高校野球史上最高に口が達者な人(二宮和也)悩みはすべて贅沢なもの(福士蒼汰)
人として生まれて次はどの国に生まれたいかと問われれば日本人としか答えようがない。
経済的に豊かなことは言うまでもないが・・・もう半世紀以上も実戦をしていないのだ。
そんな国は稀有である。
もちろん、女子小学生なら・・・「他の国の人になりたいよね」「どこの国の人」「パリとか」などという可愛い会話もありなわけだが・・・国際情勢をある程度、分析すれば・・・日本が一番に決まっている。
それでも・・・日本の人々の多くは・・・不満を抱いて生活している。
満足しないので・・・よりよい社会が建設され・・・ますます世界でも優れた国になっていくのである。
そんな馬鹿な・・・という人はいるかもしれない。
しかし・・・そういう人は世界の国々がどれだけ喘いでいるか知らないだけなのである。
とにかく、隣の芝生は緑ですからな。
トップであり続けるためにあせる合衆国、今だにかっての栄光を忘れられないロシア、内部の嫉妬に身悶えるヨーロッパ、独裁を維持するために手段を選ばない中国、嘆くことばかり上手になった韓国・・・どこにも素晴らしい世界はないのである。
しかし・・・それでも日本人は・・・このままではいけないと思い続けるのだった。
それはある意味、滑稽なものかもしれないね。
キッドは憲法九条は戦争をしないために改憲するべきだと思うが、とにかく、戦争したくないから憲法九条を守りたいという庶民の考え方にも一理あると思うのである。
もちろん・・・改憲しないことによって戦争にまきこまれてしまった時、それはそれでしょうがないと思うのも日本人の素晴らしさだと思うし。
で、『弱くても勝てます 〜青志先生とへっぽこ高校球児の野望〜・第4回』(日本テレビ20140503PM9~)原作・高橋秀実、脚本・倉持裕、演出・菅原伸太郎を見た。物語のベースとなる超難関校の生徒の心情に共感できる人は極めて少ないだろう。そういう意味では画期的なドラマと言える。基本的にお茶の間の偏差値というのは50前後で・・・上下に移動すればそれだけ減少するわけである。ただし・・・アイドルに熱狂したり、スポーツ選手に拍手を贈る人がいることは「エリートの生活」に対する関心がないわけではないことを示している。
エリートは基本的に傲慢であり、批判の対象になりがちだが・・・それでは自分の子供をエリートにしたいのか庶民にしたいかと親に問えば・・・答えは分かれるけである。
競争社会の勝者に対して・・・無関心を装う敗者も多いが・・・関心の方向性には二つある。
つまり・・・素晴らしいものに憧れるか・・・妬むか・・・である。
このニュアンスの違いに気が付くにもある程度の知性が必要となる。
憧れと妬みは紙一重でもあり、陰陽でもあるからだ。
憧れを糧にして上を目指しても良し、妬みをバネに自分を磨くも良しなのである。
ただし・・・素晴らしいものを否定してしまえば・・・現状維持か脱落の可能性は高い。
否定する場合にはよほど覚悟して革命的な高みを目指す必要があるわけである。
生得的能力というものは生物学というより心理学的側面が大きい。
それは遺伝子解析の進む現代においてさらに明晰化しているだろう。素晴らしいハードもどのようなソフトを使用するかでまったく機能性が変わるからである。
「天は二物を与えない」と言う言葉は様々な含蓄があるが・・・才能に限って言えば・・・「才能なきもの」が「才能あるもの」に対してそうであってほしいと願う呪いである場合が多い。
実際には「多才の人」は存在するわけである。
赤岩公康(福士蒼汰)は持って生まれた才能により・・・努力なしで・・・超難関高校で主席になってしまうという学力を持ち・・・学園の憧れのマドンナである樽見柚子(有村架純)に激しく慕われ・・・家は富豪で何不自由ない暮らしなのである。
赤岩くんはそんな自分が不安でたまらないのだ・・・モテスギくんがのび太に感じる不安。こんなに非の打ちどころがないのに・・・脇役だったらどうしようと思うのだ・・・それはちょっと違うと思うぞ。あるいはスネ夫みたいに見られたらいやだとか・・・ドラえもんから離れろよ。
そこで・・・親の財力から逃れようと家出をしたりもするわけである。
しかし・・・実は野球部のエースでもある赤岩は・・・その一点だけはそれほど才能に恵まれているわけではない。
それは野球の名門・堂東学院にコールド負けをした時のショックで野球部を一時辞めたことでも明確だ。
ここに・・・赤岩の心の矛盾が提示される。「恵まれた自分から脱したい気持ち」と「落ちぶれて味わうショックから逃れたい気持ち」である。
こういう矛盾した心理状況こそが・・・「天は二物を与えない」の核心なのである。
失敗から学びたければ失敗するしかないのである。
赤岩の心の葛藤を・・・理解して見守る田茂青志監督(二宮和也)は・・・小田原城徳高校主席で東大卒のへっぽこ野球部OBとして痛いほどよくわかっている。
「お前たちは賢い」が口癖の青志だが・・・いくら賢くても未熟な自分というものがあることも知っている大人である。
そして・・・偏差値上位でありながら・・・赤岩の前には勉強のできない子になってしまう他の野球部員の苦悶も想像できるし、実は全学年五位という才色兼備の柚子(有村架純)の気持ちさえ推量できるのである。
青志に足りないものは謙虚さだけであるが・・・研究室閉鎖による挫折を経て・・・高校時代の「野球におけるへっぽこさ」に触れたために次のステージが出現するのだった。
つまり・・・「逆境で勝つこと」を目指すのである。
スポーツ専門誌「トロフィー」の記者である利根璃子は・・・一見、馬鹿のように見えるが喫茶店「サザンウインド」のオーナーで柚子の母親である楓(薬師丸ひろ子)に次ぐ大人である。
璃子は・・・東大はおろか、慶応早稲田でもなく、上智でも青学でもない名もなき大学卒でありながら・・・ジャーナリストという知的な職業についている。そこで得た経験知から・・・青志に足りないものを見抜いているのである。
だからこそ・・・堂東学院の峰監督(川原和久)や臨時コーチの谷内田健太郎(市川海老蔵)と青志の出会いをセッティングするのである。
青志には・・「野球」に関してだけは謙虚に「勝者」の意見に耳を傾けることが必要だと考えているからだ。
青志の優秀な頭脳は・・・刺激を受けてようやく・・・活路を見出しつつあるのである。
片手でも打ちこまれてしまうへっぽこエースの凹んだ気持ちも無駄ではなかったのである。
言葉は厳しいが大人になった谷内田健太郎も青志の心に潜む野球への情熱に敬意を払い、的確なアドバイスをしてくれるのだ。
「君には・・・具体的な戦略がない」
青志はそのことに気がつき・・・たちまち具体的な戦略を想起し・・・嘯くのである。
「戦略はあるさ・・・」
「そうか」
顔をそむけあっているが二人は・・・この瞬間、野球の師弟関係となっていたのだ。
二週間の部活動禁止という定期試験期間が終り・・・下手だけれど野球への情熱に燃える部員たちが集合する。
せっかく・・・バッティングネットを与えられて練習時間にゆとりができたのに・・・集中力を欠いて非効率になるというへっぽこぶりをさらす選手たち・・・。
野球のできない時間に「不足した時間」について考察を深めた青志は・・・「時間に対するセンス(感覚)」について語りはじめる。
「樫山(鈴木勝大)が女子(藤原令子)と付き合う時、そのデートに使う時間は無駄なのか。勉強に使う時間は無駄なのか。野球をする時間は無駄なのか。そんなことはないだろう。時間は無駄にはできないが・・・無駄な時間などないのだ。デートで勉強してもいいし、勉強でリフレッシュしてもいい、そして野球には集中すればいい。勉強には体力も必要だし、野球で女子を喜ばせることもできる・・・時間に使われるのではなく時間を使うのだ」
全員が賢いのでストーカー兼隠密で柚子の舌打ちの対象者である志方(桜田通)さえも一瞬で青志の語る哲学的考察を理解するのだった。
青志は野球を勉強にたとえる秀才たちの言動にもヒントを得ていた。
「諸君は・・・守備を継続学習の必要な文系の勉強に、打撃をひらめき重視の理系の学習にたとえた・・・もちろん・・・文系にもひらめきが必要だし、理系にも基礎知識の修練は必要となる。しかし・・・君たちはそういうレベルをすでに達成しているからそういう結論も可能なのである。しかし・・・野球に関して言えば君たちは偏差値0~10の最底辺にいるのだ・・・この場合・・・両者の平均的実力向上にあまり意味はない。では時間のかかる守備力強化と比較的短時間で達成可能な打撃の底上げ・・・優先するのはどちらか」
「打撃・・・」と素直に答える生徒たち。
「正解・・・だから・・・わが野球部は打撃中心のチームに特化する」
「おお・・・」
「これが・・・俺の戦略だ・・・守備は捨てて打撃に専念する。とられた分だけ取り返すのではなくとられたら倍返しだ・・・」
「とられるのが前提ですか・・・」とへっぽこエースはうつむきかける。
「ちがうぞ・・・お前はコントロールを磨いて・・・絶対にフォアボールを出さないピッチャーになれ・・・五割バッターを相手にしても二人で一つアウトをとればいい」
「なるほど・・・三安打でも満塁で三死なら・・・一点もとられないケースもあるわけですね」
「まあ・・・普通は1~2点・・・とられるけどな・・・しかし、ウチはその時は2~4点とる・・・いや10点とってコールド勝ちを目指す」
「コールド勝ち・・・」
「そうだ・・・そうすればノーリスクハイリターンだ」
「えええええ」と驚愕する理論についていけない利根璃子(部外者)だった。
果たして・・・青志の机上の空論が・・・実戦で通用するのかどうか・・・次週明らかになるようである。
赤岩の父親(光石研)の用意した対戦相手の武宮高校とはいかなる高校なのか・・・期待はそこそこ高まるのだった。
青志の論理展開は利根璃子同様、お茶の間を置き去りにしていると思うが・・・それはそれで面白い。
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