真実、ときどきフェイク(中丸雄一)
ありのままの自分を愛してもらいたい男と・・・フェイクをこよなく愛する女の・・・すれちがいの物語である。
まあ・・・要するにメンクイの話である。
フィギュア・スケートはスポーツであるのに・・・優勝者よりもそうでなかった者の方が美しいという残酷で微笑ましい現実を示している。
キッドの中では・・・両者の表現していることは同じなのである。
すべては・・・アリエナイ美醜の話なのである。
で、『変身インタビュアーの憂鬱・最終回(全10話)』(TBSテレビ201312240028~)脚本・演出・三木聡を見た。案の定・・・何一つ、真実は暴かれることはなかった。すべては信用できない素晴らしいインターネットの世界の情報と同じように幻想の中に消えていったのである。とってつけたようなみせかけの真相には何の意味もないのである。醜い白川(中丸雄一)はゲビヤマくん(木村文乃)に愛されたかったが・・・ゲビヤマくんが愛したのは美しい青沼(中丸雄一=二役)だったのである。その譲れないラインを・・・最後まで越えられなかった白川は・・・青沼を消し去るしかなかったのである。
そして・・・白川は・・・やるせない気持ちを・・・虚構の心理学の妄想で紛らわせるのだった。
受容人格という怪しい言葉が・・・1940年代のドイツで起ったアルゲリヒト事件を怪しい例にとるのは・・・もちろん、政治的配慮である。
それは・・・集団心理の熱狂と・・・それを加熱させる先導者の関係を虚構化しているのである。
いわずと知れた・・・アドルフ・ヒトラー総統こそが代表的受容人格なのである。
ドイツ第三帝国の民意を受容し・・・世界を恐怖のどん底にたたきおとした「彼」のことをストレートに語ると・・・いろいろとお叱りを受けるからである。
昔、叱られたことがあるのでよく知ってます。
それはそれとして・・・「チューリップ殺人事件」の真相はなんとなく新たなる段階に入るのだった。
呪われた消ノ原町の「民意」は・・・集団的無意識の発露であるとも・・・異次元生物の生態であるとも解釈できる。
消ノ原町の住民は・・・全員で一つの生命体なのである。
だから・・・個人という・・・生命体の一部がガン化すれば・・・それは除去されてしかるべきものなのである。
甘粕(眞島秀和)は「全体」というもう一人の意志の具現者なのである。
当然・・・住民たちは皆・・・「個人/全体」の二重人格者なのである。
「チューリップ殺人事件」のあまり・・・意味のない全体像をまとめておこう。
1970年代・・・開発賛成派と反対派で民意の割れた消ノ原町・・・。
「もう一人の意志」を示す「おくり様」は・・・異端となった賛成派の夷鈴子(工藤綾乃)の父親を排除する。
残された鈴子は・・・復讐を誓い・・・超自然のパワーを解放する。
鈴子に好意を寄せていた同級生の石原真一(萩原利久→眞島秀和)は三貴子の泉を掘り起こした鈴子によって・・・呪いの刻印を受ける。
復讐者・鈴子と・・・裁断者・真一は・・・陰陽の交錯する激しい運命に翻弄されるのである。
やがて・・・おくり様に支配された真一はアマカスとなる。
一方で鈴子は・・・三貴子の泉に神秘性を持たせるために・・・黒曲(松重豊)を誘惑する。
三貴子の泉に依存する消ノ原町を作りだし・・・最後はその虚偽を暴き・・・消ノ原町生命体に痛手を与えるためである。
鈴子は裁断者であるアマカスさえもその支配下に置こうとしていた。
そのために・・・送りだされた楔が真壁真奈美(中村優子)だった。
真奈美はアマカスとの性的接触により・・・新たなる裁断者・・・石原完一(萩原利久)を身ごもる。
真一の若き日の姿が・・・完一と相似しているのは二人が父子だったからである。
楔により・・・鈴子の魔性の支配を一瞬逃れたアマカスは・・・1999年夏・・・鈴子と鈴子に扇動された阿波島翠(廣井ゆう)という二人の反逆者を消ノ原町生命体全体から切断し・・・殺害するのである。
消ノ原町生命体は・・・安藤刑事(光石研)や消防団に命じ・・・死体をさらに凌辱するのだった。
こうして静けさを取り戻した消ノ原町だったが・・・鈴子の怨念は・・・天狗野郎(森下能幸)や土肥原ゲットー(手塚とおる)ら「外世界」の人間に作用して・・・メッセージを発し・・・白川/青沼とゲビヤマくんを十四年後の夏・・・町に召喚したのであった。
二人は・・・その真相を解明するために・・・異世界に身を投じたのであった。
「青いネジ」はその封印を解く鍵なのである。
境界線(ライン)の監視者である消ノ原食堂「モアイ」の川島(町田マリー)はその一点のみを注視していた。
空気を読まないゲビヤマくんは排除されかかるが・・・「青いネジ」の封印を・・・青沼が決断したことにより・・・一命をとりとめる。
真一に鈴子を殺させた真奈美は・・・その罪に慄き・・・最初は街を出るが・・・結局は裁断者に身を委ねたのである。
すべては・・・個人と全体の不毛なもつれによるものだった。
個人的には・・・恐ろしいことだが・・・全体としてはとるにたらないことは・・・この世の本質なのである。
かくて・・・青沼/白川とゲビヤマくんの旅路は終わる。
白川は・・・敵意を引受けるという口実で・・・青沼とゲビヤマくんを引き離す。
白川は青沼ではなく・・・白川自身を愛してもらいたいのだ。
白川は・・・百冊目の小説を書きあげることで・・・ゲビヤマくんが白川を愛することを切望する。
しかし・・・そういう望みは叶わないのが・・・現実なのである。
ゲビヤマくんは・・・存在しない青沼を求め続け・・・永遠の黄昏を彷徨うことになるだろう。
それもまた・・・鈴子の呪いの成果なのかもしれない。
なぜなら・・・世界にはいつでもどこでも・・・個人と別の全体的なもう一人がいるのだから。
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