はてしない異次元のゾーンの向こうから風が吹いている(桜井美南)
時空を超えて蘇る「眉村卓の世界」・・・。
そして・・・Dナンバーズの世界は・・・単性生殖なのか・・・クローンのように親子が相似形なのだった。
つまり・・・親子は常にアイデンティカ・・・だから・・・結婚は・・・生殖のためではない。
だから・・・アンドロイドと人間が結婚しても何も問題がないのである。
セックスはないのかよっ。
まあ・・・それは冗談として・・・こんな深夜ドラマが見たかった大賞があれば・・・「ウシジマくん」と「ダークシステム」と「なぞの転校生」はものすごいみつどもえの賞レースを繰り広げただろう。
五輪シーズンに咲いた徒花である。
で、『なぞの転校生・最終回(全12話)』(テレビ東京201403220012~)原作・眉村卓、脚本・岩井俊二、演出・長澤雅彦を見た。2014年の冬ドラマもこれで終了である。最後を飾るにふさわしい・・・せつない幕切れ・・・素晴らしい物語の終りはいつでも一抹の寂しさを伴うものだ。公式では「なぞの転校生/眉村卓」のオリジナル世界がD-15世界であることが示される。オリジナル岩田広一(高野浩幸)は時空の流れを超えてやってきたのである。
異次元世界・・・D-8からやってきた王女アスカ(杉咲花)は放射線傷害による「死」を受容する。残された時間を楽しく過ごすことが・・・その望みだった。山沢典夫こと王族護衛官の人間型ロボット・モノリオ(本郷奏多)はその望みを叶えるために全力を傾けるのだった。
一方・・・とんでもない事件に接しながら・・・ムーくんことD-12世界の岩田広一(中村蒼)は淡々と日常を生きるのだった。
休日にはSF研究会部の鈴木(戸塚純貴)や太田(椎名琴音)とともに自主制作映画の撮影を公園で行う。
アスカからヒントをもらって脚本を書いた太田は・・・自分がヒロインとしては役不足だと感じ・・・広一に・・・アスカとみどり(桜井美南)の出演依頼をおねだりする。
「じゃ・・・連絡してみるけど・・・」
広一がみどりに連絡すると・・・みどりはモノリオとアスカとともに公園でピクニックしていたのだった。
要するに・・・みどりとしては友達と友達の使用人とデート中なのである。
あわてて合流した広一は・・・アスカの作ったサンドイッチを食べる。
「どうじゃ・・・」
「おいしいよ・・・」
そこへ・・・鈴木と太田もやってきて・・・「頼んでくれたんですかあ」・・・である。
みどりもアスカもノリノリで出演依頼を承諾するのだった。
なぞの男子転校生とみどりのシーン。
「私・・・あなたと出会う前に好きな人がいたの。でも・・・あなたに出会ってから・・・あなたのことが気になって仕方がないの。あなたに花をプレゼントしたあの日から・・・あなたは覚えているのかしら・・・」
「アンドロイドは忘れることはできないのです」
「まさか・・・あなたがアンドロイドだなんて」
「しかし、私はアンドロイドなのです」
「まるで夢を見ているみたい・・・あなたは夢なんて・・・見ないのでしょうね」
「いいえ・・・アンドロイドも夢を見ます」
「電気羊の・・・夢を・・・?」
「人間の見る夢とは違うのです。アンドロイドは眠らないので・・・今も夢を見ています。発生したパグを修正し、不必要な記憶を圧縮し、メモリの最適化を常に行うプログラムが起動しています」
「未来の夢を思い描いたりもできるの」
「できます。未来を予測することも・・・未来の自分のあるべき姿も思い描けるようにプログラムされているのです」
「アンドロイドに恋をするなんてバカな女と思ってるでしょう?」
「そんなことはありません・・・あなたの愛の告白に・・・私のハートは高鳴ります・・・もちろん・・・そういう言葉もプログラムされているのです」
モノリオはみどりの手を取って自分の胸に導く。
「ほら・・・ハートは高鳴っても・・・私の胸は静かでしょう。なにしろ・・・私にはハートブレイクする心臓そのものがないのです」
「・・・」
「あなたの愛の言葉に私の人工知能は・・・幸福を感じます。しかし、それもプログラムのなせることです。すべては・・・情報処理の結果です」
「人間だって似たようなもの・・・愛なんて・・・一種のフィクションですもの」
「私もあなたの愛を人間のように感じることができます・・・そのようにプログラムされているからです。そして・・・あなたを抱きしめたいとさえ・・・想うことができます」
「そんなこと言われたら・・・私は・・・ますますあなたのことを愛してしまう」
みどりはモノリオのうなじに頬を押し当てるのだった。
「典夫くん・・・私はあなたが好き」
「みどりさん・・・私もあなたを愛してます」
・・・どうやら・・・太田は天才的な脚本家らしい・・・。
なぞの女子転校生と広一のシーン。
すでに・・・公園は夕闇に包まれ始めている。
二人は劇中カメラに背をむけて本編カメラ目線で語りだす。
「そなたには・・・迷惑をかけてしまったな」
「迷惑だなんて・・・」
「異世界からやってきて・・・そなたの心の平安を乱してすまなんだ・・・」
「そんなことはないよ」
「そうか・・・私もあれからいろいろと考えたのだ」
「・・・」
「私は残された時間の許す限り・・・この世界を楽しみたいと考えている」
「・・・」
「この世界にショパンはいない。ショパンの残した美しい旋律もない。しかし・・・私の世界が失ったすべてのものがこの世界にはある。ショパンなどいなくてもこの世界はたとえようもなく美しい・・・」
「・・・」
「私は・・・この美しい世界にやってきたことを神に感謝したい・・・この美しい世界でそなたに出会えてよかった。私の作ったサンドイッチをそなたに食べてもらえて・・・こんなにうれしいことはない」
「・・・アスカ」
アスカは涙が止まらないのだった。
広一は思わずアスカを抱きしめる。
「・・・広一」
「君の涙は・・・とても綺麗だよ」
「・・・広一」
アスカは・・・許嫁のナギサのアイデンティカの胸で泣くのだった。
「まるで・・・夢のようじゃ・・・」
滅んだ世界のたった一人の生存者は・・・つぶやいた。
二人の抱擁をこっそりとモノリオと手をつないだみどりは複雑な表情で見守るのだった。
そして・・・撮影は終了した。
高校生たちと二人のなぞの転校生はそれぞれの思いを胸に家路につくのだった。
翌日、広一とみどりは担任の大谷先生(京野ことみ)から典夫とアスカが別れの挨拶もなしに転校して去ってしまったと告げられる。
すべては・・・一瞬の夢だったように・・・彼らは去って行ったのだ。
それから・・・一ヶ月・・・みどりはようやく夢から覚めた気分になるのだった。
「広一くん・・・明日、二人でどこかへ行きたいな・・・」
「いいね・・・」
下校する二人は公園のベンチに座る江原老人(ミッキー・カーチス)を発見する。
「江原さん・・・」
「どちらさまですか・・・」
「・・・」
そこへ老人ホームの職員がやってくる。
「江原さん・・・ここにいたのね・・・あら・・・あなたたちは」
「僕は江原さんの部屋の隣に住んでいるものです」
「まあ・・・江原さん・・・今は施設に入っているんですよ」
「そうなんですか」
その時、江原の目に一瞬の知性が蘇る。
「おい・・・あの二人・・・頼むよ」
「え・・・」
「あの・・・若い二人だよ」
「二人って・・・」
しかし・・・江原の知性は時空の彼方に消えていった。
翌日・・・広一は寝坊して母親(濱田マリ)に起こされる。
幼馴染のみどりはすでに居間でくつろいでいるのだった。
「ごめん・・・すぐに支度するから」
「そんなにあわてなくても・・・大丈夫よ」
微笑むみどりだった。
部屋を出たみどりの視線は隣室へ注がれる。
みどりと広一は岩田家のドアの前に立つ。
「何か・・・音がしなかった・・・」
「え」
「中にいるんじゃ・・・」
「いや・・・上だ・・・屋上で変な音がする」
二人は階段を駆け上がる。
そして・・・屋上には異次元空間へと通じる白い光のゾーンが開きかけていた。
現れたのは・・・広一の父親の亨(高野浩幸=二役)によく似た男である。
しかし・・・その装束は・・・異世界の住人であることを示すものだった。
続いて姿を見せる広一のクラスメートのそっくりさんたち・・・。
「あ・・・この方は・・・」
「ナギサ様のアイデンティカだ・・・」
その言葉に男たちは広一に恭しくお辞儀をするのだった。
「あなたは・・・あなたたちは・・・」
「私は・・・岩田広一・・・D-15世界の君のアイデンティカだ・・・」
「え・・・お父さんじゃなくて・・・」
「ふふふ・・・年をとると・・・君は父親そっくりになるということだよ」
「・・・」
「私は・・・次元調査団を率いて・・・さまざまな平行世界を旅する岩田広一なのだ」
「次元調査団・・・」
「D8世界の住民をこの世界に導いたのも我々なのです」
「彼らを・・・」
「彼らはどうしている」
「・・・」
「彼らの王宮に案内してください」
「だけど・・・部屋の鍵が・・・」
「異次元への扉を開く我々に・・・鍵のかかった部屋などありませんよ」
「泥棒ですかっ」
二人の広一とD15世界の人々は江原家に侵入する。
無人のように静まり返った室内。
もはや・・・アスカの生命は失われてしまったのか・・・とムーくんが諦めた時・・・アスカの寝室にモノリオがひっそりと佇む姿が見える。
「典夫くん・・・」と思わず叫ぶみどり。
ペッドには・・・瀕死のアスカが包帯だらけの無残な姿で横たわっている。
「待たせてすまなかった・・・」
「お待ちしていました」
「王女の容態は・・・」
「・・・」
「遺伝子修復システムは試したのか?」
「そのために必要なモノリスの残量がありません」
「D15世界に戻ればモノリスは充分にある」
その言葉に広一が反応する。
「じゃあ・・・アスカは助かるのですか」
「もちろんだ・・・」
「よかったわね・・・」とみどりはモノリオに飛びつくのだった。
包帯から覗くアスカの瞳からも涙がこぼれる。
しかし・・・モノリオは泣けない。
「さあ・・・急ごう・・・担架を準備しよう・・・」
担架を待つ間にD15世界の広一はD12世界の広一とみどりに語りかける。
「君に会えてうれしいよ・・・」
「・・・」
「そうだ・・・僕の娘を紹介しよう・・・」
「娘・・・」
「ちょっと・・・恥ずかしがり屋なんだ・・・おい・・・挨拶しなさい・・・」
覆面をとったその女性は・・・みどりのそっくりさんだった。
「娘は・・・母親似なんだ・・・」
「・・・」
「D15世界では・・・岩田広一と香川みどりは結婚したんだよ・・・だから・・・あなたは私の妻のアイデンティカなんだ」
「私が・・・」
「まさか・・・みどりが・・・大人になったらアシタマニアーニャになるっていうんですか」
「分かる人に分かればいいのかっ」
「すみません」
「平行世界にはあらゆる可能性がある・・・広一とみどりが結婚した世界もあれば・・・広一とみどりが出会わない世界もある。加害者と被害者になった世界もあるし、刑事と犯人になった世界もある。医者と患者になった世界もある。多重債務者と闇金業者になった世界もある。猫と鼠になった世界もある。しかし・・・アイデンティカとしてはつながっているのだ」
「まるで・・・万華鏡のように」
「そうだね・・・鏡にうつされたようによく似た世界は・・・学校の教室のようなものだ。どのクラスにも優等生と劣等生がいるが・・・その関係はそれぞれのクラスで違う。あるいは世界における国家のように富めるものと貧しいものがいるが貧富の差は同じとは限らない・・・」
「アスカが幼くして死んだ世界もあれば・・・生れなかった世界もあるのですね」
「そして・・・王女として異次元に旅立つ世界もあるのだよ」
「準備ができました」
王女は担架に乗せられて運び出される。
「急ごう・・・」
「アスカ・・・がんばれ」
王女は無言で広一を見つめ返す。
そして・・・アスカは異次元の世界へと去って行く。
「異次元の構造はまだすべてが解明されたわけではない・・・たとえばD15世界からD8世界には直通のルートがないのだ・・・ある意味で君たちのD12世界は様々な世界への分岐点になっている」
「この世界で乗り換える・・・みたいな」
「その通り・・・二人の幸せを祈っているよ・・・」
もう一人の岩田広一ともう一人の香川みどりの娘もゾーンの向こう側に消える。
最後に残ったのは・・・モノリオだった。
「D15世界の岩田広一は・・・山沢典夫というD6世界からの転校生にあったそうです・・・彼は・・・人間だったそうですよ」
「じゃ・・・異次元の世界には・・・人間の山沢典夫もいるのね・・・」とふと心が揺らぐみどりだった。
「ええ・・・おそらく・・・ヒューマノイドの広一やみどりもいるでしょう」
「滅びた世界もあるし・・・滅びなかった世界もある」
「そうです・・・すべては無限の可能性を秘めているのです」
「また会えるかな・・・」
「ぜひ・・・お会いしたいです」
広一は思わずモノリオを抱きしめる。
「元気でな」
「私はヒューマノイドですからいつも元気です」
みどりは握手のために手を出した。
夫になるかもしれない広一の前で抱擁は自制したらしい。
その手に跪いて接吻するモノリオ。
みどりもまた・・・D8世界では王族だったのである。
「みどり様に・・・千代に八千代に繁栄がありますように」
「・・・」
そして・・・モノリオは時空の彼方に消えていった。
ゾーンは閉じられ・・・D12世界には一陣の風と一筋の光が残された。
広一とみどりはいつまでも空を見上げていた。
「あの人に・・・また会えるかしら・・・」
「あらゆる可能性があるし・・・そして世界はつながっている・・・きっと会えるよ」
「私たち・・・結婚するのかな」
「それは・・・君次第じゃないのかな」
広一はみどりを見つめ・・・みどりは意味深な笑みを返すのだった。
その瞬間・・・広大無辺な平行世界では・・・みどりの膣内に大量の射精をしている広一がいる。墜落する飛行機の座席で手を握り合うみどりと広一がいる。野球場の観客席でアイドルグループの国歌斉唱を見つめる二人。海岸で壜に未来への手紙を埋める二人。怪盗とその妹の二人。官兵衛と光姫の二人。敵対する国家の元首としての二人。同じ教室で解答用紙に向かいあっている二人。みどりの浮気に一人酔いしれる広一・・・。
そして・・・別世界でのゾーンの開閉によって生じた流星を発見する二人がいる。
「あ・・・流れ星」
「何か願い事をしたのかい」
「それは秘密」
「なんで・・・隠すんだよ・・・」
幼馴染の二人は微笑む。
二人はまだ童貞と処女だった。
世界の連鎖は無限で果てしなく存在しているのだった。
時ににぎやかに・・・時にひっそりと・・・。
関連するキッドのブログ→第11話のレビュー
シナリオに沿ったレビューをお望みの方はコチラへ→くう様のなぞの転校生
| 固定リンク
コメント
名作ーーー!でしたわね。
もう、1月期はこれと「ウシジマ」だけでようございました。
「ダークシステム」も良かったのですね…私は、そこ、捨ててしまったのですね。ああ、もったいない。
>五輪シーズンに咲いた徒花である。
まさにそれですよね。
素晴らしく美しい花でした。
テレ東のこの枠は名作が多いですが、たった30分で、たぶん低予算で、
これだけの世界を毎週作れるのだなぁ…という事に感動。
ドラマの可能性はまだまだ広がります。うーーん、奥深い…。
冬期もお世話になりました。
どうぞ春もよろしくお願い致しまする~。
投稿: くう | 2014年4月 4日 (金) 01時17分
とにかく・・・スペクタクルは望めないけれど
日本にだってSF的なドラマは作れる・・・
そういう礎というか標になってましたなあ。
「ダークシステム」は「ドタバタナンセンス」の極みで
1~2話は微妙だったのですが
終わってみれば
すべての登場人物が愛おしい感じに仕上がっていました。
まあ・・・基本的には男の子向けの話かもしれません。
やはり、犬童監督は簡単に見捨てられないのですな。
しかし・・・当たり外れが大きいからな・・・。
春ドラマは「大根→犬童」という深夜リレーがあり
ここの処理だけでも困った感じになりそうです。
冬ドラマはくう様のお陰で
なんとか「ウシジマ」「なぞ転」「明日ママ」を
書き終えることができました。
やはり・・・一人旅はきついですからな。
どうか春もよろしくお願いいたしまする。
投稿: キッド | 2014年4月 4日 (金) 03時20分
やっと全部観終わりました。
カメラが回っている描写の無い、みどりと典夫のシーンがすばらしい。みどりのセリフがすばらしい……。これは果たして、マグネシウムヒューマノイドのみた夢だったのでしょうか(涙)。
ラスト。2人の記憶は「トータルリコール」したのでしょうか。
これら謎は謎のままが美しい。
投稿: 幻灯機 | 2014年6月 1日 (日) 17時15分
一度でも、ムービーを
撮影したことがあるものなら
この甘酸っぱさは・・・
とろけるようで
せつなくて・・・
たまりませんな。
青っぽいフィルム派。
赤っぽいフィルム派。
どちらも満足させる仕上がりでございました。
かっては・・・多次元世界や
平行宇宙が
いつでもどこでも
寄り添っていたものでした。
身近で日常的なもうひとつの別の世界。
もちろん・・・今でも深夜のアニメには
残されているわけですが・・・
少し・・・非日常的過ぎる気もするし
あまりにもありふれた感じもいたします。
みんなは知らないだろうけど
私だけが夏への扉の鍵を持っている・・・。
そういう孤独な優越感が・・・
ある種の若者には必要不可欠なのですよねえ。
そして果てしなく続く空の下・・・
天使が舞い降りるのでございます。
投稿: キッド | 2014年6月 1日 (日) 23時23分