武装蜂起につぐ武装蜂起でごぜえやす(綾瀬はるか)
明治17年(1884年)は大日本帝国にとって困難な時代だった。
明治15年(1882年)に日本銀行条例が公布され、日本銀行が設立される。
大隈重信が追放された後で大蔵卿となった松方正義は徹底したデフレーション誘導政策を行う。
このために物価は下がり続け・・・特に農産物価格は下落した。
農村は窮乏し・・・一部の農民は農地を売却し、あるものは都市部に流入し、あるものは自作農から小作農へと転落する。
それはある意味、資本家を育てる結果となるが・・・要するに貧富の差が拡大したのである。
そのために過激化した一部の農民は政府転覆を計画する蜂起活動へと走り出す。
その結果、5月に群馬で警察分署襲撃事件、9月に栃木県令暗殺未遂事件が発生する。
一方、海外ではベトナムの領有権をめぐり、フランスと清国の間に清仏戦争が開始される。
欧米列強によるアジア侵略は着実に進行していたのである。
「八重の桜」では・・・まるで悪党のように描かれる伊藤博文だが・・・フランスからの参戦要請に断固反対したのは伊藤である。
この時・・・日本が参戦していたとすれば・・・日清日露の・・・奇跡的な勝利がなかったことは充分予想できる。
しかし・・・このドラマはそういう歴史的事実にはほとんど触れずに・・・私学設立のために資金集めに狂奔する新島襄と・・・ほとんど妄想かもしれない徳富蘆花のフィクションに基づいた山本家の家庭内のいざこざを描く気満々なのだった。アホかっ。
ちなみに山本家を舞台にした「黒い眼と茶色の目」は明治32年(1899年)に書かれた大山家がらみの「不如帰」より後の大正3年(1914年)の小説である。「不如帰」で大山捨松を血も涙もない鬼後妻として描いたことを「お涙頂戴のために嘘八百書きました」と大山夫妻に謝罪したのは大正8年(1919年)という恥知らずな徳富蘆花なのである。そんなやくざな文士の書いたものを歴史ドラマのテキストにするなよ・・・。
ま・・・面白ければいいけどね・・・おいっ。
で、『八重の桜・第44回』(NHK総合20131103PM7~)作・山本むつみ、演出・末永創を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は維新の元勲たちが暗殺、病死などで次々と退場し、孤軍奮闘、大日本帝国を支える最後の幕末テロリスト・伊藤博文と洋式牧場を経営し、日本の畜産業の礎を築いたと言える明治の牧老人こと・・・山本家に困った火種を持ちこんだ広沢安任の二大イラスト描き下ろしでお得でございます。まあ・・・大河ドラマはフィクションではあるものの・・・すでになんじゃこりゃあの領域に達しているのではないかと茫然とする今日この頃でございます。それはともかく・・・博文・・・かっこいい。二年連続ナイス・キャラクターですな。
明治17年(1884年)1月、官吏恩給令が布告され、文官の恩給制度が発足。慶応は遠くなりにけりである。2月、照姫逝去。3月、スーダンのイスラム教徒の反乱に対して英国・エジプト連合軍がハルツーム包囲戦を開始する。14年間の長期戦の後にスーダンは英国の植民地となる。4月、新島襄は資金獲得のための海外渡航に出発。5月、日本の弁護士一号とされる星亨が「自由燈」(後の朝日新聞)を創刊。過激派自由党員が放棄し群馬事件発生。鎮圧される。6月、東京気象台が日本初の天気予報を発表。鹿鳴館で日本初のバザーが開催される。上野不忍池に競馬場が完成する。7月、ダウ社が最初の平均株価を発表。カメルーンがドイツの植民地となる。華族令が制定され、公・侯・伯・子・男の爵位が規定される。横須賀造船所が開渠する。8月、福州海戦により清仏戦争勃発。新島襄、スイスのサンゴタール峠で心臓発作で倒れ、人騒がせな遺書を認める。回復した襄はその後も一年半の旅程を消化する。9月、自由党員が政府打倒を掲げ茨城県加波山で放棄、鎮圧される。10月、米国海軍大学設立。フランスが台湾を封鎖。自由党解党。埼玉県秩父郡の農民が武装蜂起、鎮圧される。11月、英国がニューギニア南東部を植民地化。12月、愛知自由党の政府転覆計画が発覚、名古屋事件と称される。李氏朝鮮王宮で清国軍と日本軍が銃撃戦となり、日本軍は敗走。日本人居留民が虐殺される甲申政変が発生する。これは日本が画策した王宮クーデターの失敗によるものだったとされる。ベトナムを失いつつあった清国は朝鮮までも失うわけにはいかなかったのである。この結果、福沢諭吉は支援していた朝鮮独立党の敗北に失望し、清国は日本を軍事的弱小国として侮ることになる。日本の臥薪嘗胆の日々はこの後十年に渡って続く。
明治十七年正月、大和忍上篤姫(やまとのしのびのかみあつひめ)の遺髪を持った八重は鞍馬山山中にあった。周囲は雪景色である。
しかし、忍測の術によって定められた場所へ通じる隠された道をたどり、八重は目当ての小滝にたどり着いた。修験者のみが知る秘密の滝は雪の中で凍てついている。
白装束の雪忍者着の内側には熊の毛皮が貼ってあり、保温性は高いが立って待つと足裏から寒さがはい上がってくる。
八重は雪洞を掘って避寒する。
南蛮渡来の懐中時計が約束の時間を示すと・・・何かが破裂するような音がした。
そして、伝説のくのいち、平時子が現れる。日本史上に三人しかいないと言われる時渡りの術者である。
「会津の八重かえ」
「は・・・ここに控えております」
「篤姫は・・・往生遂げられましたか」
「は・・・去る年の暮れのことでございました」
「うむ・・・では・・・形見の品を受け取りましょう」
「これに・・・ごぜえやす」
「うむ・・・そうか・・・篤姫も逝ったか・・・」
時子は遺髪を包んだ袱紗をしばらく押戴き、瞑目する。
「その・・・お伺いしてもよろしいでしょうか」
「申せ」
「おの御髪はどなたにお届けになるのでございますか」
「ふふふ・・・誰ということはない・・・先の世では髪から人を作る黒穏テクノロジーという術がある」
「髪から人を・・・」
「そうじゃ・・・さすれば・・・篤姫と同じ人が蘇るのじゃ・・・」
「・・・」
「もちろん・・・篤姫その人ではないが・・・肉体の形質は受け継がれる・・・篤姫ほどの邪眼の持ち主は得難いからの」
「なにやら・・・恐ろしい話でごぜえやす」
「忍びの者であればこそ・・・許された禁断の技術じゃ・・・」
「なるほど・・・生まれた時より死すべき定めでございますな」
「そうじゃ・・・しかし・・・そういう教えの御世は過ぎ去ろうとしている」
「命大事の時代でごぜえますね」
「そうじゃ・・・人の命が何よりも尊いとされる愚かな御世が始るのじゃ・・・それでは世界は儚いばかりじゃのにのう・・・」
「・・・」
「これは釈迦に説法じゃったの・・・しかし、八重殿・・・」
「は・・・」
「八重殿の生きる時代はまだまだ修羅の世じゃ・・・これより十年の後に・・・大いなる戦が待っておる」
「また・・・戦が・・・」
「次なる戦は・・・この時代の宋国・・・そうそう清国との戦じゃ」
「清の国と戦うのでございますか」
「そうじゃ・・・」
「とてもかないますまい・・・」
「戦の行方は申せぬ定めじゃ・・・」
「しかし、威光が衰えたりとはいえ・・・清は大帝国・・・万に一つも勝ち目はありますまい・・・また愚かな敗北を喫するに違いありませぬ」
「そなたの負け戦の痛み・・・妾にも覚えがあること・・・しかし・・・勝負は時の運なのです」
「しかし・・・薙刀では鉄砲には勝てませぬ・・・」
「いかにも・・・そのために大和の国はこれより・・・兵を兵(つわもの)たらしめるためにすべての力をそそがねばなりませぬ・・・」
「・・・」
「しのび孫子の極意を申してみよ・・・」
「敵を知り己を知れば百戦危うからず」
「その神髄は・・・」
「勝つべくして勝つことでございます」
「その根本は・・・」
「内に敵を作らず外に敵を作らず」
「その道理は・・・」
「戦わずして勝つ」
「いかにも・・・すでに・・・この国のために戦するものは育っておりまする」
「・・・」
「その多くは死ぬことになるでしょう・・・」
「・・・」
「その者たちの命を無駄にしないことが・・・くのいちの使命と心得よ・・・」
「・・・承りました」
「八重殿とはゆっくり夜語りなどしたいものじゃが・・・時は移ろいまする・・・次の会合にて・・・また会いましょうぞ」
「時子様・・・」
しかし・・・すでに時子の姿はなかった。
先の世に渡っていったのである。
「戦か・・・しかし・・・十年も戦がないのは・・・めでたいことと言える」
八重は身支度を整えると雪の中を科学忍者隊秘密基地へと走っていく。
「ふふふ・・・雪の中とはいえ・・・衰えたのう・・・」
八重は自分の脚力に年齢を感じていた。
「文明開化は・・・身体を鈍らせる・・・」
鞍馬山を天狗のように走りながら老いたくのいちは呟いた。
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