次元をかける少女(杉咲花)まぼろしの両思い(桜井美南)あかつき作戦(佐藤乃莉)
少年ドラマシリーズ(NHK)のスタートは「タイムトラベラー」(1972年)で原作は言わずと知れた「時をかける少女/筒井康隆」である。
そのために・・・少年ドラマシリーズといえばSFジュヴナイルの印象があるが実は内容は様々なジャンルに渡っている。
小林信彦原作の「怪人オヨヨ」もあるし、「風の又三郎」や「長くつ下のピッピ」などの児童文学原作、星新一はSFではなくてミステリの「気まぐれ指数」だったりする。
その中で・・・光瀬龍原作の「暁はただ銀色」「夕ばえ作戦」「明日への追跡」と並び・・・中核をなすのが・・・眉村卓原作の「まぼろしのペンフレンド」「未来からの挑戦(ねらわれた学園)」そして「なぞの転校生」である。
原作にはそれぞれ・・・素晴らしいオリジナルティーがあるが・・・少年ドラマとしての「タイムトラベラー」と「なぞの転校生」にはいくつかの共通点がある。
それはヒロインの乙女心の揺らめきと・・・幼馴染と異邦人を対象とする三角関係である。
「タイムトラベラー」では未来から来た少年への恋慕が前面に押し出されるが、実はヒロインは幼馴染との思い出の記憶を操作され・・・本来の相手ではないものを恋慕してしまう仕掛けになっている。
「なぞの転校生」はその進化系で・・・幼馴染との淡い初恋が・・・より魅力的な異邦人の登場で揺らいでいくという明確な三角関係を構成しているのである。
本来なら・・・中学生だろうと高校生だろうと肉体関係が生じ、修羅場に発展するわけだが・・・ドラマはもちろん・・・そこをオブラートに包んでいく。
二人の男の子を好きになって困惑する少女のときめきや・・・初恋の人を見知らぬものに奪われそうになる少年のもやもやが・・・少年少女の心をくすぐるのである。
本格的にくすぐってきた・・・今回。
子供から大人までクスクスしながらうっとりするといいと思う。
で、『なぞの転校生・第6回』(テレビ東京201402150012~)原作・眉村卓、脚本・岩井俊二、演出・長澤雅彦を見た。ショパンの存在しないD12世界への局地限定的侵略を開始するなぞの転校生・山沢典夫ことモノリオ(本郷奏多)・・・D12世界の高校生・岩田広一(中村蒼)の幼馴染・香川みどり(桜井美南)が回想風モノローグで語る「来たるべき日」がついに到来する・・・。
原作には登場しないが、少年ドラマシリーズでは異次元人の徴として登場する★(星型)の痣。ドラマ24版では・・・人格改造装置・アステロイドとして登場である。
侵略の拠点となった江原正三(ミッキー・カーチス)の部屋で・・・モノリオに・・・社会不適合者として認定された男たちは・・・モノリオの使い捨て使用人として改造されている。
知的物質モノリスを利用したモノリオの世界では・・・人類は禁断の領域にまで発達したテクノロジーが存在するのである。
アステロイド使用奴隷一号となった殺人者・冴木(碓井将大)はモノリスによって活性化した江原老人とともにモノリオの支配下に置かれるのだった。
社会的に不適合な悪の因子を持った冴木に魅了されていた女子高校生・咲和子(樋井明日香)は消息不明となった彼を求めて・・・今日も不良たちのたまり場だったひび割れた壁のある屋上に姿を見せる。
「冴木・・・どこへ行っちゃったんだ・・・」
そこへ・・・女友達が・・・冴木の目撃情報をもたらすのだった。
恋する乙女は冴木の元へ駆けつける。しかし・・・そこにいたのは・・・江原老人とともに買い物袋を提げた妙に大人しい冴木だった。
「冴木・・・何やってんだよ」
「買い物ですけど」
「ですけど・・・って・・・このじじい、誰だよ」
「山沢くんのおじいさんです」
「山沢くんって・・・」
「知ってるだろう・・・山沢くん・・・」
「・・・」
「ほら・・・一昨日、僕が屋上から突き落としたあの山沢くんだよ」
「ぼ、僕って・・・」
「山沢くんが死なずにいてくれたおかげで・・・僕は人殺しにならずにすんだんだ」
「お前・・・本当に冴木なのか・・・喋り方がいつもと全然ちがうじゃねえか」
「僕は生まれ変ったんだ・・・すべてし山沢くんのおかげさ」
「どういうことだよ・・・」
「今度、山沢くんの家に引っ越ししてくる人がいて準備が大変なんだ・・・だから、せめてもの罪滅ぼしに・・・こうやってお手伝いをしているんだよ」
「冴木・・・お前・・・どうにかなっちゃったのか・・・」
「どうにもならないさ」
「おかしいだろうっ」
思わず・・・買い物袋を叩き落とす咲和子。
「だめだよ・・・食べ物を粗末にしちゃ・・・」
落ちたものを拾う冴木の首に★を発見する咲和子。
「なんだよ・・・これ・・・」
「痛いっ」
「え・・・」
「とにかく・・・僕は君にもひどいことをしたことがあるから・・・今度、謝るよ。でも、今は買い物を山沢くんの家に届けなければならないのです」
「なんなんだよ・・・どうなっちゃってんだよ・・・わけがわかんねえよ」
仕方なく、冴木を追跡する咲和子だった。
江原老人の住居の前に巨大なトラックが停車していた。
モノリオの奴隷となった街の不良たちは次から次へと荷物を江原老人の部屋へ搬入していた。
奇妙なことに・・・巨大なベッドまでが・・・それほど大きくない老人の部屋の扉を通過していく。
そして・・・老人の部屋のスペースには到底おさまりきれない物品が・・・次から次へと運びこまれて行くのだ。
しかし・・・咲和子は・・・そのことに気がつかず・・・作業を監督するモノリオと鎌仲才蔵(葉山奨之)に目を留めるのだった。
「おい・・・これ・・・どういうことだよ」
「やあ・・・君か」
「なんで・・・あいつらが・・・お前の手下になってんだ」
「おいおい・・・山沢はあいつらを手下になんてしてないぞ・・・あいつら、喜んで仕事してるよ・・・なんていうか・・・山沢に惚れたんだな」
「なにいってんだ・・・サイゾー・・・お前もおかしくなっちゃったのか」
「なんでだよ」
「急に・・・山沢と仲良くなるなんておかしいじゃねえか」
「俺は・・・山沢とダチになったんだよ・・・みんなだってそうさ・・・ようするに・・・目覚めたんだ・・・」
「何に目覚めたんだよ・・・お友達ごっこか・・・」
「だから・・・本当にダチになったんだよ・・・見りゃ・・・わかるだろう」
「そんなバカなこと信じられるかよ」
「お前・・・本当にさびしいやつだな」
「お前にいわれたくねえよ」
二人のかみ合わない口論をよそにモノリオは告げる。
「ちょっと出かけてくる・・・後は頼んだよ」
「まかせておけ」
モノリオは冴木を連れてその場を離れる。
咲和子は男たちの首筋に★があるのに気がついていた。
「おい・・・サイゾー・・・ちょっと首を見せろ」
「なんだよ・・・お前・・・まさか・・・俺に」
「違うよ・・・ない・・・お前はないのか」
「なんの話だよ・・・」
咲和子は何か・・・想像を超えた出来事が起きていることに気がついた。
しかし・・・それが何かを理解することはできなかった。
モノリオと冴木は・・・この町の実質的な支配者であるサイゾーの父親・鎌仲龍三郎(河原さぶ)の経営する鎌仲商事へやってきた。
冴木だけがロビーの受付を訪ねる。
受付嬢(皆川舞)は来訪者としては奇妙な少年に笑顔で応ずる。
「何か御用でしょうか」
「僕は・・・鎌仲会長のご子息のサイゾーくんの友人です・・・鎌仲会長に会いたいのですが」
「少々、お待ちください・・・」
やがて・・・会長の意を受けたらしい鎌仲商事常務の笹井(野口雅弘)が現れる。
「失礼ですが・・・どのようなご用件でしょうか」
しかし・・・冴木はモノリスを取り出していた。
モノリスによる閉鎖空間が形成され・・・空間内の人格は情報操作の対象となるのだった。
「会長室はどこか?」
「44階にあります」
「会長はいるのか?」
「はい・・・しかし・・・入室には虹彩認証が必要です」
「君の虹彩は登録されているか?」
「はい」
モノリスは笹井の虹彩を瞬時にコピーした。
もちろん・・・屋外からモノリスを通じて冴木をコントロールしているのはモノリオである。
東西山高校2年3組ではのどかに・・・不在の山沢典夫が話題になっていた。
「山沢くん・・・今日も欠席だよ」と春日愛(宇野愛海)・・・。
「なんだか・・・おかしいよな・・・あいつ・・・」と大森健次郎(宮里駿)・・・。
「別におかしくはないと思うけど・・・ちょっと心配よね・・・ムーくん、帰りに一緒に寄ってみない・・・山沢くんのとこ・・・」とみどり。
「うん・・・」と広一。
みどりと広一は山沢が屋上から落下して無事だったという奇妙な話を聞いていた。
しかし・・・実際にどうだったかについては半信半疑である。
話の出所が・・・不良の咲和子だったからである。
そして・・・広一はその後に驚くべき光景を目撃するがその記憶は消去されてしまったのだった。
だが・・・二人の感じる山沢典夫に対する違和感は微妙にずれている。
転校生の奇妙な行動については・・・クラスメートたちも不信感を募らせていた。
ホームルームで担任の大谷先生(京野ことみ)に山沢の不審な行動を問う声があがる。
「あの転校生・・・このままでいいんですか」
「授業を平気で抜け出すし、欠席ばかりだし」
「理事長の親戚で・・・入学試験もフリーパスだったとか」
「ま・・・どうでもいいんですけどねえ」
大谷先生は人格制御された寺岡理事長(斉木しげる)の説明を生徒に伝える。
「山沢くんは理事長の親戚ではないそうよ。入学試験を受けて合格したけれど・・・健康的な問題で・・・これまで通学ができなかったそうです。学力的には二年に編入しても問題ないことはみんなも知っているわよね。これはプライベートなことなので・・・あれなんだけど・・・学校を休みがちなのは・・・健康的な問題がまだ解決していないということだということ・・・そのあたり・・・みんなもくんであげるといいと思う」
みどりは問題が解決したような気分になり・・・思わず拍手するのだった。
数人の生徒たちが拍手に加わる。
しかし・・・広一は拍手の輪に加わることができなかった。
山沢のことが気になるのか・・・山沢を庇うみどりのことが気になるのか・・・。
広一は自分の気持ちを持て余す。
そそくさとSF研究会の部室にこもったムーくんこと広一をみどりが追いかける。
「どうして・・・拍手してくれなかったの」
「・・・あんなの茶番だもの」
「茶番って・・・どういう意味・・・」
「入学試験に合格したなんて・・・あいつは・・・俺に会うまで・・・この学校の存在すら知らなかったんだぜ」
「なんだか・・・冷たいのね。ムーくん・・・山沢くんのこと・・・どう思っているの」
「変なやつだ」
「変って・・・」
「屋上から落ちてピンピンしている奴が・・・健康に問題があるってどういうことだよ」
「・・・そのこと・・・みんなに言ってないでしょうね」
「みどりが言うなって言うから・・・言ってないよ」
「これ以上、変な噂がたったら可哀想だもの」
「みどり・・・君は山沢の事が好きなのか」
「・・・そんな・・・そういうんじゃないわ・・・山沢くんは・・・同じ班の仲間じゃない」
「・・・そうかな」
「なによ・・・どういう意味・・・」
「さあ・・・みどりは・・・山沢に・・・優しすぎると思うから」
「私は・・・」
「あいつのことを・・・おかしいと思わないのが・・・その証拠だ」
「・・・」
「知りもしなかった学校の入学試験に受かっているなんて・・・記憶喪失でもしてるみたいじゃないか」
「記憶喪失・・・そうなのかも・・・健康的な問題ってそういうことじゃない・・・山沢くんは何か大切なものを失ってしまった人のような気がするの」
「ほら・・・君はやはり・・・山沢に都合のいいことを言い出してる」
「だって・・・山沢くんは・・・ムーくんのお隣さんでしょ・・・山沢くんのことを誰よりも最初に知ったのは・・・ムーくんでしょう・・・あなたこそ・・・もっと山沢くんのことに親身になってあげればいいのに・・・」
「・・・」
「ひょっとしたら・・・山沢くんは・・・ムーくんのことをもっと昔から知ってたりして・・・ムーくんも忘れているだけだったりして・・・」
「それで・・・俺のことを慕ってこの学校に来たとか・・・どんなラノベだよ・・・どこの深夜アニメだよ」
「そう?」
「つまり・・・みどりは・・・あいつのことが気になるんだろう」
「・・・」
「覚えてる・・・夜の体育館で・・・みどりが俺に言ったこと・・・俺がみどりのこと好きなんじゃないかとかなんとか・・・図星だったよ。俺はみどりのことが好きだ。・・・でも、みどりは山沢のことが好きなんだよな」
「流れ星を二人で見た日・・・私が何を願ったと思う?」
「・・・」
「私の好きな人が私を好きでありますようにって祈ったの・・・もちろん・・・ムーくんのこと」
「だったら・・・その願いは願う前から叶ってたさ」
「そう・・・」
「どうしたんだ・・・うれしそうじゃないね」
「ムーくんはひどい・・・なんでそんなこと今言うのよ・・・あの夜、体育館でなんで言わなかったの」
「なんで・・・今じゃダメなんだ」
「タイミングの問題よ・・・だって・・・私はあの夜、ふられたと思ったもの」
「だからって・・・」
「今は・・・自分で自分が分らなくなっちゃった・・・」
「なんだよ・・・それ・・・心変わり早すぎるだろっ」
思わず苦心惨憺した特撮セットを叩き潰す広一だった。
「あ・・・しまった・・・コマ撮りで二ヶ月かけて・・・後少しで完成だったのに・・・」
後悔先に立たずである・・・やり場のない気持ちをものにぶつける場面としては近年まれにみる痛々しさだった。
「くそ・・・」
泣きながら笑うみどり・・・。
「なにが・・・おかしいんだよ」
「おかしくなんてないよ・・・」
悲しい場面では涙ぐむ二人だけのメモリーだった。
冴木は会長室に乗り込んでいた。
「なんだ・・・君は・・・」
「冴木です・・・」
「冴木?」
モノリスが始動し・・・鎌仲会長の高次元精神改造が開始される。
屋外ではモノリオが・・・制圧の完了を確認しようとしていた。
しかし・・・モノリオのモノリスは・・・警報を発するのだった。
「なんだ・・・よりによって・・・この局面で・・・不具合が起るなんて・・・」
あわてて・・・モノリオは会長室に向かう。
そこに咲和子が現れる。
ロビーでは閉鎖空間に閉じ込められた受付嬢と笹井常務がフリーズしたままだった。
「なんだ・・・これ」
「君・・・どうしてここに・・・」
「お前を尾行してきたに決まってるだろう」
「・・・」
「おい待てよ・・・説明しろよ」
「そんな暇はない・・・ついてくると・・・君は死ぬことになるよ」
「死ぬって・・・」
思わず立ち止まる咲和子。
モノリオは会長室へ向かう。
逡巡していた咲和子の前にサイゾーが現れる。
「お前・・・なんでここに・・・」
「何言ってんだ・・・ここは俺の家だぜ」
呑気に階段を上がるサイゾーを追う咲和子だった。
会長室ではモノリオが警告メッセージを放っていた。
会長と冴木はモノリオの影響下に置かれ・・・精神的にも肉体的にも危険な状態に置かれている様子である。
「何が起きた・・・」と問うモノリオ。
「ターゲットはモノリスを初期化しようとしています」と答えるモノリス(声=八雲ふみね)・・・。
「なんだって・・・そんなバカな」
「ターゲットの生命活動を停止しますか・・・モノリスを初期化しますか」
「モノリスに干渉しようとする人間がいるなんて・・・」
「ターゲットを殺しますか・・・モノリスを初期化しますか」
「・・・」
そこへ・・・サイゾーと咲和子が到着する。
「なに・・・これ」
「どうなってんだ・・・」
「う・・・」
「親父・・・どうなっちゃってんの」
「サイゾー・・・心臓マッサージって知ってるか」
「え・・・」
「とにかく・・・心臓を圧迫するんだ」
「誰の・・・」
「君の父親のだ・・・」
「え・・・親父・・・心臓とまってんの」
「これから止まる」
「え・・・どういうこと・・・」
「とにかく・・・心臓マッサージだ」
「殺しますか・・・初期化しますか」
「殺せ」
モノリスは・・・会長との接合を解いた。
モノリスによって統合されていた会長の神経回路は機能停止し、心肺機能も一時的に喪失する。
転倒する会長と冴木。
「急げ・・・心臓マッサージだ」
「ああ・・・うん」
あわてて父親の前にかがみこむサイゾー。
モノリオは冴木を助け起こす。
「大丈夫か」
「はい」
モノリオは茫然と立ちすくむ咲和子に叫ぶ。
「君も一緒に来い・・・ここにいてはまずい」
「・・・いやだね」
「なに・・・?」
「私はここに残って・・・警察にあんたが・・・サイゾーの親父を殺したことを話すよ」
「馬鹿な・・・そんなことをしたら・・・」
その時、冴木のモノリスが活動を再開する。冴木はモノリスから咲和子にむかって心肺停止信号を射出するのだった。
咲和子はのけぞりながら心臓の鼓動をとめる。
一部お茶の間向けパンチラサービスはないのだった。
その時・・・会長が息を吹き返す。
「やった・・・」
「よし・・・今度は・・・こっちだ・・・」
「ええ・・・胸が・・・ふくらんでるぞ・・・おっぱいが」
「ふくらみごと押しつぶせ」
「おう・・・」
モノリオは冴木を抱えて退避行動を開始する。
「僕の判断はまちがっていましたか」
「いや・・・君は正しいことをした」
「では・・・なぜ・・・彼女を助けるのですか」
「君にとって正しい判断が・・・僕にはできないルールがあるのだ」
「・・・」
「彼女には・・・殺される資格がないのだよ」
「・・・」
「とにかく・・・彼女がここで死ぬことは許されないのだ」
「・・・」
「それにしても・・・どういうことだ・・・モノリスをコントロールする人間が存在するとは・・・単なるモノリスの誤作動によるバグが生じた可能性もあるが・・・他の要因・・・好ましくない誰かがこの世界に来ている可能性も否定できない」
「何をおっしゃってるのか・・・わかりません」
「うん・・・僕にもわからない」
不確定要素を残しながら・・・モノリオは次元回廊を解放する期限を迎える。
「なんとか・・・間に合ったな」
江原老人の部屋はD8世界のテクノロジーによって容積を拡大していた。
合わせ鏡のような次元通路の開口部は・・・無限の彼方に向かって開かれる。
やがて・・・崩壊しつつあるD8世界からの移住者たちが回廊に現れた。
モノリオの奴隷たちは回廊に入りこみ、移住者たちの通過をサポートする。
よろめきながらやってくるもの・・・寝台車になってやってくるもの・・・その中に・・・ケロイドに覆われたようなアスカ姫(杉咲花)の姿が出現する。
「久しぶりですね・・・モノリオ」
モノリオはアスカを恭しく出迎えるのだった。
モノリオの上官であるアゼガミ(中野裕太)がやってくる。
「王妃様が重体だ」
「準備はできております・・・ストレッチャーのままこちらへ」
寝台車の王妃(りりィ)は拡張された空間にある手術室に運び込まれる。
そこにはモノリスによって高機能洗脳された医師(並樹史朗)や麻酔医(早川知子)や看護師(山崎智恵)が待機している。
「麻酔かかりました」
「腹壁損傷のオペを始めます・・・バイタル」
「レート60・・・血圧75・・・STO2 98%」
「針糸サンゼロ」
「はい・・・」
移住者たちの長い夜が過ぎていく。
モノリオは・・・特設格調によって部屋から屋上への亜空間直通路を開いていた。
それは・・・アスカ姫へのささやかな贈り物だった。
「これが・・・D12世界の朝というものか」と汚れたままのアゼカミがつぶやく。
「今日は・・・青空が見えるでしょう」
「青空・・・この黎明の美しさは・・・なんということでしょう」と汚れたままの高官の一人・スズシロ(佐藤乃莉)が囁く。
「この美しいものを・・・D8世界は惜しげもなく捨てたのか・・・」とアゼガミ。
「春はあけぼの。やうやう白くなりゆく山際、少しあかりて、紫だちたる雲の細くたなびきたる・・・」とスズシロは「枕草子/清少納言」の一節を思わず口ずさむ。
「まさに・・・それは・・・このことか・・・夢のよう・・・」と言いかけて咳込むアゼガミ。
先頭を歩むアスカは汚れを落としている・・・朝焼けに目を奪われながら・・・彼女は呟く。
「プロメテウスの火はいつまでも燃えていたわ」
燃え続けるプロメテウスの火・・・それは・・・恐るべき破壊を招いたテクノロジーの暴走を指すのか。それともD8世界を滅亡に導いた人工太陽のごときもなのか。それとも・・・神から盗み取った何かの宗教的シンボルなのか・・・。
すべてはまだ謎に包まれている。
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