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2013年9月 9日 (月)

求めずば与えられることなく、捜さずば見つかることなしでごぜえやす(綾瀬はるか)

マタイ伝第7章でイエスは群衆に対して耳に甘い説教を行う。

求めるものには与えられ、捜すものには見つけられ、ノックするものに扉は開かれるという。

しかし、それらは皆、希望的観測にすぎない。

イエスは求められたら与え、捜すものには見つけてやり、ノックするものには扉を開く人々のいる世界を理想として語っているのである。

それを絵空事と感じるか・・・うっとりするかはそれぞれの人生経験によって異なるだろう。

しかし、悲惨な体験をしたものが・・・悲惨さを愛するとは限らない。

また・・・苦難を知らぬものが用心深くないとも言えないのである。

幼き子に食を与える喜びを信じるならば世界は薔薇色だが・・・人間がそうするとは限らないことも知っておくべきだろう。

いずれにしろ・・・信仰の礎はそうした脆くて儚いものを土台とするのである。

そして・・・信じるものは時に救われたような気になるのだった。

もちろん、それが錯覚の一種であることは言うまでもない。

で、『八重の桜・第36回』(NHK総合20130908PM7~)作・山本むつみ、脚本・三浦有為子、演出・佐々木善春を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回はファン待望、今宵限りの新島八重のウェディングスタイル・イラスト描き下ろしで感涙でございます。レース模様の細密さ加減にうっとりでございます。お疲れ様でございました。大量新登場人物発生の季節、画伯に置かれましてはあくまでマイペースでお願い申しあげます。山本みねとか、徳富初子とか・・・楽しみですけどねえええええええっ。

Yaeden036 明治二年に平民という呼称が生まれた。しかし、四民が平等になったわけではなく、皇族、華族、士族、卒族の下に平民という階級が設けられたのである。しかし、特権階級と呼べるのは華族以上に限定されたのが特色である。つまり、士族、卒族は単なる名誉階級だったのである。明治四年の西南戦争に至る士族の反乱は当然の帰結だったと言える。特に戊辰戦争という革命戦争を戦った勝者の側に不満が鬱積したのは当然だろう。手柄を立てた褒美が与えられない武士はある意味では謀反するしか道はないのである。西郷隆盛が愛されるのはそうした矛盾を充分に理解しながら・・・あえて負ける側についた・・・と言うことに尽きるのだった。また、便宜上、山本八重は、川崎八重になり、山本八重になり、新島八重になった如く記述するわけだが、夫婦同氏の制定がなされるのは明治31年(1898年)の明治民法成立後である。それまでは基本的に妻の姓は嫁ぎ先ではなく実家の姓だったのである。つまり、夫婦別姓が基本なのである。しかし、現在とは逆に妻が嫁ぎ先の姓を通称として使うことはままあることだったらしい。どちらが・・・普通なのか・・・現代の感覚からは全く窺い知れない。士族の人々が自分たちが平民と同じ権利しか与えられない憤りや、男女平等というまったく非常識な思想をもった八重に対する男尊女卑主義者の困惑は実に計り知れないものと考えるべきだろう。とにかく・・・明治六年に下野した西郷隆盛は鹿児島で温泉三昧の日々を過ごしつつ、明治七年に私学校を開校。そこに不平士族が続々と集結し、士族階級の解体を目指す明治新政府を悩ませることになる。西郷とともに維新を指導した元勲たちは西郷の政界復帰を説得したが・・・西郷は最後までそれを拒絶した。一方、西洋化の使命を帯びた新島襄は明治八年に京都改革の指導者の一人山本覚馬の妹・八重と婚約し、明治九年に結婚式を挙行する。西洋の力の根源であると考えられる耶蘇教と・・・日本文化の融合は・・・以来、継続され、現代に至っている。ほとんどの国民がクリスチャンでないのにクリスマスだけは祝う・・・不思議の国ジャパンなのだった。挙式に先立ち、洗礼を受けた八重が洗礼名を持たないのは基本的に聖人崇拝を行わないプロテスタント諸教派だからである。

八重の洗礼を行ったのは宣教師・ジェローム・ディーン・デイヴィスだった。ニューヨーク生まれの元北軍中佐である。

女戦士であるくのいちの八重とは会話が弾むのだった。

「南北戦争のシャイローの戦いで手柄を立てられたとか・・・」

「ほほう・・・ジョーに聞きましたか」

「はい・・・彼は何冊かの戦記をもっております」

「なるほど・・・」

「北軍の勝因はなんだったのでしょうか」

「シャイローはユダヤの言葉で平和の地を意味します。基本的には北軍に義があったということでしょう。つまり、平和の地で勝利をおさめるだけの義です。義のある軍は統率力に優れています。次には将軍の采配の差があります。北軍のグラント将軍の方が優秀だったのです」

「戦力は互角だったと聞いております」

「そうです。北軍は四万八千、南軍は四万五千といった戦力でした。しかし、北軍はおよそ二万の増援部隊が接近中でした。南軍はその合流を阻止するために先制攻撃を行ったのです。北軍は守勢にたち、かなりの被害を受けましたが・・・激戦の果てに南軍のジョンストン将軍は戦死、やがて北軍の増援部隊が到着して決着したのです」

「なるほど絵にかいたような挟撃の成功でございますね」

「つまり、南軍は義に欠けていたために勝ちきるチャンスを逸したわけです」

「まあ・・・勝敗は時の運と申しますけれど」

「ふふふ・・・ジョーの噂通り・・・あなたは面白い女性だ・・・会津戦争では銃をとって戦ったのですね」

「七連発の銃で七人の敵を倒しました・・・このようなものが洗礼を受けてよろしいのでしょうか」

「罪なく洗礼を受けないものよりも罪あって洗礼を受けるものの方が神のおそばにあるのです。なぜならそのものは悔い改めているからです」

八重は無言で微笑んだ。そもそもくのいちは非情のものである。洗礼を受けないものはすべて地獄に落ちるという耶蘇教の戯言など笑い話にすぎないのだった。

しかし・・・情熱的なお人よしであるジョーは可愛いと八重は思う。

求婚されて応じたのはそのためである。

たが・・・科学忍者隊の事実上の隊長である八重にとってすべてはかりそめのことなのであった。

しかし・・・夫のために実力を行使することはやぶさかではないのだった。

旧会津藩と深いつながりのある京都の顔役の一人、大垣屋清八から相談を受けた八重は京都市内に救う盗賊退治を請け負ったのである。

「いや・・・山本様のお姫様に頼むのは憚れるのでございますが・・・養子の松之助や会津小鉄をさし向けたところ・・・散々に打ち破られましてな・・・」

「剣術使いでごぜえやすか・・・」

「分りません・・・おそらくは元はお武家様かもしれませぬ・・・子分は十人ほどですが・・・頭領は鞍馬天狗と名乗っておりまする・・・」

「なるほど・・・僧兵くずれかもしれませぬな・・・」

「御一新の節は敵や味方が入れ替わりましたからな・・・あぶれたものが盗賊にまで身を落したのでございましょう・・・なにしろ・・・不法者といものは癖になるのでございます」

「まあ、親分が言うからには・・・そうなのでがしょう」

京都寺町通丸太町の古びた公家屋敷が鞍馬天狗党の巣窟だった。

真昼に八重は無造作に屋敷に押し入った。

屋敷の中で男たちは手慰みに興じていたり、あるものは徳利を抱えて寝入っていた。

「なんだ・・・手前は・・・」

「おかしな格好してけつかる」

八重は黒づくめの洋装である。

「毛唐かぶれの遊女かいな」

男たちの視線が八重に集まる。

「お上の御用で来たのでがんす」

「お・・・会津訛りやないか・・・」

「皆さまにはここを立ち退いていただきたく存じやす」

「いってくれるやおまへんか」

「まあ・・・一杯やるけ」

「では強制執行させていただきやす」

「なんやと」

すでに八重は二丁拳銃を抜き放っていた。

連弾である。硝煙が渦を巻く。

一瞬後、室内には死体が転がっていた。

「見事な腕だな・・・」奥の間から声が聴こえ、襖から槍が繰り出される。

その槍の殺気を受け流しながら八重は連射した。

襖の向こうから巨体が襖を突き破って倒れこむ。

「宝蔵院流槍術の見事なお手前でがんす」

仰向けに倒れた僧体の巨漢は微笑みを浮かべた。

かなりの高齢者だった。それは八重に故郷の武術師範を思い出させた。

「しかし・・・あまりにも時代遅れでごぜえやす」

巨漢は一瞬、顔をしかめたようだった。

しかし、その目はすでに光を失っていた。

名もなき武芸者は息絶えていた。

八重が合図をすると・・・くのいちたちが飛び込んでくる。

女たちは手早く死体の始末にかかっていた。

八重は屋敷を見まわした・・・血ぬられた学び舎を・・・。

関連するキッドのブログ→第35話のレビュー

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コメント

ばんはです
どうにかウェディングの八重を乗り切ったと
思ったら
更に八重の髪型や服装がどんどん変わっていき
みねや初子と新たな登場人物も増えて
ちょっと冷や汗を感じる今日この頃です; ̄∇ ̄ゞ

10月になれば、完全版が出るのでしょうから
またその時にネタになるような構図があれば
とか思いながらも

仕事がどんどん忙しくなってきて
こちらもちと冷や汗を感じてます; ̄∇ ̄ゞ

投稿: ikasama4 | 2013年9月12日 (木) 01時47分

✥✥✥ピーポ✥✥✥ikasama4様、いらっしゃいませ✥✥✥ピーポ✥✥✥

わざわざのお運びありがとうございます。

大力作でございましたね。

しかし・・・ここから八重は
どんどん洋装化していきそうで・・・
ナース八重もあるわけですし・・・
女性陣もそれなりに
増加し・・・
楽しみなのですが
あくまでマイペースでお願い申しあげます。

とりあえず・・・今年ほど綾瀬はるか嬢を
お描きになる年はないでしょうからねえ。
2013年は綾瀬はるかの一年でございますよねえ。

とにかく・・・ご無理は禁物ですぞ~。

こちらも・・・「あまちゃん」が終わるのは
物凄く淋しいのと同時に・・・
週末が帰ってくるのが待ち遠しい気もする今日この頃ですが~。

投稿: キッド | 2013年9月12日 (木) 03時38分

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