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2014年7月31日 (木)

恋愛で死ねなかった皆さんのために(広末涼子)

理屈じゃねえんだよ・・・という意味で面白いものの一つが「つかこうへいの世界」である。

しかし、つかこうへいの世界に理屈がないかといえばそんなことはない。

「戦争で名誉の戦死」をすることが「不名誉」だった時代に「名誉の戦死をできなかった人がどれだけ恥ずかしかったか」を延々と叫び続ける「戦争で死ねなかったお父さんのために」は理屈を越えた理屈というものが・・・人の魂を翻弄することがある一つの証拠だ。

「命かけてと誓った日から素敵な思い出残してきたのに」・・・結局、なんとなく自然消滅しちゃう恋愛しかできなかった人々にもそういう慙愧に堪えない気持ちがあるはずである。

「あの人への思いはそんなもんだったのか・・・灯油かぶって火をつけて致死量に達する体表面積に火傷することでしか・・・気持ちを伝えられなかったのか・・・まあ、口惜しいからリベンジポルノしたり待ち伏せして殺しちゃうより、男らしいと言えば男らしいけどな」的な感傷が胸を刺すのである。

そういうものを借りてくるのはある意味、反則だが・・・。

好きなものはしょうがないよねえ。

で、『ち2014・第4回』(フジテレビ20140730PM10~)脚本・武藤将吾、演出・杉田成道を見た。つかこうへい的要素をまったく知らないでこのドラマを見る人々は悲しい人々だが・・・ある種の感受性を持つものは何も知らなくても「なんだか自分の知らないすごいものがこの世にあること」を感じたと思う。・・・っていうか、そうあってもらいたい。誰もが語れる時代で誰が何を語ってもいいわけだが・・・これが分からない人が語るのはものすごく虚しいよねえと思う夜だった。つかこうへいがある程度、この世に認知された頃、その凄さを「コント55号」との比較で語った人がいたが・・・つまり、コント55号はナンセンスの凄み、つかは意味ありすぎの凄みである的な・・・しかし、今となっては両者は混然一体と言っても過言ではないだろう。なにしろ・・・過ぎ去った革命の時代を・・・ロミジュリで語るという・・・このとんでも芝居はほとんど思い起こせよ10年前なのである。

「芝居が俺の夢なんだよ」

「そんなこと言ってないで大学卒業して就職してくれ」

亡くなった両親の代わりに兄弟たちを養うため、中学卒業後から働いてきた佐藤旭(妻夫木聡)にとって・・・ハルこと陽(柄本佑)が大卒の会社員になることがささやかな「夢」だったのだ。

しかし、ハルは芝居に熱中し、大学を留年し、就職にも興味を示さない。

ひかり(満島ひかり)は「ようやく、初めての公演ができるのだから・・・喜んであげればいいのに」と弟を庇う。

ハルは次男・暁(瑛太)にチケットを一枚送る。

「吉川瑞貴さんに来てもらいたい」

ハルの言葉に暁の顔色が変わるのだった。

ここまで・・・暁には様々な謎の部分があり、それが周囲との軋轢の原因となっていたわけだが・・・ついに最後のピースが明らかになる。

兄の旭との確執は旭が父親を殺した会社で働いていたことが原因だった。

その後、暁は屋代多香子(長澤まさみ)の母親(根岸季衣)から三千万円をだまし取った詐偽の容疑で服役する。

やがて・・・暁の真意が伝わってもつれた糸はほどけていく。

旭とは兄弟の絆を取り戻し、多香子の農場で働くようになった。

しかし・・・三千万円はどこに消えたのか・・・。

やがて・・・その件に・・・ひかりの不倫相手である新生児特定集中治療室(NICU)の医師・新城正臣(吉岡秀隆)が関わっていることが示される。

吉川瑞貴(広末涼子)が新城の愛人なのではないかと疑ったひかりは早速、本人を問いつめる。

しかし・・・瑞貴は新城が救えなかった患者の一人で・・・暁の恋人だった。

拡張型心筋症を患った瑞貴の手術費用には三千万円が必要だったのである。

暁はその点を隠していた新城を責める。

「もっと早く用意していれば・・・瑞貴は助かったかもしれないのに・・・」

蟠る暁の怨念。

「瑞樹さんに止められていたんだ・・・瑞樹さんは・・・お前が無理をするのを恐れていた・・・お前に幸せになってもらいたかったから」

「嘘をつけ」

「嘘なんかつかない・・・自分が救えなかった患者のことで・・・嘘なんかつかないよ」

救えなかった患者アルバムを秘匿している・・・ある意味、変態医師の新城だった。

つかこうへいの戯曲には様々な特徴があるが・・・そのひとつが「おちょくってはならないものをおちょくる」姿勢である。

「戦争で死ねなかったお父さんのために」では進駐軍にチョコレートをねだる浮浪児がおちょくりの対象となった。土人を土人のようにあつかった日本兵の子供たちがギブ・ミイ・チョコレートと叫び、チョコレート欲しさに米国の軍人に三度回ってワンと言う・・・こんなドス黒い「笑い」に満ちている。「熱海殺人事件」ではブスには殺される資格なんかないである。そして「飛龍伝」では・・・革命に真剣に取り組み、ついには夢破れて散々なことになった学生運動をおちょくっておちょくっておちょくりたおすのである。

しかし・・・そうでありながら・・・笑いの対象に・・・人の情のやるせなさを見出すことにその真価があることは言うまでもない。

ひたすらに妹や弟を思う旭のちょっとバカなところは・・・まさしく・・・そういうニュアンスで作られているわけである。

吉川瑞貴が死んだことを知らないハルもまた間抜けである。

しかし・・・吉川瑞貴が女優の卵であり・・・「飛龍伝」を演ずることが夢だったことが・・・現在を作っているという仕掛けになっている。

タダシこと旦(野村周平)が恋をした永原香澄(橋本愛)がハルの夢の女になっていくことも仕掛けになっていく。

暁の恋人に憧れるハル。ハルに夢中になっていく女に恋するタダシ。

歴史は繰り返すんだな。

「私は革命の理想のために・・・あなたの元へと送り込まれたスパイだったのです」

「そんなこと・・・最初から知ってたさ」

順調に見えたハルの夢もまた・・・危機に陥る。

ハルの主宰する劇団「bluehall」の団員・斉藤(小久保寿人)が舞台公演費用の30万を持ち逃げしたのである。

窮地に陥った劇団を見限る団員も現れ・・・ハルは公演の中止を決める。

そんなハルを「七人の侍」的な雨の空き地で・・・チョークスリーパーホールドで締め上げる旭。

「お前の夢はそんなものか・・・」

「だってしょうがないだろう・・・」

「あきらめたら試合終了なんだよ・・・」

旭は斉藤の居場所を突き止めていた。

母親が認知症を発症し・・・介護費用で借金を重ねていた斉藤に謝罪され・・・夢を託されるハル。

「俺の夢は終わった・・・代わりにお前が夢を見続けてくれ」

芝居なんて言うひどいことをやる人間は・・・そんな風に励まされなければやってはいけないのである。

さらに・・・親の残した遺産があると言って・・・旭はハルに三十万円を渡すのだった。

「今まで黙っていて悪かった・・・俺はお前を愛している」

「そんなこと・・・私が気付かなかったとでも思っているのですか」

「じゃあ・・・行けよ」

「なぜ・・・ひきとめてくれないのです」

「だってしょうがないじゃないか・・・俺の愛した女は・・・日本をよりよい国にするために戦い続ける・・・そういう女なんだから」

「私に戦い続けろとおっしゃるのですか」

「当たり前だ・・・お前なんかに地味で日蔭者の機動隊員の妻なんか・・・つとまるわけないだろう・・・このスベタがっ・・・お前にはエプロンよりヘルメットがお似合いなんだよ」

舞台で輝く・・・神林美智子(香澄)は暁の目には神林美智子(吉川瑞貴)となっている。

ちなみに・・・広末涼子は2003年に「幕末純情伝」の実は女だった沖田総司に続いて、「飛龍伝」の神林美智子も実演しているのである。

「今、世界同時革命戦争の火ぶたがきられるのです。私は愛する男と愛しい子供を残して出撃します」

暁の心は溶ける・・・ただし・・・吉川瑞貴のために使われなかった三千万円の使途はまだ不明である。

ショーアップされたつかこうへいの世界では情念を示すジャージ姿からハレの世界のステージ衣装にチェンジが行われる。華麗なるカーテンコール。

「パラダイス/からさきしょういち」をユイちゃんが歌うのだった。

霧の立ちこめる夜 

彼は私を見つめ

そっとつぶやく台詞 Be Mine 堕ちてゆく

闇を切り裂き走る 

狂った夢の翼

どこまでも昇ってゆける 時を超えて

銀色の雲のうえはパラダイス

「あの金は・・・兄貴が親父を殺した社長に頭を下げて借りた金だ・・・」

暁がハルに真実を告げ・・・。

ハルは旭の元へと走り出す。

「ありがとう・・・兄貴・・・俺は夢を背負うよ」

しかし・・・その頃、梓(蒼井優)は暗い便所で流産の危機に襲われていた。

そして・・・新城の娘・寿々(横溝菜帆)の笑顔がひかりの胸に突き刺さる。

男たちがバカをやっている間に女たちは現実に直面するのである。

「飛龍伝」で上昇してしまった成層圏で・・・次なる点火があるのかどうか・・・気がかりな今日この頃だ。

関連するキッドのブログ→第3話のレビュー

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コメント

こんにちは~。
何故かリタイアしたくないこのドラマ。
何て日だ!ヾ(゚∇゚*)ナニガ?

何に惹かれるのかよく分からないまま、
見入ってしまうと言う不思議。
ぶっきー兄ちゃんの熱さにも慣れつつ、
苦手だった吉岡くんでさえカッコ良く見えてしまう
不思議ヾ(゚∇゚*)コラ!
キッドさんに助けて貰わなきゃムリ(笑)

P.S.
『HERO』では遊んで頂きまして感謝
何ていい日だ!

投稿: mana | 2014年8月 1日 (金) 17時47分

|||-_||シャンプーブロー~mana様、いらっしゃいませ~トリートメント|||-_||

とにかく、凄い顔ぶれですからな。
とてもじゃないがスルーはできません。
しかし・・・それだけでは持たない気もします。

脚本は相変わらず、溺死寸前ですが・・・
今回はほとんど「つかこうへい」ですし
演出家は広末涼子の「幕末純情伝」を演出しています。

まあ・・・とにかく
つかこうへいが凄いのと
演出家がつかこうへいを好きなのは
よく伝わってきましたな。
それでいいのかどうかは別として。

まあ、70年代のつかこうへいがいなければ
80年代の野田秀樹もなく
21世紀のクドカンもない。

役者だってつかこうへいがいなければ・・・
と思う人はたくさんいます。

そういう意味で・・・もうつかこうへいが
いない世界で
橋本愛が・・・
「広末版・飛龍伝」のVTRをおそらく研究したことは
素晴らしいことだと思うばかりでございます。

まあ・・・後は・・・
ドラマとして・・・なんとかなればいいのに・・・
と思うばかりです。

「HERO」はものすごくなんとかなってますからねえ・・・。

投稿: キッド | 2014年8月 1日 (金) 22時41分

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