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2014年3月31日 (月)

孫子・軍争篇に曰く、圍師必闕・・・と軍師半兵衛(谷原章介)

「軍争篇」は・・・戦場の駆け引きを説く「虚実篇」に続き、戦場における決め手と禁じ手を主題としている。

「圍師必闕」は末尾近くに登場する・・・戦勝を確定するための定石を説いている。

「四方を包囲した場合、必ず一方を開けておく」というのはいかにも矛盾した戦術と言えるが・・・このために敵の戦意を削ぎ、退却を招くという意味がある。

退却は戦意を喪失したものの行動であり、結果的に包囲したものの勝利を確定するということである。

野戦、攻城戦ともに攻勢するものの常道と言える。

「圍師必闕」の前文は「歸師勿遏」であり、後文は「窮寇勿迫」である。

「歸師勿遏」は敗走する軍をとどめてはならないということで、「窮寇勿迫」は進退の窮った敵を追い詰めてはならないということである。

つまり・・・窮鼠猫をかむという事態を避けるのである。

逃げ場を失い死を覚悟した敵は時に実力以上の力を発揮することがあるわけだ。

ただし・・・圧倒的な兵力差がある場合は「兵糧攻め」が可能であり、この場合は蟻の這い出る隙もない包囲を行う必要がある。

「軍争篇」の後の「九変篇」ではそうした戦況にあわせた柔軟な対応が説かれるのである。

で、『軍師官兵衛・第13回』(NHK総合20140330PM8~)脚本・前川洋一、演出・田中健二を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。15行に盛りかえしましたが・・・今回は官兵衛・半兵衛の両兵衛あわせて一行というところですかな・・・画伯が満足できる大河に早くなってもらいたいものでございます。今回はなんと・・・15世紀の武将・山名宗全(赤松氏討伐の総大将として大勝利し備後・安芸・石見・備前・美作・播磨の守護を獲得)描き下ろしの天晴れな展開でお得でございます。それから百年以上が経過して、この時期、子孫の山名祐豊はなんとか但馬・因幡の守護を細々と維持し・・・織田家の軍門に下って明智光秀の客将格に零落中でございます。今後はうっかり家老が毛利についたために羽柴秀長の猛攻にさらされる運命なのですな。御先祖様は草場の陰でやきもきしていることでしょうなああああああっ。

Kan013 長い天正五年(1577年)である。羽柴秀吉は信貴山城攻めの後、秋に播磨国への進軍を開始する。到着して一ヶ月で小寺・別所・赤松の勢力圏を掌握し、年内に国境沿いの毛利・宇喜多連合軍に属する佐用城と上月城の攻略を終了するスケジュールとなっている。一説によれば秀吉は十一月中の播磨平定を目指していたのだが一ヶ月の遅れになっていることになる。北方では柴田勝家軍団が上杉謙信の来襲に備えて軍備を整えている。明智光秀は停滞している丹波攻略にとりかかり、信長はその支援策として細川幽斎・忠興父子を援軍として送るとともに、妹で未亡人だったお犬の方を細川管領家の細川信良に再婚させている。これによって管領家の義兄として丹波に対する名目上の支配圏を得たのだった。こうしたお膳立てによって光秀は勝利するしかない追い詰められた立場になったのだった。摂津国では荒木村重が石山本願寺包囲網の重責を担い、疲労感を発生させていた。海上封鎖に失敗している織田軍に対し、徹底抗戦を続ける門徒衆は厄介な相手なのである。すでに摂津国主となっている荒木村重だが出自は波多野氏であり・・・いわば縁深い相手を敵に回しているわけである。また旧主・池田氏に属していた中川清秀やその親族で元々は松永久秀に属していた高山友照・右近父子など配下の武将も簡単には気が許せない相手なのである。村重はやがて光秀がそうなるように・・・信長の過酷な性格に追い詰められ鬱を発して行くのだった。そのような状況で秀吉は第一次遠征を行い、官兵衛の姫路城に駐留し、黒田家は一時、姫路の南にある国府山城に転居する。永禄3年(1560年)生れ17歳の石田三成は姫路遠征に参戦。長浜では永禄4年(1561年)生れ16歳の福島正則や永禄5年(1562年)生れ15歳の加藤清正がスタンバイ中である。大河ドラマなので見た目年齢の差は甘んじて受け入れるのがよろしかろう・・・。

黒田官兵衛と竹中半兵衛はお互いに同じ匂いを嗅いでいた。半兵衛は子弟に軍学を講義中・・・用便のために中座しようとした者に対し、肝心な部分なので席を外すことを許さず、ここで漏らせと命じた過去があるのだが・・・実際に漏らしてしまった官兵衛に深い愛着を感じたのである。

毛利の忍びたちは・・・播磨国の諜報活動を完全に封殺されていた。

官兵衛の神明流忍びと半兵衛の飛騨忍軍が播磨国に結界を張ってしまったのである。

二人の忍び使いは意気投合して連携プレーに励むのだった。

隠密裏に事を運ぶのは二人の最も得意とすることだった。

忍び小屋で打ち合わせを終えると二人は・・・数少ない軍事愛好家として軍事談義にふけるのだった。

「三国志(中国の史書)で言えば・・・我々は伏龍鳳雛ですな・・・」と半兵衛。

「おやおや・・・どちらが早死にするのですか」と官兵衛。

「まあ・・・私は今孔明(蜀の軍師)と仇名されていますので・・・」

「私が龐統(戦死)ですかああああ」

「いやいや・・・あくまでたとえですから・・・しかし、今の貴殿はまだまだ甘いところがありますので馬謖(戦術ミスをして孔明によって処刑された)にならぬように注意されたい」

「あなたに斬られるのですかあああああ」

「ほっほっほ・・・戯言ですよ」

「しかし・・・そうなると秀吉様は・・・卑賤の身からのしあがった劉備(蜀の皇帝)ということになりますな・・・」

「やがては・・・皇帝の末裔とかいろいろと粉飾する必要がありますな」

「では・・・曹操(魏の皇帝父)は・・・」

「無論・・・上様でございます」

「悪役ですな・・・」

「極悪と申せます」

「となると・・・孫権(呉の皇帝)は・・・」

「さてさて・・・柴田勝家殿か・・・あるいは明智光秀殿・・・」

「では・・・司馬懿(魏の軍師)は・・・」

「さあ・・・拙者は事あれば・・・最後は三河の方に従えと弟には申しつけております・・・」

「ほう・・・」

「あの方の慎重さは・・・抜群ですからな・・・」

「なるほど・・・最後に笑うのは・・・慎重さですか・・・面白いですな」

「ふふふ・・・楽しいですな」

「興がのりますな」

「のりますな・・・」

同好の士は得難いものなのであった。

二人は世を徹して三国志談義にふけるのである。

「趙岑(漢の賊将)はどうです・・・」

「その人は架空のお人でございましょう・・・」

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2014年3月30日 (日)

ひさしがみのお化けの森・・・じゃなくて花子とアンを待ちながら(キッド)

まいて・・・まいて・・・もって・・・もって・・・頭がでかい女たちのシーズンである。

近所の老舗の蕎麦屋の女将は昭和になっても平成までも・・・大正巻だった・・・。

だから・・・そういう定型としての女学生が登場するだけで・・・なんとなく・・・懐かしいし・・・そして子供の頃から思う・・・変な髪形という可笑しさに満たされるのである。

予告を見る限り・・・そういう楽しみを確保できる気がする「花子とアン」である。

アンと言えば・・・宮崎駿・作画、高畑勲・演出のアニメ「赤毛のアン」があるわけだが・・・アンのヘアスタイルと花子のヘアスタイルは全然違うと思う。

「流行」というものの禍々しさはやはり楽しいのだなあ。

アニメの底本は神山妙子版らしいが・・・本編の主役は最初の翻訳者の栄光に包まれた村岡花子である。

もちろん・・・「あまちゃん」のような毎日が呪いと化すレビューは避ける覚悟だが・・・「ごちそうさん」よりも魅かれるわけである。

いや・・・ごちそうさんも終盤ちょっとおもしろかったわけだが。

空襲のシーンが楽しかっただけだろっ。

・・・まあ、そうですが。

で、『連続テレビ小説・ごちそうさん・第1回~最終回』(NHK総合20130930AM8~)脚本・森下佳子、演出・木村隆文(他)を見た。息子を失った占領軍の将校に息子を失った女料理人がロースト・ビーフ丼をふるまう場面で・・・泣けてくるのは・・・美味しいものが食べられたら他に文句はないタイプの人間なのだと思う。怨みを忘れない人間も水に流す人間も耐えがたきを耐え忍びがたきを忍んでいるのだろう。このドラマの底には淡い怨みの念が沈んでいたような気がする。それは・・・大漁旗の下の魚のお葬式みたいなものだな。もちろん、かわいいこぶたを丸焼きにしてこそ・・・ストレートに笑えるわけだが、とんかつが食べられないトラウマを子供が抱えないように配慮する気持ちはわからないわけではない。まあ・・・見た目と違って実際には中年のおじさんとおばさんが数年ぶりに再会して燃える姿を想像するより楽しいと思うばかりである。

朝ドラマのヒロインというものは・・・女性のシンボルを示す必要があるわけだが・・・価値観の相違の時代に・・・なかなか誰もが自分を見出せる主人公の造形は難しい。

大分出来は違うが・・・二作連続おバカなヒロイン・・・見方によってはもう何作も連続してそうだぞ・・・に続いて、今度は少なくとも・・・インテリの人が主人公である。

しかも・・・幽かに「おしん」の香りもする。

おい・・・もう、「花子とアン」の話かよ。

だって、月曜日から始るんだぜ。

さて・・・冬ドラマでは孤児院のような施設を描いた「明日、ママがいない」がいろいろあったわけだが・・・「赤毛のアン」は孤児院そのものの出身の少女である。

「明日、ママがいない」ではもらってほしい親が男の子を欲しがっていることに苦悶する女の子(渡邉このみ)が登場するわけだが・・・つまり・・・原点なのですな。

アンも男の子を養子にするつもりだった「カスバートさん、カスバートさん、カスバートさん」の家にやってくるのだ。

ついでに言えば・・・アンが汽車を降りて・・・鄙びた駅でカスバートさんを待つ情景は・・・「あまちゃん」の北三陸鉄道のホームを彷彿とさせる。

つまり・・・ものすごく原点なのである。

この原点を日本に送りだした翻訳家の人生を・・・松嶋菜々子の「ひまわり」、岡本綾の「オードリー」などの演出家と「やまとなでしこ」や「ハケンの品格」の脚本家が描く・・・なんとなく・・・手堅い感じがするのだった。

とにかく・・・恒例のバトンタッチで杏からイチゴをもらった花子(吉高由里子)はもちろんのこと・・・その妹たち(黒木華・土屋太鳳)やその親友たち(仲間由紀恵・高梨臨)は魅力的なラインナップである。

そして・・・見逃せないのが・・・ヒロインの少女時代(山田望叶)である。

連続テレビ小説の幼少時代は一瞬のきらめきである。

「あまちゃん」はその技をある意味、封印していた・・・主人公の母の幼少時代はあります・・・凄みがあったわけだが・・・やはり・・・幼少時代は大切だと考える。

山田望叶は2004年度生れ組で・・・ここには芦田愛菜を筆頭に本田望結、谷花音、小林星蘭という強豪がひしめいているのである。

これを制しての朝ドラマヒロインの幼少時代を獲得しているのである。

これは見逃せないのだ。

・・・そこかよっ。

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2014年3月29日 (土)

はてしない異次元のゾーンの向こうから風が吹いている(桜井美南)

時空を超えて蘇る「眉村卓の世界」・・・。

そして・・・Dナンバーズの世界は・・・単性生殖なのか・・・クローンのように親子が相似形なのだった。

つまり・・・親子は常にアイデンティカ・・・だから・・・結婚は・・・生殖のためではない。

だから・・・アンドロイドと人間が結婚しても何も問題がないのである。

セックスはないのかよっ。

まあ・・・それは冗談として・・・こんな深夜ドラマが見たかった大賞があれば・・・「ウシジマくん」と「ダークシステム」と「なぞの転校生」はものすごいみつどもえの賞レースを繰り広げただろう。

五輪シーズンに咲いた徒花である。

で、『・最終回(全12話)』(テレビ東京201403220012~)原作・眉村卓、脚本・岩井俊二、演出・長澤雅彦を見た。2014年の冬ドラマもこれで終了である。最後を飾るにふさわしい・・・せつない幕切れ・・・素晴らしい物語の終りはいつでも一抹の寂しさを伴うものだ。公式では「なぞの転校生/眉村卓」のオリジナル世界がD-15世界であることが示される。オリジナル岩田広一(高野浩幸)は時空の流れを超えてやってきたのである。

異次元世界・・・D-8からやってきた王女アスカ(杉咲花)は放射線傷害による「死」を受容する。残された時間を楽しく過ごすことが・・・その望みだった。山沢典夫こと王族護衛官の人間型ロボット・モノリオ(本郷奏多)はその望みを叶えるために全力を傾けるのだった。

一方・・・とんでもない事件に接しながら・・・ムーくんことD-12世界の岩田広一(中村蒼)は淡々と日常を生きるのだった。

休日にはSF研究会部の鈴木(戸塚純貴)や太田(椎名琴音)とともに自主制作映画の撮影を公園で行う。

アスカからヒントをもらって脚本を書いた太田は・・・自分がヒロインとしては役不足だと感じ・・・広一に・・・アスカとみどり(桜井美南)の出演依頼をおねだりする。

「じゃ・・・連絡してみるけど・・・」

広一がみどりに連絡すると・・・みどりはモノリオとアスカとともに公園でピクニックしていたのだった。

要するに・・・みどりとしては友達と友達の使用人とデート中なのである。

あわてて合流した広一は・・・アスカの作ったサンドイッチを食べる。

「どうじゃ・・・」

「おいしいよ・・・」

そこへ・・・鈴木と太田もやってきて・・・「頼んでくれたんですかあ」・・・である。

みどりもアスカもノリノリで出演依頼を承諾するのだった。

なぞの男子転校生とみどりのシーン。

「私・・・あなたと出会う前に好きな人がいたの。でも・・・あなたに出会ってから・・・あなたのことが気になって仕方がないの。あなたに花をプレゼントしたあの日から・・・あなたは覚えているのかしら・・・」

「アンドロイドは忘れることはできないのです」

「まさか・・・あなたがアンドロイドだなんて」

「しかし、私はアンドロイドなのです」

「まるで夢を見ているみたい・・・あなたは夢なんて・・・見ないのでしょうね」

「いいえ・・・アンドロイドも夢を見ます」

「電気羊の・・・夢を・・・?」

「人間の見る夢とは違うのです。アンドロイドは眠らないので・・・今も夢を見ています。発生したパグを修正し、不必要な記憶を圧縮し、メモリの最適化を常に行うプログラムが起動しています」

「未来の夢を思い描いたりもできるの」

「できます。未来を予測することも・・・未来の自分のあるべき姿も思い描けるようにプログラムされているのです」

「アンドロイドに恋をするなんてバカな女と思ってるでしょう?」

「そんなことはありません・・・あなたの愛の告白に・・・私のハートは高鳴ります・・・もちろん・・・そういう言葉もプログラムされているのです」

モノリオはみどりの手を取って自分の胸に導く。

「ほら・・・ハートは高鳴っても・・・私の胸は静かでしょう。なにしろ・・・私にはハートブレイクする心臓そのものがないのです」

「・・・」

「あなたの愛の言葉に私の人工知能は・・・幸福を感じます。しかし、それもプログラムのなせることです。すべては・・・情報処理の結果です」

「人間だって似たようなもの・・・愛なんて・・・一種のフィクションですもの」

「私もあなたの愛を人間のように感じることができます・・・そのようにプログラムされているからです。そして・・・あなたを抱きしめたいとさえ・・・想うことができます」

「そんなこと言われたら・・・私は・・・ますますあなたのことを愛してしまう」

みどりはモノリオのうなじに頬を押し当てるのだった。

「典夫くん・・・私はあなたが好き」

「みどりさん・・・私もあなたを愛してます」

・・・どうやら・・・太田は天才的な脚本家らしい・・・。

なぞの女子転校生と広一のシーン。

すでに・・・公園は夕闇に包まれ始めている。

二人は劇中カメラに背をむけて本編カメラ目線で語りだす。

「そなたには・・・迷惑をかけてしまったな」

「迷惑だなんて・・・」

「異世界からやってきて・・・そなたの心の平安を乱してすまなんだ・・・」

「そんなことはないよ」

「そうか・・・私もあれからいろいろと考えたのだ」

「・・・」

「私は残された時間の許す限り・・・この世界を楽しみたいと考えている」

「・・・」

「この世界にショパンはいない。ショパンの残した美しい旋律もない。しかし・・・私の世界が失ったすべてのものがこの世界にはある。ショパンなどいなくてもこの世界はたとえようもなく美しい・・・」

「・・・」

「私は・・・この美しい世界にやってきたことを神に感謝したい・・・この美しい世界でそなたに出会えてよかった。私の作ったサンドイッチをそなたに食べてもらえて・・・こんなにうれしいことはない」

「・・・アスカ」

アスカは涙が止まらないのだった。

広一は思わずアスカを抱きしめる。

「・・・広一」

「君の涙は・・・とても綺麗だよ」

「・・・広一」

アスカは・・・許嫁のナギサのアイデンティカの胸で泣くのだった。

「まるで・・・夢のようじゃ・・・」

滅んだ世界のたった一人の生存者は・・・つぶやいた。

二人の抱擁をこっそりとモノリオと手をつないだみどりは複雑な表情で見守るのだった。

そして・・・撮影は終了した。

高校生たちと二人のなぞの転校生はそれぞれの思いを胸に家路につくのだった。

翌日、広一とみどりは担任の大谷先生(京野ことみ)から典夫とアスカが別れの挨拶もなしに転校して去ってしまったと告げられる。

すべては・・・一瞬の夢だったように・・・彼らは去って行ったのだ。

それから・・・一ヶ月・・・みどりはようやく夢から覚めた気分になるのだった。

「広一くん・・・明日、二人でどこかへ行きたいな・・・」

「いいね・・・」

下校する二人は公園のベンチに座る江原老人(ミッキー・カーチス)を発見する。

「江原さん・・・」

「どちらさまですか・・・」

「・・・」

そこへ老人ホームの職員がやってくる。

「江原さん・・・ここにいたのね・・・あら・・・あなたたちは」

「僕は江原さんの部屋の隣に住んでいるものです」

「まあ・・・江原さん・・・今は施設に入っているんですよ」

「そうなんですか」

その時、江原の目に一瞬の知性が蘇る。

「おい・・・あの二人・・・頼むよ」

「え・・・」

「あの・・・若い二人だよ」

「二人って・・・」

しかし・・・江原の知性は時空の彼方に消えていった。

翌日・・・広一は寝坊して母親(濱田マリ)に起こされる。

幼馴染のみどりはすでに居間でくつろいでいるのだった。

「ごめん・・・すぐに支度するから」

「そんなにあわてなくても・・・大丈夫よ」

微笑むみどりだった。

部屋を出たみどりの視線は隣室へ注がれる。

みどりと広一は岩田家のドアの前に立つ。

「何か・・・音がしなかった・・・」

「え」

「中にいるんじゃ・・・」

「いや・・・上だ・・・屋上で変な音がする」

二人は階段を駆け上がる。

そして・・・屋上には異次元空間へと通じる白い光のゾーンが開きかけていた。

現れたのは・・・広一の父親の亨(高野浩幸=二役)によく似た男である。

しかし・・・その装束は・・・異世界の住人であることを示すものだった。

続いて姿を見せる広一のクラスメートのそっくりさんたち・・・。

「あ・・・この方は・・・」

「ナギサ様のアイデンティカだ・・・」

その言葉に男たちは広一に恭しくお辞儀をするのだった。

「あなたは・・・あなたたちは・・・」

「私は・・・岩田広一・・・D-15世界の君のアイデンティカだ・・・」

「え・・・お父さんじゃなくて・・・」

「ふふふ・・・年をとると・・・君は父親そっくりになるということだよ」

「・・・」

「私は・・・次元調査団を率いて・・・さまざまな平行世界を旅する岩田広一なのだ」

「次元調査団・・・」

「D8世界の住民をこの世界に導いたのも我々なのです」

「彼らを・・・」

「彼らはどうしている」

「・・・」

「彼らの王宮に案内してください」

「だけど・・・部屋の鍵が・・・」

「異次元への扉を開く我々に・・・鍵のかかった部屋などありませんよ」

「泥棒ですかっ」

二人の広一とD15世界の人々は江原家に侵入する。

無人のように静まり返った室内。

もはや・・・アスカの生命は失われてしまったのか・・・とムーくんが諦めた時・・・アスカの寝室にモノリオがひっそりと佇む姿が見える。

「典夫くん・・・」と思わず叫ぶみどり。

ペッドには・・・瀕死のアスカが包帯だらけの無残な姿で横たわっている。

「待たせてすまなかった・・・」

「お待ちしていました」

「王女の容態は・・・」

「・・・」

「遺伝子修復システムは試したのか?」

「そのために必要なモノリスの残量がありません」

「D15世界に戻ればモノリスは充分にある」

その言葉に広一が反応する。

「じゃあ・・・アスカは助かるのですか」

「もちろんだ・・・」

「よかったわね・・・」とみどりはモノリオに飛びつくのだった。

包帯から覗くアスカの瞳からも涙がこぼれる。

しかし・・・モノリオは泣けない。

「さあ・・・急ごう・・・担架を準備しよう・・・」

担架を待つ間にD15世界の広一はD12世界の広一とみどりに語りかける。

「君に会えてうれしいよ・・・」

「・・・」

「そうだ・・・僕の娘を紹介しよう・・・」

「娘・・・」

「ちょっと・・・恥ずかしがり屋なんだ・・・おい・・・挨拶しなさい・・・」

覆面をとったその女性は・・・みどりのそっくりさんだった。

「娘は・・・母親似なんだ・・・」

「・・・」

「D15世界では・・・岩田広一と香川みどりは結婚したんだよ・・・だから・・・あなたは私の妻のアイデンティカなんだ」

「私が・・・」

「まさか・・・みどりが・・・大人になったらアシタマニアーニャになるっていうんですか」

「分かる人に分かればいいのかっ」

「すみません」

「平行世界にはあらゆる可能性がある・・・広一とみどりが結婚した世界もあれば・・・広一とみどりが出会わない世界もある。加害者と被害者になった世界もあるし、刑事と犯人になった世界もある。医者と患者になった世界もある。多重債務者と闇金業者になった世界もある。猫と鼠になった世界もある。しかし・・・アイデンティカとしてはつながっているのだ」

「まるで・・・万華鏡のように」

「そうだね・・・鏡にうつされたようによく似た世界は・・・学校の教室のようなものだ。どのクラスにも優等生と劣等生がいるが・・・その関係はそれぞれのクラスで違う。あるいは世界における国家のように富めるものと貧しいものがいるが貧富の差は同じとは限らない・・・」

「アスカが幼くして死んだ世界もあれば・・・生れなかった世界もあるのですね」

「そして・・・王女として異次元に旅立つ世界もあるのだよ」

「準備ができました」

王女は担架に乗せられて運び出される。

「急ごう・・・」

「アスカ・・・がんばれ」

王女は無言で広一を見つめ返す。

そして・・・アスカは異次元の世界へと去って行く。

「異次元の構造はまだすべてが解明されたわけではない・・・たとえばD15世界からD8世界には直通のルートがないのだ・・・ある意味で君たちのD12世界は様々な世界への分岐点になっている」

「この世界で乗り換える・・・みたいな」

「その通り・・・二人の幸せを祈っているよ・・・」

もう一人の岩田広一ともう一人の香川みどりの娘もゾーンの向こう側に消える。

最後に残ったのは・・・モノリオだった。

「D15世界の岩田広一は・・・山沢典夫というD6世界からの転校生にあったそうです・・・彼は・・・人間だったそうですよ」

「じゃ・・・異次元の世界には・・・人間の山沢典夫もいるのね・・・」とふと心が揺らぐみどりだった。

「ええ・・・おそらく・・・ヒューマノイドの広一やみどりもいるでしょう」

「滅びた世界もあるし・・・滅びなかった世界もある」

「そうです・・・すべては無限の可能性を秘めているのです」

「また会えるかな・・・」

「ぜひ・・・お会いしたいです」

広一は思わずモノリオを抱きしめる。

「元気でな」

「私はヒューマノイドですからいつも元気です」

みどりは握手のために手を出した。

夫になるかもしれない広一の前で抱擁は自制したらしい。

その手に跪いて接吻するモノリオ。

みどりもまた・・・D8世界では王族だったのである。

「みどり様に・・・千代に八千代に繁栄がありますように」

「・・・」

そして・・・モノリオは時空の彼方に消えていった。

ゾーンは閉じられ・・・D12世界には一陣の風と一筋の光が残された。

広一とみどりはいつまでも空を見上げていた。

「あの人に・・・また会えるかしら・・・」

「あらゆる可能性があるし・・・そして世界はつながっている・・・きっと会えるよ」

「私たち・・・結婚するのかな」

「それは・・・君次第じゃないのかな」

広一はみどりを見つめ・・・みどりは意味深な笑みを返すのだった。

その瞬間・・・広大無辺な平行世界では・・・みどりの膣内に大量の射精をしている広一がいる。墜落する飛行機の座席で手を握り合うみどりと広一がいる。野球場の観客席でアイドルグループの国歌斉唱を見つめる二人。海岸で壜に未来への手紙を埋める二人。怪盗とその妹の二人。官兵衛と光姫の二人。敵対する国家の元首としての二人。同じ教室で解答用紙に向かいあっている二人。みどりの浮気に一人酔いしれる広一・・・。

そして・・・別世界でのゾーンの開閉によって生じた流星を発見する二人がいる。

「あ・・・流れ星」

「何か願い事をしたのかい」

「それは秘密」

「なんで・・・隠すんだよ・・・」

幼馴染の二人は微笑む。

二人はまだ童貞と処女だった。

世界の連鎖は無限で果てしなく存在しているのだった。

時ににぎやかに・・・時にひっそりと・・・。

関連するキッドのブログ→第11話のレビュー

シナリオに沿ったレビューをお望みの方はコチラへ→くう様のなぞの転校生

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2014年3月28日 (金)

谷間に咲くどんとこない超常現象(阿部寛)

「15歳になったら夢見る少女じゃいられない~花子とアンを待ちながら(山田望叶)」という記事も用意しかけたのだが・・・まだ「なぞの転校生」が残っているので自粛である。

「春の高校野球」の「魔物観測」をしている間に・・・うっかり、昔のエロゲを起動して・・・気が付いたら数時間の記憶が失われているアクシデントがあったりして更新がおそめになったが・・・まあ、基本的に谷間なのである。

それにしても奈良県代表・智弁学園VS栃木県代表・佐野日大の試合・・・。

延長戦で・・・同点で・・・裏の佐野日大の攻撃。無死満塁である。

ノーアウト満塁は点にならない・・・という魔物用語があるわけだが・・・智弁の投手は五番打者、六番打者を二者連続三振に討ちとって・・・ツーアウト満塁までこぎつけたのである。

あと一人・・・あと一人なのである。

しかし・・・鋭い打球は内野を抜けて佐野日大のサヨナラ勝利・・・。

二死満塁には魔物が棲んでいるだなあ・・・。

打者から見れば・・・三振した二人は魔物に魅入られていた・・・そういう顔をしていた。

しかし・・・殊勲の七番は・・・魔物に打ち勝ったのだ。

五輪の魔物も凄かったが・・・甲子園の魔物も凄いのである。

で・・・そういう魔物が実在するかどうか・・・人間には不可知なのではないかと悪魔は邪推するのだが・・・科学者たちの挑戦は続くという話なのである。

で、『NHKスペシャル・超常現象~科学者たちの挑戦』(NHK総合20140322PM9~)ナビゲーター・阿部寛を見た。説明の必要はないと思うが・・・ドラマ「トリック」で「どんとこい超常現象」という著書がある上田教授を演じた人の起用である・・・まあ・・・NHKにはおいっとツッコミたい気分です。

阿部寛は・・・ドキュメンタリー風VTRのバラエティーショー風受けての感想ドラマを演じている。

「超常現象をどう思いますか」

「そんなものあるわけないでしょう」

「しかし・・・最先端の科学者たちはその謎の解明に真剣に取り組んでいるですよ」

「そうなんですか・・・知らなかった」

山田(仲間由紀恵)が出ていないのでリアクションが薄いのである。

冒頭、ロンドン在住のスプーン曲げの超能力者ユリ・ゲラーが登場した時には山田に「同業者じゃねえか・・・豪邸に住み過ぎだろうっ」と叫んでほしかったのである。

「超常現象を最新の科学が解明しようとしていることは・・・世界的な潮流なのです」

「嘘くせえっ」である。

しかし・・・まあ・・・「とある現象を・・・説明するのが科学の一つの本質である」とすれば・・・「幽霊」とか・・・「生まれかわり」とか・・・「テレパシー」を説明できればしてみたいのが科学者の一部の心情ということなのだろう。

もちろん・・・解明・・・ではなくて・・・解明しようとしている・・・というのがミソなのだ。

たとえば・・・古城の幽霊・・・では・・・脳神経学者や、生理学者、電磁気工学者がその謎のアプローチをする。

その城のとある場所では「オレンジ色の火の玉」が見え・・・目撃者は「冷気」に包まれるという。

電磁気工学者が・・・「電磁気」を測定する。

脳神経学者が「人間は電磁波によってオレンジ色の光を見ることがある」と自説を述べる。

生理学者が「ネズミはヘビの存在を察知すると体温が低下します」と報告する。

つまり・・・人間は恒温動物(死後)だという話である。

「恐怖を感じると体温が背筋を中心に下がるのでゾクッとします」と生理学者は述べるのだった。

「いや・・・そうじゃなくて・・・本当に室温が下がったんだって」と反論しても・・・室内の温度計は・・・常温を示しているのである。

だからといって・・・霊気が冷気をもたらすことは・・・否定できないのだった。

「科学では説明できないことを科学で説明しようとする不毛」が・・・続くのだ。

「生まれかわり」にいたっては・・・「記憶の変容に基づくただの錯覚」と前置きした心理学者が・・・しかし・・・そうとも言い切れないケースがあると言い出す。

甘いもの食べ過ぎで・・・やや肥満の気配がある少年が・・・「僕はハリウッドに住んでいた二枚目だった」と言い出したケースである。

その「前世の記憶」が・・・あまりにも正確だったので・・・なんともいえないケースだと心理学者は言うのだが・・・お茶の間の人々も何とも言えないのだった。

最後は「テレパシー」についての最先端の話である。

そもそも・・・人間にとって極小な世界というものは・・・際限のない話なのである。

そういう発想は・・・ギリシャ哲学の時代からあった。

極小の物質が・・・等身大の事象に影響を与えているという話である。

その結果・・・人間は原子爆弾に到達した。

しかし・・・現代ではその極小物質は「量子」と呼ばれている。

量子論においては・・・量子がスリットを抜けられることが一つの確率の問題になっている。

量子がスリットを抜けられる確率が1/2になるように設定された装置というものが作成可能になったのだった。

ところが・・・米国における同時多発テロの頃に・・・その装置が正常に作動しなくなったという事例が報告される。

これは大量の人間が同時に興奮状態になったからではないかという仮説の誕生である。

そこで人間の脳内活動を電磁的に測定する装置を使い・・・カップルの片方に視覚的な刺激を与え・・・別室の片方の脳波を測定した時に・・・刺激を受けた片方に呼応する反応があるという実験を紹介。

このことから・・・人間の脳には・・・「量子的な何か」が干渉していて・・・それが時空を超えるという話である。

まあ・・・ドラマ「安堂ロイド」はこの辺りの話をネタにしているわけである。

とにかく・・・そんな話を展開して・・・この世の不思議な出来事もいつか・・・解明できるはずだ・・・と阿部寛を納得させるという擬似ドキュメンタリー。

まあ・・・量子よりも極小の物質が観測できれば・・・なんらかの進展はあるかもしれないとは考える。

しかし・・・ほとんどのお茶の間は・・・茫然としたのではないかとも考えた。

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2014年3月27日 (木)

ダークシステムなんかいらない・・・心に闇がある限り!(八乙女光)

さいはての冬ドラマも残るは「なぞの転校生」の最終回を残すばかりである。

もちろん・・・レビューをしている「明日、ママがいない」「僕のいた時間」「ウシジマくん」を入れた四本はいずれ劣らぬ「さいはてドラマ」だったわけだが・・・最終回を終えたこのドラマもトータルで考えると・・・ものすごくさいはてだった。

ちなみに・・・さいはてはこのブログでは誉め言葉です。

ソチ五輪シーズンに健気に立ち向かったドラマ関係者の皆さんの健闘を讃えています。

とにかく・・・終わってみると・・・主人公はまぎれもなくヒーローだった。

最後はマッド・サイエンティストとしては異例の・・・「マシンなき意志の力」で逆境を克服するのである。

つまり・・・決断力、体力の限界、運・・・まさに・・・自力本願である。

運・・・は自力本願なのかよ。

とにかく・・・始った時にはそうでもなかったのに・・・主人公のキャラクターが好きになっている。

アイドル・ドラマとしては大成功ではないのか。

・・・お前に好きになられてもな。

で、『ダークシステム 恋の王座決定戦 最終回(全10話)』(TBSテレビ201403250028~)原作・脚本・幸修司、構成・演出・犬童一心を見た。アンダーグランドな映画を原作とするという異例なこのドラマ。失恋に失恋を重ね・・・ついに心に闇を生じさせた加賀見次郎(八乙女光)は親友の西園寺(弓削智久)とマドンナの白石ユリ(玉城ティナ)の争奪戦を展開する。結局、西園寺を手作り破壊兵器・サイオンジクラッシャーで撃破し、彼を記憶喪失に追い込んだ加賀見である。だが・・・その後もユリのストーカーであるファントム(板尾創路)やユリの許嫁で盲目のピアニストである恩田 妖一(伊野尾慧)との激しい恋愛バトル・・・というよりは殺し合いが続く・・・(一部・小中和哉の演出)・・・しかし、手作りの未来予測マシンや、手作りの人生の重さ測定マシンにより・・・危機をのりきってきた加賀見だった。

・・・もう・・・あらすじ書いているだけでさいはてな気分になってくるよね。

しかし・・・バトルの中で・・・ユリとの恋愛感情は深まり・・・なんとなく相思相愛になっていく二人。

記憶を取り戻し・・・復讐に燃える西園寺の最終兵器・カガミクラッシャーを「変顔」で撃破し、身体を張ってユリを守った加賀見は・・・ついに「侠気」によって西園寺との友情も復活させたのだった。

とにかく・・・何故か・・・加賀見を忌み嫌うユリの父親で闇の権力者・白石鉄山(林隆三)の反対を押し切り、ユリの母親・桂子(滝沢涼子)をうっかり病院送りにしてしまうという最悪なアクシデントも乗り越えて・・・ダークウエディングにこぎつけた加賀見とユリだった。

しかし・・・結婚式の朝・・・鉄山は忘れていた忌まわしい思い出を夢で思い出すのだった。

鉄山十五歳・・・終戦直後の混乱の時代・・・すべてを失い・・・闇に棲んだあの日の出来事を・・・。

商才のあった鉄山は・・・幼馴染の石川トキ(柴田杏花・・・「JIN-仁-」の野風の幼少期役、「おひさま」のみどり、「ハガネの女」の琴平れもん、「幽かな彼女」の葉山風・・・映画「瀬戸内海賊物語」で初主演の14歳)と町の発明家で親友の加賀見一郎(八乙女光=二役)と「雑炊の販売」で生計を立てていた。

商売が軌道にのり・・・トキへのプロポーズを決意した鉄山だったが・・・売上金とトキを持ち逃げした加賀見一郎にすべてを奪われてしまったのだった。

もちろん・・・加賀見一郎こそ・・・加賀見次郎の亡き父親だったのである。

そのために・・・挙式を・・・加賀見の葬式に変更した鉄山だった。

真剣で・・・加賀見を切り刻む鉄山。

二人に同情した使用人・黒服A(古谷克実)が黒服を脱いで二人の脱出を手助けする。

しかし・・・海外逃亡を促す加賀見にユリは「父を捨てられない」と逡巡するのだった。

親友の危機に最終兵器とともに会場に乗り込んだうっかり招待されていなかった西園寺は鉄山と黒服軍団と対決し・・・壊滅的な打撃を与える。

鉄山に対し、最終兵器アグレッシブ・モード(小型戦闘機によるドリル攻撃)特攻を仕掛ける西園寺。

鉄山と西園寺の最終決戦を目撃した加賀見に生じる葛藤。

悪い加賀見「このままにしておけば鉄山を西園寺が殺してくれるかもしれない」

もっと悪い加賀見「悪くても相討ちなので放置するべきだ」

「両方とも悪い俺じゃん」と自分にツッコミを入れる加賀見だった。

「お父さん・・・」とユリの悲鳴。

加賀見は・・・悪魔の科学技術に頼らず・・・正しい決断をするのだった。

「これが・・・俺の最後の選択だ」

加賀見は鉄山と最終兵器の間に自分を割りこませるのだった。

身を捨てて・・・自分の命を救った加賀見に・・・洗い流される鉄山の怨念。

しかし・・・加賀見は・・・生死の境を彷徨う。

加賀見を救ったのは・・・三途の川を渡航中のファントムだった。

「あんた・・・死んでたのか」

意外な展開に戸惑って息を吹き返す加賀見だった・・・。

大団円である・・・加賀見は・・・最愛の人・ユリを得て・・・莫大な財産を持つ鉄山の義理の息子となり・・・親友の西園寺とともに・・・おそらく・・・変なマシーンを量産するのである。

あんだけ・・・滅茶苦茶やって・・・最後はまともって・・・。

ま・・・終わりよければすべて良しだな。

柴田杏花の主演映画・・・面白いといいよね。

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2014年3月26日 (水)

鬼畜米英東京火炎地獄喉元過ぎれば熱さ忘れる(中西美帆)

東京も桜の開花宣言である。例年より一日早いらしい。

で、オンエアから10日たったが・・・「東京大空襲」ものである。

そもそも・・・東京大空襲のドラマを三月十五日にやるという御時勢である。

それというのも・・・東日本大震災が三月十一日で新しい記念日になっているからなのだな。

昭和二十年(1945年)三月十日の記念日に時間を割けないのだ。

そもそも・・・敗戦記念日があり、広島があり、長崎があり・・・夏こそが戦争の思い出を語るにふさわしいという戦後の全国的な心情があるわけである。

しかし・・・首都・東京の歴史を語る時に・・・三月十日が特別な日であることは忘れてはいけないと考える。

もちろん・・・その前後、毎日どこかで空襲が行われたわけで・・・東京だってこれが最初でも最後でもない。

だから、本当は連続ドラマ「毎日が大空襲」があったっていいと思うのだが・・・まあ・・・なかなかね。

山田風太郎さんは「戦中派不戦日記」の中で「・・・こうまでしたか、奴ら!」と呟く。「もちろん、戦争である・・・敵としては日本人を何万人殺戮しようと極めて当然である。さらばわれわれもまたアメリカ人を幾十万人殺戮しようともとより当然以上である。いや、殺さねばならない・・・一人でも多く」二十三歳の医学生であった彼の当日の感想は・・・思いのままなのであろう。

それから・・・69年の月日が過ぎ去った。

もちろん・・・そもそも・・・戦争である。しかも米国相手としては真珠湾空襲という日本の奇襲で始っている。

大陸では日中戦争で昭和十三年から昭和18年にかけて日本軍が合計218回の重慶に対する戦略爆撃をやっている。

つまり・・・自業自得とも言えるのである。

たが・・・それはそれ・・・これはこれだ。

半島の人が「絶対に許さない」と言うように「絶対許せない」という人がいてもいいと思う。

その後に生まれた人々はその言葉をかみしめるべきなのだろう。

歴史とはそういう思いの積み重ねに過ぎないのだから。

で、『NHKスペシャル・特集ドラマ・東京が戦場になった日』(NHK総合201403151930~)原案・中澤昭、脚本・中園健司、演出・伊勢田雅也を見た。原案者は昭和12年生れの東京消防庁出身者である。そして脚本家は戦後の生まれで「サラリーマン金太郎」シリーズの人だが昨年、逝去されたので・・・ある意味、遺作と言える。八歳とか生まれてもいなかった人が語る虚構である・・・それは現実とは違うに決まっているわけだが・・・残された資料や・・・証言を蓄積して・・・過去に迫って行く・・・そういう情熱には敬意を表したい。

で、例によって・・・舞台は現代から始る。脚本家は通俗的なドラマの書き手なのである。

そして、主人公の高木徳男(加藤武→泉澤祐希・・・「白夜行」の桐原亮司(幼少時代)
で「モテキ」の藤本幸世(中学生時代)である)は86歳の老人で・・・火事場に遭遇するのだった。

団地の高層階のベランダでは幼子をかかえた母親(小橋めぐみ)がパニックに陥り、助けを求めて絶叫している。

高木は思わず・・・階段を昇って行く。

その姿を消防官の神部佳織(中西美帆)が目撃する。

夕方のニュースで・・・高木の訃報が流れる。佳織の祖父、神部正明(米倉斉加年→市川知宏)は愕然とする。

高木の葬儀に弔問に訪れた神部は・・・高木の娘・由紀子(麻生祐未)に二人の因縁を話すのだった。

昭和二十年のあの日・・・神部は徴兵を猶予された理科系・医科系の学生たちによる学徒消防隊員・・・二歳年下の高木は年少消防官だった。高木は・・・空襲に対し消防活動に従事した虚しい青春の日々を振り返る。

植木職人の父(大橋吾郎)と母(工藤夕貴)と暮らす高木は帝都空襲の危機が高まる中、急募された年少消防官に志願する。二人の兄は戦地に赴き、長兄はすでに戦死の報せが届いている。消防官に志願することは一種の徴兵逃れであった。

しかし、訓練の後に現場に配属された高木はいつしか消防官として成長して行く。

瀬川(長村航希)や白石(葉山奨之)という同期の年少消防官仲間もできた・・・最初は空襲警報に怯えて半鐘を鳴らすこともできなかった臆病者の高木に消防官としての自覚が芽生えたのは勤労動員で東日製作所に女子挺身隊として勤務する聾唖者・沢田若葉(朝倉あき)への淡い恋心がきっかけだった。この人を守るために消防活動をする・・・と火消し魂に着火したのである。

一方で・・・妻子を疎開させた父・正孝(鶴見辰吾)と二人暮らしの西北大学理工学部の1年生の神部正明は学徒消防隊の募集に応じ・・・瀬川の属する消防分隊に同級生の秋野(千代将太)とともに配属されるのだった。

戦局は悪化し、昭和十九年暮れ・・・ついに東京はB29による戦略爆撃の射程内となる。

米軍は日本国民に神経戦を挑み、連日の空襲警報発令で人々の心は荒んでいく。

昼間から帝都の空を悠然と飛行するB29。

迎撃にあがる日本軍機は高高度に到達することができない。

空を見上げ歯噛みする東京の市民たち。

しかし・・・この時、B29は来るべき東京大空襲のために航空写真を撮影し、爆撃計画に利用していたのである。

やがて、本土周辺の制海権も得た米軍は空母を進出させ、艦載機が東京に飛来する。グラマンF6Fヘルキャットはその代名詞である。硫黄島陥落後はこれに戦闘機ノースアメリカンP-51マスタングが加わる。

米軍はこれら艦上戦闘機や戦闘機による対人機銃掃射を積極的に行い、本土でも多くの犠牲者が出た。

九死に一生を得た人々は口々にパイロットが笑っていたと証言する。

本土空襲名物、機銃掃射で被弾のエピソード挿入の誕生である。

今回の犠牲者は高木の初恋の人、沢田若葉である。

耳が聴こえないので敵機の来襲に気付かずに花を摘む若葉だった。

「撃つなら俺を撃て」と叫ぶ高木だったが・・・憐れ若葉は血煙りの中でもの言わぬ骸となるのだった。

高木は唇をかみしめる。

米軍は続いて都市周辺の軍事工場の爆撃を開始し・・・消防活動は活発となる。

「あんな・・・学生さんが来ても足手まといになるだけ」と言われた神部たちも一生懸命に消火活動に参加する。

しかし・・・神部の友人、秋野は「本格的に空襲が始れば消火活動など・・・焼け石に水だ」と語る。

食糧事情は悪化し、消防ポンプ車の燃料確保に駆けまわった白石は過労のために路上で眠りこみ凍死する。

高木は次兄の戦死を知らされる。

そして・・・その日は来た。

高木家では年度末となり、疎開先から末娘・朝子(松浦愛弓)が帰宅していた。

未明・・・米軍作戦名「ミーティングハウス2号作戦」と呼ばれる通称三月十日の東京大空襲へ向けて325機のB29戦略爆撃機が出撃し、世界史上最高の10万人の死者を焼夷弾で焼き上げた。

周囲を炎で囲んでから中心部を爆撃する用意周到な大虐殺であった。

この空襲の中・・・高木の家族は両親と妹の全員が行方不明となり・・・植木ばさみだけが残される。

高木の属する消防隊も高木と神部を残して・・・戦火に消えたのである。

高木と神部は乳飲み子を抱えた母親が焼死するのを為す術もなく見守った。

竹内分隊長(米村亮太朗)や機関員・島田(JIN)とともにポンプ車も炎の中に消え消火活動のための・・・水がなかったのである。

高木は・・・戦後、稼業の植木屋を継ぎ・・・おそらく神部は消防庁に勤務したのだろう。そして孫娘も消防官となったのだった。

高木は火災現場で・・・逃げ遅れた母子に・・・「落ちついて救助を待て・・・はしご車が到着する」とアドバイスして・・・天寿を全うしたのだった。

母子は・・・神部の孫娘が所属する消防隊によって救助されたのである。

高木の雄々しい最後を想い神部は・・・呪うべき時代を懐かしく回想するのだった。

そんな時代もあったのである。

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梅ちゃん先生

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2014年3月25日 (火)

私は犯ってないと誰もが言いたい時があります(二宮和也)

SFサスペンス映画なのだが・・・SFの部分で声を潜めるので・・・サスペンス映画のようなことになっている。

秘密の研究所の巨大モニターに・・・いかにもそれらしいデータが展開してもいいのだが・・・拡大/縮小されたDNA配列とか・・・操作もしてないのに何の意味があるのか・・・不明である。

DNA配列ですべてが決定しないのは・・・一卵性双生児を観察するだけで実感できる。

なにしろ・・・世界はコピーをはばむ刺激に満ちているのである。

まあ・・・映画はある程度・・・ゆとり向けにしなければならない宿命を負っているのである。

それでも・・・よくわからん・・・と言われる運命なのである。

無垢なツール同志のピュアな恋・・・そんなものでうっとりできるかよっ。

で、『日曜洋画劇場 特別企画・プラチナデータ(2013年公開)』(テレビ朝日20140323PM9~)原作・東野圭吾、脚本・浜田秀哉、演出・大友啓史を見た。物語世界は近未来の設定なのだが・・・いかにも現代調になっている。DNA万能と言う虚構が前提なのでもう少し、異世界感を出さないと・・・何言ってんの?・・・という率直な反応が出てしまうだろう。少なくとも脚本家はDNAについてもう少し勉強すると良いだろう。もう少し、セリフで上手く誤魔化さないと虚構が崩壊してしまうのだ。

遠くない未来・・・東京によく似た新世紀都市では相変わらずの猟奇的犯罪が勃発している。新世紀連続殺人事件で・・・被害者は肋骨を抜きとられている。新世紀警視庁捜査一課警部補の浅間刑事(豊川悦司)は無残な死体に瞑目する。

新世紀警察庁・特殊解析研究所ではDNA捜査システムのテストが行われている。主任解析員・神楽龍平(二宮和也)は「現場に残されたDNA情報から・・・容疑者を特定するテクノロジー」を開発したと断言する。

龍平の解析結果に従い、新世紀連続児童誘拐殺人事件の容疑者が特定され・・・浅間刑事は犯人を逮捕する。浅間刑事は自分が「ツール」になったような気になるのだった。

テストの成功により、新世紀国家では国民のDNAを登録するデータ・ベース法が成立する。

国民はDNAレベルで管理され、犯罪は抑制されるはずだった。

しかし、「肋骨消失連続殺人事件」の容疑者のDNAは未登録であり・・・該当者なしのためにNF(NOT FOUND)13と名付けられる。

そんなある日、新世紀大学病院VIP専用フロアでサヴァン症候群患者の蓼科早樹(水原希子)が殺害され肋骨を奪われる。彼女は優秀な数学者でDNA捜査システムの開発者だった。

浅間刑事は龍平に事情聴取し、「彼女は優秀なツールだった」という龍平の冷静な態度に不信感を募らせる。

しかし、現場に残されたDNAから容疑者として龍平が浮上する。

身に覚えのない容疑に龍平は失踪する。

新世紀警察庁特殊解析研究所所長・志賀孝志(生瀬勝久)はDNA捜査システムと国民監視システムを組み合わせた新世紀捜査システムで龍平の追跡を開始する。

新世紀大学病院の脳神経科教授・水上江利子(鈴木保奈美)を事情聴取した浅間刑事は「龍平が二重人格であったこと」を確認する。

龍平のもう一人の人格・リュウが早樹を殺したのか・・・しかし、浅間刑事は直感的に龍平が犯人であることに違和感を覚えるのだった。

日系アメリカ人でDNAプロファイリング研究者の白鳥里沙(杏)は龍平の逃亡を援助する。

「なぜ、僕を助けるのか」

「DNA捜査システムには重大な欠陥がある・・・蓼科早樹はその欠陥に気がついて補完プログラムであるコード・ネーム・モーグルを完成した形跡がある」

「・・・」

「私は・・・それを入手して・・・システムを完成させたい」

「新世紀米国政府に持ち帰りたいの間違いだろう・・・君はスパイだな」

「私たちの利害は一致していると考える」

「つまり・・・共通の敵はNF13ということか・・・」

龍平の追跡中に浅間刑事は上層部に新世紀的陰謀があることを嗅ぎつけ、龍平に取引を持ちかける。

端末で癒着する刑事と容疑者の共同作業である。

リュウは恋人の蓼科早樹から預かったモーグル・プログラムを肖像画の中に隠していた。

特殊解析研究所に侵入した浅間刑事はDNA捜査システムにモーグル・プログラムをインストールする。

DNA捜査システムには一部特権階級のデータ(プラチナ・データ)をリンク不能にするシステムがあらかじめ組み込まれていたのだった。

モーグルはそれを無効にするプログラムだったのである。

たちまち特定されるNF13・・・それは水上教授だった。

あわてて・・・水上研究所に向かう浅間刑事。

しかし・・・先着したのは龍平だった。

「なぜ・・・早樹を殺したのです」

「あの子は・・・私に逆らったのよ・・・ママに逆らうなんて悪い子だと思わない?」

「殺す必要はなかったでしょう」

「大丈夫・・・あの子の遺伝子は保存してある・・・肋骨と一緒にね」

「それで・・・」

「たとえば・・・あなたの遺伝子とかけあわせれば・・・素晴らしいツールができあがるわよ」

「僕も・・・ツールだったのですね」

「そうよ・・・私の作った子供たちは・・・みんな優秀なツールですもの」

「あなたは狂ってますよ」

「そんなことはないわよ・・・もし狂っているとしたら・・・それは神様が悪いの・・・アダムの肋骨でイブを作ったりするから・・・女はみんな不完全なものになるのよ。だからママはツールを作ってそれを補完するの・・・」

「僕も殺すんですか」

「そうね・・・あなたは・・・半分悪い子だから・・・」

「その拳銃・・・安全装置がかかったままです」

「あら・・・」

母と子はもつれあった。

銃弾を受けたのは母の方だった。

「神様の意地悪・・・」

「・・・」

放心した龍平を浅間刑事が確保する。

「君はどっちだ・・・」

「僕たちは一つになったんです・・・」

「そうか・・・」

新世紀警視庁捜査一課の那須課長(中村育二)が現れる。

「ひとつだけ・・・言っておく・・・」

「なんですか?」

「君たちは知りすぎた」

那須は拳銃の引き金を二度引いた。

「新世紀ニュースです・・・連続殺人事件の容疑者・神楽龍平が警官との銃撃戦の末、死亡しました。なお、この事件で・・・浅間玲司警部補が犯人の銃弾を受けて殉職しています・・・」

新世紀にひっそりと夜の帳が下りる・・・。

おい、新世紀的に結末が・・・まあ・・・いいじゃないか。どうせ新世紀B級SFサスペンスなんだもの。

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2014年3月24日 (月)

松永久秀曰く、百地三太夫でも風魔小太郎でもないのでござる(ミッキー・カーチス)

2014年の冬ドラマ・・・ミッキー・カーチスはNHK総合の「紙の月」で資産家の有閑老人を演じ、テレビ東京の「なぞの転校生」では異次元人に操縦される認知症老人、「慰謝料弁護士」では主人公の色ボケ父親を演じてついに怪しさ爆発の松永久秀役である。

スタッフのみんな・・・映画「ロボジー」(2012年)を見たのか・・・。

ビジュアル的には百地三太夫とか風魔小太郎とか戸澤白雲斎もできそうである。

今回は戦国時代の人質事情が主題になっていたわけであるが・・・松永家が織田家に差し出していた人質は松永久秀の子ではなく、久秀の嫡男・久通の子であるという説もある。つまり、孫である。

形式上では官兵衛は小寺政職の養女を母としているために・・・官兵衛の子は政職の孫ということになる。

徳川家康や、武田信玄のように自ら実子を殺す武将も実在する時代である。

しかし、血縁にはそれなりの価値があり、主従の証として質を出すのは慣例化している。

預かった人質に恩を施し情で縛るのも常套手段であった。

官兵衛が小寺氏の養女を母に持ち、小寺氏の一族を妻としたように・・・女も血縁で相手を拘束するために有効な手段だった。

女が婚家と実家の板挟みになるのは日常的な風景だったとも言える。

浅井家に嫁いだお市が兄・信長に危機を伝える情報を伝えたり、徳川家に嫁いだ五徳が父・信長に夫・信康を讒言したりするわけてあり・・・スパイとして働く姫たちもいる。

官兵衛の妻・光も実家の櫛橋家にはある程度官兵衛の動向を伝えていると思われる。

家康が織田家や今川家への人質だったように、官兵衛も小寺家への人質だったわけであり、人質であることによって出世の糸口をつかむ場合もあったし、織田信忠の許嫁・武田松姫のように・・・軍事同盟解消のために婚約解消という場合もある。

松永久秀を討った筒井順慶は幼少だったために実母を織田家に人質として差し出している。

筒井順慶の妻の姉は明智光秀の妻である。

光秀は母を波多野氏への人質としたためにこれを殺害されたという伝説も持っている。

光秀の娘・細川ガラシャの悲劇も人質がらもである。

秀吉も家康をおびき出すために母や妹を人質に差し出した。

徳川家はこれを制度化して・・・参勤交代に結晶させる。

家康ほど・・・人質というものを味わい知悉していたものはいなかったとも言えるだろう。

で、『軍師官兵衛・第12回』(NHK総合20140323PM8~)脚本・前川洋一、脚本協力・穴吹一朗、時代考証・小和田哲男、演出・大原拓を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。14行に盛りかえしましたな。まあ、増量したのは松永久秀の名物化批判でしたけれどもーーーっ。まあ、出せばいいってもんじゃないだろう的に同感でございます。時代考証の人は「天地人」(2009年)、「江〜姫たちの戦国〜」(2011年)とどんどん、まあいいんじゃねえの的になっているような気がしますなあ。なんとなくですけど・・・このドラマ・・・半島進出はおろか・・・関ヶ原もなしで・・・北条征伐までしか描かないのではないか・・・という危惧が生じています。まさかとは思いますけどね。だから雑談はコメント欄でやれと・・・今回は織田家宿老で現在・織田信忠付家老の林通勝(林秀貞)と滝田栄版の徳川家康の二大イラスト描き下ろしでお得でございます。「信長 KING OF ZIPANGU」で林通勝を演じた亡き宇津井健さんのご冥福をお祈り申し上げます。

Kan012 天正五年(1577年)、あるいは前年に松寿丸(黒田長政)は人質として近江長浜城に差し出されている。尚、小寺政職には氏職、正則などの実子があったとされる。小寺氏と黒田氏、織田家と羽柴家の微妙な主従関係が松寿丸の人質としての価値を曖昧なものとしていると言える。織田家から見れば、実質的な武力を有する黒田家からの人質は歓迎されたと考えることも可能である。官兵衛には同母の利高、異母の利則、直之などの弟があり、人質候補は多数いたと考えることもできる。さらに言えば松寿丸がいなくても黒田家の後継者には不自由しなかったわけである。この後、あの事件によって黒田官兵衛が不在となっても黒田家が動揺しないのは父・職隆と弟たちが健在だったからである。一方、信長の嫡男・信忠は天正四年(1576年)に家督を譲られて岐阜城主となり、名目上の織田家総領となっている。言わば信長会長と信忠若社長という関係である。信長は織田家宿老筆頭の林秀貞を信忠の付家老として、岩村城攻め、雑賀攻め、信貴山城攻めの総大将となる信忠を補佐させている。信貴山城攻めには・・・大和国主の筒井順慶の後ろ盾となる明智光秀と、羽柴秀吉、佐久間信盛、細川藤孝という織田軍団の有力武将を指揮下に置き、信忠は松永家を滅亡させたのである。この至れり尽くせりぶりが・・・信長の強力な父性愛を如実に物語っている。

播磨国姫路城から、近江国長浜城までにはいくつかのルートがある。信長に臣従している山名祐豊の但馬国に入り、丹後国を経て、山城国に入り、京から近江国へ向かう路。しかし、丹後の一色氏は織田に対する旗色が不鮮明となっていた。海路で摂津国に入るのが最速だが・・・制海権は毛利氏にあるのである。結局、陸路で摂津に入り、同盟軍の荒木氏の領地を抜け、京の都から近江に至る路を人質・松寿丸護送隊は選んだ。

官兵衛自らが指揮をとり、栗山善助、母里太兵衛、井上九郎右衛門らいつものメンバーが護衛についている。もちろん、配下には黒田忍びが従っている。松寿丸は輿に乗せられ、前後を徒歩のものが固め、さらに前方を騎馬武者が先駆していく。

播磨から摂津、京の都までは順調に行程が進み、ほぼ織田家の勢力圏内と言える近江国に入ったことで・・・一行は一息ついていた。

明智光秀の坂本城から琵琶湖を渡り、長浜へ向かう手筈である。

元亀二年の比叡山焼き討ちから六年、無残な姿をさらした延暦寺周辺はそのままになっている。しかし、自然の力は山を緑に染めていた。

光秀の坂本城は叡山の復興を許さず、監視するために築城されているのだった。

その山路を抜けていた松寿丸護送隊の黒田忍びが警戒の合図の笛を吹く。

一同に緊張が走った。

官兵衛は火縄の匂いを嗅いだ。

「鉄砲じゃ・・・輿を固めよ」

竹束の盾が立てられた瞬間、銃声があがり、盾に着弾があって一部が破損する。

間一髪であった。

「松寿丸様」と栗山善助が悲鳴のように呼び掛ける。

「大事ないらあ」と松寿丸は落ち着いた声で答える。

すでに狙撃者に向かって黒田虎の子の五人の鉄砲忍びが威嚇射撃を開始している。

「斬り込みに備えよ」と官兵衛は命じた。

官兵衛たちは輿の四方を囲む。

すでに・・・黒田忍びの一隊が狙撃者に向かって突撃していた。

黒田家兵術指南の新免無二に鍛え上げられた精兵の足軽しのびである。

逃走に転じていた狙撃者は一人だった。

逃れられぬと覚悟した狙撃者は自害して果てる。

「周囲に曲者はありませぬ・・・」

警戒にあたった忍びが報告する。

狙撃者は修験者の装束を身にまとい・・・鉄砲のみで武装していた。

「何者でしょうか・・・」と井上九郎右衛門がつぶやく。

「わからん・・・根来か・・・雑賀の鉄砲忍びのようだが・・・」

「いずれにしろ・・・織田に恨みを持つものでしょうな・・・」

味方であることを示すために使った織田の旗印が狙われたらしいと判断した栗山善助がささやく。

「それもある・・・まさか・・・松寿丸を人質と知って狙ったとも思えんしな・・・」

「いえ・・・それは違いまする」

樹上から声がした。

「何者だ」

「赤影参上・・・」

「何・・・」

「拙者は秀吉様の忍びのものでございます」

「なんと・・・」

「これより先に兵が伏せてありました・・・その曲者はその中から討ち漏らしたものでございます」

「・・・」

「その他の伏兵はすでに討ち果たしましたが・・・本願寺勢でございました・・・中に播州なまりのものがおりました・・・」

「すると・・・家中の毛利贔屓のものが手引きしたか・・・」と栗山善助。

「身元を詮議しても・・・無駄じゃろうのう・・・」と母里太兵衛。

「ともかく・・・これより先は我らがお守りしますので・・・橋場へお急ぎくださりませ・・・」

「かたじけない・・・」

官兵衛は姿なきものに応じ、一同に出発を命じた。

影の忍者たちは・・・幽かに動く気配だけが感じられる。

(油断ならぬ・・・)

官兵衛は我が子が揺られる輿を不安まじりに見つめるのだった。

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2014年3月23日 (日)

私だけはいつも必ず絶対的に正しい違法捜査をしているのです(水谷豊)

三月のお彼岸中の土曜日・・・。

甲子園では・・・魔物が大暴れして9回裏に一点差を同点、10回裏に二点差を同点、ついにブラスパンドの奏でる「あまちゃん」の応援で「てれってってってってて~れじぇじぇじぇ」と13回裏にサヨナラで豊川(愛知)が文理(新潟)に勝利する。

うとうとしたくなるゴールデン・タイムに・・・NHKの「どんとこい超常現象」とか「車王国万歳ドラマ」とかを横目に「スーパーサイヤ人ゴッド」のアニメを見てみる。

・・・パピコ効果かっ。

結局・・・強いものが正しいという究極のテーマが延々と展開されるこのアニメ。

それが面白い人には面白いのだな。

やはり・・・勝利こそが正義なのである。

で、『相棒シリーズ season12 最終回スペシャル(全19話)』(テレビ朝日20140319PM8~)脚本・輿水泰弘、演出・和泉聖治を見た。脚本家によって微妙に「相棒」のセンスは変わるのだが・・・今回はどちらかというと支離滅裂の人である。しかし・・・支離滅裂こそが相棒の本質と言えば・・・もっとも相棒らしい作品に仕上がっているとも言える。ミステリには・・・「制度」そのものをアイディアの根幹にしているものがあり・・・たとえば米国映画には「証人保護プログラム」という制度を扱った作品がいくつかあるわけである。当然、日本のクリエイターはこれをパクリたいと考えるわけだが・・・残念ながら・・・日本には「証人保護プログラム」そのものがない。そこで今回はもしも・・・誰かが実験的に「「証人保護プログラム」」もどきを試していたら・・・という滅茶苦茶を仕掛けてきます。で・・・そういう滅茶苦茶なことをする人材にはことかかない相棒ワールドだが・・・やはり、やってるならあの人だろうと・・・死亡した官房長こと小野田公顕警察庁長官官房室長(岸部一徳)が墓場から復帰するのだった。回想シーンのみの登場だが・・・その存在感は半端なく・・・惜しい人を失くしました・・・という気持ちで一杯になる・・・お彼岸だからな。

極悪人の御影康次郎(中村嘉葎雄)を死刑台に送り込むために・・・生前の小野田は殺人事件の陣頭指揮をとり・・・康次郎の三男で父親の稼業を嫌う智三(冨田佳輔)を焚きつけて父親を告発させることに成功する。親を裏切った子を見せしめのために殺害しようとする御影一族から親不幸な裏切り者の智三を守るために・・・小野田は使途不明金一億円で擬似証人保護プログラムを発動。戸籍のデシタル化に伴う入力ミスを利用して智三に新しい戸籍を捏造するのだった。

しかし、執念深い康次郎は死刑囚の身でありながら・・・獄中の元・法務大臣の瀬戸内受刑者(津川雅彦)に接触・・・智三が官によって秘匿されている事実に勘付く。そして・・・娑婆にいる長男の真一(阿部進之介)と次男の悠二(篠田光亮)に三男の暗殺指令を命ずるのだった。

親として・・・親不幸な子供には罰を与えるという当然の行為で・・・おいっ。

とにかく・・・父親を敬愛する長男は・・・愚かで軟弱な三男に死を賜るべく行動を開始するのであった・・・だから、おいってば。

だって・・・たとえ悪人だって身内を売るのは人の道に反してるだろう。

そうだよな・・・だからこそ、犯罪者の身内の証言は信憑性を疑われるわけだし・・・。

・・・お前たちっ。どこのシンジケートの人間だよ。

まあ、その点はさておき・・・長男は東京拘置所刑務官の久保寺(福井博章)の妻(川田希)と娘(安生悠璃菜)を人質にとって・・・瀬戸内に三男を差し出すように要求するのだった。

困惑した瀬戸内は・・・特命係に救助要請である。

杉下右京警部(水谷豊)は極秘にしなければならないと・・・単独捜査を開始するが・・・人手が足りないとただちに・・・相棒の甲斐享(成宮寛貴)や鑑識の米沢(六角精児)たちをガンガン巻き込み・・・いつの間にやら捜査一課も手足のように酷使し、ついには警察庁次長の甲斐峯秋に超法規的措置で瀬戸内を保釈させるように要求する。

これによって・・・人質は久保寺の妻子と瀬戸内を交換することが出来るのだが・・・基本的に何の状況の改善もみられないことは言うまでもない。

調査の結果・・・ついに・・・三男を発見するが・・・すでに病死していたことが判明する。

「死んでいた・・・と言っても相手は信じないでしょう」

そこでさらに・・・死刑囚の康次郎を超法規的措置で保釈し、三男の墓石に対面させるのだった。

しかし・・・父親を激しく敬愛するために・・・父親に溺愛されていた三男を激しく憎悪する長男は父親の言葉にも従わなくなっていたのだった。

仕方なく・・・捜査一課に次男の別件逮捕をさせた右京は・・・相棒を偽物の三男に仕立て上げるのだった。

すでに狂人と化した長男はただちに発砲・・・たまたま胸に弾丸を撃ち込まれ防弾チョッキで・・・一命をとりとめる甲斐亨だが・・・頭にくらっていれば大惨事である。

とにかく・・・隙をついて・・・長男は確保されるのだった。

「こんなことになったのも・・・法をまげて・・・官房長がおかしなことをしたからです」

断言する右京に・・・登場人物とお茶の間は・・・。

「あんたにだけはいわれたくない」

「おまえがいうか」

「この違法捜査の常習犯がっ」

激しく狂おしく身悶えつつ、つっこむのだった。

そして、世間に後ろ指さされても庇いあうのが家族だと信じたい悪魔だった。

親を売って一億円でのびのび田舎ライフを楽しむ三男が最高の極悪人だな。

おいおいおいっ。

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相棒Season12 元日SP

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2014年3月22日 (土)

心が風邪をひきそうな冷たさであれば(本郷奏多)月下の踏み切りであすなろ抱き(中村蒼)泣かない約束したばかりなのにもう(杉咲花)私の知らない世界(桜井美南)

いよいよ・・・冬ドラマの最終回ラッシュも終盤である。

テレビ東京のこの枠は結構、最後まで残るよね。

さいはてのせつなさでは・・・ピコピコ鳴るシューズを履いた「ウシジマくん」のパピコ(紗倉まな)が他者の追随を許さない今シーズンだが・・・萌え度ではダブル・ヒロインの「なぞの転校生」も捨てがたい。

まあ・・・こっちの二人はグランドがメジャーだからな。

秋葉原のディスカント・ショップで通りすがりのソフトコーナーに並んだ彼女の名前で胸がキュンとすることはないわけである。

何を言っているのかわからんぞ。

分かる奴にだけ分かればいい。

松住町架道橋から昌平橋までピコピコ幻聴が止まらなかったぞ。

・・・それは病院に行った方がいいと思うぞ。

いや、万世橋までにはおさまったから大丈夫だ。

お彼岸だな・・・。

で、『・第11回』(テレビ東京201403220012~)原作・眉村卓、脚本・岩井俊二、演出・長澤雅彦を見た。幼い頃には世界の終りを簡単に想像できる。しかし、人は長じるにつれなんだかんだで滅びそうで滅びない・・・この世界なんじゃないかと思い始める・・・しかし・・・それは百年という瞬くような時間を過ごす人類の思いこみにすぎないのかもしれない。滅びの時が来れば・・・あらゆるものが滅びていくのである。それはある意味では優しい「死」の幻想である。つまり・・・死ぬのが自分だけではないという安心感を伴うものだ。このドラマはそういう甘美なムードを醸しだしている。

昼下がりの公園で暗殺者(翁華栄)は王妃(りりィ)を刃物で刺す。

休日なので人目があるはずだが・・・おそらくモノリオ(本郷奏多)はただちになんらかの結界を張ったと思われる。

「あのものを逃がすな・・・アスカを守れ」と苦悶しつつ王妃はモノリオに命じる。

モノリオは暗殺者を追跡し・・・その後を広一(中村蒼)とみどり(桜井美南)が追う。

モノリオは追跡者を追い詰める。

「待て・・・私はお前とは戦わない」

「・・・」

「だって・・・ヒューマノイドと戦って普通の人間に勝ち目はない・・・それに私は任務を果たしたし・・・もはや・・・楽になりたいのだ・・・わかるかな・・・」

「・・・」

暗殺者はモノリスによる自決を行った。

モノリスは異次元回廊の出入り口を開くことができるが・・・同調していない異次元に飛び込めば・・・物理的存在は消滅するのである。

霊魂を含めた全存在がどうなるのかは不明らしい。

広一とみどりは見てはならぬものを見た。

しかし、心優しい二人の高校生は瀕死の王妃を見捨てることはできなかった。

王妃は仮初の王宮である江原家の帰還を求めた。

「なんとかせよ」とアスカ(杉咲花)は命じる。

「レイバーがオンラインになりません・・・」

いよいよ・・・モノリスのエネルギー残量は少ないらしい。

王宮には江原老人(ミッキー・カーチス)の姿しか見えない。

「一体・・・どういうことなんだ」と思わずアスカを問いつめる広一。

「理由は話す・・・信じられない話かもしれないが・・・私たちがどこから来たか・・・なぜ・・・ここに来たか・・・ただ・・・お願いがある・・・すべては秘密にしてほしい」

「・・・」

「モノリオ・・・おばあさまを助けてくれ」

「現地の医療機関を使います」

「しかし・・・」

「モノリスのマギでなんとか秘密を保持します」

「・・・そうか・・・頼む」

広一は廊下に広がる王妃の血痕を見て気が動転する。

「とにかく・・・これをふきとらないと・・・いや・・・ふきとっちゃまずいか」

「タオルがいるわね」と広一よりも冷静なみどり。

しかし、バスルームでみどりは悲鳴を上げる。

バスタプでは・・・アゼガミ(中野裕太)とスズシロ(佐藤乃莉)が抱き合ったまま絶命していた。

おそらく・・・絶望して心中したものと思われる。

救急車を呼ぼうとしたモノリオを死の床についた王妃が制止する。

「それは・・・ならぬ・・・皆のものを呼べ」

ベッドに横たわった王妃は・・・最後に王族としての威厳を取り戻していた。

「王家の歴史を語ろう・・・」

Dの歴史はマルスの歴史だった。

伝承によれば・・・謎の鉱物生命体マルスを発見したのはD1世界の住人だったという。

彼らはマルスから・・・モノリスを作った。

モノリスは万能端末といえるツールである。

マルスの研究からゾーンによってパラレルワールドへの転移を可能にした「彼ら」はD8世界に移住しモノリス文明を構築する。

200トンのマルスを集積したグランドを作った「彼ら」はクランディズムと呼ばれる超管理社会を構築する。

D4世界やD5世界の資源は「彼ら」によって食いつぶされる。

D8世界のH・G・ウエルズはモノリス文明の行く末に警鐘を鳴らした。

しかし、正体不明の何者かが・・・ゾーンを通じてD8世界の1999年に超核兵器である「アンゴルモアの火」を投下する。

このことによってグランド支配体制は崩壊する。

グランド支配時代に実権を失っていた「王家」は革命勢力によって担がれ・・・疲弊した社会に新政府が誕生する。

グランド支持の旧政府と王家復興の新政府は戦争を行う。

その戦乱の最中に・・・新たな超兵器である「プロメテウスの火」がゾーンより投下され・・・D8世界は崩壊・・・王妃は僅かな臣下とともにD12世界に脱出してきたのだった。

「つまり・・・その超核兵器は・・・誰が・・・」

「それは分からぬ・・・」

「・・・」

「この世界にはアイデンティカと呼ばれるもう一人の私がいる可能性がある・・・広一は・・・私の世界ではナギサと呼ばれる王族の一人だったのだ」

「僕が・・・王族?」

「そこで・・・お前に頼みたい・・・我が王国の王位を継承してもらいたい」

「・・・」

「今・・・すぐに決断しなくてもよい・・・これは私の末期の願いとして申している・・・私はもはや・・・疲れた・・・この美しい世界で・・・眠りにつけて幸いじゃ・・・青い空、色とりどりの花々・・・優しい雨・・・」

王妃は逝去した。

「・・・王妃は崩御されました・・・」

「おばあさま・・・」

アスカは膝を落し号泣した。

広一とみどりは立ちつくした。

江原老人は念仏を唱えた。

アスカはみどりの贈った花を王妃の亡骸に供える。

モノリオはゾーンを開き・・・王妃を葬った。

もはや・・・アゼガミとスズシロを葬ればモノリスは尽きる計算である。

「これでご遺体は完全に消滅します・・・」

「もう一つだけ・・・聞いてくれ」と葬儀を終えたアスカは言う。

広一とみどりは・・・異世界からきた少女を見つめる。

「私は・・・放射線を浴びて・・・もはや・・・死を待つ身なのじゃ・・・」

アスカは抜けおちる毛髪を示した。

「ごめんなさい・・・私・・・何も知らなくてごめんなさい・・・」と衝撃の告白にみどりはわけもなく謝罪した。

「いいのじゃ・・・みどりがわびることなど何一つない・・・」

アスカは崩れ落ちた。

眠りについたアスカを残し、広一とみどりは帰宅する。

「彼女の病気・・・なんとか・・・ならないのか」とモノリオに問う広一。

「なんとかできるものなら・・・なんとかしている」とモノリオは答えた。

広一は夜路をたどり・・・みどりを家へと送る。

月が二人を見下ろす。

「あの日・・・二人で・・・流星をみたわね」

広一はみどりを抱きしめた。

「やはり僕は君が好きだ」

「なんで・・・今なのよ」

「どうしても・・・今、言いたかった」

みどりは広一の手を宥めるように撫でた。

窓辺で目覚めたアスカは月を眺めていた。

「美しい月じゃの・・・」

モノリオは苦渋を表情で表現する。

「モノリオ・・・泣きたければ泣くがよい・・・」

「泣けるものなら泣きたいです」

「ふふふ・・・私はもう泣かぬぞ・・・これから・・・私はこの世界で好きに生きるのだ」

そういうアスカの瞳からこぼれる涙。

「姫様は・・・これまでだって好きに生きてこられたでしょう」

「ふふふ・・・言うのう・・・」

D8世界最後の人類とD8世界最後のヒューマノイドは微笑みあった。

これはもう・・・クライマックス・・・残るはエピローグか・・・。

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2014年3月21日 (金)

そっとしておいてくれない女(吉田里琴)

公務員の無能というものがある。

それはある意味で有能ということだ。

たとえば・・・犯人を絶対に逃がさない刑事というのは公務員として有能なのである。

代表的な刑事として「相棒」の杉下右京がいる。

しかし、妻子を殺された男が犯人を殺した場合・・・そっと見逃してしまうというのはそんなにいけないことなのだろうか。

そういう問いかけをすること自体がいけないことなのだろうか・・・。

しかし、杉下右京は「殺人は犯罪なのです」と基本的には逮捕するのだった。

基本的にはしょうもない系ドラマだった「戦力外捜査官」では最終回で主人公が警視総監に手錠をかける。

その理由は「放火犯人の息子を庇った母親をそうと知りつつ逮捕したから・・・」である。

とにかく・・・警官たるもの遵法精神が基本なのだ。

それに対し・・・裁判では「情状酌量」という不思議な制度がある。

裁判官の気分で・・・罪と罰が軽減されたりするわけである。

この・・・流れは一体どういうことなんだろうか。

とにかく・・・公務員として有能であればあるほど・・・どこかに漂う無能感があるのだ

被災地にいつまでも援助物資が届かないのは公務員が有能すぎるから・・・ということである。

しかし・・・ルール無用となれば・・・善はたちまち悪に変ずる可能性がある。

だが・・・「はだしのゲン」に差別的な表現があるという理由で教育的指導を求める人の無能感は・・・もはや痛々しいレベルなのである。

この・・・なんとも微妙なニュアンスを素晴らしいドラマは感じさせてくれることがある。

それが・・・全く感じられない傾向がある・・・檀れい版・福家警部補・・・。

そもそも・・・犯人の追い詰め方がインチキだし・・・その感性も愚鈍な感じがする。

多分・・・それは・・・誰かが無能なんだろうなあ。

それなのに・・・レビューするのは・・・ゲストが魅力的だからあああああああっ。

で、『福家警部補の挨拶・第10回』(フジテレビ20140318PM9~)原作・大倉崇裕、脚本・麻倉圭司、演出・岩田和行を見た。2014年の冬ドラマ、地上波では「三匹のおっさん」に続いてのゲスト出演となる吉田里琴。NHKBSプレミアムでは「花咲くあした」で主人公(小池栄子)の中学生時代を演じている。ここまで、石原さとみ、綾瀬はるか、黒川智花、菅野美穂、山田優、安藤希などの少女時代を演じてきたわけだが・・・女優になってもまだそのポジションをやらせるのか・・・と思わないでもない。もう少し・・・事務所がいい仕事とってくるといいと思うよ。

元指定暴力団の菅村組は三代目組長の意向で娘婿の四代目組長・菅村巽(岩城滉一)の代で解散した。暴力団同志の抗争で巽の妻・花恵(棚橋逸香)が殺害されたことが解散の要因となったらしい。その後、巽は菅村綜合警備保障社長となり、自身と元組員の更生を計っていた。しかし、元菅村組幹部の遠藤憲一・・・じゃなかった・・・遠藤次郎(デビット伊東)は堅気の稼業に嫌気がさし、ヤクザに回帰することを目論んでいた。そのために巽の一人娘で中学生の比奈(吉田里琴)を拉致監禁し、あろうことか、巽を脅迫するという暴挙に出る。

巽は相手の要求に応じるフリをして・・・覚醒剤の常用者である遠藤の舎弟・金沢肇(米村亮太朗)のドス(短刀)で遠藤を刺殺し、遠藤のドスで金沢を刺殺。二人が仲間割れをしたと見せかけて現場を去る。

しかし・・・娘の比奈は緊縛され、目隠しをされながら・・・父親の存在と殺人に気がついてしまうのだった。

原作の「少女の沈黙」をかなりアレンジしてのドラマである。

原作では巽は比奈と父娘ではない。

父を庇う娘という・・・微妙な要素をぶっこんできて・・・スタッフにそれを表現する力量が不足しているために・・・ドラマとしてはかなり破綻しているが・・・比奈を演じる吉田里琴の圧倒的な存在感でなんとか乗り切った感じである。

相変わらず・・・超能力的な思いこみで・・・犯人を巽と断定する福家警部補(檀れい)の異常ぶりは際だっているが・・・ミステリとしてはほとんど失敗していると言える。

組長の形見の金時計・・・ドスに残された傷の照合・・・二人を殺害した手際からプロフェッショナルである巽は証拠隠滅したはずだ。

被害者は加害者と会うために着替えた・・・その手の店に飲みに行く時にだって着替えるぞ。

比奈が父親の存在に気がつくイニシャル入りの靴・・・そんなださい靴を誰が履くか。

比奈の目隠しが緩んでいた・・・だからどうした。

比奈が父親の指紋を消そうとしてドスを握った・・・それが可能なら・・・完全に拭き取ればよかった。

筆箱にカッターがなかったので・・・自殺未遂をする可能性・・・自殺していたら・・・比奈を死に追い込んだのは福家である。

ランタンが置かれた理由・・・暗かったからではないのか。

まあ・・・とにかく・・・ヤクザとして有能な父親と・・・根性のすわった娘は絶対に福家の追及をしのぎ切ったと思うよ。

しのげなかったのは・・・要するにこのドラマが御都合主義の極みだからなのである。

誘拐事件の被害者で精神的に不安定な女子中学生に蛇のようにつきまとう福家。

「あなたに知ってることを話してもらいたいの・・・それだけなのよ」

「・・・」

一本調子の福家警部補の追及に・・・微妙な表情やしぐさの演技で・・・沈黙を守る比奈。

カメラの前の演技のキャリアの違いを見せつけるのだった。

「もう・・・やめてくれ」と父親の巽は本気で嫌がる。

「苦しめているのは私じゃない・・・あなたでしょう」と巽を詰る福家警部補。

いや・・・誰が見ても・・・苦しめているのは福家さんです。

「さあ・・・もう・・・白状しちゃいなさいよ・・・キーッ」

「知りません・・・私は何も知りません」

「そんなこと言っても無駄なのよ・・・犯人は脚本に書いてあるんだから」

「・・・」

「さあ・・・もう・・・エンディングになっちゃうから・・・言いなさい」

「・・・お父さんです」

「まったく・・・手間をかけさせるわねえ」

娘が・・・最近・・・冷たくてパパと呼んでくれないことに悲哀を感じていた父親はそれだけで死刑になってもいいと思うのだった。

とにかく・・・このドラマの福家警部補はどうしても有能な刑事に見えないし、人間としてもかなりの無能感を漂わせる。

あえて・・・そういうキャラクターを演じているとしたら・・・この非人間的で虚しい主人公を演じる檀れいはさすがはスター女優なのだと言えるかもしれない。しかし・・・エンターティメントとしてそれにどんな意味が・・・。まあ・・・このドラマのオリジナル設定がきっとかなりの足枷になっていると思われ・・・。これ・・・原作はかなりの人情ものなんですけどね。

きっと最終回で八千草薫さんが「どうしてあなたはそうなの・・・」と問いただし、警部補が「実は・・・私は恐竜の恥骨にしか興味がない女なんです」という展開が・・・おいっ。

関連するキッドのブログ→第1回のレビュー

Cr001 平成財閥地下サロン・CLUB Rico開催中。シャブリ見事に演じきったのでありましたーーーーっ。満足なのでありましたーーーーっ。萌えーーっ の1時間でありましたーーーー!くう里琴ちゃん、セリフないのに何か隠して戸惑ってる様子は伝わる。・・・天才子役からの成長、はんぱないねikasama4かなり・・・身長も高くなっているようですな・・・とにかく少ないセリフでの演技・・・圧巻でしたねえ」じいや「警備会社のしゃーっす(失礼します)と挨拶する社員がお茶を出す時にちゃーっすと言っていたのが礼儀作法にかなっておりました・・・山田太郎ものがたりから・・・歳月は流れましたのでございます・・・校長先生の冥福を謹んでお祈り申し上げまする」

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2014年3月20日 (木)

君(多部未華子)と僕が生きていた時間(三浦春馬)

「生」を肯定することは創作の基本である。

しかし、「死」を肯定することも創作の基本である。

「生死」を共に肯定するという表現に矛盾を感じる人も多いかもしれない。

しかし、「生と死」は分かち難いものなのである。

生があって死があるように、死があって生があるのだ。

「生きること」と「死ぬこと」の違いを人はなんとなく思う。

それはまったく違うもののような気がする。

東日本大震災では一万人を超える人々が一瞬で死亡し、その前後よりも「生きている人間」が「死んでいる人間」に対面する経験を多く重ねたと思われる。

死者の家族が、周辺の人々が、医療関係者が、警察や消防、自衛隊、ボランティア・・・様々な人々がいつもより多くの遺体を見たはずである。

だから・・・それを体験した人々は「生者」と「死者」は全く違うと感じているかもしれない。

しかし、それはあくまで他人のことなのである。

自分自身が生きることと死ぬこととは全く違う話なのである。

そして・・・他人が死んだことを他人がどう感じているか・・・人は知ることはできないのだ。

一日の終りに人は眠る。

それが永遠の眠りになったとして・・・「生」と「死」になんの相違があるだろうか。

自由な人間よりも不自由な人間にとっても・・・「生」と「死」は平等に存在するのである。

で、『僕のいた時間・最終回(全11話)』(フジテレビ20140319PM10~)脚本・橋部敦子、演出・葉山裕記を見た。さいはてドラマの名作として甲乙つけがたかった「明日、ママがいない」が全9話で先着し、二回多いこのドラマは前後ではみ出している。初回と最終回だけ見た人も多いのではないか。まあ、それでもこの物語は充分伝わるという考え方もある。少なくとも・・・よく知らない人たちに感じていた不安が付き合ってみたらそれほど悪い人たちではなかった・・・という感じは伝わると思う。「虚構」があふれている社会で・・・何を楽しむべきか・・・限られた時間で悩むことは多い。しかし、悩むことが幸せだという考え方もある。キッドはなるべく全部のドラマに目を通したいと思うが・・・そうでないと・・・裏表同時レビューの決断は難しいからである。しかし、そうなるとデビューしてないドラマへの思い入れは些少なりとも減じたりする。そういう時は・・・好みの問題とか、縁がなかったとかいろいろと申し訳ない感じを申し上げるのである。本当に時間ってやつには限りがございますよねえ。

昔、作家仲間がつぶやいたことがある。

「創作してる時間ってもったいないよねえ」

「いや・・・でも楽しいだろう」

「もっと楽しいことってあるよねえ」

「まあねえ」

まあ・・・それを言ったらおしまいだろうという話である。

余命いくばくもないと知って創作を続ける人は筋金入りなんだと思う。

このドラマの主人公は・・・「それでも、生きていく」ことについては筋金入りのタイプでございます。

キッドはどうするかなあ・・・大戦略的なゲームで・・・地球征服を目指す確率は高いだろうなあ・・・。脳信号直結でコマンド入力できるといいなあ。

でも・・・それができると創作もできちゃうんだよなあ。

「死にたいわけじゃない・・・生きるのがこわいんだ・・・」

僕は自分でも何を言っているのか・・・わからなかった。

でも・・・それは正直な気持ちなんだよ。

もちろん・・・死ぬのもこわい。そもそも・・・こわいのは生きている証拠なんだな。

自殺をすることを様々な宗教は禁じている。

信者が死んじゃうと献金が減るからだ。

それでも自殺する人は多い。長い苦しみよりも・・・一瞬の苦痛・・・それはそれで合理的な判断と言える。でも・・・多数決をすると・・・死ぬのが何よりもいけないと・・・人間は判断する。

だから・・・自暴自棄というか・・・もう・・・どうしていいのかわからなくなって・・・覚悟もないまま・・・衝動的に家出した僕は・・・なんとなく無茶をして・・・結局、善意ある人々のお世話になり・・・気が付いたら病院にいたのだった。

主人公が生死の境を彷徨っている時に・・・クドカンなら絶対に笑いをとりにくるがハシアツはひたすらじっくりと腫れ物に触る人々の気持ちを描く。

僕を見守る・・・心配そうな人々の眼差し・・・僕は・・・僕の人生がこれからも続いて行くことを予感する。

お母さん・・・お父さん・・・弟の陸人・・・親友夫婦・・・そして君・・・。

心配かけてごめんなさい。

それから・・・みんなはいなくなった。

別室で悪魔の担当医と緊急会議をしているに違いない。

「どうしたらいいんでしょう」

「とにかく・・・こっちの水は甘いぞということを・・・」

「ホタル狩りですかっ」

・・・てなことでも言ってるんだな。

そんな心配しなくても大丈夫。

僕は死ぬのが嫌なんだ。

窒息死は苦しいって聞いたけど・・・本当に苦しかったよ。

僕は・・・苦しんで死ぬくらいなら・・・観葉植物のように生きていくのも悪くないと思い始めていた。

「水が欲しい」と言えなくなっても必ず誰かが水をくれると信じる。

「枯れたい」と思うかもしれないが・・・そういう気の迷いはいつだってつきものだ。

「枯れたい」「枯れたい」「枯れたい」と思ってノイローゼになって発狂しても・・・誰にも迷惑はかけないしね。

親友夫婦は僕のために・・・筋力が衰えた人の筆記専用補助器具をプレゼントしてくれた。

僕は一度はできなくなった「目標を書き記すこと」が再びできるようになった。

書けるってのは勉強の能率アップには絶対必要なんだ。

顔は覚えているのに名前が思い出せない認知症とは違うが・・・脳の栄養補給はどんな病気にも大切だと君は食事にもさらに気を使ってくれる。

僕の介護によって君の介護力はスキルアップを遂げていく。

弟が恐竜友達を発見できたことにも・・・僕が力を貸していると考えると兄としてうれしい気持ちになる。

人々のぬくもりと・・・。

それを暖かいと感じる僕の心・・・。

感謝の気持ちを伝えることがてきなくなってしまっても・・・僕が感謝していると人々が信じていることを・・・信じること。

結局・・・人間なんて思いこみで生きていくんだもんね。

恋人を奪い取った僕を許し・・・僕を心配してくれた先輩とか・・・娘を虜にした身体障害者を許せない君の母親さえもが・・・僕を案じてくれる。

なんて・・・世界は優しさに満ちて・・・僕にとって都合がよくできていることか・・・。

僕は・・・自分が恵まれている思う。

僕は・・・自分がひどい目にあっていると思う。

でも・・・人生なんてこんなもんなんじゃないか。

隣の女子中学生さえもが・・・僕に生きる希望を与えにやってくる。

「中学のイベントで・・・講演をお願いします」

「・・・」

「先生が頑張ってるのを見ると勇気が湧いてくるんです・・・この気持ちをたくさんの人に伝えたいんです・・・」

いつかは・・・話すことができなくなる僕。

でも・・・今は話すことができる。

僕は今できることは・・・やってみようと思うんだ。

そういうタイプなんだな。

そして・・・僕は語った。

「最終回にかけつけてくれた皆さんのためにこれまでのあらすじです。僕が今よりもっといい加減に人生を考えていた頃・・・僕の同級生が自殺しました。理由は分かりませんが・・・彼は就職が決まっていなかったのです。僕はショックを感じましたが・・・それでも他人事でした。ただ・・・そのショックで面接試験であらぬことを口走ったおかげでなんとか就職することができたのです。そして・・・僕はALS患者になりました。筋肉が委縮していく病気です。病気は僕から様々な自由を奪って行きました。左手が動かなくなり、右手が動かなくなり、歩くことも立っていることもできなくなりました。仕事も失いました。恋人を抱きしめることもできなくなりました。中学生の皆さんに説明するのは難しいですが・・・それでもいろいろな楽しみ方はあります。私は多くのものを失いましたが同時に多くのものを得ることができました。愛されていないと思っていた家族が深く愛してくれていることを知りました。バカじゃないかと思っていた弟が本当にバカだったと知りました。そして・・・まともなセックスができなくても愛してくれる恋人がいることも知ったのです。しかし・・・僕はまもなく自分では呼吸ができなくなります。そのために人工呼吸器を装着すると・・・もう外すことはできません。未来を想像すると僕は暗い気持ちになります。やがて意志を伝える術を失った僕が背中をかいてもらいたくなった時にかいてもらえなかったらと考えるだけで背中がなゆくなってくるのです。でも・・・僕には覚悟ができたのです。僕の背中がかゆいのできないかと・・・きっと誰かが気がついてくれる。そう信じることにしたのです。僕が生きて来たこれまでの時間で僕はそれを信じることができるようになった気がします。もちろん、津波が来たらてんでこで逃げるので僕は見捨てられてしまうかもしれない。でも財力があれば高台に住む事ができるでしょう。つまり・・・人間はどんな時にでも希望を持つことが出来るのです・・・だから・・・僕は人工呼吸器をつけて・・・死ぬまで生きてやるって決めたんです・・・御静聴ありがとうございました」

僕がポトスになっても生きる覚悟をしたことにみんなは感動してくれた。

一番、泣いたのはお父さんだった。

悪魔の担当医は僕の決断を・・・微笑んで了承した。

それが彼の仕事だからである。

それは桜の咲く季節だった。

僕は僕の声を録音した。

視線入力による会話コマンドで自動再生をするためだ。

僕の最後の肉声。

君は唐揚げの細切れを作ってくれた。

僕が最後に食べる大好物の君の唐揚げ。

僕たちはまた・・・海で三年後の自分たちに宛てた手紙を埋めた。

三十年で70%の確率で起こる東京直下型地震との勝負である。

僕たちは海鳥を眺めながら・・・人目もはばからず愛し合った。

そして・・・三年の月日が流れた。

僕は長生きをしそうだ。

僕と君は結婚した。

僕は医学部の受験に成功した。

弟には恐竜好きの彼女が出来た。このままだと世界中の恐竜マニアと知りあってしまうかもしれない。

東京直下型地震は来なかったらしい。

やがて・・・僕を誇りに思ってくれた父親も死ぬだろう。

いつか母親も死ぬだろう。

ひょっとしたら介護疲れで君が僕より先に過労死するかもしれない。

それでも僕は生きていくだろう。

だって・・・どんなことだって・・・そうなってみなければわからないものね。

僕たちは・・・海で手紙を取り出した。

君は僕に「となりにいてくれてありがとう」と書いていた。

僕は君に「となりにいてくれてありがとう」と書いていた。

僕は・・・今・・・幸せだった。

君も今、幸せだと信じている。

そして僕たちは・・・家路についた。

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2014年3月19日 (水)

人は人を求めるのだ・・・宮本武蔵(木村拓哉)

とえばこたえるということは・・・人の性である。

正解などというものがない質問にも人は答える。

問われてもいないのに答える場合さえある。

自問自答などというものもする。

愛してるかなと問われれば愛しているともと答えるのである。

しかし、人生には正解などないのだ。

・・・とは宮本武蔵は言わない。

正保二年(1645年)に新免武蔵(宮本武蔵守玄信)が著した「五輪の書」・・・「風の巻」は武蔵の創始した二天一流の立場から他流を評した文言である。

ここで武蔵は・・・「他流に大きなる太刀を好む流あり」と記している。誰と言ってはいないが・・・ドラマ「宮本武蔵」を見た人なら・・・佐々木小次郎の長刀を連想するはずである。武蔵はこう続ける。

「私の兵法から言うと、それは弱い流派と言えるのです。大きな太刀では常には勝てません。なぜなら、大きな太刀で遠い間合いから打つことで不敗を目指したとしても、間合い近い勝負になれば大きな太刀は振ることも叶わないではありませんか。大は小を兼ねるなどという浅い考えでは兵法の理を極めることはできません。このことは基本中の基本ですので肝に命ずるべきです・・・安全な場所から敵を討つという発想がそもそもみみっちいのです」

とにかく・・・二天一流はアウトレンジ戦法(日本海軍が長距離能力のみの高い飛行機で決戦を挑み、攻撃力・防御力の勝る米国海軍の飛行機に待ち伏せされて殲滅された戦法)を徹底的に批判なのである。

武蔵に言われたら納得するしかないのだ。

で、『ドラマスペシャル・宮本武蔵・第二夜』(テレビ朝日20140316PM9~)原作・吉川英治、脚本・佐藤嗣麻子、演出・兼崎涼介を見た。ナレーションは市原悦子である。武蔵(木村拓哉)が五輪書を著したのは六十歳を過ぎた頃である。ドラマの幕切れである巌流島の決闘は慶長十七年(1612年)のことであるから・・・三十年以上の月日がたっている。ちなみに武蔵の実在の養子・宮本伊織は慶長十七年生れなので・・・ドラマに登場する伊織(鈴木福)がフィクションであることは言うまでもない。とにかく・・・武蔵はその時のことをありありと思い浮かべただろう。佐々木小次郎の長い刀と・・・それよりも長い自分の櫂で作った木刀を・・・。遠心力で加速させるために先端に海水を浸みこませたことを・・・。ここに武蔵の兵法の理があるのだ。しかし・・・そんなことより・・・老いた武蔵は感じたに違いない。あの頃・・・若かったな・・・と。青春だったなと・・・。いや・・・あの一戦が青春の終りだったな・・・と。

武蔵が父・無二斉が打ち破った京流・吉岡道場に宿命の対決を挑んだのは慶長九年(1604年)のことだったとされる。武蔵はこの時・・・22才だった。

武蔵の剣名が鳴り響き・・・いわば・・・剣豪としての武蔵の青春が始ったのである。

京流とは源義経を元祖とする剣法である。

その極意は迅速であった。

武蔵の父・無二斉が打ち破ったとされる吉岡直賢の子、吉岡直綱・直重兄弟はドラマでは清十郎(松田翔太)、伝七郎(青木崇高)として登場する。

吉岡清十郎は速さにおいて京流の後継者にふさわしい武芸者だった。

速さは剣において重要な要素である。「相手よりも先に斬れば相手から斬られない」からである。つまり、先手必勝の理である。

だが・・・武蔵には分かっていた。

「それならば自分が相手より速く斬ればよいのだ」ということを。

武蔵の不敗の理由は不世出の腕力である。そもそも・・・二刀流というのは片手で刀を操作するということである。常人の腕力では不可能の術なのである。

もちろん・・・ただの腕力ではスピードは生じない。武蔵は父に磨き抜かれ・・・不世出の剣の速度も身につけているのだ。

だから・・・勝負は一瞬で決した。

雪の舞う三十三間堂・・・清十郎よりも速く武蔵は斬った。

もちろん・・・清十郎よりも遅い伝七郎は武蔵の敵ではない。

しかし、ついでに斬った。

そこに・・・武蔵を慕いながら・・・清十郎に身を任せた朱実(夏帆)が現れる。

「武蔵様・・・私をお連れください」

「修行の身なれば・・・御免蒙る」

武蔵は童貞なのである。

朱実は舌うちした。

前年の慶長八年、徳川家康は征夷大将軍となり、江戸に幕府を開いている。

大坂城には亡き関白豊臣秀吉の遺児・秀頼が健在であった。

そこで家康は息子・秀忠の娘・千姫を秀吉の遺言に従って秀頼に輿入れさせた。

秀頼の義理の祖父となり・・・江戸と大坂の融和を図ったのである。

これより・・・慶応十九年(1614年)の大阪冬の陣まで・・・およそ十年の束の間の平和が続く。しかし・・・誰もがやがてくる江戸と大坂の最終決戦を予感していた。

そのために「武」は人々の求めるところだったのだ。

だからこそ・・・武蔵がこの後、展開する一対七十六という吉岡一門との合戦は快挙として喝采を受けるのである。

束の間の平和と・・・最終決戦の予感。

この戦争と平和の鬩ぎ合いが武蔵の名声を高めるとともに武蔵の立場を複雑なものとする。

本阿弥光悦(森本レオ)は室町将軍家につながる武器商人であると同時に、束の間の平和に酔う京の都の文化人である。

武蔵の剣名が高まれば武蔵の刀剣が・・・「本阿弥印」ということで商売繁盛をする。

武蔵が一体どうやって糊口をしのいでいたかといえば・・・こういうスポンサーがついていたからなのだ。

そのために武蔵は生涯、金に困らなかったという。

勝負の後で・・・武蔵が接待を受けるのはそのためである。

武蔵は京で名高い最高級娼婦・吉野太夫(中谷美紀)にアプローチされるのである。

もちろん・・・「武蔵を男にしたのは私」ということになれば吉野太夫の遊女としての格があがるのだ。

しかし・・・武蔵は童貞である。

「なにゆえ・・・女を召しませぬ」と頑な武蔵に太夫は問う。

「剣の道は殺生の道じゃけえ・・・」と播磨の田舎訛りで武蔵は答える。

「・・・」と太夫は無言で誘いながら武蔵の言葉を待つ。

「生涯、淫戒不犯を誓ったのじゃ・・・」

「つまり・・・殺すかわりに犯さぬということどすか」

「そうじゃ・・・女犯する僧侶は多い。私は殺生戒を破る代わりに淫戒は守る覚悟じゃ」

「上杉謙信ですか・・・」

「それが剣を生きるものの仏の道じゃ・・・」

「ならば・・・接して漏らさずという抜け道がございます」

「何・・・」

「さあ・・・この吉野太夫と勝負なさいませ・・・琵琶を鳴らして・・・漏らさずば・・・武蔵様の勝ちでございます」

「琵琶を・・・」

「この吉野太夫・・・妙なる調べで鳴りましょうぞ」

「武蔵の拍子・・・受けてみよ」

武蔵は太夫の琵琶に挿入した。

しかし・・・漏らしはしなかった。

太夫は勝負に負けたが・・・武蔵をものにはしたのである。

その頃・・・武蔵の心の妻・・・お通(真木よう子)は鬼婆・お杉(倍賞美津子)の襲撃で負傷し伏せっていたが女の直感で武蔵の危機を知るのである。

「武蔵様の・・・操が危ない・・・」

お通は妙秀尼(八千草薫=アカデミー外国語映画賞名誉賞受賞作品「宮本武蔵」(1954年)のお通・・・ちなみに武蔵は三船敏郎、又八は三國連太郎)の案内でやがて観光名所となる一乗寺下り松に向かうのだった。

武蔵のストーカー・佐々木小次郎(沢村一樹)の采配により、そこが武蔵対吉岡一門の決戦の場所となったからである。

「天下無双となった武蔵と勝負がしたい」

「それは・・・滅茶苦茶、拙者が不利ではないのか」

「そうやって・・・私は戦いに勝ってきた」

「・・・」

佐々木小次郎の本意を量りつつ・・・承諾する武蔵だった。

武蔵は孤高であった。

孤とは幼くして親のない状態である。

そうでありながら高みに登るのは容易なことではない。

だから孤高の人は常の人ではない。

常人でないものは常人でないものを求めるのである。

常人でないものにとって常人でないものこそが人だからである。

そのために武蔵は小次郎に・・・魅かれるのだった。

小次郎もまた武蔵を求めるのである。

なので二人は相思相愛なのである。

とにかく・・・武蔵は早朝から・・・吉岡一門を斬りはじめた。

一人・・・また一人である。

常人であれば人を斬れば血糊で刀剣の切味は鈍り、戦闘力は低下する。

しかし、武蔵は高速で斬るために血しぶきを避けることができた。

戦場であるために子供や老人にも容赦は要らなかった。

もちろん・・・剣は年齢性別を選ばない。

そもそもが修羅の道なのである。

シッダルタは言う。

「毒矢に倒れたものを倒した毒矢が誰が作ったものかを問うのは無意味である。必要なのは毒矢を抜き手当をすることだ」

武蔵は思う。

「斬った相手が誰かを問うのは無意味である。必要なのは斬って致命傷をおわせることなのである」

武蔵が圧倒的な強さを見せれば・・・人間はひるみ、その場を逃げ出すだろう。

それでは76人斬りの伝説は達成されない。

だから、武蔵は時折、斬られて見せる必要があった。

それによって勝機を見出した敵は再び、挑戦的になる。

しかし、人の急所について全知している武蔵は・・・ギバチの術(急所をはずす技法)を身につけている。

斬らせはするが・・・それは誘いの手に過ぎない。

斬ったと思わせて斬らせているのである。

武蔵の手に乗ってあと一息で倒せると信じた相手は武蔵の一閃に涅槃への道をたどる。

武蔵は柳生の里で・・・柳生新陰流の真髄である真剣白刃取りを会得している。

相手の刀を奪うことは簡単である。

また武蔵は手裏剣の名手でもあった。

武蔵は相手の刀を奪って投げた。

武蔵の剛腕は一投で二人を刺し貫くことができた。

武蔵の父・無二斉の十手術は防御の技である。二刀の極意は大陸における剣と楯の応用にある。一刀で防ぎ一刀で攻めるのである。

武蔵は右手と左手がそれぞれ常人の両腕の力を超えている。

両刀で二人を防ぎ、両刀で二人を攻めることも可能であった。

武蔵の無尽蔵の体力は一日を駆け通すことができた。

気がつけば戦場は血の海となっている。

その中で・・・死んだフリをしている者があった。

最後の一瞬に賭けたのである。

しかし・・・武蔵は正確にカウントしていたので無意味だった。

武蔵の不意を突こうとした最後の一人は一撃で倒された。

「七十六人・・・」

武蔵は最後の一人の着物で刀の血をぬぐった。

「勝負あったな」

小次郎は微笑んだ。

武蔵も微笑んだ。

「勝負は後日としよう」

「ふふふ・・・よかろう」

二人はお互いを求めていた。

最高の状態で対峙してみたい・・・と考えたのである。

勝負を終えた武蔵は・・・お通を妻にしてもいいと考える。

もはや・・・天下無双の武蔵の名声は動かないと考えたのである。

しかし・・・武蔵に嫉妬した又八(ユースケ・サンタマリア)はお通を拉致監禁し・・・漏らし損ねた武蔵の心は折れる。

だが・・・又八は東西冷戦中の西軍の暗躍に巻き込まれる。

真田忍軍による次期将軍・徳川右近衛大将秀忠暗殺の陰謀が進んでいたのである。

しかし・・・徳川の忍び坊主である沢庵によってそれは茶番劇と化していた。

沢庵は鬼婆を人に返すために・・・又八を出家に導く。

沢庵にとって・・・武蔵とお通こそが理想のカップルだからである。

もちろん・・・原作者が男尊女卑の思想を持っていたのでそれを体現したのだった。

原作者は強すぎる武蔵は大衆受けしないと考えていた。

一度、奈落の底に落ちるべきだと考えたのである。

西軍だから出仕できない・・・とか・・・殺し過ぎるので後ろ指をさされる・・・とかは取ってつけた話である。

シッダルタは「マ」というものを考えた。

それは「何かを求めてやまぬ心」というものである。

中国人はそのために「魔」という字を作った。

シッダルタは「マ」こそが・・・自分自身であると説いた。

弟子は問う。

「マは避けるべきでしょうか」

「マは避けられぬ・・・マと向き合うことこそがブッダ(悟りを開くもの)の道である」

お通に裏切られたと思いこんだ武蔵は・・・魔を避け・・・自分を見失うのだった。

武蔵はひきこもりと化した。

八年の歳月が過ぎ去った。

実際には武蔵はその後も殺戮を重ねるが・・・このドラマでは八年の歳月は瞬く間に過ぎるのである。

武蔵は・・・お通を思い・・・その姿を観音像に彫った。

武蔵の心の中ではお通は良妻賢母となり・・・伊織という息子を生んでいる。

天才である・・・武蔵にとって現実と変わらぬ幻影を生み出すことは造作もないことだった。

消えた武蔵を捜して八年。

武蔵を捜し続けた小次郎はついに最愛の男を山里に見出す。

世はすでに幻想の平和が破綻する寸前となっている。

江戸と大坂の手切れまで・・・残すところ二年。

戦乱を望んで・・・平和を憎む野武士たちは・・・山に籠って賊となっていた。

小次郎は魔を呼び寄せた。

武蔵に示す・・・天下無双の剣。

武蔵の心に灯が点る。

武蔵は求めてやまぬものを目にした。

好敵手を・・・。

二人は・・・決戦の場へと向かう。

名もなき島。

武蔵と小次郎は生と死を分かち合った。

死闘の末・・・武蔵は自分が厳流・佐々木小次郎に勝ったことに歓喜する。

そして・・・虚脱するのだった。

求めてやまぬ最高の友を得て・・・最高の友を失ったからである。

武蔵は・・・その島を巌流島と名付けた。

最後に見せた武蔵の放心の演技は絶妙だったと考える。

その後、武蔵は二人の養子をとり、それぞれを仕官をさせた。養子はいずれも出世して親孝行をした。

武蔵は・・・養子の後見人として、大坂の陣や、島原の乱に参戦し、勝ち組に身を置く。

晩年には多数の弟子を持っていた。

武蔵自身が仕官をしなかったことをいろいろと噂するものがある・・・しかし、武蔵は誰かの下に仕える人間ではなかったと考えるべきだろう。

武蔵自身が神に等しい人間なのだから・・・。

もちろん武蔵は生涯、童貞だったのである。

接しても洩らさなかったのだ。

並みの人間にはできないことである。

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2014年3月18日 (火)

人は何を求めるのか?・・・宮本武蔵(木村拓哉)

宮本武蔵は・・・求道者である。

特に「吉川英治版」はその傾向が強い。

宮本武蔵は・・・最強の剣豪である。

しかし・・・それを誰もが御存じではないだろう・・・。

そう言う意味で・・・地上デジタルとなったテレビに宮本武蔵が登場するのは素晴らしいことだ。

今から、およそ四百年前・・・宮本武蔵は「五輪書」を著述した。

キッドは十代の頃、剣の師が「五輪書」(岩波文庫)をひっそりと読んでいたのを覚えている。

四百年の時を経て・・・読まれる書物を記しただけでも「天才」と言えると思う。

もちろん・・・「吉川英治版」を含めて・・・あらゆる「宮本武蔵」は虚構の存在だ。

しかし・・・「五輪書・地の巻」に曰く、「武士は只死ぬるという道を嗜む事と覚ゆるほどの儀なり」の精神はどんな武蔵からも匂い立つのである。

人は皆・・・死ぬるために生きているのだ。

で、『ドラマスペシャル・宮本武蔵・第一夜』(テレビ朝日20140315PM9~)原作・吉川英治、脚本・佐藤嗣麻子、演出・兼崎涼介を見た。ナレーションは市原悦子である。さて・・・最初にどのくらい虚構なのか・・・という話はしておきたい。ただし、あくまで・・・実在の宮本武蔵も虚構に過ぎないという前提の話である。ドラマが歴史的事実でなかったとしても・・・何の問題もないのである。まず・・・宮本武蔵は天正十年(1582年)の本能寺の変の年か・・・あるいは二年後の天正十二年頃に生まれたことになっている。生年すら定かではないが・・・とにかく激動の時代に生を受けたのだ。生まれた場所も諸説あるのだが・・・吉川英治版では美作国(岡山県)生れになっている。だからドラマでは作州浪人・宮本武蔵なのである。しかし、実際は黒田藩士の新免無二斉が播磨国在住に為した子なので播磨国(兵庫県)生まれで本人も播州浪人を名乗っている。ただし、新免家は美作・播磨国境の佐用城近郊を所領としていた守護大名・赤松家の流れをくむ土豪の一族であり・・・美作・播磨どちらにも縁が深かったのである。一説によれば・・・黒田藩に属していた新免無二と宮本武蔵の父子は関ヶ原の合戦で東軍に属していたという。もう・・・根底からフィクションである。ついでに・・・ドラマでは武蔵は早くから孤児だが・・・新免無二はかなり長生きをしていて・・・武蔵が数え年十三歳(小学校六年生)で初めて決闘して相手を殺した時、父親は武蔵のただならぬ才能に歓喜して・・・武蔵を鍛えに鍛えたのである。さて、織田信長死亡の時点で・・・播磨国の黒田家と、肥前・美作の宇喜多家は秀吉傘下の同盟軍である。それからおよそ18年後に・・・天下分け目の関ヶ原で敵と味方に別れ・・・宇喜多家傘下の新免家は敗軍となり、そちら側に属していたという設定で・・・武蔵ことたけぞう(木村拓哉)は落ち武者となるのだ。ちなみに武蔵の幼名は本当は弁之助である。当然のことだが・・・本位田又八(ユースケ・サンタマリア)、その養母のお杉(倍賞美津子)、その許嫁のお通(真木よう子)、野武士の未亡人・お甲(高岡早紀)、その娘・朱実(夏帆)はすべて架空の登場人物なのである。だから原作と違っていても何の問題もないのだ。とにかく・・・お甲と朱実を巨乳母娘にしたのは見事なキャスティングだと考える。さて・・・沢庵和尚こと・・・沢庵宗彭(香川照之)は実在の臨済宗の僧侶だが歴史的には宮本武蔵との接点は全くない。「すべてフィクションです」と原作者自らが保証しているので間違いないのである。というわけで・・・「全部ウソさ」と言う前提で・・・この物語を楽しむのである。

さて・・・シナリオ的に一番難があるのは・・・たけぞうが・・・お通を知らないというところである。

たけぞうと又八が幼馴染である以上、お通も当然、幼馴染なのである。

本位田家の花嫁候補として育てられているお通が・・・最初から又八より「たけぞうが好き」であることは言うまでもない。お通は「人殺しは嫌い」などと言う女々しい性格ではなく自由奔放な性分なのである。武蔵が最初の果たし合いで勝った時は万歳三唱したものと推察するのだ。

とりすました沢庵が武蔵を吊るした後・・・人目を盗んでお通はたけぞうを積極的に逃がしたのである。

もちろん・・・最初から駆け落ちするためなのだ。

一方、武蔵は剣の道一筋の求道者である。当然、童貞だ。お通の積極的アプローチにたじろぐのが基本なのである。

さて、沢庵は但馬国の武士の生れだが、主家である山名氏が信長に滅ぼされて後、僧侶となり、紆余曲折あって関ヶ原の合戦の時にはあろうことか石田三成の亡き母のための菩提寺の僧侶だったのである。つまり、本当はこの頃、謀反人側の人間である。

しかし、そこは世俗を離れた身・・・石田三成の冥福を祈りながら諸国放浪中なのである。

実在の沢庵は沢庵漬けの創始者であるほどなのでかなりの好きもの(好事家)である。

だからこそ・・・追手を寄せ付けぬたけぞうのけだものぶりに魅了されたのだ。

隣国への脱出に失敗したたけぞうを・・・手厚くもてなす(軟禁修行させる)のはたけぞうの才能に惚れこんだためである。もちろん、男色家として若いたけぞうの身体にも興味があったのであろう。

こうして・・・「天下無双」を志すことを決めた宮本武蔵が誕生し・・・十歳ほど年上の沢庵としては「武蔵はワシが育てた」ポジションを得たのだった。

ちなみに実在の沢庵は徳川将軍家指南役の柳生但馬守宗矩(柳生石舟斎宗厳の息子)とのコネで三代将軍家光にとりいるほどのやり手坊主なのである。

武蔵の目指すのは滅び去った足利幕府の将軍家指南役として未だに高名を誇る京都の剣術一家・吉岡道場の打倒なのである。

ちなみに武蔵の父親も・・・先代の吉岡当主と試合をして勝ったという実績がある。

さて・・・武蔵の生涯は六十余年に及ぶのだが・・・剣豪としてのピークは三十歳前後にあり、巌流島の決闘を一つの頂点と考える。

相手が佐々木小次郎(沢村一樹)である。

ドラマでは宿命のライバルとしてすでに関ヶ原で対決。才能開花前の武蔵が一方的敗北を喫するという展開である。

実在の武蔵は神のように強いのだが・・・吉川英治版では苦心を重ねて徐々に強くなっていくいくわけであり、この辺りが庶民の心をくすぐるのである。

又八の情夫、お甲の娘で・・・武蔵に仄かな恋心を抱く朱実に欲情する吉岡清十郎(松田翔太)は祇園きっての遊び人ではあるが・・・剣の天才でもある。

ちなみに・・・あろうことか・・・吉岡清十郎も架空の登場人物である。

ただし・・・武蔵が吉岡道場の誰かと戦って勝ったのは本当らしい。

誰かって誰だよ。

ついでに・・・清十郎の弟・伝七郎(青木崇高)も架空の人物なのだった。

だから・・・佐々木小次郎と船上で出会う名場面もフィクションなのである。

とにかく・・・一応、弟子たちには圧倒的に勝った武蔵だが・・・当主との対決に不安を覚え・・・達人たちに教えを乞うことにするのだった。

基本的に・・・達人爺がやたらと登場するが・・・本当は身体が衰えるのでどんな達人も老化には勝てないのである。

しかし、沢庵が女中として送り込んだお通の世話する柳生石舟斎宗厳(武田鉄矢)からは「音無き音を聞く陰の心眼」の極意を・・・宝蔵院住持日観(西田敏行)からは「気合」の本質についてヒントを受ける。

これによって武蔵はイメージ・トレーニング法に開眼するのである。

あらかじめ・・・何度も心中で敵と対決し・・・斬られて死なない道を探るという方法で、斬られて死ななくなれば勝ったも同然と言う話である。

イメージで斬られて死ぬ間は絶対に戦わないために・・・武蔵は生涯無敗を貫いたのだった。

まあ・・・なんだかんだ・・・用意周到な武蔵・・・。

そして・・・風呂が嫌いで物凄く匂うと評判なのだが・・・えも言われぬ野生のフェロモンを発散するために・・・黙っていても女たちが放っておかない・・・武蔵なのだった。

準備万端整って前夜祭は終了・・・第二夜は斬って斬って斬りまくるのである。

武蔵っていうか・・・予告で見る限り、仮面ライダーみたいな感じがする斬新な殺陣が楽しみなのである。

東映だからな。

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Ann001 ある日の平成財閥三姉妹アンナ「原作は読まなくても大丈夫ぴょ~ん。ダーリンのアクションにつぐアクションで血わき肉踊りうっとりなのだぴょ~ん・・・なんといっても・・・第一夜はたけぞう萌え~・・・ふう・・・そしてまもなく武蔵ロスへ・・・」まこ「マンガ喫茶で全巻読破するといいのでしゅ~」エリ「まこちゃま・・・広島の別宅で地震にあったんだって?」まこ「しゅご~くこわかったのしゅ~、お茶碗割れちゃったし~」エリ「じゃあ・・・今度、シャネルの特製お茶碗プレゼントしまス~」まこ「むふふ・・・みんなに言ってるから・・・春はお茶碗天国だじょ~・・・一つ残して後はヤフオ・・・」アンナ「何の話・・・?」まこ「アンナちゃん・・・まこのお茶碗かあああああ・・・くしゅん」アンナ「じゃ、今度の陶芸教室で焼いてあげるよ」まこ「アンナちゃんの手作りオリジナルお茶碗ですと!・・・それはごっつプレミアムつきそうでんな・・・ぐふふ・・・ぐふふ・・・ぐふふふふふふふふふ」アンナ「?」じいや「・・・・・・」

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2014年3月17日 (月)

羽柴秀吉様書状に曰く、其方の義は我等弟の小一郎め、同然に心安く存じ候・・・と軍師官兵衛(岡田准一)

秀吉から官兵衛に宛てたこの手紙は天正五年(1577年)七月二十三日の日付となっている。

官兵衛から秀吉へ播磨国内の情勢について認めた手紙の返書という体裁だ。

「丁寧なお手紙ありがとうございます。私は官兵衛殿を私の弟・小一郎(羽柴秀長)と同然の身内と思っています。あなたの判断に全幅の信頼を置いておりますので、万事お任せいたします。播磨国の情勢の是非はすべて小寺家の采配にかかっていると考えますのでさらに熟慮をお願いします。もちろん、これまでのあなたの手腕には大変満足しております・・・私には文才がないので拙文で申し訳ありません」

秀吉は官兵衛に相当にへりくだっているわけである。

この時期は・・・秀吉という織田家の播磨方面軍司令官と・・・官兵衛という播磨国の現地勢力代表にとって微妙な時期であったことは言うまでもない。

「黒田家譜」によれば、すでに毛利の播磨国侵攻の前哨戦である「英賀合戦」が発生しており、室津や英賀に毛利水軍が出没し、本願寺門徒の一揆勢力が蠢動している。また播磨国西部の龍野城から出雲街道沿いの佐用、上月という両城は美作国からの毛利・宇喜多連合軍の勢力圏に入っている。最前線の姫路城には陸海から圧力がかかっているのである。

毛利と本願寺の両者による播磨国内の調略を盛んに行われ・・・勢力地図も流動的になっている。

なにしろ・・・強いものが何よりも正しい戦国時代なのである。

結果論として・・・織田軍の軍事力は戦国最強となるわけだが・・・それを誰もが推察しているわけではない。

その実践者である秀吉も・・・その賛同者である官兵衛も・・・最後に勝つのは「織田」という信念は揺るがないものの・・・局地的な勝敗が生死を決することもあるわけである。

播磨国最強の黒田軍を持つものの・・・基本的には多勢に無勢の官兵衛・・・。

心から・・・秀吉軍団の到着を待っているわけだ。

「秀吉様・・・早く来てくださいよお」

その心を慰める・・・秀吉から官兵衛へのラブレターなのである。

で、『軍師官兵衛・第11回』(NHK総合20140316PM8~)脚本・前川洋一、演出・大原拓を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。連続11行レビューキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!・・・なんとか踏みとどまったのは宇喜多直家の毒殺披露があったおかげですな。今回は恐ろしいと評判はあるが・・・姿は見せない越後の虎・・・上杉謙信公描き下ろしイラスト大公開でお得でございます。悪夢ちゃんも御照覧あれでございますなあああああっ。今回の官兵衛は神出鬼没の半兵衛に叱咤激励され、毒殺魔の宇喜多直家に戦々恐々となり、父・黒田職隆や、正室・光に「弱いところ」を見せて、一部お茶の間を萌えさせる悪辣な展開・・・ま・・・もう・・・そういうドラマなんだと天を仰ぐ他ないわけでございます。

Kan011 天正五年(1577年)二月、織田信長は後継者筆頭・織田信忠を主将として紀伊国の雑賀党攻めを開始する。鈴木孫一らは一旦降伏する。三月、能登国七尾城(畠山氏)攻略中の上杉謙信は北条氏の上野国攻めの報に接し、一時帰国を余儀なくされる。この頃、武田勝頼は北条氏政の妹を継室に迎え、北条氏との関係改善に努める。織田・徳川連合軍の圧力が増したためである。信長の娘で家康の後継者・信康の正室・徳姫は次女・熊姫を出産。男子誕生がなかったことで信康は側室を迎え火種となる。閏七月、上杉謙信は再び七尾城攻めを開始。畠山氏救援のため、織田信長は柴田勝家軍団に加賀国進出を命じる。上杉氏と連動した本願寺は加賀一向一揆勢力によるゲリラ戦を開始。八月、援軍として参加していた羽柴軍が戦線離脱。九月、七尾城が陥落。撤退した柴田軍は上杉勢の追撃を受ける。天王寺砦の松永久秀は謀反を決意し、信貴山城に籠城する。織田信忠は羽柴秀吉とともにこれを討伐した。松永久秀討伐で戦線に復帰した秀吉は九月中に信長から播磨平定の許しを受ける。信長は九月六日付けの書状で官兵衛にその旨を伝えている。曰く「羽柴筑前守を差し越し候、(中略)油断あるべからず候なり」・・・。信長にとって・・・秀吉が進駐軍司令官、官兵衛が現地軍代表という認識であったことが窺える。十月、信忠は織田家総帥として従三位左近衛中将に任じられる。この頃、丹波国攻略中の明智光秀は丹波国亀山城を支配下に置く。信長軍団のスケジュール表はタイトだな。

姫路の山城に夏の気配が立ち込めている。

鬱蒼とした林の中で官兵衛は修行をしていた。

神明尼による・・・神明通力の伝授である。

官兵衛は・・・そうした超自然の力には懐疑的であったが・・・神明通力の素質ありと神明尼に告げられてつい・・・その気になったのである。

「そもそも・・・神明の力は血の中に潜んでおりまする」

「血に・・・」

「官兵衛殿は・・・その血を濃く生まれついておるのです」

「そうは思えんのう・・・」

「ふふふ・・・秀吉殿の軍師・・・半兵衛殿を御存じか・・・」

「無論・・・」

「官兵衛殿には・・・半兵衛殿と同じ・・・とても役に立つ神明通力を授けまする」

「それは・・・」

「神足通力でございます」

「神足通・・・」

「唐の国では道術として神行法なるものがございますが・・・要するに迅速な移動を可能にする神明通力なのです。達人となれば・・・播磨国と京の都を一日で往復できまする」

「それはまた・・・嘘のような話だな」

「かって・・・設楽が原の合戦(長篠の合戦)の折、秀吉様は・・・武田軍の誘いに乗りかかりました・・・半兵衛殿はそれを諌めた後で、その夜には播磨国に忍んでいたのですよ」

「なんと・・・」

「官兵衛様も半兵衛様と同じ神出鬼没の術を身につけなければなりませぬ」

「・・・」

「明日は備前の宇喜多直家殿を訪ね・・・明後日は長浜の秀吉様を訪ねるのです」

「そのようなことが・・・」

「官兵衛様は宇喜多様に毒を一服もられるでしょう」

「なんと・・・」

「そもそも・・・官兵衛様は矢傷にお強いこと・・・不思議に思われなんだか・・・」

「はて・・・」

「官兵衛様は・・・生まれながらにして毒にお強い身体をお持ちなのです・・・それもまた神明通力の血のなせる業・・・」

「そうなのか・・・」

「さあ・・・目を閉じなされませ・・・」

「・・・」

「目を開けば・・・そこは・・・備前岡山城でございます」

官兵衛は目の前に岡山城を目にして・・・驚愕した。

そして・・・城主・宇喜多直家に面談して・・・毒を盛られ・・・眩暈を感じることになるのだった。

宇喜多直家はその結果として・・・官兵衛に一目置くことになる。

とにかく、大河ドラマの主人公が時々、時空を超越したように見えるのは神明通力の威力なのである。

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2014年3月16日 (日)

ボクとモノリオと公園で(中村蒼)私はマグネシウム・ロボット(本郷奏多)こまどりフレンド(杉咲花)シャボン玉かぶった(桜井美南)

冬ドラマのさいはてドラマも次々とフィナーレを迎えている。

この世のすべてのことから・・・いくつかの事柄をピックアップしていく虚構の世界。

最終回を迎えた「明日、ママがいない」は子供たちを主役とする物語であるが・・・この特別な子供たちは「駄菓子屋」とは無縁である。「買い食い」が特別な子供たちの特別さにそぐわないのかもしれない。一方で、やはり物語を終えた「闇金ウシジマくん」は登場人物には不似合いな駄菓子屋が何度も登場する。主人公と幼馴染がシャボン玉をする場面もある。

「僕がいた時間」では最終回直前、「駄菓子屋」という共通体験が重要なカテゴリーとして登場し、自発呼吸が困難となりつつある主人公がヒロインと特別な意味を持つシャボン玉を楽しむ。

そして・・・今回、「なぞの転校生」は「風が吹いている公園」で・・・登場人物たちがシャボン玉を飛ばすのである。

しかし・・・呼吸をしていないロボットにはシャボン玉を飛ばすことはできないのだった。

みんな・・・どんだけ・・・シャボン玉が好きなんだよ。

ま・・・しかし・・・子供がはじめてシャボン玉を楽しむ時・・・魔法は存在するからな。

で、『・第10回』(テレビ東京201403150012~)原作・眉村卓、脚本・岩井俊二、演出・長澤雅彦を見た。公式ではサイファ・バージョン3.2の解説があり、典夫(本郷奏多)がマグネシウム電池を電源とするロボットであることが示される。「衛星タイタン」や「探査船コロンブス」そして「太陽フレア」も追加されるが「プラズマサーベル」と同様に解説はない。用語解説にも差別が存在するのである。マグネシウム電池はマグネシウムを燃料として発電した後で発生する水酸化マグネシウムを太陽熱などの自然エネルギーで金属マグネシウムに還元することを目指すエネルギー・サイクルを目指し、お茶の間世界では研究中のカテゴリーである。アゼガミ(中野裕太)は海水さえあれば無尽蔵のエネルギー云々と発言しているが・・・お茶の間世界では食塩水は電解液に過ぎないのでD8世界の超テクノロジーなのだろう。この辺りの説明の度合いがハードSFとファンタジーの境界線であることは言うまでもない。

モノリスの切れ目が縁の切れ目なのである。

お茶の間世界では土星の衛星タイタンに未だ木星探査船コロンブスが到達した記録はない。コロンブス由来の宇宙船といえば・・・悲劇のスペースシャトル「コロンビア」(2003年喪失)があるので・・・忌み名と言えるかもしれない。

とにかく・・・モノリス文明は原子力の暗喩と捉えることはできる。

スズシロのモノリスに対する言動は・・・原子力文明の恩恵に浴しながらそれを嫌悪する非科学的な一般人を暗示しているらしい。

「モノリスの残量はゾーン(異次元ゲートか?)を開くために必要な100ギガクラーク(科学者クラーク由来の単位か?)二回分・・・」

無能な王家の人々は絶望感に浸る。

おそらく超絶的な能力を持っているモノリオを保持しているだけで・・・どのような困難も克服できると思われるが・・・王家の王族である王妃(りりィ)は要求を口にするだけ、王家の侍従であるアゼガミとスズシロはそれを実現する能力を臣下組織なくしては持たないのである。

「この地でモノリスを開発すればよいではないか」という王妃。

しかし、D12世界の土星ノタイタンにモノリスの原材料があったとしても・・・余命一カ月のアゼガミとスズシロには・・・その採掘は不可能なのであった。

「この地にモノリスを導入することなど無意味」と思わず感情的になるスズシロ。

D8世界はモノリス文明によって栄え・・・モノリス文明によって滅びたとスズシロ(佐藤乃莉)は主張する。

臣下の反駁に激昂する王妃・・・「この無礼者を・・・銃殺にせよ」

ついに臣下としての立場を放棄するアゼガミだった。

「こんな・・・婆のために・・・貴重なモノリスを浪費してしまうとは・・・なんという失敗だったのだろうか・・・王妃のための何の役にも立たない調度品を移送するエネルギーがあれば・・・二十倍のモノリスを運びこめたというのに・・・」

「無礼者・・・王家二千年の歴史をないがしろにする気か・・・神を畏れぬのか」

「何が神だ・・・王妃と言えども・・・元は高級娼婦・・・私の父である大臣の画策で・・・王家に送り込まれ・・・王子を出産しただけの女が・・・」

「無礼者・・・モノリオ・・・この者を取り押さえろ」

命令者として最上級の王妃に命じられ、モノリオはアゼガミをやんわりと拘束する。

「俺の家で・・・ケンカしないでくれ」

モノリス(霊石)のマギ(霊力)によるレイバー(使用人)である江原老人(ミッキー・カーチス)は節電のためにただの認知症患者に戻り、異議を唱える。

アステロイドによるレイバーたちは期限切れで単なる知的障害者となり解放されたらしい。

アゼガミは自分の道化ぶりに呆れ・・・スズシロを連れて・・・江原家という仮王宮を出奔するのだった。

「どこへ行くというのです」

「酒を買って安宿に泊まるくらいの金はある・・・ここにいても不敬を重ねるだけだ・・・」

スズシロは王妃とアゼガミを見比べ・・・アゼガミを選択した。

王家の守護者としての自分と余命一カ月の人間としての自分がスズシロの中で葛藤している。

滅び去った世界の王家に尽くしてきた人生を完全に否定することは容易ではない。

しかし・・・今は・・・アゼガミとともに夜風に吹かれるのも悪くないと判断したのだろう。

取り残された王妃は忠実なヒューマノイド・モノリオにすがるのだった。

「お前だけは裏切らぬな・・・」

「私にはそのようなプログラムはございません」

「で・・・あるな」

騒動の間、不在だったアスカ(杉咲花)は朝の入浴でモノリオに身体を洗わせながら尋ねる。

「アゼガミとスズシロの姿が見えぬな・・・」

「・・・」

「ヒエラルキーからの逸脱か・・・あの者たちにもストレスがたまっておるだろうからな・・・しかし・・・どのように絶望しても・・・日常からは逃れられぬものだ」

「姫様は・・・お疲れではございませんか・・・」

「私は・・・今がとても楽しいのだ。美しい世界・・・お前がいてくれて・・・ナギサのアイデンティカの広一がいる・・・今日はひとつ・・・トモダチというものを作ってみようと考えているのだ」

「トモダチ・・・」

「そうじゃ・・・あの女、お前に懸想しているようなので・・・友人として忠告してやらねばなるまいて・・・ふふふ」

成り上がり者の王妃と違い生まれついての王女であるアスカは高貴な精神を保持している。

モノリオは王女の言動に危惧を感じながら・・・守護者としての警戒感をアップするのだった

・・・王家の人々の意向に従うのがモノリオの絶対的な原理なのだろう。

ただ・・・ヒューマノイドとして擬似的な自由意志の気配は窺える。

はたしてマグネシウム・ロボットには魂があるのだろうか。

東西山高校で・・・モノリオは咲和子(樋井明日香)の生存を確認する。咲和子はアステロイドの効力を失い、明らかに知能障害者となった冴木(碓井将大)の保護者の立場を得て充足したらしい。

アスカはSF研究会部に入部し・・・自主制作映画のシナリオを執筆中の椎名琴音が演じる太田くみと対話する。挿入歌「風が吹いている」は椎名琴音と桑原まこと岩井俊二の三人のユニット「ヘクとパスカル」によるナンバー。やりたい放題だな。

「ちょっとアイディアにつまってまして・・・」

「こんなのはどうじゃ・・・なぞの転校生があらわれるのじゃ・・・その転校生は実は・・・」

「ゾンビなんですね」

「しばらくすると・・・今度は女子の転校生がやってくる・・・その転校生は」

「ゾンビなんですか」

「ゾンビから・・・離れぬか」

コマ撮り特殊撮影による自主制作映画「宇宙戦争」に熱中する部員たちを残し、アスカはモノリオを従えて吹奏楽部の練習を見に行く。

香川みどり(桜井美南)はモノリオの姿を認めて胸をときめかせる。

しかし・・・アスカはモノリオに席を外させるのだった。

「あなたと彼は従兄妹同志だと言うけれど・・・凄く仲がいいのね」

「あの者は私を子供扱いするのじゃ・・・道具としては遊びが不足しておる」

「道具・・・?」

「そうじゃ・・・あの者は私のための道具じゃ」

「なんだか・・・凄いのね」

「そうか・・・お前と広一の関係はどうじゃ・・・二人は交際しているのか」

「そんな・・・二人は幼馴染だから・・・恋愛関係には発展しないのよ」

「ならば・・・広一を私の許嫁としてもよいのだな」

「許嫁・・・」

「そうだ・・・広一を私の夫にしようかと考えている」

「でも・・・あなたたち会ったばかりでしょう・・・」

「特に問題ではあるまい・・・」

「とにかく・・・私と広一くんはなんでもないの・・・家が近所で子供の頃は一緒にお風呂に入ったりしたけどね」

「風呂か・・・風呂なら私も典夫と入るぞ・・・今朝も典夫に身体を洗ってもらった」

「えええ・・・・」

「どうした・・・何をうろたえておる」

「そんな・・・あなたたちの関係って・・・大人すぎるのじゃなくて・・・」

「ふふふ・・・気になるか」

「からかっているの・・・」

「私も気になっていることがある・・・そなたは学校は友達を作るところと申したな」

「はい・・・」

「私はそなたと友達になってほしいのだ」

「それなら・・・お願いがあるの」

「なんじゃ・・・」

「そなたと言われるのは・・・ちょっと」

「では・・・みどりと呼べばいいのか」

「私の名前を覚えていてくれたの」

「当然じゃ」

二人は下駄箱の前でモノリオと合流する。

「ここで・・・広一を待つか」

「広一は帰宅しました」

「なぜじゃ・・・」

「何か約束したの」

「約束はしてません」

「なぜ約束しなかったのじゃ」

「アスカちゃん・・・約束くらい自分でしなさい」

「そうか・・・それでは一つ頼みがある・・・」

「何かしら」

「明日、祖母と町を散歩したいのだ・・・付き合ってくれるかな」

「まあ・・・お祖母様のお加減よくなられなの」

「うむ・・・どうじゃ・・・」

「よろこんで・・・」

帰り道・・・花屋でみどりから花を贈られたアスカは御満悦だった。

「友情の証じゃな」

「アスカ様、ご機嫌麗しゅうございますね」

「うむ・・・妾は幸福を感じている・・・」

モノリオは奉仕者としての擬似的な喜びを感じた。

スズシロが不在のために髪をモノリオにまかせたアスカは障害による脱毛を感じる。

「スズシロの方が上手じゃな・・・モノリオの応用力にも限度があるか」

「精進いたします」

「それより・・・明日のことを広一に交渉してまいれ」

「承知しました」

モノリオは広一に祝日の散歩への同行を求めた。

「アスカちゃんも・・・一緒に」と一応確認する広一だった。

広一にとってそれはダブルデートだったからである。

D12世界の穏やかな祝日。

王妃を車椅子に乗せて・・・一行は公園に向かう。

「皆さん・・・紫外線に弱いのね・・・典夫くんは大丈夫なの」

「典夫は太陽フレアの直撃を受けても平気だぞ」

「太陽・・・フレア・・・」

「太陽の爆発の炎だよ・・・人間が直撃されたら蒸発するよ」

「アスカちゃんのジョークって・・・」

「ジョークではないぞ・・・事実だ」

「うふふ」

昼のピクニックのためにみどりはお弁当を用意した。

もちろん・・・典夫に食べさせるためだが・・・典夫は食べない。

「サンドイッチは嫌いだった?」

「典夫はものを食べないのだ」

「食べないって・・・」

モノリオはアスカの言動に危険を感じつつ善処した。

「お気持ちだけ受け取っておきます」

「・・・」

アスカはシャボン玉に興じる母子連れを目に留める。

「あれは・・・なんじゃ・・・」

「シャボン玉だよ」

「玉がたくさん出てくるな」

「シャボン玉を知らないの」

「私もやってみたい・・・」

「わかった・・・買ってくる・・・」

アスカははじめてのシャボン玉を楽しんだ。

「みどり・・・もっと作れ・・・広一は大きいのを作れ・・・」

「典夫くんはやらないの・・・」

「典夫にはシャボン玉は無理だな」

「なぜ・・・」

「呼吸をしておらぬからだ」

「・・・」

広一はモノリオとキャッチボールに興じる。

「そういえば・・・最初に会った日に野球をしたな」

「覚えているよ」

「なんだか・・・ずっと昔の出来事だったような気がする」

「・・・」

正確な時間を告げる場合でないとモノリオは判断した。

アスカはみどりにだけ聴こえる声で耳打ちした。

「これだけは・・・言わねばなるまい」

「何・・・」

「ノリオを好きになってはならぬ・・・」

「・・・」

王女が友人として心からみどりに忠告している頃・・・さすらいの侍従たちは・・・D12世界のアイデンティカと遭遇していた。

D12世界のアゼガミとスズシロは仲の良い夫婦だった。

「私たちが夫婦・・・」

「考えたこともありませんでした・・・」

「なんとも・・・幸せそうではないか・・・」

余命一カ月の男と女は・・・どちらからともなく寄り添った。

のどかな昼下がり・・・暗殺者は間隙をぬって王妃に接近した。

「この世界で調達した出刃庖丁を使用する御無礼をお許しください」

「・・・」

暗殺者は王妃を刺した。

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2014年3月15日 (土)

脱税も脱税のための裏帳簿を盗み出すのも盗品の売買も持ち主との不正な取引も損壊した遺体を許可なく山中に埋葬するのも犯罪です(山田孝之)

子供のころは様々な幻想に浸るものだ。

世界の人口の図形を考えてみたりする。

世界を底辺と頂点で考えれば底辺×高さ÷2で三角形となる。

しかし、未だに世界を征服した帝王は地球の歴史に登場していないようなので・・・世界は台形に近いのかもしれない、つまり(上の底辺+下の底辺)×高さ÷2である。

上の底辺が下の底辺より短い方が安定感があるのが・・・錯覚なのかどうかはわからない。

平等な社会とは高さが1の社会であり・・・イメージとしては一直線・・・底辺だけの社会である。

そういう社会で人間が幸せに暮らせるのかどうかは分からない。

だが・・・どちらにしろ・・・それは二次元的なイメージである。

社会の底辺や底辺校や底辺の人間の存在する世界は複雑な起伏に満ちている。

底辺から脱出しようとして・・・山の中に埋められた人間は・・・幽かに高さを獲得したと考えることもできる。

けれど・・・とにかく底辺だろうがなんだろうが・・・人間は命ある限り生きていくのである。

で、『ウシジマくん Season2・最終回(全9話)』(TBSテレビ201403140058~)原作・真鍋昌平、脚本・福間正浩、演出・山口雅俊を見た。演出家はドラマ「ナニワ金融道」(1996年~)やドラマ「カバチタレ!」のプロデューサーであり、ある意味、この道一筋な感じもするわけである。つまり・・・どこか貧乏くさいのである・・・おいっ。しかし、底辺を描くことの面白さを充分に分かっていることは推察できる。底辺と言うものは基本的に貧困だからである。貧困ゆえのやるせなさ、貧困ゆえのなんでもありな感じ・・・そういうものはある意味で刺激に満ちているからなあ・・・。

もちろん・・・犯罪者である・・・闇金の主催者・ウシジマくん(山田孝之)は底辺の人間を餌食にして生きる底辺の人間である。

しかし・・・その胸中に去来する幻想は・・・どこか・・・掃溜めの鶴を求めてやまないらしい。

人はそこに美しさを見出したりもする。

だが・・・ウシジマくんよりももっと底辺の存在を感じさせるハブ(南優)でさえも・・・暗闇の中で用心深く、証拠隠滅をする姿には・・・美しさは見いだせる・・・それはお前が悪魔だからだろう・・・。

だから・・・このドラマはさいはてのドラマといえども・・・美しい物語なのである。

底辺からの脱出という若者らしい健気な幻想に憑依されて・・・中田広道(入江甚儀)は裏街道に足を踏み入れる。

読者モデルという・・・ファッション界の幻想の上流に足を踏み入れるために・・・自前で高価なファッションを身にまとう必要があったのである。

幻想のファッション業界である「オサレの世界」の帝王であるG10(藤本涼)に導かれ・・・クレジットカードの窃盗、高級自転車泥棒、違法ドラッグの密売人と犯罪を重ね、その結果、得た資金でオサレに磨きをかけた広道は・・・「オサレの世界」で頭角を現す。

そして・・・読モ界のオサレ天使であるパピコ(紗倉まな)と特別な関係になるのだった。

パピコもまた・・・生活費を切り詰め・・・オサレな生活に身を捧げる・・・広道の同類であり、同志であり・・・かけがえのない仲間であった。

しかし・・・パピコは「ここではないどこか」を求める傾向や・・・「誰にでも優しい」という天使としては当然だが・・・人間としては重大な欠点を持っていたのである。

パピコが誰とでも恋人になるらしいと知った中道は犯罪者である己を省みず・・・パピコを地獄へと突き落とすのだった。

パピコのような存在を快楽の道具としか考えないこの世の鬼畜生たちは・・・パピコを違法ドラッグ漬けにして・・・ついには人格を崩壊させるのだった。

底辺と地獄の境界線を彷徨うフリーター・宇津井(永野宗典)の前を通りすぎるパピコは魂を失った天使、彷徨える亡霊なのである。

やがて・・・パピコは職務に忠実な警官に職務質問され・・・保護され・・・違法ドラッグの流通経路の解明の一助となるのだった。

パピコを違法ドラッグの楽園に導いたのは・・・中田広道が密売した商品だったのだ。

底辺の愚者たちを騙し・・・一人、あぜ道を乗り越えて楽園に旅立とうとしたG10だったが・・・底辺の羅卒たちの監視を逃れることはできない。

素人が職業的無法者にひと泡ふかせることができるのは物語の中だけだ。

G10の身柄拘束につながる情報源である広道は・・・詐欺の被害者であるという情状を酌量されたりはしない。

ハプは広道を拘束し、拉致し、監禁し、拷問にかける。

底辺の狭いバスタブはたちまち・・・水攻めの拷問道具となるのだった。

「お前もG10とつるんで・・・金を持ち逃げしようとしたんだろう・・・オレの金をな」

「そんなこときは・・・しません・・・ブクブク・・・」

「G10の居場所を吐け」

「本当に知りません・・・ブクブク」

「じゃ・・・どうやって二千万円、用意するつもりだったんだよ」

「それは・・・友達が・・・」

「そいつの名前を吐きな」

そこへ・・・ウシジマくんがやってくる。

「名前を言えば・・・殺されるぞ」

「お前・・・誰だ・・・」とハブ。

「お前こそ・・・誰だ」とウシジマくん。

底辺の竜虎対決である。

感触を確かめあう・・・捕食者同志の暴力の応酬・・・凶器を閃かせるハブに一歩も引かないウシジマくんだった。

「金融屋さん・・・」

「お前、金融屋か・・・」

「広道・・・俺はお前の友達とこの部屋で待ち合わせをしたが・・・そいつは・・・約束の時間になっても現れない・・・お前は見捨てられたな」

「あいつは・・・必ず来ます・・・友達だから・・・」

「・・・」

「何の話だよ・・・金融屋・・・お前もタダで帰れると思うなよ」

ウシジマくんとの鍔迫り合いで鼻出血したハブは淡々と恫喝する。

その頃・・・ハブが出資するショップの脱税のための裏帳簿を入手したキミノリ(三澤亮介)はカウカウファイナンスに駆けこんでいた。

裏帳簿を吟味した情報屋の戌亥(綾野剛)は・・・ショップの経営者(久我真希人)から大金を入手できると判断し、三千万円で裏帳簿をお買い上げである。

柄崎(やべきょうすけ)からの報告がウシジマくんの携帯に入るのだった。

「取引は成立した・・・この金は・・・お前が自由にしていいぞ」

ウシジマくんは二千万円を広道に提示する。

「なんだと・・・どういうことだよ」

「走れ・・・メロスだよ」

「なに・・・」

その時、ハブの携帯端末に着信が入る。

「・・・なに・・・G10の身柄を押さえたって・・・そうか」

「・・・」

「どうやら・・・てめえも・・・騙された口らしいな・・・」

「・・・」

「金融屋・・・俺にも金を貸せよ」

「十日で五割だ」

「・・・そうか・・・そのうち、借りにいくよ」

「どうぞ」

お互いを激しく値踏みしながら・・・底辺の捕食者たちはゆっくりとすれ違うのだった。

とりあえず・・・食い物が他にあれば・・・何も危険を犯す必要はないのである。

ただし・・・ウシジマくんは・・・すでにハブのテリトリーに足を踏み入れており・・・一触即発の状態なのである。

だが・・・とりあえず・・・一瞬の平和は訪れた。

ウシジマくんと戌亥そして柄崎の同級生三人は・・・高田(崎本大海)や摩耶(久保寺瑞紀)とささやかな焼き肉パーティーを催す。

そこへ・・・借金返済に現れる宇津井。

いつまで続くかは不明だが・・・宇津井はギャンブル依存から脱却したように見える。

宇津井の借金によって・・・土地財産まで失った宇津井家だが・・・宇津井が心を入れ替えたことで・・・カウカウファイナンスに感謝さえしているらしい。

地獄に仏も気の持ちようなのである。

宇津井は結局・・・身の程をわきまえたのである。

自分を過大に評価し・・・現実との整合性から目をそらし続けるより・・・ありのままを受け入れることはある意味で気楽なことなのだ。

宇津井はゆきずりの女・ユカ(稲川なつめ)とすれ違い・・・ささやかな再会を果たす。

ユカもまた底辺にいて・・・宇津井とは通じ合える何かがある。

一方で高嶺の花であるゲストハウスの管理人・幸(絵美里)は宇津井がいかにときめいても住む世界が違うのだった。

宇津井はその苦さを飲みこむことを覚えた。

未だにそれができないゲイの森下(金谷マサヨシ)は見果てぬ夢を見続けるのだった。

ほろ酔い気分なのか・・・ウシジマくんは債務者たちの幻を見る。

夢を追いかけて海外に旅立ったキミノリ。

パピコと一緒に田舎に帰り、ささやかなオサレショップを経営する広道・・・。

しかし・・・キミノリは裏帳簿の持ち出しを追及され・・・裏社会の闇に消えた。

広道は・・・警察に保護されたパピコから密売ルートが解明されることを阻止するためにハブによって・・・身元を特定されない死体となって・・・口を封じられる。

日本にはおよそ三十万人の行方の知れない人がいるという話である。

そして・・・ウシジマくんは・・・これからもきっとポーカーフェイスで底辺を生きていくのである。

どうか・・・第三シリーズもありますように。

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ウシジマくん Part2

くう様の【闇金ウシジマくん】Season2 最終回と総括感想 

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2014年3月14日 (金)

君(多部未華子)と僕が一緒に風を感じた時間(三浦春馬)

すべてが揃っているのに・・・ただ一つ足りないものがある。

そういう感じを尽くしている・・・冬のさいはてドラマの女王も最終コーナーを駆け抜けていくのでございますねえ。

いつの間にか・・・春がそこまで来ているのですな。

人間は不安を感じ、恐怖し、怖れ慄く生き物でございます。

そういう意味で「世界でも指折りの豊かな国に生まれ、経済的に恵まれた両親を持ち、そこそこの知能とそこそこの体力を持ち、かなりのイケメンである主人公が・・・歩けなくなり、手が使えなくなり、職を失い、恋人を抱きしめることもできなくなり・・・ついには喋ることも・・・呼吸さえ困難になっていく」という病状は・・・まさにホラーの極みと申せます。

秀逸なホラー映画である「バイオハザード」を思わせるイントロで始ったこのドラマがついに・・・雨の中で主人公が転倒し俯瞰で捉えられる・・・時点に到達しました。

最初からこうなるとわかっていたけれど・・・ここまでの丁寧な説明で・・・主人公がどれほどこわいかは・・・お茶の間に充分に伝わっていることでしょう。

そして・・・この恐怖に耐えて・・・生きていくべきなのか・・・どうかと問いかけが炸裂するのでございます。

最終回を前に・・・このやるせなさ・・・あなたなら・・・どうする?

で、『僕のいた時間・第10回』(フジテレビ20140312PM10~)脚本・橋部敦子、演出・城宝秀則を見た。車イスのイケメンと言えば・・・映画「7月4日に生まれて」(1989年)のロン・コーヴィック(トム・クルーズ)を思い出す。ベトナム戦争を題材としながらエンターティメント色の強い映画「プラトーン」(1986年)に対して・・・過酷な描写にあふれた「7月4日に生まれて」はオリバー・ストーン監督の業界での評価を微妙なものにした。しかし・・・「戦争」で呑気な若者ではなくなってしまった主人公の痛さは・・・明らかにこのドラマの主人公の原型をなしていると考える。もちろん・・・このドラマは政治の腐敗、欺瞞、矛盾を痛烈に批判したりはしない・・・ただ・・・せつせつと生きることの光と影を訴えていくわけである。ここまでは・・・完璧なラブ・ロマンスであった・・・この作品が最終回でどうなるのか・・・全く明らかにしない予告編がなかなかに素晴らしいと考えるのだった。

夢のような僕と君の暮らし。

僕のベッドの側で君が布団で眠っている朝。

昨夜・・・遅くまで僕たちは愛し合った。

僕たちは想像もつかない体位だって試した。

君が目を覚ます。

「よく眠れた?」

「うん・・・君は?」

「ぐっすりと眠ったわ」

そして僕たちは微笑む。

僕はとても幸せだ。

君が僕と同じくらい幸せならいいのにな。

僕はなんて恵まれているのだろう。

僕の彼女の名前は恵っていうくらいでね。

僕は何不自由なく生きている・・・もうすぐ自発的な呼吸ができなくなるけどね。

親友の守はついに陽菜ちゃんと挙式を上げた。

結婚するまでは童貞を守ったことが偉いのかどうかはわからない。

とにかく・・・親友が幸せなことは・・・いいことだと思う。

電灯が切れても交換ひとつできない男と娘が暮らし始めることを・・・認めなければならない・・・恵のお母さんは・・・本当につらいと思う。そんな恵のお母さんに・・・ただ謝罪するしかない僕の両親もつらいだろう。

だけど・・・仕方ない・・・。

それが生きてるってことだ。

生きていればつらいことはある。

それを僕は・・・ある程度知っていると思う。

弟がアルバイトを始めたいというので・・・僕と恵は弟の職場の人に「弟の取り扱い説明書」を作ることにした。

はっきりとは言わないが・・・精神的な障害を抱える弟は・・・周囲の人たちに理解を得ることで・・・生きやすくなるだろう。

周囲の人も理解することで・・・弟という難しい道具を使いこなせることができるはずだ。

犬は「おい、お前・・・可哀想にな」と言うかもしれないが・・・人は道具を使って世界の支配者になったんだと言いかえすしかない。

弟も「そんなこともできないの」と他人を見下す言動によって凶器として取り扱われるより、「可哀想だけどそれなりに仕えて考えようによっては受ける道具」になった方が幸せなんじゃないかと思う。

案の定、「他人の気持ちがわからないところがあるが・・・悪気はありません」という弟をアルバイト先の人々は・・・「面白い玩具」として受け入れてくれたようだ。

「僕、生まれて初めて面白いと言われちゃった」と有頂天になる弟。

可愛いよ、陸人可愛いよなのである。

僕は幸せだった。

恵も幸せだった。

今は幸せだった。

でも・・・今という時はない。

「ま」といういう時には「い」は過ぎ去っているんだ。

たとえば・・・レントゲンを撮る時。

大きく息を吸ってと言われても吸えない時が近づいている。

もちろん・・・はい止めて・・・は得意だと思う。

そして・・・楽にして・・・と言われた時には永遠に楽になっているんだ。

人間は・・・人を見下した方が楽になるって言うけど・・・たとえば・・・嫌な奴が可哀想な奴になった途端、好感度がアップしたりね。

僕も・・・何もできない自分を見下すことで・・・僕自身を守っているのかもしれない。

君と僕はシャボン玉をする。

僕はシャボン玉をふいて飛ばす。

シャボン玉の液体が逆流してきて飲みこむ恐怖を感じながら。

そして・・・深夜、目覚めた君は呼吸をしていない僕を発見して恐怖するんだ。

「睡眠時無呼吸症候群かもしれませんね・・・そろそろ・・・人工呼吸器について・・・御家族と話し合ってください」

悪魔のようにポーカーフェイスの担当医は淡々と必要なことを推奨する。

僕の決心は揺らぎだす。

考えれば考えるほど・・・人工呼吸器は恐ろしい。

守は呑気に・・・「死なないでくれ」とおねだりする。

なんだって・・・人工呼吸器を装着して・・・避妊具の装着を止めて・・・僕に子作りに精を出せって言うのかよ。

陽菜ちゃんは・・・親友の君が可哀想で可哀想で泣くのを我慢するのが精一杯だ。

僕はつい考えてしまう。

陽菜ちゃんは・・・僕が早めに死んで・・・君が第二の人生を歩み始めた方がいいと思っていると。

そうだね。

たとえば・・・繁之先輩なら・・・僕のパスを受け止めてゴールを決めてくれるかもしれないしね。

僕がゴールを決めるなんて・・・無理だって思っているんだろうね。

幼い日の君が駄菓子屋で買った消費期限切れのイカ煎餅を食べるかどうか悩んだように・・・君のお母さんが悩むくらいなら食べちゃうように・・・人生には幸せを得るために頭を悩ませることが多過ぎる。

君が車イスを凄いスピードで押す。

こわいくらいの早さを感じる。

僕は君と風の中にいる。

でも・・・そのくらいの恐怖じゃ・・・僕の心にある恐怖を打ち消すことはできないよ。

僕は・・・君と僕のふるさとに旅をした。

僕と君は駄菓子屋で麦チョコとイカ煎餅を買った。

そして・・・君は何気なく風車を買ったね。

ふーっと吹けばクルクル回る風車。

それがどんなに恐ろしいか・・・君にはわからない。

僕には君の気持ちはわかるけどね。

お父さんもお母さんも弟も僕に長生きしてくれって言う。

僕もできれば長生きしたいと思う。

医学部にも入りたいし・・・いつか病気の治療法が見つかることも信じたい。

でも・・・人工呼吸器をつけてしゃべれなくなるのは嫌なんだ。

補助具をつけても字が書けなくなった。

それがどんなに嫌なことなのか。

みんな・・・本当にわかってるのかな。

本当に誰かに人生を変わってほしいと僕がどれだけ願っているか。

他人を不幸にしても自分が幸せになりたいとどれだけ感じているか。

そんな僕に「娘をよろしく」と託す君のお母さんに僕がどれだけ申し訳ないと思っているか。

君も願うのか。

僕に生きてと願うのか。

こんな僕と何十年も一緒にいたいと願うのか。

「しゃべれなくなっても・・・意志の疎通はできるわよ」

「身体の動く部分が全くなくなったら・・・」

「私があなたを見ているから」

「痛いのに痛いっていえないのは嫌だ」

君は・・・痛いのくらい我慢しなさい・・・男の子でしょって言うのかな。

痛い・・・。

君の温もりが痛い。

君の香りが痛い。

君といることが痛いんだ。

だって・・・僕はこわくて仕方ないんだから。

死にたいわけじゃないんだよ・・・ただ生きるのがこわいんだ。

ベトナム帰りの傷病兵なら酒壜かかえて・・・自暴自棄になって・・・ドラッグに溺れたくなるところじゃないか。

でも・・・僕ときたら・・・君との思い出の壜を抱えて死に場所を探すくらいしかできなかった。

どうせ・・・死にきれやしないって・・・みんなは思うかな。

痛いって伝えられなくなるのがこわい臆病者が・・・自殺なんてできやしないって。

でもこわいんだ。

僕はこわいんだよ。

君の優しさが・・・君の愛が・・・君の存在が。

道に倒れて君の名を呼ぶこともできない未来の僕が。

それは生ける屍とどう違うのかわからない。

僕は自分がゾンビになることが・・・。

心底、こわいんだよ。

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2014年3月13日 (木)

黄金色の橋の上で(桜田ひより)それでは皆さん御一緒に(渡邉このみ)正気になったらさようなら(安達祐実)優しくされたら泣いちゃうかもね(芦田愛菜)

大人の手は大きい。

子供の手は小さい。

病院の待合室で一心不乱にスマホを操作する二児のお母さん。

まさか・・・出会い系で客をとったりしてないだろうな・・・といらぬ心配をする。

それはウシジマくんの見すぎである。

子供たちは本棚の絵本を出してはしまう。

病気だけど元気だ。

でも手は小さいのです。

椅子の上で土足でジャンプする。

だけど手は小さいのです。

ふと顔をあげた母親が無言で会釈する。

ああ・・・ママはちゃんと見ているんだなあ。

少し・・・安心をするのだなあ。

大人の手は大きいんだよなあ。

で、『明日、ママがいない・最終回(全9話)』(日本テレビ20140312PM10~)脚本監修・野島伸司、脚本・松田沙也、演出・猪股隆一を見た。やはり、少しショートなんじゃないか・・・まあ、でも主題歌は先週リリースしているからいいのか。このドラマでは夕陽の中でファンタスティックに・・・展開するシーンが印象に残るわけだが・・・最終回では・・・初回に真希/ドンキ(鈴木梨央)を迎えたポスト(芦田愛菜)、直美/ピア美(桜田ひより)、優衣子/ボンビ(渡邉このみ)が・・・コガモの家の四人の部屋で無邪気に女子トークを展開する。外が夜の闇であることは変わらないのにドンキの心には灯が点っているのである。このドラマで評価すべき点はこうした脚本・演出のこまやかさにもあると考える。

フィナーレを飾る・・・両親の顔を知らない・・・乳児段階の捨て子であるポストの行く末には暗雲が立ち込めている。

実子を失くし不安定な母親の朝倉瞳(安達祐美)の元で死んだ娘「アイ」に成りきって・・・母親を得ようとするポストのせつなく緊張感を伴うシーンの後で・・・四人の子供たちの友情が緩和を招く・・・このような展開も緻密なのだ。

瞳はポストとともにアイのおいたちのアルバムを見る。

死んだ娘が生きていると信じる瞳の心に忍びよる違和感。

あわてて・・・ポストは・・・瞳の夫である亮(吉沢悠)にアルバムを隠すように指示する。

子供が大人を介護している状態である。

このドラマでは繰り返される主題である。

確かに・・・子供の存在は大人を癒すだろう。

しかし・・・子供は介護ロボットでも介護ペットでもないのである。

亮もそのことは充分に分かっていながら・・・ポストを利用する。

ポストもまた・・・自分を我が子と思いこもうとする瞳に・・・幻想の母親を感じる。

そのすべてを察しながら・・・様子を窺う・・・魔王/佐々木友則(三上博史)・・・フィナーレを飾るポストと魔王の二人の物語が静かに始っているのだ。

なかなかに見事な脚本なのである。

このドラマを愛してきたお茶の間は・・・もはや・・・ポストがどれほど孤独を乗り切ってきたかは知っている。

心に傷を負い・・・グループホームにやってきた母親に捨てられたドンキをついに・・・優しい里親に導いたのは・・・ポストである。

そして・・・親友とも呼べるピア美を暖かく見守ったのもポストである。

前回、ポストはピア美と父親を邂逅させ・・・ピア美の全国大会優勝を頓挫させたのだが・・・ピア美の才能に惚れた音大教授を唆し、ピアノも続けるように計らっている。

そんな・・・パーフェクトな小学生なのである。

まあ・・・ファンタジーですから。

ついに独自路線を歩むゾンビ/バンビ/ボンビにもジョリピのような理想の親である東條夫妻(城田優・Mailys Robin)のお迎えがやってくる。

ここで・・・あまりの幸福に・・・惧れをなしたボンビを励ますのもポストである。

「私を養子にした後で・・・実子ができたら・・・私が不要になるかもしれない・・・そこんところ取材してきて・・・」

籠城したボンビに言われるままに伝令となるポストなのだった。

ついに・・・東條は「信用できないなら帰る・・・なんちゃって」攻撃の後で・・・「君じゃなきゃ嫌なんだ・・・君が欲しい」とボンビのハートを撃ち抜くのだった。

巻き添えで死亡したお茶の間もあったようだ。

そして・・・ボンビの小さな手は・・・東條の大きな手に包まれるのである。

こうして・・・仲間たちを次々に幸せにしたポストだったが・・・狂気の母親が正気になったら失われるという儚い幸福にすがっているのだった。

そのことを案じる仲間たち。

「このままでは・・・ポストがすごく不幸せになる・・・」と魔王に訴える。

しかし・・・魔王は「自分の幸せの尺度で人の幸せを測るな」などと正論で応じる。

だが・・・それはあまりにポストに期待しすぎ・・・と誰もが思うのだった。

そして・・・魔王の残された秘密が明かされて行く。

登場人物の中でもっとも感情移入が難しい魔王の妻(鈴木砂羽)・・・。

すべての事情が明らかになった以上・・・オツボネ(大後寿々花)は・・・魔王の妻が・・・コガモの家で魔王と再び暮らし出すことに期待する。

しかし・・・魔王の妻には・・・早い話・・・他の男性への好意が渦巻いているのである。

っていうか・・・もう、魔王とやり直したいとは思っていないのだった。

まあ・・・女心っていうか・・・人間だものなんだな。

オツボネから「別れの手紙」を渡された魔王はやるせない気持ちになるのだった。

まあ・・・魔王は愛を上手く伝えられないタイプなのである。

だからこそ・・・魔王の妻はもっと分かりやすい男に奔るのだった。

よくありますよね。

なにしろ・・・魔王は・・・妻か・・・胎児かの究極の決断を迫られた後、自虐的になり・・・サッカーのゴールポストを蹴り続けるという苦行を選択・・・足の不自由な人になってしまったという驚愕の過去を秘めていたのだった。

ここで・・・ファンタジーの極みに達したな。

ここからは・・・魔王の秘めた思いを引き出すために・・・出演者一同が一丸となるのだった。

魔王が「いつまでも・・・子供たちを支える児童相談所の職員であってほしい」と願ったアイスドールは専業主婦が条件の婚約を解消し・・・「子供に里親の選択権を与えるルール改正」を目指して市会議員に立候補宣言をするのだった。

妻に裏切られ自暴自棄になりそうになった魔王を叱咤激励するのである。

そんなアイスドールにロッカー(三浦翔平)は手を差し伸べる。

トラウマによって手をつなぐことが怖いアイスドールは何故かロッカーとは手をつなぐことができる。

もちろん・・・それは親に捨てられた子供たちの絆があるからなのだ。

母親との約束による沈黙の呪縛から解放されたロッカーはついに・・・魔王を説教するのだった。

「このまま・・・ポストを辛い目にあわせてはいけません」

「だが・・・あいつが望んだことだ・・・あいつが幸せになろうと・・・」

「あなたの言うことなら・・・彼女は従うはずです」

「なんだって・・・」

「赤ん坊の時から・・・彼女を育ててきたのは・・・誰ですか」

「・・・」

「彼女はあなたに似ている・・・」

「そんな・・・」

「あなたが・・・彼女の育ての親じゃないですか」

「・・・ちっ」

揺れる魔王の心。

愛に対して・・・登場人物中・・・一番の臆病者なのである。

なにしろ・・・女房に逃げられた上に未練たっぷりな男なのだ。

ついに・・・ポストと朝倉家との・・・里親もしくは養子縁組の手続き・・・「契約」の日がやってくる。

不安を抱えながら・・・幸せになろうとするポストについに本音を炸裂させる魔王だった。

「その子は違う」

「・・・」

「その子はあんたの子供じゃない」

「・・・魔王・・・何を・・・」

「子供を壊すくらいなら・・・大人が壊れた方がいい・・・あんたの子は死んだんだ」

「ああああああああああああああああ」

「魔王・・・ママ・・・」

「・・・ごめんなさい・・・そうね・・・それが本当のことなのよね」

「ママ・・・」

「ごめんなさい・・・私はあなたのママじゃない・・・」

「ママ・・・」

「ごめんなさい」

黄金色の夕陽の中で憤怒するポスト。

「どうして・・・私の幸せをぶち壊すんだよ」

「一度しか・・・いわないから・・・よく聞け」

「・・・」

「お前がいなくなったら・・・俺が淋しいからだ」

「・・・」

「お前は私の娘だ」

ポストは泣いた。

大向こうから声がかかる。

「よ・・・芦田屋」

「愛菜!」

喝采である。

ポストは泣いたのである。

ママはいなかったけれど・・・パパがいたことを・・・ポストは信じていたから。

でも・・・言葉で言って欲しかったから。

そして・・・魔王は・・・ポストを胸に抱いた。

オツボネが看護師の寮生活に旅立つ朝。

アイスドールがやってくる。

「伝言があるわよ・・・ここから学校に通いなさいって・・・」

「私・・・ここにいていいの・・・」

「だって・・・ここがあなたの家で・・・私たちは家族じゃない」

娘を失った魔王。親を失った市会議員アイスドール、料理人ロッカー、看護師オツボネ、そして絶対的切り札のポスト。

プライドにあふれた最強の布陣で「コガモの家」は世間から可哀想と思われてしまう子供たちを出迎えるのだった。

日曜日・・・魔王とポストは遊園地に行った。

そしてプリクラを撮影する。

それから、パパとキララは大きな手と小さな手をつないで・・・いつまでも幸せに暮らしましたとさ・・・。

もちろん・・・キララがお年頃になるまでは・・・。

世界中の子供たちの小さな手が大人の大きな手でまもられますように・・・。

とにかく・・・素晴らしい主題を謳いあげた傑作が最終回を迎えられたことを祝福したいと考える。

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2014年3月12日 (水)

タイムトラベラーめ以子のごちそうさん(杏)

太平洋戦争に突入し、ついに終戦を迎え・・・さいはて度の高まった「あまちゃん」の後の「ごちそうさん」である。

ある意味・・・「梅ちゃん先生」の大阪版的朝ドラマと言える。

かなり・・・ありえへん展開の連続で・・・一部お茶の間を辟易させるものの・・・これはこれでいいんじゃないか的支持を受け、結構、人気の連続テレビ小説となっている。

特にテレビドラマで大阪大空襲が取り上げられることはあまりないので・・・貴重な感じもいたします。

あくまで・・・朝のお茶の間的に許容範囲の戦中であり、終戦であるが・・・そもそも一億人近い人々の・・・それぞれの太平洋戦争があるわけであり・・・個々の場合が違っても・・・ある程度までは許容範囲なのである。

田舎に住んでいれば空襲など知らずに身内の戦死だけが「戦争」との接点だった人もいれば、ガタルカナルで餓死した「将兵」もいるのが国民的体験の不一致というものなのである。

そういう意味で「大阪だって焼け野原」というドラマがたとえファンタジーであっても作られることは素晴らしいことだと考える。

で、『連続テレビ小説・ごちそうさん・第1回~』(NHK総合20130930AM8~)脚本・森下佳子、演出・木村隆文(他)を見た。物語はヒロインのめ以子(豊嶋花→)が六歳だった明治44年(1911年)から始る。六歳が数えなのか満なのか不明なので定かではないが・・・め以子は明治38年(1905年)頃の生れである。しかし・・・おそらく・・・平成生まれでタイムスリップした幼女なのであろう。あるいは意識変容系の時間跳躍で・・・少女時代か・・・女学生時代に平成から精霊(魂)が転移してきた可能性もある。おそらく・・・「ぼくの夏休み」に影響されたものだと思われる・・・おい。

そういうわけで・・・時々、ヒロインは平成時代の生れではないかという言動を展開するが・・・明治、大正、昭和の意識と平成の意識が混濁していると考えれば問題ないわけである。

ちなみに・・・現在の第23週「いもに見ていろ!」は太平洋戦争終戦の昭和20年(1945年)であり、ヒロインの実年齢は40歳前後ということになる。どう見ても二十代後半にしか見えないという意見もあるだろうが・・・世の中にはいつまでも若々しい人はいるのだから問題ないのである。

とにかくヒロインは西門悠太郎(東出昌大)と結婚して大阪に来て、ピーターパンの八代目でおなじみの高畑充希が演じる希子という義妹ができる。大正12年(1923年)に16歳の女学生だったので現在、38歳なのだが・・・どう見ても二十歳そこそこにしか見えないのである。これは童顔だからなのだろう。

さらにヒロインの親友に桜子(前田亜季)がいてヒロインと同級生なので・・・もういいじゃないか。

ついでにヒロインは大正12年(1923年)に長女のふ久(森山咲瑠→原見朋花→松浦雅)を出産しているのでふ久は現在22歳である。ふ久は第一回大阪空襲で長男を出産し、ヒロインは祖母になる。杏(27)で松浦雅(18)なのでヒロインは9歳くらいで長女を出産している気がするが・・・それは気のせいである。大河ドラマと並んでテレビ小説でもよくあることなのである。

しかし・・・なんで・・・老けたメイクをしないのかは謎である。

まあ、とにかく・・・ヒロインもヒロインの親友もヒロインの義妹もヒロインの長女も可愛いからいいのだ。

昭和19年・・・ふ久は初恋の人的な弘士(中山義紘)に嫁ぎ、夫の出征前にめでたく妊娠する。

時を同じくして、ヒロインの次男・活男(二宮輝生→西畑大吾)は海軍の主計課に入隊する。

この頃、すでにマーシャル諸島攻略を果たした連合軍はサイパン、グアム、テニアンなどを含むマリアナ諸島への占領作戦を発動していた。

マリアナ諸島の占領は日本本土を超空の要塞「スーパーフォートレス」B-29長距離戦略爆撃機の攻撃範囲と為すことである。

帝国海軍はその阻止に向けて米海軍機動部隊にマリアナ沖海戦を挑む。

日本の空母9隻と米国の空母15隻が激突した結果・・・日本海軍は壊滅的打撃を受ける。

特に航空機は質量ともに勝る米軍が日本軍を圧倒し、米軍に「マリアナの七面鳥撃ち」と呼ばれる惨敗を日本軍は喫するのである。

日本軍は制空権、制海権を共に失い、昭和19年、7月9日にサイパンは連合軍に占領され、日本軍は玉砕。8月1日にテニアンが占領され、日本軍は玉砕。8月13日にグアムが占領され、日本軍は玉砕。ただし・・・捕虜は五千人以上発生している。

生き残る人間はどこにいても生き残るのである。

捕虜にならず、その後、昭和47年(1972年)までゲリラ戦を続けた横井庄一軍曹の例さえある。

とにかく・・・マリアナ諸島は連合軍の手に落ち・・・日本本土は・・・B29の射程圏に入ってしまった。

高度1万メートルを飛行するB29に敵対できる戦闘機を日本軍は有しておらず・・・陸軍の「疾風」「隼三型甲」「飛燕2型」や海軍の「紫電改」などがなんとか高々度まで上昇し、体当たりを敢行するしかなかった。

しかも・・・早期警戒レーダーの開発に遅れた帝国は・・・敵機をとらえるのが遅く、迎撃機が高々度に到着する頃には爆撃が終了しているのが実情だった。

しかし、初期の空襲は軍事拠点に対象が絞られており、損害は軽微だった。

こうして・・・日本は・・・昭和二十年を迎えるのである。

一月早々・・・戦果が少ないと判定された爆撃軍司令官のヘイウッド・S・ハンセル准将が更迭され、ヨーロッパ戦線で絨毯爆撃に実績があるカーチス・ルメイ少将が第21爆撃軍司令官に着任したのだった。

すでに帝国の防空能力の低さを察したルメイは・・・低高度から焼夷弾を集中投下する無差別爆撃を立案する。

こうして耐火性の低い日本の家屋を焼き払い・・・無差別で日本国民を焼却する容赦ない攻撃が始る。

三月十日・・・東京大空襲、死者およそ十万人。三月十二日・・・名古屋大空襲、死傷者およそ二千人、そして三月十三日・・・大阪大空襲、死者およそ三千人。

大阪では八月十四日(終戦の前日)までに八回の大空襲が行われ、全域が焦土と化したのだった。

そんなこんなでたまに撃墜されたB29の搭乗員の死体が生き残った人々に小便ぶっかけられるのも仕方ないと考える。

それでも・・・め以子はしぶとく生き残り、夫の作った地下鉄に命を救われ・・・次男の戦死の知らせにも・・・小姑の和枝(キムラ緑子)のツンデレな「いけず」にも耐えがたきを耐え、忍びがたきを忍び・・・終戦の日を迎えたのだった。

そして・・・闇市で馬の餌を安価で手に入れ・・・新作料理「うまいもん」も開発しため以子。

「ごちそうさん」

夏なのにどこか寒々しい季節の失われた焼け跡に蠢く空腹の人々に大好評で商売繁盛なのだが・・・そこに「誰に断って商売してんねん」の愚連隊(波岡一喜)が登場である。

なんだか・・・すごく落ち着く。

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季節はずれの東京大空襲

こんな女に誰がした(有村架純)哀しい時は泣いたらええんや(多部未華子)

世界が悲しいので、泣きました(長瀬智也)

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2014年3月11日 (火)

終わらない悲しみ~鼠、江戸を疾る(滝沢秀明)

東日本大震災から三年である。

悲しみの癒えぬ間に次の悲しみを予感させる時代。

そういう悲しみに耐えて生きている感じを醸しださせる主人公である。

そんなタッキーにマッチの主題歌がマッチしている。

そこでだじゃれなのはどういう流れだよ。

・・・この枠の時代劇は当たり外れが大きいのだが・・・この作品はまずまずである。

鼠小僧とかわいい妹の謎の二人暮らしという設定もそそる。

二人の正体がいよいよ明らかになる最終章の前後編の直前なのだ。

で、『木曜時代劇・鼠、江戸を疾る・第1話~第7話』(NHK総合20140109PM8~)原作・赤川次郎、脚本・大森寿美男、川崎いづみ、演出・黛りんたろう(他)を見た。自称・甘酒屋の遊び人次郎吉・・・実は鼠小僧(滝沢秀明)は・・・小太刀の達人で妹の小袖(忽那汐里)と二人暮らしである。小袖は兄の正体を知っている。二人がなぜ・・・そうなったのかはまだ明らかになっていない。二人と顔なじみの岡っ引き・徳五郎(髙嶋政宏)は鼠の正体にまるで気付いていない残念な感じである。他に女医の千草(片瀬那奈)や、縁あって千草の助手になっている貧しい町娘・お豊(萩原みのり)が配置されている。

もちろん・・・鼠小僧は大名屋敷に忍びこんで千両箱を盗み出し、貧しい町民に施すという義賊なのである。

しかし・・・忍びこんだ先々で・・・事件に出くわし・・・窮状にあえぐ人々を助けるという仕掛けになっている。

もちろん・・・基本は勧善懲悪である。

エピソード自体はパターンをちょっぴりひねった程度のものだが・・・心配性の次郎吉と勝気な小袖のふれあいが微笑ましく、物語をスムーズに展開させていくのだった。

西岡徳馬とか、森次晃嗣とか、石丸謙二郎とかゲスト悪役も悪くないのだが・・・茶器を割っちゃう町娘(小島藤子)とか、夫の不倫に悩む武家の妻女(釈由美子)とか、火事で焼け出された母子(星野真里・豊嶋花)とか、夢遊病の箱入り娘(佐津川愛美)とか、出生の秘密を持つ側室(石橋杏奈)とか、だまされやすいお嬢様(岡本玲)とか、商家専門の泥棒猫(大政絢)とか、仇討ち目当ての奥女中(村川絵梨)とか・・・ゲスト・ヒロインが豊富なのである。

とにかく・・・可愛い江戸娘満開の時代劇なのだった・・・そこかよっ。

第7回では・・・ゲストに・・・藩主の命を受け、藩内の不正を探る藩士・矢崎役で岡田義徳が登場。

剣の達人である矢崎の暗殺に失敗した悪い家老(森田順平)は矢崎の新妻・菊乃(富永沙織)を拉致し・・・辱めようとするわけだが・・・鼠小僧と小袖が救出に成功する。

鼠小僧は武器は使わず、拳法に似た体術で相手を瞬殺したりするのである。

二人の協力で不正は暴かれ・・・一件落着。

刺客との戦いで負傷した小袖を背負い、家路につく次郎吉・・・。

次郎吉に甘えるツンデレの小袖がかなり萌えさせます・・・。

はたして・・・二人の隠された秘密とはなんなのか・・・まあ・・・大体予想はつくわけですが・・・それでもうっとりと楽しめるのが時代劇の醍醐味なんだな。

終わらない悲しみが・・・終わる日が来るのか・・・楽しみなんだな。

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2014年3月10日 (月)

織田信長様書状に曰く、藤吉郎連々不足の旨申すのよし、言語道断、曲事に候か・・・と軍師官兵衛(岡田准一)

織田信長は天正四年(1576年)に正三位内大臣に、天正五年(1577年)に従二位右大臣に任じられている。

その頃・・・羽柴秀吉の正室おねに手紙を認めているというのが・・・研究者たちをうっとりさせるわけである。

その真偽のほどを疑うのはなんだか野暮だと誰もが思うわけである。

しかし・・・桶狭間以来・・・信長の苦境をある意味で救ってきた秀吉一家は・・・信長にとって「特別」であったことは間違いない。

難攻不落の稲葉城攻めに功があり、絶体絶命の越前からの退却戦でも功があった。

次々と戦死する股肱の臣の中でしぶとく生き延びる秀吉に幸運の兆しも見出していたかもしれない。

だからこそ・・・わざわざ安土城まで愚痴を言いに来たおねの文言を聞いてやり、秀吉を諌める手紙まで書いたと想像するのは楽しいことだ。

「おねはますます美しくなってきた。禿鼠の秀吉にはもったいない女房である。秀吉がおねに不満をもらすなどということは金輪際あってはならない。信長がそう言っていると秀吉に伝えよ。だからヤキモチを焼くのはほどほどにするのがよかろうず」

光秀は・・・こんな男を殺してしまったのである。

魔がさしたんだなあ・・・。

それにしても妬の濃姫に「子供のできない私が悪い」と言ってしまうおねって・・・。失言にも程があるだろう。

ま・・・脚本家も魔がさしたんだろうな。

で、『軍師官兵衛・第10回』(NHK総合20140309PM8~)脚本・前川洋一、演出・本木一博を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。11行レビューキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!・・・しかも、今回は本作登場人物描き下ろしなし・・・まあ、世間の注目もビジュアル的に異相の福島リラ演じる架空の登場人物・お道に集まっているだけで・・・せっかくの合戦シーンも迫力ないことおびただしいですからねえ。というわけで今回は全く登場していない徳川家康シリーズ・北大路欣也(「江~姫たちの戦国」)ヴァージョン描き下ろしイラスト大公開でお得でございます。「のぼうの城」までは行かずとも・・・せっかく母里太兵衛が千人斬り宣言してるのですから・・・十人くらいは殺戮してほしかったですなあ。なにしろ・・・天正四年~五年頃にあったというものすごく曖昧な英賀合戦なので・・・なんでもありなのに・・・半分、ホームドラマってどういうことなんでしょうかあああああああああああああっ。

Kan010 天正四年(1576年)1月、小寺官兵衛の主君にあたる小寺政職が権大納言兼右近衛大将という高位に上った織田信長に拝謁し臣下となる。しかし、前将軍・足利義秋は毛利支配圏にあって将軍家としての策動を続けていた。信長支配下にあった丹波国の波多野秀治が叛旗を翻し、信長と和解していた石山本願寺の顕如が再び挙兵したのである。越中を挟んで信長軍の柴田勝家と対峙することになった越後国の上杉謙信も本願寺と和解、信長と敵対する勢力となり、毛利・本願寺・上杉の同盟が確立すると各地の土豪たちにも動揺が生じる。瀬戸内海の制海権を握る毛利水軍は摂津国・石山本願寺に対する積極的な支援を開始したのである。播磨国における英賀城合戦はこのために長期戦となるのである。四月、石山本願寺に対し、信長は原田(塙)直政を司令官とし、丹波攻めの明智光秀、摂津国主の荒木村重などに包囲網を形成させる。しかし、五月、原田直政が鈴木重秀率いる雑賀衆の奇襲によって戦死、織田方の天王寺砦付近で激戦となる。織田軍は多数の死傷者を出しながら本願寺勢を撃退、佐久間信盛を新たに主将として石山本願寺包囲網を完成させ、兵糧攻めの体制となる。これに対し、毛利水軍は木津川河口からの補給戦を実施し、織田方の九鬼水軍を撃破。石山本願寺への物資補給に成功するのであった。この後、摂津・播磨を経由する毛利水軍と本願寺勢と織田勢力の小競り合いが続いて行くことになる。

姫路城には三木通秋に嫁いだ異母妹からの知らせが届いていた。

「英賀の浦に毛利の安宅船が現れたとな・・・」

姫路城周辺の水田は田植えの衆でにぎわっている。

主君・小寺政職とともに播磨に戻って以来・・・奇妙な戦が始っていた。

播磨国には毛利家の調略だけでなく・・・本願寺坊主による扇動が始っている。

美作国境の佐用城、上月城は毛利に下っている。

正室・光の姉が上月城主に嫁いでおり、小寺政職の側近である妻の実家・櫛橋氏が毛利贔屓なのも官兵衛にとっては苦しいところである。

しかし、黒田三代が土着し、育て上げて来た姫路周辺の武力は他を制しているために・・・櫛橋氏が結集しようとしている反織田同盟はまだ実りの時を得ていない。

それに対し、明石から室津にかけての海岸線には本願寺門徒の扇動が進行し、穏やかならぬ気配を示している。

さらに浦上氏の勢力の衰えとともに実力を失った姫路の西、龍野城周辺でも、城主・赤松広秀の求心力が弱まり、本願寺門徒が龍野円光寺住職・多田祐恵の元に結集し、一向一揆の気配を漂わせていた。

英賀城主の三木通秋も本願寺門徒である。

官兵衛は龍野攻めでは妹婿の三木通秋に苦境を救われたこともあり、気心の知れた間柄であったが・・・そこは戦国の世である・・・油断はならないのだった。

龍野からの本願寺勢力が英賀に合流すれば・・・城主さえもその流れに飲み込まれる可能性があった。

そもそも・・・民は力あるものになびくのである。

本来の播磨国の守護である赤松宗家に貢がず・・・守護代である小寺家に実力あればそれに貢ぐ。

それだけの話である。

極楽浄土を約束する一向宗を信じれば本願寺に貢ぐのである。

領主にとって一向宗はそれだけ厄介なものであった。三木通秋が城主自ら門徒になったのも・・・長いものに巻かれているのである。

そこに・・・本願寺と同盟を結んだ毛利水軍が加われば・・・不測の事態が起きかねない。

異母妹からの知らせはそれを案じたものである。

官兵衛は姫路城内の忍びの間に急いだ。

すでにそこには英賀の里に忍んでいた草のものからの報告を受けた栗山善助が控えていた。

「善助・・・どうだ」

「毛利水軍が押し寄せてまいりました」

「確かか・・・」

「英賀の浜に軍勢が上陸しておりまする・・・海上には安宅船と多数の関船が停泊しております」

そこへ井上九郎右衛門がやってくる。

「お召しですか」

「城へ軍勢を集めよ」

「御意」と応じると九郎右衛門は去る。

「さらに・・・」と善助が言葉を続ける。

「まだ・・・あるのか」

「龍野の草のものから・・・本願寺門徒が南下しているそうです」

「姫路ではなく・・・英賀へか・・・」

「おそらく・・・」と口をはさむものがある。いつの間にか善助の背後にはくのいちのおうまが控えている。「門徒衆は石山に向かうつもりではないでしょうか」

「なるほど・・・加勢か・・・」

「毛利水軍は・・・英賀で物資を補給し、ついでに門徒衆を石山まで運ぶ算段かと・・・」

「ならば・・・戦はなしか・・・」

「いいえ・・・」と反駁するものがある。

驚いて振り返った官兵衛はそこに神明尼の姿を見た。

「これは・・・神明尼殿・・・どうやって城にお入りになられた・・・」

「ふふふ・・・神明通力でございまする・・・」

「・・・」

「毛利の水軍の長は浦(乃美)宗勝と申す者・・・血気にはやっておりますれば英賀城の三木殿を焚きつけて姫路攻めを試みると思われまする」

「なんと・・・」

「その数は毛利衆が三千、門徒衆が千、英賀衆が千でおよそ・・・五千となりましょう」

「なるほど・・・姫路の五百と・・・御着の千をあわせて千五百の小寺勢に対してはなかなかの大軍ですな」

「いかがなされます」

「もちろん・・・攻めまする・・・出鼻をくじくは戦の常道・・・」

「偽兵の計でも用いますか」

「無用でござろう・・・速攻あるのみでござる」

「さすがは官兵衛様・・・武運をお祈りしますぞ」

気がつくと神明尼は消えていた。

「不思議なお人じゃ・・・」

「あの方・・・人でございましょうか・・・」と善助はつぶやいた。

神明尼の言う通りに浦宗勝は北上を開始し、英賀と姫路の中間点に陣を張る。

数を頼んだ毛利勢は姫路勢が籠城するものと決め込んで油断しきっていた。

しかし・・・すでに陣の中には神明党の忍びが入りこんでいる。

「聞いたか・・・姫路の官兵衛様は鬼神がついているそうだ」

夜襲にそなえた見張りのものに囁きかけるものがある。

「おえりゃせんのう」

「どんな鬼だ・・・」

「牛頭天王の生まれ変わりだとか・・・」

「おれも聞いたことがある・・・官兵衛様は・・・矢が刺さろうが槍で貫かれようが平気じゃと」

「おれは見たことあるぞ・・・腕をおとされた官兵衛様がその腕をひろってすげるところを」

「おそろしいのう」

ひそやかに交わされる言葉は夜の間に毛利勢に満ち満ちていく。

夜明け間近に霧が立ち込めると・・・無数の矢が陣に降り注ぐ。

「小寺衆じゃ・・・」

「敵襲じゃぞ」

すでに小寺勢は敵陣を取り巻いている。弓手たちは地形を利用し、移動しながら弓を放つために・・・周囲から矢を受けて陣内は混乱した。

そこへ陣太鼓が鳴り、法螺貝が吹かれる。

黒田の騎馬隊が陣内に乱入してきた。

「寝がえりじゃ・・・英賀衆が寝返った・・・」

「天狗じゃ・・・天狗がやってきた」

「逃げよ・・・逃げよ」

様々な声がわき上がり・・・上陸部隊は烏合の衆と化していた。

「ええい・・・引け」

目覚めたばかりの浦宗勝は悲鳴を上げて退却を命じた。

翌朝・・・補給を終え・・・石山応援の門徒衆を乗船させた毛利水軍は東へと去った。

城から去ってゆく毛利の軍船を眺め・・・英賀城の三木通秋はつぶやいた。

「なんのことはないのう・・・毛利の水軍は・・・うるさい門徒衆を連れ去ってくれに参ったようなもんじゃあ・・・」

正室である官兵衛の異母妹は微笑んだ。

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2014年3月 9日 (日)

雨の中の二人(中村蒼)極楽の王女(杉咲花)天窓の暗殺者(本郷奏多)

東日本大震災の夜、自宅の寝室が就寝不能となったために別宅の居間に避難して横になった。

不安な夜を見知らぬ天井を眺めながら過ごした人も多いだろう。

その心細さは人によって様々だろうが・・・旅先の宿泊施設で目を覚ます時の違和感は多くの人が想像できるだろう。

人々が我が家に感じる居心地の良さは格別のものなのである。

戦乱により崩壊した故郷を離れ、異世界の見知らぬベッドで眠る少女は・・・不安を抱きつつも好奇心で支えられる。

しかし・・・見る夢はやはり・・・悪夢なのである。

被災者たちが避難地の仮の寝所で浅い眠りにつき・・・悲しい夢を見たことを痛ましく連想する。

で、『・第9回』(テレビ東京201403080012~)原作・眉村卓、脚本・岩井俊二、演出・長澤雅彦を見た。君がいない朝焼け・・・過ぎ行く時の中で「今かわるとき」とみどり(桜井美南)が歌うオープニングテーマのビジュアルは・・・アスカ(杉咲花)の見る夢だったらしい。強烈な放射線を浴びて溶けだした人体・・・その中には・・・D12世界の岩田広一のD8世界におけるアイデンティカ(遺伝子的相似体)・ナギサも含まれる。おそらく、それはアスカの直接的な記憶でなくて・・・イメージの産物なのだろう。イメージの死者の中にはD12世界のみどりのアイデンティカも登場し・・・推測ではヒューマノイド(人間形生命体)典夫ことモノリオ(本郷奏多)のオリジナル人体も現れる。彼らを溶解したものがおそらくD8世界のプロメテウスの火であり・・・それはモノリスをエネルギー源にするもとと考えられる。

死者たちに名を呼ばれ、見知らぬ異世界の他人の部屋で目覚めたアスカは導かれるように・・・パジャマ姿で執筆中の広一の父・亨(高野浩幸)を見出す。

「何を書いているの」

「・・・宇宙の終りについて・・・」

「ほう・・・」

「ビッグバンって知ってるかな・・・宇宙の始りについての仮説・・・」

「うむ」

「始った宇宙がどう終わるかについての仮説について・・・少年少女向けに解説する記事を書いているんだ」

「なるほど」

「宇宙の爆発は以前は球体としてイメージされていたけど・・・今はキノコのような形をしているという説もある・・・それにはダークエネルギーが関与しているというし・・・」

「爆発を球体でイメージするのはあながち間違いではない・・・ただ・・・世界を単一のものと捉えない視点が必要だ」

「・・・」

「宇宙はせめぎあう世界がもつれあって拡散していると考えるべきだろう。おしあいへしあいな・・・たとえばひまわりの花のように・・・世界もフィボナッチ数で存在し互いに螺旋を描いていると考えればどうだろう・・・そうすればこの世界がきのこのように歪むのも自然なことと思えてはこないか・・・」

「パラレルワールドか・・・さすがは・・・ムーくんのガールフレンドだね」

「・・・ガールフレンド・・・か」

「しかし・・・君はまるで世界がそうであると知っているような・・・」

その時、深夜にも関わらずドア・チャイムが鳴る。

「なんだろう・・・」

来訪者はモノリオだった。

「君は・・・」

「隣の山沢典夫です・・・広一くんを呼んでもらえますか」

「ノリオ・・・」

「アスカ・・・お祖母様が目覚められるのです」

「そうか」

「君たちのお祖母さんの手術は成功したんだね」

「はい・・・」

「それはよかった・・・広一を起こそうか」

「いえ・・・結構です・・・従妹をお世話いただきありがとうございました」

「いや・・・いつでも・・・遊びにきてください・・・アスカちゃん・・・また話をしようね」

「お世話になりました・・・」

「では・・・これで・・・」

二人が去った時・・・起き出した妻の君子(濱田マリ)と亨は顔を見かわす。

その時・・・広一が寝言を漏らす。

「あすか・・・」

「まあ・・・」

「・・・みどり」

「どんな夢を見ているのかしらね」

二人は息子の寝顔を見ながら微笑むのだった。

隣室の江原正三(ミッキーカーチス)の部屋では・・・目覚めた王妃(りりィ)が孫のアスカ姫と再会を果たしていた。

ただちに・・・建国宣言の儀式が行われる。

そのためには王妃の目覚めが必要だったらしい。

「ここに・・・ジェーピー・アット・ジュウハチ帝国の建国を宣言する」とアゼガミ(中野裕太)が宣言する。

立ち会ったのはアスカ姫と侍従らしいススジロ(佐藤乃莉)・・・そしてヒューマノイドのモノリオ・・・D12世界で徴用されたマギ(モノリスによる知的制御)のレイパー(使用人)・江原老人や医師たちと・・・坂井銀次(金山一彦)をはじめとするアステロイド(強制洗脳装置)による数人のレイパーたちだった。

しかし・・・そこにアステロイドの冴木(碓井将大)がいないことに不審を感じるモノリオ。

その表情を目ざとくアスカが見出す。

「どうした・・・」

「臣下の一人、サエキがオンラインにならないのです」

「期限切れではないのか」

「そうかもしれませんが・・・予測よりは・・・早いので・・・」

「アステロイドの効力には個人差が生じるからな」

「仰せの如くです・・・」

しかし・・・冴木はとある廃墟で・・・謎の人物と邂逅していた。

その人物は明らかにD12世界の人間ではないことを窺わせる怪しい赤い発光現象を伴っていた。

怪人物の目は赤く光り、冴木の目もそれに反応する。

「お前は・・・悪の因子を持っている」

「はい・・・私はあくの因子を持っています。申し訳ありません。謝罪します」

「悪の因子を持っているものの謝罪など無意味だ・・・」

「謝罪できるだけ謝罪します」

「謝罪など必要ない・・・悪の因子を持つ者は・・・悪であることこそが自然である」

「悪の因子は自然です」

「悪の因子を持つものはあるがままに悪を為せ」

「悪を為します」

怪人物はアステロイドに介入し・・・冴木を再改造していたのだった。

翌日、岩田家にモノリオとアスカが訪問する。

「今日、ボクには所要がある・・・よかったら・・・アスカに付き添ってくれないか・・・」

「それは構わないけど・・・」

「よろしく・・・頼む」

広一はモノリオから・・・日傘を託されるのだった。

「アスカには紫外線が毒なので・・・」

「さして・・・」

仕方なく・・・広一はアスカに傘をさしかけるのだった。

二人は高貴なものと召使のように田園風景の通学路を歩んでいく。

「上履きがどこにあるか・・・分らぬ・・・」

「え・・・」

「靴をふき清めればよかろう」

「・・・」

「ふいて・・・」

「えええ」

仕方なくティッシュ・ペーパーでアスカの靴底をぬぐう広一。

二人をみどりが見ていた。

「どうしたの・・・」

「山沢に頼まれた・・・あの子にはまいるよ・・・」

「広一・・・」と呼ばれ傅く幼馴染に・・・胡乱な視線をそそぐみどりだった。

みどりにもようやく・・・事態がただのロマンチックな出来事にすぎないと言いきれないことが薄々分かりはじめていたのだ。

よろめいている場合ではなかった。ふたまたかけていたのに・・・いつのまにかふたまたかけられている立場に転落しているのである。

D8世界のみどりのアイデンティカが実在するとすれば・・・仮にミドリと呼ぶ女は広一のアイデンティカであるナギサと親しい間柄だったのかもしれない。愛妾であるかもしれないし・・・D12世界では広一とあすかが兄妹だったように・・・姉弟の関係だった可能性も窺われる。

江原家では王妃が食事中だった。

「このようにもの・・・妾の口にあわぬ・・・」

「申し訳ありません・・・」

親子丼を食べず嫌いする王妃だった。

どうやら・・・帝国のヒエラルキーの上位に位置するものは無能で気位だけが高いようだ。

D8世界の滅亡の原因は洗練されていない階級社会における階級闘争の激化なのではないかと思わせるものがある。

喫茶店で・・・モノリオと善後策を検討するアゼガミとスズシロにもその傾向がある。

「アステロイドの在庫も底を尽き、モノリスの補給がない以上・・・人民は密かに召集するしかございません」とモノリオ。

「姫のお命はどうなる・・・」とスズシロ。

「このままでは・・・それほど長くはもたぬ・・・」とアゼガミ。

「そんな・・・」

「希望を捨てるわけにはまいりません」

「希望だと・・・ヒューマノイドの分際で希望などということを軽々しく申すでない」

「失礼しました・・・」

モノリオを罵倒するが・・・特に具体策をもたないアゼガミだった。

王家を守護するものとして・・・いささか・・・役不足であるが・・・有能なものたちはおそらく・・・死に絶えてしまったものと思われる。

授業は終り・・・下校の時間になっていた。

その時・・・雨が空から落ちてくる。

「まずいな・・・これでは帰れぬ」

「何だって・・・日傘だって・・・いいじゃないか」

「何・・・」

アスカは他の生徒たちが傘をさして下校することを観察し・・・おもむろにモノリスを使用する。

「なんと・・・この雨は・・・汚染度が極めて低いな・・・」

「いや・・・完全に綺麗ではないと思うけど・・・大陸から汚染物質が偏西風で運ばれてくるっていうし・・・」

「いや・・・この程度の汚染なら飲料水としての使用もできる・・・」

「え・・・」

「そうか・・・この世界にはきれいな雨がふるのか」

雨の中に飛び出したアスカをあわてておいかける広一。

「おいおい・・・傘はささないと・・・」

「邪魔するでない・・・私は・・・今、雨を堪能しておる・・・」

「いや・・・風邪ひくぞ・・・」

「ハックション」

とにかく二人は雨に濡れて帰宅した。

「それじゃ・・・これで・・・」

「待て・・・濡れたままではないか」

「だから・・・言ったじゃないか」

仕方なく・・・アスカを家に招き・・・風呂を入れる広一だった。

広一の中でアスカは妹の生まれかわりだった。

しかし・・・同級生でもあった。

それゆえ更衣スペースで脱衣し始めたアスカに慄くチェリーボーイの広一だった。

「なぜ・・・出ていくのか」

「いや・・・無理だから・・・湯船に湯がたまるまでシャワーを使えばいいよ」

「使い方が分らぬ・・・」

「シャワーのない世界ってどんな世界なんだよ」

「ジョークじゃ」

「うわあ」

「広一・・・お前はリーインカーネーションを知っているか」

「輪廻転生のこと?」

「まあ・・・輪廻と転生は少しちがうがな・・・」

「そうなの・・・」

「広一の亡くなった妹と私・・・私の死んだ許嫁と広一・・・それぞれが生まれかわりのようなものかもしれぬ・・・」

「・・・」

「どうじゃ・・・そうは思わぬか」

「よく・・・わからない・・・」

広一は母親の衣服を物色した。

「狭い風呂じゃが・・・これは極楽じゃな・・・」

アスカは入浴を味わった。

「水源が汚染されていないというのは・・・贅沢の極み・・・」

アスカは自分の裸身を眺めた。

教養にあふれたアスカが自分の内に潜む障害に気がついていないはずはなかった。

その視線には余命を図る意図が示されている。

入浴を終えたアスカは・・・一度、江原の部屋に戻る。

そこでは・・・拠点の確保について話し合いが行われていた。

「私たちが働いて・・・もう少し広い部屋をご用意します」と進言するアステロイドの坂井。

しかし・・・アゼシロの顔には軽侮の表情が浮かぶ。

「お前たちの稼ぐ金で王宮が築けるものか・・・」

「アゼシロ様・・・あまり・・・無理を申されても・・・」そこでスズシロはアスカの帰宅に気がつく。

「これは・・・アスカ様・・・本日のご夕食は何時にいたしましょうか」

「よい・・・夕食は広一の家でとる・・・それより・・・モノリオ、ともに参れ」

「どちらに・・・」

「広一の家じゃ・・・」

モノリオとアスカが広一の家を訪問すると同時に・・・江原家には・・・冴木が来襲していた。

そうとは知らずに食後の団欒を岩田親子と過ごす二人。

アスカは不思議な物質を披露する。

「これは驚いた・・・」

「なんなの・・・」

「宝石のようだが・・・重さがない・・・」

モノリスと同質のキューブは宙に浮遊する。

「どういう仕掛けなの・・・」

「仕掛けなどはない・・・私が山歩きで見つけたものだ」

「これ・・・少しの間・・・お借りできないかな・・・しかるべき研究室に持ち込んで調べてもらったらどうだろう」

「だめじゃ・・・」

「しかし・・・すごいな」

「なんじゃ・・・広一もこれが欲しいのか・・・」

「いや・・・君の宝物なんだろう・・・」

「私と結婚すれば・・・これはお前のものになるぞ・・・」

「え・・・」

驚く岩田親子に笑顔で応えるアスカだった。

「驚かれたかな」

「でも・・・アスカちゃんみたいなかわいい子が広一のお嫁さんになってくれたらおばさん・・・うれしいな・・・ねえ、あなた」

「うん・・・そしたら・・・これも我が家の家宝になるわけだし・・・」

「おい・・・」と鼻白む広一だった。

「アスカ・・・そろそろ・・・おいとましましょう」

岩田家を辞したアスカに意見をするモノリオだった。

「姫・・・この世界のものにマルスの結晶などみせていかがなされるのです」

「あのものの科学的素養を吟味したまでよ」

「しかし・・・うかつに・・・あのようなことをなされては・・・」

「モノリオ・・・私に命令する気か・・・」

「いえ・・・そのような・・・」

「マルスに重さがないなどと申すものは・・・所詮、手品の類と見ているだろう。D8世界とて・・・マルスの発見から・・・モノリスの実用化まで二百年かかっているのを忘れるな・・・」

「・・・」

「まあ・・・そのあげくに・・・モノリスによってD8世界は滅びたわけじゃが・・・」

アスカの顔に虚無が浮かぶ。

しかし・・・江原家では非常事態が起っていた。

「これは・・・」

「冴木が襲ってきた」と腹部を押さえるアゼガミ。

「王妃様は・・・」

「ご無事だ・・・」

「おばあさま・・・」

「しかし・・・スズシロが冴木に拉致された・・・」

「スズシロ様が・・・」

「やはり・・・あのものは・・・何者かにコンタクトされたようだ・・・」

「・・・」

「モノリオ・・・追うのだ・・・」

モノリオは追跡を開始した。

マルスとは・・・戦争の神アレスの別名である。

その成果であるモノリスは最初から・・・忌むべき神の名を与えられていたのだった。

しかし・・・モノリスがエネルギー源でもあることから・・・モノリオの体内には・・・モノリス的なものが内蔵されていることが推測できる。

モノリオは・・・アステロイドの残す痕跡を追尾する。

廃墟で・・・冴木は失神したスズシロに語りかけているところだった。

「ああ・・・あなたは・・・僕の小学校の担任だった三枝愛子先生に・・・なんてそっくりなんだろう・・・先生は僕を優しい子だ言ってくれた・・・しかし、僕は昆虫を殺すのが大好きな子供だったんだ。カブトムシの角を折り、バッタの足をもぎ、蝶の羽をむしりとった・・・それがとてもとても面白かった・・・そんな僕を三枝愛子先生は優しい子だと言った・・・先生は間違っていたのか・・・そんなことはない・・・先生は僕の優しさをそのように認識したのだ・・・先生の理解した世界が先生にとっては唯一正しい世界だ・・・だから・・・僕は悪い子ではないんだ・・・だって・・・殺された虫たちは・・・殺されて喜んでいるかもしれないだろう」

「トラウマによって幼児退行してしまったのか・・・確かに・・・君は悪い子ではない・・・それも人間の可能性の一つだからね」

「お前か・・・ヒューマノイドに人間の何がわかるって・・・」

「ぼくは人間そっくりに作られているからね」

「ほざくな・・・うざいんだよ」

冴木は人間以上の速度でモノリオにつかみかかった。

片手でモノリオをつるしあげる。

「どうだ・・・俺の力も捨てたものじゃないだろう・・・」

「誰が・・・君にその力を与えたのだ」

「これが本当の俺だってことだよ」

冴木はモノリオを放り投げる。

モノリオは飛ばされて床に激突する。

「ははは・・・お前はその程度じゃ・・・くたばるまい」

モノリオはゆっくりと起きあがる。

「しかし・・・これはどうかな」

冴木は腕から赤い光を放ちはじめる。

「それは・・・」・・・初めて表情を変えるモノリオ。

「俺の本当の力を・・・」

しかし・・・そこで冴木は倒れ伏す。

「本当にアステロイドの限界が来たのか・・・」

モノリオはつぶやく。

「こんなことができるのは・・・政府軍の工作部隊の残党か・・・」

天井から様子を窺っていた怪人物は撤退を開始していた。

「くそ・・・惜しい所で・・・しかし・・・モノリスも不足しているし・・・結局、自分で手を下さなくてはならぬのか・・・」

そこで怪人物は吐血する。

「ふ・・・しかも・・・タイムリミットは近い」

D12世界に・・・D8世界の戦乱が飛び火したらしい。

まさに・・・絶望的ではないか・・・。

しかし・・・大いなる宇宙にとってそれはほんの片隅の出来事なのである。

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2014年3月 8日 (土)

投資目的のためのお金を持ち逃げして高飛びしようとする人から横取りするのは犯罪です(山田孝之)

いよいよ佳境である。

基本的に盗人猛々しい話なのである。

なにしろ、犯罪者はどこまでいっても犯罪者なので・・・どんなに美化しても綺麗事なのである。

早い話、人を殺した人間がどんなに反省したって殺された人間は戻って来ない。

反省を口にすることがすでに綺麗事なのである。

しかし、一部の人間は・・・人間というものにとにかく安心したいので・・・鬼の目にも涙という幻想を抱くのだ。

もちろん・・・誰もが犯罪を犯す可能性はある。

犯罪とは知らずに犯罪を犯す場合もある。

そして、正気で狂気の沙汰を行うことは難しい。

しかし、だからといって狂気を野放しにすることは危険である。

おかしな人がおかしなことをしても笑ってすませるべきではないだろう。

まあ、それでも犯罪者は時に見逃してもらいたい気持ちでいっぱいになるのだった。

だが、犯罪を見逃せばそれは犯罪なのである。

で、『ウシジマくん Season2・第8回』(TBSテレビ201403070058~)原作・真鍋昌平、脚本・福間正浩、演出・遠藤光貴を見た。原作のいくつかのエピソードを同時進行で進めるこのスタイル。見やすさという点では客を選ぶわけだが、複雑で重層的なリアルさを物語る上では非常に成功していると考える。犯罪者たちの光と影、犯罪者たちの人間性が一口では語れない複雑さをもって浮かび上がる仕掛けである。しかし、別離の時は近付き・・・それぞれの末路の時は迫っている。しかし・・・もちろん・・・この世の地獄の主催者であるカウカウファイナンスは不滅なのである。

連絡するべき時に連絡しないのは間違いの始りである。

それを怠惰から生じる場合もあり、恐怖から生じる場合もある。

来るべき人が来ない時に人は案ずる。

何かよくないことが発生したのではないか・・・あるいは裏切られたのではないかと。

出資を募った人間に連絡がとれない場合はほとんど裏切られているのである。

大金を預けた隼人(武田航平)が行方をくらまして恐慌をきたした柄崎(やべきょうすけ)は・・・ボスのウシジマくんの指図を聞かないほどの暴走を開始するのであった。金主の大原正一(徳井優)から飼い犬に手を噛まれないようにと忠告されているウシジマくん(山田孝之)だったが・・・無表情である。

とにかく早速、追い込みにかかる一同だった。

一攫千金を目指すタイプの犯罪者は常に機会を窺っている。嘘はいつか破綻する可能性が高いからである。借金の踏み倒しも犯罪である。金を借りたものは常に返さずに逃げ出す準備をしているものなのだ・・・おいっ。

早速、痕跡を求めて隼人のヤサ(家)を探索するウシジマくん。

手掛かりを求めてゴミも回収するのだった。

回収したものをもって情報屋の戌亥(綾野剛)と善後策を協議するのだった。

「さすがはウシジマくん・・・ゴミには重要な手掛かりがあるからね」

「で・・・隼人のケツモチ(背後関係)はわかったのか」

「まだ・・・」

「急いでくれよ」

「とにかく・・・情報提供料は一件、五万円でお願いします」

「高えよ」

「個人情報保護の時代だからさ・・・」

「・・・」

「とりあえず・・・隼人の車にはGPSによるトレーサー(追尾器具)が装着してある・・・現在位置は分かるし、これまでのデータから立ち回り先もピックアップしてある」

「それは・・・俺にまかせてくれ」と割り込む柄崎。

「お前は回収業務をしてろって言っただろう」

「自分の不始末です・・・ケツは自分でふかせてもらいます」

造反する気配濃厚の柄崎だったが・・・ウシジマくんは無言である。

結局、柄崎の追跡したトレーサーは無関係のトラックに装着されており、無駄な発信をしていたのだった。

「発信器に勘付かれていたとすると・・・隼人は消されたかもしれないね」と淡々と推測する戌亥・・・。

「・・・」

「こりゃあ・・・僕たちはめられたかな」

ウシジマくんは隼人の拠点をしらみつぶしにするが・・・空振りに終わる。

「隼人のケツモチがわかったよ・・・ホストクラブのバックにいたハングレらしい」

「ヤクザじゃなかったのか」

「ああ・・・暴走族あがりのギャングだけど・・・素人は無茶をするからこわいよね」

「・・・」

万策尽きかけたカウカウファイナンスだが・・・高田(崎本大海)に隼人からの電話が入る。

「助けてくれ・・・もう、お前しかいない・・・今すぐ・・・車で迎えにきてくれ・・・」

「隼人・・・」

「搾れるだけ搾ったとあいつら(隼人のケツモチ)が踏んで・・・俺を消して始末するつもりだと思ったんで油断させて睡眠薬であいつらを眠らせた・・・でも、街には俺を捜してる債権者がウジャウジャしていてとても逃げ出せない」

「隼人・・・」

「三億円あるんだ・・・カウカウファイナンスから借りた金は返すから・・・お前が一人で来てくれよ・・・それから、靴も頼む・・・俺、ハダシなんだよ」

「お前・・・どこにいるんだ・・・」

「必ず一人で来てくれよ・・・」

しかし、暴走する柄崎は隼人のケツモチがアジトにしているホテルに乗り込むのだった。

だが、発見できたのは眠っているケツモチたちだけだった。

隼人は隣室で・・・様子を窺っていたのだった。

地下駐車場で連絡を待つ高田を急襲した隼人は鉄パイプで後頭部を一撃・・・高田を昏倒させて・・・高田の靴と柄崎の車を奪い・・・逃走するのだった。

「一人で来てくれって・・・言ったのに・・・友達だと思ってたのに」

だからといって友達を鉄パイプで殴ってはいけない。

オサレ・エンペラーを目指して・・・平凡以下の暮らしからの脱出を夢見た中田広道(入江甚儀)も地獄の入り口に達していた。

そんな広道の誕生日を祝うのは幼馴染の森田キミノリ(三澤亮介)だった。

キミノリはデザイナーとして、広道はモデルとして・・・オサレな道を歩む若者だった。

しかし・・・その道は茨の道だった。

「俺は・・・この町を出ようと思うんだ」と決意を示すキミノリ。

「え・・・」

「海外でデザインの勉強を一からやり直すつもりだ・・・」

「すげえな・・・」

「凄いのは広道の方だろう・・・読者モデルとしても人気者になったし・・・かわいい彼女もできたし・・・」

しかし、広道の顔は曇る。

心に去来するパピコ(紗倉まな)の面影。広道にとってのかっての憧れの象徴。しかし、広道ははした金で・・・パピコを闇社会に売ってしまったのだった。

自分は一体・・・どこへ向かおうとしているのか・・・。

そんな広道の逡巡を吹き飛ばすオサレ・エンペラーのG10くん(藤本涼)だった。

「あの・・・パピコがどうなったか知りませんか」

「ユーが小野社長に売った女のことか。そんなの気にかけるな。あの女はユーが小野社長に流したクスリでハッピーなヤク中になって小野社長が仲間内で輪姦してそのうち裏風俗に売られることになるだろう。しかし、何かを得るためには何かを捨てなければならない。ユーはオサレエンペラーになっちゃっいな。そしてユーのオサレなショップで天下をとっちゃいな。ところで店舗は決まったのか」

「いま・・・交渉中です・・・いい物件があるんですが・・・金額がまだ折り合わなくて」

「保証金はいくら」

「800万円です」

「不動産屋を通さないでオーナーと直にとりひきしチャイナ。そのオーナーはオレとツーツートレイン(懇意の仲の意味=ツーカーとチューチュートレインを合成したらしい)だから500万円用意しチャイナ。内装業者や仕入れ先もオレが口をきいてやるから・・・ユーはどんどん話を進めチャイナ」

「G10くん・・・」

G10くんの甘い言葉に感謝する広道。お茶の間は「甘い、甘いぞヒロミチ・・・」と絶叫するのだった。

そして・・・ハブから融資された二千万円を・・・G10くんがらみの業者に次から次へと支払う広道だった。

店舗の契約を終え・・・鍵を受け取った広道は・・・キミノリに店を見てもらおうと考える。

「資金はどうしたの・・・」

「ハブって人から借りた」

「ハブって・・・マジかよ・・・」

「知ってるの」

「俺のバイト先の店長・・・知ってるだろ」

「ロン毛の似合わない人・・・」

「あれは・・・ハブに耳を切断されて仕方なく髪を伸ばしてるんだ」

「・・・」

「ハブに関わったら骨までしゃぶられちゃうぜ・・・今すぐ、金を返した方がいい」

「そんなの無理だよ・・・もうほとんど使ったもの・・・ほら、この店だって・・・」

「うん・・・確かにいい感じだけど・・・」

「だろう・・・キミノリに最初に見てもらいたかったんだ」

しかし・・・店舗の鍵は解錠できないのだった。

「おかしいな・・・」

「・・・」

「あの・・・店の鍵があわないんですけど・・・」

「契約がまだ済んでないでしょう」

「いや・・・オーナーと直接契約して・・・」

「そんな報告は受けてませんよ」

あわてて・・・関係各所に連絡を取る広道。しかし・・・内装の手配も・・・仕入先もすべてはG10くんの仕掛けた擬装であることが判明する。

「終わった・・・オレ・・・おわった」

「すぐにG10くんの所在を捜すんだ」と広道を励ますキミノリ。

しかし・・・オサレな仲間たちはみんなショップの共同経営と言うエサでG10くんから金を巻き上げられていたのだった。

「もう・・・ダメだ」

「すぐにハブに連絡して・・・事情を話すんだ」

「そんなの・・・無理だよ」

「じゃなきゃ殺されるぞ・・・店がなくたって・・・人気者になったし・・・彼女だっているじゃないか」

「人気者になったのだって・・・金の力だし・・・彼女にはひどいことしちゃったし」

「だったら・・・彼女を助けてやれよ・・・ヒロミチのことは俺が助けるから」

「・・・」

「俺もね・・・人間関係を金に変えて危ない橋を渡って来た・・・いつか・・・ヒロミチに介抱された日があっただろう・・・あの日も友達を売って・・・落ち込んでたんだ・・・そんな俺をヒロミチが慰めてくれて・・・俺は本当に救われたんだ・・・今度は俺が助けてやるよ」

「でも・・・金がない・・・」

「二千万円はなんとかする・・・夜に待ち合わせしよう」

G10が逃亡を開始した頃・・・隼人は逃亡の最終段階に到達していた。

どこぞの建物の屋上で・・・。

店の上客だったリエ(田川可奈美)に連絡する隼人。

「大金が手に入ったんだ・・・一緒に逃げてくれないか・・・どこかの街で普通の暮らしをしよう」

「普通って・・・何よ。ホストが普通の暮らしなんで求めてとぜうすんの・・・あんたの仕事は夢を売ることでしょう」

「・・・」

女に貢がせて客を食い物にするのがホストだと思っていた隼人は唖然とするのだった。

しかし・・・客は隼人に男を売らせて買っていただけだったのだ。

愛を売っているつもりで・・・愛を買われていたのは隼人だったのである。

隼人は道を誤ったことに気がついたが・・・引き返すには遅すぎるようだった。

高田が現れた。

「どうして・・・」

「社長が・・・柄崎さんの車に発信器つけてたんだ」

「・・・」

「くそ・・・金なんか・・・結局・・・なんにもならねえな」

自暴自棄になった隼人は金を建物の下に放り捨てる。

「あ・・・何すんだ・・・拾ってこい」

「いやだね・・・金は金貸しが拾え・・・俺はホストだ・・・夢を売るのが仕事だぜ・・・煮るなり焼くなり好きにしてくれ」

虚勢を張る隼人にウシジマくんは無表情だった。

「あのさ・・・隼人・・・闇金から・・・客が逃げないのは何故か知ってるか」と高田。

「知るか」

「社会から見捨てられた人間が最後に頼った他人だからさ・・・人間関係があるんだよ」

「そんなの綺麗事だろう・・・要するに脅してんだろう」

「まあな・・・柄崎」とウシジマくん。

「はい」

社長に信用されず監視されていたことを思い知った柄崎は従順な飼い犬としての自分を取り戻していた。

たちまち・・・暴力装置として隼人を恐怖させる柄崎だった。

首にロープを巻かれ、突き落とされた隼人は悲鳴をあげる。

「こいつの死体は廃棄物処理場に捨てるぞ」

「社長・・・隼人の命は助けてください」と土下座する高田。

「冗談だよ・・・殺したって一銭の得にもならないだろう」

突き落としたのは張り出した軒先だった・・・。

澱んだ河口に落ちた金も・・・隼人に拾わせるウシジマくん。

はい上がった隼人に手を差し伸べ引き上げるのだった。

「御苦労さん・・・」

そして・・・高田に元金の五十万円を渡すウシジマくんだった。

その金を隼人に渡す高田。

「この金はお前にやった金だ・・・この金で逃げられるところまで逃げろ・・・つかまったら殺されるぞ」

「ありがとう・・・」

「さよなら・・・」

二人の友情は・・・残った。

しかし・・・かってのホスト仲間ではなく・・・犯罪者の隼人と犯罪者の高田の友情である。

隼人は呟いた。

「さよなら・・・ルイト・・・いや・・・高田」

柄崎はウシジマくんにワビ(謝罪)を入れる。

「暴走してすいませんでした」

「いいよ・・・チャラにしてやるよ・・・お前が車を盗まれたおかげで・・・隼人の居場所がわかったんだから・・・」

盗人猛々しいのだった。

底辺の絆は厳しいのだった。

キミノリに言われるままに・・・ハブにとりあえず連絡をする・・・広道。

「すみません・・・G10くんに・・・お金をだましとられてしまいました」

「そうか・・・とにかく・・・すぐに来い」

「夜まで待ってもらえませんか・・・いろいろあって・・・」

「そのいろいろってやつから・・・話してもらおうか」

振り返れば・・・ハブがいる。

広道の前に地獄の扉が開いていた。

いきつくところは・・・そこまできているのである。

局面を打開しようとするキミノリが連絡した相手はウシジマくんだった。

電話を受けた受付事務の摩耶(久保寺瑞紀)は出番を確保するのだった。

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2014年3月 7日 (金)

君(多部未華子)の香りがした時間(三浦春馬)

愛する人を選ぶ自由は自由の基本である。

愛する人に愛されるかどうかはまた別の問題だ。

愛し合う二人が結婚する自由も大切だ。

家族や周囲の人間が祝福するかどうかは別の問題だ。

男と女が子供を作る自由は切実である。

子供の幸福については人それぞれと言うしかない。

余命宣告を受けた男を愛する女。

次は・・・余命宣告を受けた男と結婚する女である。

そして・・・余命宣告を受けた男の子供を妊娠出産する女に至るのだ。

母の手一つで子供を育てた親の娘。

息子のために可能な限りの経済援助ができる親。

最終的に・・・彼女が彼の子を生む確率は高いと思われ・・・。

で、『僕のいた時間・第9回』(フジテレビ20140305PM10~)脚本・橋部敦子、演出・葉山裕記を見た。基本的に・・・このドラマはラブ・ロマンスだと考える。そういう意味で・・・今回はそれ以外の部分にかなり大きな決着があったと言える。残り二回は澤田拓人(三浦春馬)と本郷恵(多部未華子)の愛と死を見つめる旅路が描かれるだろう。

それ以外の部分の一つは社会人としての拓人。ついにマウスも思いのままに操れなくなり退職の運びである。

もう一つはお互いの家族の問題である。

拓人の家族は言明はされないが、発達障害的な心の悩みを持つ弟・陸人(野村周平)の問題があり、両親(小市慢太郎・原田美枝子)の子供たちへの理解が図られる。

一方で、恵の母親(浅田美代子)は障害者と交際する娘の将来を案じる葛藤がある。

これに付随して、婚約破棄をされた向井繁之(斎藤工)の円満な退場と・・・ALS患者である今井保(河原健二)の突然の死が・・・二人の前途を予感させる展開となっている。

よどみなく・・・フィナーレを迎える準備が整っています。

僕はついに・・・マウスを上手く操れなくなった。

マウスを操れない男に・・・婚約者を奪われた格好の繁之先輩の・・・屈辱感を想像すると・・・少し恐ろしい。

もしも・・・僕が健康だったら・・・他人の婚約者を奪う勇気が持てたかどうかわからない。

そして・・・もしもそうなったら・・・とてもじゃないが・・・恋人を奪われた相手と会う気になったかどうかもわからない。

しかし・・・わかるだろう。

今の僕にはこわいものなんかないんだ。

僕は先輩に謝った。

先輩は僕を殴ってくれた。

「お前たちには二度と会わない」と宣言してくれた。

ありがとう・・・繁之先輩。

あなたみたいに男らしい男にできるなら・・・なりたかったです。

こんな僕を選んでくれた恵。

そのことを僕の母親は・・・上手く消化できないかもしれない。

まして・・・恵のお母さんはもっと複雑な気持ちになるだろう。

だけど・・・僕にはどうすることもできない。

僕は恵が好きだし・・・恵も僕が好き。

そうなってしまったら・・・そうなってしまうのが・・・自然なんだから。

そして・・・そこには親が踏み込めない世界があるんだよ、母さん。

母さんにお風呂に入れてもらってもいいけれど・・・僕は君とお風呂に入った方が楽しい。

だって・・・二人は愛し合っているんだから。

君は僕をとても綺麗にしてくれる。

僕は君を見る。

僕の筋肉は衰えていくが・・・感覚はそのままだ。

石鹸の匂いが好きだ。

君の声が好きだ。

君はそっと君の大切な部分を僕にだけ見せてくれる。

僕は興奮する。

君は優しく僕を愛撫してくれる。

僕が高まれば君も高まる。

僕には分かるし、君にも分かる。

君は僕にキスをする。

僕は君に囁く。

「愛してる」って・・・。

やがて・・・僕は絶頂に達するし・・・君もそれなりに満足する。

だって二人は愛し合ってるんだ。

僕はついに会社を退職することになった。

弟が会社に付き添ってくれた。

あの頃は意地悪だと感じた弟。

あの頃は意地悪だと感じた会社の先輩。

今、僕は知っている・・・みんな本当は意地悪なんかしたくないってこと。

そうじゃない人は・・・ただ人でなしってだけなんだ。

弟は言った。

「兄さんが拓人で僕が陸人・・・二人とも人だね」

僕は微笑んだ。

なんて可愛い弟なんだろう・・・こんなに可愛い弟を疎ましく思っていたなんて・・・僕はなんて人でなしだったことか。

弟はただ・・・人と少し違う感じ方をする人なだけ。

人に簡単にできることが苦手なだけ。

僕とまったく同じじゃないか。

ますます・・・悪魔のような感じになってきた主治医の谷本医師(吹越満)・・・。

僕は君と新たなる覚悟を求められる。

「呼吸に関する筋力が弱ってきました・・・今はまだ普通の生活が遅れますが・・・やがて人工呼吸器をつけるかどうかの決断をしなければなりません・・・それによって生活には違いが出てきますので・・・どうするかはよく考えてください」

ああ・・・またかと僕は思う。

「大丈夫」と君が聞く。

「うん・・・君は」と僕は聞く。

「うん、大丈夫」と答える君。

本当に大丈夫かどうかはわからない。でも君がいれば僕は平気だ。

君もそうであることを祈るだけ。

保さんは・・・人工呼吸器をつけないという選択。

「僕は人工呼吸器をつけないから・・・死ぬんじゃない・・・人工呼吸器をつけない生き方を選んだだけ・・・」

保さんは言った。

そうだね。保さんは食いしん坊だから。食事が喉を通らないなんてきっと耐えられない。

僕だってそうだ。

「僕も人工呼吸器はつけない」と僕は保さんにメールした。

病気の進行状況は人によって違う。

おそかれはやかれだとしても・・・やはりそれぞれの時間が流れている。

君はお母さんに「お父さんを看取って不幸だったか」と問う。

でも・・・と僕は思う。

お母さんには君がいた。

君には誰がいるんだい。

僕の母親は僕のことが心配。

僕の最後の広告の仕事を誉めてくれた。

君の母親は君のことが心配。

こんな僕との交際を認めたくない。

だけど・・・僕と君にはどうすることもできない。

だって二人は愛し合っているから。

でも・・・時は来て・・・保さんは旅立った。

僕の母親も・・・君のお母さんも僕たちをとめられない。

僕の部屋で君は添い寝をする。

僕は何もできないけど、君はいろいろできる。

僕は君に手を握ってもらえた。

君は僕の耳元で囁いた。

「離れたくないの・・・」

「・・・」

「一分でも一秒でも一緒にいたいの」

「うん・・・そうしよう・・・一分でも一秒でも・・・」

君が望むなら僕は喉に管を付けたっていいよ。

それから・・・僕たちは愛し合おうとして・・・弟に邪魔された。

「兄さん・・・僕、決めたんだ」

「そうか・・・」

もう・・・弟の奇妙な心を知っている君は微笑んだ。

君の優しさ。

君の聡明さ。

君の愛を僕は誇りに思う。

でも・・・時は流れていく。

僕の両親が上京してきた。

二人の子供の進路相談だ・・・。

弟は「恐竜博士になるための進学」を希望した。

僕は「医学部の受験」を希望した。

憐れな兄弟に父親は応えるしかない。

なんて・・・恵まれているのだろう。

なんて・・・素晴らしい父親なのだろう。

でも・・・僕は父親が僕をほめてくれているような気がした。

感じるんだ。父親が・・・僕がこんなになってもおかしくなってしまわない・・・。

タフな奴だと励ましてくれていることを・・・。

お父さん・・・ありがとう。

お母さん・・・ありがとう。

僕は二人にささやかな結婚記念日のプレゼントをした。

弟と協力して・・・最後にマウスをクリックして・・・四人の家族の思い出のアルバムを作ったんだ。

そして・・・僕たちは記念撮影をしたよ。

でも・・・時は刻まれて行くんだ。

時は刻まれて・・・。

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2014年3月 6日 (木)

ナオミ・カム・バック・トゥ・ミー(桜田ひより)三羽のシュバシコウ(鈴木梨央)頭をふって腰をふって叫んで(渡邉このみ)月とお母さん(芦田愛菜)

ダビデの子、ソロモンはユダヤの王となり、神から裁きの知恵を授かった。

ふたりの女がソロモン王の御前でふたりの赤子の母親として名乗りをあげた。

一人の赤子は死んでおり、もう一人の赤子は生きていた。

ふたりの女はどちらも生きている赤子を欲したのである。

ソロモン曰く、「刀によって生きている赤子をふたつに割き、等分に二人で分けよ」

一人の女は「それなら子は生きたまま、彼女に捧げます」と答え、もう一人の女は「王に従います」と答えた。

ソロモン曰く、「では子は我に従わぬものに与えよう。赤子を殺すことを神はお許しにならないからだ」

ユダヤの民はソロモン王の神のごとき裁きを讃えた。(旧約聖書・列王紀上・第3章)

で、『明日、ママがいない・第8回』(日本テレビ20140305PM10~)脚本監修・野島伸司、脚本・松田沙也、演出・長沼誠を見た。最終局面、目前である。さいはてのドラマにもさいはてはやってくる。三月になって世間には刃物にまつわる常套句を言いたくなる事件が起っているわけだが・・・どのような機知の外にあるものも人の子であることは疑いようがない。そういう場合は「親の顔が見てみたい」という常套句があるわけだが・・・このドラマはそういう言葉を飲みこまざるをえない状況の子供たちが描かれているわけである。人の世は難しい。人の言葉も難しい。タイトルが示す通りに・・・このドラマの人の親とは母親である。だから・・・ママに厳しく、パパに優しい展開はある程度、許容しなければならないだろう。あるいはパパには最初からあまり期待していないのだという考え方もできる。しかし、ある意味ではママを修羅場に追い込んでいるのはパパの不甲斐なさであるという前提も醸しだされている。草食動物たちが群れをなして懸命に肉食動物から子を守るように人の子も守られるといいなあ・・・と獣の王は思うのだった。もちろん・・・肉食動物も食物を得なければ飢えて死ぬわけだが。

ポスト(芦田愛菜)は踏み切り事故によって娘のアイを失った担任教師・朝倉(吉沢悠)の家でババ抜きに興ずる。

娘を失い狂を発した朝倉の妻(安達祐美)がポストをアイと信じ込んでいるからである。

「不思議だ・・・どうして妻は・・・君を娘だと信じて疑わないのだろう」

朝倉は大人げない問いをポストにぶつける。

「さあ・・・私が・・・本当のママを知らないからかもね」

ポストは答えにならない答えで応じるのだった。

生まれた時から精神的自立を強いられたポストはとても九歳児とは思えない精神構造を持っている。

一人・・・月に・・・まだ見ぬ母の面影を捜すポスト。

月光を浴びるその神秘的な美しさ。

しかし・・・ポストから漏れ出る言葉は・・・。

「ママ・・・」の一言だというせつなさである。

ピア美(桜田ひより)は同級生の笹塚蓮(藤本哉汰)の叔母で音楽大学教授の五十嵐みどり(高橋ひとみ)に天賦の才を見出され、ピアノ・コンクールの全国大会に駒を進める。

「どこまで・・・伸びるかわからない・・・恐ろしい才能を秘めている」と五十嵐教授に謂わしめるピア美。

ファンタジーなのである。

ドンキ(鈴木梨央)は情け深い里親候補である川島夫妻(松重豊・大塚寧々)の元でお試しのお泊まりを続ける。

川の字で寝る里親子・・・。

「お母さん・・・私を生んだ時、痛かった」

ある意味、不気味な質問である。

しかし、夫と目を見かわした妻は微笑んで応じる。

「安産だったわよ」

「そうなんだ・・・」

親子ごっこを仕掛ける闇の子、ドンキの心は窺い知れない。

しかし・・・川島夫妻はその闇を包み込む決意なのである。

独自路線を歩むボンビ(渡邉このみ)はついに男装の少女と化している。

だが・・・ジョリピの子供になる夢からは醒めた様子だった。

けれど・・・そういう時に浮かぶ瀬はあるものである。

コガモの家の魔王(三上博史)に真相を尋ねに来た和製ブラッド・ピットの東條祐樹(城田優)はボンビの境遇に心を動かされる。

「アンジェリーナ・ジョリーとブラッド・ピットの子供になることが夢だったのです」

「ジョリピーですか」

「腰をふって頭をふって叫ぶのです」

「どんな風に・・・」

「・・・」

リクエストに応じない魔王だった。

仕方なく祐樹は自分でふって自分で演じるのだった。

「じょりぴ~」

「・・・」

ファンタジーなのである。

「里子に里親を選ばせる」というルール違反のために横浜東児童相談所の職員・アイトスドール(木村文乃)を必要とする魔王は・・・アイスドールの寿退職を怨んで吐いた暴言をわびる。

しかし・・・アイスドールもまた・・・「子どもにも親を選ぶ権利がある」という自分の信条と結婚の間で揺れ動いていた。

明らかに・・・前途多難を予感させる・・・結婚相手の岩本(川村陽介)の酷薄な態度。

「結婚後・・・家庭に入るのが・・・条件で親も君を認めたんだ」

「そうでなければ・・・親のない子はだめってことなのかしら」

「・・・」

アイスドールもまた苦しいのである。

オツボネ(大後寿々花)はロッカー(三浦翔平)やポストとともに魔王の妻(鈴木砂羽)を訪ねる。

「誤解を解いておきたくて・・・」

「誤解・・・」

「ドンキの顔の傷は・・・ドンキが転んで作ったのです」

「あの人がそう言えって・・・」

「あの人は・・・そういうことは言わない人です」

「・・・」

仕事一筋だった夫を逆恨みする面倒くさい女の心は揺れるのだった。

オツボネにとって母のように慕う魔王の妻に嫌われるのは辛いことでもあった。

オツボネがグループホームの年齢制限を超える日は近付いている。

「私・・・看護師を目指そうと思って・・・奨学金もあるし・・・寮もあるし・・・」

「・・・」と無言で応じるロッカー。

「たまには・・・ここに遊びに来てもいいかな・・・」

「・・・」

「魔王には・・・舌打ちされて・・・いい年してホームシックかって言われるよね」

外せない眼帯を除けばもっとも普通の女の子であるオツボネの頭をロッカーは無言で撫でるのだった。

春はそこまでやってきているのである。

闇の子の罪の意識はついにお腹に来る。

食後に激しい腹痛を訴えたドンキは病院で神経性の胃炎と診断される。

「私・・・おかしくなっちゃったから」

「そうだよ・・・ドンキはおかしいよ・・・ロッカーの時も嘘を言ったり、ボンビの足を引っ張ったり、ケガを魔王のせいにしたり・・・」と追及を始めるポスト。

「ごめんね」とロッカーの背中に顔をふせるドンキ。

しかし、ピア美やボンビはドンキの心を気使い、ポストを制しようとする。

恐るべき小学校三年生集団なのである。

だが・・・ポストは決着の時を知る女なのである。

「幸せすぎて・・・おかしくなっちゃったんだろう・・・新しいママにまた捨てられたらどうしようと思うと・・・悪い子になっちゃうんだろう・・・」

「そうよ・・・」

「・・・」

「ロッカー、ごめんね・・・私、自分で歩けるから」

けれど、ロッカーはドンキを下ろさない。

ドンキはおんぶされたまま・・・号泣するのだった。

泣いて・・・泣いて・・・ドンキの闇は払われて行く。

ピア美のハレの日。この世界にはショパンがいる。

しかし・・・ピア美はまたもや・・・父の姿を捜すように命じる。

「本当は・・・予選にも来ていた・・・きっと今日も来る」と告白するポスト。

「どうして・・・黙っていたのよ」

「黙っていてくれといわれたから・・・ピア美の才能をつぶしたくないって」

「それを今・・・言ったらダメでしょう」とお茶の間の気持ちを代弁するボンビ。

しかし、闇を抜けたドンキにはポストの気持ちが分かる。

「黙っていて・・・苦しかったのよね」

ポストは実の親子の問題に介入するのを避けたのだった。

魔王の隣にすわるピア美の父親(別所哲也)・・・。

ショパンの「幻想即興曲」を迫力で奏でるピア美。

しかし・・・最後まで弾かずにピア美は立ち上がる。

「ピアノじゃない・・・私はパパに傍にいてほしいの・・・」

「・・・」

「パパ・・・」

「・・・」

「パパア」

「・・・」

「パパア~」

「ナオミ・・・」

ついに辛抱しきれず立ち上がるピア美こと本名ナオミのパパなのだ。

本当に・・・それでいいのか・・・彷徨うお茶の間の気持ちだった。

号泣するピア美・・・。

「二度といなくならないで・・・私を一人にしないで」

遠い遠い はるかな道は

冬の嵐が 吹いてるが

谷間の春は 花が咲いてる

ひとりひとり 今日もひとり

銀色の はるかな道

オツボネたちの言葉に動揺した魔王の妻は魔王を思い出の喫茶店に呼び出すのだった。

「ここは・・・」

「覚えているの」

「忘れない・・・君は夕日の光の中でオレンジ色のカクテルドレスをきていた」

「どう考えても浮いてたわね」

「しかし・・・俺は君を見染めた」

「・・・」

「そして二人の物語は始ったんだ」

「長い物語だったわ」

「俺は・・・君を今でも・・・愛している」

「そうかしら・・・あなたは・・・一人で前へ進める人・・・たくさんの子供たちを救ってきた・・・その間・・・私は何をしていたと思うの」

「・・・」

ひとりひとり はるかな道は

つらいだろうが 頑張ろう

苦しい坂も 止まればさがる

続く続く 明日も続く

銀色の はるかな道

中年男女がはかない物語で喫茶店を恐怖のどん底にたたき落としていた頃。

コガモの家には闇を身にまとった涼香(酒井美紀)が現れた。ドンキこと真希(鈴木梨央)を二度捨てた実の母親である。

男と別離した涼香は真希を再び手元に置こうとやってきたのだった。

同じような境遇の母親にニッパチを戻した魔王にとって・・・実の母親の申し出を断る権限はない。

しかし・・・すべての事情を察するロッカーは川島夫妻の元へと走る。

「でも・・・」

「せめて・・・お別れをいってください」

「そうだな」

「そうね・・・」

実の親と里親の対決である。

「なんなの・・・あんたたち・・・」と気色ばむ闇の実母。

ポストは言う。

「また捨てられたらどうしようと・・・思うんだろう・・・でも・・・あんたを一度捨てた母親と・・・まだ捨てたことのない両親・・・どっちを選ぶかはあんたの自由なんだぜ」

ドンキは里親に手を差し伸べる。

思わず手を握る里親の母。

実の娘の手を引く実の母親。

「痛い」

思わず手を離したのは里親だった。

「大岡越前だ・・・」

「大岡越前じゃないか」

「大岡越前だね」と囁く子供たち。

「なんなのよ」と威嚇する闇の実母。

そこで・・・泥の中で土下座する魔王だった。

「私はコウノトリです。ヨーロッパではシュバシコウですが・・・日本ではコウノトリになってます。私は間違いを犯しました。生まれる場所を間違えて赤ちゃんを配達してしまいました。生んだだけでは母親にはなれません。育ててはじめて母親です」

「・・・」

アイスドールも膝をつく。

「私はコウノトリです。本当の母親にあの子を返してあげてください」

「・・・」

ロッカーも膝をつく。

「・・・」

「・・・」

ドンキは里親を選んだ。

書類を破り捨て・・・去って行く実の母親。

「私がお腹を痛めて生んだのに・・・」

しかし・・・実の母親に去来する・・・我が子への願い。

(私よりもあの人たちの方が・・・あの子を幸せにできるかもしれない)

闇に咲いた一輪の花であった。

さいはての物語なのである。

双子のハンとリュウの落ち着き先も・・・牧場親子が浮上し・・・ポスト以外の行く末はほぼ決まった・・・。

魔王・・・ポスト・・・アイスドール・・・ロッカー・・・親のない子たちの面倒を見て来た最強チームである。

一部心ない世間に後ろ指をさされても・・・物語の登場人物たちは殺されることはない。

娘を失い、心を失った母親と・・・ポストの決着の時はまもなく訪れる。

関連するキッドのブログ→第7話のレビュー

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2014年3月 5日 (水)

あれからもう三年・・・災害ヘリ~映像は語る~知られざる大震災の記録~

休眠中だったキッドのブログを揺り動かした東日本大震災の発生・・・。

三年前の今頃は・・・その日が一週間後に迫っているとも知らずにのほほんとしていたわけである。

ああすればよかったとか・・・こうすればよかったとか・・・後で何かを考えたとしてもすべては後の祭りだ。

ほとんどの人間は何の憂慮もせずに・・・その日を迎えたことは間違いないのである。

もちろん・・・そういう兆しは千年前からあっただろう。

警鐘を鳴らしたものもあっただろう。

だが・・・実際に危機が来るまで・・・すべてはそんなに簡単には動かない。

せめて・・・そのことを思い出すことは大切だろう。

明日、こうなるかもしれない・・・それを忘れてはいけないのだ。

で、『NHKスペシャル~災害ヘリ~映像は語る~知られざる大震災の記録~』(NHK総合201403010915~)ナレーション・堤真一(他)を見た。経済大国を襲った未曽有の大災害である。そこにはある程度発達した報道システムによる映像記録が残される。たとえば空撮・・・あの日から三日間で投入されたヘリコプターはのべ四百機を超えたという。それらが上空から撮影した膨大な記録。編集するためにすべてを視聴するだけでどれだけの時間がかかるかわからない量である。とにかく・・・スタッフはそれらを見て編集してお茶の間に届ける。それが仕事だからである。

地震発生から間もなく、被害状況調査のために宮城県仙台市の東北方面通信群からは霞目駐屯地の本部中隊映像伝送小隊のヘリが発進する。他にも警察・消防・報道など八機のヘリが仙台付近から海上へ向かう。

過去の地震・津波被害からヘリは三陸海岸へ向かい北上する。

しかし、当日、三陸海岸は雪雲に覆われ、視界不良であった。

本部からの指示で仙台方面へと旋回する映像伝送ヘリ。

その映像は各地の災害対策本部に転送されていく。

地震の規模に対して仙台市内の被害状況は大きくないように見える。

建物の倒壊なし・・・火災発生なし・・・。

淡々と状況を伝える伝送隊員・・・。被害状況を報告するための訓練された自衛隊員である。

しかし・・・直後に川を遡上する津波第一波が観測される。

そして・・・視界に飛び込んできたのは大地を飲みこむ水流だった。

名取川の下流に向かうヘリはすべてを押し流していく海を見る。

海岸線そのものが陸に向かって進んでいく凄惨な光景。

「ただ今、名取川上空・・・なんだあれ・・・津波が・・・名取川を遡上して・・・あぶないな・・・うわあ・・・ただ今、名取川を津波が・・・畑を・・・うわあ・・・あ・・・あ・・・名取川上空・・・うわあ・・・津波が・・・うわあ・・・ああ・・・あああ・・・あ・・・・・・・・・・・」

被害状況を伝える訓練を受けた隊員が言葉を失う・・・圧倒的な光景。

各地から飛翔したヘリの乗員たちの誰もが茫然とする。

その中にはドラマ「あまちゃん」の舞台のモデルと言われる岩手県久慈市上空を飛翔するヘリもある。

「うねりを発見・・・波の高さは五メートル以上、波の高さ、五メートル以上」

気象庁は岩手県の津波警報で予想される津波の高さを三メートルと発表していた。

気象庁は午後三時十四分に「高さ六メートル」に変更、三時三十分に「高さ十メートル以上」に変更・・・しかし、すでに津波は三陸海岸に到達していた。

沿岸部の街はすでに水に飲み込まれている。

津波の波は一過性ではない・・・あふれだした水がすべてを覆い尽くし広がって行く。

次々と水に流される建物・・・船・・・車・・・そして人。

多くの犠牲者が出る中で・・・九死に一生を得たものもいる。

津波に飲み込まれる寸前、車で脱出した男性は・・・周辺の地形の僅かな高低差によって生じた津波到達の時間差によって・・・生き延びた。

それは・・・もはや運としか言いようのない状況である。

すぐ間近で押し流されて行く運のなかったものたちとの生と死の境界線。

俯瞰の映像はそれをまざまざと映しだす。

是も否もない。善も悪もない。神も仏もない。

人の世のことなど歯牙にもかけない大自然があるばかりである。

それでも・・・研究者たちは必死に克服への糸口を映像から探り出そうとする。

その滑稽な姿こそが・・・人間の魅力であるとも言える。

やがて・・・その時はその夜に移って行く。

都会では人々が帰宅のために路上にあふれている頃。

津波により、瓦礫に閉じ込められた人々に「津波火災」が襲いかかって行く。

停電も免れ、自宅にいたお茶の間の人々は・・・映し出される炎に息を飲む。

京葉コンビナートから気仙沼まで・・・東日本の海岸地帯は燃えている。

その原因はありとあらゆる可燃物によって引き起こされる。

各家庭のプロパンガス、車や船の燃料、そして大量の瓦礫。

爆発炎上した火災はたちまち街を炎上させる。

防火帯となるはずの道路にも瓦礫が満ち溢れ、火勢はおさまらない。

消化活動をしようにも道路は寸断され、消火栓もすべて瓦礫の下に埋もれている。

津波火災を止める手立てはないのである。

そして・・・生きながら焼かれる人々。

ヘリに出来るのは幼子を抱えたまま焼かれる母親の上空から地上を為す術なく映すことだけなのである。

悪夢の一夜が明けると・・・ヘリはようやく・・・捜索活動に移行する。

無残な光景を見下ろしながら生存者を求めて探索するへり。

孤立した集落には・・・人影さえ見ることができない。

絶望をかみしめながら・・・地獄の天空を彷徨う捜索へり。

そして・・・ようやく・・・病院の屋上などに点在する被災者を発見する。

「SOS・・・ミルク・・・オムツ」

被災者たちは叫んでいた。

三日目・・・ヘリによる救難活動が始る。

全国からヘリが続々と被災地に集まってくる。

しかし・・・すべては未曽有の出来事である。

現場は錯綜する情報に混乱する。

「同じ地区からの救難要請でも・・・それが重複なのかどうか・・・確認することは難しい」

結果として・・・無駄足を踏むヘリがあり、救難活動の遅滞によって命を失うものもでる。

それもまた・・・運命という他はない。

その無情な差は・・・今も続いている。

復興の光と影が差している。

それでも・・・生き残った人間は生きていく他ないのである。

まもなく・・・その日がやってくる。・・・“いのちの記録”を未来へ~震災ビッグデータ~・・・震災ビッグデータfile3 "首都パニック"を回避せよ・・・避難者13万人の決断~福島・突きつけられる現実~・・・震災3年~検証 復興計画~・・・あの日 生まれた命・・・被災者 こころの軌跡 ~遺族たちの歳月~・・・メルトダウン File4 放射能"大量放出"の真相・・・その日の情報を再検証する日々に黙とうする他はない。

関連するキッドのブログ→NHKスペシャル 3.11 

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2014年3月 4日 (火)

お父さんも僕も泣いた・・・かどうかはわからない慰謝料弁護士〜あなたの涙、お金に変えましょう〜(酒井美紀)

どこを面白がっていいのか・・・よくわからないこのドラマ。

今回はゲスト・酒井美紀でなんとかクリアである。

そもそも・・・セリフの中に主人公を「背が高くて二枚目」と評する場面があり・・・ココリコ田中をそういう視点でとらえたらダメだろうと考える。

基本、刑事ドラマで刑事が目撃証言を取りに来る三流レストランのシェフとかがしっくりくるタイプじゃないのかっ。

一方で・・・ヒロインを演じる矢田亜希子は持ち味である清純派の延長上の年増役である。

「あの件」がなかったら・・・ずっとこの路線でいけたのに・・・基本的に芸とプライベートは区別するべきだが・・・スキャンダルが致命傷となる「芸」というのはあると思う。

やさぐれた役をやればものたりないし・・・清純派をやれば嘘っぽい・・・そういうイメージから逃れられないな。

昔はこうなったら脱ぐしかなかったのだが・・・脱がずに頑張っている本人も・・・しつこく使い続けるスタッフも・・・どことなくさいはての気配がする。

昔のドラマの再放送なんか見ていると・・・本当にもったいなかったと思うよ。

で、『慰謝料弁護士〜あなたの涙、お金に変えましょう〜・第6回』(日本テレ201402142359~)原案・うえみあゆみ、脚本・森ハヤシ、演出・島崎敏樹を見た。最近、なんだかよく見るミッキー・カーチスが主人公の父親役で登場である。いわゆる「父帰る」もののヴァリエーション。放蕩親父の帰還というよりは・・・女にだらしない火宅の父と・・・真面目な息子の人情噺なのかな。ゲスト・ヒロインの酒井美紀は主人公の腹違いの妹設定である。この時点でヒロインとの三角関係という展開をつぶしたマドンナ展開である。だからといって「お兄ちゃん」と呼んでいいですか・・・という兄妹萌えもない。そんなところに期待するなよっ。しかし・・・面白い要素を最初からつぶしてどうするという話である。

袴田法律事務所の所長・袴田幸男(田中直樹)は離婚調停や離婚裁判を主な仕事とする弁護士である。三十年前に両親が離婚、女手一つで幸男を育てた母も今は亡くなっている。趣味はパン作り。趣味の一つもあってもいいが・・・医師とか弁護士とかの専門職の人は仕事が趣味であるべきだと思う。パン作りの得意な弁護士なんかに法律的な仕事を頼みたい人は少ないだろう。

助手の香苗(矢田亜希子)は離婚後、漫画家になった女である・・・なんじゃそりゃあ・・・であるがもういいね。

くるみ(本田緑→渡辺直美)というフリーの調査員が出入りしている。

事務所の大家さん(美保純)は幸男の過去に詳しい。

行きつけのカフェの店員が沙羅ちゃん(山田菜々)である。

今回の依頼人の諏訪菜月(酒井美紀)は幸男とは初対面だが腹違いの妹で・・・第二の妻の娘。

依頼内容は・・・菜月の母親と死別後・・・第三の妻と結婚した幸男の父・幸造(ミッキー・カーチス)の離婚沙汰である。

あろうことか・・・第三の妻・知花(長澤奈央)に浮気がばれて離婚を求められ、慰謝料五百万円を請求されているという。

父親にいい思い出のない幸男は速攻で依頼を拒絶するが・・・なぜか・・・助手の香苗が乗り気で依頼を引き受けてしまう。

幸造は菜月にとってはいい父親だったらしく、菜月の話では知花は金目当てで結婚したのではないか・・・幸造の浮気にも裏がありそうだという話である。

とにかく・・・結婚二年で幸造の貯金は三千万円ほど知花に浪費されたらしい。

くるみの調査で・・・幸造の浮気相手の環奈(愛純もえり)と知花が旧知の間柄と判明し、逆転の切り札にしようとするが・・・環奈は証言を翻さない。

窮地に陥った幸造を・・・息子が救う展開である。

なんと・・・幸造は糖尿病によって勃起不全になっており・・・浮気なんかできないという展開である。

いや・・・勃起なんかしなくたっていろいろなプレーはできるだろうと思うが・・・まあ・・・そんなこといってもしょうがない程度のドラマなのである。

幸造が幸男の学費を援助していたことが判明し・・・なんとなく・・・父と息子の心は通い合うのだった。

だから・・・なんだ・・・という話なんだなあ。

なんとなくコテコテの話を東京でやられると痛い感じがするのはキッドだけなのでしょうか。

まあ・・・吉本興業的にはこれでいいのか・・・。

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2014年3月 3日 (月)

六韜・文の巻・守土篇に曰く、無借人國柄、借人國柄、則失其權・・・と軍師官兵衛(岡田准一)

武経七書に属する「六韜」からの引用である。

「六韜」は太公望呂尚による指南書という体裁がとられているが・・・本当に呂尚がかく語ったかは定かではない。

「文の巻」はその冒頭であり、主に国政の根本を語っている。

「人に国柄を貸すなかれ、人に国柄を貸せば、すなわちその権を失う」の「国柄」とは「国権」の意味である。

国家権力を他人に渡せば、国家を失うという・・・物凄く当たり前のことを述べているわけであるが・・・そこに続く説明の大意は次のようなものである。

「斧があれば木を伐採する。刀があれば肉を切断する。斧があるのに伐採をしなければ木材を得られず、刀があるのに肉を切断しなければ食材を得られない。道具は使わなければ宝の持ち腐れである。国家権力を持っているなら国家権力を使わなければならない。国民は富に従うものである。国家権力で冨を為せば国民はそれによって従う。国民が従ってこそ主君たるものは仁を施せる。つまり・・・国家権力を他人に委ねるということは仁を施す機会を失うということに他ならない」

つまり、国家権力者たるものは権力を丸投げしてはいけないという教えなのである。

そういうことをしていると、ロシアが軍事介入してくるので注意が必要なのである。

官兵衛がそういう甘言で・・・東播磨という半国の統治者である別所長治に国主親政を示唆したわけである。

パピコを売らせるG10の如しだ。・・・ウシジマくんをまぜるなよ。

別所長治(入江甚儀)=中田広道(入江甚儀)ですからーーーっ。・・・もういいか。

つまり・・・年配者の長治の二人の叔父よりも・・・若年の長治の方が扱いやすいという官兵衛の深謀遠慮なのである。

とりあえず・・・長治はまんまと乗せられたわけである。

それに対して竹中半兵衛は「孫子・九地篇」から引用して官兵衛を示唆しようとするのだった。

「兵の情は速を主とす」は戦場における地の利について語るにあたり、その基本姿勢を示す言葉である。

前後の大意はこうなる。

「地の利についてくわしく述べるまえに・・・肝心なことを言っておく。ここに圧倒的に優勢な敵と対峙することになった将がいる。その不利を覆すためにもっとも有効なのは・・・敵が一番大切にしているものを奪うことである。それが敵の愛人であればそれを奪うべし。そのために必要なことは急げるだけ急ぐということである。一番重要なことをする場合は早ければ早いほどいいのである。相手が愛人を守ろうとするより早く愛人を奪うことができれば相手は必ず動揺する。つまり・・・相手の意表を突くということである」

つまり・・・凡庸な主君を仰いでいることが敵を利するならば、とっとと下剋上してしまえ・・・と半兵衛は諭すわけだ。

もちろん、「そんなことはできません」というのが清く正しい大河ドラマの主人公の姿勢なのである。

ま・・・歴史的事実なので・・・仕方ないんだけどな。

で、『軍師官兵衛・第9回』(NHK総合20140302PM8~)脚本・前川洋一、演出・本木一博を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。12行レビューキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!・・・しかし、今回は元摂津国主・池田氏の娘婿にして国主権の簒奪者・気がつけば摂津国主の荒木村重と対朝倉戦、対浅井戦、対武田戦で大活躍しているはずなのにここまで未登場の徳川家康の二大イラスト描き下ろし大公開でお得でございます。なんていうか・・・突然出てくる・・・宇喜多直家とか、赤松広秀とか・・・説明スルーで大丈夫なのか・・・でございますよね。とにかく・・・複雑怪奇な戦国播磨の政治模様よりも・・・官兵衛夫妻の愛くるしいさまが大切だという方針には・・・おへそが茶をわかすとしか申しようがありませんけれど~。次回は「毛利襲来(だじゃれ)」なので・・・この大河ドラマのベースが小説「播磨灘物語/司馬遼太郎」(1975年)なのが透けて見えてきました。三人揃って上洛とか・・・侍女が本願寺贔屓とか・・・そのまんまだし・・・。ま・・・フィクションでございますけどねえ・・・。史実ではなくて・・・小説を脚色する脚本家・・・ある意味、天晴れでございます。

Kan009 天正三年(1575年)七月、小寺官兵衛は岐阜城(美濃国)で織田信長にお目通りする。その後、播磨国方面軍となった羽柴秀吉の居城・長浜城(近江国)で接待を受け、おそらく京の都、摂津国を経て播磨国へ帰国したと思われる。八月、信長軍団は越前一向一揆平定戦を実施。ここまでは越後国・上杉謙信と同盟中である。そもそも、第一次信長包囲網の核心である武田・本願寺同盟は・・・信玄と顕如の正室が三条姉妹であったことによる義兄弟同盟なのである。当然のことながら武田の敵である上杉家は本願寺にとっても敵であった。しかし、信玄の死去により、この軍事同盟は崩壊する。後継者・武田勝頼は三条系ではないからである。本願寺は長島、越前と一向一揆の拠点を撃破され、ついに大阪本願寺の譲渡を信長に迫られる。後継者秀吉がそうであったように信長にも大阪都計画があったのである。こと、ここに至って本願寺は越後一向一揆と上杉家の和解を提案し、第二次信長包囲網を本願寺を軸とする毛利・本願寺・上杉の軍事同盟へとシフトする。一方、信長は東海方面軍・徳川家康と北国方面軍・柴田勝家の安定を見届けると摂津国から丹波国、播磨国への攻略を開始する。すでに戦国最強となった織田軍団だが・・・周辺国は軍事同盟で対抗することになる。摂津国には石山本願寺という巨大な敵拠点が残り、丹波平定、播磨平定は明智光秀と羽柴秀吉の手に委ねられるのである。東播磨の覇者となった別所長治は丹波・波多野氏から妻を迎えると同時に隣国・摂津の荒木村重を通じ、織田陣営に加わるために十月、上洛して織田信長に謁見する。混乱する西播磨では小寺官兵衛が主君・小寺政職の説得に手間取っていた。

「殿・・・別所長治が上洛したそうでござりますらあ」

「なんと・・・」

秀吉の京屋敷に逗留していた官兵衛は井上九郎右衛門の報告に絶句した。

官兵衛は信長の越前一向一揆平定戦の結果を見定めて帰京するために紅葉の京に長居をしていたのである。

「そりゃ・・・まずいの」

「こがいなことなら・・・播磨に急いで帰るべきでしたらあ」

「うむ・・・」

官兵衛が京にいる理由はもう一つあった。

しのびの調達である。黒田しのびを使う官兵衛だったが・・・信長や秀吉の使う伊賀忍者や信濃忍者には到底歯が立たない。

そこで・・・官兵衛は京で・・・新たな忍びに渡りをつける必要に迫られていた。

京には・・・忍びたちの出先機関が集中していたのである。

そもそも・・・戦国の忍びたちはフリーランスであった。

しかし・・・武田の忍びや・・・上杉の忍び、北条の忍びなど・・・戦国大名の成長によって・・・大名直属の忍び軍団が形成され始めていた。そもそも・・・信長は・・・直属の部下として美濃忍びの森氏、甲賀忍びの滝川氏、尾張忍びの秀吉など優秀な忍者を揃えていたのである。秀吉などはその配下に真田忍軍や飛騨忍軍など占領地の忍びを加えている。

官兵衛としては・・・諜報網の充実を図るためにも・・・中央につてが欲しかったのである。

ここ数日は木の国に跋扈する根来衆と渡りをつけていた。しかし、根来忍者は信長に買われてしまったのである。

最後の頼みが・・・お国が渡りをつけてきた・・・鞍馬の神明党という忍び集団だった。

その夜、旅支度を整えた官兵衛一行は京都洛西の荒れ寺を訪れる。

「忍びではなく・・・もののけが出そうですらあ」と栗山善助が軽口をたたく。

その時、荒れ寺のお堂に青白い灯がともった。

「・・・」と母里太兵衛は無言で緊張を示す。

一同は息を飲んだ。お堂から現れたのは美しい尼僧だった。

「小寺官兵衛殿・・・お初におめにかかりまする・・・神明尼と申しまする」

「・・・」と母里太兵衛は無言で見惚れる。

「そなたが・・・神明党の・・・首領でござろうか」

「さようでございます・・・」

「神明党とは・・・いかなる所以の忍びであるのか・・・伺いたい」

「ふふふ・・・お気が早いこと・・・」

「急いでおりまする」

「播磨のこと・・・気になりましょうね・・・神明とは何か、ご存じでしょう?」

「伊勢の大神と察するが・・・」

「いかにも・・・我が一族はアマテラスに帰依するものでございまする」

「アマテラス・・・」

「アマテラスはこの国を統べる神でございます・・・そして・・・我が一族はアマテラスによって神明通力を与えられております・・・下世話な言葉では神通力と申せます」

「神通力」

「妾には・・・天目通、天耳通がございまする」

「千里眼でございますか・・・?」

「ふふふ・・・お疑いのことはもっとも・・・されば・・・今宵は策をお授け申し上げます」

「策・・・」

「官兵衛殿には・・・お急ぎの理由がおありのはず・・・」

「いかにも・・・」

「別所様がご上洛とあらば・・・小寺家の上洛も急ぎたいところでございましょう」

「・・・」

「しかし・・・西播磨の情勢はなかなか・・・それを許しませぬ・・・出雲街道に続く美作国境の城・・・作用城、上月城はすでに毛利方に調略され・・・備前からは毛利の後ろ盾で新国主となった宇喜多勢が侵攻している。龍野城の赤松政秀の死後、空白地帯となった一帯には本願寺の一揆勢力が跳梁しておりましょう。まさに・・・予断を許さぬ状況と申せましょう」

「これは・・・驚いた」

「しかし・・・まもなく・・・宇喜多勢いに追われた備前の守護代・浦上氏が・・・御着城に現れまする」

「浦上宗景様が・・・」

「官兵衛様は・・・主君・政職様にかように進言するのです」

「・・・」

「赤松政秀の跡目を継いだ広貞を追って・・・浦上氏の庇護する御曹司・赤松政広を立てるがよろしかろう。政広様の母は赤松宗家の血筋・・・龍野城主としてふさわしいと・・・」

「なるほど・・・龍野城主の後ろ盾に・・・小寺家が・・・」

「これにて・・・西播磨は一瞬・・・鎮まりましょう・・・その期に上洛なされませ・・・その折は・・・赤松宗家の名を使い・・・別所様もご同道なされるがよろしかろう」

「なるほど・・・赤松・小寺・別所が揃い踏めば・・・別所の先行を打ち消すことができますな」

「いかが・・・」

「ご献策・・・ありがたく頂戴いたす・・・それにしても・・・なぜ・・・拙者に・・・」

「ふふふ・・・すべては宿命でございます」

「・・・」

「官兵衛様は出世なさるお方・・・神明党はそのお力添えをする定めなのでございまする」

「神通力・・・宿命通・・・」

「では・・・またいずれ・・・」

その声を追った官兵衛は息を飲む。

神明尼の姿はすでになく・・・ただ闇が広がっていた。

天正四年正月、上洛した播磨の三武将は・・・織田信長に謁見を許された。

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2014年3月 2日 (日)

異次元よりの使者と第二のなぞの転校生はじめての登校そして幻の妹の余命宣告(杉咲花)

次から次へと繰り出されるSFジュヴナイル的官能の宴。

妄想を好むものには限りない恩恵が与えられ、そうでない人にはなんのこっちゃの連続。

仕方ないのだ・・・体育館よりも図書館に棲息するもののための祭典なのである。

受験に必要な知識にはなじめないのに妙なことに興味を持つもののための副読本なのだ。

まさに・・・わかるやつだけにわかればいいドラマになっている。

もちろん・・・原作はひとつのルーツである。

ルーツを原点としてはるかに進化したアイテムは満ち溢れている。

ライトノベルからコミック、映画、ゲームまで・・・時には絶妙に、時には深淵に・・・子孫たちは繁殖している。

そうしたものからのフィードバックも重ねて万華鏡のように花開く・・・2014年の「なぞの転校生」・・・。

まさに・・・他の追随を許さないのだった。

うっとりするよね。

で、『・第8回』(テレビ東京201403010012~)原作・眉村卓、脚本・岩井俊二、演出・長澤雅彦を見た。公式に用語解説があるわけだが・・・注釈付とそうでないものがある。この記事を作成中に・・・「プロメテウスの火」は未解説である。「平行世界」については山沢典夫(本郷奏多)の語った言葉として宇宙の波動構造によって生じた平行世界がいくつも存在していることが言及されている。すでに明らかになっているのは次元移動を可能としたD-1世界の住人が知的物質モノリスを利用することにより次元旅行を可能としていること。典夫がいた世界がD-8世界と呼ばれ、岩田広一(中村蒼)や香川みどり(桜井美南)が暮らす世界がD-12世界と呼ばれていること。そして・・・D-12世界には組曲「惑星」(ドラマでは「金星、平和をもたらす者」を主題とする)グスターヴ・ホルストは存在するが、フレデリック・フランソワ・ショパンは存在しない。つまり・・・D-12世界はお茶の間のあるこの世界ではないことなど・・・多数である。

D-8世界の科学技術は・・・D-12世界を遥かに凌駕しているらしい。

しかし・・・D-8世界は何故か滅亡しかかっているのだった。

ヒューマノイドという人間ではない何者かである山沢典夫が先兵として転送され・・・受け入れ準備を整えた時・・・放射能障害に冒された王妃(りりィ)と孫のアスカ姫(杉咲花)、そして王家に仕えるアゼガミ(中野裕太)とスズシロ(佐藤乃莉)がD-12世界に到着する。

彼らの目的はD-12世界における・・・王家の復興だった。

しかし・・・脱出に際して充分な準備を果たせなかった彼らは・・・物資の不足という深刻な状態に直面していた。

D-8世界の混乱

「ゴリアドの紛争」(D-12世界のJP【日本】にあたるD-8世界の王家のあった土地で勃発した戦争)や「ガラテアのテロ」などによって破局を迎えたらしいD-8世界・・・。ちなみにゴリアドはお茶の間世界ではテキサスの開拓地で十九世紀に虐殺のあった土地であり、ガラテアは古代アナトリア【トルコ】の地名である。超小型強襲偵察機・マイクロリコンにより核兵器攻撃が行われ、王妃は重篤な放射線障害を受けたらしい。しかも、医療技術が遅れているD-12世界では治療が困難という状況である。

D-8世界から転送されてくる予定のDRS(DNA REPRODUCE SYSTEM=遺伝子再構築システム)が届かなければ手の施しようがないのだった。

忠実な下僕

王家の護衛官として調整されたヒューマノイド(人間タイプの人工生命体)のモノリオこと山沢典夫は・・・王女アスカ姫の無聊を慰めるために東西山高校への登校を推奨する。

D-8世界では長く続いた戦乱のために王女は学校というものを体験したことがなかったのだった。

ちなみにお茶の間世界の小説家・アーサー・C・クラークはD-8世界では科学者であり、D-8世界もまたお茶の間とは別の平行世界であることが暗示されている。

高貴な家柄に属するアスカ姫にとって庶民の通う学校そのものが異世界であり、例によってモノリスのマギ(高度な人格操作)によってコントロールされた寺岡理事長(斉木しげる)の転校生・九条アスカの超法規的転入手続きは在校生一同に違和感をもたらす。

「自己紹介を・・・」と担任の大谷先生(京野ことみ)に指示されたアスカは・・・生徒一同に自己紹介を促すのだった。

「それは・・・休み時間にやってね・・・ええと・・・席は・・・」

天衣無縫な王女は教室最前列に用意された副担任用の補助席に自主的に腰かける。

「いや・・・そこじゃなくて・・・」

モノリオにエスコートされたアスカは腕を組んだまま着席し、女子生徒の反感を買うのだった。

そして・・・岩田広一にさりげなく触れ、親愛の情を示すアスカだった。

なぜなら・・・平行世界に存在しがちなアイデンティカ・・・異世界にありながら同一な存在として・・・D-12世界の岩田広一は・・・D-8世界ではアスカの婚約者・ナギサだったのである。

遺伝子レベルでナギサにそっくりさんの岩田広一は・・・突然変異でナギサにシンクロしている存在である。

そして・・・アスカは・・・岩田広一の亡き妹・岩田あすか(立川杏湖)のアイデンティカだったのである。

岩田広一は・・・幼くして死んだ妹が成長した姿の夢を見るのだが・・・アスカは・・・夢で見る長じた妹にそっくりだった。

D-8世界 アスカの許嫁の王族ナギサアスカ姫

D-12世界 岩田広一広一の妹あすか

同じ遺伝子を持ちながら・・・関係が異なるのが平行世界の醍醐味である。

もちろん・・・二人の間には近親相姦萌えが介在するのだった。

一瞬で二人の間に生じた何かに勘づく香川みどり。

みどりはモノリオに転校生萌えしているのだが・・・それはそれ・・・これはこれである。

自分がモノリオに奪われるのはいいが、広一をアスカに奪われるのは許せない女心が発動するのだった。

異物に対する反感を募らす2年3組の生徒たち。

アスカは我関せずで授業中も自由な発言を展開する。

「なぜ・・・教科書にのっている数式について教師が説明するのだ」

「この者たちは数式だけでは理解できないのです」

「なんと・・・愚かなこと」

「源氏物語の一部だけを抜粋してなんとする」

「私たちは源氏物語のなんたるかを受験のために学んでいるの」とみどりのクラスメートである愛(宇野愛海)が反発する。

「源氏物語を学びたければ源氏物語を読めばいいではないか」

「・・・」

「そなたは源氏物語を読んだのか」

「あのね・・・学校は勉強だけをするところではないのよ」とみどり。

「他に何をするのだ」

「友達を作ったりとか」

「それにしてはクラスの者どもは敵意に満ちているようだ」

「・・・」

アスカの意外な感受性に驚くみどりだった。

その時、モノリオがモノリスに着信があったことを告げる。

「DRSが到着するようです」

「それでは・・・お祖母さまの手術が・・・」

「到着次第・・・着手します・・・拠点に戻らなければなりません」

「私も戻る・・・」

授業を抜け出す二人に大谷先生は驚く。

「あなたたち・・・どこへ行くの・・・」

「祖母が危篤になり・・・緊急手術が行われることになったのです」

「・・・」

とまどうD-12世界の教師と生徒を残し・・・異邦人たちは去って行った。

関係を修復する幼馴染たち

香川みどりは混乱していた。

せっかく花を届けて近づこうとしたモノリオの素っ気ない態度。

そして・・・異様な関係を思わせるアスカの登場。

心の平安を求めて・・・みどりは・・・放課後のSF研究会部室を訪ねる。

「ねえ・・・彼らは大丈夫かしら・・・」

「大丈夫もなにも・・・あいつら・・・変過ぎるだろう・・・」

「変・・・」

「そうだよ・・・転校生の最初の言葉を覚えているか・・・この世界のことを勉強したいって言ったんだぜ」

「それは・・・転校してきたから」

「世界ってなんだよ・・・あいつら・・・宇宙人かもしれない」

「・・・」

「おかしなことを言ってるって思うだろう・・・でもさ・・・原因不明の家畜の大量死・・・キャトルミューティレーションなんて例もある・・・宇宙人がもしいるとしたら・・・あんな連中こそがふさわしい」

「ふふふ・・・そういう話が聞きたかったんだ」

「え・・・」

「ムーくんがそういう話をするのってなんだか・・・安心できる」

「じゃ・・・可笑しい話ついでに聞いてくれ」

「何・・・」

「ほら・・・成長した妹の夢を見るって話をしたことあったろう」

「うん」

「そっくりなんだ・・・新しい転校生・・・夢で見る妹に・・・」

「・・・」

顔を見合わせる幼馴染の二人だった。

異次元よりの使者

D-8世界の侵略拠点となっている江原老人(ミッキー・カーチス)の部屋がある集合住宅の屋上にモノリオは待機している。

やがて・・・異次元回廊が開き、DRSプログラムの搬送者が到着する。

「ようこそ・・・D-12世界へ」

「追手がかかっている・・・回廊を閉じるだけでなく・・・DE-DW(次元包囲)を反転させてくれ・・・追尾を迷走させるんだ」

「了解した」

モノリオは内蔵している機能で処置を行った。

「完了した・・・」

「これが・・・DRSプログラムだ・・・お前めがけて転送されるので・・・お前が同期して執刀を行えばよい」

「ただちに・・・手術を開始する」

「俺は・・・少し休みたい・・・この場で待機していいか」

「了解した」

搬送者は負傷しているようだった。

空を見上げる搬送者。

「ここは・・・美しい世界だな」

「夜になれば・・・星も見える」

「星か・・・私は政府による遺伝子操作人間だ・・・オーファネージ(孤児院)18の出身だよ・・・仲間たちにも・・・これを見せてやりたかったな」

「君は・・・」

「私が最後の一人だ・・・」

「・・・」

モノリオは搬送者を屋上に残し・・・拠点に戻った。

バイオアプリ、ヒューマノイド、マギ、そしてオーファネージ18・・・D-8世界の文明はやや能力至上主義への傾きを感じさせる。

マギに支配された現地医師の伊達坂(並樹史朗)が立ちあって王妃の手術が開始された。

「これが・・・D-8世界の最先端医療・・・想像もつかないテクノロジーです」

モノリオは多数のモノリスを使用してDRSプログラムによる王妃の遺伝子再建手術を開始する。

「どうだ・・・」と経過をモノリオに問うアゼガミ。

「順調です・・・しかし・・・」

「なんだ・・・」

「予想以上にモノリスの消耗が激しいのです」

「・・・」

「質問があります」

「許す」

「王妃が被曝した時に・・・お二人はどちらに・・・」

アゼガミとスズシロは顔を見合わせる。

「我々も一緒だった・・・」

「では・・・あなた方も・・・」

「我々のことはどうでもいい・・・王妃様とアスカ様さえご無事なら・・・」

「なんですって・・・ではアスカ様も・・・」

「そうだ・・・」

「なぜ・・・もっと早く教えてくださらなかったのです」

「なぜだ・・・」

「モノリスのストックが底を尽きかけています」

「・・・」

「アスカ様を治療するために必要なモノリスがありません」

「なんだと・・・」

「アスカ様をお助けすることができません」

「馬鹿な・・・なんという失態だ・・・」

有能なモノリオに比べて人間である忠実な侍従たちは無能であるらしかった。

「搬送者に補給部隊について質問してください」

「それは・・・無理です」とスズシロ。

「いかがされたのです」

「あの者は・・・屋上で死にました」

「・・・」

君が僕の妹で、僕が君の許嫁

アスカは疲労した身体を休めていた。

「アスカ様・・・お疲れですか・・・」とスズシロ。

「今日・・・学校で私は・・・この世界のものたちを蔑んだ」

「・・・」

「結局、負け惜しみだな・・・」

「・・・」

「この世界のものたちは低い能力しか持たぬのになんとか・・・世界を維持している。それに比べて私たちは・・・私たちの世界を・・・滅亡させたのだから」

「アスカ様・・・王妃様の手術は長引きそうです・・・お休みになられては・・・」

「いや・・・私は・・・隣の部屋の岩田広一に会ってくる」

「・・・」

「この世界のナギサ様にな・・・」

岩田家には広一の父・亨(高野浩幸)が帰宅していた。

つけっぱなしのテレビからは「なつかしのヒーロー特集」というバラエティーショーが流れている。

「超人バロム・1は友情のバロムクロスで変身するんですよ・・・」

ドアのチャイムが鳴り、来訪者を妻の君子(濱田マリ)が招き入れる。

「広一・・・お隣のお譲さんが訪ねてみえたわよ」

広一は驚いた。

夫婦は息子に訪れた異性の訪問者に好奇心をかきたてられる。

広一は仕方なく自分の部屋にアスカを招き入れた。

「妹さんに・・・私は似ているかしら」

「何を言い出すんだ・・・急に・・・」

「そうね・・・失礼だったかしら・・・」

「・・・」

「実は・・・私には・・・許嫁がいたのです」

「イイナズケ・・・って」

「ナギサという名前で・・・あなたによく似ていたのです」

「その人は・・・」

「戦争で亡くなりました」

「そんな・・・」

「私のいた世界では長い間・・・戦争が続いているのです」

「中東の方かい・・・」

「ええ・・・まあ・・・」

「君は・・・確かに妹のあすかに似ているような気がする」

「偶然ですね・・・名前も一緒なんて・・・」

「・・・」

「私たちが出会ったのは・・・運命かもしれません」

「え・・・」

「今夜・・・この部屋に泊めていただけますか」

「ええっ・・・」

「父方の祖母の手術に・・・典夫がついているので・・・今晩はおじいさんと二人きりなのです・・・とても・・・心細くて・・・こわいのです」

「ちょっと待って・・・親に聞いてみる・・・」

事情を聞いた両親は即答で承諾するのだった。

「お前も・・・一緒に寝るのか」

「あなた・・・何言ってるんです」

「冗談だよお」

「ルロロロロ・・・ド~ルゲ~」

のどかな両親に対して広一は不安を隠せなかった。

部屋に戻るとアスカは目を閉じている。

広一はベッドを整える。

「泊っていいって・・・」

その広一の手にアスカの手が重ねられる。

「もう少し・・・傍にいてくれますか」

「・・・」

広一の鼓動は激しく脈打つのだった。

D-12世界の夜は更けていく。

みどりがモノリオが人間ではないことを知らないように・・・広一もアスカが余命いくばくもないことをまだ知らなかった。

アスカ姫は核兵器の放射線によって遺伝子レベルで損傷し、内側から蝕まれているのである。

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2014年3月 1日 (土)

パピコ(紗倉まな)を五万円で斡旋するのは犯罪です(山田孝之)

「鶴見のホームレスに対する空気が違う子供たちがカツアゲした金額に不満があって袋叩きをするのは犯罪です」の方が順当だったが・・・あまりにもパピコがかわいい女なのでこうなりました。

かわいそうな女萌えだな・・・。

あくまで・・・イメージの問題として鶴見の方はねえ。

それ以上は言わずもがなだぜ。

セリフとしては鶴見をあげているわけだしね。

狡猾な感じがするよね。

誰とでも寝る彼女→悶々→現場を目撃→悪魔に唆される→金で売る→彼女はドラッグでヒャッホー→悶々

このチープな流れの底辺の青春にノックアウトされるよね。

で、『ウシジマくん Season2・第7回』(TBSテレビ201402280058~)原作・真鍋昌平、脚本・福間正浩、演出・山口雅俊を見た。ソチ五輪という祭りの後である。祭りのあとのさびしさにウシジマくんは沁みるよね。今回はパピコの回とも言える。パピコのキャラクター設定はある程度、ドラマ・オリジナルだが・・・かなりロマンチックに仕上がっていると言える。こういう役はかなりおいしい役なのだが・・・どれだけ伸び代があるかだな。なにしろ・・・掃き溜めに鶴だからな。とにかく、パピコ、かわいいよ、パピコなのである。

地獄へまっしぐらの中田広道(入江甚儀)は・・・犯罪者の自覚はないらしく・・・気になるのは恋人のようなパピコ(紗倉まな)が「誰とでも寝る女らしい」という噂である。

二人が暮らす部屋で下着姿で死んだように眠るパピコ。

広道は激しい欲望と懊悩を感じるが・・・眠っているパピコを抱くこともできず、詰問することもできない。

ただ眠れない夜を過ごすのだった。

「どうしたの・・・中田くん・・・朝起きてから何も喋らないじゃない・・・なにか怒ってるの?」

「・・・」

地獄へまっしぐらな広道はカウカウファイナンスでジャンプするしかないのだった。

「俺・・・もうすぐ・・・芸能界にデビューできるかもしれないんです」

「いいよ・・・」

ウシジマくん(山田孝之)は無表情に二十万円に五万円を上乗せして貸し出す。

「あいつ・・・結局、ヤクの売人でしょ・・・ようするに仕込みの金でしょ」

オサレな道広に何故か無駄な闘志を燃やす柄崎(やべきょうすけ)である。

「あいつ・・・そろそろ、やばいんじゃないすかね」

「いざとなったら・・・ヤク(覚せい剤)とガラ(身柄)を同時に押さえる」

「ヤクを抜く(転売する)んですか」

「それ・・・ヤバイですよ」と受付事務の摩耶(久保寺瑞紀)・・・。

もちろん・・・闇金自体がやばいわけだが。

「ヤクとガラを一緒に実家に運んで・・・親から口止め料を徴収するんだよ。息子に前科がつくよりもそれなりの金額を払った方がいいだろう」

非合法と合法の非合法側の境界線ギリギリを狙うウシジマくんである。

「だから・・・奴から目を離すな・・・カードめくってる場合じゃねえぞ」

ウシジマくんはバカラ賭博にはまり境界線から足を踏み出しかけている柄崎を牽制するのだった。

まだ・・・非情に徹しきれない風の高田(崎本大海)にヤキ(鉄拳制裁)を入れたウシジマくんは教育的指導として自ら吉永美代子(亀谷さやか)を取り立てるのだった。

自宅で待ち伏せした吉永美代子から有り金を吐き出させ・・・不足分は強制連行で強制労働である。

吉永美代子は高田の暴行後の顔で・・・ふてぶてしさを失うのだった。

いつものパチスロ屋のトイレで一発1000円のリップサービスである。

不足分は三千円、きっちり三人の客をとるまで吉永美代子は解放されないのだった。

何から何まで犯罪である。

洗面所に吉永美代子の嗽の音が虚しく鳴り響くのだった。

ウシジマくんを呼びだす金主の大原正一(徳井優)・・・。

ニュー大原ガールズのセンター(池田夏希)、レフト(鈴木咲)、ライト(神谷まゆ)たちは口々に不吉な啓示を告げる。

「私の傘下の金融関係者が問題を起こしましてね」

「上司が部下に金を持ち逃げされたんですよ」

「組織というのは内部の腐敗で崩壊します・・・君の処は大丈夫でしょうねえ」

悩む広道は悪の伝道者・カリスマ的オサレエンペラーG10(藤本涼)に教えを乞う。

「女のことで悩むなんて・・・牛丼屋で紅ショウガと唐辛子をどちらからトッピングするかで悩むようなもの・・・」

「・・・」

「そんなことより・・・もっとオサレを極めチャイナタウン」

ついにチャイナタウンまで言っちゃうG10だった。

「楽園」の途上である怪しいアパレル・ショップの経営を推奨するG10。

「でも・・・資金が・・・」

「そんなもの・・・出資者が面倒みてくれる」

出資者は・・・ハブ(南優)だった。

「店やりたいってのはお前か」

「・・・」

「ここらの相場わかってるよな」

「売上の一割をおさめるんですよね」

「・・・」

利益の一割ではなく・・・売上の一割上納はハードな条件である。

利益を二十パーセントと考えても・・・五十パーセントを持って行かれることになる。

もちろん・・・広道にそういう計算高さはない。

広道を監視する摩耶はハブを盗撮する。

いつもの駄菓子屋でシャボン玉を楽しむ戌亥(綾野剛)はハブついての情報をウシジマくんに提供する。

「ハブは・・・組織暴力団・薮蛇組の構成員だよ・・・覚醒剤の売人で・・・儲けを融資したりしている」

「融資?」

「オサレな街のオサレなショップに資金提供してさ・・・売上をかすりとっていくシステムだよ」

「・・・」

「ねえ・・・ウシジマくん・・・母ちゃんが・・・ウシジマくんはいつ遊びに来るんだってせっつくんだよ」

「今・・・少し立て込んでるから・・・それが片付いたらな・・・」

意外と不器用なウシジマくんはシャボン玉が苦手だった。

G10は広道に引導を渡すためにパピコを尾行させるのだった。

「パピコ・・・今、何してるの」

「ショッピングだよ」

「誰と一緒・・・?」

「女の子の友達だよ」

広道の目の前で男と手をつないでデートしているパピコなのである。

「わかっただろう・・・女のことで悩むなんて愚の骨頂」

「・・・」

「あんな女・・・小野社長(岩本淳)に下取りに出しちゃいな」

広道は頭に血が昇る。

成金の小野社長にパピコを紹介する広道だった。

「こういう普通の女の子が欲しかったのよ」

「どういうこと・・・」

「いいじゃないか・・・誰とでも寝るんだから」

「え」

「なによ・・・あんたたち付き合ってるの・・・まあ、いいわ」

現金五万円をテーブルに置く小野社長。

「それで・・・オサレなものでも買えばいい」

「広道くんは・・・いいの」

それが・・・広道がパピコが他の男と寝てもいいのかという意味なのか・・・お金を全額もらってもいいのかという意味なのか微妙なところである。

「今さら・・・」とあくまで前者の意味で捉える純情な広道だった。

「商談成立ね」

五万円をパピコに渡し、席を立つ小野社長だった。

オサレな二人の恋は終わったのである。

広道が小野社長に売ったクスリでぶっとんだ気分になるパピコだった。

小野社長の見つめる前でウキウキしながら裸になっていく・・・。

一人になってたちまち後悔する広道。

あわててパピコに電話するが青春は立ち止まらないものなのである。

広道の心はクスリの楽園にいるパピコには届かない。

ホームレスとなったギャンブル依存症の宇津井優一(永野宗典)はたきだしのおにぎりを貪る日々を過ごしていた。

一人二個と限定されても何個もおにぎりをがめる優一である。

ホームレス同志の情報交換で・・・「ホームレスに優しい街・鶴見」という怪しい噂を仕入れた優一は・・・そこに行けばどんな夢も叶うかもしれないと徒歩で西を目指すのだった。

新宿→鶴見は徒歩で一日の行程である。

夜更けに鶴見近くにたどり着いた優一を待ちうけるのは首都西側に棲息する不良少年たちだった。

「ねえ・・・お金くれよ」

「ない・・・」

「いいじゃん・・・くれよ」

「ないものはない」

「サイフだしなよ」

「サイフもない」

「あるじゃん」

「これっぽっちかよ」

「むかつくじゃんか」

「おしおきじゃんか」

「じゃんかじゃんかじゃんかじゃんか」

集団暴行され・・・頭部から流血・・・瀕死となる優一。

「死んだじゃんか」

「まあ・・・いいじゃんか」

朝陽があたるゴミ置き場で目覚める優一。

手持ちのガムテープでとりあえず止血である。

里心がついてついに隠し持った最後の百円玉で母親(島ひろ子)に電話する。

しかし・・・電話に出たのは父親(宮川浩明)だった。

「お前・・・どこにいるんだ・・・母さん・・・入院したんだぞ」

「ええ・・・」

思わず電話を切る優一。

その胸中によぎる・・・ふるさと新宿の母の面影・・・。

「母ちゃん」

優一は鶴見→新宿という帰京の旅に出る。

痛む足腰、疼く頭・・・そして空腹。

しかし・・・優一はよろめきながら都庁の見下ろす街へ戻って来た。

青木病院で母親の病室へと案内してくれる優しいミニスカ・ナース。

だが・・・病室にいたのはウシジマくんだった。

ミニスカ・ナースは昔のウシジマくんの客で「エロリアーナ」の風俗嬢・モコ(希崎ジェシカ)だった。

思わず、「違います・・・看護師の葉山朋子です」と宣言するモコだった。

そんなこととは露知らぬ優一だった。

「なんで・・・ウシジマさんががここに・・・」

「ウシジマさんにはよくしてもらっているのよ」

そこへ父親も到着する。

「なんだ・・・お前・・・頭にガムテープなんて巻いて・・・」

思わずウシジマくんを外に連れ出す優一だった。

「ウシジマさん・・・両親からは手を引いてください」

「お前が逃げたからこうなっただけだ」

「借金は・・・俺が必ず返済しますから」

「くさいから・・・それ以上こっちくんな」

「・・・」

「俺は・・・一度逃げ出したお前を信用しない」

「・・・」

「俺は・・・お前を男として認めない」

「・・・」

「だが・・・今のお前の言葉は気に入った・・・」

「・・・」

「これから一年間、毎月十万円持ってこい・・・それで完済あつかいにしてやる」

「ウシジマさん・・・」

「男と男の約束だ・・・裏切ったらただじゃおかねえ」

「はい・・・」

地獄に仏である。

しかし・・・ウシジマくんの目には優一が一年で百二十万円を運んでくる男としか映っていないのかもしれない。

そして・・・今度は隼人(武田航平)が飛んだ。

全財産の二千万円を投資に突っ込んだ柄崎が隼人の窓口となった高田に殴りかかる。

「アホだな」とつぶやくウシジマくん。

「そりゃ・・・あんまりだ」とつっかかる柄崎。

カウカウファイナンスもまた断崖絶壁に立っているのだった。

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