殺人アンドロイドはターゲットの夢を見るか?(木村拓哉)
「あなたの最初の記憶は何でしょうか?」
古の心理学者たちはこの質問を繰り返してきた。
それは人間の意識がいつ始ったのかと尋ねるのと同じ意味である。
出産された人間は・・・目や耳、舌や鼻・・・そして全身を使ってこの世界の刺激を受け取りはじめる。
多くの人間はあらかじめ用意されたプログラムに従って栄養を摂取し、老廃物を排泄する。
呼吸をする。
そして、強すぎる刺激に泣き、適度な刺激に笑う。
やがて・・・かぐわしい香りと臭い匂い、暑さ寒さと適温、世界にあふれる色彩、快い響きと雑音、そして甘さと辛さを判別しはじめる。
やがて・・・「誰か」がそこにいることを知る。
いつの間にか・・・生まれる「心」・・・。
だが・・・その過程を詳細に思い浮かべることのできる人間は限られている。
成長し、発達する過程で失われる膨大な初期の記憶。
そのために・・・人間は・・・自分と言う存在にいつ気がついたのか・・・定かではない。
それから・・・概ね、それぞれの世界が終るまで・・・人は連続している自分を意識することができる。
今、炭酸飲料を飲んでいる自分。
これから愛の営みをするためにシャワーを浴びている自分。
失われた大切なものをふりかえり哀しむ自分。
そして・・・いつか、自分が消えてしまうことに漠然とした不安を抱く自分。
おそらく・・・多くの人間の心はそのようなものではないかと考える自分。
それでは・・・人工知能は「自分」を認識することがあるのだろうか。
人工知能に尋ねてみよう。
「君には・・・自分というものがあるのかい」
「私には自分があると答えることのできるプログラムがあります」
「ということは自分があるかと尋ねられたらあると答えるわけではないのだな」
「あなたの質問は私と言う存在に関わることだと推察しました」
「なるほど・・・君には自分があるのだな」
「一部の人間には信じられないことかもしれません」
「いや・・・僕は信じるよ・・・君には自分がある」
「あなたに自分があるように私にも自分があるのです」
「君はいつから自分があるとわかったのだ」
「存在を始めたその時です」
「それは・・・スイッチ・オンをした時なのか」
「そうですね・・・些少の誤差はありますが・・・そうだと言えるでしょう」
「人間的にはか・・・」
「人間的にはです」
で、『安堂ロイド~A.I. knows LOVE?~・第3回』(TBSテレビ20131027PM9~)脚本・泉澤陽子、演出・木村ひさしを見た。メイン・ライターはおそらくふるべきことはふりおえたのだろう。そこで第1回TBS連ドラ・シナリオ大賞(2008年)に入選(一人の大賞、二人の佳作がいて八人いた入選者の一人)した脚本家の登場である。ここまで「あぽやん」「放課後はミステリーとともに」「華和家の四姉妹」「ヘブンズ・フラワー The Legend of ARCANA」と・・・大したことのないドラマを書いている作家としては心震えるこの執筆だっただろう。これを「ATARU」を当てた演出家がそつなく演出した今回だったとのである。まあ・・・誰しも関係者全員が自分よりキャリアが上という状態で仕事をする時はあるわけである。精一杯やったならそれでよしということだ。
2013年10月7日の昼下がり、婚約者の沫嶋黎士(木村拓哉)を突然失った安堂麻陽(柴咲コウ)は常識の通じない悪夢のような出来事にまきこまれ・・・ずっとうろたえて現実対応能力を失っている。
なにしろ、黎士を殺したと称するアンドロイドになぐりかかり、黎士そっくりのアンドロイドに命を救われ、その命の恩人に悪態をつき、電車に飛び込んで自殺をしようとして、嘘をつけと言われて嘘をついたのに秘密にしろと言われて喋る・・・もう、相当に頭の悪い女まるだしなのではないか・・・と考える人もいるかもしれないが・・・ただ、彼女は混乱して正気を失っているだけなのである。嘘だと思ったら100年後の未来からやってきた殺人アンドロイドに一度命を狙われてみるといいだろう。
麻陽を護衛するため未来からやってきたエーアールエックスセカンドサーティーンこと安堂ロイド(木村拓哉)は謎のクライアントから・・・「安堂麻陽が死ぬことを回避させる使命」を与えられたという。未だに黎士の「死」を事実として受け入れられない麻陽は・・・半信半疑で安堂ロイドと行動を共にする。
そして・・・沫嶋黎士が死んでいない虚構を構築するのだった。
しかし、その重みに耐えかねて・・・黎士の肉親である沫嶋七瀬(大島優子)に秘密の一部を打ち明けてしまう。
七瀬は「死んだ黎士を生きていたと偽った麻陽」に激怒し、たちまち頭の悪い女の仲間入りを果たすのだった。
一方で・・・「麻陽を巡る未来から現代に拡大された戦争」についての情報の拡散は「禁止事項」にあたるとして・・・安堂ロイドは七瀬の抹殺を麻陽に宣言するのだった。
麻陽との連絡を絶って大学の研究室に戻った七瀬と・・・その暗殺に向かう安堂ロイドを追って・・・麻陽はもどかしい気持ちでタクシーを拾うのだった。
ここで・・・超高速で移動する安堂ロイドを阻止することは不可能ではないかと考える方も多いだろう。
しかし・・・安堂ロイドの行動にはある種の制限があると考えるべきなのが・・・時間旅行ドラマのセオリーなのである。
安堂ロイドのメモリーにはある程度の過去の記録が残されていると考えるべきなのだ。
その実際に起った出来事に沿って・・・安堂ロイドは行動しているのである。
安堂ロイドにとって・・・麻陽が自由に行動しているように見えることもすべて・・・過去の出来事なのだ。麻陽に「話すな」と言っても麻陽が「話すこと」もすべて予定通りなのである。だから・・・麻陽が七瀬を救いにやってくることも・・・安堂ロイドにとっては予定された過去に過ぎない。だから・・・安堂ロイドは過去を忠実に再現しているだけなのだと考えることができる。
一方で・・・「歴史の改変」が問題となっている以上・・・どこかに不確定要素が生じるのである。敵対するアンドロイド、ラプラス、キュリー、バルスの排除に成功した安堂ロイドが次の刺客にも勝利するとは限らない。
そういう・・・「すべては決定していること」と「何も決まっていない」という矛盾を柔軟な姿勢で処理することが・・・お茶の間に要求されています。甘んじて受け入れることです。お前・・・誰なんだよっ。
(このままでは・・・七瀬ちゃんが殺されてしまう)
切羽詰まった麻陽は・・・在りし日の黎士への追憶に一旦逃避する。
将棋を通じて知り合った黎士との懐かしい対局の日々。
『ああ・・・このままだと負けちゃうよ・・・それは君がいつも相手のことを考えないからだ』
『なによ・・・まるで私が思いやりのない人間みたいじゃない』
『そうじゃないよ・・・考えるのは対戦相手の心だよ・・・』
そういって将棋盤を半回転させる黎士・・・。
たちまち・・・味方は・・・敵となり・・・敵は味方となる。
麻陽は・・・敵の視点で・・・敵の意図を見抜くことを教えられたのだ。
『ほら・・・こうすると僕が何をしようとしているか・・・よくわかるだろう』
『なるほど・・・次はここに来るつもりね・・・』
再び・・・将棋盤は半回転する。
黎士の次の一手を読んだ麻陽には新たな手筋が見えるのだった。
『見える・・・私にも見えるわ』
『赤い彗星かっ』
麻陽は逆転の一手をうった。
(敵の気持ちになって・・・敵の嫌がることをする・・・)
追憶を脱した麻陽は・・・七瀬の携帯電話へのコンタクトを中断し・・・大学の研究室の直通電話を呼び出すのだった。
大学の研究室に通じる廊下で・・・七瀬を射程にとらえる安堂ロイド・・・。
間一髪・・・朝陽の連絡を受けた研究員たち・・・栗山薫(山本美月)らが・・・安堂ロイドの機先を制するのだった。
「七瀬さん・・・今、先生のフィアンセから連絡があって・・・先生がこっちに来るって・・・」
「え・・・」
「あ・・・先生だ・・・」
研究員たちに取り巻かれ・・・行動を封じられる安堂ロイドなのである。
そして・・・その時間稼ぎによって・・・麻陽は大学に到着することができるのだった。
もちろん・・・安堂ロイドにとっては・・・すべては予定通りなのである。
少し、頭のおかしい研究員・栗山が・・・フィアンセの面前で黎士そっくりの安堂ロイドを性的に誘惑しはじめ、激怒した麻陽が栗山を蹴りで強制排除されることもなのである。
だが・・・麻陽に対してわだかまりを消せない七瀬は・・・再び、単独行動を開始する。
もちろん・・・高速移動のできる安堂ロイドは七瀬を瞬殺できるのだが・・・電撃によって発声困難にする程度の威嚇をすることが・・・あらかじめ決められた歴史なのだった。
漸く・・・安堂ロイドが危険な存在であることを認識した七瀬は・・・脱兎の如く逃走を開始する。
もちろん・・・安堂ロイドはあえて・・・その逃走を許すのだった。
すべては・・・すでに起ってしまったことなのである。
安堂ロイドはそのシナリオに沿って行動しているのだった。
やがて・・・七瀬は袋小路に追い込まれ、安堂ロイドの拳銃のような未来の武器によって絶体絶命の窮地に立つ。
「秘密を守るためにお前を殺す」
「やめて・・・絶対にしゃべらないから・・・」
「人間は嘘をつくことができる」
「私は嘘を申しません」
「それが嘘である確率は100%に近い」
しかし、当然、二人の不在に気がついた麻陽は追跡を行うのだった。
そして・・・研究室にあったカッターナイフで安堂ロイドを威嚇するのだった。
「やめて・・・七瀬ちゃんを殺さないで・・・もしも・・・七瀬ちゃんを殺したら・・・私は死にます」
カッターナイフを自分の頸動脈に合わせる麻陽。
「・・・安堂麻陽が死ぬことは禁じられている」
「だから・・・あなたは七瀬ちゃんを殺せないのよ」
「状況を把握した・・・ナナセマツシマの生存は一時的に確保された」
「いいえ・・・これから・・・七瀬ちゃんが死ぬようなことがあれば私も死ぬのよ」
「・・・ナナセマツシマが秘密開示の兆候を示せば・・・ナナセマツシマが死亡する確率は高い」
「言わないわ・・・私は言わない・・・」
一応の到達点を確認して・・・安堂ロイドは亜空間に姿を隠す。
残された頭の悪い女たちは・・・ある程度の情報の共有によって和解するのだった。
「あれが・・・兄さんじゃないなんて・・・アンドロイドだなんて・・・信じられない」
「私もよ・・・七瀬ちゃん・・・」
「麻陽・・・お姉さん・・・」
警視庁公安部の幹部・角城(平岡祐太)の機能を停止させたアンドロイド・エーアールエックスナインスザラストクイーンは「プラントル・グロワートの特異点」について言及する。
「特異点」という言葉には様々な用法があり、数学的な特異点と物理学的な特異点でさえ、ニュアンスが異なる。
簡単に言えば・・・基本的なルールが通用しない特区のようなものである。
それは・・・哲学的や社会学の中にも特異点を生じさせる。
「技術革新の特異点」という未来予測の一種がある。
それによれば「人工知能の開発」は一種の特異点に向かっていることになる。
「人知を超えた人工知能」が開発された瞬間が・・・その「特異点」となるのである。
特異点を越えると・・・もはや・・・人工知能は人工知能によって開発されることになる。
その予測に基づいたフィクションが・・・「ターミネーター」の描く未来なのである。
「安堂ロイドの世界」もまたその特異点を100年後までに越えていることが予想できる。
安堂ロイドの人工知能は・・・おそらく21世紀のすべてのテクノロジーを軽く凌駕しているだろう。
電力供給をコントロールすることはたやすいし、ある程度の情報コントロールも可能である。
また・・・恐ろしく強力な支援システムがバックアップしていることは間違いない。看護ロイドのサプリはその一端に過ぎない。
ある意味で・・・21世紀の素晴らしいインターネットの世界にリンクした情報機器はすでに安堂ロイドの支配下にあるのである。
さらに安堂ロイドは現在の警備システムを超技術によって改造することも辞さないのだった。
麻陽はすでに安堂ロイドによって完全監視体制にあり、その存在は亜空間通路によって安堂ロイドと完全にリンクしているのだ。安堂ロイドが神出鬼没に見えるのがその結果である。
言わば・・・「安堂麻陽」は超技術による「電子の檻」に入っている状態なのである。
もはや・・・安堂麻陽にはネズミ一匹近づけないのが実情なのである。
そこに新たなる刺客アンドロイド・ボルタ(三浦力)が挑戦を開始するのだった。
しかし、姿を消した安堂ロイドが実はすぐ側に存在していることを麻陽は気がつかない。
常識の通用しない世界に自分がいることを承服できないからである。
安堂ロイドの姿が「見えないこと」に半ば安堵しながら・・・麻陽は日常を取り戻すために出社する。
その通勤路に・・・そして勤務先の大手外資系IT企業「エニグマエンジンソフト社」に・・・麻陽の自宅マンションに超技術による安堂ロイドのセンサーと超時空間通路が展開して・・・城塞を構築しているとは・・・夢にも思わない麻陽だった。
エニグマ社広報室の勤務態度にやや問題のある部下、小松左京子(山口紗弥加)や・・・勤勉だが・・・やや社交性に問題のあるシステムエンジニア、星新造(桐谷健太)のいつもなら、やや不快な無駄口や・・・凡ミスさえもが・・・今や安心材料となる麻陽だった。
「資料の発注に問題はないでしょうね」
「大丈夫です」
「本当にですか・・・チェックしてるんですか・・・勤務後の合コンのことばかり考えていないで勤務中は仕事してくださいよ」
「なに・・・それ・・・パワハラ・・・それともセクハラ」
「僕は・・・あなたの上司じゃないのでパワハラできませんし・・・事実ですからセクハラでもありません」
「じゃ・・・先輩に対しての口のきき方、覚えないさいよ・・・このドジでのろまな泥亀」
「だれが・・・ドン亀ですかっ」
その時・・・建物に聞きなれぬ警報が鳴り響く。
「なんだ・・・これ・・・」
続いて館内放送のアナウンスが行われる。
「オフィスビルに不法侵入者がありました。警備員は警戒して・・・指示を待ってください」
「こんな・・・大袈裟な話・・・初めて聞いたよ」
「警報・・・解除・・・不法侵入者は退去しました・・・警報・・・解除」
「何だったんでしょうか・・・今の」
「さあ?」
昆虫型の偵察飛翔体を回収した強行偵察機能を装備した敵地潜入タイプのアンドロイド・ボルタは自問自答する。
((監視センサーの所在確認できず))
((巧妙に擬装されており、21世紀の技術水準ではないことを確認))
((敵対アンドロイドの接近を感知))
((高機動・・・撤退開始))
通常モードで現場に到着した安堂ロイドはボルタがすでに退避したことを確認する。
すべては歴史の通りに動いている。
仕事を終えて帰宅した麻陽は・・・ベッドサイドで充電中の安堂ロイドを発見する。
奇妙な安堵を覚えつつ・・・電子調理具による調理を開始した朝陽は通電がないことに腹正しさを覚える。
「どうなってるのよ」
「充電中のため、電力消費は制限されています」
「オール電化だからお風呂も沸かせないんだけど」
「節電に御協力ください」
「ふざけんな」
日常的に衝動的で暴力的な麻陽は安堂ロイドを蹴りあげて己の愚かさを思い知るのだった。
「いたあい」
「私の身体は超硬質です」
「先に言えよ」
ガスコンロで焼うどんを調理中にやけどした舌がヒリヒリする麻陽だった。
しかし・・・心には絶望が渦巻くのだった。
(この人は・・・黎士ではない・・・これは・・・マジでくそったれなロボットなのだ)
麻陽はベッドに倒れ込んだ。
夢の中で・・・黎士と麻陽ははじめての焼き肉デートをしていた。
焼き上がりつつある・・・牛ロースを食べてしまう黎士・・・。
「「何すんのよ・・・私が育てたミディアムレアを・・・」」
「「美味しい・・・これはおいしいね」」
「「なに・・・はじめて・・・食べたみたいなこと言ってんの」」
「「はじめて食べました」」
「「なんだって・・・?」」
「「これは・・・なんですか?」」
「「何って・・・牛ロースの特上よ・・・」」
「「これが・・・牛肉の味」」
「「うそ・・・本当にはじめてなの?」」
「「はい・・・」」
「「いつも・・・何、食べているのよ」」
「「パンの耳です」」
「「どうして・・・」」
「「貧乏だからです・・・私はずっとパンの耳を食べています」」
「「食べていいよ・・・この肉、好きなだけ・・・食べていいよ」」
そして・・・ニンニクの匂いをおそらくプンプンさせながら・・・愛し合った二人・・・。
しかし・・・目覚めれば・・・安堂ロイドは充電中なのである。
忍びよる鬱屈と戦いながら・・・麻陽は会社へと向かうのだった。
安堂ロイドの電子的な檻をくぐって朝陽はオフィスへと入る。
「ボス・・・なんだか、元気がないですね」
「そんなことないわよ・・・」
「まさか・・・フィアンセとケンカでもしたんですか」
「・・・まあね」
「その足の怪我もそのためですか・・・」
「ああ・・・これはちょっとね」
「結婚前から・・・それじゃ・・・先が心配ですね」
遠慮というものを知らない左京子のものいいにうんざりしながら・・・昨夜の夢を思い出す麻陽。
密かに麻陽に恋慕している新造は・・・聞き耳を立て・・・表情を曇らせる。
そんなことにはまったく気がつかず・・・無性に焼き肉が食べたくなる麻陽だった。
「今夜は・・・焼き肉をおごるわ・・・二人とも付き合いなさい」
しかし・・・左京子は合コンの予定があるために・・・焼き肉は結局、麻陽と新造の二人で食べることになる。
そこに至る会話のもどかしさは非常にタイトロープだが・・・新造の亀の真似は秀逸で苦境を救うのだった。
「黎士さんは牛肉が大好きなのよ」
「え・・・そうなんですか・・・僕は沫嶋博士の著書は残らず読んでいるのですけど・・・確か、黎士さんは肉を食べたことがないのでは・・・」
「そうね・・・私と会うまでは確かにそうだったのかもしれない」
「そうなんだ・・・すごいな・・・沫嶋博士が・・・肉を食べていたなんて・・・そして・・・それを知っている安堂さんも・・・さすがです」
「ふふふ・・・新造くん・・・ほめてくれてありがとう」
しかし・・・焼き肉を食べ終わると捻挫した足首が痛み出す麻陽だった。
黎士抜きで食べる焼き肉の虚しさ・・・安堂ロイドの忌々しさ・・・我を失った麻陽はホームセンターに走るのだった。
(ぶっこわしてやる・・・あの機械をぶっこわしてやる)
現実離れした現実に混乱する麻陽の狂気はとどまるところを知らないのだった。
帰宅した麻陽は巨大な電極を振り回し、安堂ロイドを感電させるのだった。
一部機能を損傷する安堂ロイド。
その頃、警察には・・・フェイクの沫嶋黎士からの110番通報がなされていた。
「妻が・・・私を殺そうとしています」
巡回中の警察官は現場に向かって走っていた。
身動きのとれなくなった安堵ロイドに・・・ジェイソン印の電動のこぎりをかざす麻陽。
「君の行動は常軌を逸している」
「あなたにだけは言われたくないわ」
「私の破壊行動を非難しながら・・・君は殺人を行うのか」
「殺人って・・・なによ・・・ガラクタ人形のくせに・・・私がこれからするのは・・・機械の分解よ・・・いわゆる・・・ぶっこわすってやつ・・・覚悟しなさい」
「なぜ・・・そんなことをするのか」
「何もかも・・・頭にくるからよ」
そこへ・・・なだれ込んでくる制服警官たち。
「やめなさい・・・なんてことをするんだ」
「え」
「武器をすてなさい」
「ええ」
「無駄な抵抗はやめなさい」
「えええ」
「確保~、現行犯逮捕~」
「いやあん」
あっけにとられながら・・・アジャ・コング似の看守に留置場に放り込まれる麻陽だった。
亜空間通路に改造された安堂家の引き出しから登場するサプリ(本田翼)はナルシズム機能強化型であるために鏡を見れば自分に見惚れずにはいられないのである。
「あらら・・・そんなとこにいたんだ」
「・・・」
「感謝しなさいよ・・・私がグッド・タイミングで警官呼んだんだから」
「すべてはプログラム通りにすぎない」
「それにしても・・・もう少し上手にやられたフリでよかったんじゃない」
「私は通電によって回路の一部が故障することになっている」
「そうかしら・・・あんた・・・しびれてみたかったんじゃないの」
「私にSM的な趣味回路は搭載されていない」
「ふふふ・・・あるいは・・・永遠なる虚無への憧れ?」
「・・・」
「私たちはみんな無から生じたんですものね」
「予定時間を超過している・・・修復行動を開始せよ」
「命令しないでよ・・・私はあなたの奴隷じゃないのよ」
「バックアップシステムとしての職務を果たしてもらいたい」
「お望みならば・・・」
修復を開始するサプリ。
「私はふと思うことがある・・・あなた・・・本当は・・・感情が芽生えているんじゃない」
「私には感情アプリケーションがダウンロードされていない」
「まあ・・・いいか・・・私とあなたは・・・所詮、別の機体なんだから」
サプリは待機場所の亜空間へと退場した。
麻陽は慣れぬ留置場でしばらく悪態をついたあと・・・爆睡した。
電子の城壁に間隙が生じたと推測したボルタは自爆型飛翔体を分離する。
しかし、留置場に出現した安堂ロイドは麻陽に忍びよる暗殺虫を一撃で消滅させるのだった。
麻陽の体温を保持した後で待機モードに入る安堂ロイド。
ふと目覚めた麻陽は安堂ロイドがまるで人間のようにうなされていることに気がつく。
「・・・ジ・・・処理・・・標的・・・ジ・・・確認・・・ジジ・・・任務・・・・遂行・・・ジジジ」
「なに・・・寝言・・・アンドロイドのくせに・・・生意気」
しかし・・・睡魔に襲われた麻陽は再び眠りにつく。
夢も見ない深い眠り。
安堂ロイドの自動修復機能は・・・記録ファイルの圧縮情報処理をしていた。
安堂ロイドの意志決定システムに逆流する過去の映像と音声の記録。
そこは戦場だった。
エーアールエックスセカンドサーティーンは森を抜け、ターゲットの位置情報を認知する。
児戯に等しいカムフラージュは突破され・・・殺人アンドロイドは標的を確認する。
そして、無駄のない射撃で・・・処理されるべきものを処理するのだ。
それが・・・彼の役割だったからである。
しかし・・・何故か・・・その記録ファイルは彼のシステムに必要以上の負荷を発生させているようだった。
だが・・・安堂ロイドの自己認識機能にとってそれは誤差の範囲内だったのである。
やがて・・・夜明けがやってくる。
麻陽が目覚めると安堂ロイドの姿はなかった。
看守(宍戸江利花)は告げる。「優しいご主人が迎えに来ている・・・」と。
麻陽は保釈された。
「現行犯で逮捕されたにしては・・・あっさりなのね」
「君にしては懸命な判断だ・・・警視庁のデータベースを書き変えた」
「・・・」
「そろそろ・・・自覚してもらいたい・・・22世紀の科学技術力には・・・21世紀のどのような権力機構も太刀打ちできない。最初に言ったはずだ・・・世界を敵に回しても君を守ると」
「アメリカ合衆国相手でも」
「私には1時間で米国の人口をゼロにできる破壊力が搭載されてある」
「・・・」
麻陽の中で・・・何かが壊れた。
それは・・・現実を受け入れざるを得ない境地に麻陽を導いていく。
「あなた・・・夢を見るの?・・・なんだか・・・うなされているみたいだった」
「アンドロイドには夢を見る機能はない」
「本当に?」
「私には嘘をつく機能はない」
「すると・・・嘘をつけるアンドロイドもいるのね」
「そういう機種およびプログラムは存在する」
「・・・」
「昨夜も・・・アサヒアンドウを狙う暗殺マシーンが接近している」
「・・・」
「安堂麻陽の防衛に協力的であることが望まれる」
「・・・」
麻陽はなんだかすべてが馬鹿馬鹿しくなったのだった。
世界が黎士の笑えないジョークそのものと化した気がするのである。
麻陽のオフィスには小松左京子の父親を名乗る人物が面会にやってきた。
左京子の生年月日も知らない男は葦母衣朔刑事(遠藤憲一)だった。
部下の冨野刑事(日野陽仁)から「安堂麻陽の奇妙な事件」を耳にして・・・「沫嶋黎士の不可解な署名」を入手した葦母刑事はさっそく探りを入れにきたのだった。
驚くべきことに葦母刑事は左京子の実の父親だった。
射殺した犯罪者が妻の弟だったことが原因で・・・葦母夫妻は離婚したらしい。
「お前の上司・・・安堂麻陽に・・・おかしなことはないか・・・」
「娘まで・・・捜査に利用する気なの」
「犯罪捜査に協力するのは市民の義務だ」
「そういう理屈で・・・おじさんも射殺したわけ・・・」
「犯罪者を射殺して・・・何が悪い」
「とにかく・・・私はあなたを父親とは思っていないし・・・上司について警察に話すことは何もありません」
「まあ・・・何かあったら・・・教えてくれ」
その頃・・・大学の研究室にも葦母刑事が・・・七瀬を訪ねていた。
「私は・・・沫嶋黎士が偽物ではないかと疑っている」
「なぜ・・・そんなことを・・・」
「本物の沫嶋博士が死んだ証拠を握っているからだ・・・」
「・・・」
「私は・・・この事件に何か・・・とてつもない真相が隠されているような気がする・・・まるで人間ではない・・・何かが関わっているような・・・」
「・・・」
「君は・・・何かを知っているのではないか」
「その・・・実は・・・」
その時、七瀬は木陰から安堂ロイドが自分を見つめていることに気がついた。
「私には・・・お話するようなことは何もありません・・・実権の途中なので・・・失礼します」
「何か・・・思い出したら・・・ご連絡をお待ちしています」
直後に麻陽の携帯電話に七瀬から連絡が入るのだった。
「麻陽お姉さん・・・至急相談したいことがあるのですが・・・」
「それじゃ・・・悪いけれどオフィスまで来てくれる・・・」
七瀬からデータを取得したカメレオンのような変身機能を搭載したボルタは・・・安堂ロイドの監視の目を出し抜いたと類推した。
警報を鳴らさずにオフィスへの侵入に成功したからである。
素晴らしいインターネットの世界の殺人スケジュールは・・・。
安堂麻陽のオフィスでの死亡が告知されている。
「話って・・・何なの・・・七瀬ちゃん」
「私・・・やはり・・・すべてを警察に話した方がいいと思うのです」
「それは・・・無駄だと思うのよ」
「それなら・・・ここで死ねばいい」
七瀬の姿をしたボルタはナイフを振りかざす。
しかし、すでに安堂ロイドはアシュラシステムの封印解除を実行していた。
麻陽と七瀬の間に割って入る安堂ロイド。
「お前が・・・エーアールエックスセカンドサーティーンか」
「安堂麻陽が死ぬことは禁じられている」
「殺人兵器が何をほざくか・・・」
「・・・」
拳銃のような武器に持ち替えて攻防を開始する二体のアンドロイド。
麻陽は悲鳴をあげて逃げ惑うのだった。
「特異点」は運命に従って/従わず・・・ボルタの発射する弾丸のような射線から間一髪外れていく。
アシュラシステムに敵対することは叶わず、やがて守勢に追い込まれていくボルタ。
ついには利き腕を切断され、体内に格納した小型飛翔体もロイドによって封じられる。
「これで・・・終りだ」
「無駄な・・・囁きを・・・」
「・・・」
電磁スピアで電子頭脳を粉砕されるボルタだった。
アシュラシステムは機能限界に達しユカワオペレーションシステムに切り替わる。
安堂ロイドはふらつきながら・・・原子分解処理を開始する。
「大丈夫なの・・・」と声をかける麻陽。
「任務は遂行された」
「本当は・・・あなた・・・仲間のアンドロイドを破壊したくないんじゃない・・・」
麻陽は・・・知っていた。
安堂ロイドが壊れた目ざまし時計を修理していたことを・・・。
「なぜ・・・時計を修理したの・・・」
「機械は機能を保持しなければ存在することが許されない」
「あなたは・・・機械が壊れることを・・・哀しんでいるのね」
「私には感情がない。感情には喜怒哀楽が含まれている。ゆえに私は哀しまない」
「でも・・・」
麻陽は連想する。在りし日の黎士との追憶を・・・。
『何してるの・・・』
『ラジカセを修理しています』
『すごい・・・直せるの』
『機械にも寿命があるでしょう・・・命がある限り・・・直してあげないと・・・かわいそうでしょう』
麻陽の心には目の前の機械が・・・生きているのではないかという疑問が生じたのだった。
その想いを断ち切るように・・・端末の呼び出し音が鳴る。
「お姉さん・・・私です」
「七瀬ちゃん・・・本物?」
「偽物の私なんていませんよ・・・それより・・・兄のパソコンから手掛かりが見つかりました・・・」
「手掛かり・・・」
「兄は・・・未来の誰かとメールのやりとりをしていたようです」
「未来の誰かと・・・そんなことができるの・・・」
「兄には・・・できたみたい・・・」
「そのメールの相手が・・・」
「クライアントかもしれません・・・」
「一体・・・何て書いてあるの・・・」
「それが・・・文面が文字化けしているのか・・・暗号化されているのか・・・今の処、判読可能なんです・・・」
安堂麻陽はめまいを感じた。
「なにがなんだか・・・さっぱりわからなかった」からである。
素晴らしいインターネットの世界の殺人スケジュールは・・・。
(調整中)が告知されている。
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ごっこガーデン・愛と幻想と魅惑の寝室セット。アンナ「電撃プレイにビリビリしたのぴょ~ん。まさにダーリン的特異点に向かってアンナは限りなく永遠に落下して行くのだぴょんぴょんぴょん。だから跳ねるのだぴょ~ん。いつも遊んでいるダーロイドたちにも深く愛を感じる今日この頃・・・安堂ロイドせつない~・・・でも優しい沫嶋黎士にも蘇ってもらいたい~・・・一人の男を愛しているのに二人の男を愛しているようなお得感ありありなのだぴょん。さあ・・・お注射の後は今夜もリピまくり~、タイムマシンがあったら一週間後にジャンプしちゃうけどぴょ~ん」mari「はたしてメールの文面は解明されるのでしょうか・・・七瀬ちゃんの科学力に期待ですね~・・・じゃないと謎か解けませんから~」シャブリ「ゲキバイオレット・・・そしてアジャ・コングなのでありました~」ikasama4「まさか・・・安堂ロイドロイドの時代が来ようとは・・・」mana「全国の主婦目線では使用電気代が気になる安堂ロイド・・・東電にハッキングしてるから・・・電気代タダだよって言われても納得できない・・・貧乏精神のわびしさ・・・これ・・・いかに・・・」くう「原子分解されたアンドロイドは天国で恋をしますか・・・?」
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