はじめての花と草野球と満天の星空(宇野愛海)
世の中には争いごとが嫌いな人がいるらしい。
そういう人には穏やかな日々が何よりなのだ。
世の中には争いごとが好きな人がいるらしい。
そういう人には穏やかな日々は退屈なもの。
だけど・・・勝ったり負けたりしても穏やかに過ごせるし、毎日が戦争でも退屈は感じるのかもしれない。
世の中が間違っていると決めつける人はテロリストになりやすい。
世の中のすべてを受け入れる人は奴隷になりやすい。
テロリストでも奴隷でも幸せならばいいじゃない。
で、『なぞの転校生・第2回』(テレビ東京201401180012~)原作・眉村卓、脚本・岩井俊二、演出・長澤雅彦を見た。・・・なんで前フリがポエム風なんだよ。心が洗われたような気がしたものですから・・・。気のせいだよっ。いよいよ・・・謎の転校生となる山沢典夫(本郷奏多)が登場である。泥土に覆われた少年は・・・瓦礫に覆われた滅びた世界からの使者・・・そして・・・人類の黄昏が今・・・始りました。
朝焼けがまぶしい・・・滅びかけた人生を生きる江原正三(ミッキー・カーチス)は見知らぬ闖入者に驚く。
「お前誰だ・・・」
しかし、ひび割れた石膏で固められたような少年は答えない。
認知症を発症している江原老人は認知しかねる灰色の世界を喘ぐように移動して隣人に危機感を伝えようとする。
「知らない誰かがいる」
「はあ・・・」
しかし・・・危機というものを知らない主婦である岩田君子(濱田マリ)の反応は鈍い。
「若い奴なんです」
「お孫さんじゃないんですか」
「孫・・・あんな孫はいなかったと思うけれど・・・」
江原老人は自信を失う。孫を忘却してしまっただけかもしれない。失われて行く記憶の海で溺れかけている認知症患者の不安と孤独と焦燥。
所詮他人事である・・・江原老人を追い払った君子は家族に朝の話題を提供する。
「隣のおじいちゃんにも困ったものねえ」
「おい・・・広一・・・そういう施設のこと・・・調べたか」
面倒なことを誰かに押し付けたい亭主の岩田亨(高野浩幸)は息子に矛先を向けるのだった。
日曜日だから・・・のんびりしたいのである。
「ええっ」と広一(中村蒼)は中途半端な態度で応じるのだった。父親がのんびりしたい気持ちも分かるが・・・自分ものんびりしたいのである。
なんてったって日曜日なのだ。
そこへ・・・世が世なら盗撮犯として警察に厄介をかけているかもしれないクラスメートの大森健次郎(宮里駿)から「草野球の誘い」の連絡が入る。
痴呆化した老人の世話と・・・友人との付き合いを天秤にかけた広一は後者を選択するのだった。
老人の部屋で入浴し、老人の衣装で身だしなみを整えたなぞの少年は目を不気味にチカチカと発光点滅させながら部屋を出る。
そして広一と遭遇するのだった。
「君は・・・」
「インストール中なので・・・外出は禁じられているのだが・・・逸る気持ちが抑えられない」
「え・・・」
「そういうことなのさ」
「どういうことなんだ・・・」
どこか・・・狂気を感じさせる少年の態度に・・・穏やかに応じる広一。
母親に似て危機感に不足を感じるタイプである。
「つまり・・・時間が足りないのだ」
「忙しいってこと・・・お隣の人ですか・・・」
「・・・孫です」
「ああ・・・そうなんだ」
納得して通り過ぎようとする広一。
「君・・・」
遠くを見ながら語る謎の少年。
「僕・・・」
「そうさ・・・君に話しかけている・・・」
「そうなんだ・・・」
「君は何者だ」
「いや・・・となりの者ですけど」
「隣・・・」
「うん」
「・・・」
突然、歩きだす謎の少年。マンションを出た少年と広一の向かう方向は同じだった。
「なぜ・・・ついてくる」
「いや・・・向こうに用があるんだ・・・」
「じゃ・・・お先にどうぞ」
妙な奴だと思うものの・・・広一は大森の待つ野球場に向かうのだった。
謎の少年は相変わらず・・・尋常ではない光を目から発しながら・・・街を眺める。
そして・・・運命に導かれ広一の幼馴染である香川みどり(桜井美南)の店に向かうのだった。
「あの花屋の子、ちょっと吉高由里子に似てないか」
「いや・・・土屋太鳳っぽいんじゃないか」
「どっちかっていうと沢尻エリカじゃないの」
「結局、一重っぽい美少女で微妙な感じの人多いよね」
「そうかなあ」
ぶつぶつとつぶやく通りすがりの人々をやりすごし店内に入るなぞの少年。
「いらっしゃいませ」
「素晴らしい・・・」
「・・・」
「素敵だ・・・」
「プレゼントですか・・・それともお見舞いかしら・・・」
「この花は・・・本物ですか」
「もちろんですよ・・・」
思わず花に見入る少年。
見知らぬ少年の横顔に・・・思わず見入るみどりだった。
「ガーベラなら・・・いろいろな色がそろってます・・・」
「色・・・」
「適当に選んで花束をお作りしますか」
「花束か・・・いいですね」
「他には何か・・・お好きな花がありますか」
「好きな花・・・」
「月並みですけど・・・薔薇とか」
「薔薇・・・美しい花ですね」
「どうでしょう」
「とても綺麗だ」
「1500円になります・・・」
「おカネはありません」
「ローマの休日・・・」
その時、急によろける少年は・・・みどりにもたれかかる。
「すみません・・・まだインストール中で・・・バランスが悪いのです」
具合が悪いのかとは聞かない・・・みどりだった。
なぜなら・・・すでに・・・少年の美しさにうっとりしているからである。
「これ・・・」
みどりは白い花を一輪差し出した。
「どうぞ・・・」
微笑んで少女の贈り物を素直に受け取る少年。
ホストクラブなら爛れた情事の幕開けだが・・・少年ドラマシリーズなので仄かな恋の始りである。
まあ・・・本質的には全く同じなわけですが・・・。
みどりは・・・基本的に・・・危うい女の子なのです。
密かに好意を寄せている幼馴染のみどりが一足早く大人の階段に足を踏みかけているのにのほほんと草野球に参加する広一だった。
なぜか・・・クラスメートの春日愛(宇野愛海)も参加しているのだった。
この間の校舎探検といい・・・まさかと思うが愛と盗撮魔は付き合っているのかとざわめくお茶の間である。
「なんで愛がいるのさ」と思わずお茶の間の気持ちを代弁する広一だった。
しかし・・・広一が入ってもまだ一人足りない大森チームである。
そこへ・・・花を一輪持った少年がやってくる。
「おい・・・君」
「僕・・・」
「野球をやらないか」
「野球・・・」
その時・・・少年は見慣れぬ機種のスマートホンを操作する。
「野球か・・・」
「やったことあるだろう」
「やったことはないがルールは知っている」
少年は花を広一に渡しバットを持って打席に入る。
相手チームにとっては待ちかねたプレーボールである。
そして・・・初球をとらえてホームランを放つ少年だった。
唖然とする一同。
しかし、少年は動かない。
「おい・・・ホームランだよ・・・」
「ホームラン」
「ダイヤモンドを一周するんだ」
「宝石を・・・」
「本当に知らないのか・・・ヨーロッパ人かよ」
「・・・」
少年の手をとって一塁に向かう広一。
その光景に・・・。
「なんて絵面だ」と叫ぶ愛だった。
一部腐った愛好家熱狂である。
試合は・・・大森チームの勝利で終わった。
「野球とは不思議なゲームだな」
「そうかい・・・」
「勝って喜んでいるものもいれば負けて口惜しがっているものもいる」
「ゲームってそういうものじゃないのか」
「他人とゲームをして勝敗を決めたらもはや戦争と同じだ」
「いや・・・それはちょっと・・・」
「ちがうのか」
「たとえ・・・君がヨーロッパからの帰国子女だとしても・・・そう・・・サッカーだってあるだろう」
「サッカー」
思わず・・・少年は端末を操作する。
「それ・・・見慣れないスマホだね」
「モノリスだ」
「聞いたことないな・・・どこで買ったの」
「売ってはいない・・・生まれた時に配布されるのだ」
「・・・」
「すまない・・・インストール中なので・・・言葉が不自由だ」
「ああ・・・それで君は・・・」
「孫だ・・・」
「これから・・・おじいさんと暮らすのかい」
「・・・そうだよ」
「じゃ・・・学校は・・・」
「学校?・・・」
「どこかに転入するのかい・・・」
「学校があるのか・・・ヒメが喜ぶな」
「姫?」
「ヒメは学校にいったことないから・・・」
「・・・」
その時・・・インストールは終了した。
「いろいろと・・・教えてくれてありがとう」
「いや・・・そんな」
「僕は・・・山沢典夫だ」
変な奴だと思ってたら急にまともになったな・・・そこがやはり変か・・・。
広一はのんびりと考えるのだった。
しかし・・・帰宅した典夫は本性を現すのだった。
とてもこの世界の携帯端末とは思えないモノリスを操作すると・・・江原老人の思考を調整するのだった。
「こいつは・・・脳が破損しているな・・・すこしボルテージあげるしかない」
江原老人は・・・認知症患者ではなくなった。
「山沢典夫様・・・なんでもお申し付けください」
江原老人は忠実な下僕となったのだった。
そして・・・江原老人を・・・東西山高校の理事長の家に派遣する典夫。
理事長の寺岡(斉木しげる)もたちまちモノリスによって洗脳されてしまうのだった。
典夫の潜入工作が開始されたのである。
任務を終えて帰還する江原老人。
典夫は命ずる。
「見上げてごらん・・・夜空の星を」
「満天の星空です」
「美しいかい」
「美しい・・・星空は美しい・・・あはははははは」
夜の野原を笑いながら走る・・・ロボットのような爺が一人・・・。
踊るように闇に消える。
恐るべき侵略のはじまり・・・。
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