松永久秀曰く、百地三太夫でも風魔小太郎でもないのでござる(ミッキー・カーチス)
2014年の冬ドラマ・・・ミッキー・カーチスはNHK総合の「紙の月」で資産家の有閑老人を演じ、テレビ東京の「なぞの転校生」では異次元人に操縦される認知症老人、「慰謝料弁護士」では主人公の色ボケ父親を演じてついに怪しさ爆発の松永久秀役である。
スタッフのみんな・・・映画「ロボジー」(2012年)を見たのか・・・。
ビジュアル的には百地三太夫とか風魔小太郎とか戸澤白雲斎もできそうである。
今回は戦国時代の人質事情が主題になっていたわけであるが・・・松永家が織田家に差し出していた人質は松永久秀の子ではなく、久秀の嫡男・久通の子であるという説もある。つまり、孫である。
形式上では官兵衛は小寺政職の養女を母としているために・・・官兵衛の子は政職の孫ということになる。
徳川家康や、武田信玄のように自ら実子を殺す武将も実在する時代である。
しかし、血縁にはそれなりの価値があり、主従の証として質を出すのは慣例化している。
預かった人質に恩を施し情で縛るのも常套手段であった。
官兵衛が小寺氏の養女を母に持ち、小寺氏の一族を妻としたように・・・女も血縁で相手を拘束するために有効な手段だった。
女が婚家と実家の板挟みになるのは日常的な風景だったとも言える。
浅井家に嫁いだお市が兄・信長に危機を伝える情報を伝えたり、徳川家に嫁いだ五徳が父・信長に夫・信康を讒言したりするわけてあり・・・スパイとして働く姫たちもいる。
官兵衛の妻・光も実家の櫛橋家にはある程度官兵衛の動向を伝えていると思われる。
家康が織田家や今川家への人質だったように、官兵衛も小寺家への人質だったわけであり、人質であることによって出世の糸口をつかむ場合もあったし、織田信忠の許嫁・武田松姫のように・・・軍事同盟解消のために婚約解消という場合もある。
松永久秀を討った筒井順慶は幼少だったために実母を織田家に人質として差し出している。
筒井順慶の妻の姉は明智光秀の妻である。
光秀は母を波多野氏への人質としたためにこれを殺害されたという伝説も持っている。
光秀の娘・細川ガラシャの悲劇も人質がらもである。
秀吉も家康をおびき出すために母や妹を人質に差し出した。
徳川家はこれを制度化して・・・参勤交代に結晶させる。
家康ほど・・・人質というものを味わい知悉していたものはいなかったとも言えるだろう。
で、『軍師官兵衛・第12回』(NHK総合20140323PM8~)脚本・前川洋一、脚本協力・穴吹一朗、時代考証・小和田哲男、演出・大原拓を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。14行に盛りかえしましたな。まあ、増量したのは松永久秀の名物化批判でしたけれどもーーーっ。まあ、出せばいいってもんじゃないだろう的に同感でございます。時代考証の人は「天地人」(2009年)、「江〜姫たちの戦国〜」(2011年)とどんどん、まあいいんじゃねえの的になっているような気がしますなあ。なんとなくですけど・・・このドラマ・・・半島進出はおろか・・・関ヶ原もなしで・・・北条征伐までしか描かないのではないか・・・という危惧が生じています。まさかとは思いますけどね。だから雑談はコメント欄でやれと・・・今回は織田家宿老で現在・織田信忠付家老の林通勝(林秀貞)と滝田栄版の徳川家康の二大イラスト描き下ろしでお得でございます。「信長 KING OF ZIPANGU」で林通勝を演じた亡き宇津井健さんのご冥福をお祈り申し上げます。
天正五年(1577年)、あるいは前年に松寿丸(黒田長政)は人質として近江長浜城に差し出されている。尚、小寺政職には氏職、正則などの実子があったとされる。小寺氏と黒田氏、織田家と羽柴家の微妙な主従関係が松寿丸の人質としての価値を曖昧なものとしていると言える。織田家から見れば、実質的な武力を有する黒田家からの人質は歓迎されたと考えることも可能である。官兵衛には同母の利高、異母の利則、直之などの弟があり、人質候補は多数いたと考えることもできる。さらに言えば松寿丸がいなくても黒田家の後継者には不自由しなかったわけである。この後、あの事件によって黒田官兵衛が不在となっても黒田家が動揺しないのは父・職隆と弟たちが健在だったからである。一方、信長の嫡男・信忠は天正四年(1576年)に家督を譲られて岐阜城主となり、名目上の織田家総領となっている。言わば信長会長と信忠若社長という関係である。信長は織田家宿老筆頭の林秀貞を信忠の付家老として、岩村城攻め、雑賀攻め、信貴山城攻めの総大将となる信忠を補佐させている。信貴山城攻めには・・・大和国主の筒井順慶の後ろ盾となる明智光秀と、羽柴秀吉、佐久間信盛、細川藤孝という織田軍団の有力武将を指揮下に置き、信忠は松永家を滅亡させたのである。この至れり尽くせりぶりが・・・信長の強力な父性愛を如実に物語っている。
播磨国姫路城から、近江国長浜城までにはいくつかのルートがある。信長に臣従している山名祐豊の但馬国に入り、丹後国を経て、山城国に入り、京から近江国へ向かう路。しかし、丹後の一色氏は織田に対する旗色が不鮮明となっていた。海路で摂津国に入るのが最速だが・・・制海権は毛利氏にあるのである。結局、陸路で摂津に入り、同盟軍の荒木氏の領地を抜け、京の都から近江に至る路を人質・松寿丸護送隊は選んだ。
官兵衛自らが指揮をとり、栗山善助、母里太兵衛、井上九郎右衛門らいつものメンバーが護衛についている。もちろん、配下には黒田忍びが従っている。松寿丸は輿に乗せられ、前後を徒歩のものが固め、さらに前方を騎馬武者が先駆していく。
播磨から摂津、京の都までは順調に行程が進み、ほぼ織田家の勢力圏内と言える近江国に入ったことで・・・一行は一息ついていた。
明智光秀の坂本城から琵琶湖を渡り、長浜へ向かう手筈である。
元亀二年の比叡山焼き討ちから六年、無残な姿をさらした延暦寺周辺はそのままになっている。しかし、自然の力は山を緑に染めていた。
光秀の坂本城は叡山の復興を許さず、監視するために築城されているのだった。
その山路を抜けていた松寿丸護送隊の黒田忍びが警戒の合図の笛を吹く。
一同に緊張が走った。
官兵衛は火縄の匂いを嗅いだ。
「鉄砲じゃ・・・輿を固めよ」
竹束の盾が立てられた瞬間、銃声があがり、盾に着弾があって一部が破損する。
間一髪であった。
「松寿丸様」と栗山善助が悲鳴のように呼び掛ける。
「大事ないらあ」と松寿丸は落ち着いた声で答える。
すでに狙撃者に向かって黒田虎の子の五人の鉄砲忍びが威嚇射撃を開始している。
「斬り込みに備えよ」と官兵衛は命じた。
官兵衛たちは輿の四方を囲む。
すでに・・・黒田忍びの一隊が狙撃者に向かって突撃していた。
黒田家兵術指南の新免無二に鍛え上げられた精兵の足軽しのびである。
逃走に転じていた狙撃者は一人だった。
逃れられぬと覚悟した狙撃者は自害して果てる。
「周囲に曲者はありませぬ・・・」
警戒にあたった忍びが報告する。
狙撃者は修験者の装束を身にまとい・・・鉄砲のみで武装していた。
「何者でしょうか・・・」と井上九郎右衛門がつぶやく。
「わからん・・・根来か・・・雑賀の鉄砲忍びのようだが・・・」
「いずれにしろ・・・織田に恨みを持つものでしょうな・・・」
味方であることを示すために使った織田の旗印が狙われたらしいと判断した栗山善助がささやく。
「それもある・・・まさか・・・松寿丸を人質と知って狙ったとも思えんしな・・・」
「いえ・・・それは違いまする」
樹上から声がした。
「何者だ」
「赤影参上・・・」
「何・・・」
「拙者は秀吉様の忍びのものでございます」
「なんと・・・」
「これより先に兵が伏せてありました・・・その曲者はその中から討ち漏らしたものでございます」
「・・・」
「その他の伏兵はすでに討ち果たしましたが・・・本願寺勢でございました・・・中に播州なまりのものがおりました・・・」
「すると・・・家中の毛利贔屓のものが手引きしたか・・・」と栗山善助。
「身元を詮議しても・・・無駄じゃろうのう・・・」と母里太兵衛。
「ともかく・・・これより先は我らがお守りしますので・・・橋場へお急ぎくださりませ・・・」
「かたじけない・・・」
官兵衛は姿なきものに応じ、一同に出発を命じた。
影の忍者たちは・・・幽かに動く気配だけが感じられる。
(油断ならぬ・・・)
官兵衛は我が子が揺られる輿を不安まじりに見つめるのだった。
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