福家警部補の挨拶「お加減いかがですか?」(檀れい)
だが、今回は連作短編集として二作目の「福家警部補の再訪」(2009年)の「失われた灯」を原作とする。
実際は「失われた燭台」なのであるが・・・犯人が苦し紛れに口走る「失明の危機にある骨董屋が主人公」のミステリのタイトルが「失われた灯」なのである。
冒頭で「リンドバーグ愛児誘拐事件」にからむ「リンドバーグ関与説」が紹介されるが・・・これは「ゴシップ」というものの本質を示唆しているとも言える。
倒叙モノの原点の一つである「刑事コロンボ」の犯人は多くが社会的な成功者である。彼らは知力体力に恵まれ、財産や名誉を守るために「完全犯罪」を目論む。
その「トリック」を風采のあがらぬ移民系の下層民である刑事が見破り、彼らを栄光の座から引きずりおろす。
お茶の間はそこに快感を覚えるのである。
つまり・・・「スターのスキャンダルをリークするジャーナリズム」と同じ構図になっている。
当然のことながら・・・そこにはあさましい薄汚さがあるわけだが・・・本家「コロンボ」は「真実を追求する」という一点に置いて清冽であり・・・不純な動機を打ち消す。
亜流はそこを見落としがちなのである。
パクリの代表である「古畑任三郎」シリーズは主役の上品さがそれを救っていることは言うまでもない。
で、『福家警部補の挨拶・第1回』(フジテレビ20140114PM9~)原作・大倉崇裕、脚本・正岡謙一郞、演出・佐藤祐市を見た。脚本家がかなり拙いのでミステリとしてはもどかしい感じもするが・・・たとえば「うしなわれたひ」ではなくて「うしなわれたあかり」であるべきだ・・・演出もどちらかといえば耽美派なので・・・ますます、苦しい展開になっている。しかし・・・リピートしてみれば・・・探偵役である福家警部補(檀れい)の妄想がほぼ超能力のように殺人現場を再構成していることが分かる。つまり・・・正鵠を射ているのである。しかし、テレビドラマはそれではダメだと思う。
倒叙モノの基本は・・・善なる神による・・・犯罪者の失策の形成である。
それは犯人の性格と密接に関係している。
犯人は成功者であるために・・・自分に自信を持っている。そして・・・現代において成功者は能弁家なのである。
今回の犯人は・・・ミステリの脚本家である。だから・・・トリックには絶対の自信を持っている。そのために・・・うっかり口を滑らせる。
その「失策」の・・・さりげなさの按排が難しいのである。
「誘拐事件の渦中における正当防衛による殺人」と・・・ほぼ同時期に発生した「殺人放火事件」・・・この無関係な事件を結び付ける福家警部補の心の動きをもう少し見せないと・・・すべてが唐突に感じられ・・・あっと驚く結末がとってつけたものに感じられるのだ。
また・・・倒叙モノでは犯人の犯行方法はもちろんだが・・・動機なども冒頭で処理するのが基本である。
今回は・・・被害者が・・・「加害者のデビュー作が盗作であったことを知って恐喝をしていた」ということを曖昧にする必要は全くない。
そこを濁すことによって・・・加害者の完全に見える犯罪の輪郭がぼやけてしまうので・・・禁じ手なのである。
「デビュー作が盗作なんて知られたら・・・お前は破滅するよな」と骨董品屋(有薗芳記)が言う。
成功した脚本家の藤堂昌也(反町隆史)は死んだ友人の作品を盗んでいたのだ。
骨董品屋は・・・故人の生家の骨董を鑑定していて・・・故人の原稿を発見したのだった。
それを買い取るように要求する骨董屋。
追い詰められた藤堂は・・・自身のストーカーである俳優志望の男・三室(小林且弥)を利用してアリバイ工作を目論む。
三室に拳銃を調達させるなど・・・かなり・・・無理のある設定だが・・・とにかく・・・三室を新作に起用すると言って騙し・・・別荘で三室に監禁された態を装う。
三室が常用している精神安定剤で眠らせ、自分の事務所の事務員で愛人でもある大城加奈子(水崎綾女)に電話をかけ、録音した三室の声で誘拐を知らせる。
そして・・・骨董屋を殺しに出かける。
骨董品屋は誰かと電話で話している。
そこで・・・藤堂は骨董屋が・・・古びた器で「酒を飲んでいる」と思いこむ。
さらに・・・金庫には・・・「故人の原稿」がしまわれている。
この時・・・藤堂は見ないが・・・金庫から原稿が取り出され、古びた器がしまわれるのである。
原稿を手にした藤堂は・・・骨董屋を殺し、原稿もろとも家を焼くのだった。
そして・・・別荘に戻った藤堂は誘拐事件を捜査中の石松警部(稲垣吾郎)に居場所を探知させるための「身代金要求」の電話をかけてから・・・三室を挑発し・・・自分に暴行させておいて射殺するのである。
ものすごく偶然に頼った完全犯罪だったが・・・警察が突入してそれは成功をおさめたかのように見える。
しかし・・・放火殺人の現場に現れた福家警部補は鑑識の二宮(柄本時生)に問うのだった。
「この焼け残った金庫に入ってたもの・・・なんだと思う?」
「コップですか・・・」
「壊れた燭台よ・・・」
「お宝ですかね・・・」
「このサイン入りの脚本なんかも・・・そうですかね」
「へえ・・・誰なの」
「ミステリー・ドラマで有名な藤堂昌也ですよ」
「なるほど」
やがて・・・藤堂昌也を調べ出す福家・・・藤堂の郷里の故人の家から創作ノートを発見し・・・燭台の取引先を捜索する。
そして・・・「コップ」の写真を藤堂に見せるのだった・・・。
うっかり・・・それを「器」と言ってしまう藤堂だった。
「失敗だったな」
「いいえ・・・あなたの失敗は・・・友人のアイディアを盗んだことですよ・・・そんなことをしなくても才能あったのに・・・」
「認めたくないものだな・・・若さゆえのあやまちというものを・・・」
「であるか」
藤堂と加奈子の情事のサービスくらいは欲しかったな。
まあ・・・茶碗を割ったあたりが水崎綾女の最大の脚線美の見せ場か・・・。
原作ものなのでもう少しプロットを練るべきだと考えます。
関連するキッドのブログ→永作博美の福家警部補
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