まるで誰かの夢みたいでファンキーな時計(小泉今日子)
夢の中の時間感覚は時に乱れている。
幼い頃、学生時代、大人になった日々、人生の黄昏がぐだぐだである。
時々、そのふわふわした感覚が覚醒時に起きれば・・・それは危ういわけである。
ドラマは基本的にそういう曖昧な時間を含有している。
終わりのないような物語、いつもと変わらぬ日常に・・・このドラマはリアルな時間をかいまみせる。
人間が成長し、年老いていくこと。
おかしいけれど・・・おそろしい・・・そういうテイストがにじみでる。
春ドラマのレギュラー・レビューのフィナーレを飾るに相応しい重厚なドラマなんだなあ。
ヒロインと相方の丁々発止のやりとりが面白いのは「おもしろうてやがてかなしきうぶねかな」(芭蕉・1688)なのである。
変わらないものなんてないんだからさ。
前シリーズから何も変わっていないように見えて・・・着々と流れていく時間。
その時の流れこそが愛おしいのである。
で、『続・最後から二番目の恋・最終回(全11話)』(フジテレビ20140619PM10~)脚本・岡田惠和、演出・宮本理江子を見た。いつものように千明(小泉今日子)が冒頭で示すカフェ「ナガクラ」の看板の文字が・・・白ペンキから桜貝デコレーションに変わっている。つまり、同じようで昨日とは違う今日が「存在」しているわけである。それは検査をしている昨日と検査結果を聞く今日が違うようにリアルなのである。一喜一憂は・・・すべて時間の魔法の成せる術なのである。第二シリーズの最後を飾るべく・・・千明の東京の時間と・・・プライベートな鎌倉の時間はあわただしく融合するのだった。
前シリーズで・・・千明が和平(中井貴一)を評価したのは・・・「つまらないけれどまともで大切なことを言う」からであった。今回は・・・ほぼその一点を千明がずっと思い続けていることを語る展開である。千明の見果てぬ恋の旅路は続くが・・・実際にはもうゴール地点を通りすぎているという話なのだった。
自宅をドラマのロケ場所として提供したために長倉家に間借りすることになった千明なのだった。
家族のような付き合いをしている長倉家の一員になっちゃった感じは否めない。
そして・・・当然のように早起きの和平と千明は朝から遭遇してイチャイチャするのだった。
「誰かと思いましたよ」
「いいましたね・・・すっぴんだと誰だかわからないって・・・私は研ナオコかよっ」
「研ナオコは確かにね」
和平は・・・千明と一緒に暮らせる喜びを隠しきれず「おめでとう」のくす玉まで用意しているのだった。
そして・・・千明は長倉家の浴室で・・・和平のシャンプーボトルを発見する。
ちなみに・・・現在の長倉家の住人は・・・。
和平
和平の娘・えりな(白本彩奈)
和平の妹・万里子(内田有紀)
そして、千明の四人である。
和平と三人の女なのである。ある意味、ものすごくエロティックな状況なのだった。
それは変態だけが感じることだぞ。
紆余曲折あって一緒に暮らし始めた二人・・・しみじみするところだが・・・もちろんそんなことはない。
ドラマのクランクインの朝であり・・・一種のスタッフルームと化した長倉家は活気にあふれるのだった。
ランチタイムなどのサービスを引き受けた真平(坂口憲二)は仕込みに忙しく、意外と料理の得意な千明は目玉焼きを焦がす。ゴリ押しで宅配ピザの配達員役をゲットした典子(飯島直子)ははりきって朝から衣装で登場である。
その中で・・・万里子は・・・「兄とシャンプーの話」を披露するのだった。
和平が愛用するシャンプー・・・その詰め替え時に・・・和平がいかに熱狂したかというエピソードである。
ゴールを決めたサッカー選手のようなガッツポーズ。
真夏の夜の長倉家浴室の全裸の和平の秘話に・・・千明は性的な意味でうっとりとするのだった。
そして・・・長倉家の長い一日が始るのだった。
フィナーレのために・・・オールスターが集合する。
ついにセフレの意味がそのままらしい薫子(長谷川京子)は千明と和平があまりにもイチャイチャするので「もう結婚しちゃえばいいのに」と忌憚のないセリフを述べる。
薫子と和平が結婚しないらしいことを確認したえりなは薫子の息子の蒼太(中島凱斗)と手をつないでデートに出かける。
和平は思わず涙目である。
才能のなかった高山涼太(加瀬亮)は消息不明だが電車を止めて通勤の足を乱していないことを祈るばかりだ。
アホ部長が無理難題を言い出してチビキノコこと武田プロデューサー(坂本真)が悪態をつく。
そこで和平が・・・「まともでつまらないこと」を言い出すのである。
「私・・・市役所でしがない課長をしているものですが・・・人生はいたるところが現場なんだと最近、実感しております。上も現場、下も現場なのでございます。それぞれの現場の数だけいろいろと大変なのではないでしょうか」
お茶の間を代表する人の意見に真摯に耳を傾けるドラマの現場の人々だった。
居合わせた伊佐山市長(柴田理恵)は「この人に片思いしてよかった」と和平にほれなおす。
千明に片思いの万里子は激しく同意する。
「この人を幸せにできないが・・・傍にいられるだけで幸せ」
しかし・・・千明は・・・「愛されることは元気の源です」とあこぎなアイドルのようなことを言い出すのだった。
鎌倉市役所観光推進課の田所(松尾諭)はJMTテレビの飯田(広山詞葉)に一目惚れして亜光速で失恋。
脚本の急遽、手直しのために狩りだされた脚本家の栗山はるか(益若つばさ)は天使に色目を使うが、新妻の知美(佐津川愛美)のガードは固い。
一条さん(織本順吉)は女優の着替えを覗く。
音楽業界の水野(渡辺真起子)と出版業界の荒木(森口博子)は新たなる恋を報告し、千明の尻を叩く。
万里子の原稿を持って典子の息子・翔(田中碧海)が郵便局に走る。
知美の母親・秀子(美保純)はハワイアン教室から帰還。
そして・・・広行(浅野和之)は怪しい荒野から戻ってくる。
てんやわんやである。
やがて・・・撮影初日は終了し・・・家族の揃った長倉家は賑やかな夕餉の時を迎える。
「この家を作った両親は・・・こんな風に人が集まってワイワイ騒ぐのを理想としていたんだ・・・そして・・・人々が去った後・・・くたびれてソファで二人が眠りこんでしまったのを見たことがある・・・子供心に・・・二人は幸せなんだと思ったよ」
家族全員の前で千明を口説く和平。
羞恥プレーである。
やがて・・・二人きりの夜がやってくる。
五十目前の女と五十を過ぎた男の・・・愛の営みは限りなく照れくさいのだった。
「あなたがきて・・・止まっていた時が動き出した気がする・・・あなたはとてもファンキーな時計です」
「・・・ここはぎゅっと抱きしめるところでしょうが」
「今、そうしようと思っていたのに」
「私、プロポーズってされたことないんだ」
「じゃ・・・今、してやる」
「またまたあ」
「俺以外の女と結婚したら許さん」
「・・・ずっと一緒にいてくれるの」
「ずっと一緒にいてほしい」
飲んだくれる二人だった。
もちろん・・・こういう時の千明は記憶がなくなっているのである。
プロポーズは素面の時にしないと無効なのだった。
しかし・・・二人は・・・ソファで寄り添って夢を見る。
おそらく・・・ふわふわした・・・幸せな夢を・・・。
そして・・・長倉家の歴史は続いて行くのである。
今度・・・会う時、二人は何歳になっているのだろう・・・。
関連するキッドのブログ→第10話のレビュー
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コメント
キッドさん
こんばんは
もう岡田恵和さんもですがキッドさんも絶好調
あこぎなアイドルのたとえにに大爆笑してしまいました(*^^*)
先日は紫陽花で有名なお寺 成就院を教えてくれてありがとうございました
両脇に紫陽花が咲いていて山を登ったような記憶だけが残っていたのですが たぶん成就院だったんだと思います
最終回は
一流の役者によるギュッギュッと濃縮された舞台を見ている感じで
もうずいぶん時間がたったようでまだ30分残っているみたいな
不思議な感覚でした
上手くいえないのですが家族とは違う立場なことをわきまえて
千秋が一歩ひいて長倉家を見ているみたいな時の小泉今日子さんの表情がすごく好きでした
このドラマの優しい時間がこれからもずっと続いて
また いくつか歳をとって再会して
キッドさんとお喋りできること
願ってます☆
投稿: chiru | 2014年6月27日 (金) 23時32分
シンザンモノ↘シッソウニン↗・・・chiru様、いらっしゃいませ・・・大ファン
もったいないおほめのお言葉ありがとうございます。
本編のふんどしが素晴らしければ素晴らしいほど
よく締まるだけの話ですけどねえ。
下品なたとえであいすみませぬ~。
紫陽花はいいですなあ。
キッドの父親方の故郷の家は
紫陽花に屋敷の周囲が囲まれており
幼い頃の避暑の思い出が蘇ります。
紫陽花の色が何故変わるのか・・・
祖父が教えてくれましたなあ。
そして・・・通り雨の後の花の艶々しさ・・・。
夏ですねえ。
親がいて子がある。その子が親になる。
人類百万年の営み・・・。
しかし、そういうものと縁のない人はいつの時代にもいる。
親がいても子のいない人。
永遠のドミノ倒しが自分で途切れる独身。
このドラマのヒロインはその寂寥感を体現しつつ
その不幸を優しく抱擁する隣人に恵まれる。
一人で生きていく・・・やりきれなさと。
誰かと生きていく・・・わずらわしさ。
その・・・幽かな隙間に忍びこむ・・・一匹の迷い猫。
これぞ・・・ファンタジーの極みと申せましょう。
新たなる登場人物も加えて
まだまだ続いて行く未婚の女と男鰥夫の恋物語・・・。
続きの続きがあるとよろしゅうございますねえ。
まあ・・・いつまでイチャイチャしてんだよという
気持ちもないではないですけどねえ。
投稿: キッド | 2014年6月28日 (土) 01時24分