脱税も脱税のための裏帳簿を盗み出すのも盗品の売買も持ち主との不正な取引も損壊した遺体を許可なく山中に埋葬するのも犯罪です(山田孝之)
子供のころは様々な幻想に浸るものだ。
世界の人口の図形を考えてみたりする。
世界を底辺と頂点で考えれば底辺×高さ÷2で三角形となる。
しかし、未だに世界を征服した帝王は地球の歴史に登場していないようなので・・・世界は台形に近いのかもしれない、つまり(上の底辺+下の底辺)×高さ÷2である。
上の底辺が下の底辺より短い方が安定感があるのが・・・錯覚なのかどうかはわからない。
平等な社会とは高さが1の社会であり・・・イメージとしては一直線・・・底辺だけの社会である。
そういう社会で人間が幸せに暮らせるのかどうかは分からない。
だが・・・どちらにしろ・・・それは二次元的なイメージである。
社会の底辺や底辺校や底辺の人間の存在する世界は複雑な起伏に満ちている。
底辺から脱出しようとして・・・山の中に埋められた人間は・・・幽かに高さを獲得したと考えることもできる。
けれど・・・とにかく底辺だろうがなんだろうが・・・人間は命ある限り生きていくのである。
で、『闇金ウシジマくん Season2・最終回(全9話)』(TBSテレビ201403140058~)原作・真鍋昌平、脚本・福間正浩、演出・山口雅俊を見た。演出家はドラマ「ナニワ金融道」(1996年~)やドラマ「カバチタレ!」のプロデューサーであり、ある意味、この道一筋な感じもするわけである。つまり・・・どこか貧乏くさいのである・・・おいっ。しかし、底辺を描くことの面白さを充分に分かっていることは推察できる。底辺と言うものは基本的に貧困だからである。貧困ゆえのやるせなさ、貧困ゆえのなんでもありな感じ・・・そういうものはある意味で刺激に満ちているからなあ・・・。
もちろん・・・犯罪者である・・・闇金の主催者・ウシジマくん(山田孝之)は底辺の人間を餌食にして生きる底辺の人間である。
しかし・・・その胸中に去来する幻想は・・・どこか・・・掃溜めの鶴を求めてやまないらしい。
人はそこに美しさを見出したりもする。
だが・・・ウシジマくんよりももっと底辺の存在を感じさせるハブ(南優)でさえも・・・暗闇の中で用心深く、証拠隠滅をする姿には・・・美しさは見いだせる・・・それはお前が悪魔だからだろう・・・。
だから・・・このドラマはさいはてのドラマといえども・・・美しい物語なのである。
底辺からの脱出という若者らしい健気な幻想に憑依されて・・・中田広道(入江甚儀)は裏街道に足を踏み入れる。
読者モデルという・・・ファッション界の幻想の上流に足を踏み入れるために・・・自前で高価なファッションを身にまとう必要があったのである。
幻想のファッション業界である「オサレの世界」の帝王であるG10(藤本涼)に導かれ・・・クレジットカードの窃盗、高級自転車泥棒、違法ドラッグの密売人と犯罪を重ね、その結果、得た資金でオサレに磨きをかけた広道は・・・「オサレの世界」で頭角を現す。
そして・・・読モ界のオサレ天使であるパピコ(紗倉まな)と特別な関係になるのだった。
パピコもまた・・・生活費を切り詰め・・・オサレな生活に身を捧げる・・・広道の同類であり、同志であり・・・かけがえのない仲間であった。
しかし・・・パピコは「ここではないどこか」を求める傾向や・・・「誰にでも優しい」という天使としては当然だが・・・人間としては重大な欠点を持っていたのである。
パピコが誰とでも恋人になるらしいと知った中道は犯罪者である己を省みず・・・パピコを地獄へと突き落とすのだった。
パピコのような存在を快楽の道具としか考えないこの世の鬼畜生たちは・・・パピコを違法ドラッグ漬けにして・・・ついには人格を崩壊させるのだった。
底辺と地獄の境界線を彷徨うフリーター・宇津井(永野宗典)の前を通りすぎるパピコは魂を失った天使、彷徨える亡霊なのである。
やがて・・・パピコは職務に忠実な警官に職務質問され・・・保護され・・・違法ドラッグの流通経路の解明の一助となるのだった。
パピコを違法ドラッグの楽園に導いたのは・・・中田広道が密売した商品だったのだ。
底辺の愚者たちを騙し・・・一人、あぜ道を乗り越えて楽園に旅立とうとしたG10だったが・・・底辺の羅卒たちの監視を逃れることはできない。
素人が職業的無法者にひと泡ふかせることができるのは物語の中だけだ。
G10の身柄拘束につながる情報源である広道は・・・詐欺の被害者であるという情状を酌量されたりはしない。
ハプは広道を拘束し、拉致し、監禁し、拷問にかける。
底辺の狭いバスタブはたちまち・・・水攻めの拷問道具となるのだった。
「お前もG10とつるんで・・・金を持ち逃げしようとしたんだろう・・・オレの金をな」
「そんなこときは・・・しません・・・ブクブク・・・」
「G10の居場所を吐け」
「本当に知りません・・・ブクブク」
「じゃ・・・どうやって二千万円、用意するつもりだったんだよ」
「それは・・・友達が・・・」
「そいつの名前を吐きな」
そこへ・・・ウシジマくんがやってくる。
「名前を言えば・・・殺されるぞ」
「お前・・・誰だ・・・」とハブ。
「お前こそ・・・誰だ」とウシジマくん。
底辺の竜虎対決である。
感触を確かめあう・・・捕食者同志の暴力の応酬・・・凶器を閃かせるハブに一歩も引かないウシジマくんだった。
「金融屋さん・・・」
「お前、金融屋か・・・」
「広道・・・俺はお前の友達とこの部屋で待ち合わせをしたが・・・そいつは・・・約束の時間になっても現れない・・・お前は見捨てられたな」
「あいつは・・・必ず来ます・・・友達だから・・・」
「・・・」
「何の話だよ・・・金融屋・・・お前もタダで帰れると思うなよ」
ウシジマくんとの鍔迫り合いで鼻出血したハブは淡々と恫喝する。
その頃・・・ハブが出資するショップの脱税のための裏帳簿を入手したキミノリ(三澤亮介)はカウカウファイナンスに駆けこんでいた。
裏帳簿を吟味した情報屋の戌亥(綾野剛)は・・・ショップの経営者(久我真希人)から大金を入手できると判断し、三千万円で裏帳簿をお買い上げである。
柄崎(やべきょうすけ)からの報告がウシジマくんの携帯に入るのだった。
「取引は成立した・・・この金は・・・お前が自由にしていいぞ」
ウシジマくんは二千万円を広道に提示する。
「なんだと・・・どういうことだよ」
「走れ・・・メロスだよ」
「なに・・・」
その時、ハブの携帯端末に着信が入る。
「・・・なに・・・G10の身柄を押さえたって・・・そうか」
「・・・」
「どうやら・・・てめえも・・・騙された口らしいな・・・」
「・・・」
「金融屋・・・俺にも金を貸せよ」
「十日で五割だ」
「・・・そうか・・・そのうち、借りにいくよ」
「どうぞ」
お互いを激しく値踏みしながら・・・底辺の捕食者たちはゆっくりとすれ違うのだった。
とりあえず・・・食い物が他にあれば・・・何も危険を犯す必要はないのである。
ただし・・・ウシジマくんは・・・すでにハブのテリトリーに足を踏み入れており・・・一触即発の状態なのである。
だが・・・とりあえず・・・一瞬の平和は訪れた。
ウシジマくんと戌亥そして柄崎の同級生三人は・・・高田(崎本大海)や摩耶(久保寺瑞紀)とささやかな焼き肉パーティーを催す。
そこへ・・・借金返済に現れる宇津井。
いつまで続くかは不明だが・・・宇津井はギャンブル依存から脱却したように見える。
宇津井の借金によって・・・土地財産まで失った宇津井家だが・・・宇津井が心を入れ替えたことで・・・カウカウファイナンスに感謝さえしているらしい。
地獄に仏も気の持ちようなのである。
宇津井は結局・・・身の程をわきまえたのである。
自分を過大に評価し・・・現実との整合性から目をそらし続けるより・・・ありのままを受け入れることはある意味で気楽なことなのだ。
宇津井はゆきずりの女・ユカ(稲川なつめ)とすれ違い・・・ささやかな再会を果たす。
ユカもまた底辺にいて・・・宇津井とは通じ合える何かがある。
一方で高嶺の花であるゲストハウスの管理人・幸(絵美里)は宇津井がいかにときめいても住む世界が違うのだった。
宇津井はその苦さを飲みこむことを覚えた。
未だにそれができないゲイの森下(金谷マサヨシ)は見果てぬ夢を見続けるのだった。
ほろ酔い気分なのか・・・ウシジマくんは債務者たちの幻を見る。
夢を追いかけて海外に旅立ったキミノリ。
パピコと一緒に田舎に帰り、ささやかなオサレショップを経営する広道・・・。
しかし・・・キミノリは裏帳簿の持ち出しを追及され・・・裏社会の闇に消えた。
広道は・・・警察に保護されたパピコから密売ルートが解明されることを阻止するためにハブによって・・・身元を特定されない死体となって・・・口を封じられる。
日本にはおよそ三十万人の行方の知れない人がいるという話である。
そして・・・ウシジマくんは・・・これからもきっとポーカーフェイスで底辺を生きていくのである。
どうか・・・第三シリーズもありますように。
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くう様の【闇金ウシジマくん】Season2 最終回と総括感想
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