呉子・治兵篇に曰く、凡兵戰之場、止屍之地・・・と軍師官兵衛(岡田准一)
「呉子」は武経七書の一つである。
「呉子四十八篇」のうち、現存するのは「六篇」と言われる。
今回、官兵衛が引用するのは第三篇とされる「治兵篇」である。
この篇は将兵の統率について語られる。
引用された「およそ兵戦の場は、止屍の地なり。死を必すればすなわち生き、生を幸すればすなわち死す」は戦場での心構えであり、戦場では死体となるのが普通であり、それを普通とする覚悟がないと充分な働きができないという一種の逆説を展開します。つまり・・・危機的状況を目前にして平常心を失うことによって実力が発揮できず・・・それが敗北・・・すなわち死を招くという話です。
この後、呉子はこう続きます。
「つまり、優れた将軍とは沈没しそうな船に乗っているが如く、常に死を覚悟しているものだ。死を覚悟しているからこそ、修羅場においても平常心で智勇を発揮できるのである」
まあ・・・この「展開」は・・・「今」ですと・・・物凄い説得力を持つわけです。
もちろん・・・「非常事態なので自分の命を最優先」も・・・冷静に判断したとするならそれなりに尊重されるべきなのかもしれません。
船長としては駄目なのかもしれないが・・・多くの犠牲を出して生き残ったことはそれなりに寿ぐべきことなのですから。
とにかく・・・自分の死を計算に入れないと戦争は成立しないのですな。
勝負は時の運と申しますので、絶対に死にたくない将軍の選択肢は「退却あるのみ」なのですから。
退却する場所がどこにもなくなった時・・・それでも退却選べば勝利するのが困難であることは言うまでもありません。
で、『軍師官兵衛・第17回』(NHK総合20140427PM8~)脚本・前川洋一、演出・本木一博を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今週は十六行で一行アップ。まあ、鬱を発して行く荒木村重の描写はなかなかに丁寧ですからな。まあ、そこだけ・・・という見方もできますが。そもそも尼子軍は出雲国の敗残者ですが・・・尼子氏は一時は播磨国を浸食していた過去もあるわけで・・・播磨国人がそんなに感情移入するはずはないのですな。それをこともあろうに・・・友軍物語に仕上げるとは・・・。まあ・・・出雲国民にとっては一応・・・英雄の一族で・・・最後が悲劇的なのでそれなりに仕上げるのは構わないのですが・・・軍師官兵衛・・・戦国武将というよりは熱血中学生になってますなあ。そんなこんなで今回は続・・・山中内匠長俊(戸浦六宏)の描き下ろしイラスト大公開でお得でございます。妄想マップではついに本人のまま登場。柴田配下の忍者としては上月城加勢の忍び衆に撤退指令を伝達しにくるのは当然でございますからね。
天正六年(1578年)五月、播磨・美作国境の上月城(城主・尼子勝久)を吉川・小早川・宇喜多の連合軍六万が囲む。これに対し羽柴秀吉は毛利方を挟撃するべく高倉山に一万の軍を布陣させる。東の織田軍の播磨国の主城・書写山には織田家総帥の織田信忠軍が到着しており、敵方となった三木城(城主・別所長治)攻略戦のために・・・織田家各方面軍からの抽出兵力(遊軍)が続々と播磨国に到着している。自ら戦場に現れた荒木村重を始め、明智軍、丹羽軍、滝川軍など織田の近畿以西勢力が集結し、その数はたちまち七万に達する。さらに織田軍は信長の率いる五万が播磨に侵入する手筈だった。しかし、梅雨に突入したために交通事情が悪化し、石山本願寺包囲戦の予備兵力に不足が生じたために信長の出兵は延期される。この期をとらえて羽柴秀吉は六月、上洛中の信長に謁し、上月城からの撤退と三木城攻略の一本化を提案する。現場司令官としては独自の判断も可能だったが、尼子勝久が柴田勝家系列の客将だったために・・・信長の承認を仰いだのである。信長も東西に敵を持つ播磨方面軍の不利は承知しており、上月城を捨て、三木城を取る秀吉の作戦を即断で支持する。秀吉は尼子勝久に撤退を進言したが・・・尼子軍は上月城に固執し、脱出を拒む。秀吉は予定通り六月中に撤退を開始。七月、小規模な野戦を行った尼子軍は毛利軍に降伏し、城主は切腹して果てる。捕虜となった尼子の家臣たちは毛利軍によって粛清されたと言われる。毛利・宇喜多連合軍は戦意に乏しく、小さな勝利に満足して国境線から撤退する。もちろん・・・野戦を挑んで敗北するのを毛利家が何より惧れたことは言うまでもない。結果として、三木城七千人の将兵は・・・織田軍の対毛利軍団七万人を相手にすることになる。秀吉は周辺の小城を陥落させ、三木城を裸にするとおよそ三万人に膨れ上がった自軍兵力で包囲戦を開始するのだった。役割を終えた遊軍は粛々と自分たちの持ち場に引き上げるのだった。そもそも・・・尼子軍は秀吉軍にとっても播磨国軍にとっても余所者で厄介者であったことは間違いないだろう。
「兄上・・・信孝ただ今・・・到着しました」
「うむ・・・今宵は休むがよかろうず・・・明日、神吉なる小城を攻めるで本陣に加わるがよい」
「いえ・・・信孝は父上より城攻めの大筒を預かってまいりました。早速、ご披露したく存じまする」
「ほほう・・・それは面白い」
「滝川と九鬼が作りし、新しき軍船のために開発されたものを山車に乗せ、自走砲として用いまする」
「それは見ものじゃのう」
強力な試作野戦砲は・・・神吉城を一撃で炎上させた。
見物の播磨衆は織田軍の妖怪じみた武力を畏怖した。
神吉城の炎上を見た志方城は開城降伏を申し入れる。
その炎を見ながら、夜の播磨路を甲賀の忍びたちが走って行く。
落城した上月城から脱出した山中大和守俊房と俊房の又従兄弟の山中内匠長俊の主従である。下忍の一人、猫田与助は尼子勝久の忘れ形見・勝若丸を背負っていた。
武士の意地を貫いた尼子主従の最後はそれなりに天晴れなものだったが・・・闇に生きる忍びたちに特に感慨はない。
今はただ・・・主君・柴田勝家の元に勝若丸を送り届け・・・事の顛末を報告するのみである。
黒田官兵衛は義兄・櫛橋左京進の切腹を見届けると・・・竹中半兵衛の指図で・・・尼子家家臣だった亀井茲矩と共に備前岡山城に向かっていた。
亀井茲矩もまた義兄弟である山中幸盛(鹿助)を失っており、それなりの共感を持った二人である。
しかし・・・そのことを語ることはない二人だった。身内の死は戦国の習いである。
亀井は一回り年上の官兵衛に頼み、鹿助の遺児たちの身を託している。
「鹿助殿に何か意向はあるかのう」
「できれば武士にはしたくないと申しておりました」
「では・・・僧か・・・」
「いや・・・商人がいいのではないかと」
「なるほど・・・」
官兵衛は元々、商人上がりの一族の長である・・・心当たりはあった。
二人がそんな会話をしている頃・・・街道沿いでは・・・安国寺恵瓊配下の忍び坊主が狙撃の機会を狙っていた。
官兵衛を発見した忍び坊主は風下に位置して・・・鉄砲を構える。
しかし・・・引き金を引こうとしてその指が止まる。
「おい・・・」
誰かが声をかけたのだ。
その声は何故か忍び坊主の足元から聴こえるのだった。
驚いた坊主は身構えようとして身体が動かないことに気がついた。
「お前の身体は動かない・・・なぜなら・・・お前の影が動かないからだ」
「・・・」
「お前の影には心の臓がないぞ・・・」
「・・・」
「だから・・・お前にも心の臓はない・・・」
ひっと忍び坊主が声を漏らす。苦悶の表情が浮かぶが身体はまったく動かない。
そして・・・鉄砲を取り落とした忍び坊主は呪縛から解き放たれたように転倒する。
すでに息絶えていた。
「飛騨忍法・・・影縛り」
忍び坊主の影からむくりと起きあがったものがある。
「悪く思うな・・・官兵衛様の護衛が半兵衛様に申しつけられたおいらの仕事でな」
少年忍者・青影は・・・木々の影に溶けて消える。
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