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2014年1月28日 (火)

テロリストのすゝめ~足尾から来た女(尾野真千子)

おそろしいドラマである。

国家の無慈悲な政策の結果、家も仕事も家族も失った女が・・・国家を指導する立場にあった人間に訴えかけ、聞きいられずば石を投げるのである。

石を投げられるのが原敬なのである。

大正10年(1921年)原敬は高等小学校中退の転轍手・中岡艮一に刺殺される男だ。

ドラマでは・・・足尾から来た女は鉱毒で母親を殺されたと感じ、原敬は仇であるかのように描かれるし、足尾銅山からの鉱物によって弾丸が作られ、二百三高地帰りの女の兄は・・・戦争に勝ち、生き残ることができたのは・・・憎むべき鉱山のおかげであったとバランスをとるものの・・・。

不満があったら食物に毒を入れるのも正義だ・・・という話である。

このドラマに比べたら、虐待されているドラマ「明日、ママがいない」なんて・・・絶対安全カミソリのようなものだな。

で、『足尾から来た女・前・後編』(NHK総合20140118PM9~)脚本・池端俊策、演出・田中正を見た。もちろん、だからといってこのおそろしいドラマを即刻放送中止にしろなどとはキッドは言い出さない。なにしろ、素晴らしいドラマなのである。人間の不完全さ、どうにもならない矛盾、そして、それでも、生きていくという宿命。そういうあれやこれやを歴史的事件や歴史的人物をちりばめつつ・・・フィクションとして描きあげていく。ドラマの王道をまっしぐらなのだな。

だが・・・このドラマとて・・・まるで原敬を極悪人のように描いていたり、石川啄木が足尾から来た女とキスしたり、土民主義者の石川旭山が足尾から来た女を強姦しようとしたり・・・と嘘八百が誤解を招くような表現を展開していると言えなくもない。

けれども・・・それが表現するということなのである。

もちろん・・・原敬(國村隼)は「銅山閉じてください」と主張する女・サチ(尾野真千子)に「県知事に言え」とアドバイスした後で女に足尾の美しい石を投げつけられるが・・・振り返って苦笑するのみの実にジェントルマンとして描かれている。

しかし・・・それが伝わらない一部お茶の間は必ず存在する。

この「原敬」の慈愛が伝わらないと・・・このドラマの深みは理解できないのだが・・・それを理解しないのが庶民というものなのである。

ところで・・・このドラマは「文盲」ものである。

サチは・・・なんとかひらがなは読めるが・・・漢字は読めない無教養な女なのである。

キッドは「文盲もの」が大好きなので・・・この一点でもこの作品を高く評価するのだった。

このドラマの屈指の名場面は・・・社会主義者・福田英子(鈴木保奈美)の家で国会議員だった田中正造(柄本明)の言動について密偵することを強要されたサチが・・・警察官僚の日下部(松重豊)に「文盲で悲しかったこと」を漏らす件である。

「私の兄は神童と呼ばれた人でした。日露戦争で大陸に出征したのです。戦地から兄は手紙を書いてくれました。でもその手紙を私は読めなかった。父ちゃんも母ちゃんも読めなかった。何が書いてあるのか・・・あんなに知りたかったことはない。でもオレにできたのは手紙を抱いて眠ることだけだったんだ・・・」

これは泣ける。しかし、兄(岡田義徳)は妹がひらがなは読めるのを当然、知っていたはずなので・・・ひらがなで書けばよかったのに・・・とは思うのだった。

まあ・・・映画「プリティーリーグ」の女子プロ野球選手だけど・・・自分の名前も書けない女が・・・所属チームの名前も読めなくて・・・全員が去った後に泣きながら取り残された件、映画「ドライビング Miss デイジー」の黒人運転手が・・・墓碑銘が分らないので・・・墓参りしたい墓にたどりつけない件にはまだまだおよばないと考える。

とにかく・・・石川啄木(渡辺大)が26歳で死ぬ二年前に・・・「我が最近の興味」において・・・。

私は毎日電車に乘つてゐる

此電車内に過ごす時間は、色々の用事を有つてゐる急がしい私の生活に取つて、民衆と接觸する殆ど唯一の時間である。

私は此時間を常に尊重してゐる。

出來るだけ多くの觀察を此の時間にしたいと思つてゐる。

――そして私は、殆ど毎日のやうに私が電車内に於て享ける不快なる印象を囘想する毎に、我々日本人の爲に、竝びに我々の此の時代の爲に、常に一種の悲しみを催さずには居られない。

――それらの數限りなき不快なる印象は、必ずしも我々日本人の教化の足らぬといふ點にばかり原因してはゐない、我々日本人が未だ歐羅巴的の社會生活に慣れ切つてゐないといふ點にばかり原因してはゐない。

私はさう思ふ。

若しも日露戰爭の成績が日本人の國民的性格を發揮したものならば、同じ日本人によつて爲さるゝそれ等市井の瑣事も亦、同樣に日本人の根本的運命を語るものでなければならぬ。

・・・と綴っていたことは申し上げておきたい。

美しい輝きがひとつおこる度に・・・何人か・・・何百人かの人々が確実に宇宙の塵となっていく・・・。

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