兵法三十六計の三十・・・反客為主と軍師官兵衛(岡田准一)
三十六計は「孫子」とは基本的に無関係である。
しかし・・・一種の民間伝承として「孫子」のエッセンスのダイジェストは各時代で行われていただろう。
「三十六計」の最終形態は関ヶ原以後の17世紀に成立したと言われるが・・・「孫子の計略のすべて」とか「誰にでもわかる孫子兵法」とか「孫子三十六の秘密」とか・・・そういう俗書は「孫子」成立以後、日本の戦国時代に至る二千年の間に夥しく記されたと思われる。
軍事同盟については第二十五計から第三十計までの「併戦の計」にまとめられる。
現在、ロシアとウクライナの緊張が世界を騒がせているわけだが・・・これも一種の「反客為主」の状況である。
「反客為主」とは単純に言えば「客と招かれていたものが主人となる」ということである。
ロシアとEUに挟まれたウクライナは毛利家と織田家に挟まれた播磨国と似ている。
EU化するか・・・ロシア化するかでウクライナは揺れるのである。
どちらにせよ・・・外部から来たもの(客)がいつのまにか国政の主導権を握るということである。
播磨国の土豪たちは「織田家」につくか、「毛利家」につくかという自主的な判断をしているように見えて、実際は播磨国の国土をすでに・・・他国に奪われていることになる。
また・・・播磨国の土豪たちが「毛利家」に従うことを示したことは・・・「織田家」あるいは方面軍司令官の秀吉を苦境に追い込んだように見えるが・・・実際は他国ものに実質的な侵略の大義名分を与えたということにもなる。
結果として・・・下剋上が成立し・・・播磨国の古い支配者たちは滅び去ることになるのである。
大局に立てば・・・別所長治の反織田宣言は・・・織田家の思うつぼだったと言えるのだ。
「緩やかな同盟よりも・・・敵として戦争した方が支配権が明確になる・・・」と黒田三代の当主・官兵衛は秀吉に進言したであろう。それでこそ軍師なのである。だからこそ・・・播磨国の土豪の家老家に過ぎなかった黒田家は四代目で一国の主となるのだった。
天下太平はその余波にすぎない。
戦争が局所的な状況である以上、平和も局所的な状況なのだ。
庇(ひさし)を貸せば母屋を取られるのである。
で、『軍師官兵衛・第15回』(NHK総合20140413PM8~)脚本・前川洋一、演出・大原拓を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。十七行にダウンでございますな。見慣れぬものたちの暗躍をどのように映像化するかがドラマの醍醐味でございますからな・・・櫛橋家の陰謀・・・みたいなことを言われても赤面するしかないですなあ。安国寺恵瓊は黒幕中の黒幕・・・別所の三木城にいるならば話は分かりますがねえ。まあ・・・ドラマですから櫛橋伊則に見せ場を作ることはやぶさかではないのですが・・・もう少し苦渋があってしかるべきですよねえ。三木城と御着城の中間点に位置する志方城だけに・・・恐怖が先立つわけでしょうし。今回は「真田太平記」より信州忍びの棟梁・壺谷又五郎(夏八木勲)の大迫力二大イラスト描き下ろしでお得でございます。こちらでは柴田勝家配下の甲賀忍び山中山城守とその配下に転生しておりますぞ~。・・・私信はコメント欄でやれと何度言ったら・・・。
天正六年(1578年)一月、右大臣織田信長は正二位に昇進する。生前の信長の官位はこれが最高位である。後継者・織田信忠は従三位・左近衛中将である。石山本願寺攻めの主将は佐久間信盛、対上杉謙信の主将は柴田勝家であり、それぞれ、戦場にある。明智光秀は亀山城を本拠地として細川藤孝とともに丹波国攻略のために八上城包囲戦を開始している。滝川一益は九鬼嘉隆とともに伊勢国で来るべき毛利水軍との決戦における軍船開発を継続中である。徳川家康は対武田勝頼戦を継続中で子作りにも励み、後の徳川秀忠を西郷局に仕込んでいる。羽柴秀吉は播磨国の占領報告を行った後に信長から指示を仰ぎ第二次播磨遠征のために近江国長浜城において軍事編成を行う。亡き武田信玄の相婿である本願寺顕如は徹底抗戦の構えを崩さず、播磨国の門徒衆にも盛んに一揆を推奨する。丹波国の赤井家に属する波多野秀治は外戚として婿の別所長治に調略をかける。毛利家の軍使僧侶たちは播磨国の地侍たちに本領安堵を約し、毛利家への寝返りを工作する。三月、突如として別所長治は志方城主・櫛橋伊定(ドラマでは死亡)、高砂城主・梶原景行、神吉城主・神吉頼定ら東播磨国の豪族を巻き込んで織田家に叛旗を翻す。これに対し、秀吉軍は西播磨北部に新拠点を急造し、本格的な播磨国侵略戦を開始することになる。
「妙な連中が入りこんでいるようだな・・・」と秀吉は半兵衛と官兵衛に言った。書写山城の粗末な茶室である。築城の専門家とも言える秀吉はすでに姫路城を中心に北の書写山城、南の国府山城からなる本拠を形成している。その外周に赤松家の龍野城、置塩城、小寺家の御着城がある。さらに別所家から独立した別所重棟の阿閉城が東の、尼子勝久が籠る上月城が西の最前線となる。
官兵衛は本願寺、毛利、宇喜多、波多野の間者たちを連想したが・・・半兵衛の答えは違っていた。
「勝家殿の・・・甲賀者でしょう・・・」
「ふふふ・・・尼子勝久殿が心配と見える」
出雲国を追われた尼子勢が織田家を頼った時に最も近距離にあったのが越前国の柴田勝家であったことから・・・尼子勢の立場は柴田家に属するものとなっている。信長の采配によって出雲方面の攻略の大義名分を立てるために尼子勝久が秀吉の播磨国攻略軍に配されたために・・・関係は複雑になっていた。
対毛利・宇喜多連合軍への最前線と言える上月城に尼子勢を入れたのは信長の命令に従いながら柴田勝家に対する秀吉の意地悪となっている。
秀吉はいざとなったら・・・上月城は尼子勢ごと見捨てる所存なのである。
尼子勢は余所者の秀吉軍にあってさらに余所者なのであった。
しかも・・・相手が旧敵である毛利なので尼子が裏切る気遣いもないのだった。
それを察して・・・柴田勝家が・・・山岳戦を得意とする甲賀忍者を少数送り込んできたのだった。
秀吉の言う妙な連中とは忍者である山中山城守の配下である甲賀の忍びたちだった。
「勝家殿にとっては尼子勢は貴重な駒ですからな・・・むやみに滅んでもらっては困る・・・ということでしょうかな」
「山中山城守とは山中鹿助殿の縁者でしょうか」
中央の事情に疎い官兵衛が尋ねる。
「それは・・・古にはそうかもしれませんな。出雲山中家も近江山中家も・・・官兵衛のお家と同じく佐々木源氏の出自でございましょう・・・」
「なるほど・・・」
「しかし・・・山中鹿助殿は今や、尼子の一門衆・・・奇妙な縁と言えば縁ですな」
「だが・・・尼子勢にとっては上月城は貴重な居城じゃ・・・おいそれと退散するとは思えんな」
秀吉は笑みを浮かべて言う。
官兵衛は織田軍団における内部抗争の凄まじさの一端を見るようだった。
それに比べれば・・・播磨国の地侍に内部分裂を起こさせ・・・敵味方を明らかにした上で支配層を入れ替える官兵衛の戦略は小手先の技のように見えてくる。
「官兵衛殿の縁者の方々も・・・大分、整理がつきましたな」
「英賀城の三木氏、志方城の櫛橋氏、神吉城の神吉氏など・・・皆、血縁の方々だ・・・」
半兵衛と秀吉が面白がって官兵衛に問う。
「さよう・・・これで播磨国もかなりすっきりしまするな」
官兵衛もクールに答えた。
「しかし・・・成り行きによってはご宗家も危ないのでは・・・」
半兵衛は追いうちをかける。
「御着の殿は・・・とりあえずの神輿でござる」
「もはや・・・小寺家は官兵衛殿の手の中ということですな」
「いかにも・・・」
「では・・・三木の城を攻める算段と参ろうか・・・」
「兵糧攻めがよろしかろう」
「御意」
三人の日本有数の軍事専門家は無表情になった。
彼らにとってすでに・・・反織田勢力となった播磨国の土豪たちは袋の鼠同然なのである。
そんなこととは露知らず・・・三木城では籠城戦の準備が始っていた。
「兵糧は一年は充分に持ちまする」と家老の別所吉親が告げる。
城主であり西播磨の盟主である別所長治はそのようなものかと頷いた。
三年に渡る籠城で彼らは飢餓というものの恐ろしさを心底味わうことになる。
そして・・・その因果は官兵衛にも襲いかかるのだった。
関連するキッドのブログ→第14話のレビュー
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コメント
どうもです
すっかり真田太平記にハマってる今日この頃
今月中には山中忍の面々・・・といっても
佐藤慶さんと戸浦六宏さんと石橋蓮司さんくらいに
なりそうですがそのお三方は描こうと思ってます
それにしてもこの時代は
人の噂とか陰口で諜報活動をやってるのか
もしくはテレパシー能力者がいるのかってくらい
忍の影が見えませんなw
どうにもこうにも
なんかこの作品が終わった時
「迷走してた」って気づくのでしょうかね
投稿: ikasama4 | 2014年4月15日 (火) 23時06分
孫子の兵法の骨子は・・・
「戦は忍びで決まるといっても過言ではない」
ですのに・・・この大河は何をしてるんですかねえ。
キッドは別に司馬遼太郎の小説が悪いとは
思いませんが・・・あまりにも流れが安直に感じるのでございます。
山中大和守俊房、山中内匠長俊、猫田与助・・・虚実とりまぜて楽しみですなあ。
お徳(坂口良子)、於菊(岡田有希子)、三輪(堀江しのぶ)、おくに(范文雀)・・・みんな逝ってしまったなあ・・・
(u_u。)
天正六年の三月と言えば・・・妄想世界では
あのくのいちが上杉謙信に暗殺剣をふるっている頃・・・。
男の嫉妬は醜いものですが
それをあからさまに描くことも醜いのですな。
系列で言えば櫛橋氏は
小寺の家来筋・・・。
別所に味方した時点で・・・
裏切り者なのに・・・そこはいいのかよ・・・でございます。
負い目があるのは櫛橋氏で・・・
「官兵衛すまぬ・・・織田が勝つとはどうしても思えない」
というのが義兄のあるべき姿なのに・・・。
秀吉、半兵衛、官兵衛の三人が揃えば
もう・・・上忍がいっぱいの状況ですよね。
してやられたりしませんと思うしだいでございます。
軍師官兵衛よ、どこへいくですな・・・
投稿: キッド | 2014年4月16日 (水) 01時11分