夏の夜の震撼~悪霊病棟(夏帆)
恐怖は不安から絶望にいたる途中経過である。
不安には様々な予兆がある。天国と地獄では地獄の方が不安を感じさせる。明朗活発であるよりは陰湿愚鈍に対して不安は増大する。健康よりも不健康が不安であり、食欲旺盛よりも食欲不振が不安なのである。日当たりが悪い方が不安であり、人里遠い方が不安である。人通りは少ないほど不安であり、見知らぬ土地ほど不安ということになる。
旅行中の案内人の態度が不審であれば不安になり、案内人が失踪すれば不安は募る。案内人が死体で発見されればもはや不安というレベルではない。
絶望を感じさせる予感は間接的な恐怖である。
死霊が大量に発生した街では火災の黒煙が空を焦がすのが遠望できる。死体の山が築かれて往く手をふさいでいる場合、反対側には怪物が潜んでいる可能性がある。沼地から鳥が急に飛び立つのは半魚人が浮上する前触れである。動物が迅速に逃げ出してくるのは悪鬼が突然、襲ってくる兆しと言える。
恐怖によって足がすくめば、絶望はすぐそこにある。
死霊の集団が徒歩で接近してくる場合は凄惨な足音がする。運転技術のある死霊が接近する場合や、幽霊自動車、幽霊機甲師団などの存在は猛烈なエンジン・ノイズを響かせる。骨が噛み砕かれる音がすれば食人屍が食事中である。奇怪な咆哮が絶え間ない時は醜悪な怪物の巣が間近いと言えよう。
吸血鬼の下僕が主人の留守を告げる時、背後には夕闇が迫っている。魔物が地下から襲いかかるのは断崖絶壁へと追いたてるためである。屋上のヘリポートは目の前でヘリコプターが着陸失敗するためにある。煙がたちのぼるのは地獄の業火が炎上する気配である。毒蜘蛛の群れが追いかけてこないのは前方に毒蛇の群れが待ち構えているからである。
低い所から高い所に昇るのは人々が天国を渇望するからである。しかし、階段には果てがあり、エレベーターは停止し、高層ビルは死地である。
パラシュートに穴が開いているのを確認した時、スカイダイビングの不安は絶望に変わる。
恐怖はその間隙にそっと存在する。
で、『悪霊病棟~第9号室』(TBSテレビ201309200058~)脚本・鈴木謙一(他)、演出・鶴田法男を見た。父親の辰夫(嶋田久作)から母親が霊能力者で祓い師だったと聞かされた琉奈(夏帆)は母親の形見の深紅の勝負服を手に入れるのだった。一方で琉奈の霊能力を利用した悪霊・キヌは隈川病院に「黒い歯の病の呪い」を蔓延させる。亡霊に噛まれたものは呪いに感染し、新たなる犠牲者を求めて歯を黒く染めるのだった。医者も看護婦も患者も患者の家族や見舞客も次々と歯を黒く染めていく。逃れるためには感染者を拘束し隔離するしかないのである。
汚染されていないものは感染者を抑えつけ・・・縛り上げるのだった。
ゾンビ史上最弱のゾンビの誕生に苦笑を禁じ得ないのだった。
なにしろ、「うがあっ」といいながら・・・凶悪な感染者はタオルなどで簡単に拘束されてしまうのである。噛みつき攻撃を防御するのはそんなに簡単なことではありませんから。
なんて・・・間抜けな悪霊なのだろうか。
ディープキスによって琉奈の上顎に突起物の発生を確認した研修医の朝陽(大和田健介)は三流ディレクターの斑目(鈴木一真)に相談するのだった。
「どうしよう」
「どうしようと言われてもな」
「このままでは・・・琉奈の力を手に入れたキヌの呪力が高まりまくりなんだ・・・」
「そう言えば・・・部外者なのに・・・旧病棟の隠し部屋を知っていた人がいたな」
「なんで・・・凄い秘密なのに・・・」
「その人の母親が・・・病院の関係者だったらしい」
「すぐに会いに行きましょう・・・とにかく我々には手掛かりが少なすぎる」
その頃、病院には黒い歯病の患者が多数発生し、感染拡大阻止の戦いが展開されていた。
「主任・・・病院を封鎖しましょう」
「主任・・・警察に応援を頼みましょう」
「主任・・・保健所に報告しましょう」
「と、とにかく・・・院長に相談してみる」
木藤主任(森脇英理子)が向った院長室で院長(春田純一)はボーッとしている。
「院長・・・御指示を・・・」
「君には人が殺せるか・・・」
「何をおっしゃっているんですか」
「この怪奇現象を終息させるためには呪力の源である尾神琉奈を殺すしかないんだ」
「そんな・・・」
「君が殺してくれると助かるんだが・・・」
「なんで・・・私がやらなきゃいけないんですか」
「院長命令だ・・・」
「そんな命令・・・くそくらえですよ」
「・・・」
「私が・・・すごくこわがりで・・・臆病なので・・・みんなを旧病棟に行かせたからこんなことになったんです・・・私・・・旧病棟に行って責任とってきます」
「何を言ってるんだ」
どうやらみんなおかしくなってしまったらしい・・・さもなくば脚本家が発狂しているのだな。
「子供の歯が黒いんです」
「チョコを食べたの」
「茶色じゃなく黒いのよ」
「じゃ・・・イカスミを・・・」
「ふざけないで」
「こんな・・・色かしら」
口を開いたナースの歯は暗黒。
「きゃー」
「とって・・・とって・・・子供をおんぶしたらかみつかれて」
「みんな・・・タオルを持って・・・患者を縛るのよ」
「噛みつかれないように気をつけて」
「噛まれちゃいました」
「うつ伏せに押し倒して頭を踏みつけて・・・後ろ手に縛って・・・それから足首を縛るんだ」
「そんな・・・格闘技のプロみたいなことはできません」
「ガムテープを貼っちゃえば」
「それだ・・・」
「唾液が目にはいりました」
「飛沫感染するのでは~」
「幽霊は拘束できません」
「きゃあ」
「ひええええええええ」
「うげっ」
隠し部屋の秘密を知る田野辺という初老の女性を訪ねる朝陽と斑目。
「なぜ・・・秘密を」
「私の母は・・・あなたのおじい様の愛人だったのです」
「ええっ・・・」
「母の話では・・・キヌと戦った祓い師は・・・霊界にいるキヌと決着をつけるために自ら霊界に旅立ったそうです」
「霊界って・・・死後の世界のことですか」
「さあ・・・大霊界のようなものじゃないかしら・・・」
「じゃあ・・・やはり、死後の世界は必ずある!じゃないですか」
「お・・・丹波さんのものまね、うまいな」
「とにかく・・・私も母に聞いた話だから・・・」
「どちらにしろ・・・琉奈が死なないとキヌの呪いが解けないなんて・・・そんなの嫌だなあ」
「愛なんだな」
「すると・・・あなたは父の異母兄妹なんですか」
「残念でした・・・私は母の連れ子なのよ」
「そんなのどうでもいいじゃないか」
その時、ナース鈴木(川上ジュリア)から緊急呼び出しがかかる。
「どうした」
「急患です・・・っていうか、もはやゾンビランドです」
あわてて駆けつける二人が見たものは・・・黒い歯病の患者とそれ以外のものの死闘だった。
「なんじゃ・・・こりゃ」
「気をつけて・・・噛まれると一瞬で発病します」
「潜伏期間はないのか」
「あったりなかったりです」
「これは・・・感染症なのか・・・それとも呪いなのか」
「そんなことどうでもいいじゃないですか」
「きた・・・」
「タオルか・・・ガムテープをもってください」
「動きが鈍いのか」
「早いのもいます」
「うわあ・・・気持ち悪い」
「とにかく口にガムテープが貼れたらこっちのもんです」
「どんなゲームなんだよ・・・」
「君はよく平気だったな」
「一度噛まれてるんで免疫があるみたいです」
「なるほど・・・再感染はしない呪いなのか」
「でも・・・このままじゃ・・・多勢に無勢です」
「なぜ・・・魔物たちは院外に流出しないんだ」
「外に出ると呪力が弱まるんじゃないですか」
「うわあ・・・また来たよ」
「ナースやドクターも感染してるのか」
「もう・・・ほとんど感染してます」
「じゃ・・・ダメじゃないか」
そこへ・・・赤い勝負服の琉奈が颯爽と・・・猫背で現れる。
琉奈が感染者にお守りをかざすと・・・呪いは解けるのだった。
「琉奈さん・・・」
「私は・・・赤の祓魔師なのです」
「インチキ霊能者みたいだな・・・」
エクソシスト琉奈とナース伊藤の紅白コンビはたちまち・・・感染者を駆逐するのだった。
「主任は・・・」
「旧病棟に・・・」
「やはり・・・直接対決するしかありません」
「琉奈・・・」
一同が旧病棟に向かうと・・・玄関に佇む院長。
「父さん・・・」
「琉奈・・・死んではくれないか・・・そうするしか・・・この病院にかかった呪いを解くことはできない」
「何を根拠に言ってるんです」
「実は・・・お前の祖父さんはなあ・・・この病院を受け継いだんじゃなくて・・・のっとったんだよ・・・そりゃあ、悪い男でな・・・前の院長を殺して・・・呪われたんだ。キヌは殺された院長の奥さんだよ。親父はキヌもその子供も・・・おそらく殺したんだ。それで呪われたんだよ・・・だから人身御供を捧げるしかないんだ」
「狂ってやがる・・・」
「琉奈・・・行くな」
「琉奈・・・行きます」
猫背の赤のエクソシストは禍々しい気に満ちた旧病棟へこそこそと足を踏み入れるのだった。
もう、妄想で凌ぐしかないな・・・。
関連するキッドのブログ→第8話のレビュー
シナリオに沿ったレビューをお望みの方はコチラへ→くう様の悪霊病棟
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コメント
あーははははは…じいやの記事の方がドラマ本編より笑える~!
いや、笑うためのドラマじゃないって…。
でも笑っていいんですよね。
もう笑うしかないですもん~^^;
あ、ご挨拶が遅れましたが先日はチンする焼き鳥をありがとうございました。
とてもおいしゅうございました。
次は秋のバーベキュー大会で、また焼きましょう~!
もう、何か今期は「あまちゃん」に翻弄されて毎日記事作るだけで
アップアップでございました。
おかげさまで他のドラマがつまらない事にもあまり気付かなかったほどです。
そして気づけば夏は終わっていたらしい…。
あまちゃんも、後1週間で終了です。
これが終わったら、もう腑抜けになりそうです(ノ_-。)
今の生きる希望は天駆ける「リーハイ」への期待値の高さだけです。
おやおや、全然違う記事で思わず愚痴ってしまいましたわ~。
いや、ホラーとコメディって、ほんとーーーに紙一重ですわねっ。
来週のじいやの記事が本編よりも楽しみです^^
投稿: くう | 2013年9月21日 (土) 03時51分
楽しんでいただけて幸いでございます。
毎週、なんじゃあこりゃあああっと叫びながら
最終回直前・・・もう堪忍袋の緒が切れてしまいましたぞ~。
もう、笑うしかありませんですなあ・・・。
秋はごっこガーデンが二か所開催の予定ですが・・・
とにかく・・・半年は
「あまちゃん」で至福と同時にヘトヘトになってましたので
少し・・・大人しくしていようと思います。
バーベキュー大会は「リミット」会場で常時開催中ですぞ~。
会場まで山中を彷徨うイベント付きでございます。
お屋敷の裏山は結構険しいですからな。
リタイヤの方は財閥ヘリがレスキューしますぞ。
秋ドラマは「リーハイ」は別格として
「変身インタビュアーの憂鬱」(月深夜)三木
「独身貴族」(木10)佐藤
「彼岸島」(木深夜)・・・まただまされるのか!
「都市伝説の女2」後藤
「東京バンドワゴン」大森
「49」野島
「安堂ロイド」西荻
というベテラン脚本陣を一応マークでございます。
ま・・・結局、全部見るのですが~。
毎晩のように・・・アキが大荷物を持って
奈落でGMTと初めて踊るシーンが蘇ります。
本人はもうオールアップして
荷物を降ろしているのですが
お茶の間はまだあの荷物を背負った気分ですからな。
楽しそうな最終週の果てに・・・。
しばらく・・・リピートの日々が来る気がいたします~。
ホラーとお笑いは紙一重ですが・・・
本当は笑いたくなるくらいゾッとしたいものですな~。
投稿: キッド | 2013年9月21日 (土) 15時44分