君(多部未華子)が僕の隣でふる雪を見ていた時間(三浦春馬)
なるべくしてそうなっていく。
まあ・・・ドラマだからな。
愛されるべき人が愛されて、報われるものが報われるのは虚構の特権である。
もちろん・・・例外はあるけれど・・・多くの犯罪者は逮捕されてもらいたいし、恋人たちはめぐりあってもらいたい。
そういう夢をかなえてくれるのはドラマの基本的な効能である。
その夢の叶え方は・・・それぞれの個性でいい。
このドラマの場合、ちりばめられたエピソードや・・・そこに発生する感情が非常に丁寧に構築されていて・・・物凄く感情移入がしやすいわけである。
こんな俺でいいのか。
あなたがいいの。
誰だって言ってもらいたいよね。
なかなか言われないからね。
で、『僕のいた時間・第8回』(フジテレビ20140226PM10~)脚本・橋部敦子、演出・八十島美也子を見た。裏番組の「明日、ママがいない」が全9話、こちらが全11話である。どちらも素晴らしいさいはてドラマだが、今回は「明日ママ」が視聴率↗11.8%、こちらが↗11.0%である。先行でスタートして、一週遅く終わるこちらが・・・最終回でどれだけ伸ばしてくるか・・・楽しみである。だけど・・・最終回だけ見ても・・・絶対、この脚本の見事さはわからないと思うよ。
再現性低め設定のレビューであれなのだが・・・セリフが本当に上手いよな・・・。
僕は君を抱きしめたかった。
でも・・・実際、僕の両手は・・・もう、ぬいぐるみだって抱きしめられないんだ。
そしたら・・・君が抱きしめてくれた。
僕は君を抱きしめたい。
けれど・・・抱きしめられるのは嫌じゃない。
だが・・・しかし・・・やはり・・・君を抱きしめたいんだ。
それは・・・もう・・・叶わない願いかもしれないけど。
君が僕を愛してくれる。
君が僕を愛してくれる。
そんなはかない願いで僕の胸ははりさける。
僕の心は君でいっぱいになる。
守(風間俊介)のことなんか・・・忘れてしまうくらいに。
ごめん・・・最高の友達なのにな。
心の病気を抱えた弟・陸人(野村周平)が上京してくる。
もちろん・・・陸人は精神に不自由しているわけではなくて・・・そういう個性なんだという考え方もある。
そういう意味なら・・・僕だって愛する相手を抱きしめられないという個性があるだけだと言えるかもね。
でも・・・恋人を抱きしめられなかったらそれを恋人と呼べるのかどうか・・・僕には自信がないよ。
陽菜(山本美月)ちゃんと守のカップルが恋人かどうか以上の難問だろう。
僕を最後に抱きしめて・・・君は繁之(斎藤工)先輩と暮らし始めたとばかり思っていた。
ところが・・・繁之先輩が来たり・・・君のお母さん(浅田美代子)までが突然やってきて・・・何やら君が予想もつかないことを始めた気配がある。
だからといって・・・僕にできることはあまりない。
なにしろ・・・一人でトイレに行くのさえ・・・危ぶまれる今日この頃だ。
昔、見た「1リットルの涙」では・・・ヒロインがトイレに間に合わなくなってしまうという屈指の名場面があったけど・・・実際、トイレで倒れてスボンを汚してしまい・・・同僚に助けてもらうって自分が自分でなくなる気がするほどのショックだよ。
もう・・・仕事を続けるのも無理かもしれない。
そんな日に・・・よりにもよって君が僕を訪ねてきた。
ウルトラ・スーパー・デラックスに気が効かない弟に着替えを手伝ってもらい、弟が陽菜ちゃんに教わった秘義・ジュースを買いに行くで僕たちを二人きりにする。
そうそう・・・僕は弟の解剖学の本を読んでるわけだけど・・・これは恥骨がらみの何かなのかもしれないね。
「どうしたの・・・」
「・・・」
「君とは・・・この間が最後だと思ってた」
「・・・」
「でも・・・繁之先輩が来たり・・・君のお母さんが来たりして・・・」
「繁之さんと暮らすのはやめにしたの」
「・・・」
「なんで・・・言ってくれなかったの・・・」
「・・・」
「病気のこと・・・」
「だって・・・言ったって言わなくたって同じじゃないか」
「私は別れなかったよ」
「何を言ってんだ・・・僕がダメなんだよ・・・僕には何も守れやしないんだから」
「守るって何を・・・」
「・・・」
「私はあなたがいいの・・・あなたは」
「僕の気持ちなんてどうだっていいじゃないか」
「よくないわ・・・自分だけ我慢して・・・言いたいことも胸にしまって・・・バカみたい」
「・・・」
「それで・・・胸をはって今を生きてるって言えるの」
「もう・・・二度と来ないでくれ・・・君の顔は見たくない」
君は去った。
僕は馬鹿だ。
だけど・・・他にどうしろって言うんだ。
僕の願いは君が幸せでいること。
そして・・・僕には君を幸せにすることなんてできやしないんだぜ。
君を抱きしめたくても・・・抱きしめられない男なんだぜ。
絶望的じゃないか。
もうだめだ・・・と思っていても生きていると意外なことがある。
トイレが不自由になったので退職を覚悟した僕に・・・宮前家具の非正規雇用者・宮下(近藤公園)が「広告の仕事は・・・自宅でもできるのでは・・・」と提案してくれた。
なんていい同僚。
なんていい会社。
なんていい僕の仕事。
それから・・・弟を追いかけるように母(原田美枝子)が上京してきた。
なんとか弟を医学部に戻したい母。
絶対に医学部に戻りたくない弟。
気が効かない母と子の・・・堂々巡りの物語。
弟しか見ていない母に僕は物凄く淋しさを感じた。
そんな母親に弟は「僕の人生から出て行ってくれ」って言っちゃうんだ。
僕はそんな弟がうらやましくてうらやましくてついに叫んだよ。
「お母さん・・・僕のことも見てよ」
「・・・」
「医大にはいけなかったけど大学を卒業した僕。名もない会社だけどなんとか正社員になった僕。こんな病気になっちゃったけど・・・広告の仕事をしている僕。そんな僕を少しは認めてよ」
「・・・」
「僕が病気になってどんなに苦しんだか・・・どうしてどうして気がついてくれなかったの」
「・・・ごめんなさい」
「それに・・・お母さんは・・・弟のことだって何にもしらない」
「・・・」
「弟が好きなもの知ってる?」
「唐揚げでしょ・・・」
「それは・・・僕が好きなものだよ」
「えええええええええええええええ」
「お母さん・・・もっとちゃんと見てよ」
「私だって・・・私だって一生懸命・・・いい妻になって・・・いい母親になって・・・子供を医学部に進学させて・・・どうして・・・どうしてこんなことになっちゃったの・・・」
「母さん・・・」
泣き崩れる母親・・・。
ごめんよ・・・母さん・・・母さんは何一つ悪くない。
ちょっと配慮が足りないだけなんだもんね。
僕は母の袖に触れた。
その手を母が握りかえしてくれた時・・・僕は心と心が通い合った気がした。
いつも・・・弟に頼んでいるトイレの世話を母に頼むこともできた。
僕は恥ずかしかったけれど・・・母はなんてったって僕のオムツを変えてくれていたベテランさんなんだもんね。
僕は君を想う。
母に正直になれたように・・・。
君に正直になりたい。
僕の気持ちを君に伝えたい。
それができたら・・・どんなに生きている気がするだろう。
母は弟に聞いた。「何が好きなの」
弟は答えた。「青椒肉絲」
そうか・・・チンジャオロースも美味いよね。
そんなことで心が通い合う弟と母さん・・・まあ・・・いいか。
夜。
夜はいろいろなことを隠してくれる。
僕のはかない願いを。
やがて・・・僕は夜の散歩だって夢に見るようになるのかな。
夜の街で君を待っている気分にひたるのも無理になるのかな。
うっかり、電線に飛び乗った猫。
カラスたちが舞い降りる。
そこは俺たちのテリトリー。
猫はカラスなんかを惧れはしないが多勢に無勢だ。
電線の上を走る猫。
カラスたちが追いたてる。
ようやく屋根に続いた電線に猫は飛び移る。
見上げた人々の顔に浮かぶ安堵の表情。
僕だってほっとする。
だけど・・・君はやってきた。
何もかも捨ててやってきた。
「そんなところで何をしているの」
「君が来るのを待ってたんだ」
「・・・」
「僕のとなりにいてください」
「はい」
遠回りをした僕たちに祝福の雪が降ってくる。
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