不幸な人のために幸福な人がお金を払い続けるシステム(林遣都)
もうすぐ死ぬ人のためにまだ死なない人からお金をいただくビジネスでもあるよな。
病気にかかった時のために健康な時にお金を賭けるギャンブルだろう。
そうなると博打を嫌う人が抵抗を感じる惧れがあるな。
「今、困っている人のためにあなたのお金を使ってみませんか」っていう呼びかけのコマーシャルはどうなんだろう。
人々の善意に訴えるより、来るべき未来の危機感に訴えた方がいいと誰もが考えがちなんだよな。
でも、自分だけは絶対に死なないと考えるバカは意外と多いんだよ。
そうなのか・・・。
だけど・・・そういうバカは他人の心配もしないよね。
それもそうだな・・・。
結局、「あなたの未来を一緒に考える」的なことが正解なんだよ。
まあ・・・明日、沈没するかもしれない船に保険をかけるからこそ船は沈没するんだけどな。
それは違うと思うし。そのたとえは今はアレだしね。
じゃ・・・転ばぬ先の杖っていうことで。
で、『金曜ナイトドラマ・死神くん・第2回』(テレビ朝日201404252315~)原作・えんどコイチ、脚本・橋本裕志、演出・常廣丈太を見た。現象界に生きる人々が幻象界について語る時は死生観が示されることが多い。生者にとって「あの世的な死後の世界」は幻想の象徴だからである。しかし、この作品の主眼は「死後の世界」にはなく・・・どちらかと言えば「死に際」の事象に絞られている。特に原作はそもそも「自殺についての是非」を問うところからスタートしている。もちろん「自殺」を否定するモラリストの立場からである。もちろん、キッドのブログも「自殺」を肯定しないが・・・当然、否定もしない。自由第一主義である以上、「死ぬ自由」も尊重するからである。「自殺」というのは基本的に生者にとって迷惑なものであるが、「自殺者」にとっては「死後の世界」がどうなろうと無関係なのだから仕方ない。もちろん、この場合の「死後の世界」とはこの世界のことである。死者がこの世から行くかもしれないあの世のことではない。そんな記述をしていると大霊界からあの人が「キッド、死後の世界は必ずある」と囁きかけるのだが・・・幻聴だ。
この物語の死神法では「生者にこの世的死後の世界を見せること」が禁止事項になっている。まあ・・・因果律が乱れるということなのだろう。
この物語では「神」が「運命」とほぼ同じである。
擬人化されたこの世とあの世の中間的存在は「人間の意志」が「運命」に介入しないように管理運営しているわけである。
つまり・・・「人間」が「神の領域」を犯す可能性が前提である。
キリスト教的世界観では・・・造物主が絶対であり、人間が善悪を判断することは基本的に愚かなことなのである。復讐していいのは神だけ・・・人間は基本的に犠牲としての子羊であるべき・・・という支配者の発想が根本にあることは言うまでもない。
もちろん・・・人間はそんなことを大人しく聞きいれるものだけではないので・・・この世は混沌として悲惨で阿鼻叫喚に満ち・・・面白いのである。
今回は物語の後半で「死神くん」(大野智)の失態による波及効果で「悪魔くん」(菅田将暉)が現世に解き放たれる。
そのことを告げるために死神くんの上司である主任(松重豊)も登場し、本体がカラスであることを明らかにした監死官(桐谷美玲)とともに本編におけるレギュラーが揃った。
カラスは「死を告げる鳥」として「生を肯定する人間」には忌まわしくも不吉な存在として認知されている。
しかし・・・一方で八咫烏(やだがらす)のように神の導き手としての神性を示す場合もある。
また・・・地上に姿を出現させた悪魔や魔女により、使い魔としても使用されることが多い。
幻象界において・・・カラスは・・・霊的道具生命体だからである。
スズメの一種であるカラスが驚異的な知能を有するのはこのためである。
この物語においてはこの世とあの世の境界線に・・・死神くんも監死官も存在するわけであるが、死の天使である死神くんが基本的にあの世に属するのに対し、監視官(カラス)は実はこの世に属している。これは実はこの物語の「萌え要素」としてかなり重要なポイントなのだが桐谷美玲を起用している以上、スタッフがそのことを意識していることに期待したい。
また・・・あの世はこの作品では霊界として表現される。しかし、悪魔の棲む魔界が霊界の一部なのか・・・第三の世界なのかは曖昧なままである。もちろん・・・神は魔界もテリトリーのうちと嘯くが悪魔は金輪際、そんなことは認めないのである。なにしろ、最終目標は天国の地獄化なのでございますから。
そういう・・・上層部のあれやこれやはともかく・・・あまり優秀な神の御使いとは言えない死神くんがあろうことか霊界アイテムの死神手帳を紛失し・・・あの世の皆さんは不祥事に右往左往するわけである。
しかし・・・張本人の死神くんは至って呑気なのだった。バカは死ななきゃ治らないのだが・・・死神くんは不死身なのだった。
天主もさぞや頭の痛いことであろう。
死神手帳を拾ったのは大手生命保険会社の営業部に勤務する島孝一(林遣都)だった。
この世を監視するカラスのネットワークはただちに彼を発見する。
霊界アイテム「死神手帳」にはいくつかの機能がある。
・紛失時の現世実体化
・死亡予定者の自動記入
・所有者が霊界所属者を認知するようになる
・死亡リストに自由に追加記入可能である
・記入者のみ、記入項目を削除できる
・・・まあ、明らかに無駄な機能がありすぎで・・・設計ミスとしか思えませんな。
体育会系のコネ入社で・・・営業部員となった島は無能な落ちこぼれ社員となっていた。
島をコネで入社させた学生時代の野球部の先輩で上司でもある黒川弘樹(神保悟志)はその無能ぶりに手を焼くのだが・・・体育会系なので叱咤激励しかできないのだった。
その叱咤激励が・・・罵詈雑言にしか感じられないほど・・・ダメな社員である・・・島・・・。
死神手帳を拾って思いついたのが・・・死神手帳の病死者リストから・・・病状を手掛かりに保険加入を勧誘するという作戦である。
バカじゃないか・・・バカなんだってば。
そもそも・・・保険は・・・リスクの確率によって運営されている。
統計的に・・・保険金の支払いが・・・被保険者の保険料を越えないことが前提である。
もうすぐ死ぬ人間を狙い撃ちにしたら・・・破産しちゃうんだよ。
大口契約の後の前代未聞の大口支払いに蒼ざめる上司なのだった。
「なんてことだ」
「でも・・・保険はいざという時のタメなんでしょう」
どうやら・・・バカの上に世を拗ねて、恩ある先輩を逆恨みしているらしい島。救いようのないバカなのである。
「安心くん保険」(大黒生命)のCFのキャストは誰だ・・・最近、こういうショートカットの人を見るとみんなパピコ(紗倉まな)に見えてしまうわけだが・・・。志村玲那じゃね?・・・タラコの人か・・・。佐藤綾衣(さとうあやぎ)だと思われ・・・なるほど。
そんなバカの島にも癒しの対象があった・・・近所のクロユリ団地に住むいじめられっ子・・・山本健太(田中奏生)である。
父親(森下能幸)は死の床にあり、母親(舟木幸)が風俗店で働いているためにいじめの対象になっているらしい。
父親のいない島にとって・・・ほぼ父親不在の健太は共感しやすい存在だったらしい。
健太の父親をお迎えに来た死神くんと遭遇する島。
死神手帳効果により・・・死神くんを目視することができる島を訝しむ死神くん。
そこにカラスがやってきて、今世紀最高にキュートな「じゃね」を連発するのだった。
今、「じゃね」を言わせたら桐谷美玲の右に出るものはいないな。
「なんで・・・あの人・・・俺のこと見えるんだろう」
「おまえマジでバカじゃねっ。あいつが死神手帳持ってるからじゃねっ。とっとと取りかえして来ないとダメじゃねっ・・・このカスがっ」
かわいいよ、カラスかわいいよ・・・である。
新規顧客の連続死亡で大損害が発生。
病気の有無の検査の不備が問われる事態に・・・思わず島を責める黒川。
腹いせに・・・死神手帳に・・・黒川の名を書き込む島。
「デスノート」の先行系の誕生である。
一方、ダメ人間とダメ死神同士・・・意気投合して島と友達になった死神くんは死神手帳回収に成功するが・・・。
「なんじゃこりゃあああああああ」と可愛いカラスを絶叫させるのだった。
書いた本人しか消せないルールのために・・・予定外死亡を避けるために再び島と接触する死神くん。
しかし・・・心の病んだ島は同意しない。
「あんな奴、死んだって構うもんか・・・」
「だが・・・君のしていることは人殺しだぜ・・・」
やがて・・・島は・・・黒川が父親代わりのように接していたことに思い当る。
そして・・・最後の我儘を黒川に言うのだった。
「もう一件だけ・・・もうすぐ死ぬ人を加入させてください」
「それはできない・・・」
「ごめんなさい」
生死の境を彷徨う黒川の認印を使って契約を成立させる島。
それは・・・貧困にあえぎ持病があるために保険に入れない健太の父親のための契約だった。
死後に保険金が入ると知り・・・安らかに旅立つ健太の父親。
しかし・・・残酷な運命は・・・健太に襲いかかる。
健太が事故死することを知った島は・・・またもや・・・死神手帳に書き込んでしまう。
【健太を庇って島が死亡】
「そんな・・・」
「今度は何があっても書き変えない・・・」
こうして・・・島はこの世を去って行った。
「次から次へと・・・お前はどんだけルール違反すれば気がすむんだよ」
「だって・・・健太が死ぬなんてあんまりじゃないか」
「死神が死を憐れんでどうすんだよっ・・・人間死ななくなったら地球は地獄だぞ」
「あいつが死んで帳尻あったんだから・・・いいだろう」
「そういう問題じゃねえんだよ・・・神の定めた運命を・・・天使が変更してどうすんだ」
あの世とこの世の間に主任がやってくる。
かしこまる・・・カラス。
「困ったことをしてくれましたね」
「あの・・・数合わせはしたので・・・」
それについては承認する主任だった。
「しかし・・・君が死神手帳を紛失した不祥事のために・・・二次被害が発生したのです」
「・・・」
「魔界から・・・悪魔が一匹・・・現世に紛れ込みました」
「うわあ・・・そんなぁ・・・」
事態を把握して驚愕するカラス。まったくどこ吹く風の死神くん。
「あなたたちの責任ですので・・・ちゃんと退治してくださいね」
その頃、地上では・・・悩める若者・桐嶋譲二(柄本時生)の前に悪魔くんが姿を出現させていたのだった。
「すんげえ・・・まずいんじゃね・・・」
こうして・・・死の天使対下級悪魔の局地限定戦争が始るのだった。
もちろん・・・三つの願いを叶えたら魂をもらえるアレの話である。
関連するキッドのブログ→第1話のレビュー
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コメント
一に配役、二にロケハンなわたくしとしては、団地の(白く美しい)給水塔がしっかり映るアングルで撮影されていたところがポイント高かったです。
しかも最後までいけばジオデシック・ジャングルジム(@_@;。給水塔のある団地と別団地で撮影したとしても驚かない、このセレクト感。
お話も1話・2話・3話(予定)と順調な展開で今後も楽しみです。若ママみたいな変な配役じゃなく、やればちゃんとできるんじゃね?
投稿: 幻灯機 | 2014年4月27日 (日) 11時52分
「お前の母ちゃん、エッチな店で働いてんだろ」
屈辱的なセリフとしては秀逸でございました。
「お前の母ちゃん、でべそ」級ですな。
そんな子供が住んでいる団地・・・。
やつれた病床の父親・・・。
派手とも地味ともいえないスタイルで出勤する母親・・・。
うっとりしますよねえ。
ジオデシック・ジャングルジムなめの団地遠景も
絵心を感じまする。
そして・・・そつなく揺れる
カラスの黒い死の羽根・・・。
そしてグーで殴るカラス。
浴びせられる罵詈雑言。
そのふわっと降り立つ着地感。
神経が感じられるのでございますよね。
そういうディティールが
際どい倫理観の応酬を
それなりに引き立てるのですな。
凶悪な金曜日を代表する「死神くん」に乾杯でございます。
投稿: キッド | 2014年4月27日 (日) 15時30分