変身前のもう一人の私は異性からは無視され同性からは憐れまれる存在なのだった(中丸雄一)
今回・・・一番印象的だったのは・・・もみあって変身が解かれた・・・主人公に対する甘粕の反応だった。
それまでの憎悪が消えて・・・穏やかな気持ちさえ感じさせた甘粕。
これには白川が青沼である時の編集長のよそよそしさが対応している。
変身インタビュアーという奇抜なアイディアの肝はこの美醜の落差にあることは間違いない。
序盤はこのテーマがあからさますぎて・・・馴染めなかったわけだが・・・終盤でついにキッドはそれに心をキャッチされてしまったのである。
つまり・・・青沼の正体は白川であり・・・本質的に「ダメジン」なのである。
あえてイケメンという言葉を使えば・・・イケメンの青沼は・・・女性に興味を抱かれ、男性に警戒心を抱かれるがインタビュアーとしては・・・青沼の自信とは裏腹に実は何一つ本質に迫れていないのである。
そりゃそうだ・・・イケメンの質問なんかに・・・誰だってまともに答える気になれないもんなあ。
この醜→美には変奏曲があって・・・それは現在と回想シーンによって展開されている・・・登場人物たちの老いと若さであり、具体的にはカツラ→ハゲである。
甘粕が・・・安藤刑事が・・・黒曲が隠しているもう一人の本当の自分である。
女性については巧妙に隠されているが・・・夷鈴子(玄覺悠子)が実は伊藤文枝であり、本当は夷鈴子(工藤綾乃)だったことや、甘粕が愛しているのが真壁真奈美(中村優子)ではなく夷鈴子(工藤綾乃)だったことが美醜の残酷さを物語っている。まあ・・・鈴子は真奈美かもしれないけどな。
エンディングがナレーターのウエイトレス(上間美緒)で・・・その後が三貴子の泉の噴出であることも・・・そこには性的な魅力の暗示があるわけである。
イケメンである青沼には見えない・・・この世の真実・・・それは・・・基本、みんなダメジンなのね・・・ということだろう。
キッドはおよそ三千人くらいにインタビューしているから・・・間違いないと思う。
で、『変身インタビュアーの憂鬱・第9回』(TBSテレビ201312100028~)脚本・演出・三木聡を見た。青沼/白川(中丸雄一)とゲビヤマくん(木村文乃)にすべてを語ろうとした真壁真奈美(中村優子)は殺されてしまった。そのことを報告した白川は・・・着替え中のゲビヤマくんの下着姿をじっくりと鑑賞するのだった。特に背後に回ってお茶の間には見えない尻のあたりを・・・それはまあ・・・いいじゃないか・・・。真奈美の死を知った安藤刑事(光石研)は涙を流し・・・その愛の深さをさらけ出す。そして・・・おそらく・・・青沼/白川と同様に仮面をかぶっている甘粕(眞島秀和)はそれほどでもない顔をのぞかせる。彼はこのドラマにおけるノーマン・ベイツ(ヒッチコックの映画「サイコ」でアンソニー・パーキンスが演じた二重人格の殺人鬼)の役割を演じているのだろう。しかし、実際に殺人鬼であるのかどうかはまだ分からない。なにしろ・・・このドラマはもう一人の自分だらけなあのだあ。
多重人格の中でも二重人格は表現のシンボルとしては分かりやすい存在である。
光と影。表の顔と裏の顔。加害者と被害者。そして美醜・・・。
さらに夢と現実。生と死。
生者と死者が交錯するラインを越えた世界では・・・殺されることにあまり意味はない。ゲビヤマくんの夢の中で射殺された青沼/白川が生きているのが現実だとは限らないのである。白川の百冊目を書いてしまったヘパイストス出版第二編集部編集長・風見川(岩松了)は妻と娘に殺害されて死体としてベッドに横たわっているのかもしれない。
そもそも・・・夢を見ているゲビヤマくんが・・・生きているのか死んでいるのかも定かではないのだ。
そんな・・・わけのわからないものを淡々と描いているこのドラマ。
たまらんわけである。
青沼はゲビヤマとともに真奈美の遺体の発見された三貴子の泉に向かい・・・事情を聴くために真奈美と暮らし始めていた甘粕(眞島秀和)を訪ねる。しかし、管理人の家に甘粕の姿はなかった。
そこで・・・コンビは安藤刑事に電話で呼び出され・・・真奈美の死体が安置されている謎の建物に向かうのだった。もはや・・・現実感は全くないのである。
よくわからない建物・・・殺人の被害者の遺体が置かれているのだから・・・しかるべき場所なのだが・・・の中に当然の如く佇む黒曲(松重豊)・・・。
「おや・・・あなたは偽りの仮面をかぶってますね」
黒曲は青沼/白川に語りかける。
まあ・・・この世には偽りの仮面をかぶった人間しかいないわけだが・・・。
しかし・・・思うところのある青沼/白川は反駁する。
「どういう意味ですか」
「あなたはもう一人いるという意味ですよ」
「・・・」
意味ありげだが・・・お茶の間的には図星そのものである。
もちろん・・・単純に考えれば・・・猫旅館は黒曲に監視されているということである。
「青沼さん・・・アリバイについて伺いたい」
「私は・・・賽の河原町の猫旅館におりました」
青沼は二人にインタビューを開始する。
「私が知りたいのはチューリップ殺人事件に関することなのです。黒曲さん・・・あの時、あなたは二人が殺害されたことをどなたからお聞きになったのですか」
「今の消ノ原信用金庫三貴子支店支店長からですよ」
「安藤さんは・・・遺体はご覧になったんですよね」
「当然だろう」
「それは・・・チューリップになる前ですか」
「チューリップになる前・・・だと」
「そう・・・何者かがただの死体をチューリップにした」
「何を言ってるのかわからんね」
「あなたが・・・ただの死体を見ていなかったとしても・・・それをチューリップにする指示は出せた」
「何のためにそんなことをする必要がある」
「ただの殺人事件をチューリップ殺人事件に仕立て・・・世間を大騒ぎさせるためですよ」
「・・・」
「あなたは・・・そうやって・・・真奈美さんの横領の発覚を阻止しようとしたのでしょう」
「馬鹿馬鹿しい」
「しかし・・・実際に・・・事件のために・・・監査はうやむやになった」
「・・・」
「ついでに・・・あなたは事件そのものもうやむやにした」
「・・・」
「そういう・・・仕掛けをしたのは・・・黒曲さん・・・あなたでしょう」
「・・・」
「しかし・・・誤算があった・・・あなたの趣向が・・・まわりまわって・・・あなたの存在を暗示してしまったからです」
「ほお・・・」
「そもそも・・・チューリップはあなたの趣味だ・・・その証拠は川本写真館に残されている。そして・・・」
「よくわかりませんね」ととぼける黒曲。
そこで・・・何故か・・・突然、ヒステリックなフェミニストに変身するゲビヤマくん。
「よくわからないってどういうことよ・・・女性にあんなことをしておいて・・・ヒラリストが聞いてあきれるわ・・・あれは・・・癒しじゃなくて凌辱・・・あなたは女性を冒涜している」
「ゲ・・・ゲビヤマくん」
「女性の尊厳をなんだと思ってるのよ」
唖然とする三人の男たち。彼らは基本的に女性に尊厳があるとは思っていないようだ。
とにかく・・・ゲビヤマくんの場をわきまえぬ激昂によって青沼の見せ場は中断されてしまったのだった。
二人きりになり、我に帰るゲビヤマくん。
「すいませんでした」
「いや・・・いいんだ・・・写真館の川本さんが言うように女性にはつらい写真に君は耐えていたんだ・・・その忍耐力が時間差で限度を迎えた・・・それだけさ」
「・・・」
「だけど・・・これで・・・僕たちは・・・完全にこの町の敵になってしまったようだ」
「催し物について・・・公言したからですか」
「まあ・・・そうだね」
「・・・」
「ゲビヤマくん・・・君は東京に帰った方がいい」
「そんなこと・・・今更・・・言わないでください・・・私は先生から絶対に離れませんから」
「しかし・・・もう百冊目を書くことはできないんだぜ・・・だってそれはもう存在しているんだから」
「もはやそれは私には関係ないことです」
「じゃあ・・・単にずっと一緒にいるってことなの」
「私はそうしたいんです」
「・・・」
「・・・」
微妙な気持ちになる二人だった。
二人が捜していた甘粕は・・・二人を捜して消ノ原食堂「モアイ」にやってきていた。
「彼は・・・来ていないかい」
「電話をしてみたら」とアドバイスするモアイの川島芳香(町田マリー)・・・。
「してみたが・・・つながらない」
しかし、二人はモアイのすぐ傍まで来ていた。
だが・・・車でのりつけた消防団の三人組が襲いかかり青沼は拉致されてしまう。
「なんですか」
「いいから来い」
「やめてください」
追いすがるゲビヤマくんに連れ込まれた車中から青沼はカセットテープ型録音参号機「白虎」のワイヤレスマイクを掲げる。
モアイの店内では・・・煙草を燻らせて川島が素知らぬ顔で甘粕に問いかける。
「ねえ・・・まさか・・・真奈美を・・・あなたが殺したりはしないわよね」
しかし、甘粕は問いには答えず・・・川島の首を冷たく見つめるのだった。
そこへ・・・ゲビヤマくんが飛び込んでくる。
例のバッグから「白虎」本体をとりだし・・・アンテナを伸ばすのだった。
ものすごい出力による広範な有効範囲らしく・・・ワイヤレスマイクの発信した電波を本体はキャッチするのだった。まあ・・・霊界通信だからな。
「・・・作業小屋なんかでどうするつもりです」
拉致された場所を知らせる青沼だった。
その声を聞いた甘粕は血相を変えて店を飛び出すのだった。
作業小屋では・・・消防団トリオが青沼を弄っていた。
「これはかわいがりですか」
「真奈美を殺したのはお前だろう」
「僕じゃありませんよ」
「お前が・・・真奈美を見つけた」
「・・・」
「お前が・・・真奈美を町に戻した」
「・・・」
「そして・・・真奈美は死んだんだ・・・結果的に・・・お前が殺したってことだよ」
「・・・」
「お前は・・・その責任を感じないのか」
「・・・」
真奈美を愛していたらしい男たちの怒りは暴力となって青沼に襲いかかるのだった。
「笹川・・・やめろ」
制止したのは・・・笹川だった。
「しかし・・・」
「私がやめろと・・・言っているまだ」
指を立てて怪しい圧力を加える甘粕。
普通に考えると・・・元亭主の甘粕の方が・・・浮気相手の男たちよりも・・・主導権があるということになるわけだが・・・このドラマではそういうことにあまり意味はないよね。
とにかく・・・甘粕の異様な迫力に消防団トリオは気圧されて引き下がるのだった。
「助かりました・・・甘粕さん・・・あなたは彼らにも影響力があるのですね」
「もう・・・終りにしてください」
「何をですか」
「インタビューですよ・・・もう大体聞きたいことは聞いたでしょう」
「ええ・・・一つをのぞけば」
「ひとつ?」
「夷鈴子の青いネジですよ」
「まだ・・・わからないと・・・」
「わかりません」
「あなたは・・・他人の領域に侵入して・・・触れてはいけないところに触れている。どんだけ自由なんですか。世の中は・・・おかしいならおかしいままに、バランスが取れてるってことがあるんですよ・・・この部外者め」
つかみかかる甘粕は・・・触れてはいけないところに触れて・・・青沼のバランスを崩してしまうのだった。
たちまち・・・曝される白川という本体。
「え・・・」
「・・・」
「そんな・・・」
「・・・」
「あなたは一体何なのですか・・・」
健常人だと思っていた人が身体障害者だったと分かった時の表情で絶句する甘粕だった。
そこには人としての遠慮が垣間見えるのだった。
白川は甘粕の心理をひしひしと感じながら仕方なく開き直るのだった。
「ずっと申し上げているでしょう・・・私はただのインタビュアーですよ」
「・・・」
「さあ・・・行きましょう」
「行くって・・・どこへです」
「真実のあるところへです」
再び変身した青沼が甘粕と一緒に訪れたのは黒曲のいる場所だった。
「黒曲さん、まず結論から申しましょう・・・あなたはチューリップ殺人事件の・・・殺人者ではない」
「ほお・・・」
「あなたは催し物の写真を撮影させた」
「・・・」
「実に猥褻な写真です」
「・・・」
「そんな写真を思春期の若者が見逃すわけがない」
「・・・」
「写真館の川本さんの息子である消防団の川本は・・・恐ろしいほどの性的興奮を覚えた・・・猟奇的殺人事件に見せかけるための手伝いをさせられた川本は・・・咄嗟にその時の興奮を思い出してしまったのでしょう・・・」
「・・・」
「そして・・・思いがけずに・・・擬装された猟奇的事件をあなたと結びつけてしまったのです」
「奇妙な話ですな」
「あなたにとっては思いがけない展開だった。ただ・・・奇妙な事件にするように指示を出したのに・・・結果的に・・・あなたに疑いがかかりかねないチューリップ殺人事件が誕生してしまったのですから・・・」
「ふふふ・・・あなたは結局何も知り得ていない・・・いや・・・なぜ、ここに来たのか・・・その意味さえわかっていないようだ・・・結局、あなたは何を知りたいんですか」
「私は・・・」
「いや・・・もう一人のあなたがですよ」
そこで・・・甘粕が口を挟む。
「青沼さん・・・一つ知っておいてもらいたいことがあります」
「何でしょうか」
「私が生涯で愛した女性は・・・鈴子だけ・・・ということです」
その時・・・青沼は・・・ゲビヤマくんの危機を察知するのだった。
おそらく・・・ゲビヤマくんは悲鳴をあげていたのだろう。
三貴子の泉へ続く階段で・・・前後を謎の集団「おくりさま」にはさまれていたからである。
自分はどこかにおくられてしまう・・・とゲビヤマくんが蒼白になった時・・・青沼がかけつけるのだった。
「先生・・・」
「君は話の腰を折るために生まれて来たんだね」
「・・・」
見つめ合う二人。
その時、おくりさまの一人が青沼に囁く。
「もう一人いますよ」
茫然とする青沼。
日没引き分けらしく・・・二人は旅館に戻るのだった。
自宅に死体を偽装して帰宅する家族を驚かせるサプライズを成功させるために東京に戻ると言う編集長と名残を惜しむ女将の櫻井野薔薇(ふせえり)と番頭の蝉岡蟷螂(松尾スズキ)・・・。
そこで・・・編集長は・・・サプライズのために「白川の百冊目」を刊行したことを告白するのだった。
ゲビヤマは驚くが・・・青沼は閃くのだった。
「チューリップ殺人事件」と小説「チューリップ殺人事件」は全く無関係だった。
同様に・・・殺人事件とチューリップ殺人事件も無関係なのではないか」
「どういうことですか・・・」
「つまり・・・殺人者と・・・チューリップ殺人事件擬装犯は別人なのさ」
「つまり・・・もう一人いると・・・」
「そうだ・・・そして・・・もう一人とは・・・」
そこへ・・・甘粕が旅館にやってくる。
「甘粕さん・・・どうして・・・ここへ」
「犯人は私です」
はたして・・・甘粕は・・・いつ誰をどこでどうやって何のために殺したのか。
何一つ分かっていない・・・インタビュアーだった。
なぜなら・・・彼は真実には興味がないのだ。
それではなぜ・・・彼は何故と問うのだろうか。
もちろん・・・答えなどあるはずもなく最終回も謎に包まれるはずである。
そんなドラマをキッドや一部お茶の間の100万人くらいの人々が何故見続けるのかも謎なのだった。
関連するキッドのブログ→第8話のレビュー
シナリオに沿ったレビューをお望みの方はコチラへ→くう様の変身インタビュアーの憂鬱
| 固定リンク
コメント