失敗したアキは18歳。

2011年の春、歌手デビューしたアキは19歳。

そして・・・2012年の早春・・・アキはもう20歳なのである。

大人になったアキは「風にあたりたい」というストーブのために駅舎の窓を開ける・・・。

五月まで雪が残る北三陸の冷たい夜風が二人の火照った顔を冷ますのだった。

アキの揺れる髪をうっとりと眺めるストーブ。

「え・・・アキちゃん・・・ビール飲んでるの」

「カタチだけだ・・・」

手酌のアキにビールを注ごうとするストーブ。

「いやいやいや・・・」

「まあまあまあ・・・」

「へへへ・・・おらたち・・・おっさんみてえだな」

「・・・」

「ストーブさん、おら変わったかな」

「全然、変わらないよ」

「そうか・・・」

「いや、でも・・・それって凄いことなんじゃないかな・・・東京の子が田舎に来て、海女になって・・・また東京に行って、今度はアイドルになって、映画に主演して・・・また田舎に帰ってきて・・・それで・・・変わらないんだもの。大したもんだ。普通なら・・・いい気になって派手にになったり、男できたりして」

「男はできたど」

「・・・うぐ・・・で、でも・・・基本、アキちゃんはアキちゃんだもの・・・何にも変わらねえ」

「そうか・・・いがった・・・」

「いがった?」

「うん・・・芸能界さいると・・・っていうか東京にいんとさ・・・成長しねえ奴は怠け者扱いだ。でも、成長すんのがそんなに大切かって・・・おら思うんだ。人間だもの、ほっといても成長するべ・・・背が伸びたり太ったり」

「・・・」

「おっぱいでっかくなったりな」

「・・・」

「それでも変われねえ・・・変わりたくねえことだってあると思うんだ・・・あまちゃんだって言われるかもしんねえけど・・・それでいいべ。おら、プロちゃんにはなれねえし・・・なりたくねえと思うんだ」

「・・・」

「どうした・・・ずっと黙っちまって・・・」

「いや・・・男ができたってとこから気を失ってた」

「やんだあ・・・ストーブさんは変わんねえな」

アキはストーブの背中をバシッと叩くのだった。

あまちゃんは・・・海女ちゃんで・・・甘えん坊ちゃんなだけではなく・・・プロフェッショナルに対するアマチュアだったのである。

セリフによる解題来ました。

しかし・・・けしてプロとして完成しないことは・・・ショー・ビジネスの鉄則でもある。

熟成と腐敗は紙一重だからである。

アキの変転する目標設定こそが・・・転石苔苔生さずのセオリーなのである。

苔生すことを「美」とする人々とは相容れぬ一線がそこにあるのだ。

しかし、それは同じ世界をただ別の視点で見ているだけだという考え方もあります。

アキがストーブに引導を渡している頃・・・東京でも「譲れないもの」同志が激突しているのだった。

スリーJプロダクションのテーブルに広げられた一枚のポスター。

「鈴鹿ひろ美チャリティー・リサイタルin東北・・・心を込めて笑顔を届けたい」

「・・・ってなんですか・・・これは」

「勝手に決めてごめんなさい・・・でも私」

「決めるのは社長の私です・・・あなたは所属タレントなんですからっ」

「所属タレント・・・私一人しかいないけどね~」

鈴鹿ひろ美(薬師丸ひろ子)に同意を求められて思わず微笑む太巻。

春子に睨まれると「すいません」と謝罪するのだった。

「私・・・やっと見つけたんです。私に出来ること・・・私がやらなきゃいけないこと・・・今まで女優として演じることで東北の皆さんに元気になってもらいたいなあって思ってきたけど・・・もっと直接励ましたい・・・生身の鈴鹿ひろ美の声を届けるべきだって」

「あの・・・リサイタルってことは歌われることですよね」

「歌以外に・・・表現方法ありますか」

「ありますよ・・・朗読とか・・・ポエトリーリーディングとか・・・あと、詩吟とか」

「ある・・・と思います」

お笑い芸人ネタで場を和ませようと懸命の太巻である。

「むしろ・・・語って聞かせる方が・・・被災地の皆さんは喜ぶんじゃないですかね。なんてったって歌はその・・・二十五年のブランクがあるわけだし・・・」

「私が音痴だから・・・」

言葉を選んでいた春子は言葉を失うのだった。それを言ったらおしまいだからである。

説明しよう。「歌が下手」と「音痴」とは全く次元が違うのである。

歌が下手な人は上手に歌えないだけで・・・自分が上手く歌えていない自覚がある。

しかし・・・「音痴」の人にはそもそも「歌の上手い下手という概念」が分らないのだ。

嗅覚のない人に「良い匂い」と「悪臭」の区別は理解できないし、味覚のない人に「美味しい」も「まずい」もへったくれもないのである。

その部屋にいるのは春子と正宗(尾美としのり)、そして太巻。

ある意味・・・鈴鹿の「音痴」で結ばれた四人だった。

彼らがそこにいるのは偶然ではなくもはや運命と言えるのだ。

二十五年前・・・鈴鹿の「衝撃の歌唱」を耳にした三人は・・・その呪縛から逃れることはできないのだった。

「チャリティーソングへの参加・・・無断で断ったでしょう・・・私、傷つきました」と鈴鹿。

「・・・すみません」と謝罪が苦手な春子が謝罪。

「いや・・・僕はね・・・提案したんだ・・・最悪、春子さんが代わりに歌って・・・」

春子と鈴鹿の凶悪な視線がダブルで太巻を射ぬく。

「どうもすみません」

故・林家三平師匠になるしかない太巻だった。

「社長を責めてるけじゃないの・・・ただ・・・あなたは・・・影武者だったことを告白して・・・それなりにすっきりしたかもしれないけど・・・私はまだ・・・過中にいるんです・・・だって歌手・鈴鹿ひろ美は・・・否定されたままなんですもの。このままでは済まされないんです。私は戦いたいんです・・・自分の移ろいやすい音程と・・・。私には・・・なぜ・・・それほどまでに自分の歌が受け入れられないのか・・・わかりません。だから・・・チャレンジしたいんです。そして下手でも・・・不完全でも・・・自分の声で歌って笑顔を届けたい・・・ずっと納得がいかなかった・・・だから・・・去年の夏からひそかに口の堅いボイストレーナーについてレッスンしてきたんです・・・二度と、音痴って言われたくないからっ」

「いや・・・」

「え・・・」

「・・・」

「ここで・・・その成果を披露したいと思うんです」

「え・・・歌うの」と青ざめる太巻はすでにその成果をある程度知っているらしい。

「いや・・・心の準備が」と逃げ腰になる正宗。

「あの・・・アカペラで・・・ですか」とうろたえる春子。

しかし・・・鈴鹿は有無を言わせず立ち上がると歌い出すのだった。

聴き手となった三人は一瞬で二十五年の時の流れを遡上した。

そして・・・完全なる静寂が支配する・・・オフィス。

「・・・ダメか・・・」とみんなの反応に気が付く鈴鹿。

「いや・・・ダメじゃないよ、音程は移ろいやすかったけど・・・それが味になってるっていうか・・・ね、正宗くん・・・」と妻をこよなく愛する夫。

「いや・・・僕は素人ですから・・・」とアルカイック・スマイルに逃避する正宗。

「ほら・・・正宗くんが笑った・・・笑顔を届けたよ・・・もう、これは誰にも真似できないことだよっ・・・ていうかフォローになってねえ」とダウンする太巻。

「あの・・・いつから・・・レッスンしてたっていいましたっけ・・・」言わずもがなのことを確認する春子。

「去年の夏から・・・」と打ちのめされる鈴鹿。

「やめさせちまえっ・・・お金の無駄使いだもの」と吐き捨てる春子。

「・・・」

「私が・・・私がやります・・・私が鈴鹿さんの歌唱指導をします」

「え・・・」と鈴鹿。

「え・・・」と太巻。

「は、春子さん」と妻の身を案じる正宗。

「いいの・・・」と鈴鹿。

「やりましょう・・・」と春子。

鈴鹿は思わず微笑むのだった。春子は笑顔で応じる。売られた喧嘩を買うのは・・・ヤンキーの宿命なのである。

好きよ好きよ キャプテン

忘れないわきっと

生きることと恋を教えてくれたの

北三陸の大吉に・・・春子から電話が届く。

「え・・・鈴鹿ひろ美が・・・北三陸で・・・リサイタルを・・・」

傍で会話を漏れ聞いて耳を疑うアキ。

「リサイタルって・・・歌う気か?」

「いや・・・会場っていってもな・・・え・・・鈴鹿さんは海女カフェで歌いたいって・・・」

「じぇじぇじぇじぇじぇ・・・」

果たして・・・夢にまで見た「潮騒のメモリー/鈴鹿ひろ美(薬師丸ひろ子)」が実現するのかどうか・・・それは・・・どうやら来週のお楽しみらしい・・・。

木曜日 私の胸に今日もひらく情熱の花あなたを求めて(有村架純)

2012年3月。あの日から一年が経とうとしていた。

そんな折、自分自身の音痴からの復興を求めて独走する鈴鹿ひろ美のリサイタルのポスターが北鉄に届く。

何も知らない北三陸の皆さんは期待に胸を膨らませるが・・・天野春子とアキの母娘は不安でいっぱいになるのだった。

「春ちゃん、再婚おめでとう」と北三陸の大吉。

「ありがとう」と東京の春子。

「電話替わりました、海女カフェ担当のヒロシです」

「あ・・・お父さん、当選おめでとう」

「ありがとうございます・・・それでリサイタルはいつ頃になるんですか」

「鈴鹿さんは震災の日にって言ってるんだけど」

「それは・・・ちょっと・・・まだ再建の目途も立ってなくて」

「ええ・・・っていうか、こっちもまだ準備がね」

「準備っていうと・・・」

「あ・・・あの・・・アキに替わってください・・・」

「鈴鹿さん・・・歌うって、まさかママが落ち武者するのか」

「しーっ・・・だめよ・・・そのことは絶対秘密よ。っていうか、鈴鹿さんがアレなことも絶対秘密だかんね」

「わかったけど・・・じゃ、どうすんだ」

「だから・・・今、ママが鈴鹿さんを特訓してんの」

「そ・・・そりゃ・・・大変だな・・・」

「だから・・・海女カフェの目途が立ったら教えてちょうだい」

「わかった」

アキは思う。鈴鹿さんを教えるママも大変だが・・・あのママに教わる鈴鹿さんも大変だと。

東京・・・天野春子道場。

「きーてーよ」

「き・・・・」

「きーてーよ」

「きき・・・」

「きーてーよ」

「優しくしてください・・・誉められて伸びてきたんです」

「誉めるとこなんかまだ一個もないよ・・・一個もだよ」

北三陸・・・観光協会。

「すると・・・海女カフェを作ったら鈴鹿ひろ美がくるってことか」と保。

「それをつくれば・・・奴がくる・・・映画にありましたね」と吉田。

「フィールド・オブ・ドリームスだね」と栗原(安藤玉恵)・・・。

ぶっさんが来るのね・・・」と美礼先生。・・・おい、違うよっ。

「作るか」と大吉。

「ぶっさんのためにか」と喫茶「男の勲章」のマスター・・・おいっ。

「大輔ーっ」

「哲太ーっ」

「久しぶりだなあ」・・・おいおいおい。

「前、作った時はなんぼかかったっけ」と冷静になる保。

「二千万円だ・・・」と眼鏡会計婆。

「無理無理無理無・・・」と一同。

「ローンの未払い分は災害保険でなんとかなっけど・・・再建すっとなると・・・とてもとても」

「前みたいに立派じゃなくても・・・ステージと音響設備があれば・・・」とストーブ。

「それどころじゃねえよ・・・おらとこの住む家もまだねえんだぞ・・・」と組合長(でんでん)。

切実なのである。

「あきらめろ・・・海女カフェ担当・・・今は北鉄を宮古まで通すのが最優先だ・・・」と大吉。

「んだな・・・一に北鉄、二に市民ホールだ」と保。

「観光協会の利権がらみですか」と吉田。

「そんじゃ、ガールズバー」

「ガールズバーは必要ですか」と栗原ちゃん。

「こだわるよね~」と吉田。

東京・・・天野道場。

「てー」

「・・・」

「てー」

「・・・」

「素直な気持ちでてー」

「ひー」

袖が浜・・・漁協仮設プレハブ。

「・・・というわけなんです」とストーブは会議の結果をミサンガ制作中の海女たちに伝える。

「ふざけんな・・・こっちは・・・こんなふきっさらしみたいなとこで凌いでんだぞ」と激昂する美寿々。

「んだんだんだ」と弥生。

「じゃ・・・組合長を説得してください」

「それは・・・できねえ・・・かつ枝さんと喧嘩したくねえしな」

「かつ枝さんもようやく仮設住宅だもんな」

「北鉄はどうだ・・・」と夏ばっぱ。

「そうだ・・・北鉄が通らなきゃ海女カフェやっても客が来ねえもんな」

「・・・」返答に屈するストーブ。

アキは殺伐とした雰囲気に言葉が出ないのだった。

「ちょっと・・・みんな・・・手がとまってます。口動かさないで仕事してくださいよ・・・ミサンガ一本で100円・・・これだって立派な復興資金ですから」と兄を庇うユイだった。

「は~い」ユイの迫力に気圧されて作業に戻る従順な海女たち。

しかし・・・さすがの夏ばっぱも気力がわかない様子である。

息抜きに一人、埠頭に出るアキ。

「がんばろう東北」の復興支援の旗も打ち捨てられ汚れている。

一年が経過して遅々として進まぬ復興に人々は疲れていた。

アキはその旗を海水で洗ってみる。

赤いコートを来たアキは海辺に咲く赤い花。

いつしかアキの足は廃墟と化した海女カフェに向かっていた。

Am025恋は気ままな 青い風よ

そっと知らぬ間に 心をくすぐる

昼なお暗き瓦礫に埋もれた海女カフェ。

誰かの気配を感じたアキは暗闇に目を凝らす。

そこにいるのは・・・アキにだけ見える若き日の春子(有村架純)の幻影である。

「なして・・・なして・・・ここに・・・」

幻影の春子はもの珍しそうに海女カフェの残骸を眺める。

そして・・・瓦礫の中から・・・「潮騒のメモリー/天野アキ」のCDジャケットを拾いだすのだった・・・。

「これ・・・」

微笑む幻影の春子。

あの日・・・ママは・・・とアキは思い出す。

2009年の海女カフェ・・・。

潮騒のメモリーズを内緒で復活させてママにぶたれちまったあの日。

でも・・・本当のママはきっと・・・。

それからの歳月がアキの中を通りすぎていった。

満足したように消える幻影。

あきらめはしねえ・・・だけどとアキが唇をかみしめた時、背後で物音がする。

「そっち・・・もって」

「はい」

「あ・・・来てたんですか」

「遅れてすみません」

「誰・・・誰だ」

「天野・・・」

「先輩・・・」

そこには作業着に身を包む男たちの姿があった。水口・・・勉さん・・・種市・・・そしてストーブ。

「どうして・・・」

「ユイに言われて思ったんだ・・・口ばっかじゃなくて手を動かそうって・・・」

「瓦礫の撤去作業にも金がかかる・・・でも自分たちでやれば・・・タダだ」と種市。

「うん・・・そうだな・・・その通りだ」と頷くアキ。

「まあ・・・そう思うだけの余裕がようやくできたってことだ」と勉さん。

「あれからもう一年・・・ですものね」と水口。

「おらも手伝う」

「気をつけて・・・」

「軍手さ、使え」

誰かが動けば・・・後に続くものは現れるのである。

海女カフェの瓦礫撤去は急速に進む。

ガラクタは取り除かれ、使える備品は寄り分けられる。

そして・・・ついに「潮騒のメモリーズの看板」が掘り起こされ修復されたのだった。

綺麗な水槽も・・・泳ぐ魚も・・・巨大なモニターも・・・おしゃれなテーブルも・・・エスプレッソマシーンも・・・オーディオ装置も・・・なにもかもなくなってしまったけれど・・・そこに・・・新しいスペースが蘇っていた。

すべてを一度にやり直すことはできない。

ただ・・・最初の一歩を踏み出すことは出来るのだった。

人々の顔に笑顔が戻る。

アキはそれがうれしかった。

東京・・・天野道場。

「・・・」

「・・・」

春子は「音痴」が「不治の病」だと思い知らされていた。

しかし・・・鈴鹿は希望を失わないのである。

もう一度言おう・・・「音痴」は「音痴」を知らないのだから。

北三陸・・・スナック「梨明日」

またしても希望の花が咲く。

「えー、市長の足立でございます・・・まずはご報告がございます。北三陸鉄道の復興計画が具体化されました。北三陸駅から畑野駅までの区間が・・・七月一日より運行再開となります」と足立先生。

「ついに・・・この日が来ました・・・」と大吉。「七月一日は海開きの日・・・そして1984年に春子ちゃんがこの街さ出ていった・・・北鉄開通のメモリアルデーです」

「大吉~」

「それから・・・北鉄は雨の日も風の日も・・・」

「がんばれ」

「震災に遭ったって五日で・・・」

「よくやった」

「赤字だ・・・時代はモータリゼーションだと言われても・・・客が五、六人しか乗っていなくても・・・線路の左右が瓦礫だらけだったとしても・・・」

「泣くな」と弥生。

「北鉄さ・・・走ってることが・・・う」

「泣け~」と美寿々。

「希望だから・・・俺は泣かねえ」

「うえ~ん」と泣き出す弥生。

「うえ~ん」と弥生と抱擁する大吉。

拍手喝采である。

そこにあるのは哀しみの果ての喜びの涙。

アキも笑いながらもらい泣きするのだった。

アキの元に鈴鹿からの電話が入る。

「七月一日に開通するんですってね」

「んだ」

「じゃあ・・・その日に私のリサイタルを・・・」

アキはユイの現象ノートを見る。

そこには・・・7月1日(日)・・・お座敷列車大成功とあった。

ちなみに・・・8月は海女のユイ&アキお披露目。そして8月15日海女~ソニックZ開催と書いてあります。

「ええと・・・当日はバタバタするんで・・・お構い出来ねえと思います」

「じゃ・・・前日ね・・・前夜祭」

「土曜の夜の天使さ~」と大吉。

「でも・・・ママに聞いてみねえと・・・」と渋るアキ。

「大丈夫・・・春子さんには私から言っておくから・・・」

こうして・・・6月30日に海女カフェで「鈴鹿リサイタル」は決定事項になってしまった。

しかし・・・電話を切った鈴鹿ひろ美は夢見る乙女あるいはジャイアンの表情を浮かべるのだった。

あなたの愛を求めて 

今宵も

情熱の花 

胸を焦がす

ラララ・・・

金曜日 曲がり角曲がったならお金もちになれたならいいな(さかなクン)

2012年3月11日、春。七月一日の北鉄・北三陸~畑野間開通を目指し時が流れ始めていた。

そんなある日、アキは忠兵衛(蟹江敬三)の遺影が仏壇に飾られてないことに気が付く。

「夏ばっぱ・・・そういえばじっちゃん、どうしてんだ・・・地震あったのに帰ってきてないべ・・・写真ないから・・・もうすぐ帰ってくんのか・・・それとも・・・まさか・・・まさか・・・じっちゃん」

じっちゃんを忘れていたのに急に思い出してパニックに陥るアホかわいいアキ。

夏ばっぱはおもむろに仏壇からパソコンを取り出すのだった。

「うっせえなあ・・・」

「ぱしょこん?」

夏と忠兵衛はPC電話でつながっていたのだった。

地デジ対応テレビ、携帯電話に続いてメカに強い夏ばっぱシリーズ展開である。

「ポルトガルは今、夜中だぞ・・・」

「じっちゃん・・・なして・・・」

「Wi-Fi・・・」と嘯く夏だった。

そして・・・北鉄は試験運転を繰り返していた。

来るべき海開きに備えて従業員一同、フルスロットルなのである。

初夏となり・・・「潮騒のメモリーズZ」は北鉄の運行区間拡大と海女カフェの復活のメッセージを素晴らしいインターネットの世界を通じて全国に発信する。

しかし・・・肝心の海女カフェの再建はやや滞っていた。

企業からの協賛金や寄付金の総額と・・・再建にかかる費用が折り合いつかなかったのである。

「200万円くらい足りねえな」

「もう少し・・・きりつめないとな」

「しかし・・・鈴鹿さんが来た時にビールケースの上で歌わすわけにはいかなだろ」

「じゃ・・・水槽はあきらめるか」

「じゃ・・・魚代が浮くな」

「ドイツ製のシステムキッチンも贅沢じゃねえか」

「そんなら・・・エスプレッソマシーンも」

「あれ・・・花巻さんは」

「パートだろ」

「大分・・・切り詰められましたね」

「でも・・・これだと・・・リアスで歌うのと大差ねえぞ」

「・・・」

その頃、喫茶「リアス」では弥生が潮騒のメモリーを熱唱していた。

仕方なくタンバリンで師匠に付き合うユイだった。

アンニュイなユイファンのためのサービスである。

そして・・・捕獲される魚ちゃんでも、サカナクションでも、さかな先輩でも、お魚野郎でも、まして人面魚でもないさかなクン(さかなクン)・・・。

「こら・・・駅長なんてことを・・・」と大吉を叱るアホかわいいアキだった。

「でも・・・どうしてここに」

「アキちゃん、どうしてるかなって素晴らしいインターネットの世界で検索したらここにたどり着きました」

「じぇじぇじぇ」

「ぎょぎょぎょ」

「で・・・わざわざ、なんの用だ」

「海女カフェに・・・水槽とさかなクンコレクションを寄付しようと思いまして・・・」

「じぇじぇじぇ」

「ぎょぎょぎょ」

こうして・・・六月のある日・・・さかなクンはプレゼントを持って海女カフェに再び訪れる。

手作り感あふれる「海女カフェZ」はさかなクンコレクションによって華を添えられたのだった。

地元の子供たちがお絵かきして白い壁をデコレーションする。

勉さんが・・・ユイが・・・ストーブが・・・種市が・・・子供たちに混じってペンキまみれになっている。

「ユイちゃん・・・何書いてんだ」

「雲だけど・・・白い壁に白い雲だと・・・単なる二度塗りじゃんって」

「ユイちゃん・・・ここはボケなくていいぞ」

とにかく幸せで幸せでアホかわいいアキだった。

「さかなクンありがとう」

「どういたしまして」

「元通りってわけにはいかねえけど・・・逆回転大成功だべ」

「ぎょぎょぎょ」

「じぇじぇじぇ」

「アキ、何してんだ」と現れる海女装束の夏と美寿々。

「あ・・・忘れてた」

「早くしろ・・・」

その日は・・・海底の様子を探るために初潜りが予定されていたのだった。

去年はまったく消えてしまったウニがどのくらい復活しているか・・・緊張の高まる一瞬である。

水温はまだ・・・潜水には適しているとはいえない17℃だった。

「うわあ・・・ひゃっこい」

おなじみのボロボロのダイバースーツのアキは水温にアホかわいく驚くのだった。

「充分、身体を馴らしてから潜れ・・・」と指導する夏ばっぱ。

先行する美寿々先輩。

アキも潜った。

固唾を飲んで見守る夏ばっぱ。

美寿々が浮かび・・・驚きの表情を浮かべる。

続いて浮上したアキ。

「どうだ・・・アキ・・・ウニいたか?」

「大変だ・・・夏ばっぱ・・・ウニがいっぱいで・・・岩肌が見えねえくらいだ」

どよめく・・・ギャラリーたち。

「なんぼでも獲れるぞ」

アキは夏ばっぱにウニを投げた。

初めて二人が会ったあの日みたいに・・・。

アキは再び海中に消える。

夏は海の恵みを拝むようにウニを手に乗せる。

海の中でアキは稚ウニを可愛がる。

そして・・・アホかわいい人魚になるのだった。

海は機嫌を直して・・・蘇っていた。

袖が浜の磯が・・・喜びに包まれている頃・・・。

北三陸駅には・・・男と女が到着していた。

喫茶リアスは吉田が一人で留守番だった。

「あ・・・忠兵衛さん・・・帰って来たんですか・・・」

「おう・・・」

もう一人は濃い目のサングラスをかけた黒いドレスの女だった。

「ご注文は何にします・・・」

「ウニ丼くれ」

「あ・・・私も・・・」

「残念・・・最後の一つなんで・・・じゃんけん大会で決めてください」

「えー・・・」

「最初はグー、じゃんけんポン」

「ようし・・・勝ったぞ・・・」

「ずるい・・・今の後出しよ」

思わずサングラスを取る女。

「す・・・鈴鹿・・・しろみ・・・」

「誰が・・・白身魚だって・・・」

吉田はウニ丼を鈴鹿ひろ美にさし出すのだった。

「なにすんだ・・・わらしっ」

「カ・イ・カ・ン・・・」

夏ばっぱのうに丼に溺れる鈴鹿だった。

相当 

幸せ 

感じた

土曜日 ここかと思えばまたまたあちら浮気なひとね(薬師丸ひろ子)

2012年6月18日・・・鈴鹿ひろ美、北三陸駅に現る。

ウニの試験漁を終えたアキに吉田からの一報が飛び込む。

うに丼を食べそこなった忠兵衛は冷酒をあてがわれていた。

鈴鹿ひろ美は御満悦である。

喫茶リアスに大吉と種市と保がやってくる・・・。

「じぇじぇじぇっ・・・」

「駅長さん、種市くん、お久しぶり・・・こちらは・・・」

「か、観光協会のた、保です」

「天野さんは・・・」

「アキちゃんは今、こっちに向かってます」

「なんだ・・・おめえ・・・アキの知り合いか・・・」

「ええ・・・昔、付き人やってもらってたんで・・・」

「あ・・・おめでた弁護士・・・おめえ・・・女優かっ」

「だから・・・さっきからそう言ってます」

「夏さんだって知ってますし・・・なにしろ、夏さんと橋幸夫を引きあわせたのは私なんですから」

「あ・・・鈴鹿さん・・・」

「そ、それは・・・」

「この人、夏さんの御亭主です」

「じぇじぇじぇ」

笑いに包まれる天野家。

一人、忠兵衛が拗ねている。

「笑いごとじゃねえ」

剣幕におびえる鈴鹿だった。

「亭主のいねえ間に浮気するなんてとんでもねえ・・・家さ出てけ」

「おらがこの家出たら・・・この家、空き家になっちまうぞ」

「あっはっは・・・こりゃ、忠兵衛さん一本とられたな」と組合長。

「皆さん・・・お元気そうで・・・何よりです」

「ははは・・・この辺も何人か死んでしまい・・・こちらの家も流されたりしましたが・・・生き残ったもんはせめて笑って生きて行こうと覚悟を決めてます」

夏の言葉に顔色を失う鈴鹿。

「しかし、忠兵衛さん・・・もっと早く帰ってくればよかったのに」とかつ枝(人間)・・・。

「いや・・・無線で連絡とってたから」と亭主を立てる夏ばっぱ。

「馬鹿くせえ・・・津波で陸のもんが難儀してるところにおらが帰ってどうする。せっかく海にいたんだ・・・海で銭稼いで、稼いだ銭で陸のもんを助けるのが海の男ってもんだべ」

「かっけええええええ」と笑顔を輝かせる鈴鹿だった。

美人女優の賞賛の声にたちまち機嫌を直す忠兵衛だった。

そこへ・・・ユイちゃんがやってくる。

「おらの相棒のユイちゃんだ」

「いやいやいや・・・・あたしなんか・・・もう」

しかし・・・次の瞬間、鈴鹿ひろ美を独占するユイだった。

「ですよね。おめでた弁護士シリーズも第五話までが最高でひかる一平から柳沢慎吾にパートナーチェンジしたあたりから・・・ちょっと話がよれてきたっていうか、出産人数も現実離れしすぎっていうか・・・」

「そうそうそうそうなのよーっ」

「・・・というわけで今、ユイちゃんと鈴鹿さんが熱く語り合ってるぞ」

「なんで・・・鈴鹿さんが袖が浜にいるのよ」と電話の向こうの春子。

「ええっ」と電話の向こうで驚く正宗。

「なんでも・・・前ノリして気分を作るんだと」

「前ノリって・・・早すぎでしょ・・・」

「とにかく・・・そういうわけで鈴鹿さんは北三陸に来ているのでした。天野家から天野アキがお届けしましたーっ」

「って・・・アキ・・・酔ってるの・・・あ・・・切れた」

「春子さん・・・」

「飛べないトリがまた一人・・・北へ逃げてったのよ・・・」

その夜・・・秘密の部屋で目を開けたままアキが熟睡していると・・・。

「天野さん・・・加湿器ないかしら・・・天野さん」と鈴鹿が二階に上がってきて・・・秘密の部屋へ転がりこむのだった・・・。

そこは・・・1984年で時が止まった世界であった。

「なに・・・これ・・・な、懐かしい・・・あ・・・ひかる一平」

「鈴鹿さん・・・起きてたのか」

「ここ・・・なによ」

「ママが高三まで住んでた部屋だ」

「春子さんが・・・」

「おらも高三の夏までここで住んでたぞ」

「そうなの・・・」

「ママはここで・・・オーディションの履歴書書いて送ってたりしたんだって」

蘇る・・・春子の青春。

「趣味は音楽鑑賞とテレビを見ることです。好きなアイドルは松田聖子ちゃんです。あなたの色に染めてください・・・うふふ・・・これ・・・合格だわ・・・合格ーーー」

ベッドで感極まるヤング春子。

「でも・・・そうやって夢を追いかけて・・夢を叶えられるのは・・・鈴鹿さんみたいな一握りのスターだけなんだべ」

鈴鹿は・・・砂に埋もれ、色あせた「潮騒のメモリー/天野アキ」のジャケットをそっと撫でる。

そこには・・・なにか・・・鈴鹿の求めるものがあったらしい。

「ねえ・・・天野さん・・・今日から・・・この部屋で寝ていいかしら」

「でも・・・狭いぞ・・・ホテルに部屋とった方がいいんでねえか」

「いいえ・・・この部屋でいいの・・・いえ・・・この部屋がいいのよ」

そして・・・翌朝・・・加湿器は持参しなかったがジューサーは持参した鈴鹿ひろ美恒例の鈴鹿ひろ美スペシャルのドリンクタイムがやってくるのだった。

おそろいの寝ぐせで勢ぞろいする天野トリオである。

「鈴鹿さん・・・私、67年間朝はごはんと決めて・・・」

「ほい」

「うえ・・・やっぱり飲まなきゃなんねえか」

「ほい」

「あんた・・・魔女か・・・」

「ほい」

「うわああああああああああ」

「おりゃあああああああああ」

「しえええええええええええ」

海女カフェを視察に訪れた鈴鹿ひろ美・・・。

「ねえ・・・勉さん・・・今日は・・・水口さんは・・・」

「ああ・・・さっきまで水槽のところに・・・うわ・・・鈴鹿・・・ひろ美」

水槽の向こうで水口は絶句していた。

「なんで・・・挨拶なしなのよ」

「す、すいません」

「なんだ・・・水口さんも・・・ばっくれなのか」と親近感を感じる種市。

「なんか・・・面倒くさくて・・・でも・・・メールはしました・・・」

水口、こだわりのゆとり設定である。

種市、水口とばっくれているわけだが・・・もちろん・・・鈴鹿本人もばっくれなのである。

とにかく・・・三つそろえるのが基本なのだった。

つまり・・・曲がりなりにも帰郷に際して挨拶回りをしたアキは「神」なのだった。

しかし、ステージに立った鈴鹿は「売上は地域復興に役立ててください」と宣言するのだった。

夜ふけになったら あなたの部屋へ 

しのんで行くよセクシー あなたはセクシー

私はいちころでダウンよ

もうあなたに あなたにおぼれる

喫茶「リアス」で・・・鈴鹿ひろ美を囲む男たちと安部ちゃん。

「そうかあ・・・春子さんも人気者だったのね」

貸出自由の保と春子の交換日記を読む鈴鹿。

「安部ちゃんも同級生なんです」

「いやだあ・・・学園のアイドルと比べたら・・・おらなんて給食のスパゲティーミートソースに間違って入った輪ゴムみたいなのものだ」

安部ちゃん、渾身の自虐ネタに爆笑する鈴鹿だった。

「まあ・・・天野家の女は三代続けて北三陸のアイドルです」と大吉。

「そうなんだ・・・」

「夏さんは海女クラブの初代会長だし、春ちゃんは北三陸一のスケ番だし、アキちゃんはなんてったって鈴鹿さんと共演までしたし・・・」

「そうかあ・・・代々のアイドルの家系だったんだ・・・」

「では・・・北三陸名物・駅長のゴーストバスターズでも聞いてください」

「いやいやいや・・・鈴鹿さんのカラオケも聞きたいなあ」とおねだりをする吉田だった。

「あら・・・そう・・・いいですよ」とまんざらでもない感じでマイクの前に立つ鈴鹿。

流れ出す・・・「潮騒のメモリー」のイントロ。

突然、脱兎のごとく飛び出すアキだった。

「あぶねーっ」

「あら・・・」

「だめっ」とアキに叱られてうなだれる鈴鹿。

アキは水口を叱咤する。

「だめでねえか・・・支社長・・・ちゃんと仕事してけろ・・・」

「あ・・・」と事態にようやく気が付く水口。北三陸ボケである。

三人以外は事情が分らず唖然とするのだった。

もちろん・・・鈴鹿ひろ美が歌うにせよ・・・歌わないにせよ・・・それは最終週のお楽しみに決まっているのである。

そして・・・北三陸には太巻までもがやってくるのだった。

「ああ・・・正宗くん・・・今、北三陸駅に着いたところ・・・スナック梨明日と喫茶リアスがあるんだけど・・・どっち・・・中でつながってる・・・意味分んない・・・」

そこで太巻は看板を「よいしょっ」と持ち上げる美少女を目撃する。

看板を店内に運び込むユイだった。

「ああ・・・今、ちょっとボーっとした・・・うん・・・一回、外に出るね」

太巻がスナック側の入り口に向かった頃、ユイがドアを開けて周囲を窺う。

ユイが太巻を見逃すことはあり得ないのである。

「今、確かに・・・太巻が・・・」

すべては最終週につづくのだった。

そして・・・始った予告編で・・・すでに涙が止まらなかった人は多いはずだ。

やはり・・・さよならだけが・・・人生なのか。

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2013年9月21日 (土)

夏の夜の震撼~悪霊病棟(夏帆)

恐怖は不安から絶望にいたる途中経過である。

不安には様々な予兆がある。天国と地獄では地獄の方が不安を感じさせる。明朗活発であるよりは陰湿愚鈍に対して不安は増大する。健康よりも不健康が不安であり、食欲旺盛よりも食欲不振が不安なのである。日当たりが悪い方が不安であり、人里遠い方が不安である。人通りは少ないほど不安であり、見知らぬ土地ほど不安ということになる。

旅行中の案内人の態度が不審であれば不安になり、案内人が失踪すれば不安は募る。案内人が死体で発見されればもはや不安というレベルではない。

絶望を感じさせる予感は間接的な恐怖である。

死霊が大量に発生した街では火災の黒煙が空を焦がすのが遠望できる。死体の山が築かれて往く手をふさいでいる場合、反対側には怪物が潜んでいる可能性がある。沼地から鳥が急に飛び立つのは半魚人が浮上する前触れである。動物が迅速に逃げ出してくるのは悪鬼が突然、襲ってくる兆しと言える。

恐怖によって足がすくめば、絶望はすぐそこにある。

死霊の集団が徒歩で接近してくる場合は凄惨な足音がする。運転技術のある死霊が接近する場合や、幽霊自動車、幽霊機甲師団などの存在は猛烈なエンジン・ノイズを響かせる。骨が噛み砕かれる音がすれば食人屍が食事中である。奇怪な咆哮が絶え間ない時は醜悪な怪物の巣が間近いと言えよう。

吸血鬼の下僕が主人の留守を告げる時、背後には夕闇が迫っている。魔物が地下から襲いかかるのは断崖絶壁へと追いたてるためである。屋上のヘリポートは目の前でヘリコプターが着陸失敗するためにある。煙がたちのぼるのは地獄の業火が炎上する気配である。毒蜘蛛の群れが追いかけてこないのは前方に毒蛇の群れが待ち構えているからである。

低い所から高い所に昇るのは人々が天国を渇望するからである。しかし、階段には果てがあり、エレベーターは停止し、高層ビルは死地である。

パラシュートに穴が開いているのを確認した時、スカイダイビングの不安は絶望に変わる。

恐怖はその間隙にそっと存在する。

で、『病棟~第9号室』(TBSテレビ201309200058~)脚本・鈴木謙一(他)、演出・鶴田法男を見た。父親の辰夫(嶋田久作)から母親が霊能力者で祓い師だったと聞かされた琉奈(夏帆)は母親の形見の深紅の勝負服を手に入れるのだった。一方で琉奈の霊能力を利用した悪霊・キヌは隈川病院に「黒い歯の病の呪い」を蔓延させる。亡霊に噛まれたものは呪いに感染し、新たなる犠牲者を求めて歯を黒く染めるのだった。医者も看護婦も患者も患者の家族や見舞客も次々と歯を黒く染めていく。逃れるためには感染者を拘束し隔離するしかないのである。

汚染されていないものは感染者を抑えつけ・・・縛り上げるのだった。

ゾンビ史上最弱のゾンビの誕生に苦笑を禁じ得ないのだった。

なにしろ、「うがあっ」といいながら・・・凶悪な感染者はタオルなどで簡単に拘束されてしまうのである。噛みつき攻撃を防御するのはそんなに簡単なことではありませんから。

なんて・・・間抜けな悪霊なのだろうか。

ディープキスによって琉奈の上顎に突起物の発生を確認した研修医の朝陽(大和田健介)は三流ディレクターの斑目(鈴木一真)に相談するのだった。

「どうしよう」

「どうしようと言われてもな」

「このままでは・・・琉奈の力を手に入れたキヌの呪力が高まりまくりなんだ・・・」

「そう言えば・・・部外者なのに・・・旧病棟の隠し部屋を知っていた人がいたな」

「なんで・・・凄い秘密なのに・・・」

「その人の母親が・・・病院の関係者だったらしい」

「すぐに会いに行きましょう・・・とにかく我々には手掛かりが少なすぎる」

その頃、病院には黒い歯病の患者が多数発生し、感染拡大阻止の戦いが展開されていた。

「主任・・・病院を封鎖しましょう」

「主任・・・警察に応援を頼みましょう」

「主任・・・保健所に報告しましょう」

「と、とにかく・・・院長に相談してみる」

木藤主任(森脇英理子)が向った院長室で院長(春田純一)はボーッとしている。

「院長・・・御指示を・・・」

「君には人が殺せるか・・・」

「何をおっしゃっているんですか」

「この怪奇現象を終息させるためには呪力の源である尾神琉奈を殺すしかないんだ」

「そんな・・・」

「君が殺してくれると助かるんだが・・・」

「なんで・・・私がやらなきゃいけないんですか」

「院長命令だ・・・」

「そんな命令・・・くそくらえですよ」

「・・・」

「私が・・・すごくこわがりで・・・臆病なので・・・みんなを旧病棟に行かせたからこんなことになったんです・・・私・・・旧病棟に行って責任とってきます」

「何を言ってるんだ」

どうやらみんなおかしくなってしまったらしい・・・さもなくば脚本家が発狂しているのだな。

「子供の歯が黒いんです」

「チョコを食べたの」

「茶色じゃなく黒いのよ」

「じゃ・・・イカスミを・・・」

「ふざけないで」

「こんな・・・色かしら」

口を開いたナースの歯は暗黒。

「きゃー」

「とって・・・とって・・・子供をおんぶしたらかみつかれて」

「みんな・・・タオルを持って・・・患者を縛るのよ」

「噛みつかれないように気をつけて」

「噛まれちゃいました」

「うつ伏せに押し倒して頭を踏みつけて・・・後ろ手に縛って・・・それから足首を縛るんだ」

「そんな・・・格闘技のプロみたいなことはできません」

「ガムテープを貼っちゃえば」

「それだ・・・」

「唾液が目にはいりました」

「飛沫感染するのでは~」

「幽霊は拘束できません」

「きゃあ」

「ひええええええええ」

「うげっ」

隠し部屋の秘密を知る田野辺という初老の女性を訪ねる朝陽と斑目。

「なぜ・・・秘密を」

「私の母は・・・あなたのおじい様の愛人だったのです」

「ええっ・・・」

「母の話では・・・キヌと戦った祓い師は・・・霊界にいるキヌと決着をつけるために自ら霊界に旅立ったそうです」

「霊界って・・・死後の世界のことですか」

「さあ・・・大霊界のようなものじゃないかしら・・・」

「じゃあ・・・やはり、死後の世界は必ずある!じゃないですか」

「お・・・丹波さんのものまね、うまいな」

「とにかく・・・私も母に聞いた話だから・・・」

「どちらにしろ・・・琉奈が死なないとキヌの呪いが解けないなんて・・・そんなの嫌だなあ」

「愛なんだな」

「すると・・・あなたは父の異母兄妹なんですか」

「残念でした・・・私は母の連れ子なのよ」

「そんなのどうでもいいじゃないか」

その時、ナース鈴木(川上ジュリア)から緊急呼び出しがかかる。

「どうした」

「急患です・・・っていうか、もはやゾンビランドです」

あわてて駆けつける二人が見たものは・・・黒い歯病の患者とそれ以外のものの死闘だった。

「なんじゃ・・・こりゃ」

「気をつけて・・・噛まれると一瞬で発病します」

「潜伏期間はないのか」

「あったりなかったりです」

「これは・・・感染症なのか・・・それとも呪いなのか」

「そんなことどうでもいいじゃないですか」

「きた・・・」

「タオルか・・・ガムテープをもってください」

「動きが鈍いのか」

「早いのもいます」

「うわあ・・・気持ち悪い」

「とにかく口にガムテープが貼れたらこっちのもんです」

「どんなゲームなんだよ・・・」

「君はよく平気だったな」

「一度噛まれてるんで免疫があるみたいです」

「なるほど・・・再感染はしない呪いなのか」

「でも・・・このままじゃ・・・多勢に無勢です」

「なぜ・・・魔物たちは院外に流出しないんだ」

「外に出ると呪力が弱まるんじゃないですか」

「うわあ・・・また来たよ」

「ナースやドクターも感染してるのか」

「もう・・・ほとんど感染してます」

「じゃ・・・ダメじゃないか」

そこへ・・・赤い勝負服の琉奈が颯爽と・・・猫背で現れる。

琉奈が感染者にお守りをかざすと・・・呪いは解けるのだった。

「琉奈さん・・・」

「私は・・・赤の祓魔師なのです」

「インチキ霊能者みたいだな・・・」

エクソシスト琉奈とナース伊藤の紅白コンビはたちまち・・・感染者を駆逐するのだった。

「主任は・・・」

「旧病棟に・・・」

「やはり・・・直接対決するしかありません」

「琉奈・・・」

一同が旧病棟に向かうと・・・玄関に佇む院長。

「父さん・・・」

「琉奈・・・死んではくれないか・・・そうするしか・・・この病院にかかった呪いを解くことはできない」

「何を根拠に言ってるんです」

「実は・・・お前の祖父さんはなあ・・・この病院を受け継いだんじゃなくて・・・のっとったんだよ・・・そりゃあ、悪い男でな・・・前の院長を殺して・・・呪われたんだ。キヌは殺された院長の奥さんだよ。親父はキヌもその子供も・・・おそらく殺したんだ。それで呪われたんだよ・・・だから人身御供を捧げるしかないんだ」

「狂ってやがる・・・」

「琉奈・・・行くな」

「琉奈・・・行きます」

猫背の赤のエクソシストは禍々しい気に満ちた旧病棟へこそこそと足を踏み入れるのだった。

もう、妄想で凌ぐしかないな・・・。

関連するキッドのブログ→第8話のレビュー

シナリオに沿ったレビューをお望みの方はコチラへ→くう様の悪霊病棟

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2013年9月20日 (金)

キスすると欲望や妄想のまなざしで見られなくなる魔女(小林涼子)

好きな人とそうじゃない人で差別するのが人間の基本である。

特に「はずかしいこと」ほど「好きな人」と共有したいわけである。

昔は基本的に「女子」にその傾向がつよかったわけだが、男女雇用機会均等法以後は男女格差は是正の傾向にある。

とはいえ・・・誰とでも「はずかしいこと」をしたいという欲望も人間にはつきものである。

昔は基本的に「男子」にその傾向がつよかったわけだが、男女雇用機会均等法以後は男女格差は是正の傾向にある。

しかし、妄想の世界では時に・・・古きよき昔を再現する場合がある。

「いやらしい視線で見られたくない」し、「誰にも支配されたくない」女子が、特定の男性だけには「いやらしい視線で見られたい」し、「彼の奴隷になりたい」のである。

もちろん・・・基本は男子の欲望する妄想だけどね~。

それにしても小林涼子(23)・・・堂々たるなんちゃって女子高校生ぶりである。しかも、クールでいやらしい上級生役なのである。かわいい顔してババンバーンなのであるな。

「砂時計」(2007年)や「魔王」(2008年)のヒロインが・・・大人になって帰ってきました・・・って感じ?

キスはしまくる男は吊るすの大サービスである。

このドラマのデストロイヤーぶりも半端ないな。

で、『山田くんと7人の魔女・第6回』(フジテレビ201309142310~)原作・古河美希、脚本・小川真、演出・星護を見た。朱咲高校には七人の魔女が存在するという伝説があるらしい。その能力はキスによって発動するという少年マンガならではの設定である。これまで判明した魔女は・・・第一の魔女・入れ替わり(人格双転写)の白石うらら(西内まりや)、第二の魔女・虜(支配的洗脳)の小田切寧々(大野いと)、第三の魔女・テレパシー(精神感応)の大塚芽子(美山加恋)、第四の魔女・過去視(傷心記憶転写)の滝川ノア(松井愛莉)、第五の魔女・未来視(予測記憶転写)の猿島マリア(小島藤子)の五人。魔女の能力をコピーする男魔女・山田くん(山本裕典)は魔女としてはカウントれないらしい。

「彼の未来なんて見たくない」というマリアの願いを叶えるために・・・ノアが見たという「魔女の能力を封じる魔女殺し」の情報を求めて「魔女伝説ノート」を所持する生徒会長・山崎(徳山秀典)にアタックする山田くん。

「魔女殺しの秘密を教えてくれ」

「なんのことを言っているのか・・・わかりませんねえ」

「こうなったら・・・手荒な事をしても白状させてやる」

しかし・・・山田くんの前に最強の秘書・飛鳥美琴先輩(小林涼子)が立ちはだかるのだった。

山田くんのとび蹴りを股間部キャッチで受け止める実力者である。

山田くんのヤンキー殺法を封じ込める格闘技の達人である飛鳥先輩は山田くんを一瞬で悶絶させるのであった。

気がついた山田くんは縛られて吊るされているのたった。

「うわあ・・・お仕置きされちゃうんですか」

「言うこと聞かない悪い子はねえ・・・」

山田くんを裸にして乳首を抓りあげる勢いの飛鳥先輩だった。

「そんなあ・・・」

期待に膨らむ山田くんの股間を咥えこむ勢いの飛鳥先輩だった。

「二度と会長に失礼な真似をしないと誓いなさい」

「いやだあ・・・」

そこで・・・みぞおちに百連発を叩きこもうとした飛鳥先輩をカニバサミで抱きこむ山田くん。

入れ替わり能力を所持中なので・・・飛鳥先輩と入れ替わろうとキスをするのだが・・・。

入れ替わらない。

「あれれ」

「あなた・・・私が見えるの・・・」

謎の言葉を飛鳥先輩が発した時に小田切と腰ぎんちゃくの五十嵐(間宮祥太郎)が入室。

「まあ・・・大胆なプレイですわね」

「見てはなりません~」

宮村(井出卓也)もやってきてなんとか・・・難を逃れる山田くんであった。

超常現象研究部で疑問を口にする山田くん。

「キスしても入れ替わらなかった・・・」

「じゃ・・・飛鳥先輩は魔女じゃないか」

さっそく、非魔女の伊藤雅(トリンドル玲奈)が確認のためのおためしキス。

すると・・・伊藤雅には山田くんが見えなくなってしまうのだった。

第六の魔女はキスした相手に対して透明人間になれる能力(検閲的記憶障害設置)を持っていたのだった。

透明人間は少年マンガの・・・もういいか。

ここまでの魔女の能力はすべて記憶についての魔法であることが分かる。

すべて一種のマインド・コントロールなのである。

未来予知も変更が可能であることから・・・未来予測という記憶の一種にすぎない。

山田くんはうららと入れ替わり・・・飛鳥先輩に接近する。

「先輩だって・・・好きな人とキスしたら・・・相手から見えなくなるんじゃ・・・困るでしょう・・・魔女殺し捜しに協力してくださいよ・・・」

「私はいいの・・・彼は私がいないと・・・なんにもできない人なんだから・・・」

彼とは・・・生徒会長山崎だった。

しかし・・・会長の寝顔を見てつい・・・キスしてしまう飛鳥先輩。

だが・・・会長の前から消えない飛鳥だった。

何事かに気がついた会長は・・・飛鳥に書記の猪瀬(永江祐貴)とキスするように命じる。

凌辱プレーである。

しかし・・・飛鳥の能力は消えていた。

今度は会長が飛鳥と濃厚なキスをして・・・再度、飛鳥に猪瀬とのキスを命ずるのだった。

痛む心を制して凌辱ゲームなキスをする飛鳥。

今度は猪瀬の前から飛鳥が消えていた。

会長は魔女の能力をオンにしたりオフにしたりできる「魔女殺し」スイッチだった。

「なるほど・・・」と納得する会長だった。

その頃・・・マリヤとキスした山田くんは見たくない未来を見る。

猪瀬が生徒会長になり・・・うららがその秘書になった上・・・山田くんを無視する未来。

あまりの哀しい未来に涙がとまらない山田くんだった。

一方で伊藤雅はうららに・・・宮村虎之介は生徒会のスパイではないかと言い出す。

まあ・・・そんなことを言い出した人がスパイなのが基本である。

第7の魔女は記憶操作の能力を持っているらしい。

はたして・・・山田くんは・・・嫌な未来を描き変えることができるのか・・・。

残り二回なのでおそらく・・・来週は鬱回ですな。

関連するキッドのブログ→第5話のレビュー

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2013年9月19日 (木)

天国の毒と地獄の薬(小泉孝太郎)

黒澤明監督の「天国と地獄」(1963年)では丘の上の豪邸と港町のスラムがタイトルが示す対比のシンボルとなっている。

ドラマ「名もなき毒」は「天国と地獄」とは直接的には無関係だが、今多コンツェルングループの会長の娘である菜穂子(国仲涼子)と庶民の杉村三郎(小泉孝太郎)の結婚がそのニュアンスを醸しだすのである。

登場人物たちは大なり小なり、その結婚に対して・・・キリスト教における「七つの大罪」のうち・・・最後の罪とされる「嫉妬」を感じるわけである。

杉村三郎の母親はこの結婚に反対し・・・「息子は死んだ」と宣言する。

結婚の条件として今多コンツェルングループ広報室勤務を命じられた杉村三郎は全社員からある程度の距離を置かれる。

そして・・・物語の中で最高のモンスターである原田いずみは「杉村の家庭が存在することが許されないことだ」として三郎と菜穂子の愛娘・桃子(矢崎由紗)に包丁を突き付けて人質にとるのである。

「殺人」についての定義を常に模索する原作者は・・・ついに「殺人は人間の誰もが持つ最高の権力」だという結論に達する。

しかし、復讐による殺人は「殺されたから殺すのでは意味がない」と含みを残すのである。

当然、その先には「殺される前に殺せ」が存在するわけだが・・・その点については寸止めで言及を避けるのだった。

まあ・・・三郎は七つの大罪の中核である「憤怒」に囚われて、いずみをゴキブリのように叩き殺しかけるのであるけれど。

で、『月曜ミステリーシアター・名もなき毒・第5~最終回(全11話)』(TBSテレビ201300805PM8~)原作・宮部みゆき、脚本・神山由美子、演出・金子文紀(他)を見た。『誰か Somebody』編が終結し・・・姉と妹の不毛な関係に終止符が打たれる。バカが付くほどお人よしの杉村三郎は二度と他人のトラブルに関わるのはやめようと心に誓うのであるが・・・それでは作品が成立しないので・・・三郎は否応なく事件に巻き込まれ・・・結局、苦い気持ちを味わうことになるのだった。所謂一つのバカは死ななきゃ治らない展開である。

平均視聴率は*9.3%で「半沢直樹」に三倍以上負けているわけだが・・・キッドは内容的にはこっちの方が二倍半くらい楽しめた。だからといって「半沢直樹」に熱中している人を馬鹿にするつもりはありません。人間なんて人それぞれですからなあ。

事件はいくつかの起っているのだが・・・大きく分けて連続無差別毒殺事件と今多コンツェルングループ広報室社内報「あおぞら」の編集アシスタント・原田いずみ(江口のりこ)の果てしなき憤怒の暴走である。

連続無差別毒殺事件は首都圏のコンビニのジュースに青酸カリが混入され、四人の死亡者を出す。第一と第三の犯行は未成年者が自殺用の毒を効用を検証するために行った犯罪で第二の犯行は便乗した保険金殺人事件であった。第四の事件は遺産相続が絡んでいると地元警察が独自の捜査を展開中だった。

殺されたのはモロボシダン似の老人・古屋明俊(森次晃嗣)で、犬を連れての散歩中にコンビニでウーロン茶を買って歩きながら飲み、中毒死するのだった。

明俊には愛人の奈良和子(烏丸せつこ)がいて、全財産を和子に残そうとしたために一人娘のシングルマザー・暁子(真矢みき)と口論になっていたのである。

コンビニ「ララ・パセリ」の店長・萩原弘(斎藤歩)が暁子の元・交際相手だったことで嫌疑は深まる。

一方、今多コンツェルングループ広報室ではアシスタントの椎名遥(岡本玲)が留学のために退職し、激しい競争率を勝ち抜いて原田いずみが採用されてしまう。高校中退の学歴を大卒と詐称し、前の勤務先でトラブルメーカーとなり、年齢さえ30歳なのに26歳と偽っている女を採用する広報室一同・・・どんだけ見る目ないんだよ・・・。

まして・・・会長の孫の婿がいる部署である。セキュリティー上ありえないわけだが・・・そんなことを言っては規格外のモンスターいずみに失礼なのである。遅刻早退は当たり前で一週間の無断欠勤の上、注意した編集長(室井滋)には文房具を投げつけて負傷させ、先輩の手島(ムロツヨシ)のセクシャル・ハラスメントの冤罪を申し立てる。事態の処理を申しつけられた三郎は・・・いずみの前の勤務先を訪ねることになる。

そこで・・・いずみの悪行三昧を聞かされた三郎は・・・事態収拾に功のあった元警察官の探偵・北見一郎(大杉漣)を紹介されるのだった。

そして・・・そこで・・・近所に住む古屋暁子の娘・美知香(杉咲花)に出会ってしまうのだった。

母親との確執により・・・摂食障害に悩む美知香の憐れさに・・・三郎のお人よしモードが発動するのである。

「放ってはおけない・・・」のだった。

だから・・・それが・・・まずいんだろうがっ。

「げんだいずみの前の職場だった編集プロダクション・ハードアクトの社長の沼田さん(新井康弘)からこちらを紹介されてきました」

「私のようなものにあなたのような方が無暗に名刺を渡すものでありません」

「しかし・・・あなたは沼田さんに信用されているようでした」

「彼や私が嘘をついているのかもしれませんよ・・・」

「今のお譲さんは・・・」

「近所の人なのですが・・・未成年なので依頼主にはなれないのです・・・ご用件は?」

「げんだいずみをどう思われますか・・・」

「普通でしょう」

「普通・・・しかし」

「あなたは普通の人とはどういう人だとおもわれますか」

「他人には迷惑をかけないで・・・独り立ちしている人間と言いますか・・・」

「あなたも私もそうでしょう。そしてそういう人間は立派な人間と言えます」

「はあ・・・」

「あなたは可愛い子供がいたら頭をなでたくなりますか」

「ええ・・・」

「ゴキブリは叩き殺せますか・・・」

「・・・なんとか」

「そういう人間は立派な人間です」

「しかし・・・ゴキブリの頭をなでる人間も、可愛い子供を叩き殺す人間も今は普通の人間と言えます。つまり・・・普通の人間の許容範囲が拡大したのです」

「・・・」

「げんだいずみにはかかわらないことです。ちなみに・・・彼女の両親は彼女から逃げ出しました・・・それほど恐ろしい普通の人間なのです」

「・・・」

「しかし・・・もうおそいかもしれない・・・あなたは目をつけられているかもしれない」

「私は・・・特に・・・彼女には・・・あなたの立場そのものが・・・すでに彼女の怒りの対象なのですよ・・・お分かりになりますでしょう」

「・・・」

帰り道、貧血で倒れた美知香を救助してしまう三郎だった。

そのために・・・古屋明俊殺害事件にも巻き込まれてしまう三郎だった。

母親の暁子が祖父を殺したのではないかと疑って精神失調が悪化した美知香を放ってはおけないからである。

三郎の愛妻・菜穂子は優しすぎる夫を危惧するのだが・・・それを美点と感じているので大目に見るのだった。

やがて・・・美知香は広報室にまで顔を出すようになる。

喫茶「睡蓮」のマスター水田(本田博太郎)もいたいけない美知香を気に入るのだった。

「夜行観覧車」で唐揚げ地獄を味わったので美知香は家庭内暴力控えめなのだった。

広報室には詐偽で留学できなかった椎名が出戻り、さらに有名なジャーナリスト・秋山省吾の従妹の五味淵まゆみ(中西美帆)がコネ入社し・・・にぎわうのだった。

人々の「幸福」が絶対に許せないげんだいずみは逆上するのだった。

そして・・・広報室のミネラルウオーターに睡眠薬を投入する。

「わらしなんらかあらまがいらい・・・」と出されたコーヒーを飲んでしびれる美知香。

外出中の手島以外、広報室は全滅するのであった。

「うわ・・・なにこれ・・・どんなモンスターがきたのかな・・・ヨシヒコ、ムラサキ・・・助けて」

幸い・・・命に別条がなかった一同。

病院に駆けつけた妻に「大げさだなあ」と呑気な夫。

「あなた・・・これは刑事事件なんですよ・・・」

「え・・・」

この期に及んで・・・自分に優しさが足りなかったから・・・こんなことになったのではと反省する三郎だった。

やがて・・・美知香は三郎の家にも遊びに来るようになった。

二号の娘でシングルマザーに育てられた菜穂子は美知香に親近感を抱いていたのだ。

似たもの夫婦である。

新居のお庭のプールで・・・水遊びに興ずる桃子。

もちろん・・・そんな「幸福」を放置しておけるげんだではないのである。

げんだは過去に兄の幸せな結婚が許せなくて披露宴て「おにいちゃんにやらしいことをされました」とスピーチし・・・花嫁を自殺に追い込んだこともある怪物なのである。

指名手配中のげんだは「森の熊さん」を歌いながら赤いバラを持って三郎の新居に向かう。

その頃、主人公特権で・・・和子の自殺によって一件落着しかけた古屋明俊殺害事件の意外な犯人にたどり着いた三郎。

犯人は・・・「ララ・パセリ」店員で寝た切りの祖母を介護しつつ、自身もぜんそくで苦しみ、出口のない貧困にあえぐ・・・青年・外立研治(君嶋麻耶)だった。ここが「罪と罰」からの「身代金」からの「天国と地獄」からの・・・「名もなき毒」である。

同行した秋山とともに・・・研治の自白を引き出す三郎だった。

「どうして・・・そんなことを・・・」

「ばあちゃんを殺そうとしたんです・・・でもできなかった・・・すごく腹がたって・・・だれでもいいから・・・毒をのませたくなりました・・・だって・・・僕には・・・なにもいいことがなかったから・・・なにをしたっていいと思ったんだ・・・でも・・・誰かをころしても・・・いいことはなかった」

「誰か・・・君を止めてくれればよかったのにな・・・たとえば君に毒を売った相手とかがさ・・・ま、普通、そういう人間は毒を売らないわけだけど・・・」

その時・・・菜穂子から・・・緊急連絡が・・・。

「うっかり・・・花が・・・げんだで・・・桃子・・・助けて・・・花のお届け・・・ナイフで・・・桃子・・・あなた・・・こわい・・・あなたを呼べって・・・桃子・・・人質」

「落ちついて・・・落ち着いて」

殺人犯と一緒にタクシーで自宅に戻る三郎。

キッチンに桃子をつれてたてこもるゲンダイヅミ・・・。

「桃子を返して下さい」

「あやまりなさいよ」

「何について・・・あやまれば」

「あんたが存在していることをよ・・・幸せで・・・笑って・・・頂点で・・・人を見下して・・・ふざけんなふざけんなふざけんな」

公衆電話の受話器をガンガン連打するように桃子をナイフで連打しそうなゲーンダイヅーミである。

「ごめんなさい」

「全財産よこしなさいよ」

その時・・・研治が割って入る。

「やめてあげたらどうですか」

「あんた・・・だれよ」

「人殺しです」

「なに・・・いってんの」

「ほんとうです・・・これから警察に行く所でした・・・一緒にいきましょう」

「バカなの」

「人をころしても・・・いいことはありませんよ」

「いいことなんて・・・ないわよ・・・そんなのきまってるじゃない・・・いいことがあればこんなに嫌な気分になるわけないでしょう」

「いいことは・・・ありますよ・・・一瞬ですけど」

「うるさい・・・うるさい・・・うるさい」

殺人者がGIの気を引いている間に窓から桃子を救助する三郎。

「くそやろおおおおお」と刃物を振り回すGに・・・突っ込む三郎。

刃物をとりあげるとGの後頭部を壁にガンガンと叩きつける三郎だった。

「死ね・・・死ね・・・死ね」

ガン・・・ガン・・・ガン・・・ガン・・・ガン・・・。

「やめなさい・・・死んじゃうぞ」と秋山が三郎を制止する。

「これが・・・殺意か・・・僕にもあったのか・・・」と驚く三郎だった。

こうしてGは捕獲されたのだった。

会長の孫を守ったことで三郎は会長におほめの言葉をいただくのだ。

「ことがおこるまえになんとかするのが理想だが・・・そんなことができるなら警察はいらないからな・・・ことなきをえたならそれでいい」

事件を聞き・・・かつ枝じゃなかった三郎の母(木野花)が・・・久しぶりに電話してくる。

「しっかりしないと・・・あんた、捨てられるよ」

母の優しさに涙する三郎だった。

殺人犯の祖母は近所の気のいい組合長じゃなかったコンビニのオーナーだった萩原運送社長(でんでん)が面倒を見るのだった。

「ばあちゃんのことは・・・心配すんな・・・」

不気味な社会にも人情はある。そして・・・「あまちゃん」の浸透と拡散も進行しているのだ。

関連するキッドのブログ→名もなき毒・前半

(仮記事です)

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2013年9月18日 (水)

花見で一杯(松下奈緒)、月見で一杯(戸田恵梨香)、そして雪見で一杯(中谷美紀)

花札の「こいこい」のローカルルールに「花見で一杯」と「月見で一杯」という手役はあるが「雪見で一杯」はない。

だからといって特に意味はありません。

なにしろ・・・谷間なのである。

一種の叙述トリックである「花の鎖/湊かなえ」はミステリというよりは頭の体操のような感じのドラマに仕上がっている。

母娘を演じる中谷美紀と戸田恵梨香(25)と中谷美紀(37)はギリギリアウトだと思う。

しかし、「ケイゾク」と「スペック」で「汚い女」として結ばれている二人である。

なんだか・・・凄く血縁を感じさせるのだった。

時系列をシャッフルさせ・・・誰が誰なのか分らなくさせる手法は認知症を発症している人には向かない。

家系的に認知症をいつ発症してもおかしくないキッドとしては・・・分るうちに見れてよかったと思うのだった。

まあ・・・すべては一瞬の喜びなのである。

で、『花の鎖』(フジテレビ20130917PM9~)原作・湊かなえ、脚本・篠崎絵里子、演出・中江功を見た。とある田舎町にある創業80年の老舗和菓子屋「梅花堂」は・・・一人の女の一生を見ていたのである。「梅花堂」の名物は「きんつば」だった。つばとは刀の鍔である。最初は鍔の形をしていたのにいつの間にか四角くなるのも菓子の生きる道なのだろう。

うちで・・・きんつばをよく買う美人は美雪さん(中谷美紀)と言いまして、人妻です。

旦那さんは和弥(筒井道隆)さんと言いまして男前です。

旦那さんは美雪さんの従兄の陽介さん(丸山智己)の小さな建築設計事務所で営業をしていますが・・・本当は設計士を目指しているのです。

陽介さんの奥さんの夏美さん(佐藤仁美)はかなりの性悪でして、ドラマ「R-17」(2001年テレビ朝日)で中谷美紀がスクールカウンセラーやってた時に少女たちを商品化するコギャルのボスをやっていた佐藤仁美なのである。以前も書いたが少女たちは栗山千明だの宮崎あおいだの木下あゆ美だの上野なつひだの水川あさみだのそうそうたる顔ぶれである。ちなみに後で登場する水橋研二は少女暴行魔で宮崎あおいに刺されています。

で、流産したばかりの美雪さんは妊娠中の夏美さんに嫌味を言われて、うっかり和弥さんが内緒で設計していた図面を誇示してしまいます。

これが仇となるのですな。

さて・・・郷土の生んだ有名な画家に香西路夫という人がいまして・・・その人の作品をコレクションした美術館が建設されることになり・・・設計士の夢を追いかけて美雪さんの旦那さんは密かに設計コンペに出品しようとします。

しかし、それを陽介さんに盗まれてしまうのですな。

美雪さんは怒って陽介さんに怒鳴りこむのですが・・・旦那さんは穏便に事をすます。

美雪さんは憤りが収まらず・・・旦那さんとも喧嘩をしています。

ところが・・・その直後、建設予定地を旦那さんと陽介さん・・・そして事務員の森山さん(阿部力→篠田三郎)で視察に行き、現地を撮影中の旦那さんは転落死してしまうのです。

その葬儀の席で・・・死んだ旦那さんの悪口を言う陽介さんと夏美さん。

「無理して事故死するなんて会社にとっていい迷惑だ・・・」

「まったくよねえ」

「ふざけないでよ・・・あなたに設計を盗まれて自殺したかもしれないのに」と錯乱する美雪さん。

「いい加減にしないと名誉棄損で訴えるぞ」ととりあわない陽介さん。

泣き寝入りした・・・美雪さんは・・・ふと気が付く。

内緒にしていた設計が・・・なぜ漏れたのか・・・。

夫が設計していることを・・・漏らしたのは・・・自分ではないか。

だとすると・・・夫を自殺に追い込んだのは・・・自分じゃないか・・・。

美雪さんは画家・香西路夫の名画「未明の月」の風景が見える雪野原で後追い自殺を図ります。

しかし・・・未遂に終わってしまうのです・・・病院で目覚めた美雪さんは自分が妊娠していることを知らされます。

こうして・・・夫の忘れ形見とともに美雪さんは生きる覚悟をしたのです。

月日は流れ、美雪さんの娘は大学生になっていました。絵の上手な紗月さん(戸田恵梨香)です。

紗月さんは登山部にも所属しています。登山部には浩一さん(松坂桃李)という先輩がいて・・・二人は相思相愛の仲になります。

これに激しく嫉妬する紗月さんの女友達が希美子さん(佐津川愛美→比企理恵)です。

「梅ちゃん先生」で堀北真希と結ばれた松坂桃李を知り戻す気満々で嫌な女全開です。

まあ、「ギャルサー」でもサキとシズカは親友設定だったな。

「第4回スカウトキャラバングランプリ」の美少女・比企理恵も47歳か・・・。

登山部の先輩の一人、倉田遥さん(野村麻純)が急性骨髄性白血病を発症し、ドナー捜しのための血液検査を受けた紗月さんと浩一さんはドナーにはなれなかったけれど・・・お互いがドナーになれることを知ります。

浩一さんは陽介さんと夏美さんの息子だったのです。

つまり、浩一さんの父親と紗月さんの母親は従兄妹同士なので・・・二人は六親等(またいとこ)の親戚だったのでした。

なぜ・・・そのことを知らなかったのか・・。

そこで・・・希美子さんは「浩一さんの父親は紗月さんの父親の仇らしい」という町の噂を告げるのです。

紗月さんは・・・母親を問いつめ・・・両家の因縁を知るのでした。

結局、遥さんのドナーは見つからず・・・絵心のある紗月さんに香西路夫の画集を形見として残すのです。

ちなみに「11人もいる!」の鈴木ソアラです。ダイナミックパパと真田二子は「あまちゃん」に転生しているのに・・・。

そして、紗月さんは登山部の顧問の前田さん(水橋研二)に山小屋で純潔を奪われ、希美子さんは首尾よく浩一さんと結婚するのでした。

しかし・・・浩一さんが急性骨髄性白血病を発症します。

なんか・・・山に悪い魔物が住んでいる土地柄なのか・・・。

陽介さんは美雪さんに頭をさげ・・・紗月さんが浩一さんのドナーになってくれるように懇願するのです。

美雪さんは怨みをこらえてそれを許し、紗月さんは浩一さんの命の恩人となりました。

つい最近、「Woman」で見た展開です。

やがて・・・前田さんと結婚した紗月さんは・・・梨花さん(新井美羽→松下奈緒)を出産します。

幸せな日々は一瞬でした。前田さん夫婦は事故で死亡したのです。

それ以来・・・美雪さんと孫の梨花さんはひっそりと生きて来たのでした。

有名な建築家となった浩一さんはKと名乗り、命の恩人の母と娘を陰ながら見守って来たのです。

しかし・・・その浩一さんも若くして世を去りました。

美雪さんは癌を発症してしまいます。

梨花さんは祖母の手術費用のために・・・Kを頼ろうとして・・・禁断の扉を開けるのでした。

そして・・・祖父の死の真相を知ることになるのです。

その真相について・・・老舗和菓子屋が語るのは憚れる気もするので・・・私は口を閉ざすことにします。

いやはや・・・美人もなかなか大変ですなあ。

それにしても孫になって・・・急にでっかくなっちゃった感じは否めないよね。

そして、もしも、キッドが梨花だったら逆上してあの老人たちを血の海に沈めていたかもしれないと戦慄したのでございます。

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高校入試

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2013年9月17日 (火)

待たせ過ぎる料理長と待ちすぎる写真家のSUMMER NUDE(山下智久)

注文入ってからパスタ打ち始めるイタリアン・レストランとかシャッターチャンスを逃し続けるカメラマンとか・・・ま、いいか。

ある意味・・・押し切ったよね。

最終回の流れは笑うところなのかなあ。

「お願いできますか・・・」

「ちょっと・・・考えさせてけろ・・・よし、やるべ」

「今・・・考えたんですか」

・・・というギャグならわかるんだが。

「ちょっと待って・・・」

「うん、待つよ」

一年後・・・。

「待った~?」

「うん、全然」

・・・まあ、一応笑えるのかな・・・もう判断基準がわからなくなってきました~。

とにかく・・・長澤まさみの再登場を最後の最後まで待ち続けた皆さん・・・お疲れ様でした~。

そして・・・山Pのハッピーエンド&キスを待ち続けた皆さん、おめでとうございます。

ついでに・・・結婚式でスライド・ショーを見るのが趣味という皆さん、よかったですね~。

台風18号とともに去って行った2013年の夏。

いい思い出ができた人も・・・そうでなかった人も・・・29歳から30歳まで男を待たせる女ってある意味自信家だよねえ・・・というキッドの感想とともに・・・次のポエムを捧げます。

いのち短し・・・恋せよ少女・・・朱き唇・・・褪せぬ間に・・・(吉井勇伯爵)

で、『SUMMER NUDE・最終回(全11話)』(フジテレビ20130916PM9~)脚本・金子茂樹、演出・石井祐介を見た。上京した朝日(山下智久)はカメラマンとして順調なスタートをきっていた。幼馴染のタカシ(勝地涼)のアシストによって・・・夏希(香里奈)と再会を果たした朝日。夏希の勤めるイタリアン・レストラン「Giallo Blu」で初めて夏希の本格的な料理を食べて感動するのだった。その日、雨模様を予知した朝日は夏希を傘を持って待ち伏せ・・・ついにセプテンバー・レインの中で抱擁する二人・・・しかし。

夏希は朝日の腕の中から逃れるのだった。

「ごめんね・・・あの人とまたくらべている・・・」

「愛の炎はまだ・・・消えていなかったんだね」

「違うの・・・朝日の事が好き・・・でも・・・好きな人がまたいなくなったらと思うと・・・こわくてたまらないの」

「心の傷は癒せやしないものね」

「山口百恵からのジュリーじゃ・・・今の子たち誰もついてこないわよ・・・」

「すまない・・・」

「ちょっと待ってほしいの・・・私に少し時間をください」

「いいよ・・・知ってるかもしれないけど・・・待たされるのには慣れた男だからさ・・・」

そぼ降る雨の中・・・二人は微笑み合うのだった。

それから・・・一年の歳月が過ぎた。

端折りすぎるなよ・・・。

その翌日・・・朝日は夏希からの連絡を待った。

夏希は朝日からの連絡を待った。

連絡はなかった。

二日後・・・朝日は夏希からの連絡を待った。

夏希は朝日からの連絡を待った。

連絡はなかった。

三日後・・・もう少し巻いて行こうか。

朝日は夏希の「もういいよ」を待って仕事に打ち込んだ。たちまち・・・売れっ子カメラマンになっていくのだった。

夏希は朝日の「もういいかい」を待って仕事に打ち込んだ。いつの間にかイタリアン・レストラン「Giallo Blu」の店長になっていた。

しかし、連絡はなかった。

朝日の職場にはそれなりに素敵な女性がいた。クリスマスの予定を聞かれまくる朝日。しかし、朝日にはいつ来るかわからない連絡を待つと言う先約が入っているのでお断りするしかないのだった。

北風が吹いて・・・初雪が降って・・・新年が来た。

朝日は連絡を待つが連絡はこない。

なんで連絡しないんだよ~は禁句である。

朝日はそれなりに素敵な女性たちからバレンタインデーのチョコレートをもらう。

しかし・・・ホワイトデーのおかえしは義理お菓子にとどめる。

なにしろ・・・朝日は連絡を待っているのである。

雑誌の仕事で自分の写真の仕上がりをチェックしているとイタリアン・レストラン「Giallo Blu」の店長の夏希のインタビュー記事が目に入った。

「元気そうだな・・・」と朝日は思う。しかし、連絡はしない。

春風の中、朝日は屋外で撮影をしていた。

偶然、通りかかった夏希はその後ろ姿を見つめる。

「仕事がんばってるな・・・」と夏希は思う。しかし、連絡はしない。

仕事を終えて帰宅した夏希はお気に入りのウィリアム・スミス・クラーク博士のミニチュアに語りかける。

「あいつ・・・仕事がんばってたよ・・・」

しかし、クラーク博士は無言だった。そして連絡はしない・・・。

二人が連絡を待って連絡をしない間に・・・。

波奈江(戸田恵梨香)とヒカル(窪田正孝)は介護とADの間にいろいろなことをして夏に挙式することを朝日と夏希に知らせるのだった。

一年の間・・・波奈江は夏希に・・・何も問わなかったのかよ・・・とか。

芸能事務所の寮に転居するまで夏希と同居していたあおい(山本美月)は恋のファスナーあげなかったのかよ・・・とか。

おせっかいのタカシが一年も何もしないで我慢していたのかよ・・・とか言ってはいけない。

最愛の女に逃げられて三年待ったあげく、別の男と結婚されちゃった朝日と・・・結婚式場で花婿に逃げられた夏希の間の話なのである。

どんなにじれったくても静観するしかないと脚本家が決めたのだから仕方ないのだ。

そして・・・結婚式の案内が来たのは四月だが・・・挙式は蝉の鳴く季節に行われるのだった。キッドだったら絶対忘れて招待をすっぽかしてしまうタイムラグである。

しかし・・・みさき市のレストラン青山前での海岸挙式に招待された夏希は・・・手作りウェディングケーキも依頼されてしまうのだった。親友の頼みだから断るわけにはいかない夏希だった。もちろん、波奈江もプロに依頼する以上、金に糸目はつけないお嬢様なのである。

そして・・・朝日は披露宴会場となるカフェ&バー港区のディスプレーを頼まれる。

これを偶然と考えるか・・・前髪クネ男の悪戯と考えるか・・・それは自由だ。

前日入りした夏希はなつかしいみさき市にやってきた。

波奈江は海岸で式場のセッティングをしていた。

奴隷ADである光は当日入りなのである。

っていうか・・・制作会社なら・・・この手のことは・・・会社が仕切るぞ・・・普通などとはいってはいけない。おそらく光の雇用先は人情紙風船なブラック企業なのだろう。

そこで夏希はタカシから・・・レストラン青山の秘話を聞かされる。

勢津子の前夫の名字が青山さんだったから・・・で始り、なぜ賢二の店が港区になったのかに至る短くも長くもない話で・・・一応、「俺は待ってるぜ」的なテーマにそったエピソードなのだが・・・くどいので割愛させていただく。

ついでに「同じタイプでも後半追い込み加速型の方がミラクルっぽい」と賢二が朝日に語ったりするわけだが・・・もうどうでもいいよね。

とにかく・・・おそらく・・・タカシの作戦通り・・・。

港区で夏希がケーキを作っていると・・・朝日が会場に飾る写真を持ってくるのである。

「久しぶりだね」

「一年ぶりだね」

「元気そうだね」

「そっちもね」

「ケーキは」

「もうできた」

「じゃ・・・飾るの手伝ってよ」

「いいよ」

「ありがとう」

「これは・・・どこ」

「それは・・・そこ」

「変な写真・・・」

「いい写真だろ・・・」

「お似合いだからね」

「お腹すいたな」

「なんか食べる」

「お願いします」

「これでどうだ」

「夏希の焼きそば二年連続日本一」

「やったあ」

「ふふふ」

「ふふふ」

良い感じになるが・・・例によって・・・ラブホテルにはしけ込まない二人だった。

翌日の結婚式は和気あいあいと可もなく不可もなく終了する。

スライドショー風自主制作映画に登場する朝日の写真は誰がとってんだという小学生のようなツッコミはご遠慮ください。

そして・・・宴もたけなわ・・・。

夜の海岸に・・・抜けだして・・・朝日を待つ夏希。

「ねえ・・・火を貸してくれないかな」

「そのセリフ・・・前も聞いたな・・・なんだかすごく嫌な思い出とリンクしてるんですけど・・・」

「俺はわき腹が痛くなってくるよ」

「ふふふ」

「ねえ・・・線香花火をしようよ」

「よく・・・残ってたわね」

「だって・・・約束だろう・・・今年もしようってさ」

「うん・・・でも今度こそ・・・点火しないんじゃない」

「それは・・・一年の行い次第だろう・・・この街じゃ神様は・・・必ず、いい子の線香花火には点火するんだ・・・」

「ええ・・・やった・・・点火しちゃいました」

「ほら・・・俺のだって・・・こんなに」

「約束、覚えていたんだね」

「俺は約束は守る男なんだって言ったじゃないか」

「うん・・・・ありがとう」

夏希は朝日の胸の中に飛び込むのだった。

「来年も・・・線香花火をしてくれますか」

「再来年も・・・三年後も・・・病める時も健やかなる時も」

「ずっと」

「ずっと」

僕はただ 君と二人で通りすぎる

その全てを見届けよう

この目のフィルムに焼こう

二人のENDLESS SUMMER NUDEの時がやって来た。重なる裸の唇と裸の唇。

真夏の夜に時が溶けていく・・・。

帰りの車で口喧嘩を始める二人。

「サマーヌード/真心ブラザーズ」のPVの話であるらしい。

「だから・・・波打ち際ではしゃいでるのはPUFFYだってばさ・・・」

「ちがうだろう・・・FLIP-FLAPだろう」

「だれよ・・・それ」

「知らないのかよ・・・千葉県船橋市出身の双子姉妹UKOとAIKOのユニットだよ。フリフラだよ。フリフラ」

「知るかっ・・・」

それから・・・二人は車を止めて・・・軽く一戦交えると・・・汗だくのTシャツを脱ぎ去り・・・再び走り出した車の窓から誇らしげにそれをはためかせるのだった。

二人の今年の夏はこれからなのだ。

関連するキッドのブログ→第10話のレビュー

Sn011 ごっこガーデン、夏はまたくるセット。エリ最後の最後でようやくキタ━━━━━━(゚∀゚)(σ_σ)(・o・)━━━━━━!!!! のでスー。終わってみればとぼけた味わいのラブストーリー。ひとことで言うと・・・恋愛のんびり屋さん・・・な朝日だったのでした~。はぁ・・・。結局、香澄も波奈江も・・・朝日の性格を説明するだけのキャラクターだったみたいですねえ。パートナーチェンジは田舎の特権で本当に波風立たないのかどうか・・・じいや、リサーチして~。そして、次は・・・(土9)亀梨先輩なのでス~・・・リアルな演技と幼稚にみえてしまう設定とがミス・マッチするととんでもないことになる見本にはならないようにお願いしたいものでスー!まこふ~、ダーリン不在の続く中、脇役ごっこでしのぎましゅ~。それにしても・・・これだけ美男美女をそろえておいて・・・ラブを外すとは大胆な夏ドラマだったジョ~くう結局、リッキーっていいたいだけだったのか・・・これがステマかよっ。そして、秋ドラマがそこまで来ているだっみのむしとにかく、前髪クネ男を求めて東京におでかけ・・・でも見たのはお台場ガンダム・・・るるるアンナああ・・・もうすぐ10月ぴょ~んikasama4ロイドのロイドを作る日がこようとは・・・台風一過、お見舞い申し上げます・・・シャブリ次の月9は・・・福士蒼汰、有村架純・・・スターマンから・・・ここなのでありましたーっちーずあらすじはまあまあですけどね~。Womanとくらべちゃうとセリフがね~・・・mari途中ちょっともたれましたけど・・・最後は胸きゅん・・・おわりよければすべてよしですね

天使テンメイ様が最終回のトラバを前回にリンクしてしまったのでリンクしておきます。

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2013年9月16日 (月)

全身全霊で神を愛することが第一であり、第二に汝を愛するように隣人を愛せでごぜえやす(綾瀬はるか)

ナザレのイエスは終焉の地、エルサレムにやってくる。

イエスを危険視するユダヤの律法学者たちは・・・彼を異端とする証拠を得ようと質問を行う。

名もなき律法学者が問う。

「教えを告げるものよ、神の授けし律法の戒めにおいて・・・もっとも重要なものとは何か」

イエスは答える。

「疑いつくし、問いつくし、考えに考え抜いて神に愛を捧げることである。そして、汝を愛すること。汝を愛するように隣人を愛することがそれに次ぐ」

イエスは何よりも神を愛することを求め、自分自身は他人を愛する程度にしか愛さぬように戒める。

つまり、汝の隣人を愛せよとは・・・隣人に寄せる好意ほどにしか自己を愛さぬようにしてすべての愛を神に捧げることを求めている発言なのである。

結局、イエスは・・・自分自身や隣人・・・つまり「人」を愛することに価値などはなく・・・すべての愛は「神」に捧げるべきであることを主張しているのだ。

多くの人々がイエスの主張を誤解していることは言うまでもない。

で、『八重の桜・第37回』(NHK総合20130915PM8~)作・山本むつみ、脚本・吉澤智子、演出・中野亮平を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は「新春ワイド時代劇 白虎隊〜敗れざる者たち」(2013年テレビ東京)で篠田儀三郎を演じた中村蒼による徳富猪一郎(徳富蘇峰)の若き日のイラスト描き下ろし大公開でお得でございます。いかにも狂信者で若気の至りで七つの大罪を犯しまくる発狂集団熊本バンド(部隊)の登場でますます理解困難な様相を呈してきたこの大河ドラマ・・・。まあ・・・会津藩のおバカな歴史と・・・福島県の震災からの復興とは何の関係もなかった・・・ということに途中から気がついたスタッフ一同の驚愕がそこはかとなく感じられますな。ウヒヒですな。そして・・・ジェローム・デイヴィスと同様の北軍軍人あがりの牧師リロイ・ランシング・ジェーンズに洗脳された熊本バンドのクレイジーっぷりを忠実に再現・・・もうどこにいっちゃうんだ・・・これ。

Yaeden037 明治9年(1876年)2月、東海道線・大阪駅~京都駅が開通する。3月、官庁の日曜休暇、土用半休の太政官達公布。夫婦別姓を定めた太政官指令公布。そして廃刀令発布。名誉階級にすぎない士族たちの最後の特権が奪われたのである。帯刀を許されなくなればもはや武士ではないと・・・不平士族たちは怒髪天をついたのだった。6月、明治天皇による北海道および東北地方巡幸実施。オスマン帝国はセルビア・モンテネグロと開戦し、勝利する。しかし、ブルガリア人の大量虐殺が行われ、ヨーロッパ・プロテスタント勢力の離反を招く。大英帝国に見放されたオスマン帝国はロシア帝国と孤立したまま対峙することになる。9月、明治の毒婦こと強盗殺人犯・高橋お伝逮捕。北海道開拓使が札幌麦酒醸造所を設立する。10月10日、江戸幕府が設置した一里塚廃毀令発布。20日、熊本バンドと呼ばれる金森通倫、横井時雄、小崎弘道、吉田作弥、海老名弾正、徳富蘇峰らが同志社英学校に入学。24日、熊本市で旧肥後藩の士族による神風連の乱が勃発。児玉源太郎率いる大日本帝国陸軍がこれを鎮圧。27日、福岡県で秋月の乱が勃発。乃木希典が率いる大日本帝国陸軍がこれを鎮圧。28日、山口県で萩の乱が勃発。三浦梧楼が率いる大日本帝国陸軍がこれを鎮圧。不平士族と大日本帝国陸軍の内戦はやがて鹿児島へと収斂していくのだった。

全国の士族たちが鬱屈し、暴発を続ける明治九年の秋・・・京都では比較的平穏が保たれていた。そもそも京都には博徒公家だった岩倉具視の遺した天皇の忍びの組織があった。これを引き継いだ山本覚馬・八重が近代的な目付(監視)組織を作りあげていたからである。

京都府警の前身である京都府庁第四課には山本姉妹の支配下の陽忍が配置され、商工業者から派生した親分衆を組織化し、幕府解体後の治安の回復を図ったためであった。

親分衆たちの手に余る無法者の乱入は八重の科学忍者隊の実力で排除されたのである。

新政府は旧支配層の完全なる排除を目指して、英国系のプロテスタント組織を積極的に利用した。

しかし・・・米国系のプロテスタントであるリベラル派(反福音主義者)はその過激な合理主義によって過剰な反発を招いた。

熊本バンドはリベラル・キリスト教による国家支配を目指していることが発覚し、熊本を追われたのだった。熊本では士族の復権を目指し、反乱が計画されていた。その異分子の中の異分子が・・・熊本バンドだった。

「あのものたちは少し・・・頭がおかしいのではないのですか」

「八重さん・・・信仰に目覚めたものは・・・時に熱狂に走るのです」

「しかし・・・ジョー。彼らはプロテスタントなのにカソリックのように洗礼名を求めたりしてます。明らかにおっちょこちょいな西洋かぶれではありませんか。私の事を鵺と誹謗した徳富猪一郎など掃留(ソウル)などと聖人でもなんでもない名をつけて自己満足しており、ちょっと笑っちまう感じでごぜえやすよ」

「そうです・・・バカな子ほどかわいいと昔から言うではないですか」

「しかし、神が七日で世界を創造できたはずがないとか・・・処女が妊娠するのはおかしいとか、死んだものが生きかえるはずがないとか・・・聖書に書かれていること全否定でごぜえますよ・・・そんなことで信仰が維持できるのが・・・不思議でがす」

「いいのです・・・彼らは信仰そのものに酔っているのです。そもそも・・・我々プロテスタント・リベラル派は・・・聖書そのものの記述を鵜呑みにしない合理的精神で信仰を深めていく教団なのです・・・」

「そうなのでごぜえやすか」

「そうです・・・たとえ・・・神が七日でこの世をおつくりにならなかったとしても・・・聖母が処女懐胎しなかったにせよ・・・イエスが処刑後に蘇生なさらなかったにせよ・・・主が残した言葉の正しさは変わりません。主は人の子として生き、我々の罪をあがなって殉教された。後に続くものは主の言葉を心に刻み、この世を正しく導いていかねばならないのですよ・・・八重さん」

「それが・・・伝道の使命でごぜえやすか・・・」

「ん・・・」

「・・・あ」

「その通りです。確かに彼らの視野は狭く、態度は傲岸不遜で、言葉は選民思想丸出しの嫌味そのものです。だが・・・武士という支配階級が消滅し、不安定になった彼らの心は救いを求め、主に出会った。主に忠誠を誓うことで、心が安定し・・・新しい知識への学習意欲に満ちたのです。その熱意こそが宝なのです」

「どうも・・・ろくでもない人間ができあがりそうな気がしてなんねえ」

「それでいいのです・・・ろくでもない人間こそが・・・この混沌に満ちた世にはふさわしい。必ずや彼らは・・・それなりに人の世に役立つ人間となるでしょう」

「ああ・・・それは」

「う・・・ううん」

「リベラルとは一歩間違えたら・・・破滅の教えでねえのか」

「我々は皆・・・最後は神の審判を仰ぐ身なのです。その審判の日を心がけていれば・・・やがて野蛮な子供たちも聖人となる日がくるかもしれない。その手伝いをするのが学校というものだと私は思っています・・・私は神の教えに目覚め、海を渡った。そして海の向こうには神の国がありました。けれどそこには欲望のままに争い、血を流す人間たちの王国でもあったのです。だからといって・・・尊い主の教えが汚れることはないのです。良心に従って良いことをする・・・そうすればなにもかもだんだん良くなっていくでしょう」

「・・・」

八重は答えなかった。新島襄はたしかに良き人であった。しかし・・・世界には良き人よりも悪人で満ちている。良き人の楽観は・・・やがて恐ろしい未来を招くことになるだろう・・・と八重には分かっている。

会津藩という善人の集団の末路を八重はその目で見たからである。

とにかく・・・八重にできることは目に余る行動をするものには時々、お灸をすえてやることだった。

なにしろ・・・八重に敵うものなど一人もいなかったのである。

もちろん・・・その怨みは鬱積し、新島襄の死後に爆発することになるのだが・・・八重の知ったことでなかったのだった。

果てたまま眠りに落ちた嬢の寝顔をくのいちの夜の目で眺めた八重はそっとベッドから降りてシャワーを浴びにバスルームに向かうのだった。

西洋文明はいいもんだ・・・と八重は思う。

関連するキッドのブログ→第36話のレビュー

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2013年9月15日 (日)

あまちゃん、二十四号目の土曜日(能年玲奈)

うわあ・・・である。

残り二週になっちゃったよお~なのである。

ある意味、二週間後の土曜日の夜が心配である。日曜日はまだしも・・・月曜日ときたら・・・。

みんな・・・「あまちゃん」なしでやっていけるのか。

他人はいいとして自分はどうなんだ・・・と問うのさえ恐ろしいのだな。

さて・・・スペシャル番組「秋の夜長の“あまちゃん”ライブ~大友良英と仲間たち大音楽会~」(NHK総合20130913~)がオンエアされて・・・そういう心を慰めるのだが・・・幕間のトークショーで披露された撮影裏話で・・・能年玲奈のエピソードを古田新太が披露して・・・ええっとのけぞった人も多かったはずである。

あまちゃん屈指の名場面の一つ、「アキと太巻、奈落で出会う」のシーンで・・・。太巻に・・・「暦の上ではディセンバー」の振り付けについて意見を求められたアキが・・・。結構、コミカルでアバンギャルドな振り付けを披露するのだが・・・。

これが・・・能年玲奈のアドリブだったという衝撃の展開である。

うわあ・・・天才すぎると多くの人が驚愕しただろう。

アホ(バカ)な子ほどかわいい・・・という古典的な「萌え」の要素に現代風な「アホかわいい」という「萌え」を上書きしたような能年玲奈だが・・・その「アホかわいさ」に神秘的な影が寄り添ったのだな。

どうか・・・生き馬の目を抜く業界の風から「栄光の加護」というバリアが与えられるようにと祈ります。

朝ドラマを一歩出たら、そこは新世界だからな。

さて・・・残り六回はほぼ、序破急のリフレインになって・・・今週は最後の序破急の序であった。

同時に「その後編」の起承転結による「承」の章。

そして、六回目の起承転結の「結」の章である。

本当に・・・複雑な構成をよどみなく積み上げていくよなあ・・・。

六回目の起承転結のサブタイトルは次の通り。

第21週「おらたちの大逆転

第22週「おらとママの潮騒のメモリー

第23週「おら、みんなに会いでぇ!」

第24週「おら、やっぱりこの海が好きだ!」

ああ・・・時の潮騒が聴こえる・・・。

で、『連続テレビ小説・あまちゃん・第24週』(NHK総合20130909AM8~)脚本・宮藤官九郎、演出・桑野智宏を見た。2011年3月11日の午後・・・日本は東日本大震災後の世界へと変転した。自粛ムードの嵐の中、芸能事務所・スリーJプロダクションのタレント・天野アキ(能年玲奈)が鈴鹿ひろ美(薬師丸ひろ子)とダブル主演した映画「潮騒のメモリー~母娘の島」は公開一週間で打ち切られ、主題歌「潮騒のメモリー」のお披露目ライブも中止となる。被災地のユイ(橋本愛)から「「帰ってきて・・・」と支援要請を受けたアキは・・・東京での芸能活動を休止し、春子(小泉今日子)を東京に残して、六月の下旬、夏(宮本信子)の待つ北三陸市に到着する。しかし、再会したユイの心は震災の衝撃の中に封じられていた。アキは笑顔を失ったユイに茫然とするのだった。ついに、アキの十代最後の夏が始ろうとしていた。愛するユイのために何ができるのか・・・アキは自分の進むべき道を模索し始めるのだった。

月曜日 津波の果て、瓦礫の山の上に今も立っている少女(橋本愛)

2011年7月。袖が浜海岸の海開きの日がやってきた。

「帰って来た海女のアキちゃん効果」により、袖が浜には観光客が押し寄せる。

しかし・・・そこに海女のユイちゃんの姿はない。

観光客の熱い視線を浴びつつ、大好きな海に元気よく飛び込むアキ。

だが・・・海中でアキは困惑するのだった。その表情の見事なこと・・・海の中とは思えないのである。

「ウニがいねえっ」

アキは水面に顔を出して、先輩海女の美寿々(美保純)に救いを求める。

「そんなことはないべ・・・よく見てみろ~」と呑気に応じる美寿々。

アキは再び、海に潜り・・・不安を募らすのだった。

そこは・・・アキの知っている袖が浜の海中ではなかった。

海底の景色は一変し・・・アキにはどこにウニがいるのか・・・まったく見当もつかない。

震災によってウニの数は激減し・・・海女四年目で・・・しかも二年近いブランクのあるアキにとって・・・ウニ採り放題というわけにはいかなくなっていたのである。

瓦礫の降り積もる海底で・・・アキは途方に暮れるのだった。

その・・・困り果てた顔がまた・・・アホかわいいのだった。

「おらが・・・とりたいウニは・・・いません・・・だから・・・とれません」

観光協会ではジオラマだけがとりあえず復興していた。

ジオラマを囲んでの首脳会議が震災後、漸く開催されたのである。

大人たちの背後にちょこんとすわるアキ。

その横にユイがやってくる・・・。

「何・・・あのパスワードみたいなの・・・」

「ここは・・・大人たちのスーパーマリオに支配された世界なのでがす」

KDTOK3RKDNSPMMMYPGB

「転んでもただでは起ぎねえ北三陸を今度こそ何とかすっぺ目にもの見せてやっぺゴーストバスタ~ズ!」と大吉(杉本哲太)・・・。

「なげえよ・・・」と眼鏡会計婆・かつ枝(木野花)・・・。

「ごめん・・・」と大吉がホワイトボードを消そうとすると・・・。

「あ~、まだ書き写してねえべ・・・パスワートが違いますって言われたらどうすんだっ」と弥生(渡辺えり)・・・。

「何もかもが懐かしい・・・」と繰り返しのギャグさえも涙を誘うここは被災地である。

「ここで・・・哀しいお知らせです・・・」と吉田(荒川良々)は新聞を掲げる。

北鉄・・・復興費用・・・80億円の見出し

「80億円とか・・・」と組合長(でんでん)・・・。

「国は・・・復興予算を出す気あるのか・・・」と夏ばっぱ・・・。

「それにしたって・・・被災したのは北鉄ばかりでねえからな」と商工会長のあつし(菅原大吉)・・・。

北鉄をないがしろにする発言に憤った吉田はジオラマのブティック今野に鼻くそをこすりつけるのだった。

「そこは・・・駐車場だけどな・・・」と険悪なムードを宥めすかす観光協会長の保(吹越満)・・・。

ああ、北三陸オールスターズの復活である。

「耐えるんだ・・・吉田くん・・・赤字の北鉄さ、復興させるよりも・・・別のことに金さ使う方が意義がある・・・優先順位は人それぞれの市民感覚だ。いろいろあって当然だ・・・しかし・・・ユイちゃん・・・」

「・・・」

急に話を振られてもピンと来ない表情のユイ。

「あの日・・・おらたちの乗った北鉄が・・・車庫に戻って来た時・・・」

鈴木のばっぱ(大方斐紗子)は北鉄の車両を拝むのだった。

「この北鉄様が・・・おらの命さ助けてくれた」

「そんな・・・鈴木のばっぱに・・・もう、北鉄は廃線になっちまうかもしれねえなんて言えないべ」

黙りこむ一同。

「おらは・・・あの時、誓ったんだ・・・何がなんでも北鉄さ、もう一度走らせて、第三セクターの維持を見せるべ。なんてったって北鉄は北三陸市のシンボルだべ」

「んだんだんだ」と飛び上がる弥生。

その姿に背後に控えるストーブ(小池徹平)の目が光る。

「被災者が望むものは与えられるべし」

「んだんだんだ」

「北鉄の全線開通を目指して復興計画を進めるべし」

「んだんだんだ」

チャリンチャリンチャリーン

マリオの世界が会議場を席巻しようとした時・・・夏ぱっぱが口を挟む。

「んだけども・・・銭のことはどうすんだ・・・先立つものがなければ始らねえど」

夏ばっぱはマリオ以前の人間なのである。

アキは「海女カフェ復活」を言い出す空気ではないことを感じ取っていた。

もうすぐ、二十歳なのである。

芸能界の荒波にもまれたのである。

アホの子もそれなりに成長しているのだった。

その時、観光協会の海女カフェ担当者であるストーブは・・・。

    ∩
    ∪ジェニ~!!
    i!|i!
  ┌┬─┐
  ├┴┬┤
  └─┴┘
  (_Y )_  
  ( σ∀σ)∩
  σ || || ノ
  │゚ ゚̄/つ
  し'~´ んだんだんだ~♪

こんな絵を描いてアキの好感度を知らぬ間に下げていたのだった。

ス、ストーブよ・・・フラグたてそこなったよ・・・今、今の瞬間ね。

しかし・・・とアキは思う。

アキには直感で分っていたのだ・・・。

北鉄のユイちゃんは・・・海女カフェの潮騒のメモリーズの看板のように・・・今も土砂と瓦礫に埋もれているのだと。

ユイを救い出すには「海女カフェの復活」は必須イベントなのである。

だが・・・アキのそんな焦燥感をよそに・・・冷静沈着の仮面をかぶったユイは席を立つのだった。

「ごめんね・・・アキちゃん・・・そろそろ・・・スナックを開ける時間だから・・・」

「そうか・・・」

去って行くユイの後ろ姿を見つめるアキ。

滅多に見れない観光協会の廊下で父親の足立先生(平泉成)とすれ違うユイ。

「今、何の話だ・・・」

「遅刻してきた人には教えてあげない」

父親の顔を見て、一瞬、息を吹き返す在りし日のユイだった。

首脳会議の話題は「海開きについて」に移っていた。

「夏さん、アキちゃん効果で集客はどうだった?」と保。

「客はまずまず集まったが・・・肝心のウニがいねえ」

袖が浜のウニは津波によって80%が死滅していた。

ここでは初めて弥生が「原発事故による放射能汚染」について言葉を選んで言及する。

「苦労して生き残ったウニをとってもよ・・・やれ、カルシウムだ、やれ、ストロングだのって・・・うるさくてかなわねえ」

「なんだか・・・丈夫で長持ちしそうな感じになっちゃってますけどね」

「風評被害が風評被害を呼ぶんだ・・・韓国だのフランスだのは底意地の悪いことばかりしか言わねえしな」

「そんな奴ら、こっそり汚染水でも飲ませてやればええっ」

「そうだ・・・安全基準さ満たしてもダメなら・・・死なばもろともだ」

「北鉄もダメ・・・ウニもダメか・・・」

問題が山積みされ・・・何から手をつけていいか・・・分らない状態である。

アキは現状打開のための突破口を模索し・・・アホの子頭脳を高速回転させるのだった。

その視線の先に・・・ミサンガである。

「ミ、ミサンガ・・・ミサンガはどうなってます」

「ミサンガも生産中止してんの・・・材料費がバカになんねえから」と旧姓栗原ちゃん(安藤玉恵)・・・。

「それに・・・ミサンガってチャラチャラしてるでしょう・・・四月にEXILEが東日本大震災のために親を失った震災遺児らのためのミサンガを製作してあしなが育英会に寄付するって先をこされちまったし・・・まあ、EXILEにヒロシはいないけどね」と吉田。

「いいと思うんだけどな・・・復興祈願の海女のミサンガ・・・」

救いを求めるように勉さん(塩見三省)を見るアキ。

「そうだ・・・琥珀はとにかく順調だし・・・」

しかし・・・この会議において勉さんの影響力はゼロに等しいのだった。

「先生は・・・どうお考えですか」と夏は足立先生に水を向けるのだった。

「いやあ・・・政治家は口先だけだからねえ」

「そんな・・・他人事みたいな・・・」

「他人事さ・・・もう、議員じゃないからね」

足立先生の議員バッジは・・・「木更津キャッツアイ」で美礼先生(薬師丸ひろ子)がぶっさんの臨終に立ち会った時に付着していた呪いのシジミと化していたのだった。

「どうして・・・こんな非常時に・・・辞職なんて」と不審に思う大吉。

「次の市長選に立候補することにしましたから」

「じぇじぇじぇ」を通り越して唖然とする一同だった。

なにしろ・・・足立先生は死に損ないなのである。

かくて・・・復興会議は・・・スナック梨明日に席を移し・・・「足立先生の立候補を応援する会」と化したのであった。

「私が市長になった暁には・・・北鉄の全線開通を目指して復興計画を推進いたします」

足立先生は公約を謳い・・・出戻り妻のよしえ(八木亜希子)とストーブ、ユイと共にお騒がせ家族足立家の再出発を宣言するのだった。

保は・・・アキとユイに呼びかける。

「どうせなら・・・潮騒のメモリーズも復活したらどうだろう・・・」

アキは喜ぶが・・・ユイは表情を変えない。

そして・・・ユイはアキを店外に連れ出すのだった。

「私は・・・もう・・・表舞台には・・・」

「ユイちゃん・・・」

「ごめんね・・・こんな時だし・・・北三陸や・・・東北のために・・・今できることをやるのは立派なことだと思う。でも・・・ミス北鉄とか・・・海女のユイちゃんとか・・・潮騒のメモリーズとか・・・人前で・・・歌ったり、踊ったり、潜ったり・・・それは私には無理なんだ」

アキには分っていた。

ユイちゃんが・・・こういうことを言い出す時は・・・こわがっている時だと。

ユイちゃんは・・・こわくてこわくてたまらないのだと。

しかし・・・それを宥めすかす術をアキは見いだせないのだった。

そこによしえが・・・食材の在り処を聞きにやってくる。

「待って・・・私がやるから・・・アキちゃん、ごめんね・・・今の私は場末のスナックのママがお似合いなの・・・海女カフェが復活したら・・・手伝いには行くからね・・・」

店に戻って行くユイを見送るアキ。

ユイちゃんは・・・平静を装っているように見える。

しかし・・・アキの目にはユイの心が死にかけているように映るのである。

ユイは夢も現実も失った生ける屍・・・スナック・ママ・ゾンビというモンスターと化しているのだった。

「待ってろ・・・ユイちゃん、もうすぐ助けてやるからな」・・・ダーク・ファンタジー・ゲームの主人公としてアキは心に誓うのだった。

火曜日 海死ねウニ死ねの呪文の側に復興祈願のミサンガの素があるそうです(宮本信子)

アキは北三陸のパパである大吉におねだりして・・・ユイが遭難した畑野トンネルに連れて行ってもらうのだった。

ユイの心を暗闇に封印した秘密の鍵を捜すためである。

大吉やユイの命を守った暗いトンネルを抜けると震災後にユイが見た景色がアキの目に映る。

それは・・・震災四ヶ月を経ても無惨な姿を曝すユイの生まれ育った故郷の変わり果てた姿だった。

北三陸市(フィクション)の行政区分設定は明らかではないが・・・一応、ユイの家は畑野村にあるらしい。畑野トンネルの向こう側が畑野村であり、そこが壊滅しているわけである。ユイは生まれ育った村を通過して東京へ向かう途中で命拾いをしたのだった。

何度も東京行きを運命によって阻止されたユイなのである。

歪んで途切れた線路は心に突き刺さっただろう。

打ち上げられたままの漁船。裏返しになった車。震災後四カ月を経ても散乱するありとあらゆる残骸。あるものは住む家を・・・あるものは家族を・・・そしてあるものは命を失った・・・地獄の光景。

アキは言葉を失った。

ユイを直撃した衝撃の大きさを想像することができなかった。

アキにはユイのようにその光景を直視し続けることは困難だった。

目をそらせずにユイは地獄に囚われてしまったのである。

アキは視線をそらし・・・海を見た。

海は穏やかだった。

しかし・・・アキにはそれが禍々しいものに思えて来たのだった。

ユイの心を覆う闇の深さに・・・アキは怯む。

重い心でアキは袖が浜に戻って来た。

袖が浜の漁港にも漁船は一隻もない。

浜辺の漁師たちの家もない。

海女カフェもない。

アキはすがる思いで灯台下の春子の落書きを見るのだった。

故郷を呪う春子の落書き。しかし・・・それさえもアキにとっては慰めとなる。

それほどの荒廃が袖が浜を包んでいる。

ユイのみならず・・・組合長も眼鏡会計婆も・・・そういえば・・・美寿々さんの彼氏はどうなったんだ・・・波にのまれたのか・・・大吉さんも・・・北鉄があんなことになって・・・それでも笑っているのだ。

何かしなくては・・・何かしなくては・・・何かしなくては・・・切迫した思いがアキを急かす。

そして・・・何かに躓かせるのだった。

「いでっ」

アホ可愛さ爆発の転倒あって・・・アキは打ち捨てられた底引き網を発見する。

アキの様子を見に来た夏ばっぱ。

「どうした・・・」

「これなんだべ」

「そりゃ・・・捨てられた底引き網だ・・・」

「これ・・・これ・・・」

叫んだアキはバラックの仮設漁協事務所に向かうのだった。

アキを迎える花巻(伊勢志摩)・・・。

「これ・・・これで・・・ミサンガ・・・復興祈願のミサンガ」

「そりゃ・・・駄目だ」

「なんでだ・・・きれいだし・・・捨ててあるならミサンガの材料費がタダになるべ」

「捨てるに捨てられず置いてあるんだ・・・」とかつ枝。

「底引き網は・・・漁師の魂が宿っている・・・神聖なもんなんだ」と組合長。

「海の底にも一杯・・・散乱してっぞ・・・」といっそん(皆川猿時)・・・。

「でも・・・ミサンガ・・・海女の復興祈願のミサンガ」

「やるべ」と息を切らしてかけつけた夏ばっぱ。

「・・・」

「網でこしらえたミサンガみて・・・一日も早く・・・漁に出ようと誓えばいい・・・それに・・・ミサンガ売って、新しい網が買える」

「銭とるのか」

「当たり前だ」

「ちょっと生臭いけどね」とおどける美寿々だった。

アキが思いついて夏がまとめる・・・天野家の祖母と孫の鉄壁の連携が復活したのだった。

アキはついに・・・海女カフェ復活の道標となる「復興祈願海女のミサンガパート2」を入手したのだった。

喫茶リアスで試作品のお披露目が行われる。

勉さんの琥珀で装飾され、弥生が仕上げたミサンガを薄倖のストーブが試着する。

その一瞬、ユイに浮かぶ幽かな微笑み。

それはたちまち・・・消えてしまうが・・・アキは見逃さなかった。

「海女のミサンガ」はユイの心を揺らしたのである。

たちまち・・・量産体制に入る「新ミサンガ」・・・。材料費タダなので太めだった。

アキは・・・ミサンガを東京の種市に贈った。

「ありがとうな・・・このミサンガは弥生さんたちが作ったのか」

「先輩の分だけは・・・おらが作っただ」

「そうか・・・」

電話の向こうで明らかに顔が輝く種市だった。

「先輩は・・・いつ来るんだ」

「お盆になったら・・・いくつもりだ・・・」

「そうか・・・待ち遠しいな・・・」

ユイの心に巣食う暗闇との戦いは長期戦になりそうだった。

種市に逢いたい気持ちを我慢しているアキなのである。

「電話代も電気代ももったいねえぞ」と一応アキを叱る夏ばっぱ。

「・・・」

「そろそろ・・・夕飯にすっか」

干したわかめをとりこむ夏。

「夏ばっぱ・・・引退しねえのか」

「だって・・・もう67歳だべ・・・四捨五入したら百歳だべ」

「んなら、お前はゼロ歳かっ」

それでも・・・アキは・・・夏に問いただす。

「ばっぱは・・・怖くねえの」

「何がだ」

「津波・・・見たんでしょ」

「見たさ・・・高台でな」

「海に入るのがこわくならなかったの・・・」

「恐ろしい目にあったのは・・・初めてではねえからな・・・五十年前にもチリ地震の津波があった」

1960年チリ地震で発生した津波は三陸海岸に襲来した。岩手県、宮城県などを中心に死者行方不明者142名を出し、四万六千戸の建物に被害を与え、罹災者は14万人を越えたのである。

「生きている間にまた怖い目に逢うとはおもわなかったが・・・だからといって・・・海さ捨てられるか・・・」

「・・・」

「組合長とかつ枝さんの息子は19歳で波にのまれてなくなった・・・その遺品もなにもかも流された二人だ・・・それでも海から離れない二人に出でけって言えるか」

「・・・」

「忠兵衛さんが帰ってきて・・・この家なかったら・・・どうする・・・どこで待つ・・・高原のログハウスか・・・世田谷のマンションか・・・」

「似合わねえな・・・」

「だべ・・・忠兵衛さんと引きあわせてくれて・・・家族におまんま食べさせてくれたのも海だ・・・一度や二度、機嫌損ねたって・・・捨てられるもんじゃねえ」

「・・・」

「海と心中する覚悟はとっくにできてるんだ」

「そうか・・・」

アキは夏ばっぱの心を感じた。

夏ばっぱはアキを励ましているのだった。

あきらめるな・・・自分のやりたいことをやれ・・・と。

そこへやってくる・・・ミサンガを大量に抱えた組合長夫婦といっそん。

「噂をすれば影だな・・・北三陸で一番のベストカップルが来たぞ・・・」

「誰がベストカップルだって」

「組合長と眼鏡会計婆だ・・・」

「こらあ・・・アキ~」

「アキ、ほらミサンガ、種市に送ってやれ」

たちまち・・・活気に包まれる天野家だった。

アキの大好きな北三陸が蘇りはじめる。

アキはなんだかとってもうれしくなった。

水曜日 できることなら生まれ変れるならあなたになりたいハロー・グッバイ(薬師丸ひろ子)

七月下旬。輸送ルートは確保され、北三陸から東京へ宅配便が届くのだった。

アキから贈られた「復興祈願ミサンガ」の伝道師となった種市は・・・梅さん(ピエール瀧)、鈴鹿、水口(松田龍平)などから義援金を募るのだった。

「五百円です・・・」

一万個さばけば500万円、十万個さばけば5000万円である。

「地元に帰ろう」を買った人が全員、義援金をくれたら、海女カフェすぐに建つぞ。

無頼鮨でドラマ「おなご先生奮闘記」のセリフ合わせをする鈴鹿と水口。

しかし・・・途中から・・・「私、結婚したいと思います」と結婚報告記者会見のセッティングを要求する鈴鹿だった。お相手は太巻(古田新太)である。

「じぇじぇじぇじぇじぇ」と水口からの電話で驚くアキ。

純喫茶アイドルではマスターの甲斐さん(松尾スズキ)がショックで卒倒し、水口がカウンターに入っていた。

とにかく・・・水口もアキとリンクしていたいらしい。

みんなが端末でつながっている魔法の時代なのである。

太巻と鈴鹿。正宗(尾美としのり)と春子がテーブルについている。もちろん、春子は不機嫌なのだった。

「ずっと・・・一緒に暮らしてたわけ?」

「内縁ですけどね・・・」

「いつから?」

「いつからにする~」

「正直に言ってください」

「でも・・・女優としてのイメージがあるから~」

「それは・・・こっちで考えますから」

「平成元年よね~覚えやすいのよね~」

「正確に言うと・・・春ちゃんが愛想尽かしていなくなった直後だ・・・」と太巻。

「じゃあ・・・僕と春ちゃんが一緒になった時と同じだ」と正宗。

春子の気分は不機嫌モードから逆上モードに移行するのだった。

つまり・・・春子のアイドルの道を絶っておいて鈴鹿とイチャイチャしてたのかよ・・・なのである。

もちろん・・・春子にとっては「アイドル」が最優先だったのだ・・・しかし、幽かに「男と女」的な要素もふくんでいると思われる。

少なくとも・・・鈴鹿は・・・そこを幽かに疑っている。

決着のついた問題でも・・・春子の中に棲む若き日の春子(有村架純)が消滅したわけではない。

「鈴鹿さんの影武者になったからアイドルになれなかった」・・・この怨みは永遠に晴れないのだ。

しかし・・・それは同時に・・・正宗と出会い・・・結婚し・・・アキを出産した・・・春子の女としてのそれなりの人生の幸福にも結びついていた。

春子の中で「アキの母親になれたこと」と「アイドルになれなかったこと」は終ることのない最終戦争を継続中なのだった。

春子のはるはハルマゲドンのはるなのだった。

その延長線上に「鈴鹿ひろ美はアイドルになって大女優になったけど・・・結婚も出産もしてないもんねえ」という春子なりの優越感堅持があったことは言うまでもない。

ここである・・・「鈴鹿ひろ美が結婚したら・・・」・・・「アイドル」もして「結婚」もするなんてずるいよっと春子は叫ぶのだ。

「ああ・・・私って・・・そういうことで・・・ギリギリ堪えてたのか・・・と思うと情けない」という気持ちになるのであった。

大体・・・「アキ」に失礼な話なのである。

だから・・・結局、「おめでとう」と言うしかない気分の春子だった。

しかし・・・春子の気分を敏感に察知する・・・鈴鹿。

「私が歌が下手だったから・・・いけなかったのよね」

春子の中で肯定したい気持ちと否定しなければならない計算が渦巻くのだった。

「いえ・・・それは違います・・・だって・・・おかげでアキの母親になれたんですから・・・音痴様様です」

つまり・・・春子としては春子にあって鈴鹿にないもの・・・「アキ」で妥協したのである。

だが・・・鈴鹿が反応したのは・・・。

「音痴様様・・・ってあんまりだわ」

つまり・・・音痴の人は自分がどれほど音痴なのか分らない・・・だって音痴なんだものなのである。鈴鹿の鬱屈は太巻を強烈に締めあげるのだった。

ぎゅうううううううううううううう・・・なのである。

ともかく・・・暴発の後の謝罪モードに移行する春子。

「ごめんなさい・・・」

「もう・・・しょうがないわねえ」

「えへへ」

「うふふ」

なんだかんだ・・・鈴鹿はアキに甘いように・・・春子にも甘いのだった。

優等生とヤンキーとアホの子の永遠の女友達相性問題なのである。

しかし・・・正宗は単純に・・・鈴鹿ひろ美を影から支えた太巻に自分の苦労を重ねて感極まるのである。

そして・・・「嵐の素顔/工藤静香 」を曝した春子と鈴鹿という二人の女は「Diamonds/プリンセス・プリンセス 」な関係を維持するために「Runner/爆風スランプ」で走りだしたのだった。

2002年八月、アントニオ猪木が格闘技イベント「Dynamite!」で上空3000メートルから国立霞ヶ丘陸上競技場へとスカイダイビングに挑戦したために・・・結婚発表を取りやめた太巻だったが・・・なんか嫌な感じがするものの「震災婚」ブームに乗ってついに挙式・入籍を果たしたのだった。

鈴鹿ひろ美と荒巻太一というビッグカップルの誕生だった。

春子が仕掛け人としてそれなりに売り上げたことは否めないのだった。

そして・・・正宗と春子にも新たな転機が訪れたのだった。

鈴鹿ひろ美が結婚しているのに春子が離婚しているのでは・・・春子の優越感の・・・計算が合わないのである。

東京で新たな決着がつけられた2013年、八月・・・。

北三陸で・・・海辺で笑顔をふりまいていたアキは安部ちゃん(片桐はいり)のまめぶトラックを発見するのだった。

「じぇじぇじぇ・・・」

あわてて・・・自転車をかっとばし漁協バラックに向かうアキ。

「あんべちゃん・・・あんべちゃんのトラック・・・あんべちゃん」

アホかわいくうろたえるアキ。

そこではすであんべちゃんが帰郷の挨拶を済ませていた。

「なして・・・あんべちゃん・・・なして」

「目標1000000食を達成したので・・・まめぶ大使卒業でがんす」

「かっけえよ・・・あんべちゃん・・・かっけえよ」

微笑むあんべちゃんだった。一杯300円としても3年間で300,000,000円。

実はあんべちゃんは年商一億円の女だったのだ。

「おらは・・・あんべちゃんが・・・おらの落ち武者だったことを誇りに思うぞ」

「アキちゃん・・・落ち武者でなくて・・・影武者よ」

意味不明なアキを組合長が庇う。

「まあ・・・影武者でも落ち武者でもいいんでねえか」

「よくありません・・・いくらなんでももう二十歳なんだから・・・落ち武者と影武者の区別ぐらいつかないと・・・恥ずかしいでしょ」

案じられてアホ可愛くめげるアキなのである。

思えばあんべちゃんは東京に先発し、鈴鹿とともに春子不在の時のアキの母親代わりを務めたのである。

アホの子なので春子がいなくても母親代わりがいっぱいなのである。

お乳欲しがるこの子が不憫だからである。

「海女カフェ・・・流されちゃったんだね・・・アキちゃんの作った海女カフェみたかったな」

壁に貼られた思い出の写真をしみじみと眺める安部ちゃん。

育て上げたアキが作りあげた「海女カフェ」をついに見ることができなかった安部ちゃんだった。

入れ替わりに出戻った花巻は見たのだった。

「遠い昔みてえだ」と呟く弥生。

アキの決意は新たになるのだった。

「心配ねえ・・・おらが海女カフェ復活させるぞ・・・あんべちゃんと花巻さんのためにまめぶバーを作って・・・こきつかってやる」

アホの子の景気のいい宣言に・・・和みまくる一同だった。

挫けそうな時も最後にアホの子は勝つのである。

勢いに乗ったアキは磯に出て叫ぶのだった。

「海女カフェ復活させるぞ~。客を一杯呼ぶぞ~。ウニに帰ってきてもらうぞ~。おら、やるぞ~」

通りがかりのおばちゃんも思わず「がんばれっ」と言いたくなるアキなのです。

その頃・・・お盆前なのに・・・北三陸駅に帰って来た種市。

さの横を気付かずに通り過ぎて「どっこいしょっ」と荷物を下ろすユイ。

「ユイ・・・」

「・・・おかえり・・・」

元カレと元カノの運命の再会だった。

できることなら 生まれ変れるなら

私 こんなきれいな ガラスになりたい

あなたは ふっと立ち止まり

私の心をのぞいてほしい

木曜日 あの頃は愛だとは知らないでサヨナラも言わないで別れた二人(福士蒼汰)

人生はゲームである。「アイドル(夢)ゲーム」と「恋愛(現実)ゲーム」が重層構造となったこのゲーム。「リバース」のスイッチ一つで立場は変わるのである。

アキはアイドルのユイを追いかける。種市はアイドルのアキを追いかける。ユイはアイドルの種市を追いかける。

リバース・・・。

アキは恋人の種市を追いかける。種市は恋人のユイを追いかける。ユイは恋人のアキを追いかける。

ぐるぐる回ってぐるぐる回ってもうすぐ最終回なあのだあ。

北鉄よりも速く自転車をかっとばすアキ・・・。

ユイちゃんから・・・種市先輩が来てる・・・と知らされたに違いない。

「先輩、先輩、先輩」

アホ可愛いあわてふためきモードで喫茶リアスに自転車で突撃するのだった。

「なすて・・・お盆に帰るって言ってたべしたん」

「震災以後・・・ずっと気になってて・・・」

「何が・・・ですかあ?」と吉田。

「北三陸のことが・・・」

「いやいや・・・お構いねぐ」と北三陸を代表する吉田くん。

「本当は・・・アキちゃんが気になってでしょ?」とユイちゃん。

「いやいや・・・お構いねぐ」と種市に代わって照れるアキ。

「もちろん・・・天野も・・・ユイも・・・」

春子曰く「なにしてくれてんの油断ならない奴だね」と評される種市が今、頭をもたげ始めているのだった。

元カノの名前呼び捨てで・・・今カノ名字である。

その真意をじっと観察するユイは明らかに春子モードなのである。

「だけど・・・海とか・・・天野がつくった海女カフェが流されちまったとか・・・そっちも気になって」

無意識なのか・・・さりげなくなのか・・・人から自然や人工物に話題を切りかえる種市。

残り時間も少ないのに・・・ここで恋愛モードにチェンジなのかよとお茶の間は色めき立つのだった。

そもそも・・・種市はいつの間にかユイと交際していたり、いつの間にかユイと別れたり、いつの間にかアキを好きになっていたり、いつの間にかキスしたりと・・・なかなかに油断できない男なのだった。

「お二人はつきあっているんですか・・・」と切りこむ吉田。

「・・・」

「つきあってるならつきあってるで・・・ペアルック着るとかイチャイチャするとか態度で示してもらいたいもんだな」とアキの自転車に乗る保。

「フリーのイケメンにウロチョロされると・・・青年部に戦慄が走るんですよ・・・ねえ、足立君・・・おだやかでないよねえ」

「そうすね・・・」保と復興祈願シャツでペアルックを決めて自転車に二人乗りするストーブだった。心中、穏やかでないのである。

青年部一同を警戒させる青春スイッチオン種市なのだった。地元の女子全員とお付き合いする男の可能性大らしい。なにしろ・・・ここはパートナーチェンジ上等の北三陸市なのである。

そこで・・・元カレと親友のピンチに助け舟を出すユイ。

少なくとも「恋愛」に関してはアキの一歩も二歩も先を行くユイちゃんなのです。

「あれ・・・お兄ちゃんって・・・昔はイケメン枠じゃなかったの」

「うっせえな」

「イケメン枠から降りたってことでいいの・・・イケメン脱落なの?」

「うっせえ・・・元ヤンのくせにっ」

「お兄さん・・・それは言い過ぎです」とストーブの弟気取りの種市。

「元イケメンに言われたくないわー」と呼吸を合わせるユイ。

がばいよ・・・アキ、がばいよと言ってくれる真奈ちゃん(大野いと)はいないのだった。

「ユイも・・・お兄さんに失礼たべ」と明らかに恋人気取りでユイをたしなめる種市。

「お前のお兄さんじゃねえよ」とストーブ。

突然、アキは立ち上がり、カウンターからボックスへ移動。

さすがに・・・恋愛に疎いアキでも・・・ユイと種市の妖しいムードに気付いたか・・・と思わせておいて・・・。

「なんだかこわくなってきた・・・おらの大好きな北三陸に、安部ちゃんがいて、種市先輩がいて・・・ユイちゃんとストーブさんが兄妹喧嘩してで~。もう、これ以上の幸せなんかねえんじゃねえかって・・・うばあっ・・・・」

泣きだすアキだった。

そこかよっ・・・とのけぞるお茶の間の一部愛好家の皆さんである。

アキと種市をやっかんでいたストーブもファン第一号モードに戻るのだった。

「そんなことで・・・泣かねえでよ・・・もっと楽しいことこれからたくさんあるべ・・・今より悪くなるなんてこどねえから・・・」

「そうだ・・・なんてったて今が最悪だもんな・・・」

アキの幸せの絶頂とは別にブルーになる被災者一同だった。

「そうさ・・・ため息はピラフの匂いだ・・・」

とにかく・・・ポエムで事態を収拾する吉田くんだった。

アホの子をからかったら・・・それはもはやいじめだからな。

映画「禁じられた遊び」の名匠ルネ・クレマン監督の「狼は天使の匂い」(1972年)を思い出すのだった。

「それじゃ・・・俺は・・・これで」

「どこに・・・」

「高校に行って磯野先生に挨拶してくる」

「磯野先生なら・・・もうすぐ観光協会にくるぞ・・・」

観光協会でいっそんは漁協に対して海底調査による三陸海岸の現状を報告するのだった。

「水質に関しては・・・放射能の汚染濃度は今の処、基準値以下で問題ありませんが・・・津波によって海底に沈下した瓦礫の問題が深刻です。積み上がった瓦礫が不安定で危険ですし・・・何よりも親ウニの餌となるワカメやコンブの上に堆積しているために・・・ウニの生育に不適正な環境になっています」

「つまり、ウニを繁殖させようとしても餌不足でウニが育たねえ・・・親ウニが増えねえから稚ウニも増えねえってことか」

「まあ・・・そうです」

「そんなことはわかってる・・・おらたち・・・何十年、ウニでおまんま食ってると思ってんだ」

「はい・・・」

「よその海から・・・親ウニもらって放流することはできねえですか」

立ち聞きしていた種市はたまらず会話に割り込むのだった。

「それはもちろん・・・やるつもりだが・・・」と組合長。

「種市・・・だから・・・ウニの餌がなければダメなんだって・・・ん・・・種市、この野郎、いつ帰って来た」

「今です」

「だから・・・そんなことは百も承知だ」とかつ枝。

「問題はウニの餌を確保するための・・・瓦礫の撤去だ・・・そうすればコンブやワカメはほっといても増える」と夏。

「んだんだんだ」

「ウニは銭だ」

「同情はいらねえ、ウニよこせだ」

海女一同も夏に従うのだった。

「磯野先生に教えていただきてえのは・・・いつまでに瓦礫の撤去が終るかということです」

「それは・・・なんとか・・・年内には・・・」

震災は根こそぎ破壊である。問題は山積みで・・・何から手をつけていいかの優先順位を考えている間に時が過ぎていくのだった。

こういう場合は・・・捨てるべきものは捨てる・・・非情な決断のリーダーシップが求められるのだ。

「遅すぎる・・・海女クラブは・・・お盆休みまでは・・・待つ。それまでになんとかしてけろっ」

実行者が・・・半年と言っているのに・・・二週間の期限を切る夏ばっぱだった。

そして、言うだけ言って去るのだった。

「相変わらず夏さんはかっけえな」と種市。

「おらの夏ばっぱだもの」と誇らしいアキである。

「種市・・・お前も手伝え・・・高校のOB連中に集合かけろ」

「え・・・やるのか・・・」

「あそこまで言われてやらなかったら・・・男なんかやってられねえぞ」

「いっそんもかっけえ」とアキ。

「はい・・・初めてかっけえいただきました・・・おらだって、やる時はやるど」

観光の目玉である海女漁の復活が最優先案件になったのである。

そして・・・やればできるのが・・・この世界なのだった。

「よし・・・そうとなったら・・・親ウニの獲得交渉だ」と組合長。

種市たち南部ダイバーたちは地元にいるものも、そうでないものも袖が浜に終結。

人海戦術による突貫海底工事に突入したのだった。

「男たちは全国から集まって来た。誰もが何かをしたいと思っていた。ただ何をしていいのか分らなかっただけだ。やるべきことが分かれば・・・金も資材も集まってくる。それがこの国のカタチなのである。種市は潜水した。そして・・・最初の瓦礫を撤去した。男たちの潜水服は海の底で輝き出す・・・」

どこからか聴こえるあのナレーションとともに・・・袖が浜海女漁復興プロジェクトは着々と進行するのだった。

白い鴎か 波しぶき

若い血潮が 躍るのさ

カップかぶれば 魚の仲間

俺は海の底 南部のダイバー

一方で日銭を稼ぐために海女たちはウニ丼量産体制に入るのだった。

名物「夏ばっぱのうに丼」復活である。ブランドは継続しなければ認知されないのだった。

うには銭銭~♪

うには銭~♪

いつでも夢を・・・

そして最終兵器「海女のアキちゃん」投入なのである。

もはや、うに丼が飛ぶように売れる「全国区のアキちゃん」なのだ。

もちろん、ヒビキ(村杉蝉之介)も駆けつけるのだった。

復興祈願列車で復興祈願うに丼。

この情報を素晴らしいインターネットの世界で発信。

たちまち・・・アキは復興祈願アイドルとして認知されるのだった。

もちろん、売名行為とののしられてナンボの世界なのである。

「今日はうに丼完売です・・・ありがとうございました・・・来週はレールウォークってイベントさやります。北鉄の復興祈願を願っておらと線路を歩きませんか~」

たちまち・・・釣られる観光客なのだった。

子供番組、受験のアイドル、大女優とダブル主演、トップアイドルと共演・・・アキのファン層はかなり広めなのである。ここに被災地復興の大義名分がつけば鬼に金棒なのである。

ヒビキが年季の入ったファンとして・・・嫉妬を感じるほど・・・新参者のアキちゃんファンは拡大していくのだった。

「出発進行~」なのである。

アキがヘルメット被って号令する・・・それだけでアホ可愛さの絨毯爆撃である。

錆びたレールの横にしゃがみこみアキは心をこめて枕木に「復興」を「祈願」するのだった。

「まめぶ~」の合図で記念撮影すればみんなの心は一つに溶けるのだ。

アキの活躍によって・・・北鉄の一週間の乗客数は千人を突破したのであった。

半分が観光客だとして・・・一人二万円を地元に落してくれたらそれだけで週に一千万円、月に四千万円、年間五億円の観光収入になるわけである。

当然、大吉たちの目の色が変わりはじめるのだった。

「これで・・・ミス北鉄が復活すれば・・・」と吉田は単純計算で十億円のとらぬ狸の皮算用を始めるのだった。

しかし・・・ユイは「私には・・・無理だよ」と頑なな姿勢を崩さない。

吉田は溺れるものは藁にもすがる気持ちでヒビキに期待して見る。

「ヒビキ先生からも・・・一言・・・たまわりたく・・・」

「場末のスナックで働く一人の少女・・・実は彼女は現役アイドルの誰にも負けぬ資質の持ち主だった・・・しかし、夢を果たせぬまま・・・今日も皿を洗い・・・ビールの栓を抜く。すべての事情を知りつつ、あえて声をかけず・・・遠くから見つめる・・・という今の状況・・・個人的にはそそるものがありますね・・・痺れるといっても過言ではない」

「なんじゃ・・・そりゃあ・・・」

おタク心とビジネスとはある意味、一方通行な関係なのである。

「私・・・今の自分に・・・不満はないんだ・・・。アキちゃんのおかげで田舎の良さにも気がついたし・・・チヤホヤされなくなったけど・・・陰口たたく人もいなくなって・・・みんな優しく見守ってくれる・・・私は・・・現状に・・・満足していると言ってもいいくらいだよ」

ポニーテール・ユイちゃんがかわいい方のかわいさを爆発させつつ・・・思わせぶりな態度を見せるのだった。

アキは迷う。

本当にユイちゃんは今のままで幸せなんだろうか。

いや・・・そんなことはねえ。

だって・・・おらのユイちゃんはもっともっと輝いて・・・。

ピカピカに光って・・・。

おらの一番星でなくっちゃいけねえんだ。

君とよくこの店に 来たものさ

訳もなくお茶を飲み 話したよ

あの時の歌は聴こえない

人の姿も変わったよ

時は流れた

金曜日 いつだって I Love You More than You 少しだけアマゾン(小泉今日子)

なんとか・・・ユイの心に凍結されたアイドル魂を解放させようとするアキ。

一方でユイは・・・初心なネンネのアキに大人の恋愛を焚きつけるのだった。

「アイドル」と「恋愛」の激しい小競り合いが続いていくのだった。

アイドル少女と恋愛少女の間で・・・ユイを待ちわびつつ、ユイに唆されるアキ。

一方でユイは・・・アイドルの夢とスナックのリアルの中で魔女としての素質を開花させようとしているようだ。

A面はまちぶせでB面は少しだけ片思いなのである。三木聖子かよっ。

八月の第二週・・・。謎に包まれたユイの誕生日だが・・・11月生まれのアキよりも先に二十歳に到達するわけである。

ユイが「私も一杯いただこうかしら」と言える日は近いのだ。

夏の「袖が浜海女漁最優先」の指令により、動かなかった復興計画が動き出し、結局、北鉄にも復興の兆しが生じる。

上機嫌の大吉は・・・「すべて・・・アキちゃんを快く送り出してくれた春ちゃんのおかげだべ・・・御礼を言いたいから・・・アキちゃん電話してけろ・・・」

「今か・・・寝てるかもしんねえぞ」

「今だべ・・・ユイちゃんも御礼を言うといい・・・なにしろ・・・悪の道から助けてくれたのは春ちゃんだからな・・・」

「そうなんだ・・・」と種市。

「そうさ・・・春ちゃんはなんだかんだいっても・・・北三陸の守護神なんだ・・・」

「はあ・・・」とストーブ。

「ユイちゃん・・・ウーロンハイ、おかわり・・・焼酎抜きで・・・」

しかし・・・すました顔でウーロンハイに焼酎を限度を超えて増量するユイだった。

その手際を歴史の目撃者・勉さんは見逃さなかった。

「ママ・・・寝てた・・・あのね・・・大吉さんが・・・」

「寝てたわよ・・・何時だと思ってんの・・・大体、あんたね・・・どんだけ楽しいか知らないけど・・・電話くらいしなさいよっ」

アキが大好きな春子は淋しくて不機嫌だった。もちろん淋しくなくても不機嫌なのである。

「あのね・・・大吉さんが御礼言いたいって言うからね」

しかし、ユイに一服盛られた大吉はすでに泥酔しているのだった。

「あ・・・ごめん・・・大吉さん寝ちまった」

「なんだってええええええ」

「ごめん・・・ママ・・・また電話すっから・・・うん・・・必ずすっから・・・おやすみ」

振り返るとカウンターからはユイも消えているのだった。

帰り支度も終えて、出口にワープしているユイ。魔女だな。明らかに魔女化しているのだな。

アイドルじゃなくて・・・魔法少女を目指すのかっ。

「お兄ちゃん、帰るわよ」

「でも・・・大吉さんが・・・」

「タクシー代、もったいないでしょ」

「でも・・・」

「チッ・・・気をきかせなよ」

漸く、ユイの意図に気がつくストーブはものすごく複雑な気持ちで妹に従うのだった。

スナック梨明日に残ったのは・・・酔い潰れて寝ちゃった人と・・・琥珀の人。

そして・・・恋人同士のアキと種市なのだった。

まあ・・・一回キスしただけの仲ですけどねえ。

のんびりとかまえて あなたは知らないの

恋する気持には 羽根がはえてる

二人は・・・店を出て喫茶側から駅舎へ。

そこでは・・・潜水士になるための勉強をアキが種市に教わった場所である。

「ここで・・・勉強を見てもらったべ」

「そうか・・・天野も一応、潜水士なんだな」

「んだ・・・先輩はどうだった・・・久しぶりに潜ってみて」

「うん・・・やっぱり海はいい・・・上手く言えないけど・・・潜ってると自分も動物なんだなって・・・思うって言うか・・・基本っていうか・・・宇宙っていうか・・・」

種市・・・口下手なのだな。

「やはり・・・北三陸の海が俺は好きだ・・・地元の人も思ったよりも元気だったし・・・それも天野のおかげかもしれねえな」

「そんなこと・・・言われたらおら、こっ恥ずかしいぞ」

「だけど・・・こっちでも天野のまわりにはいつも人が集まってる。東京でだってそうだった。なんつうか・・・お前と一緒にいると心がポカポカしてくるんだ・・・」

「・・・」

「そこへいくとユイは違う・・・」

ほかの娘のはなしを 平気でするあなた

わたしのやきもちを 楽しんでるの

プーメランみたいに 遠くへ飛ばしても

わたしがかえるって 思ってるのね

・・・という気持ちになるべきところを・・・素直に聞くアキちゃんなのです。

「ユイの笑顔が見たくなる・・・でも・・・アキといると・・・こっちが先に笑っちまう・・・だから・・・二人が組んだら最強なんだべ・・・上手く言えないけどな・・・」

それは・・・どう見ても・・・両手に花気分じゃないのか・・・種市とお茶の間かツッコミを入れると・・・。

「ビールに枝豆みてえか」

・・・とボケるアキ。どっちがビールでどっちが枝豆かはさておき・・・。

「太陽と月じゃないの・・・」と助言する勉さんだった。

「じぇ・・・」

「ああ・・・そうかもな・・・太陽と月・・・月を照らすために太陽があって・・・太陽に照らされるために月がある。アキが太陽で・・・ユイが月か・・・」

妙に納得する種市だった。

そして・・・結局、二人は何もしないで帰宅したらしい。

「なんだってえええええ」と朝から切れるユイだった。

ウニ丼制作後のひとときである。

喫茶リアス用のうに丼を仕入れに来たユイなのである。

「せっかく・・・二人きりにしてあげたのに・・・何なのよっ」

「でも・・・良い話もしたぞ・・・太陽と月とか」

「それ・・・勉さんの話っ」

「・・・」

「ごめんね・・・アキちゃん・・・おせっかいかもしれないけどね・・・もっと自分勝手でいいんじゃないかな」

「おら・・・割と勝手な方だけんど・・・」

「こんな田舎で・・・遠慮してたら・・・あっと言う間に・・・ああなっちゃうよ」

うに丼小屋から仕事を終えて出てくる弥生たち・・・ああな海女さんたち。

「ああ・・・なりたいの」

無遠慮に指さしておいて・・・。

「失礼しました~」と挨拶するユイだった。

「・・・」

初心なねんねのアキに苛立つ経験豊富なユイなのだった。

「種市先輩いつまでいるの・・・」

「お盆が終わる頃までって・・・」

背後で海女さんたちは「お盆明けのうに漁解禁が待ち遠しい話」をしているのだった。

「・・・ざっくりしてんなあ・・・・っ」

「・・・」

「私の事・・・甘く見ないでよ・・・アイドルは・・・あきらめたけど・・・女としてはむしろこれからだと思ってるから・・・アキちゃんの彼氏だと思うから今スイッチ切ってるだけだからね・・・すぐ入るからね・・・ユイのやる気スイッチは・・・」

再び、海女軍団を振りむき、挨拶をするユイ。

「失礼、しましたあ」

宣戦布告のような恫喝のような最後通牒のような略奪宣言のようなユイの励ましの言葉に震えが止まらないアキちゃんなのでした。

自分がかわいい事を知っていて実際かわいい女子に標準装備されているという「怖え~スイッチ」の存在を知ったアキは慄く。

そして・・・ユイとは別の意味でアキの心に深い傷跡を残すあの日の出来事が蘇るのだった。

ユイは種市の元カレだったのだ。

親友のユイのためにアキは大失恋したのだ。

「俺はユイが好きだ。ユイと付き合ってる。ユイとバリバリ恋愛中だ」

アキは錯乱するのだった。

「そんなのいやだあああああああああああああああああ」

走り出したら止まらないアキなのだった。

突堤で作業中の種市といっそんが目に入らず、いつものコースを失踪するアキ。

「あまの・・・おい・・・あまの」

逃げるアキを追うのは・・・種市ではなくて・・・何故かいっそんなのはこの世界のルールなのである。

「いやああああああああああああああ」

「あまの・・・どうした・・・あまの・・・・」

「やあだあああああああああああああ」

アキの踏み切り、跳躍、着水である。

「あまぞおおおおおおん」

何故か、天野がアマゾンと聴こえることをナレーターの春子が指摘しつつ、いっそんが仮面ライターアマゾンのポージングで踏み切り、跳躍、着水である。

茫然とするしかないもう一人の仮面ライダーだった。

Am024 プレハプ漁協で着替える二人だった。南部ダイバーシャツである。

「何があったか・・・知らねえけど・・・安心しろ・・・俺はずっとここにいるから・・・」

「種市・・・東京の仕事はいいのか」

「海の現状を知ったら・・・とても東京には戻れません。天野に潜れる海を渡してやりてえと思います」

「しぇ、しぇんぱい・・・」

「たねいち・・・」

しかし・・・そこで蘇る「戦慄のスイッチ」の恐怖。

「だめだ・・・先輩、とっとと帰ってけろ・・・近距離はだめだ・・・遠距離でないと・・・なるべく遠くへ逃げねえとスイッチが入ってしまう・・・とりかえしのつかないことになっちまう」

「あ、天野・・・どうした・・・しっかりしろ・・・」

「お取り込み中のところすみませ~」

「じぇ・・・」

ストーブに案内され・・・突然、姿を見せる「岩手こっちゃこいテレビ」のディレクター池田一平(野間口徹)だった。

「あ・・・あんたは岩手なんちゃらテレビの・・・」

「はい・・・覚えていてくれてありがとうございます。残念でしたねえ・・・潮騒のメロディー・・・いい曲だったのに・・・」

鈴鹿ひろ美・橋幸夫レベルのプライド合戦である。

池田はアキが北三陸に戻ってきたのを知って・・・さっそく「復興番組」の企画を立ち上げたのだった。

「アキちゃんを通じて東北の復興を全国に訴えたいんだ・・・」

「おらだけか・・・」

「できたら・・・ユイちゃんも・・・アキちゃんの口から口説いてくれないかな」

「お構いねぐ・・・あんまり・・・地元のためとか・・・東北のためって言われると違うっていうか・・・おらは自分勝手にただ海さ・・・潜りてえ・・・それだけでがんす。潜りてえから・・・海さ・・・おらの好きだった海さ・・・取り戻してえ・・・おらの好きな人たちが集まる海女カフェを復活させてえ・・・おらの好きな・・・(潮騒のメモリーズが歌って踊った)・・・かわいい電車を走らせてやりてえ・・・ただ・・・それだけなんです」

「だから・・・その想いを全国に伝えようよ・・・」

「違うんです・・・おら一人がやる分には構いません・・・でも、おら一人が頑張っているみたいなのは・・・違うんです。それじゃ・・・まるでユイちゃんが頑張ってねえみたいだ・・・そんな風に見えたら嫌なんです・・・おらだって・・・本当はユイちゃんと二人でやりてえ・・・でもな・・・ユイちゃんは戦ってるんだ・・・おらなんか・・・想像もつかねえ・・・ハードで恐ろしい目にあって・・・それを乗り越えようとしているんです・・・だから・・・説得だとか・・・そういうのは違うんです・・・無理強いなんかできねえんでがす」

池田は唖然とした。

しかし・・・種市にも・・・いっそんにも・・・ストープにもアキの想いは伝わったのだ。

そして・・・アホの子が一生懸命、いろいろと考えていることを知って・・・涙がこぼれそうになるのだった。

キッドは・・・このシーンはこのドラマの泣けるシーンベスト10にランクインすると思う。

アキのユイに対する「愛」が炸裂しているものなあああああっ。

だが・・・その頃、ユイは必死にアキを呼びだしていたのだった。

種市の携帯に着信がある。

「なんだ・・・ユイか・・・天野・・・ここにいるけど・・・替わろうか」

「もしもし・・・ユイちゃん」

「アキちゃん、どうしたのよ・・・何度も電話したのに出ないから心配しちゃったじゃない」

「ごめん・・・海に落ちちゃって・・・」

「駅に変な人が来てるのよ・・・吉田さんが・・・アキちゃんの知り合いじゃないかって」

「吉田です・・・なんか刑務所帰りの小林薫っつうか・・・小林稔侍っつうか・・・小林感半端ねえ・・・さすらいのブラック・ビート・ライダーっつうか・・・グルーヴ感漂いすぎっつうか・・・力医師っつうか、暗い明るいっつうか、ミサイルっつうか、とにかく・・・さっきからウニ丼食べまくってます」

「だから・・・アキちゃん・・・早く来てよ」

ユイにそう言われたら・・・とにかく行かねばならないアキなのです。

好きだったのよあなた 胸の奥でずっと

もうすぐわたしきっと あなたをふりむかせる

あなたをふりむかせる

土曜日 まめぶ大使召喚、ダイバー騎士召喚、スシ大将返却、そして琥珀王子召喚(松田龍平)

アキを守護する第三の天使・無頼鮨の梅さん(ピエール瀧)に怯えるユイ。

かけつけたアキは梅さんの登場に驚くのだった。

「なして・・・梅さん・・・なして・・・」

「すみません・・・」と謝るのは種市だった。

種市は無断で北三陸に戻っていたのだった。

しかし・・・もちろん・・・梅は種の気持ちがわかっていた。

種なしの方が面倒くさくはないが種をなめる楽しみがないのだ。

・・・もういいか。

「なんにも・・・言うな・・・お前の気持ちはわかっている・・・こんな美味しいうに丼があるんじゃあ・・・しょうがねえ・・・お前はここでがんばれ・・・種市をよろしくお願いします」

非力ながら種市を庇おうとしたいっそんに男を感じた大将だった。

「お・・・おう」

そして・・・北三陸市に48分滞在した大将は・・・うに丼七つを食し・・・黒いライダースーツに身を固め十時間かけて東京に帰って行ったのだった。

アキはちょっと面白かったらしい。

アキは「岩手こっちゃこいテレビ」の「震災復興ドキュメンタリー」に出演していた。

「せっかく帰って来たけど・・・海にはウニがいませんでした。でも・・・みんな必死で北三陸の海を取り戻そうとがんばっています。袖が浜の港にはまだ漁船が一隻もありません。でも・・・必ず・・・船は帰ってくる・・・そう信じて待ってます。お盆があけたら・・・ウニ漁が再開されます・・・おらもウニを取って取って取りまくるぞーっ・・・そして・・・流されちまった海女カカフェをいつの日にか復活させるぞーっ・・・復興祈願の海女のミサンガに願いをこめるのでがんす」

その模様を撮影するストーブ。

ストーブの背後まバラックでは海女たちが「海女のミサンガ」を編んでいる。

その中に・・・ユイの姿があった。

「ユイちゃん・・・それじゃ緩すぎるぞ」とかつ枝。

「気持ちが入ってるから・・・これでいいんです」と甘えるユイ。

「ユイちゃん・・・まめぶ汁できたぞ」と言われ微笑むユイ。

安部ちゃんのまめぶ汁は日本一なのだ。

ユイの中でゆっくりとほどけていく絶望。

ストーブは漏れ聞こえる海女たちの歓声を耳にして密かに祈るのだった。

「がんばれ・・・ユイ・・・がんばれ・・・アキちゃん」

その頃、純喫茶アイドルでは正宗が婚姻届の証人を甲斐さんに依頼しているのだった。

「いやあ・・・親父の遺言で・・・保証人だけは・・・」

「保証人じゃなくて・・・証人です」

「でも・・・君の分しか書いてないじゃない」

「春子さんをびっくりさせたくて・・・」

「春ちゃん・・・びっくりするのかな・・・」

その時、台風18号なみの剣幕で来店する春子。

「あれ・・・春子さん・・・一人じゃないの・・・」

「緊急事態なのよ・・・」

「え・・・」

「水口、会社やめるってさ」

「ええー」

辞表を提出する水口。

「これ・・・中身は・・・」

「え・・・辞表って・・・中になんか入れるんですか・・・」

「・・・」

これが・・・ゆとり世代なのか・・・と春子と正宗は実感するのだった。

バカか・・・正真正銘のバカなのか。

アホの子のマネージャーはバカだったのか。

不機嫌が渦を巻く春子だった。

「辞める理由をはっきり言ってみなさいよ」

「・・・仕事が面白くないんです」

「なんだってえ」

「仕事がつまらないんです」

「・・・」

「鈴鹿さんにはなんの問題もないんです。っていうか・・・問題がなさすぎるんです。僕は・・・ずっとアイドル発掘担当だったんです・・・原石を磨いて輝かせる仕事です。鈴鹿さんはもう・・・すっかり輝いていて・・・僕の出る幕なんかないんですよ・・・」

「君が・・・アイドルが好きだって言うのは・・・分るよ。でも・・・仕事なんてそういうものじゃないのかな。好きなことして食べていけるほど世の中は甘くないよ。でもさ・・・遠回りでもさ・・・走り続けているうちになんか思わぬ拾いものしたりとかさ・・・そういうこともあるんじゃないのかな・・・ついたところが目的地っていうか」

正宗の言うこと全否定モードで待機する春子だった。

「なにそれ・・・遠回りとか・・・とにかく続けろとか・・・なんかみつかるとか・・・結局、逃げてるんでしょ・・・やりたいことから目をそむけてるんでしょ・・・万事お任せ風な電波少年かよっ・・・やってるようにみせてやらせてんのかよ」

「・・・」

「水口、あんたの目的地ってどこよ」

「・・・」

「分ってるわよ・・・お座敷列車でしよ・・・」

アイドルにかかわること。アイドルに関する知識。アイドルにかかわるものの心のうち。

それに関しては全知全能の神である・・・春子なのだった。

水口は神妙に・・・永久保存版の「お座敷列車の潮騒のメモリーズの記録」を取り出すのだった。

それを・・・マスターの専用モニターにセットする水口。

マスターの甲斐さんは興奮するのだった。

「なに・・・なにこれ・・・熱いよね・・・ここにいたいよねえ・・・ここにいたかったなあ」

「未熟だけど・・・心から歌って踊ることを楽しんでいるアキちゃんとユイちゃん。そして・・・屈託なく・・・それを心から楽しんでいる田舎の皆さん・・・これが・・・これこそが僕の目指すエンターティメントなんです」

「・・・」

「北鉄が・・・止まったって聞いて・・・もったいないと思ったんです。だって・・・線路がつながればお座敷列車は日本全国どこだって走れるんですよ・・・」

「あんたも・・・北へ帰るのね・・・」

「・・・」

「いいわ・・・おゆきなさい」

「いいの・・・春子さん・・・」

「心ここにあらずの人にいてもらっても仕方ないでしょう・・・去るものは・・・追わず・・・よ」

「・・・」

こうして・・・水口は北三陸市に旅立ったのであった。

その夜の黒川家。

天野の印鑑を捜す・・・春子。

正宗がふと見ると・・・テーブルの上には婚姻届がおかれていた。

「あった・・・あった」

春子は記入を終えて捺印した。

「さあ・・・書いてよ」

正宗は泣き出すのだった。

「もう・・・泣かないでよお」

春子は笑った。

水口は天野家を訪れていた。

「そういうわけで・・・恥ずかしながら戻ってきました」

「来るものは拒まずだ」と夏。

「でも・・・生活はどうすんだ・・・仕事ねえぞ」とアキ。

「それは・・・考えていることあるから・・・」

「そうか」

「そうそう・・・春子さんと正宗さん再婚するみたいだよ」

「そうか・・・」

「そこはじぇじぇじぇ・・・じゃないんだ・・・」

「あの二人は最初から夫婦だもの・・・今更、天野でも黒川でも変わらねえ」

「北三陸は離婚率の高さとワカメの収穫量で有名なんだ」とお国自慢をする夏。

微笑んで頷くしかない水口だった。

そこへ・・・その日編まれたミサンガを届けに来るユイ。

「やあ・・・久しぶり」

「・・・」

ヤンキー時代の終焉間際・・・アキを迎えに来た水口とユイが一瞬の邂逅をしてから・・・一年半以上の年月が流れていた。

北三陸市に新しい風が吹き始めたのだった。

はたして・・・ユイは二十歳までにデビューすることができるのか・・・。

そして・・・眠れる森の美女にキスするのは・・・。

まあ、来週はもう2012年になっちゃってるみたいですけど~。

関連するキッドのブログ→第23週のレビュー

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2013年9月14日 (土)

夏の夜の感染~悪霊病棟(夏帆)

恐怖とは変化する心身である。

身体と精神は連動することで複雑な変化の様相を示す。

恐怖を一面的にとらえてはならない。

恐怖の不利だけを見て有利を見ずにいると恐怖の本質を見逃すことになる。

明るい場所から暗い場所に、昼から夜に変化することは恐怖の質を高めるが、明るい場所だからこその恐怖、白昼ならではの恐怖もある。

おそろしいものを見せる時には光源が必要だが、見せないことで恐怖が増すこともある。

恐怖から目をそらすものには出るべき時に出さずに出ないところで出すという臨機応変さが求められ、目をつぶってしまったから余計に恐ろしい事に遭遇するという徹底追及の姿勢も要する。

目はつぶっても耳はふさげないことがある。手で耳をふさごうとすれば手がなくなっているという恐怖もある。

日常的なものからグロテスクなものへの移行には加減が求められる。

あまりにも特異であると恐怖を通り越してお笑いになってしまう場合がある。

「この世には人知の及ばないものがある」がスーパー・ナチュラル・ホラーの基本だがあまりにも人知を超えると意味不明になる。

「情け容赦がない」のも大切だが過ぎれば無感動になる。

「最後の武器は勇気や愛」もあってもいいが過ぎればお涙頂戴ものである。

「廃墟」は恐怖のある場所だがありがちである。

「幽霊」は勧善懲悪や偽善の温床になりがちである。

「断崖絶壁」で飛び下りるのはある意味、反則である。

常に変化する「恐怖」の本質を忘れてはいけない。

安堵こそが恐怖のスタートラインなのである。

で、『病棟~第8号室』(TBSテレビ201309130058~)脚本・鈴木謙一(他)、演出・鶴田法男を見た。脚本家は複数編成だが、鈴木謙一に限って言えば映画「仄暗い水の底から」(2001年)やドラマ「イロドリヒムラ・第7話・張り込み」(2012年)などで中村義洋監督とのコンビネーションでいい味出している感じの人である。もう少し、なんとかならなかったかと思うが要するに連続ドラマに不慣れなんだな。だから終盤はそれなりに面白くなるのかもしれない。いくら裏切られても期待するのが悪魔の本質というものである。そういう意味では連続ドラマの素人集団が作ってるんだなあ・・・これ。

今回、「貞子のようなもの」を出してきたまだが・・・その路線に走ったら「天魔さん」には絶対に勝てないと断言できる。

また、劇中で「祓い師」という言葉が使われているが、ノベルで「祓い師」と書かれれば通じるが・・・「はらいし」というセリフは成立しない。「原石」という人名、病院が舞台だけに「原医師」にも通じてしまう。

少なくとも・・・。

「払い師がいたのだ」

「はらいし・・・って」

「お祓いする人だよ。拝み屋とか、祈祷師とかその類だ・・・クリスチャンならエクソシストだよ」

「ああ・・・」

このぐらいの説明は要すると考える。

また・・・この場合の「払い師」は「霊能力者」のニュアンスがあるので・・・「霊的な力」についても言及があってしかるべきだろう。

聞き間違えたら「なぜここにFUJIWARAの原西孝幸がからんでくるんだ・・・?」と誤解を招きかねないのである。

・・・それはお前の耳が遠いからだろうがっ。

琉奈(夏帆)の「不思議な力」で急場をしのいだ研修医・朝陽。

ちなみに演じるのは大和田伸也と五大路子の息子で、大和田悠太の弟で、大和田獏と岡江久美子の甥で、大和田美帆の従弟である大和田健介(22)である。

そのお坊ちゃんな感じが病院の跡取り息子感だけは漂わせまくっていると言えよう。

「ごくせん」だとか「龍馬伝」など有名作品のチョイ役でキャリアを積んでココである。

夏帆の相手役として申し分ないのかどうかは・・・すごく微妙なんですけど。

一方の夏帆は「みんなエスパーだよ!」のおバカなヤンキー少女から一転、不気味ちゃんの眼鏡っ娘で芸域を広げているわけだが・・・もっと王道でいいんじゃないかとも思います。

朝陽は隈川病院旧病棟の秘密を探るべく、テレビ番組の三流ディレクター・斑目(鈴木一真とともに最上階の封印された部屋を探索する。

しかし、外観からそこにあるべき場所にはただ壁があるだけだった。

「扉なんて・・・ないじゃないか」

「でも・・・なんだか冷気を感じませんか」

「この壁だ・・・すごくひんやりしている」

「その壁に触れてはいけない」

振り返るとそこには朝陽の父親で隈川病院長の隈川圭太(春田純一)が立っていた。

「仕方ない・・・お前には話をしよう・・・しかし、部外者のあなたにはお引き取り願いたい」

斑目は不満を押し隠し、一時撤退を承諾するのだった。

朝陽の口を割らせるのは簡単だと考えたからである。

院長室の二人。

「この病院は明治時代(1868~1912)に宮守元吉(麿赤兒)が作ったのだ・・・それを弟子だった私の父が引き継いだのだ。父が生まれる前の明治時代に「ミツの祟り」と称される謎の伝染病が流行したらしい。お歯黒のように歯が黒くなり、上あごから黒い牙状突起が発生するという奇病だった。その感染源がキヌだった。今から五十年前、私が六歳の頃に・・・キヌの呪いが復活し・・・今のような怪奇現象が頻発した。その呪いを払うために祓い師がやってきた。祓い師は旧病棟の最上階にキヌを封印することに成功した。しかし・・・祓い師もまたキヌの呪いを受けてしまったのだ。霊力の強いものが呪いにかかるとその禍々しさは増幅されてしまうらい。そこで祓い師は感染の拡大を防ぐために・・・自ら命を絶ったのだ・・・まさに刺し違えだった・・・幼い私にとってそれは夢のような出来事だった」

「しかし・・・キヌは滅んではいなかったのですね」

「そうだ・・・尾神琉奈という霊力の強いナースの出現によって・・・キヌは封印を解くチャンスをつかんだようだ」

「・・・」

「だから・・・私は尾神くんにこの病院を去ってもらうことを懇願したのだ・・・尾神くんは同意してくれたよ・・・」

「なんですって・・・」

「お前が彼女に好意を持っているのは知っている・・・しかし、彼女のことは忘れるしかない。呪われた病院の後継者と霊力の強いナースの交際は相性的にいいとは言えないからだ」

「そんなあ・・・」

いつの間にか、琉奈(夏帆)の虜になっていた朝陽はあわてて、彼女の部屋を訪ねるのだった。

旅立ちの準備をしていた琉奈は血相を変えてやってきた朝陽に戸惑う。

「どうしたのですか・・・」

「いかないでくれ」

「しかし・・・私がいると・・・キヌが暴れるのです」

「でも・・・君がいなくなったら・・・僕がダメになっちゃうんだよ」

「先生・・・」

「朝陽って呼んでくれよお」

「あ・・・朝陽・・・」

辛抱たまらず・・・朝陽は琉奈の唇を貪りだすのだった。

どう考えても処女の琉奈だが・・・激しく応ずるのだった。

夏帆・・・そこは役作りとしてどうなんだ。

しかし・・・不意にキスを止める朝陽。

その後の展開から・・・朝陽の舌が琉奈の口腔内に何か異物を探り当てた可能性がある。

突然、態度を変えた朝陽は「ごめん・・・病院に戻らないと・・・」と言い残し、いろいろな意味で覚悟を決めかかった琉奈を置き去りにして去って行くのだった。

どうしていいのか途方に暮れた琉奈は父親を頼るのだった。

琉奈の母の残したお守りによってナース鈴木(川上ジュリア)に憑依したキヌは祓われたが・・・病院の怪異現象は収まる気配を見せなかった。

ナース間米(島崎亜美)は「階段の天井にジャージ来た男子が立ってます」と震え、ナース常磐(野口聖古)は「患者さんが黒人の幽霊に噛まれたと言ってます」と告げ、ナース佐々木(伊波麻央)は「病室でベッドやイスが勝手に動くんです」と叫ぶ。

主任ナース木藤(森脇英理子)の元へはナース鈴木から電話が入る。

「私・・・思い出しました・・・旧病棟の最上階の奥の部屋に黒い歯の怪物がいて・・・私、噛まれたんです・・・そして・・・尾神さんに助けてもらった時、私、尾神さんを噛んでしまった・・・」

「なによ・・・それ・・・噛まれたら感染するの・・・そんな狂犬病みたいな・・・」

怯えるナースたち。

「みんな・・・しっかりして・・・私たちの相手は死人じゃなくて・・・生きている患者さんなのよ・・・オバケがこわくてナースの仕事が務まると思って・・・」

一番こわがっているのは木藤主任なのである。

そこへ・・・初老の男性患者がやってくる。

「エレベーターで・・・女子高生(田中明)に噛まれた・・・ああ、驚いた・・・嘘じゃないよ・・・歯形がくっきり残ってる」

気絶しそうなのを必死にこらえる木藤主任だった。

琉奈は父親の辰夫(嶋田久作)と邂逅した。

「どうやら・・・その時が来たようだ」

「その時って・・・」

「母さんは・・・お前を普通の娘に育てろと私に頼んだのだが・・・血は争えないものだ」

「・・・」

「母さんは一流の祓い師だったのだ。そして・・・お前の幼い頃に・・・魔物との戦いに敗れて死んだんだよ」

「そんな・・・」

「お前のお守りは・・・母さんが丹精込めて作った祓い道具なのだ」

「うそ・・・」

「ちょうど・・・お父さんの右肩に貞子のような邪霊が憑依(とりつ)いている・・・お前なら見えるだろう・・・」

「見える・・・見えるよ、お父さん」

「さあ・・・そのお守りで祓ってくれ」

「・・・」

簡単に祓われる貞子のような邪霊。

「できた・・・できたよ・・・お父さん」

「お前も・・・今日から祓い師だ・・・お祓いナースとして生きていきなさい・・・一応、母さんの形見の祓い師衣装もあるしね」

「・・・」

「行け・・・お祓いナース琉奈・・・可及的速やかに悪霊を退治するのだ」

「帝都・・・物語みたい・・・」

「我を崇めよ・・・とは言わないよ・・・とにかく・・・衣装きてみなさい・・・父さん、結構楽しみなんだ」

急展開である。・・・っていうか、もはやなんか違うドラマになっちゃってますけれどーーーっ。

関連するキッドのブログ→第7話のレビュー

シナリオに沿ったレビューをお望みの方はコチラへ→くう様の悪霊病棟

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2013年9月13日 (金)

SUMMER NUDE的魔女伝説はキスのハードルさげまくり!(小島藤子)

水曜と木曜日の落差激しすぎるな。

そして、ついに月曜日と木曜日が交錯するのだった。

いきなり、「みさき潮騒ビール」の看板・・・一倉香澄(長澤まさみ)ヴァージョンでスタートするのだ。

しかも、みさき海岸ではなくて熱海なのである。

ライン越えすぎだろ・・・。

だが・・・こちらではピチピチの女優たちがそれなりの水着を着て・・・リアルで充実した十代の青春の姿を見せてくれるのだった。

みんなちゃんとおヘソを見せてくれるのだ。

月9の人たちは完全におちょくられています。

とりあえず・・・叫んでおきたい・・・「山田くんと七人の魔女」万歳と。

で、『山田くんと7人の魔女・第5回』(フジテレビ201309072310~)原作・古河美希、脚本・小川真、演出・高丸雅隆を見た。要するにあれなんだよな・・・西内まりや(19)、美山加恋(16)、大野いと(18)、小島藤子(19)には出せるものが香里奈(29)には出せないということなのだな。時が流れていくからだな。

とりあえず・・・キッドの中では西内まりやの好感度は急激にアップなのだった。

そして、「僕と彼女と彼女の生きる道」(2004年)の凜ちゃん(美山加恋)がこんなに大きくなっちゃったか・・・と親戚のおじさん気分にひたるわけである。

そして、大野いとのくびれにうっとりなのだった。

若いって素晴らしい。

もちろん、小島藤子のちょっとだらしないボディーもいいぞおっ。

トリンドル玲奈(21)は微妙だぞおっ。

・・・もういいか。

猿島マリア(小島藤子)に「ここにいては危険」と予言される山田くん(山本裕典)が女生徒のお尻を触ってこてんぱんにされるコントあって。

「実はキスした相手の未来が見える」という能力があることをマリアから告白される山田くん。

山田くんがあっさり信じるので不審に思うマリア。

この学園には何故か七人の魔女がいて・・・その秘密が魔女伝説ノート上下巻に記されていると告げる山田くん。

キスした相手の過去が見える魔女・滝川ノア(松井愛莉)から生徒会室に「下巻」があったと教えられた山田くんは捜索を開始する。

しかし、「下巻」の所有者であるなんちゃって高校三年生の生徒会長・山崎(徳山秀典)に咎められ、ヤンキーの宿命である「海辺のごみ拾い」を命じられるのだった。

そのために・・・熱海の海岸にやってきた山田くんだった。

入れ替わりの魔女・うらら(西内まりや)、テレパシーの魔女・芽子(美山加恋)や朱咲高校超常現象研究部の虎之介(井出卓也)と伊藤雅(トリンドル玲奈)も便乗して熱海の別荘で合宿をする。そして「例の水鉄砲」で楽しい時を過ごすのだった。

しかし、山田くんは次期生徒会長の座を狙う虜の魔女・小田切寧々(大野いと)に監視されているために夏の海を楽しめないのである。

最初の夜・・・マリアの能力を確かめるためにキスをした山田くんは・・・うららが出血して倒れている未来のビジョンを見てしまう。

合宿は中止となり・・・うららの未来を改変するために・・・山田くんたちは総力を結集するのだった。

ビジョンを共有するために・・・絵を書く山田くんとマリアだが・・・絵心がないために・・・そこでマンガ家志望の芽子にキスをして・・・テレパシーでビジョンを送るのだった。

そして・・・現場に誰がいたかを確認するために・・・未来透視をコピーした山田くんはメンバーとキス。

伊藤雅、マリア、芽子はいるが・・・虎之介は現場にいないらしい。

校内を捜索して・・・事故現場を特定した一同。

後は・・・その時を確定しなければならない。

うららを守るために必死の山田くんは現場近くで練習中の卓球部の男子部員や顧問の遠田先生(小松利昌)とも熱烈キスをする破目に陥るのだった。

そんな・・・山田くんを気遣ううらら。

二人の関係をうらやましく思うマリアだった。

実は・・・マリアは恋人の怪我を予知したにも関わらず、信じてもらえなかった上に結局、ケガをした恋人からモンスター扱いされて失恋していたのだった。

必死でうららを守ろうとする山田くんにシンパシーを感じるマリアなのである。

にわか雨に襲われたうららは制服を着替える。

そのスタイルは・・・予知された姿だった。

そしてうららの受ける模擬試験の会場は件の階段の近くだったのである。

予知された未来の改変は不可能なのか・・・。

その時、山田くんは予知した音をとらえる。

それはバスケットボールの弾む音だった。

バスケ部の冒頭がうららを直撃し・・・うららを階段に弾き飛ばすのだった。

しかし、間一髪、うららを抱きとめてキスによる人格チェンジをする山田くん。

山田くんとなったうららは頑丈なので無事、うららとなった山田くんは受け身をとる。

こうして・・・未来は改変されたのである。

喜びに沸く一同。こうして、マリアも彼らの一員となったのだった。

「そうだ・・・今夜は花火をしましょう」と告げるうらら。

「なんで・・・」

「だって・・・山田くんがしたがってたから・・・」

うららはどうやら・・・山田くんに・・・お熱なのだった。

花火に興じる仲間たち・・・。

「月9みたいな花火じゃないよね・・・」

「でも・・・月9より・・・なんだか楽しいじゃないか」

蛇花火が八岐大蛇のようにのたうつのを見ながら、虎之介と伊藤雅は意味深な会話をするのだった。

山田くんはうららと話し合う。

「魔女の能力があるのは楽しいけど・・・好きな人とだけキスしたいって気持ちもあるよね」

「そうねえ」

うららははにかむのだった。

そして・・・「下巻」を読んだことのあるノア(松井愛莉)に呼び出された山田くんは・・・「魔女の力を消す魔女」がいるらしいと告げられるのだった。

果たして・・・それは誰なのか。

候補の一人は妖しい生徒会秘書の飛鳥美琴(小林涼子)なのである。

なんだかんだ・・・女生徒のメンバー、選び抜かれているなっ。

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小公女セイラ

スプラウト

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2013年9月12日 (木)

乾いた博物館と匂う動物園と試供品のワインと台風9号と永遠の絵日記とWoman(高橋一生)

満島ひかりじゃないのか・・・小栗旬も捨てがたく、髙橋來とか三浦貴大もあって・・・もう・・・笑いながらひっくりかえった澤村先生(高橋一生)が世界の中心にいたかなって思いまして。

ま・・・ささいなことだけどな。

さて・・・田中裕子という女優を軸にすれば・・・「Mother」(2010年)とこの作品は対になっているわけだが・・・。

「あの日」以後の・・・脚本家・坂元裕二の連続ドラマについて考えてみると・・・。

「それでも、生きてゆく」(2011年)、「最高の離婚」(2012年)と来てコレなのである。

「それでも、生きていく」で殺人事件の被害者華族である男(瑛太)が加害者家族の女(満島ひかり)に「ワールドカップで日本中がやったって思ったとき・・・やったって思いましたか」と訊き、「思えなかった」と答えるシーンがあった。キッドの中では・・・この会話は原発事故犠牲者家族とそこになんらかの責任のある者の家族の暗喩だったように思う。原発事故では一人の死者もでていないという統計もあるが・・・原発事故がなければ今も生きている人は少なくないはずである。

あくまで・・・キッドがそう妄想するという話である。

「最高の離婚」はもっと直接的であの日の帰宅難民だった男(瑛太)と女(尾野真千子)が結婚してからの話である。直接的な言及がある分・・・人々はある程度、お気楽で能天気に生きていく。うっかりと責任を忘れていく人々のそれでも、生きていくなのである。

今回は事故死した男(小栗旬)と・・・その妻(満島ひかり)と事故の原因を作った異父妹(二階堂ふみ)が葛藤する。

事故が起きない未来もあったはずだが・・・現実は一本道で進んでいく。

政権交代が起きたことは、ある意味、重大なチャンスだった。「想定外の津波」も「電源の喪失」も実は想定内だった。その一点さえ・・・クリアできていれば・・・千年に一度の災害は・・・単なる悲劇で済んでいたかもしれない。

しかし・・・絶対に安全なものが想定以上に危険だったことが判明した現在。

本来なら愛すべき同胞を憎み、本来なら慕うべき同胞に償う術のない関係をもたらした「とりかえしのつかないこと」はもはや普遍的な人間関係の礎なのである。

キッドは栞はメルトダウンした原子炉だと妄想する。栞の父は電力会社。栞の母は政府であると妄想する。

それでも、生きていく・・・のだが・・・。

ドラマでは・・・栞がドナーとなることで小春の再生不良性貧血に希望の光が差す。

しかし・・・現実では・・・汚染水は海を汚し、夏の寒き森からはネズミが消え、ツバメの毛は白くなる。

そして・・・生まれ育った土地を追われた人々は呪いの言葉を吐く。

だから・・・現実の栞の父親はフランスパンやエスカルゴの話をしたりしてはいけないのである。

キッドにとって「Woman」はそういう話なのだった。

で、『Woman・最終回(全11話)』(日本テレビ20130911PM10~)脚本・坂元裕二、演出・水田伸生を見た。異父姉の青柳小春(満島ひかり)の夫・信(小栗旬)が死んだ原因を作った植杉栞(二階堂ふみ)は漸く、小春が再生不良性貧血を発症していることを知り、骨髄移植のドナーとしての適性検査を受ける。そして・・・小春の娘・望海(鈴木梨央)が新学期を迎えた数日後・・・その判定結果が出る青柳家と植杉家の長い一日が始ろうとしていた。

雷鳴が鳴り響き、豪雨の降る夜の嵐。

子供たちを寝かしつけた小春は窓から外を窺う。

そして「うひひひひ」と笑うのだった。

嵐の夜は小春に遠い幸福な記憶を呼び覚ましていた。

翌朝は嵐の後の爽やかな朝だった。

彼岸の前なので残暑は残り、大気は不安定だが・・・秋の気配が感じられる。

陸(髙橋來)は庭で歯を磨く。小春も歯を磨く。望海も歯を磨きながら庭に降りる。

「おはあはん、ほふほふがはいたよ」

「まあ・・・ほふほふが」

「ほふほふ~」

コスモスが咲き誇っている。

陸がパンが食べたいと言ったので朝食はパンだった。

「パンだと朝ごはんを食べた気がしないなあ」と贅沢を言う健太郎(小林薫)だった。

「お味噌汁でも作りましょうか・・・」と母親の紗千(田中裕子)の夫に気兼ねする小春。

「いや・・・僕は留学中は毎日フランスパンだったんだ」

「留学なされてたんですか」

「自慢話が始るから聞かない方がいいわよ」

「僕は若い頃、パリで暮らしてたんだ」

土地付きの家で暮らす健太郎はおそらくテーラー植杉の二代目なのだろう。

花の都で最新技術を学んだ仕立屋の息子。しかし、日本に戻れば仕立屋そのものが時代遅れのものとなっていたのだった。

「エスカルゴも食べたよ」

「エスカルゴってなあに」

「蝸牛さ・・・でんでんむしむしかたつむりさ」

「おえっ」

「おえーっ」

「ええーっ、凄くおいしいんだよ」

「お母さん・・・エスカルゴ食べたことある・・・」

「ないなあ・・・」

「お母さん・・・エスカルゴ、食べちゃ駄目だよ」

「ええーっ」

ナマケモノこと健太郎は世間の風当たりというものを根本的に理解できないタイプなのである。

お坊ちゃんだからだ。

小春は望海を学校へと送り出す。

「お母さん、問題です」

「え・・・」

「望海のものなのに使うのはお母さんの方が多いものはなんでしょう?」

「えー」

「わかる・・・?」

「陸・・・わかる?」

「わからなあい」

「考えといてねえ・・・いっいきまあす」

「いってらっしゃあい」

ファイルを整理する澤村医師に声をかける研修医・砂川藍子(谷村美月)・・・。

「今日ですよね・・・青柳小春さんの妹さんの検査結果・・・」

「うん・・・昼過ぎに届く・・・妹さんは16時に来る・・・」

「期待されてるでしょうね」

「しかし・・・適合しないこともあると説明してあるから」

「でも・・・」

「適合するといいよねえ」

シングルマザー仲間の蒲田由季(臼田あさ美)が小春からの預かり物を返しに来る。

その中には信の遺品がある。

すべてを隠蔽しようとした紗千が・・・栞のために遠ざけた信の在りし日の姿。

しかし、人の口に戸は立てられなかった。

すべては明るみに出て・・・信の写真も押入れから解放されたのだった。

信は水とキャラメルと花を供えられた。

「それにしても小春さんは読書家ですよね」

「そうでもないよ」

「いやいや・・・食べられる野草までは想定内ですけど・・・食べられる昆虫は想定外ですよ」

「単に・・・追い詰められていたのよ」

消費期限切れの素麺ランチ・パーティー。

老夫婦と、由季と、小春と陸は食べきれない。

世界の飢えた子どもたちのための罰ゲームを科せられる小春。

「笑いながら怒る人をやります」

「こら、なんだおまえは・・・このやろ・・・たけしじゃないぞ・・・けしからんやつめ」

「・・・なんで・・・笑いながら怒ってるの」

竹中直人は全否定されるのだった。

慎ましい昼食だった。

澤村医師はコンビニのおにぎりを食べていた。

「チャーシューメンマ鳴門ホウレンソウネギ入りか・・・ラーメンかよっ」

「私・・・離婚することにしました」

「そうか・・・息子さんどうするの」

「病院には御迷惑をおかけしませんから」

「いや・・・ナイトシフトとか・・・ローテーションに問題があったら言ってくれ」

「ありがとうございます」

栞は小春を訪ねていた。

「結果が出る前に・・・一言・・・謝罪させてください」

「・・・」

二人は神社に言った。

近所の飼い犬である大型犬を挟んでベンチに腰掛ける二人。

「私・・・夢を見ています」

「・・・」

「二つ、選べたんです」

「・・・」

「痴漢です・・・って言うのと・・・お兄さんって言うの」

「・・・」

「選ばなかった方の夢を見ます」

「・・・」

「私、あなたの奥さんの妹です・・・こんな風に家に来られると迷惑なんですって」

「・・・」

「そういうと・・・お兄さんは・・・そうか、君が小春の妹さんか・・・今度、家に遊びに来てよって・・・」

「そうね・・・あの人はきっと・・・そう言うわ」

「君はきっと・・・小春と仲良くなれるよ・・・小春と君はきっといいお姉さんと妹になるよ」

「今日、君の妹に会ったよ・・・君にちょっと似ているよ」

「僕たちはきっと良い家族になれるよ」

「そうね・・・そしたら私たち、きっとすごく幸せだったでしょうね・・・でも・・・あなたは違う道を選んじゃったの・・・爆発して・・・毒の雨を降らして・・・何もかも台無しにしちゃったのよ」

「ごめんなさい」

「あなたを・・・許せるかどうか・・・わからない」

「許してくれなくてもかまいません・・・ただ・・・もし・・・私がドナーになれたら・・・手術の時だけ・・・妹にしてほしいんです」

「・・・」

「いってきます・・・」

「・・・」

砂川藍子は砂川 良祐(三浦貴大)から離婚届けを受け取っていた。

「ごめんなさいね」

「君があやまることはないよ・・・」

「あっという間だったわね」

「母性っていうのは・・・結局、幻想だったよね。母性とか父性とか・・・そんなのは・・・結局、分業の話で・・・共同作業の話じゃないもんな・・・」

「最初の食事がファミレスとかみじめだったわ」

「だって・・・あの頃は学生だったから」

「最初のデートがこんにゃく工場の見学っていうのもなんだかだったよ」

「そういうのが逆におしゃれかと思って・・・」

「いいのよ・・・そういうあなたの思い込みが素敵だと思ったこともあったわけだから・・・」

「・・・」

「ただ・・・もう・・・うんざりしちゃったの・・・それだけよ」

「・・・」

男のわがままが許される罪だった時代は終焉したのである。

二人の子供である舜祐(庵原匠悟)が父親を反面教師として女心の判る男になるのか、行き過ぎて女そのものである同性愛者になるのかは不明である。

夕立がやってきた。

あわてて、望海を蛇の目でお迎えしようとする小春。

しかし、スコールの中を望海は狂喜しながら帰ってくるのだった。

「お母さん、凄いよ、なんか凄いよ」

「望海、凄いね、なんか凄いね」

「ウォータースライダーみたいだよ」

「ウォータースライダーみたいだね」

「一度しか乗ったことないけどね」

「一度しか乗ったことないよね」

「二人とも・・・何してるの」

お母さんのお母さんに叱られるお母さんとお母さんの娘だった。

澤村医師は喜びのあまり・・・イスをひっくりかえしていた。

栞は震えがとまらないのだった。

電話を取った紗千は言葉を失った。

「どうした・・・どうだったんだい」

頷くしかない紗千。

「ばっちりだったのかい」

頷く紗千。

「ばっちりだったのか」

健太郎は紗千を抱きしめた。肩の荷が下りたのだ。

「よくやった・・・えらいぞ・・・しーちゃん」

健太郎も人の子で親バカだった。

2020年のオリンピックは東京に決まった。

滝川クリステルは「お・も・て・な・し」をリフレインする。

日本中が喜びに包まれた。

望海の夏休みの宿題の絵日記は五輪の花丸をもらった。

夕飯は御馳走だった。

栞が訪ねてきた。

「どうしたの・・・その手」

「食器洗浄機の扉に挟んじゃいました」

「ありがとう・・・しーちゃん」

「・・・」

「あなたのおかげであの子たちのお母さんでいられます」

「・・・」

「あなたもいつかお母さんになってください」

栞は夜の街を駆けだすのだった。

「望海・・・わかったよ・・・名前だね。望海の名前。望海のものだけど使うのはお母さんが多いもの」

「お見事・・・青柳小春さん、正解です」

「うふふ」

「うふふ」

子供たちは眠りに落ちた。

小春は望海の絵日記を見る。

そこには・・・この夏のすべてが描かれていた。

紗千は望海のためのパッチワークの手提げ袋を作っていた。

「お母さん、台風9号を覚えている」

「私が入院してた時のこと」

「うん・・・夜の台風だったよね。家に一人きりでいて・・・外を見たら雨はどしゃ降りだし、風で看板は飛んでるし、電信柱は倒れるしで・・・すごくこわかった。そして・・・停電して真っ暗になって・・・ものすごくこわかった。そしたら・・・入院してるお母さんがずぶぬれで立ってたんだ。そして私の手をにぎってくれた。最初は冷たかったけどだんだんあったかくなっていった。それからずっとお母さんがお話をしてくれた。お母さんの子供の頃の話。私、すごく幸せだった。このままずっと台風でいいと思った。台風9号は私の宝物だったの」

「小春・・・あなたに・・・また会えてよかった・・・今日はいい一日だったわ」

「私・・・大きくなったでしょ・・・ずっと言いたかったんだ・・・大きくなったでしょって」

「大きくなったわね」

「お話してよ・・・あの時の続き」

「どこまで話したっけ」

「いじめっ子に復讐するために出刃包丁を持ち出したところ・・・」

「ああ・・・私はね、その子の家の前で出て来いっていったの・・・そしたら・・・その子出て来るなり・・・出刃包丁を見てお洩らししちゃったのよ・・・」

「あはははは」

「あはははは」

二人は試供品のワインをコップについだ。

そして・・・白髪を染めた母と大きくなった娘は飲み明かした。

小春はいつの間にかまどろむ。

「おっと・・・その飛車は待ってよ」

「またあ・・・」

「動物園は臭いっていうのは認めるから」

「博物館が乾燥しすぎも取り消して・・・」

「何故、山に登るのかも話す」

「何故なの・・・」

「そこに山があるからさ・・・」

「人生があるから生きるのね」

「そうさ・・・セックスしたから子供が生まれるんだ」

「子供が大きくなってセックスして」

「そして子供が生まれて大きくなってセックスして」

「ずっとね」

「ずっとさ」

「いつまで・・・」

「人類が滅びるまで」

「私はいつ死ぬの」

「死ぬ時にさ・・・」

「その時は迎えに来てくれるの」

「馬鹿だな・・・いつも一緒にいるじゃないか」

四月十日木曜日 晴れ

入院したお母さんが退院してきました。

私は「お母さん」「お母さん」「お母さん」と言いました。

お母さんは「望海」「望海」「望海」と言いました。

私は「お帰りなさい」と言ってお母さんは「ただいま」と言ったのです。

私は泣いてしまいました。お母さんも泣いていました。

弟も泣きました。お母さんのお母さんも泣きました。

ナマケモノさんも泣きました。

ナマケモノさんは人間です。

お父さんを殺したしーちゃんのお父さんです。

そして、しーちゃんはお母さんの命の恩人なのです。

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2013年9月11日 (水)

恋人から30000光年・・・恒星間遠距離恋愛中の異星の人(有村架純)

憑依型宇宙人の特徴というか、弱点の一つに「憑依対象への同化」がある。

つまり・・・地球を侵略するために地球人に憑依したのに・・・いつの間にか・・・地球人になりきってしまうというパターンである。

これは「意識」の問題と直結している。

つまり、「人間の自由意志」なるものが・・・幻想で「記憶の回路のノイズ」に過ぎないということだ。

憑依型宇宙人の意志もまた人間の記憶の回路を利用することで「ノイズ」となってしまう。

つまり、「環境に支配されてしまう意識」ということである。

寒い国からやってきたスパイたちにとっても重要課題なのである。

いくら・・・洗脳されていたとしても・・・自国より異国の方が「素晴らしい国」であると気がつけば使命の達成は困難になるからである。

そのために基本的にスパイは故郷に人質を残しているのが普通である。

一方で・・・異星には大銀河連盟から査察委員が派遣されることがある。

そう言う場合は実態を調査する必要性から正体を秘匿するために「地球人化」するのである。その手の話の傑作といえる「異星の人/田中光二」(1976)では地球の文明度を調査に来た宇宙人ジョン・エナリーは地球人と接するうちに・・・人類そのものに恋をしてしまうのである。

地球人としては愛される自信がそれほどないわけだが・・・いわば、理想の地球人である宇宙人ジョン・エナリーに恋をしてしまう人も多い。同性であっても・・・ジョン・エナリーと知りあいになれたらいいなあと思ってしまうほどにいい地球人化された宇宙人なのである。

作者は去年、自殺未遂を図ったりしたようだが・・・まあ、凄いキャラクターを生み出してしまったことと作家とは本質的には無関係なのである。

キャラクターには生活はないが・・・作家には生活があるからな。

いい宇宙人のキャラが出てくるとキッドはいつも思う。ジョン・エナリーとくらべるとまだまだだなあ・・・と。

で、『スターマン・この星の・最終回(全10話)』(フジテレビ20130903PM10~)脚本・岡田惠和、演出・堤幸彦(他)を見た。結局、宇宙生命体の秘密については一切描かれないままにエンディングを迎えてしまった。ファンタジーだから別に問題はないが・・・彼らが単なる観光客なのか・・・遭難者なのか・・・それとも侵略の先兵なのか・・・あるいは「神」の一種なのか・・・たまには本格的に示してくれるドラマも見てみたいなあ・・・とただそう願ってやまないのです。

ハードSFも好きだから・・・。

15年前・・・河口湖上空で失速した宇宙人A2の宇宙船は憑依体を射出する。

霊山不二には古き神の痕跡があり、シゲタタイプの宇宙人の好奇心を刺激するのだった。同時に霊山不二はシゲタタイプの宇宙人の乗り物にとっては危険な霊的エネルギーを放出していると思われる。

宇宙人A2は現地人類の仮死体を捜索するが、あいにく付近には五歳の幼女・祥子の遺体しかなかった。

「ターゲットは未成熟タイプ。記憶容量の不足が懸念される。しかし、再捜索の場合の生存率は著しく低下。緊急避難的憑依を実行。現地人類の生命活動を修復中。情報媒体への記憶転送を開始する。現地言語に修正中。個体識別コードを特定中。し・・・しょ・・・しょうこ・・・ととく・・・とくてい・・・おなまえ・・・融合・・・とけて・・・ドロドロ・・・ごめんね・・・素直じゃなくって・・・しこうかいろは・・・しょーと・・・すんぜん・・・ゆめ・・・の・・・なかなら・・・・・・いえる・・・・い・・・ま・・・す・・・ぐ・・・あ・・・・い・・・た・・・あ・・・た・・・し・・・は・・・うちゅう・・・から・・・・・・きた・・・いくせんまん・・・の・・・ほし・・・はーとは・・・まんげきょう」

宇宙人A2の意識はほとんど解体され・・・祥子の潜在意識に辛うじて痕跡を残すのみとなった。

15年後、宇宙人A2は祥子(有村架純)の意識下に「故郷への帰還の希求」として残存するのみとなっていた。

結果として、祥子は衝動的に宇宙人を渇望する人間となっている。

シゲタタイプの宇宙人母星にとって・・・重田A1(國村隼)や星男A3(福士蒼汰)よりも祥子A2は回収を要する重要個体であったらしい。

シゲタタイプの母星は基本的に地球人に対して無慈悲である。

それは・・・祥子の両親の愛情を全く考慮していないことで明確となる。

重田A1や星男A3の人間性が「人間化」の結果だということが推測できるのである。

まあ・・・三万光年の彼方を一瞬で移動する文明を有する生命体にとって・・・人類は野蛮人どころか・・・野生動物あるいは微生物に等しいのだろう。

シゲタタイプ宇宙人の地球接近は・・・用心深く行われていた。

二重遭難を避けるためである。

だから・・・回収されたのは・・・祥子A2のみであった。

「故郷に残したフィアンセに一言詫びよう」と思った重田A1や・・・「二度と故郷に戻らないと報告しよう」とした星男A3の存在は無視されたのだった。

ましてや・・・自分用スターマンを求める節(小池栄子)の希望など問題外なのである。

祥子A2だけが・・・激しい熱望通りに捜索宇宙船に回収されるのだった。

祥子の自称恋人の安藤くん(山田裕貴)はその光景を目撃し・・・祥子が手の届かない存在だったことを知ったのだった。

好きだった人・・・ラブホテルで冷たかった

好きだった人・・・宇宙の話に熱中してた

好きだった人・・・首がクルクル回っていた

好きだった人・・・最後に笑って手をふった

失恋と言う言葉は知ってたけれど・・・しかし、安藤くんはあきらめないのだった。

祥子にもう一度会うために・・・宇宙飛行士を目指すのだった。

自分が・・・回収対象にならなかったことに・・・プライドが傷つく星男。

しかし・・・それも地球人化した証拠なのである。

おそらく・・・シゲタタイプの宇宙人にはプライドという概念はないのだ。

だが、佐和子(広末涼子)はなんだかうれしかった。

自分がとるにたらない地球人であったように・・・星男がとるにたらない宇宙人であると知ったからだ。

二人はお似合いなのである。

一方、重田は故郷にフィアンセがいたことを隠していたことが古女房(角替和枝)にバレて家を追い出されてしまう。

仕方なく、重田は佐和子の家に居候するのである。

佐和子の祖母・美代(吉行和子)と意気投合した重田に・・・主治医・溝上先生(モト冬樹)は激しく嫉妬するが・・・重田は「愛しているのは妻だけだ」と断言し、様子を見に来た古女房はその言葉に感激するのだった。

まもなく・・・星男は生殖行為の結果として佐和子の胎内に自分の分離体が着床したことを探知する。

精子レベルで宇宙人化がどの程度進むかは謎だが・・・重田の例もあって交配可能は実証済みである。単に人類の精子の再生処理をしているだけなのかもしれない。

つまり、遺伝子的にはタツヤの精子に過ぎないのかもしれない。

さらには、宇宙進化論的にシゲタタイプの宇宙人と地球人は遺伝子的に近似の可能性もないわけではない。

つまり・・・地球人/宇宙人説である。

ともかく・・・こうして・・・スターマンの物語は終局する。

聡明な長男・大(大西流星)がつい最近までおねしょをしていたとか、次男の秀(黒田博之)が打ったファールボールで佐和子が瀕死になったとか、それを修復して星男が瀕死になったとか、若いので回復力があるとか、佐和子の第四子出産とか・・・広大な宇宙においてはすべてささいなことである。

スナック「スター」は「スターマン」に改名された。

そして・・・イカ型宇宙人が来店した。

安藤くんはバカだが・・・宇宙飛行士を目指してジョギングを始めた。

三万光年の彼方から・・・第二の故郷へ祥子の超電子メールが着信する。

「がんばって・・・期待しないで待っているから・・・人生はそれなりに長いのだもの」

そして、富士山は安藤くんの祥子への愛で噴火する。

そうだ・・・安藤くんが宇宙飛行士になり、超空間航法を開発し、祥子のいる星に到達する可能性だって全くゼロではないのだ。

だって限りなくゼロに近い可能性を人は希望というのだから。

そしてそれは絶望と紙一重なのである。

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2013年9月10日 (火)

お天気カメラマンと傘なし女たちと九月の雨のSUMMER NUDE(山下智久)

恋愛のび太かっ。

結局、おめかしのファスナーをあげるドラえもんと海苔屋のドラえもんが恋愛モードをあげまくるのである。

蒼穹のファスナーあげ子さんか、縁結びの世話やきノリ男くんかよっ。

お前が・・・意味不明になってるぞ。

それにしても・・・挿入される春夫(千葉雄大)と清子(橋本奈々未)のコントのようなものについて・・・痛々しくて途中から言及をさけているのだが・・・。

なんだったんだ・・・一体。

まあ・・・途中経過だから・・・あれだけどな。

山田くんと七人の魔女」が・・・先週、「SUMMER NUDE」にオマージュを捧げていたわけだが、みんなスカート付きだったりするが一応水着になり、おヘソをサービスしているわけである。

そういう意味で・・・橋本奈々未がサービスしているだけだったのかっ。

季節外れの就職ドラマと化した・・・本編である。

季節外れの上京物語である。

どこまで外したら気がすむのですかあああああっ。

で、『SUMMER NUDE・第10回』(フジテレビ20130909PM9~)脚本・金子茂樹、演出・宮木正悟を見た。海の家「レストラン青山」の店仕舞いの夜、思い出作りの二人だけの線香花火大会を決行した朝日(山下智久)と夏希(香里奈)は東京での再会を約束して別れる。波奈江(戸田恵梨香)とヒカル(窪田正孝)はみさき台駅(フィクション)のホームでキスをしてひと夏の関係の幕を下ろすのだった。あおい(山本美月)はモデルのオーディションを受けるために夏希の部屋に居候することになる。波奈江は介護福祉士を目指し、幼馴染のタカシ(勝地涼)を残して朝日は東京へと旅立つのだった。

季節にあせない心があれば

人ってどんなにしあわせかしら

ライトに浮かんで流れる傘に

あの日の二人が見える気もした

上京した朝日はおそらく写真の専門学校時代の友人で新進気鋭のカメラマン・・ハジメ(大東駿介)の紹介か、専門学校時代に講師でもしていたかもしれない、たぶん有名な写真家・長谷川(神尾佑)の助手として働いていた。

助手になって二週間とは思えない有能ぶりで・・・すでに助手の助手に照明配置の指示を出し、フィルムをセッティングし、写真の仮仕上げを命じられるほどのポジションに昇格しているのだった。まあ、他人の人生を変える写真を撮るスーパー・カメラマンだからな。

しかし・・・忙しくて再会を約束した夏希に連絡する暇もないらしい。

一方、夏希はイタリアン・レストラン「Giallo Blu」店長の影山(中村俊介)から大切な話があると切りだされる。

いよいよ・・・三角関係に突入かと色めき立つ一部愛好家の皆さん・・・。

しかし、話は・・・どうやら雇われシェフだったらしい影山の独立話と・・・次期店長として夏希を推薦するという純然たる仕事の話だった。影山は元々、別の有名店で店長だった夏希をその候補として採用していたというのである。

「しかし・・・どうして、前の店をやめたんだ・・・」

「寿退職したんですけど花婿に逃げられちゃいまして・・・」

「ぐふっ・・・・いやなことを・・・思い出させてしまったようで・・・すまない」

「そんなに・・・引かないでくださいよう・・・殺人事件に遭遇したみたいなリアクションじゃないですか」

とにかく・・・夏希に対しては全くその気がないらしい影山だった。

夏希の部屋に転がり込んだあおいは相変わらず、脱がないのでオーディションに合格しない日々を送っていた。

「こうなったら・・・朝日さんにモデルとして使ってもらうしかないですよ」

「そんな権限、あいつにあるのかな」

「そこんところ・・・電話で聞いてみてくださいよ」

「え~、なんで~、あたしが~」

「あれ・・・連絡とりあってないんですか」

「・・・」

「あれから・・・一度も・・・」

「・・・」

「のび太かよっ」

業を煮やしたドラミちゃんはドラえもんに連絡をとるのだった。

「まったく、朝日くんはしょうがないなあ・・・」

ついに上京を決意するタカシだった。

「用もないのにか」と出番を確保するカフェ&バー「港区」のマスター・賢二(高橋克典)。

「物産展があるので」

「タカシは・・・ストーブさんかっ・・・また・・・あまちゃんネタなのね」と出番を確保する妻の勢津子(板谷由夏)だった。

「本当に面倒見の良い奴だな」

「昔のあなたに似てるかも・・・」

「ええーっ」と嫌な顔をする賢二だった。

その日、朝日は長谷川から次の仕事をまかせたいと打診される。

クライアントの担当者も「長谷川先生の推薦をいただきましたんで・・・」と乗り気である。

「お受けします」と即答する朝日だった。

「写真の仕事は世界に良き終わりをもたらすこと・・・それがハッピーエンドだからな・・・良き終りを」と微笑む長谷川だった。

一方、タカシはまず・・・「Giallo Blu」を訪ねる。

兄と偽って夏希を呼びだし、夏希の部屋にあがりこんで朝日に電話するのだった。

「生きてる~」

「死んでるよ・・・」

「まったく・・・連絡くらいしろよな」

「してるじゃないか・・・」

「俺にじゃなく・・・夏希さんにだよっ」

「・・・」

「罰として・・・今すぐ来てね~」

「どこにだよっ」

「夏希さんの家に決まってるだろう・・・」

「タカシ、お前、今どこに・・・」

「夏希さんのお部屋で~す」

「・・・」

あわててかけつける朝日だった。

朝日が来ると知って急に酒の肴を調理し始める夏希。

「俺には・・・乾きもの・・・だったのに」

「タカシの胃袋つかんでもしょうがないからねえ」

猫型ロボットたちは慰め合うのだった。

しかし・・・やってきた朝日は妙に不機嫌だった。

二人で酒を買い出しに出かけ・・・夏希はその理由を問う。

「どうしたの・・・なんか怒ってるの」

「そんなことないよ・・・ただ、次に会うのは夏希の料理を食べる時って決めてたから」

「ああ・・・覚えてたんだ・・・それにしてはちっとも来ないじゃない」

「仕事が軌道に乗ってから・・・って思ってさ」

「じゃ・・・いつになることやら」

「明後日・・・初めての仕事を任せてもらえることになったんだ」

「え・・・おめでとう」

「ありがとう・・・」

「がんばって・・・」

「そっちもね・・・」

激励のために夏希がつかんだ腕をやんわりとはずす朝日。

ある意味、スキンシップの拒否である。

ものすごく誤解される行動なのである。

朝日は潔癖症なのかよっ。

しかし・・・夏希は・・・朝日に逢えた喜びで瑣事は気にならないようだった。

このドラマのスタッフはちょっと頭おかしいな。

朝日の部屋に転がり込むためにタカシは二人で夜道を行く。

「まったく・・・先に夏希の店に行くなんて・・・」

「だから・・・水しか飲んでないって・・・」

「金もないのに・・・レストランにおしかけたのか」

「ちがうよ・・・先に俺が食べちゃったら機嫌悪くなるだろ・・・のび太くんは・・・」

「俺は・・・そこまで心が狭くないよ・・・」

「またまた・・・何年つきあってると思ってるんだ・・・」

「・・・」

朝日はやはりのび太なみに心が狭いのだった。

翌日、ドラえもんタカシは兄と偽ってヒカルの職場を訪ねるのだった。

「よく・・・ここがわかりましたね」

「お前・・・波奈江になんで・・・電話しないんだよ」

「え・・・」

「最近、波奈江がんばってるけど・・・元気がないんだよな」

「先輩から・・・悪かったと謝っていること伝えてくれませんか」

「なんだそれ・・・」

「言えば・・・分りますから」

「まったく・・・世界はのび太であふれてやがる」

「え・・・」

「いえいえ・・・伝言ロボットタカ~シ~、メッセージをお預かりしましたよ」

ヒカルの父親からの干物の仕送りを渡して、みさき市に帰還するタカシだった。

物産展は・・・まあ、いいか。

みさき市では・・・波奈江が・・・ヘルパーの実習修了証を取得していたのだった。

「えへへ」

「それ・・・ヒカルに報告してやれよ・・・」

「え~」

「なんか・・・ごめんってあやまってたぞ」

「なにそれ・・・どういう意味~」

「言っても伝わらねえじゃねえか・・・のび太のくせに~・・・思わせぶりなこと言いやがって~」

「・・・」

しかし・・・波奈江は動くのだった。

ひょっとしたら・・・ヒカルは・・・波奈江が怒っていると誤解しているかもしれないと直感したからである。

まったく・・・奴隷はしょうがないわね・・・と女王様は思うのだった。

主人の心、奴隷知らずなのである。

ドラマの撮影が押して徹夜明けの朝帰りをするヒカル。

アパートの前には波奈江が待っていた。

「ええーっ」

「まったく・・・どれだけ待たせれば気が済むのよ」

「だって・・・来るなんて思わないから」

「私ね・・・ヘルパーの資格取っちゃったの・・・ほら」

修了証を見せる波奈江。

「おめでとう・・・」

「まだ・・・序の口だけどね・・・」

「わざわざ・・・それを見せに・・・」

「私・・・別に怒ってないわよ・・・」

「え・・・」

「じゃ・・・」

「よっていかないの・・・」

「変なことするんでしょ・・・」

「変なことなんかしないよ・・・じゃあ・・・今夜、食事でもどうかな」

「忙しいんじゃないの」

「今日はお休みなんだ・・・」

「じゃ・・・私、行きたい店があるんだけど・・・」

任務を終えたタカシはみさき海岸にやってきた。

人気の消えた秋の海には青い背広のジャン・レノが佇んでいる。

「オツカレ・・・」

「そっちののび太くんはようやく免許とれたんだね」

「ナカナカ、車買ワナクテコマッテルヨ」

「本当に、世話が焼けるよなあ・・・」

九月の雨が降りだしてタカシの化粧がはげる。

その下から青い地肌がのぞくのだった。

「SUMMER NUDEじゃなくてもはやSeptember rainだよね」

まかされた仕事をそつなくこなす朝日。

長谷川とクライアントは朝日の写真に大いに満足するのだった。

朝日の成功物語が始ったらしい。

予約の名前を見て・・・動揺する厨房の夏希。

影山は部下の心の動きを見逃さない。

「どうした・・・知っている人か・・・まさか例の・・・」

元フィアンセと勘違いした影山が朝日といざこざか・・・と期待した一部愛好家を裏切って・・・。

「海の家に誘ってくれた特別な人か・・・」

「はい」

「よし・・・今日の料理は君にまかせる・・・店長としてのリハーサルだ・・・存分に腕をふるってくれ」

「シー」

とにかく・・・夏希の料理の腕は・・・以前からいた料理人たちを圧倒するものらしい。

「Giallo Blu」は問題なく夏希の指揮下に入るのだった。まあ、イタリアンレストラン物語じゃないからな。数話前の下っ端扱いが嘘のようだ。

料理を待つ朝日の前に波奈江とタカシがやってくる。

「あれれ・・・朝日は一人でイタリアンなの・・・」

「悪かったな・・・」

「ご一緒してよろしいかしら・・・」

「のび太の会か・・・」

「私・・・ちょっと夏希に挨拶してくる・・・」

二人にされた朝日とヒカルだった。

「あの・・・先輩・・・いろいろとすみませんでした」

「何が・・・だよ」

「波奈江は・・・僕が幸せにします・・・」

「そうか・・・よかったな・・・ヒカル」

「先輩・・・」

そこへ戻ってくる波奈江・・・。

「あれれ・・・なによ・・・二人とも固くなって」

「こんな・・・立派な店だとは思わなかったからな」

「ふふふ・・・貧乏な人たちってしょうがないわね・・・とりあえず食前酒をいただこうかしら」

お嬢様は男たちをリードするのだった。

そして・・・のび太たちのディナーが始った。

繰り出される夏希、渾身のイタリアン。

「こ・・・これは・・・」

「美味しいね」

「・・・」

「凄い・・・夏希って凄い」

「美味しいね」

「・・・」

「朝日、なんで黙ってんの」

「なんか・・・こんなにおいしい料理を作れる人なんだと思ったら・・・こわくなってきた」

「何が・・・」

「だって・・・ひと夏・・・海の家でヤキソバ作ってもらってたんだぜ・・・ものすごく失礼なことだったんじゃないか・・・」

「今さら、何言ってんの・・・夏希の手料理食べたら・・・すぐ分ることじゃないの」

「・・・」

「夏希がレストラン青山で働いてくれたこと自体が・・・すでにミラクルだったのよ」

「なるほど・・・そうかもな・・・ミラクル過ぎて気がつかないってことか・・・」

「きっと・・・このドラマもそうなんだってスタッフは言いたいんだと思う」

「・・・」

食事を終えた三人は・・・夏希に挨拶をするのだった。

「まだ・・・帰れないの」

「うん・・・明日の仕込みとか・・・あるからね」

「じゃあ・・・またね」

「ごちそうさま」

「すごく・・・おいしかった・・・」

「うれしい・・・」

都会にうず巻くイリュミネーション。くちびる噛みしめ夜道を歩く三人だった。

ふと・・・夜空を見上げる朝日。

その姿を見て・・・波奈江は遠い記憶を呼び覚ます。

(これから・・・雨が降ってくるよ)と朝日は言ったのだ。

「じゃ・・・俺はここで・・・ちょっとコンビニに寄ってくるから・・・」

波奈江は朝日が何をするつもりなのか・・・分っていた。

何も気がつかず・・・波奈江と歩き出すヒカル。

やがて・・・雨が降り出した。

波奈江は朝日との別れを惜しむ。

「おかしいな・・・天気予報は・・・雨が降るなんていってなかったのに」と上着を脱いで波奈江にさしかけるヒカル。

「雨が降ってくるのがわからなくても許してあげる」

波奈江はヒカルの首に手を回して抱きつくのだった。

わけがわからないまま・・・ヒカルは波奈江を抱き返し・・・熱く唇を重ねるのだった。

長い道のりだったが・・・SUMMER NUDE史上屈指のラブ・シーンである。

・・・また、この二人かよっ。

一方・・・降りだした雨に仕事を終えた夏希は遠い記憶が蘇る。

(雨の中で待つのは得意なんだ)と傘をさしかける逃げたフィアンセ。

その記憶を振り払うように・・・雨に濡れて歩き出す夏希。

そこにさしかけられるコンビニで買ったビニール傘。

空模様を読む男、朝日が微笑んでいた。

相合傘で歩き出す二人。

しかし・・・幸せな記憶とフィアンセに逃げられた屈辱が交錯する夏希は息苦しくなってくるのだった。

小さなトンネルの前で傘から飛び出す夏希。

「どうしたの・・・」

「ごめん・・・苦しくて」

「・・・」

「幸せな時が長く続かないって・・・思っちゃうから・・・」

「・・・」

ウソだろ 誰か思い出すなんてさ

目を伏せて その髪の毛で その唇で

いつかの誰かの感触を君は思い出してる

「ずっと・・・一緒にいたいから・・・」

夏希は幸福とそれを失う不安で揺れる心に耐えかねたのだった。

朝日は傘を放り捨てた。

そして・・・無言で夏希を抱きしめる。

やがて・・・熱い唇付けを・・・しないのかよっ。

九月の雨が降っている。それは待たされ過ぎたお茶の間の涙なのかもしれません。

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Sn010

ごっこガーデン、セプテンバーレイン・セット。エリサマーもヌードもないままに暦の上ではセプテンバーで気まぐれなレインがシトシトなのでスー。今回はおしゃれでロマンチックな気もしたけど・・・雨に濡れながら佇む女がいる・・・ってなんか演歌な感じ~。波奈江とヒカルのゴールインがなんだかうらやましかったのでスー。いよいよ・・・最終回、happyでloveなendでお願いpleaseなのですよ~・・・そうでないと来週は久しぶりの卓袱台祭りでスーまこむふふ・・・エリ姉ちゃんのダーリンドラマで思わぬ収穫をゲットだじょ~・・・棚からまめぶ汁なのでしゅ~くう駆け落ちの果てにさらに意味不明の展開に・・・ヒカルのドラマと連動してるとか・・・なんかあればよかったのではみのむしとにかく、今週もクネ男は良い奴でした~るるるシャブリ波奈江の中にミチルを見た・・・ikasama4このP先輩モデル(BB改)は活躍しましたなあmari裏切られた記憶に揺れる夏希・・・でも朝日はふられたのに三年待つ男だから・・・大丈夫だと思いますよ~・・・気が長すぎるのも困りますけどね~

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2013年9月 9日 (月)

求めずば与えられることなく、捜さずば見つかることなしでごぜえやす(綾瀬はるか)

マタイ伝第7章でイエスは群衆に対して耳に甘い説教を行う。

求めるものには与えられ、捜すものには見つけられ、ノックするものに扉は開かれるという。

しかし、それらは皆、希望的観測にすぎない。

イエスは求められたら与え、捜すものには見つけてやり、ノックするものには扉を開く人々のいる世界を理想として語っているのである。

それを絵空事と感じるか・・・うっとりするかはそれぞれの人生経験によって異なるだろう。

しかし、悲惨な体験をしたものが・・・悲惨さを愛するとは限らない。

また・・・苦難を知らぬものが用心深くないとも言えないのである。

幼き子に食を与える喜びを信じるならば世界は薔薇色だが・・・人間がそうするとは限らないことも知っておくべきだろう。

いずれにしろ・・・信仰の礎はそうした脆くて儚いものを土台とするのである。

そして・・・信じるものは時に救われたような気になるのだった。

もちろん、それが錯覚の一種であることは言うまでもない。

で、『八重の桜・第36回』(NHK総合20130908PM7~)作・山本むつみ、脚本・三浦有為子、演出・佐々木善春を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回はファン待望、今宵限りの新島八重のウェディングスタイル・イラスト描き下ろしで感涙でございます。レース模様の細密さ加減にうっとりでございます。お疲れ様でございました。大量新登場人物発生の季節、画伯に置かれましてはあくまでマイペースでお願い申しあげます。山本みねとか、徳富初子とか・・・楽しみですけどねえええええええっ。

Yaeden036 明治二年に平民という呼称が生まれた。しかし、四民が平等になったわけではなく、皇族、華族、士族、卒族の下に平民という階級が設けられたのである。しかし、特権階級と呼べるのは華族以上に限定されたのが特色である。つまり、士族、卒族は単なる名誉階級だったのである。明治四年の西南戦争に至る士族の反乱は当然の帰結だったと言える。特に戊辰戦争という革命戦争を戦った勝者の側に不満が鬱積したのは当然だろう。手柄を立てた褒美が与えられない武士はある意味では謀反するしか道はないのである。西郷隆盛が愛されるのはそうした矛盾を充分に理解しながら・・・あえて負ける側についた・・・と言うことに尽きるのだった。また、便宜上、山本八重は、川崎八重になり、山本八重になり、新島八重になった如く記述するわけだが、夫婦同氏の制定がなされるのは明治31年(1898年)の明治民法成立後である。それまでは基本的に妻の姓は嫁ぎ先ではなく実家の姓だったのである。つまり、夫婦別姓が基本なのである。しかし、現在とは逆に妻が嫁ぎ先の姓を通称として使うことはままあることだったらしい。どちらが・・・普通なのか・・・現代の感覚からは全く窺い知れない。士族の人々が自分たちが平民と同じ権利しか与えられない憤りや、男女平等というまったく非常識な思想をもった八重に対する男尊女卑主義者の困惑は実に計り知れないものと考えるべきだろう。とにかく・・・明治六年に下野した西郷隆盛は鹿児島で温泉三昧の日々を過ごしつつ、明治七年に私学校を開校。そこに不平士族が続々と集結し、士族階級の解体を目指す明治新政府を悩ませることになる。西郷とともに維新を指導した元勲たちは西郷の政界復帰を説得したが・・・西郷は最後までそれを拒絶した。一方、西洋化の使命を帯びた新島襄は明治八年に京都改革の指導者の一人山本覚馬の妹・八重と婚約し、明治九年に結婚式を挙行する。西洋の力の根源であると考えられる耶蘇教と・・・日本文化の融合は・・・以来、継続され、現代に至っている。ほとんどの国民がクリスチャンでないのにクリスマスだけは祝う・・・不思議の国ジャパンなのだった。挙式に先立ち、洗礼を受けた八重が洗礼名を持たないのは基本的に聖人崇拝を行わないプロテスタント諸教派だからである。

八重の洗礼を行ったのは宣教師・ジェローム・ディーン・デイヴィスだった。ニューヨーク生まれの元北軍中佐である。

女戦士であるくのいちの八重とは会話が弾むのだった。

「南北戦争のシャイローの戦いで手柄を立てられたとか・・・」

「ほほう・・・ジョーに聞きましたか」

「はい・・・彼は何冊かの戦記をもっております」

「なるほど・・・」

「北軍の勝因はなんだったのでしょうか」

「シャイローはユダヤの言葉で平和の地を意味します。基本的には北軍に義があったということでしょう。つまり、平和の地で勝利をおさめるだけの義です。義のある軍は統率力に優れています。次には将軍の采配の差があります。北軍のグラント将軍の方が優秀だったのです」

「戦力は互角だったと聞いております」

「そうです。北軍は四万八千、南軍は四万五千といった戦力でした。しかし、北軍はおよそ二万の増援部隊が接近中でした。南軍はその合流を阻止するために先制攻撃を行ったのです。北軍は守勢にたち、かなりの被害を受けましたが・・・激戦の果てに南軍のジョンストン将軍は戦死、やがて北軍の増援部隊が到着して決着したのです」

「なるほど絵にかいたような挟撃の成功でございますね」

「つまり、南軍は義に欠けていたために勝ちきるチャンスを逸したわけです」

「まあ・・・勝敗は時の運と申しますけれど」

「ふふふ・・・ジョーの噂通り・・・あなたは面白い女性だ・・・会津戦争では銃をとって戦ったのですね」

「七連発の銃で七人の敵を倒しました・・・このようなものが洗礼を受けてよろしいのでしょうか」

「罪なく洗礼を受けないものよりも罪あって洗礼を受けるものの方が神のおそばにあるのです。なぜならそのものは悔い改めているからです」

八重は無言で微笑んだ。そもそもくのいちは非情のものである。洗礼を受けないものはすべて地獄に落ちるという耶蘇教の戯言など笑い話にすぎないのだった。

しかし・・・情熱的なお人よしであるジョーは可愛いと八重は思う。

求婚されて応じたのはそのためである。

たが・・・科学忍者隊の事実上の隊長である八重にとってすべてはかりそめのことなのであった。

しかし・・・夫のために実力を行使することはやぶさかではないのだった。

旧会津藩と深いつながりのある京都の顔役の一人、大垣屋清八から相談を受けた八重は京都市内に救う盗賊退治を請け負ったのである。

「いや・・・山本様のお姫様に頼むのは憚れるのでございますが・・・養子の松之助や会津小鉄をさし向けたところ・・・散々に打ち破られましてな・・・」

「剣術使いでごぜえやすか・・・」

「分りません・・・おそらくは元はお武家様かもしれませぬ・・・子分は十人ほどですが・・・頭領は鞍馬天狗と名乗っておりまする・・・」

「なるほど・・・僧兵くずれかもしれませぬな・・・」

「御一新の節は敵や味方が入れ替わりましたからな・・・あぶれたものが盗賊にまで身を落したのでございましょう・・・なにしろ・・・不法者といものは癖になるのでございます」

「まあ、親分が言うからには・・・そうなのでがしょう」

京都寺町通丸太町の古びた公家屋敷が鞍馬天狗党の巣窟だった。

真昼に八重は無造作に屋敷に押し入った。

屋敷の中で男たちは手慰みに興じていたり、あるものは徳利を抱えて寝入っていた。

「なんだ・・・手前は・・・」

「おかしな格好してけつかる」

八重は黒づくめの洋装である。

「毛唐かぶれの遊女かいな」

男たちの視線が八重に集まる。

「お上の御用で来たのでがんす」

「お・・・会津訛りやないか・・・」

「皆さまにはここを立ち退いていただきたく存じやす」

「いってくれるやおまへんか」

「まあ・・・一杯やるけ」

「では強制執行させていただきやす」

「なんやと」

すでに八重は二丁拳銃を抜き放っていた。

連弾である。硝煙が渦を巻く。

一瞬後、室内には死体が転がっていた。

「見事な腕だな・・・」奥の間から声が聴こえ、襖から槍が繰り出される。

その槍の殺気を受け流しながら八重は連射した。

襖の向こうから巨体が襖を突き破って倒れこむ。

「宝蔵院流槍術の見事なお手前でがんす」

仰向けに倒れた僧体の巨漢は微笑みを浮かべた。

かなりの高齢者だった。それは八重に故郷の武術師範を思い出させた。

「しかし・・・あまりにも時代遅れでごぜえやす」

巨漢は一瞬、顔をしかめたようだった。

しかし、その目はすでに光を失っていた。

名もなき武芸者は息絶えていた。

八重が合図をすると・・・くのいちたちが飛び込んでくる。

女たちは手早く死体の始末にかかっていた。

八重は屋敷を見まわした・・・血ぬられた学び舎を・・・。

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2013年9月 8日 (日)

あまちゃん、二十三車両目の土曜日(能年玲奈)

2011年3月11日午後二時三十分・・・。

録画してあったドラマ「美咲ナンバーワン!!・第9話」(3月9日放送・日本テレビ・水曜ドラマ)を別件の資料整理をしながら視聴していたキッドだった。

ちなみに美咲先生(香里奈)が担任する御堂学園高校2年Z組の生徒の中に村野蒼汰(福士蒼汰)がいます。まだ如月弦太郎(仮面ライダーフォーゼ)になる前です。ついでに第5話には2年D組の生徒として生駒可菜(山下リオ)も登場。

その途中で・・・世界は変わってしまったのだった。

おそらく・・・ものごころのついたほとんどの日本人が記憶している・・・「あの日」だ・・・。

あの日がなければ・・・このブログも再開していたかどうか・・・分らない。

誰もがそれぞれにインパクトを受け・・・それぞれの人生が別の時空間にシフトしたに違いないのである。

バカみてえな感じで「北三陸」と「東京」を描きながら・・・確実に「この日」に向かっていた最初の連続ドラマ。

東北に生を受けた現代におけるもっとも有能な脚本家が書くべくして書いたと思われるドラマがここにあります。

「その後の第一週」はまさに・・・至上の味わいを醸し出していると言えるでしょう。

そして・・・朝ドラマ至上の最高傑作となるであろう・・・「あまちゃん」も静かに着陸態勢に入っているのだな。

凄い・・・の一言に尽きるな。

で、『連続テレビ小説・あまちゃん・第23週』(NHK総合20130902AM8~)脚本・宮藤官九郎、演出・井上剛を見た。芸能事務所・スリーJプロダクションのタレント・天野アキ(能年玲奈)は鈴鹿ひろ美(薬師丸ひろ子)とダブル主演した映画「潮騒のメモリー~母娘の島」が公開され、主題歌「潮騒のメモリー」も好調な売り上げを記録し、順風満帆なアイドル活動を展開していた。因縁深い太巻(古田新太)と春子(小泉今日子)も和解し、鈴鹿はスリーJプロダクションの二人目の所属タレントとなる。お披露目ライブを翌日に控え、マネージャーの水口(松田龍平)は上京するユイ(橋本愛)の到着を心待ちにしていた。奈落で稽古に励むGMT5とアキ。北鉄に乗り込んで東京に想いを馳せるユイ。しかし・・・それは2011年3月11日の午後だったのである・・・。

月曜日 こんにちワン、ありがとウサギ、こだまでしょうか、いいえ・・・(優希美青)

北三陸市袖が浜(フィクション)の天野家では・・・猫のカツエが予兆を感じていた。

春子が夏(宮本信子)に贈った携帯電話が緊急警報を発令する。

組合長(でんでん)と眼鏡会計婆かつ枝(木野花)は顔を見合す。

日本時間午後2時46分18秒・・・仙台市の東方70キロの太平洋の海底を震源とする東北地方太平洋沖地震が発生した。日本周辺における観測史上最大の地震で地震の規模はマグニチュード 9.0、最大震度は宮城県栗原市で観測された震度7。しかし、地震は連動型地震となり、「想定外」の地震は日本列島の広範囲を長く揺らし続けた。

ユイは大吉(杉本哲太)が車掌を務める北鉄の乗客となっている。

振動を感じた大吉は運転手に緊急停止を命じる。

ユイを乗せた車両は畑野トンネル(フィクション)内で停車した。

反動で座席から放り出される幼い乗客もある。

ユイは・・・「天野アキ・潮騒のメモリー・お披露目ライブ」のチケットを握りしめる。

もう・・・悪い予感しかしないのだった。

アキは奈落で明日のライブで共演するGMT5のメンバー・・・入間しおり(松岡茉優)、遠藤真奈(大野いと)、喜屋武エレン(蔵下穂波)、小野寺薫子(優希美青)、そしてベロニカ(斎藤アリーナ)とミーティング中だった。

そこへ、東京生まれなら未体験の揺れが襲いかかる・・・居合わせた安部ちゃん(片桐はいり)はアキを我が子のように庇うのだった。アキは安部ちゃんにしがみつく。

上の階のオフィスでは太巻と水口と河島(マギー)のトリオが異変を感じていた。

「これは大きいな」

春子の事務所では正宗(尾美としのり)が春子の手をとる。

「大きいよ・・・揺れてるよ・・・地震だよ」

無頼鮨では大将(ピエール瀧)が叫ぶ。

「鈴鹿さん、表に出ましょう・・・種っ」

「はい」

種市(福士蒼汰)は鈴鹿を誘導する。

不気味な長い揺れが東京都民を不安に陥れていた頃。

北鉄車内では大吉が北三陸駅の吉田(荒川良々)と無線で連絡をとっていた。

「こちら・・・畑野トンネルで停車中です」

「了解しました・・・そのまま指示をお待ちください」

「皆さん・・・今、安全点検中です・・・大丈夫です」

大吉が乗客に語りかける。

「ユイちゃん・・・仙台に何時だっけ・・・」

「五時半・・・」

「すまない・・・少し、遅れちまうかもしんねえな」

その時、吉田の緊迫した声が無線を通じて響き渡る。

「・・・津波警報発令・・・津波警報発令・・・避難します」

気象庁は午後2時時49分、岩手県、宮城県、福島県の沿岸に津波警報を発令した。最初は予想される津波の高さについて、宮城県で6m、岩手県と福島県で3mと発表。しかし、午後3時30分には岩手県から千葉県九十九里・外房まで高さが10m以上の予想に訂正する。しかし、その時すでに三陸沿岸には津波が襲来していた。

揺れのおさまった奈落で無事を確認するアイドルたち。

そこに太巻がやってくる。

「震源地は宮城だそうだ・・・小野寺・・・実家に連絡してみろ」

「アキちゃん・・・ユイちゃんは今仙台に向かっている頃だ・・・電話してみたら」と水口。

「・・・」

「おらも漁協に・・・」と安部ちゃん。

しかし、電話は通じない。

しばらくたってかけなおしても電話は通じないのだった。

アキは携帯電話を呪うのだった。

離陸した自衛隊の航空機は太平洋を進む津波をキャッチしていた。

死者・行方不明者18,539人のおよそ90%を水死させる大津波が各地に到達する。

小野寺ちゃんの故郷・仙台平野がたちまち水に呑まれていく。

その模様をテレビは実況しはじめていた。

「おお・・・」

「おおお・・・」

「ああ・・・」

悲鳴にも似た嗚咽がそれを見るものの口から洩れる。

アキも「映画のような光景」に現実感を失うのだった。

被災地は停電し、通信は途絶。

安否確認は困難を極める。

もどかしい時間が過ぎ去って行った。

トンネルの暗闇に停車した大吉の北鉄。

空腹を訴える子供にゆべしを与える鈴木のばっぱ(大方斐紗子)・・・。

午後4時30分・・・大吉はトンネルの外を確認することを決意する。

「ゴーストバスターズ」を歌いながら、暗闇の中をトンネルの出口目指して進む大吉。

岩手県から宮城県牡鹿半島までの三陸海岸で10-15m前後の浸水高、津波の溯上高は30m以上のところがあったとされる。

山を貫通するトンネルは当然、ある程度の高度があり、それが僥倖だった。

トンネルの外で線路は途切れ・・・眼下には壊滅的な惨状が広がっていた。

大吉は背後から近づいてくるユイに叫ぶ。

「来るな・・・ユイちゃん・・・見たらだめだ」

「ごめん・・・もう遅い・・・」

ユイは生まれ育った故郷が消滅したことを知った。

胸にふくらむ・・・絶望。

二人は立ちすくんだ。

その惨状は観光協会で保(吹越満)とヒロシ(小池徹平)が心血を注いだジオラマによって暗喩される。

海面のプレートが粉々に砕け散り・・・陸地を覆っていた。

散乱した室内の物品が・・・ジオラマを破壊している。

北三陸市は被災地となったのだ。

東京ではテレビを通して中継される被災地の悲惨な光景が絶え間なく流れていた。

素晴らしいインターネットの世界は被災地とそれ以外の場所をかろうじて結んでいる。

奈落では・・・安部ちゃんがトン汁を振る舞ってしおりに文句を言われていた。

「まめぶ汁の方がよかったですか」

「なんか・・・今日はまめぶで・・・文句が言いたかった」

「あんべちゃんといえばまめぶたい。ドラえもんのどら焼きみたいなものたいね」と真奈。

「まめぶはポケットに入りません」

しかし・・・安部ちゃんの割烹着のポケットにはまめぶの髪飾りが入っていたのだっだ。

「ま~め~ぶ~」とドラえもん化しておどけてみせる安部ちゃん。

キャンちゃんものっかって「ま~め~ぶ~」を連発しているのだった。

この後、キャンちゃんは「ぶ~」から下ネタに移行する気満々だった。

その時・・・朗報が届く。

ブログへのファンの書き込みによって・・・小野寺ちゃんの母・さとみ(石田ひかり)の無事が確認できたのだった。

どうやら・・・小野寺ちゃんの活躍によって両親の離婚の危機は回避されたものと推測できる。

ファンからの情報で・・・さとみは避難所の体育館に無事でいるらしい。

もちろん・・・この期に及んで悪戯の可能性もあるが・・・この日ばかりは・・・そういう気持ちは生じにくかったということである。

誰もが見知らぬ人の無事を祈らないではいられない時だったから。

一瞬の安堵・・・その機をとらえて・・・太巻は決断を口にする。

「明日のライブは・・・延期する・・・中止ではなくて・・・延期だ」

アキは落胆して・・・目を落とす。

「帰宅できるものは帰宅しろ・・・」

アキはミサンガが一本切れていることに気がつく。

それを捜すために机の下にもぐりこむアキ。

「お前の家は・・・そこか」と太巻。

「あった」とアキ。

アキのミサンガの神通力を知る人々は希望を見出す。

「みんな・・・無事だ」

「きっと・・・そうだね」

GMT5のリーダーとしてしおりはアキに同意する。

アキは・・・帰宅難民のあふれる夜の東京の街を横断した。

日本の最も暗い祭りの夜が過ぎていく。

午後八時・・・「夏ばっぱ」からメールが届いた。

小野寺ちゃんを演じる優希美青は福島県出身・・・2012年の「ホリプロタレントスカウトキャラバン」のグランプリを獲得したが審査には山形県から応募した・・・被災者の一人だからである。

「ばか」っていうと「ばか」っていう。
 
「もう遊ばない」っていうと 「遊ばない」っていう。
 
そうして、あとでさみしくなって・・・

火曜日 嗚呼、見なさいよ、ロンリーな皆さんの何もかもを(薬師丸ひろ子)

午後七時過ぎ・・・ずっとユイを呼び続けたアキの携帯電話がつながった。

「ユイちゃん・・・今、どこ・・・」

「線路の上を歩いている・・・」

「線路の上・・・」

「トンネルの中で電車が止まっちゃって・・・大吉さんが鈴木のばっぱをおんぶして・・・一緒に歩いてる・・・避難所があるんだって・・・」

「無事でよかったなあ」

「ごめんね・・・明日、行けなくなっちゃった・・・」

「いいよ・・・どうせ延期だから・・・だども中止でなくて延期だからな・・・必ずやるから・・・必ず来いよ」

「無理だよ・・・延期じゃなくて・・・中止だから」

「ユイちゃん」

ユイちゃんの予言は絶対だった。アキよりもクールに現実世界を見通すユイ。しかし、この場合は深い絶望を伴っている。

「トンネルを出たら・・・道がなくなってた・・・線路が途中で途切れてた・・・もう無理だよ・・・こわくて東京に行けないよ・・・アキちゃんがこっちへ来てよ・・・」

「ユイちゃん」

「ごめん・・・電池がなくなる・・・」

「・・・」

ユイは暗闇の続く線路の上を泣きながら歩く。

アキは東京EDOシアターの証明の下で茫然とするのだった。

嗚呼、見てよ、ロンリーな皆さんのすべてを

嗚呼、皆さんはどこから来たの

嗚呼、皆さんの帰る場所はあるの

嗚呼、見てよ、ロンリーな皆さんのすべてを

上野から世田谷まで・・・歩き続けるアキ。

その心はユイのことで一杯だった。

帰宅したアキを抱きしめる春子と正宗。

「寝ないで待ってたのか」

「当たり前でしょ・・・北三陸とも連絡つかないし」

「夏ばっぱからメールがあったぞ・・・」

<件名>みんな無事<本文>御心配ねぐ

春子は胸をなでおろすのだった・・・。

漠然とした不安に満ちた東京の夜が・・・この世の地獄と化した被災地の夜が過ぎていく。

3月12日・・・。

北三陸市(フィクション)からは水が引いていた。

家を失った人々は避難所に向かって行く。

避難路の確保のための瓦礫の除去に着手した地元の人々。

瓦礫の山が散在する現場を視察する北鉄の大吉、吉田、そして観光協会のストーブこと足立ヒロシ。

「とにかく・・・北鉄さ・・・動かすぞ」

「だけど駅長・・・線路も何も寸断されて・・・とてもじゃねえが」

「だからこそだ・・・今こそ北鉄が必要だ」

「僕もそう思います・・・こんなに何もかもなくなってしまって・・・けど・・・だからこそ・・・せめて北鉄が動けば希望の灯が・・・」とヒロシ。

「足立・・・良いこというじゃねえか」

吉田の中でストーブは足立に昇格したのだった。

第三セクターの意地を見せた大吉の陣頭指揮の元・・・北鉄は一部区間での運転を再開した。

3月16日・・・北三陸・袖が浜区間(フィクション)は一日三往復の無料運転を再開したのだった。

時速20キロの準徐行運転だった。

夏ばっぱがうに丼を持って駅に駆けつける。

「夏ばっぱ・・・無理しないでけろ」

「北鉄が走ってるのにおらがうに丼売らないけにはいかないべ」

「でも・・・北三陸までしか走りませんよ」と吉田。

「ちょうどよかった・・・仕入れが間に合わなくてうに丼五つしか作れなかった」

微笑む大吉。

夏ばっぱは北鉄に乗り込んだ。

「出発進行・・・」復興への長い道のりが始ったのだった。

さあ行くんだ その顔を上げて

新しい風に 心を洗おう

古い夢は 置いて行くがいい

ふたたび始まる ドラマのために

北鉄の雄姿に沿線の人々は歓声をあげる。

その姿に勇気をもらう大吉だった。

時は流れて・・・4月29日になっていた。

東北新幹線は一部区間徐行運転の臨時ダイヤながら全線で運転が再開される。

公開一週間で打ち切りになった映画「潮騒のメモリー~母娘の島」のポスターを見上げ・・・すっかり気落ちしてしまった鈴鹿ひろ美はぼやく。

「この御時世・・・寄せては返す波のように・・・はないわよね」

「鈴鹿さん・・・そろそろ働いてくださいよお」と春子社長は叱咤するのだった。

「このままじゃ・・・ここはタクシーの営業所になってしまう・・・」

「いってきます」と出勤する正宗。

「ただいま」と帰社する水口。

「おめでた弁護士のスピンオフドラマのオファーがありました」

「ありがたいけど・・・被災地の皆さんの気持ちを考えると・・・不謹慎だと思うのよ」

「被災地の人間が働けっていってるんですよ」と急に東北人になる春子だった。

アキは仕事に復帰していた。「見つけてこわそう」のタイトルは「じぇじぇじぇのぎょぎょぎょ」にタイトルが変更されている。

二、三日で終息する予定だった原発の異常事態は二、三週間でも終息せず、二、三年では先行きも見通せず、二、三十年でも解決せず、二、三世紀なら後は野となれ山となれ状態だったが・・・それでも人は生きていくのである。

本当に必要だったのか疑わしい計画停電は3月28日に終了していた。

もちろん・・・それは涙ぐましい節電の成果だったとも言える。

電力会社も必死に努力していたが・・・印象としては金儲けは上手くても人非人で無能者の烙印が残された。

唯一の英雄は早死にした。

エンターティメントに生きる人々は苦悩していた。基本的にスポンサーは電力会社と電力の恩恵を必要とする企業だったからである。

そして・・・歌舞音曲に対する世間の風当たりは強いのだった。

隅田川の花火大会までが自粛を余儀なくされ開催を延期した。・・・結局やるのかよっ。しかし、日程が重なった浅草サンバカーニバルは中止になったのだった。それは特筆するべきことなのかっ。

コンビニエンスストアからは水が消えて納豆が消えてカップラーメンが消えた。

小銭を募金しながら・・・アキもまたアイドル稼業と被災地出身の間でジレンマを抱えていた。

「何かしたいのだが・・・何ができるのかわからない」のである。

GMT5は被災地への慰問を決行していた。

ベロニカはベーグルを配った。

「どうせ・・・売名行為っていわれるけどね」と太巻はぼやく。

アキは種市と束の間のデートをする。

「先輩はゴールデンウイークはどうすんの」

「休みもある」

「北三陸に帰らねえの」

「修行中の身だからな」

「・・・」

「アキは帰らねえのか」

「わがんね」

「帰りたくねえのか」

「わがんね」

「・・・」

「帰っても・・・どうしていいのか・・・わがんね・・・なにしろ・・・被災地なんだべ・・・みんなにはあいてえけど・・・」

「・・・」

「夜、寝る前にみんなの笑顔さ・・・数えるんだ・・・夏ばっぱ・・・組合長、眼鏡会計婆、弥生さん、美寿々さん・・・いっそん・・・大吉さん、吉田さん、保さん、あつしさん・・・いっそん・・・花巻さん、栗原さん、足立先生、足立先生の奥さん・・・いっそん」

「いっそん・・・インパクトあるな・・・」

「あれ・・・誰か・・・忘れてたっけ」

「勉さんは・・・」

「勉さんは言ったべ・・・」

「そうか・・・」

「でも・・・ユイちゃんの笑顔がどうしても・・・想い浮かべらんねえ」

「・・・」

帰宅したアキは仕事中の春子の社長のイスの肘掛けに猫のように腰掛ける。

「なによ・・・」

「なんでもねえ」

「ママ、お仕事中よ・・・」

「おやすみなさい・・・」

「・・・」

春子は娘の心中を推し量る。

アキは部屋に戻ると・・・人々の笑顔を数え始める。

「夏ばっぱ・・・大吉っあん、組合長・・・いっそん」

日本で一番物憂いゴールデンウイークが始まっていた。

英国ではウィリアム王子の結婚式が挙行されている。

ああ 忘れてしまえ

あとかたもなく

流されて行く

愛のかたち

水曜日 地元に帰ろうに帰りなさい(松田龍平)2020年東京オリンピック開催決定!

アキはしまい忘れていた部屋の片隅のストーブで忘れていたストーブさんを思い出すのだが・・・。

この記事を書いている間に東京五輪が帰ってくることが決まった。国家的イベント嫌いの家人は七年の間に「関東大震災」も帰ってきて結局辞退する波目になるさと嘯くのだが、キッドはなにはともあれめでたいことだと思う。どんな戦いでも敗北するより勝利した方がいいに決まっているからだ。彼の呪いが成就しないように悪魔の祈りを捧げるのだ。

一体、東京に生まれ育ち・・・何故、東京五輪を拒否しなければならないのか・・・彼の理性には度し難いものがある。

もちろん、東京で五輪をしている時に・・・避難地域の人々がまだ仮設住宅に住んでいたり、放射能が海にどんどん流出し続けている事態は避けたいところである。どこかに真フクシマ市を作ったり、今のうちに全部海洋投棄をしてしま・・・審議のランプが点灯したので記述を中止します。

とにかく、夢と希望に満ちたスポーツの祭典を見るまで皆さんが健やかで安らかにありますように。

春子はアキの想いを読みとっていた。

「アキは北三陸に帰りたいと思ってるんじゃないかな」

春子に告げられた水口の苦悩の日々が始る。五月である。二日、パキスタンではアル・カイーダのビンラディンが殺害されている。

六日には食道がんで団鬼六が死去。

十二日には貧乏アイドル上原美優が早世した。

十六日には児玉清が胃がんで死去。

二十一日には長門裕之が肺炎による合併症で死去。

そういう世情のあれやこれやとは別にアイドルとして仕事をこなすアキ。

「地元に帰りたがっている」という春子の示唆は水口の心を乱すのである。

雑誌ライター(滝藤賢一)のインタビューに応じるアキ。

「最近、はまってるっていうか・・・マイブームはなんですか」

「腕の黒子に生えた毛をのばしてます・・・あと、寄り目とか」

アホな答えを連発するアキだが・・・「震災後の岩手県」に話題が及ぶと笑顔は消え、当惑するばかりの表情を浮かべるのだった。

純喫茶「アイドル」でアキは思い悩む。

「考え事・・・」

「やはり・・・マイブームで黒子の毛を伸ばすのはパプリックイメージ的にまずかったですかね・・・アイドルらしい答えはやはり、リリヤンとかですかね」

その時、マスターの甲斐さん(松尾スズキ)が見ているアイドル専門チャンネルのようなテレビからは「被災地慰問中のGMT5」の映像が流れ始める。

地元に帰ろう

アイヤーサー

ララララララララ~

食い入るように見つめるアキである。

地元に帰りたいのか・・・そうではないのか・・・懊悩した水口は種市を訪ねる。

「俺は・・・今、岩手県と戦っているんだ」

「・・・」

「種、お前は戦ってないのか」

「今、仕込中です・・・」

「岩手県は県の中では一番広い。ちなみに次は福島県でその次が長野県だ」

「はあ・・・」

「北海道は別格としても・・・敵が強大すぎて・・・味方が必要なんだ・・・もう、種のラブにすかりたいくらいだ・・・」

「でも・・・恋愛禁止じゃ・・・」

「どうなってんだよ」

「一度、キスしただけです・・・」

「自慢してんのかよ・・・自慢すんなよ・・・種」

「何が言いたいんですか」

「アキちゃんは・・・岩手県に・・・地元に帰りたいのかな」

「天野は眠る前に・・・北三陸のみんなの笑顔を数えるそうです」

「・・・」

「でも・・・ユイの笑顔だけは思い浮かべられないらしい」

「・・・それ・・・滅茶苦茶、帰りたがってるってことじゃないか・・・」

一体・・・アキを東京に留まらせているのはなんだろう。

ユイのところへ・・・飛んで帰らないのは何故だろう。

ああ・・・知ってるさ。それが何かを水口は知っていた。

しかし・・・それをクリアしてしまえば・・・アキがアイドルを辞めてしまうのではないかと危惧していたのだ。

天野アキが最後にやり残していること・・・それは東京の仲間たちと・・・一緒にステージに立つことだった。

水口は追い詰められた。

仕事のないアキの部屋に仕事をしない鈴鹿がやってくる。

「天野さん・・・濡れせんべいでも食べない」

「ヒマだったら・・・仕事してけろ」

「まあ・・・親子で似たようなことを・・・よかったら映画でも見ませんか」

鈴鹿は「潮騒のメモリー~母娘の島」のDVDを示す。

どっぷりと映画に没入するアキ。

鈴鹿のセリフを囁きまくるのだった。

鈴鹿はアキにとっての銀幕のアイドルなのである。

「うう・・・もったいねえ・・・こんなにいい映画なのに・・・打ち切りなんて・・・もったいねえ・・・うええん」

「そうね・・・あなたは・・・まあまあ・・・私は最高だものねえ」

激しく同意するアキだった。

アキにとって女優としての鈴鹿は「絶対的存在」なのである。

それほど神聖視する存在にタメ口をたたけるのが・・・天野アキの特殊性なのだった。

だからこそ・・・企画倒れで見捨てられつつあった・・・GMT5は再生されるのである。

アキが訪れただけで北三陸市は活気あふれる街となったのだ。

そして、ちょっとした教育番組で全国の子供たちが虜になるのである。

なにしろ・・・そういう朝ドラマのヒロインなのである。

あまりにもアホの子設定なので・・・お茶の間は時々、それを忘れてしまうほどなのであった。

理屈であれこれ思い悩んでも到達しない正解に直感で到達する人。

それが天才というもので・・・この世界ではそれはアホの子と紙一重なのだった。

太巻も鈴鹿も・・・春子との一件を抜きにして・・・その魅力を見抜いているのだった。

そして・・・水口もアキの虜になっている一人だった。

できれば・・・アキを籠の鳥にしておきたかった。

しかし、愛の奴隷には主人を囲うことはできないのである。

水口にできることは・・・アキに最高の舞台を整える・・・それだけだった。

水口は太巻に頼みこんだ。それなりにメジャーな音楽番組での天野アキとGMT5の共演を・・・。

太巻はすべてを飲みこんで・・・水口の希望を叶えるのだった。

それが兄貴分として渡世の義理を果たすことだったからである。

音楽番組「私らの音楽」で・・・「地元に帰ろう」を歌う・・・。

それは・・・天野アキを大地に放つことだった。

衣装は・・・お披露目ライブで着用する予定だった・・・潮騒のメモリーズ改3である。

頭の綿飾りがGMT5共演仕様なのだった。

スタジオで再会を喜ぶ・・・アイドルたち。

水口は夢で叫んだようにくちびるを動かすが言葉は風になってしまうのだ。

話をそらして歩いても心はそのまま置き去りになってしまうのだ。

そんな水口の心を見つめる太巻。

透明な水の底ではガラスの破片が光っているのだ。

地元に帰ろう 地元で会おう

あなたの故郷 私の地元

地元 地元 地元に帰ろう

好きです 先輩 覚えてますか?

朝礼で倒れた私

都会では 先輩 訛ってますか?

お寿司を「おすす」と言ってた私

今、アキという津波はGMT5と言う防波堤を乗り越えていた。

マネージャーという水口を押し流していく。

「泣くなら・・・外で泣け」

太巻は優しく囁くのだった。

水口はもうこらえることができなかった。

自分のものだけにしておきたかったアキ。

それを自ら解き放つのだ。

地元に帰ろう

好きよ

地元で会おう

先輩

あなたの故郷

がばい

私の地元

で~じ~

水口は一人泣いた。

埼玉

仙台

福岡ごほっごほっ佐賀

沖縄

ブラジル

岩手

岩手

岩手

岩手

岩手

水口は敗北しつつ勝利した。

ださいけれどもかっこいいのだ。

「岩手~」

事務所別館的な純喫茶「アイドル」で春子は叫ぶ。

「ひょっとして・・・アキは岩手に帰りたいのかな」とつぶやく正宗。

「え~、今頃~」とツッコミを入れる甲斐さん。

「君も帰りたいのか・・・春子さん」と甲斐さんをスルーする正宗だった。

他人の話を聞かない遺伝子発動中である。

永久保存版の「天野アキ・GMT5の地元に帰ろう in 私らの音楽」を再び再生する甲斐さん。

そこへ・・・アキが飛び込んでくる。

「ママ、おら・・・北三陸さ、帰りてえ・・・」

暗鬱な五月が終わり、時は六月一日になっていた。

まだ早い夏の陽があとずさっていくのだった。

木曜日 去る時は追わず、来る時を拒まず・・・今を生きるということ(小泉今日子)

ここで・・・春子は親として・・・アキに反省を促すのだった。

「いい加減にしなさいよ・・・何度目よ」

「ナウシカほどではねえど・・・海女になった時、南部ダイバーになった時、アイドルになった時・・・で今度・・・だから四度目くらい」

「やりたい放題で・・・中途半端なのよ・・・今は次のチャンスを狙うとこでしょうが」

水口が純喫茶「アイドル」にやってくる。

甲斐さんが解説する。

「大丈夫・・・今、スタート地点」

しかし、水口はもう覚悟ができていた。

鈴鹿はドラマの監督(古館寛治)にクレームをつけている。

「この・・・私の心は揺れているってセリフ・・・被災者の心を傷つけませんかね」

「ジオンの兵士はそれでもザクに乗るんです」

「・・・はあ・・・」

アキについていきたいが・・・心身症の大女優を残していくわけにもいかない。

マネージャーとして水口はスリーJプロを抜けることはできないのだった。

春子の説教は続く。

「途中でなんでもかんでも・・・投げ出して・・・この子は・・・」

「投げ出したり、あきらめたりするつもりはねえ・・・」

「じゃ・・・なんなのよ・・・アイドル編に慣れた人たちはGMT5のリーダーとか真奈ちゃんとかキャンちゃんとか特に小野寺ちゃんの出番が減るって騒ぐわよ」

「それなりにサービスはした・・・だけど・・・今は、歌やお芝居より気にかかることがあるんだ・・・」

「なによ・・・それ」

「夏ばっぱのこと・・・北鉄のこと・・・リアス/梨明日のこと・・・海女カフェのこと・・・琥珀のこと・・・」

「・・・もういい・・・わかったわよ・・・しょうがないわね」

「北三陸がおらを呼んでるんだ・・・ママはどうする・・・」

「え・・・私が一緒に行く前提じゃないの・・・」

「ママは東京でやりたいことがあるべ。パパともヨリが戻ったし・・・それに鈴鹿さんを一人にできないべ・・・」

「・・・」

「鈴鹿さん・・・震災以来、自分を見失ってるべ・・・ここは鈴鹿さんの影武者がしっかり支えてやらねばなんねえべ・・・それがもう一人の鈴鹿ひろ美の使命だべ」

「いいの・・・一人で大丈夫なの」

「おら・・・もうすぐ二十歳だ・・・自分の面倒ぐらいは自分でなんとかするべ」

「正宗さん・・・なんか言ってよ」

「とにかく・・・アキが東京に帰ってきて二年近く、春子さんも帰ってきて事務所を初めて一年・・・パパは幸せだった」

「おらも・・・人生の中で一番、幸せだった」

「なによ・・・最終回みたいなこといって・・・人生はまだまだ続くのよ」

「とにかく・・・春子さんとヨリが戻ってよかった・・・」

「そこじゃ・・・ないでしょうがああああ」

水口は微笑んだ。

「考えてみると・・・甲斐さんって・・・キーパーソンですよね・・・春子さんを太巻さんがスカウトしたのもここだし・・・正宗さんが春子さんにプロポーズしたのもここ・・・ここがなければ・・・潮騒のメモリーも生まれなかったし・・・アキちゃんさえ生まれなかったかもしれない・・・」

「なにそれ・・・初耳・・・そんなこと・・・本当にあったの・・・ええーっ」

水口は背後にアキが近づいてきたのを知った。

「水口さん・・・お世話になりました」

「お疲れ様・・・」

純喫茶「アイドル」でコーヒーをそっと差し出す甲斐さんだった。

無期限休養体制に入るアキは・・・業界各所への挨拶回りを開始した。

「地元に帰るんだねえ」と河島たちはつい月並みなことを言ってしまうのだった。

太巻はアキを握手と笑顔で送り出す。

スタジオで「おめでた月面飛行士」のようなものをリハーサル中の鈴鹿の元へ飛び込むアキ。

「本当にかぐや姫みたいな子ね・・・」

「お世話になったでがす」

「ずっと向こうに行くの」

「わかりません、二、三年になるか・・・二、三日になるか」

「じゃ・・・私も行こうかな・・・夏さんにも会いたいし」

「それは駄目です・・・スケジュール目いっぱいですから」

「なんなのよ・・・もう・・・ブラック企業なの」

「鈴鹿さんに言われたこと・・・生涯忘れねえです・・・むいてないけど・・・続けるのも才能のうちだって・・・」

「良いこと言うわね・・・そうか・・・むいてないけど続けるか・・・」

「いや・・・それは・・・鈴鹿さんがおらに・・・」

「そうね・・・続けるわ・・・むいてないけどね・・・あなたは・・・日本一の天野アキにおなりなさいな」

「・・・はい・・・」

鈴鹿は涙を隠して・・・愛しいアホの子に別れを告げるのだった。

Am023 東京のアキの胃袋を支えた無頼鮨。

「お世話になりました」

「いや・・・私はただ握っていただけですよ」

大将は笑顔で応える。

安部ちゃんは東京に残るらしい。

GMT5と宮下アユミ(山下リオ)とその愛児も別れを惜しむ。

「これで・・・私たちの出番・・・終りじゃないよね」とリーダー。

「たぶん・・・」と遠くをみつめるアキだった。

「北三陸の皆さんにでーじよろしくね」とキャンちゃん。

「がばいキスシーンが増えてるけどがんばるばい」と真奈ちゃん。

「アキちゃんと私は被災地仲間でかぶってるから・・・永遠のライバルでがんす・・・今度は負けんよ」と小野寺ちゃん。

「淋しさは否めないね」とベロニカ。

仲間たちは・・・アキの心を誰よりも分っていた。アイドルの頂点を極めることも大事だが・・・愛する者の側にいることも大事なのだ。アユミにはそのことが一番分っている。

種市は無言で卵焼きを焼く。

とりあえず・・・盛岡を目指す長距離バスのターミナル。

「アキ」とアキを呼ぶ声がする。

「先輩・・・」

「これ・・・卵焼き・・・バスの中で食え」

「ありがとう」

「おれも・・・一人前になったら北三陸に帰る」

「・・・」

「それまで遠距離恋愛がんばるべ・・・」

「はい」

白い鴎か 波しぶき

若い血潮が 躍るのさ

カップかぶれば 魚の仲間

俺は海の底 南部のダイバー

東京行きの北鉄で夏ばっぱのうに丼をユイの分まで泣きながら食べたアキ。

明らかに大量の種市のお土産モード卵焼きも泣きながら完食するアキだった。

六月の下旬・・・バスは北へ向かうのだった。

東日本大震災後、最初の夏がそこまで来ていた。

金曜日 「お帰り」っていうと「ただ今」っていう・・・こだまじゃねえっ!(宮本信子)

6月24日。なでしこジャパンが初優勝する2011FIFA女子ワールドカップ開幕の二日前。

応急復旧工事を終えとりあえず全線開通した東北道を北上し、盛岡で北三陸行きのバスに乗り換えたアキは北三陸駅前に到着した。

2008年夏・・・アキが最初に訪れた時よりもさびれた駅前だった。

せっかく・・・アキが来て復興したのにちょっと目を離すとこれだと舌打ちしたいアキだった。

神様かっ。

北の海女や北鉄の看板は撤去され、廃墟と化した観光協会。

埃だらけの床の上に海女カフェのミニチュアを発見したアキはあわててジオラマの残骸の所定の位置に戻すのだった。

縁起でもないのである。

北鉄は営業していることはしていたが一区間だった。

無料運転は終了し、全区間一律100円の運賃だった。

無人の改札に100円を置くアキ。

食料支援のために買いこんだ缶詰がガラガラとうるさいのだった。っていうかレジ袋破れんぞ・・・。

いつもの線路上のキツネと戯れるアキ。

せっかく覚えたのに披露する場のない「暦の上ではディセンバー」を単独公開するのだった。

暦の上ではディセンバー

でもハートはサバイバー

師走は忙しい 町は慌ただしい

だけど 虚しい そこは デリカシー

季節外れである。

しかし・・・そんなアキの背後に忍び寄る黒い影。

「対象、発見・・・キツネを相手に踊ってます・・・」

懐かしさでいっぱいになったアキは上の空で北鉄に乗り込むのだった。

思い浮かぶのは・・・ユイのことばかりだった。

アキが北三陸で発見した北国の美少女ユイ。

はじめての親友のユイ。

ミス北鉄のユイ。

二人でウニ丼を売りまくった。

ケンカして無視したこともあった。

そして・・・お座敷列車の潮騒のメモリーズ・・・。

何もかも遠い夢。みんな幻だったのか・・・とアキがブルーになった頃・・・歓声が聞こえて来た。

バカっぽいサウンドが鳴り響く。

車掌の吉田が被災地仕様の制服で窓を開ける。

「吉田さん・・・」

「おかえり・・・」

袖が浜のホームには懐かしい顔ぶれが集まっていた。

「安部ちゃんが・・・駅長に電話くれて・・・みんなで待ち伏せしてたのさ」

「びっくらこいた」

旗がふられ、「おかえり」のプラカードが揺れる。

アキは主演映画デビューを果たし、主題歌デビューもして、全国放送で子供に大人気、雑誌や新聞にも顔を出す・・・北三陸市が生んだはじめてのアイドルなのである。

歓迎されて当然なのだった。

しかし・・・そこは被災地である。

集まったのは仲間たちであった。

眼鏡会計婆、弥生さん、美寿々さん、花巻さん。

琥珀の勉さん。ストーブさん。そして保さんに大吉さん。

「お帰り」

「ただ今」

「アキがいなくてさびしかった」

「元気そうでよかった」

「有名人になってもちっともかわらねえ」

「えへへ」

「お帰り」

「えへへへへ」

「お帰り」

抱きしめられ、握手をされ、頭を撫でられ・・・すっかりうれしくなるアキだった。

みんなの笑顔はかわりなく・・・しかし・・・修羅場をくぐりぬけたものが持つ強さがあった。

「あれ・・・夏ばっぱは・・・」

「ああ・・・」と言葉を濁す花巻だった。

「とにかく・・・家に帰るべ」

家には花巻の二人の娘が待っていた。

少し大きくなったようだ。

「あれ・・・フレディーは」

「花巻さんはパートを抜け出してアキの顔を見に来たんだ」

「花巻さんちは全部流されたからな」

「おらのとこもほぼ全壊だ・・・一応仮設住宅を申し込んでるが・・・いつになるやら」と組合長。

「大変だったな・・・それなのにみんなちっとも変ってねえ」

「まあ・・・いつまでもクヨクヨしてらんねえからな」

「んだんだ・・・まめぶでも食え」と弥生さん。

そこへ・・・いっそんとあつし、吉田夫人がやってくる。

いっそんは復興ボランティアをしながら有名人のサインをコレクションしているのだった。

吉田夫人は停電した避難所で初産を成し遂げていた。

「めんごいな・・・」

「だべ・・・」

「それにしても・・・夏ばっぱはどうした・・・まさか・・・入院・・・」

人々は口を閉ざすのだった。

もしや・・・と思ってアキは・・・浜へ降りてみる。

見慣れた光景は一変し・・・残骸や・・・重機がそこかしこに目立つ。

海女の磯辺は・・・閑散とした。

「夏ばっぱ・・・」

さすがに・・・被災地では海女漁は無理か・・・とアキが思うや否やうにがアキの背後を襲うのだった。

「いじぇっ」

アキは反対側の磯を覗く・・・すると・・・鳴り響く夏のテーマソング。

星よりひそかに 

雨よりやさしく

あの娘はいつも歌ってる

海藻マフラーを身にまとい・・・ゴジラのように浮上する夏ばっぱだった。

「アキ・・・帰ってきたか・・・」

「夏ばっぱ・・・なんで潜ってるの・・・」

「面白いからに決まってるっぺ」

するとすでに武装してかけつける海女軍団。

「なんだ・・・今年も潜るのか・・・教えてくれたらよかったのに・・・今年も潜るのかってメールしたべ」

「メール・・・あっ」

「あらら・・・夏ばっぱ」

「また、携帯もったまま水さ入ったのか・・・」

「やっちまった・・・」

「四代目だべ・・・」

うっかりして・・・携帯を水没させる夏ばっぱのために・・・アキのメールは海の藻屑と消えていたのだった。

アキは夏ばっぱの豪快さとアホさに・・・さすがはおらのばあちゃんだと感じ入るのだった。

そして・・・三年ぶりにアキは夏ばっぱの採れたてのウニを頬張るのだった。

2008年夏。ウニ一個。

2009年夏。ウニたくさん。

2010年夏。ユイがウニ四個。

そして2011年夏。

そう・・・なんだかんだ・・・あの日から三年近い歳月が流れ去っていたのだった。

来週は海開きなのである。そして・・・海女のアキちゃん復活なのだった。

土曜日 私の私の彼はPurple Haze の Jimi Hendrix ~(橋本愛)

たちこめてるの紫煙が・・・。

海の中を歩いてる

上とか下とかもやもやしてる

自分が不運なのか幸運なのかもわからない

呪いをかけられているかもね

たすけてよ

たすけてよ

うううううう

あああああ

うううううう

あああああ

「そっちは行かねえ方がいい」

「なして・・・海女カフェの様子が心配だ」

「心配するようなものはなにも・・・」

「・・・」

海女たちの制止を振り切って海女カフェの残骸に足を運ぶアキ。

しかし・・・そこにあるのは屋根と瓦礫の山だった。

「懐かしいようなものは何もないべ・・・」

海女たちはアキが傷つくことを気遣った。

しかし・・・アキはアホの子なのである。

「魚たちは・・・」

「死んだ・・・水槽も壊れたしな」といつの間にか姿を見せる組合長。

「これでも大分片付いたんだ」と弥生。

「ローンは片付いてないけどな」と美寿々。

「金のことはいい・・・心配するな」と眼鏡会計婆。

アキはステージに積った土砂の下に「潮騒のメモリーズ」の看板を発見する。

そこに・・・アキがいた・・・そして・・・ユイちゃんがいた。

「せっかく・・・おめがこさえた海女カフェだけど・・・仕方ねえ・・・人はな・・・海から恵みを受けて幸せになって海のこわさを忘れることがある・・・それが人の傲慢さだ」と夏ばっぱ。

「よし・・・決めた」

「・・・」

「おら、海女カフェ復活させるべ」

「無理だよ」と応じる懐かしい声。

「アキ、夏ばっぱの話・・・聞いてなかったのか・・・」と海女たち。

「大体聞いてたぞ・・・要するに気にするなってことだべ・・・。おら・・・東京にいた頃・・・自分に何ができるのか・・・ちっとも見えてこなかった・・・入ってくるのは何万人のデモだとか、何万トンの瓦礫の山だとか、何万人の避難民とか・・・何万ベクレルだの何万シーベルトだの・・・おっかねえことばっかだ」

「何万シーベルトは恐ろしさがケタ違いだけどな」

「だけど・・・北三陸に来てみれば・・・とりあえず人は元気だ・・・食うものもなんとかある・・・後は何をするかだべ・・・あれ・・・なんの話だっけ・・・」

「海女カフェでしょ・・・」

「ユイちゃん」

「俺が連れて来た」とストーブ。

「いくら・・・アキちゃんでも・・・それは無理だよ・・・現実は逆回転できないんだもの」

紫の煙がもやもやして

昼か夜かもわからない

なんだかいやになってくる

もうすぐおわりがやってくる

そうなる前に

助けてね

二人は再会を祝して袖が浜の駅に上がるのだった。

「ここから見下ろすと・・・昔と変わらないようにみえるでしょ・・・」

「・・・」

「でも・・・下は大変だよ・・・何もかも壊れて」

「・・・」

「種市先輩・・・元気・・・」

「元気だ」

「私もね・・・彼氏できたんだ・・・ださいから紹介しないけどね」

「じぇ」

「ハゼとジミ・ヘンドリックスを足して2で割った感じ・・・」

「じぇじぇ」

「見る・・・イラストだけど・・・」

「じぇじぇじぇ・・・」

もはや人間じゃないが・・・クドカンか・・・クドカンなのか。

「私・・・もう運が悪いんだか・・・悪運強いんだか・・・わからなくなっちゃった・・・」

「・・・」

「で・・・何で帰って来たの」

「・・・」

「アイドルとして・・・大事な時なのに・・・」

「そんなの決まってる」

「決まってる・・・」

「ここが一番いいところだってユイちゃんに教えてやるためだ」

「・・・」

「東京に行けないユイちゃんの代わりに東京さ行って、アイドルになって歌って踊ってお芝居して、いろいろ体験してみて・・・やっぱりここが一番だってユイちゃんに言うためだぞ」

「本当・・・ここが一番いい」

「もちろんだ」

「ふふふ・・・大好きなアキちゃんの言うことだから・・・信じるよ。わかった・・・もう、私、どこにも行かなくていい・・・私に逢いたくなったら北三陸に来なさいって言う」

「ユイちゃん・・・」

「アキちゃん・・・帰ってきてくれてありがとう・・・」

アキとユイは相思相愛なのである。

猫のカツエも赤面なのだった。

アキの基本は地元が嫌いなユイちゃんに海辺の青さ教えたいなのである。

そして・・・海開き。

「本日は安全を祈願して御祈祷があります・・・海女の皆さんは集合してください・・・あんれま、おら普通のパンツさはいできちまった・・・濡れたら困るから替えのパンツ持ってくんべ・・・あんれえ、アキちゃん、マイクのスイッチ入れたままだべな・・・今の放送されちまったぞ」

猫のカツエも爆笑なのだった。

そして・・・海女のアキの行くところ・・・ツンデレのヒビキ(村杉蝉之介)も軍団引きつれて来襲するのだった。

真のアイドルになったアキが休養しようが何しようが世間は放っておかないのだった。

アキはアホの子だが・・・もちろん、もはやただの人ではない。おそらく・・・何十万人ものファンを持つ・・・立派なアイドルなのである。お茶の間はうっかりするとその点を忘れるのだな。

アキの「海女カフェ」の再建が叶うかどうかは別として・・・帰って来た海女のアキちゃんを・・・北三陸のドス黒いハイエナたちは逃がさないのである。

K3RKDNSP(北三陸を今度こそ何とかすっぺ)の黄色いポロシャツは復興支援特別価格で発売中なのであった。

週の前半であんなにかっこ良かった大吉が結局、金の亡者になっちまうのだった。

アキはヒビキの暴言にムッとして、なんてったって被災者の大吉たちの銭勘定に困惑しつつ、笑顔をたやさない。

だって、彼女はもはやいつでもどこでもアイドルなんだから・・・。

うわあ・・・今週もフィナーレとしてパーフェクトだった・・・。

どこまで続く・・・この絶頂感・・・。

紫色のもやの中

私が感じるいい気持ち

紫色のもやの中

ああ、もう、たまんないのよ

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2013年9月 7日 (土)

夏の夜の絶望~悪霊病棟(夏帆)

恐怖は絶体絶命の境地である。しかし、そこに至る道には直線ルートのみではなくて紆余曲折がある。

恐怖を感じさせながら完全なる恐怖へ導く場合もあり、いきなり恐怖の真っただ中に送りこむ場合もある。

「死」を知らぬものに「死の恐怖」はない。そのために「死」を教えなければならない。「死」を教えるために「生」を学ばなければならない。

「恐怖」への道は時に一寸先にあり、時に永遠の彼方にある。

「恐怖の世界」を作るものはこのために「世界に一体感をもたらす」必要が生じる。

「恐怖」の根源である「死の意味」を共有し、「恐怖」を示す時には「生の意味」を統一するのである。

そして、「恐怖」を与える場合は、風のように迅速に、林のように音をひそめ、火のように容赦なく、山のようにさえぎり、陰のように身を隠し、雷のように一撃で行動するのである。

前述の如く恐怖を知らぬものに恐怖を与えるにはあらかじめ恐怖について指導しなければならない。

さらに恐怖することに恐怖するものには恐怖などないようにおびき寄せる。

各所に配置した恐怖は臨機応変に集合し、また分散できるようにする。

徹底的に恐怖させるためには恐怖が続くように見せかけて油断させ、安堵をついてより大きな恐怖を示す。このように次なる恐怖は段階的により大きな恐怖へと進むように配慮する。

完全な恐怖の確信が生じれば猶予なく恐怖に駆り立てる。

恐怖に情け容赦は無用だが、情け容赦のないところに恐怖が存在しないことを肝に命ずべし。

で、『病棟~第7号室』(TBSテレビ201309060058~)脚本・酒巻浩史(他)、演出・鶴田法男を見た。夏帆が出ていなければ誰が見るか・・・というような内容になっているドラマだが・・・逆に「たべるダケ」(テレビ東京)は第9話に松尾スズキが登場し、それだけでもうワクワクするわけである。石橋杏奈も「ブスッ」て云われちゃいました。石橋杏奈がブスになっちゃうようだともうどれだけの人がブスになっちゃうか・・・その恐怖ははかりしれないものがある。目指しているところは違うとは言うものの「お笑い」も「恐怖」も基本は同じである。こっちのスタッフは自分のいたらなさを反省するべきだと考える。なにしろ・・・主役だけを考えれば食欲の救世主・シズル(後藤まり子)なんて・・・ただのおばさんなのである。それをここまで圧倒的な物語の主役に仕上げているのだ・・・すごいぞ。

しかし・・・まあ、猫背のナース(夏帆)は次第に存在感を増し、ちょっとした可愛さも感じさせるようになっている。

基本的に「霊能力者」と「魔物」は似て非なるものである。

東洋の場合は「怨霊」は仏法的な霊力によって調伏されるものと相場が決まっている。

この場合は法師にしろ、修験者にしろ・・・修行によって霊力を得るわけだが、そこには「才能」というものも関与する。

つまり、持って生まれた霊力の差異である。

超能力者も精神病患者も基本的には「サイキック」であるように・・・「見えぬものを見る力」の保有者は機知の外の人と紙一重なのである。

つまり、「見えぬもの」と「見えぬものを見る人」はある意味、同じ種類に属する。

ここに「見えぬもの」が「モンスター」なら「見えぬものを見る人」も「モンスター」という発想が生まれる。

そうなると「化け物を退治したら化け物」というお約束が成立する。

業者はそういうことをさけるために「修行」による「得度」という権威付けで防備するのだった。

「キャリー」によって印象付けられた「呪う超能力者」は「リング」で結実する。

しかし・・・それは日本伝統の「神」の姿でもある。菅原道真の呪いがこわくて天満宮は祀られるのである。

そのような・・・系譜を考えれば・・・尾神琉奈(夏帆)は「エコエコアザラク」の黒井ミサ的なキャラクターの一種である。もちろん・・・黒井ミサにも作品によってキャラクターが勧善懲悪的でないものもあるが・・・基本的には悪しきものを悪しき能力によって封ずる・・・毒を持って毒を制するヒーローとして造形されているのだった。

今回・・・突然、性格の変わったヒロイン琉奈はそういう意味では・・・エクソシスト・琉奈の誕生の物語としてとらえなおしてもらいたいスタッフの意図を感じさせるのである。

だが・・・そういうのは小学生くらいで覚醒してもらいたいよね。

「対魔能力」はあるけれど・・・友達少ない内気な巫女ナース設定でいいじゃないか・・・。

もちろん・・・なんだかわからない世界を描きたいんだ・・・というスタッフの気持ちもわからないでもないが・・・琉奈が突然、「魔物」の正体の分析を始めたり、聖なるお守りで悪霊を退散させちゃうなら・・・もう、最初からその路線でいけばいいじゃんか。

猫背で・・・ちまちま歩いて・・・ナースとしてはドジばかり・・・婦長に叱られて泣いて・・・唯一の友達の愛美に慰めてもらう・・・だけど・・・本当は悪霊退治の実力者でさあ。

天魔くんも鬼太郎なんだし、琉奈も黒井ミサでよかったと思うよ。

さて・・・「恐怖」を高める一つの手法に前フリがある。

これは肝試しの前に「その場の霊的な由来」などの情報を含めた「怖い話」をするわけである。

で・・・その場合には「本当にあった怖い話」が展開する。

これは・・・「霊」という嘘くさいものを・・・「実話」という嘘で実在化させるというトリックである。

体験談の場合・・・語り手はすでに最高の恐怖である「死」からは逃れている。

だから・・・体験談は・・・しかし「次は死ぬかもしれない」という恫喝を含むのが好ましい。

このように「恐怖」をある程度、「学習」してからの方が恐怖が深まる場合があるわけである。

これは基本中の基本だ。

とにかく・・・ショック療法で・・・超絶霊能力者として覚醒した琉奈。

旧病棟最上階に「キヌ」と言う名の悪霊が潜み、琉奈の霊能力を利用して封印から解放されたこと。

「キヌ」は満月の夜に呪力が最高潮に達すること。

琉奈に憑依していた低級霊を利用して、病棟に恐怖を伝播していること。

そして、「キヌ」は現在はナース彩香(川上ジュリア)に憑依していることなどを見抜くのだった。

すでに・・・琉奈の虜となっている朝陽(大和田健介)や部下の愛美(高田里穂)の死の真相を究明する気満々の斑目(鈴木一真)は琉奈の言葉を鵜呑みにしてただちに病院に戻る。

すでに・・・霊感冴えわたる琉奈は・・・キヌ/彩香の位置を探知するほどの能力を発揮する。

その唐突さに吃驚仰天である。

行く手に立ちはだかるのは恐怖でパニックに陥り、琉奈を白眼視する主任ナース・木藤(森脇英理子)である。

「この人殺しのど腐れ魔女めが化けもの呪いで病院崩壊ナース逃散私の立場は木端微塵のアッチョンブリケおたんこナースのナースのお仕事点滴お注射剃毛尿の検査に大便検査吐瀉物出血大サービスあらえっさっさあのさあいやさあ」

その激昂ぶりの狂気に足止めされる朝陽。

一人先行する琉奈。ルナはもちろん月の女神の一人である。

やがて病院の奥まった一室で獣人化したキヌ/彩香と遭遇する。

基本的に「狂犬病患者」である。

「ガウガウ」と呪いの黒い歯剥きだして・・・迫る四つん這いナース。

琉奈は「やめてよして」と最後の切り札の母からもらった聖なるお守りを突きつける。

「ギャオン」と叫ぶ声に遅れてかけつけた朝陽は倒れこむ二人のナースを発見する。

正気に戻った彩香の側には抜けた黒い歯が落ちていたのだった。

「実は・・・私は・・・」と体験談を語りだす彩香、記憶があいまいで順序が逆なのでまったくこわくないのはセオリー無視だからである。

本当にこのスタッフは「恐怖」というものが根本的にわかってないのだなあ・・・監督、ホラー映画何本撮ってるんだっけ・・・。

「でも・・・悪いのは私・・・こわがりだから・・・新人に怖い場所は全部押しつけていた・・・」と突然、怖がりの正体を告白する主任だった・・・なんのこっちゃあ。

「とにかく・・・もう大丈夫」だと気休めを言う朝陽。

不審げな琉奈を残し病室を出ると斑目に「キヌの謎を解かなければ事件は解決しない」ときっぱりである。

謎を解いたって・・・呪いが解かれるとは限らないことは言うまでもないだろう・・・。

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2013年9月 6日 (金)

朝がくればいい事があるからドンドンマイマイドンマイマイ(松井愛莉)

ある意味、ラインを越えて「アニー」登場である。

だから、ラインを越えて・・・「Woman」のナマケモノの正体について・・・考察のメモを残していく。

実は・・・信は・・・被災者の象徴である。

そして・・・栞・・・はメルトダウンした原子炉なのである。

ということはナマケモノとは・・・政財界が一体となった原子力事業の関係者一同なのである。

栞がしたことは・・・「犯罪」であるが・・・それは「名誉棄損」といったもので「殺人罪」では裁かれない。

だが・・・結果として、信は轢死する。

そして、小春は再生不良性貧血を発症する。

栞を生み出したナマケモノは・・・単なる無能者であって犯罪者ではない。

だから・・・あくまで・・・「自分が悪いことをした」自覚や自責そして反省の念は薄いのである。

家族を奪われ、家を奪われ、職を奪われた人々がいる一方で・・・彼らはそれ以前と変わらぬ生活をしている。

その後ろめたさは・・・拡大すれば日本人全員に波及するのである。

「Woman」のナマケモノはそういう尋常ではない不気味さと滑稽さを秘めていると妄想できるのだった。

それに対して・・・こっちは・・・ものすごくアレなわけだが・・・世界ってそういうもんなのだもの。

で、『山田くんと7人の魔女・第4回』(フジテレビ201308312310~)原作・古河美希、脚本・小川真、演出・星護を見た。コラボCMの中で・・・生徒会副会長の宮村(井出卓也)は二人の秘書を持っている。これを演じるのが土屋太鳳と古畑星夏である。本編に出せよと言わざるを得ない。

今回、トラウマリーディング(心的外傷洞察)の能力を持つ魔女・滝川ノアを演じるのは松井愛莉でアイドルグループ「さくら学院」の元メンバーで、三吉彩花と新聞部 SCOOPERSというユニットを組んでいたのだった。三吉彩花も出せよと言わざるを得ない。

その滝川ノアの幼少時代を演じるのは清水詩音で2010年版「アニー」のモリーである。

このラインの交錯がなんだか物凄く楽しいんだぜ。

テレパシーの魔女・大塚芽子(美山加恋)からの情報で・・・魔女の可能性を秘めた下級生・滝川ノアにアプローチする山田くん(山本裕典)だったが・・・ノアに「ゴリラうざい」と言われて落ち込むのだった。

しかし・・・超常現象研究部一同は思わず納得するのである。

滝川ノアは・・・一世を風靡した有名子役だった。

「アニー」(フィクション)のアニーを三年連続で勤め、大ヒットドラマの主演をして全国の女の子がノアの真似をしてみんなツインテールになるほどの人気を博したのである。

つまり、ハレンチ学園におけるアユちゃんである・・・なんじゃそれゃあああああっ。

しかし・・・成長期で身長が急激に伸びて子役生命を断たれたのだった。

だが・・・成長した結果が松井愛莉なら何の問題もないではないか・・・と問うてはいけない。

山田くんはうらら(西内まりや)とチェンジして・・・テレビドラマ「踊るノアちゃん一家」(フィクション)でノアリンと呼ばれたノアが流行させた「どんどんまいまい」ダンスでノアの気をひこうとするが・・・逆に彼女の古傷に触れてしまう。

ノアの仲間たちは・・・みな過去にトラウマを抱えていると・・・下級生の一人・深沢冴子(相楽樹)は語るのだった。

「私は成績が落ちてサボリ癖がついたし・・・レギュラーになれなくてサッカー部をやめたり、仲間ともめて軽音楽部をやめた子もいる・・・そして、ノアも・・・中学時代に・・・クラスメートからキャリーごっこを仕掛けられて血まみれノアになっちゃったのです」

「キャリーごっこはひどいな」と同情する一同。

しかし、山田くんはバカなのでストレートに言いたいことを言うのだった。

「そんなのただの傷のなめあいだろう・・・成績落ちたらもっと勉強すればいいし、レギュラーになりたかったらもっと練習すればいい・・・仲間と仲直りしたかったら謝ればいいじゃないか・・・過去にとらわれてたら明日の幸せなんてつかめないぜ・・・」

あまりの正論にのけぞる一同だった。

「わかったわ・・・私の過去の気分を味わってみて」

ノアにキスされた山田くんは・・・ノアの能力をコピーして・・・ノアの心の傷を追体験する。

みんなにだまされて・・・舞台の上で「Tomorrow」を歌わされ、豚の血を浴びるノア。

「能力が念力じゃなくてよかったな・・・」と思う山田くんだった。

しかし・・・自分にもトラウマがあったことに思いあたる山田くん。

寧々(大野いと)の虜になって山田くんを裏切った五十嵐(間宮祥太朗)と話し合うことで和解するのだった。

一方、かってのいじめっ子たちに仲間と復讐していたノアも・・・山田くんの一言で心を動かされる。

トラウマを克服しようと・・・歌い出すのである。

それを勇気づけるために・・・ピアノ伴奏をするうらら・・・。

朝がくれば トゥモロー

いい事がある トゥモロー

寂しくて 憂鬱な日には

胸を張って歌うの

トゥモロー トゥモロー

明日は幸せ・・・

歌いきったノアはどうやら・・・トラウマを克服できたようだった。

名曲「Tomorrow」の勝利だった。

ノアは・・・感謝のしるしとして・・・「魔女の書」に下巻のあることを山田くんに教える。

それは・・・どうやら生徒会室に保管されているらしい・・・。

次回は・・・いよいよ未来を予知する魔女・猿島マリア(小島藤子)の登場である。

何も考えなくていいって素晴らしい。

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2013年9月 5日 (木)

汚れた足と松葉杖と飲酒者と屋上の手摺と病院の廊下と死後の人生とWoman(小林薫)

頭から「地元に帰ろう」が離れない水曜日である。

「朝まであまテレビ」を見ていないと知らない部分がオンエアされて・・・「なんで宮城でなくて仙台なんだ~」と疑問が渦巻くのだった。

夢の中では、魔法少女のアキと種市少年が学園ファンタジーを繰り広げる今日この頃だった。

毎度、絶体絶命のピンチに陥る小学生なのにリーゼントの種ちゃん。

「もうだめだ~」

「大丈夫、逆回転させるから・・・」

「でも・・・元の世界はそのまま残るんじゃないのか・・・」

「そういう、七瀬ふたたび的なことは言ってはダメなのでがす」

「最後だけなまるんだ~」

「とにかく・・・死んだ人に謝罪したい時は逆回転するしかないのでがす」

「でも、殺したことは謝れないだろう・・・殺してないわけだし」

「がばいとかで~じ~はたいしたもんだと思います」

「浪江町は帰れて双葉町は帰れないってさ」

「地元に帰れないって・・・酷過ぎるべ」

・・・なんのこっちゃなのである。

しかし・・・さすがは「Woman」だ・・・一瞬で「あまちゃん」的世界を静止させる威力があるのだった。

とにかく・・・今年の夏ドラマはあなどれない・・・。

「あまちゃん」と「Woman」は別格としても・・・「天魔さん」「スターマン」「半沢」「名もなき毒」とそこそこ面白いドラマも多数あるし、「サマーヌード」もそれなりに味がある。

やはり・・・ドラマの基本は脚本なんだよね。それに尽きるよね。

で、『Woman・第10回』(日本テレビ20130904PM10~)脚本・坂元裕二、演出・相沢淳を見た。青柳家の三人家族、小春(満島ひかり)、望海(鈴木梨央)、陸(髙橋來)と植杉家の三人家族、紗千(田中裕子)、健太郎(小林薫)、栞(二階堂ふみ)の絆となろうと願った信(小栗旬)は栞の悪戯心と飲酒者の暴行により不幸な死に至る。不幸な星の元に生まれたからである。ナマケモノである健太郎は呑気に栞を説教するが神の逆鱗に触れて川に落ちる。間抜けなナマケモノのために再生不良性貧血治癒のためのドナーの可能性を秘めた栞はその事実を知ることができない。一方、天才小学生の望海は断片的な情報から小春が重い病気であることを推察し眠れなくなるのだった。

「望海ちゃんは何を描いているのかな」

「温泉の元よ・・・」

「温泉の元・・・」

「想像して見て・・・温泉の元の気持ちを・・・」

「そんな哲学的なことを言われてもね」

(だから・・・あなたはダメなのよ)

「いい・・・ずっと暗闇の中にいて・・・光に触れたら・・・たちまち溶けてなくなってしまう・・・そして・・・いい香りを残すの・・・」

「うわ・・・なんだか・・・いやな感じだよ・・・なんだかおそろしいよ」

・・・望海は母親が溶けて消えるイメージに怯える。

「お母さん・・・病気なの」

「お母さんは・・・病気じゃない」

最愛の娘に嘘を重ねる小春だった。

「いたたたたたた・・・いたたたたたた」

堪え性というものが全くない健太郎は救急車に収容されていた。

その情けない姿に絶望すると同時に栞はおかしみを感じるのだった。

(この人が生きているんだから・・・私だってもう少し生きていてもいいかな)

意味のある人生がないように意味のない人生もないのである。

そして・・・栞はひっそりと身を隠した。

足を痛めただけで命に別条のない健太郎を紗千は見舞う。

「しーちゃんはどうしたのかな」

「マキちゃんのところに戻ってないようです」

「だめなのかな・・・あやまって・・・許してもらって・・・第二の人生を生きるわけにはいかないのかな」

「それは・・・無理だと思います・・・あやまりたくても死んだ人にはあやまれないし・・・残されたものには・・・到底、許せないことだもの・・・とりかえしのつかないことなのです」

「そうなのかな・・・とりかうしのつかないことなんて・・・この世にあるのかな」

健太郎の辞書には「悲観」という文字はないらしい。

「恥」を知らない健太郎の存在は・・・子供を捨てた母親である紗千には「救い」でもあった。

それでも、生きていくものには・・・「慰め」が必要不可欠だからである。

「あれじゃないか・・・若い人が寝泊まりする・・・ネット喫茶店・・・」

「捜してみます・・・」

紗千には小春にとっての唯一の希望である栞を捜さなければならない義務があった。

それが栞にとって救いになるかもしれないと紗千は祈っている。

「恥」を知らないフリをして・・・「秘密」をかかえて生きていくのは・・・健太郎の血を引く栞には無理だったのだと・・・紗千は思いを改めたのだった。

紗千には栞ほど素晴らしいインターネットの世界の凶暴性が理解できないからである。

すでに世界は知らないフリが通じない世の中に変貌しているのである。

「過去の傷跡」がいつ、望海や陸に襲いかかるかわからないと小春のシングルマザー仲間の蒲田由季(臼田あさ美)にも推測できるのだった。

仕方なく・・・紗千は街を彷徨う。

日本複合カフェ協会加盟店だけで東京には277店舗あるネットカフェ。未加盟店や類似店舗まで含めたらその数は計り知れない。

当然のことながら・・・紗千は栞を発見することはできない。

栞は・・・今度は高い場所に昇っていた。

栞は・・・「自分を楽にしてくれる場所」を求めている。

そして・・・それは・・・「自分に十字架を背負わせた男」の終焉の地へと栞を導くのだった。

当然のように・・・そこには・・・信に直接、「死」をもたらしたものの行動範囲なのである。

運命に導かれ・・・きっかけを作った女と手をくだした男(三浦誠己)は出会うのだった。

栞からの電話を受ける紗千。

「栞・・・どこにいるの・・・」

「お母さん・・・いるの・・・信さんの背中を押した人が・・・交差点でスマホをしている・・・」

「栞・・・変なことをしちゃだめよ・・・栞・・・どこにいるの・・・私と一緒に病院に行ってほしいの」

小春のために・・・と紗千は言ったつもりだったが・・・。

栞には・・・健太郎のことだと察する他はない。

夫婦そろって口下手なのである。

栞には共犯者を見逃すことはできなかった。

「なんだ・・・君は・・・」

「あなた・・・いましたよね・・・四年前の駅のホームに」

「何言ってるんだ・・・」

「押しましたよね・・・あの人の背中を・・・」

「・・・知らないな」

「それで・・・あの人は電車に」

「・・・覚えていない」

「死んじゃって・・・」

「・・・記憶がなくなる方なんだ」

「私と一緒に来てください」

「酔ってたんだ」

「お姉ちゃんに謝ってください・・・」

「・・・俺のせいじゃないだろう」

男はすべてを酒の上での不始末と決めつけてタクシーに乗って去っていく。

「待って・・・待って・・・」

そんなことで待つ男はとっくに自首しているのである。

栞は無力感に打ちのめされた。

水たまりが栞のサンダルを履いた無防備な足を濡らす。

汚れる足。

その不安定な下半身。

灰色の街を染める朱色の後ろ姿。

もう一人のナマケモノであるハタラキモノ砂川良祐(三浦貴大)は・・・妻・砂川藍子(谷村美月)の母親が面倒を見る息子の舜祐(庵原匠悟)の連れ去りを企てる。

しかし、失敗に終り駆けつけた藍子と対峙する。

「俺は・・・仕事を辞めて・・・主夫になる・・・だから帰ってきてくれ」

「なにを・・・今更・・・私、あなたの顔を見るだけで気分が悪くなるの」

「舜祐・・・お父さんと帰ろう」

「舜祐は私がいいに決まってます」

「舜祐・・・お父さんとハンバーガー食べよう」

「舜祐・・・お父さんとお母さん、どっちが好きなの」

そこへ、通りすがりの大岡越前。

「本人の気持ちを聞いてみよ」

「僕は・・・託児所がいいのでございます」

「これにて・・・一件落着・・・なんなら子供で綱引きを所望するか」

「・・・」

小春は病院で輸血の処置を受けていた。

そこへ・・・真相を知るまでは不退転の決意を固めた望海がやってくる。

転校した小学校から下校して病院に直行したのだった。

「お母さんはどこですか・・・」

看護師の一人が望海に対応する。

秘密を守りたい小春は蒲田由季を出動させるのだった。

しかし・・・「人間は死ぬことを知る生き物だ」と聖なる絵本に啓示を受けた望海は病院中の病室、処置室をしらみつぶしにするのだった。

ついに・・・観念する・・・小春だった。

栞から電話を受ける紗千。

居場所を聞いて必死の思い出で階段を昇る。

お茶の間に暗示される「死」・・・。

しかし、栞はまたしても死に切れなかった。

「ごめんね・・・お母さん・・・私、忘れることができなかった」

「・・・」

「あの人に逢いたい・・・逢ってあやまりたい・・・」

「飛びおりても会えませんよ・・・あなたとあの人は行く場所が違うから」

「・・・」

「もう・・・私たちは楽になることは選べないの」

「・・・」

「あなたは・・・もう自分の人生は終わったと思いなさい」

「・・・」

「一緒に病院に行って欲しいの・・・青柳小春さんのドナーに・・・あなたがなれるかもしれないから・・・」

「何の話・・・」

栞はすがる思いで血液検査を受けるのだった。

小春は死力を振り絞って帰宅する。

「友達五人できたの・・・担任の先生は進撃の巨人だった・・・195センチ級」

「・・・」

「キノコだらけのしりとりでごまかすのはやめてね」

「・・・」

「お母さん・・・私、威嚇するために仁王立ちのようなポーズをするアリクイみたいに怒ってるの・・・うおーって」

「アリクイって・・・ナマケモノの仲間なのよ」

「知ってるよ・・・昔は人間に狩られて食べられちゃってたんだ。ナマケモノもアリクイも・・・私たちはナマケモノやアリクイの犠牲の上で生きているんだよ」

「アリクイはマヨネーズが好きなんだって」

「え・・・そうなの・・・って子供だましはやめてよ・・・助けあうって約束したでしょ」

「・・・お母さんは・・・再生不良性貧血って病気です」

「・・・」

「どうせ・・・調べちゃうだろうから言うけど・・・結構、難しい病気なの・・・でも、お医者様は助けてくれるって・・・だから・・・お母さんはきっと助かると思う」

「・・・シングルマザーだから病気になったの・・・」

「そんなことないよ・・・だって・・・私たちは三人家族に見えるけど・・・四人家族でしょ」

「お母さんが見えなくなって二人家族になっても・・・四人家族だよね」

「・・・ごめんなさい・・・嘘をついてごめんなさい・・・私はただ・・・病気のお母さんになりたくなかったの・・・ただのお母さんでいたかっただけなの・・・」

「病気だってお母さんはお母さんじゃない・・・」

「昔、お母さんのお母さんのこと・・・お母さんは・・・そんなに好きじゃなかったの」

「・・・」

「だから・・・お母さんのお父さんとお母さんのお母さんが別れた時にお母さんはお母さんのお父さんを選んだの・・・でもね・・・本当はお母さんのお母さんにも・・・私に隠していたことがあった・・・それをお母さんは気がつかなかったの・・・それはお母さんのお母さんがお母さんであるためにどうしても隠しておきたかったことだったのよ・・・」

「今も・・・お母さんのお母さんが嫌いなの」

「そんなことはない・・・」

「どうして」

「だって・・・お母さんだもの」

「・・・」

「・・・ごめんなさい・・・お母さんを許してください」

「いいよ」

陸はおおらかだった。

その無邪気な明るさに・・・小春は亡き夫を・・・望海は亡き父を見出すのだった。

データを分析した小春の主治医・澤村友吾(高橋一生)は物憂い表情となる。

残された小春の時間は短いことを物語っているようだ。

生と死のデッドヒートは続く。

ナマケモノによって損失された時間が生死を分けぬように・・・紗千は困った時の神頼みをするのだった。

はたして・・・栞のドナー適性は・・・小春の余命を延長できるのかどうか・・・。

すべてはナマケモノやアリクイが人類のにかけた呪いの強さにかかわってくるのである。

場合によっては奇跡的に健太郎がドナー適性があって・・・痛そうなので健太郎が拒否する展開もあると思う・・・それはないと思うぞ。

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2013年9月 4日 (水)

愚かな母と賢い息子と幼年期の終りとスターマン(広末涼子)

西暦1世紀以来、西洋の文学は「聖書」とともに発展してきた。それまでのユダヤの文学が「聖書」と共にあったようにである。

そもそも、ナザレのイエスは「旧約聖書」が生んだアンチ・ヒーローであり、「新約聖書」のヒーローとなっていくのである。

それから少なくとも二千年という歳月の間に、英知が「聖書」に解釈を加えてきたわけである。

しかし、一言で言えばそれは「人間ではない絶対者への帰依」を肯定する書だと断言できる。

それについての是非を考察しても意味はない。

要するに「このみ」の問題だからである。

世の中には「支配されたい」できれば「人間以上の何者かに」と希求する人が多いということなのだ。

それを「馬鹿馬鹿しい」と感じる人は基本的には「神も仏もない」という虚無に身を投じることになっている。

おそらく・・・さらに多くの人間はその中間領域でどっちつかずの日々を過ごしているわけである。

で・・・宇宙開発時代に入ると当然のことながら・・・「神は宇宙人だった」という発想が生まれる。

「幼年期の終り/アーサー・C・クラーク」(1953年)はそういう幻想の代表作の一つと言っていいだろう。

すでに広島と長崎に原爆が投下され、東西冷戦が始り、熱核戦争によって地球が滅亡する予感に囚われていた時代である。

その絶望的状況からの脱出はオーバーロード(主上)星人の来訪によって果たされる。超軍事力を有するオーバーロード星人によって地球は征服され、統一されてしまうのである。

まあ、手っ取り早い平和的解決である。

これによって・・・地球は未曽有の幸福な時代を迎えるわけである。

もちろん。どんな時代にも現状に満足しない「服従せざるもの」はいて・・・不屈の闘志でオーバーロード星人に戦いを挑むわけである。

ナザレのイエスがそうであったように・・・「自分は神に選ばれた特別な存在」という妄想は人間にはつきものである。

やがて・・・一部人類はオーバーロード星人の正体を知る。彼らはオーバーマインド(神上)星人の下僕だったのである。

そして・・・一部人類はオーバーマインド星人的能力を発現しはじめるのだった。

まあ・・・基本的には他力本願のいきつくところ自力本願という堂々巡りをするわけです。

映画「2001年宇宙の旅」(1968年)の原作者でもあるアーサー・C・クラークである。

「2001年宇宙の旅」では神(モノリス=巨石型電子頭脳)によって知恵をつけられた猿が人類となり、人類滅亡の直前、神(モノリス2、モノリス3)によって導かれた人類は新人類(スター・チャイルド)に進化する。

まあ・・・好戦的な人類に絶望するとクリスチャンは基本的にこういう風に神に帰依するという典型的な妄想なのである。

で、『スターマン・この星の・第9回』(フジテレビ20130903PM10~)脚本・岡田惠和、演出・白石達也を見た。何故か、憑依型宇宙人が遭難しやすい太陽系第三惑星地球の日本列島本州河口湖上空である。少なくとも1973年に重田A1(國村隼)が、1998年に祥子A2(有村架純)が、そしてタツヤ/星男A3(福士蒼汰)が死体に憑依した宇宙生命体によって蘇生しているらしい。実際には融合宇宙人化したわけである。佐和子は偶然、融合途中の星男を拾い、内縁の夫として確保したのだった。

佐和子の祖母・美代(吉行和子)の主治医・溝上先生(モト冬樹)はその恐ろしい事実の一端を垣間見るが、無知蒙昧な女たちの無言の圧力で言論を封じられるのだった。

急速に地球人化する星男は「男」として仕事をしたいと願うようになる。

そもそも、憑依以前のこの宇宙人に男女性別があるかも疑問だが、有機生命体を乗り物として使用する以上、母星においても乗り物の繁殖のための擬似性交は行われている可能性がある。

可能性としては地球は彼らの乗り物牧場の可能性さえあるわけである。

そういう意味では「火葬」は彼らにとって好ましくない地球人の風習ということになるだろう。

しかし、彼らの技術力を持ってすれば灰からの再生も可能なのかもしれない。

スナック「スター」の常連客である幸平(KENCHI)たちに林業に誘われた星男はそこを職場に定める。

自分の内縁の夫が「職」を得たことで朝からウキウキして内縁の愛妻弁当を作るのだった。

そんな母の浮かれ加減に危機感を感じる聡明な長男・大(大西流星)、小学五年生としては的確な洞察力で・・・大の名前入りタオルと星男の名前入りタオルを間違えるような杜撰さでは・・・この先、異星人の地球における保護者としてやっていけないのではないかと母親のルーズさを危惧するのだった。

一方、自分が宇宙人だという確証を得た祥子は重田たちの得意技である首の360度回転に挑戦する。

しかし、幼児融合体であったためか、技術的に未熟なためか・・・180度回転したまま首が戻らなくなってしまうのだった。

半信半疑だったお茶の間も祥子が人間ではないことを認めざるを得ない瞬間だった。

首と胴体裏返し人間となって重田に救援を求める祥子。

重田は祥子にアドバイスして現状復帰に成功するが・・・高速非言語通信で交信できないなど・・・祥子の正体には謎か残るのだった。

しかし、他人から見ればイチャイチャしているとしか見えない人体修復現場を重田の古女房(角替和枝)と祥子の自称恋人の安藤くん(山田裕貴)に目撃されてしまい、仄かな修羅場が展開するのだった。

一方、新人の星男にいいところを見せようと安易に安全手順の無視を行った幸平は樹木から落下してしまう。

重田からも佐和子からも能力の封印を命じられた星男だが加速能力と治癒能力を使い、幸平を救助してしまうのだった。

しかし・・・幸平と男たちは・・・星男の異常さを恐れることはなく・・・ヒーローとして讃えるのだった。

だが・・・能力を制御できなかった星男は前途に不安を感じるのである。

その頃・・・大が帰宅していないことが発覚し、家出ではないかと疑われる。

星男は加速能力で捜索するが大は自分で帰宅するのだった。

佐和子の親友である節(小池栄子)は二枚目の大とそうでもない次男の秀(黒田博之)への態度がとてつもなく差別的である・・・秀は自分の将来に楽観的になれない何かを感じる。

女たちは大が新しい父親に嫉妬したのだろうと下世話に考えるが大はそれを否定する。

「あんたたち・・・世間をなめすぎなんだよ・・・星男さんはタツヤの戸籍しかない存在しない人間なんだぜ。このままでは運転免許一つとれないのだ。携帯電話にも加入できないし、健康保険や年金の問題もある。そういうことをどうするのか・・・もっと真剣に考えろよ・・・浮かれ過ぎてんだよ」

大の正論に沈黙を守る女たちだが・・・けして説得されたわけではない。

この手の女を論破できると大が考えるのはまだ幼いからであろう。

とにかく・・・今がよければそれでいいと断じる佐和子だったが・・・どうやら、大と同じように聡明な星男本人が将来に不安を感じ始めるのだった。

その夜。自分の宇宙人としての能力に疑問を持つ祥子、誤解による古女房の嫉妬に悩む重田、そして・・・漠然とした不安に苛まれる星男に呼応するように・・・。

夜空には謎の輝きが出現するのだった。

もうどうでもいいよね的クライマックスがやってくるらしい・・・。

関連するキッドのブログ→第8話のレビュー

シナリオに沿ったレビューをお望みの方はコチラへ→くう様のスターマン・この星の恋

以心伝心ができない宇宙人は外国種と思うあなたはコチラへ→まこ様のスターマン・この星の恋

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2013年9月 3日 (火)

夏の終りと湿気た線香花火のSUMMER NUDE(山下智久)

夏・・・終わっちゃったのか。

終っちゃったみたいだよ。

で・・・恋は始ったのかな。

始ったゃったみたいだよ。

「あまちゃん」を見てない人にはまったく意味不明だけどさ・・・「前髪クネ夫」人気で・・・少しは視聴率あがってるといいよね。

そうだねえ。

前髪クネ夫じゃなかった・・・タカシ(勝地涼)は・・・お見合い結婚かな・・・。

そうだねえ。

まあ、これだけの美男美女がそろっていたら・・・そろそろ、誰か妊娠してるよね。

いや・・・勢津子(板谷由夏)が出産してるじゃないか。

・・・ああ。

ああって・・・。

竜巻のようなものが来たよねえ。

埼玉から千葉へ通り抜けていったよねえ。

秋なんだな。

秋なんだよ。

で、『SUMMER NUDE・第9回』(フジテレビ20130902PM9~)脚本・金子茂樹、演出・金井紘を見た。写真の専門学校時代の友人で新進気鋭のカメラマン・・ハジメ(大東駿介)に刺激された朝日(山下智久)は生まれ育ったみさき市から旅立つ決意を固める。気がつけば夏は終ろうとしていた。海の家「レストラン青山」の店仕舞いの前夜、気になる存在となりつつある一つ年上の料理人・夏希(香里奈)がスケジュールを調整してみさき市にやってきた。朝日は・・・過ぎ去っていた夏の日々を思うのだった。思えば・・・この夏は夏希との出会いから始ったのだった。

夏の始りは・・・夏希の結婚式だった。

花婿に逃げられた夏希をみさき市に誘った朝日。

最愛の女・香澄(長澤まさみ)を待つ日々から朝日を解放した夏希。

二人は・・・心の傷をなめあってきた戦友だったのだ。

もう・・・全然ロマンチックじゃないが・・・しょうがない。

しかし・・・朝日の心が疼くのは・・・十年連れ添った波奈江(戸田恵梨香)ではなく・・・夏希なのである。

つまり・・・香澄と比べるとアレだが・・・波奈江よりアレなのである。

胸の高鳴りがね・・・。

そして・・・波奈江の自爆によって視界良好になった夏希はその気満々なのだった。

今・・・二人の夏は・・・夏の最終日に始るのだった。

まさに・・・それは・・・夏の終りの線香花火大会なのだった。

あぁ あの日が最後だと知っていたなら

もっとあたしあなたを抱きしめたのかな?

それともきつく当たったのか?

膨れた頬は線香花火 橙色も弾けた

しかし・・・二人の夏はこれからなのだ。

バー「港区」で夏希との再会を喜ぶ波奈江。

二人のハグをカウンターで微笑んで見つめる朝日。

しかし、タカシは夏希にハグしてもらえないのだった。

波奈江がフリーになったことで・・・あっさり、あおい(山本美月)を切って捨てた・・・みさき市一の冷酷な男・ヒカル(窪田正孝)に・・・あおいはつれなくされて燃えるタイプ特有のしつこさでメールを送信するのだった。

ドラマ至上最悪にウエットな帰国子女である。

「夏希さんは来たのね・・・ヒカルは?」

そして・・・片思いに恋する女・波奈江もまた・・・ずっと波奈江に片思いしてきたヒカルを憎からず思い始めていたのでメールを送信する。

「夏希が来たよ・・・ヒカルはやっぱり来れないの?」

たちまち・・・ヒカルは波奈江に返信するのだった。

「あ・・・ヒカルはやっぱり・・・来れないみたい・・・」

その返信速度に逆上するあおいだった。

「なんなの・・・この差別待遇・・・日本の男は帰国子女に冷た過ぎることは否めないね」

「まあまあ・・・しょうがないよ・・・ヒカルくん、仕事いそがしいんでしょ」

「あれ・・・夏希・・・ヒカルが就職したの知ってたっけ・・・」

「ああ・・・あいつから時々・・・メールが来てたから・・・」

「ええ~・・・あいつって・・・朝日~」

自分でふっておきながら・・・朝日が他の女と親しくしていると知ると何故か・・・心が疼く波奈江だった。

しかも・・・夏希は・・・親友なのである。

波奈江は・・・実は女王様気質なのだった。

しかし・・・朝日を観察し続けて十年の波奈江は・・・この日が来ることを最初から予期していたようにも見える。

朝日と夏希は・・・最初から運命で結ばれていることを感じていた波奈江だった。

あの夏の最初の日・・・海辺で・・・朝の腹に刻印された夏希のボディーブローの痕跡を発見した時から・・・。

しかし・・・奴隷を鞭打つ趣味はない・・・波奈江だったのだ。

きみは線香花火の 煙にむせたと

ことりと咳して 涙をぬぐって

送り火のあとは 静かねって

波奈江の部屋に夏希とあおいを迎えて夏の終りのガールズトークである。

「しかし・・・意外だったねえ・・・朝日と夏希がつきあってるとは・・・」

「え・・・あおいちゃん・・・何言ってるの」

「だって・・・遠距離恋愛で・・・メールでイチャイチャしていることは否めないね」

「いやいや・・・違うから」

「そうだよねえ・・・」

「そういう波奈江も・・・ヒカルと遠距離恋愛でメールでイチャイチャしていることは否めないね」

「え・・・そうなの」

「なによ・・・夏希ったら・・・じゃあ、本気出すかなって感じじゃないの・・・でも・・・いいよ・・・本当に私は・・・朝日のこと・・・あきらめたから・・・」

「いや・・・そのいかにも名残惜しい感じで言われても・・・」

「ああ・・・陰湿だねえ・・・日本の女は陰湿だよねえ・・・朝日もヒカルも見る目なさすぎだよねえ」

「・・・」

「・・・」

「もうこうなったら・・・責任とって・・・夏希が私を東京で面倒見てよ・・・」

「なんで・・・」

「だって・・・これで残りもののタカシと付き合いだしたら妥協するにも程があるって話になっちゃうのは否めないね。そうなるくらいなら・・・私は仕事に燃えるよ・・・だって・・・モデルになるために日本に来たんだから・・・」

「だったら・・・最初から東京に住めばよかったのに・・・」

「それを言っちゃおしめえだよ」

「寅さんなんて・・・よく知ってるね」

「寅さん・・・だれそれ・・・」

「波奈江・・・」

「波奈江・・・」

線香花火を とても大切そうに

風からかばう君の 白い手にみとれてた

こんなにも愛しい 瞬間を一秒さえも

撮り逃がさないように 瞬きさえ忘れ

朝日はタカシとボーイズトークである。

「若大将・・・俺、もうサーフィンをやめることにしたよお」

「青大将かよっ・・・せめて北の国からにしろよ」

「それだって・・・今の中高生はきっと知らないぜ・・・」

「せっかく始めたんだから・・・ウエットスーツ着て続けろよ」

「そういう・・・ストイック生き方は俺には似合わない・・・」

「いや・・・むしろ、似合うと思うよ」

「ふ・・・なんだか・・・冷たいな・・・マジで東京行く気か・・・そんで・・・わざと冷たく突き放してるのか・・・」

「・・・そうだよ」

「・・・そうなんだ・・・」

「ごめんな・・・タカシ」

「いいよ・・・俺はスノボに生きるから・・・」

「ここには海はあるけどゲレンデはないぞ・・・」

「夏の五輪の後は冬の五輪って相場が決まってるだろう・・・」

「お前・・・どこを目指してんんだよ」

「わからへん」

「誰だよっ・・・っていうか、俺はお前のお兄ちゃんでも番長でもねえよ」

線香花火 夏の夜 キラキラ星の下で

10年後 また会えるかな? キラキラしてるかな?

忘れないよ You're my best friend

大好きだよ You're my best friend

レストラン青山・・・最後の一日がやってきた。

夏に別れを告げるために集まるみさき市の人々。

いや・・・海の家は・・・やはり・・・観光客相手に商売しないと駄目だろうとはいわせない・・・閉鎖的な集団なのである。

「せっかくだから・・・写真を撮ってあげるよ」

夏希を誘いだし・・・砂山の罠を仕掛ける朝日。

もはや・・・完全なる水辺のイチャイチャを展開中である。

その姿を見て・・・完全なる敗北感を味わう波奈江だった。

香澄に向けたほどではないが・・・自分に向けられたことのない笑顔を夏希は朝日から向けられている。

いつだって波奈江は考え過ぎなのである。

まあ・・・処女だからな。

嗚呼 線香花火よ

僕をもっと輝かせてくれよ

そしたら僕はもっと自信を持って

毎日を生きていけるのに

波奈江はやけになって・・・朝日を夏希にたきつけるのだった。

まあ・・・そんなトスは・・・相思相愛の二人にはまったく必要ないわけだが・・・。

「夏希が呼んでいる」という嘘につられて海辺に向かう朝日。

もちろん・・・波奈江が嘘をつかなくても朝日はカメラを持って行ったのである。

夏希は一人で包丁を研いでいた。

「誰を殺すの・・・」

「あんた以外の誰がいるっていうのよ・・・」

「今度は・・・思い出になる写真を・・・マジで撮るから・・・許してよ」

「マジで・・・」

「マジで・・・」

夕暮れの光の中で夏希を激写するアサーヒーだった。

「いいね・・・」

「・・・」

「とってもいいね」

「・・・」

「夏の女神だね」

「それは言い過ぎだろっ」

「だって・・・来年の夏もまた来るだろう」

「そんな・・・未来のことなんて誰にもわからないよ」

悲しくったってさ 悲しくったってさ

夏は簡単には終わらないのさ

線香花火のわびしさをあじわう暇があるのなら

最終列車に走りなよ 遅くは 遅くはないのさ

あおいは恋の決着をつけるために・・・ヒカルにメールを送るのだった。

「波奈江ちゃんが・・・ピンチだよ・・・」

たちまち駆けつけるヒカルだった。

みさき台駅(フィクション)に波奈江を呼びだすヒカル。

「私を呼び付けるなんて・・・出世したわね」

「ごめん・・・最終で折り返し帰らないと明日の仕事に間に合わないんだ」

「ええー、なにそれー」

「十分だけ・・・あるから・・・話したいことがあるんだろう」

「十分じゃ足りないー」

「ごめん・・・」

「十分って・・・短いねえ」

「十秒だけ・・・僕にくれないか」

「えー・・・」

波奈江を抱きしめ・・・唇を奪うヒカル。

ヒカルは十年以上もこの瞬間を待っていたのだった。まあ・・・アホですな。

そして・・・最終電車に身体を前に折って乗り込むヒカルだった。

波奈江はファーストキスの余韻を味わっていた。

線香花火は はかなく咲いた

火種までが ゆらゆらと揺れていた

好きすぎて 少しだけ

臆病になっていた たぶん

朝日は・・・夏希の写真の編集に夢中になっていた。

自分でも意外なほど・・・朝日は夏希に夏の女神を見出していたのだった。

写真を撮ることで他人の人生を変えて来た男が・・・今、自分の人生を変えようとしていた。

さっき別れたばかりなのに・・・もう逢いたい。

写真を渡すのはすでに口実である。

朝日はメールも打たずに・・・夏希が一人眠る「港区仮眠室」に向かうのだった。

なぜ・・・夏希がいつものように波奈江の部屋に泊まらないのかは問わないでください。

しかし・・・夏希は不在だった。

線香花火が咲いてはじけて

煙のにおいが染みる夜

来年のこの日 僕と君はここにいるのかな?

風が吹いて 花びら散ってく

朝日は夏希の匂いを嗅いで海岸へと向かう。

夏希はレストラン青山前で砂に文字を書いていた。

暗がりをライトで照らす朝日。

「なにしにきたのよ・・・」

「海亀の産卵を見に・・・」

「ぶっとばすわよ」

「・・・」

「見てないで手伝いなさいよ・・・」

「なんて・・・書くの・・・」

「勢津子さんにメッセージ・・・」

「ふうん・・・」

「私は・・・ひと夏の・・・港区青山の住人だからね」

「来年もまたきますって?」

「・・・そうよ・・・」

今は君がいないこの公園で

僕は一人 線香花火に火を灯した

懐かしい匂いがして 君に逢えるような気がして

何度も何度も火を点けるよ

一仕事終えた二人は星空を見上げる。

「星がきれいね・・・」

「夏の大三角が見えるよ」

「でも・・・私はあなたの顔ばかりは見ないわよ」

「まだ・・・教えてないだろう」

「お願いがあるんだけど・・・」

「・・・」

「一緒に線香花火してよ」

線香花火が消える前に 

二人の灯りを点したなら

来年の8月もこの場所へ

想い出のページをまた一つ描きに来よう

最後の一本に手を伸ばした夏希の手を・・・朝日がつかむ。

「残りは・・・また来年しようよ・・・」

「うん・・・いいよ」

「ねえ・・・君はきっといい料理人になるよね」

「たまにはイタリアン食べにきなさいよ」

「ヤキソバより上手いかな」

「私のペペロンチーノを食べてごらんなさい」

「僕は・・・いいカメラマンになれるかな・・・」

「あなたは・・・もういいカメラマンじゃない・・・」

「夏希・・・」

「朝日・・・」

せんこう花火がほしいんです

海へ行こうと思います

誰かせんこう花火をください

ひとりぼっちの私に

夏は終わった。

みさき市で過ごした歳月を胸に・・・。

今、朝日は旅立つ。

線路の向こうには・・・まだ見ぬ未来が待っているのだ。

タカシは見送りに行かなかった。

泣いてすがったらこわいからである。

とにかく・・・線香花火は日本人の心のふるさとらしい。

関連するキッドのブログ→第8話のレビュー

Sn009 ごっこガーデン。夏の終りの暗闇セット。エリふふふ・・・夏の終りは二人でひっそり、線香花火なのでスー。なんといってもせつなくてキュンとなるのでオレンジ色が消えた後は・・・絶好のぐふふ・・・ポイントでスー。ここは・・・チュッとね。チュッ・・・とかわいいキスが・・・チュッとこないのですか~・・・ファスナーはお付の侍女ロイドがあげるものではないのですか~?まこぐふふ・・・ついにヒカルロイドを発見。画伯が体調不良で新ロイドの開発遅れ気味なんですね。大河ドラマ仕様の改造モデルだジョ~。ささ・・・九時半の男に邪魔されないうちに~アンナじいや・・・これもう線香花火とはいえないぴょんくう明らかに発注ミスだよね・・・ユイちゃん生存確認祭りかシャブリおはよう日本さえドキドキしているのに・・・ついに誰もビキニにならないまま夏が終わってしまったのでありました~ikasama4ふふふ・・・大河ドラマがラブコメと化しているのに・・・ちーずジオラマ、バンザーイmari光と波奈江に先を越された朝日と夏希・・・来週は逆転出来るのでしょうかみのむし前髪クネ男はもらっていきま~す・・・るるる

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2013年9月 2日 (月)

明治八年二月、川崎尚之助、東京医学校病院に入院、三月、慢性肺炎で死去でごぜえやす(綾瀬はるか)

革命の混乱期である。

川崎尚之助の生涯も謎に包まれた部分が多い。

明治三年、後に陸軍大将となる柴五郎の長兄・太一郎とともに・・・函館のデンマーク人商人デュースと米取引をしたことが事件の発端だった。

資金調達に失敗した尚之助は明治四年にデュースにより、開拓使(北方開拓のための官庁)に訴えられてしまう。

明治五年、斗南藩には支払い能力がないために・・・公用ではなかったと証言せざるを得なかった尚之助は東京に連行され、訴訟裁判を継続することになる。

この頃、すでに尚之助は結核を発症していたと思われる。

明治七年に尚之助は開拓使に召喚され、明治八年には病状が悪化し、東京医学校病院に入院。三月二十日に慢性肺炎によって死去する。

明治九年、柴太一郎が実刑判決を受けたことにより、刑事訴訟は決着する。

結局・・・川崎尚之助が不遇のまま・・・病死したことだけが明確な事実と思われる。

しかし・・・その秋に八重が新島襄と婚約するのは・・・まったく無関係ではないだろう。

八重は尚之助の消息はそれなりに知っていたと思われる。

脱藩した洋学者である川崎尚之助、脱藩して宣教師となった新島襄。二人に明らかに似通った部分がある。

時代を超越していた感性を持つ八重が二人の伴侶を得たことはけして偶然であるとは思えない。

そこには確かにロマンス(理想)が感じられるのだ。

で、『八重の桜・第35回』(NHK総合20130901PM7~)作・山本むつみ、演出・末永創を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は明治維新後の山本八重と・・・ついに登場・米国帰りの宣教師・新島襄の二大イラスト描き下ろしでお得でございます。孤高の女戦士から教育者へ・・・転身した八重の愁いを秘めた眼差し・・・そして明治のジェントルマン・ジョー・・・その・・・それほど長くない結婚生活はそれでも・・・八重の第二の人生の始りといえるでしょうねえ。果たして・・・花嫁姿の描き下ろしはあるのか・・・期待は高まりますが・・・画伯におかれましてはあくまでマイペースでお願いします。

Yaeden035

明治四年、開拓使長官・東久世通禧が辞任し、開拓使の頂点に立ったのは酒乱で木戸孝允にがんじがらめに縛られたり、明治十一年には妻を斬り殺したと噂される薩摩出身の黒田清隆である。明治五年、黒田は函館戦争の敗軍の将である榎本武揚を抜擢し、開拓使において官吏として重用した。川崎訴訟事件はこの時点で発生している。当然のことながら榎本には斗南藩の窮状は分っている。また、貿易港函館を管理する知識人として、西洋の法がこの地でも運用されるという文明開化ぶりも示さなければならなかったのである。すべての責任を個人に帰するというのは一種の方便だっただろう。いわば裁判を長引かせ・・・のらりくらりと問題解決を先送りにしたわけである。当然、知識人である川崎も同意してのことである。すでに結核を発症し寿命の長くないことを感じていた尚之助は・・・だからこそ主犯を引受けたものと推察できる。主犯が死亡したことによって事件はスピード解決するのだった。明治七年1月、榎本は駐露特命全権公使となって抜擢される。帰化族と揶揄される元幕軍、元賊将としては異例の出世と言える。これは明治五年、ペルー国籍の船舶から清国人奴隷を日本政府が勝手に解放したとしてペルーが国際裁判を起こし、第三国のロシア帝国で国際仲裁裁判が開廷されたためである。そして、明治八年の二月に川崎の病状は悪化するが後の東大病院に入院という手厚い看護を受けている。そして、三月に川崎は病死する。六月、ロシア皇帝アレクサンドル二世はペルーの訴えを退け大日本帝国は勝訴する。そして、八月、日露は樺太・千島交換条約を締結するのだった。榎本は弱腰を叩かれるが千島列島の漁業権を確保した功績は大きいと評価される。実は無法地帯と化している日本で・・・知識人たちは懸命に文明国家を装っていたのである。

八重たちは京都鞍馬山山中の科学忍者隊本部に戻っていた。

「やはり・・・海上ではヴァンパイアの呪力が弱まるようだ・・・」

明智龍馬は英語でジェームス・ボンドに報告している。

「それはなぜなのでしょう」

「塩分と関係しているのかもしれないが・・・やはり、海には特殊な霊力の場があると考えた方がいいだろう」

「なるほど・・・ところでこちらの方はどなたですか・・・」

「ああ・・・この人は米国帰りのエクソシストだ・・・私を呪われた存在として塵に返そうと言ってついてきた」

「ははは・・・それは豪儀なことだ・・・失礼ですが、お名前を伺いたい」

「米国国教会のジョー・ニイジマと申します」

「私は英国情報部のボンドです」

「・・・あなたもクリスチャンですか」

「いや・・・私はヴィクトリア女王陛下の騎士です。たとえ、神と言えども仰ぐことはできないのです」

「信仰なきもの・・・は不幸ですな」

「それは見解の相違と申しましょう」

「しかし・・・不浄なものと心を通わすとは・・・」

「ふふふ・・・イエスはこう申しているではないですか・・・汝の隣人を愛せよ・・・と」

「けれど・・・この者は悪魔の使いですぞ・・・」

「いやいや・・・この人は魔族と戦い、その身を人類の未来に捧げた尊いお方です」

「まあまあ・・・お茶をお飲みなされませ」

八重は三人の男たちに粗茶を勧めた。

そこに・・・三日月と月の輪の二人のくのいちが階上から降りてくる。

「覚馬様とお伴の方が到着なさいました」

「うむ・・・急ごう」

覚馬の書生たちが棺を担いで降りて来た。

「間に合ったか・・・」

棺の中には青白い顔をした川崎尚之助が収められている。

「尚之助様・・・」思わず八重は昔の夫の名を呼んだ。

尚之助はうっすらと目を開いた。

「急がれよ・・・時は移ります・・・」

囁くように尚之助は告げた。

明智龍馬が棺に身を寄せる。

「呪われし道を共にゆかん・・・」

「え・・・何をする気ですか」

事態の推移を見守っていたジョーが口を挟む。

明智龍馬はそっと尚之助の首に唇を寄せる。

「ああ・・・なんて不謹慎で・・・みだらなことを」

儀式を妨害しようとするジョーを八重は片手で制止した。

「離せ・・・」

「なりませぬ・・・」

青白い尚之助の頬に朱がさした。龍馬の口元からは尚之助の血液があふれだす。

「なんてことだ・・・なんて邪悪なことなんだ・・・」

「お黙りなされ・・・人は・・・魔となって・・・それでも生きていくのです」

瀕死の状態だった川崎尚之助はむくりと起きあがった。

「これが・・・ドラキュラの呪いか・・・」

「いかがかな・・・」

「素晴らしい・・・まるで生まれ変わったようです」

「いいや・・・君は死んだのだよ・・・これから君は永遠の死を生きるのだ・・・」

「・・・永遠の死・・・」

「失うには惜しい君の知識を・・・私に捧げてくれるかの・・・」

「あなたは・・・」

「明智龍馬・・・君のヴァンパイア・マスターだ」

「なるほど・・・どうやら・・・私はあなたの虜になったようだ・・・」

川崎尚之助は幼い子供が母親を見上げるように・・・明智龍馬に見惚れていた。

その眼差しをくのいちらしからぬ複雑な表情で見つめる八重だった。

八重の旦那様は・・・もはや異人となったのである。

暗い冷え冷えとした地下室で・・・明治八年の夏が終わろうとしていた。

関連するキッドのブログ→第34話のレビュー

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2013年9月 1日 (日)

あまちゃん、二十二波目の土曜日(橋本愛)

ついにこの数え方を使う日が来ようとは・・・。

タイトル・スターも・・・ナレーター交代の節目で・・・能年玲奈であるべきである。

あるいは小泉今日子か薬師丸ひろ子でも内容的には問題ない。

しかし・・・土曜日の「これでもか」「これでもか」「これでもか」という「前フリ」に・・・。

ほとんど、涙目で「クドカン、お願い、ユイちゃんを亡きものにしないで~」とすがる思いなのである。

まあ・・・「木更津キャッツアイ」のオジーの例をあげるまでもなくやる時は容赦ないですからな。

たとえば・・・北三陸市オールスターズ全員死亡だってありえる。

そうなれば・・・後はゴースト化するのかしないのかの問題だもんな。

なにしろ・・・あれだけ「コーストバスターズ」をふっているのだ。

東京にいるから・・・春子、正宗・・・場合によってはアキさえ無事とは限らない。

「11人もいる!」のメグミなんか、最初から幽霊である。

アキは「ここにはいないけどいつでも心の中にいる人」になる前フリだって充分できている。

逆に北三陸市オールスターズ全員幽霊だってあるもんね。

ウニくらいなら幽霊にも投げられるしね。

そして、幽霊になったらユイは東京に来れるよね。地縛霊にはならないよね。

潮騒のメモリーズ再結成だよねえ。

さあ・・・もう充分に哀しんだかい。

でもね・・・これは「つくりもの」だからそんなに嘆くことはないんだよ。

大丈夫・・・きっとユイは生きている。貞子になったりしないし、行方不明者のリストにものらない。

そう信じて月曜日を待つのだ。そうでなければ耐えられません。

さて、フィナーレにつぐフィナーレである。今週は・・・鈴鹿ひろ美と天野春子がゴールするのだった。

で、『連続テレビ小説・あまちゃん・第22週』(NHK総合20130826AM8~)脚本・宮藤官九郎、演出・吉田照幸を見た。芸能事務所・スリーJプロダクションの唯一のタレント・天野アキ(能年玲奈)は現場担当マネージャー・水口(松田龍平)とともにアイドル・スターへの道を目指す。アキの母親・春子(小泉今日子)はアキの祖母・夏(宮本信子)の看病のために北三陸に旅立つ。若き日の春子(有村架純)との確執に縛られた太巻監督(古田新太)の映画のヒロイン・オーディションを受けたアキは主演女優・鈴鹿ひろ美(薬師丸ひろ子)のナイス・アシストを受けてついに栄冠に輝くのだった。親友のユイ(橋本愛)や恋人の種市(福士蒼汰)は我がことのようにアキを祝福する。

月曜日 秋は漁船に乗って(薬師丸ひろ子)

2010年10月・・・。2011年春公開の映画「潮騒のメモリー~母娘の島~」のクランクイン(撮影初日)がやって来た。

日の出のシーンを撮影するために夜の間にロケ現場に集合する撮影クルー。そして、鈴鹿ひろ美を演じる鈴鹿ひろ美と、鈴鹿アキを演じる天野アキだった。

映画「潮騒のメモリー」の後日談である「母娘の島」は鈴鹿島の伝説の海女であるひろ美と・・・島に残していた一人娘のアキとの再会のシーンから始るのだった。ひろ美の夫・シンスケはすでに他界し、莫大な借金が母娘を苦しめる。そして、天変地異や四季の行事、そして村人たちの迫害が母と娘を追い詰めていくのだった。しかし、アキはイカ釣り船の漁師・トシヤとの恋に目覚める。やがて・・・母親は謎の伝染病に冒され・・・明日をも知れぬ身となるがアキは自分の人生を生きるために旅立つという波乱万丈の海物語なのである。

「鈴鹿ひろ美を演じる鈴鹿さんです」

スタッフに対する演者紹介で拍手に応える鈴鹿。

「続いて、鈴鹿アキを演じる・・・」

アキが笑顔を見せた・・・その瞬間。

「この潮騒のメモリーは私のデビュー作であり、私の女優人生を決定づけた作品でもあります・・・あれから二十五年、長いようで短かった私の歩んできた道はすべて・・・潮騒のメモリーから始ったといっても過言ではないのです。つまり、潮騒のメモリーは私の原点であり、私にとって忘れられない作品なのであり・・・」

鈴鹿の挨拶は果てしなく続いたのだった。

「あの・・・鈴鹿さん・・・えーと、日の出にあわせたシーンなのでそろそろ・・・」と止めに入る太巻監督。

「ですから・・・私はこの映画に全力投入する覚悟があります。しかし、シナリオには不満がないわけではありません。たとえばシーン12のダイアローグ(セリフ)について・・・」

「はい・・・シーン12」仕方なく現場ミーティングを始める太巻だった。

「ここは大変、間延びしている感がなきにもあらずで・・・またシーン15では・・・」

鈴鹿ひろ美の言葉は留まるところを知らず、ついに日の出時刻は過ぎていくのだった。

「あ・・・朝陽が昇る・・・」

こうして、撮影は初日から滞ったのだった。

二日目の撮影はいきなりのラストシーンである。いくらなんでも・・・それはないが・・・最初に到着点を作ってそこを目指すのはあまりにもギャンブルな演出である。

案の定・・・女優としては未熟なアキは全く・・・気持ちが作れないのだった。

病床の母を残し、アキが旅立つ・・・別離のシーンである。

「母ちゃん、親孝行できなくて、ごめんなさい」

一応、修行の成果が出ているのでそこそこの演技ができるアキ。太巻監督は迷いつつOKを出そうとするが・・・完璧主義者と化した鈴鹿はNGを出すのだった。

「だめよ・・・こんなんじゃだめ・・・」

「・・・」

「アキ、あなた・・・一次選考の時のアレはどうしたのよ。アレが最高で・・・二次、最終、本番とだんだん、テンション下がるってどういうことなの」

水口に事情を話すアキだった。

「あの日は・・・夏ばっぱが危篤で・・・心配でたまらなかったから・・・でも、今、かなり具合よくなって心配ねえみたいだし・・・」

絶句する水口だった。

例によって反省会は無頼鮨である。

「じゃ・・・なに・・・夏さんの具合が良くなったから・・・演技できないっていうの・・・」

説教する鈴鹿の言葉を聞き流しながら・・・アキは恋人の種市の働く姿にうっとりなのであった。

まさに天衣無縫・・・アホの子まるだしのアキなのであった。

「それよ・・・その自然な感じ・・・どうして・・・それが現場で出せないのかしらね」

もちろん、アホの子がいろいろとアホなことを考えるからなのである。

「そうね・・・やはり・・・壁を壊す必要があるのね」

「壁・・・」

「わかりました・・・今日から私生活でも母と娘になりましょう」

「私生活でもって・・・」

「一緒に暮らすのよ・・・そして・・・私とあなたの間の見えない壁をぶっ壊すの」

「じぇじぇじぇ・・・」

その頃、北三陸市の天野家ではかなり具合の良くなった夏がベッドで海老の殻剥きのアルバイトをしているのだった。

「なにやってんの」

「なにって・・・お前、仕事だ」

「だめよ、絶対安静なんだから」

すっかり、母を看護するポジションが気に行った春子だった。

しかし、働き者の夏としてはいい加減、仕事に復帰したいのである。

「おめえ・・・いつまでこっちにいる気だ」

「好きなだけいろって・・・言ったでしょ」

人間は喉元を過ぎると熱さを忘れる生き物なのである。

スナック「梨明日」で愚痴る春子。

「夏さんは帰れって言うしさ・・・東京に帰ってせっかくアキが自分の手でつかんだ仕事に私がアレコレ口出してややこしいことになったらどうしようって思うしさ」

「こっちにいればいいだべさ」と気軽なタモツ(吹越満)・・・。

「春子さんがこっちにいれば駅長は機嫌いいしね」と吉田(荒川良々)・・・。

「いいや・・・だめだ・・・ウーロン茶に焼酎一滴入れてけろ・・・」と大吉。

春子はピペットで慎重に計量するのだった。

「なんてったって・・・マサには春ちゃんが必要だ・・・そして・・・春ちゃんには東京が似合ってるんだ・・・俺は・・・そう思う・・・ダイヤの乱れは心の乱れだ」

「大吉さん」

焼酎一滴で撃沈する大吉だった。

一方。天野家には組合長(でんでん)や海女クラブのかつ枝(木野花)や美寿々(美保純)たち。

組合長と赤い糸であやとりをしながら・・・やはり第三の男なんだな・・・愚痴る夏。

「忠兵衛さんも・・・アキも春子もいつかいなくなるかと思うと・・・頼る気にはなんねえ」

「んだなあ・・・遠い親戚より近所の他人だなあ」

和気あいあいのメンバーだった。

その頃、春子には東京の正宗(尾美としのり)から緊急連絡が入っていた。

「なんですって・・・鈴鹿ひろ美と一緒に住むって・・・どういうこと」

妙にうれしそうな正宗はアキに電話を変わるのだった。

「いや・・・一緒に暮らすっていうから・・・鈴鹿さんちにおらがお呼ばれするのかと思ったんだけど」

「なんですって・・・アキが私の家にですって・・・ダメよ・・・絶対教えない」

と受話器の向こうで鈴鹿が叫ぶ。とにかく・・・自宅は秘密にしたい鈴鹿なのである。

「すみません・・・空気清浄機ありますか・・・ハウスダストがひどくて」

正宗は使用人扱いだった。

茫然とする春子だった。

春子と太巻・鈴鹿の間にはまだわだかまりがあるのだ。

こうして・・・春子の親孝行は映画のクランクアップまで続くことになるのだった。

鈴鹿ひろ美の朝は午前五時から始る。

まず、自家製の特製ジュースを飲んでジョギングに出かけるのだった。

寝ぼけ目をこすりつつ、「美味しくて喉にもいいジュース」を強要されるアキ。

「うえああああああああああああああ」

がばい不味さだったらしい。

「ね、声がでるでしょ」

「だ・・・だまされた・・・」

涙目のアキだった。

由緒正しい騙されるアホの子炸裂である。

「・・・お父さんを起こしてきてください」

何故か恥ずかしがる鈴鹿だった。いや・・・正宗にジュースを飲ませたくてうずうずしているのか。

そして・・・撮影三日目は初日のシーンの撮り直しである。

薄明の海を漁船が港に入ってくる。

潮風の中に凜として立つ鈴鹿ひろ美。

憧れの女優はやはり最高に絵になる人だった・・・。

「かっけええええええ」と思わず口走るアキ。

「カット~・・・かっけええええじゃないでしよ・・・母ちゃん、お帰りなさいでしょ・・・あ・・・朝陽が・・・」

まだ1カットも撮れていないが撮影は概ね快調なのだった。

こうして・・・十月は夢のように過ぎ去ったのである。

もうすぐ俺も参るだろう

そうしたら二人で呑気に寝転んでいようじゃないか

もうあたしこれでいつ死んでもいいわ

あたし満足よ

火曜日 女優はファーストキスの夢を見るか?(勝地涼)

2010年11月・・・アキはすでに19歳の誕生日を迎えていた。

そして・・・撮影は「愛の告白」のシーンを迎えるのだった。

アホの子であるアキには私生活とフィクションの世界の区別はまだつかない。

そこには乗り越えなくてはならない壁があるのだった。

早回しで下駄でコトコト歩いたら可愛いがそれでは問題が解決しないことは言うまでもない。

おなじみの無頼鮨裏口で。アキは早速、恋人の種市に相談するのだった。

「なに・・・キス・シーンがあるのか」

顔色が変わる種市だった。

「俺とも・・・まだなのに・・・」

「でも・・・仕事だから」

「仕事だからって・・・貪る(むさぼる)ような接吻なんて・・・」

「しても・・・いいど・・・おら・・・先輩のこと好きだから」

たちまち・・・その気になる種市だったが・・・。

白い鴎か 波しぶき 若い血潮が 躍るのさ

カップかぶれば 魚の仲間 俺は海の底 南部のダイバー

・・・と南部ダイバー魂に着火してしまうのだった。

典型的な青春ラブコメ展開に一部愛好家うっとりだった。

「早く・・・してけろ」

いざとなると腰が引ける男に苛立つ猫背のメスザルである。

覚悟を決めて唇を突きだすのである。

しかし・・・種市の視線がとらえたのは・・・。

大将の梅さん(ピエール瀧)と水口の鋭い眼差しだった。

「う・・・」

気配に気がついたアキは「見せもんじゃねえぞ、こら」と凄むのだった。

結局、キス未経験のまま、現場入りするアキなのでした。

またかよ・・・アキの髪形が梅ちゃん先生を連想させるんだな・・・。

初めて唇を重ねた夜

私のなにか 壊れました

これほど誰かを愛する事が出来るなんて・・・

・・・的な世界を知らないアキの前の現れたのは・・・トシヤ役の・・・アイドルダンスチーム「ZOO STREET BOYS」所属の自称・パフォーマー・TOSHIYA(勝地涼)だった。AKIRAとかKENCHIとかMAKIDAIとかいう名前の人はなるべくドラマに出てもらいたくない感じの演技をするよね。ま、そういう役ならいいんだけどね。しかし、「八重の桜」、「SUMMER NUDE」からココと駆け巡る勝地は申し分のないイヤな感じの二枚目を演じるのだった。

「特徴ある前髪たらして、腰にチェーンジャラジャラさせて、ムッキムキでクッネクネの前髪クネ夫」はアキの苦手なタイプだったのである。

しかし、若いファンにモテモテのクネ夫は自信たっぷりにアキに挨拶するのだった。

こんな・・・男とファーストキスを・・・と思うだけでアキは・・・。

「おじいちゃん、入れ歯くさ~い」って顔になってると太巻監督に注意されるのである。

一方、何を思ってか・・・休養日に無頼鮨を訪れる鈴鹿。

種市は大将も慄くほどの包丁砥ぎを見せているのだった。

「気になるのよねえ・・・娘も同然のアキのキスシーンですもの・・・」

映画という夢の世界に生きる鈴鹿には・・・アキが娘であることは現実と同じなのである。

その言葉に種市の心情を察する大将。

しかし、鈴鹿は種市の心を知ってか知らずか・・・。

「そうだ・・・お寿司もって差し入れに行こうかなあ」

「行きましょう」と激しく同意する種市だった。

「鈴鹿さんから・・・差し入れ届きました~」

鈴鹿と共に現れた種市に激しく動揺するアキなのでした。

「何しに来たんだ」

「そうだ・・・なんでくるんだよ」

「・・・」

アキと水口に制止されても・・・クネ夫に敵意丸出しの種市である。

知ってか知らずか、腰をクネクネし続けるクネ夫だった。

「あんにゃろ・・・」

「落ちつけ・・・一般男性」

「太巻・・・切ってきます」

クネ夫をキャステイングした監督を殺戮しかねない種市だった。

本番前のカメラテスト。

監督に「テストで思いッきりいっちゃっていいですか」と申し出るクネ男。

それもいいかもしれないと思う太巻だった。

太巻寿司を切る種市の耳に飛び込んでくるアキのセリフ。

「おらのことがすきなら・・・その火を飛び越えてこい」

種市の脳裏に蘇るアキとの青春の思い出・・・ただし、その時種市が好きなのはユイちゃんでした。

火を飛び越えたクネ夫がアキの唇を貪ろうとした瞬間、「アキ」とスタジオに飛び込む種市だった。

がっつかれずにすんだアキだったが・・・心を鬼にして種市に「帰ってけろ」と言うのだった。

この時、アキは女優としての階段を一段昇ったのだった。

「そうだ・・・帰れ」と水口。

「そうねえ・・・帰りなさい」と憐れみの目を向ける鈴鹿。しかし・・・アキを女優として育てようとている鈴鹿はほくそ笑んでいたにちがいないのだ。

種市はうなだれて・・・退場するのだった。

本番に向けて覚悟の歯磨きをするアキ・・・。

しかし、たちまち気持ちは挫けるのだった。

アホの子には気持ちの維持が困難なのでした。

切羽詰り・・・ユイちゃんに助けを求めるアキだった。

「ユイちゃん・・・代わってけろっ」

すかさず電話を弥生(渡辺えり)に替るユイ。

「おら・・・キスシーンがあるんだ・・・」

「いやあ・・・横に亭主がいるんで・・・この場ではお答えできません」とアツシ(菅原大吉)に気を使う弥生だった。

「へへへ・・・電話替れってことじゃないよね・・・ちょっとボケてみた・・・」とクールなユイ。

「おら・・・好きな人ともしてないのに・・・キスシーンなんて・・・」

「じゃあ・・・好きな人いるの・・・」

何故か・・・琥珀を落とすほど動揺したのは勉さん(塩見三省)だった。

「んだ・・・付き合ってる人がいる」

「種市先輩でしょ・・・」

「じぇ・・・なんで知ってるんだ」

「なんとなくね・・・わかるよ・・・ていうか、そんなことでいちいち電話してこないでよっ」

「じぇ・・・」

「うそうそ・・・終ったら慰めてもらえばいいんじゃないの」

「・・・」

「アキちゃん・・・がんばって」

「ありがと・・・ユイちゃん」

スナックのチーママ・ユイはそつがないのだった。

ユイに励まされ、現場に向かうアキに鈴鹿が最後のアドバイスをするのだった。

「私もファーストキスは・・・スタジオだったんだ・・・」

「じぇ・・・」

「スタジオの隅の・・・公衆電話の箱の中で・・・ひざをかかえて泣きました・・・生きてることはただそれだけで哀しいことだと知りました。そしたら・・・マネージャーだった太巻が来て言ったのよ・・・やめちまいなよって・・・好きでもない男とキスするなんておかしいことをさ・・・この先、ずっと続けることになるんだよって・・・で、決心がついて・・・やめることにしたの」

「じぇ・・・女優を・・・」

「正直に生きることをよ・・・嘘でも良い・・・映画やお芝居の中で・・・恋をしたり、泣いたり笑ったり・・・お母さんになったりね・・・そうやって生きて行こうときめたの・・・でも、お客さんが本当だと思ったら・・・もう、嘘だか本当だか・・・わからないでしょう・・・だから・・・嘘をつく限りはバレないようにしないとダメなのよ・・・」

アキもまた「潮騒のメモリー」の中の鈴鹿ひろ美に騙されて・・・感動して・・・今、ここにいるのだった。

「女優に・・・なるの・・・ならないの」

「おら・・・女優になりてえ・・・鈴鹿さんみたいな女優になる」

「じゃ・・・なりなさい・・・」

アキはまたしても女優の階段を一段昇ったのだった。

しかし・・・スタジオではクネ夫がごねているのだった。

「いやあ・・・俺のファンさ・・・純情な子か多いから・・・キスなんてしたらマジ泣いちゃうと思うわけ・・・」

「テストの時は・・・だから・・・貪ろうとしてたのか」とアホの子なりに勘づくアキだった。

「うちのTOSHIYAは俳優ではなくて・・・パフォーマーなんで」とタレントを庇うマネージャー(奥田恵梨華) である。原史奈、中田有紀についで「サラリーマンNEOの欧愛留夜叉」コンプリート達成なのでした。

「あんなこと言って嫉妬深い交際中の女がNG出してるんだろ」と毒づく水口。

「シナリオ、読んでもらってますよね」

「もちろん・・・」

「なんて書いてありますか・・・」

「お、おどるようになんとか・・・」

「貪るように接吻(せっぷんと書いてキス)でんがな」

結局、カメラのアングルで誤魔化してキスした風の撮影になるのだった。

「だから・・・結局しなかったんだよ」と無頼鮨で報告する水口。

安堵する種市。

水口・・・優しいのか、単なる毒舌なのか不明である。

そんな・・・種市を裏口に呼び出すアキ。

「現時点で一番好きな人にはじめてのキスをお届け」なのである。

もちろん、カメラのアングルで誤魔化してキスした風であることは言うまでもない。

ヴァーチャルだろうとリアルだろうと・・・

見たこともない愛を体験した・・・

確かに世界の果てに俺はいた・・・

しかし・・・その記憶もやがて消えていく・・・

流れる涙が乾くように・・・

雨に黒く濡れた道路が・・・陽に白く干されていくように・・・。

目覚めた時の夢のように・・・。

水曜日 擬似母娘、擬似夫婦、疑似家族、高性能、識別不可能(小泉今日子)

2012年12月・・・黒川正宗、天野アキ、鈴鹿ひろ美の共同生活も一ヶ月を経過していた。

朝の特製ジュースを強要される正宗。

鈴鹿にあわせて・・・娘のアキも悪い娘の目で正宗にジュースを薦めるのだった。

お飲みなさい・・・逃げることはできないのです。

「もう・・・いやだって・・・いってるのに・・・うがあああああああああああああああ」

微笑みの視線を交わすアキと鈴鹿だった。

もはや・・・何か妖しい集団である。

しかし・・・撮影は順調に進んでいるのだった。

白の海女衣装で決めた鈴鹿ひろ美と鈴鹿アキが長い坂を昇って行く。

遅れ気味の役柄上の娘のアキを叱る役柄上の母のひろ美。

しかし・・・アキは・・・ひろ美の立ち振る舞いに夏の幻を見る。

「なんだか・・・夏ばっぱみたいに見える」

「あら・・・そう」

「ごめんしてけろ・・・おばあさんあつかいして・・・」

「いいのよ・・・だってばばあですもの・・・」

役の上でアンチエイジングを解き、しわを増量して役作りをする鈴鹿だった。

「あのね・・・実は夏さんを参考にしているの・・・仕草とか姿勢とかね・・・だって、あなたのおばあさま・・・素敵ですものね」

「んだ・・・夏ばっぱはかっけえんだ」

「そうかあ・・・夏さんみたいかあ・・・なんだかうれしいな」

虚構に生きる女の至上の喜びらしい。

モニターを見ながら出来を検討する太巻と鈴鹿。

「いいんじゃない」

「もう一回やらせて・・・」

「いいと思うけどなあ」

「お願い・・・」

「しょうがないですね」

二人を見ていると・・・アキは時々、仲の良い夫婦を見ているような気分になるのだった。

アキの役者としての素質が開花しつつあるのだった。

嘘の中に現実を・・・現実の中に嘘を見出し始めているのである。

少しずつアキは・・・鈴鹿の中にどこにもいない母を見出しているのだった。

一方、リアルな母と娘である夏と春子はそろそろ倦怠期を迎えているのだった。

病状が回復した夏はじっとしていられないし、春子は夏にいつまでも病人でいてほしかったのである。

「ああ・・・もう・・・我慢できねえ・・・」

「もう・・・寝てないとだめだってば・・・」

「ああ・・・こんなに散らかして・・・洗いものもためちまって・・・」

「・・・」

春子は潮時を知る。「お帰り」も「すまなかった」も「ありがとう」も言ってもらい娘としてお腹いっぱいになったのである。

「夏さん、一緒に買い物に行こうか・・・」

「なんだ・・・」

「携帯電話買ってあげる・・・」

「そんなもんいらねえど」

「いいから・・・たのには親孝行のまねごとをさせてよね」

「・・・」

その頃・・・東京EDOシアターの奈落では・・・鈴鹿とアキが最後のシーンの稽古に熱中している。

そして、水口は太巻と河島(マギー)に呼び出されていたのだった。

「水口さん、折り入ってお話があるんですが・・・」

「なんで・・・敬語なんですか・・・」

「やりにくいか・・・」

「はい」

「もっとやりにくくしてやる」

・・・とドクロベー(滝口順平)なのか喪黒福造(大平透)なのか判別しがたいものまね口調で語りはじめる。

「そろそろ・・・主題歌の話をしなければならないんですねえ・・・潮騒のメモリーを歌うのはヒロインと決まっているんですけれどお・・・それではオフィス・ハートフルに旨味がないことになってしまうわけなんです・・・そこで御相談なんですねえ・・・」

催眠術をかけられるように太巻の術中にはまっていく水口だった。

一方、スナック梨明日にはブティック今野の新作を身につけた夏ばっぱが登場していた。

たちまち活気づく、常連客一同。

「そろそろうに丼を再開するべと思ってます」と夏。

「いやあ・・・もう三ヶ月先まで予約入れちゃってます」と吉田。

「それじゃ・・・組合長にうにを発注しなければならねえな」とうにのストラップ付携帯電話を披露する夏だった。

やんややんやの喝采である。

その光景に淋しさを感じる春子。自分だけの母親の夏がいなくなり、みんなの夏ばっぱが現れたからだ。心底、面倒くさい性格の春子だった。

そこへ観光協会に届いた春子宛のファクシミリ送信文書を届けに来るストーブ(小池徹平)だった。

内容を見た春子の顔は曇り、店を出て芸能事務所社長として部下の水口に折り返し電話をするのだった。

「見たわよ・・・フィーチャリングって何よ」

「ですから・・・GMT5とですね」

「だめよ・・・落ち目のアイドルと抱き合わせなんて・・・。大体、私はね、アンドとかウイズとかリターンズとか嫌いなのよ・・・ラーメンライスみたいで安っぽいでしょ」

業界全体を敵に回す覚悟の春子だった。

「しかし・・・太巻さんがプロデュースするということで・・・」

「巻かれないわよ」と逆上する春子。「ダンサー崩れの踊りヤクザなんかには死んでも巻かれないからね」

「お電話替りました・・・踊りヤクザです」と隣ですべてを聞いていた太巻。

「うちも年頃の娘さんぎょうさん集めて商売してまんねん・・・おたくの娘さんがなんぼのものか・・・じっくり話し合わさせてもらいますわ」

激昂して電話を切るとユイがいることに気がつく春子だった。

「いつから・・・いたの」

「ラーメンライスのあたりから・・・」

「やだ・・・はずかしい」

「かっこ良かったですよ。ちょっと過保護かなって思いましたけど」

「・・・」

「アキちゃんはいいなあ・・・お母さんにも彼氏にも守られて・・・」

「!」

「私も一度捨てられて強くなったけど・・・アキちゃんは守られてるのに強いのは春子さんの可愛がり方が荒っぽいからですかね」

冷静に春子とアキの親子関係を分析するユイだったが・・・。

「ちょっとまって・・・彼氏って何・・・それが気になってその後の話は一切聞いてなかったわ」

「やべ・・・」

「彼氏って誰よ」

逃げ出すユイだが・・・春子からは逃げられないのである。

「いや・・・なんのことっすか」

「板前なの」

「板前ですね・・・」

観念するユイ。言わば妹の恋のお相手を母親に問い詰められた姉的なものだった。

春子とユイは擬似母子。ユイとアキは擬似姉妹なのである。

翌朝・・・早朝。

すでにハーモニーを奏でる疑似家族だった。

そして・・・北三陸では夏が寝ている間に家を出る春子。

ちょうど・・・組合長がうにを届けに来たのでした。

「春ちゃん・・・」

「しーっ・・・」

「行くわ・・・夏さんもきっとそろそろって思ってるから」

「・・・」

春子が大吉(杉本哲太)に送られて旅立った後・・・起き出してくる夏。

ウニ丼を作り終わると夏は・・・「今日あたり春子が東京さ戻るはずだから・・・うに丼もたせてやるべ・・・」

思わず沈黙する一同だった。

「春子・・・まだ寝てるのか・・・春・・・」

春子がすでに旅立ったことを悟る夏。

「あんれま・・・世話しねえ奴だな」

いればいたで煩わしい・・・いなければいないで淋しい・・・それが家族なのだった。

私と同じあなたがそこに

あなたと同じ誰かがそこに

自分を見つめる孤独な毎日

悲しみにくれる家族達

木曜日 自分自身を魅力的に演じるということ(能年玲奈)

そこにいるだけで魅力的で・・・ずっと眺めていたいと思わせるほど魅惑的で・・・誰もを魅了してしまう・・・それはアクターでもなく、シンガーでもなく・・・アイドルであり・・・スターなのだった。

うらやましい存在でありながらいつくしみたい存在・・・。

そういう複雑怪奇な存在が実在する不思議こそが・・・芸能界だと言えるだろう。

確かに・・・魅力的な原石は存在する。そして一瞬輝くだけの儚い宝石もある。精神的に弱いために不安定な宝石もある。悪の魅力を求め過ぎて自らを滅ぼす宝石もある。邪なしがらみにからめ捕られてしまう宝石もある。常に自己鍛錬を惜しまなくても衰退していく宝石もある。そして・・・奇跡のように輝き続ける宝石がある。

もちろん・・・どの宝石が・・・最高かなんて・・・値踏みすることにあまり意味はない。

ずっと長く愛し続けるものもいれば・・・刹那にしか愛を感じないものもいるからである。

だが・・・宝石たちはそれぞれに悪戦苦闘して・・・それぞれのやり方で・・・ただ輝くしかないのである。

それだけは確かなことだと思う。

人は模倣する生き物だ。

親を真似し、他人を真似し、動物を真似し、植物を真似し、世界を真似し、生き続ける。

その模倣の成果が芸術である。

アキが憧れて目指してきた一つの世界が・・・今、幕を閉じようとしている。

それを感じたように・・・アキを生み出した春子は・・・東京に戻って来たのである。

母親の果たせなかった夢を次々と実現して行く娘。

その神のごとき存在に道を示すのが・・・神の母なるものの役割だからである。

もちろん・・・・神を生むものもまた神に他ならないのである。

そして・・・スタジオでは・・・まさに古き神と新しき神が一つの世界を生み出そうとしている。

舞台を整えたものたちは・・・神々の戦いを・・・ただ見つめるばかりなのである。

病床に伏せる余命いくばくもない母親と・・・母の宿命を背負い一人旅立つ娘との別離のクライマックス。

母に別れを告げるために・・・港から生家に駆け戻った鈴鹿島のアキ。

それを迎えた瀕死の母親・・・ひろ美。

「帰ってきてくれたんだね」

「でも・・・おらは・・・すぐにいかなくちゃなんねえ・・・船が出るから」

「あの男と一緒に島を出ていくのか・・・」

「いいや・・・おらは一人で行く・・・おらは・・・母ちゃんみたいな・・・伝説の海女になりてえんだ」

「・・・」

「母ちゃん、親孝行できなくて、ごめんなさい」

アキの渾身のセリフ。

しかし・・・ひろ美はそれで満足しなかった。

「行け・・・アキ・・・」と次のセリフを言わないのである。

ひろ美か即興演技に入ったと悟る太巻監督。

「そのまま・・・回して」

水口も思わずつぶやく。

「アキちゃん・・・演技を続けるんだ・・・」

「ちょっと待て・・・」とひろ美に言われ・・・思わず反応するアキだった。

瀕死のひろ美が病床から抜け出す。

「うわあ・・・下ジャージです」

予想外の鈴鹿の動きにあわてる助監督の小池(太賀)である。

「パン(カメラアングルの横機動)して・・・ごまかせ」

「母ちゃん、無理しないでけろ・・・」アキはアドリブで応ずるのだった。

あんなに強かった母が今はこんなに弱くなっている・・・その哀しみがアキの中で芽生える。

鈴鹿は箪笥の引き出しを開ける。

「うわあ・・・中身・・・ガラクタです」と小池。

「パン(カメラアングルの縦機動)だ・・・あおって・・・ごまかせ」

鈴鹿は箪笥からぼろ布を取り出す。

夏と一期一会の席で・・・海女の手ぬぐいのエピソードを取材している鈴鹿だった。

それは・・・アキが海女の暮らしを捨てアイドルとして旅立つ日の出来事だった。

その時の気持ちが蘇るアキ。

新たなる目標のために愛する世界と別れを告げたあの日。喜びと悲しみが交錯したあの日。その複雑な感情がアキに宿るのだった。

「辛い時には・・・これで涙さふけ・・・そして・・・島での暮らしを思い出せ」

「母ちゃん・・・」

思わず・・・ぼろ布で涙を拭こうとするアキ。

「バカ・・・今でねえ・・・」

「母ちゃん」

再現された過去によって・・・アキと鈴鹿の間の壁は今・・・崩壊したのだった。

「さあ・・・行け・・・アキ」

「母ちゃん・・・」

アキは実の母親と別れるような哀しみを感じたのだった。

その表情に太巻は見惚れる。

自分が磨き続けた宝石が今・・・輝いている・・・と水口は達成感を感じる。

再生した映像をモニターをチェックするスタッフ一同。

「ちょっと・・・見切れすぎで・・・使えないな・・・もう一度やりますか」と太巻。

「もう無理・・・」と鈴鹿。

「・・・」

「私の演技はどうでもいいの・・・アキの表情よ・・・ここよ・・・ここ」

「うん・・・じゃ、OKです」

一瞬の沈黙の後・・・小池が叫ぶ。

「天野アキさんの出演シーン、クランクアップ(撮影終了)で~す」

鈴鹿ひろ美を母と思う鈴鹿アキを心に残しながら・・・天野アキは花束を受け取るのだった。

堂々と別れの挨拶を始めるアキ。

「スタッフの皆さん・・・ご迷惑をかけてすみません・・・そして助けてくれてありがとうございました・・・監督は厳しいし、鈴鹿さんは面倒くさいし・・・こんな映画、誰が見るんだと思ったりしたけど・・・考えてみればおらは・・・潮騒のメモリーを見て・・・女優になろうと思ったんだし・・・こんなポンコツのおらを抜擢してくれた監督は・・・やはり・・・大したもんだと思います。鈴鹿さんは面倒くさいところを直せばもっと凄い女優になると思います・・・そしてここにはいないママ・・・おらがここまでこれたのはなんだかんだママのおかげなので・・・やっぱり大したもんだと思います」

「お疲れさまでした」暴走機関車アキを制止する水口だった。

スタッフ一同はアホの子に温かい拍手を贈るのだった。

そして・・・スタジオ前室のモニターで・・・娘の挨拶を聞いた春子は立ちすくむのだった。

Am022 アキの事務所の女社長にして・・・アキのリアルママ・・・春子来襲である。

スタジオを後にした太巻監督を呼びとめる水口。

「あの・・・監督・・・ありがとうございました」

「うん・・・後は打ち上げで・・・」

「あの・・・不義理をしてしまって・・・」

「うん・・・それも打ち上げで・・・」

「あの・・・うちの社長が一言挨拶申し上げたいと・・・」

「え・・・」

「うちのアキが大変お世話になりまして・・・何とお礼を言っていいのか・・・わかりません・・・のでしません」

「とにかく・・・打ち上げでね・・・」

「ギャラの話もまだですしねえ」

「なんだかんだ・・・打ち上げで・・・」

「打ち上げ・・・楽しみにしてますわ」

「打ち上げ・・・行きたくね~」

太巻を見送った春子は水口をスタジオ裏に連れ込むのだった。

「とにかく・・・眼鏡はずしてくださいな・・・」

「え・・・」

「いいから・・・はずしなさいよ・・・」

「はい・・・う」

「おう・・・この口か・・・この口がなんかいいわけすんのか」

「あうあう」

「板前ってなんだよ・・・」

「いたま・・・」

「ネタはあがってんだよ・・・スシネタじゃねえぞ」

「い・・・」

「あんたがついていて・・・どういうことなんだよ・・・」

「ぐ」

「水口」

「ぐっ」

「こら」

「ぐふっ」

「恋愛禁止だろ・・・」

「いえ・・・二人はプラトニックですから」

「なにがプラトニックだって・・・」

「あふっ・・・じっちゃんのなにかけて・・・」

「誰が・・・金田一少年だってえ」

「おえっ」

ガシ・・・ガシ・・・ガシ・・・カチャン・・・パリン・・・春子のボディー降攻撃中心の説教は果てしなく続くのでした。

壊れた眼鏡を応急処置して無頼鮨のカウンターに座る水口。

おりしも・・・種市は大将指導の元、はじめてのお造りに挑戦していた。

「バレちゃったからね・・・」

「じぇ・・・」

「じぇ・・・じゃないよ・・・とにかく来年までは何があってもプラトニックで頼むよ・・・そうじゃないとメガネじゃすまないんだよ」

「アキとキスしてしまいました」

「なんだって・・・バーローっ」

「種、よそ見すんな」と板場の指導をする大将。

「ふざけんなよ、種」と水口。

「種、手元がおろそかになってる」

「なめてんじゃないぞ、種」

言葉の十字砲火で種市が泣きそうになっている傍らのお座敷では鈴鹿とアキのささやかな労いの宴が開かれていた。

「鈴鹿さん・・・今日はおらのおごりだ・・・」

「悪いわねえ・・・天野さん」

「鈴鹿さんに向いてねえ・・・って言われたこと・・・おらの中では重く受け止めている・・・もう一度、鈴鹿さんに認めてもらうためには・・・共演するしかないと思って・・・オーディションを受けました」

「よく・・・がんばったわ」

「でも・・・今日も鈴鹿さんに助けてもらったけどな・・・で・・・どうだったかな」

「そうね・・・やっぱり向いてないわね」

「・・・そうか・・・」

「だって・・・今日だってあなたがしてたの・・・鈴鹿アキでなくて・・・天野アキだったでしょ・・・」

「・・・」

「それじゃ・・・千の仮面を持つ女優には・・・なれないわよねえ・・・でもね・・・天野アキを演じさせたら・・・あなたの右に出るものはいないわ・・・」

「・・・」

「いいのよ・・・なにをやっても天野アキだって・・・それでアキ竹城さんも、フーテンの寅さんも越えちゃいなさい」

「母ちゃん・・・」

「もう・・・あなたの母ちゃんじゃないわよ・・・むいてないけど・・・続けなさい。むいてないのに続けるのも才能なんだから」

なにをやっても天野アキでいい・・・そういう女優を目指せと・・・大女優にお墨付きをもらったアキなのでした・・・。

二人のやりとりを聞きながら・・・壊れた眼鏡の奥で涙に濡れる水口です・・・。

年功序列なんて気にしないわ

外見なんてなんてなんて二の次よ

かっけーものが大好き 坂道自転車とまらない

私は私は私は天野アキ・・・・

そして・・・ついに天野アキのデビュー曲「潮騒のメロディー」はレコーディングの運びとなるのだった。

金曜日 Wの謝罪~潮騒のメモリー新たなる旅立ち(有村架純)

巨大なオーケストラ用スタジオに響き渡る新しいアレンジの「潮騒のメロディー」のカラオケ。

むせびなくギター・・・。

「どうですか・・・」と尋ねる太巻。

「よろしいんじゃないでか・・・」と春子。

「社長じゃなくて・・・本人に聞いてます」

「たいしたもんだと思います」とアキ。

「・・・素晴らしいアレンジをしていただいて・・・」とフォローする水口。

「ふふ・・・まあ、いいか・・・早速歌ってみてください」

「はい」

ブースに入るアキ。

渾身の・・・「あ~、テステス」である。

ドラマ以前のどこかで覚えた「あ~、テステス」・・・。

アキのアホかわいいポイント第一位である。

そして・・・歌い出す天野アキの「潮騒のメモリー」・・・。

来てよ その火を 飛び越えて

砂に書いた アイ ミス ユー

アキをそれなりに仕上げた春子はまずまずの表情でそれを聞く。

しかし・・・いつしかスタジオで歌うアキに・・・若き日の自分自身の幻影を見出す春子だった。

北へ帰るの 誰にも会わずに

低気圧に乗って 北へ向かうわ

娘と自分が重なり・・・平常心が保てない春子だった。一瞬・・・有村も歌ったか・・・。

名前も知らない 初めてのひと

なんにも言わない それだけのひと

あなたの足跡が はるかに続いてた

小さな悲しみが 私にはじまった

確かに・・・あの日・・・存在していた鈴鹿ひろ美という天野春子・・・。

一時間でテイク5を収録。

アキは春子の顔色を伺うが・・・そこに満足感は見いだせないのだった。

ママに認めてもらえない・・・アキの心もまた揺れ出すのだった・・・。

「えーと・・・今のところ・・・前半はテイク3が・・・中盤はテイク4がいいですね」とまとめに入る河島。

しかし・・・太巻は携帯電話を操作して気もそぞろである。

その態度に毎度おなじみの怒りを感じる春子。

「ちょっと・・・もっと真面目にやんなさいよ・・・うちの娘の将来を左右する大切な一曲なのよ」

「そうですか・・・じゃあ・・・もう一度・・・歌いますか」

「はい」と返事をするアキを制した太巻。

「いや・・・社長・・・あなたがですよ・・・歌えるでしょう・・・この曲」

「いえ・・・それは・・・あんまりじゃ・・・」と真相を知らない河島はフォローに入る。

「歌唱指導は我々にもできますが・・・この歌の心は・・・あなたにしか・・・伝えられないかもしれない・・・つまり・・・お手本ですね」

「・・・」

「おらも聞きてえ・・・おらの原点はママの潮騒のメモリーだ・・・何かつかめるかもしれねえ・・・」とアキ。

春子は無言でブースに向かうのだった。

「えー・・・」と河島。

「一度だけよ・・・。失敗してもやりなおさないからね」

河島を除き、頷く一同だった。

歌いだした春子。

「え・・・そっくりじゃないか・・・鈴鹿ひろ美に・・・」

驚く河島に驚く水口。

「え・・・知らなかったんですか」

「・・・何を?」

あんなに激しい潮騒が

あなたの背後で黙りこむ

身動きも出来ないの

見つめられて

いつの間にか、スタジオに鈴鹿ひろ美が立っていた。

防音ガラス越しに見つめ合う・・・アイドルと影武者。

静かにブースを出る春子。

「どうしたの・・・今更・・・」

「ずっと黙っていることもできました・・・あなたが最後まで何も知らないままでいてくれることも知ってました・・・天野アキが現れるまでは・・・」

「え・・・おら・・・」

「水口が・・・天野アキをスカウトして・・・それが天野春子の娘だと知ってしまい・・・こんなことに・・・」

「すみません・・・」とりあえず謝罪する水口だった。

「ごめんなさい・・・歌をさしかえました」

「・・・」

茫然とする河島・・・だった。

春子と対峙する鈴鹿。

突然・・・その表情が和らぐ・・・。

「もう一人の鈴鹿ひろ美さん・・・こんにちは・・・」

「・・・」

「ごめんなさいね・・・私のせいで・・・表舞台に立てなくなってしまったんでしょう・・・本当にごめんなさい」

「ちがいます・・・そんなんじゃありません・・・私はただ・・・あなたの声だっただけ・・・」

春子は胸がいっぱいだった。

この日が来ることをどれだけ夢に見たことだろう。

「あの日・・・俺が声をかけなければ・・・こんなことにはならなかったんだ・・・春ちゃん、ごめん」

失神寸前の河島だった。

もう一瞬で 燃えつきて

あとは灰になってもいい

もう行かないで そばにいて

おとなしくしてるから

座り込む春子。その隣に身を寄せる鈴鹿。

「知っていたんだべ・・・いつからだ」

一応知りたいアキだった。

それは・・・鈴鹿の温情の理由を確かめたいのだった。

しかし・・・虚構を生きる鈴鹿ひろ美は「それ」を明かさない。

「さあ・・・ずっと前からだったような気もするし・・・今知った気もするわ・・・」

もちろん・・・鈴鹿ひろ美はだれが何と言おうと・・・今、すべてを知ったのである。

ただ・・・女優として誰もが納得する「鈴鹿ひろ美」を演じているだけなのだ。

太巻はアキを・・・促した。

アキは頷いて・・・現時点で最高の「潮騒のメモリー」を歌い出すのである。

二人の鈴鹿ひろ美が生み出した・・・新人・天野アキとして・・・。

彼に伝えて 今でも好きだと

ジョニーに伝えて 千円返して

潮騒のメモリー 17才は

寄せては 返す

波のように 激しく

「あの娘がいてよかった・・・鈴鹿ひろ美さんに逢えたから・・・」

「・・・たいした娘さんだと思います」

二人の鈴鹿ひろ美はひとつになって・・・すべての軋轢は空に溶けていく。

そして・・・潮騒のメモリーの主題歌は完成し・・・映画「潮騒のメモリー」の試写室で鳴り響く・・・。

鈴鹿ひろ美と肩を並べる鈴鹿アキ/天野アキ・・・その背後に控える鈴鹿ひろ美/天野春子・・・。

水口も小池も感動する。

そして・・・画面が涙で滲む太巻監督でした。

晴れ晴れとしたアキの笑顔が輝く・・・圧巻のハッピーエンド・・・。

だが・・・それは・・・。

三途の川の マーメード

友達少ない マーメイド

マーメード 好きよ 嫌いよ ・・・

土曜日 ジャンクション20110311~すべてが変わるだろう(宮本信子)

そして・・・時は流れた・・・2011年三月・・・。

映画「潮騒のメモリー~母娘の島」公開。そして主題歌「潮騒のメモリー/天野アキ」発売。

ユイはアキに電話する。

「アキちゃんの潮騒のメモリーすごいよ・・・すごく売れてるよ・・・夏ばっぱなんて・・・ウニ丼と一緒に売ってるし・・・」

大吉&吉田の北鉄守銭奴コンビは即売会で白熱している。

「ユイちゃん・・・チケット届いたか・・・」

「うん」

戦慄の2011年3月12日「天野アキXGMT5ファーストコンサートin東京EDOシアター」A列招待席・・・。

「絶対、こいよな」

「絶対、いくよ」

アキはユイに・・・上京一年半の成果を見てもらいたかったのだった。

夜変わるよ

旅がはじまる

白い雪は世界に

夢は子供に

北三陸は冬の名残の中・・・。そして、東京は早春。

奈落で・・・アキはGMT5と合同レッスンを行う。

「アキ・・・振付覚えてるとね」と真奈ちゃん(大野いと)・・・。

アキがデビューできなかった「地元に帰ろう」・・・。

地元に帰ろう

地元で会おう

あなたの故郷

私の地元 地元 地元

奈落は・・・アキの古巣だ・・・。

アキは出発点に帰って来た。

仲間たちと初めて歌った「暦の上ではディセンバー」・・・。

暦の上ではディセンバー

でもハートはサバイバー

そして・・・奈落から・・・ステージに上がる。

ステージに輝く・・・天野アキの頭文字AA・・・。

「すげえ・・・」とアキ。

「太巻さんが作ってくれたんだぜ・・・」と水口。

GMT5を従えて・・・天野アキの「潮騒のメモリー」のリハーサルが始る。

潮騒のメモリー

17才は

寄せては 返す

波のように 激しく

「そこで・・・全員、激しく」と太巻の檄が飛ぶ。

ステージを舞うアイドルたち。

シアターの裏通りでは・・・熱狂的なファンが応援の練習に余念がない。

音頭を取るヒビキ(村杉蝉之介)は熱が入り過ぎて脱臼する。

「いい年なんだから・・・ほどほどにしろ・・・」と忠告する安部ちゃん(片桐はいり)・・・。

「そこに・・・アイドルがあるかぎり・・・応援するのが男ってもんだ・・・」

じぇの団扇をかざすヒビキ。つまり・・・アキに対するヒビキは・・・ツンデレだったのでした。

無頼鮨では大将が種市に気を利かせる・・・。

「明日は休め・・・」

「でも・・・土曜日だし・・・」

「種・・・お前がいなくたって・・・」

そこへ河島が顔を出す。

「明日、握り三十人前お願いします」

「え・・・」

「梅さん・・・」

微笑む大将だった。

純喫茶アイドルでは・・・スリーJぷろだくしょんの社長の春子と運転手の正宗がのけぞっていた。

「なんですって・・・」

「だから・・・おたくの事務所にお世話になりたいんです・・・」

「どなたがですか」

「私が・・・」

「す、鈴鹿ひろ美さんが・・・」

「え・・・鈴鹿ひろ美・・・」と相変わらず気がつくのが遅い甲斐さんだった。

「どうして・・・」

「だって・・・あなたいい人だし・・・」

「私・・・いい人じゃ・・・」

「押しが強いでしょ・・・いてまえ・・・いてこませ・・・いったらんかい的な」

激しく同意する正宗だった。

「太巻さんは・・・なんて」

「あの人のことはもういいんです・・・夫としてはともかく・・・仕事のパートナーとしてはもう限界って感じ・・・」

「え・・・」

「夫・・・」

「えええええ」

お茶の間とともに驚愕する甲斐さん。

もう・・・鈴鹿さんに子供が十人くらいいても驚かないぜ。

すべてが変わる

君は両手をひろげてりゃいいよ

幸せをもらうために

春雨が降っていた。

表参道の赤い花柄の傘の春子と青い星柄のアキ。

「鈴鹿さんが事務所に入ったら・・・おらの先輩になるのか・・・後輩なのか」

「どっちにしろ・・・タメ口なんでしょ」

「んだな・・・」

春子は青山通りの交差点で・・・佇む若き日の春子の幻を見る。

「ここに一日中立ってたことがあったよ」

「なんでだ」

「ここに立ってるとスカウトされるって伝説がね・・・」

「ユイちゃんみたいだな」

「ふふふ・・・そうだね」

「えへへ・・・後はママとパパだな・・・」

「再婚かあ・・・そうだ・・・生写真買いに行こう」

「生写真ってなんだ・・・」

「知らないの・・・」

「写真なのに生なのか・・・」

「食べられないんだよお」

ごらんよ星

明日は天気

すべてが始まる

夜変わるよ

まめぶを味わう太巻と河島・・・そして水口。

「太巻さん・・・ありがとうございました」

「うまいな・・・これ・・・」

「あの・・・今夜・・・天野の親友が上京するんです」

「・・・可愛い方か・・・」

「会ってもらえますか・・・」

「いいよ・・・紹介してよ」

思いは届いて

劇場ができた

幕があくのだ

すべてがかわる

ユイの出発の時が迫っていた。

ストーブが一枚足りないカレーショップのサービス券を差し出す。

「お兄ちゃん・・・その店とっくにつぶれてるよ・・・でも・・・ありがとう」

仲良し兄弟だった。

足立夫婦が駆けつける・・・。

「間に合った・・・」

「なんだか・・・いやだな・・・こんな揃っちゃって・・・」

「辛かったらいつでも帰って来い・・・」とおどける美寿々(美保純)・・・。

「楽しくても・・・水曜日には帰ってきます」

ここでさりげなくナレーターはアキから春子にバトンタッチされる。

(帰るつもりだったのか・・・帰らないつもりだったのか・・・ユイちゃんの本心は誰にもわかりません)

・・・お茶の間の心臓を鷲掴みにする開口一番である。

さすがは・・・春子なのでした。

日本中が昼下がりを迎えていた。

アキのミサンガは残り二本・・・。

そして・・・輝くユイからもらった琥珀のブレスレット。

夏ばっぱは疲れたのか・・・昼寝をしている。

養命酒のような滋命酒を持って組合長が天野家を訪ねる。

そして・・・宮古行きの北三陸鉄道の車中の人となる・・・ユイと大吉。

夢にまでみた東京へ。

きのうなんてない

あしたこそスペクタクル

ろうそく灯しに行こう

今夜、人生、素晴らしいね

そして・・・あの日、あの時、世界は変貌するのだった。

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