君(多部未華子)をあきらめるための時間(三浦春馬)
もうすぐ必ず死ぬ恋人になってしまったら・・・どうしたらしいいだろうかと。
恋人のいない人は悩まなくていいので幸いである。
何不自由なく育ててくれた親に何一つ恩返しできない身体になってしまったら・・・どうしたらいいだろうか。
両親のいない人は悩まなくていいので幸いである。
働くことができなくなってしまったら・・・どうしたらいいだろうかと。
仕事のない人は悩まなくていいので幸いである。
もうすぐ死ぬという甘美な現実。
明日、あなたがいないということ。
で、『僕のいた時間・第3回』(フジテレビ20140122PM10~)脚本・橋部敦子、演出・葉山裕記を見た。主治医の谷本医師(吹越満)が登場していよいよ・・・終りの始りである。「死」についてどう向き合うのかはまさに個人的な問題だが・・・フィクションでは不特定多数の人がそうであるだろうというキャラクターを造形することが肝心であることは言うまでもない。善人過ぎず、悪人過ぎず、恵まれ過ぎず、不幸過ぎず、失うものが多過ぎず、少なすぎず・・・この脚本家はそういう設定においては名人級と言っていいだろう。
そして・・・移ろいやすい心と・・・変わらぬ思いの見事なバランス。
今季の水曜日の午後十時は特異点ともいえる濃密な対決となっている。
名作ドラマとして一歩も譲らない白熱の対峙。
録画システムの発達した時代で本当によかったと思う。
・・・僕は素晴らしいインターネットの世界を呪う。
こんなに簡単に残酷な病気について自己診断ができるなんておかしいじゃないか。
僕は自分の知性を呪う。検索の方法を知っていることを怨む。
僕は接続できる環境を呪う。端末とつながっている世界を呪う。病気ではないすべての人間を呪う。
前座の形成外科医(西山聡)から・・・真打ちの神経科医(吹越満)を紹介されるまで・・・僕は執行猶予の時間を与えられる。
明日のことなんてわからない僕と、もうすぐ死ぬかもしれない僕の中間地点。
最高の恋人・本郷恵(多部未華子)の家庭訪問。
君のお母さん(浅田美代子)の手料理はおいしい。
特に唐揚げは・・・。
「僕のお母さんも僕が落ち込むと唐揚げ作ってくれたよ・・・僕の大好物だったから。だから唐揚げが食べたくて落ち込むふりをしたりした」
「食べたいって言えばいいのに・・・素直じゃないんだから」
そうだよ・・・僕は素直じゃないし・・・不治の病かもしれないんだ。
僕は夢と現実の境界線を彷徨ってふわふわと浮いているような気分になる。
繁之先輩(斎藤工)の前で身体の自由が失われて行く。
職場でも力仕事が出来なくなってしまう。
背が高いのに・・・高い所に手が届かない。
このまま・・・僕は何もかも失って行くのだろうか。
まあ・・・いいや・・・どうせ最後には何もかも失くしてしまうのが・・・人生だもの。
子供の頃、あんなに優しかったお母さん(原田美枝子)が今ではそれほどでもないように。
ついに真打ちが登場する。
僕の人生を専門的な知識で診断する・・・その道の権威。
藁にもすがる僕の思いを一つずつ正確に打ち砕いてくれる神の使者。
「家族がいらっしゃらないのであれば・・・直接申し上げるしかありません。あなたは治療方法が確立されていない病気と診断されました」
「ALSですか」
「そうです・・・大切なのは・・・びょおおおきにつういいてえたあだあしいいくうううりいいいかあああいいいいいいいいしいいいいいいいいてええええええええええええほおおおおおおおんきいいいいいいいいいいでええええええええむきあって」
僕は認めたくなかった。
僕のお父さん(小市慢太郎)は立派なお医者さんだ。
立派なお医者さんの息子がそんな難病指定された病気になんかなるわけないでしょう。
「どうした・・・珍しいな」
「お父さん・・・誤診ってしたことある」
「なんだ・・・突然」
「誤診の確率ってどのくらいあるものなの」
「少なくとも私は一度もしたことないから・・・今の処、ゼロパーセントだよ」
そうか・・・僕が死なない確率はゼロパーセントですか。
君と僕とバカップルカップに残された時間は少ないらしい。
僕は・・・君と・・・楽しい時間を過ごすことにした。
僕ができる限りの楽しいことって温泉旅行に行くくらいのことだけどね。
友達の守(風間俊介)をうらやましがらせてやる。
だって・・・お前より僕の方が残された時間が少ないなんて不公平じゃないか。
湯けむりが隠す僕の秘密。
湯船に揺れる君の白い肌。
幸せそうな君に僕は今、残酷なことをしている。
でも・・・いいだろう。
君より僕の方が選択肢が少ないんだ・・・きっと。
お医者様でも草津の湯でも治せない病気があります。
君をこんなに抱きしめても。
僕がこんなに抱きしめられても。
君を哀しませたくない。
君を哀しませたくない。
君を哀しませたくない。
だけど。
ついに・・・ペットボトルのふたをあけるのも困難になってきた。
こうなったら・・・一生分のペットボトルのふたをあけるしかない。
一生分だってたいしたことはないだろう。
そんな奇妙なことをする兄さんでごめん。
僕より優秀だけど友達がいない弟(野村周平)は呆れたような顔をする。
僕は見た。
ベッドの上で呼吸器をつけて喋ることもできない筋萎縮性側索硬化症の患者を。
僕の未来の姿。
胸に湧き上がる嫌悪感。
僕もやがて誰かにこうして嫌悪されるのだ。
隣の小学生・桑島すみれ(浜辺美波)は僕に気があるらしい。
ごめんね・・・君が大人になる頃に僕はもういないと思うよ。
「僕の死刑執行はいつですか」
「死刑囚に自分をたとえる患者ははじめてです」
「僕はいつごろ死ぬんですか」
「病気の進行には個人差があります」
「おかしいじゃないですか」
「・・・」
「診断が難しい病気だっていうじゃないですか」
「症例が少ないので・・・専門医も少ないからです。しかし、私は専門医です」
「僕は・・・確かにいい加減に生きてきました。今が楽しければいいと思ったからですよ。嫌なことはなるべく考えないようにして・・・親とも距離を置いて・・・恋人とだって将来の心配までしていないし・・・でもようやく正社員になれたんです。これから僕の本気の人生をはじめようかって・・・」
「・・・」
「僕は見たんです・・・僕と同じ病気の人・・・」
「・・・」
「あれで・・・生きてるって言えるんですか」
「・・・」
「いいんですけどね・・・僕には大切なものんてないし・・・やりたいこともないし・・・僕がいなくなって困る人もいない・・・僕なんていてもいなくても変わらないから」
「・・・」
「じゃ、帰ります・・・」
「・・・お大事に」
君を哀しませる。
君を哀しませる。
君を哀しませる。
介護のアルバイトをして・・・人の役に立つことがうれしそうな君。
そんな君を哀しませるためだけに出会った僕。
上京したお母さんが弟のために作った唐揚げの残りを食べる。
そんなに卑下することはないか。
お母さんは少しは僕のためにも作ってくれたはずだ。
お母さん・・・唐揚げ・・・美味しいよ。
お母さん・・・僕はあなたを哀しませるよ。
お母さん・・・お母さん・・・お母さん・・・。
「助けてよ・・・」
僕は一人で泣いてしまった。
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