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2014年4月27日 (日)

私は見守っている(薬師丸ひろ子)私は密着している(麻生久美子)誰かと一緒に虹を見たことがありますか?(二宮和也)

「泣くな、はらちゃん」(2013年)では麻生久美子も見守られていたわけである。

「Q10」(2010年)では美少女ロボットを見守っていた。

三本目なのでこの枠の常連と言ってもいいだろう。

この枠はさまざまなチャレンジをする枠だが・・・「Q10」→「泣くな、はらちゃん」→「弱くても勝てます」は同じカテゴリーに属していると言っても良いだろう。

それは・・・静かで穏やかで気がつくと虹が出ている世界を背景にしている。

それは・・・普通の騒がしく、荒々しく、空模様などあまり気にしない世界を否定するのである。

つまり・・・そういう普通さを「異常」と感じさせたいわけである。

それはあえていえば「競争社会」の否定の側面を持っている。

「勝ったって・・・負けたってたいしたことないんじゃないか」という諦念の世界だ。

薬師丸ひろ子はいないが・・・この枠の同じジャンルには「すいか」とか「マイ☆ボス マイ☆ヒーロー」とか「妖怪人間ベム」とか「セクシーボイスアンドロボ」とか「銭ゲバ」とか「野ブタ。をプロデュース」とか「1ポンドの福音」とかがあるわけである。

凄いのは「銭ゲバ」という原作でさえ・・・静かで穏やかで気がつくと虹が出ている世界にしてしまうことだ。

もちろん・・・そんなドラマばかりではどうかと思うが・・・ああ・・・これは例のアレだな・・・と思うとつい見てしまう。

それほどのオリジナリティーがあると考える。

この不思議な世界に存在したことで・・・「あまちゃん」の鈴鹿ひろ美は生まれたという気さえする。

で、『弱くても勝てます 〜青志先生とへっぽこ高校球児の野望〜・第3回』(日本テレビ20140426PM9~)原作・高橋秀実、脚本・倉持裕、演出・池田健司を見た。だから・・・タイトルとは裏腹に小田原城徳高校は最後まで勝ったりはしないだろう。こんな野球部が勝ったりしたら・・・競争社会の強い野球部は涙目である。しかし・・・勝ったって負けたってたいして違いはないのである。それでも・・・青志(二宮和也)は「俺は勝つためにやるんだ」と主張するのである。なぜなら・・・野球もゲームである以上、最初から負ける気ではあまり面白いとは言えないからだ。もちろん・・・物凄い強いチームがどうしたら負けることができるかという楽しみ方もあるが・・・それではあまりにも変態だからである。

「弱いけど勝とうとすること」はとても大切なことなのだ。

勝とうとして負ければ口惜しいからである。

ある意味、口惜しさこそが・・・人間の生きる原動力なのだ。

「負けるのが分っているから勝とうとしない」のはあまりにも死んでいるのだ。

ほんの一握りの勝者から・・・「勝負にならない」烙印を押された敗者が・・・口惜しさを胸に立ちあがる・・・それが人生なんだなあ。

その日は特別な日で・・・朝食を求めてやってきた青志は「サザンウインド」の扉が閉ざされていることに戸惑いを感じる。

しかし・・・経営者の樽見楓(薬師丸ひろ子)と娘の柚子(有村架純)はすぐに顔を見せる。

その日は・・・柚子の父親の命日だった。

「最後に見た野球の試合が・・・あの親善試合だったなんて・・・かわいそうだったなあ・・・せめてどんなにつまらないカードでもプロ野球を見せてあげたかった」

あの親善試合とは・・・青志が・・・堂東学院の谷内田健太郎(市川海老蔵)に侮蔑された試合である。一点も一死もとれない・・・一方的なコールドゲーム。

柚子はその日、父親に・・・「私の方が上手い」と主張し・・・父親は「柚子の試合が見たい」とお愛想を言ったのである。

そして・・・まもなく父親は逝去した。

だから・・・この季節になると・・・袖子は「私が選手になりたい」という無理を言い出すのだった。

もちろん・・・男女雇用機会均等法からもっとも遠い高校野球という・・・男尊女卑のスポーツでは・・・女子に選手の機会を与えないのが基本である。

高校野球は悲しいほどの男の世界なのだ。

柚子が何を言っても・・・それは「狂気の沙汰」なのであった。

だが・・・小田原城徳高校の野球部では・・・それが一笑にふされない。

なにしろ・・・男子野球部員の実力が・・・女子マネージャーと大差ないのだった。

部室にゴキブリが出た時など・・・ガッツではむしろ・・・柚子の方が勝るのである。

すっかり・・・野球部に密着して面白い特集記事をものにしようとしているスポーツ専門誌「トロフィー」の記者・利根璃子(麻生久美子)も・・・試合に出なくても柚子が選手として参加した方が・・・題材になると考えるほどだ。

一方で・・・監督の座を青志に奪われた増本(荒川良々)は治療用の冷却スプレーでゴキブリの行動力を奪う柚子の行動に「備品の運用方法の不備」を指摘する。

それはさておき・・・青志の頭を悩ますのは・・・ピッチャー赤岩(福士蒼汰)の家出問題だった。

浮世離れした三条校長(笹野高史)も「それだけは解決してくれ」と青志に命じるのだった。

赤岩は・・・住み始めた学校から青志に追い出され・・・一人暮らしのファースト亀沢(本郷奏多)の家に転がり込む。

そして・・・いつも居眠りばかりしているファースト亀沢の「事情」を知るのだった。

東大進学を目指し・・・親元を離れて進学校にやってきたファースト亀沢は貧乏だったのである。

ここから・・・早朝新聞配達、家庭教師などのアルバイトで学費を稼ぎ、猛勉強している野球部員の睡眠不足問題がクローズアップされる。

赤岩は・・・亀沢の窮乏に手を差し出したいと考えるが・・・亀沢からは・・・「人の心配してないで家に帰れ」と忠告されるのだった。

野球部随一の実力者・サード白尾(中島裕翔)は「選手になりたい病」で傘やふとんたたきをふりまわす柚子を案じて・・・恋仇の赤岩になんとかしろとせっつくのだった。

「大抵のこころの病はセックスすれば治る」と高校時代のキッドのクラスメートは言っていたがこの「この枠の世界」には「いじめ」があっても「セックス」がないのが基本である。

野球部員に・・・亀沢の貧困問題を持ち込む白尾だが・・・部員たちの経済援助はストレートすぎて・・・亀沢のプライドを傷つけるのだった。

そんな白尾に・・・「お前は人の話を聞かない」と説教する青志。

「でも・・・あいつが貧乏なままだと・・・居候として気が引けます」

「バカ・・・あいつはお前になんて言った・・・家に帰れって言っただろう・・・お前が心配しているんじゃない・・・あいつに心配されているんだよ」

「・・・」

青志にアドバイスされた赤岩は柚子と話し合う。

「選手はあきらめて・・・マネージャーに戻ってくれ」

「じゃあ・・・家出をやめるって約束して・・・」

「・・・わかった」

「・・・約束守ってよ」

恋人たちの話がかみ合って湘南の海には虹がかかるのだった。

そういうあれやこれやのなか・・・バッティングセンターで闘志を見せる柚子に出会った谷内田は・・・小田原城徳高校の野球部がふと気になる。

・・・柚子はまだ・・・自分が選手をすることにこだわっていた。

そんな柚子に母親は・・・「あなたは覚えてないかもしれないけど・・・お父さんの言葉には続きがあったのよ・・・お父さんは青志くんは・・・弱くて下手で・・・勝てないかもしれないが・・・やるべきことはやっていたって・・・」と諭すのだった。

「でも・・・野球部やめちゃったじゃない・・・」

「だけど・・・高校を卒業するまでずっと・・・あなたとキャッチボールしてくれたでしょう・・・お父さんの代わりに・・・」

「・・・」

柚子は思い出と会話するのだった。

一方・・・お茶の間を驚嘆させる・・・豪邸に戻った赤岩・・・。

赤岩の父親(光石研)は「一生困ることがないほど金があるのに働くつもりはない」と息子に断言するのだった。

赤岩は・・・無職のくせにガールフレンドの柚子の母親に懸想している父親がなんとなく嫌だったわけだが・・・そう断言されると返す言葉がないのだった。

お茶の間の多くの人々も口惜しさを感じつつ納得するしかないのである。

そんなこんなで・・・青志がへっぽこ野球部のために用意した練習メニューは・・・三塁コーチの走塁誘導のコーチングだった。

「ストップ」「ベースでストップ」「回れ」の合図を打球の行方を見ながら走者に伝えること。

そんな基本的なことができない・・・「彼ら」なのである。

青志にとって異常な「世界」から・・・青志の普通の「世界」を探査しに来た谷内田は・・・青志の選手たちへのメッセージに感ずるところがある。

「お前たち・・・自分のことばかり考えるな・・・相手のことを考えろ・・・どういうタイミングでどう言ったら・・・相手にとっていい結果を生むか・・・せっかく頭がいいんだから・・・考えてみろ・・・」

谷内田は無言で・・・ライバル高校の生徒たちに打撃のお手本を見せてくれるのだった。

青志はそのことに幽かに頭を下げるのである。

かって青志もまた相手のことを考えない高校生だったし・・・谷内田もそうだった。

そして・・・今は二人とも少し大人になっているのだった。

「選手になりたい病」期間を抜けた柚子は・・・青志にキャッチボールをせがむ。

昔は・・・柚子の投げるボールも補給できなかった青志もなんとか・・・今は相手になる。

ボールを交換しながら柚子は「ありがとう・・・青志くん」とつぶやく。

その光景を見下ろす柚子の母親は「ちゃんと聴こえるように言わないとねえ」と愛娘を愛おしむのである。

早朝・・・新聞配達中の亀沢を急襲した野球部員たちは配達を手伝うことを申し出る。

「余計なお世話だよ」

「手分けしてやれば早いだろう」

「ランニングのついでだよ」

「お前のためじゃない・・・野球部のためさ・・・」

「・・・ありがとう」

勝利への道は遠く険しい。

その一歩が前進しているのかどうかも疑わしい。

しかし・・・それでもやるべきことをやることはできるのだ。

それが・・・青春なのだった。

植物は何も考えなくても光合成をしているのかもしれない。

しかし・・・本当はじっくり考え抜いて光合成をしているのかもしれない。

植物の心を人は想像するしかないのである。

関連するキッドのブログ→第2話のレビュー

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