明治八年二月、川崎尚之助、東京医学校病院に入院、三月、慢性肺炎で死去でごぜえやす(綾瀬はるか)
革命の混乱期である。
川崎尚之助の生涯も謎に包まれた部分が多い。
明治三年、後に陸軍大将となる柴五郎の長兄・太一郎とともに・・・函館のデンマーク人商人デュースと米取引をしたことが事件の発端だった。
資金調達に失敗した尚之助は明治四年にデュースにより、開拓使(北方開拓のための官庁)に訴えられてしまう。
明治五年、斗南藩には支払い能力がないために・・・公用ではなかったと証言せざるを得なかった尚之助は東京に連行され、訴訟裁判を継続することになる。
この頃、すでに尚之助は結核を発症していたと思われる。
明治七年に尚之助は開拓使に召喚され、明治八年には病状が悪化し、東京医学校病院に入院。三月二十日に慢性肺炎によって死去する。
明治九年、柴太一郎が実刑判決を受けたことにより、刑事訴訟は決着する。
結局・・・川崎尚之助が不遇のまま・・・病死したことだけが明確な事実と思われる。
しかし・・・その秋に八重が新島襄と婚約するのは・・・まったく無関係ではないだろう。
八重は尚之助の消息はそれなりに知っていたと思われる。
脱藩した洋学者である川崎尚之助、脱藩して宣教師となった新島襄。二人に明らかに似通った部分がある。
時代を超越していた感性を持つ八重が二人の伴侶を得たことはけして偶然であるとは思えない。
そこには確かにロマンス(理想)が感じられるのだ。
で、『八重の桜・第35回』(NHK総合20130901PM7~)作・山本むつみ、演出・末永創を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は明治維新後の山本八重と・・・ついに登場・米国帰りの宣教師・新島襄の二大イラスト描き下ろしでお得でございます。孤高の女戦士から教育者へ・・・転身した八重の愁いを秘めた眼差し・・・そして明治のジェントルマン・ジョー・・・その・・・それほど長くない結婚生活はそれでも・・・八重の第二の人生の始りといえるでしょうねえ。果たして・・・花嫁姿の描き下ろしはあるのか・・・期待は高まりますが・・・画伯におかれましてはあくまでマイペースでお願いします。
明治四年、開拓使長官・東久世通禧が辞任し、開拓使の頂点に立ったのは酒乱で木戸孝允にがんじがらめに縛られたり、明治十一年には妻を斬り殺したと噂される薩摩出身の黒田清隆である。明治五年、黒田は函館戦争の敗軍の将である榎本武揚を抜擢し、開拓使において官吏として重用した。川崎訴訟事件はこの時点で発生している。当然のことながら榎本には斗南藩の窮状は分っている。また、貿易港函館を管理する知識人として、西洋の法がこの地でも運用されるという文明開化ぶりも示さなければならなかったのである。すべての責任を個人に帰するというのは一種の方便だっただろう。いわば裁判を長引かせ・・・のらりくらりと問題解決を先送りにしたわけである。当然、知識人である川崎も同意してのことである。すでに結核を発症し寿命の長くないことを感じていた尚之助は・・・だからこそ主犯を引受けたものと推察できる。主犯が死亡したことによって事件はスピード解決するのだった。明治七年1月、榎本は駐露特命全権公使となって抜擢される。帰化族と揶揄される元幕軍、元賊将としては異例の出世と言える。これは明治五年、ペルー国籍の船舶から清国人奴隷を日本政府が勝手に解放したとしてペルーが国際裁判を起こし、第三国のロシア帝国で国際仲裁裁判が開廷されたためである。そして、明治八年の二月に川崎の病状は悪化するが後の東大病院に入院という手厚い看護を受けている。そして、三月に川崎は病死する。六月、ロシア皇帝アレクサンドル二世はペルーの訴えを退け大日本帝国は勝訴する。そして、八月、日露は樺太・千島交換条約を締結するのだった。榎本は弱腰を叩かれるが千島列島の漁業権を確保した功績は大きいと評価される。実は無法地帯と化している日本で・・・知識人たちは懸命に文明国家を装っていたのである。
八重たちは京都鞍馬山山中の科学忍者隊本部に戻っていた。
「やはり・・・海上ではヴァンパイアの呪力が弱まるようだ・・・」
明智龍馬は英語でジェームス・ボンドに報告している。
「それはなぜなのでしょう」
「塩分と関係しているのかもしれないが・・・やはり、海には特殊な霊力の場があると考えた方がいいだろう」
「なるほど・・・ところでこちらの方はどなたですか・・・」
「ああ・・・この人は米国帰りのエクソシストだ・・・私を呪われた存在として塵に返そうと言ってついてきた」
「ははは・・・それは豪儀なことだ・・・失礼ですが、お名前を伺いたい」
「米国国教会のジョー・ニイジマと申します」
「私は英国情報部のボンドです」
「・・・あなたもクリスチャンですか」
「いや・・・私はヴィクトリア女王陛下の騎士です。たとえ、神と言えども仰ぐことはできないのです」
「信仰なきもの・・・は不幸ですな」
「それは見解の相違と申しましょう」
「しかし・・・不浄なものと心を通わすとは・・・」
「ふふふ・・・イエスはこう申しているではないですか・・・汝の隣人を愛せよ・・・と」
「けれど・・・この者は悪魔の使いですぞ・・・」
「いやいや・・・この人は魔族と戦い、その身を人類の未来に捧げた尊いお方です」
「まあまあ・・・お茶をお飲みなされませ」
八重は三人の男たちに粗茶を勧めた。
そこに・・・三日月と月の輪の二人のくのいちが階上から降りてくる。
「覚馬様とお伴の方が到着なさいました」
「うむ・・・急ごう」
覚馬の書生たちが棺を担いで降りて来た。
「間に合ったか・・・」
棺の中には青白い顔をした川崎尚之助が収められている。
「尚之助様・・・」思わず八重は昔の夫の名を呼んだ。
尚之助はうっすらと目を開いた。
「急がれよ・・・時は移ります・・・」
囁くように尚之助は告げた。
明智龍馬が棺に身を寄せる。
「呪われし道を共にゆかん・・・」
「え・・・何をする気ですか」
事態の推移を見守っていたジョーが口を挟む。
明智龍馬はそっと尚之助の首に唇を寄せる。
「ああ・・・なんて不謹慎で・・・みだらなことを」
儀式を妨害しようとするジョーを八重は片手で制止した。
「離せ・・・」
「なりませぬ・・・」
青白い尚之助の頬に朱がさした。龍馬の口元からは尚之助の血液があふれだす。
「なんてことだ・・・なんて邪悪なことなんだ・・・」
「お黙りなされ・・・人は・・・魔となって・・・それでも生きていくのです」
瀕死の状態だった川崎尚之助はむくりと起きあがった。
「これが・・・ドラキュラの呪いか・・・」
「いかがかな・・・」
「素晴らしい・・・まるで生まれ変わったようです」
「いいや・・・君は死んだのだよ・・・これから君は永遠の死を生きるのだ・・・」
「・・・永遠の死・・・」
「失うには惜しい君の知識を・・・私に捧げてくれるかの・・・」
「あなたは・・・」
「明智龍馬・・・君のヴァンパイア・マスターだ」
「なるほど・・・どうやら・・・私はあなたの虜になったようだ・・・」
川崎尚之助は幼い子供が母親を見上げるように・・・明智龍馬に見惚れていた。
その眼差しをくのいちらしからぬ複雑な表情で見つめる八重だった。
八重の旦那様は・・・もはや異人となったのである。
暗い冷え冷えとした地下室で・・・明治八年の夏が終わろうとしていた。
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