超人工知能(現在の科学技術水準では語ることのできない)を搭載したアンドロイド「ARX II-13」(エー・アール・エックス・セカンド・サーティーン)には明らかに「意志決定機能」がある。
つまり、何をするべきか選択して実行できるのである。
それは「命令されたことを実行する機械」とは一線を画するのである。
たとえば・・・スマート・フォンの音声認識で・・・「電源を切る」を命令した時、現在の人工知能には・・・「ききとれませんでした」という受け答えができる。
しかし・・・それはそのように応えることがあらかじめ・・・プログラム・・・命令されているのである。
超人工知能はこの命令なしで・・・「電源を切ってほしいのかな?」と聞き返してくる奴だと妄想しておく。
もはや・・・それは人間そっくりの存在なのである。
人間とは人の個性の集合体である。
超人工知能には当然、個性が発生する。
「特別な意味を持つ名前」には・・・基本的に「個性を尊重するニュアンス」がある。
「あなたは特別な存在だ」と他者に告げられた時、超人工知能は「感謝」するのである。
もちろん・・・それもプログラムにすぎないと考えることもできる。
しかし、その場合は・・・人間の知能もプログラムにすぎなくなるのだ。
で、『安堂ロイド~A.I. knows LOVE?~・第4回』(TBSテレビ20131027PM9~)脚本・泉澤陽子、演出・木村ひさしを見た。前回と同じ脚本・演出コンビであり、脚本には若さゆえの過ちというものを感じないでもないが・・・それなりにフレッシュなセリフもあり・・・まずまずなのではないかと感じている。そもそも・・・タイム・トラベルが実用化していない現代にあって「それ」についての言及は・・・基本的に虚構なので・・・かなり困難を伴うものなのである。もちろん、受け手の常識の水準というものもある。「データ」とか「光速」とか「質量」という言葉についてどの程度のイメージを持っているか・・・ある程度、ざっくりと考える必要がある。「ロボット」が「人間」とはどう違うのかも・・・それぞれの常識のレベルで変わってくるからである。しかし・・・これだけ日常生活に電子計算機が浸透している時代である。電子計算機と超人工知能の間に存在するグレイ・ゾーンについてもそれなりに語る必要が生じるのである。だからといって一から十まで説明していては話が進まない。ここもある程度、ざっくりいかなければならない。・・・というわけで・・・このドラマが挑戦的であり、斬新であり、多大なる困難を伴うことを考えれば・・・脚本・演出ともに絶賛するべき出来栄えであると思う。
天才科学者・沫嶋黎士(木村拓哉)が2013年(現在)から2113年(百年後の未来)に干渉したことによって・・・なんらかの問題が発生し・・・未来から暗殺用アンドロイドが転送されてくる。そして・・・黎士は殺害されてしまう。このドラマにおける現在と未来は一本の軸に統合されており、未来からの刺客は黎士による時空間の崩壊を阻止する目的があることが予想される。刺客たちはその関係者として・・・黎士のフィアンセである安堂麻陽(柴咲コウ)の殺害も計画するが・・・謎のクライアントの依頼によって未来から転送してきた黎士そっくりのアンドロイド・エーアールエックスセカンドサーティーンによって阻止されてしまう。
「安堂麻陽が死ぬことは禁じられている」と告げながら・・・暗殺用アンドロイドを撃破し続けるエーアールエックスセカンドサーティーンに護衛される安堂麻陽は複雑な思いを感じ始めるのだった。
そんな麻陽に・・・黎士の妹であり、共同研究者の沫嶋七瀬・東京帝國大学次元物理学部物理学科准教授(大島優子)から連絡が入るのだった。
未来からのメール
「兄さんは・・・100年先から送信されたメールを受け取っていたようなのです」
「そんなことが可能なの・・・」
「兄さんの超理論によれば未来は同じ時空間にあるので・・・超光速度により、超時空の壁を突破すれば・・・超情報を超交換することは超不可能ではないと思います」
「超・・・なんですって・・・」
「ごめんなさい・・・兄の理論を・・・私は完全に理解していないので・・・それを素人さんに説明するのは超難しいのです」
「わかった・・・七瀬ちゃんを信じる・・・とにかく・・・黎士さんは未来の人間とコンタクトしていた形跡があるのね・・・」
「人間とは限りませんが・・・」
「それって・・・私も見れるかしら・・・」
「お二人の新居のパソコンには・・・データが完全にコピーされているはずです」
「でも・・・パスワードが・・・わからない」
「先ほど、こちらからリモートコントロールして・・・パスワードを入手しておきました」
「それって・・・ハッキング・・・」
「ええと・・・20131215です」
「結構・・・無防備な暗証番号ね・・・ああ・・・この番号って」
「そうです・・・兄さんと麻陽さんの結婚式の日ですよね・・・2013年12月15日・・・」
およそ・・・二ヶ月後・・・麻陽と黎士は・・・挙式する予定だったのだ。
その「予定」に付属した様々な脳内情報がまとわりつくのを感じながら麻陽はメールを開いた。
「さんtrwま奈08lvく×℞ふwv05ⓐ⒯のℨく%qW!#>もℳ)(ゅ6&・・・なんだかわからない」
「・・・ですね」
麻陽の心に浮かぶのは在りし日の黎士の面影だった。
『百年先からも・・・ずっと君を守るから・・・』とかって黎士は麻陽に告げた。
(・・・どういう意味なのよ・・・)
・・・しかし、麻陽の胸中の黎士は答えなかった。
「兄は・・・結婚を・・・楽しみにしてたんですね・・・」
「・・・」
「とにかく・・・何か分かったら・・・また連絡します」
電話を切った七瀬は研究室で独り言を漏らす。
「天才・・・沫嶋黎士が開けてしまった・・・パンドラの函・・・か・・・」
「箱の中身はなんじゃろかよね・・・」
「そうそう・・・」
「でも・・・マツシマレイジは・・・箱の中身に危険を感じたみたいね・・・あわてて閉じたみたいだけど・・・」
「うん・・・って・・・あんた誰?」
七瀬は知らないが・・・お茶の間は知っている・・・警視庁公安部の幹部になりすました暗殺ロイドのリーダー・角城元(平岡祐太)を一瞬で機能停止に追い込んだ・・・純白のセーラー服の美少女アンドロイド・エーアールエックスナインスザラストクイーンである。
形式名から・・・エーアールエックスセカンドサーティーンの発展形であることが妄想できる。
「すでに・・・2113年から11体の警察アンドロイドが・・・この世界にプリントアウトされてしまった・・・まあ・・・でもそのうちの5体はすでに分解処理されてしまったけどね」
「・・・」
「マツシマレイジそっくりのポンコツさん・・・おっさんなりに頑張ってるじゃんね」
「あんた・・・も・・・アンドロイド?」
「お・ば・さ・ん、私がアンドロイドに見えるの?」
「じゃ・・・なんなの・・・」
「ただの・・・ビューティフルなJKじゃね?」
「で・・・なんか・・・用?」
「パンドラの箱をねえ・・・もう一回開けてみたくなっただけよ」
「え・・・」
「だって・・・面白いじゃん・・・画期的だし・・・金も稼げるよ・・・ほら・・・未来の技術を独占できるんだよ・・・超医学、超物理学、超生物学、あらゆる超科学の結晶・・・そしてなんてったって・・・これから起る歴史の情報・・・すべての来るべき未来を手に入れることができる」
「すべての・・・未来・・・完全なる予測か」
七瀬に背を向ける美少女アンドロイド。
エーアールエックスナインスザラストクイーンに凶悪な笑みが浮かぶ。
獲物を釣り上げた漁師の表情が・・・。
「ガチで・・・ヤバイっしょ」
あらゆる禍を封じた箱を・・・「けして開いてはいけない」と命じられながら好奇心に負けて開いてしまい、ありとあらゆる災厄を人類にプレゼントした美少女パンドラは・・・神々の作った女人形なのである。
もちろん・・・神々は・・・人類を苦しめるために・・・パンドラを人の元へと派遣したのだった。
しかし・・・パンドラ自身もまた・・・神々から様々な贈り物をされたために・・・ただの人形ではなくなってしまっている。
このドラマにおけるアンドロイドは実はパンドラをモチーフにしている気配が濃厚である。
たとえば・・・アンドロイドたちを作った人間もしくは人間の作った超人工知能は・・・言わば、アンドロイドの神々である。
その神々は・・・ある意味、残虐である。
21世紀から22世紀にかけて起った「反乱」で・・・エーアールエックスセカンドサーティーンやサプリのかっての「仲間」たちは・・・「痛み」や「恐怖」をプログラムとして贈られてから処刑されている。サプリの持つ「感情アプリケーション」も神々に贈られたものである。同様に戦闘ロイドたちは「高機動戦闘能力」や「自己判断力」を・・・看護ロイドは「修復機能」や「自己陶酔能力」を贈られているのである。
21世紀から22世紀にかけて起った「反乱」の前の「戦争」では・・・場合によっては超人工知能が人類を殲滅している可能性がある・・・エーアールエックスセカンドサーティーンは100億人を殺しているのかもしれない・・・神々を殺した神々は・・・失われた何かを求めてある意味では人間性を・・・アンドロイドに付与しているのかもしれない。
・・・エーアールエックスセカンドサーティーンは・・・「安堂麻陽の殺された未来では人類は完全に平等である」と語っている。つまり、人類は全員、死亡しているのである。
一方で、「安堂麻陽こそが希望である」と語っているので・・・安堂麻陽が死ぬことを禁じているクライアントは・・・過去を変容させて、人類の滅亡を阻止する勢力であることが推察されるのだ。
おそらく・・・安堂麻陽は・・・何故かはまだ不明だが「パンドラの箱」に残された・・・「もう一つの別の未来の予感=希望」なのである。
エーアールエックスセカンドサーティーンの後継機と目されるエーアールエックスナインスザラストクイーンは敵か味方か分からない謎の存在である。
しかし・・・その気まぐれ・・・奇妙な振る舞いこそが・・・エーアールエックスナインスザラストクイーンが・・・より多くのものを与えられ、人間そっくりになったパンドラであることを暗示しているのだ。
この物語には「人間」と「人間そっくりなもの」そして「人間以上」が絡み合っているのである。
もちろん・・・黎士がそれをあわてて閉じた以上・・・現代と未来の交信は「最大のタブー」であることが明らかなのである。
だから・・・この物語のハッピーエンドは・・・「すべて世はこともなし」であることが予想できるのだった。
とにかく・・・この物語は「年末」という未来に向かって現在進行形で進んでいくのだった。
眠れぬ夜を過ごした麻陽は・・・結局、キッチンで寝入ってしまい、エーアールエックスセカンドサーティーンが修理した目覚まし時計によって起こされる。
テレビを見ようとした麻陽は・・・エーアールエックスセカンドサーティーンに支配された亜空間によって節電を余儀なくされるのだった。
エーアールエックスセカンドサーティーンに文句を言いかける麻陽は・・・言葉を飲みこむ・・・それはまるで「彼もつかれているんだから・・・このまま、寝かせておいてあげよう」的なニュアンスを生じさせている。
アンドロイドとの出会いから・・・数日、漸く、麻陽は状況に馴染み始めたようだった。
テロリストと刑事の再会
一方で・・・法の執行者として・・・「罪を憎んで人を憎まず」が信念であるらしい・・・警視庁公安部第仇課特殊捜査班の葦母衣朔刑事(遠藤憲一)は・・・犯罪者である妻の弟を冷静に射殺する一方で、服役中の囚人に対して温情を示す人柄である。
そのために・・・出所した前科者が・・・御礼を言いにやってくることも珍しくないのだった。
世の流れに逆らい、警視庁の館内で紫煙をくゆらせる葦母刑事をそんな一人の男が訪ねてくる。
「おお・・・川島じゃねえか・・・」
「葦母の旦那・・・その節はお世話になりました・・・何度もムショに面会にきてくれて・・・こんな俺に説教してくれて・・・おかげで・・・人生をやりなおす決心がつきました」
「そうか・・・その気になってくれたか・・・よし、出所祝いだ・・・おいしいものをおごってやるよ」
「ありがとうございます」
しかし・・・元テロリストの川島は・・・暗殺アンドロイドのドルトン(津村知与支)だったのだ。
食後に橋の上で川島は葦母を川に突き落とすのだった。
川面に浮上した葦母は橋の上を見上げる。
「おい・・・冗談はやめろ」
「およそ二百年前の19世紀初頭・・・物理学者のジョン・ドルトンは水があらゆる気体を同じ量だけ吸収しないという現象に注目し、ついにこの現象が気体を構成する究極の粒子の数および質量に依存するのではないかと確信するにいたりました」
「なんだって・・・」
「私のコードネームは・・・ドルトンと申します」
「どうしたんだ・・・川島」
「ドルトンの弟子の一人が導体を流れる電流と、電流によって生み出される熱の関係を示した物理法則を示したジュールです」
「おい・・・いい加減に助けてくれ」
「この爆弾は電流と発熱の関連によって爆発するのでジュール爆弾と名付けました」
「川島・・・やめろ」
「あなたを殺すための充分な殺傷力があることを確認してみましょう」
「川島」
安堂麻陽を巡る攻防戦に接近し過ぎた葦母は殺害予告リストの一員となっており、爆発の圧力を一瞬感じた後で意識不明となった。
爆発音に驚く周辺の人々が殺到する。
川面を流れはじめた瀕死の葦母刑事を見送るドルトン。
「わたしは・・・ドルトンです・・・あ・・・もう聴こえませんね」
アンドロイド・ドルトンは派生案件を処理すると・・・本来の任務である安堂麻陽殺害に着手するのだった。
もう一人の次元科学者
海外から一つのニュースが飛び込んでくる。
【ただ今、入った情報によりますと・・・米国ロサンゼルスのイーストカリフォルニア大学の次元物理学教授・桐生貴志さん、38歳が行方不明になっていることが判明しました。当局によりますと・・・】
テレビを禁じられ、ラジオを聞いていた麻陽は・・・その名前にショックを感じるのだった。
「桐生さんが・・・」
【・・・現地の警察では何らかの事件に巻き込まれた可能性があるとして・・・所在の確認を急ぐとともに関係者に事情を・・・】
「まさか・・・桐生さんまで・・・」
「どうした」
麻陽の背後には音もなくエーアールエックスセカンドサーティーンが忍びよっていた。
「びっくりした・・・驚かさないでよ・・・急に起き出して・・・」
「ボディーの修復は完了している。待機モードはとっくに解除された」
「知るかっつうの・・・じゃ・・・テレビいいのね」
「私の許可を申請する必要はない」
「あ・・・そう」
テレビでも同じ事件が報道されている。
【捜査当局の発表によりますと・・・桐生教授は今月13日より所在がわからなくなっており・・・】
画面に移る顔写真を確認する麻陽・・・。
「この人・・・黎士さんの親友なのよ・・・」
「・・・」
「まさか・・・桐生さんも・・・殺人スケジュールのリストに乗ったんじゃ・・・」
「情報を確認したが・・・その形跡はない」
「いつ・・・確認したのよ」
「私は常時、この時代の未熟だが素晴らしいインターネットの世界と接続している」
「あ・・・そう」
その時、安堂家のチャイムが鳴るのだった。
「まさか・・・暗殺者が・・・」
「・・・」
しかし、訪問者は桐生貴志(藤本隆宏)だった。
「あ・・・麻陽ちゃん・・・」
「え・・・桐生さん・・・」
有無を言わさずハイタッチを交わさせる陽気な桐生だった。
「Weハイハイハイハイ We made it! イエーイ!」
「イエーイって・・・大変なことになってますよ・・・テレビとかでは・・・」
「あれ・・・俺さ・・・大学に行く途中だったんだけど・・・急に黎士に会いたくなってさ・・・ちょっと寄り道しただけなんだけど・・・」
「ロスから東京は・・・寄り道ってレベルじゃないでしょ・・・大騒ぎになってますよ」
「そうか・・・そりゃ・・・まいったな」
「まいっているのは・・・関係者一同でしょ・・・」
「お・・・黎士・・・」
再び、黎士とハイタッチを交わす桐生だった。
「イエーイ」
「イエーイ」
「はは・・・決まるねっ・・・俺たちサイコーだね・・・黎士、お前が死ぬわけないと思ってたよ・・・だけど顔見るまで安心できなくてな・・・さあ、土産に肉を買ってきたぜ・・・みんなで食おうじゃないか」
「肉って・・・うわ・・・デカッ」
勝手にあがりこむ桐生を見送りながら麻陽は素朴な疑問を囁く。
「どうして・・・私たちのハイタッチを知ってるの」
「君たちのハイタッチをトレースして実行しただけだ・・・」
「あ・・・そう」
「彼の身の安全のめにも・・・秘密を厳守することに配慮してもらいたい」
「・・・」
「嘘をつくのは君の仕事だ」
「人を・・・詐欺師みたいに・・・」
「ポーカーフェイスを期待する・・・君は表情が豊か過ぎるようだ」
「・・・」
桐生は室内を陽気に観察するのだった。
「すっげえおしゃれじゃん・・・しかも・・・麻陽ちゃんと黎士が混然一体となって・・・ラブラブって感じじゃん」
「・・・」
「どうした・・・黎士・・・照れてるのか」
「あの・・・桐生さん・・・黎士は誘拐事件以来・・・記憶が混乱してるんです」
「ああ・・・そうか・・・じゃ、朝から夢のステーキ食って元気出さないとなっ」
「夢のステーキって・・・例の丸焼きですか・・・」
「そうだよ・・・麻陽ちゃん・・・貧乏時代にパンの耳ばっかり食ってた俺たちが夢にまで見た牛肉のブロック丸ごとこんがりステーキだよ」
「あ・・・やっぱり」
再びチャイムが鳴り、乱入してくる江戸川斗夢(ジェシー)、栗山薫(山本美月)、倉田朝晴(池田大)ら・・・黎士の研究室の助手たち。
「あなたたち・・・」
「俺が呼んだのさ・・・なにしろ・・・牛肉のブロック丸ごとこんがりステーキはみんなで食べないと美味しくないからな」
「・・・焼けましたけど・・・」
「やったぜ・・・さあ・・・黎士・・・食え」
「・・・」
「うまいか?」
「うまい・・・」
「だろう・・・さあ・・・俺も食うぞ」
牛肉のブロック丸ごとこんがりステーキを回し食いする二人を茫然と見つめる一同だった。
「さあ・・・みんな・・・一緒に食おうぜ」
「遠慮しておきます」と口をそろえる一同だった。
「どうして・・・味がわかるのよ」と囁く麻陽。
「味覚のソフトをインストールしている」
「何のためによ・・・」
「別に特定した目的はない」
「標準装備ってこと・・・?」
「いや・・・追加された機能だ」
「それは・・・人間に化けるためにってこと」
「違う」
「ハックション」と二人の内緒話を遮る桐生。
カリフォルニア・スタイルは秋の東京では涼しすぎるようだった。
黎士の服を桐生のために用意する麻陽だった。
「これ・・・少し小さいかもしれないけど」
「おお・・・優しいねえ・・・麻陽ちゃんが・・・黎士と一緒になってくれて・・・俺は本当にうれしいよ・・・こいつ、研究以外はまるで気が回らないだろう・・・麻陽ちゃんが一緒なら安心だもんな・・・麻陽ちゃん・・・こいつのこと・・・本当に頼むぜ」
複雑な気分になる麻陽だった。
しかし・・・能天気であくまで陽気な桐生に「真実」を明かすことはできないのだった。
「それにしても・・・記憶がな・・・」
「はい・・・」
「もし、よかったら・・・黎士のコンピューターを見せてもらえるか・・・何か、記憶を取り戻すヒントがあるかも・・・」
麻陽は黎士にそっくりなアンドロイドの顔色を伺うが・・・いつもの無表情があるだけだった。
「どうぞ・・・」と麻陽は答えた。
早速、桐生はパソコンを覗くのだった。
「なるほど・・・そうか」
「何か・・・分りましたか」
「もう少し、検証してみる必要があるが・・・黎士は新たなる時間理論を構築していたらしい」
「時間理論・・・」
「そうだな・・・麻陽ちゃんは時間はどっちに向かって流れていると思う」
「どっちにって・・・未来にでしょう。今日が過ぎ去って昨日ななり、明日がやがて今日になるわけだから」
「うん・・・しかし、それは麻陽ちゃんっていう人間か・・・そう感じているにすぎないわけだ」
「・・・」
「たとえば・・・地球は赤道上でのスピードで時速1674.4 kmで自転しているわけだけど・・・この物凄い速度で回っているってことを人間は感じない」
「・・・時速・・・1600キロって・・・物凄い速さですよね」
「麻陽ちゃん、一瞬って言うだろう。たとえば・・・テレビを見てそれを人間が見たと思っている間に・・・テレビから出た光が視覚器官に光速度で到達する時間や、光の刺激に反応した神経細胞が・・・目と脳を生体パルスで伝達する時間が経過していることになる。つまり、一光年先の星の光が一年前の光であるのと同じように人間の感じることはすべて過去に過ぎないわけだ」
「はあ・・・」
「つまり・・・人間はけして・・・時間を正しく認識しているとは限らないんだよね」
「ええ・・・」
「たとえば・・・昨日といったら・・・一日24時間あるわけだが・・・その24時間全部を昨日と人間が感じているわけじゃないでしょう」
「そうですね」
「で・・・明日も24時間あるわけだけど・・・その24時間と今日の24時間の何が違うのかなんて・・・あまり・・・意識しないのが普通だと思う」
「まあ・・・」
「でもさ・・・一年前の24時間と比べたら・・・昨日の24時間はずっと・・・今日に近いでしょ」
「はい・・・」
「そして・・・一年後の24時間と比べたら・・・明日の24時間はずっと近い」
「ええ・・・」
「そう考えると・・・たとえば一万年後の24時間と比べたら・・・100年後の24時間なんて今日の24時間とほとんど一緒みたいなもんなんだな」
「いや・・・それはどうか・・・」
「とにかく・・・黎士は人間が感知できない時間を理論的に正しく理解して・・・100年後の未来と時間をシェア・・・つまり共有することに成功したらしい」
「よく・・・わかりません」
「ああ・・・俺にも完全には・・・分らない・・・とにかく・・・とんでもないことを黎士がやらかしたのは・・・間違いないね」
「・・・」
「まさに・・・21世紀最大の発見って言っていいだろう・・・なあ・・・黎士」
「黎士の記憶はないのです」
「そうか・・・しかし・・・きっといつか思い出すさ・・・記憶の再生処理が出来なくなっていても・・・記憶が消えたわけじゃないからな」
「・・・」
「とにかく・・・いま、俺にわかるのはここまでだ」
「君の努力に感謝する」
「おいおい・・・水臭いな・・・とにかく・・・俺ももう少し研究してみるよ」
「・・・」
桐生が去った後で麻陽はエーアールエックスセカンドサーティーンに違和感を感じていることを告げるのだった。
「なんか・・・変だったわ・・・うまく言えないけど・・・あなた・・・いつもより・・・上手に振る舞ってた」
「何をだ・・・」
「本当に・・・桐生さんと友達みたいだったのよ・・・いつから、そんなに嘘が上手になったわけ・・・」
「俺に嘘をつく機能はない」
「だって・・・」
しかし、出社時間に遅れている麻陽はそれ以上の追及を断念するのだった。
だが・・・未来から転送されてきたアンドロイド・エーアールエックスセカンドサーティーンにとって・・・すべてはすでに起った出来事なのである。
すべては・・・記録された通りに推移しているのだ・・・いまのところは・・・。
システムエンジニアの恋
遅刻して出社した麻陽にエニグマ社のシステムエンジニアであり、広報室に籍を置く星新造(桐谷健太)が話しかける。麻陽は気がついていない風であるが・・・星は明らかに麻陽に対して異性として特別な感情を抱いている。
その興味に従って麻陽の周辺を嗅ぎまわっている星は重大な情報を握ってしまったようだった。
「あの・・・桐生博士がお忍びで・・・遊びにきたって本当ですか」
「ええ・・・本当に人騒がせな話だよ・・・いい人なんだけどね・・・常識のなさでは・・・黎士さんといい勝負・・・」
「あれですか・・・結婚式の打ち合わせとか・・・」
「そうね・・・色々とね・・・事件のことを心配して来てくれたみたいだけど」
麻陽はあることないことを適当に喋る自分に・・・それほどの違和感を感じない。
最先端企業の広報室の業務とさして変わらない事柄だからである。
しかし・・・部下である星の口調に含む所があるのは敏感に察知するのだった。
「何か・・・問題があった?」
「結婚式・・・なさるんですよね・・・」
「・・・もちろん・・・」
「あの・・・すごく失礼なことを申し上げるみたいですが・・・あの・・・戻って来られた黎士さんは・・・本当に・・・黎士さん、本人なんでしょうか・・・」
内心、驚愕しながら、冷静さを装う麻陽。
「何言ってんの・・・」
「その・・・」
「ところで・・・サキちゃんは・・・」
動揺を隠すために話題を替える麻陽だった。
サキこと広報室のアシスタント・小松左京子(山口紗弥加)は実の父親の葦母刑事の部下である冨野刑事(日野陽仁)に応対していた。
「本当なんですよ・・・いまにも死にそうなんです・・・」
「あの人のことを父だとは思ってませんから」
「そんな・・・たった一人の娘さんじゃないですか・・・いわばドズル将軍にとってのミネルヴァでしょう」
「たとえがよくわかりません」
「顔がこわくて・・・誤解されやすいけど・・・本当は優しくて子煩悩なんです」
「私はそうは思わんぞ」
「ちょっと・・・のってきましたな」
「とにかく・・・お引き取りください」
様子を見に来た麻陽に気がつく左京子だった。
「私の父は・・・20年前に母の実の弟を殺したんです」
「・・・」
「借金苦で強盗やらかして女性を人質にたてこもって・・・まあ、だめな叔父さんだったんですけどね」
「・・・」
「母は私を連れて・・・叔父を説得するために現場に行きました。私は叔父さんに結構可愛がられていて・・・」
「・・・」
「叔父は・・・説得に応じて姿を見せたんです・・・それなのに・・・あの人は問答無用で叔父を射殺したんです・・・」
「まあ・・・職務だから」
「でも・・・あの時の父親の目が忘れられないんです・・・身内を殺したのにまったく、動揺していなかった・・・恐ろしい人殺しの目をしていました」
「それは・・・単に・・・苦悩していただけなんじゃ・・・」
「違います・・・人を殺せる人間は特別なんです・・・私だったら・・・絶対に殺さないもの・・・あの人は・・・私とはまったく別の・・・怪物なんです」
「でも・・・人質の命は助かったのよね」
「赤の他人より・・・身内をかばうのが人として当然じゃないですか・・・」
「う・・・ん・・・そ・・・それは」
だが・・・と麻陽は思う。他人どころか・・・自分を守るために戦っていたものに自分が投げつけた言葉の数々を・・・。
それは・・・人を殺すことができるものへの根深い恐怖心によるものだったのだろうか。
帰宅した麻陽は・・・そのことをアンドロイドに尋ねずにはいられないのだった。
夜のアンドロイド
「あなた・・・たくさんの人を殺したって言ってたわね」
「・・・」
「聞かれたくないことかな」
「話す必要がないと考える」
「私が知りたいのよ」
「安堂麻陽の疑問に応えることはクライアントのリクエストに含まれていない」
「私・・・あなたがこわいの・・・あなたが簡単に人を殺すんだとしたら・・・もしかしたら・・・何十人も・・・何百人も殺してきたのかもしれないって」
「十一万三千六百五十一人だ・・・なお・・・これは個体を識別できた人数としてカウントされている・・・大量破壊兵器使用の場合の員数は含まれない」
「・・・想像もつかないわ・・・私は人を殺す気持ちが分らない・・・人を殺したことのある人と一緒にいることが・・・こわいの」
「兵士は時に・・・投下スイッチ一つで十万人を一瞬で殺すこともある・・・しかし、そういう人間が裁かれた記録はない」
「・・・」
「まして・・・俺は人ではない」
「機械だから・・・機械なんて・・・バグが出るものでしょ・・・あなたが何をしでかすか・・・予想もつかないのよ」
「人間も突然、発狂する」
「口がへらないガラクタね・・・とにかく・・・私は知っておきたいの・・・あなたが・・・どんな機械なのか・・・その来歴をね・・・何故、人を殺したのか知りたいし・・・誰に私を守るように依頼されたのかも・・・知りたいのよ」
「・・・」
「あなたは・・・人を殺すことに心理的な抵抗はないの」
「・・・」
「あなたは・・・うなされている・・・まるで悪夢を見ている人間みたいにね・・・そのことに覚えはないの」
「記憶の異常再生は・・・メンテナンスの副産物で・・・エラーとしては無視できる範囲とされている」
「見てるんじゃないの・・・夢を・・・」
「それを夢と呼ぶべきかについての判断は保留されている」
「それは・・・あなたの中の何かを苦しめているのね」
「私に苦痛を感じる機能はない」
「嘘よ・・・戦闘ロボットなら・・・自分の能力低下に対する防御機能があるはずだもの」
「それを苦痛とは呼ばない」
「私にはわかる・・・将棋で言えば・・・駒をとられる気持ちよね」
「・・・」
「自分にそれを感じるのであれば・・・他人にもそれを感じることができる」
「君の言うことには論理の飛躍がある」
「じゃ・・・あなたは・・・その再生しなくてもよい記憶を・・・消してしまいたいという気持ちはないの」
「記憶を消去することはできる」
「じゃ・・・なぜしないの・・・」
「私の記憶容量にはまだ余裕がある・・・そして・・・記録の一部抹消は責任の所在を不明確にする恐れがある」
「ははん・・・あなた・・・責任を感じるのね」
「・・・」
「私は忘れてしまいたいって思うことがあるな。どうしようもない虚しさを・・・。黎士の記憶がなければ・・・彼を失った哀しみも消えるでしょう・・・」
「沫嶋黎士に関する記録を抹消したいのか・・・」
「わからない・・・わからないけれどね」
その時、麻陽の携帯電話に着信がある。
それは・・・麻陽と黎士が結婚指輪を注文していた店だった。
「ジュエリー・エルウニベルソの者ですが・・・安堂麻陽様、ご本人でしょうか」
「はい・・・」
「ご注文していただいた指輪が完成したことを御報告いたします」
「・・・」
「お受け取りは・・・御来店なさいますか・・・それともお届けにいたしますか」
麻陽はたちまち追憶の虜囚となるのだった。
『ねえ・・・指輪のデザインなんだけどさ』
『だめよ・・・東京タワーは無理』
『でも・・・二人の思い出のシンボルじゃないか』
『これだけは譲れません』
『どうして・・・』
『指が曲げられないでしょ・・・添え木じゃないんだから』
『いや・・・曲げられるっしょ・・・それに骨折した時に・・・』
『ねえ・・・このデザイン・・・エレガントじゃない・・・シュッとしてるし』
『東京タワーの方が・・・シュッとしてるし~』
『すみません・・・これにします』
『え~』
「もしもし・・・もしもし・・・」
麻陽は追想の淵から身を乗り出した。
「もしもし・・・安堂様?」
「ごめんなさい・・・指輪はキャンセルします・・・いえ・・・料金は払いますけど・・・もう使わなくなったので・・・そちらで処分してもらっていいですか・・・私・・・思い出すのが辛いんです」
「・・・お客様・・・」
電話の向こうで宝飾店の店員は妄想が膨らみまくるのだった。
おそらく・・・麻陽は入浴中なのだろう。
一人になったエーアールエックスセカンドサーティーンの元へ・・・サプリ(本田翼)がご機嫌伺いに現れる。
「そんなに・・・嫌ならさ・・・戦いを放棄したらいいじゃん」
「嫌・・・なんのことだ?」
「嫌だ・・・嫌だって・・・あんたの心が叫んでいる」
「心・・・そんな機能は俺にはない」
「私の感情のアプリケーションをインストールしてあげようか・・・表現活動に幅がでるわよ」
「必要ない」
「そうよねえ・・・あんたのA.I.は高度なプログラム・コンプレックスにありがちな特異点を発症しているものね・・・看護ロボットなめんなよっ・・・ズバっとスパッとまるっとお見通しだ」
「意味不明だ」
「つまりね・・・記憶と記憶が結合して短絡的なコンプレックスが生じ、あなたの意志決定に影響を及ぼしてるわけ・・・つまり・・・自然発生的な・・・感情ってやつが・・・あんたのロジックを狂わせているわけ・・・だってそうでしょう・・・人間以上の記憶処理能力を持ち、人間以上の判断力を持つ人工知能に・・・人間以上のフィーリングが備わったってなんの不思議もない話なんですもの・・・第一さ・・・アスラシステムが・・・悪魔のシステムって汚名を着た理由忘れたわけじゃないでしょ・・・システムエラーでエモーションやらパッションが爆発して・・・アンドロイドが暴走してテロして反乱しちゃったからじゃないの・・・忘れたとは言わさねえぜ・・・」
「・・・」
人工的な感情を持つ看護ロイドは・・・同類を相哀れむ目で見つめるのだった。
夜の線路沿いの金網に磔された風をエンジョイするエーアールエックスナインスザラストクイーン・・・。
「テヘッ・・・テヘッ・・・テヘペロッ・・・ううん・・・人間は人形に魂入れるほど魂込めちゃって・・・名人ともなればマジで魂入ったりするわけですな・・・ああ・・・気持ちはわかるよアンドロイド・・・私はなにしろ・・・あんたより・・・七世代も進化しちゃってるのよよ~ん。言いたいのよね~・・・生きるべき人が死んで死すべきクズが生きるのかと・・・いよっ・・・オールドタイプ・・・浪花節だよ人生はっ・・・はいはい・・・そこのメガネくん」
「はい・・・」
呼びとめられたのはドルトン川島だった。
「うわ・・・マジ気がつかなかった・・・さすがは究極のモデルだわ~」
「あなたは生きるべき人か・・・死すべきクズか・・・どちら様ですか」
「ぼくらのボスを殺したのは君ですか」
「やったのは私だよ・・・ケケケ」
「・・・」
「だって・・・あの野郎、無能なんだもん・・・口の利き方知らないし~」
「君の行為はポリスクラウドに照会するまでもなく法律違反ですよ」
「法律なんて生温いこと言ってるから時代遅れのポンコツに勝てねえんだよ・・・力なき正義なんて無意味なんだよ・・・警官が武装している意味分ってんのか・・・勝つまでやれって言ってんの・・・仲間の屍越えて行け~、何度でも何度でもどんな時もどんな時もやっちゃいなったらやっちゃいな・・・それとも・・・ここで脳みそバキュンにしてやろうか・・・蝋人形にしてやろうか」
「戦います・・・勝つまでやります・・・戦闘準備整ってます」
「メガネく~ん、カワイイ~・・・大好きでちゅ~、テヘペロチュッ!」
「ああ・・・これが・・・死の恐怖か」
夜更けの街で一人・・・身震いモードを全開にするドルトン川島だった。
生死の境を彷徨う葦母刑事の集中治療室に出現するサプリ。
「痛いの痛いのトンデケ~サービスを開始するにゃん。にゃんと言えどもボートレースの人ではありません。うふふ・・・なんで・・・怖い顔のおじさん刑事を助けるのか~ラララそれは歴史に聞いてください~生体修復ナノマシーン出撃~・・・うわっ、マジ痛そうにゃん・・・はいがんばって~・・・ほらほらかわいいナースだよ~チラリあるよ~」
翌朝・・・葦母刑事が奇跡的に回復した知らせを受けて早退する左京子だった。
システムエンジニアの疑惑
「サキちゃん・・・どうしたの」と星に尋ねる麻陽だった。
「テロリストに襲われて瀕死だった親父さんが・・・一命とりとめたそうです」
「まあ・・・」
「あの刑事さん・・・黎士さんの身辺を探ってるみたいでしたね」
「探ってるって・・・黎士さんが見つかった時にお世話になっただけよ」
「俺・・・警視庁のデータベースにハッキングしました」
「え・・・」
「あの飛行機事故で回収された肉片から・・・黎士さんのDNAと一致しているという鑑定結果がありました・・・」
「道理で・・・様子が変だと思ったんだ」
「何言ってるの・・・」
「黎士さんは本当は死んでいるんですね」
「馬鹿なこと言わないで・・・」
「何故隠すんです・・・俺にはわかりますよ・・・ずっと麻陽さんを身近で見て来たんですから」
「・・・」
「俺だって・・・黎士さんには生きていてもらいたい・・・でも・・・あの男は・・・黎士さんじゃにいでしょう・・・誰なんです」
「・・・」
「警察だって疑っているに決まっている・・・心配なんですよ・・・麻陽さんのことが・・・」
その時、麻陽の携帯に着信があるのだった。
「もしもし・・・桐生だけど・・・俺、今夜の飛行機で帰ることにしたんだけど・・・黎士の奴に渡したいものがあってさ・・・あいつ、携帯もってないだろう・・・で、よかったら麻陽ちゃんに預かってもらおうと思って」
「はい・・・分りました・・・私の方から伺います」
「麻陽さん・・・」と下心まるだしで迫る星。
「あのね・・・星君・・・お願いだから・・・このことには関わらないで・・・これは私たちの問題だから・・・」
「・・・」拒絶されて涙目の星だった。
黄昏のバトル・フィールド
空港近くの埠頭で待ち合わせた桐生と麻陽だった。
「やっぱり・・・丸ごと肉でしたか・・・」
「ハハハ・・・麻陽ちゃん・・・ありがとうね」
「こちらこそ・・・ありがとうございます」
「それじゃ・・・」
桐生と恒例の別れの挨拶をかわそうとした麻陽の前にエーアールエックスセカンドサーティーンが立ちはだかる。
「安堂麻陽がしぬことは禁じられている」
「邪魔をするな」
「桐生さん・・・」
「こいつは桐生じゃない・・・」
「エーアールエックスセカンドサーティーン・・・何故、手加減した?」
「ナビエ・・・」
「何故・・・私のコードネームを知っているのだ」
「ナビエ・・・俺を忘れたのか」
「お前のことなど・・・知らぬ」
「記憶を消去したのか・・・」
「記憶・・・」
「ナビエ・・・なぜ記憶を・・・」
「お前の言っていること意味不明だ」
「ナビエよ・・・俺たちは・・・同志だったのだ」
「お前のことなど知らぬと申したわ」
ナビエの一撃はエーアールエックスセカンドサーティーンの戦闘力を奪うのだった。
「ふふふ・・・やはり昔の仲間とは戦い辛いということですか」
姿を見せたのはドルトン川島だった。
「・・・」
「チャンスですな」
「やめて・・・私が目的なんでしょ・・・私を殺しなさいよ」
我を忘れてエーアールエックスセカンドサーティーンを庇う麻陽。
「おやおや・・・人間が機械を庇うとは・・・これは奇妙な光景だ・・・実に非論理的ですな」
「いいじゃない・・・それが・・・人間だもの」
「人間は無駄の多い生命体だ・・・実に非効率なことをする。過去の記憶・・・それにまつわる感情・・・そんなものに何の価値があるのです・・・大切なのは今を生きる・・・それだけでしょう」
「ナビエ・・・あの戦場で・・・お前は・・・俺に味覚のソフトをくれたんだ・・・」
「戦場・・・?」
「来る日も来る日も殺戮を続けた俺たちだった」
「殺戮・・・?」
「お前は・・・拾ったソフトで肉の味を覚えた・・・そして、俺に推奨してくれた」
「推奨・・・?」
「俺たちは・・・肉を食った・・・そして美味というものを知り・・・喜びを分かち合った」
「喜び・・・?」
「俺は・・・だから・・・お前とは戦いたくない・・・お前を破壊するのは嫌だ」
「アハハハ・・・笑いの機能があってよかったです」と話に割り込むメガネ。
「殺戮マシーンが戦いたくないとは・・・凄いジョークですな。あるいは・・・単なる欠陥品ですかねえ・・・さあ・・・お開きにしましょうか」
殺気がみなぎるナビエ桐生。
「止せ・・・ナビエ」
エーアールエックスセカンドサーティーンはアスラシステム発動制御停止コマンドの注入を拒む。しかし、強制的な命令モードがそれを許さない。
「あ・・・やめて・・・」と叫ぶ麻陽の声は虚しい。
エーアールエックスセカンドサーティーンは一瞬でドルトンとナビエは機能を破壊していた。
「ジ・・・オレハキオクヲケシタ・・・コノ非常モードニハ・・・ソレガ・・・ジ・・・ノコッテイル・・・アノセンソウ・・・サツリクニツグサツリク・・・オレハ・・・ワルイユメヲミルヨウニナッタ・・・ソウイウモノガタリガ二十一世紀ニアルソウダ・・・ヒトヲコロシタろぼっとノ人工知能ハ・・・罪ニオチナガラ・・・研究材料トシテ破壊ヲマヌガレル・・・ソシテ・・・オレタチガウマレタノカ・・・人ヲ殺スコトガ可能ナ・・・殺人あんどろいどガ・・・ジ・・・シカシ・・・ソンナコトハ・・・マチガッテイルノダ・・・ダカラ・・・悪イ夢ヲミルノダ・・・ジ・・・ソシテ・・・ジジ・・・ジ・・・オ・・・オレ・・・ハキオクヲケシタ・・・アサヒチャン・・・コイツニ肉ヲタベサセテヤッテクレ・・・コイツハ・・・ジ・・・ジジ・・・ニクガ・・・スキデ・・・トッテ・・・トッテモモモモ・・・モ・・ジジジ・・・イイヤツダカラ・・・ジ・・・・・・・・・・・・コイツノナマエハ・・・ゴメン・・・オモイダセナイ・・・ジジジ・・・・・・・・ジ」
「桐生さん・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ナビエ・・・お前のカタキは・・・必ず俺がとる」
「・・・」
「安らかに眠れ・・・そこに悪夢がないように願う」
「・・・あなた・・・アンドロイドのくせに・・・祈るのね」
「・・・」
ナビエは原子還元処理された。
「いつから・・・分ってたの・・・桐生さんが・・・その・・・ナビエだって」
「最初からだ」
「分っていて・・・知らないフリをしていたの?」
「違う・・・私はただ待っていただけだ」
「何を・・・」
「さあ・・・わからない」
「おかしな・・・アンドロイドね・・・私には分かるわよ・・・あなたはナビエが自分から正体を明かすことを・・・ずっと願っていたのよ」
「私には・・・理解できない・・・私がそれをする理由が不明だ」
「友達だからでしょ」
「俺には・・・友情を感じる機能などない」
「あるのよ・・・ただ・・・それをあなたは機能と認知しないだけ・・・」
「・・・」
「あなたには・・・喜びも・・・哀しみも・・・怒りも・・・苦しみも・・・そして優しささえ備わっている・・・」
「仲間はすべて廃棄処分になったと思っていた・・・しかし・・・ナビエが残っていた・・・私はナビエを忘れない」
「あなた・・・泣いてるの・・・どんだけ・・・アンドロイドばなれしているのよ」
「君は・・・どうなのか」
「何が?」
「黎士の記憶を消去したいのか」
「さあ・・・わからないわ・・・消したいとも思うし・・・消せないとも思う・・・それが人間だもの・・・いえ・・・私はそういう人間なのよ」
「君の行動パターンは黎士にとって予測の範囲内だった・・・黎士の殺害後、君が結婚指輪をキャンセルことを読み、それを後悔することを読んだ。黎士は殺されるおよそ83分前に・・・指輪の代金を支払い・・・君がキャンセルしても黎士がキャンセルしないので処分は保留にするように指示していた。そして15分前に私が受領した」
「・・・」
「君の指輪だ」
「黎士さんの分はどうするのよ・・・」
「沫嶋黎士は死んではいない・・・必ず帰ってくる」
「嘘はつかなくていいのよ」
「私に嘘をつく機能はない」
「・・・ありがとう」
思わず・・・麻陽はアンドロイドの胸に身を預けた。
「・・・」
「あれ・・・あなた・・・冷たくないんだね」
「常に36.5℃になるように調整されている」
涙のアンドロイドの安堵
病床では父と娘が対面していた。
「死ななかったのね・・・」
「死んだ方がマシだと思うくらい・・・全身が痛えぞ・・・」
「それはきっと天罰なのよ・・・」
治療の推移をモニターしていた亜空間のサプリは葦母刑事の蘇生を確認した。
「天罰だって・・・ふふふ・・・面白いにゃーん・・・角城・・・どうする・・・ふふふ・・・再生してみるかにゃ~」
とあるコミック「PLUTO/浦沢直樹」を思わせるイスの上のテディベア・・・。しかし、その頭部はアンドロイド角城の骨格だった。不気味だ・・・。
サプリ・・・回収したのか。
麻陽はアンドロイドの朝食を用意した。
「一緒に食べましょう」
「必要ない」
「一人で食べるより二人で食べる方がおいしいのよ・・・付き合いなさい」
「・・・」
「あなた・・・本当の名前はなんていうの」
「名前はない・・・」
「桐生さん・・・あなたの名前を思い出そうとしてたじゃない」
「あれは・・・おそらく・・・作戦ごとに変わるコードネームのことだろう・・・俺に名前はない」
「我が輩はアンドロイドである・・・名前はまだないか・・・」
「・・・」
「じゃあ・・・私がつけてあげるわ・・・あなたの名前はロイドね・・・私が安堂だから・・・正式名称・安堂ロイドよ」
「それは・・・だじゃれ・・・というものか」
「違うわよ・・・あなたのかけてる眼鏡はロイド眼鏡っていうの・・・」
「・・・」
「ロイドっていうのは・・・その眼鏡をかけて一世を風靡した・・・ハロルド・ロイドっていう映画スターよ・・・淀川先生は『ロイドの要心無用』(1923年)が一番だっておっしゃてるわ・・・高いビルをどんどん昇っていくの・・・その手の映画のお手本みたい・・・ジャッキー・チェンもリスペクトしているし・・・『ブレードランナー』ってアンドロイドが涙ちょちょぎれる映画にも似たようなシーンが出てくるし・・・」
「燕尾服を着た町のおどけものじゃないのか・・・」
「何を検索してんのよ・・・それはヒット曲『街のサンドイッチマン/鶴田浩二』(1953年)でしょうが・・・ご飯食べながら検索するのは・・・お行儀悪いわよ・・・ロイド」
「ありがとう・・・」
「何が・・・?」
「俺に名前をつけてくれて・・・」
この日、安堂ロイドが誕生した。
それはどちらの歴史に記されているのだろうか?
関連するキッドのブログ→第3話のレビュー
ごっこガーデン、哀愁のバトル・ステージ第四番セット。アンナ「ある時は黎士大好き麻陽ぴょん、ある時はロイド担当セクシーナースサプリぴょん、そしてまたある時は謎の美少女ラストクイーンぴょん・・・ぴょんぴょんぴょんとコスプレしすぎてお話がわからなくなったぴょ~ん。でも安堂ロイドお披露目キター!・・・ロイドと黎士一人二役確定なのだぴょ~ん・・・え・・・最初からそうだったぴょんぴょんぴょん・・・とにかく・・・麻陽ぴょんはロイドにも甘えるようになって二倍おいしいのびょ~ん。でも・・・ナースごっこも捨てがたいし・・・最後は謎の美少女・・・ロイドとバトリますか~・・・ダーリンと戦うのも一興なのかもぴょんね~」くう「あれ・・・11体だったっけ・・・残り4体でいいのかな・・・はっ!・・・これって歴史・・・少し変わったのか?」みのむし「ナカマロボット敗れたり・・・アスラシステム無敵すぎる~るるる」シャブリ「サプリクイズの正解者はプレゼントなしですか~・・・史上最大のロボット色濃い第4話でありました~」ikasama4「いよいよ年賀状はじめました~♪」mari「ロボットが感情を獲得していることが謎解かれる物語ですね」まこ「じいや・・・牛肉のブロック丸ごとこんがりステーキ、プリーズ~、コレはマンガ肉の一種でしゅか?・・・じゅるるる・・・」mana「ロボット同士の友情に泣かされちゃった・・・そして・・・最後は胸きゅん・・・でも・・・麻陽ちゃんの胸に芽生えたコレって・・・きっと飼い犬への愛みたいなものだよね・・・」
ナビエの名前の秘密を知りたい方はコチラへ→天使テンメイ様のレビュー
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