被害者よりも愛しい加害者とバイオアプリによる調整人格と異なるディメンションの倫理の適用例(本郷奏多)
先兵は捨て駒である。
しかし、優秀な人材である必要がある。
将棋における「歩兵」はただ黙々と前進する。しかし、敵地に侵入するや「金将」と化す。
先兵は敵地について理解を深める。
時には味方よりも敵について正しく理解する。
しかし・・・どれほど理解を深めようと・・・敵は敵に過ぎない。
時に・・・先兵は敵を愛する。
しかし・・・愛しても仕方ないのが敵というものなのである。
心ある先兵は・・・殺されても仕方ない敵を殺すしかないのだ。
で、『なぞの転校生・第5回』(テレビ東京201402080012~)原作・眉村卓、脚本・岩井俊二、演出・長澤雅彦を見た。D12世界のDとはディメンション(dimension)のDである。SFジュブナイルの世界では外国語特に英語を未知の概念のシンボルとして使用する。これは「」と書いたら中はセリフと言ったお約束と同じである。「明日、ママがいない」問題が象徴するように理解力の不足と理解力の不足に対する自己認識不足の問題は常にある。多くの場合、物事に面白さを見出せないのは物事に欠陥があるのではなく、見出せない人に問題があるのだ。しかし、多くの人間は自分の問題を認めたがらないのだ。
そのために物語の作者は世界を分かりやすくするためにいろいろと約束事を作りだすのだが・・・その約束が難しいと言われると手詰まりになるのだった。
まあ・・・SFジュブナイルが苦手な人は縁がなかったと諦めるしかないのだな。
ディメンションは次元と訳される。
12次元と言えば、我々が三次元を認識するこの四次元世界よりはるかに高次元な概念である。
しかし、D12世界は・・・我々と同じ四次元世界の一つである。
この四次元世界は無数の多次元宇宙に分離しており、我々の世界では虚構の産物だった「モノリス」(先行知的生物の遺物構造体)が・・・知的物質として存在したのがD1世界である。
モノリスを使用した文明は高度に発展し、そのために加速した文明崩壊を迎える。
D1種族はDの転移技術を開発し、崩壊しなかった世界を浸食する。
D8世界を滅亡に追い込んだ彼らは「ショパンの存在しないD12世界」を新たな植民地として選択したのである。
東西山高校2年3組の生徒・岩田広一(中村蒼)の隣人である認知症を発症した江原正三(ミッキー・カーチス)の部屋を占拠し、異次元世界の先兵であるモノリオこと山沢典夫(本郷奏多)は後続部隊の上陸地点確保のために・・・様々な工作を展開するのだった。
そんなこととは露知らない広一はSF研究部からSF研究会に格下げになったクラブハウスで自主制作映画「宇宙戦争」のジオラマ特撮に熱中するのだった。
そこへ・・・年下の幼馴染である咲和子(樋井明日香)がやってくる。
「ちょっと顔かせよ」
応じる広一を不安げに見つめる同行の士である鈴木拓郎(戸塚純貴)と太田くみ(椎名琴音)・・・。
階段の踊り場で広一と咲和子は話しあう。
「ここだけの話にしてくれよ」
「なんだよ・・・」
「山沢典夫って知ってるだろう」
「山沢・・・」
「あいつ・・・屋上から落ちた・・・」
「屋上から・・・それで山沢は・・・」
「ピンピンしてた」
「なんだ・・・そりゃ」
「おかしいだろう・・・」
「・・・」
「もしかして・・・家に帰ってから内臓破裂で死ぬんじゃないかって・・・」
「内臓破裂してたらその場で死ぬだろう」
「こわいんだよ・・・」
「おい・・・まさか・・・落ちたんじゃなくて・・・落されたんじゃないだろうな」
「・・・」
「お前・・・まだ不良たちと付き合ってるのか」
「ほっとけよ・・・それより山沢のことが心配なんだよ・・・あんた・・・山沢のお隣さんなんだろ・・・」
咲和子は泣きだすのだった。
「わかった・・・帰って様子を見る」
急いで帰宅した広一は隣家を訪ねるが江原老人は山沢の不在を告げる。
窮した広一は最近、山沢に興味を示している香川みどり(桜井美南)に連絡をとる。
「山沢が屋上から落ちたらしい」
「なんですって・・・」
みどりはとんでくるのだった。
その迅速な対応に胸騒ぎを感じる広一。
その時、江原老人が外出してくる。
「尾行しなさい」
「え」
「何か事情があるかもしれないでしょう」
「君は・・・」
「あんたバカ、二人で行ったら、部屋に山沢くんが戻って来た時にフォローできないじゃない」
「・・・」
「急いで、見失うわよ」
広一が去ると広一の母(濱田マリ)が部屋から出てくる。
「あら・・・みどりちゃん・・・ムーくん(広一)いないわよ」
「知ってます」
「じゃ・・・部屋に入って待つ?」
「お構いなく・・・私、今、見張ってるんで」
「戦力外捜査官ごっこ?」
「鼠、江戸を疾るごっこです」
「今季、忙しいのよね」
「三本はかけもちしすぎですよお」
「まあ。稼げるときに稼いどかないとね」
「勉強になります」
広一が尾行する江原老人は人気のないガード下にやってきた。
老人とは思えない移動速度に不審を感じた広一は物陰に潜む。
そこへ・・・山沢を屋上から蹴り落とした冴木(碓井将大)がやってきた。
「なんだ・・・じじい・・・こんなところに呼び出して・・・なんのつもりだ」
「お前を手下にしてやろうと思ってな」
「なんだと・・・こら」
しかし、冴木は言葉を飲む。
不可思議な燐光が目の前の老人から発し始めたのである。
「なんだ・・・こりゃ」
「お前を・・・まだ見ぬ世界に連れてってやるよ」
「おい・・・よせ」
光はやがて・・・冴木を包み込む。
緑色の発光が消失すると・・・冴木は暗闇に包まれいた。
「なんだ・・・まるでブラックホールみたいな」
一瞬で・・・黒い影は消えて・・・冴木も消失していた。
「・・・人間消失現象・・・」
広一はあわててみどりに電話した。
「もしもし・・・広一くん・・・山沢くん・・・いた」
「ボク・・・とんでもないものをみちゃったよ・・・」
「なんですって・・・」
広一は絶句する。
目の前に江原老人が立っていたのだ。
「岩田広一に見られてしまいました・・・どうしますか」
「・・・」
「わかりました・・・記憶を消去します」
「え・・・」
次の瞬間・・・顔面がよじれたように歪むのを感じながら広一は失神した。
「広一君・・・どうしたの」
広一からの連絡が途絶えた後も・・・みどりは監視を続行する。
まもなく・・・江原老人が帰ってくる。
街に黄昏が迫る頃・・・ようやく広一から連絡が入る。
「一体・・・何があったの・・・」
「わからない・・・ボクはなぜ・・・こんなところに・・・」
「おじいさん・・・帰って来たわよ」
あわてて・・・自宅マンションに戻る広一。エントランスには思いつめた顔の咲和子も待っていた。
三人は再び、江原老人の呼び鈴を鳴らす。
室内では・・・。
「トランスフォーム(物質転送)は上手くいきましたか・・・」
「ああ」
「あの連中はどうします」
「僕が対応しよう・・・」
山沢は・・・ドアを開いた。
「やあ・・・」
「山沢くん・・・大丈夫なの」
「何がだい」
「だって・・・屋上から落ちたって・・・」
「ああ・・・そのことか・・・問題ないよ」
「でも・・・内臓が破裂してたら」
「内臓が破裂したら歩いて帰宅したりできないよ」
「・・・」
「屋上から・・・落ちて・・・なんともないのか」
「ああ・・・」
「そんな・・・」
「だから・・・彼は人殺しにはならないよ・・・それでいいかな」
「・・・」
「じゃあ・・・これで」
「おい・・・もしも・・・具合が悪くなったらすぐに言ってくれよ」
「ありがとう・・・岩田くん・・・」
仕方なく・・・解散する三人だった。
室内には・・・首に怪しい★(星型)の装置を付着させた冴木が横たわっている。
「こいつはどうなるんですか」
「精神改造をするためには厳密な倫理規定がある・・・次元を異にするこの世界にそれを持ち込むのは無意味だが・・・とにかく・・・何かに準拠しなければ・・・装置が発動しないのだ。このものは・・・非常にモラルに欠けた精神を持ち、悪の因子が適用基準値に達していたので・・・バイオアプリ(生体適性化プログラム)のアステロイド(人体隷属化装置)使用許可が出た」
「私のような役立たずと一緒ですな」
「お前は・・・違うよ。お前はどちらかと言えば無垢な状態だったので・・・モノリスのマギ(魔法機能)を分与している。非常に高価な精神制御状態だ。バイオアプリは使い捨ての消耗品だからな」
「悪の因子を除去するのですか」
「いや・・・脳内にバイパスを作り、個体の意識を遮断して、精神機能をコントロールするのだ。バイオアプリは言わば高度なリモコン受信機だよ・・・こちらの指示通りに個体を行動させるためのね」
「彼は永遠に奴隷ですか」
「いや・・・およそ七日間で・・・機能を停止する。バイオアプリは安価な消耗品なのだ。その後の精神状態については個体差があって断定できない」
「・・・」
「このような個体をもう少し確保する必要がある」
「兵力の増強ですな」
「うむ」
翌日・・・山沢は鎌仲才蔵(葉山奨之)にコンタクトした。
「こんなクズ野郎たちをリストアップしてどうするつもりだ」
「クズにはクズの使い方がある」
「じゃ・・・俺をなんとかしてくれよ」
「君は・・・クズではない」
「じゃ・・・俺の親父は・・・クズの親玉だぜ・・・」
「君の・・・父親か・・・」
判断を保留した山沢は・・・雀荘に乗り込むと・・・★を健康器具と偽ってクズたちに装着することに成功する。
そこへ・・・行方不明となった冴木を捜しに・・・咲和子がやってくる。
「クローバー」「みんな!エスパーだよ!」とこの枠ならでは一部お茶の間向けパンチラサービスを終えた咲和子は・・・山沢に迫る。
「冴木を知らないか」
「ボクでなければ死んでいたかもしれない・・・つまり・・・彼は殺人者だ・・・しかも・・・かれはその後で笑っていた」
「・・・」
「そんなかれを君は気にかけるのかい」
「笑ってたけど・・・震えてたんだ」
「人を殺してもその後で震えれば罪が許されるのかい」
「でも・・・」
「人にはそれぞれ守りたいものがある・・・君には愛の因子が感じられる」
「なんだって・・・」
「すまない・・・かれがどこにいるのか・・・ぼくにはわからない」
「そうか・・・」
被害者よりも加害者を案じる憐れな女子高校生は去っていった。
「君の愛の因子も・・・僕の愛の因子も・・・愚かさや罪深さに変わりはないのかもしれない」
山沢は・・・奴隷化された冴木を従えて・・・次の行動に移る。
D12世界の医療はかなり貧弱なものだったが・・・それでも被曝者である王女(杉咲花)のために治療体制を整えなければならない。
残り少ないモノリスのマギを使い、開業医を洗脳する山沢。
「出来る限り・・・最高の放射線症の専門医を召集してもらいたい」
「・・・かしこまりました・・・」
後続部隊の転送期限は迫っていた。
D12世界の人々は侵略の開始に誰ひとり気がついていない。
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