夜明け前に汝は我を知らぬと三度言うであろう~ペテロの葬列(小泉孝太郎)
この枠としては珠玉の名作と言える「名もなき毒」の続編登場である。
悪というにはあまりにはかない人間の行いが主人公・杉村三郎(小泉孝太郎)によって憐れにも暴かれて行くという趣きのこのシリーズ。
じっくりと読み解きたいのだが、多重人格一同、極めて多忙なのである。
本来、未明の更新が夜更けになっています。
そうなると・・・もう・・・タイトロープな気持ちになってくるのだ。
別に、更新が翌日になっても誰にも怒られないのだが・・・脅迫されている気になるわけである。
ビョーキだからな。
とにかく、ユイちゃん(橋本愛)のドラマが始るまでに心穏やかになりたいのだった。
で、『ペテロの葬列・第1回』(TBSテレビ20140707PM7~)原作・宮部みゆき、脚本・神山由美子、演出・金子文紀を見た。このシリーズの主人公はごく平凡な庶民だった。そして・・・菜穂子(国仲涼子)という娘と平凡な恋に落ちた。二人は互いを慈しみ結婚する・・・しかし・・・奥様はお嬢様だったのです・・・という背景が基本線になっている。どうしようもない貧富の差はあるけれど・・・疑いなく愛もある。その結果、杉村桃子(小林星蘭)も生まれているというのが前提である。しかし、お嬢様と結婚する庶民には職業選択の自由はなく、巨大企業に守護された箱庭のような職場で勤務するしかないのだった。それが・・・社内報「あおぞら」編集部なのである。そうしなければ今多コンツェルンの今多会長(平幹二朗)は娘との結婚を許可しなかったのである。
誰もが羨むような境遇は嫉妬という針の蓆に座るのと同じ・・・杉村三郎は毎日、毒を飲む気分で暮らしている。だからといって不幸ではない。妻と娘を愛し、妻と娘に愛される馬鹿野郎だからである。
職場ではおなじみのメンバー・・・編集長の園田(室井滋)、編集部員の手島(岡本玲)、長期アルバイトの椎名遥(岡本玲)に加えて何人かが移動してきている。
冒頭では菜穂子を担当するエステティシャン・間野京子(長谷川京子)がさりげなく登場する。一部お茶の間は「セフレにして」と言い出すのではとドキドキである。
会長の愛人だった女流画家を母に持つ菜穂子は美術鑑賞が趣味である。元は絵本の編集者だった杉村も妻の趣味に付き合うことには異論はないのだった。
レンブラント(1606年 - 1669年)の「聖ペテロの否認」を干渉しながら、この物語の主題である「聖ペテロの罪と殉教」が暗示されていく。
ペテロは言わずと知れたナザレのイエスの一番弟子である。
しかし、イエス捕縛の夜、師を見捨て逃亡したペテロは・・・「イエスの関係者か」と三度問われ、「無関係だ」と三度答えるのである。
キリスト教における裏切りものの代名詞はイエスを売ったユダであるが一番弟子のペテロもまた師を見捨てたことでは全くの同罪なのである。
しかし、ユダとは違い、ペテロは聖人と呼ばれる。
ペテロは逃亡の果てにローマに逃れる。そこでイエスの信じる神についての布教活動に入るのである。
時のローマ皇帝ネロはこの教えを迫害する。
身に危険が迫ったと知ったペテロはまたも逃亡を企てる。
しかし、ローマを脱する路で・・・ペテロは復活したイエスとすれ違う。
「わが師よ・・・どこに行かれるのです」
「弟子がまた逃げるというのなら・・・私がローマで十字架を背負うしかない」
ペテロは心の痛みに震え・・・ローマに帰還するのであった。
こうしてペテロは殉教し、裏切り者から聖人へと宗教的に名誉を回復したのである。
「裏切り」と「殉教」の二つの顔を持つペテロは「殉教」の場面もスルバラン(1598年-1664年)などによって描かれるのだった。
まあ、悪魔としては冷笑するしかないエピソードでございます。
今多コンツェルンの元常務取締役財務担当・森信宏(柴俊夫)の豪邸で取材を終えた園田編集長と副編集長の杉村、そして手島のトリオは風光明媚な路線を走る「シーライン・エクスプレス」のバスで帰路に着く。
しかし、そのバスは謎めいた老人・佐藤一郎(長塚京三)によって乗っ取られ、乗員は人質になってしまう。
乗客には・・・口汚い町工場の経営者・田中雄一郎(峰竜太)、上品な老婦人・迫田とよ子(島かおり)、一見、人の良さそうな青年・坂本啓(細田善彦)、ケーキ職人志望の少女・前野メイ(清水富美加)がいる。
一部、お茶の間は「磯部支店長」とか「私のサイフだよ」とか「お前の席ねえからあ」とか「宇宙キターッ」などと叫ばずにはいられないのだった。
最初にバスの運転手である柴野和子(青山倫子)が解放され、一部お茶の間に「おりん逃げた」と叫ばせた後、老婦人も解放される。
バスジャック犯の老人は・・・「人質の皆さんには慰謝料を払う」などと謎めいた言葉を残す。
柴野運転手の通報で・・・警官隊がバスを包囲。
監禁状態で何故か・・・精神的に追い詰められた園田編集長がジュース差し入れと交換で解放される。
老人は「悪人」として三人の人間を連れてくるように警察にメールを送信。
夫の身を案じ、菜穂子が広報部会長秘書室付の橋本真佐彦(高橋一生)の運転する車で現場に向かう途中・・・。
警官隊が突入し・・・老人は拳銃自殺を遂げる。
謎を散りばめて・・・決着するバスジャック事件。
残された様々な謎に・・・気になることが多過ぎる杉村三郎は・・・なんとなく挑んでいくのだった・・・。
喫茶「睡蓮」マスター・水田大造(本田博太郎)は・・・「人にはそれぞれの事情がある・・・その場その場で・・・違う顔を見せる」と当たり前のことを意味ありげに囁くのだった。
うっとりと・・・謎に身を委ねたい気持ち・・・ですな。
関連するキッドのブログ→名もなき毒
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コメント
キッドさまこんにちわ!
ご無沙汰しています。お元気そうでよかったです。
久しぶりに続きが楽しみなドラマを見ましてそして
久しぶりに自分ひとりの解釈では手に負えないと思うドラマでして
とても久しぶりにお邪魔しました。
ペテロの話面白かったです。
宮部みゆきさん原作の映像化は役者さんの演技がみんな
歌舞伎かかってるくらいノっていて引き込まれます。
来週も楽しみですね。ではではお邪魔しました。
投稿: りんごあめ | 2014年7月 9日 (水) 19時42分
素晴らしい出足でございましたね。
バスジャックという少し手垢のついた素材を
謎の提出という切り口で使いきる。
犯人の素性は・・・。
犯人の目的は・・・。
誰が共犯者なのか・・・。
そして・・・主人公とその家族は
どんな風に「悪」にまきこまれていくのか。
原作者はギリギリモラリストだったり
そこそこモラリストだったりして
「悪」の概念を揺さぶってくるわけですが
基本モラリストなので安心ですな。
しかし・・・ミステリによりはじめた今回。
(月)はなんといっても「もげ・H」があるので
生き残るためには他の曜日と戦う必要があります。
ドイツのような情け容赦のない攻撃にさらされるプラジル的ポジションか・・・。
(日)「黒田」
(月)「もげ・H」
(火)「ユイちゃん」
(水)・・・
(木)・・・
(金)「家族狩り」
(土)・・・
残り三枠・・・。
「若者たち」
「金田一N」
「吉原裏同心」
「あすなろ」
「おやじの背中」
うん・・・ちょっとつらいかもしれません。
投稿: キッド | 2014年7月10日 (木) 01時11分