ながれながれの越後獅子に胸いっぱいの愛を(深田恭子)
人が人間であるためには二つの要素がある。
一つは家族である。
もう一つは社会である。
人は一人でも生きていけるが人間は一人では存在することが難しい。
コミュニティソーシャルワーカーにおけるコミュニティは地域社会である。
ここでは親兄弟・親戚の血縁と・・・地域住民という地縁が複雑に入り組んでいる。
大都市は基本的に人間が流動するものである。
ここでは血縁は薄れ、地縁が色濃くなる。
しかし・・・個人を優先する社会では・・・個人や家族が社会から孤立する傾向が生じる。
生活を維持するのが難しくなった個人を・・・支えるのは誰なのか。
あるいは支える必要はあるのか。
家族も社会も・・・立ちすくむことがある。
で、『ドラマ10・サイレント・プア・第3回』(NHK総合20140422PM10~)脚本・相良敦子、演出・伊勢田雅也を見た。1995年の阪神淡路大震災で六歳の弟の光(馬渕誉)と死に別れた里見涼(深田恭子)は「弟を助けられなかった」トラウマを抱えながら江墨区(架空)社会福祉協議会のコミュニティソーシャルワーカーとして日夜、社会から見捨てられかけた人々を救って救って救いまくるのだった。
今回、涼の援助対象は・・・ホームレスの木下和男(大地康雄)である。
かっての住居に不法侵入したために咎められた和男は駆けつけた涼の救いの手を拒むのだった。
住宅地にある公園で寝起きする和男に対して近隣住民は江墨区役所に苦情を申し立てる。
地域福祉課の山倉課長(北村有起哉)は援助を拒むホームレスを野放しにする涼に苦言を呈するのだった。
「住民の生活環境を悪化させるホームレスを・・・そのまま放置するわけにはいかない。しかし、路上で野たれ死にさせるのも問題だ・・・時間をかけずに保護するべきだ」
しかし・・・涼は和男の「社会の世話にはなりたくない」という和男の意志を尊重し、ホームレス相手に逢瀬を重ねるのだった。
新人の三輪まなか(桜庭ななみ)は図書館にもぐりこんだ和男に社会支援による仮住まいの用意を申し出る。
しかし「見下ろしてものを言うな・・・俺のことに構うな」と頑なな態度を崩さない和男。
社会の底辺にいる若者たちは自分より弱者であると見なした和男を襲って一時的な優越感に浸ろうとする。
若者たちの罵倒に激昂した和男。
涼の制止を振り切り、雪の降る美しい公園が修羅場と化そうとした瞬間、山倉課長が登場し、間に入って負傷してしまう。
そして・・・和男は吐血して昏倒。
胃癌に冒された和男には死期が迫っていた。
聞き込みによって・・・和男が新潟県出身の腕のいい左官だったことが判明する。
しかし、事故によって腕が不自由になり・・・職業を転々として、いつしかホームレスに転落したのである。
図書館で和男が閲覧していたのは・・・新潟県の写真集だった。
やがて・・・和男の暮らしていたアパートから手紙が発見される。
それは和男の妹・和歌子(結城しのぶ)からの手紙だった。
結城しのぶといえば・・・映画「蘇る金狼」(1979年)で朝倉(松田優作)が社長令嬢の絵理子(真行寺君枝)を狙っている頃、上司の小泉(成田三樹夫)の愛人が京子(風吹ジュン)で、ゴロツキの桜井(千葉真一)の愛人の雪子である・・・ああ、何もかもが懐かしい。
どういう回想なんだよ。
おっぱい万歳的な回想でございます。
・・・もう、いいか。
「お願いだから・・・妹には連絡しないでくれ」と病床の和男。
「会いましょうよ・・・私は弟にはもう会えません・・・でも、貴方は妹さんに会うことができるのです」
「妹には・・・安心しろ・・・俺はもうすぐ死ねるとだけ伝言してくれ・・・」
もちろん・・・ただちに和男の故郷にむかい、和歌子を発見する涼だった。
和歌子は結婚し、うどん屋「みやべ」を営んでいた。
涼が伝言を伝えると和歌子はすべてを察したのだった。
「いつも・・・二人きりの兄と妹でした。兄さんは・・・私に不様な姿を見せたくないのでしょう。幼い頃、二人で郷土芸能の獅子舞を踊ったことがあります。兄さんは緊張している私をすごく励ましてくれました。おかげで私はみんなに誉められて・・・そんな私を兄さんは嬉しそうに見ていたのです。兄さんが怪我をした時に私は必死に兄さんを捜しましたが・・・消息不明になってしまったのです。兄さんに伝えてください・・・私は兄さんのおかげで幸せに暮らしていますと・・・」
伝言を持ちかえった涼に・・・和男は初めて感謝の言葉を述べる。
「ありがとう・・・あんたは俺のことをわかってくれた・・・俺たち兄妹のことをわかってくれた」
和男は涼を信じ・・・残された人生を前向きに生きる決意をする。
密かに上京した妹はそんな兄の姿を遠くから見つめるのだった。
「和歌子さんは・・・月一万円の支援を申し出てくれました」
福祉事業は・・・些少なりとも家族の援助があることによって補助費用の支援が円滑になるのである。つまり・・・形式的に保証人が成立するからである。すべては書類上の問題なのだ。
「俺は昔・・・俺の考える幸福の形を押しつけて援助していたホームレスを路上死させてしまった・・・君は殺さなかったな」
・・・と山倉課長は涼と対峙する。
「一人一人幸せの形は違います」
「・・・」
「だからこそ・・・私たちは一人一人の幸せと向き合っていかなければならないのです」
「君は・・・天使なのか・・・」
町にはコミュニティソーシャルワーカー里見涼を讃え、なごり雪を溶かす日差しが降り注ぐのだった。
またしても涼は社会を蝕む貧困という怪物に打ち勝ったのである。
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